(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-28
(45)【発行日】2023-01-12
(54)【発明の名称】ヒドロキシメチルフルフラールからの2,5-フランジメチルカルボキシレートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 307/68 20060101AFI20230104BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230104BHJP
【FI】
C07D307/68
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019572172
(86)(22)【出願日】2018-06-29
(86)【国際出願番号】 KR2018007404
(87)【国際公開番号】W WO2019004777
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】10-2017-0083706
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】513193923
【氏名又は名称】エスケー ケミカルズ カンパニー リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】517114805
【氏名又は名称】コリア インスティチュート オブ インダストリアル テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨン ジン
(72)【発明者】
【氏名】ミシュラ,ディネシュ クマール
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ジン ク
(72)【発明者】
【氏名】イ,ヨン ジン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ハン ソク
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジョン リャン
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】Taarning, Esben et al.,Chemicals from renewables: aerobic oxidation of furfural and hydroxymethylfurfural over gold catalysts,ChemSusChem,2008年,1(1-2),,75-78
【文献】Menegazzo, Federica et al.,On the process for furfural and HMF oxidative esterification over Au/ZrO2,Journal of Catalysis,2014年,319,,61-70
【文献】Casanova, O. et al.,Biomass into chemicals: One pot-base free oxidative esterification of 5-hydroxymethyl-2-furfural into 2,5-dimethylfuroate with gold on nanoparticulated ceria,Journal of Catalysis ,2009年,265(1),,109-116
【文献】Radhakrishnan, Ramakrishnan et al.,Oxidative esterification of furfural over Au-Pd/HAP-T and Au-Ag/HAP-T bimetallic catalysts supported on mesoporous hydroxyapatite nanorods,RSC Advances,2016年,6(51),,45907-45922
【文献】Tong, Xinli et al.,A tunable process: catalytic transformation of renewable furfural with aliphatic alcohols in the presence of molecular oxygen,Chemical Communications (Cambridge, United Kingdom),2015年,51(17),,3674-3677
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 307/68
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金(Au)ナノ粒子担持触媒の下で5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)、空気およびアルコール溶媒を含む反応物を酸化エステル化反応させて2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)を製造するステップを含み、前記金(Au)ナノ粒子担持触媒は、担持体、および該担持体に担持される金(Au)ナノ粒子を含むものであ
り、前記担持体はヒドロキシアパタイト(Hydroxyapatite、HAP)であり、前記アルコール溶媒はメタノールであり、前記酸化エステル化反応は1.7~3.1MPaの空気圧で行われる、2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)の製造方法。
【請求項2】
前記金ナノ粒子担持触媒100wt%に対して、金(Au)ナノ粒子の含有量が0.5wt%~10wt%であることを特徴とする、請求項1に記載の2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)の製造方法。
【請求項3】
前記ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)100molに対して、前記担持触媒の金の含有量が0.5mol~2molであることを特徴とする、請求項1に記載の2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)の製造方法。
【請求項4】
前記酸化エステル化反応は110~150℃の温度条件で3時間~12時間行われることを特徴とする、請求項1に記載の2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)の製造方法に係り、より詳細には、ヒドロキシメチルフルフラール(HMF:5-Hydroxymethyl Furfural)から、ヒドロキシアパタイト(HAP:Hydroxyapatite)に担持された金(Au)触媒を用いた酸化エステル化反応を介して2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC:2,5-furandimethylcarboxylate)を単一容器内の反応で製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
