IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ホヤ レンズ タイランド リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許-眼鏡レンズの製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-28
(45)【発行日】2023-01-12
(54)【発明の名称】眼鏡レンズの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/00 20060101AFI20230104BHJP
   G02C 7/02 20060101ALI20230104BHJP
   C23C 14/14 20060101ALI20230104BHJP
【FI】
G02C7/00
G02C7/02
C23C14/14 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021084592
(22)【出願日】2021-05-19
(65)【公開番号】P2022076442
(43)【公開日】2022-05-19
【審査請求日】2021-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2020186826
(32)【優先日】2020-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】野村 琢美
(72)【発明者】
【氏名】植田 恭輔
【審査官】中村 和正
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-012877(JP,A)
【文献】特開昭59-132940(JP,A)
【文献】特開2020-142494(JP,A)
【文献】特開平03-126865(JP,A)
【文献】特開2008-107836(JP,A)
【文献】特開2009-046372(JP,A)
【文献】登録実用新案第3152817(JP,U)
【文献】特開2018-144004(JP,A)
【文献】特開2004-258278(JP,A)
【文献】特開2002-205353(JP,A)
【文献】特開2001-207260(JP,A)
【文献】特開2001-140061(JP,A)
【文献】特開2020-106751(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0319728(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/00
G02C 7/02
C23C 14/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼鏡レンズの製造方法であって、
前記眼鏡レンズは、金属含有層を有し、
前記金属含有層を、1nm以上10nm以下の粒径の金属粒子を担体に担持した蒸着源に電子ビームを照射することを含む電子ビーム蒸着によって形成することを含み、
前記担体は多孔質体であり、かつ
前記多孔質体は焼結フィルタである、眼鏡レンズの製造方法。
【請求項2】
前記金属粒子は、銀粒子を含む、請求項1に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項3】
前記金属粒子は、白金粒子、金粒子、パラジウム粒子、水銀粒子、カドミウム粒子、コバルト粒子、ニッケル粒子、銅粒子、亜鉛粒子およびチタン粒子からなる群から選ばれる金属粒子の1種以上を更に含む、請求項2に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項4】
前記金属粒子を含む溶液を前記担体に含浸させた後に乾燥処理を行うことによって、前記担体に前記金属粒子を担持させることを更に含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項5】
前記金属含有層は、金属含有無機層である、請求項1~のいずれか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項6】
前記金属含有層の膜厚は、5nm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズは、一般に、レンズ基材の表面上に1層以上の機能性層が形成された構成を有する(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-327622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特開平9-327622号公報(特許文献1)には、機能性層として、抗菌性コート剤を硬化して形成された表面硬化膜を合成樹脂成形体上に形成することが開示されている。このように機能性層を設けることは、眼鏡レンズの付加価値を高めることに寄与し得る。
【0005】
しかし、特開平9-327622号公報(特許文献1)には、上記表面硬化膜の厚さは0.5μm以上であることが好ましいと記載されている(同公報の段落0019参照)。かかる厚膜の層は、眼鏡レンズの反射特性および/または透過特性に大きく影響を及ぼし得るため、そのような層を機能性付与のために眼鏡レンズに設ける場合、通常、既存製品の光学設計を大きく変更せざるを得ないと考えられる。そのため、既存製品の光学設計を変更することなく、または大きく変更することなく、機能性層を有する眼鏡レンズを製造できることは望ましい。
