(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-28
(45)【発行日】2023-01-12
(54)【発明の名称】採熱システム
(51)【国際特許分類】
F25B 30/06 20060101AFI20230104BHJP
F25B 1/00 20060101ALI20230104BHJP
【FI】
F25B30/06 T
F25B1/00 371Z
F25B1/00 399Y
(21)【出願番号】P 2020188010
(22)【出願日】2020-11-11
【審査請求日】2021-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】390002886
【氏名又は名称】株式会社長府製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 征悟
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 翔平
(72)【発明者】
【氏名】今井 智紀
【審査官】西山 真二
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-047988(JP,A)
【文献】特開2016-070530(JP,A)
【文献】特開2019-163892(JP,A)
【文献】特許第2541172(JP,B2)
【文献】韓国登録特許第10-1801775(KR,B1)
【文献】特開2011-089690(JP,A)
【文献】実開昭58-074056(JP,U)
【文献】特開2017-223392(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00
F25B 30/00 - 30/06
F24H 4/00 - 4/06
F24F 5/00
F24T 10/00 - 50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートポンプ式の熱源機と、該熱源機の採熱側に接続して採熱側熱媒を循環させる採熱側熱媒循環路と、該採熱側熱媒循環路に設けて採熱側熱媒と地下水との間の熱交換を行う熱交換器と、該熱交換器に接続して地下水を流通させる地下水流路と、該地下水流路に設けられて地下水を強制的に流動させるポンプと、前記熱交換器を通過した地下水の温度を検出する地下水温度検出手段と、前記熱源機の運転を制御する制御手段とを備える採熱システムであって、
前記制御手段は、前記熱源機が備えている圧縮機を制御する圧縮機制御部を有し、該圧縮機制御部は、前記地下水温度検出手段の検出温度の温度帯に応じて、圧縮機の運転状態を変動させる
採熱システムにおいて、
前記採熱側熱媒循環路に、前記熱交換器を通過した採熱側熱媒の温度を検出する採熱温度検出手段を設け、
前記制御手段の前記圧縮機制御部は、前記採熱温度検出手段の検出温度が所定温度以下であるとき前記圧縮機を停止させ、
前記制御手段は、前記圧縮機制御部による前記圧縮機の停止が、予め設定した時間内に所定回数行われたとき、前記熱交換器及び前記地下水流路における地下水の流動が不良であると判定する判定部を備えることを特徴とする採熱システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、採熱システムに関し、詳しくは、ヒートポンプの熱源に地下水を用いた採熱システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー効率のよい冷暖房システムとしてヒートポンプ式の熱源機の開発が行われている。ヒートポンプの熱源には地中熱や空気熱などが用いられ、なかでも地下水は他の熱源に比べ年間を通して温度が安定しているため熱源としてのエネルギー効率がよい。
【0003】
地下水を熱源として利用する方法として汲み上げた地下水を熱交換器に流通させることにより熱を得る方法がある。
【0004】
しかし、地下水から過剰に採熱すると、熱交換器を通過する地下水の温度が極度に低下するため、熱交換器内部や地下水管路内部の地下水が凍結するおそれがある。
【0005】
従来、熱源の温度が規定値以下になった場合、ヒートポンプ式の熱源機が備えている圧縮機の運転を停止するものが知られている(下記特許文献1参照)。そこで、この構成を地下水から採熱するときに採用し、地下水の温度が規定値以下(凍結温度)になったときに圧縮機の運転を停止させるようにすれば、地下水の凍結を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、ヒートポンプ式の熱源機が備える圧縮機は、その始動時の消費電力が比較的大きい。そのため、地下水の温度低下に応じて圧縮機の運転・停止が繰り返されると、エネルギー効率が低くなる不都合がある。
