(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-28
(45)【発行日】2023-01-12
(54)【発明の名称】焼成用セッター
(51)【国際特許分類】
C04B 41/89 20060101AFI20230104BHJP
F27D 3/12 20060101ALI20230104BHJP
【FI】
C04B41/89 A
C04B41/89 K
F27D3/12 Z
(21)【出願番号】P 2022567893
(86)(22)【出願日】2022-08-26
(86)【国際出願番号】 JP2022032255
【審査請求日】2022-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2022051967
(32)【優先日】2022-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000237868
【氏名又は名称】エヌジーケイ・アドレック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古宮山 常夫
(72)【発明者】
【氏名】松葉 浩臣
(72)【発明者】
【氏名】抜水 一輝
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/049980(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/166565(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/065355(WO,A1)
【文献】特開2019-174090(JP,A)
【文献】特開2019-120467(JP,A)
【文献】特開2019-119659(JP,A)
【文献】特開2005-255491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/89
F27D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムライト層と、
ムライト層上に設けられており、Zr,Si及びY元素を含む酸化物の第1層と、
第1層上に設けられているイットリア層と、
を有する焼成用セッター。
【請求項2】
第1層は、Zr元素を含む酸化物を0.3質量%以上2.0質量%以下、Si元素を含む酸化物を5質量%以上30質量%以下、Y元素を含む酸化物を30質量%以上50質量%以下有している、請求項1に記載の焼成用セッター。
【請求項3】
第1層とイットリア層の間に、Al,Si及びY元素を含む酸化物の第2層が設けられている、請求項1に記載の焼成用セッター。
【請求項4】
第2層は、Al元素を含む酸化物を3質量%以上20質量%以下、Si元素を含む酸化物を5質量%以上30質量%以下、Y元素を含む酸化物を30質量%以上50質量%以下有している、請求項3に記載の焼成用セッター。
【請求項5】
第1層、第2層及びイットリア層の厚みの合計を100%としたときに、第1層の厚みが10%以上35%以下、第2層の厚みが15%以上35%以下、イットリア層の厚みが30%以上70%以下である、請求項3または4に記載の焼成用セッター。
【請求項6】
イットリア層、第1層及び第2層の厚みの合計が3~20μmである、請求項5に記載の焼成用セッター。
【請求項7】
SiC質の基材上にコーティング層としてムライト層が設けられている、請求項1に記載の焼成用セッター。
【請求項8】
SiC質、Si-SiC質及びアルミナ質から選択される材料で形成された基材と、
前記基材上に設けられており、Zr及びY元素と、Si又はAl元素と、を含む酸化物の第1層と、
第1層上に設けられているイットリア層と、
を有する焼成用セッター。
【請求項9】
第1層とイットリア層の間に、Y元素と、Si又はAl元素と、を含む酸化物の第2層が設けられている、請求項8に記載の焼成用セッター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2022年3月28日に出願された日本国特許出願第2022-051967号に基づく優先権を主張する。その出願の全ての内容は、この明細書中に参照により援用されている。本明細書は、焼成用セッターに関する技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