【0006】
かかる状況下、本発明の一態様は、機能性層を有する眼鏡レンズの新たな製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
眼鏡レンズの製造方法であって、
上記眼鏡レンズは、金属含有層を有し、
上記金属含有層を、金属粒子を担体に担持した蒸着源に電子ビームを照射することを含む電子ビーム(EB;Electron Beam)蒸着によって形成することを含む、眼鏡レンズの製造方法(以下、単に「製造方法」とも記載する。)、
に関する。
【0008】
上記製造方法では、上記金属含有層を、金属粒子を担体に担持した蒸着源に電子ビームを照射することを含む電子ビーム蒸着によって形成することで薄膜に成膜することができる。これにより、既存製品の光学設計を変更することなく、または大きく変更することなく、上記金属含有層によってもたらされる機能を発揮し得る眼鏡レンズを製造することが可能になる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、機能性層を有する眼鏡レンズの新たな製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】電子銃を備えた真空蒸着装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、上記眼鏡レンズの製造方法について更に詳細に説明する。
【0012】
<金属含有層>
上記製造方法では、金属含有層を有する眼鏡レンズが製造される。上記金属含有層に含まれる金属の種類および/または組み合わせによって、上記金属含有層が発揮し得る機能を制御することができる。例えば、菌の繁殖を抑制できる機能(即ち抗菌性)を眼鏡レンズに付与することに寄与する抗菌層として機能し得る金属含有層を形成する場合、上記金属含有層に含まれる金属として、一形態では、銀を挙げることができる。また、一形態では、上記金属含有層に含まれる金属としては、銀と、白金(Pt)、金(Au)、パラジウム(Pd)、水銀(Hg)、カドミウム(Cd)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)およびチタン(Ti)からなる群から選ばれる金属の1種以上と、を挙げることができる。即ち、一形態では、上記金属含有層は、第1の金属として銀を含み、第2の金属として銀以外の金属の1種以上を含むことができる。第2の金属は、白金、金、パラジウム、水銀、カドミウム、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛およびチタンからなる群から選ばれる金属の1種以上であり、白金、パラジウムおよび金からなる群から選ばれる金属の1種以上であることが好ましく、白金であることがより好ましい。上記金属含有層は、第2の金属として上記の群から選ばれる金属を、一形態では1種のみ含むことができ、他の一形態では2種以上含むことができる。
【0013】
上記金属含有層における上記金属の存在形態としては、金属の単体または合金の形態、無機化合物または有機化合物の形態、金属イオンの形態等を挙げることができる。上記金属含有層において、例えば銀は、複数の存在形態で存在し得る。この点は、他の金属についても同様である。本発明者は、銀は、その少なくとも一部が酸化によりイオン化して抗菌性を発揮することができ、このことが、銀を含む上記金属含有層が抗菌層として機能し得ることに寄与すると考えている。また、本発明者は、銀とともに上記の群から選ばれる第2の金属の1種以上を含む金属含有層において、第2の金属として銀の酸化の進行を制御する効果を持つ上記金属を選択することが、抗菌性の持続性を高めることに寄与すると考えている。ただし、本発明は、本明細書に記載の推察に限定されない。
【0014】
上記金属含有層は、一形態では、金属含有無機層であることができる。本発明および本明細書において、「無機層」とは、無機物質を含む層であり、好ましくは無機物質を主成分として含む層である。ここで主成分とは、層において最も多くを占める成分であって、通常は層の質量に対して50質量%程度~100質量%、更には90質量%程度~100質量%を占める成分である。後述の主成分についても同様である。金属含有無機層は、上記金属を、金属の単体、合金、無機化合物等の無機物質の形態で含むことができる。無機物質は、熱に対する安定性が高く熱分解し難い傾向がある点で、製造工程において加熱を伴う処理が行われることが多い眼鏡レンズに設けられる層を構成する成分として好ましい。
【0015】
<電子ビーム蒸着>
上記製造方法では、上記金属含有層を、金属粒子を担体に担持した蒸着源に電子ビームを照射することを含む電子ビーム蒸着によって形成する。かかる成膜方法を採用することによって、薄膜の金属含有層を容易に形成可能となる。また、薄膜の層を膜厚の均一性よく成膜できることは、その層が発揮する機能の向上または機能の持続性の観点から好ましい。この点からも、上記成膜方法を採用して上記金属含有層を形成することは好ましい。
【0016】