【0008】
上記の点に鑑み、本発明は、ヒートポンプの熱源として地下水を利用して、凍結を防止することができ、しかも、凍結防止に伴う電力消費を抑えて省エネルギー性の高い採熱システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するために、本発明は、ヒートポンプ式の熱源機と、該熱源機の採熱側に接続して採熱側熱媒を循環させる採熱側熱媒循環路と、該採熱側熱媒循環路に設けて採熱側熱媒と地下水との間の熱交換を行う熱交換器と、該熱交換器に接続して地下水を流通させる地下水流路と、該地下水流路に設けられて地下水を強制的に流動させるポンプと、前記熱交換器を通過した地下水の温度を検出する地下水温度検出手段と、前記熱源機の運転を制御する制御手段とを備える採熱システムであって、前記制御手段は、前記熱源機が備えている圧縮機を制御する圧縮機制御部を有し、該圧縮機制御部は、前記地下水温度検出手段の検出温度の温度帯に応じて、圧縮機の運転状態を変動させる採熱システムにおいて、前記採熱側熱媒循環路に、前記熱交換器を通過した採熱側熱媒の温度を検出する採熱温度検出手段を設け、前記制御手段の前記圧縮機制御部は、前記採熱温度検出手段の検出温度が所定温度以下であるとき前記圧縮機を停止させ、前記制御手段は、前記圧縮機制御部による前記圧縮機の停止が、予め設定した時間内に所定回数行われたとき、前記熱交換器及び前記地下水流路における地下水の流動が不良であると判定する判定部を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、地下水温度検出手段により熱交換器を通過した地下水の温度を検出し、この検出温度の低下に応じて圧縮機の出力を低下させる。これにより、採熱された地下水の温度が低下したときに、熱源機による採熱量が抑えられ、熱交換器内や地下水流路内の地下水の凍結を防止することができる。
【0011】
更にこのとき、地下水温度検出手段の検出温度の低下に応じて、圧縮機の出力を減少させるので、熱源機を停止させる頻度が少なくなり、熱源機の始動・停止の繰り返しを少なくして凍結防止に伴う電力消費を抑えることができる。
【0013】
ところで、地下水にはカルシウム等のイオンが含まれるため長期間使用すると地下水流路や熱交換器内にスケールと呼ばれる析出物を生ずることがある。当該スケールの増大や土砂などによる地下水流路の目詰まりは、地下水流路内の地下水の流動不良を引き起こし、熱交換効率が低下する。また、地下水が流動していない状態でヒートポンプ式の熱源機が採熱を続けると、地下水流路内や熱交換器内に滞留した地下水が凍結膨張し、地下水流路や熱交換器を損傷させるおそれがある。
【0014】
そこで、本発明は、採熱温度検出手段を通過した採熱側熱媒の温度を用いて地下水流路及び熱交換器での地下水の流動不良を判定する。これにより、地下水流路に流量センサ等の水流を検出するための装置が不要となり、構成を簡単とすることができる。しかも、採熱温度検出手段は、ヒートポンプ式の熱源機に備えられている既存の温度センサ等を利用することができ、地下水の流動不良を判定するためのコスト増加を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態における採熱システムの要部構成を模式的に示す説明図。
【
図2】本実施形態における圧縮機の制御を示すフローチャート。
【
図3】本実施形態における圧縮機の他の制御を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態の採熱システム1は、ヒートポンプ式の熱源機2、採熱側熱媒循環路3、負荷側熱媒循環路4、地下水流路5、及び熱交換器6を備えている。
【0017】
地下水流路5には揚水ポンプ7が設けられており、例えば図外の取水用井戸から汲み上げた地下水を熱交換器6へ送り、熱交換器6を通過した地下水を還元用井戸へ戻す。揚水ポンプ7は、本発明において地下水を強制的に流動させるポンプに相当する。
【0018】
熱交換器6の下流側の地下水流路5には、地下水温度サーミスタ8(地下水温度検出手段)が設けられている。地下水温度サーミスタ8は、熱交換器6を通過した地下水の温度を検出する。
【0019】
熱源機2は、採熱側に採熱側熱媒循環路3が接続され、負荷側に負荷側熱媒循環路4が接続されている。採熱側熱媒循環路3と負荷側熱媒循環路4とには夫々熱媒が循環する。採熱側熱媒循環路3の内部の熱媒は、循環ポンプ9により強制的に循環流動され、熱交換器6介して地下水流路5を流れる地下水との間で熱交換が行われる。
