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特許7203274天然高分子ナノファイバー水分散液を用いた、向上した機械的物性を有する生分解性複合材料およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-28
(45)【発行日】2023-01-12
(54)【発明の名称】天然高分子ナノファイバー水分散液を用いた、向上した機械的物性を有する生分解性複合材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/16 20060101AFI20230104BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20230104BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20230104BHJP
【FI】
C08G63/16
C08L67/02
C08L1/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022500573
(86)(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-07
(86)【国際出願番号】 KR2020006880
(87)【国際公開番号】W WO2021006480
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-01-05
(31)【優先権主張番号】10-2019-0083851
(32)【優先日】2019-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514266091
【氏名又は名称】コリア リサーチ インスティチュート オブ ケミカル テクノロジー
【氏名又は名称原語表記】KOREA RESEARCH INSTITUTE OF CHEMICAL TECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファン, ソン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】パク, ジェヨン
(72)【発明者】
【氏名】オ, ドン ヨプ
(72)【発明者】
【氏名】チェガル, ジョン ゴン
(72)【発明者】
【氏名】キム, テ ホ
(72)【発明者】
【氏名】イ, シ ギョン
(72)【発明者】
【氏名】シン, ミョン スク
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】韓国特許第10-1897180(KR,B1)
【文献】特開2016-153470(JP,A)
【文献】特開2016-155897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G,C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キチンナノファイバーおよびセルロースナノファイバーから選択される何れか1つ以上を含む天然高分子ナノファイバーの水分散液と、
ジカルボン酸またはその誘導体と、
ジオールと、
を含んで重合することで製造される、生分解性複合材料。
【請求項2】
前記天然高分子ナノファイバーの水分散液中の天然高分子ナノファイバーの量は、前記生分解性複合材料の全体100重量%に対して0.005~2重量%である、請求項1に記載の生分解性複合材料。
【請求項3】
前記天然高分子ナノファイバーの水分散液中の天然高分子ナノファイバーの濃度は0.1~50重量%である、請求項1に記載の生分解性複合材料。
【請求項4】
前記天然高分子ナノファイバーは、直径が1~200nmであり、長さが100nm~100μmである、請求項1に記載の生分解性複合材料。
【請求項5】
3官能以上のアルコール、3官能以上のカルボン酸またはその誘導体、および3官能以上のヒドロキシ酸またはその誘導体から選択される何れか1つ以上をさらに含んで重合することで製造される、請求項1に記載の生分解性複合材料。
【請求項6】
前記生分解性複合材料は、下記式1を満たす、請求項1に記載の生分解性複合材料。
[式1]
【数5】

前記式1中、TSは前記生分解性複合材料の引張強度であり、TSは前記天然高分子ナノファイバーの水分散液を除いて重合した場合の引張強度である。
【請求項7】
前記生分解性複合材料は、下記式2を満たす、請求項1に記載の生分解性複合材料。
[式2]
【数6】

前記式2中、TTは前記生分解性複合材料の引裂強度であり、TTは前記天然高分子ナノファイバーの水分散液を除いて重合した場合の引裂強度である。