電子ビーム蒸着法は、真空中、電子銃から電子ビームを蒸着源へ照射し、蒸着源に含まれる蒸着材料を加熱して気化させ、被成膜物上に堆積させることによって蒸着膜を形成する成膜方法である。これに対し、蒸着法としては、蒸着装置内に配置した加熱手段(ヒーター等)によって装置の内部雰囲気を加熱することで蒸着材料を加熱して気化させる方法(以下、「加熱蒸着法」と呼ぶ。)もある。加熱蒸着法では、蒸着装置内に配置された被成膜物も加熱される。一方、眼鏡レンズのレンズ基材としては、後述するようにプラスチックレンズ基材が好ましいものの、プラスチックレンズ基材は高温に晒されると変形し得る。そのため、加熱蒸着法を採用してプラスチックレンズ基材上に成膜を行う場合、加熱温度はプラスチックレンズ基材の変形抑制を考慮して加熱温度を設定することが好ましい。他方、こうして設定される加熱温度が必ずしも蒸着材料に適した加熱温度ではないこともあり得るため、膜厚の均一性に優れる薄膜の蒸着膜を形成することが容易ではない場合があり得る。または、設定される加熱温度で気化可能な蒸着材料を選択すべきことになり、使用可能な蒸着材料の種類が制限され得る。これに対し、電子ビーム蒸着法では、電子ビームを蒸着源に照射することによって蒸着材料を加熱するため、上記の加熱蒸着法のように被成膜物を高温に晒すことなく蒸着膜を形成することができる。
【0017】
以下、電子ビーム蒸着法による上記金属含有層の形成方法の具体的実施形態について説明する。ただし、本発明は、下記形態に限定されるものではない。
【0018】
蒸着源としては、金属粒子を担体に担持した蒸着源が使用される。例えば、金属含有層に含まれる金属が、先に記載した第1の金属(即ち銀)と第2の金属の1種以上との組み合わせである場合、かかる蒸着源は、例えば、以下の方法によって調製することができる。
第1の金属である銀の粒子(銀粒子)を含む溶液(以下、「第1の金属の溶液」とも呼ぶ。)を準備する。かかる溶液は、例えば水溶液であることができ、銀粒子の水分散液であることができる。第1の金属の溶液における銀粒子の濃度は、例えば1000~10000ppmの範囲であることができる。本発明および本明細書において、ppmは、質量基準である。
上記溶液とは別に、第2の金属の粒子の1種以上を含む溶液(以下、「第2の金属の溶液」とも呼ぶ。)を準備する。かかる溶液は、例えば水溶液であることができ、第2の金属の粒子の水分散液であることができる。また、第2の金属の溶液として、第2の金属の粒子の1種以上を含む溶液を1種のみ使用することもでき、または、第2の金属の粒子の1種以上を含む溶液を2種以上使用することもできる。いずれの場合においても、第2の金属の溶液における第2の金属の粒子の濃度は、例えば1000~10000ppmの範囲であることができる。ここで、第2の金属の溶液が第2の金属の粒子を2種以上含む場合、上記の濃度は、それら2種以上の金属の粒子の合計についての濃度をいうものとする。
上記の各溶液としては、例えば、金属粒子の水分散液として市販されている市販品をそのまま使用することができ、または市販品を希釈して使用することもできる。
こうして上記溶液を準備した後、上記溶液を担体に含浸させる。上記の複数種の溶液は、上記担体に別々に含浸させてもよく、同時に含浸させてもよく、または複数種の溶液を混合した混合液を上記担体に含浸させてもよい。担体に含浸させる第1の金属の溶液の液量は、例えば、0.1~5.0mlの範囲とすることができる。担体に含浸させる第2の金属の溶液の液量は、例えば、0.1~5.0mlの範囲とすることができる。また、第1の金属の溶液の液量に対して、第2の金属の溶液の液量は、0.1~5倍の範囲とすることができる。ここで、第2の金属の溶液として2種以上の溶液を使用する場合、上記の液量は、それら2種以上の溶液の合計についての液量をいうものとする。
溶液を担体に含浸させる方法としては、例えば、溶液を担体に注入または噴霧する方法、担体を溶液に浸漬させる方法等を挙げることができる。
また、上記担体は、例えば多孔質体であることができ、例えば、金属、合金、セラミック製であることができる。多孔質体の具体例としては焼結フィルタを挙げることができる。焼結フィルタは、金属粉末、合金粉末、セラミック粉末等の粉末材料を焼結させた焼結体であることができる。
上記溶液を担体に含浸させた後に公知の方法で乾燥処理を行うことによって、第1の金属の粒子および第2の金属の粒子を担体に担持させることができる。
【0019】
上記の各金属粒子の粒径は、電子ビーム照射によって気化させ易いという観点から、1nm以上10nm以下であることが好ましく、1nm以上5nm以下であることがより好ましい。
【0020】
電子ビーム蒸着は、電子銃を備えた真空蒸着装置において行うことができる。かかる真空蒸着装置の一例の模式図を図1に示す。
図1に示す真空蒸着装置1の内部(一般に「真空チャンバー」と呼ばれる。)には、被成膜物11と電子銃3とが、蒸着源2を挟んで対向配置されている。被成膜物11の蒸着源側の表面は、その上に金属含有層14が成膜される部分の表面である。かかる表面は、レンズ基材表面上に金属含有層を直接設ける場合には、レンズ基材表面であり、レンズ基材上に設けられた層に上記金属含有層を積層する場合には、その層の表面である。電子ビームは、電子銃3に備えられたフィラメントに加熱電流を流すことによって発生させることができる。上記加熱電流は、使用する電子銃の構成、蒸着材料の種類等に応じて設定することができる。また、電子ビーム照射時間等の照射条件は、所望の膜厚等に応じて設定することができる。電子銃から発生した電子ビームEBが蒸着源2に照射されることにより、蒸着源に含まれる蒸着材料が加熱されて気化し、被成膜物11の表面に堆積して金属含有層14が成膜される。蒸着源として、先に記載したように第1の金属の粒子および第2の金属の粒子を担体に担持させた蒸着源を使用する場合、蒸着材料である第1の金属の粒子および第2の金属の粒子を電子ビーム照射によって加熱して気化させることにより、それら金属を含む蒸着膜として、金属含有層14を被成膜物11上に成膜することができる。真空チャンバー内は、例えば大気雰囲気であり、内部の圧力は一般に真空蒸着が行われる圧力とすればよく、例えば2×10-2Pa以下とすることができる。電子ビーム蒸着処理を行う回数は1回以上であり、同種または異なる種類の蒸着源を使用して2回以上行うこともできる。例えば、同種または異なる種類の蒸着源を使用して2回以上の電子ビーム蒸着処理を行うことによって、より膜厚が厚い金属含有層を成膜することができる。
