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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-28
(45)【発行日】2023-01-12
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20230104BHJP
   C22C 14/00 20060101ALI20230104BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20230104BHJP
   C22C 28/00 20060101ALI20230104BHJP
   C22C 16/00 20060101ALI20230104BHJP
   C22C 27/00 20060101ALI20230104BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20230104BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C22C14/00 Z
C22C21/00 N
C22C28/00 A
C22C16/00
C22C27/00
C22C30/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020105165
(22)【出願日】2020-06-18
(65)【公開番号】P2021107572
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2021-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2019237867
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000136561
【氏名又は名称】株式会社フルヤ金属
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】丸子 智弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄
(72)【発明者】
【氏名】大友 将平
(72)【発明者】
【氏名】中村 紘暢
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-134635(JP,A)
【文献】特開2015-096647(JP,A)
【文献】特開2015-183244(JP,A)
【文献】特開2003-166052(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107841639(CN,A)
【文献】特開2001-028348(JP,A)
【文献】特開2012-12673(JP,A)
【文献】国際公開第2018/169998(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C
C22C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムを含み、かつ、希土類元素及びチタン族元素のいずれか一方又は両方をさらに含むスパッタリングターゲットであって、
塩素の含有量が100ppm以下であり、
前記希土類元素は、スカンジウム及びイットリウムのうち、少なくともいずれか一種であり、
前記チタン族元素は、ジルコニウム及びハフニウムのうち、少なくともいずれか一種であり、
前記スパッタリングターゲットは、前記希土類元素及び前記チタン族元素から選ばれた少なくとも1種の元素を10~75原子%含有することを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
フッ素の含有量が100ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
酸素の含有量が500ppm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記スパッタリングターゲット中に、アルミニウム、希土類元素及びチタン族元素から選ばれた少なくとも2種の元素からなる金属間化合物が存在していることを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
前記スパッタリングターゲット中に、前記金属間化合物が1種、2種、3種又は4種存在していることを特徴とする請求項4に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項6】
前記スパッタリングターゲット中に、アルミニウム、希土類元素及びチタン族元素から選ばれた少なくとも1種の元素の窒化物が1種類以上存在していることを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載のスパッタリングターゲット。
【請求項7】
アルミニウム母相中に、アルミニウムと希土類元素とを含む材料、アルミニウムとチタン族元素とを含む材料及びアルミニウムと希土類元素とチタン族元素とを含む材料の少なくともいずれか1種が存在している組織を有するか、又は、
アルミニウム母相中に、少なくとも、金属種として希土類元素及び不可避不純物のみを含む相及び金属種としてチタン族元素及び不可避不純物のみを含む相のいずれか一方又は両方を含む複合相で構成されている組織を有することを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載のスパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧電素子において、圧電応答性の良い金属膜あるいは窒化膜を形成するための好適なスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
現代及び今後の社会において少子高齢化が進むにつれて労働人口が減少していくことが予測されるため、製造業においてもモノのインターネット(IoT:Internet Of Things)を利用した自動化が取り組まれている。また、自動車産業においてもAIなどが主体となって人が操作せずに自動運転が可能な自動車が製造される社会へ移行しつつある。
【0003】
自動化・自動運転において重要な技術が無線による超高速通信であり、無線による超高速通信には高周波フィルターが欠かせない。また、無線通信が高速化するために、従来の第4世代移動通信(4G)で使用される周波数3.4GHz帯から第5世代移動通信(5G)で使用される周波数3.7GHz、4.5GHz、28GHz帯へと高周波側に移行が予定されている。この移行が行なわれると、高周波フィルターも従来の弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)フィルターでは技術上困難となる。そこで弾性表面波フィルターからバルク弾性波(BAW:Bulk Acoustic Wave)フィルターへと技術が変わりつつある。
【0004】
BAWフィルターや圧電素子センサーの圧電膜としては主に窒化アルミニウム膜が用いられる。窒化アルミニウムはQ値(Quality factor)と呼ばれる振幅増大係数が高いことで知られているため圧電膜として用いられている。しかし、高温では使用できないため、圧電素子の高温化、高Q値化を図るために、アルミニウム元素と希土類元素を含む窒化膜が有望である。
【0005】
アルミニウム元素と希土類元素を含む窒化膜を形成するためのスパッタリングターゲットとして、AlとScとの合金からなり、Scを25原子%~50原子%で含有するスパッタリングターゲットであって、酸素の含有量が2000質量ppm以下であり、ビッカース硬さ(Hv)のばらつきが20%以下であるスパッタリングターゲットの開示がある(例えば特許文献1を参照。)。このスパッタリングターゲットは溶解工程を経て、さらに鍛造工程などの塑性加工を施して作製されることが述べられている(例えば特許文献1を参照。)。また、特許文献1ではスパッタリングターゲットのTOP(ターゲット上面)とBTM(ターゲット下面)とのScの含有量のばらつきは±2原子%の範囲内であったことが記載されている(明細書段落0040-0041)。
【0006】
また、アルミニウムと希土類元素との合金からなるスパッタリングターゲットの製造方法において、アルミニウムと希土類元素との元素比が、得られる合金ターゲットが二種の金属間化合物のみで構成されることを満たす範囲にある原料を準備し、この原料から、アトマイズ法でアルミニウムと希土類元素との合金粉末を作製し、得られた合金粉末からホットプレス法又は放電プラズマ焼結法によって真空雰囲気下で合金ターゲットとなる焼結体を作製する技術がある(例えば、特許文献2を参照。)。
【0007】
また、ScAl1-xN合金において、圧電定数d33がSc濃度の組成ズレによって極端に変化することが知られている(例えば非特許文献1、図3を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】WO2017/213185号公報
【文献】特開2015-96647号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】加納一彦 他,デンソーテクニカルレビュー Vol.17, 2012,p202~207
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
アルミニウム合金の製造において、アルミニウムの融点が660℃と低いのに対し、アルミニウムに添加する元素の融点がスカンジウムの場合は1541℃、イットリウムの場合は1522℃、チタンの場合は1668℃、ジルコニウムの場合は1855℃、ハフニウムの場合は2233℃と非常に高温であり、アルミニウムと添加する元素との融点差が800℃以上となるため、アルミニウムと添加する元素が完全に固溶する範囲が殆どない。
【0011】
そのため、特許文献1のようにアルミニウムに対してスカンジウムの添加量を多くすると融点が1400℃以上となる組成もあり、溶解後の凝固時の温度ムラにより金属間化合物の成長に差が生じてしまうため、スパッタリングターゲットの面内方向及び厚さ方向において均一な組成を有するスパッタリングターゲットの作製が困難である。
【0012】
