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特許7203222パワー半導体装置のためのハイブリッド短絡故障モード用のプリフォーム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-28
(45)【発行日】2023-01-12
(54)【発明の名称】パワー半導体装置のためのハイブリッド短絡故障モード用のプリフォーム
(51)【国際特許分類】
   H01L 25/07 20060101AFI20230104BHJP
   H01L 25/18 20230101ALI20230104BHJP
   H01L 21/52 20060101ALI20230104BHJP
【FI】
H01L25/04 C
H01L21/52 J
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021532114
(86)(22)【出願日】2019-10-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-28
(86)【国際出願番号】 EP2019078249
(87)【国際公開番号】W WO2020114660
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-07-19
(31)【優先権主張番号】18211088.2
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519431812
【氏名又は名称】ヒタチ・エナジー・スウィツァーランド・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】HITACHI ENERGY SWITZERLAND AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コッテ,ディディエ
(72)【発明者】
【氏名】キチン,スラボ
【審査官】豊島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-095561(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03306663(EP,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03352213(EP,A1)
【文献】国際公開第2018/141867(WO,A1)
【文献】実開昭53-020866(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/52
H01L21/58
H01L25/00-25/07
H01L25/10-25/11
H01L25/16-25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワー半導体モジュールであって、
上面および底面を有するベースプレート(1)と、
底面および上面を有する半導体チップ(2)とを備え、前記半導体チップ(2)は、前記ベースプレート(1)の前記上面上に配置されており、前記半導体チップ(2)の前記底面は前記ベースプレート(1)の前記上面と接触し、前記半導体チップ(2)はワイドバンドギャップ半導体材料を含み、前記パワー半導体モジュールはさらに、
底面および上面を有するプリフォーム(3)を備え、前記プリフォーム(3)は、前記半導体チップ(2)の前記上面上に配置されており、前記プリフォーム(3)の前記底面は前記半導体チップ(2)の前記上面に接触しており、前記パワー半導体モジュールはさらに、
前記プリフォーム(3)の前記上面と接触するとともに、前記プリフォーム(3)の前記上面に対して圧力を加えるように構成された押圧要素(4)を備え、
前記プリフォーム(3)は、第1の導電層(6)および第2の導電層(5)を含み、
前記第1の導電層(6)は少なくとも1つの突起(7)を有し、前記少なくとも1つの突起(7)は、前記半導体チップ(2)の前記上面に向かって突出するとともに前記プリフォーム(3)の前記第1の導電層(6)に少なくとも1つの窪み(9)を規定し、
前記少なくとも1つの突起(7)および前記第1の導電層(6)は、同じ材料または異なる材料から作製されており、
前記第2の導電層(5)の少なくとも一部は、前記窪み(9)内において前記半導体チップ(2)の前記上面上に位置決めされており、
前記少なくとも1つの突起(7)の材料は、前記第2の導電層(5)の材料よりも高い融点を有しており、
前記パワー半導体モジュールは、放熱による半導体チップの故障時に、前記押圧要素(4)によって前記ベースプレート(1)に向かって圧力が加えられると、前記第1の導電層(6)の前記少なくとも1つの突起(7)が前記半導体チップ(2)の残留材料(8)内を貫通することで、前記第1の導電層(6)の前記少なくとも1つの突起(7)と前記ベースプレート(1)とを接触させるとともに、短絡故障モードで不良な半導体チップ(2)をブリッジする短絡を形成するように構成される、パワー半導体モジュール。
【請求項2】
前記押圧要素(4)は前記プリフォーム(3)の前記上面と面接触しており、前記プリフォーム(3)の前記底面は、前記半導体チップ(2)の前記上面と面接触しており、前記半導体チップ(2)の前記底面は、前記ベースプレート(1)の前記上面に面接触して前記ベースプレート(1)に取付けられている、請求項1に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項3】
前記少なくとも1つの突起(3)は、前記第2の導電層(5)によって横方向から囲まれている、請求項1または2に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項4】
前記プリフォーム(3)の前記底面は前記第2の導電層(5)の底面によって形成される、請求項1~3のいずれか1項に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項5】
前記プリフォーム(3)の前記底面は、前記第2の導電層(5)の底面と前記突起(7)の底面とによって形成される、請求項1~4のいずれか1項に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項6】