【0021】
上記では、2種以上の金属を含む金属含有層を形成する場合を例として説明したが、上記金属含有層は、一形態では、含まれる金属が1種のみであることもできる。そのような金属含有層の形成についても上記の説明を参照できる。
【0022】
先に記載したように、既存製品の光学設計を変更することなく、または大きく変更することなく、機能性層を有する眼鏡レンズを製造することを可能にする観点からは、機能性層の存在が眼鏡レンズの反射特性および/または透過特性に及ぼす影響は少ないことが好ましい。この点から、上記金属含有層の膜厚が薄いことは好ましく、上記金属含有層の膜厚は、5nm以下であることが好ましく、4nm以下であることがより好ましく、3nm以下(例えば1nm以上3nm以下)であることが更に好ましい。本発明および本明細書において、金属含有層の膜厚は、物理膜厚である。この点は、本発明および本明細書における各種厚さについても同様である。上記金属含有層の膜厚について、2回以上の成膜処理によって同種または異なる種類の金属含有層の2層以上を積層させた眼鏡レンズについては、それら2層以上の合計の厚さをいうものとする。先に説明したように電子ビーム蒸着法によって上記金属含有層を形成することは、膜厚が上記範囲の薄膜であって膜厚の均一性に優れる蒸着膜を形成するうえで好ましい。上記金属含有層等の眼鏡レンズに含まれる各種の層の膜厚およびレンズ基材の厚さは、例えば、走査電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)等による断面観察によって求めることができる。
【0023】
以上説明した金属含有層は、一形態では眼鏡レンズのレンズ基材表面上に直接設けることができ、他の一形態ではレンズ基材表面上に1層以上の他の層を介して間接的に設けることができる。以下に、上記製造方法によって製造される眼鏡レンズに含まれ得るレンズ基材および各種の層について説明する。
【0024】
<レンズ基材>
眼鏡レンズのレンズ基材は、プラスチックレンズ基材またはガラスレンズ基材であることができる。ガラスレンズ基材は、例えば無機ガラス製のレンズ基材であることができる。レンズ基材としては、軽量で割れ難く取扱いが容易であるという観点から、プラスチックレンズ基材が好ましい。プラスチックレンズ基材としては、(メタ)アクリル樹脂をはじめとするスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR-39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコールなどのヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する硬化性組成物を硬化した硬化物(一般に透明樹脂と呼ばれる。)を挙げることができる。レンズ基材としては、染色されていないもの(無色レンズ)を用いてもよく、染色されているもの(染色レンズ)を用いてもよい。レンズ基材の屈折率は、例えば、1.60~1.75程度であることができる。ただしレンズ基材の屈折率は、上記範囲に限定されるものではなく、上記の範囲内でも、上記の範囲から上下に離れていてもよい。本発明および本明細書において、屈折率とは、波長500nmの光に対する屈折率をいうものとする。また、レンズ基材は、屈折力を有するレンズ(いわゆる度付レンズ)であってもよく、屈折力なしのレンズ(いわゆる度なしレンズ)であってもよい。
【0025】
眼鏡レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等の各種レンズであることができる。レンズの種類は、レンズ基材の両面の面形状により決定される。また、レンズ基材表面は、凸面、凹面、平面のいずれであってもよい。通常のレンズ基材および眼鏡レンズでは、物体側表面は凸面、眼球側表面は凹面である。ただし、本発明は、これに限定されるものではない。
【0026】
<眼鏡レンズに含まれ得る層>
(無機層)
上記眼鏡レンズは、レンズ基材上に無機層を有することができる。本発明および本明細書において、「無機層」とは、先に記載したように、無機物質を含む層であり、好ましくは無機物質を主成分として含む層である。主成分については、先に記載した通りである。上記無機層は、レンズ基材表面上に直接積層された層であることができ、またはレンズ基材表面上に1層以上の他の層を介して間接的に積層された層であることができる。上記の他の層としては、一般にハードコート層と呼ばれる硬化性組成物の硬化層、密着性向上のために設けられるプライマー層等の公知の層の1層以上を挙げることができる。これらの層の種類および膜厚は、特に限定されず、眼鏡レンズに望まれる機能および光学特性に応じて決定することができる。
【0027】