また、特許文献1のように溶解法を用いて金属間化合物のみで構成すると、非常に硬くて脆いスパッタリングターゲットとなり、溶解でインゴットを形成したとしても、鍛造などの塑性加工を行ったときにスパッタリングターゲットに割れなどが発生しやすい。
【0013】
また、特許文献1のように溶解法で作製すると析出相が大きく成長し、スパッタリングターゲットの面内方向及び厚さ方向において組成ムラが発生するため、スパッタリングして薄膜を形成したとしても得られた合金薄膜の組成分布が不安定となる。
【0014】
特許文献1では、スパッタリングターゲットのTOPとBTMとのScの含有量のばらつきは±2原子%の範囲内であったことが記載されているが、成膜された膜の均質性を得るためにも厚さ方向だけでなく面内方向のバラツキを抑制することも必要である。
【0015】
特に非特許文献1の図3で指摘されているように、組成ズレによって極端に特性の変化がみられることもあるため、面内方向及び厚さ方向において均一な組成を保つことは重要である。
【0016】
溶解法で作製したときの問題を解決するために、特許文献2のように粉末の時点でアルミニウムと希土類との組成ずれを解消しておくことや、焼結するときに製品の最終形状に近い形で仕上げることなどで塑性加工を減らすことなどが考えられる。しかし、塩素、フッ素、酸素などの不純物を混入し過ぎると、スパッタリングターゲット中の塩素、フッ素、酸素が成膜時における加熱によって放出されてしまい、異常放電が発生しやすく、得られた膜の配向性を悪化させたり、パーティクルが発生して膜の歩留まりを低下させてしまう。
【0017】
そこで本開示の目的は、スパッタリングターゲット中において不純物である塩素元素の混入を抑制したスパッタリングターゲットであって、当該スパッタリングターゲットを用いて薄膜を形成したときに塩素による異常放電の発生を抑制し、配向性の良い薄膜を形成することができるスパッタリングターゲットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、スパッタリングターゲット中において不純物である塩素元素の濃度を所定以下とすることによって塩素元素混入の問題を抑制できることをみいだし、本発明を完成させた。すなわち、本発明に係るスパッタリングターゲットは、アルミニウムを含み、かつ、希土類元素及びチタン族元素のいずれか一方又は両方をさらに含むスパッタリングターゲットであって、塩素の含有量が100ppm以下であり、前記希土類元素は、スカンジウム及びイットリウムのうち、少なくともいずれか一種であり、前記チタン族元素は、ジルコニウム及びハフニウムのうち、少なくともいずれか一種であり、前記スパッタリングターゲットは、前記希土類元素及び前記チタン族元素から選ばれた少なくとも1種の元素を10~75原子%含有することを特徴とする。スパッタリングターゲットを用いて薄膜を形成したときに塩素による異常放電の発生を抑制し、配向性のより良い薄膜を形成することができる。また、塩素による異常放電の発生を抑制することにより、パーティクルの発生を抑制しつつ、歩留り良く薄膜を形成することができる。
【0019】
本発明に係るスパッタリングターゲットでは、フッ素の含有量が100ppm以下であることが好ましい。スパッタリングターゲットを用いて薄膜を形成したときにフッ素による異常放電の発生を抑制し、配向性のより良い薄膜を形成することができる。また、フッ素による異常放電の発生を抑制することにより、パーティクルの発生を抑制しつつ、歩留り良く薄膜を形成することができる。
【0020】
本発明に係るスパッタリングターゲットでは、酸素の含有量が500ppm以下であることが好ましい。前記スパッタリングターゲットを用いて薄膜を形成したときに酸素による異常放電の発生を抑制し、配向性のより良い薄膜を形成することができる。また、酸素による異常放電の発生を抑制することにより、パーティクルの発生を抑制しつつ、歩留り良く薄膜を形成することができる。
【0021】
本発明に係るスパッタリングターゲットでは、前記スパッタリングターゲット中に、アルミニウム、希土類元素及びチタン族元素から選ばれた少なくとも2種の元素からなる金属間化合物が存在していることが好ましい。単体のアルミニウム、単体の希土類元素、単体のチタン族元素の箇所を少なくすることにより組成のバラツキを抑制することができる。ターゲットに金属間化合物が存在していると金属元素間のスパッタレートの差異が緩和され、得られる膜の組成ムラが小さくなる。
【0022】
本発明に係るスパッタリングターゲットでは、前記スパッタリングターゲット中に、前記金属間化合物が1種、2種、3種又は4種存在していてもよい。単体のアルミニウム、単体の希土類元素、単体のチタン族元素の箇所を少なくすることにより組成のバラツキを抑制することができる。金属間化合物が1種類又は複数種類存在することで、金属元素間のスパッタレートの差異がより緩和され、得られる膜の組成ムラがより小さくなる。
【0023】
本発明に係るスパッタリングターゲットでは、前記スパッタリングターゲット中に、アルミニウム、希土類元素及びチタン族元素から選ばれた少なくとも1種の元素の窒化物が1種類以上存在していてもよい。圧電素子の窒化膜を形成したときに、圧電素子の高温化に対応するとともに高Q値化することができる。
【0026】
本発明に係るスパッタリングターゲットは、アルミニウム母相中に、アルミニウムと希土類元素とを含む材料、アルミニウムとチタン族元素とを含む材料及びアルミニウムと希土類元素とチタン族元素とを含む材料の少なくともいずれか1種が存在している組織を有するか、又は、アルミニウム母相中に、少なくとも、金属種として希土類元素及び不可避不純物のみを含む相及び金属種としてチタン族元素及び不可避不純物のみを含む相のいずれか一方又は両方を含む複合相で構成されている組織を有することが好ましい。導電性を向上させたスパッタリングターゲットであって、例えば、DCスパッタリング装置を用いて成膜するときの生産性を向上させるスパッタリングターゲットを提供することができる。
【発明の効果】
【0027】
本開示のスパッタリングターゲットは、スパッタリングターゲット中において不純物である塩素元素の混入が抑制されており、当該スパッタリングターゲットを用いて薄膜を形成したときに塩素による異常放電の発生を抑制し、配向性の良い薄膜を形成することができる。また、塩素による異常放電の発生を抑制することにより、パーティクルの発生を抑制しつつ、歩留り良く薄膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】円板状ターゲットのスパッタ面内方向における組成分析の測定箇所を示す概略図である。
図2】B‐B断面で示される円板状ターゲットのターゲット厚さ方向における組成分析の測定箇所を示す概略図である。
図3】正方形の板状ターゲットのスパッタ面内方向における組成分析の測定箇所を示す概略図である。
図4】C‐C断面で示される正方形の板状ターゲットのターゲット厚さ方向における組成分析の測定箇所を示す概略図である。
図5】円筒形状のターゲットの組成分析の測定箇所を説明するための概念図である。
図6】アルミニウム母相の概念を説明するための説明図である。
図7】実施例1におけるAl-Scターゲットの表面を電子顕微鏡で観察したときの画像である。
図8】比較例4におけるAl-Scターゲットの表面を電子顕微鏡で観察したときの画像である。
図9】実施例4におけるAl-ScNターゲットの表面をマイクロスコープで観察したときの画像である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以降、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0030】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットは、アルミニウムを含み、かつ、希土類元素及びチタン族元素のいずれか一方又は両方をさらに含むスパッタリングターゲットであって、塩素の含有量が100ppm以下であり、50ppm以下であることが好ましく、30ppm以下であることがより好ましい。塩素の含有量が100ppmを超えると、スパッタリングターゲット中の塩素が成膜時における加熱によって放出されることにより、スパッタリングターゲットに印加する電圧が安定することがなく異常放電を引き起こしてしまい、パーティクルの発生、形成された薄膜の歩留まりの低下、配向性の悪い薄膜の形成の原因となるため、スパッタリングターゲット中の塩素の含有量を100ppm以下とする必要がある。
【0031】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットでは、フッ素の含有量が100ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがより好ましく、30ppm以下であることがさらに好ましい。フッ素の含有量が100ppmを超えると、スパッタリングターゲット中のフッ素が成膜時における加熱によって放出されることにより、スパッタリングターゲットに印加する電圧が安定することがなく異常放電を引き起こしてしまい、パーティクルの発生、形成された薄膜の歩留まりの低下、配向性の悪い薄膜の形成の原因となるため、スパッタリングターゲット中のフッ素の含有量を100ppm以下に調整することが好ましい。
【0032】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットでは、酸素の含有量が500ppm以下であることが好ましく、300ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることがさらに好ましい。酸素の含有量が500ppmを超えると、スパッタリングターゲット中の酸素が成膜時における加熱によって放出されることにより、スパッタリングターゲットに印加する電圧が安定することがなく異常放電を引き起こしてしまい、パーティクルの発生、形成された薄膜の歩留まりの低下、配向性の悪い薄膜の形成の原因となるため、スパッタリングターゲット中の酸素の含有量を500ppm以下に調整することが好ましい。
【0033】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットでは、カーボンの含有量が200ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがより好ましく、50ppm以下であることがさらに好ましい。カーボンの含有量が200ppmを超えると、スパッタリング時に膜中にカーボンが取り込まれ、結晶性が悪化した薄膜が形成されてしまう。また、ターゲット表面で強固な化合物を形成すると、導電性を損ない異常放電によるパーティクルが発生し膜の歩留まりが低下するため、スパッタリングターゲット中のカーボンの含有量を200ppm以下に調整することが好ましい。