【請求項8】
キチンナノファイバーおよびセルロースナノファイバーから選択される何れか1つ以上を含む天然高分子ナノファイバーの水分散液、ジカルボン酸またはその誘導体、およびジオールを含む混合分散液を準備するステップと、
前記混合分散液を重合するステップと、
を含む、生分解性複合材料の製造方法。
【請求項9】
前記混合分散液は、3官能以上のアルコール、3官能以上のカルボン酸またはその誘導体、および3官能以上のヒドロキシ酸またはその誘導体から選択される何れか1つ以上をさらに含む、請求項8に記載の生分解性複合材料の製造方法。
【請求項10】
前記混合分散液を準備するステップは、
ジカルボン酸またはその誘導体、およびジオールを含むスラリーを準備するステップと、
前記スラリーを均質化するステップと、
前記均質化されたスラリーと、キチンナノファイバーおよびセルロースナノファイバーから選択される何れか1つ以上を含む天然高分子ナノファイバーの水分散液とを混合するステップと、を含む、請求項8に記載の生分解性複合材料の製造方法。
【請求項11】
キチンナノファイバーおよびセルロースナノファイバーから選択される何れか1つ以上を含む天然高分子ナノファイバーの水分散液、第1ジカルボン酸またはその誘導体、および第1ジオールを含む混合分散液を準備するステップと、
前記混合分散液をエステル化またはトランスエステル化反応させてオリゴマーを形成させるステップと、
前記オリゴマーに、第2ジカルボン酸またはその誘導体、および第2ジオールをさらに投入し重合するステップと、
を含む、生分解性複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性複合材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、商用化された汎用プラスチック、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどは、自然状態での分解性が非常に劣っており、廃棄時に環境に致命的な悪影響を及ぼすという問題がある。
【0003】
それにもかかわらず、汎用プラスチックは、その優れた物性により、それを用いた製品の比重は、かえって徐々に増加する傾向である。このため、環境汚染の防止の一環として、汎用プラスチックを代替可能な材料の開発が絶えず求められている。
【0004】
その一環として注目されているものが生分解性プラスチックである。これは、土壌への埋め込み時に自然分解されることができるため、環境負荷がほぼない。かかる生分解性プラスチックとしては、例えば、PLA(poly lactic acid)、PBS(poly butylene succinate)、PBAT(poly butylene adipate-co-terephthalate)などが挙げられる。
【0005】
しかしながら、生分解性プラスチックは、その優れた生分解性にもかかわらず、機械的物性の不足のため、汎用プラスチックを代替するには未だ無理がある。よって、生分解性材料の市場を拡大するためには、その劣る機械的物性が必ず解決されなければならない。
【0006】
そこで、本発明者は、以前の特許文献1から確認できるように、改善された機械的物性を有する生分解性PBS複合材料を提供したことがある。
【0007】
それにもかかわらず、本発明者は、より優れた機械的物性を有する生分解性複合材料を提供するために深みのある研究を持続的に行い、その結果、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】韓国登録特許第10-1897180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した問題を解決するためのものであり、向上した機械的物性を有する生分解性複合材料およびその製造方法を提供することにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述した目的を達成するために、キチンナノファイバーおよびセルロースナノファイバーから選択される何れか1つ以上を含む天然高分子ナノファイバーの水分散液と、ジカルボン酸またはその誘導体と、ジオールと、を含んで重合することで製造される生分解性複合材料を提供する。
【0011】
本発明の一実施形態において、前記天然高分子ナノファイバーの水分散液中の天然高分子ナノファイバーの量は、前記生分解性複合材料の全体100重量%に対して0.005~2重量%であってもよい。
【0012】
本発明の一実施形態において、前記天然高分子ナノファイバーの水分散液中の天然高分子ナノファイバーの濃度は0.1~50重量%であってもよい。