第二次世界大戦を起点に工業的生産システムを備えながら、様々な樹脂をベースとするプラスチックが消費材として量産され始めた。特に1970年代の後半からは鉄鋼の生産量を超えて、最近では3億トンを超えるプラスチックが全世界で生産されて消費されている。しかし、プラスチックは、石油精製過程からのナフサを用いて生産されるものなので、石油資源の枯渇や二酸化炭素の排出が問題となっており、使い捨て品の主材料として使用されて製品の使用後すぐに廃棄されることにより多量に廃棄されるが、長い期間腐らないため埋め立てが難しく、焼却する場合にはダイオキシンをはじめとする発がん性物質が大気上に排出されて環境問題を引き起こしており、その代替素材についての研究が継続的に行われている。
【0003】
プラスチックの代替材として、科学者たちは、植物中の澱粉やセルロースを用いるバイオプラスチック素材の開発に全力を尽くしている。特に、バイオプラスチック素材の中でも脚光を浴びている素材の一つが、2,5-フランジカルボン酸(FDCA:2,5-furandicarboxylic acid)をベースとして製造されるプラスチックである。
【0004】
しかし、FDCAの場合には、原料の確保に制限がある5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF:5-hydroxymethylfurfural)を貴金属触媒の存在下で爆発性のある酸化剤、例えば純酸素を用いて酸化反応を介して製造されるのが一般的である。しかし、HMFは、原料の供給に困難があって量産が難しく、純酸素を酸化剤として酸化反応を経る場合には爆発性が高いため、大規模にFDCAを製造することは難しいという問題点がある。
【0005】
それだけでなく、FDCAは、産業溶媒で溶解度が低いという問題点もある。
【0006】
かかる問題点は、FDCAに相応するエステル、すなわち最も一般な溶媒に容易に溶解するFDMCに代替することにより回避できる。したがって、HMFをFDMCに変換することができる工程は、高分子産業に影響を与える可能性がある。
【0007】
但し、HMFから触媒反応の下で塩基を添加してFDMCを製造する研究過程で、塩基を使用すると、FDMCの収率を高めることができるが、工程コストが高くなるという問題点が発生した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする技術的課題は、石油資源で作られるプラスチックのPET代替ポリマーであるPEFの原料2,5-フランジカルボン酸(FDCA:2,5-Furandicarboxylic acid)の低い溶解度問題を解決するために導出された2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)を効果的に製造する方法を提供することである。
【0009】
より具体的には、石油資源の枯渇だけでなく、長い期間腐らないため埋め立てが難しくて焼却をしなければならないプラスチックは、焼却する場合には、ダイオキシンなどの発がん性物質のみならず、地球温暖化を誘発する二酸化炭素を大気上に排出させることにより環境問題をもたらす。かかる問題点を防ぐために、環境にやさしいバイオ素材分野に適用することができる、PET代替ポリマーであるPEFの重要な原料となる2,5-フランジカルボン酸(FDCA:2,5-Furandicarboxylic acid)を生産する際に、FDCAの産業溶媒に対する低い溶解度を解決することができるFDMCを効果的に製造する方法を提供することである。
【0010】
本発明が解決しようとする技術的課題は、上述した技術的課題に制限されず、上述していない別の技術的課題は、以降の記載から本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に明確に理解されるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記技術的課題を解決するために、本発明の一実施形態は、金(Au)ナノ粒子担持触媒の下で5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)、空気およびアルコール溶媒を含む反応物を酸化エステル化反応させて2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)を製造するステップを含み、前記金(Au)ナノ粒子担持触媒は、担持体、および該担持体に担持される金(Au)ナノ粒子を含むものである、2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)の製造方法を提供する。
【0012】
本発明の実施形態において、前記担持体は、ヒドロキシアパタイト(Hydroxyapatite、HAP)を含んでもよい。
【0013】
本発明の実施形態において、前記金ナノ粒子担持触媒100wt%に対して、金(Au)ナノ粒子の含有量が0.5wt%乃至10wt%であってもよい。
【0014】
本発明の実施形態において、前記ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)100molに対して、前記金ナノ粒子担持触媒の含有量が0.5mol~2mol、好ましくは0.7mol~1.5molであってもよい。
【0015】
本発明の実施形態において、前記アルコール溶媒はメタノールを含んでもよい。
【0016】
本発明の実施形態において、前記酸化エステル化反応は、110~150℃、好ましくは125~135℃の温度条件で3時間~12時間、好ましくは5~7時間行われることを特徴とする、2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)の製造方法であってもよい。
【0017】
本発明の実施形態において、前記酸化エステル化反応は、1.7~3.1MPa、好ましくは2.0~2.8MPaの空気圧で行われることを特徴とする、2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)の製造方法であってもよい。
【0018】
上記技術的課題を解決するために、本発明の他の実施形態は、上述したFDMCの製造方法で製造された2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)化合物を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の実施形態によれば、既存の2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)の製造方法とは異なり、爆発の危険がある酸化剤(純酸素)を使用しないため、安全な工程を介して2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)を簡単に製造する。
【0020】
