(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-28
(45)【発行日】2023-01-12
(54)【発明の名称】窒化ホウ素焼結体シートの製造方法、及び焼結体シート
(51)【国際特許分類】
C04B 35/583 20060101AFI20230104BHJP
C01B 21/064 20060101ALI20230104BHJP
【FI】
C04B35/583
C01B21/064 B
(21)【出願番号】P 2022528626
(86)(22)【出願日】2022-01-25
(86)【国際出願番号】 JP2022002676
(87)【国際公開番号】W WO2022163646
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2021010126
(32)【優先日】2021-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦也
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 厚樹
(72)【発明者】
【氏名】上島 賢久
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-310822(JP,A)
【文献】特開2014-162697(JP,A)
【文献】特開平10-025296(JP,A)
【文献】特開2011-178598(JP,A)
【文献】特開2015-212217(JP,A)
【文献】国際公開第2018/181606(WO,A1)
【文献】特開2011-189421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/583
C01B 21/064
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭窒化ホウ素と、焼結助剤とを含むグリーンシートの積層体を、焼成炉内の一部を区画して形成される閉鎖空間内で焼成して焼成体を得る工程と、
前記閉鎖空間を開放して、1800~2020℃で加熱処理することによって、前記焼成体から焼結体シートを得る工程と、を有
し、
前記焼結助剤の含有量は、前記グリーンシートの全量を基準として6.0質量%以上であり、
前記閉鎖空間の体積をA[単位:L]とし、前記閉鎖空間内に投入される焼結助剤の全量[単位:kg]をBとしたときの、B/Aの値が0.040kg/L以上である、窒化ホウ素焼結体シートの製造方法。
【請求項2】
前記焼成体を25℃まで冷却する工程を更に有する、請求項
1に記載の窒化ホウ素焼結体シートの製造方法。
【請求項3】
窒化ホウ素の一次粒子が凝集して構成される複数の塊状粒子と、窒化ホウ素で構成される複数の針状結晶と、を含み、複数の前記針状結晶の少なくとも一部は、直接又は間接に2以上の前記塊状粒子と接している、窒化ホウ素焼結体シートであって、
少なくとも一方の主面の最大高さ粗さRzが12~18μmである、焼結体シート。
【請求項4】
厚みが2mm未満である、請求項
3に記載の焼結体シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化ホウ素焼結体シートの製造方法、及び焼結体シートに関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイス、トランジスタ、サイリスタ、及びCPU等の部品においては、使用時に発生する熱を効率的に放熱することが求められる。このような要請から、従来、電子部品を実装するプリント配線板の絶縁層の高熱伝導化を図ったり、電子部品又はプリント配線板を、電気絶縁性を有する熱インターフェース材(Thermal Interface Materials)を介してヒートシンクに取り付けたりすることが行われてきた。このような絶縁層及び熱インターフェース材として、セラミックが用いられている。
【0003】
