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特許7203088酸化物焼結体、スパッタリングターゲットおよび透明導電膜
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  • 特許-酸化物焼結体、スパッタリングターゲットおよび透明導電膜 図1
  • 特許-酸化物焼結体、スパッタリングターゲットおよび透明導電膜 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-28
(45)【発行日】2023-01-12
(54)【発明の名称】酸化物焼結体、スパッタリングターゲットおよび透明導電膜
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/01 20060101AFI20230104BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20230104BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20230104BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20230104BHJP
【FI】
C04B35/01
C23C14/34 A
C23C14/08 D
H01B5/14 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020509586
(86)(22)【出願日】2018-10-16
(86)【国際出願番号】 JP2018038464
(87)【国際公開番号】W WO2019187269
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2018069268
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松元 謙士
(72)【発明者】
【氏名】矢野 智泰
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-258115(JP,A)
【文献】特開平02-309511(JP,A)
【文献】国際公開第2011/052375(WO,A1)
【文献】特表2013-533378(JP,A)
【文献】特開2010-261105(JP,A)
【文献】特開平3-015107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00 -35/047
C04B 35/053-35/106
C04B 35/109-35/22
C04B 45/457-35/457
C04B 35/547-35/553
C23C 14/00 -14/58
H01B 5/00 - 5/16
H01B 1/00 - 1/24
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウム、ニオブ、スズおよび酸素を含む酸化物焼結体であって、
前記インジウムをIn換算で90.0質量%以上含有し、前記ニオブをNb換算で4.8~6.5質量%含有し、前記スズをSnO換算で0.5~2質量%含有する酸化物焼結体。
【請求項2】
前記ニオブをNb換算で4.8~6.0質量%含有する
請求項1に記載の酸化物焼結体。
【請求項3】
比抵抗が7.0×10-4Ω・cm以下である
請求項1または2に記載の酸化物焼結体。
【請求項4】
相対密度が95%以上である
請求項1~3のいずれか一つに記載の酸化物焼結体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一つに記載の酸化物焼結体をターゲット材として用いる
スパッタリングターゲット。
【請求項6】
インジウム、ニオブ、スズおよび酸素を含む透明導電膜であって、
前記インジウムをIn換算で90.0質量%以上含有し、前記ニオブをNb換算で4.8~6.5質量%含有し、前記スズをSnO換算で0.5~2質量%含有する透明導電膜。
【請求項7】
波長300nmにおける透過率が52%以上である