また、FDCAの製造後、このFDCAからアルコールとエステル化反応を用いてFDMCを得る工程は、2ステップの工程であるのに対し、本発明は、HMFから酸化エステル化(oxidative esterification)反応を介して1ステップの反応でFDMCを直接製造することができるという効果がある。
【0021】
本発明の一効果として、空気とアルコールを反応物質および溶媒として用いて、従来の他の溶媒を用いる場合よりも安全で便利であるという効果がある。
【0022】
本発明の他の一効果として、2,5-フランジカルボン酸(FDCA:2,5-Furandicarboxylic acid)を従来製造したとき、2,5-フランジカルボン酸(FDCA:2,5-Furandicarboxylic acid)は、産業溶媒での低い溶解度のため問題点があったが、2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)を製造することにより低い溶解度を解決する効果を提供する。
【0023】
Au/HAPを触媒として用いて高圧条件で単一容器内の反応を介して他の担持体よりもHAPの担持体を使用することにより、高選択率および高収率で2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)が製造されるという効果がある。
【0024】
本発明の効果は、上述した効果に限定されるものではなく、本発明の詳細な説明または特許請求の範囲に記載された発明の構成から推論可能なすべての効果を含むものと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)の製造方法を説明するための図である。
【0026】
【
図2】aおよびbはそれぞれHAP、本発明の製造例1のAu/HAP担持触媒の走査電子顕微鏡(SEM)写真であり、c、dおよびeはそれぞれ製造例1の透過電子顕微鏡(TEM)写真であり、eに導入された棒グラフは製造例1のサイズ分布であり、fは製造例1の高解像度TEM(HR-TEM)の写真であり、導入された写真は金ナノ粒子のSAEDパターンである。
【0027】
【
図3A】(a)、(b)および(c)は比較製造例3のAu/ZrO
2のTEM写真であり、(e)、(f)および(g)は比較製造例5のAu/CeO
2のTEM写真である。
【
図3B】(h)、(i)および(j)は比較製造例4のAu/TiO
2のTEM写真である。
【0028】
【0029】
【
図5】製造例1のX線光電子分光スペクトルである。
【0030】
【0031】
【
図7】実施例1のHMFからFDMCへの酸化エステル化を1~6時間、時間経過に伴って行った結果を示すグラフである。
【0032】
【
図8】(a)は実施例1のHMFの酸化エステル化反応から得られた未加工生成混合物のGC-MSグラフであり、(b)は実施例1の未加工混合生成物から得られた純粋なFDMCのGC-MSグラフである。
【0033】
【
図10】HMMFの
1H-NMRスペクトルである。
【
図11】FDMCの
13C-NMRスペクトルである。
【
図12】HMMFの
13C-NMRスペクトルである。
【0034】
【
図13】製造例1のAu/HAPナノ触媒の再利用によるHMF転換率とFDMC収率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を添付図面に基づいて説明する。しかし、本発明は、様々な異なる形態で実現でき、よって、ここで説明される実施形態に限定されるものではない。発明の明確な説明のために、図面において説明と関係のない部分は省略された。そして、明細書全体において、類似する部分には、類似する図面符号が付いている。
【0036】
明細書全体において、ある部分が他の部分と「連結(接続、接触、結合)」されているとすると、これは「直接的に連結」されている場合だけではなく、それらの間に他の部材を挟んで「間接的に連結」されている場合も含む。また、ある部分がある構成要素を「含む」とすると、これは特に反対される記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに備えることができるということを意味する。
【0037】
本明細書で使用された用語は、単に特定の実施形態を説明するために使用されたものであって、本発明を限定する意図ではない。単数の表現は、文脈上明らかに別の意味を有しない限り、複数の表現を含む。本明細書において、「含む」または「有する」などの用語は、明細書上に記載された特徴、数字、ステップ、動作、構成要素、部品、またはこれらの組み合わせが存在するということを意味するもので、一つまたはそれ以上の他の特徴、数字、ステップ、動作、構成要素、部品、またはこれらの組み合わせの存在が排除されることを意味するものではない。
【0038】
本発明で使用される触媒は、化学反応に添加して熱力学的に可能な化学反応を加速させながら触媒自身は変わらない物質であって、触媒は、反応系の相(phase)によって均一系(homogeneous)触媒、不均一系(heterogeneous)触媒、および生体系(enzymatic)触媒に分類され、活性、選択性および寿命が触媒特性に影響を及ぼす決定的な要素である。
【0039】
本発明の一実施形態に係る2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)の製造方法を説明する。
【0040】
本発明の一実施形態に係る2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)の製造方法は、金(Au)ナノ粒子担持触媒の下で5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)、空気およびアルコール溶媒を含む反応物を酸化エステル化反応させて2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)を製造するステップを含み、前記金(Au)ナノ粒子担持触媒は、担持体、および該担持体に担持される金(Au)ナノ粒子を含むことができる。
【0041】
前記金(Au)ナノ粒子担持触媒は、担持体、および該担持体に担持される金(Au)ナノ粒子を含むことを特徴とする。
【0042】
例えば、この時の担持体はヒドロキシアパタイト(HAP)を含むことを特徴とする。
【0043】
FDMCを製造するにあたり、金(Au)ナノ粒子を担持する担持体としてヒドロキシアパタイト(HAP)を使用すると、他の担持体を使用する場合に比べてより高いFDMCの収率および選択率を増加させることができる。
【0044】
例えば、金(Au)ナノ粒子担持触媒は、担持体および尿素を混合して混合物を製造するステップと、前記混合物を加熱して固体生成物を製造するステップと、前記固体生成物を熱処理して金(Au)ナノ粒子担持触媒を製造するステップとを含むことができる。
【0045】
また、前記担持触媒100wt%に対して、金(Au)ナノ粒子の含有量が0.5wt%乃至10wt%であることを特徴とする。
【0046】
