(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】高周波加熱装置
(51)【国際特許分類】
F24C 7/02 20060101AFI20230105BHJP
H05B 6/68 20060101ALI20230105BHJP
【FI】
F24C7/02 340J
F24C7/02 310
F24C7/02 330D
H05B6/68 320Q
H05B6/68 320P
(21)【出願番号】P 2019029954
(22)【出願日】2019-02-22
【審査請求日】2021-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】中村 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】吉野 浩二
(72)【発明者】
【氏名】久保 昌之
(72)【発明者】
【氏名】貞平 匡史
【審査官】八木 敬太
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-078034(JP,A)
【文献】特開昭59-032721(JP,A)
【文献】特開2003-106532(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0043230(KR,A)
【文献】国際公開第2017/022712(WO,A1)
【文献】特開2013-201096(JP,A)
【文献】特開2003-317927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24C 7/02
H05B 6/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物を収納する加熱室と、
前記加熱室の下部の入射口から前記加熱室内に高周波を放射して被加熱物を加熱する電波放射部と、
前記加熱室内の前記入射口から戻ってくる高周波を検出する前記加熱室下部に設けられたアンテナと、
前記アンテナで検出した高周波を検波する検波手段と、
前記加熱室の上部に設置され、前記加熱室内で検出した赤外線から被加熱物の温度を推定する複数の素子を有する赤外線センサと、
前記検波手段の出力および前記赤外線センサの出力に基づいて前記電波放射部の出力を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記検波手段の出力によって被加熱物の下面の温度を推定するとともに、前記赤外線センサの出力によって被加熱物の上面ほぼ全体の温度をマトリックス状に検出し、被加熱物の上面ほぼ全体の平均温度を推定し、前記電波放射部の出力を時間の経過とともに弱める制御を行い、被加熱物の上面の平均温度と下面の温度が略同一温度に到達すると、前記電波放射部
による加熱を終了することを特徴とする高周波加熱装置。
【請求項2】
前記加熱室の上部の第2の入射口と、
前記第2の入射口から前記加熱室内に高周波を放射して被加熱物を加熱する第2の電波放射部と、を備え、
前記制御手段は、前記検波手段の出力によって被加熱物の下面の温度を推定するとともに、前記赤外線センサの出力によって被加熱物の上面の温度を推定し、前記電波放射部および/または前記第2の電波放射部の出力を制御することを特徴とする請求項1記載の高周波加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解凍機能を有した高周波加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の高周波加熱装置は、食品の種別・形状・温度等により異なる反射電力をアンテナで検出し、検波回路で検波したあと、制御器に取込まれる出力に応じて各種機器動作を制御するものが存在した(特許文献1参照)。
【0003】
また、食品の載置位置以外の所定位置の温度を測定する基準温度検出手段と、食品あるいは所定位置から放射される輻射熱を非接触で検出し熱電変換する赤外線検出手段と、食品からの輻射熱による赤外線検出手段の出力、所定位置からの輻射熱による赤外線検出手段の出力及び基準温度検出手段の出力から食品温度を算出する食品温度算出手段と、食品温度算出手段の出力に応じ加熱手段を制御する制御手段と、赤外線検出手段を駆動し前記赤外線検出手段が検出する輻射熱検出の方向を食品の方向かまたは所定位置の方向かに切り替える切替手段を備えたものが存在した(特許文献2参照)。
【0004】
さらに、食品の重量を検出する重量センサと、加熱室内の食品からの高周波エネルギーの反射量を検出するマイクロ波検波センサと、重量センサとマイクロ波検波センサの出力信号により、食品の加熱時間とマグネトロンの高周波出力を制御する制御手段とからなる高周波加熱装置が存在した(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平3-95317号公報