請求項6に記載の透明導電膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、酸化物焼結体、スパッタリングターゲットおよび透明導電膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ITO(Indium Tin Oxide)にニオブなどを添加し、紫色領域(たとえば、波長400nm)における透過率を改善した透明導電膜を成膜するためのスパッタリングターゲットが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2011/052375号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のスパッタリングターゲットで成膜された透明導電膜は、紫外域(たとえば、波長300nm)や紫色領域(たとえば、400nm)等、短波長領域における透過率について改善の余地があった。
【0005】
実施形態の一態様は、上記に鑑みてなされたものであって、スパッタリングターゲットに用いて成膜された透明導電膜において、紫外域や紫色領域などの短波長領域の透過率を向上させることができる酸化物焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の一態様に係る酸化物焼結体は、インジウム、ニオブ、スズおよび酸素を含む酸化物焼結体であって、前記インジウムをIn換算で90.0質量%以上含有し、ニオブをNb換算で3.5~6.5質量%含有し、前記スズをSnO換算で0.5~2質量%含有する。
【発明の効果】
【0007】
実施形態の一態様によれば、成膜された透明導電膜の紫外域や紫色領域などの短波長領域における透過率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施例2および比較例1、4に係る透明導電膜の熱処理前における透過率の波長依存性を示したグラフである。
図2図2は、実施例2および比較例1、4に係る透明導電膜の熱処理後における透過率の波長依存性を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する酸化物焼結体、スパッタリングターゲットおよび透明導電膜の実施形態について説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0010】
実施形態の酸化物焼結体は、インジウム(In)、ニオブ(Nb)、スズ(Sn)および酸素(O)を含み、スパッタリングターゲットとして用いることができる。そして、実施形態の酸化物焼結体は、インジウムをIn換算で90.0質量%以上含有し、ニオブをNb換算で3.5~6.5質量%含有し、スズをSnO換算で0.5~2質量%含有する。すなわち、実施形態の酸化物焼結体は、主成分であるインジウムと、その他の成分であるニオブ、スズおよび酸素を含む。
【0011】
これにより、かかる酸化物焼結体をスパッタリングターゲットに用いて成膜された透明導電膜の紫外域や紫色領域などの短波長領における透過率を向上させることができる。
【0012】
また、実施形態の透明導電膜は、インジウム、ニオブ、スズおよび酸素を含み、インジウムをIn換算で90.0質量%以上含有し、ニオブをNb換算で3.5~6.5質量%含有し、スズをSnO換算で0.5~2質量%含有する。すなわち、実施形態の透明導電膜は、主成分であるインジウムと、その他の成分であるニオブ、スズおよび酸素を含む。
【0013】
これにより、かかる透明導電膜の紫外域や紫色領域などの短波長領における透過率を向上させることができる。したがって、実施形態によれば、たとえばかかる透明導電膜を太陽電池の透明電極に適用した場合に、かかる太陽電池に入射される紫外域の光(すなわち、紫外線)も発電に活用することができることから、太陽電池の発電効率を向上させることができる。
【0014】
実施形態の酸化物焼結体は、インジウムをIn換算で90.0質量%以上含有する。これにより、かかる酸化物焼結体をスパッタリングターゲットに用いて成膜された透明導電膜の導電性、透過率を良好に維持することができる。
【0015】
なお、実施形態の酸化物焼結体は、インジウムをIn換算で91.5~96.0質量%含有することが好ましく、92.5~95.0質量%含有することがより好ましく、93.6~94.4質量%含有することがさらに好ましい。
【0016】
また、実施形態の酸化物焼結体は、ニオブをNb換算で4.0~6.0質量%含有し、スズをSnO換算で0.5~2質量%含有することが好ましい。これにより、かかる酸化物焼結体をスパッタリングターゲットに用いて成膜された透明導電膜の導電性を良好に維持することができる。
【0017】
なお、実施形態の酸化物焼結体は、ニオブをNb換算で4.5~5.5質量%含有し、スズをSnO換算で0.5~2質量%含有することがより好ましく、ニオブをNb換算で4.8~5.2質量%含有し、スズをSnO換算で0.8~1.2質量%含有することがさらに好ましい。
【0018】
