(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】水系二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/36 20100101AFI20230105BHJP
H01M 4/02 20060101ALI20230105BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230105BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230105BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20230105BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230105BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20230105BHJP
【FI】
H01M10/36 A
H01M4/02 A
H01M4/36 C
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/62 Z
H01M4/66 A
(21)【出願番号】P 2019545061
(86)(22)【出願日】2018-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2018035061
(87)【国際公開番号】W WO2019065497
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2017189356
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】北條 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】松本 浩友紀
(72)【発明者】
【氏名】松原 健二
(72)【発明者】
【氏名】川田 浩史
(72)【発明者】
【氏名】福井 厚史
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-056027(JP,A)
【文献】国際公開第2016/114141(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/36
H01M 4/62
H01M 4/66
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/02
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と、前記正極集電体の表面に設けられた正極活物質層と、を備えた正極と、
負極集電体と、前記負極集電体の表面に設けられた負極活物質層と、を備えた負極と、
リチウム塩と、水と、を含む水系電解液と、
を備えた水系二次電池であって、
前記正極活物質層は、正極活物質およびリチウムイオン伝導性固体電解質を含み、
前記リチウムイオン伝導性固体電解質は、リチウムイオン透過性の酸化物Xを含み、
前記酸化物Xは、元素Liと元素M1と元素O(酸素)を含んで構成されるLixM1Oy(0.5≦x<4、1≦y<6)であり、
前記元素M1は、B、Al、Si、P、S、Ti、V、Zr、Nb、Ta、およびLaよりなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記正極活物質は、リチウム含有遷移金属酸化物を含む、水系二次電池。
【請求項2】
前記リチウムイオン伝導性固体電解質が、前記正極活物質の表面の少なくとも一部を被覆している、請求項1に記載の水系二次電池。
【請求項3】
前記リチウムイオン伝導性固体電解質が、前記正極集電体表面の少なくとも一部を被覆している、請求項1又は2に記載の水系二次電池。
【請求項4】
前記正極活物質層は、導電剤を含み、
前記リチウムイオン伝導性固体電解質が、前記導電剤の表面の少なくとも一部を被覆している、請求項1から3のいずれか1項に記載の水系二次電池。
【請求項5】
前記リチウムイオン伝導性固体電解質は、フッ素元素を含む化合物Yを含み、
前記リチウムイオン伝導性固体電解質は、元素M2と前記フッ素元素との結合を含み、
前記元素M2はLi、Na、Al、Mg、およびCaよりなる群から選択される少なくとも1種である、
請求項1から4のいずれか1項に記載の水系二次電池。
【請求項6】
前記酸化物Xは、LixPOy(1≦x<3、3≦y<4)およびLixSiOy(2≦x<4、3≦y<4)のうち少なくとも一方を含む、
請求項1から5のいずれか1項に記載の水系二次電池。
【請求項7】
前記化合物Yは、LiFを含む、
請求項5に記載の水系二次電池。
【請求項8】
前記正極活物質層は、前記リチウムイオン伝導性固体電解質が縮合した重合物を含み、
前記重合物は、前記元素Li、前記元素M1および前記元素Oを含む、
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の水系二次電池。
【請求項9】
前記正極活物質は、LiaNibM31-bO2(0<a≦1.2、0.3≦b≦1)を含み、
M3は、Mn、Co、およびAlよりなる群から選択される少なくとも1種である、
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の水系二次電池。
【請求項10】
前記正極活物質は、LiaNibM31-bO2(0<a≦1.2、0.55≦b≦1)を含み、
M3はMn、Co、およびAlよりなる群から選択される少なくとも1種である、
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の水系二次電池。
【請求項11】
前記正極活物質は、LiaNibM31-bO2(0<a≦1.2、0.8≦b≦1)を含み、
M3はMn、Co、およびAlよりなる群から選択される少なくとも1種である、
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の水系二次電池。
【請求項12】
前記リチウム塩は、リチウムカチオンとイミドアニオンとから構成されるリチウム塩である、
請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の水系二次電池。
【請求項13】
前記リチウム塩は、LiCF3SO3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2CF2)2、LiN(SO2C2F5)2およびLiN(SO2CF3)(SO2C2F5)よりなる群から選択される少なくとも1種である、
請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の水系二次電池。