上記無機層は、一形態では、2層以上の無機層の多層膜であることができる。上記無機層が多層膜の場合、この多層膜の最上層の無機層(即ちレンズ基材から最も離れた位置の無機層)上に上記金属含有層を設けることができる。かかる多層膜としては、高屈折率層と低屈折率層とをそれぞれ1層以上含む多層膜を挙げることができる。かかる多層膜は、特定の波長の光もしくは特定の波長域の光の反射を防止する性質を有する反射防止膜、または特定の波長の光もしくは特定の波長域の光を反射する性質を有する反射膜であることができる。本発明および本明細書において、「高屈折率」および「低屈折率」に関する「高」、「低」とは、相対的な表記である。即ち、高屈折率層とは、同じ多層膜に含まれる低屈折率層より屈折率が高い層をいう。換言すれば、低屈折率層とは、同じ多層膜に含まれる高屈折率層より屈折率が低い層をいう。高屈折率層を構成する高屈折率材料の屈折率は、例えば1.60以上(例えば1.60~2.40の範囲)であり、低屈折率層を構成する低屈折率材料の屈折率は、例えば1.59以下(例えば1.37~1.59の範囲)であることができる。ただし上記の通り、高屈折率および低屈折率に関する「高」、「低」の表記は相対的なものであるため、高屈折率材料および低屈折率材料の屈折率は、上記範囲に限定されるものではない。
【0028】
具体的には、高屈折率層を形成するための高屈折率材料としては、酸化ジルコニウム(例えばZrO)、酸化タンタル(例えばTa)、酸化チタン(例えばTiO)、酸化アルミニウム(例えばAl)、酸化イットリウム(例えばY)、酸化ハフニウム(例えばHfO)、および酸化ニオブ(例えばNb)からなる群から選ばれる酸化物の1種または2種以上の混合物を挙げることができる。一方、低屈折率層を形成するための低屈折率材料としては、酸化ケイ素(例えばSiO)、フッ化マグネシウム(例えばMgF)およびフッ化バリウム(例えばBaF)からなる群から選ばれる酸化物またはフッ化物の1種または2種以上の混合物を挙げることができる。上記の例示では、便宜上、酸化物およびフッ化物を化学量論組成で表示したが、化学量論組成から酸素またはフッ素が欠損もしくは過多の状態にあるものも、高屈折率材料または低屈折率材料として使用可能である。
【0029】
好ましくは、高屈折率層は高屈折率材料を主成分とする膜であり、低屈折率層は低屈折率材料を主成分とする膜である。上記高屈折率材料または低屈折率材料を主成分とする成膜材料(例えば蒸着材料)を用いて成膜を行うことにより、そのような膜(例えば蒸着膜)を形成することができる。膜および成膜材料には、不可避的に混入する不純物が含まれる場合があり、また、主成分の果たす機能を損なわない範囲で他の成分、例えば他の無機物質や成膜を補助する役割を果たす公知の添加成分が含まれていてもよい。成膜は、公知の成膜方法により行うことができ、成膜の容易性の観点からは、蒸着により行うことが好ましく、真空蒸着により行うことがより好ましい。反射防止膜は、例えば、高屈折率層と低屈折率層が交互に合計3~10層積層された多層膜であることができる。高屈折率層の膜厚および低屈折率層の膜厚は、層構成に応じて決定することができる。詳しくは、多層膜に含まれる層の組み合わせ、および各層の膜厚は、高屈折率層および低屈折率層を形成するための成膜材料の屈折率と、多層膜を設けることにより眼鏡レンズにもたらしたい所望の反射特性および透過特性に基づき、公知の手法による光学設計シミュレーションにより決定することができる。また、多層膜には、導電性酸化物を主成分とする層(導電性酸化物層)、好ましくは導電性酸化物を主成分とする蒸着材料を用いる蒸着により形成された導電性酸化物の蒸着膜の1層以上が任意の位置に含まれていてもよい。
【0030】
一形態では、上記製造方法によって製造される眼鏡レンズは、上記無機層の表面上に上記金属含有層を有することができる。例えば、上記金属含有層は、上記無機層の表面上に直接積層された層であることができ、または上記無機層の表面上に1層以上の他の層を介して間接的に積層された層であることができる。他の層については、先の記載を参照できる。
【0031】
(撥水層)
上記製造方法によって製造される眼鏡レンズは、撥水層を有することができる。本発明および本明細書において、「撥水層」とは、眼鏡レンズ表面が撥水性を発揮することに寄与するか、またはこの層を有さない場合と比べてより良好な撥水性を発揮することに寄与する層をいうものとする。一形態では、上記製造方法によって製造される眼鏡レンズは、上記金属含有層の表面上に撥水層を有することができる。例えば、上記撥水層は、上記金属含有層の表面上に直接積層された層であることができ、または上記金属含有層の表面上に1層以上の他の層を介して間接的に積層された層であることができる。他の層については、先の記載を参照できる。
【0032】
上記撥水層は、撥水剤として機能し得る成膜材料を使用して成膜処理を行うことによって上記金属含有層上に積層させることができる。成膜方法としては、乾式成膜法および湿式成膜法からなる群から選択される成膜法を挙げることができる。乾式成膜法としては、物理気相成長および化学気相成長法を挙げることができ、湿式成膜法としては塗布法等を挙げることができる。物理気相成長法としては、蒸着法、スパッタリング法等を挙げることができ、蒸着法が好ましい。
【0033】
上記撥水層は、一形態ではフッ素系有機層であることができる。ここで「系」とは、「含む」の意味で用いられる。また、本発明および本明細書において、「有機層」とは、有機物質を含む層であり、好ましくは有機物質を主成分として含む層である。主成分については、先に記載した通りである。
【0034】