実施形態の透明導電膜は、インジウムをIn換算で90.0質量%以上含有する。これにより、透明導電膜の導電性、透過率を良好に維持することができる。
【0019】
なお、実施形態の透明導電膜は、インジウムをIn換算で91.5~96.0質量%含有することが好ましく、92.5~95.0質量%含有することがより好ましく、93.6~94.4質量%含有することがさらに好ましい。
【0020】
また、実施形態の透明導電膜は、ニオブをNb換算で4.0~6.0質量%含有し、スズをSnO換算で0.5~2質量%含有することが好ましい。これにより、かかる透明導電膜の導電性を良好に維持することができる。
【0021】
なお、実施形態の透明導電膜は、ニオブをNb換算で4.5~5.5質量%含有し、スズをSnO換算で0.5~2質量%含有することがより好ましく、ニオブをNb換算で4.8~5.2質量%含有し、スズをSnO換算で0.8~1.2質量%含有することがさらに好ましい。
【0022】
また、実施形態の酸化物焼結体および透明導電膜は、主成分であるインジウムと、その他の成分であるニオブ、スズおよび酸素からなるとより好ましい。
【0023】
また、実施形態の酸化物焼結体および透明導電膜は、原料等に由来する不可避不純物が含まれ得る。実施形態の酸化物焼結体における不可避不純物としてはFe、Cr、Ni、Si、W、Zr等があげられ、それらの含有量は各々通常100ppm以下である。
【0024】
また、実施形態の酸化物焼結体は、比抵抗が7.0×10-4Ω・cm以下であることが好ましい。これにより、かかる酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いた場合に、安価なDC電源を用いたスパッタリングが可能となり、成膜レートを向上させることができる。
【0025】
なお、実施形態の酸化物焼結体は、比抵抗が5.0×10-4Ω・cm以下であることがより好ましく、4.0×10-4Ω・cm以下であることがさらに好ましく、3.0×10-4Ω・cm以下であることが一層好ましい。
【0026】
また、実施形態の酸化物焼結体は、相対密度が95%以上である。これにより、かかる酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いた場合に、DCスパッタリングの放電状態を安定させることができる。なお、実施形態の酸化物焼結体は、相対密度が97%以上であることが好ましく、相対密度が99%以上であることがより好ましい。
【0027】
相対密度が95%以上であると、かかる酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いた場合に、スパッタリングターゲット中に空隙を少なくでき、大気中のガス成分の取り込みを防止しやすい。また、スパッタリング中に、かかる空隙を起点とした異常放電やスパッタリングターゲットの割れ等が生じにくくなる。
【0028】
また、実施形態の透明導電膜は波長300nmにおける透過率が52%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましく、58%以上であることがさらに好ましく、60%以上であることが一層好ましい。
【0029】
<酸化物スパッタリングターゲットの各製造工程>
実施形態の酸化物スパッタリングターゲットは、たとえば以下に示すような方法により製造することができる。まず、原料粉末を混合する。原料粉末としては、通常In粉末、Nb粉末およびSnO粉末である。各原料粉末の平均粒径はすべて5μm以下であることが好ましく、また、各原料粉末相互の平均粒径の差は2μm以下であることが好ましい。なお、原料粉末の平均粒径はレーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50である。
【0030】
各原料粉末の混合比率は、酸化物焼結体における所望の構成元素比になるように適宜決定される。
【0031】
各原料粉末は、通常は粒子が凝集しているため、事前に粉砕して混合するか、あるいは混合しながら粉砕を行うことが好ましい。
【0032】
原料粉末の粉砕方法や混合方法には特に制限はなく、例えば原料粉末をポットに入れて、ボールミルにより粉砕または混合を行うことができる。
【0033】
得られた混合粉末は、そのまま成形して成形体とし、これを焼結することもできるが、必要により混合粉末にバインダーを加えて成形して成形体としてもよい。このバインダーとしては、公知の粉末冶金法において成形体を得るときに使用されるバインダー、例えばポリビニルアルコール、アクリルエマルジョンバインダー等を用いることができる。また、混合粉末に分散媒を加えてスラリーを調製し、このスラリーをスプレードライして顆粒を作製し、この顆粒を成形してもよい。
