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特許7203220ルテニウム系スパッタリングターゲット及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-28
(45)【発行日】2023-01-12
(54)【発明の名称】ルテニウム系スパッタリングターゲット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20230104BHJP
【FI】
C23C14/34 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021529939
(86)(22)【出願日】2020-06-10
(86)【国際出願番号】 JP2020022829
(87)【国際公開番号】W WO2021002167
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2021-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2019122996
(32)【優先日】2019-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000136561
【氏名又は名称】株式会社フルヤ金属
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】丸子 智弘
(72)【発明者】
【氏名】荒川 等
(72)【発明者】
【氏名】大友 将平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-158612(JP,A)
【文献】特開平11-061393(JP,A)
【文献】特開2000-178722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造組織を有するルテニウム系スパッタリングターゲットであって、前記スパッタリングターゲットのスパッタ面が少なくとも2種以上の領域を有し、前記領域におけるX線回折のメインピークによって特定される結晶面が相互に異なり、かつ、
(条件1)又は(条件2)において、前記スパッタリングターゲットのスパッタ面方向又はターゲット厚さ方向のX線回折による第2ピークと第3ピークの相対積分強度の合計が、メインピークの相対積分強度よりも多くなる箇所が40%以上存在することを特徴とするルテニウム系スパッタリングターゲット。
(条件1)
スパッタ面方向:前記スパッタリングターゲットが、中心O、半径rの円板状ターゲットであり、かつ、X線回折の測定箇所を、中心Oを交点とする直交する仮想十字線上であって、中心Oの1箇所、中心Oから0.45r離れた合計4箇所、及び、中心Oから0.9r離れた合計4箇所、の総合計9箇所とする。
ターゲット厚さ方向:仮想十字線のうち、いずれか一つの線を通る断面を形成し、該断面が縦t(すなわちターゲットの厚さがt)、横2rの長方形であり、かつ、X線回折の測定箇所を、中心Oを通る垂直横断線上の中心X及び中心Xから上下に0.45t離れた合計3箇所(a地点、X地点、b地点という。)、前記断面上であってa地点から左右の側辺に向って0.9r離れた合計2箇所、X地点から左右の側辺に向って0.9r離れた合計2箇所、及び、b地点から左右の側辺に向って0.9r離れた合計2箇所、の総合計9箇所を測定地点とする。
(条件2)
スパッタ面方向:前記スパッタリングターゲットが、縦の長さがL1であり、横の長さがL2である長方形(但し、L1とL2とが等しい正方形を含む。或いは、長方形には長さJ、周長Kの円筒形の側面を展開した長方形が含まれ、この形態において、L2が長さJに対応し、L1が周長Kに対応し、長さJと周長KにはJ>K、J=K又はJ<Kの関係が成立する。)であり、かつ、X線回折の測定箇所を、重心Oを交点として直交する仮想十字線であって、仮想十字線が長方形の辺に直交するとき、重心Oの1箇所、仮想十字線上であって重心Oから縦方向に0.25L1の距離を離れた合計2箇所、重心Oから横方向に0.25L2の距離を離れた合計2箇所、重心Oから縦方向に0.45L1の距離を離れた合計2箇所、及び、重心Oから横方向に0.45L2の距離を離れた合計2箇所、の総合計9箇所とする。
ターゲット厚さ方向:仮想十字線のうち、縦L1と横L2のいずれか一方の辺と平行な線を通る断面を形成し、一方の辺が横L2の場合、該断面が縦t(すなわち前記ターゲットの厚さがt)、横L2の長方形であり、かつ、X線回折の測定箇所を、重心Oを通る垂直横断線上の中心X及び中心Xから上下に0.45t離れた合計3箇所(a地点、X地点、b地点という。)、前記断面上であってa地点から左右の側辺に向って0.45L2離れた合計2箇所、X地点から左右の側辺に向って0.45L2離れた合計2箇所、及び、b地点から左右の側辺に向って0.45L2離れた合計2箇所、の総合計9箇所を測定地点とする。
【請求項2】
前記スパッタリングターゲットの側面が少なくとも2種以上の領域を有し、前記領域におけるX線回折のメインピークによって特定される結晶面が相互に異なることを特徴とする請求項1に記載のルテニウム系スパッタリングターゲット。
【請求項3】
(条件1)又は(条件2)において、前記スパッタリングターゲットのスパッタ面方向又はターゲット厚さ方向のX線回折による第2ピーク、第3ピーク及び第4ピークの相対積分強度の合計が、メインピークの相対積分強度よりも多くなる箇所が75%以上存在することを特徴とする請求項1又は2に記載のルテニウム系スパッタリングターゲット。
【請求項4】
(条件1)又は(条件2)において、前記スパッタリングターゲットのスパッタ面方向又はターゲット厚さ方向のX線回折によって(002)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数と、(101)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数との比[(101)/(002)]が、20/100~70/100の範囲内にあることを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載のルテニウム系スパッタリングターゲット。
【請求項5】