セラミックの一種である窒化ホウ素は、潤滑性、熱伝導性及び絶縁性に優れている。このため、窒化ホウ素及びこれを他の材料と複合化した材料を上述のような絶縁層及び熱インターフェース材として用いることが検討されている。例えば、特許文献1では、窒化ホウ素成形体を樹脂と複合化するとともに、窒化ホウ素の配向度及び黒鉛化指数を所定の範囲にして、熱伝導率に優れつつ熱伝導率の異方性を低減する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、歩留まりを向上させる観点から、グリーンシートを薄く成形し、これを焼成することによって直接、セラミックス焼結体のシートを調製する方法が採用されている。しかし、通常、グリーンシートを複数枚積層した状態で焼成するため、得らえるセラミックス焼結体シート同士が接着し、これをはく離する過程で、セラミックス焼結体シートに割れ、欠け等が発生し、歩留まりの低下を招き得る。
【0006】
熱伝導率の向上の観点から、窒化ホウ素焼結体の調製に上述のような窒化ホウ素の一次粒子の凝集体を利用することが望ましいものの、凝集体を利用することによって期待し得るほどの熱伝導率を発揮し得ない場合がある。
【0007】
本開示は、従来よりも歩留まりよく、熱伝導性に優れる窒化ホウ素焼結体シートの製造方法を提供することを目的とする。本開示はまた、熱伝導性に優れる焼結体シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上述の課題にあたり、複数枚のグリーンシートの積層体を焼成した場合において、得られる焼結体シート同士が接着し、はく離し難くなる一因として、焼結体シート間に焼結助剤に由来するガラス相が形成されていることを確認した。また、焼結体シートの熱伝導率等の性能向上のために焼結助剤の配合を増加させること、及び焼結助剤が系外に逃れることを抑制するために閉鎖空間で焼成を行うこと等によって、上述の焼結体シート同士の接着が促進されるとの知見を得た。本開示は上記知見に基づいてなされたものである。
【0009】
本開示の一側面は、炭窒化ホウ素と焼結助剤とを含むグリーンシートの積層体を、焼成炉内の一部を区画して形成される閉鎖空間内で焼成して焼成体を得る工程と、上記閉鎖区間を開放して1800~2020℃で加熱処理することによって、上記焼成体から焼結体シートを得る工程と、を有する、窒化ホウ素焼結体シートの製造方法を提供する。
【0010】
上記窒化ホウ素焼結体シートの製造方法は、グリーンシートを焼成炉内の一部を区画して形成される閉鎖空間内で焼成することで焼結助剤が十分に存在する状況で六方晶窒化ホウ素のシート状の焼結体を形成することができ、このような状況では、六方晶窒化ホウ素の一次粒子で構成される塊状粒子によって粒子間に形成される空隙において、六方晶窒化ホウ素の針状結晶を成長させることができる。当該針状結晶は塊状粒子間の熱の伝達路となり、焼結体シートの熱伝導性を向上させることができる。その後、焼成雰囲気を開放して、加熱処理することによって、上記シート状の焼結体間に形成される焼結助剤に由来するガラス相等を揮発させ除去することができる。これによって焼結体同士をはく離する際の欠け等の発生を抑制することができ、従来の焼結体シートの製造方法よりも歩留まりよく焼結体シートを製造することができる。
【0011】
上記焼結助剤の含有量は、上記グリーンシートの全量を基準として6.0質量%以上であってよい。
【0012】
上記窒化ホウ素焼結体シートの製造方法は、上記焼成体を25℃まで冷却する工程を更に有してよい。窒化ホウ素焼結体は加熱によって収縮し、冷却によって膨張する傾向を有する。このため、焼成体を加熱処理する前に一旦冷却し焼結体を膨張させ、その後加熱処理し再び焼結体を収縮させることでガラス相へ歪みを加え、その後の開放下での焼成においてガラス相の揮発を促進して、焼結体シート間のはく離をより容易にすることができ、歩留まりを更に向上し得る。
【0013】
上記窒化ホウ素焼結体シートの製造方法は、上記閉鎖空間の体積をA[単位:L]とし、上記閉鎖空間内に投入される焼結助剤の全量[単位:kg]をBとしたときの、B/Aの値が0.040kg/L以上であってよい。