特開2002-154884号公報(以下、特許文献1と称する)に、基材表面にコーティング層が設けられた焼成用セッターが開示されている。コーティング層は、被焼成物と基材が反応することを抑制するために設けられる。特許文献1では、被焼成物と基材の反応を確実に抑制するため、基材表面に材質の異なる2層以上のコーティング層を設けている。特許文献1では、2層以上のスプレーコーティング層、あるいは、スプレーコーティング層の表面に溶射層を設け、コーティング層を形成している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1のように、基材表面に2層以上のコーティング層を設けることにより、被焼成物と基材の反応が抑制され、被焼成物を良好に焼成することができる。しかしながら、コーティング層の一部が剥がれると(コーティング層間で剥離が生じると)、基材に含まれている成分が被焼成物に移動し、被焼成物が基材成分と反応してしまう。すなわち、コーティング層の一部が剥がれると、焼成用セッターとしての機能が損なわれてしまう。そのため、基材表面に2層以上のコーティング層を設ける場合、焼成用セッターの耐久性を向上させる(長寿命化)のため、コーティング層間の密着性を十分に確保することが必要である。本明細書は、複数層を有するコーティング層が設けられた焼成用セッターにおいて、耐久性が改善された焼成用セッターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書で開示する焼成用セッターの一形態は、ムライト層と、ムライト層上に設けられており、Zr,Si及びY元素を含む酸化物の第1層と、第1層上に設けられているイットリア層を有していてよい。
【0005】
本明細書で開示する焼成用セッターの他の一形態は、SiC質、Si-SiC質及びアルミナから選択される材料で形成された基材と、その基材上に設けられており、Zr及びY元素と、Si又はAl元素と、を含む酸化物の第1層と、第1層上に設けられているイットリア層を有していてよい。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】焼成用セッター表面のEPMA画像(Siマッピング)を示す。
【
図2】焼成用セッター表面のEPMA画像(Alマッピング)を示す。
【
図3】焼成用セッター表面のEPMA画像(Yマッピング)を示す。
【
図4】焼成用セッター表面のEPMA画像(Zrマッピング)を示す。
【
図5】焼成用セッター表面のEPMA画像(Oマッピング)を示す。
【
図6】焼成用セッター表面のEPMA画像(Feマッピング)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書で開示する焼成用セッターは、少なくとも、基材上に、第1層とイットリア層が設けられている。基材の材料の一例として、ムライト質(ムライト層)、アルミナ質、SiC質、Si-SiC質等が挙げられる。基材がムライト質の場合、焼成用セッターは、ムライト層(基材)と、ムライト層上に設けられている第1層と、第1層上に設けられているイットリア層を有していると捉えることができる。この場合、ムライト基材上に、第1層とイットリア層を有するコーティング層が形成されている。なお、「Si-SiC質」とは、SiC粒子を主体とし、SiC粒子間に金属Siが含まれる材料のことを意味する。
【0008】
基材がムライト質ではない場合(アルミナ質、SiC質、Si-SiC質等の場合)、基材上に、ムライト層が設けられ、ムライト層上に第1層とイットリア層が設けられていてよい。この場合、基材上に、ムライト層と第1層とイットリア層を有するコーティング層が形成されている。あるいは、基材上にムライト層は設けられず、基材上に、第1層とイットリア層のコーティング層が形成されていてもよい。
【0009】