もし前記担持触媒100wt%に対して、金(Au)ナノ粒子の含有量が0.5wt%未満である場合には、触媒が機能を発揮し難くて転換がほぼ不可能であり、転換されてもその転換率が著しく低いという問題がある。また、前記担持触媒100wt%に対して、金(Au)ナノ粒子の含有量が10wt%を超える場合、経済性が低下するだけでなく、収率が低下するという問題があり、好ましくないことがある。
【0047】
前記アルコール溶媒は、メタノールであってもよい。
【0048】
前記ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)100molに対して、前記金ナノ粒子担持触媒の含有量が0.5mol~2mol、より好ましくは0.7mol~1.5molである。ここで、前記ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)に比べて担持触媒の金の含有量が0.5mol未満である場合には、触媒が機能を発揮し難くて転換がほぼ不可能であり、転換されてもその転換率が著しく低いという問題があり、2molを超える場合には、経済性が低下するだけでなく、むしろ収率が低下するという問題があり、好ましくないことがある。
【0049】
前記金(Au)ナノ粒子担持触媒の下で前記反応物を酸化エステル化反応させると、最終的にFDMCを製造することができる。
【0050】
この時の前記酸化エステル化反応は、110~150℃、好ましくは125~135℃の温度条件で3時間~12時間、好ましくは5~7時間行われることを特徴とする。
【0051】
また、この時の酸化エステル化反応は、1.7~3.1MPa、好ましくは2.0~2.8MPaの空気圧で行われることを特徴とする。
【0052】
もし前記空気圧が1.7MPa未満である場合には、触媒と空気との衝突数が低下して反応活性点に到達する物質伝達速度が低いという問題があり、空気圧が3.1MPaを超える場合には、反応速度が増加して反応容器内に加わる圧力が過度であって安定上の問題を引き起こすおそれがあり、好ましくないことがある。
【0053】
また、反応温度があまり低いか或いは反応時間があまり短い場合には、反応活性が低く、反応時間または接触時間が増加するので、触媒の収率が低下するおそれがある。一方、反応温度があまり高いか或いは反応時間があまり長い場合には、副産物の生成が増加して反応器の内部圧力が過度に高くなるおそれがあって安定性の問題を引き起こすおそれがあり、好ましくないことがある。
【0054】
以下、本発明の一実施形態に係る2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)の製造方法の反応についてより具体的に説明する。
【0055】
図1を参照すると、本発明の一実施形態に係る下記化学式1の2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)の製造方法は、ヒドロキシアパタイト(HAP)に担持された金(Au)ナノ粒子触媒の下で、ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)とアルコールとを空気中で酸化エステル化反応させてHMMF製造ステップおよびMFF製造ステップを経て2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)を製造する。
【0056】
【0057】
以下、本発明の製造例および実験例について記載する。しかし、これらの製造例および実験例は、本発明の構成および効果をより具体的に説明するためのもので、本発明の範囲を限定するものではないことを明示する。
【実施例】
【0058】
本発明で使用した物質は、次のとおりに合成するか購入して使用した。
【0059】
四塩化金(III)酸3水和物(HAuCl4・3H2O)、塩化ルテニウム(III)水和物(RuCl3・xH2O)、およびジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)[PdCl2(PhCN)2]も、Sigma-Aldrichから購入した。
【0060】
MnCo2O4スピネル物質の製造のために、市販中のコバルト(II)アセテートテトラハイドレート[(CH3COO)2Co・4H2O]、マンガン(II)アセテートテトラハイドレート[(CH3COO)2Mn・4H2O]、硫酸アンモニウム[(NH4)2SO4]およびアンモニウムビカーボネート(NH4HCO3)をSigma-Aldrichから購入した。
【0061】
MgAl2O4粉末の製造のために、Alsfa Aesarから硝酸マグネシウム6水和物[Mg(NO3)2・6H2O]を購入し、Sigma-Aldrichから硝酸アルミニウム9水和物[Al(NO3)3・9H2O]およびクエン酸[HOC(COOH)(CH2COOH)2]を購入した。
【0062】
硝酸セリウム(III)6水和物[Ce(NO3)3・6H2O]およびアンモニア(NH3)溶液(28~30%)は、それぞれSigma-Aldrichおよび三全純正化学社から購入した。
【0063】
5-ヒドロキシメチル-2-フルフラール(HMF)および2,5-フランジカルボキシレート(FDMC)は、Shanghai Research Institute of Chemical Industry Testing Centreから購入し、標準校正に使用された。5-hydroxymethyl methyl furoate(HMMF)は、合成して準備された。
【0064】
沈殿剤として使用された尿素(NH2CONH2)は大井化金株式会社から購入した。メタノール、エタノールおよびアセトンなどの溶媒は三全純正化学社から購入した。触媒を製造する間に脱イオン水が使用された。
【0065】
HAP、ZrO
2
およびTiO
2
【0066】
ヒドロキシアパタイト(hydroxyapatite、HAP-nanopowder、<200nmの粒子サイズ、=97%、合成)、酸化ジルコニウム(IV)(ZrO2-powder、5μm、99%金属基準)および酸化チタン(IV)(TiO2-nanopowder、21nmの粒子サイズ、=99.5%金属基準)をSigma-Aldrichから購入し、真空下に80℃で一晩乾燥させた後に使用した。
【0067】
CeO
2
【0068】
一定サイズのCeO2の合成は、70℃に加熱された200mLの脱イオン水内の硝酸セリウム(III)6水和物[Ce(NO3)3・6H2O]25.0gの溶液から開始して25重量%のアンモニア溶液をdropwise方法で添加してpHを9に調整し、混合物を1時間反応させた。その後、溶液を濾過し、回収された固体を100℃で一晩乾燥させ、550℃で6時間か焼した。CeO2担持金ナノ触媒は、Au/HAPについて記述されたのと同様の標準均質蒸着-沈殿(HDP)方法によって製造され、Au/CeO2(Au含有量:1.0重量%)で表示した。
【0069】
MgAl
2
O
4
【0070】