【0014】
本開示の一側面は、窒化ホウ素焼結体シートであって、少なくとも一方の主面の最大高さ粗さRzが12~18μmである、焼結体シートを提供する。
【0015】
上記焼結体シートは、少なくとも一方の主面の最大高さ粗さRzが所定の範囲内となるような表面を有することから、優れた熱伝導性を有する。本発明者らの検討によれば、六方晶窒化ホウ素の一次粒子で構成される塊状粒子の粒子間の空隙において六方晶窒化ホウ素の針状結晶が成長すると、その成長に伴って塊状粒子が押し上げられ、焼結体シートの表面にマイクロメータスケールの凹凸が生じ得る。そして、焼結体シートの主面における最高高さ粗さRzが所定の範囲内となる程度に針状結晶の成長が進んでいることで、焼結体シートが優れた熱伝導率を発揮し得る。
【0016】
上記焼結体シートは厚みが2mm未満であってよい。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、従来よりも歩留まりよく、熱伝導性に優れる窒化ホウ素焼結体シートの製造方法を提供できる。本開示によればまた、熱伝導性に優れる焼結体シートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、六方晶窒化ホウ素焼結体の断面の一部を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、場合によって図面を参照して、本開示の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0020】
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。本明細書における「工程」とは、互いに独立した工程であってもよく、連続して行われる工程であってもよい。
【0021】
<窒化ホウ素焼結体シートの製造方法>
六方晶窒化ホウ素焼結体の製造方法の一実施形態は、炭化ホウ素を含む原料粉末を、窒素を含む雰囲気下で焼成して炭窒化ホウ素を得る工程(窒化工程)と、炭窒化ホウ素と焼結助剤とを含むグリーンシートの積層体を、焼成炉内の一部を区画して形成される閉鎖空間内で焼成して焼成体を得る工程(焼成工程)と、上記閉鎖空間を開放して1800~2020℃で加熱処理することによって、上記焼成体から焼結体シートを得る工程(熱処理工程)と、を有する。
【0022】
炭化ホウ素(B4C)を含む粉原料末は、例えば、以下の手順で調製することができる。ホウ酸とアセチレンブラックとを混合した後、不活性ガス雰囲気中、1800~2400℃にて、1~10時間加熱し、炭化ホウ素を含む塊状物を得る。この塊状物を、粉砕し、洗浄、不純物除去、及び乾燥を行って調製することができる。
【0023】
窒化工程では、炭化ホウ素を含む粉末を、窒素を含む雰囲気下で焼成して炭窒化ホウ素(B4CN4)を含む焼成物を得る。窒化工程における焼成温度は、1800℃以上、又は1900℃以上であってよい。また、当該焼成温度は、2400℃以下、又は2200℃以下であってよい。当該焼成温度は、例えば、1800~2400℃であってよい。
【0024】
窒化工程における窒素分圧の下限値は、0.6MPa以上、又は0.7MPa以上であってよい。窒素分圧の上限値は、1.0MPa以下、又は0.9MPa以下であってよい。窒素分圧は、例えば、0.6~1.0MPaであってよい。窒素分圧が低過ぎると、炭化ホウ素の窒化が進行し難くなる傾向がある。一方、当該圧力が高過ぎると、製造コストが上昇する傾向にある。なお、本明細書における圧力は絶対圧である。
【0025】
窒化工程における窒素を含む雰囲気の窒素ガス濃度は95.0体積%以上、又は99.9体積%以上であってもよい。上述の窒素ガス濃度は、標準状態における体積に基づく濃度である。窒化工程における焼成時間は、炭化ホウ素の窒化が十分進む範囲であれば特に限定されず、例えば、6~30時間、又は8~20時間であってよい。
【0026】