前記半導体チップ(2)は、前記半導体チップ(2)の前記上面に、半導体層と、前記半導体層上にメタライゼーション層とを含み、前記メタライゼーション層は前記プリフォーム(3)および前記半導体層と直接接触しており、前記メタライゼーション層と前記半導体層との間の接触区域は前記半導体チップ(2)の活性区域を規定している、請求項1~5のいずれか1項に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項7】
前記プリフォーム(3)の前記底面と前記半導体チップ(2)の前記上面との間の接触区域のサイズは、前記半導体チップ(2)の活性区域のサイズの少なくとも50%であるとともに、前記半導体チップ(2)の前記活性区域のサイズの100%未満である、請求項6に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項8】
前記少なくとも1つの突起(7)の前記底面のサイズは、前記半導体チップ(2)の前記活性区域のサイズの60%未満である、請求項6または7に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項9】
前記第1の導電層(6)の材料は、1500°Cよりも高い融点を有し、前記第2の導電層(5)の材料は、1500°Cよりも低い融点を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項10】
前記少なくとも1つの突起(7)は、垂直な端縁(10)、丸みを帯びた端縁(10)、または傾斜した端縁(10)のうち少なくとも1つを有する、請求項1~9のいずれか1項に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項11】
前記少なくとも1つの突起(7)は、円柱形状、球状キャップ形状、または円錐形状のうちの1つを有する、請求項1~10のいずれか1項に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項12】
前記第1の導電層(6)は、モリブデン(Mo)、タングステン(W)またはそれらの合金のうちの1つを含む、請求項1~11のいずれか1項に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項13】
前記第2の導電層(5)の材料は、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、錫(Sn)、鉛(Pb)、マグネシウム(Mg)、またはそれらの合金のうちの1つを含む、請求項1~12のいずれか1項に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項14】
前記半導体チップ(2)に含まれる前記ワイドバンドギャップ半導体材料は、炭化珪素(SiC)および/または窒化ガリウム(GaN)を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項15】
前記プリフォーム(3)は、前記半導体チップ(2)の熱膨張係数とは、250%未満の範囲で異なる熱膨張係数を有する、請求項1~14のいずれか1項に記載のパワー半導体モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ベースプレートと、当該ベースプレート上に配置されたワイドバンドギャップ半導体チップと、当該ワイドバンドギャップ半導体チップ上に配置されたプリフォームと、当該プリフォームに圧力を加えるように構成された押圧要素とを備えるパワー半導体モジュールの分野に関する。より特定的には、本発明は、このようなパワー半導体モジュールにおいて短絡故障モード(short-circuit failure mode:SCFM)機能を提供するハイブリッドプリフォームに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
高電力の用途では、通常、高電圧要件を満たすために、複数のパワー半導体モジュールを直列に接続する必要がある。このような直列接続により、1つのモジュールが故障した場合に装置全体が故障する可能性がある。したがって、その半導体チップが故障した場合でも常時導通しているパワー半導体モジュールは、このような直列接続において優れた利点を有する。この機能は短絡故障モード(SCFM)として公知である。
【0003】
故障が発生した場合、熱が放散される。Si(シリコン)系半導体素子を備えた従来の半導体モジュールでは、Siチップ上に金属プリフォームを設ける場合がある。この金属プリフォームは、当該チップのSi材料と低融点共晶合金を形成するように適合されているとともに、低オーミック経路(短絡)を作成して故障時に故障点を通じて全電流負荷を導通させるものである。たとえば、比較的低温(577°C)でSi(シリコン)とAl(アルミニウム)とを共晶反応させることにより、このような固有の故障補償が可能となる。EP2503595A1には、Si系半導体チップを備えた半導体モジュールが開示されており、Si系半導体チップは、当該Si系半導体チップのSi材料で共晶合金を形成することのできる2つの層の間に設けられている。
【0004】
高電力用途では、ワイドバンドギャップSiC(炭化珪素)系半導体素子を備えた半導体モジュールがますます採用されつつある。しかしながら、SiCの融点(~2730°C)はSiの融点よりもはるかに高く、SiCと一般的な金属との間にはこのような低温共晶反応は起こらないようである。
【0005】
固有の短絡故障モード(SCFM)機能がなければ、システムがますます複雑になるとともにそのコストが増大する可能性があり、このことにより、直列接続が通常必要となるような高電圧直流(high-voltage-direct-current:HVDC)、静的同期補償器(Static Synchronous Compensator:STATCOM)などの高電圧および/または高電力用途において高度なSiC半導体モジュールを適用することができなくなる可能性もある。
【0006】