【0034】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットでは、シリコンの含有量が200ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがより好ましく、50ppm以下であることがさらに好ましい。シリコンの含有量が200ppmを超えると、スパッタリング時にシリコンの酸化物や窒化物を形成し、これを起点として異常放電を引き起こし、パーティクルを発生させ、形成された薄膜の歩留まりが低下するため、スパッタリングターゲット中のシリコンの含有量を200ppm以下に調整することが好ましい。
【0035】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットでは、(条件1)又は(条件2)における前記スパッタリングターゲットのスパッタ面内方向及びターゲット厚さ方向の組成が、いずれも基準となる組成に対して差が±3%以内であり、±2%以下であることが好ましく、±1%以下であることがより好ましい。ここで基準となる組成は(条件1)又は(条件2)に従って測定した総合計18箇所の組成の平均値である。基準となる組成に対して差が±3%を超えると、スパッタリングターゲットの成膜時にスパッタレートが異なることがあり、圧電素子の圧電膜などを形成したときに、基板毎に圧電膜の圧電特性が異なり、また、同一基板でも圧電膜の箇所によって組成が異なることにより圧電特性が異なることが生じる場合がある。このため、圧電素子の歩留り悪化を抑制するために、スパッタリングターゲットのスパッタ面内方向及びターゲット厚さ方向の組成を基準となる組成に対して差が±3%以内に制御することが好ましい。面内方向及び厚さ方向において均一な組成を有していると、圧電素子などに用いる薄膜を形成したときに組成ずれによる圧電応答性などの特性の変化による歩留りの低下を抑制することができる。
【0036】
(条件1)
スパッタ面内方向:前記スパッタリングターゲットが、中心O、半径rの円板状ターゲットであり、かつ、組成分析の測定箇所を、中心Oを交点として直交する仮想十字線上であって、中心Oの1箇所、中心Oから0.45r離れた合計4箇所、及び、中心Oから0.9r離れた合計4箇所、の総合計9箇所とする。
ターゲット厚さ方向:仮想十字線のうち、いずれか一つの線を通る断面を形成し、該断面が縦t(すなわちターゲットの厚さがt)、横2rの長方形であり、かつ、組成分析の測定箇所を、中心Oを通る垂直横断線上の中心X及び中心Xから上下に0.45t離れた合計3箇所(a地点、X地点、b地点という。)、前記断面上であってa地点から左右の側辺に向って0.9r離れた合計2箇所、X地点から左右の側辺に向って0.9r離れた合計2箇所、及び、b地点から左右の側辺に向って0.9r離れた合計2箇所、の総合計9箇所を測定地点とする。
(条件2)
スパッタ面内方向:前記スパッタリングターゲットが、縦の長さがL1であり、横の長さがL2である長方形(但し、L1とL2とが等しい正方形を含む。或いは、長方形には長さJ、周長Kの円筒形の側面を展開した長方形が含まれ、この形態において、L2が長さJに対応し、L1が周長Kに対応し、長さJと周長KにはJ>K、J=K又はJ<Kの関係が成立する。)であり、かつ、組成分析の測定箇所を、重心Oを交点として直交する仮想十字線であって、仮想十字線が長方形の辺に直交するとき、重心Oの1箇所、仮想十字線上であって重心Oから縦方向に0.25L1の距離を離れた合計2箇所、重心Oから横方向に0.25L2の距離を離れた合計2箇所、重心Oから縦方向に0.45L1の距離を離れた合計2箇所、及び、重心Oから横方向に0.45L2の距離を離れた合計2箇所、の総合計9箇所とする。
ターゲット厚さ方向:仮想十字線のうち、縦L1と横L2のいずれか一方の辺と平行な線を通る断面を形成し、一方の辺が横L2の場合、該断面が縦t(すなわち前記ターゲットの厚さがt)、横L2の長方形であり、かつ、組成分析の測定箇所を、重心Oを通る垂直横断線上の中心X及び中心Xから上下に0.45t離れた合計3箇所(a地点、X地点、b地点という。)、前記断面上であってa地点から左右の側辺に向って0.45L2離れた合計2箇所、X地点から左右の側辺に向って0.45L2離れた合計2箇所、及び、b地点から左右の側辺に向って0.45L2離れた合計2箇所、の総合計9箇所を測定地点とする。
【0037】
図1は、円板状ターゲットのスパッタ面内方向における組成分析の測定箇所(以降、省略して、測定箇所ともいう。)を示す概略図であり、図1を参照して(条件1)のスパッタリングターゲットのスパッタ面内方向における測定箇所について説明する。円板状ターゲットである場合、半径は25~225mmであることが好ましく、50~200mmであることがより好ましい。ターゲットの厚さは、1~30mmであることが好ましく、3~26mmであることがより好ましい。本実施形態では、大型のターゲットについてより効果が見込める。
【0038】
図1において、スパッタリングターゲット200は、中心O、半径rの円板状ターゲットである。測定箇所は、中心Oを交点として直交する仮想十字線(L)上であって、中心Oの1箇所(S1)、中心Oから0.45r離れた合計4箇所(S3、S5、S6及びS8)、及び、中心Oから0.9r離れた合計4箇所(S2、S4、S7及びS9)、の総合計9箇所とする。
【0039】
図2は、図1のB‐B断面で示される円板状ターゲットのターゲット厚さ方向における組成分析の測定箇所を示す概略図であり、図2を参照して(条件1)のスパッタリングターゲットのターゲット厚さ方向における測定箇所について説明する。
【0040】
図2において図1のB-B断面は縦t(すなわちターゲットの厚さがt)、横2rの長方形である。そして、測定箇所を、中心Oを通る垂直横断線上の中心X(C1)及び中心Xから上下に0.45t離れた合計3箇所(a地点(C4)、X地点(C1)、b地点(C5)という。)、前記断面上であってa地点から左右の側辺に向って0.9r離れた合計2箇所(C6,C7)、X地点から左右の側辺に向って0.9r離れた合計2箇所(C2,C3)、及び、b地点から左右の側辺に向って0.9r離れた合計2箇所(C8,C9)、の総合計9箇所を測定地点とする。
【0041】
図3は、正方形の板状ターゲットのスパッタ面内方向における組成分析の測定箇所を示す概略図であり、図3を参照して(条件2)のスパッタリングターゲットのスパッタ面内方向における測定箇所について説明する。長方形又は正方形のターゲットである場合、縦の長さ及び横の長さは50~450mmであることが好ましく、100~400mmであることがより好ましい。ターゲットの厚さは、1~30mmであることが好ましく、3~26mmであることがより好ましい。本実施形態では、大型のターゲットについてより効果が見込める。
【0042】
スパッタリングターゲット300は縦の長さがL1であり、横の長さがL2である長方形(但し、L1とL2とが等しい正方形を含む。)のターゲットであり、図3ではスパッタリングターゲット300がL1=L2である形態を示している。測定箇所は、重心Oを交点として直交する仮想十字線(Q)であって、仮想十字線が長方形(又は正方形)の辺に直交するとき、重心Oの1箇所(P1)、仮想十字線上であって重心Oから縦方向に0.25L1の距離を離れた合計2箇所(P6,P8)、重心Oから横方向に0.25L2の距離を離れた合計2箇所(P3,P5)、重心Oから縦方向に0.45L1の距離を離れた合計2箇所(P7,P9)、及び、重心Oから横方向に0.45L2の距離を離れた合計2箇所(P2,P4)、の総合計9箇所とする。なお、スパッタリングターゲットが長方形の場合、辺の長さに関係なくL1、L2を適宜選択できる。
【0043】
図4は、図3のC‐C断面で示される正方形の板状ターゲットのターゲット厚さ方向における組成分析の測定箇所を示す概略図であり、図4を参照して(条件2)のスパッタリングターゲットのターゲット厚さ方向における測定箇所について説明する。
【0044】
図4において図3のC‐C断面は横辺と平行な線を通る断面を形成し、該断面が縦t(すなわち前記ターゲットの厚さがt)、横L2の長方形であり、かつ、測定箇所を、重心Oを通る垂直横断線上の中心X及び中心Xから上下に0.45t離れた合計3箇所(a地点(D4)、X地点(D1)、b地点(D5)という。)、前記断面上であってa地点から左右の側辺に向って0.45L2離れた合計2箇所(D6、D7)、X地点から左右の側辺に向って0.45L2離れた合計2箇所(D2、D3)、及び、b地点から左右の側辺に向って0.45L2離れた合計2箇所(D8、D9)、の総合計9箇所を測定地点とする。
【0045】
(円筒形状のスパッタリングターゲット)
図5は円筒形状のターゲットの測定箇所を説明するための概念図である。スパッタリングターゲットが円筒形状の場合は、円筒の側面がスパッタ面であり、展開図は長方形又は正方形となることから、(条件2)について図3及び図4の場合と同様に考えることができる。図5においてスパッタリングターゲット400が、高さ(長さ)J、胴の周長がKの円筒形状の場合、E‐E断面と、当該断面が両端になるようにD-D展開面とを考える。まず、ターゲット厚さ方向の組成分析の測定箇所は、E-E断面において、図4と同様に考える。すなわち、円筒材の高さJが図4のL2に対応し、円筒材の厚さが図4の厚さtに対応すると考えて、測定箇所とする。また、スパッタ面内方向の測定箇所は、D-D展開面において、図3と同様に考える。すなわち、円筒材の高さJが図3のL2に対応し、円筒材の胴の周長Kが図3のL1に対応すると考えて、測定箇所とする。長さJと周長KにはJ>K、J=K又はJ<Kの関係が成立する。円筒形状のターゲットである場合、円筒の胴周の長さは100~350mmであることが好ましく、150~300mmであることがより好ましい。円筒の長さは300~3000mmであることが好ましく、500~2000mmであることがより好ましい。ターゲットの厚さは、1~30mmであることが好ましく、3~26mmであることがより好ましい。本実施形態では、大型のターゲットについてより効果が見込める。
