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  • 特許-二酸化炭素の固定化方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-28
(45)【発行日】2023-01-12
(54)【発明の名称】二酸化炭素の固定化方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 11/18 20060101AFI20230104BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20230104BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20230104BHJP
   B01D 53/78 20060101ALI20230104BHJP
【FI】
C01F11/18 C
B01D53/14 210
B01D53/62 ZAB
B01D53/14 220
B01D53/78
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021561478
(86)(22)【出願日】2020-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2020043975
(87)【国際公開番号】W WO2021106991
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2019216626
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】518018986
【氏名又は名称】三菱重工エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】乾 正幸
【審査官】中村 浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-513806(JP,A)
【文献】特開2005-097072(JP,A)
【文献】特開2019-052065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 11/18
B01D 53/00-53/96
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムを含有するカルシウム含有物質を準備するステップと、
前記カルシウム含有物質との反応により前記カルシウム含有物質からカルシウムイオンを抽出してカルシウム含有中間体を生成するカルシウム抽出物質を準備するステップと、
前記カルシウム含有物質と前記カルシウム抽出物質とを混合することにより、前記カルシウム含有中間体を含むゲルを生成するステップと、
前記カルシウム含有中間体を含むゲルに塩基性物質及び二酸化炭素を供給して難溶性の炭酸カルシウムを析出させるステップと、
析出した炭酸カルシウムを除去するステップと
を含む二酸化炭素の固定化方法。
【請求項2】
炭酸カルシウムが除去された残存物質は前記カルシウム抽出物質として再利用される、請求項1に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項3】
大気中の二酸化炭素を回収するステップをさらに含み、
大気中から回収された二酸化炭素を、前記カルシウム含有中間体を含むゲルに供給する、請求項1または2に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項4】
前記カルシウム抽出物質は、直鎖状又は環状の炭素鎖を有するカルボン酸若しくはカルボン酸塩、カルボキシル基を含むタンパク質、ペクチンのうちの少なくとも1つである、請求項1~3のいずれか一項に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項5】
前記カルシウム含有物質は石膏、珪灰石、リン鉱石である、請求項1~4のいずれか一項に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二酸化炭素の固定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中の二酸化炭素濃度の上昇に伴う温暖化が問題となっており、大気中の二酸化炭素を回収するための技術開発が行われている。このような技術として、二酸化炭素分離回収貯留(Carbon dioxide Capture and Storage、CCS)や石油増進回収法(Enhanced Oil Recovery、EOR)が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-115888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、大気中の二酸化炭素を固定化するためには、大量の二酸化炭素を固定化可能なこと、コストが安価なこと、半永久的に二酸化炭素の固定化が可能なことが重要である。