高電力用途で採用される高電圧および高電流のために、チップ故障は、電流が不良チップに強制的に流された場合にパワーモジュール内に高電力密度のプラズマ(故障アークプラズマ)の形成をもたらす可能性がある。これは、一方では、不良チップを崩壊/溶融/蒸発させる可能性があるが、他方では、半導体モジュール全体および/またはその構成要素を破壊する可能性もある。半導体モジュール全体が破壊されるリスクは、エネルギの放散と、これによる故障アークプラズマへの暴露とに応じて高まる。したがって、暴露時間を制限するために、故障発生時に迅速かつ確実に短絡を発生させることが重要である。さらに、少なくともパワーモジュールの交換が可能となる次に計画されている保守作業まで不良チップが確実にブリッジされるように、短絡は長時間にわたって安定したままでなければならない。
【0007】
パワー半導体モジュールにおいてSCFM機能を確立するという試みのために、モリブデン(Mo)系プリフォームを使用する。この場合、プリフォームは、故障が発生した場合にSiCチップが崩壊し始めるとプリフォームがベースプレートに向かって移動するように半導体チップに押当てられる。この場合、崩壊速度は、アークエネルギに対するチップ体積(すなわち、体積/エネルギ)に比例しており、アークエネルギは、アーク電圧および電流ならびに時間(すなわち、E~Ut)に比例している。プレフォームがベースプレートに接触すると短絡が生じる。
【0008】
SiCチップを完全に崩壊させるのに必要なエネルギがチップ体積に比例しているので、この手法には以下の点で制限がある。具体的には、特に、高電力用途において必要とされる大面積チップおよび大面積プリフォームの場合、残留するSiC材料(たとえば破片)が残ることで、プリフォームとベースプレートとの直接接触を妨げる可能性があり、これにより、短絡の迅速かつ確実な形成を妨げる可能性がある(図1B参照)という点である。結果として、故障アークプラズマに長時間にわたって曝露されるせいでモジュール全体が破壊されてしまう可能性がある。Moプリフォームの面積がSiCチップの面積よりも著しく小さい場合、プリフォームとベースプレートとを接触させることが容易になり得る。しかしながら、これは、最適な電気接続を実現するためにプリフォームがSiCチップの活性区域全体に接触することが最適な性能を得る上で必要とされるような通常動作時における半導体モジュールの性能に対して悪影響を及ぼす。また、機械的安定性に関して信頼性の懸念がある。なぜなら、プリフォームの面積がSiCチップの面積よりも著しく小さい場合、機械的圧力(圧力=負荷/面積)がSiCチップの小さな面積に集中してしまい、SiCチップを破壊するリスクが高まるからである。
【0009】
EP3306663A1から、Siベース層上にSiCエピタキシ層を有する半導体チップを備えた半導体モジュールが公知である。SiCエピタキシ層は、半導体素子と、半導体モジュールの電気接点をSiCエピタキシ層側に設けるための、モリブデンからなる導電性最上層と、半導体モジュールの電気接点をSiベース層側に設けるための、モリブデンからなる導電性最下層と、半導体チップの最上面および/または最下面に接触して最上層と最下層との間に配置される故障モード層とを備える。故障モード層は、Siベース層と共晶合金を形成して半導体モジュールを短絡させるように適合された金属材料を含む。
【0010】
WO2018/141867A1から公知であるパワー半導体モジュールは、ベースプレートと、当該ベースプレートに取付けられたSiチップと、第1のプレスピンで当該Siチップに対して押圧される第1の金属プリフォームと、ワイドバンドギャップ基板および当該ワイドバンドギャップ基板に設けられた半導体スイッチを備えるワイドバンドギャップ材料チップと、第2のプレスピンでワイドバンドギャップ材料チップに対して押圧される第2の金属プリフォームとを備える。Siチップとワイドバンドギャップ材料チップとは、ベースプレートを介して、さらに第1のプレスピンおよび第2のプレスピンとを介して並列に接続されている。第1の金属プリフォームは、過電流によって加熱されると、Siチップを通る導電経路を形成するように適合されている。第2の金属プリフォームは、過電流によって加熱されると、ワイドバンドギャップ材料チップまたは開回路を通る一時的な導電経路を形成するように適合されている。
【0011】
EP1475832A1から公知である圧力接触型半導体電パワーモジュールは、1つ以上の半導体チップと、導電性ベースプレートと、導電性トッププレートと、各半導体チップごとに、導電性トッププレートと半導体チップとの間に導電接続をもたらすための第1の接触ピンとを有する。
【0012】
EP2827366A1から公知であるパワー半導体モジュール用ばね要素は、当該ばね要素を荷重プレートに直接的または間接的に接続するための上方接触区域を有するとともに、当該ばね要素をパワー半導体装置に直接的または間接的に接続するための下方接触区域を有する。当該ばね要素は、円周に沿って位置するとともに円周に対して制限される複数の溝を有する。これらの溝は、ばね要素のばね撓みをもたらす。このようなばね要素は、安定した確実な故障モードをもたらすとともに、さらに生産性の向上およびコスト削減をもたらす。本発明はさらに、少なくとも1つのばね要素を備えたパワー半導体モジュールに関する。
【0013】
EP2544229A1から、エミッタ電極およびコレクタ電極を有するパワー半導体装置を備えたパワー半導体構成が公知である。コレクタ電極は下方電極に電気的に接続されており、エミッタ電極は上方電極に電気的に接続されている。当該構成はさらに、故障モード接触要素および低温溶融材料を含む。低温溶融材料は、故障モード接触要素と半導体装置との間に配置されている。故障モード接触要素は、低温溶融材料に向かってばね荷重されるとともに、少なくとも1つの接触部分を含む。当該少なくとも1つの接触部分は、パワー半導体構成の通常の動作モードでは低温溶融材料の厚さ以下の距離だけ下方電極から離間されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
発明の概要
したがって、本発明の実施形態の目的は、改善された短絡故障モード(SCFM)を有するとともに当技術分野で公知の欠点のうち少なくとも1つを排除する、ワイドバンドギャップ半導体チップをベースにしたパワー半導体モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的は独立請求項の主題によって達成される。本発明の例示的な実施形態は従属請求項において定義されている。
【0016】