【0046】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットは、アルミニウム母相中に、アルミニウムと希土類元素とを含む材料、アルミニウムとチタン族元素とを含む材料及びアルミニウムと希土類元素とチタン族元素とを含む材料の少なくともいずれか1種が存在している組織を有するか、又は、アルミニウム母相中に、少なくとも、金属種として希土類元素及び不可避不純物のみを含む相、金属種としてチタン族元素及び不可避不純物のみを含む相、及び金属種として希土類元素、チタン族元素及び不可避不純物のみを含む相を、いずれか一種を含む複合相で構成されている組織を有することが好ましい。導電性を向上させたスパッタリングターゲットであって、例えば、DCスパッタリング装置を用いて成膜するときの生産性を向上させるスパッタリングターゲットを提供することである。
【0047】
次に、本実施形態について、スパッタリングターゲットの具体的な微細組織について説明する。スパッタリングターゲットの具体的な微細組織は、例えば、第一の組織~第五の組織とそれらの変形例に分類される。ここで、アルミニウム母相を有する形態は、第二の組織と、第五の組織と、それらの変形例であり、特に、第二の組織とその変形例である第二の組織‐2、及び、第五の組織とその変形例である第五の組織‐2である。
【0048】
[第一の組織]
本実施形態に係るスパッタリングターゲットは、アルミニウムと希土類元素(以降、REとも表記する。)とを含む材料、アルミニウムとチタン族元素(以降、TIとも表記する。)とを含む材料及びアルミニウムと希土類元素とチタン族元素とを含む材料の少なくともいずれか1種で構成されている第一の組織を有する。すなわち、第一の組織には、AlとREを含む材料A、AlとTIを含む材料B又はAlとREとTIを含む材料Cが存在する形態、及び、材料Aと材料Bの共存、材料Aと材料Cの共存、材料Bと材料Cの共存又は材料Aと材料Bと材料Cの共存の形態の7通りの材料の組み合わせがある。
【0049】
本実施形態において、「材料」という用語は、スパッタリングターゲットを構成する材質を意味し、例えば、合金又は窒化物が含まれる。さらに合金には、例えば、固溶体、共晶、金属間化合物が含まれる。なお、窒化物が金属様であると、合金に含むこととしてもよい。
【0050】
[第二の組織]
本実施形態に係るスパッタリングターゲットは、アルミニウム母相中に、アルミニウムと希土類元素とを含む材料、アルミニウムとチタン族元素とを含む材料及びアルミニウムと希土類元素とチタン族元素とを含む材料の少なくともいずれか1種が存在している第二の組織を有する。すなわち、第二の組織には、アルミニウム母相中に、第一の組織で挙げた7通りの材料の組み合わせが存在している。すなわち、第二の組織には、アルミニウム母相中に、材料A、材料B又は材料Cが存在する形態、及び、アルミニウム母相中に、材料Aと材料Bの共存、材料Aと材料Cの共存、材料Bと材料Cの共存又は材料Aと材料Bと材料Cの共存がみられる形態の組み合わせがある。
【0051】
本実施形態において、「アルミニウム母相」という用語は、アルミニウムマトリックスともいうことができる。図6では、第二の組織を例にして、アルミニウム母相の概念を説明している。スパッタリングターゲット100において、その微細構造は、アルミニウム母相中に、アルミニウムと希土類元素とを含む材料、具体的には、Al-RE合金が存在している。すなわち、複数のAl-RE合金粒子1をAl母相3がつなぎあわせている。Al-RE合金粒子1は、Al-RE合金の結晶粒2の集合体である。Al-RE合金の結晶粒2aと隣り合うAl-RE合金の結晶粒2bとの境界は、粒界である。Al母相3は、アルミニウム結晶粒4の集合体である。アルミニウム結晶粒4aと隣り合うアルミニウム結晶粒4bとの境界は、粒界である。このように本実施形態において、「母相」という用語は、複数の金属粒子若しくは合金粒子若しくは窒化物粒子をつなぎ合わせている相を意味し、つなぎ合わせている相自体も結晶粒の集合体である概念である。一般的に、金属間化合物又は窒化物は、金属の特性である電気伝導性や塑性加工性(展延性)が乏しいという特徴がある。スパッタリングターゲットのAl-RE合金が金属間化合物のみ若しくは窒化物のみ若しくは金属間化合物と窒化物で構成された場合、スパッタリングターゲットの電気伝導性が低下する傾向がある。しかし、アルミニウム(母)相が存在することでスパッタリングターゲット全体としての電気伝導性の低下を防ぐことができる。また、スパッタリングターゲットのAl-RE合金が金属間化合物のみ若しくは窒化物のみ若しくは金属間化合物と窒化物で構成された場合、スパッタリングターゲットは非常に脆くなる傾向がある。しかし、アルミニウム(母)相が存在することでターゲットの脆さを緩和することができる。
【0052】
[第三の組織]
本実施形態に係るスパッタリングターゲットは、金属種としてアルミニウム及び不可避不純物のみを含む相と、金属種として希土類元素及び不可避不純物のみを含む相及び金属種としてチタン族元素及び不可避不純物のみを含む相のいずれか一方又は両方と、を含む複合相で構成されている第三の組織を有する。すなわち、第三の組織には、金属種としてアルミニウムを含む相と金属種として希土類元素を含む相とを含む複合相で構成されている形態、金属種としてアルミニウムを含む相と金属種としてチタン族元素を含む相とを含む複合相で構成されている形態、又は金属種としてアルミニウムを含む相と金属種として希土類元素を含む相と金属種としてチタン族元素を含む相とを含む複合相で構成されている形態の3通りの組み合わせがある。
【0053】
不可避不純物としては、例えば、Fe、Niなどがあり、不可避不純物の原子%濃度は、例えば、200ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましい。
【0054】
本実施形態において、「相」という用語は、固相で、同一組成毎に一纏まりにした集合体、例えば、同一組成の粒子の集合体の概念である。
【0055】
本実施形態において、「複合相」という用語は、「相」が2種以上存在していることの概念である。これらの相は種類ごとに組成が互いに異なる。
【0056】
[第四の組織]
本実施形態に係るスパッタリングターゲットは、アルミニウムを含み、かつ、希土類元素及びチタン族元素のいずれか一方又は両方をさらに含む相と、金属種としてアルミニウム及び不可避不純物のみを含む相、金属種として希土類元素及び不可避不純物のみを含む相及び金属種としてチタン族元素及び不可避不純物のみを含む相の少なくともいずれか1つの相と、を含む複合相で構成されている第四の組織を有する。すなわち、第四の組織には、次の21通りの相の組み合わせが存在している。ここで、アルミニウムと希土類元素とを含む相を相D、アルミニウムとチタン族元素とを含む相を相E、アルミニウムと希土類元素とチタン族元素とを含む相を相Fとする。また、金属種としてアルミニウム及び不可避不純物のみを含む相を相G、金属種として希土類元素及び不可避不純物のみを含む相を相H、金属種としてチタン族元素及び不可避不純物のみを含む相を相Iとする。第四の組織は、次の複合相、すなわち、相Dと相G、相Dと相H、相Dと相I、相Dと相Gと相H、相Dと相Gと相I、相Dと相Hと相I、相Dと相Gと相Hと相I、相Eと相G、相Eと相H、相Eと相I、相Eと相Gと相H、相Eと相Gと相I、相Eと相Hと相I、相Eと相Gと相Hと相I、相Fと相G、相Fと相H、相Fと相I、相Fと相Gと相H、相Fと相Gと相I、相Fと相Hと相I、又は相Fと相Gと相Hと相Iで構成されている。
【0057】
[第五の組織]
本実施形態に係るスパッタリングターゲットは、アルミニウム母相中に、少なくとも、金属種として希土類元素及び不可避不純物のみを含む相及び金属種としてチタン族元素及び不可避不純物のみを含む相のいずれか一方又は両方を含む複合相で構成されている第五の組織を有する。第五の組織は、アルミニウム母相中に、次の3通りの相が存在する複合相で構成されている。すなわち、第五の組織は、アルミニウム母相中に相Hが存在する複合相、アルミニウム母相中に相Iが存在する複合相、又は、アルミニウム母相中に相Hと相Iとが存在する複合相で構成されている。
【0058】
本実施形態においても、「アルミニウム母相」という用語は、アルミニウムマトリックスともいうことができる。第五の組織では、スパッタリングターゲットにおいて、その微細構造は、アルミニウム母相中に、相H、相I、又は、相Hと相Iの両方が存在して、複合相をなしている。アルミニウム母相は、アルミニウム結晶粒の集合体であり、アルミニウム結晶粒と隣り合うアルミニウム結晶粒との境界は、粒界である。相Hは、例えば、同一組成の粒子の集合体の概念である。相Iも同様である。相Hと相Iの両方が存在する場合には、アルミニウム母相中に、2つの組成の異なる相が存在していることとなる。
【0059】
[第五の組織の変形例]
本実施形態に係るスパッタリングターゲットは、第五の組織において、前記複合相がさらに金属種としてアルミニウム及び不可避不純物のみを含む相を含んでいる形態を含む。
第五の組織は、アルミニウム母相中に、次の3通りの相が存在する複合相で構成されている。すなわち、この複合相は、アルミニウム母相中に相Hと相Gとが存在する複合相、アルミニウム母相中に相Iと相Gとが存在する複合相、又はアルミニウム母相中に相Hと相Iと相Gとが存在する複合相である。
【0060】
第一の組織~第五の組織及び第五の組織の変形例は、次の形態をさらに包含する。
【0061】
[第一の組織‐2]
本実施形態に係るスパッタリングターゲットが、第一の組織を有し、かつ前記材料が合金である、第一の組織を有し、かつ前記材料が窒化物である、又は第一の組織を有し、かつ前記材料が合金と窒化物の組み合わせである、の形態が例示される。ここで、材料とは、AlとREを含む材料A、AlとTIを含む材料B又はAlとREとTIを含む材料Cが存在する形態、及び、材料Aと材料Bの共存、材料Aと材料Cの共存、材料Bと材料Cの共存又は材料Aと材料Bと材料Cの共存の形態の7通りの材料の組み合わせがある。
【0062】
[第二の組織‐2]
本実施形態に係るスパッタリングターゲットが、第二の組織を有し、かつ前記材料が合金である、第二の組織を有し、かつ前記材料が窒化物である、又は、第二の組織を有し、かつ前記材料が合金と窒化物の組み合わせである、の形態が例示される。ここで、材料とは、[第一の組織]で列挙した7通りの材料の組み合わせである。
【0063】
[第三の組織‐2]