【請求項14】
前記リチウム塩1molに対する水の量は、4mol以下である、
請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の水系二次電池。
【請求項15】
前記正極活物質層は、バインダーをさらに含み、
前記リチウムイオン伝導性固体電解質が前記バインダーの表面の少なくとも一部を被覆している、
請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池に代表される非水電解質二次電池は、高エネルギー密度を達成するため、約4Vの電圧でも分解しない有機溶媒を電解液として含む。有機溶媒は、一般に可燃性である。
【0003】
これに対し、特許文献1では、リチウムイオン電池の電解質に、高濃度のアルカリ塩を含む水溶液を用いることで、可燃性の有機溶媒を使用しない水系電解液を含む蓄電装置について開示されている。特許文献1には、電解質に高濃度のアルカリ塩を含むことで、2Vの電圧でも分解しない水系電解液について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
特許文献1に開示された水系電解液によっては、充電された状態で電池を保存した際の安定性が十分ではなかった。
【0006】
本開示に係る水系二次電池は、正極集電体と正極集電体の表面に設けられた正極活物質層とを備えた正極と、負極集電体と負極集電体の表面に設けられた負極活物質層とを備えた負極と、リチウム塩と水とを含む水系電解液と、を備える。正極活物質層は、正極活物質およびリチウムイオン伝導性固体電解質を含み、正極活物質は、リチウム含有遷移金属酸化物を含む。
【0007】
本開示の水系二次電池によれば、水溶液を含む電解液を用いた水系二次電池の充電状態での保存安定性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の実施形態に係る水系二次電池の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態に係る水系二次電池は、正極集電体と正極集電体の表面に設けられた正極活物質層とを備えた正極と、負極集電体と負極集電体の表面に設けられた負極活物質層とを備えた負極と、リチウム塩と水とを含む水系電解液と、を備える。正極活物質層は、正極活物質およびリチウムイオン伝導性固体電解質を含み、正極活物質は、リチウム含有遷移金属酸化物を含む。なお、以下の説明において、リチウムイオン伝導性固体電解質を、固体電解質と称した箇所がある。『水系二次電池』とは、電解液および電解質の少なくとも一部に水が含まれたような二次電池を意味する。
【0010】
水系二次電池の充電保存時の安定性が低下する要因について、以下に説明する。『水系二次電池の充電保存時』とは、水系二次電池が充電された状態で保存された状態を意味する。
【0011】
発明者が鋭意検討を行ったところ、水系二次電池の充電保存時の安定性が低下する要因として、以下の二つの要因が想定される。一つは、正極活物質であるリチウム含有遷移金属酸化物中のリチウムイオンと、電解液中の水の分解に伴って生成するプロトン(水素イオン)との交換反応である。もう一つは、充電状態におけるリチウムイオンが脱離した正極活物質中のリチウムサイトに、電解液中の水の分解に伴って生成するプロトンの挿入反応である。
【0012】
これらの二つの反応により、正極活物質中のリチウムサイトにプロトンが挿入されることによって、正極活物質中へのリチウムイオンの挿入および脱離が阻害され、電池容量の低下が引き起こされる。
【0013】
水系二次電池の充電保存時の安定性が低下する要因を踏まえ、本開示の水系二次電池における充電保存時の安定性に関して、想定される改善のメカニズムを、次に説明する。
【0014】
本開示の水系二次電池では、正極活物質層がリチウムイオン伝導性固体電解質を含むことで、水系二次電池の電池容量の低下を抑制することができる。このメカニズムについて、リチウムイオン伝導性固体電解質がリン酸リチウム(Li3PO4)である場合を例として、以下に説明する。
【0015】
リン酸リチウムは、(式1)のように、プロトンと反応し、リン酸リチウム同士が縮合することで、Li4P2O7を生成する。この際に、プロトンが消費されることになり、プロトンの正極活物質中への挿入反応や、正極活物質中のリチウムイオンとの交換反応を抑制できる。生成したLi4P2O7は、(式2)のように、さらにプロトンと反応し、リン酸リチウムと縮合し、Li5P3O10や、さらに縮合が進んだポリリン酸塩などの重合物を生成する。このように、リン酸リチウムはプロトンを消費するため、正極活物質中のリチウムサイトへのプロトンの挿入を阻害しうる。また、生成した重合物がリチウムイオン伝導性を有することで、正極極板内のリチウムイオン伝導性を良好に保つことができ、電池性能の低下なく、正極の安定性を向上することが出来る。また、水は、水系電解液中にもともと含まれる成分であるため、縮合反応によって生成した水(式2)による副反応の懸念もない。
2Li3PO4+2H+=2Li++Li4P2O7+H2O (式1)
Li4P2O7+Li3PO4+2H+=2Li++Li5P3O10+H2O (式2)
上記の縮合反応は、リチウムイオン伝導性固体電解質がリン酸リチウム(Li3PO4)である場合を例に挙げて説明したが、リン酸リチウムに限定された反応ではない。リチウムイオン伝導性固体電解質が、LixM1Oy(0.5≦x<4、1≦y<6)で表されるリチウムイオン透過性の酸化物Xを含み、M1はB、Al、Si、P、S、Ti、V、Zr、Nb、Ta、およびLaよりなる群から選択される少なくとも1種の場合において、同様の縮合反応が起こりうる。縮合反応により、M1元素と酸素元素とリチウム元素とを含む重合物が生成する。重合物も、正極活物質層に含まれる。
【0016】
リチウムイオン伝導性固体電解質が、正極活物質の表面の少なくとも一部を被覆することが好ましい。正極活物質と電解質に含まれる水との物理的な接触を抑制できるため、正極活物質上での水の副反応によるプロトンの生成を抑制できる。また、リチウムイオン伝導性固体電解質が正極活物質の表面を被覆することにより、正極活物質へのプロトンの挿入を抑制することができる。加えて、リチウムイオン伝導性固体電解質が正極活物質の表面を被覆することにより、正極活物質の表面で生成したプロトンを消費して、正極活物質表面上に固体電解質の重合物を生成する。重合物により正極の安定性を高めることが出来ると考えられる。
【0017】
リチウムイオン伝導性固体電解質が、正極集電体の表面の少なくとも一部を被覆することが好ましい。正極集電体と電解質に含まれる水との物理的な接触を抑制できるため、正極集電体上での水の副反応によるプロトンの生成を抑制できる。リチウムイオン伝導性固体電解質が正極集電体の表面を被覆することにより、正極集電体の表面で生成したプロトンを消費して、正極集電体表面上に固体電解質の重合物を生成する。重合物により正極の安定性を高めることが出来ると考えられる。