【0020】
熱源機2は、主要要素として蒸発器10、凝縮器11、圧縮機12、膨張弁13、及び制御手段14を有している。蒸発器10と凝縮器11とは圧縮側接続通路15及び膨張側接続通路16により接続されて媒体が循環するようになっており、圧縮側接続通路15には圧縮機12が、膨張側接続通路16には膨張弁13が夫々設けられている。
【0021】
圧縮機12は、図示しない電動機により駆動され、回転数により出力が制御される。圧縮機12は、圧縮側接続通路15の媒体を圧縮して凝縮器11へ送る。膨張弁13は、膨張側接続通路16の媒体を膨張させて蒸発器10へ送る。
【0022】
また、採熱側熱媒循環路3において、熱交換器6の下流側であって蒸発器10の上流側には、採熱側の熱媒の温度を検出する採熱温度サーミスタ17(採熱温度検出手段)が設けられている。
【0023】
制御手段14は、詳しくは図示しないが、各種制御に対応するプログラムの実行を含む演算を実行するCPU、データを一時的に記憶するRAM、及びプログラム等を記憶するROMを装備する。
【0024】
熱源機2は、制御手段14が機能的に備える圧縮機制御部18により、使用者が設定した温度になるように圧縮機12の出力(回転数)が制御される。
【0025】
圧縮機12の出力を増加させると、熱源機2の採熱量が増加し、それに伴い、熱交換器6を通過した地下水の温度が低下する。
【0026】
そして、地下水が一定の流量のときに採熱可能となる最大の熱量を、熱源機2の採熱量が上回ると、熱交換器6の下流側の地下水流路5を流れる地下水の温度が低下し続け、地下水の凍結温度を下回ると凍結する。
【0027】
そこで、圧縮機制御部18は、熱交換器6を通過した地下水の温度を検出する地下水温度サーミスタ8の検出温度に基づいて、圧縮機12を制御する。これにより熱交換器6の下流側の地下水流路5を流れる地下水の温度低下を抑え、熱交換器6や地下水流路5内の地下水の凍結を防止する。
【0028】
即ち、
図2に示すように、STEP1で暖房運転の設定が行われて暖房運転が開始されると、STEP2へ進んで地下水温度サーミスタ8の検出温度Taを採取する。検出温度Taは、熱交換器を通過した地下水の温度である。
【0029】
STEP3で地下水温度サーミスタ8の検出温度Taが規定値Ta0(本実施形態では3.0℃)未満である場合、圧縮機制御部18は、地下水が凍結する直前であると判断し、STEP4へ進んで圧縮機12の運転を停止させる。これにより、採熱が停止され、これ以降の地下水の温度低下が抑えられる。
【0030】
なお、STEP4においては、地下水温度サーミスタ8の検出温度が規定値Ta3(本実施形態では6.0℃)以上になるまで、圧縮機12の運転が停止される。
【0031】
STEP5では、地下水温度サーミスタ8の検出温度Taが、規定値Ta0(本実施形態では3.0℃)以上、規定値Ta1(本実施形態では3.5℃)未満である場合、圧縮機制御部18は、STEP6へ進んで、圧縮機12の回転数を段階的に減少させる(例えば、1秒毎に60rpm減少させる)。
【0032】
これにより、圧縮機12の回転数を減少させる前に比べて、熱源機2の採熱量が次第に小さくなり、これに伴い、地下水の温度も次第に上昇する。
【0033】
STEP7では、地下水温度サーミスタ8の検出温度Taが、規定値Ta1(本実施形態では3.5℃)以上、規定値Ta2(本実施形態では4.0℃)未満である場合、圧縮機制御部18は、STEP8へ進む。
【0034】
圧縮機制御部18は、STEP8へ進むと、STEP6の処理、STEP12の処理(後述)の何れかにより圧縮機12の回転数を増減させたか否かを判断し、圧縮機12の回転数を増減させた場合には、STEP9へ進んでその回転数を維持させる。
【0035】
STEP10では、地下水温度サーミスタ8の検出温度Taが、規定値Ta2(本実施形態では4.0℃)以上、規定値Ta3(本実施形態では6.0℃)未満である場合、圧縮機制御部18は、STEP11へ進む。
【0036】
圧縮機制御部18は、STEP11へ進むと、STEP6の処理、STEP9の処理、STEP12の処理(後述)の何れかにより圧縮機12の回転数を増減させたか否かを判断する。圧縮機12の回転数を増減させた場合には、STEP12へ進む。
【0037】
STEP12へ進むと、圧縮機制御部18は、圧縮機12の回転数を段階的に増加させる(例えば、10秒毎に60rpm増加させる)。STEP12の処理は、地下水の温度の変化を見ながら少しずつ圧縮機12の回転数を増加させる制御である。これにより、圧縮機12の回転数が制限されている状態であっても、可能な範囲で大きな出力で熱源機を運転することができる。