本実施形態に係るスパッタリングターゲットが、第三の組織を有し、かつ前記複合相が金属相の複合である、第三の組織を有し、かつ前記複合相が窒化物相の複合である、又は、第三の組織を有し、かつ前記複合相が金属相と窒化物相との複合である、の形態が例示される。ここで「複合相が金属相の複合である」とは、Al相とRE相とを含む複合相、Al相とTI相とを含む複合相、又はAl相とRE相とTI相とを含む複合相を意味する。「複合相が窒化物相の複合である」とは、AlN相とREN相とを含む複合相、AlN相とTIN相とを含む複合相、又はAlN相とREN相とTIN相とを含む複合相を意味する。また、「複合相が金属相と窒化物相との複合である」とは、例えば、Al相とREN相とを含む複合相、AlN相とRE相とを含む複合相、Al相とAlN相とRE相とを含む複合相、Al相とAlN相とREN相とを含む複合相、Al相とRE相とREN相とを含む複合相、AlN相とRE相とREN相とを含む複合相、Al相とAlN相とRE相とREN相とを含む複合相、Al相とTIN相とを含む複合相、AlN相とTI相とを含む複合相、Al相とAlN相とTI相とを含む複合相、Al相とAlN相とTIN相とを含む複合相、Al相とTI相とTIN相とを含む複合相、AlN相とTI相とTIN相とを含む複合相、Al相とAlN相とTI相とTIN相とを含む複合相、Al相とAlN相とRE相とTI相とを含む複合相、Al相とAlN相とREN相とTI相とを含む複合相、Al相とAlN相とRE相とTIN相とを含む複合相、Al相とAlN相とREN相とTIN相とを含む複合相、Al相とRE相とREN相とTI相とを含む複合相、AlN相とRE相とREN相とTI相とを含む複合相、Al相とRE相とREN相とTIN相とを含む複合相、AlN相とRE相とREN相とTIN相とを含む複合相、Al相とRE相とTI相とTIN相とを含む複合相、AlN相とRE相とTI相とTIN相とを含む複合相、Al相とREN相とTI相とTIN相とを含む複合相、AlN相とREN相とTI相とTIN相とを含む複合相、Al相とAlN相とRE相とREN相とTI相とを含む複合相、Al相とAlN相とRE相とREN相とTIN相とを含む複合相、Al相とAlN相とRE相とTI相とTIN相とを含む複合相、Al相とAlN相とREN相とTI相とTIN相とを含む複合相、Al相とRE相とREN相とTI相とTIN相とを含む複合相、AlN相とRE相とREN相とTI相とTIN相とを含む複合相、又は、Al相とAlN相とRE相とREN相とTI相とTIN相とを含む複合相を意味する。なお、価数の表記は省略した。
【0064】
本実施形態において、「金属相」という用語は、単一金属元素からなる相の概念である。
【0065】
本実施形態において、「窒化物相」という用語は、窒化物からなる相の概念である。
【0066】
[第四の組織‐2]
本実施形態に係るスパッタリングターゲットが、第四の組織を有し、かつ前記複合相が合金相と金属相との複合である、第四の組織を有し、かつ前記複合相が合金相と窒化物相の複合である、第四の組織を有し、かつ前記複合相が窒化物相と金属相の複合である、第四の組織を有し、かつ前記複合相が窒化物相と別の窒化物相の複合である、又は、第四の組織を有し、かつ前記複合相が合金相と金属相と窒化物相との複合である、の形態が例示される。ここで、金属相とは、相G、相H及び相Iがそれぞれ窒化又は酸化されずに金属の状態の相である場合であり、合金相とは、相D、相E及び相Fがそれぞれ窒化又は酸化されずに合金の状態の相である場合であり、窒化物相とは、相G、相H、相I、相D、相E及び相Fがそれぞれ窒化された相である場合である。また、金属相、合金相及び窒化物相は、それぞれターゲット中に1種類存在する場合と、2種類以上存在する場合があり、さらに金属相、合金相及び窒化物相が複数組み合わさって存在する場合がある。これら形態の例としては、例えば、相Dの合金相若しくは相Dの窒化物相の少なくとも1つの相に相Gの金属相、相Gの窒化物相、相Hの金属相、相Hの窒化物相、相Iの金属相、相Iの窒化物相の少なくとも1つを含む形態、相Eの合金相若しくは相Eの窒化物相の少なくとも1つの相に相Gの金属相、相Gの窒化物相、相Hの金属相、相Hの窒化物相、相Iの金属相、相Iの窒化物相の少なくとも1つを含む形態、相Fの合金相若しくは相Fの窒化物相の少なくとも1つの相に相Gの金属相、相Gの窒化物相、相Hの金属相、相Hの窒化物相、相Iの金属相、相Iの窒化物相の少なくとも1つを含む形態がある。
【0067】
本実施形態において、「合金相」という用語は、合金からなる相の概念である。
【0068】
[第五の組織‐2]
本実施形態に係るスパッタリングターゲットが、第五の組織を有し、かつ前記複合相が、アルミニウム母相と、少なくとも1種の金属相との複合である、第五の組織を有し、かつ前記複合相が、アルミニウム母相と、窒化アルミニウム相、希土類元素の窒化物相及びチタン族元素の窒化物相のうち少なくとも1つの窒化物相との複合である、又は、第五の組織を有し、かつ前記複合相が金属相と窒化物相との複合である、の形態が例示される。ここで「少なくとも1種の金属相」とは、相Hのみ、相Iのみ、又は相H及び相Iの両方を意味する。「複合相が、アルミニウム母相と、窒化アルミニウム相、希土類元素の窒化物相及びチタン族元素の窒化物相のうち少なくとも1つの窒化物相との複合である」とは、例えば、Al母相とREN相とを含む複合相、Al母相とTIN相とを含む複合相、Al母相とAlN相とREN相とを含む複合相、Al母相とAlN相とTIN相とを含む複合相、Al母相とREN相とTIN相とを含む複合相、又は、Al母相とAlN相とREN相とTIN相とを含む複合相、を意味する。「複合相が金属相と窒化物相との複合である」とは、例えば、Al母相とRE相とTIN相とを含む複合相、Al母相とREN相とTI相とを含む複合相、Al母相とAlN相とRE相とTI相とを含む複合相、Al母相とAlN相とREN相とTI相とを含む複合相、Al母相とAlN相とRE相とTIN相とを含む複合相、Al母相とRE相とREN相とTI相とを含む複合相、Al母相とRE相とREN相とTIN相とを含む複合相、Al母相とRE相とTI相とTIN相とを含む複合相、Al母相とREN相とTI相とTIN相とを含む複合相、Al母相とAlN相とRE相とREN相とTI相とを含む複合相、Al母相とAlN相とRE相とREN相とTIN相とを含む複合相、Al母相とAlN相とRE相とTI相とTIN相とを含む複合相、Al母相とAlN相とREN相とTI相とTIN相とを含む複合相、Al母相とRE相とREN相とTI相とTIN相とを含む複合相、又は、Al母相とAlN相とRE相とREN相とTI相とTIN相とを含む複合相、を意味する。なお、Nは窒素元素を意味し、例えば「AlN相」は窒化アルミニウム相を意味する。また、窒化物を価数の表記は省略した。
【0069】
第五の組織‐2において、前記複合相がさらに窒化アルミニウム相を含む窒化物相の複合である形態が包含される。すなわち、第五の組織‐2における複合相は、第五の組織において列挙した形態例のそれぞれにおいて、さらにAlN相が追加された複合相である。具体的には、第五の組織‐2のうち、本実施形態として、特に、
(1)「複合相が、アルミニウム母相と、窒化アルミニウム相、希土類元素の窒化物相及びチタン族元素の窒化物相のうち少なくとも1つの窒化物相との複合である」が、Al母相とAlN相とREN相とを含む複合相、Al母相とAlN相とTIN相とを含む複合相、又は、Al母相とAlN相とREN相とTIN相とを含む複合相、である場合と、
(2)「複合相が金属相と窒化物相との複合である」が、Al母相とAlN相とRE相とTI相とを含む複合相、Al母相とAlN相とREN相とTI相とを含む複合相、Al母相とAlN相とRE相とTIN相とを含む複合相、Al母相とAlN相とRE相とREN相とTI相とを含む複合相、Al母相とAlN相とRE相とREN相とTIN相とを含む複合相、Al母相とAlN相とRE相とTI相とTIN相とを含む複合相、Al母相とAlN相とREN相とTI相とTIN相とを含む複合相、又は、Al母相とAlN相とRE相とREN相とTI相とTIN相とを含む複合相、である場合とが包含される。
【0070】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットでは、スパッタリングターゲット中に、アルミニウム、希土類元素及びチタン族元素から選ばれた少なくとも2種の元素からなる金属間化合物が存在していることが好ましい。例えば、第一の組織又は第二の組織において、スパッタリングターゲット中に、このような金属間化合物が存在する。また、第四の組織において合金相が存在する場合には、合金相に金属間化合物が存在する。単体のアルミニウム、単体の希土類元素、単体のチタン族元素の箇所を少なくすることにより組成のバラツキを抑制することができる。また、ターゲットが金属単体の組み合わせから構成されている場合、スパッタの際には単体毎のスパッタレートが適用され、差が顕著に出るため、均質な膜が得られにくいところ、ターゲットに金属間化合物が存在していると金属元素間のスパッタレートの差異が緩和され、得られる膜の組成ムラが小さくなる。
【0071】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットでは、前記スパッタリングターゲット中に、前記金属間化合物が1種、2種、3種又は4種存在していてもよい。例えば、第一の組織、第二の組織又は第四の組織において合金相が存在する場合において、スパッタリングターゲット中に、金属種の種類の数に応じて1種、2種、3種又は4種の金属間化合物が存在する。ターゲットが金属単体の組み合わせから構成されている場合、スパッタの際には単体毎のスパッタレートが適用され、差が顕著に出るため、均質な膜が得られにくいところ、金属間化合物が1種類又は複数種類存在することで、金属元素間のスパッタレートの差異がより緩和され、得られる膜の組成ムラがより小さくなる。
【0072】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットでは、前記スパッタリングターゲット中に、アルミニウム、希土類元素及びチタン族元素から選ばれた少なくとも1種の元素の窒化物が1種類以上存在していてもよい。圧電素子の窒化膜を形成したときに、圧電素子の高温化に対応するとともに高Q値化することができる。例えば、第一の組織~第五の組織において、いずれも、窒素元素を導入することによって、窒化物が存在する。窒化物の種類は、金属種の種類の数に応じて1種、2種、3種又は4種、又はそれ以上の数が存在する。