本発明の例はパワー半導体モジュールに関する。本明細書および以下では、「電力」という語は、1Aよりも高い電流、たとえば10Aよりも高い電流、および/または100Vよりも高い電圧、たとえば500Vよりも高い電圧を処理する能力に関連し得る。パワー半導体モジュールは、半導体チップを、当該半導体チップと機械的および/または電気的に接触する導電層、導電性素子および/または電気絶縁素子などのさらに別の部材とともに配置した如何なる構成であってもよい。
【0017】
本発明の一実施形態に従ったパワー半導体モジュールは、ベースプレートと、ワイドバンドギャップ半導体材料を含む半導体チップと、プリフォームと、押圧要素とを備える。半導体チップは導電性ベースプレートの上面に配置され、半導体チップの底面はベースプレートの上面に接触し、プリフォームは半導体チップの上面に配置され、プリフォームの底面は半導体チップの上面に接触している。押圧要素は、プリフォームの上面に接触しており、ベースプレートに向かってプリフォームの上面に圧力を加えるように構成される。さらに、プリフォームは、第1の導電層および第2の導電層を備えたハイブリッドプリフォームである。第1の導電層は、(プリフォームの接触面積を縮小し、これにより、故障の場合に半導体チップに対する圧力を増大させるために)少なくとも1つの突起、たとえば、単一の突起または複数の突起、を有する。当該突起は、半導体チップの上面に向かって突出してプリフォームの第1の導電層に少なくとも1つの窪み、たとえば、単一の窪みまたは複数の窪みを形成する(規定する)。第2の導電層の少なくとも一部は、少なくとも1つの窪み内において半導体チップの上面に配置されており、たとえば、少なくとも1つの突起は、第2の導電層によって横方向から囲まれていてもよく、少なくとも1つの突起および第1の導電層は同じ材料または異なる材料から作製されており、少なくとも1つの突起の材料は第2の導電層の材料よりも高い融点を有する。
【0018】
第2の導電層が少なくとも1つの窪み内において半導体チップの上面に配置されているので、半導体チップとプリフォームとの間に大きな接触面がもたらされる。押圧要素がプリフォームの上面に対してベースプレートに向かって圧力を加えるので、プリフォームはベースプレートに向かって半導体チップに対して押圧される。これらの手段により、プリフォームと半導体チップとの間の最適な電気的接続が実現され得るとともに、これにより、通常動作においてモジュールの最適な性能が実現され得る。加えて、大きな底面を有することにより、押圧要素によってプリフォームに加えられる機械的圧力が半導体チップの広い面積にわたって分散されるので、半導体チップを機械的に破損させるリスクが最小限になる。
【0019】
さらに、故障の発生中に、たとえば故障アークプラズマを通じて熱が放散されると、第2の導電層の材料は、その融点が低いので相変化(たとえば崩壊/溶融/蒸発)することとなるのに対して、第1の導電層の材料は、その融点が高いので放散された熱に耐える。すなわち、第1の導電層の材料は崩壊/溶融/蒸発しないか、または、はるかに長い時間をかけないと崩壊/溶融/蒸発しない。換言すれば、第2の導電層は、故障の発生中に第1の導電層よりも著しく早く分解/崩壊するように構成された犠牲層である。したがって、故障が発生し、熱が放散されると、プリフォームの第2の導電層が分解/崩壊し、プリフォームのうち第1の導電層に対応する部分だけを残し、これにより、少なくとも1つの突起を露出させる。少なくとも1つの突起が第1の導電層に少なくとも1つの窪みを形成するので、プリフォームと残留する半導体材料(たとえば、完全には崩壊していない半導体材料の破片および粒子)との間の接触面積がより小さくなる。このため、押圧要素によってベースプレートに向かって押圧されているとき、プリフォームと、より厳密にはプリフォームの少なくとも1つの突起とが半導体チップの残留材料内をより容易に貫通することなり、このような残留材料(たとえば破片)がプリフォームとベースプレートとの間の接触を妨げるリスクが低減される。これにより、本発明の実施形態に従ったパワーモジュールは、不良半導体チップに跨がる短絡をより迅速かつ確実に形成することで、SCFM機能を向上させる。したがって、本発明の実施形態に従ったハイブリッドプリフォームは、通常動作中に半導体チップと最適に電気的接続させるための大きな底面と、半導体故障があり熱が放散される場合に迅速かつ確実に短絡形成するための小さな底面(すなわち、少なくとも1つの突起の底面)との両方を提供する。故障後の短絡接点は、半導体チップと同じ広い表面を有する必要はない。少なくとも1つの突起の長さは破片を貫通することができるような長さでなければならない。換言すれば、少なくとも1つの窪みの深さは、破片粒子を収容することができる十分な深さでなければならない。したがって、少なくとも1つの突起/窪みの寸法は、予想される破片のサイズに適合されなければならない。典型的には、突起の長さ(すなわち、窪みの深さ)が半導体チップの厚さに対応していれば十分である。しかしながら、より短い突起/窪みも可能である。本発明の実施形態に従ったプリフォームは、SCFM機能を実現可能にするのに必須であるので、故障モード層とも称され得る。
【0020】
本発明の少なくとも1つの例示的な実施形態に従うと、プリフォームは、2つの平面を備えた板状の本体を有する。半導体チップおよびベースプレートは略板状の本体を有していてもよい。半導体チップは、両側に平坦な電極が設けられていてもよい。半導体モジュールのプリフォーム、半導体チップおよび他の層は、たとえば円盤または立方体の形状であってもよく、一方向の厚さが他の方向の厚さよりもはるかに薄くなっている。
【0021】
押圧要素はプリフォームの上面と面接触し得る。プリフォームの底面は半導体チップの上面と面接触し得る。半導体チップの底面はベースプレートの上面と面接触し得る。
【0022】
なお、半導体チップを電気的に接続するための電極/メタライゼーション層が半導体チップの一部と見なされることに留意されたい。このため、半導体チップの上面/底面は、半導体チップの電極/メタライゼーション層の表面および半導体チップに含まれる半導体材料の表面の両方を指す可能性もある。
【0023】