窒化工程で調製される炭窒化ホウ素は塊状物として得られ得る。そこで、炭窒化ホウ素は解砕して粉末として使用してもよい。解砕は粉砕機を用いて行ってよい。粉砕機としては、ローラーミル、ジェットミル、ハンマーミル、ピンミル、回転ミル、振動ミル、遊星ミル、アトライター、ビーズミル及びボールミル等が挙げられる。解砕の条件は、得られる炭窒化ホウ素について所望の平均粒子径及び比表面積等となるように調整することができる。解砕は、例えば、ボールミルを用いて、20時間程度の処理を行うことで実施してよい。
【0027】
炭窒化ホウ素の平均粒径の下限値は、例えば、15μm以上、20μm以上、又は25μm以上であってよい。炭窒化ホウ素の平均粒径の上限値は、例えば、50μm以下、40μm以下、又は35μm以下であってよい。炭窒化ホウ素の平均粒径は上述の範囲内で調整してよく、例えば、15~50μm、15~35μm、又は20~35μmであってよい。
【0028】
本明細書における炭窒化ホウ素の平均粒径は、炭窒化ホウ素粉末に対するホモジナイザー処理を行わずに測定して得られる値であり、凝集粒子を含む平均粒子径である。上記平均粒径は、ISO 13320:2009に準拠し、粒度分布測定機を用いて測定するものとする。上記測定で得られる平均粒径は、体積統計値による平均粒径であり、平均粒径はメジアン値(d50)である。粒度分布測定に際し、該凝集体を分散させる溶媒には水を、分散剤にはヘキサメタリン酸を用いる。このとき水の屈折率には1.33を、また、六方晶窒化ホウ素粉末の屈折率については1.80の数値を用いる。粒度分布測定機としては、例えば、日機装株式会社製の「MT3300EX」(製品名)等を用いることができる。
【0029】
炭窒化ホウ素の比表面積の下限値は、例えば、10m2/g以上、12m2/g以上、又は14m2/g以上であってよい。炭窒化ホウ素の比表面積の上限値は、例えば、30m2/g以下、25m2/g以下、又は20m2/g以下であってよい。炭窒化ホウ素の比表面積は上述の範囲内で調整してよく、例えば、10~30m2/g、又は12~20m2/gであってよい。
【0030】
本明細書において六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積は、JIS Z 8803:2013に準拠し、測定装置を用い測定するものとする。当該比表面積は、窒素ガスを使用したBET一点法を適用して算出した値である。
【0031】
炭窒化ホウ素は、別途調製されたもの、又は市販された窒化ホウ素の塊状粒子を含むものを用いることもできる。この場合、窒化工程は省略してよい。炭窒化ホウ素としては、例えば、平均粒径が15~35μmであり、比表面積が、10~30m2/gであってよい。
【0032】
焼成工程で使用する、上記炭窒化ホウ素と焼結助剤とを含むシート(グリーンシートともいう)は、炭窒化ホウ素、及び焼結助剤を混合して、シート状に成形したものであってよい。上記シートの構成を容易にするためにバインダーを更に配合してもよい。炭窒化ホウ素と焼結助剤とは予め配合してもよく、例えば、ヘンシェルミキサー等の混合機を用いて行ってよい。
【0033】
焼結助剤は、炭窒化ホウ素から窒化ホウ素を生成する反応と窒化ホウ素の緻密化を促進する成分である。焼結助剤は、構成元素として酸素を有するホウ素化合物と、カルシウム化合物とを含んでよい。ホウ素化合物としては、例えば、ホウ酸、酸化ホウ素、ホウ砂、及び三酸化二ホウ素等が挙げられる。カルシウム化合物としては、例えば、炭酸カルシウム、及び酸化カルシウム等が挙げられる。焼結助剤は、ホウ素化合物及び炭酸カルシウム以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、例えば、炭酸リチウム、及び炭酸ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩が挙げられる。
【0034】