【0073】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットでは、前記希土類元素は、スカンジウム及びイットリウムのうち、少なくともいずれか一種であることが好ましい。圧電素子の窒化膜を形成したときに、圧電素子の高温化に対応するとともに高Q値化することができる。希土類元素として、スカンジウムのみ、イットリウムのみ、又は、スカンジウムとイットリウムの両方の組み合わせが存在する。希土類元素としてスカンジウムとイットリウムの両方を含むとき、例えば、Al-Sc-Y材料又はAl-Sc-Y相が存在する形態のほか、Al-Sc材料、Al-Y材料及びAl-Sc-Y材料の少なくとも2種の材料が同時に存在する形態、又は、Al-Sc相、Al-Y相及びAl-Sc-Y相の少なくとも2種の相が同時に存在する形態がある。
【0074】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットでは、前記チタン族元素は、チタン、ジルコニウム及びハフニウムのうち、少なくともいずれか一種であることが好ましい。圧電素子の窒化膜を形成したときに、圧電素子の高温化に対応するとともに高Q値化することができる。チタン族元素としては、チタンのみ、ジルコニウムのみ、ハフニウムのみ、チタンとジルコニウム、チタンとハフニウム、ジルコニウムとハフニウム、又は、チタンとジルコニウムとハフニウム、の場合が存在する。チタン族元素として、例えば、チタンとジルコニウムの両方を含むとき、例えば、Al-Ti-Zr材料又はAl-Ti-Zr相が存在する形態のほか、Al-Ti材料、Al-Zr材料及びAl-Ti-Zr材料の少なくとも2種の材料が同時に存在する形態、又は、Al-Ti相、Al-Zr相及びAl-Ti-Zr相の少なくとも2種の相が同時に存在する形態がある。また、チタンとハフニウムの両方を含むとき、例えば、Al-Ti-Hf材料又はAl-Ti-Hf相が存在する形態のほか、Al-Ti材料、Al-Hf材料及びAl-Ti-Hf材料の少なくとも2種の材料が同時に存在する形態、又は、Al-Ti相、Al-Hf相及びAl-Ti-Hf相の少なくとも2種の相が同時に存在する形態がある。また、ジルコニウムとハフニウムの両方を含むとき、例えば、Al-Zr-Hf材料又はAl-Zr-Hf相が存在する形態のほか、Al-Zr材料、Al-Hf材料及びAl-Zr-Hf材料の少なくとも2種の材料が同時に存在する形態、又は、Al-Zr相、Al-Hf相及びAl-Zr-Hf相の少なくとも2種の相が同時に存在する形態がある。チタンとジルコニウムとハフニウムを含むとき、例えば、Al-Ti-Zr‐Hf材料又はAl-Ti-Zr‐Hf相が存在する形態のほか、Al-Ti材料、Al-Zr材料、Al-Hf材料、Al-Ti-Zr材料、Al-Ti-Hf材料、Al-Zr-Hf材料及びAl-Ti-Zr-Hf材料の少なくとも2種の材料が同時に存在する形態、又は、Al-Ti相、Al-Zr相、Al-Hf相、Al-Ti-Zr相、Al-Ti-Hf相、Al-Zr-Hf相及びAl-Ti-Zr-Hf相の少なくとも2種の相が同時に存在する形態、さらに、上記の形態において、AlのほかTi、Zr及びHfのうち2種を含む材料若しくは相がさらに加わった形態、AlのほかTi、Zr及びHfのうち1種を含む材料若しくは相がさらに加わった形態、がある。
【0075】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットは、アルミニウムに含有する希土類元素としてスカンジウム、イットリウムなどが挙げられ、アルミニウムに含有するチタン族元素としてチタン、ジルコニウム、ハフニウムなどが挙げられる。ターゲット中のスカンジウムの含有量は、5~75原子%が好ましい。より好ましくは、10~50原子%である。ターゲット中のイットリウムの含有量は、5~75原子%が好ましい。より好ましくは、10~50原子%である。ターゲット中のチタンの含有量は、5~75原子%が好ましい。より好ましくは、10~50原子%である。ターゲット中のジルコニウムの含有量は、5~75原子%が好ましい。より好ましくは、10~50原子%である。ターゲット中のハフニウムの含有量は、5~75原子%が好ましい。より好ましくは、10~50原子%である。本実施形態に係るスパッタリングターゲットは、アルミニウムとともに、上記各元素が上記含有量を満たすように、少なくとも1種類以上、含有される。
【0076】
アルミニウムに希土類元素、チタン族元素を含有する合金を形成する場合は、まず、前記の組成範囲においてアルミニウム-スカンジウム合金、アルミニウム-イットリウム合金などのアルミニウム-希土類元素合金を形成する。次に、前記の組成範囲においてアルミニウム-チタン合金、アルミニウム-ジルコニウム合金、アルミニウム-ハフニウム合金などのアルミニウム-チタン族元素の合金を形成する。その後、前記アルミニウム-希土類元素の合金と前記アルミニウム-チタン族元素の合金のそれぞれの含有量を調整しながら混合することによりアルミニウム-希土類元素-チタン族元素の合金を形成する。また、前記のように2元合金を混合して3元合金を形成せずに、アルミニウム-希土類元素-チタン族元素の合金を直接形成してもよい。スパッタリングターゲットにおける金属間化合物の形成やスパッタリング時の窒化膜の形成によって高温においても高Q値が得られる圧電膜を形成することができる。
【0077】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットの製造方法について説明する。本実施形態に係るスパッタリングターゲットの製造方法は、(1)アルミニウムと希土類元素とからなる原料、(2)アルミニウムとチタン族元素とからなる原料、又は、(3)アルミニウムと希土類元素とチタン族元素とからなる原料と、を製造する第1工程と、前記第1工程で製造された原料から(1)アルミニウムと希土類元素との合金粉末(アルミニウム-希土類元素)、(2)アルミニウムとチタン族元素との合金粉末(アルミニウム-チタン族元素)、又は、(3)アルミニウムと希土類元素とチタン族元素との合金粉末(アルミニウム-希土類元素-チタン族元素)を製造する第2工程と、前記第2工程で得た粉末から(1)アルミニウム-希土類元素の焼結体、(2)アルミニウム-チタン族元素の焼結体、(3)アルミニウム-希土類元素-チタン族元素の焼結体を得る第3工程と、を有する。また、アルミニウム母相を含むスパッタリングターゲットを製造する場合には、スパッタリングターゲットの製造方法は、主として母相となる予定のアルミニウム原料と、主として母相中に存在する材料又は相となる予定の原料として(1)アルミニウムと希土類元素とからなる原料、(2)アルミニウムとチタン族元素とからなる原料、又は、(3)アルミニウムと希土類元素とチタン族元素とからなる原料と、を製造する第1工程と、前記第1工程で製造された原料から主として母相となる予定のアルミニウム粉末と、主として母相中に存在する材料又は相となる予定の合金粉末として(1)アルミニウムと希土類元素との合金粉末(アルミニウム-希土類元素)、(2)アルミニウムとチタン族元素との合金粉末(アルミニウム-チタン族元素)、又は、(3)アルミニウムと希土類元素とチタン族元素との合金粉末(アルミニウム-希土類元素-チタン族元素)と、を製造する第2工程と、前記第2工程で得た粉末から(1)アルミニウムとアルミニウム-希土類元素の焼結体、(2)アルミニウムとアルミニウム-チタン族元素の焼結体、又は、(3)アルミニウムとアルミニウム-希土類元素-チタン族元素の焼結体、を得る第3工程と、を有する。
【0078】
[第1工程]
この工程は、第2工程でアルミニウム-希土類元素の合金粉末、アルミニウム-チタン族元素の合金粉末若しくはアルミニウム-希土類元素-チタン族元素の合金粉末を製造するときに使用する原料を作製する工程である。第1工程において作製する、粉末を製造するための原料(以降、単に「原料」ともいう。)は、(1A)出発原材料として合金ターゲットの構成元素の単金属をそれぞれ準備し、これを混合して原料とする形態、(2A)出発原材料として合金ターゲットと同じ組成の合金を準備してこれを原料とする形態、又は(3A)出発原材料として合金ターゲットと構成元素は同じ又は一部欠落していて、組成比が所望の組成比とはずれている合金と、所望の組成に調整するために配合される単金属とを準備してこれらを混合して原料とする形態、が例示される。出発原材料として、アルミニウムと希土類元素、アルミニウムとチタン族元素、又はアルミニウムと希土類元素とチタン族元素のいずれかを溶解装置に投入し、溶解して、アルミニウム-希土類元素の合金の原料、アルミニウム-チタン族元素の合金の原料、又は、アルミニウム-希土類元素-チタン族元素の合金の原料を作製する。溶解した後に、アルミニウム-希土類元素の合金の原料、アルミニウム-チタン族元素の合金の原料、又はアルミニウム-希土類元素-チタン族元素の合金の原料の中に不純物が多量に混入しないように溶解装置に使用する装置や容器の材質も不純物が少ないものを用いることが好ましい。溶解法としては、以下の溶解温度に対応可能な方法を選択する。溶解温度としては、1300~1800℃でアルミニウム-希土類元素の合金、1300~1800℃でアルミニウム-チタン族元素の合金、又は1300~1800℃でアルミニウム-希土類元素-チタン族元素の合金を加熱する。溶解装置内の雰囲気としては真空度が1×10‐2Pa以下の真空雰囲気、水素ガスを4vol%以下含有する窒素ガス雰囲気あるいは水素ガスを4vol%以下含有する不活性ガス雰囲気などとする。アルミニウム母相をターゲット中に含ませる場合などにおいて、アルミニウムの原料を製造する場合には、700~900℃でアルミニウムを加熱し、溶解装置に投入して他の原料と同様に製造する。
【0079】
合金粉末の原料の形態は、前記(1A)(2A)(3A)で記載した3つの原料形態のほか、合金粒又は合金塊であっても良く、或いは粉末、粒、塊の組合せであってもよい。粉末、粒、塊は、粒径の違いを表現したものであるが、いずれであっても、第2工程による粉末製造装置で使用できれば特に粒径の制限はない。具体的には、第2工程の粉末製造装置内で原料を溶解するため、粉末製造装置に供給可能な原料の大きさであれば特に制限はない。
【0080】
[第2工程]
