(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-28
(45)【発行日】2023-01-12
(54)【発明の名称】高圧タンク用ライナの製造方法
(51)【国際特許分類】
F17C 1/16 20060101AFI20230104BHJP
B29C 65/08 20060101ALI20230104BHJP
B29C 65/14 20060101ALI20230104BHJP
B29C 65/20 20060101ALI20230104BHJP
F16J 12/00 20060101ALI20230104BHJP
【FI】
F17C1/16
B29C65/08
B29C65/14
B29C65/20
F16J12/00 F
(21)【出願番号】P 2019562087
(86)(22)【出願日】2018-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2018047795
(87)【国際公開番号】W WO2019131737
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2017249324
(32)【優先日】2017-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501410126
【氏名又は名称】ブランソン・ウルトラソニックス・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆治
(72)【発明者】
【氏名】岸 有香
(72)【発明者】
【氏名】菅原 悠介
【審査官】宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-106524(JP,A)
【文献】実開昭55-161986(JP,U)
【文献】特開2010-111036(JP,A)
【文献】特開2007-010004(JP,A)
【文献】特開2010-112413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/00-13/12
B29C 65/00-65/82
F16J 12/00-13/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材からなる2個のライナ構成部材(12、14)を接合することで高圧タンク用ライナ(10)を得る高圧タンク用ライナ(10)の製造方法であって、
前記ライナ構成部材(12、14)として、開口端(16)の近傍に、直径方向外方に突出した底部(22)と、該底部(22)から閉塞端(18)側に指向して折曲した側部(24)とを有し、且つ前記底部(22)と前記側部(24)で環状凹部(26)が画成されたフランジ部(20)を有するものを用い、
2個の前記ライナ構成部材(12、14)の前記開口端(16)の端面同士を当接させる当接工程と、
前記開口端(16)の端面同士を溶着にて接合し、接合部(46)を得る接合工程と、
前記フランジ部(20)の前記底部(22)及び前記側部(24)を、前記底部(22)の一部が残留するように切断する切断工程と、
を有し、
前記フランジ部(20)を、前記接合部(46)の接合強度が前記樹脂材の引っ張り強度以上となる突出量で残留させることを特徴とする高圧タンク用ライナ(10)の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法において、前記ライナ構成部材(12、14)の肉厚(T1)と、残留した前記フランジ部(20)の突出量(L2)との合計を前記接合部(46)の肉厚とするとき、前記接合部(46)の肉厚が下記の条件式(1)を満足するように、残留する前記フランジ部(20)の突出量(L2)を設定することを特徴とする高圧タンク用ライナ(10)の製造方法。
接合部(46)の肉厚≧(樹脂材の引っ張り強度/接合部(46)の破断応力)×ライナ構成部材(12、14)の肉厚(T1) …(1)
【請求項3】