焼結助剤の含有量は、シートの全量(グリーンシートの全量)を基準として、6.0質量%以上であってよく、熱伝導のパスとなる針状結晶を増加させる観点から、10.0質量%以上、12.5質量%以上、又は15.0質量%以上であってよい。焼結助剤の含有量の上限値は、シートの全量を基準として、例えば、35.0質量%以下、又は30.0質量%以下であってよい。焼結助剤の含有量は上述の範囲内で調整してよく、シートの全量(グリーンシートの全量)を基準として、例えば、6.0~35.0質量%であってよい。
【0035】
バインダーは炭窒化ホウ素及び焼結助剤を含む粉体をシート状に成形するために使用することができる。バインダーは焼成工程等における加熱処理によって除去可能な有機高分子等であってよい。バインダーとしては、例えば、アクリル樹脂等を用いることができる。バインダーの含有量は、グリーンシートの全量を基準として、例えば、0.1~8質量%、0.2~6質量%、0.3~4質量%、又は0.4~2質量%であってよい。
【0036】
焼成工程においては焼結助剤が揮発して系外に放出され、シート内において焼結助剤が不足することを抑制するために焼成炉内の一部を区画して形成される閉鎖空間内で焼成を行う。閉鎖空間は、焼結助剤が加熱によって揮発した際に、シートが存在する空間から外部の空間への焼結助剤の移動が容易にはできない空間であればよく、完全な密閉状態でなくてもよい。閉鎖空間は、外部環境と内部環境とを遮断できればよく、例えば、蓋又は扉を有する容器等であってよい。この場合、例えば、容器ごと焼成炉内に静置して加熱してよい。
【0037】
焼成工程は、閉鎖空間内における焼結助剤の量を調整して行ってもよい。上記焼成工程は、例えば、上記閉鎖空間の体積をA[単位:L]とし、上記閉鎖空間内に投入される焼結助剤の全量[単位:kg]をBとしたときの、B/Aの値が0.040kg/L以上となるように閉鎖空間内の焼結助剤の量を調整して行ってよい。上記閉鎖空間内に投入される焼結助剤は、グリーンシートに配合されるものに限られない。つまり、必要に応じて、焼結助剤を上記閉鎖空間内に別途投入し空間内に発生する焼結助剤の蒸気圧を高めることで、グリーンシートを加熱していった際に焼結助剤がグリーンシートから放出されることを抑制し、シート内における焼結助剤量が不足することを防止できる。上記B/Aの調整は、例えば、焼結助剤を閉鎖空間内部に添加して調整することもできるが、歩留まり向上の観点から、グリーンシートの積層枚数で調整することが望ましく、上記閉鎖空間のサイズにもよるが、例えば、8~12枚程度を積層することで調整してもよい。
【0038】
上記B/Aの値の下限値は、例えば、0.045kg/L以上、0.050kg/L以上、0.055kg/L以上、0.060kg/L以上、又は0.065kg/L以上であってよい。上記B/Aの下限値が上記範囲内であることで、六方晶窒化ホウ素の針状結晶の成長を促進することができ、より熱伝導率に優れる焼結体を調製できる。上記B/Aの値の上限値は、例えば、0.20kg/L以下、0.15kg/L以下、0.10kg/L以下、又は0.90kg/L以下であってよい。上記B/Aの上限値が上記範囲内であることで、製造コストの上昇を抑制することができる。上記B/Aは上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.045~0.25kg/Lであってよい。
【0039】
焼成工程における圧力は、例えば、常圧(大気圧:101kPa)の雰囲気下で加熱してもよく、50kPa以下の雰囲気下で加熱してもよく、加圧して大気圧を超える圧力で加熱してもよい。加圧する場合には、例えば、0.5MPa以下、0.4MPa以下、又は0.3MPa以下であってよい。
【0040】
焼成工程における加熱時間は、0.5時間以上、1時間以上、又は3時間以上であってもよい。当該加熱時間の下限値が上記範囲内であることで、六方晶窒化ホウ素の一次粒子の粒成長を進行させ、針状結晶の割合を高め、得られる六方晶窒化ホウ素焼結体の熱伝導率をより向上できる。焼成工程における加熱時間は、40時間以下、30時間以下、20時間以下、又は10時間以下であってよい。当該加熱時間の上限値を上記範囲内とすることで、製造コストの上昇を抑制することができる。焼成工程における加熱時間は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.5~40時間であってよい。