化学量論的な量の硝酸マグネシウム6水和物および硝酸アルミニウム9水和物(1:2のモル比)を蒸留水に溶解させた後、化学量論的な量のクエン酸を添加した。完全に混合した後、均質な溶液を得た。溶液を高粘性コロイドが形成されるまでゆっくりと蒸発させた後、乾燥したゲルを得るために120乃至140℃で24時間加熱した。最後に、微粉末に粉砕した後、乾燥したゲル前駆体を600℃で焼成してMgAl2O4粉末を得た。MgAl2O4担持金ナノ触媒は、(Au/MgAl2O4)(Au含有量:2.1重量%)で表示される。
【0071】
MnCo
2
O
4
【0072】
微細球状MnCo2O4スピネルの典型的な合成において、(CH3COO)2Mn・4H2O(32.6mmol)および(CH3COO)2Co・4H2O(65.3mmol)(Mn:Co=1:2)は、水に溶解し、30分間激しく撹拌することにより均質化させた。別途に硫酸アンモニウム(50g)を水(400mL)に溶解させた。これらの溶液をゆっくりと混合し、4時間撹拌した。続いて、アンモニウムビカーボネート水溶液(~50g)を前記混合物にゆっくりと添加し、6時間撹拌した。得られた桜色沈殿物を濾過して収集し、蒸留水、無水エタノールで洗浄し、60℃で12時間乾燥させた。得られたカーボネート前駆体を空気中、425℃(2℃ min-1)の炉で8時間か焼し、さらに8時間維持した後、自然に室温に冷却させた。MnCo2O4担持金ナノ触媒は、同様のHDP方法で製造し、(Au/MnCo2O4)(Au含有量:2.1重量%)で表示した。
【0073】
製造例:担持触媒の製造
【0074】
製造例1:1.0重量%Auナノ粒子/HAP担持触媒
【0075】
標準方法である尿素を用いた均一蒸着-沈殿(homogeneous deposition-precipitation、HDP)を、金ナノ粒子を支持体(s)に蒸着させるのに使用した。HAP支持体3.0gを、沈殿剤として使用されたHAuCl4(0.064g、0.161mmol)および尿素(0.97g、16.2mmol)の水溶液20mlに添加した(尿素/Au=100、モル比)。その後、懸濁液を90℃に加熱し、4時間撹拌した。その後、懸濁液を3,000rpmで30分間遠心分離し、脱イオン水で数回洗浄した。しかる後に、回収された固体生成物を真空状態で100℃にて一晩乾燥させた。回収された固体生成物の微粉末を300℃で4時間か焼した。か焼後、紫色のAu/HAP(Au含有量:1.0重量%)が得られた。
【0076】
製造例2:1.5重量%Auナノ粒子/HAP担持触媒
【0077】
HAP担持体に1.0重量%金ナノ粒子を蒸着させるように金ナノ粒子前駆体を使用した代わりに、HAP担持体に1.5重量%金ナノ粒子を蒸着させるように金ナノ粒子前駆体を使用した以外は、製造例1と同様にして、1.5%Au/HAPであるAuナノ粒子担持触媒を製造した。
【0078】
比較製造例1:2.0重量%Pdナノ粒子/HAP担持触媒
【0079】
HAP(2.0g)をPdCl2(PhCN)2(0.1478g、Pd含有量:2.0重量%、0.385mmol/g)のアセトン水溶液と一緒に室温で3時間撹拌した。その後、得られたスラリーを濾過し、アセトンで洗浄し、真空下に乾燥させて2.0重量%Pd/HAPを得た。
【0080】
比較製造例2:2.0重量%Ruナノ粒子/HAP担持触媒
【0081】
1.0gのHAPをRuCl3・xH2O(0.046g、Ru含有量:2.0重量%、0.203mmol/g)水溶液と室温で24時間攪拌した。得られたスラリーを濾過し、脱イオン水で洗浄し、100℃で一晩乾燥させて2.0重量%Ru/HAPを得た。
【0082】
比較製造例3:1.0重量%Auナノ粒子/ZrO
2
担持触媒
【0083】
HAP担持体の代わりにZrO2担持体を使用した以外は、製造例1と同様にして、1.0%Au/ZrO2であるAuナノ粒子担持触媒を製造した。
【0084】
比較製造例4:1.0重量%Auナノ粒子/TiO
2
担持触媒
【0085】
HAP担持体の代わりにTiO2担持体を使用した以外は、製造例1と同様にして、1.0%Au/TiO2であるAuナノ粒子担持触媒を製造した。
【0086】
比較製造例5:1.0重量%Auナノ粒子/CeO
2
担持触媒
【0087】
HAP担持体の代わりにCeO2担持体を使用した以外は、製造例1と同様にして、1.0%Au/CeO2であるAuナノ粒子担持触媒を製造した。
【0088】
比較製造例6:2.1重量%Auナノ粒子/MgAl
2
O
4
担持触媒
【0089】
HAP担持体の代わりにMgAl2O4担持体を使用し、HAuCl4(0.064g、0.161mmol)および尿素(0.97g、16.2mmol)の水溶液の代わりにHAuCl4(0.134g、0.34mmol)および尿素(2.04g、34.02mmol)の水溶液を使用した以外は、製造例1と同様にして、2.1%Au/MgAl2O4であるAuナノ粒子担持触媒を製造した。
【0090】
比較製造例7:2.1重量%Auナノ粒子/MnCo
2
O
4
担持触媒
【0091】
HAP担持体の代わりにMnCo2O4担持体を使用し、HAuCl4(0.064g、0.161mmol)および尿素(0.97g、16.2mmol)の水溶液の代わりにHAuCl4(0.134g、0.34mmol)および尿素(2.04g、34.02mmol)の水溶液を使用した以外は、製造例1と同様にして、2.1%Au/MnCo2O4であるAuナノ粒子担持触媒を製造した。
【0092】
比較製造例8:HAP担持体
【0093】
HAP担持体をそのまま使用した。
【0094】
実施例:FDMCの製造
【0095】
表1の実施例または比較例の実験条件に基づいてFDMCを製造し、詳細な製造方法は以下に記載した。
【0096】
実施例1
【0097】
表1を参照して説明すると、HMFからのFDMC製造過程は、磁気撹拌機および電気ヒーターが取り付けられた高圧のステンレス鋼反応器100mLで行われた。
【0098】
反応器にHMF0.2513g(2mmol)、CH3OH(20mL)、および製造例1の1.0%Au/HAP触媒をHMF/Auのモル比が100となるように充填し、その後、0.5MPaの空気を反応器にパージして反応混合物から大気を3回排気させた。続いて、反応器を2.4MPaの空気圧まで加圧し、攪拌速度を650rpmとし、130℃まで加熱し、反応時間である6時間の間反応温度を130℃に維持し、反応器に入る空気の最終圧力Pairである反応空気圧力を、背圧調整器および圧力変換器が取り付けられたガス貯蔵所を用いて2.4MPaに維持しながらFDMCを製造した。反応終結の際に生成混合物を室温で冷却させ、一定量のCH3OHを添加した。固体触媒および生成物を濾過方法で分離した。
【0099】
残った濾液は、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いてFDMCを定量分析した。高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)装備(Agilent Technologies 1200 series、Bio-Rad Aminex HPX-87 H pre-packed column、およびUV-detector)を用いて分析した。水中のH2SO4(0.0005M)を移動相として用いた。FDMCおよびHMMFの収率はHMFの転換率に基づいて計算され、生成物および反応物標準溶液の補正によって確認された。