第1の形態として、焼成用セッターがムライト層を有する(ムライト基材、あるいは、基材上にムライト層が形成されている)場合、第1層は、Zr,Si及びY元素を含む酸化物であってよい。具体的には、第1層は、Zr元素を含む酸化物を0.3質量%以上2.0質量%以下、Si元素を含む酸化物を5質量%以上30質量%以下、Y元素を含む酸化物を30質量%以上50質量%以下有していてよい。なお、Zr元素を含む酸化物は、0.5質量%以上であってよく、1質量%以上であってよく、1.5質量%以上であってもよい。また、Zr元素を含む酸化物は、1.5質量%以下であってよく、1質量%以下であってよく、1.5質量%以下であってもよい。Si元素を含む酸化物は、7質量%以上であってよく、10質量%以上であってよく、12質量%以上であってもよく、20質量%以上であってもよい。また、Si元素を含む酸化物は、25質量%以下であってよく、20質量%以下であってよく、15質量%以下であってよく、13質量%以下であってよく、10質量%以下であってよく、6質量%以下であってもよい。Y元素を含む酸化物は、35質量%以上であってよく、40質量%以上であってよく、45質量%以上であってもよい。また、Y元素を含む酸化物は、45質量%以下であってよく、40質量%以下であってよく、35質量%以下であってもよい。
【0010】
上記したように、第1の形態における焼成用セッターにおいて、第1層は、ムライト層を構成する元素(Si)と、イットリア層を構成する元素(Y)の双方を含んでいる。そのため、第1層としてZr,Si及びY元素を含む酸化物を用いることにより、第1層は、ムライト層と強固に密着し、さらに、イットリア層とも強固に密着する。その結果、ムライト層-第1層間、及び、第1層-イットリア層間で剥離が生じにくくなり、焼成用セッターの耐久性が向上する。また、ムライト層-第1層間、及び、第1層-イットリア層間の密着性を向上させることにより、被焼成物に含まれる成分がコーティング層内に浸透することを抑制することもできる。
【0011】
また、焼成用セッターがムライト層を有する場合、第1層とイットリア層の間に、Al,Si及びY元素を含む酸化物の第2層が設けられていてよい。具体的には、第2層は、Al元素を含む酸化物を3質量%以上20質量%以下、Si元素を含む酸化物を5質量%以上30質量%以下、Y元素を含む酸化物を30質量%以上50質量%以下有していてよい。なお、Al元素を含む酸化物は、5質量%以上であってよく、10質量%以上であってよく、15質量%以上であってもよい。また、Al元素を含む酸化物は、16質量%以下であってよく、11質量%以下であってよく、6質量%以下であってもよい。Si元素を含む酸化物は、7質量%以上であってよく、10質量%以上であってよく、12質量%以上であってもよく、20質量%以上であってもよい。また、Si元素を含む酸化物は、25質量%以下であってよく、20質量%以下であってよく、15質量%以下であってよく、13質量%以下であってよく、10質量%以下であってよく、6質量%以下であってもよい。Y元素を含む酸化物は、35質量%以上であってよく、40質量%以上であってよく、45質量%以上であってもよい。また、Y元素を含む酸化物は、45質量%以下であってよく、40質量%以下であってよく、35質量%以下であってもよい。
【0012】
ムライト層(ムライト基材、あるいは、コーティング層の一部であるムライト層)上に第1層、第2層及びイットリア層が設けられている場合、イットリア層、第1層及び第2層の厚みの合計は3~20μmであってよい。この場合、第1層、第2層及びイットリア層の厚みの合計を100%としたときに、第1層の厚みが全体の10%以上35%以下、第2層の厚みが全体の15%以上35%以下、イットリア層の厚みが全体の30%以上70%以下であってよい。なお、基材上にコーティング層としてムライト層が設けられている場合、ムライト層の厚みは5~80μmであってよい。
【0013】
ムライト層上に第1層、第2層及びイットリア層が設けられている場合も、第1層は、ムライト層を構成する元素(Si)と、第2層を構成する元素(Si,Y)の双方を含んでいる。また、第2層は、第1層を構成する元素(Si,Y)と、イットリア層を構成する元素(Y)の双方を含んでいる。その結果、ムライト層-第1層間、第1層-第2層間、及び、第2層-イットリア層間の密着性が向上し、焼成用セッターの耐久性が向上するとともに、被焼成物に含まれる成分がコーティング層内に浸透することが抑制される。
【0014】