【0041】
熱処理工程は、上記閉鎖空間を開放して、加熱処理対象を1800~2020℃で加熱処理する工程である。当該工程によって、焼結体シート間に形成された焼結助剤に由来するガラス相の存在量を低減することができ、焼結体シートの製造方法における歩留まりを向上し得る。焼成工程を蓋付き容器内にグリーンシートを収容して、焼成炉内で加熱処理することで行った場合、上記容器の蓋を開けることによって上記閉鎖空間を開放した状態とすることができる。閉鎖空間が解放されることによって焼成体の周囲の雰囲気における焼結助剤の蒸気圧が相対的に低下し、焼結助剤等に由来するガラス相を加熱した際の除去が容易なものとなる。
【0042】
熱処理工程における加熱温度の下限値は、例えば、1850℃以上、又は1900℃以上であってよい。加熱温度の下限値を上記範囲内とすることで、焼結助剤に由来するガラス相をより十分に低減することができる。熱処理工程における加熱温度の上限値は、例えば、2100℃以下、又は2050℃以下であってよい。加熱温度の上限値を上記範囲内とすることで、焼結体シートの主面近傍における六方晶窒化ホウ素の過剰な粒成長を抑制することができ、焼結体シートの接着性を調整することができる。
【0043】
熱処理工程における加熱時間は、1時間以上、1.5時間以上、又は2時間以上であってよい。熱処理工程における加熱時間は、10時間以下、8時間以下、又は7時間以下であってよい。
【0044】
上述の窒化ホウ素焼結体シートの製造方法は、その他の工程を有してもよい。上述の窒化ホウ素焼結体シートの製造方法は、例えば、上記焼成体を25℃まで冷却する工程を更に有してもよい。上述の窒化ホウ素焼結体シートの製造方法はまた、熱処理工程の後、焼結体シート同士が緩く結合している場合には、焼結体シート同士をはく離して個々の焼結体シートを得るはく離工程を有してもよい。
【0045】
焼結体シートの一実施形態は、窒化ホウ素焼結体シートであって、少なくとも一方の主面の最大高さ粗さRzが12~18μmである、焼結体シートである。上記焼結体シートの有する一対の主面の少なくとも一方は切断面でなく、両面共に切断面でないことが好ましい。上記焼結体シートの有する一対の主面の少なくとも一方は研磨面でなく、両面共に研磨面でないことが好ましい。当該焼結体シートは、例えば、上述の窒化ホウ素焼結体シートの製造方法によって製造することができる。
【0046】
焼結体シートは、窒化ホウ素の一次粒子が凝集して構成される複数の塊状粒子と、窒化ホウ素で構成される複数の針状結晶と、を含み得る。
図1は、焼結体シートの一例を示すSEM写真であり、六方晶窒化ホウ素焼結体の断面の一部を示している。焼結体シートは複数の塊状粒子12と、複数の針状結晶22とで構成される。
図1から、六方晶窒化ホウ素の針状結晶22が塊状粒子12間の空隙に形成されていることが確認できる。当該焼結体において、複数の上記針状結晶22の少なくとも一部は、直接又は間接に2以上の塊状粒子12と接している。このような針状結晶が設けられることによって、塊状粒子よりも熱の伝達性に劣る空隙部分においても十分な熱伝達が可能となっており、焼結体シートとしての熱伝導性が向上し得る。
【0047】
窒化ホウ素焼結体シートの主面における最大高さ粗さRzは、例えば、14~18μm、又は15~18μmであってよい。焼結体シートの両主面における最大高さ粗さRzがともに上述の範囲であることがより好ましい。窒化ホウ素焼結体シートの主面における最大高さ粗さが上記範囲内であることで、熱伝導性を向上させることができ、且つ適度な粗さを有することから、被着体との接着性を向上させることができる。
【0048】
窒化ホウ素焼結体シートの主面における算術平均粗さRaは、例えば、1.5~3.0μm、又は1.0~2.8μmであってよい。焼結体シートの両主面における算術平均粗さRaがともに上述の範囲であることがより好ましい。窒化ホウ素焼結体シートの主面における算術平均粗さが上記範囲内であることで、主面内における均一性により優れ、被着体との接着後の信頼性を向上させることができる。