【0018】
正極活物質層が導電剤をさらに含む場合、リチウムイオン伝導性固体電解質が、導電剤の表面の少なくとも一部を被覆することが好ましい。導電剤と電解質に含まれる水との物理的な接触を抑制できるため、導電剤上での水の副反応によるプロトンの生成を抑制できる。リチウムイオン伝導性固体電解質が導電剤の表面を被覆することにより、導電剤の表面で生成したプロトンを消費して、導電剤表面上に固体電解質の重合物を生成する。重合物により正極の安定性を高めることが出来ると考えられる。
【0019】
以下、本実施の形態の水系二次電池について、図面を用いて、詳細に説明する。ただし、水系二次電池の形状はこの例に限定されない。
【0020】
図1は、本開示の実施形態に係る水系二次電池を模式的に示す概略断面図である。
図1に示す水系二次電池は、正極13と負極16を備える。正極13は、正極集電体11と、正極集電体11の上に形成された正極活物質層12とを含む。正極活物質層12は、正極活物質を含む。負極16は、負極集電体14と、負極集電体14の上に形成された負極活物質層15を含む。負極活物質層15は、負極活物質を含む。正極13と負極16とは、セパレータ17を介して、正極活物質層12と負極活物質層15とが対向するように配置され、電極群を構成する。外装18の内部に、電極群と水系電解液(図示せず)が、配置される。
【0021】
以下、それぞれの構成要素について、さらに詳細に説明する。
【0022】
(正極)
正極は、シート状の正極集電体と、正極集電体の表面に設けられた正極活物質層と、正極活物質層の内部に導入されたリチウムイオン伝導性固体電解質を具備する。正極活物質層は、正極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。
【0023】
(正極集電体)
正極集電体としては、金属箔、金属シートなどが例示できる。正極集電体の材料には、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタンなどを用いることができる。正極集電体の厚さは、例えば3~50μmの範囲から選択できる。
【0024】
(正極活物質層)
正極活物質層が、正極活物質粒子を含む混合物(合剤)である場合について説明する。正極活物質層は、必須成分として正極活物質とリチウムイオン伝導性固体電解質とバインダーを含み、任意成分として導電剤を含んでもよい。正極活物質層に含まれるバインダー量は、正極活物質100質量部に対して、0.1~20質量部が好ましく、1~5質量部がより好ましい。正極活物質層の厚さは、例えば10~100μmである。
【0025】
正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物が好ましい。遷移金属元素としては、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Crなどを挙げることができる。中でも、Mn、Co、Niなどが好ましい。遷移金属がCoのみの場合は、LiCoO2となる。リチウム含有遷移金属酸化物は、LiとNiと他の金属とを含むリチウムニッケル複合酸化物であることがより好ましい。
【0026】
リチウムニッケル複合酸化物は、例えば、LiaNibM3
1-bO2(M3は、Mn、CoおよびAlよりなる群から選択された少なくとも1種であり、0<a≦1.2であり、0.3≦b≦1である。)が挙げられる。高容量化の観点から0.55≦b≦1がより好ましく、0.8≦b≦1を満たすことがさらに好ましい。結晶構造の安定性の観点からは、M3としてCoおよびAlを含むLiaNibCocAldO2(0<a≦1.2、0.8≦b<1、0<c<0.2、0<d≦0.1、b+c+d=1)がさらに好ましい。
【0027】
リチウムニッケル複合酸化物の具体例としては、リチウム-ニッケル-コバルト-マンガン複合酸化物(LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi0.4Co0.2Mn0.4O2等)、リチウム-ニッケル-マンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.5O2、LiNi0.5Mn1.5O4等)、リチウム-ニッケル-コバルト複合酸化物(LiNi0.8Co0.2O2等)、リチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム複合酸化物(LiNi0.8Co0.15Al0.05O2、LiNi0.8Co0.18Al0.02O2、LiNi0.88Co0.09Al0.03O2)等が挙げられる。
【0028】
正極活物質層への正極活物質の充填性を高める観点から、正極活物質粒子の平均粒径(D50)は、正極活物質層の厚さに対して、十分に小さいことが望ましい。正極活物質粒子の平均粒径(D50)は、例えば5~30μmが好ましく、10~25μmがより好ましい。なお、平均粒径(D50)とは、体積基準の粒度分布における累積体積が50%となるメジアン径を意味する。平均粒径は、例えばレーザ回折/散乱式の粒度分布測定装置を用いて測定される。
【0029】
バインダー(結着剤)としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(HFP)などのフッ素樹脂;ポリアクリル酸メチル、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体などのアクリル樹脂;スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、アクリルゴムなどのゴム状材料、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルピロリドンなどの水溶性高分子などを例示できる。
【0030】
導電剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラックが好ましい。
【0031】
正極活物質層は、正極活物質粒子、リチウムイオン伝導性固体電解質、バインダーなどを分散媒とともに混合して正極スラリーを調製し、正極スラリーを正極集電体の表面に塗布し、乾燥後、圧延することにより形成することができる。分散媒としては、水、エタノールなどのアルコール、テトラヒドロフランなどのエーテル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などが用いられる。分散媒として水を用いる場合には、バインダーとして、ゴム状材料と水溶性高分子とを併用することが好ましい。
【0032】
(リチウムイオン伝導性を有する固体電解質)