請求項1又は2記載の製造方法において、前記溶着を、振動溶着、赤外線加熱溶着又は熱板溶着で行うことを特徴とする高圧タンク用ライナ(10)の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法において、前記フランジ部(20)を、補強層を形成する際のワインディング時に許容される段差以下の突出量(L2)で残留させることを特徴とする高圧タンク用ライナ(10)の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法において、残留した前記フランジ部(20)の隅部にR部(50)又はC部を形成することを特徴とする高圧タンク用ライナ(10)の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法において、前記ライナ構成部材(12、14)として、前記側部(24)の前記環状凹部(26)に臨む内面に、前記環状凹部(26)から離間する方向に傾斜した勾配(32)が形成されたものを用いることを特徴とする高圧タンク用ライナ(10)の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法において、前記ライナ構成部材(12、14)として、前記側部(24)に、該側部(24)の一部を切り欠いた切欠部(34)が形成されたものを用いることを特徴とする高圧タンク用ライナ(10)の製造方法。
【請求項8】
樹脂材からなる2個のライナ構成部材(12、14)を接合することで高圧タンク用ライナ(10)を得る高圧タンク用ライナ(10)の製造方法であって、
前記ライナ構成部材(12、14)として、開口端(16)の近傍に、直径方向外方に突出した底部(22)と、該底部(22)から閉塞端(18)側に指向して折曲した側部(24)とを有し、且つ前記底部(22)と前記側部(24)で環状凹部(26)が画成されたフランジ部(20)を有するものを用い、
2個の前記ライナ構成部材(12、14)の前記開口端(16)の端面同士を当接させる当接工程と、
前記開口端(16)の端面同士を溶着にて接合し、接合部(46)を得る接合工程と、
前記フランジ部(20)の前記底部(22)及び前記側部(24)を、前記底部(22)の一部が残留するように切断する切断工程と、
を有し、
前記フランジ部(20)を、前記接合部(46)の接合強度が該接合部(46)の凝集破壊強度以上となる突出量(L2)で残留させることを特徴とする高圧タンク用ライナ(10)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧タンクの基部である高圧タンク用ライナの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧タンクは、例えば、燃料電池システムに設けられ、アノードに供給される水素ガスを貯蔵する。この種の高圧タンクは、水素バリア性を有する熱可塑性樹脂材等からなる樹脂ライナを有する。この種の樹脂ライナは、例えば、略同一形状のライナ構成部材を互いに接合することで作製されている。
【0003】
一層具体的には、ライナ構成部材は、一端が開口端であり且つ他端が漸次的に収斂するように湾曲した閉塞端である半円筒形状体からなる。そして、前記開口端の端面同士が突き合わされ(当接され)、次に、該端面同士が接合される。特開2013-119924号公報に記載された従来技術では、この接合をレーザ溶着にて行っている。
【0004】
このようにして得られた樹脂ライナは、次に、例えば、強化繊維に樹脂基材が含浸された繊維強化樹脂(FRP)からなる補強層で被覆される。なお、強化繊維としては、炭素繊維が一般的である。
【発明の概要】
【0005】
高圧タンクには、水素等の所定の気体が高圧で充填される。このため、接合部には、気体による内圧で破断が生じない接合強度であることが要求される。
【0006】
本発明の主たる目的は、接合部が優れた接合強度を示す高圧タンク用ライナを提供することにある。
【0007】
本発明の別の目的は、信頼性が十分な高圧タンク用ライナを提供することにある。
【0008】
本発明のまた別の目的は、上記した高圧タンク用ライナを得るための高圧タンク用ライナの製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明の一実施形態によれば、樹脂材からなる2個のライナ構成部材を接合することで高圧タンク用ライナを得る高圧タンク用ライナの製造方法であって、
前記ライナ構成部材として、開口端の近傍に、直径方向外方に突出した底部と、該底部から閉塞端側に指向して折曲した側部とを有し、且つ前記底部と前記側部で環状凹部が画成されたフランジ部を有するものを用い、