【文献】特許第3491302号公報
【文献】特開平4-65095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来より電子レンジに代表される高周波加熱機を利用するにあたって、被加熱物の各箇所の加熱ムラに代表される出来栄えのばらつきが課題となっている。これを解決するため種々のセンサを搭載して被加熱物の加熱状態を検知し、その検知結果を加熱手段にフィードバックしてマグネトロンや輻射ヒータ等の加熱手段の出力を制御することで加熱ムラを防ごうとしてきた。
【0007】
たとえば、特許文献1では食品の種別・形状・温度等により異なる反射電力を検波回路で検波し、加熱手段を制御するものである。特許文献2は赤外線検出手段(赤外線センサ)を用いるもので、被加熱物の赤外線を検出することによって、被加熱部の温度を検出し、加熱手段を制御するものである。特許文献3は、高周波エネルギーの反射量を検出するマイクロ波検波センサと重量センサの出力信号により、食品の加熱時間とマグネトロンの高周波出力を制御するものである。
【0008】
しかしながら各々センサ単体では加熱ムラを完全には防ぐことができない。検波センサは、加熱手段から加熱室への入射波および加熱室から加熱手段への反射波を測定できるが、例えば、加熱室の上方に取り付けられた検波センサは被加熱物の上面の温度変化をよりよく検波するが、被加熱物の下面の温度変化は上面の温度変化に比べて精度よく検波ができない。
【0009】
また赤外線センサでは、たとえば加熱室の上方に取り付けられていると、ほほ被加熱物の上面の温度変化しか検知することができない。また重量センサでは、そもそも加熱ムラが非常にわかりにくい。
【0010】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、複数種類のセンサを組み合わせて加熱ムラの少ない高周波加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記従来の課題を解決するために、本発明の高周波加熱装置は、被加熱物を収納する加熱室と、前記加熱室の下部の入射口から前記加熱室内に高周波を放射して被加熱物を加熱する電波放射部と、前記加熱室内の高周波を検出するアンテナと、前記アンテナで検出した高周波を検波する検波手段と、前記加熱室の上部に設置され、前記加熱室内で検出した赤外線から被加熱物の温度を推定する赤外線センサと、前記検波手段の出力および前記赤外線センサの出力に基づいて前記電波放射部の出力を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記検波手段の出力によって被加熱物の下面の温度を推定するとともに、前記赤外線センサの出力によって被加熱物の上面の温度を推定し、前記電波放射部の出力を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
被加熱物の加熱ムラの少ない高周波加熱装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態1における高周波加熱装置の概略図
【
図3】実施の形態2における高周波加熱装置の概略図
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1の発明は、被加熱物を収納する加熱室と、前記加熱室の下部の入射口から前記加熱室内に高周波を放射して被加熱物を加熱する電波放射部と、前記加熱室内の高周波を検出するアンテナと、前記アンテナで検出した高周波を検波する検波手段と、前記加熱室の上部に設置され、前記加熱室内で検出した赤外線から被加熱物の温度を推定する赤外線センサと、前記検波手段の出力および前記赤外線センサの出力に基づいて前記電波放射部の出力を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記検波手段の出力によって被加熱物の下面の温度を推定するとともに、前記赤外線センサの出力によって被加熱物の上面の温度を推定し、前記電波放射部の出力を制御することを特徴とする。
【0015】
これにより、被加熱物の加熱ムラや温度差を極力減らし、所望の仕上がりの加熱効果を得ることができる。
【0016】
第2の発明は、前記加熱室の上部の第2の入射口と、前記第2の入射口から前記加熱室内に高周波を放射して被加熱物を加熱する第2の電波放射部と、を備え、前記制御手段は、前記検波手段の出力によって被加熱物の下面の温度を推定するとともに、前記赤外線センサの出力によって被加熱物の上面の温度を推定し、前記電波放射部および/または前記第2の電波放射部の出力を制御することを特徴とする。