本発明の一実施形態において、前記天然高分子ナノファイバーは、直径が1~200nm、長さが100nm~100μmであってもよい。
【0013】
本発明の一実施形態において、前記生分解性複合材料は、3官能以上のアルコール、3官能以上のカルボン酸またはその誘導体、および3官能以上のヒドロキシ酸またはその誘導体から選択される何れか1つ以上をさらに含んで重合することで製造されてもよい。
【0014】
本発明の一実施形態において、前記生分解性複合材料は、下記式1を満たしてもよい。
【0015】
[式1]
【数1】
【0016】
前記式1中、TSは前記生分解性複合材料の引張強度であり、TSは前記天然高分子ナノファイバーの水分散液を除いて重合した場合の引張強度である。
【0017】
本発明の一実施形態において、前記生分解性複合材料は、下記式2を満たしてもよい。
【0018】
[式2]
【数2】

前記式2中、TTは前記生分解性複合材料の引裂強度であり、TTは前記天然高分子ナノファイバーの水分散液を除いて重合した場合の引裂強度である。
【0019】
また、本発明は、キチンナノファイバーおよびセルロースナノファイバーから選択される何れか1つ以上を含む天然高分子ナノファイバーの水分散液、ジカルボン酸またはその誘導体、およびジオールを含む混合分散液を準備するステップと、
前記混合分散液を重合するステップと、を含む、生分解性複合材料の製造方法を提供する。
【0020】
本発明の製造方法の一実施形態において、前記混合分散液は、3官能以上のアルコール、3官能以上のカルボン酸またはその誘導体、および3官能以上のヒドロキシ酸またはその誘導体から選択される何れか1つ以上をさらに含んでもよい。
【0021】
本発明の製造方法の一実施形態において、前記混合分散液を準備するステップは、ジカルボン酸またはその誘導体、およびジオールを含むスラリーを準備するステップと、
前記スラリーを均質化するステップと、
前記均質化されたスラリーと、キチンナノファイバーおよびセルロースナノファイバーから選択される何れか1つ以上を含む天然高分子ナノファイバーの水分散液とを混合するステップと、を含んでもよい。
【0022】
また、本発明は、キチンナノファイバーおよびセルロースナノファイバーから選択される何れか1つ以上を含む天然高分子ナノファイバーの水分散液、第1ジカルボン酸またはその誘導体、および第1ジオールを含む混合分散液を準備するステップと、
前記混合分散液をエステル化またはトランスエステル化反応させてオリゴマーを形成させるステップと、
前記オリゴマーに、第2ジカルボン酸またはその誘導体、および第2ジオールをさらに投入し重合するステップと、を含む、生分解性複合材料の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、機械的物性、例えば、引張強度、伸び率、および引裂強度が顕著に向上した生分解性複合材料およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明は、優れた生分解性および機械的物性を有する複合材料に関する。
具体的に、本発明は、天然高分子ナノファイバーの水分散液と、ジカルボン酸またはその誘導体と、ジオールと、を含んで重合することで製造される生分解性複合材料に関する。
【0025】
本発明の生分解性複合材料は、ジカルボン酸またはその誘導体、およびジオールを単量体相から天然高分子ナノファイバーの水分散液とともに重合することで製造されるものである。これにより、ジカルボン酸またはその誘導体、およびジオールに由来する鎖の間間に天然高分子ナノファイバーが均一に散在して架橋点を形成することができ、顕著に向上した機械的物性が実現されることができる。
【0026】
特に、本発明は、天然高分子ナノファイバーそのものではない、その水分散液を採用するという点に大きな特徴がある。
本発明者は、前述した特許(韓国登録特許公報第10-1897180号)により、1,4-ブタンジオール、コハク酸、およびセルロースナノファイバーをin-situ重合することで製造される生分解性PBS複合材料を提供したことがある。
【0027】
それにもかかわらず、本発明者は、より優れた機械的物性を有する生分解性複合材料を提供するために深みのある研究を持続的に行った。その結果、セルロースナノファイバーそのものではない、その水分散液を用いる場合、生分解性複合材料の機械的物性が顕著に向上することを見出した。
【0028】
具体的に、天然高分子ナノファイバーの水分散液を用いて製造された本発明の生分解性複合材料の場合、天然高分子ナノファイバーそのものを用いて製造された生分解性複合材料に比べて、引張強度、伸び率、および引裂強度において約20%以上の高い値を示した。さらに、天然高分子ナノファイバーを用いていない生分解性プラスチックに比べては、実に2倍以上の引張強度、伸び率、および引裂強度値を示した。