2個の前記ライナ構成部材の前記開口端の端面同士を当接させる当接工程と、
前記開口端の端面同士を溶着にて接合し、接合部を得る接合工程と、
前記フランジ部の前記底部及び前記側部を、前記底部の一部が残留するように切断する切断工程と、
を有し、
前記フランジ部を、前記接合部の接合強度が前記樹脂材の引っ張り強度以上となる突出量で残留させる高圧タンク用ライナの製造方法が提供される。
【0010】
本発明の別の一実施形態によれば、樹脂材からなる2個のライナ構成部材の開口端同士が接合されることで形成された接合部を有する高圧タンク用ライナであって、
前記接合部の近傍に、直径方向外方に突出したフランジ部をさらに有し、
前記接合部の接合強度が、前記樹脂材の引っ張り強度以上である高圧タンク用ライナが提供される。
【0011】
このように、本発明では、フランジ部を残留させることで接合部の肉厚を大きくするようにしている。このために接合面積が大きくなるので、その分、接合強度を樹脂材の引っ張り強度以上とすることができる。このことは、ライナ内に高圧気体が充填されたときに、接合部が先に破断することを回避し得ることを意味する。
【0012】
すなわち、特に上記の過程を経ることにより、優れた接合強度を示す接合部が得られる。このため、高圧タンク用ライナ、ひいては該ライナを用いた高圧タンクの信頼性が十分なものとなる。
【0013】
上記したような接合強度を示す接合部を得るには、例えば、残留するフランジ部の突出量(残留突出量)を、下記の条件式(1)を満足するように設定すればよい。なお、接合部の肉厚は、ライナ構成部材の肉厚と、残留突出量との和、換言すれば、合計として求められる。
接合部の肉厚≧(樹脂材の引っ張り強度/接合部の破断応力)×ライナ構成部材の肉厚 …(1)
【0014】
なお、溶着手法としては、振動溶着、赤外線加熱溶着又は熱板溶着が好適である。この場合、環状凹部に治具を挿入して押圧したり、熱を発生させ又は付与したりすることが容易であり、接合が簡素且つ容易となるからである。
【0015】
フランジ部の残留突出量が過度に大きいと、ライナ上に補強層を形成する際、補強層に含まれる繊維材がフランジ部に引っ張られて局所的な応力が作用する懸念がある。この懸念を払拭するべく、残留突出量を、補強層を形成する際のワインディング時に許容される段差以下に設定することが好ましい。
【0016】
また、隅部が角部であると、繊維材が隅部に引っ掛かって延伸されることで痛む懸念がある。そこで、残留したフランジ部の隅部にR部又はC部、すなわち、面取り部を形成することが好ましい。この場合、繊維材が隅部に引っ掛かることが回避されるので、該繊維材が痛むことが回避される。
【0017】
接合部の接合強度が、該接合部の凝集破壊強度以上となるようにしてもよい。すなわち、本発明のまた別の一実施形態によれば、樹脂材からなる2個のライナ構成部材を接合することで高圧タンク用ライナを得る高圧タンク用ライナの製造方法であって、
前記ライナ構成部材として、開口端の近傍に、直径方向外方に突出した底部と、該底部から閉塞端側に指向して折曲した側部とを有し、且つ前記底部と前記側部で環状凹部が画成されたフランジ部を有するものを用い、
2個の前記ライナ構成部材の前記開口端の端面同士を当接させる当接工程と、
前記開口端の端面同士を溶着にて接合し、接合部を得る接合工程と、
前記フランジ部の前記底部及び前記側部を、前記底部の一部が残留するように切断する切断工程と、
を有し、
前記フランジ部を、前記接合部の接合強度が該接合部の凝集破壊強度以上となる突出量で残留させる高圧タンク用ライナの製造方法が提供される。
【0018】
本発明のさらに別の一実施形態によれば、樹脂材からなる2個のライナ構成部材の開口端同士が接合されることで形成された接合部を有する高圧タンク用ライナであって、
前記接合部の近傍に、直径方向外方に突出したフランジ部をさらに有し、
前記接合部の接合強度が、該接合部の凝集破壊強度以上である高圧タンク用ライナが提供される。
【0019】