本発明者らは、このような観点から、地球上に大量に存在する無機材料と二酸化炭素とを反応させて難溶性の炭酸塩の固体に変換させることで、二酸化炭素を大量かつ安価に固定化することを検討した。このような技術的思想は、少なくとも特許文献1には記載されていない。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも1つの実施形態は、大量かつ安価に二酸化炭素を固定化できる二酸化炭素の固定化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係る二酸化炭素の固定化方法は、カルシウムを含有するカルシウム含有物質を準備するステップと、前記カルシウム含有物質との反応により前記カルシウム含有物質からカルシウムイオンを抽出してカルシウム含有中間体を生成するカルシウム抽出物質を準備するステップと、前記カルシウム含有物質と前記カルシウム抽出物質とを混合することにより、前記カルシウム含有中間体を含むゲルを生成するステップと、前記カルシウム含有中間体を含むゲルにアンモニアや苛性ソーダ等の塩基性物質及び二酸化炭素を供給して難溶性の炭酸カルシウムを析出させるステップと、析出した炭酸カルシウムを除去するステップとを含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示の二酸化炭素の固定化方法によれば、カルシウム含有物質とカルシウム抽出物質との反応により、カルシウム含有中間体を生成させ、カルシウム含有中間体と塩基性物質及び二酸化炭素との反応により難溶性の炭酸カルシウムが析出して、二酸化炭素が炭酸カルシウムとして固定化されるので、大量かつ安価に、また半永久的に二酸化炭素を固定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施形態に係る二酸化炭素の固定化方法の概要を示すフローチャートである。
図2】本開示の別の実施形態に係る二酸化炭素の固定化方法の概要を示すフローチャートである。
図3】本開示の二酸化炭素の固定化方法の実施例1を説明するための図である。
【0009】
以下、本開示の実施の形態による二酸化炭素の固定方法について、図面に基づいて説明する。係る実施の形態は、本開示の一態様を示すものであり、この開示を限定するものではなく、本開示の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0010】
<本開示の二酸化炭素の固定化方法の概要>
図1に、本開示の一実施形態に係る二酸化炭素の固定化方法の概要を示す。まず、カルシウム含有物質を準備する(ステップS1)とともにカルシウム抽出物質を準備する(ステップS2)。尚、ステップS1及びステップS2の順序はこれに限定するものではなく、カルシウム抽出物質を準備することをステップS1とするとともにカルシウム含有物質を準備することをステップS2としてもよい。
【0011】
ここで、カルシウム含有物質は、カルシウムを含有する難溶性または可溶性のカルシウム塩である。このようなカルシウム含有物質として珪灰石(ケイ酸カルシウム(CaSiO)、リン鉱石(リン酸カルシウム(Ca(PO))、石膏(硫酸カルシウム2水和物(CaSO・2HO))等が挙げられる。石膏は、採掘されたリン鉱石からリン酸を製造する際に生成されるが、石膏の大部分は通常は埋め立て処理されている。埋め立てられた石膏に残存酸性水が溶出すると、酸性湖が形成されて環境問題が発生する。これに対し、石膏をカルシウム含有物質として利用すれば、後述する動作によって二酸化炭素を固定化できる他に、上記環境問題の解消も可能となる。
【0012】
また、カルシウム抽出物質とは、カルシウム含有物質との反応によりカルシウム含有物質からカルシウムイオンを抽出してカルシウム含有中間体を生成する物質である。このようなカルシウム抽出物質として、直鎖状又は環状の炭素鎖を有するカルボン酸若しくはカルボン酸塩、カルボキシル基を含むタンパク質、ペクチン等を挙げることができる。カルシウム抽出物質として、これらのいくつかを同時に使用することもできる。また、カルシウムの抽出を促進する物質として、窒素原子及びカルボキシル基を含むキレート剤を併用してもよい。
【0013】