【0034】
成形方法は、従来粉末冶金法において採用されている方法、たとえばコールドプレスやCIP(Cold Isostatic Pressing:冷間等方圧成形)等を用いることができる。
【0035】
また、混合粉末を一旦仮プレスして仮成形体を作製し、これを粉砕して得られた粉砕粉末を本プレスすることにより成形体を作製してもよい。
【0036】
なお、スリップキャスト法等の湿式成形法を用いて成形体を作製してもよい。成形体の相対密度は通常50~75%である。
【0037】
次に得られた成形体を焼成し、焼結体を作製する。かかる焼結体を作製する焼成炉には特に制限はなく、セラミックス焼結体の製造に使用可能である焼成炉を用いることができる。
【0038】
焼成温度は、1300℃~1600℃が好ましく、1400℃~1600℃がより好ましい。焼成温度が高いほど高密度の焼結体が得られる一方で、焼結体の組織の肥大化を抑制して割れを防止する観点から上記温度以下で制御するのが好ましい。
【0039】
かかる焼成温度での保持時間は3~30時間が好ましく、5~20時間がより好ましい。保持時間が上述の範囲内である場合には、高密度の焼結体を得ることができる。昇温速度は、高密度化および割れ防止の観点から、100~500℃/hが好ましい。焼成雰囲気としては酸素雰囲気が好ましい。
【0040】
次に得られた焼結体を切削加工する。かかる切削加工は、平面研削盤などを用いて行う。また、切削加工後の表面粗さRaは、切削加工に用いる砥石の砥粒の大きさを選定することにより、適宜制御することができる。
【0041】
切削加工した焼結体を基材に接合することによってスパッタリングターゲットを作製する。基材の材質にはステンレスや銅、チタンなどを適宜選択することができる。接合材にはインジウムなどの低融点半田を使用することができる。
【実施例
【0042】
[実施例1]
平均粒径が0.7μmであるIn粉末と、平均粒径が1.2μmであるNb粉末と、平均粒径が0.9μmであるSnO粉末とをポット中でジルコニアボールによりボールミル乾式混合して、混合粉末を調製した。
【0043】
なお、原料粉末の平均粒径は、日機装株式会社製の粒度分布測定装置HRAを用いて測定した。かかる測定の際、溶媒には水を使用し、測定物質の屈折率2.20で測定した。
【0044】
なお、かかる混合粉末の調製の際、インジウムがIn換算で94.5質量%となり、ニオブがNb換算で5.0質量%となり、スズがSnO換算で0.5質量%となるように各原料粉末を配合した。
【0045】
次に、4質量%に希釈したポリビニルアルコールを混合粉末に対して6質量%添加し、乳鉢を用いてポリビニルアルコールを粉末に良く馴染ませ、5.5メッシュのふるいに通した。そして、得られた粉末を200kg/cmの条件で仮プレスし、得られた仮成形体を乳鉢で粉砕した。次に、得られた粉砕粉をプレス用の型に充填し、プレス圧1t/cmで60秒間成形して、成形体を得た。
【0046】
次に、この成形体を焼成して焼結体を作製した。かかる焼成は炉内に10L/minで酸素をフローさせた酸素フロー雰囲気で行い、焼成温度1550℃、焼成時間9時間、昇温速度350℃/h、降温速度100℃/hで行った。
【0047】
次に、得られた焼結体を切削加工し、表面粗さRaが1.0μmである幅210mm×長さ710mm×厚さ6mmの酸化物焼結体を得た。なお、かかる切削加工には#170の砥石を使用した。
【0048】
[実施例2~7]
実施例1と同様な方法を用いて、酸化物焼結体を得た。なお、実施例2~7では、混合粉末の調製の際、インジウム、ニオブおよびスズの含有率が、In、NbおよびSnO換算で表1に記載の含有率となるように各原料粉末を配合した。
【0049】
[比較例1~6]
実施例1と同様な方法を用いて、酸化物焼結体を得た。なお、比較例1~6では、混合粉末の調製の際、インジウム、ニオブおよびスズの含有率が、In、NbおよびSnO換算で表1に記載の含有率となるように各原料粉末を配合した。
【0050】
なお、実施例1~7および比較例1~6において、各原料粉末を調製する際に計量した各元素の含有率が、得られた酸化物焼結体における各元素の含有率と等しいことをICP-AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy:誘導結合プラズマ発光分光法)により確認した。
【0051】
つづいて、上記にて得られた実施例1~7および比較例1~6の酸化物焼結体について、相対密度の測定を行った。かかる相対密度は、アルキメデス法に基づき測定した。