第2の形態として、基材がムライト質ではなく(アルミナ質、SiC質、Si-SiC質等)、基材上にムライト層が設けられていない焼成用セッターの場合、基材上に第1層が設けられる。この場合、第1層は、Zr及びY元素と、Si又はAl元素を含む酸化物であってよい。より具体的には、基材がSiC質、Si-SiC質等のSi元素を含む材料の場合、第1層は、Zr,Y及びSi元素を含む酸化物であってよい。この場合も、第1層は、基材を構成する元素(Si)と、イットリア層を構成する元素(Y)の双方を含んでいる。基材-第1層間、第1層-イットリア層間の密着性が向上し、焼成用セッターの耐久性が向上するとともに、被焼成物に含まれる成分がコーティング層内に浸透することが抑制される。
【0015】
また、基材がアルミナ質等のAl元素を含む材料の場合、第1層は、Zr,Y及びAl元素を含む酸化物であってよい。この場合も、第1層は、基材を構成する元素(Al)と、イットリア層を構成する元素(Y)の双方を含んでいる。基材-第1層間、第1層-イットリア層間の密着性が向上し、焼成用セッターの耐久性が向上するとともに、被焼成物に含まれる成分がコーティング層内に浸透することが抑制される。
【0016】
基材がSiC質、Si-SiC質等のSi元素を含む材料の場合、第1層は、ムライト層上に第1層を設ける場合と同様に、Zr元素を含む酸化物を0.3質量%以上2.0質量%以下、Si元素を含む酸化物を5質量%以上30質量%以下、Y元素を含む酸化物を30質量%以上50質量%以下有していてよい。また、基材がアルミナ等のAl元素を含む材料の場合、第1層は、Zr元素を含む酸化物を0.3質量%以上2.0質量%以下、Al元素を含む酸化物を3質量%以上20質量%以下、Y元素を含む酸化物を30質量%以上50質量%以下有していてよい。
【0017】
なお、基材がムライト質ではなく(アルミナ質、SiC質、Si-SiC質等)、基材上にムライト層が設けられていない焼成用セッターの場合においても、基材上に設けられた第1層とイットリア層の間に、第2層が設けられていてよい。第2層は、Y元素と、Si又はAl元素を含む酸化物であってよい。上述したように、基材がSiC質、Si-SiC質等のSi元素を含む材料の場合、第1層は、Zr,Y及びSi元素を含む酸化物であってよい。そのため、基材がSiC質、Si-SiC質等のSi元素を含む材料(第1層はZr,Y及びSi元素を含む酸化物)の場合、第2層は、Y元素とSi元素を含む酸化物であってよい。この場合も、第2層は、第1層を構成する元素(Si,Y)と、イットリア層を構成する元素(Y)の双方を含んでいる。また、上述したように、基材がアルミナ質等のAl元素を含む材料の場合、第1層は、Zr,Y及びAl元素を含む酸化物であってよい。そのため、基材がアルミナ質等のAl元素を含む材料(第1層はZr,Y及びAl元素を含む酸化物)の場合、第2層は、Y元素とAl元素を含む酸化物であってよい。この場合も、第2層は、第1層を構成する元素(Al,Y)と、イットリア層を構成する元素(Y)の双方を含んでいる。いずの場合も、基材-第1層間、第1層-第2層間、及び、第1層-イットリア層間の密着性が向上し、焼成用セッターの耐久性が向上するとともに、被焼成物に含まれる成分がコーティング層内に浸透することが抑制される。
【0018】
なお、第2の形態の焼成用セッターの場合、第2層は、Al元素(又はSi元素)を含む酸化物を3質量%以上20質量%以下、Y元素を含む酸化物を30質量%以上50質量%以下有していてよい。また、第2の形態の焼成用セッターの場合も、イットリア層、第1層及び第2層の厚みの合計は3~20μmであってよく、第1層、第2層及びイットリア層の厚みの合計を100%としたときに、第1層の厚みが全体の2~20%、第2層の厚みが全体の2~20%イットリア層の厚みが全体の60~69%であってよい。
【0019】
図1~
図6を参照し、ムライト層、第1層、第2層及びイットリア層の確認及び濃度の算出方法について説明する。
図1は焼成用セッターの表層部分におけるSi成分のEPMA画像を示し、
図2はAl成分のEPMA画像を示し、
図3はY成分のEPMA画像を示し、
図4はZr成分のEPMA画像を示し、
図5はO成分のEPMA画像を示し、
図6はFe成分のEPMA画像を示す。
【0020】
図1~