【0017】
これにより、さらに被加熱物の加熱ムラや温度差を減らし、所望の仕上がりの加熱効果を得ることができる。
【0018】
第3の発明は、前記制御手段は、被加熱物の下面の温度と被加熱物の上面の温度が略同
一の所定温度に到達するように前記電波放射部を制御し、前記所定温度に到達したら被加熱物の加熱を終了することを特徴とする。
【0019】
これにより、被加熱物の加熱ムラや温度差を極力減らし、所望の仕上がりの加熱効果を得ることができる。
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0021】
(実施の形態1)
本実施の形態1における高周波加熱装置を
図1に基づいて説明する。加熱室10の中の載置台13に載置収納された被加熱物11は、マグネトロン等で構成された電波放射部20から導波管23を通して加熱室10の下部に設けられた入射口12から放射される高周波によって加熱される。
【0022】
導波管23を通過する高周波は、方向性結合器と呼ばれるアンテナ21によって検出され、アンテナ21を介して検波手段22に送られ、ここで検波される。電波放射部20から放射され入射口12から加熱室10に放射される電波(入射波)を検波手段22は検波することができる。また、加熱室10内に放射された入射波が被加熱物11に吸収されずに一部の電波が導波管23に戻ることがあるが、加熱室10内から加熱室10下部の入射口12を経て電波放射部20に戻る電波(反射波)を検波手段22は検波することもできる。すなわち、検波手段22は入射波と反射波の量を検出することができるように構成されている。
【0023】
通常、検波手段22は
図2のような回路で構成され、検波手段22の出力は電圧であることが多い。アンテナ21から検波手段22に入力される信号は、
図2の入力(端子)40を経て検波されて出力(端子)45に到達する。入力40から出力45までの間に抵抗41、ダイオード43、抵抗42、コンデンサ44が接続されている。この出力45から
図1における制御手段24に信号が入力される。
【0024】
また方向性結合器と呼ばれるアンテナ21は、信号センサのような働きをし、通常、入射波についてはある程度(例えば20dB程)減衰して検知し、反射波についてもある程度(同じく20dBほど)減衰して検知する。各々の信号は検波手段22を経由してDC電圧に変換され制御手段24に入力される。
【0025】
制御手段24には、検波手段22からの信号だけでなく赤外線センサ25からの信号も入力される。ここで赤外線センサ25は加熱室の温度を赤外線の強さから検出するセンサである。
【0026】
赤外線センサ25は、8素子~64素子のものを使用している。素子の少ないタイプでは赤外線センサ25を可動式にして赤外線センサ25を可動させながら被加熱物11の上面ほぼ全体の温度をマトリックス状に検出することができる。また、素子の多いタイプでは赤外線センサ25の視野が広がるので、必ずしも可動式にする必要がなく、固定式にして被加熱物11の上面ほぼ全体の温度をマトリックス状に検出することができる。また、マトリックスの1区画ごとの温度を平均化して被加熱物11の上面ほぼ全体の平均温度を測定、推定することもできる。
【0027】
赤外線センサ25で検出できるのは、被加熱物11の温度に限れば被加熱物11の略上面、すなわち被加熱物11と赤外線センサ25との間に遮蔽物がない範囲での温度を赤外線センサ25で検出可能である。被加熱物11の下面の温度は赤外線センサ25には届か
ないので、被加熱物11の下面の温度は赤外線センサ25で検出することができない。被加熱物11の下面の温度を、赤外線センサ25を用いて知ることは事実上不可能である。被加熱物11は載置台13などに載せられてから加熱室に置かれるからである。
【0028】
そこで、被加熱物11の下面の温度情報を得るために検波手段22を用いる。高周波の加熱室10への入射口12を被加熱物11の載置台13の下方(加熱室10の下部)に配置するようにし、入射口12から加熱室10内の被加熱物11へと放出される高周波(入射波)、もしくは加熱室10から入射口12を経て導波管23に戻ってくる高周波(反射波)、もしくは入射波と反射波の両方をアンテナ21で受信し、検波手段22で検波することによって、被加熱物11の下面のおおよその温度情報を得ることができる。
【0029】