【0100】
実施例2
【0101】
反応温度を130℃の代わりに110℃に維持した以外は、実施例1と同様にしてFDMCを製造した。
【0102】
実施例3
【0103】
反応温度を130℃の代わりに150℃に維持した以外は、実施例1と同様にしてFDMCを製造した。
【0104】
実施例4
【0105】
反応空気圧力を2.4MPaの代わりに1.7MPaに維持した以外は、実施例1と同様にしてFDMCを製造した。
【0106】
実施例5
【0107】
反応空気圧力を2.4MPaの代わりに3.1MPaに維持した以外は、実施例1と同様にしてFDMCを製造した。
【0108】
実施例6
【0109】
反応温度を130℃の代わりに120℃に維持した以外は、実施例1と同様にしてFDMCを製造した。
【0110】
実施例7
【0111】
製造例1の1.0%Au/HAP触媒をHMF/Auのモル比が100となるように充填した代わりに、93.4となるように充填した以外は、実施例6と同様にしてFDMCを製造した。
【0112】
実施例8
【0113】
製造例1の1.0%Au/HAP触媒をHMF/Auのモル比が100となるように充填した代わりに、62.5となるように充填した以外は、実施例6と同様にしてFDMCを製造した。
【0114】
実施例9
【0115】
製造例1の1.0%Au/HAP触媒をHMF/Auのモル比が100となるように充填した代わりに、製造例2の1.5%Au/HAP触媒をHMF/Auのモル比が93.4となるように充填し、反応器に空気を注入して反応中に空気圧Pairを2.4MPaに維持した代わりに、酸素を注入して反応中に酸素圧PO2を2.4MPaに維持した以外は、実施例6と同様にしてFDMCを製造した。
【0116】
比較例1
【0117】
担持触媒として製造例1の触媒の代わりに比較製造例1の触媒を使用した以外は、実施例1と同様にしてFDMCを製造した。
【0118】
比較例2
【0119】
担持触媒として製造例1の触媒の代わりに比較製造例2の触媒を使用した以外は、実施例1と同様にしてFDMCを製造した。
【0120】
比較例3
【0121】
担持触媒として製造例1の触媒の代わりに比較製造例3の触媒を使用した以外は、実施例1と同様にしてFDMCを製造した。
【0122】
比較例4
【0123】
担持触媒として製造例1の担持触媒の代わりに比較製造例4の担持触媒を使用した以外は、実施例1と同様にしてFDMCを製造した。
【0124】
比較例5
【0125】
担持触媒として製造例1の担持触媒の代わりに比較製造例5の担持触媒を使用した以外は、実施例1と同様にしてFDMCを製造した。
【0126】
比較例6
【0127】
担持触媒として製造例1の担持触媒の代わりに比較製造例6の担持触媒を使用し、製造例1の触媒をHMF/Auのモル比が100となるように充填した代わりに、比較製造例6の触媒をHMF/Auのモル比が93.4となるように充填した以外は、実施例1と同様にしてFDMCを製造した。
【0128】
比較例7
【0129】
担持触媒として製造例1の担持触媒の代わりに比較製造例7の担持触媒を使用し、製造例1の触媒をHMF/Auのモル比が100となるように充填した代わりに、比較製造例7の触媒をHMF/Auのモル比が93.4となるように充填した以外は、実施例1と同様にしてFDMCを製造した。
【0130】
比較例8
【0131】
担持触媒として製造例1の担持触媒の代わりに比較製造例8の担持触媒を使用した以外は、実施例1と同様にしてFDMCを製造した。
【0132】
【0133】
試験例
【0134】
ナノ粒子担持触媒の分析
【0135】
製造例1および比較製造例3~5の担持触媒の物理的および組織的特性を様々な技術を用いて調査し、その結果を表2にまとめた。
【0136】
担持体に吸着された金ナノ粒子の重量%はinductively coupled plasma atomic emission spectrometry(ICP-AES)により測定され、表面積、気孔(pore)容積、平均気孔径はN2-物理吸着(N2-physisorption)(吸着(adsorption)-脱着(desorption))によって測定され、金ナノ粒子の平均粒径はTEM分析によって測定された。
【0137】
担持体の表面積(Surface Area)とそれに対応する金ナノ触媒の表面積とは有意な差がなく、これは、Auの低いロード率(~1.0重量%)のためであると予想される。様々なAuナノ触媒のうち、製造例1のAu/HAPナノ触媒の表面積は、実際に比較製造例4のAu/TiO2および比較製造例5のAu/CeO2ナノ触媒の表面積よりも低かった。
【0138】
しかし、Au/HAPの平均気孔径は46.1nmと最も高かった。平均気孔径の増加は、HAPの表面に蒸着された粒子サイズ(2.0~4.0nm)を有する最も小さいAuナノ粒子の適合性のためであると分析することができた。
【0139】
【0140】
図2は電子顕微鏡写真である。
図2を参照すると、aおよびbはそれぞれHAP、本発明の製造例1のAu/HAP担持触媒の走査電子顕微鏡(SEM)写真であり、c、dおよびeはそれぞれ製造例1の透過電子顕微鏡(TEM)写真であり、eに導入された棒グラフは製造例1のサイズ分布であり、fは製造例1の高解像度TEM(HR-TEM)の写真であり、導入された写真は金ナノ粒子のSAEDパターンである。
【0141】
図2のaおよびbを参照すると、Auのロード後、Auの蒸着中にHAPの形態が非常に堅固に維持されることを確認することができる。また、
図2のc、d、eおよびfを参照すると、Au/HAPナノ触媒のTEMおよびHR-TEMイメージは、主に1.0~4.0nmのサイズを有するAuナノ粒子の存在を証明した。
図2のeの棒グラフを参照すると、Auナノ粒子サイズの分布が殆ど2.0~4.0nmであることが分かった。
図2のfを参照すると、HR-TEMイメージから測定したd-spacing0.23nmは、Auナノ粒子の[111]格子面に該当し、既存の文献で報告された値とよく一致した。
図2fで導入された右上側のSAEDパターンは、Au/HAPナノ触媒の形成を確認する高結晶性ドット(dot)の存在を示した。
【0142】
図3の(a)、(b)および(c)はAu/ZrO
2のTEM写真であり、(e)、(f)および(g)はAu/CeO
2のTEM写真であり、(h)、(i)および(j)はAu/TiO
2のTEM写真である。
図3を参照すると、担持体、および該担持体に担持された金ナノ粒子を確認することができた。
【0143】
図4はHAPおよび製造例1のXRD図である。
図4を参照すると、HAPおよび製造例1のAu/HAPナノ触媒の結晶性はXRDによって確認された。HAPのXRD回折パターンはAu/HAPナノ触媒と非常に類似しており、これはAuのロード後にもHAPの結晶性に変化がないことを示す。
【0144】
図5は製造例1のX線光電子分光スペクトルである。