図6に示すように、EPMAの測定結果より、焼成用セッターの表層部分における各成分の濃度を、色の強弱で確認することができる。実際には、EPMA測定により、EPMA画像の右横に示されているカラーバーを参照し、各部位に含まれている各成分の濃度を確認することができる。ムライト層、第1層、第2層及びイットリア層の区別は、各部位に含まれている各成分の濃度によって決定する。ムライト層は、Si,Al及びO成分が検出された部分であり、具体的には、Si成分が5%以上、Al成分が10%以上、O成分が10%以上観測された層をムライト層とする。第1層は、Zr,Si及びYが検出された部分であり、他の部分と比較してZr成分の成分濃度が高い部分である。第2層は、Y,Al及びSiが検出された部分であり、Y成分と重なる位置にあるAlの成分濃度が他の部分と比較して高い部分である。イットリア層は、第1層を特定した後、第1層よりも表面側でYの成分濃度が高い部分である。各層(ムライト層、第1層、第2層及びイットリア層)を特定した後、カラーバーを参照し、各層に含まれている成分の成分濃度を算出する。なお、基材がアルミナ質の場合、第1層は、Zr,Al及びYが検出された部分であり、他の部分と比較してZr成分の成分濃度が高い部分である。第2層は、Y及びAlが検出された部分である。
【実施例】
【0021】
基材及びコーティング層の形態が異なる焼成用セッターを作製し、コーティング層の被膜密着性及び被膜反応性について評価した。被覆密着性は、ピール試験によって評価した。ピール試験は、市販のガムテープをコーティング層の表面に貼付けた後、ガムテープを勢いよく引き剥がす、コーティング層の表面の状態(ガムテープに付着したコーティング層)を目視で確認した。目視で剥離が全く確認されなかった場合は「A」、目視で面積10%未満の剥離が確認された場合は「B」、目視で面積10%以上の剥離が確認された場合は「C」とした。また、塗膜反応性は、ワーク積載反応試験によって評価を行った。ワーク積載反応試験は、コーティング層の表面にチタン酸バリウムを塗布し、1200℃の大気中で2時間焼成を行い、コーティング層とチタン酸バリウムの反応の有無を目視で確認した。具体的には、焼成後のコーティング層の表面を確認し、コーティング層に溶融又は剥離状態が確認された場合に反応有と判断した。目視で反応が全く確認されない場合は「A」、試験範囲10%以下の面積で反応が確認された場合は「B」、試験範囲10%以上の面積で反応が確認された場合は「C」とした。結果を
図7~14に示す。また、
図7~14では、コーティング層を構成している各層(ムライト層、第1層、第2層及びイットリア層)に含まれる元素を酸化物換算したときの質量割合(濃度(%))と、各層の膜厚比率も示している。なお、
図7~10(試料1~18)については、第1層、第2層及びイットリア層の厚みの合計を100%としたときに、各層の厚み割合(%)も示している。
【0022】
図7~11は、基材上に、ムライト層、第1層、第2層及びイットリア層が形成されたコーティング層の結果を示している。
図7はSi-SiC基材を用いた結果(試料1~9)を示し、
図8はSiC基材を用いた結果(試料10~18)を示し、
図9はアルミナ基材を用いた結果(試料19~27)を示している。
図10は、基材上に、ムライト層、第1層及びイットリア層が形成されたコーティング層の結果を示している(試料28~36)。
【0023】
図11は、基材上に、ムライト層が形成され、ムライト層上に第1層が形成されることなくイットリア層又はジルコニア層が形成されたコーティング層の結果を示している。試料37及び38はSi-SiC基材を用いた結果を示し、試料39及び40はSiC基材を用いた結果を示し、試料41及び42はアルミナ基材を用いた結果を示している。
【0024】
図12~14は、基材上にムライト層を形成することなく、第1層、第2層、イットリア層又はジルコニア層が形成されたコーティング層の結果を示している。
図12はSi-SiC基材を用いた結果(試料43~47)を示し、
図13はSiC基材を用いた結果(試料48~54)を示し、
図14はアルミナ基材を用いた結果(試料55~59)を示している。なお、試料44,45,51,52,56,57は、ムライト層の代わりにアルミナ層を形成している。
【0025】