本発明によれば、樹脂材からなるライナ構成部材の開口端近傍にフランジ部を設け、接合部を形成してライナを得た後、フランジ部の一部を残留させるようにしている。このために接合部の肉厚が大きくなり接合面積が大きくなるので、接合部の接合強度が樹脂材の引っ張り強度以上、又は接合部の凝集破壊強度以上となる。すなわち、接合部に優れた接合強度が発現する。このため、十分な信頼性を示す高圧タンク用ライナ、ひいては該ライナを用いた高圧タンクが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施の形態に係る高圧タンク用ライナの概略全体平面図である。
【
図2】
図1の高圧タンク用ライナを構成するライナ構成部材の概略全体平面図である。
【
図3】
図2に示すフランジ部の近傍を拡大した要部拡大断面図である。
【
図4】フランジ部に形成された環状凹部に振動溶着用治具を挿入した状態を示す要部拡大断面図である。
【
図5】ライナ構成部材の開口端の端面同士を当接させた状態を示す要部拡大断面図である。
【
図6】
図5に続き、開口端近傍が若干圧縮された状態を示す要部拡大断面図である。
【
図7】環状凹部から振動溶着用治具が離脱するとともに接合部を得た状態を示す要部拡大断面図である。
【
図8】フランジ部を、その底部の一部が残留するように切除した状態を示す要部拡大断面図である。
【
図9】ライナ構成部材の開口端の端面同士に位置ズレが生じた状態を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る高圧タンク用ライナにつき、その製造方法との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
図1は、本実施の形態に係る高圧タンク用ライナ(以下、単に「ライナ」とも表記する)10の概略全体平面図である。このライナ10は、第1ライナ構成部材12と第2ライナ構成部材14が接合されることで構成されている。本実施の形態では、第1ライナ構成部材12及び第2ライナ構成部材14は、互いに略同一形状をなす。
【0023】
先ず、第1ライナ構成部材12及び第2ライナ構成部材14につき説明する。
図2は、接合前の第1ライナ構成部材12の概略全体平面図である。第1ライナ構成部材12は、内部が中空である半円筒形状体であり、その一端は開口した開口端16、他端は漸次的に収斂するように閉塞した閉塞端18である。開口端16の近傍には、直径方向外方に指向して突出したフランジ部20が形成されている。
【0024】
図3は、フランジ部20の近傍を拡大した要部拡大断面図である。なお、
図3中のT1は、第1ライナ構成部材12(本体)の側壁の肉厚を表す。
【0025】
フランジ部20は、開口端16の端面から閉塞端18側に若干偏倚した位置に環状に設けられている。また、フランジ部20は、直径方向に沿って延在する底部22と、該底部22から閉塞端18側に向かうように折曲された側部24とからなる。これら底部22と側部24により、環状凹部26が画成される。すなわち、環状凹部26は、第1ライナ構成部材12の本体側壁と、フランジ部20の側部24との間に形成される空間である。
【0026】
第1ライナ構成部材12と第2ライナ構成部材14を振動溶着によって接合する場合、環状凹部26の幅W1及び深さD1は、振動溶着用治具30(
図4参照)を挿入可能な程度に設定すればよい。また、底部22の厚みT2も、振動溶着の最中にフランジ部20が破損しない程度とすればよい。フランジ部20の初期突出量L1(第1ライナ構成部材12の本体側壁の外面からフランジ部20の側部24の外面までの距離)は、例えば、第1ライナ構成部材12の肉厚T1の1~3倍の間、典型的には約1.5倍に設定することができる。
【0027】
側部24の、環状凹部26に臨む内面には、環状凹部26から離間する方向に所定角度θで傾斜した勾配32が形成されている。この勾配32は、振動溶着用治具30(
図4参照)が離脱することを容易にするためのものであり、いわゆる抜き勾配である。
【0028】
また、側部24には、
図2に示すように、該側部24の一部を切り欠くようにして切欠部34が形成されている。この切欠部34には、例えば、回り止め用治具が係合する。
【0029】
一方の閉塞端18には、その頂面に、開口端16側に指向して凹んだ陥没40が形成される。陥没40の底部には、開口端16から離間する側に突出して延在するボス部42が設けられる。
【0030】
上記したように、第2ライナ構成部材14は第1ライナ構成部材12に準じて構成されている。従って、第1ライナ構成部材12の構成要素と同一の構成要素には同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0031】