リチウムイオン伝導性固体電解質は、LixM1Oy(0.5≦x<4、1≦y<6)で表されるリチウムイオン透過性の酸化物Xを含み、M1はB、Al、Si、P、S、Ti、V、Zr、Nb、Ta、およびLaよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。リチウムイオン伝導性固体電解質は、水に対して安定であり、リチウムイオン伝導性を有する。正極活物質層にリチウムイオン伝導性固体電解質を含むことにより、プロトンを消費し、プロトン消費の際に生成する重合物もリチウムイオン伝導性を有する。
【0033】
M1は、P、SiおよびBよりなる群から選択された少なくとも1種が、原料が安価である点で、より好ましい。元素M1は、少なくともPを含むことが、さらに好ましい。
【0034】
リチウムイオン伝導性固体電解質が、さらに、フッ素を含む化合物Yを含むことが好ましい。リチウムイオン伝導性固体電解質に含まれる化合物Yは、金属元素M2とフッ素元素との結合を含み、M2はLi、Na、Al、Mg、およびCaよりなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。中でも、M2がLiを含み、化合物YがLiFを含んでいることがより好ましい。フッ素を含む化合物Yがリチウムイオン伝導性固体電解質に含まれることによって、化学的に安定なリチウムイオン伝導性固体電解質を形成することができる。
【0035】
組成式LixM1Oyで表される酸化物Xは、イオン結合性を有するO-Li結合を含み、Oサイトを介してリチウムイオンがホッピングすることでリチウムイオン透過性を発現する。酸化物Xは、ポリオキシメタレート化合物であることが、安定性の点で好ましい。なお、xおよびyの範囲は、例えば0.5≦x<4、1≦y<6が好ましい。
【0036】
ポリオキシメタレート化合物としては、Li3PO4、Li4SiO4、Li2Si2O5、Li2SiO3、Li3BO3、Li3VO4、Li3NbO4、LiZr2(PO4)、LiTaO3、Li4Ti5O12、Li7La3Zr2O12、Li5La3Ta2O12、Li0.35La0.55TiO3、Li9SiAlO8、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3などを、1種または任意の組み合わせで用いることができる。酸化物Xの組成としては、少なくともLi3PO4を含むことがより好ましく、8割以上のLi3PO4と2割以下のリチウムシリケートを含むことも好ましい。リチウムシリケートとしては、Li4SiO4、Li2Si2O5、Li2SiO3を挙げることができる。
【0037】
ポリオキシメタレート化合物において、リチウムおよび酸素の組成比は化学量論組成と一致する必要はない。むしろ、酸化物Xの酸素組成比は化学量論組成より小さいほうが、酸素欠陥の存在によりリチウムイオン透過性が発現しやすい。具体的に、酸化物Xがリン酸リチウムの場合、LixPOy(1≦x<3、3≦y<4)がより好ましく、酸化物Xがケイ酸リチウムの場合、LixSiOy(2≦x<4、3≦y<4)がより好ましい。
【0038】
リチウムイオン伝導性固体電解質は、正極活物質の表面、正極集電体の表面および導電剤の表面にのうち少なくとも一部を被覆することが好ましい。
【0039】
リチウムイオン伝導性固体電解質が正極活物質の表面の少なくとも一部を被覆している場合においては、必要十分量で正極活物質層の表面を被覆する均質な層を形成していることが望ましい。(以後、リチウムイオン伝導性固体電解質で正極活物質層の表面を被覆する均質な層を、リチウムイオン伝導性固体電解質による被膜層、または単に被膜層と称する。)被膜層の厚さは、正極活物質の粒子の平均粒径よりも小さいことが望ましく、例えば0.1μm(100nm)以下が好ましく、0.03μm(30nm)以下がより好ましい。ただし、被膜層の厚さが過度に小さくなると、例えばトンネル効果によるキャリア(電子または正孔)の移動が進行し、水系電解液の酸化分解が進行する場合がある。キャリア移動を抑制するとともにリチウムイオンをスムーズに移動させる観点からは、被膜層の厚さは0.5nm以上が好ましい。
【0040】
被膜層は、正極活物質層の形成後に生成することもできる。よって、正極活物質粒子どうしの接触界面、正極活物質粒子とバインダーとの接着界面などには、被膜層が形成されない領域が存在し得る。
【0041】
リチウムイオン伝導性固体電解質による被膜層は、例えば1.0×10-11S/cm以上のリチウムイオン伝導率を有する材料であればよい。一方、水系電解液の酸化分解を極力抑制する観点から、リチウムイオン伝導性固体電解質による被膜層の導電性は小さいことが望ましく、伝導率が1.0×10-2S/cmより小さいことが望ましい。
【0042】
正極の容量を確保する観点からは、正極に占めるリチウムイオン伝導性固体電解質による被膜層の含有割合をできるだけ小さくすることが望ましい。正極に含まれるリチウムイオン伝導性固体電解質による被膜層の量は、正極活物質層100質量部に対して、0.01~10質量部が好ましく、0.05~5質量部がより好ましい。
【0043】
リチウムイオン伝導性固体電解質が正極活物質の表面の少なくとも一部を被覆している正極の作製方法について、以下説明する。例えば、(i)正極集電体と、正極集電体の表面に設けられた正極活物質層と、を備える正極前駆体を準備する工程、ついで、(ii)リチウムイオン伝導性を有する固体電解質で、正極活物質層の表面の少なくとも一部を被覆するとともに正極集電体の表面を部分的に被覆する工程、により作製することが出来る。
【0044】
工程(ii)においては、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質の原料を含む雰囲気に、正極前駆体を暴露することにより、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質による被膜層を形成する。このとき、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質の原料を含む雰囲気は、200℃以下が好ましく、120℃以下の雰囲気がより好ましい。リチウムイオン伝導性を有する固体電解質による被膜層は、液相法や気相法で形成することが好ましい。
【0045】
液相法としては、析出法、ゾルゲル法などが好ましい。析出法とは、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質の原料が溶解している200℃よりも十分に低温の溶液中に、正極前駆体を浸漬し、正極活物質層や正極集電体の表面にリチウムイオン伝導性を有する固体電解質の構成材料を析出させる方法などをいう。また、ゾルゲル法とは、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質の原料を含む200℃よりも十分に低温の液体に、正極前駆体を浸漬し、その後、正極活物質層や正極集電体の表面に、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質の中間体粒子を沈着させ、ゲル化させる方法などをいう。