(条件1)又は(条件2)において、前記スパッタリングターゲットのスパッタ面方向のX線回折によって(002)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数と、(103)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数との比[(103)/(002)]が、10/100~40/100の範囲内にあることを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載のルテニウム系スパッタリングターゲット。
【請求項6】
(条件1)又は(条件2)において、前記スパッタリングターゲットのスパッタ面方向のX線回折によって(002)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数と、(112)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数との比[(112)/(002)]が、10/100~30/100の範囲内にあることを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載のルテニウム系スパッタリングターゲット。
【請求項7】
(条件1)又は(条件2)において、前記スパッタリングターゲットのターゲット厚さ方向のX線回折によって(002)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数と、(110)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数との比[(110)/(002)]が、15/100~50/100の範囲内にあることを特徴とする請求項1~6のいずれか一つに記載のルテニウム系スパッタリングターゲット。
【請求項8】
ターゲットの形状が、円筒形状であるか、φ250mm以上の円板形状であるか、少なくとも1辺が250mm以上の長方形の板形状であるか、または、1辺が250mm以上の正方形の板形状であり、かつ、ルテニウム系スパッタリングターゲットが溶接部または摩擦攪拌接合部を備えていることを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載のルテニウム系スパッタリングターゲット。
【請求項9】
少なくとも、ルテニウム系ランダム異方性結晶の種板材上にルテニウム系原料を載せ、該種板材の形状を崩さずに前記ルテニウム系原料を溶解し、その後冷却して前記種板材よりも肉厚の板材にする第1工程と、第1工程で得られた板材上にルテニウム系原料を載せ、該板材の形状を崩さずに前記ルテニウム系原料を溶解し、その後冷却して前記板材よりもさらに肉厚の板材にする第2工程とを有することを特徴とするルテニウム系スパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、近年開発が進んでいる不揮発性RAMであるMRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)などの電極に用いられるRu薄膜を形成するためのルテニウム(Ru)系スパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MRAMに使用されるRu薄膜の厚さは数nmと極めて薄く、膜の表面に不純物であるパーティクルが付着すると製品の歩留りが大きく低下する。したがってデバイスの作製においてはこのパーティクルを限りなくゼロにすることが望ましい。
【0003】
また、ウェハーの径は大径化の傾向をたどっており、現在ではφ300mmのウェハーが標準となると見られている。そして、この大径化したウェハーの面内に均一にnmオーダーの膜を付けることが求められている。すなわち、Ru膜にはパーティクルの付着が抑制された低パーティクル性と並んで、膜厚分布が面内において均一となるような膜厚均一性及び膜の密度、微構造などの性状が面内において均一となるような面均一性も製品歩留りを向上させるためには必須である。
【0004】
Ruは六方最密充填構造をとり、鍛造や圧延による加工が難しい。したがって、これまでRuターゲットの作製には粉末焼結法による製法がとられてきた。しかしながらRuは融点が高く、焼結には高いエネルギーを要し、熱間等方圧プレス法(HIP)等の高密度化処理を行ってもターゲット中の空隙(ボイド)をゼロにすることは難しい。また、不純物の介在によっても高温によるガス化や焼結不良部分が発生し、密度の低下を引き起こす。また、六方最密充填構造をとるRuは、研削加工によって粒界からの結晶粒の脱離(チッピング)が起きやすく、ターゲットの表面には多数のチッピングが残りやすい。スパッタ中に、このようなボイド、不純物又はターゲット表面のチッピングが起点となって、アーキングと呼ばれる一種の異常放電が発生しやすい。アーキングが発生するとパーティクルが発生することが知られている。
【0005】
また、次世代の半導体リソグラフィ技術として、極端紫外線リソグラフィ(EUV)の開発が進んでいる。この技術ではリソグラフィの反射膜のマスク材としてRu及びRu合金が数多く検討されている(例えば、特許文献1を参照。)。また、DRAMの配線材料としてRu膜及びRu合金膜を検討する動きが始まっている。デバイスに使用されるRu膜及びRu合金膜にも、例えばEUVではφ200mmを超えるサイズ、DRAMやReRAMではφ400mmを超えるサイズの大径スパッタリングターゲットを用いたとしても低パーティクル性、高い膜厚均一性及び高い面均一性が求められる場合がある。Ruの融点は2310℃と全金属中でも高い部類に属し、焼結温度は比較的高い。したがって既存の焼結技術ではφ200mmを超えるサイズにおけるスパッタリングターゲットの高密度化を達成することが難しく、多数のボイドが残りやすく、スパッタリングターゲット内での密度ムラが発生しやすいため、パーティクル発生の起点が多数発生することとなり、結果として、Ru膜及びRu合金膜において低パーティクル性を得ることは困難となる。また、粉末焼結法では一般的に一軸加圧プレスを用いるため、焼結後の組織の異方性の程度が高くなり、結果、スパッタが進行するとスパッタ面内でのスパッタリングレートの差により、高い膜厚均一性及び高い面均一性を得ることが困難となる。また、粉末焼結法によって得られたターゲットを多数溶接することで大径のスパッタリングターゲットを得ることも可能ではある。しかし、一般に焼結体のボイド中にはガス成分が残存しており、溶接の際にそのガスが取り込まれることで溶接欠陥を引き起こすためパーティクルが発生しやすく好ましくない。また母材の焼結体と溶接部では金属組織が大きく異なるため、スパッタリングレートの差によるスパッタ膜の膜厚均一性及び面均一性の悪化が考えられる。