図5を参照すると、Au/HAPナノ触媒のAuの原子価状態は、X線光電子分光法(XPS)により調査され、Au/HAPナノ触媒のスペクトル(78~96eVのAu4f領域)が提示されている。実際に(83.8±0.1)eVで現れる特徴的なピークは、金ナノ粒子の存在のためである。得られた結果によると、金属性Auナノ粒子の典型的な結合エネルギー値は、文献に報告されたAu系触媒とよく一致した。
【0145】
図6は製造例1のXPSスペクトルである。
図6を参照すると、Au元素を含むすべての元素(Ca、P、O)の存在を明確に示した。XPS測量スペクトル分析において、284.6eVでのC1sの追加ピークは、標準参照として使用された残留炭素から発生したものであった。
【0146】
反応メカニズムの分析
【0147】
図7は実施例1のHMFからFDMCへの酸化エステル化を1~6時間の間、時間経過に伴って行った結果を示すグラフである。
【0148】
図7を参照すると、時間経過に伴う反応の進行をモニタリングすることにより、初期ステップでHMFが5-ヒドロキシメチルメチルフロエート(HMMF)に短い反応時間で急速に転換できることを観察した。時間がさらに増加するにつれ、中間体であるHMMFが次第に遅い速度でメチル5-ホルミル-2-フロエート(MFF)に転換されることを観察することができた。また、HMMFから形成されたMMFは、別の中間体であって、さらに速い速度でFDMCに変換された。したがって、
図7に示すように、HMFのアルデヒド基がアルコール基よりも速く酸化できる一連の反応によってHMFの酸化エステル化が行われることが分かった。
【0149】
生成物の分析
【0150】
図8の(a)は実施例1のHMFの酸化エステル化反応から得られた未加工生成混合物のGC-MSグラフであり、(b)は実施例1の未加工混合生成物から得られた純粋なFDMCのGC-MSグラフである。
図8を参照すると、未加工生成物の混合物は、中間体として少量のHMMFを有する多量のFDMCを示した。
【0151】
図9乃至
図12はそれぞれFDMCの
1H-NMRスペクトル、HMMFの
1H-NMRスペクトル、FDMCの
13C-NMRスペクトル、およびHMMFの
13C-NMRスペクトルである。
【0152】
ヘキサン:メタノール=3:1の混合物から、未加工FDMCの結晶化後に純粋なFDMCが得られた。結晶化方法でFDMCを精製した。生成反応が終わると、飽和溶液になるまで回転式蒸発器を用いて生成物混合物からメタノールを蒸発させた。その後、ヘキサン(メタノールよりも3倍以上)を添加し、結晶化されるように24時間そのまま放置しておいた。固体結晶を観察し、濾過によって分離した後、減圧下で乾燥させた。FDMC(固体)およびHMMF(黄色半液体)が得られ、
図9乃至
図12から得られた物質がFDMCおよびHMMFであることを確認することができた。
【0153】
転換率、収率および選択率の分析:HPLC
【0154】
HPLC(Agilent Technologies 1200 series、Bio-Rad Aminex HPX-87 H pre-packed column、and UV-detector)分析によって、転換率(C)、生成収率(Y)および選択率(S)を次のとおりに算出し、触媒の担持体の種類による転換率、収率および選択率を比較した。
【0155】
「HMF転換率」とは、HMFの反応されたモル数をHMFの使用モル数で割った値の百分率を意味する。「FDMC収率」とは、FDMCの実際生成モル数を理論的FDMCの生成モル数で割った値の百分率を意味する。「FDMC選択率」とは、FDMC収率をHMF転換率で割った値の百分率を意味する。
【0156】
表3、表4および表5のCは転換率を示し、Yは収率、Sは選択率をそれぞれ示す。
【0157】
温度の影響
【0158】
FDMCへのHMFの酸化エステル化に対する温度の影響を研究し、その結果を表3に示した。110℃から130℃に昇温すると、HMF転換率とFDMC収率に肯定的な影響を及ぼした。高温150℃でHMFの100%転換率が達成されたが、FDMC収率は、二酸化炭素またはギ酸メチル(methyl formate、MF)の当該生成物へのメタノール酸化の結果であって、89.3%から20.9%に減少した。
【0159】
空気圧の影響
【0160】
FDMCへのHMFの酸化エステル化に対する空気圧の影響を研究し、その結果を表3に示した。空気圧の影響を調べるために、HMF酸化を、130℃の一定温度で空気圧を1.7MPaから3.1MPaに変化させながら行った。1.7MPaの空気圧でHMF転換率は99.0%であったが、FDMC収率は61.0%と低く、反応後にHMMFとMFFの二つの中間体が発見された。圧力が1.7から2.4MPa(entry4および5)に増加するとき、FDMC収率が61.0%から89.3%に到達し、空気圧の強い影響が観察されるのに対し、空気圧がさらに増加しても、FDMC収率には大きな影響を及ぼさなかった。
【0161】
【0162】
担持体および金属の影響
【0163】
表4は空気の存在下でHMFを酸化反応させてFDMCを製造するときの触媒の担持体または金属による転換率、収率および選択率の比較表である。
【0164】
【0165】
FDMC収率はHMF転換率に基づいて計算され、生成物および反応物の標準溶液の補正によって確認された。
【0166】
表4を参照すると、金ナノ粒子担持触媒において担持体として比較例の担持体を使用した場合よりも実施例1のヒドロキシアパタイト(HAP)を使用した場合にHMF転換率とFDMC収率が99.9%、89.3%と最も高いことを確認することができる。
【0167】
一方、比較例1におけるパラジウムと比較例2におけるルテニウムのように金とは異なる金属ベースの触媒は、0%のFDMC収率を示して非常に低い性能を示した。表4に記載していないが、FDMCよりは、比較例1のPd/HAPと比較例2のRu/HAPはそれぞれ16.7%と66.7%のDFF収率を示した。
【0168】
一方、良い酸化触媒として知られている比較例3におけるAu/ZrO2は、同じ条件でFDMCへのHMFの酸化エステル化反応を行った。比較例3のAu/ZrO2は、80.9%の良いFDMC収率を示し、FDMCとは別に18.1%のHMMFのモノエステル収率を示した。
【0169】
また、比較例4のAu/TiO2触媒は、FDMCを36.1%の収率で得て劣った活性を示し、比較例5のAu/CeO2は、28.6%の他の副産物の収率を示し、29.5%のモノエステルHMMF収率と21.9%のFDMC収率を示した。比較例6のMgAl2O4スピネルに担持された金触媒であるAu/MgAl2O4は、42.8%のFDMC収率、14.6%のモノエステルであるHMMF収率および12.5%の他の副産物の収率を示した。比較例7のMnCo2O4に支持された金触媒であるAu/MnCo2O4は、表5に記載されていないが、主生成物として54.0%の収率でDFFを得た。FDMCに対するAu/MnCo2O4の低い活性は、支持体、すなわちMnCo2O4のブレンステッドおよびルイス酸の酸性特性のためであると見られる。また、比較例8のHAP自体はHMFの酸化をほぼ進行させなかった。