例えば、カルボン酸及びカルボン酸塩はそれぞれ、化学式R-COOH及びR-COOXと表され、Rは直鎖状又は環状の炭素鎖であり、Xはアンモニウムイオン(NH )、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)等を挙げることができる。このようなカルボン酸としてアルギン酸を使用することができ、このようなカルボン酸塩としてアルギン酸アンモニウム(AlgNH)を使用することができる。尚、Rには炭素原子及び水素原子の他に酸素原子や窒素原子、硫黄原子、リン原子等が含まれてもよい。また、窒素原子及びカルボキシル基を含むキレート剤として、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)等を使用することができる。
【0014】
ステップS1及びステップS2の後に、カルシウム含有物質とカルシウム抽出物質とを混合することにより(ステップS3)、カルシウム含有物質とカルシウム抽出物質とを反応させる。例えば、石膏とアルギン酸アンモニウムとの反応は、以下の反応式(1)の通りである。
CaSO・2HO+2AlgNH
→AlgCa+(NHSO+2HO ・・・(1)
この場合のカルシウム含有中間体はアルギン酸カルシウム(AlgCa)であり、ゲルの形態で得られる。
【0015】
続くステップS4において、カルシウム含有中間体を含むゲルにアンモニア及び二酸化炭素を供給する。これにより、カルシウム含有中間体とアンモニア及び二酸化炭素とが反応することで、炭酸カルシウムが析出する。すなわち、供給した二酸化炭素は炭酸カルシウムとして固定化される。析出した炭酸カルシウムを濾過等によって除去することにより(ステップS5)、固定化した二酸化炭素を炭酸カルシウムとして利用することができる。尚、二酸化炭素の供給源は特に限定するものではないが、例えば、任意のプラントの燃焼装置から排出される燃焼ガスから回収した二酸化炭素を用いてもよい。
【0016】
このように、カルシウム含有物質とカルシウム抽出物質との反応により、カルシウム含有中間体を生成させ、カルシウム含有中間体とアンモニア及び二酸化炭素との反応により難溶性の炭酸カルシウムが析出して、二酸化炭素が炭酸カルシウムとして固定化されるので、大量かつ安価に、また半永久的に二酸化炭素を固定化することができる。
【0017】
図2に、本開示の別の実施形態に係る二酸化炭素の固定化方法の概要を示す。ステップS1からステップS3までの動作は、図1の実施形態と同じである。この実施形態では、ステップS4で供給する二酸化炭素を大気中から回収する(ステップS10)。大気中から二酸化炭素を回収する方法は特に限定するものではなく、例えば直接空気回収(Direct Air Capture、DAC)プラントを用いてもよい。大気中から回収した二酸化炭素を供給することにより、大気中の二酸化炭素を大量かつ安価に、また半永久的に固定化することができる。
【0018】
ステップS10の後は、図1の実施形態と同じようにステップS4及びステップS5を行う。ステップS5において炭酸カルシウムが除去された残存物質をカルシウム抽出物質として再利用するために、ステップS2に戻るようにしてもよい。尚、ステップS5において炭酸カルシウムが除去された残存物質をカルシウム抽出物質として再利用する動作は、図1の実施形態にも適用することができる。カルシウム抽出物質を再利用することにより、カルシウム抽出物質の消費量を低減できるので、二酸化炭素の固定化方法のコストを低減できる。
【0019】
尚、図1及び2に示される二酸化炭素の固定化方法のステップS4において、アンモニアの代わりに任意の塩基性物質、例えば苛性ソーダ等を供給するようにしてもよい。
【0020】
<本開示の二酸化炭素の固定化方法の実施例>
(実施例1)
実施例1に係る二酸化炭素の固定化方法を図3に基づいて説明する。実施例1では、カルシウム含有物質として石膏(CaSO・2HO)を使用し、カルシウム抽出物質としてアルギン酸アンモニウム(AlgNH)を使用した。
【0021】
1)
0.42g(CaSOが0.0012mol)の石膏を純水100mlに溶解させた後、0.8質量%のアルギン酸アンモニウム溶液を50ml(AlgNHが0.0019mol)加えることで、ゲル状のカルシウム含有中間体であるアルギン酸カルシウム(AlgCa)と硫酸アンモニウム((NHSO)とが生成した。硫酸アンモニウムは水溶液の形態となっている。
【0022】
2)
この反応で得られた硫酸アンモニウムは、例えば肥料を製造するための原料として使用することができる。
【0023】
3)
ゲル状のアルギン酸カルシウムにアンモニア水溶液10ml(アンモニアは0.15mol)を供給した。これにより、以下の反応式(2)で表される反応が生じる。尚、アンモニア水溶液に代えてアンモニアガスとして供給することもできる。
AlgCa+2NH+2HO→Ca(OH)+2AlgNH ・・・(2)
【0024】
4)
反応式(2)の反応により、水溶液中には水酸化カルシウム(Ca(OH))及びアルギン酸アンモニウムが溶解している。この水溶液に二酸化炭素ガスを4時間供給した。二酸化炭素ガスの供給により以下の反応式(3)で表される反応が生じ、二酸化炭素ガスを供給してから1時間程度経過すると白い沈殿物を確認した。