【0046】
気相法としては、例えば物理蒸着(PVD)法、化学蒸着(CVD)法、原子層堆積(ALD)法などが挙げられる。PVD法やCVD法は、通常、200℃を超える高温化で行われる。ALD法によれば、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質の原料を含む200℃以下、更には120℃以下の雰囲気でリチウムイオン伝導性を有する固体電解質による被膜層を形成することができる。
【0047】
ALD法では、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質の原料として、蒸気圧の高い有機化合物が用いられる。このような原料を気化させることで、分子状の原料を正極活物質層や正極集電体の表面と相互作用させることができる。分子状の原料は、正極活物質層の内部の空隙にまで到達させやすく、空隙の内壁にも均質なリチウムイオン伝導性を有する固体電解質による被膜層を形成しやすい。
【0048】
ALD法では、例えば、以下の手順により、正極活物質層や正極集電体を被覆するリチウムイオン伝導性を有する固体電解質による被膜層が形成される。
【0049】
酸化物XをALD法にて成膜する場合、まず、正極前駆体が収容されている反応室に、気体の第1原料を導入する。その後、正極前駆体の表面が第1原料の単分子層で覆われると、第1原料が有する有機基による自己停止機構が働き、それ以上の第1原料は正極前駆体の表面に吸着しなくなる。余分な第1原料は不活性ガスなどでパージされ、反応室から除去される。
【0050】
次に、正極前駆体が収容されている反応室に、気体の第2原料を導入する。第1原料の単分子層と第2原料との反応が終了すると、それ以上の第2原料は正極前駆体の表面に吸着しなくなる。余分な第2原料は不活性ガスなどでパージされ、反応室から除去される。
【0051】
上記のように、第1原料の導入、パージ、第2原料の導入、パージからなる一連の操作を所定回数繰り返すことにより、元素M1およびリチウムを含むリチウム酸化物Xの被膜が形成される。
【0052】
第1原料および第2原料として使用する材料は、特に限定されず、所望の酸化物Xに応じて、適切な化合物を選択すればよい。例えば、第1原料としては、元素M1としてリンを含む材料(リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、トリス(ジメチルアミノ)ホスフィン、トリメチルホスフィンなど)、元素M1としてケイ素を含む材料(オルトケイ酸テトラメチル、オルトケイ酸テトラエチルなど)、元素M1とリチウムの両方を含む材料(リチウム(ビストリメチルシリル)アミドなど)、リチウムの供給源となる材料(リチウムターシャルブトキシド、リチウムシクロペンタジエニルなど)が挙げられる。
【0053】
第1原料として元素M1を含む材料を用いたときは、第2原料としてリチウムの供給源となる材料(または元素M1とリチウムの両方を含む材料)が用いられる。第1原料としてリチウムの供給源となる材料を用いたときは、第2原料として元素M1を含む材料(または元素M1とリチウムの両方を含む材料)が用いられる。第1原料として元素M1とリチウムの両方を含む材料を用いたときは、第2原料として酸化剤(酸素、オゾンなど)を用いてもよい。
【0054】
酸化物Xの成膜後、フッ素を含む化合物YをALD法にて成膜する場合、第1原料および第2原料を変更し、酸化物Xの成膜と同様の処理を行えばよい。第1原料および第2原料として使用する材料は、特に限定されず、所望の化合物Yに応じて、適切な化合物を選択すればよい。例えば、金属元素M2としてリチウムを含む場合、上述のリチウムの供給源となる材料を利用できる。また、他の金属元素M2(ナトリウム、アルミニウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム)の供給源となる材料としては、例えばこれらの金属元素のターシャルブトキシド(tert‐butoxide)を例示できる。
【0055】
フッ素供給源となる材料としては、例えばフッ素ガス、HFガス、NH4Fなどが挙げられる。金属元素M2とフッ素の両方を含む材料としては、LiFなどが挙げられる。
【0056】
酸化物Xの成膜と化合物Yの成膜を順次行い、第1の被膜の成膜を行うことができる。リチウムイオン伝導性を有する固体電解質からなる被膜層は、酸化物Xの膜の上に化合物Yの膜を成膜した2層構造であってもよいし、酸化物Xの膜と化合物Yの膜を交互に堆積した多層膜であってもよい。
【0057】
第1原料および第2原料として、酸化物Xを成膜するための原料ガスと化合物Yを成膜するための原料ガスを同時に反応室に供給し、酸化物Xの成膜と化合物Yの成膜を同時に行うことも可能である。この場合、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質による被膜層の表面上において、酸化物Xと化合物Yとが同一の原子層内に混在した状態で存在している。この場合、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質による被膜層の表面上の化合物Yによって化学的安定性の高い被膜が形成されていることから、高い副反応抑制効果が得られる。さらに、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質の表面上の化合物Yによってリチウムイオンの透過が妨げられることなく、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質表面上に存在する酸化物Xを介してリチウムイオンを正極活物質に(正極活物質から)透過させることができる。
【0058】
酸化物Xの成膜と化合物Yの成膜のいずれにおいても、各原料の反応を促進するために、酸化剤を任意のタイミングで反応室に導入して、酸化剤を他の原料と併用してもよい。酸化剤の導入は、一連の操作の繰り返しにおいて、いずれのタイミングで行ってもよく、毎回行ってもよい。
【0059】
また、3種以上の原料を用いてもよい。すなわち、第1原料および第2原料の他に、更に1種以上の原料を用いてもよい。例えば、第1原料の導入、パージ、第2原料の導入、パージ、第1原料とも第2原料とも異なる第3原料の導入、パージからなる一連の操作を繰り返してもよい。
【0060】
バインダーが例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)のようなフッ素化合物を含む場合、バインダー中のフッ素化合物の一部を反応室内で昇華させてもよい。昇華したフッ素化合物は、ALD法におけるフッ素供給源として働く。したがって、バインダーとしてフッ素化合物を用いる場合には、第1原料および第2原料として酸化物Xの成膜に必要な材料のみを選択すればよい。バインダーがフッ素を供給する結果、酸化物Xと、リチウム-フッ素結合(LiF)を有する化合物Yとが同一原子層内で混在したリチウムイオン伝導性固体電解質からなる被膜層が形成され得る。