フッ素系有機層は、成膜材料としてフッ素系有機物質を使用して成膜処理を行うことによって上記金属含有層上に積層させることができる。フッ素系有機層の形成のために好ましい成膜法としては、乾式成膜法を挙げることができ、蒸着法がより好ましい。フッ素系有機物質は、先に記載した金属含有層の形成に使用され得る蒸着材料と比べて沸点が低い傾向があるため、加熱蒸着法の使用も好ましい。フッ素系有機物質を含む溶液を担体に含浸させた後に乾燥処理を施すことによって、フッ素系有機物質が担体に担持された蒸着源を作製することができる。蒸着源の作製方法については、金属含有層の形成に関する先の記載も適宜参照できる。
【0035】
フッ素系有機物質の一例としては、メタキシレンヘキサフルオライド(C(CF)等を挙げることができる。
【0036】
また、フッ素系有機物質として、例えば下記の一般式(1)で表されるフッ素系有機シラン化合物を挙げることもできる。
【0037】
【化1】
【0038】
上記一般式(1)中、Rfは炭素数1~16の直鎖状または分岐状パーフルオロアルキル基であり、好ましくはCF-、C-、C-である。Rは加水分解可能な基であり、例えばハロゲン原子、-OR、-OCOR、-OC(R)=C(R、-ON=C(R、-ON=CRが好ましい。更に好ましくは、塩素原子、-OCH、-OCである。ここで、Rは脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基であり、Rは水素原子または脂肪族炭化水素基(例えば低級脂肪族炭化水素基)であり、Rは炭素数3~6の二価の脂肪族炭化水素基である。Rは水素原子または一価の有機基である。上記一価の有機基は、不活性な基であることが好ましい。上記一価の有機基は、炭素数1~4の一価の炭化水素基であることがより好ましい。Xはヨウ素原子または水素原子であり、Yは水素原子またはアルキル基(例えば低級アルキル基)である。Zはフッ素原子またはトリフルオロメチル基である。a、b、c、dはそれぞれ独立に0~200の範囲の整数であり、好ましくは1~50の範囲の整数である。eは0または1である。m、nはそれぞれ独立に0~2の範囲の整数であり、好ましくは0である。pは1以上の整数であり、好ましくは1~10の範囲の整数である。
【0039】
また、一般式(1)で表されるフッ素系有機シラン化合物の分子量(重量平均分子量Mw)は特に限定されず、例えば、5×10~1×10の範囲または5×10~1×10の範囲であることができる。
【0040】
また、上記一般式(1)で示されるフッ素系有機シラン化合物は、一形態では、下記の一般式(2)で表されるフッ素系有機シラン化合物であることができる。
【0041】
【化2】
【0042】
上記一般式(2)中のR、Y、mは上記一般式(1)と同義である。qは1~50の範囲の整数であり、rは1~10の範囲の整数である。
【0043】
上記撥水層の膜厚は、例えば、30nm以下、25nm以下、20nm以下または15nm以下であることができる。また、上記撥水層の膜厚は、例えば、5nm以上または10nm以上であることができる。また、撥水層の表面において、水に対する接触角は、例えば、100°以上120°以下であることができる。
【0044】
上記製造方法では、上記金属含有層を、眼鏡レンズの物体側および眼球側のいずれか一方の任意の位置に1層以上形成することができる。例えば、上記製造方法では、上記無機層と上記撥水層との間に上記金属含有層を有する眼鏡レンズを製造することができる。この場合、上記無機層、上記金属含有層および上記撥水層を少なくとも含む積層体は、レンズ基材の少なくとも一方の表面上に形成することができ、両方の表面上に形成することもできる。例えば、眼鏡レンズの物体側に上記積層体が位置することができ、眼鏡レンズの眼球側に上記積層体が位置することもでき、眼鏡レンズの物体側および眼球側に上記積層体が位置することもできる。眼鏡レンズの両側に上記積層体が位置する場合、物体側の積層体と眼球側の積層体は、同じ積層体または異なる積層体であることができる。
【0045】
上記眼鏡レンズは、上記金属含有層が抗菌層として機能することができ、これにより抗菌性を発揮することができる。また、撥水層を有する場合、上記眼鏡レンズは撥水性を発揮することもでき、これにより、例えばレンズの水ヤケ等を防ぐことができる。上記無機層は、例えば反射防止膜として機能することにより、特定の波長の光または特定の波長域の光に対する反射防止性能を眼鏡レンズにもたらすことができる。
【実施例
【0046】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし本発明は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。
【0047】
以下において、SiO層とは、酸化ケイ素を蒸着材料として成膜された蒸着膜であり、ZrO層とは、酸化ジルコニウムを蒸着材料として形成された蒸着膜である。各蒸着材料は、不可避的に混入する不純物を除けば、記載されている酸化物のみからなる蒸着材料である。
【0048】
[実施例1]
<ハードコート層付きレンズ基材の作製>
眼鏡レンズ用モノマー(三井化学社製MR8)により製造したプラスチックレンズ基材の物体側表面(凸面)の全面に、無機酸化物粒子とケイ素化合物とを含むハードコート液をスピンコーティングによって塗布し、炉内温度100℃の加熱炉において60分間加熱硬化させることにより、膜厚3μmの単層のハードコート層を形成した。
【0049】
<多層反射防止膜の作製>
次に、上記ハードコート層を形成したレンズ基材を真空蒸着装置に入れ、上記ハードコート層表面の全面に、真空蒸着法により、「SiO層/ZrO層/SiO層/ZrO層/SiO層/ZrO層/SiO層」の合計7層(総厚:約400~600nm)が積層された多層反射防止膜を形成した。「/」の表記は、「/」の左に記載の部分と右に記載の部分が直接積層されていることを示す。この点は、以下の記載においても同様である。