【0038】
STEP10がNOの場合、つまり地下水温度サーミスタ8の検出温度Taが、規定値Ta3(本実施形態では6.0℃)以上である場合、圧縮機制御部18は、STEP13へ進んで、その時点における圧縮機12の回転数の制限をリセットし、通常の回転数で圧縮機12を作動させる。
【0039】
以上のように、圧縮機制御部18が熱源機の運転中の地下水の温度に基づいて圧縮機12を制御し、地下水温度サーミスタ8の検出温度の低下に伴って段階的に圧縮機12の回転数を減少させる。
【0040】
これによって、過剰な採熱による地下水の凍結を防止することができるだけでなく、圧縮機12の停止頻度を極めて少なくすることができるので、電力消費を抑えることができる。
【0041】
ところで、地下水にはカルシウムなどのイオンが含まれるため長期間使用すると地下水流路5や熱交換器6内にスケールが生じる。また、地下水に土砂が混在する場合もある。こうしたスケールや土砂は、地下水流路5や熱交換器6内部の目詰まりを起こし、地下水の流動不良が生じるおそれがある。
【0042】
地下水の流動不良が生じると、熱交換効率が低下する。そして、地下水流路5や熱交換器6内部で地下水の流動不良が生じた状態で、熱源機2による採熱を続けると、地下水流路5や熱交換器6内部で地下水が凍結膨張し、地下水流路5や熱交換器6が損傷するおそれがある。
【0043】
地下水の流動を確認するために、一般には、地下水流路5内に流量計や流動センサを組み込むことが考えられる。しかし、流量計や流動センサといた部品点数が増加するだけでなく、組み込み作業等の製造工程が増加するためコストが増加する。
【0044】
それに対して、本実施形態では、ヒートポンプ式の熱源機2が通常の制御のために備えている採熱温度サーミスタ17(採熱温度検出手段)を用いて地下水の流動を確認する。これにより、部品点数の増加がなく、製造コスト等が抑えられる。
【0045】
また、地下水が地下水流路5内を流動していない場合、熱交換器6で熱交換して低温になった地下水が地下水温度サーミスタ8で検知できる範囲に到達しないことが予想され、そのまま採熱が行われると熱交換器6内部で凍結のおそれがある。
【0046】
このような場合、十分な採熱ができないことから熱源機2に備えられた採熱温度サーミスタ17の検出温度が低下し続けるため、採熱温度サーミスタ17の検出温度の低下に基づき、地下水が流動せず、採熱が正常に行われないことを確認することができる。そこで、本実施形態においては、制御手段14が次の制御により異常を検知する。
【0047】
即ち、
図3に示すように、STEP20で暖房運転の設定が行われると、STEP21へ進み、圧縮機12が作動していない場合にはSTEP22で圧縮機制御部18が圧縮機12の運転を許可してSTEP21へ戻り、圧縮機12が作動していた場合にはSTEP23へ進んで採熱温度サーミスタ17の検出温度Tbを採取する。検出温度Tbは、採熱側熱媒循環路3において、熱交換器6を通過した熱媒の温度である。
【0048】
STEP24へ進むと、圧縮機制御部18は、採熱温度サーミスタ17の検出温度Tbと規定値Tb0(本実施形態においては2.0℃)とを比較する。採熱温度サーミスタ17の検出温度Tbが規定値Tb0未満であるとき、STEP25へ進んで圧縮機12を停止させる。
【0049】
STEP24において圧縮機12は、第1の所定時間(本実施形態においては3分)停止状態とされる。この間、循環ポンプの作動は継続される。
【0050】
そして、STEP26において、圧縮機制御部18による圧縮機12の停止が、予め設定した時間(第2の所定時間)内に所定回数(n回)行われた場合、制御手段14は、STEP27へ進み、制御手段14が機能として備えている判定部19により、エラー判定を行う。この時のエラー判定により、制御手段14は、熱源機2の運転(圧縮機12及び循環ポンプ9の作動)を停止させる。
【0051】
以上の制御により、流量センサ等の水流を検出するための装置を不要として、地下水流路5の目詰まり等による地下水の流動不良を判定することができるので、地下水の流動不良に伴う地下水流路5内や熱交換器6内に滞留した地下水の凍結を防止することができ、地下水流路や熱交換器の損傷を防止することができる。
【符号の説明】
【0052】
1…採熱システム、2…熱源機、3…採熱側熱媒循環路、5…地下水流路、6…熱交換器、7…揚水ポンプ(ポンプ)、8…地下水温度サーミスタ(地下水温度検出手段)、14…制御手段、17…採熱温度サーミスタ(採熱温度検出手段)、18…圧縮機制御部、19…判定部。