【0061】
酸化物Xと化合物Yの成膜方法は、同一のものが好ましいが、互いに異なる方法であってもよい。例えば、酸化物Xと化合物Yの一方の成膜を液相法で行い、他方の成膜を気相法で行ってもよい。
【0062】
(負極)
負極は、シート状の負極集電体と、負極集電体の表面に設けられた負極活物質層とを具備する。負極活物質層は、負極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。
【0063】
(負極集電体)
負極集電体としては、金属箔、金属シート、メッシュ体、パンチングシート、エキスパンドメタルなどが例示できる。負極集電体の材料には、ステンレス鋼、ニッケル、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などを用いることができる。負極集電体の厚さは、例えば3~50μmの範囲から選択できる。
【0064】
(負極活物質層)
負極活物質層は、負極活物質、バインダー(結着剤)および分散媒を含む負極スラリーを用いて、正極活物質層の製造に準じた方法で形成できる。負極活物質層は、必要に応じて、導電剤などの任意成分を含んでもよい。負極活物質層に含まれるバインダー量は、負極活物質100質量部に対して、0.1~20質量部が好ましく、1~5質量部がより好ましい。負極活物質層の厚さは、例えば10~100μmである。
【0065】
負極活物質は、非炭素系材料でもよく、炭素材料でもよく、これらの組み合わせでもよい。負極活物質として用いる非炭素系材料としてはチタン、タンタル、ニオブ等のリチウム含有金属酸化物や、合金系材料が好ましい。合金系材料は、ケイ素や錫を含むことが好ましく、中でもケイ素単体やケイ素化合物が好ましい。ケイ素化合物には、ケイ素酸化物やケイ素合金が包含される。また、負極活物質として用いる炭素材料は、特に限定されないが、例えば、黒鉛およびハードカーボンよりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。黒鉛とは、黒鉛構造を有する炭素材料の総称であり、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボン粒子などが含まれる。天然黒鉛としては、鱗片状黒鉛、土状黒鉛などが例示できる。通常、X線回折スペクトルから計算される黒鉛構造の002面の面間隔d002が3.35~3.44オングストロームである炭素材料は黒鉛に分類される。一方、ハードカーボンは、微小な黒鉛の結晶がランダム方向に配置され、それ以上の黒鉛化がほとんど進行しない炭素材料であり、002面の面間隔d002は3.44オングストロームより大きい。
【0066】
(セパレータ)
セパレータとしては、樹脂、ガラス、セラミクス等から選ばれる素材を含む微多孔フィルム、不織布、織布などが用いられる。樹脂には、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリアミド、ポリアミドイミドなどが用いられる。ガラスやセラミクスとしては、ホウ珪酸ガラス、シリカ、アルミナ、チタニアなどが用いられる。
【0067】
(水系電解液)
水系電解液としては、リチウム塩と水を含む水溶液を含む電解液を用いることが出来る。溶媒が可燃性を有さない水であるため、安全な二次電池を得ることが出来る。
【0068】
リチウム塩としては、LiCF3SO3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2CF2)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C2F5)などが挙げられる。リチウム塩は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのリチウム塩は、溶媒である水に対する溶解度が高く、また、耐水安定性も高いことから、好適に用いられる。
【0069】
また、リチウムカチオンと、イミドアニオンとから構成されるリチウム塩であってもよい。特に、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、は好適に用いられる。
【0070】
リチウム塩1molに対する水の量が4mol以下であることが好ましい。リチウム塩1molに対する水の量が1.5mol以上であることが好ましい。水の活量が低下し、水系電解液の電位窓が拡大し、水系二次電池の電圧を2V以上の高電圧に高めることが出来るためである。
【0071】
水系電解液のpHを制御するために、酸やアルカリを添加することも出来る。酸としては、イミドアニオンを有するCF3SO3H、HN(SO2CF3)2、HN(SO2C2F5)2を添加してもよい。また、アルカリとしては、LiOHを添加してもよい。水系二次電池の電圧を2V以上の高電圧に高めるためには、アルカリ、すなわち、LiOHの添加が有効である。
【0072】
[実施例]
以下、本開示を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
《実施例1》
下記の手順により、水系二次電池を作製した。
【0074】
(1)正極の作製
Li、Ni、CoおよびAlを含有する正極活物質としてのリチウム含有遷移金属酸化物(LiNi0.88Co0.09Al0.03O2(NCA))と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、NCA:AB:PVdF=100:1:0.9の質量比で混合し、さらにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量加えて撹拌して、正極スラリーを調製した。次に、得られた正極スラリーをアルミニウム箔(正極集電体)の片面に塗布した後、乾燥して、ローラーを用いて正極合材の塗膜を圧延し、正極前駆体を作製した。
【0075】
正極前駆体を所定の反応室に収容し、下記手順により、リチウムイオン伝導性固体電解質を、正極内に導入した。本実施例では、正極活物質の表面、導電剤の表面、バインダーの表面および正極集電体の表面のうち少なくとも一部が、リチウムイオン伝導性固体電解質により被覆される。
【0076】
(i)正極前駆体が収容されている反応室に、元素M1(リン:P)と酸素(O)の供給源となる第1原料(リン酸トリメチル)を気化させて導入した。第1原料を含む雰囲気の温度は120℃、圧力は260Paに制御した。30秒後、正極前駆体の表面が第1原料の単分子層で覆われたものとして、余分な第1原料を窒素ガスでパージした。
【0077】