【0052】
具体的には、酸化物焼結体の空中質量を体積(焼結体の水中質量/計測温度における水比重)で除し、理論密度ρ(g/cm)に対する百分率の値を相対密度(単位:%)とした。
【0053】
また、かかる理論密度ρ(g/cm)は、酸化物焼結体の製造に用いた原料粉末の質量%および密度から算出した。具体的には、下記の式により算出した。
ρ={(C/100)/ρ+(C/100)/ρ+(C3/100)/ρ-1
【0054】
なお、上記式中のC~Cおよびρ~ρは、それぞれ以下の値を示している。
・C:酸化物焼結体の製造に用いたIn粉末の質量%
・ρ:Inの密度(7.18g/cm
・C:酸化物焼結体の製造に用いたNb粉末の質量%
・ρ:Nbの密度(4.47g/cm
・C:酸化物焼結体の製造に用いたSnO粉末の質量%
・ρ:SnOの密度(6.95g/cm
【0055】
つづいて、上記にて得られた実施例1~7および比較例1~6のスパッタリングターゲット用酸化物焼結体について、それぞれ比抵抗(バルク抵抗)の測定を行った。
【0056】
具体的には、三菱化学株式会社製ロレスタ(登録商標)HP MCP-T410(直列4探針プローブ TYPE ESP)を用いて、加工後の酸化物焼結体の表面にプローブをあてて、AUTO RANGEモードで測定した。測定箇所は酸化物焼結体の中央付近および4隅の計5か所とし、各測定値の平均値をその焼結体のバルク抵抗値とした。
【0057】
ここで、上述の実施例1~7および比較例1~6について、混合粉末の際に含有する各元素の含有率と、相対密度および比抵抗(バルク抵抗)の測定結果とを表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
実施例1~7の酸化物焼結体は、比抵抗がすべて7.0×10-4Ω・cm以下であることがわかる。したがって、実施形態によれば、酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いた場合に、安価なDC電源を用いたスパッタリングが可能となり、成膜レートを向上させることができる。
【0060】
つづいて、上記にて得られた実施例1~7および比較例1~6の酸化物焼結体から、実施例1~7および比較例1~6のスパッタリングターゲットを作製した。かかるスパッタリングターゲットは、低融点半田であるインジウムを接合材として使用し、上記にて得られた酸化物焼結体を銅製の基材に接合して作製した。
【0061】
つづいて、作製された実施例1~7および比較例1~6のスパッタリングターゲットを用いて、下記の条件でスパッタリング成膜を行い、厚さ100nmの薄膜を成膜した。
・成膜装置:真空機器工業株式会社製EX-3013M(DCスパッタリング装置)
・到達真空度:1×10-4Pa未満
・スパッタガス:Ar/O混合ガス
・スパッタガス圧:0.4Pa
・Oガス流量:0~2.0sccm
・基板:ガラス基板(コーニング社製EAGLE XG(登録商標))
・基板温度:室温
・スパッタリング電力:3W/cm
【0062】
なお、実施例1~7および比較例1~6において、スパッタリングターゲットに用いられた酸化物焼結体における各元素の含有率が、成膜された透明導電膜における各元素の含有率と等しいことをICP-AESにより確認した。
【0063】
つづいて、それぞれのガラス基板を所定の大きさに切り出して、かかる切り出されたガラス基板にスパッタリング成膜された実施例1~7および比較例1~6の透明導電膜における透過率の波長依存性について測定した。
【0064】
さらに、切り出されたガラス基板を大気中、200℃で1時間熱処理し、熱処理後の透明導電膜における透過率の波長依存性についても測定した。上述の熱処理前後における透過率の波長依存性についての測定条件は以下の通りである。
・測定装置:日立ハイテクサイエンス社製 紫外可視近赤外分光光度計UH4150
・スキャンスピード:600nm/min
・波長領域:200~2600nm
【0065】
なお、透明導電膜の透過率測定においては、初めに成膜を行っていない素ガラス基板を装置にセットしてベースラインを測定し、その後それぞれの成膜サンプルの透過率を測定した。
【0066】
図1は、実施例2および比較例1、4に係る透明導電膜の熱処理前における透過率の波長依存性を示したグラフであり、図2は、同じ透明導電膜の熱処理後における透過率の波長依存性を示したグラフである。図1および図2に示すように、スパッタリング薄膜された透明導電膜に所定の熱処理を施すことにより、透明導電膜の透過率を全体的に向上させることができる。
【0067】