こうして、「レンズ基材/ハードコート層/多層反射防止膜(無機層、無機物質の含有率:90質量%以上)」の層構成を有する眼鏡レンズを作製した。
【0050】
<金属含有層の作製>
(蒸着源の調製)
第1の金属の溶液として、粒径2~5nmの銀粒子を5000ppmの濃度で含む水分散液を準備した。
第2の金属の溶液として、粒径2~5nmの白金粒子を5000ppmの濃度で含む水分散液を準備した。
担体として、直径18mmの円盤状の焼結フィルタ(材質:SUS)を使用し、この焼結フィルタを、第1の金属溶液0.5mlを注入した後に内部温度65~75℃の大気オーブンにて1時間乾燥処理を施した。これを2回繰り返した後(第1の金属溶液の担体への合計注入量:1.0ml)、第2の金属溶液0.5mlを注入し内部温度65~75℃の大気オーブンにて1時間乾燥処理を施した。これを2回繰り返し(第2の金属溶液の担体への合計注入量:1.0ml)、銀粒子および白金粒子(蒸着材料)が焼結フィルタに担持された蒸着源を調製した。
【0051】
(電子ビーム蒸着法による金属含有層の成膜)
図1に示すように、真空蒸着装置の真空チャンバー内に、上記多層反射防止膜が形成された眼鏡レンズおよび上記蒸着源を配置した。真空チャンバー内の圧力は2×10-2Pa以下とし、電子ビーム照射条件を、電子ビーム出力(加熱電流)を38mA、電子ビーム照射時間を150秒として、電子銃から蒸着源に向かって電子ビームを照射した。こうして電子ビームを照射することによって銀粒子および白金粒子を加熱して気化させることができ、上記多層反射防止膜の表面上に銀粒子および白金粒子が堆積した蒸着膜を形成することができる。こうして、上記多層反射防止膜の表面上に金属含有層(金属含有無機層、含有金属:銀および白金、無機物質の含有率:90質量%以上)を成膜した。
【0052】
<撥水層の作製>
(蒸着源の調製)
フッ素系有機物質としてメタキシレンヘキサフルオライドを含有する溶液を準備した。
担体として、直径18mmの円盤状の焼結フィルタ(材質:SUS)を使用し、この焼結フィルタを、上記溶液0.25mlを注入した後に内部温度50℃の大気オーブンにて1時間乾燥処理を施した。
こうして、メタキシレンヘキサフルオライド(蒸着材料)が焼結フィルタに担持された蒸着源を調製した。
【0053】
(加熱蒸着法による撥水層の成膜)
図1に示すように、真空蒸着装置の真空チャンバー内に、上記金属含有層が形成された眼鏡レンズおよび上記蒸着源を配置した。
図1中の電子銃をハロゲンヒーターに代え、ハロゲンヒーターによって真空チャンバー内の内部雰囲気温度を650℃に制御し、真空チャンバー内の圧力は2×10-2Pa以下として、加熱蒸着法によって撥水層を成膜した。こうしてチャンバー内を加熱することによってメタキシレンヘキサフルオライドを加熱して気化させることができ、上記金属含有層の表面上にメタキシレンヘキサフルオライドが堆積した蒸着膜を形成することができる。こうして、上記金属含有層の表面上に膜厚10~20nmの撥水層(撥水剤:メタキシレンヘキサフルオライド)を成膜した。
【0054】
以上の工程によって、「レンズ基材/ハードコート層/多層反射防止膜(無機層)/金属含有層/撥水層(フッ素系有機層、有機物質の含有率:90質量%以上)」の層構成を有する実施例1の眼鏡レンズを作製した。
【0055】
[比較例1]
金属含有層の作製を実施しなかった点以外、実施例1と同様にして、「レンズ基材/ハードコート層/多層反射防止膜(無機層)/撥水層」の層構成を有する比較例1の眼鏡レンズを作製した。
【0056】
[実施例2]
金属含有層の作製を以下の方法によって実施した点以外、実施例1と同様にして、「レンズ基材/ハードコート層/多層反射防止膜(無機層)/金属含有層/撥水層」の層構成を有する実施例2の眼鏡レンズを作製した。
【0057】
<金属含有層の作製>
(蒸着源の調製)
第1の金属の溶液として、粒径2~5nmの銀粒子を5000ppmの濃度で含む水分散液を準備した。
第2の金属の溶液として、粒径2~5nmの白金粒子を5000ppmの濃度で含む水分散液を準備した。
担体として、直径18mmの円盤状の焼結フィルタ(材質:SUS)を使用し、この焼結フィルタを、第1の金属溶液0.5mlを注入した後に内部温度65~75℃の大気オーブンにて1時間乾燥処理を施した。これを2回繰り返した後(第1の金属溶液の担体への合計注入量:1.0ml)、第2の金属溶液0.5mlを注入し内部温度65~75℃の大気オーブンにて1時間乾燥処理を施した。これを2回繰り返し(第2の金属溶液の担体への合計注入量:1.0ml)、銀粒子および白金粒子(蒸着材料)が焼結フィルタに担持された蒸着源を調製した。
こうして、蒸着源を2つ準備した。
【0058】
(電子ビーム蒸着法による金属含有層の成膜)
図1に示すように、真空蒸着装置の真空チャンバー内に、上記多層反射防止膜が形成された眼鏡レンズおよび上記2つの蒸着源のうちの1つを配置した。真空チャンバー内の圧力は2×10-2Pa以下とし、電子ビーム照射条件を、電子ビーム出力(加熱電流)を38mA、電子ビーム照射時間を150秒として、電子銃から蒸着源に向かって電子ビームを照射した。こうして1回目の電子ビーム蒸着処理を実施した。
上記2つの蒸着源のうちの残りの1つを真空チャンバー内に配置し、1回目の電子ビーム蒸着処理と同条件で2回目の電子ビーム蒸着処理を実施した。