次に、このように構成される第1ライナ構成部材12及び第2ライナ構成部材14から
図1に示すライナ10を得る本実施の形態に係る製造方法につき説明する。
【0032】
第1ライナ構成部材12及び第2ライナ構成部材14は、例えば、図示しない射出成形装置にて溶融樹脂材を用いた射出成形を行うことで作製される。樹脂材の好適な例としては、水素バリア性を有し熱可塑性樹脂である高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂等が挙げられる。なお、ボス部42やフランジ部20が本体と一体的に成形されることは勿論である。勾配32、及び切欠部34もこの成形と同時に形成される。
【0033】
第1ライナ構成部材12と第2ライナ構成部材14を同様の形状とする場合、両部材を同一の金型で作製することができる。このために金型を複数個作製する必要がないので、金型費の低廉化を図ることができる。
【0034】
このようにして得られた第1ライナ構成部材12と第2ライナ構成部材14を、開口端16の端面同士が所定距離で離間するようにして対向させる。振動溶着を行う場合、次に、
図4に示すように振動溶着用治具30を環状凹部26に挿入する。必要に応じ、フランジ部20の側部24に形成された切欠部34に、図示しない回り止め用治具を係合する。これにより第1ライナ構成部材12及び第2ライナ構成部材14の回り止めがなされ、以降の工程を実施することが容易となるので好適である。
【0035】
次に、振動溶着用治具30を付勢して第1ライナ構成部材12と第2ライナ構成部材14の各フランジ部20を矢印X方向に押圧し、第1ライナ構成部材12と第2ライナ構成部材14を互いに接近させる。これにより、
図5に示すように開口端16の端面同士が当接される(突き合わせされる)。すなわち、当接工程が営まれ、当接部位が形成される。
【0036】
次に、接合工程を行う。すなわち、
図5中に矢印Yで示すように、環状凹部26内の振動溶着用治具30の中の一方、例えば、上方を第1ライナ構成部材12の直径方向に沿って振動させる。これにより当接部位に摩擦熱が生じ、その結果、該当接部位が軟化ないし溶融する。環状凹部26内の振動溶着用治具30が、第1ライナ構成部材12と第2ライナ構成部材14が互いに接近する方向に押圧しているので、
図6に示すように、両部材12、14が互いに接近するように圧縮される。軟化ないし溶融した樹脂材は、この圧縮に伴い、内周壁側又は外周壁側に漏出する。
【0037】
なお、下方の振動溶着用治具30を第2ライナ構成部材14の直径方向に沿って振動させるようにしてもよい。また、振動溶着用治具30を第1ライナ構成部材12、第2ライナ構成部材14の円周方向に振動又は回転させることが可能であれば、そのようにしてもよい。
【0038】
所定時間が経過した後、振動付与を停止する。また、振動溶着用治具30を、押圧に必要な時間が経過した後、鉛直方向に沿って上昇ないし下降させ、環状凹部26から離脱させる。側部24に勾配32が形成されているため、この際に振動溶着用治具30を環状凹部26から容易に離脱させることができる。そして、軟化ないし溶融した樹脂材が冷却されて固化する。すなわち、当接部位に接合がなされ、接合部46が得られる。
【0039】
次に、切断工程を行う。ここで、従来技術では、フランジ部20を基端から切除し、フランジ部20が設けられていた部位が本体側壁と面一となるように面出しを行っている。すなわち、フランジ部20は残留しない。
【0040】
これに対し、本実施の形態では、フランジ部20の一部が残留するように切断線CLで切除する切断工程を行う。ここで、切断線CLの位置(フランジ部20の切断量)、換言すれば、
図7に示す残留突出量L2は、接合部46の接合強度が前記樹脂材の引っ張り強度以上となるように設定される。なお、樹脂材の引っ張り強度は、接合部46を有しない単一部材からなる試験片を用い、日本工業規格に則った引っ張り試験から求めることができる。
【0041】
接合部46の接合強度を樹脂材の引っ張り強度よりも大きくするには、接合部46を含むようにして切り出した試験片を用いて引っ張り試験を行い、このときの破断時の応力(破断応力)に基づいて、フランジ部20の残留突出量L2を設定すればよい。なお、引っ張り強度及び破断応力は、複数回の試験を行って得た平均値であってもよいし、平均値から標準偏差の4倍の値を差し引いた算出値であってもよい。