(ii)次に、正極前駆体が収容されている反応室に、リチウムの供給源となる第2原料(リチウム(ビストリメチルシリル)アミド)を気化させて導入した。第2原料を含む雰囲気の温度は120℃、圧力は260Paに制御した。30秒後、第1原料の単分子層が第2原料と反応したものとして、余分な第2原料を窒素ガスでパージした。
【0078】
(iii)第1原料の導入、パージ、第2原料の導入、パージからなる一連の操作を100回繰り返すことにより酸化物Xと化合物Yを含むリチウムイオン伝導性を有する固体電解質からなる被膜層を形成した。
【0079】
固体電解質の組成をXPS、ICP等で分析したところ、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質であるリン酸リチウムが形成されていることを確認した。
【0080】
また、XPSスペクトルを分析したところ、685eV(±1eV)にLi-Fに起因したフッ素1sスペクトルのピークを確認した。688eV(±2eV)にPVdFに起因したフッ素1sスペクトルのピークを確認した。これより、正極前駆体に含まれるPVdFのフッ素が、リチウムと結合した状態で存在していることが、確認された。
【0081】
固体電解質を形成する前の正極前駆体の質量、固体電解質を形成した後の正極の質量、正極活物質層の組成と各材料の比重から、正極活物質層の全質量に対する第1の被膜の質量を求めると、正極活物質層100質量部に対して0.1質量部であった。
【0082】
固体電解質の厚さは、ALDにおける一連の操作の回数から、10nm~25nmの範囲内であると推測される。
【0083】
固体電解質が形成された正極前駆体を所定の電極サイズに切断し、正極集電体の片面に正極活物質層を備える正極を作製した。
【0084】
(2)負極の作製
負極活物質であるチタン酸リチウム粒子(平均粒径(D50)7μm)とバインダーと導電剤とを、適量のNMP溶媒と混合して、負極スラリーを調製した。導電剤としては、カーボンブラックを、バインダーとしては、PVDFを用いた。チタン酸リチウム粒子100質量部に対し、カーボンブラックを5重量部、PVDFは10質量部、を配合した。次に、得られた負極スラリーを、厚さ10μmのアルミ箔(負極集電体)の片面に塗布した後、乾燥させて、ローラーを用いて負極合材の塗膜を圧延した。最後に、得られた負極集電体と負極合材との積層体を所定の電極サイズに切断し、負極集電体の片面に負極活物質層を備える負極を作製した。
【0085】
(3)水系電解質の調製
LiN(SO2CF3)2(CAS登録番号:90076-65-6)と、LiN(SO2C2F5)2(CAS登録番号:132843-44-8)と水を、モル比0.7:0.3:2で混合し、水系電解液を得た。
【0086】
(4)電池の作製
上記で得られた正極に、アルミニウム製の正極リードを取り付けた。上記で得られた負極に、アルミニウム製の負極リードを取り付けた。正極と負極とを、厚み0.4mmのガラス製不織布セパレータを介して活物質層面同士が向かい合うように重ねて、電極群を作製した。
【0087】
得られた電極群を、長方形のラミネートフィルムに挿入した。負極リードと正極リードをラミネートフィルムの外部に取り出した。ラミネートフィルムの長方形の3つの端部を熱融着させた。残る1つの端部から、ラミネートフィルム内に水系電解質を所定量注液した後、残る1つの端部も熱溶着し、封止した。このようにして、ラミネート型の水系二次電池A1を得た。水系二次電A1について、評価1および評価2に基づき、評価した。
【0088】
[評価1:放電容量の測定]
電池の閉路電圧が2.75Vに達するまで0.5Cの定電流で充電した後、電池の閉路電圧が1.75Vに達するまで、0.5Cの定電流で放電を行い、放電容量を求めた。充放電は25℃の環境で行った。
【0089】
[評価2:充電保存時の安定性の評価]
電池の閉路電圧が2.75Vに達するまで0.5Cの定電流で充電した後、電池を分解し、正極および負極を取り出した。上記(3)で調整した水系電解液を入れたビーカーに、取り出した正極および負極を浸漬し、25℃で1時間保存した。保存後の正極及び負極について正極-負極間の電圧差を測定し、電池の開路電圧の変化速度(mV/Hour)を求めた。充電保存試験は、25℃の環境で行った。求めた開路電圧の変化速度(mV/Hour)を、充電保存時の安定性の評価とした。
【0090】
《比較例1》
正極前駆体の表面にリチウムイオン伝導性固体電解質を形成する工程を行わなかったことを除いて、実施例1と同様の方法で正極を作製した。作製した正極を用いて、水系二次電池B1を作製し、評価1および評価2により評価した。すなわち、水系二次電池B1は、実施例1の正極前駆体を正極として用いたものである。
【0091】
実施例1および比較例1の評価結果を表1に示した。表1において、水系二次電池A1の評価結果はセルA1として、水系二次電池B1の評価結果はセルB1として示した。表1において、水系二次電池A1および水系二次電池B1の放電容量は、比較例1の水系二次電池B1の放電容量を100とした相対値で示した。
【0092】
【0093】
表1に示すように、実施例1の水系二次電池A1は、比較例1の水系二次電池B1と比べて、正極にリチウムイオン伝導性固体電解質を導入することで、放電容量を低下させることなく、充電保存時の開路電圧の変化速度を低下させることができた。すなわち、水系二次電池A1は、水系二次電池B1と比較して、充電保存時の安定性が改善されたと評価できる。
【0094】
作製した電池の負極はチタン酸リチウムであり、負極の電位変動はほぼない材料である。このため、開路電圧の変化速度の低下は、正極の電位低下が抑制されたことを意味する。したがって、正極活物質層へリチウムイオン伝導性固体電解質を導入したことにより、正極の電位低下が抑制され、電池の充電保存安定性が改善できたことが分かる。
【0095】
また、水系二次電池A1に含まれるリチウムイオン伝導性固体電解質の占める割合(質量比)が正極活物質100重量部に対して0.1重量部と十分に小さい。このため、水系二次電池A1は、リチウムイオン伝導性固体電解質を有していない水系二次電池B1と同等の容量を維持することができたと考えられる。
【0096】
《実施例2》
実施例2では、正極活物質としてリチウム含有遷移金属酸化物(LiNi0.82Co0.15Al0.03O2(NCA))を用いた。正極活物質を変更したことを除いて、実施例1と同様の方法で水系二次電池A2を作製した。水系二次電池A2を、評価1および評価3に基づき、評価した。
【0097】
[評価3:充電保存時の安定性の評価]
電池の閉路電圧が2.75Vに達するまで0.5Cの定電流で充電した後、電池を25℃で1時間保存し、正極-負極間の電圧差、すなわち、電池の開路電圧の変化速度(mV/Hour)を求めた。充電保存試験は、25℃の環境で行った。開路電圧の変化速度(mV/Hour)を充電保存時の安定性の評価とした。
【0098】
《比較例2》