【0006】
そこで、粉末焼結法ではなく、溶解法によって溶解Ruターゲットを得る技術が開示されている(例えば、特許文献2を参照。)。さらに、溶解法によって2回以上溶解、凝固を繰り返してインゴットを作り、インゴットの表面及び裏面を研削して板材を作り、この板材を複数枚接合して薄くて面積の大きい平板を製造する技術が開示されている(例えば、特許文献3を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017‐44892号公報
【文献】特開2000‐178722号公報
【文献】特開平11-61393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
溶解法を採用する特許文献2及び特許文献3によれば、溶解鋳造組織を有するスパッタリングターゲットを得ることができる。しかし、溶解法で得られたRuスパッタリングターゲットは、X線回折において、粉末Ruと比較して(002)回折ピーク強度が相対的に強くなる。すなわち、スパッタリングターゲットの組織の異方性の程度が高い。したがって、溶解法で得られたRuスパッタリングターゲットを用いてRu膜を成膜すると、低パーティクル性を備えているものの、スパッタが進行するとスパッタ面内でのスパッタリングレートの差により高い膜厚均一性と面均一性が得られにくいという問題があった。
【0009】
そこで本開示は、ボイドが無く、高純度であり、かつ、組織の異方性の程度が低いRu系スパッタリングターゲットであって、低パーティクル性、高い膜厚均一性及び高い面均一性を有するRu系膜を成膜することが可能なRu系スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、鋭意検討した結果、鋳造組織を有するRu系スパッタリングターゲットにおいて、Ru系結晶粒の組織の異方性が相互に異なる領域をターゲット面内方向に分布させることによって上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明に係るルテニウム系スパッタリングターゲットは、鋳造組織を有するルテニウム系スパッタリングターゲットであって、前記スパッタリングターゲットのスパッタ面が少なくとも2種以上の領域を有し、前記領域におけるX線回折のメインピークによって特定される結晶面が相互に異なり、かつ、(条件1)又は(条件2)において、前記スパッタリングターゲットのスパッタ面方向又はターゲット厚さ方向のX線回折による第2ピークと第3ピークの相対積分強度の合計が、メインピークの相対積分強度よりも多くなる箇所が40%以上存在することを特徴とする。組織の異方性の程度がより低いターゲットとなる。
(条件1)
スパッタ面方向:前記スパッタリングターゲットが、中心O、半径rの円板状ターゲットであり、かつ、X線回折の測定箇所を、中心Oを交点とする直交する仮想十字線上であって、中心Oの1箇所、中心Oから0.45r離れた合計4箇所、及び、中心Oから0.9r離れた合計4箇所、の総合計9箇所とする。
ターゲット厚さ方向:仮想十字線のうち、いずれか一つの線を通る断面を形成し、該断面が縦t(すなわちターゲットの厚さがt)、横2rの長方形であり、かつ、X線回折の測定箇所を、中心Oを通る垂直横断線上の中心X及び中心Xから上下に0.45t離れた合計3箇所(a地点、X地点、b地点という。)、前記断面上であってa地点から左右の側辺に向って0.9r離れた合計2箇所、X地点から左右の側辺に向って0.9r離れた合計2箇所、及び、b地点から左右の側辺に向って0.9r離れた合計2箇所、の総合計9箇所を測定地点とする。
(条件2)
スパッタ面方向:前記スパッタリングターゲットが、縦の長さがL1であり、横の長さがL2である長方形(但し、L1とL2とが等しい正方形を含む。或いは、長方形には長さJ、周長Kの円筒形の側面を展開した長方形が含まれ、この形態において、L2が長さJに対応し、L1が周長Kに対応し、長さJと周長KにはJ>K、J=K又はJ<Kの関係が成立する。)であり、かつ、X線回折の測定箇所を、重心Oを交点として直交する仮想十字線であって、仮想十字線が長方形の辺に直交するとき、重心Oの1箇所、仮想十字線上であって重心Oから縦方向に0.25L1の距離を離れた合計2箇所、重心Oから横方向に0.25L2の距離を離れた合計2箇所、重心Oから縦方向に0.45L1の距離を離れた合計2箇所、及び、重心Oから横方向に0.45L2の距離を離れた合計2箇所、の総合計9箇所とする。
ターゲット厚さ方向:仮想十字線のうち、縦L1と横L2のいずれか一方の辺と平行な線を通る断面を形成し、一方の辺が横L2の場合、該断面が縦t(すなわち前記ターゲットの厚さがt)、横L2の長方形であり、かつ、X線回折の測定箇所を、重心Oを通る垂直横断線上の中心X及び中心Xから上下に0.45t離れた合計3箇所(a地点、X地点、b地点という。)、前記断面上であってa地点から左右の側辺に向って0.45L2離れた合計2箇所、X地点から左右の側辺に向って0.45L2離れた合計2箇所、及び、b地点から左右の側辺に向って0.45L2離れた合計2箇所、の総合計9箇所を測定地点とする。
【0011】
本発明に係るルテニウム系スパッタリングターゲットでは、前記スパッタリングターゲットの側面が少なくとも2種以上の領域を有し、前記領域におけるX線回折のメインピークによって特定される結晶面が相互に異なることが好ましい。ターゲットの厚さ方向においても組織の異方性の程度が低いターゲットとなる。
【0013】
本発明に係るルテニウム系スパッタリングターゲットでは、(条件1)又は(条件2)において、前記スパッタリングターゲットのスパッタ面方向又はターゲット厚さ方向のX線回折による第2ピーク、第3ピーク及び第4ピークの相対積分強度の合計が、メインピークの相対積分強度よりも多くなる箇所が75%以上存在することが好ましい。組織の異方性の程度がより低いターゲットとなる。
【0014】
本発明に係るルテニウム系スパッタリングターゲットでは、(条件1)又は(条件2)において、前記スパッタリングターゲットのスパッタ面方向又はターゲット厚さ方向のX線回折によって(002)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数と、(101)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数との比[(101)/(002)]が、20/100~70/100の範囲内にあることが好ましい。組織の異方性の程度がより低いターゲットとなる。