ベースプレートは、半導体チップを機械的に支持するために使用されてもよい。ベースプレートは、完全に導電性であり得るか、または少なくとも導電層を含み得る。ベースプレートは、パワー半導体装置の電気接点として使用されてもよい。ベースプレートは、たとえば、Cu、Mo、Al-グラファイト(アルミニウム・グラファイト複合材)、AlSiC(アルミニウム・炭化珪素複合材)、AlSip(大量のシリコン粒子で強化されたアルミニウムマトリックス複合材)、銅・モリブデン合金などのうちの1つを含み得る。これらの材料は、半導体チップの熱膨張係数に適合された熱膨張係数を有し得る。例示的には、半導体チップは、ベースプレートに接着されてもよいが、ベースプレートに対して押圧されるだけでもよい。プリフォームは半導体チップに接着されてもよいが、例示的には半導体チップに対して押圧されているだけである。押圧要素はプリフォームに接着されてもよいが、例示的にはプリフォームを押圧するだけである。
【0024】
本明細書および以下の記載において、接着は、たとえば溶接、超音波溶接、焼結、はんだ付けなどによって2つの部材が互いに接続される任意の好適なプロセスを指している。
【0025】
押圧要素は、プリフォームと半導体チップとベースプレートとを一緒に併せて押圧する。押圧要素は、弾性要素、締付け装置、ねじ込み装置などを用いてプリフォームの上面に対して押圧される、たとえば円柱、直方体などの好適な形状体であり得る。押圧要素はまた、ばねまたはばね要素であってもよく、たとえば、1つ以上の皿ばねを含み得る。押圧要素は導電性であってもよい。押圧要素は、金属、たとえば、銅、黄銅などから作製されてもよい。押圧要素は、プリフォームとは異なる材料で作製されてもよい。押圧要素は、パワー半導体モジュールの電気接点として機能し得る。たとえば、プリフォームに対して押圧要素が加える圧力は0.1Pa~10Paの範囲であってもよい。したがって、突起の底部面積とプリフォームの上部面積との比に応じて、半導体チップに対する圧力に(突起の底部面積/プリフォームの上部面積)の係数を乗じることができる。
【0026】
半導体チップに含まれるワイドバンドギャップ半導体材料は、たとえば、少なくとも2eVのバンドギャップを有することを特徴とし得る。半導体チップに含まれるワイドバンドギャップ半導体材料は、たとえば、炭化珪素(SiC)および/または窒化ガリウム(GaN)を含んでもよい。半導体材料はドープされてもよい。半導体チップは、たとえば、半導体スイッチの2つのさらなる電極間の抵抗を制御するように適合されたゲート付き半導体スイッチであってもよい。半導体スイッチは、たとえば、トランジスタおよびサイリスタであってもよい。半導体チップは、たとえば、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード、IGBT、RC-IGBT、BiGT、MOSFETなど、特にそれらのSiC系素子であってもよい。
【0027】
本発明の少なくとも1つの例示的な実施形態に従うと、第1の導電層の材料は、1500°Cよりも高い融点、例示的には2000°Cよりも高い融点、または例示的には2500°Cよりも高い融点を有し得るとともに、第2の導電層の材料は、1500°Cよりも低い融点、例示的には1200°Cよりも低い融点、または例示的には900°Cよりも低い融点を有し得る。第2の導電層の材料の融点は、通常動作中の半導体チップの温度よりも高く、少なくとも200°Cよりも高く、例示的には400°Cよりも高い。例示的には、第1の導電層の材料の融点は、半導体チップの融点よりも高い。第1の導電層は、たとえば、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、またはそれらの合金のうちの1つを含み得る。Moは、ワイドバンドギャップ半導体材料(たとえば、SiC)と同様の熱膨張係数を有するので有益であり得る。第2の導電層は、たとえば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、錫(Sn)、鉛(Pb)、マグネシウム(Mg)、またはそれらの合金のうちの1つを含み得る。第1の導電層および第2の導電層はたとえば互いに接着されてもよい。少なくとも1つの突起は、例示的には、第1の導電層と同じ材料から作製されており、第1の導電層と一体に形成されてもよいが、これは、少なくとも1つの突起の材料の融点が第2の導電層の材料の融点よりも高く、例示的には第1の導電層と実質的に同じである限り、第1の導電層および少なくとも1つの突起が異なる材料から作製されることを排除するものではない。
【0028】
少なくとも1つの例示的な実施形態に従うと、半導体チップは、当該半導体チップの上面に半導体層と、当該半導体層上のメタライゼーション層とを含む。メタライゼーション層はプリフォームおよび半導体層と直接接触している。メタライゼーション層と半導体層との間の接触区域は半導体チップの活性区域を規定している。本明細書全体を通じて、2つの層間または要素間の接触区域は、2つの層または要素が互いに直接接触しているすべての位置を含む。プリフォームの底面と半導体チップの上面との間の接触区域のサイズは、半導体チップの活性区域のサイズの50%よりも大きく、たとえば80%よりも大きく、または、たとえば90%よりも大きい。これにより、パワーモジュールが通常動作時に最適な性能を達成する。接触区域は、半導体チップの電圧遮断機能をもたらす端縁終端とプリフォームとの間の接触を防止するために、半導体チップの活性区域の100%未満、たとえば98%未満、またはたとえば95%未満である。本発明の一局面に従うと、SCFMが改善されているので、より大きな半導体チップが用いられてもよい。したがって、例示的な実施形態では、半導体チップの活性区域のサイズは、100mm(たとえば、10mm×10mm)よりも大きくてもよく、特に150mm(たとえば、12.4mm×12.4mm)よりも大きくてもよい。
【0029】
少なくとも1つの突起の底面のサイズは、半導体チップの活性区域のサイズの60%未満、たとえば30%未満、またはたとえば10%未満である。少なくとも1つの突起の底面が小さければ小さいほど、残留する半導体材料を貫通することがより容易となる。例示的には、少なくとも1つの突起の底面のサイズは、短絡故障モードで十分な機械的安定性をもたらすために、半導体チップの活性区域のサイズの1%よりも大きければよい。
【0030】