【0029】
すなわち、本発明の生分解性複合材料は、その製造時に天然高分子ナノファイバーの水分散液を採用することで、優れた生分解性だけでなく、顕著に向上した機械的物性を有するという特徴がある。よって、本発明の生分解性複合材料は、生分解性材料市場の拡大および環境汚染の防止に莫大な影響を及ぼし得るものと考えられる。
【0030】
参考に、本発明の生分解性複合材料は、ジカルボン酸またはその誘導体、およびジオールからポリエステルを先に製造し、溶融混合法または溶液混合法により、それを天然高分子ナノファイバーと複合化したものではない。かかる生分解性複合材料の場合、その物性が劣るということを、前述した本発明者の特許(韓国登録特許公報第10-1897180号)において詳細に明かしたことがあるため、本明細書では、これについて具体的に説明しない。
【0031】
以下、本発明の各構成要素についてさらに具体的に説明する。
本発明において、前記天然高分子ナノファイバーの水分散液は、天然高分子ナノファイバーを分散質とし、水、例えば、蒸留水を分散媒とする水分散液であってもよい。
【0032】
前記天然高分子ナノファイバーとは、自然界に存在する天然高分子、例えば、キチンやセルロースなどに由来するものを意味し得る。
より具体的に、前記天然高分子ナノファイバーは、キチンやセルロースなどの天然高分子を、当技術分野で採択、応用可能な物理的、化学的方法により、ナノファイバー化したものであってもよい。
【0033】
本発明の一実施形態において、前記天然高分子ナノファイバーは、キチンナノファイバー、セルロースナノファイバーなどから選択される何れか1つ以上であってもよい。
【0034】
すなわち、本発明の一実施形態において、前記天然高分子ナノファイバーの水分散液は、キチンナノファイバー、セルロースナノファイバーなどから選択される何れか1つ以上の天然高分子ナノファイバーを含んでもよい。
【0035】
本発明の一実施形態において、前記天然高分子ナノファイバーの水分散液中の天然高分子ナノファイバーの量は、前記生分解性複合材料の全体100重量%に対して0.005~2重量%、より好ましくは0.01~1重量%、さらに好ましくは0.05~0.5重量%であってもよい。この場合、生分解性複合材料は、優れた機械的物性を示すことができる。特に、0.05~0.5重量%の範囲を有する場合、顕著に向上した機械的物性を示しており、本発明においてさらに好適である。
【0036】
本発明の一実施形態において、前記天然高分子ナノファイバーの水分散液中の天然高分子ナノファイバーの濃度は0.1~50重量%であってもよい。
本発明の一実施形態において、前記天然高分子ナノファイバーは、直径が1~200nm、より好ましくは1~100nm、さらに好ましくは1~50nmであってもよい。また、長さは100nm~100μm、より好ましくは100nm~10μmであってもよい。この場合、生分解性複合材料の機械的物性をさらに向上させることができる。
【0037】
本発明の一実施形態において、前記ジカルボン酸は、脂肪族ジカルボン酸および芳香族ジカルボン酸から選択される何れか1つ以上であってもよい。
【0038】
一部の実施形態において、前記脂肪族ジカルボン酸は、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などから選択される何れか1つ以上であってもよい。
【0039】
一部の実施形態において、前記芳香族ジカルボン酸は、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸などから選択される何れか1つ以上であってもよい。
【0040】
本発明の一実施形態において、前記ジオールは、脂肪族ジオールであってもよく、例えば、エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-イソブチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,4-ジメチル-2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-オクタデカンジオールなどから選択される何れか1つ以上であってもよい。
【0041】
本発明の一実施形態において、前記生分解性複合材料は、3価以上の官能基を有する化合物をさらに含んで重合することで製造されてよい。この場合、生分解性複合材料の機械的物性をさらに向上させることができる。これは確実ではないが、天然高分子ナノファイバーにより未だ架橋点が形成されていない部分を前記化合物が補うことによって現れる効果であると考えられる。