比較例2では、正極前駆体の表面にリチウムイオン伝導性固体電解質を形成する工程を行わなかったことを除いて、実施例2と同様の方法で水系二次電池B2を作製した。すなわち、水系二次電池B2は、実施例2の正極前駆体を正極として用いたものである。水系二次電池B2を、評価1および評価3に基づき、評価した。
【0099】
実施例2および比較例2の評価結果を表2に示した。表2において、水系二次電池A2の評価結果はセルA2として、水系二次電池B2の評価結果はセルB2として示した。表2において、水系二次電池A2および水系二次電池B2の放電容量は、比較例2の水系二次電池B2の放電容量を100とした相対値で示した。
【0100】
《実施例3》
実施例3では、正極活物質としてリチウム含有遷移金属酸化物(LiNi0.55Co0.30Mn0.15O2(NCM))を用いた。正極活物質を変更したことを除いて、実施例1と同様の方法で水系二次電池A3を作製した。水系二次電池A3を、評価1および評価3に基づき、評価した。
【0101】
《比較例3》
比較例3では、正極前駆体の表面にリチウムイオン伝導性固体電解質を形成する工程を行わなかったことを除いて、実施例3と同様の方法で水系二次電池B3を作製した。すなわち、水系二次電池B3は、実施例3の正極前駆体を正極として用いたものである。水系二次電池B3を、評価1および評価3に基づき、評価した。
【0102】
実施例3および比較例3の評価結果を表3に示した。表3において、水系二次電池A3の評価結果はセルA3として、水系二次電池B3の評価結果はセルB3として示した。表3において、水系二次電池A3および水系二次電池B3の放電容量は、比較例3の水系二次電池B3の放電容量を100とした相対値で示した。
【0103】
《実施例4》
実施例4では、正極活物質としてリチウム含有遷移金属酸化物(LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2(NCM))を用いた。正極活物質を変更したことを除いて、実施例1と同様の方法で水系二次電池A4を作製した。水系二次電池A4を、評価1および評価3に基づき、評価した。
【0104】
《比較例4》
比較例4では、正極前駆体の表面にリチウムイオン伝導性固体電解質を形成する工程を行わなかったことを除いて、実施例4と同様の方法で水系二次電池B4を作製した。すなわち、水系二次電池B4は、実施例4の正極前駆体を正極として用いたものである。水系二次電池B4を、評価1および評価3に基づき、評価した。
【0105】
実施例4および比較例4の評価結果を表4に示した。表4において、水系二次電池A4の評価結果はセルA4として、水系二次電池B4の評価結果はセルB4として示した。表4において、水系二次電池A4および水系二次電池B4の放電容量は、比較例4の水系二次電池B4の放電容量を100とした相対値で示した。
【0106】
《実施例5》
実施例5では、正極活物質としてリチウム含有遷移金属酸化物(LiNi0.35Co0.35Mn0.30O2(NCM))を用いた。正極活物質を変更したことを除いて、実施例1と同様の方法で水系二次電池A5を作製した。水系二次電池A5を、評価1および評価3に基づき、評価した。
【0107】
《比較例5》
比較例5では、正極前駆体の表面にリチウムイオン伝導性固体電解質を形成する工程を行わなかったことを除いて、実施例5と同様の方法で水系二次電池B5を作製した。すなわち、水系二次電池B5は、実施例5の正極前駆体を正極として用いたものである。水系二次電池B5を、評価1および評価3に基づき、評価した。
【0108】
実施例5および比較例5の評価結果を表5に示した。表5において、水系二次電池A5の評価結果はセルA5として、水系二次電池B5の評価結果はセルB5として示した。表5において、水系二次電池A5および水系二次電池B5の放電容量は、比較例5の水系二次電池B5の放電容量を100とした相対値で示した。
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
表2~5に示すように、実施例2~5の水系二次電池A2~5は、各々同じ正極活物質を用いた比較例2~5の水系二次電池B2~5と比べて、正極にリチウムイオン伝導性固体電解質を導入することで、放電容量を低下させることなく、充電保存時の開路電圧の変化速度を低下させることができた。すなわち、水系二次電池A2~5は、正極活物質の組成に依らず、水系二次電池B2~5と比較して、充電保存時の安定性が改善されたと評価できる。
【0114】
また、充電保存時の開回路電圧の変化速度の低減効果は、水系二次電池B1に対する水系二次電池A1では83.2%減であり、水系二次電池B2に対する水系二次電池A2では14.2%低減であり、水系二次電池B3に対する水系二次電池A3では12.2%低減であり、水系二次電池B4に対する水系二次電池A4では4.2%低減であり、水系二次電池B5に対する水系二次電池A5では3.6%低減であった。
【0115】
水系二次電池A1および水系二次電池B1の正極活物質はLiNi0.88Co0.09Al0.03O2であり、水系二次電池A2および水系二次電池B2の正極活物質はLiNi0.82Co0.15Al0.03O2であり、水系二次電池A3および水系二次電池B3の正極活物質はLiNi0.55Co0.30Mn0.15O2であり、水系二次電池A4および水系二次電池B4の正極活物質はLiNi0.5Co0.2Mn0.3O2であり、水系二次電池A5および水系二次電池B5の正極活物質はLiNi0.35Co0.35Mn0.30O2であることから、正極活物質中の遷移金属内のNi比率が増加するにつれて、正極へのリチウムイオン伝導性固体電解質を導入による、充電保存時の開回路電圧の変化速度の低減効果が大きくなると言える。
【0116】
特に、遷移金属内のNi比率が0.55以上である水系二次電池A1,A2,A3において、充電保存時の開回路電圧の変化速度の低減効果が顕著であった。これは、正極活物質中の遷移金属に占めるNi比率が増加するにつれ、正極活物質であるリチウム含有遷移金属酸化物中のリチウムイオンと電解液中の水の分解に伴って生成するプロトンとの交換反応を抑制する効果や、充電状態における正極活物質中のリチウムサイトへのプロトンの挿入反応を抑制する効果が、大きくなったためと推定する。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本開示に係る水系二次電池は、パーソナルコンピュータ、携帯電話、モバイル機器、携帯情報端末(PDA)、携帯用ゲーム機器、ビデオカメラなどの駆動用電源、ハイブリッド電気自動車、プラグインHEVなどにおける電気モータ駆動用の主電源または補助電源、電動工具、掃除機、ロボットなどの駆動用電源などに用いる水系二次電池として有用である。
【符号の説明】
【0118】
11 正極集電体
12 正極活物質層
13 正極
14 負極集電体
15 負極活物質層
16 負極
17 セパレータ
18 外装