本発明の例示的な実施形態に従うと、プリフォームの底面は、第2の導電層の底面によって形成されてもよい。これは、通常動作中に、第2の導電性表面が半導体チップの上面と接触するのに対して、第1の導電層および/または少なくとも1つの突起が半導体チップの上面と直接接触しないことを意味する。換言すれば、少なくとも1つの突起は、第2の導電層内に完全に埋込み/浸漬されてもよい。これは、プリフォームのための平坦で滑らかな底面を形成することがより容易になるという利点を提供する。これにより、プリフォームと半導体チップとの間の電気的接触をさらに改善させ得るとともに、第1の導電層と第2の導電層との間の機械的特性の違いによる潜在的な問題を削減し得る。たとえば、第1の導電層の材料と第2の導電層の材料とは異なる熱膨張係数を有していてもよく、これにより、第1の導電層および第2の導電層がともにプリフォームの底面を形成するであろう場合にプリフォームの底面と半導体チップの上面との間の界面における機械的応力を増大させ得る。
【0031】
本発明の別の実施形態に従うと、プリフォームの底面は、第2の導電層の底面および少なくとも1つの突起の底面の両方によって形成されてもよい。したがって、通常モードでは、導電性の第1の層および導電性の第2の層の両方が半導体チップの上面と接触する。この構成は、突起とベースプレートとの間に半導体チップ以外の材料が存在しないため、故障が発生した場合に除去/溶融すべき材料が少なくなるので短絡がより迅速に確立されるという利点を提供し得る。
【0032】
本発明の例示的な実施形態に従うと、少なくとも1つの突起は、垂直な端縁、丸みを帯びた端縁、または傾斜した端縁を有し得る。垂直な端縁は、半導体チップの上面および/または底面に実質的に垂直な端縁である。傾斜した端縁は、半導体チップの上面および/または底面の面法線に対して傾いた端縁である。丸みを帯びた端縁は、曲面を有する端縁である。たとえば、少なくとも1つの突起は、円柱形状、球状キャップ形状、または円錐形状を有してもよい。球状のキャップ形状とは、半導体チップの上面および/または底面に対して平行な平面によって切り取られた球形状である。円柱形状は一定の断面を有する形状である。円錐形状は、より大きい断面からより小さい断面へと先細になった形状である。断面は、半導体チップの上面および/または底面に対して平行な平面に沿って決定される。断面はさまざまな形状を有し得る。たとえば、断面は、円形断面、楕円形断面、または多角形断面であってもよい。丸みを帯びた端縁および/または傾斜した端縁は、特に破片を横方向に押しのけることによって、残留する半導体材料内への貫通を容易にし得る。同様に、円錐形状および/または球状キャップ形状は、残留する半導体材料内への貫通を容易にし得る。
【0033】
本発明の一実施形態に従うと、プリフォームは、半導体チップの熱膨張係数とは250%未満、特に50%未満の範囲で異なる熱膨張係数を有してもよい。ここで、パーセント値について言及する場合、それは半導体チップの熱膨張係数を指している。これにより、パワー半導体モジュール内の内部応力が上限値を超えるリスクがなくなり、このため、クラックが形成されるリスクが低減されるという利点が得られ得る。この効果は、半導体装置が高パワー半導体装置である場合、特に適切である。
【0034】
本発明の一局面に従うと、本発明の実施形態に従ったパワー半導体モジュールは、さらに等しく設計されたパワー半導体モジュールが積層されてもよい。このようにして、本発明の実施形態に従ったパワー半導体モジュールが電気的に直列接続されてもよい。複数の半導体モジュールのうち1つが故障すると、それぞれのプリフォームが半導体チップをブリッジする。したがって、半導体モジュールの直列接続は、1個の半導体で動作した状態で維持され得る。
【0035】
このようにして、ワイドバンドギャップ材料ベースのパワー半導体モジュールは、HVDC用途、STATCOM用途などの、複数のパワー半導体が直列に接続される高電圧用途において確実に使用され得る。
【0036】
図面の簡単な説明
本発明の実施形態の主題について、添付の図面に示される例示的な実施形態を参照しつつ以下の記載において詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1A】短絡故障モード機能および大型プリフォームを有するパワー半導体モジュールを概略的に示す図である。
図1B】大型プリフォームを有するパワー半導体モジュールの限定事項を概略的に示す図である。
図2A】本発明の一実施形態に従った、短絡故障モード機能を有するパワー半導体モジュールを概略的に示す図である。
図2B】短絡故障モードでの本発明に従ったパワー半導体モジュールを概略的に示す図である。
図3A】本発明に従ったプリフォームの個別の実施形態を概略的に示す図である。
図3B】本発明に従ったプリフォームの個別の実施形態を概略的に示す図である。
図3C】本発明に従ったプリフォームの個別の実施形態を概略的に示す図である。
図3D】本発明に従ったプリフォームの個別の実施形態を概略的に示す図である。
図3E】本発明に従ったプリフォームの個別の実施形態を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図中で使用される参照符号およびそれらの意味が参照符号のリストに要約されている。概して、同様の部分または同様に機能する部分には同じ参照符号が付されている。アポストロフィ記号付きの参照符号は、改善されるべき実施形態を指している。記載される実施形態は、例示を意図したものであって、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲を限定するものではない。なお、本明細書中で使用される「上」および「底」という語がベースプレートを基準としたものと理解されるべきであること、ならびに、たとえば、上面が地面に面した状態で半導体モジュールが装着され得ることに留意されたい。「横方向」は、上-底方向に対して垂直な方向を指している。
【0039】
例示的な実施形態の詳細な説明
図1Aは、導電性ベースプレート1′と、SiCチップ2′と、広い面積のMo-プレフォーム3′と、押圧要素4′とがこの順序でサンドイッチ構造に積層されたパワー半導体モジュールの断面を示す。図1Bはこのパワー半導体モジュールの限定事項を示す。短絡故障モードでは、ベースプレート1′と押圧要素4′との間には電気的接続が確立されるはずである。しかしながら、SiCチップが故障アークプラズマによって完全に除去されない場合、残留するSiC粒子、すなわち破片8′がプリフォーム3′とベースプレート1′との間の直接的な接触を妨げてしまう可能性がある。したがって、ベースプレート1′とプリフォーム3′との間に導電性経路(短絡)が設けられない。プリフォーム3′とベースプレート1′との間の接触を妨げる破片は、大型のプリフォーム3′および大型のチップにとって特に問題となる。