【0042】
一部の実施形態において、前記3価以上の官能基を有する化合物は、3官能以上のアルコール、3官能以上のカルボン酸またはその誘導体、3官能以上のヒドロキシ酸またはその誘導体などから選択される何れか1つ以上であってもよい。
【0043】
一部の実施形態において、前記3官能以上のヒドロキシ酸は、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸などから選択される何れか1つ以上であってもよい。
【0044】
一部の実施形態において、前記3価以上の官能基を有する化合物は、前記ジオール100モル%に対して0.01~0.5モル%の量で含まれてもよい。この場合、前記化合物は、天然高分子ナノファイバーを補う役割に充実していて、生分解性複合材料が優れた機械的物性を有するようにする。
【0045】
本発明の一実施形態において、前記生分解性複合材料は、下記式1を満たしてもよい。
【0046】
[式1]
【数3】
【0047】
前記式1中、TSは前記生分解性複合材料の引張強度であり、TSは前記天然高分子ナノファイバーの水分散液を除いて重合した場合の引張強度である。
【0048】
本発明の一実施形態において、前記生分解性複合材料は、下記式2を満たしてもよい。
【0049】
[式2]
【数4】
【0050】
前記式2中、TTは前記生分解性複合材料の引裂強度であり、TTは前記天然高分子ナノファイバーの水分散液を除いて重合した場合の引裂強度である。
【0051】
また、本発明は、天然高分子ナノファイバーの水分散液、ジカルボン酸またはその誘導体、およびジオールを含む混合分散液を準備するステップと、前記混合分散液を重合するステップと、を含む、生分解性複合材料の製造方法を提供する。
【0052】
本発明の製造方法は、ジカルボン酸またはその誘導体、およびジオールを重合して先にポリエステルを製造し、それに溶融混合法または溶液混合法を用いて、それを天然高分子ナノファイバーと複合化するものではない。
【0053】
これとは異なり、本発明の製造方法は、ジカルボン酸またはその誘導体、およびジオールを単量体相から天然高分子ナノファイバーの水分散液とともに重合するものである。これにより、天然高分子ナノファイバーが生分解性複合材料中に均一に分布した架橋点を形成することができるため、製造された生分解性複合材料は、顕著に向上した機械的物性を示すことができる。
【0054】
特に、本発明の製造方法は、天然高分子ナノファイバーそのものではない、その水分散液を採用することに大きな特徴がある。この場合、機械的物性が顕著に優れた生分解性複合材料を製造することができる。これは、後述する実施例および比較例からさらに具体的に確認することができる。
【0055】
本発明の製造方法において、前記混合分散液を準備する際、天然高分子ナノファイバーの水分散液、ジカルボン酸またはその誘導体、およびジオールの混合順には特に制限がない。例えば、天然高分子ナノファイバー水分散液をジオールと混合した後に、ジカルボン酸またはその誘導体と混合してもよく、その逆に、天然高分子ナノファイバー水分散液をジカルボン酸またはその誘導体と先に混合した後に、ジオールと混合してもよい。
【0056】
一部の実施形態において、前記混合分散液を準備するステップは、天然高分子ナノファイバーの分散度をさらに向上させるために、撹拌、超音波処理、および均質化などが伴われてもよい。
【0057】
本発明の製造方法において、前記天然高分子ナノファイバーの水分散液、前記ジカルボン酸、および前記ジオールは前述したものと同様であってもよいため、その具体的説明は省略する。
【0058】
本発明の製造方法の一実施形態において、前記混合分散液は、3価以上の官能基を有する化合物をさらに含んでもよい。この場合、天然高分子ナノファイバーが未だ架橋点を形成していない部分を前記化合物が補うことで、さらに向上した機械的物性を有する生分解性複合材料を製造することができる。この際、前記3価以上の官能基を有する化合物は前述したものと同様であってもよいため、その具体的説明は省略する。
【0059】
本発明の製造方法の一実施形態において、前記混合分散液を準備するステップは、ジカルボン酸またはその誘導体、およびジオールを含むスラリーを準備するステップと、前記スラリーを均質化するステップと、前記均質化されたスラリーと天然高分子ナノファイバー水分散液とを混合するステップと、を含んでもよい。この場合、ジカルボン酸またはその誘導体の分散度も向上させ、天然高分子ナノファイバーは、生分解性複合材料中にさらに均一に分布した架橋点を形成することができる。これにより、生分解性複合材料の機械的物性をさらに向上させることができる。
【0060】