試料1~42は、まず、ムライト粒子と溶媒を混合してムライトペーストを作製した後、ムライトペーストを基材の全面に厚さ10μmで印刷し、乾燥後に1270℃~1350℃で焼成することにより、基材上にムライト層を形成した。なお、試料1~10は粒径(D50)0.4μmのムライト粒子を使用し、試料11~20は粒径(D50)0.7μmのムライト粒子を使用し、試料21~30は粒径(D50)1.3μmのムライト粒子を使用し、試料31~38は粒径(D50)0.5μmのムライト粒子を使用し、試料39~42は粒径(D50)0.6μmのムライト粒子を使用した。また、試料1~10は1270℃で2時間焼成し、試料11~20は1300℃で2時間焼成し、試料21~30は1350℃で2時間焼成し、試料31~38は1330℃で2時間焼成し、試料39~42は1310℃で2時間焼成した。
【0026】
試料44,45,51,52,56,57のアルミナ層を形成方法は、アルミナ粒子と溶媒を混合してアルミナペーストを作成した後、アルミナペーストを基材の全面に厚み8μmで印刷し、乾燥後に1350℃で2時間焼成することにより基材上にアルミナ層を形成した。なお、粒径(D50)0.5μmのアルミナ粒子を使用した。
【0027】
次に、イットリア粒子と有機溶媒を混合してイットリアペーストを作製した後、イットリアペーストをムライト層の表面に厚さ10μmで印刷し、乾燥後に1270℃~1350℃で焼成した。なお、イットリア粒子を粉砕する工程でAl、Zr、Siの各元素必要量が均一に添加されるよう調整しながら粉砕を行った。試料1~10は粒径(D50)0.5μmのイットリア粒子を使用し、試料11~20は粒径(D50)0.9μmのイットリア粒子を使用し、試料21~30は粒径(D50)1.2μmのイットリア粒子を使用し、試料31~36,38は粒径(D50)0.6μmのイットリア粒子を使用し、試料40,42は粒径(D50)0.8μmのイットリア粒子を使用し、試料43,44,46,48~50は粒径(D50)0.5μmのイットリア粒子を使用し、試料51,53,55,56,58は粒径(D50)0.6μmのイットリア粒子を使用した。また、試料1~10は1270℃で2時間焼成し、試料11~20は1330℃で2時間焼成し、試料21~30は1350℃で2時間焼成し、試料31~38は1310℃で2時間焼成し、試料39~42は1290℃で2時間焼成し、試料43~50は1320℃で2時間焼成し、試料51~59は1350℃で2時間焼成した。原料粒子(ムライト粒子,イットリア粒子)の粒径、及び、焼成時間を変化させることにより、各層の組成が異なる試料1~51を作製した。なお、試料2,11及び20については、イットリアペーストを作製する際、イットリア粒子にジルコニア粒子を加えた。また、試料37,39,41,45,47,52,54,57及び59については、イットリアペーストに代えて、ジルコニアペーストを用いた。なお、イットリア層(又はジルコニア層)の膜厚(焼成後膜厚)は、10μmであった。また、イットリア層、第1層、第2層が存在する場合は、イットリア層、第1層、第2層の合計の膜厚は、10μmであった。
【0028】
試料1~27に示すように、コーティング層が第1層、第2層、イットリア層を有している場合、被膜密着性と被膜反応性の双方とも「A」評価であった。一方、基材上にムライト層を形成したが第1層が形成されなかった試料(試料37~42)は、被膜密着性と被膜反応性の双方が「A」評価となる結果は得られなかった。この結果より、ムライト層上に第1層を設け、第1層上にイットリア層を設けることにより、被膜密着性と被膜反応性の双方が向上することが確認された。
【0029】
また、基材上にムライト層を形成しないで第1層が形成された試料(試料43,48,49,50,55)は、被膜密着性が「B」評価であり、被膜反応性が「A」評価であった。なお、基材上にムライト層を形成する代わりに基材上にアルミナ層を形成した試料(試料44,45,51,52,56及び57)は、被膜密着性と被膜反応性の双方とも「B」評価であった。基材上に直接イットリア層を形成した試料(試料46,53,58)は、被膜密着性と被膜反応性の双方とも「B」評価であった。基材上に直接ジルコニア層を形成した試料(試料47,54,59)は、アルミナ基材を用いた試料(試料59)は被膜密着性と被膜反応性の双方とも「B」評価であったが、他は被膜密着性と被膜反応性の双方とも「C」評価であった。
【0030】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【要約】
焼成用セッターは、ムライト層と、ムライト層上に設けられており、Zr,Si及びY元素を含む酸化物の第1層と、第1層上に設けられているイットリア層を有している。