【0015】
本発明に係るルテニウム系スパッタリングターゲットでは、(条件1)又は(条件2)において、前記スパッタリングターゲットのスパッタ面方向のX線回折によって(002)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数と、(103)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数との比[(103)/(002)]が、10/100~40/100の範囲内にあることが好ましい。組織の異方性の程度がより低いターゲットとなる。
【0016】
本発明に係るルテニウム系スパッタリングターゲットでは、(条件1)又は(条件2)において、前記スパッタリングターゲットのスパッタ面方向のX線回折によって(002)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数と、(112)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数との比[(112)/(002)]が、10/100~30/100の範囲内にあることが好ましい。組織の異方性の程度がより低いターゲットとなる。
【0017】
本発明に係るルテニウム系スパッタリングターゲットでは、(条件1)又は(条件2)において、前記スパッタリングターゲットのターゲット厚さ方向のX線回折によって(002)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数と、(110)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数との比[(110)/(002)]が、15/100~50/100の範囲内にあることが好ましい。組織の異方性の程度がより低いターゲットとなる。
【0018】
本発明に係るルテニウム系スパッタリングターゲットでは、ターゲットの形状が、円筒形状であるか、φ250mm以上の円板形状であるか、少なくとも1辺が250mm以上の長方形の板形状であるか、または、1辺が250mm以上の正方形の板形状であり、かつ、ルテニウム系スパッタリングターゲットが溶接部または摩擦攪拌接合部を備えている形態を含む。
【0019】
本発明に係るルテニウム系スパッタリングターゲットの製造方法は、少なくとも、ルテニウム系ランダム異方性結晶の種板材上にルテニウム系原料を載せ、該種板材の形状を崩さずに前記ルテニウム系原料を溶解し、その後冷却して前記種板材よりも肉厚の板材にする第1工程と、第1工程で得られた板材上にルテニウム系原料を載せ、該板材の形状を崩さずに前記ルテニウム系原料を溶解し、その後冷却して前記板材よりもさらに肉厚の板材にする第2工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、ボイドが無く、高純度であり、かつ、組織の異方性の程度が低いRu系スパッタリングターゲットであって、低パーティクル性、高い膜厚均一性及び高い面均一性を有するRu系膜を成膜することが可能なRu系スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態に係るルテニウム系スパッタリングターゲットのスパッタ面の領域の概念を説明するための図である。
図2】A-A断面における領域の概念を説明するための図である。
図3】円板状ターゲットのスパッタ面方向におけるX線回折の測定箇所を示す概略図である。
図4】B‐B断面で示される円板状ターゲットのターゲット厚さ方向におけるX線回折の測定箇所を示す概略図である。
図5】正方形の板状ターゲットのスパッタ面方向におけるX線回折の測定箇所を示す概略図である。
図6】C‐C断面で示される正方形の板状ターゲットのターゲット厚さ方向におけるX線回折の測定箇所を示す概略図である。
図7】円筒形状のターゲットの測定箇所を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以降、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0023】
本実施形態に係るルテニウム系スパッタリングターゲットは、鋳造組織を有するルテニウム系スパッタリングターゲットであって、前記スパッタリングターゲットのスパッタ面が少なくとも2種以上の領域を有し、前記領域におけるX線回折のメインピークによって特定される結晶面が相互に異なる。本実施形態に係るルテニウム系スパッタリングターゲットは、いわゆる溶解法によって得られたターゲットであるため、鋳造組織を有し、粉末焼結法で得られたターゲットと比較して、ボイドが無く、高純度である。ボイドについては、例えば、50mm×50mmの視野における顕微鏡観察で1個以下である。また、純度に関しては、ガス元素の含有が極めて少なく、例えば、酸素、窒素や水素などのガス元素の含有率は50ppm未満である。そして、ターゲットは、鍛造や圧延による加工が行なわれずに表面の研削によって形が整えられるため、鋳造組織となっている。
【0024】
次に図1を参照して、「領域」の概念を説明する。まず、図1において、スパッタ面の領域R1~R8を示した。各領域の境界は点線で示しているが、本実施形態に係るルテニウム系スパッタリングターゲットにおいて明確な境界線を目視できるわけではない。本実施形態に係るルテニウム系スパッタリングターゲット100では、スパッタ面において、場所を変えてX線回折を測定するとX線回折のメインピークによって特定される結晶面(以降、単に結晶面ということがある。)が数通り出現する。同種の結晶面が出現する範囲を囲った部分が、例えば領域R1であり、その隣には領域R1における結晶面とは異なる結晶面が出現していてその範囲を囲った部分が例えば領域R3である。同様に領域R3の隣には領域R3における結晶面とは異なる結晶面が出現していてその範囲を囲った部分が例えば領域R7である。領域R2、R4、R5、R6及びR8においても相互に同様の関係が成立する。領域R1~R8の各境界は、その境界を挟む2つの結晶面が相互に異なることを示しているにすぎず、領域R1~R8の結晶面がすべて相互に異なる、すなわち、8通りのメインピークが出現するというわけではない。