この際、前記スラリーを均質化するステップは、当技術分野で通常採用可能な多様な均質化方法によって行われてもよい。例えば、機械的分散、超音波処理などのような物理的方法によって行われてもよい。
【0061】
一部の実施形態において、前記スラリーを均質化するステップは、前記スラリーを加熱するステップを含んでもよい。この場合、ジカルボン酸またはその誘導体は、さらに優れた分散度を有することができるため、上述した効果が増大し得る。
【0062】
一部の実施形態において、前記スラリーを加熱するステップは、前記スラリーのエステル化またはトランスエステル化が進行しない温度範囲で行われてもよい。但し、若干のエステル化またはトランスエステル化が進行する温度範囲であってもよい。その具体的な温度範囲は、採用されるジカルボン酸またはその誘導体、およびジオールに応じて異なるため、それを予め予測することは難しい。但し、例えば、アジピン酸および1,4-ブタンジオールの場合、80~130℃の温度範囲で加熱が行われてもよい。
【0063】
本発明の製造方法において、前記混合分散液を重合するステップでの重合条件は、特に制限されない。すなわち、採用されるジカルボン酸またはその誘導体、およびジオールに応じて、当技術分野で公知の重合条件が採択、応用されてもよい。
【0064】
本発明の製造方法の一実施形態において、前記混合分散液を重合するステップは、前記混合分散液をエステル化またはトランスエステル化反応させてオリゴマーを形成させるステップと、前記オリゴマーを重縮合反応させるステップと、を含んでもよい。
【0065】
一部の実施形態において、前記混合分散液を重合するステップは、重合の促進および安定した重合の進行のために、触媒を用いてもよい。前記触媒は、例えば、カルシウムアセテート、マンガンアセテート、マグネシウムアセテート、亜鉛アセテート、モノブチル酸化スズ、ジブチル酸化スズ、二塩化ジブチルスズ、テトラフェニルスズ、テトラブチルスズ、オクチル化スズ、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラ(2-エチルヘキシル)チタネートなどから選択される何れか1つ以上であってもよい。
【0066】
また、本発明は、天然高分子ナノファイバー水分散液、第1ジカルボン酸またはその誘導体、および第1ジオールを含む混合分散液を準備するステップと、前記混合分散液をエステル化またはトランスエステル化反応させてオリゴマーを形成させるステップと、前記オリゴマーに、第2ジカルボン酸またはその誘導体、および第2ジオールをさらに投入し重合するステップと、を含む、生分解性複合材料の製造方法を提供する。
【0067】
これは、ジカルボン酸またはその誘導体の予定された総使用量を考慮し、一部を先に天然高分子ナノファイバー水分散液およびジオールと混合、反応させて、より低重合のオリゴマーを形成させ、その次に、ジカルボン酸またはその誘導体、およびジオールをさらに投入して、オリゴマーと重合させる方法である。この場合、後述する実施例から確認できるように、より優れた機械的物性を有する生分解性複合材料を製造することができる。これは確実ではないが、反応を順次進行させることで、天然高分子ナノファイバーが生分解性複合材料中にさらに均一に分布した架橋点を形成したためであると見られる。
【0068】
前記混合分散液を準備するステップは、前述したものと同様に行われてもよいため、その具体的説明は省略する。
前記天然高分子ナノファイバー水分散液は前述したものと同様であってもよいため、その具体的説明は省略する。
【0069】
また、前記第1ジカルボン酸および第2ジカルボン酸としては前述したようなジカルボン酸が採用されてもよく、前記第1ジオールおよび第2ジオールも前述したようなジオールが採用されてもよいため、その具体的説明は省略する。
【0070】
前記第1ジカルボン酸および前記第2ジカルボン酸は、互いに同じでも互いに異なってもよい。同様に、前記第1ジオールおよび前記第2ジオールは、互いに同じでも互いに異なってもよい。
【0071】
前記オリゴマー形成ステップおよび前記重合ステップにおいて、円滑で且つ安定した反応の進行のために、触媒が用いられてもよい。前記触媒としては前述したものと同様のものが採用されてもよいため、その具体的説明は省略する。
【0072】
また、前記重合ステップは、特に制限されるものではないが、前記オリゴマーと、さらに投入された第2ジカルボン酸またはその誘導体、および第2ジオールとをエステル化またはトランスエステル化反応させ、その次に、重縮合反応させてもよい。
【実施例
【0073】
以下、本発明の好ましい実施例および比較例を記載する。但し、下記の実施例は本発明の好ましい一実施例にすぎず、本発明が下記の実施例に限定されるものではない。
【0074】
[評価方法]