【0049】
窒化ホウ素焼結体シートの最大高さ粗さRz及び算術平均粗さRaは、JIS B 0601:2013「製品の幾何特性仕様(GPS)-表面性状:輪郭曲線方式-用語,定義及び表面性状パラメータ」に記載されるパラメータである。
【0050】
焼結体シートの厚みは、例えば、2mm未満、又は1.6mm未満であってよい。このような厚みを有する焼結体シートであることで、例えば、焼結体シートの有する気孔への樹脂の充填がより容易なものとなり、樹脂の充填率に優れる複合シートをより容易に調製することができる。焼結体シートの製造の容易性の観点から、焼結体シートの厚みは、例えば、0.1mm以上、又は0.2mm以上であってよい。
【0051】
上述の六方晶窒化ホウ素焼結体は優れた熱伝導率を発揮し得る。六方晶窒化ホウ素焼結体の熱伝導率は、例えば、20W/mK以上、25W/mK以上、30W/mK以上、又は35W/mK以上とすることができる。
【0052】
上述の窒化ホウ素焼結体シートは熱伝導性に優れることから、半導体装置等の各種デバイスの放熱部材として好適に使用することができる。被着体としては、例えば、金属シート等が挙げられる。金属シートは、金属板又は金属箔であってよい。金属シートの材質は、例えば、アルミニウム及び銅等が挙げられる。
【0053】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、共通する構成については互いの説明を適用することができる。また本開示は、上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
[窒化工程]
新日本電工株式会社製のオルトホウ酸100質量部と、デンカ株式会社製のアセチレンブラック(商品名:HS100)35質量部とをヘンシェルミキサーを用いて混合した。得られた混合物を、黒鉛製のルツボ中に充填し、アーク炉にて、アルゴン雰囲気で、2200℃にて5時間加熱し、塊状の炭化ホウ素(B4C)を得た。得られた塊状物を、ジョークラッシャーで解砕して粗粉を得た。この粗粉を、炭化珪素製のボール(φ10mm)を有するボールミルによってさらに粉砕して粉砕粉を得た。ボールミルによる粉砕は、回転数20rpmで60分間行った。その後、目開き45μmの振動篩を用いて粉砕粉を分級した。篩上の微粉を、クラッシール分級機で気流分級を行って、10μm以上の粒径を有する炭化ホウ素粉末を得た。得られた炭化ホウ素粉末の炭素量は19.9質量%であった。炭素量は、炭素/硫黄同時分析計にて測定した。
【0056】
調製した炭化ホウ素粉末を、抵抗加熱炉を用い、窒素ガス雰囲気下で、焼成温度2150℃、且つ圧力0.90MPaの条件で12時間加熱した。焼成の際、窒素ガス量を化学両論量よりも過剰に供給して、必要量に対して20当量分となるように窒素ガスを供給した。このようにして炭窒化ホウ素(B4CN4)を含む焼成物を得た。また、XRDで分析した結果、六方晶炭窒化ホウ素の生成を確認した。その後引き続き、アルミナ製のルツボに充填した後、マッフル炉を用い、大気雰囲気且つ焼成温度700℃の条件下で、5時間加熱した。その後、得られた炭窒化ホウ素の塊状物を、ボールミルを用いて20時間解砕処理を行うことで、平均粒径が30μmであり、比表面積が14m2/gである炭窒化ホウ素粉末を得た。
【0057】
[焼成工程]
上述の炭窒化ホウ素粉末と、焼結助剤であるホウ酸とを配合し、ヘンシェルミキサーを用いて混合した。得られた混合物に更にアクリルバインダーを配合し、シート状に成形した。なお、アクリルバインダーは、グリーンシートの全量を基準として、0.5質量%となるように調整した。シート(グリーンシート)は合計で8枚調製し、グリーンシート1枚当たりの焼結助剤の含有量は16.0質量%であった。
【0058】