例えば、上記の領域R1、領域R3及び領域R7の関係でいえば、領域R1と領域R7の結晶面が同種である形態を包含する。これについて領域R2、R4、R5、R6及びR8においても相互に同様の関係が成立する。このように、スパッタ面の領域R1~R8は、結晶面の種類によって区画化した仮想的な領域であり、X線回折のメインピークによって特定される結晶面が相互に異なる領域である。従来の溶解法によって作製されたルテニウム系スパッタリングターゲットでは、X線回折でスパッタ面のどこを測定しても同一のメインピーク(hkl)の結晶面が得られる。具体的には、(002)が得られる。例えば特許文献2の明細書段落0014においても(002)回折ピークを測定している。一方、図1の概念図で説明したように本実施形態に係るルテニウム系スパッタリングターゲットでは、スパッタ面が少なくとも2種以上の領域を有し、領域におけるX線回折のメインピークによって特定される結晶面が相互に異なる。なお、図1では、スパッタ面の領域はR1~R8の8つを示したが、これは例示であり、本実施形態は図1の形態に制限されることはない。
【0025】
本実施形態において、ルテニウム系スパッタリングターゲットの組成は、ルテニウム又はルテニウム合金である。いずれにおいても、ガス元素が50ppm以下であることが好ましく、30ppm以下であることがより好ましい。また、ルテニウム合金は、例えば、Ru‐Nb合金、Ru‐Zr合金、Ru‐B合金である。ルテニウム合金において、Nb、Zr、BなどのRu以外の金属の含有率は、Ru‐Nb合金であるとき、Nb元素が金属元素比率で40原子%以下であることが好ましく、30原子%以下であることがより好ましい。Nb元素の含有率の下限は、例えば0.1原子%である。Ru‐Zr合金であるとき、Zr元素が金属元素比率で40原子%以下であることが好ましく、30原子%以下であることがより好ましい。Zr元素の含有率の下限は、例えば0.1原子%である。Ru‐B合金であるとき、B元素が金属元素比率で40原子%以下であることが好ましく、30原子%以下であることがより好ましい。B元素の含有率の下限は、例えば0.1原子%である。
【0026】
本実施形態において、X線回折におけるメインピークの考え方は次の通りである。ルテニウムが六方最密充填構造であり、メインピーク、第二ピーク、第三ピーク及び第四ピークが少なくとも出現する。スパッタ面の領域R1~R8のそれぞれにおいて、複数の結晶粒(いずれも六方最密充填構造)が露出し、それらの結晶粒の向きが単一方向ではないので、メインピークは結晶粒それぞれに基づくX線回折の各ピークの合算で決まる。すなわち、メインピークの情報からは各領域内において結晶粒の大多数が向いている方向が判別できる。
【0027】
本実施形態において、スパッタリングターゲットの側面が少なくとも2種以上の領域を有し、領域におけるX線回折のメインピークによって特定される結晶面が相互に異なることが好ましい。図2を参照して、スパッタリングターゲット100の側面における「領域」の概念を説明する。ここでスパッタリングターゲットの側面とは、通常、研削して表面が整えられるため、研削前のターゲットを基準にすれば、「断面」に相当する。図1のA-A断面をスパッタリングターゲットの側面の例として説明する。図2において、側面(断面)の領域R1、R4、R6~R10を示した。図1の場合と同様に、各領域の境界は点線で示しているが、明確な境界線を目視できるわけではない。本実施形態に係るルテニウム系スパッタリングターゲットでは、側面において、場所を変えてX線回折を測定するとX線回折のメインピークによって特定される結晶面(以降、単に結晶面ということがある。)が数通り出現する。同種の結晶面が出現する範囲を囲った部分が、例えば領域R1であり、その隣には領域R1における結晶面とは異なる結晶面が出現していてその範囲を囲った部分が例えば領域R4である。同様に領域R4の隣には領域R4における結晶面とは異なる結晶面が出現していてその範囲を囲った部分が例えば領域R6である。領域R7~R10においても相互に同様の関係が成立する。領域R1、R4、R6~R10の各境界は、その境界を挟む2つの結晶面が相互に異なることを示しているにすぎず、領域R1、R4、R6~R10の結晶面がすべて相互に異なる、すなわち、7通りのメインピークが出現するというわけではない。各領域の結晶面についての概念は、スパッタ面における領域R1~R8の場合と同様である。なお、図2では、スパッタ面の領域はR1、R4、R6~R10の7つを示したが、これは例示であり、本実施形態は図2の形態に制限されることはない。
【0028】
本実施形態では、例えば、スパッタ面の少なくとも2箇所をX線回折で測定し、X線回折のメインピークによって特定される結晶面が2種類以上出現した場合には、スパッタリングターゲットのスパッタ面が少なくとも2種以上の領域を有し、前記領域におけるX線回折のメインピークによって特定される結晶面が相互に異なることに該当することとなる。同様に、ターゲットの側面の少なくとも2箇所をX線回折で測定し、X線回折のメインピークによって特定される結晶面が2種類以上出現した場合には、スパッタリングターゲットの側面が少なくとも2種以上の領域を有し、前記領域におけるX線回折のメインピークによって特定される結晶面が相互に異なることに該当することとなる。
【0029】
本実施形態では、スパッタリングターゲットにおいて、X線回折のメインピークによって特定される結晶面が2種類以上出現したか否かの判別を容易とするために、X線回折において、次の(条件1)及び(条件2)を満たすか否かで判断してもよい。
【0030】
(条件1)
(スパッタ面方向)
図3に、円板状ターゲットのスパッタ面方向におけるX線回折の測定箇所を示す。スパッタリングターゲット200は、中心O、半径rの円板状ターゲットである。X線回折の測定箇所は、中心Oを交点とする直交する仮想十字線(L)上であって、中心Oの1箇所(S1)、中心Oから0.45r離れた合計4箇所(S3、S5、S6及びS8)、及び、中心Oから0.9r離れた合計4箇所(S2、S4、S7及びS9)、の総合計9箇所とする。
(ターゲット厚さ方向)