【0042】
具体的には、フランジ部20の残留突出量L2と、本体側壁の厚みT1との合計を接合部46の肉厚とするとき、下記の式(1)を満足するような値とすればよい。
接合部46の肉厚≧(樹脂材の引っ張り強度/接合部46の破断応力)×T1 …(1)
【0043】
例えば、式(1)の右辺を計算して算出された値が3.4mmのとき、フランジ部20の最小残留突出量L2は、(3.4-T1)mmとなる。すなわち、本体側壁の外周壁から(3.4-T1)mmだけ突出するように、適宜の切断用工具でフランジ部20の底部22を切除すれば十分である。なお、残留突出量L2は、補強層を形成するときのワインディング時に許容される段差以下であることが好ましい。
【0044】
上記の切断に伴い、側部24と、底部22の大部分が切除されて
図8に示す状態となり、
図1に示すライナ10が得られるに至る。ここで、
図9に誇張して示すように、端面同士に若干の位置ズレが生じている場合、例えば、第2ライナ構成部材14の残留突出量L2”は、第1ライナ構成部材12に比して位置ズレの分だけ小さくなる。すなわち、位置ズレ量がΔdであるとき、第1ライナ構成部材12の残留突出量L2’は、第2ライナ構成部材14の残留突出量L2”からΔdを差し引いた値である。この場合、第1ライナ構成部材12の肉厚T1と残留突出量L2’との合計が接合部46の肉厚となる。
【0045】
残留したフランジ部20(底部22)の隅部に対して面取りを行い、R部50を形成することが好ましい。すなわち、底部22の、残置した隅部を湾曲させることが好ましい。
【0046】
さらに、ライナ10を被覆する補強層が設けられ、ボス部42に弁部が取り付けられることで高圧タンクが製造される。この際、フランジ部20の残留突出量L2が前記段差以下であると、残留したフランジ部20から補強層に含まれる繊維材(炭素繊維等)に作用する応力が許容範囲以下となる。また、フランジ部20の隅部が角部であると、繊維材(炭素繊維等)が角部に引っ掛かって局所的に延伸され、繊維材が痛む懸念があるが、上記のようにR部50を形成した場合、この懸念が払拭される。
【0047】
この高圧タンクでは、ライナ10の接合部46の接合強度が、第1ライナ構成部材12、第2ライナ構成部材14の母材である樹脂材の引っ張り強度と同等かそれよりも大きい。従って、ライナ10内に高圧気体を充填したときに接合部46が先に破断することが回避される。ライナ10の接合部46以外は、充填圧力に対して十分な耐圧性を有する樹脂材からなるため、結局、接合部46も充填圧力に対して十分な耐圧性を示す。すなわち、十分な信頼性を示す高圧タンクが得られる。
【0048】
上記に対し、フィラメントワインディング時の段差を可及的に小さくしたいとき等、フランジ部20の残留突出量L2を大きく設定することが容易ではない場合があることも想定される。このような場合においては、フランジ部20の残留突出量L2を、接合部46の接合強度が該接合部46の凝集破壊強度以上となるように設定すればよい。このことによっても、ライナ10内に高圧気体を充填したときに接合部46が先に破断することが回避されるので、十分な信頼性を示す高圧タンクが得られる。
【0049】
本発明は、上記した実施の形態に特に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0050】
例えば、R部50に代替してC部を形成するようにしてもよい。
【0051】
また、第1ライナ構成部材12と第2ライナ構成部材14を、別形状のもの同士としても特に差し支えはない。
【0052】
さらに、振動溶着に代替して赤外線加熱溶着を行うようにしてもよいし、振動溶着と赤外線溶着を組み合わせるようにしてもよい。赤外線加熱溶着を行う場合、赤外線加熱溶着用工具を環状凹部26に挿入すればよい。又は、熱板溶着を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0053】
10…高圧タンク用ライナ 12、14…ライナ構成部材
16…開口端 18…閉塞端
20…フランジ部 22…底部
24…側部 26…環状凹部
30…振動溶着用治具 32…勾配
34…切欠部 46…接合部
50…R部