こうして電子ビームを照射することによって銀粒子および白金粒子を加熱して気化させることができ、上記多層反射防止膜の表面上に銀粒子および白金粒子が堆積した蒸着膜を形成することができる。
上記のように2回の電子ビーム蒸着処理を実施することにより、上記多層反射防止膜の表面上に金属含有層(金属含有無機層、含有金属:銀および白金、無機物質の含有率:90質量%以上)を成膜した。
【0059】
[反射特性および透過特性の評価]
実施例1、2、比較例1の各眼鏡レンズの物体側から、物体側表面(凸面側)の光学中心における直入射反射分光特性を測定した。
また、実施例1、2、比較例1の各眼鏡レンズの眼球側から、眼球側表面(凹面側)の光学中心における直入射反射分光特性を測定した。
測定結果から得られた波長380~780nmにおける実施例1、2の透過スペクトル、凸面側の反射スペクトル、凹面側の反射スペクトルのスペクトル形状は、比較例1の各スペクトルのスペクトル形状とほぼ一致していた。
測定結果から、視感反射率をJIS T 7334:2011にしたがい求め、視感透過率をJIS T 7333 :2005にしたがい求めた。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示されている結果から、実施例1、2の眼鏡レンズにおいて、金属含有層は眼鏡レンズの反射特性および透過特性にほとんど影響を及ぼしていないことが確認できる。
【0062】
実施例1、2の各眼鏡レンズをSEMにより断面観察したところ、金属含有層の膜厚が3nm以下(詳しくは1nm以上3nm以下)であることが確認された。上記断面観察により、膜厚の均一性に優れる金属含有層が未成膜部分を含まない連続層として形成されていることも確認された。
【0063】
[抗菌性試験]
実施例1、2、比較例1の各眼鏡レンズについて、JIS Z 2801:2012にしたがって抗菌性試験を行った。
具体的には、各眼鏡レンズから、抗菌性の初期評価、耐水性評価および耐光性評価のために、試料片を3つ切り出す。試料片のサイズは50mm×50mmとする。
初期評価は、以下の方法によって実施する。
各眼鏡レンズから切り出した試験片を、上記の各種の層を積層した側の表面を上方に向けて滅菌済みシャーレに入れる。その後、1.0×10個~4.0×10個の試験菌(黄色ブドウ球菌または大腸菌)を含む菌液0.4mlを試料の上記表面の中央部に滴下し、40mm×40mmのサイズに切断したポリエチレンフィルムで被覆する。このシャーレを相対湿度90%以上の環境に24時間置いた後の1cmあたりの生菌数を測定する。
耐水性評価は、以下の方法によって実施する。
各眼鏡レンズから切り出した試験片に対して、SIAA(抗菌製品技術協議会)の持続性試験法(2018年度版)の耐水性試験の章に記載の区分1の耐水性試験を実施した後、上記と同様の処理を行い、生菌数を測定する。
耐光性評価は、以下の方法によって実施する。
各眼鏡レンズから切り出した試験片に対して、SIAA(抗菌製品技術協議会)の持続性試験法(2018年度版)の耐水性試験の章に記載の区分1の耐光性試験を実施した後、上記と同様の処理を行い、生菌数を測定する。
【0064】
比較例1の上記の各種評価で測定された生菌数を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
実施例1について、上記の各種評価で測定された生菌数から以下の式によって抗菌活性値を求めた。
実施例2について、上記の各種評価で測定された生菌数から以下の式によって抗菌活性値を求めた。
【0067】
抗菌活性値=Ut-At
Ut:比較例1の試料片での生菌数の対数値
At:実施例1または実施例2の試料片での生菌数の対数値
【0068】
抗菌性について、SIAAでは、抗菌活性値2.0以上が抗菌効果ありと規定されている。
【0069】
実施例1の評価結果を表3に示し、実施例2の評価結果を表4に示す。
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【0072】
最後に、前述の各態様を総括する。
【0073】
一態様によれば、眼鏡レンズの製造方法であって、上記眼鏡レンズは金属含有層を有し、上記金属含有層を金属粒子を担体に担持した蒸着源に電子ビームを照射することを含む電子ビーム蒸着によって形成することを含む眼鏡レンズの製造方法が提供される。
【0074】
一形態では、上記金属粒子は、銀粒子を含むことができる。
【0075】
一形態では、上記金属粒子は、白金粒子、金粒子、パラジウム粒子、水銀粒子、カドミウム粒子、コバルト粒子、ニッケル粒子、銅粒子、亜鉛粒子およびチタン粒子からなる群から選ばれる金属粒子の1種以上を更に含むことができる。
【0076】
一形態では、上記製造方法は、上記金属粒子を含む溶液を上記担体に含浸させた後に乾燥処理を行うことによって、上記担体に上記金属粒子を担持させることを更に含むことができる。
【0077】
一形態では、上記担体は、多孔質体であることができる。
【0078】
一形態では、上記多孔質体は、焼結フィルタであることができる。
【0079】
一形態では、上記金属含有層は、金属含有無機層であることができる。
【0080】
一形態では、上記金属含有層の膜厚は、5nm以下であることができる。
【0081】
本明細書に記載の各種態様および各種形態は、任意の組み合わせで2つ以上を組み合わせることができる。
【0082】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の一態様は、眼鏡レンズおよび眼鏡の製造分野において有用である。
図1