図4に、B‐B断面で示される円板状ターゲット200のターゲット厚さ方向におけるX線回折の測定箇所を示す。図3に示した仮想十字線(L)のうち、いずれか一つの線を通る断面を形成する。この断面は、縦t(すなわちターゲットの厚さがt)、横2rの長方形である。そして、X線回折の測定箇所を、図3に示した中心Oを通る垂直横断線上の中心X(C1)及び中心Xから上下に0.45t離れた合計3箇所(a地点(C4)、X地点(C1)、b地点(C5)という。)、前記断面上であってa地点から左右の側辺に向って0.9r離れた合計2箇所(C6,C7)、X地点から左右の側辺に向って0.9r離れた合計2箇所(C2,C3)、及び、b地点から左右の側辺に向って0.9r離れた合計2箇所(C8,C9)、の総合計9箇所を測定地点とする。
【0031】
(条件2)
(スパッタ面方向)
スパッタリングターゲットが、縦の長さがL1であり、横の長さがL2である長方形(但し、L1とL2とが等しい正方形を含む。)のターゲットである。図5を参照しながら説明する。図5ではスパッタリングターゲット300がL1=L2である形態を示している。X線回折の測定箇所は、重心Oを交点として直交する仮想十字線(Q)であって、仮想十字線が長方形(又は正方形)の辺に直交するとき、重心Oの1箇所(P1)、仮想十字線上であって重心Oから縦方向に0.25L1の距離を離れた合計2箇所(P6,P8)、重心Oから横方向に0.25L2の距離を離れた合計2箇所(P3,P5)、重心Oから縦方向に0.45L1の距離を離れた合計2箇所(P7,P9)、及び、重心Oから横方向に0.45L2の距離を離れた合計2箇所(P2,P4)、の総合計9箇所とする。
なお、スパッタリングターゲットが長方形の場合、辺の長さに関係なくL1、L2を適宜選択できる。
(ターゲット厚さ方向)
図6に、C‐C断面で示される板状ターゲット300のターゲット厚さ方向におけるX線回折の測定箇所を示す。図5に示した仮想十字線(Q)のうち、L2(ただし、図5ではL2とL1とは長さが等しい。)と平行な線を通る断面を形成する。図6では、図5のL2と平行であって重心Xを通る線の断面を示した。この断面が縦t(すなわち前記ターゲットの厚さがt)、横L2の長方形であり、かつ、X線回折の測定箇所を、重心Oを通る垂直横断線上の中心X(D1)及び中心Xから上下に0.45t離れた合計3箇所(a地点(D4)、X地点(D1)、b地点(D5)という。)、前記断面上であってa地点から左右の側辺に向って0.45L2離れた合計2箇所(D6,D7)、X地点から左右の側辺に向って0.45L2離れた合計2箇所(D2,D3)、及び、b地点から左右の側辺に向って0.45L2離れた合計2箇所(D8,D9)、の総合計9箇所を測定地点とする。
【0032】
(円筒形状のスパッタリングターゲット)
スパッタリングターゲットが円筒形状の場合は、円筒の側面がスパッタ面であり、展開図は長方形(正方形を含む。)となることから、(条件1)及び(条件2)について図5及び図6の場合と同様に考えることができる。長方形には長さJ、周長Kの円筒形の側面を展開した長方形が含まれ、この形態において、L2が長さJに対応し、L1が周長Kに対応し、長さJと周長KにはJ>K、J=K又はJ<Kの関係が成立する。図7に円筒形状のターゲット400の測定箇所を説明するための概念図を示した。スパッタリングターゲット400が、高さ(長さ)J、胴の周長がKの円筒形状の場合、E‐E断面と、当該断面が両端になるようにD-D展開面とを考える。まず、ターゲット厚さ方向のX線回折の測定箇所は、E-E断面において、図6と同様に考える。すなわち、円筒材の高さJが図6のL2に対応し、円筒材の厚さが図6の厚さtに対応すると考えて、X線回折の測定箇所とする。また、スパッタ面方向のX線回折の測定箇所は、D-D展開面において、図5と同様に考える。すなわち、円筒材の高さJが図5のL2(ただし、図5では、L1とL2とは長さが等しい。)に対応し、円筒材の胴の周長Kが図5のL1に対応すると考えて、X線回折の測定箇所とする。
【0033】
本実施形態では、ターゲットの形状が、円筒形状であるか、φ250mm以上の円板形状であるか、少なくとも1辺が250mm以上の長方形の板形状であるか、または、1辺が250mm以上の正方形の板形状であり、かつ、溶接部または摩擦攪拌接合部を有することが好ましい。大型ターゲットにおいても低パーティクル性、高い膜厚均一性及び高い面均一性を有するRu系膜を成膜することができる。ターゲットの形状が、円筒形状である場合、例えば高さは500~2500mm、断面の円の半径は100~200mmであることが好ましい。溶接部は、ターゲット板を接合して大型円筒形状部材に加工するときに形成されるものであり、電子ビーム溶接又はアーク溶接により形成することが好ましい。摩擦攪拌接合部も同様にターゲット板を接合して大型円筒形状部材に加工するときに形成されるものであり、摩擦攪拌接合により形成されることが好ましい。例えば、特許第6491859号に記載の技術を適用してもよい。
【0034】
本実施形態に係るRu系スパッタリングターゲットは、(条件1)又は(条件2)において、X線回折のピークの強度関係を有することがターゲットにおける組織の異方性の程度が低いという点で好ましい。下記の(1)~(6)の少なくともいずれか一つを満たす場合、組織の異方性の程度が低いといえる。
(1)スパッタリングターゲットのスパッタ面方向又はターゲット厚さ方向のX線回折による第2ピークと第3ピークの相対積分強度の合計が、メインピークの相対積分強度よりも多くなる箇所が40%以上存在する。
(2)スパッタリングターゲットのスパッタ面方向又はターゲット厚さ方向のX線回折による第2ピーク、第3ピーク及び第4ピークの相対積分強度の合計が、メインピークの相対積分強度よりも多くなる箇所が75%以上存在する。
(3)スパッタリングターゲットのスパッタ面方向又はターゲット厚さ方向のX線回折によって(002)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数と、(101)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数との比[(101)/(002)]が、20/100~70/100の範囲内にある。
(4)スパッタリングターゲットのスパッタ面方向のX線回折によって(002)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数と、(103)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数との比[(103)/(002)]が、10/100~40/100の範囲内にある。