(1)引張試験
引張強度および伸び率は、Intstron 5943装置を用いて、ASTM D638-Type Vに基づいて測定した。10kNのロードセル、クロスヘッド速度100mm/minで、25℃で測定した。5回測定した平均値を得た。
【0075】
(2)引裂試験
引裂強度は、KS M ISO 34-1:2009試験法に基づいて測定した。
【0076】
[実施例1~4]
理論的な最終生成物の収量(100g)に対して0.05wt%のキチンナノファイバー(0.05g、直径10~20nm、長さ1~3μm)を蒸留水に投入した後、超音波発生器で10分間分散させ、キチンナノファイバー水分散液(2.5g)を製造した。
【0077】
製造されたキチンナノファイバー水分散液2.5gを1,4-ブタンジオール(0.76mol、68.30g)に投入し、超音波発生器で10分間処理した。それをアジピン酸(0.24mol、34.61g)およびジメチルテレフタレート(0.24mol、45.99g)とともに反応器に投入した後、窒素雰囲気で1時間10rpmで撹拌し、混合分散液を得た。
【0078】
<エステル化、トランスエステル化反応>
140℃まで昇温して混合分散液を完全溶融させた後、触媒としてTi(OBu)を500ppm投入した。その後、それを150rpmで撹拌しつつ180℃まで昇温(10℃/min)し、2時間維持した。210℃まで昇温して2時間さらに維持した後、副産物を除去した。
【0079】
<重縮合反応>
生成物をオーバーヘッド撹拌機が取り付けられた反応器に移した後、窒素雰囲気で170℃まで昇温した。生成物が完全溶融した後、50rpmで撹拌しつつ240℃まで昇温(10℃/min)し、漸進的な減圧により100mTorrに合わせた。オーバーヘッド撹拌機を通じたトルクの測定で、内部反応物の粘度が上昇する際に撹拌速度を30rpmに減少させ、60分間維持した。
最終生成物を水で急冷させ、それを室温状態の真空オーブン内で48時間乾燥させ、生分解性複合材料を製造した。
【0080】
キチンナノファイバーの投入量だけを、それぞれ0.5wt%(実施例2)、0.005wt%(実施例3)、および2.0wt%(実施例4)に異なるようにして上記の過程を繰り返して行い、生分解性複合材料をさらに製造した。
製造された生分解性複合材料の引張強度、伸び率、および引裂強度を測定し、下記表1に記した。
【0081】
[実施例5~8]
実施例1において、キチンナノファイバーの代わりに、理論的な最終生成物の収量(100g)に対して0.05wt%のセルロースナノファイバー(0.05g、直径10~20nm、長さ1~3μm)を蒸留水に投入し、セルロースナノファイバー水分散液(2.5g)を製造、使用したことを除いては、実施例1と同様に行い、生分解性複合材料を製造した。
【0082】
セルロースナノファイバーの投入量だけを、それぞれ0.5wt%(実施例6)、0.005wt%(実施例7)、および2.0wt%(実施例8)に異なるようにして上記の過程を繰り返し行い、生分解性複合材料をさらに製造した。
製造された生分解性複合材料の引張強度、伸び率、および引裂強度を測定し、下記表1に記した。
【0083】
[実施例9]
1,4-ブタンジオール(0.38mol、34.15g)およびアジピン酸(0.24mol、34.61g)を反応器に投入した後、90℃で加熱、撹拌して均一なスラリーを製造した。
【0084】
製造されたスラリーに、実施例1で製造されたキチンナノファイバー水分散液を投入し、超音波発生器で10分間処理した。それを窒素雰囲気で10rpmで1時間撹拌し、混合分散液を得た。
【0085】
<1次反応:エステル化反応>
140℃まで昇温して混合分散液を完全溶融させた後、触媒としてTi(OBu)を500ppm投入した。それを150rpmで撹拌しつつ180℃まで昇温(10℃/min)し、2時間維持した。
【0086】
<2次反応:トランスエステル化反応>
反応器に、1,4-ブタンジオール(0.38mol、34.15g)およびジメチルテレフタレート(0.24mol、45.99g)をさらに投入した。その後、それを210℃まで昇温して2時間維持した後、副産物を除去した。
【0087】
<重縮合反応>
生成物をオーバーヘッド撹拌機が取り付けられた反応器に移した後、窒素雰囲気で170℃まで昇温した。生成物が完全溶融した後、50rpmで撹拌しつつ240℃まで昇温(10℃/min)し、漸進的な減圧により100mTorrに合わせた。オーバーヘッド撹拌機を通じたトルクの測定で、内部反応物の粘度が上昇する際に撹拌速度を30rpmに減少させ、60分間維持した。
【0088】
最終生成物を水で急冷させ、それを室温状態の真空オーブン内で48時間乾燥させ、生分解性複合材料を製造した。