この工程は、アルミニウム-希土類元素の合金粉末、アルミニウム-チタン族元素の合金粉末、又はアルミニウム-希土類元素-チタン族元素の合金粉末を製造する工程である。第1工程で製造したアルミニウム-希土類元素の合金の原料、アルミニウム-チタン族元素の合金の原料、又は、アルミニウム-希土類元素-チタン族元素の合金の原料のうち少なくとも一種の原料を粉末製造装置に投入し、溶解して溶湯とした後、溶湯にガスや水などを吹き付け、溶湯を飛散させて急冷凝固して粉末を作製する。溶解した後にアルミニウム-希土類元素の合金の粉末、アルミニウム-チタン族元素の合金の粉末、又はアルミニウム-希土類元素-チタン族元素の合金の粉末の中に不純物が多量に混入しないように粉末製造装置に使用する装置や容器の材質も不純物が少ないものを用いることが好ましい。溶解法としては、以下の溶解温度に対応可能な方法を選択する。溶解温度としては、1300~1800℃でアルミニウム-希土類元素の合金の原料、1300~1800℃でアルミニウム-チタン族元素の合金の原料、又は、1300~1800℃でアルミニウム-希土類元素-チタン族元素の合金の原料を加熱する。粉末製造装置内の雰囲気としては真空度が1×10‐2Pa以下の真空雰囲気、水素ガスを4vol%以下含有する窒素ガス雰囲気あるいは水素ガスを4vol%以下含有する不活性ガス雰囲気などで行う。吹き付けを行うときの溶湯の温度としては、「アルミニウム-希土類元素の合金、アルミニウム-チタン族元素の合金、又は、アルミニウム-希土類元素-チタン族元素の合金のそれぞれの融点+100℃以上」で行うことが好ましく、「アルミニウム-希土類元素の合金、アルミニウム-チタン族元素の合金、又はアルミニウム-希土類元素-チタン族元素の合金のそれぞれの融点+150~250℃」で行うことがより好ましい。温度が高すぎると造粒中の冷却が十分に行われず、粉末となりにくく、生産の効率が良くないためである。また、温度が低すぎると、噴射時のノズル詰まりが発生しやすくなる問題が生じやすい。吹き付けを行うときのガスは窒素、アルゴンなどを用いるがこれに限定されない。合金粉末の場合、急冷凝固することによって合金粉末の金属間化合物の析出が溶解法のときと比較して抑えられ、海島構造の島に相当する析出粒子径が小さくなることがあり、合金粉体の段階において既にその状態が得られ、焼結した後やターゲットを形成したときにおいても維持される。急冷された粉末は、第1工程で準備したアルミニウムと希土類元素、アルミニウムとチタン族元素、又は、アルミニウムと希土類元素とチタン族元素の元素比となる。アルミニウム母相をターゲット中に含ませる場合などにおいて、アルミニウムの粉末を製造する場合には、700~900℃でアルミニウムを加熱し、溶解装置に投入して他の粉末と同様に製造する。
【0081】
[第3工程]
この工程は、第2工程で得た粉末からターゲットとなる焼結体を得る工程である。焼結法としては、ホットプレス法(以下、HPともいう。)、放電プラズマ焼結法(以下、SPSともいう。)、又は熱間等方圧焼結法(以下、HIPともいう)によって焼結を行う。第2工程で得たアルミニウム-希土類元素の合金粉末、アルミニウム-チタン族元素の合金粉末、又はアルミニウム-希土類元素-チタン族元素の合金粉末を用いて焼結する。焼結するときに用いる粉末は以下のケースである。
(1B)アルミニウム-希土類元素の合金の場合はアルミニウム-希土類元素の合金粉末を用いる。
(2B)アルミニウム-チタン族元素の合金の場合はアルミニウム-チタン族元素の合金粉末を用いる。
(3B)アルミニウム-希土類元素-チタン族元素の合金の場合は、例えば、アルミニウム-希土類元素-チタン族元素の合金粉末を用いるか、アルミニウム-希土類元素の合金粉末とアルミニウム-チタン族元素の合金粉末の2種類を混合した混合粉末を用いる。
前記(1B)~(3B)で示したいずれかの粉末を型に詰め、10~30MPaの予備加圧で粉末を型とパンチ等で密閉してから焼結することが好ましい。このとき、焼結温度を700~1300℃とすることが好ましく、加圧力は、40~196MPaとすることが好ましい。焼結装置内の雰囲気としては真空度が1×10‐2Pa以下の真空雰囲気、水素ガスを4vol%以下含有する窒素ガス雰囲気あるいは水素ガスを4vol%以下含有する不活性ガス雰囲気などで行う。水素ガスは0.1vol%以上は含まれていることが好ましい。保持時間(焼結温度の最高温度の保持時間)は、2時間以下が好ましく、より好ましくは1時間以下、さらに好ましくは保持時間なしが好ましい。アルミニウム母相をターゲット中に含ませる場合などにおいて、アルミニウム粉末を上記(1B)、(2B)又は(3B)の合金粉末に混合させる場合には、焼結温度を500~600℃とする以外は同様の条件で焼結することが好ましい。
【0082】
少なくとも第1工程から第3工程を経ることにより、スパッタリングターゲットの面内方向及び厚さ方向の組成ずれを抑え、薄膜形成時に影響を及ぼす不純物の含有量が少ないスパッタリングターゲットを作製することができる。さらに、塩素の含有量の少ないスパッタリングターゲットを作製することができる。
【0083】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットの製造方法では、次のような変形例も包含される。すなわち第1工程において、主として母相となる予定のアルミニウム原料と、主として母相中に存在する材料又は相となる予定の原料として(1)希土類元素原料、(2)チタン族元素原料、又は、(3)希土類元素とチタン族元素とからなる原料と、を製造してもよい。第2工程において、前記第1工程で製造された原料をそれぞれアトマイズ粉末としてもよい。第3工程では、第1工程で得られた原料又は第2工程で得られた粉末から(1)アルミニウムと希土類元素の焼結体、(2)アルミニウムとチタン族元素の焼結体、又は、(3)アルミニウムと希土類元素-チタン族元素の焼結体、を得る。
【0084】
本実施形態において、(条件1)及び(条件2)における組成分析の方法は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP)、蛍光X線分析法(XRF)などがあるが、EDSによる組成分析が好ましい。
【実施例
【0085】
以下、実施例を示しながら本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されない。
【0086】
(実施例1)
純度4NのAl原料と純度3NのSc原料を粉末製造装置に投入し、次に、粉末製造装置内を5×10-3Pa以下の真空雰囲気に調整して、溶解温度1700℃でAl原料とSc原料を溶解して溶湯とし、次に、アルゴンガスを溶湯に吹き付け、溶湯を飛散させて急冷凝固して、粒子径が150μm以下のAl-40原子%Sc粉末(この場合、Alは60原子%Alであるが、Alの原子百分率の記載を省略している。以降も同様。)を作製した。その後、Al-40原子%Sc粉末を放電プラズマ焼結(以降、SPS焼結ともいう。)用のカーボン型に充填した。次に10MPaの予備加圧で混合粉末を型とパンチ等で密閉し、混合粉末を充填した型をSPS装置(型番:SPS-825、SPSシンテックス社製)に設置した。そして焼結条件として、焼結温度を550℃、加圧力30MPa、焼結装置内の雰囲気を8×10-3Pa以下の真空雰囲気、焼結温度の最高温度の保持時間を0時間、の条件で焼結を実施した。Al-40原子%Sc焼結体を研削加工機、旋盤等を用いて加工し、実施例1のΦ50.8mm×5mmtのAl-40原子%Scターゲットを作製した。次に、Al-40原子%Scターゲットの断面を、電子顕微鏡を用いて倍率500倍で観察した。観察した電子顕微鏡の画像を図7に示す。図7の画像の横辺の長さは250μmである。図7の結果、コントラストに濃淡が小さく、金属間化合物が微細であるとともに均一に分散されていることが確認できた。また、図7の電子顕微鏡の画像の結果、ターゲットは、AlScとAlScの二種類の金属間化合物からなり、第一の組織を有していた。次に、実施例1のAl-40原子%Scターゲットについて、質量分析装置(型番:Element GD、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて塩素の含有量を測定した。塩素の含有量は5.6ppmであった。次に、実施例1のAl-40原子%Scターゲットを用い、スパッタ装置(型番MPS-6000-C4、ULVAC社製)を用いてΦ76.2mm×5mmtの単結晶Si基板上に成膜した。成膜条件は、スパッタ装置内を真空引きして成膜前到達真空度が5×10-5Pa以下に到達後、Arガスを用いてスパッタ装置内の圧力を0.13Paに調整した。その後、単結晶Si基板を300℃に加熱しながらAl-40原子%Scターゲットのスパッタ電力を150Wに調整し、単結晶Si基板上にAl-40原子%Sc膜を厚さ1μmで形成した。このときAl-40原子%Scターゲットのスパッタリングの状況を観察したが、電圧は安定しており、異常放電などは確認されずに成膜することができた。
【0087】
(実施例2)
実施例1において、Al-40原子%Sc粉末の代わりに粒子径が150μm以下のAl-30原子%Sc粉末を製造し、実施例1のAl-40原子%Scターゲットの代わりにΦ50.8mm×5mmtのAl-30原子%Scターゲットを製造した以外は、同様にして、実施例2のAl-30原子%Scターゲットを得た。次に、実施例2のAl-30原子%Scターゲットについて実施例1と同様にして塩素の含有量を測定した。塩素の含有量は3.7ppmであった。ターゲットは、AlScとAlScの二種類の金属間化合物からなり、第一の組織を有していた。次に、実施例1のAl-40原子%Scターゲットの代わりに実施例2のAl-30原子%Scターゲットを用いた以外は実施例1と同様にして、単結晶Si基板上にAl-30原子%Sc膜を厚さ1μmで形成した。このときAl-30原子%Scターゲットのスパッタリングの状況を観察したが、電圧は安定しており、異常放電などは確認されずに成膜することができた。
【0088】
参考例3)
実施例1において、純度4NのAl原料と純度3NのSc原料を用いる代わりに純度4NのAl原料と純度3NのTi原料を用いた以外は同様にして、粒子径が150μm以下のAl-40原子%Ti粉末を作製した。次に実施例1のAl-40原子%Scターゲットの代わりにΦ50.8mm×5mmtのAl-40原子%Tiターゲットを製造した以外は、実施例1と同様にして、参考例3のAl-40原子%Tiターゲットを得た。次に、参考例3のAl-40原子%Tiターゲットについて実施例1と同様にして塩素の含有量を測定した。塩素の含有量は4.0ppmであった。ターゲットは、AlTiとAlTiの二種類の金属間化合物からなり、第一の組織を有していた。次に、実施例1のAl-40原子%Scターゲットの代わりに参考例3のAl-40原子%Tiターゲットを用いた以外は実施例1と同様にして、単結晶Si基板上にAl-40原子%Ti膜を厚さ1μmで形成した。このときAl-40原子%Tiターゲットのスパッタリングの状況を観察したが、電圧は安定しており、異常放電などは確認されずに成膜することができた。