【0040】
図2Aは、本発明に従ったパワー半導体モジュールの例示的な実施形態の断面を示す。パワー半導体モジュールは、導電性ベースプレート1と、半導体チップ2と、プリフォーム3と、導電性の押圧要素4とを備える。図示される例示的な実施形態は、高電圧(>1000V)および高電流(>10A)が使用されている高電力用途に適したパワー半導体モジュールであり得る。このため、半導体チップ2は、ワイドバンドギャップ半導体材料、たとえばSiC(炭化珪素)またはGaN(窒化ガリウム)からなる半導体層を備える。半導体チップは、半導体装置、たとえば、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(insulated gate bipolar transistor:IGBT)、ダイオード、サイリスタ、トランジスタ、半導体電界効果トランジスタ(semiconductor field-effect transistor:MOSFET)などであってもよい。半導体チップ2は、上側(上面)にエミッタ電極(アノード、ソース)を備え得るとともに、下側(底面)にコレクタ電極(カソード、ドレイン)を備え得る。なお、電極は図に示していない。代替的には、半導体チップ2は、下側にエミッタ電極(アノード、ソース)を備えてもよく、上側にコレクタ電極(カソード、ドレイン)を備えてもよい(電極は図示せず)。これらの電極は半導体層と電気的に接触している。より一般的には、エミッタ電極は半導体チップ2の負荷接続を形成し、コレクタ電極は半導体チップ2のさらに別の負荷接続を形成する。半導体チップ2はまた、半導体チップ2を制御するためのゲート電極(図示せず)などを含んでもよい。電極はメタライゼーション層の形状で設けられてもよい。半導体チップ2の上側(上面)のメタライゼーション層と半導体層との間の接触区域が半導体チップ2の活性区域を規定している。半導体チップ2は、導電性ベースプレート1とプリフォーム3との間に配置されている。導電性ベースプレート1は、パワー半導体モジュールの基部または支持部として機能する。半導体チップ2の底面(たとえば、コレクタ電極)は、導電性ベースプレート1の上面に面接触している。導電性ベースプレート1は半導体チップ2に接着されている。代替的には、半導体チップ2は導電性ベースプレート1に押当てられるだけでもよいが、これはさほど好ましいことではない。導電性ベースプレート1は、例示的には、半導体チップの熱膨張係数とは250%未満、特に50%未満の範囲で異なる熱膨張係数を有する。これは、たとえば、ベースプレート1をモリブデン、銅-モリブデン合金、またはアルミニウム-黒鉛複合材で形成することによって実現されてもよい。しかしながら、これは、たとえば銅などの他の材料を排除するものではない。導電性ベースプレート1の底面は、パワー半導体モジュールに接触させるための接触面を形成し得る。
【0041】
半導体チップ2の上面(たとえば、エミッタ電極)はプリフォーム3の底面に接触している。プリフォーム3は半導体チップ2に押当てられているだけである。しかしながら、プリフォーム3の底面を半導体チップ2に接着してもよい。プリフォーム3は、半導体チップ2の熱膨張係数とは250%未満、特に50%未満の範囲で異なる熱膨張係数を有してもよい。プリフォーム3の上面は押圧要素4と接触している。押圧要素4はプリフォーム3を押圧し、これにより、プリフォーム3を半導体チップ2に対して押圧する。しかしながら、これはプリフォーム3に接着されてもよい。押圧要素4は、たとえばばねであってもよい。導電性の押圧要素4の上面は、パワー半導体モジュールに接触させるための接触面を形成してもよい。
【0042】
プリフォーム3は、第1の導電層6および第2の導電層5を備える。したがって、プリフォーム3はハイブリッドプリフォームであり得る。第1の導電層6は、半導体層2の上面に向かって突出する突起7を有する。突起7は円柱形状を有する。突起7は、プリフォーム3の第1の導電層6に窪み9を形成する。窪み9は突起7を環状に囲んでいる。突起7および第1の導電層6は一体的に形成されているが、実施形態はこれに限定されない。
【0043】
導電層5は、窪み9内であって半導体チップ2の上面に配置されている。第2の導電層5の上面は第1の導電層6の底面に接触している。第2の導電層5の底面は半導体チップ2の上面に接触している。第1の導電層6と第2の導電層5とは互いに接着されていてもよい。突起7は第2の導電層5内に突出している。突起7は第2の導電層5に埋込まれている。突起7の底面と第2の導電層5の底面とでプリフォーム3の底面を形成している。例示的な実施形態では、プリフォーム3は、半導体チップ2の活性区域の約95%を覆っている。突起7の長さ、すなわち突起7が突出する方向の寸法は、半導体チップの厚さに適合されている。換言すると、突起7は、残留する半導体材料8内を貫通して突出することができ、突出したままにできるほど十分に長い。半導体チップ2の厚さは、電気的特性、すなわち阻止用の所望の阻止電圧、に依存している。半導体チップの厚さは、50μm~500μmの範囲、例示的には50μm~200μmの範囲であってもよい。したがって、突起の長さもこの範囲になるはずである。突起7の長さは第2の導電層5の厚さと同じである。このため、プリフォーム3の底面は平坦であり、すなわち段差などがない。プリフォーム3の厚さは、600μm~3000μmの範囲であってもよい。半導体チップの面積は、たとえば15mm~70mmの範囲、例示的には25mm~60mmの範囲であってもよい。第1の導電層6の厚さは、0.3mm~2mmの範囲、例示的には0.5mm~1.5mmの範囲であってもよい。第2の導電層の厚さは、0.3mm~2mmの範囲、例示的には0.5mm~1.5mmの範囲であってもよい。
【0044】