例えば、凍結した被加熱物11を解凍する際に、入射波の量に対して反射波の量が一定程度大きいときは、まだ被加熱物11の下面が凍っている状態であり、被加熱物11が電波を吸収しきれていない状態を示す。また凍結した被加熱物11を解凍する際に、入射波の量に対して反射波の量が一定程度小さいときは、被加熱物11の下面が電波を吸収しているので解凍が一定程度進行している状態を示す。入射波の量と反射波の量を具体的に検出することによって、凍結した被加熱物11を解凍する際の被加熱物11の下面の解凍度合いや、被加熱物11を加熱する際の被加熱物11の下面の温度をおおよそ推定可能となる。
【0030】
検波手段22を用いても、被加熱物11の下面の細かい温度分布まで知ることは難しいところであるが、被加熱物11の温度差、特に被加熱物11の上面と被加熱物11の下面との温度差を知る目的においては、赤外線センサ25でのみを用いるよりもはるかに詳細な情報を入手することができる。赤外線センサ25で被加熱物11の上面の温度を検出し、検波手段22で被加熱物11の下面の温度を検出することで、制御手段24により電波放射部20を最適に制御することができる。
【0031】
一例として、電波放射部20により被加熱物11を加熱している途中段階において、赤外線センサ25によって、マトリックスの1区画ごとの温度を平均化して被加熱物11の上面ほぼ全体の平均温度が1℃だったとする。このとき、検波手段22で検波した被加熱物11の下面の温度情報が3℃だったとする。目標とする被加熱物11全体の終了温度が2℃だったとすると、制御手段24は電波放射部20の出力を弱めつつ時間をかけながら、電波が被加熱物11全体から吸収されるようにし、被加熱物11の上面ほぼ全体の温度を2℃まで上昇させ、被加熱物11の下面の温度を2℃まで下降させるように電波放射部20の出力を制御し、被加熱物11の上面および下面の温度が2℃に達したところで加熱を終了する、といったことが可能となる。
【0032】
このように、被加熱物11の下面の温度と被加熱物11の上面の温度が略同一の所定温度に到達するように電波放射部20を制御し、前記所定温度に到達したら被加熱物の加熱を終了するようにすれば、被加熱物11の加熱ムラや温度差を極力減らし、所望の仕上がりの加熱効果を得ることができる。
【0033】
(実施の形態2)
図3は実施の形態2における高周波加熱装置の概略図である。実施の形態1と同様の構成については説明を省略する。高周波加熱装置に第2の電波放射部26と第2の導波管27が配置され第2の入射口14から加熱室10内に高周波を放射できる構成となっており、第2の入射口14は加熱室10の上部に配置されている。これにより実施の形態1の構成とも相俟って、加熱室10の上面と下面の両方から加熱室10内に高周波を入射することができるようになっている。
【0034】
赤外線センサ25と検波手段22から出力された温度情報を制御手段24によって解析し、被加熱物11の上面と下面いずれかの温度が他方よりも上がったのを検知すれば、それを打ち消すように電波放射部20および/または第2の電波放射部26を制御することができる。
【0035】
例えば、電波放射部20と第2の電波放射部26により被加熱物11を加熱している途中段階において、被加熱物11の上面の温度が下面の温度より高ければ、電波放射部20の出力を上げるか第2の電波放射部26の出力を下げる。他方、被加熱物11の上面の温度が下面の温度より低ければ、電波放射部20の出力を下げるか第2の電波放射部26の出力を上げる。これにより、被加熱物11のほぼ全体をムラなく加熱することができる。
【0036】
なお、いずれかの電波放射部の代わりに輻射ヒータを用いて、被加熱物11の上面と下面の温度に基づき、制御手段24にて輻射ヒータと電波放射部の出力を制御してもよい。これにより、被加熱物11のほぼ全体をムラなく加熱することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の高周波加熱装置は、アンテナ21で検出した高周波を検波する検波手段22と、加熱室10の上部に設置され、加熱室10内で検出した赤外線から被加熱物11の温度を推定する赤外線センサ25と、検波手段22の出力および赤外線センサ25の出力に基づいて電波放射部20の出力を制御する制御手段24と、を備え、制御手段24は、検波手段22の出力によって被加熱物11の下面の温度を推定するとともに、赤外線センサ25の出力によって被加熱物11の上面の温度を推定し、電波放射部20の出力を制御することにより、被加熱物11の加熱ムラが極力少ない高周波加熱装置を提供することができるので、電子レンジや高周波解凍機など高周波で加熱する機器に適用できる。
【符号の説明】
【0038】
10 加熱室
11 被加熱物
12 入射口
14 第2の入射口
20 電波放射部
26 第2の電波放射部
21 アンテナ
22 検波手段
23 導波管
27 第2の導波管
24 制御手段
25 赤外線センサ
40 入力
41、42 抵抗
43 ダイオード
44 コンデンサ
45 出力