製造された生分解性複合材料の引張強度、伸び率、および引裂強度を測定し、下記表1に記した。
【0089】
[実施例10]
実施例9において、実施例1で製造されたキチンナノファイバー水分散液の代わりに、実施例5で製造されたセルロースナノファイバー水分散液を用いたことを除いては、実施例9と同様に行い、生分解性複合材料を製造した。
製造された生分解性複合材料の引張強度、伸び率、および引裂強度を測定し、下記表1に記した。
【0090】
[実施例11]
実施例1において、1,4-ブタンジオールに対して0.05mol%の酒石酸(0.38mmol)を1,4-ブタンジオールに追加投入したことを除いては、実施例1と同様に行い、生分解性複合材料を製造した。
製造された生分解性複合材料の引張強度、伸び率、および引裂強度を測定し、下記表1に記した。
【0091】
[実施例12]
実施例1において、1,4-ブタンジオールに対して0.05mol%のクエン酸(0.38mmol)を1,4-ブタンジオールに追加投入したことを除いては、実施例1と同様に行い、生分解性複合材料を製造した。
製造された生分解性複合材料の引張強度、伸び率、および引裂強度を測定し、下記表1に記した。
【0092】
[比較例1]
実施例1において、キチンナノファイバー水分散液を用いていないことを除いては、実施例1と同様に行い、PBAT(poly butylene adipate-co-terephthalate)を製造した。
製造されたPBATの引張強度、伸び率、および引裂強度を測定し、下記表2に記した。
【0093】
[比較例2~5]
実施例1において、キチンナノファイバー水分散液の代わりに、0.05wt%のキチンナノファイバーそのものを1,4-ブタンジオールに投入したことを除いては、実施例1と同様に行い、生分解性複合材料を製造した。
【0094】
キチンナノファイバーの投入量だけを、それぞれ0.5wt%(比較例3)、0.005wt%(比較例4)、および2.0wt%(比較例5)に異なるようにして上記の過程を繰り返し行い、生分解性複合材料をさらに製造した。
製造された生分解性複合材料の引張強度、伸び率、および引裂強度を測定し、下記表2に記した。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
前記表1および2から確認できるように、天然高分子ナノファイバー水分散液を用いた実施例の場合、比較例1のPBATに比べて、顕著に向上した機械的物性を示した。これは、天然高分子ナノファイバーが生分解性複合材料中に均一に分布した架橋点を形成することで現れる効果であると考えられる。
【0098】
特に、天然高分子ナノファイバーを生分解性複合材料の全体重量に対して0.05wt%または0.5wt%の量で含有した水分散液を用いた実施例の場合、引張強度および引裂強度において約2倍の値を、伸び率において約1.5倍の値を示しており、顕著に向上した機械的物性を示した。
【0099】
実施例9~10は、1,4-ブタンジオールおよびアジピン酸のスラリーを加熱、均質化した後、天然高分子ナノファイバー水分散液と混合し1次反応させてオリゴマーを形成させた後、ジメチルテレフタレートおよび1,4-ブタンジオールをさらに投入して2次反応させたものである。この場合、前記表から確認できるように、実施例1に比べて、機械的物性がさらに向上するという効果を示した。これは確実ではないが、加熱、均質化によるアジピン酸の分散度の向上、および1次、2次からなる順次的な反応により、天然高分子ナノファイバーがさらに均一に分布した架橋点を形成したためであると考えられる。
【0100】
実施例11~12は、混合分散液の製造時に酒石酸またはクエン酸をさらに含ませたものであり、実施例1に比べて、引張強度および引裂強度において約10%、伸び率において約5%の更なる上昇効果を示した。これは確実ではないが、天然高分子ナノファイバーにより未だ架橋点が形成されていない部分を酒石酸またはクエン酸が補うことで現れる効果であると考えられる。
【0101】
また、前記表1および2から、キチンナノファイバーそのものを用いた比較例2~5の場合、同一量のキチンナノファイバーを用いるが水分散液として用いた実施例1~4に比べて、機械的物性の向上効果が多少低下することを確認することができる。
【0102】
より具体的に、同一量のキチンナノファイバーを用いた実施例1と比較例2、実施例2と比較例3などを比較すると、実施例の場合が引張強度、伸び率、および引裂強度において約20%さらに高い値を示すことを確認することができる。
【0103】
したがって、これより、天然高分子ナノファイバーそのものではなく、その水分散液を用いる場合、生分解性複合材料の機械的物性をさらに顕著に向上可能であることを確認することができる。