第1の導電層6の材料としては、故障時に発生する故障アークプラズマの高温に耐えるような材料が選択される。第2の導電層は犠牲層として機能する。したがって、第2の導電層5の材料は、そのような温度で崩壊/蒸発/溶融するように構成されている。この文脈において「耐える」(Withstanding)という語は、第1の導電層の材料が、第2の導電層5の材料と比べてほとんど変化しないこと、および/または、故障アークプラズマに曝されるかなり長い期間が経過した後、たとえば、第2の導電層5の材料の場合よりも100倍長い期間が経過した後、にのみ崩壊/蒸発/溶融すること、を意味する。第1の導電層6の材料は、たとえばMo(モリブデン)であり、第2の導電層5の材料は、たとえばAl(アルミニウム)である。しかしながら、実施形態はこれらの選択肢に限定されない。たとえば、W(タングステン)も第1の導電層6の材料であってもよい。第2の導電層5の材料は、たとえば、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、マグネシウム(Mg)など、またはそれらの合金のうちいずれか1つであってもよい。
【0045】
Moの融点は2500°Cよりも高い。A1の融点は、900°C未満であるとともに、最大で150°Cまたは225°C以上の範囲である通常動作時の半導体モジュールの温度よりも高い。加えて、第1の導電層6は、半導体材料の熱膨張係数とは、250%未満、特に50%未満の範囲で異なっている。
【0046】
図2Bは、短絡故障モードでの、すなわち故障事象が発生した時の、パワーモジュールを示す。故障の発生中、エネルギが放散されることで、第2の導電層5の材料が崩壊/溶融/蒸発し、これにより突起7だけが残り、この突起7は、有利な形状(たとえば、より小さい断面)を有しているために、半導体チップの残りの材料(たとえば、破片8)内により容易に貫通する。プリフォームをベースプレート1に向かって移動させる押圧力は、押圧要素4から生じる。破片8は、半導体チップ2の残留材料および/または第2の導電層5の残留材料を含む可能性がある。図1Aおよび図1Bに示す実施形態とは対照的に、ベースプレート1上に位置する破片8によって直接接触が妨げられている場合、ここで、ベースプレート1とプリフォーム3との間の接触が確立される。
【0047】
図3A図3Eはそれぞれ、プリフォーム3のさまざまな実施形態を概略的に示す。プリフォーム間に多くの類似性があるため、実施形態間の相違点についてのみ説明する。他のすべての特徴については、上述の第1の実施形態の上述の説明を参照されたい。
【0048】
図3A図2Aに関して記載された第1の実施形態のプリフォーム3を示す。ここでは、第1の導電層6の底面と第2の導電層5の底面とがともにプリフォーム3の底面を形成している。プリフォーム3の底面は平坦である。突起7の底面および第2の導電層5の底面はともに、半導体チップ2(図2Aのみに図示)の上面に接触している。この構成は、半導体チップ2を除き、突起7とベースプレート1との間に材料が存在しないため、故障発生時に除去/溶融するべき材料が少ないので、より迅速に短絡が確立されるという利点を提供し得る。突起7は柱形状であり、第2の導電層5によって囲まれている。柱形状は円形の柱形状であってもよく、すなわち円形断面を有していてもよい。その断面は、半導体チップ2の上面に対して平行な平面に沿って決定される。しかしながら、柱形状の他の断面、たとえば楕円形の断面または多角形の断面なども可能であり得る。突起7は垂直な端縁10を有しており、このため、突起7の断面は突起の長さに沿って一定のままである。
【0049】
図3Bは、突起7が第2の導電層5に埋込まれている例示的な実施形態を示す。プリフォーム3の底面は、第2の導電層5のみで形成されている。図3Aに示される実施形態とは対照的に、突起7の底面はプリフォーム3の底面の一部ではない。プリフォーム3の底面は、第2の導電層5の材料のみを含んでいるので、図3Aに示す構成よりも、平坦な底面を作製する方がより容易であり得る。
【0050】
図3Cは、突起7が丸みを帯びた端縁10を有している例示的な実施形態を示す。突起7は、たとえば球状のキャップの形状、たとえば半球の形状を有していてもよい。突起7の断面はその長さ方向に沿って小さくなっている。これは、破片8を横方向に押すのを支援し得るものであって、半導体チップの残留材料内に突起7を貫通させるのを容易にし得る。
【0051】
図3Dは、突起7が円錐形状を有している例示的な実施形態を示す。突起7は傾斜した端縁10を有する。突起の断面はその長さ方向に沿って小さくなっている。これは、破片8を横方向に押すのを支援し得るものであって、半導体チップの残留材料内に突起7を貫通させるのを容易にし得る。
【0052】
図3Eが示す例示的な実施形態においては、第1の導電層6は、短絡接触区域全体を広くするとともに破片8内に貫通させることもできるように設計された複数の突起7を備えている。この手法でも、単一の突起7の場合と比べて機械的安定性が改善される。この図では、突起7は円錐形状である。しかしながら、多数の突起7を有する実施形態は円錐形状に限定されず、これらの突起7は他のさまざまな形状、たとえば上述の形状またはそれらの変形形状を有していてもよい。
【0053】
添付の図面および上述の記載において本発明の実施形態を詳細に説明および記載してきたが、このような説明および記載は説明的または例示的であって限定的でないと考えられるべきであり、本発明は開示された実施形態に限定されない。当業者にとっては、上述の実施形態についての変更例が添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲から逸脱することなく実現可能であることが明らかであるだろう。開示された実施形態に対する他の変形例は、添付の図面、開示および添付の特許請求の範囲を検討することにより、当業者によっておよび特許請求された発明を実施することによって、理解および達成され得る。
【0054】
添付の特許請求の範囲において、「含む」という語は、他の要素またはステップを除外するものではなく、「ある(「a」または「an」)」という不定冠詞は複数を除外するものではない。ある措置が相互に異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、これらの措置の組合せを有利に使用することができないことを示すものではない。添付の特許請求の範囲における如何なる参照符号も、当該範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【符号の説明】
【0055】
参照符号のリスト
1,1′ ベースプレート、2,2′ 半導体チップ、3,3′ プリフォーム、4,4′ 押圧要素、5 第2の導電層、6 第1の導電層、7,7′ 突起、8,8′ 破片、9,9′ 窪み、10 端縁。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E