つづいて、成膜後に熱処理されたそれぞれの透明導電膜の比抵抗の測定を行った。かかる透明導電膜の比抵抗測定は、共和理研社製、四探針計測器 K-705RSを用いて測定した。
【0068】
ここで、上述の実施例1~7および比較例1~6の透明導電膜について、熱処理前後の波長300nm、400nmおよび550nmにおける透過率の測定結果と、熱処理後の比抵抗測定の結果とを表2に示す。なお、表2に示す比抵抗測定における評価基準は次の通りである。
A:比抵抗が4.5×10-4Ω・cm以下である。
B:比抵抗が4.5×10-4Ω・cmを超え6.0×10-4Ω・cm以下である。
C:比抵抗が6.0×10-4Ω・cm超えである。
【0069】
【表2】
【0070】
熱処理後の透明導電膜において、インジウムをIn換算で90.0質量%以上含有し、ニオブをNb換算で3.5~6.5質量%含有し、スズをSnO換算で0.5~2質量%含有する実施例1~7と、かかる含有率でニオブまたはスズを含有しない比較例1~6との比較により、インジウムをIn換算で90.0質量%以上含有し、ニオブをNb換算で3.5~6.5質量%含有し、スズをSnO換算で0.5~2質量%含有することによって、紫外域(波長300nm)での透過率が52%以上に向上していることがわかる。
【0071】
また、熱処理後の透明導電膜において、実施例1~7では、表2および図2に示すように、紫外域のみならず、可視域(たとえば波長400nm~800nm)でも比較例1~6と同等以上の透過率を有する。すなわち、実施形態では、かかる透明導電膜を太陽電池の透明電極に適用した場合に、かかる太陽電池に入射される幅広い波長領域の光を発電に活用することができる。
【0072】
したがって、実施形態によれば、かかる透明導電膜が適用された太陽電池の発電効率をさらに向上させることができる。
【0073】
また、インジウムをIn換算で90.0質量%以上含有し、ニオブをNb換算で4.0~6.0質量%含有し、スズをSnO換算で0.5~2質量%含有する実施例1~3、5、6と、かかる含有率でニオブを含有しない実施例4、7との比較により、インジウムをIn換算で90.0質量%以上含有し、ニオブをNb換算で4.0~6.0質量%含有し、スズをSnO換算で0.5~2質量%含有することによって、透明導電膜の導電性が良好に維持されていることがわかる。
【0074】
さらに、インジウムをIn換算で90.0質量%以上含有し、ニオブをNb換算で4.5~5.5質量%含有し、スズをSnO換算で0.5~2質量%含有する実施例1~3と、かかる含有率でニオブを含有しない実施例4~7との比較により、インジウムをIn換算で90.0質量%以上含有し、ニオブをNb換算で4.5~5.5質量%含有し、スズをSnO換算で0.5~2質量%含有することによって、紫色領域(波長400nm)での透過率が93.2%以上に向上していることがわかる。
【0075】
さらに、インジウムをIn換算で90.0質量%以上含有し、ニオブをNb換算で4.8~5.2質量%含有するとともに、スズをSnO換算で0.8~1.2質量%含有する実施例2と、かかる含有率でニオブまたはスズを含有しない実施例1、3~7との比較により、ニオブをNb換算で4.8~5.2質量%含有し、スズをSnO換算で0.8~1.2質量%含有することによって、紫外域(波長300nm)での透過率が61.4%以上に向上するとともに、紫色領域(波長400nm)での透過率が94.6%以上に向上していることがわかる。
【0076】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。たとえば、実施形態では、透明導電膜が太陽電池に適用された例について示したが、実施形態にかかる透明導電膜が適用されるデバイスは太陽電池に限られない。
【0077】
たとえば、実施形態にかかる透明導電膜を液晶や有機EL(electro-luminescence)などの画像表示装置における透明電極に適用した場合、紫外域や紫色領域などの短波長領域における透過率が高いことから、短波長領域における発光効率を改善することができる。
【0078】
また、実施形態にかかる透明導電膜を紫外線ランプなどの紫外線光源における光学系の帯電防止膜に適用することにより、紫外領域の発光効率を向上させることができるとともに、帯電なく安定に紫外線を発光させることができる。
【0079】
また、実施形態では、板状の酸化物焼結体を用いてスパッタリングターゲットが作製された例について示したが、酸化物焼結体の形状は板状に限られず、円筒状など、どのような形状であってもよい。
【0080】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
図1
図2