(5)スパッタリングターゲットのスパッタ面方向のX線回折によって(002)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数と、(112)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数との比[(112)/(002)]が、10/100~30/100の範囲内にある。
(6)スパッタリングターゲットのターゲット厚さ方向のX線回折によって(002)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数と、(110)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数との比[(110)/(002)]が、15/100~50/100の範囲内にある。
【0035】
(Ru系スパッタリングターゲットの製造方法)
本実施形態に係るRu系スパッタリングターゲットの製造方法は、少なくとも、ルテニウム系ランダム異方性結晶の種板材上にルテニウム系原料を載せ、該種板材の形状を崩さずに前記ルテニウム系原料を溶解し、その後冷却して前記種板材よりも肉厚の板材にする第1工程と、第1工程で得られた板材上にルテニウム系原料を載せ、該板材の形状を崩さずに前記ルテニウム系原料を溶解し、その後冷却して前記板材よりもさらに肉厚の板材にする第2工程とを有する。第2工程に続いて、第2工程で得られた板材上にルテニウム系原料を載せ、該板材の形状を崩さずに前記ルテニウム系原料を溶解し、その後冷却して前記板材よりもさらに肉厚の板材にする第3工程を有しても良く、第3工程と同等の工程をさらに複数回繰り返してもよい。第1工程において、種板材は、部分的な溶解であれば形が崩れないため許容されるが、溶解させないことが好ましい。第2工程以降において、板材は、部分的な溶解であれば形が崩れないため許容されるが、溶解させないことが好ましい。以降、詳細に説明する。
【0036】
[ルテニウム系ランダム異方性結晶の種板材の作製]
作製しようとするRu系スパッタリングターゲットと同組成のルテニウム金属又はルテニウム合金からなり、ルテニウム金属のときは六方細密充填構造のランダム異方性結晶の種板材を準備し、ルテニウム合金のときはランダム異方性結晶の種板材を準備する。ルテニウム系のランダム異方性結晶の種板材は、作製しようとするRu系スパッタリングターゲットと同組成の鋳造ルテニウム金属片又は鋳造ルテニウム合金片(以降、鋳造ルテニウム片という。)を基台の上に平状に並べて、半溶解させた後、その後冷却してルテニウム系板材を作製する。次に鋳造ルテニウム片をこのルテニウム系板材の上に平状に並べて、半溶解させた後、その後冷却して積層したルテニウム系板材を作製する。この積層工程を必要により繰り返して多層ルテニウム系板材を作製する。そして、多層ルテニウム系板材の表面を平坦面になるように研削し、ルテニウム系ランダム異方性結晶とする。この種板材の製法は例示であり、他の方法によって、ランダム異方性結晶の種板材を準備してもよい。この工程における「半溶解」とは、基台の上方からの加熱によって鋳造ルテニウム片の上部が溶解し、下部は充分な熱が伝導される前の未溶解の状態が維持されることをいう。鋳造ルテニウム片の上部は溶解するため、溶解したルテニウム片の融液は下側に流れて鋳造ルテニウム片同士の隙間を埋めていき、面内方向に隙間のない板材が形成される。鋳造ルテニウム片の下部は溶解しないため、鋳造ルテニウム片の部分と、融液が凝固した部分とでは、結晶方位が異なることとなる。鋳造ルテニウム片の上部は溶解するものの、鋳造ルテニウム片全体は溶解しないため、半溶解後、研削前の種板材の表面は鋳造ルテニウム片の形状の一部を残した表面となる。
【0037】
[ルテニウム系原料]
ルテニウム系原料は、Ru系スパッタリングターゲットの所望の組成である鋳造ルテニウム片である。ルテニウム系原料は、例えば、ルテニウム又はルテニウム合金を、ガス抜きを目的とする1次溶解をした後、凝固物を作製し、この凝固物を破砕し、破片とすることで得られる。
【0038】
[溶解工程]
ルテニウム系のランダム異方性結晶の種板材の上に、ルテニウム系原料である破片を平状に並べて、破片を溶解させた後、その後冷却して種板材を下部に有するルテニウム系板材を作製する。次に鋳造ルテニウム系片を、種板材を下部に有するルテニウム系板材の上に平状に並べて、溶解させた後、その後冷却して種板材を下部に有する積層したルテニウム系板材を作製する。この積層工程を必要により繰り返して種板材を下部に有する多層ルテニウム系板材を作製する。そして、種板材を下部に有する多層ルテニウム系板材のうち、下部に位置する種板材を切り離し、さらに、種板材を切り離した面とは反対側の表面を平坦面となるように研削して、Ru系スパッタリングターゲットを得る。
【0039】
切り離した種板材は再使用することが好ましい。同じ種板材を使用することで、同じRu系スパッタリングターゲットが再現できる。
【実施例
【0040】
以下、実施例を示しながら本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されない。
【0041】
(実施例1)
ルテニウム金属からなり、六方細密充填構造のランダム異方性結晶の種板材を準備する。また、ルテニウム原料を準備する。ルテニウム粉末(純度99.99質量%)を5×10-2Pa以下の真空雰囲気中で溶融した後、凝固させてルテニウムインゴットを得た。ルテニウムインゴットを破砕して破砕物とし、これをルテニウム原料とした。ルテニウム原料は鋳造ルテニウム片である。種板材の上に、ルテニウム原料である破砕物を平状に並べて、5×10-2Pa以下の真空雰囲気中で各破片を上方から加熱して溶解させた後、その後冷却して種板材を下部に有するルテニウム板材を作製した。次に鋳造ルテニウム片を、種板材を下部に有するルテニウム板材の上に平状に並べて、5×10-2Pa以下の真空雰囲気中で各破片を上方から加熱して溶解させた後、その後冷却して種板材を下部に有する積層したルテニウム板材を作製した。次に、種板材を下部に有する多層ルテニウム系板材のうち、下部に位置する種板材を切り離し、さらに、種板材を切り離した面とは反対側の表面を平坦面となるように研削して、縦横250mm×厚さ20mmの正方形板状のRuスパッタリングターゲットを得た。
【0042】
(比較例1)
ルテニウム粉末(純度99.99質量%)を、0.05MPa~0.1MPaのアルゴン雰囲気中でアーク溶解にて溶融した後、凝固させてルテニウムインゴットを得た。このインゴットを研削して、縦横150mm×厚さ10mmの正方形板状のRuスパッタリングターゲットを得た。