上述のグリーンシートを8枚積層した積層体を用意し、窒化ホウ素製の坩堝に充填し、蓋をすることで閉鎖空間を形成した。これを、抵抗加熱炉内に設置し、抵抗加熱炉内を大気圧の圧力条件で、窒素ガス雰囲気下、室温から昇温速度2℃/分で2200℃まで昇温した。2200℃で、5時間保持して加熱することによって、焼成体を得た。この際、上記閉鎖空間の体積をA[単位:L]とし、上記閉鎖空間内に投入される焼結助剤の全量[単位:kg]をBとしたときの、B/Aの値が0.088kg/Lとなるように閉鎖空間内の焼結助剤の量を調整した。
【0059】
[熱処理工程、はく離工程]
次に、抵抗加熱炉内の坩堝の蓋を外し、開空間を形成し、炉内温度を2020℃として5時間加熱処理を行った。その後、室温まで冷却し、積層体から焼結体シートを順次はく離することによって、窒化ホウ素焼結体シートを得た。
【0060】
(実施例2)
上記B/Aの値を0.066kg/Lとなるように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、窒化ホウ素焼結体シートを得た。
【0061】
(比較例1)
熱処理工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、窒化ホウ素焼結体シートを得た。
【0062】
(比較例2)
焼成工程において閉鎖空間を設けず、抵抗加熱炉内で熱処理工程を行なったこと以外は、実施例1と同様にして、窒化ホウ素焼結体シートを得た。
【0063】
<窒化ホウ素焼結体シートの製造方法に関する評価:はく離性>
実施例1及び比較例1で調製した窒化ホウ素焼結体シートを製造する際の積層体から得られる焼成体を用いて、はく離性を以下の基準で評価した。具体的には、積層体間にスクレーパーを入れ、破損なく焼結体の単離が実施できた枚数比にて評価した。なお、ここで「枚数比」とは、破損なく剥離できた枚数/全シート数である。測定結果から、以下の基準ではく離性を評価した。結果を表1に示す。
A:破損なく剥離できた枚数比が0.75以上である。
B:破損なく剥離できた枚数比が0.50以上0.75未満である。
C:破損なく剥離できた枚数比が0.20以上0.50未満である。
D:破損なく剥離できた枚数比が0.20未満である。
【0064】
<窒化ホウ素焼結体シートの評価>
実施例1及び比較例1で調製した窒化ホウ素焼結体シートについて、後述する方法に基づいて、最大高さ粗さRz、算術平均粗さRa、及び接着性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0065】
[最大高さ粗さRz、及び算術平均粗さRaの測定]
実施例1及び比較例1で調製した窒化ホウ素焼結体シートについて、最大高さ粗さRz及び算術平均粗さRaの測定は、JIS B 0601:2013「製品の幾何特性使用(GPS)-表面性状:輪郭曲線方式-用語,定義及び表面性状パラメータ」の記載に準拠して測定した。
【0066】
[熱伝導率の評価]
得られた六方晶窒化ホウ素焼結体における熱伝導率を、熱伝導率(H:単位W/(m・K))を、熱拡散率(T:単位m2/秒)、密度(D:単位kg/m3)、及び比熱容量(C:単位J/(kg・K))を用いて、H=T×D×Cの計算式に基づき算出した。熱拡散率Tは、六方晶窒化ホウ素焼結体を、縦×横×厚み=10mm×10mm×0.3mmのサイズに加工した試料を用い、レーザーフラッシュ法によって測定した。測定装置はキセノンフラッシュアナライザ(NETZSCH社製、商品名:LFA447NanoFlash)を用いた。密度Dはアルキメデス法によって測定した。比熱容量Cは、示差走査熱量計(リガク社製、装置名:ThermoPlusEvo DSC8230)を用いて測定した。
【0067】
【0068】
表1中、「※」は閉鎖空間を設けずに行ったため焼成工程を実施したためB/Aの値を定められなかったことを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本開示によれば、従来よりも歩留まりよく、熱伝導性に優れる窒化ホウ素焼結体シートの製造方法を提供できる。本開示によればまた、熱伝導性に優れる焼結体シートを提供できる。
【符号の説明】
【0070】
12…塊状粒子、22…針状結晶。