【0170】
酸素雰囲気圧力の影響
【0171】
表5は酸素で塩基の添加剤を使用せずにHMFを酸化反応させてFDMCを製造するときの触媒の担持体による収率および選択率の比較表である。
【0172】
表5を参照すると、また、従来では純酸素酸化剤として酸化反応を経て爆発性が高いという点で大規模にFDMCを製造することが難しかったが、同じ担持体HAPを使用し、空気圧力の下で反応させた実施例7と、酸素圧力下で反応させた実施例9とを比較すると、空気圧力下で反応させた実施例7がむしろHMF転換率、FDMC収率およびFDMC選択率が99.9%、88.7%および88.8%であってより高いことを確認することができる。よって、爆発性の低い空気中で酸化反応を経てFDMCを得ることができるため、大規模にFDCAを製造することができることを確認することができた。
【0173】
【表5】
HMMF=5-ヒドロキシメチルメチルフロエート(5-hydroxymethyl methyl furoate)
【0174】
担持触媒の金とHMFのモル比に対する影響
【0175】
表6は空気中でHMFを酸化エステル化反応させてFDMCを製造するときの金(Au)ナノ粒子触媒およびHMF含有量の比による収量、選択率の比較表である。
【0176】
【0177】
表6を参照すると、触媒の量が増加するとき、FDMC収率は増加した。比率(HMF/Au=100)におけるFDMC収率は最大86.7%であり、比率(HMF/Au=62.5)におけるFDMC収率は最大89.6%であった。
【0178】
よって、金(Au)ナノ粒子触媒およびHMF含有量の比による収率および選択率は、金ナノ粒子触媒の含有量の比が大きいほどFDMC収率が増加することを確認することができる。
【0179】
触媒再利用の分析
【0180】
図13は製造例1のAu/HAPナノ触媒の再利用によるHMF転換率とFDMC収率との関係を示すグラフである。それぞれ実行後、触媒重量の最小損失を回避するめに、遠心分離によって触媒を生成混合物から分離した。回収された触媒をメタノールで完全に洗浄し、45℃の真空オーブンで6時間乾燥させた後、再利用した。HMF/Auの比率は常に100と一定に維持した。
【0181】
図13を参照すると、Au/HAPナノ触媒は、初期活性の損失なしに5回連続再利用した後にも著しい活性を示した。得られた結果は、適用された反応条件の下でAu/HAPナノ触媒が相当安定することを示した。Au/HAPがFDMCを合成するためのHMFの酸化エステル化で非常に強力な異種触媒であることが分かった。
【0182】
本発明の実施形態によれば、既存の2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)の製造方法とは異なり、爆発の危険がある酸化剤を使用しないため安全な工程を介して2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)を簡単に製造する。また、FDCAの製造後、このFDCAからアルコールとエステル化反応を用いてFDMCを得る工程は2ステップの工程であるのに対し、本発明はHMFから酸化エステル化(oxidative esterification)反応を介して1ステップの反応でFDMCを直接製造することができて容易である。
【0183】
本発明の一効果として、空気とアルコールを反応物質および溶媒として用いて、従来の他の溶媒を用いる場合よりも安全で便利であるという効果がある。
【0184】
本発明の他の一効果として、2,5-フランジカルボン酸(FDCA:2,5-Furandicarboxylic acid)を従来使用したとき、2,5-フランジカルボン酸(FDCA:2,5-Furandicarboxylic acid)は、産業溶媒での低い溶解度のため問題点があったが、2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)を使用することにより低い溶解度を解決する効果を提供する。
【0185】
Au/HAPを触媒として用いて高圧条件で単一容器内の反応を介して他の担持体よりもHAPの担持体を使用することにより、高選択率および高収率で2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)が製造されるという効果がある。
【0186】
前述した本発明の説明は、例示のためのものであり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須的な特徴を変更せず、他の具体的な形態に容易に変形可能であることを理解することができるだろう。よって、上述した実施形態はあらゆる面で例示的なもので、限定的なものではないと理解すべきである。例えば、単一形に説明されている各構成要素は分散されて実施されてもよく、同様に分散されたものと説明されている構成要素も結合された形態で実施されてもよい。
【0187】
本発明の範囲は、後述する特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味および範囲、そしてその均等概念から導き出されるすべての変更または変形形態が本発明の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0188】
本発明の実施形態によれば、既存の2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)の製造方法とは異なり、爆発の危険がある酸化剤(純酸素)を使用しないため、安全な工程を介して2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)を簡単に製造する。
【0189】
また、FDCAの製造後、このFDCAからアルコールとエステル化反応を用いてFDMCを得る工程は、2ステップの工程であるのに対し、本発明は、HMFから酸化エステル化(oxidative esterification)反応を介して1ステップの反応でFDMCを直接製造することができて容易である。
【0190】
本発明の一効果として、空気とアルコールを反応物質および溶媒として用いて、従来の他の溶媒を用いる場合よりも安全で便利であるという効果がある。
【0191】
本発明の他の一効果として、2,5-フランジカルボン酸(FDCA:2,5-Furandicarboxylic acid)を従来使用したとき、2,5-フランジカルボン酸(FDCA:2,5-Furandicarboxylic acid)は産業溶媒での低い溶解度のため問題点があったが、2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)を使用することにより低い溶解度を解決する効果を提供する。
【0192】
Au/HAPを触媒として用いて高圧条件で単一容器内の反応を介して他の担持体よりもHAPの担持体を使用することにより、高選択率および高収率で2,5-フランジメチルカルボキシレート(FDMC)が製造されるという効果がある。