【0043】
(比較例2)
ルテニウム粉末(純度99.99質量%)を、温度1600℃、保持時間:8時間、圧力30MPaの条件で、ホットプレスして焼結体を作製し、焼結体を研削して、縦横200mm×厚さ10mmの正方形板状のRuスパッタリングターゲットを得た。
【0044】
(参考例1)
ルテニウム粉末(純度99.99質量%)を参考例とする。
【0045】
(X線回折)
(条件2)にしたがって、実施例1、比較例1及び比較例2の正方形板状のRuスパッタリングターゲットについて、それぞれX線回折(CuKα)を測定した。実施例1については、メインピーク、第2ピーク、第3ピーク及び第4ピークについて結晶面とピークの相対積分強度を表1及び表2にまとめた。表1中のP1~P9は、図5のP1~P9に対応する。また、表2中のD1~D9は、図6のD1~D9に対応する。比較例1については、図5のP1~P9、図6のD1~D9の測定箇所によってメインピーク、第2ピーク、第3ピーク及び第4ピークについて結晶面とピークの相対積分強度が変化しなかったため、図5のP1及び図6のD1に示した箇所の結果を表3に示した。比較例2については、図5のP1~P9、図6のD1~D9の測定箇所によってメインピーク、第2ピーク、第3ピーク及び第4ピークについて結晶面とピークの相対積分強度が変化しなかったため、図5のP1及び図6のD1に示した箇所の結果を表4に示した。参考例1については、メインピーク、第2ピーク、第3ピーク及び第4ピークについて結晶面とピークの相対積分強度を表5にまとめた。
【0046】
【表1】
【0047】


【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
【表5】
【0051】
比較例1及び比較例2は、スパッタ面方向及びターゲット厚さ方向のいずれも測定箇所によってX線回折の結果の違いはないので、スパッタ面は2種以上の領域を有しておらず、かつ、スパッタリングターゲットの側面は2種以上の領域を有していなかった。そして、比較例1及び比較例2は、スパッタ面については粉末Ruと比較して(002)配向が強かった。したがって、比較例1及び比較例2のルテニウムスパッタリングターゲットは組織の異方性の程度が高い。このため、Ru膜を成膜すると、低パーティクル性を備えているものの高い膜厚均一性と面均一性が充分でない。
【0052】
それに対して実施例1は、スパッタ面方向及びターゲット厚さ方向のいずれも測定箇所によってX線回折の結果が場所によって異なり、スパッタ面は2種以上の領域を有しており、また、スパッタリングターゲットの側面は2種以上の領域を有した。そして、実施例1は、ランダム異方性結晶であるといえるため、ターゲット全体で見れば、(002)配向は弱く、組織の異方性の程度が低い。このため、Ru膜を成膜すると、低パーティクル性を備え、かつ高い膜厚均一性と面均一性も備えている。
【0053】
表1及び表2によれば、スパッタリングターゲットのスパッタ面方向のX線回折による第2ピークと第3ピークの相対積分強度の合計が、メインピークの相対積分強度よりも多くなる箇所が44.4%存在していた。また、スパッタリングターゲットのターゲット厚さ方向のX線回折による第2ピークと第3ピークの相対積分強度の合計が、メインピークの相対積分強度よりも多くなる箇所が66.7%存在していた。
【0054】
表1及び表2によれば、スパッタリングターゲットのスパッタ面方向のX線回折による第2ピーク、第3ピーク及び第4ピークの相対積分強度の合計が、メインピークの相対積分強度よりも多くなる箇所が88.9%存在していた。また、スパッタリングターゲットのターゲット厚さ方向のX線回折による第2ピーク、第3ピーク及び第4ピークの相対積分強度の合計が、メインピークの相対積分強度よりも多くなる箇所が77.8%存在していた。
【0055】
表1及び表2によれば、スパッタリングターゲットのスパッタ面方向のX線回折によって(002)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数と、(101)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数との比[(101)/(002)]が、40/100であった。また、スパッタリングターゲットのターゲット厚さ方向のX線回折によって(002)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数と、(101)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数との比[(101)/(002)]が、40/100であった。
【0056】
表1によれば、スパッタリングターゲットのスパッタ面方向のX線回折によって(002)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数と、(103)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数との比[(103)/(002)]が20/100であった。
【0057】
表1によれば、スパッタリングターゲットのスパッタ面方向のX線回折によって(002)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数と、(112)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数との比[(112)/(002)]が、20/100であった。
【0058】
表2によれば、スパッタリングターゲットのターゲット厚さ方向のX線回折によって(002)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数と、(110)が相対積分強度のメインピークとなる測定箇所の数との比[(110)/(002)]が、40/100であった。
【0059】
これらの結果からも、実施例1は、ターゲット全体で見れば、(002)配向は弱く、組織の異方性の程度が低いことが確認できた。
【符号の説明】
【0060】
100,200,300,400 スパッタリングターゲット
R1~R8 スパッタ面の領域
R1、R4、R6~R10 側面(断面)の領域
O 中心
L,Q 仮想十字線
S1~S9 スパッタ面の測定箇所
C1~C9 断面の測定箇所
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7