【0089】
(比較例1)
粒子径が150μm以下、純度3Nの純Al粉末と粒子径が150μm以下、純度2NのSc粉末とを用いてAl-40原子%Scとなるように各粉末の量を調整の上、混合を行った。その後、Al-40原子%Sc混合粉末をSPS焼結用のカーボン型に充填した。次に10MPaの予備加圧で混合粉末を型とパンチ等で密閉し、混合粉末を充填した型をSPS装置(型番:SPS-825、SPSシンテックス社製)に設置した。そして焼結条件として、焼結温度を550℃、加圧力30MPa、焼結装置内の雰囲気を8×10-3Pa以下の真空雰囲気、焼結温度の最高温度の保持時間を0時間、の条件で焼結を実施した。焼結後のAl-40原子%Sc焼結体を研削加工機、旋盤等を用いて加工し、比較例1のΦ50.8mm×5mmtのAl-40原子%Scターゲットを作製した。次に、比較例1のAl-40原子%Scターゲットについて実施例1と同様に塩素の含有量を測定した。塩素の含有量は146ppmであった。ターゲットは、AlScとAlScの二種類の金属間化合物からなり、第一の組織を有していた。次に、実施例1のAl-40原子%Scターゲットの代わりに比較例1のAl-40原子%Scターゲットを用いた以外は実施例1と同様にして、単結晶Si基板上にAl-40原子%Sc膜を厚さ1μmで形成した。このとき比較例1のAl-40原子%Scターゲットのスパッタリングの状況を観察したが、電圧が安定せず、異常放電が確認された。実施例1と比較して異常放電が発生した原因としては、スパッタリングターゲット中の塩素が成膜時における加熱によって放出されたことが考えられる。
【0090】
(比較例2)
比較例1において、Al-40原子%Scの代わりにAl-30原子%Scとなるように各粉末の量を調整した以外は同様にして、比較例1のAl-40原子%Scターゲットの代わりに、比較例2のΦ50.8mm×5mmtのAl-30原子%Scターゲットを作製した。次に、比較例2のAl-30原子%Scターゲットについて実施例1と同様に塩素の含有量を測定した。塩素の含有量は180ppmであった。ターゲットは、AlScとAlScの二種類の金属間化合物からなり、第一の組織を有していた。次に、実施例1のAl-40原子%Scターゲットの代わりに比較例2のAl-30原子%Scターゲットを用いた以外は実施例1と同様にして、単結晶Si基板上にAl-30原子%Sc膜を厚さ1μmで形成した。このとき比較例2のAl-30原子%Scターゲットのスパッタリングの状況を観察したが、電圧が安定せず、異常放電が確認された。実施例2と比較して異常放電が発生した原因としては、スパッタリングターゲット中の塩素が成膜時における加熱によって放出されたことが考えられる。
【0091】
(比較例3)
比較例1において、粒子径が150μm以下、純度3Nの純Al粉末と粒子径が150μm以下、純度2NのSc粉末とを用いてAl-40原子%Scとなるように各粉末の量を調整する代わりに、粒子径が150μm以下、純度3Nの純Al粉末と粒子径が150μm以下、純度2NのTi粉末とを用いてAl-40原子%Tiとなるように各粉末の量を調整した以外は同様にして、比較例3のΦ50.8mm×5mmtのAl-40原子%Tiターゲットを作製した。次に、比較例3のAl-40原子%Tiターゲットについて実施例1と同様に塩素の含有量を測定した。塩素の含有量は216ppmであった。ターゲットは、AlTiとAlTiの二種類の金属間化合物からなり、第一の組織を有していた。次に、実施例1のAl-40原子%Scターゲットの代わりに比較例3のAl-40原子%Tiターゲットを用いた以外は実施例1と同様にして、単結晶Si基板上にAl-40原子%Ti膜を厚さ1μmで形成した。このとき比較例3のAl-40原子%Tiターゲットのスパッタリングの状況を観察したが、電圧が安定せず、異常放電が確認された。参考例3と比較して異常放電が発生した原因としては、スパッタリングターゲット中の塩素が成膜時における加熱によって放出されたことが考えられる。
【0092】
(比較例4)
純度4NのAl原料と純度3NのSc原料をAl-40原子%Scとなるように秤量し、アーク溶解装置(ULVAC社製 AME-300型)にて溶解し、60mm角×6mm程度の溶解した板を得た。次にこの板を機械加工してΦ50.8mm×5mmtのスパッタリングターゲットを作製しようと試みたが、研削加工では板の外周に欠けが発生し、ワイヤー放電加工による切断加工では板にクラックが発生し、スパッタリングターゲットを作製することができなかった。クラックが発生した原因を確認するために、Al-40原子%Scターゲットの断面を、電子顕微鏡を用いて倍率500倍で観察した。観察した電子顕微鏡の画像を図8に示す。図8の画像の横辺の長さは250μmである。図8の結果、上端の不連続な表面がターゲット加工面であるが、金属間化合物の内部に割れが確認できた。そのため、粗大化した金属間化合物の粒子を起点にクラックが入りやすく、加工性が悪くなったものと考えられる。
【0093】
表1に実施例1、2、参考例3及び比較例1~3について、Alに対して添加された元素の種類、添加元素の添加量及び塩素の含有量を示した。実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、参考例3と比較例3をそれぞれ比較することによって、上記の通り、Alに対する添加元素の種類及び添加量が同じであっても、塩素の含有量が所定値(100ppm以下)でなければ、成膜時において異常放電が発生することがわかった。
【0094】
比較例4では、溶解法のみで板を作製したので、得られた板は金属間化合物が粗大化した組織を有していた。そのため金属間化合物は脆くなり、この脆い金属間化合物を起点に加工途中の欠けやクラックが発生したものと考えられる。それに対し、実施例1では溶解、急冷凝固による造粒を行うことによって金属間化合物が粗大化した組織になることが抑制され、その後、焼結というプロセスを経てスパッタリングターゲットが作製されるために微細な組織が維持され、欠けやクラックが抑止され、加工性が向上しているものと考えられる。実施例1のスパッタリングターゲットでは、微細な組織が維持されることによってターゲット内の場所による組成ズレが小さい。組成ズレを確認するため、(条件1)におけるスパッタリングターゲットのスパッタ面内方向及びターゲット厚さ方向の組成を確認した。組成はEDS(日本電子製)を用いて測定した。その結果、いずれも基準となる組成に対して差が±1%以内であり、組成ズレが小さいことが確認できた。それに対して比較例4では、測定個所によっては、基準となる組成に対して差が±3%以内に入らない箇所があり、実施例1と比較して、組成ズレが大きいことが分かった。
【0095】
【表1】
【0096】
実施例1において、質量分析装置(型番:Element GD、Thermo Fisher Scientific社製)を用いてフッ素の含有量を測定した。フッ素の含有量は5.5ppmであった。また、比較例1において、同様にフッ素の含有量を測定した。フッ素の含有量は130ppmであった。
【0097】
実施例1において、質量分析装置(型番:ON836、LECO社製)を用いて酸素の含有量を測定した。酸素の含有量は424ppmであった。また、比較例1において、同様に酸素の含有量を測定した。酸素の含有量は2993ppmであった。
【0098】
(実施例4)
粒子径が150μm以下、純度4Nの純Al粉末と粒子径が150μm以下、純度3NのScN粉末とを用いてAl-10mol%ScNとなるように各粉末の量を調整の上、混合を行った。その後、Al-10mol%ScN混合粉末を放電プラズマ焼結(以降、SPS焼結ともいう。)用のカーボン型に充填した。次に10MPaの予備加圧で混合粉末を型とパンチ等で密閉し、混合粉末を充填した型をSPS装置(型番:SPS-825、SPSシンテックス社製)に設置した。そして焼結条件として、焼結温度を550℃、加圧力30MPa、焼結装置内の雰囲気を8×10-3Pa以下の真空雰囲気、焼結温度の最高温度の保持時間を0時間、の条件で焼結を実施した。焼結後のAl-10mol%ScN焼結体を研削加工機、旋盤等を用いて加工し、Φ50mm×6mmtのAl-10mol%ScNターゲットを作製した。ターゲットの作製時において、加工性は良好で、ターゲット形状に成型可能であった。作製したターゲットの表面をマイクロスコープで観察した。観察した画像を図9に示す。図9の画像の横辺の長さは650μmである。図9からScNに対してAlが大部分を占めていることが確認でき、繋がったAlの存在によりアルミニウム母相が存在すると考えられる。その結果、ターゲット作製時の加工性が得られたものと考えられる。このとき、ターゲットはAlとScNの二種類の相からなり、第五の組織‐2を有していた。
【0099】
次に、実施例4のAl-10mol%ScNターゲットについて、質量分析装置(型番:Element GD、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて塩素の含有量を測定した。塩素の含有量は35.4ppmであった。
【0100】
次に、実施例4のAl-10mol%ScNターゲットを用い、スパッタ装置(型番MPS-6000-C4、ULVAC社製)を用いてΦ76.2mm×5mmtの単結晶Si基板上に成膜した。成膜条件は、スパッタ装置内を真空引きして成膜前到達真空度が5×10-5Pa以下に到達後、Arガスを用いてスパッタ装置内の圧力を0.13Paに調整した。その後、単結晶Si基板を300℃に加熱しながらAl-10mol%ScNターゲットのスパッタ電力を150Wに調整し、単結晶Si基板上にAl-10mol%ScN膜を厚さ1μmで形成した。このとき、Al-10mol%ScNターゲットのスパッタリングの状況を観察したが、電圧は安定しており、異常放電などは確認されずに成膜することができた。
【符号の説明】
【0101】
100,200,300,400 スパッタリングターゲット
O 中心
L,Q 仮想十字線
S1~S9 スパッタ面の測定箇所
C1~C9 断面の測定箇所
P1~P9 スパッタ面の測定箇所
D1~D9 断面の測定箇所
1 Al-RE合金粒子
3 Al母相
2,2a,2b Al-RE合金の結晶粒
4,4a,4b アルミニウム結晶粒
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9