Ca(OH)+CO→CaCO+HO ・・・(3)
【0025】
5)
二酸化炭素ガスの供給停止後に白い沈殿物を濾過等で分離したところ、白い沈殿物の質量は0.13gであった。この白い沈殿物をX線回折法(XRD)により分析したところ、0.001molの炭酸カルシウムであることを確認した。この結果から、使用した石膏中のカルシウムのうち約85%という高い収率で炭酸カルシウムに変換できることを確認した。すなわち、固定化された二酸化炭素を炭酸カルシウムとして回収した。回収した炭酸カルシウムは、建材として利用することができる。炭酸カルシウムを埋め立て処理することもできるが、この場合には酸性湖の形成が抑制されるので、酸性湖が形成されるという環境問題の解決にもなる。
【0026】
6)
析出した炭酸カルシウムの分離により、アルギン酸アンモニウムの水溶液が得られた。このアルギン酸アンモニウムの水溶液は、上記1)におけるアルギン酸アンモニウム水溶液の一部として使用することができる。
【0027】
実施例1において、アルギン酸アンモニウムを供給することにより、ゲル状のアルギン酸カルシウムが生成されて他の金属のコンタミを防ぐことができるので、不純物の析出を抑制し、濾過して得られる炭酸カルシウムの純度を高めることができる。
【0028】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0029】
[1]一の態様に係る二酸化炭素の固定化方法は、
カルシウムを含有するカルシウム含有物質を準備するステップと、
前記カルシウム含有物質との反応により前記カルシウム含有物質からカルシウムイオンを抽出してカルシウム含有中間体を生成するカルシウム抽出物質を準備するステップと、
前記カルシウム含有物質と前記カルシウム抽出物質とを混合することにより、前記カルシウム含有中間体を含むゲルを生成するステップと、
前記カルシウム含有中間体を含むゲルに塩基性物質及び二酸化炭素を供給して難溶性の炭酸カルシウムを析出させるステップと、
析出した炭酸カルシウムを除去するステップと
を含む。
【0030】
本開示の二酸化炭素の固定化方法によれば、カルシウム含有物質とカルシウム抽出物質との反応により、カルシウム含有中間体を生成させ、カルシウム含有中間体と塩基性物質及び二酸化炭素との反応により難溶性の炭酸カルシウムが析出して、二酸化炭素が炭酸カルシウムとして固定化されるので、大量かつ安価に、また半永久的に二酸化炭素を固定化することができる。
【0031】
[2]別の態様に係る二酸化炭素の固定化方法は、[1]に記載の二酸化炭素の固定化方法であって、
炭酸カルシウムが除去された残存物質は前記カルシウム抽出物質の水溶液として再利用される。
【0032】
このような構成によれば、カルシウム抽出物質を再利用できるので、カルシウム抽出物質の消費量を低減でき、二酸化炭素の固定化方法のコストを低減できる。また、除去された炭酸カルシウムも様々な用途に利用することができる。
【0033】
[3]さらに別の態様に係る二酸化炭素の固定化方法は、[1]または[2]に記載の二酸化炭素の固定化方法であって、
大気中の二酸化炭素を回収するステップをさらに含み、
大気中から回収された二酸化炭素を、前記カルシウム含有中間体を含むゲルに供給する。
【0034】
このような構成によれば、大気中の二酸化炭素を大量かつ安価に、また半永久的に固定化することができる。
【0035】
[4]さらに別の態様に係る二酸化炭素の固定化方法は、[1]~[3]のいずれかに記載の二酸化炭素の固定化方法であって、
前記カルシウム抽出物質は、直鎖状又は環状の炭素鎖を有するカルボン酸若しくはカルボン酸塩、カルボキシル基を含むタンパク質、ペクチンのうちの少なくとも1つである。また、カルシウムの抽出を促進する目的で、窒素原子及びカルボキシル基を含むキレート剤を併用してもよい。
【0036】
このような構成によれば、カルシウム抽出物質がカルシウム含有物質からカルシウムイオンを抽出して、カルシウム含有中間体を生成することにより、カルシウム含有中間体を含むゲルに塩基性物質及び二酸化炭素を供給して難溶性の炭酸カルシウムを析出させることができるので、大気中の二酸化炭素を大量かつ安価に、また半永久的に固定化することができる。
【0037】
[5]さらに別の態様に係る二酸化炭素の固定化方法は、[1]~[4]のいずれかに記載の二酸化炭素の固定化方法であって、
前記カルシウム含有物質は石膏、珪灰石、リン鉱石である。
【0038】
採掘されたリン鉱石からリン酸を製造する際に石膏も生成するが、石膏の大部分は埋め立て処理されている。埋め立てられた石膏に残存酸性水が溶出すると、酸性湖が形成されて環境問題が発生する。これに対し、石膏をカルシウム含有物質として利用すれば、二酸化炭素の固定化の他に、上記環境問題の解消も可能となる。
図1
図2
図3