(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】ヘルム装置
(51)【国際特許分類】
B63H 20/12 20060101AFI20230105BHJP
B63H 25/02 20060101ALI20230105BHJP
【FI】
B63H20/12 100
B63H25/02 Z
(21)【出願番号】P 2020129045
(22)【出願日】2020-07-30
【審査請求日】2022-07-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 大輔
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-222197(JP,A)
【文献】特開平10-236393(JP,A)
【文献】特開2016-147627(JP,A)
【文献】特開2007-320549(JP,A)
【文献】特開2014-54961(JP,A)
【文献】特開2006-69464(JP,A)
【文献】特開2005-104281(JP,A)
【文献】特開2000-43794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 20/12,25/02,
B62D 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に延びるステアリングシャフトと、
前記ステアリングシャフトの一部を収容するハウジングと、
船体に取り付けられるチルトベースと、
前記第1方向と交差する第2方向と平行なチルト軸を中心として前記ハウジングが前記チルトベースに対し回動可能となるように前記ハウジングを支持する一対のチルト機構と、
前記一対のチルト機構による前記ハウジングの回動を制止することにより、前記チルトベースに対する前記ステアリングシャフトの角度を固定するロック機構と、
前記ハウジングに収容され、前記ステアリングシャフトに対して抵抗力を与える電磁ブレーキと、を備え、
前記一対のチルト機構の各々は、
前記チルト軸と交差する前記ハウジングの側部から突出する軸部材と、
前記チルトベースに設けられ、前記軸部材が回動可能に挿入された孔部を有するブラケットと、
前記軸部材の外周面と前記孔部の内周面との間に配置されるブッシュと、
を備え、
前記ステアリングシャフト
、前記電磁ブレーキおよび前記ハウジングを含むヘルム装置本体の重心は、前記チルト軸よりも前記ステアリングシャフトの先端部側に位置し
、
前記ハウジングは、前記ステアリングシャフトが延出する先端部と、前記第1方向において前記先端部の反対側に位置する後端部と、を有し、
前記第1方向において、前記軸部材は、前記電磁ブレーキよりも前記ハウジングの前記後端部側に位置している、
船舶のヘルム装置。
【請求項2】
前記チルトベースは、開口を有し、
前記ハウジングは、前記開口に通され、
前記ブラケットは、前記チルトベースから前記ステアリングシャフトの
前記先端部側に突出し、
前記チルト軸は、前記第1方向において前記チルトベースと前記ステアリングシャフトの前記先端部との間に位置している、
請求項1に記載のヘルム装置。
【請求項3】
前記一対のチルト機構の各々は、前記チルト軸を中心とした所定の回動方向に前記ハウジングを付勢する第1付勢部材をさらに備え、
前記第1付勢部材は、前記軸部材が通されたコイル部と、前記コイル部から延出し前記チルトベースに支持された固定点側のアームと、前記コイル部から延出し前記ハウジングに支持された作用点側のアームと、を有する、
請求項1または2に記載のヘルム装置。
【請求項4】
前記ロック機構は、
前記ハウジングの外面において前記チルト軸を中心とした円周方向に並ぶ複数のスロットと、
前記複数のスロットに挿入可能なラッチを有するレバーと、
を備え、
前記複数のスロットのいずれかに前記ラッチを挿入することにより前記一対のチルト機構による前記ハウジングの回動が制止される、
請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載のヘルム装置。
【請求項5】
前記ロック機構は、
前記レバーを前記チルトベースに対して前記チルト軸と平行な軸を中心として回動可能に連結するピンと、
前記ラッチが前記複数のスロットに押し当てられるように前記レバーを付勢する第2付勢部材と、
をさらに備え、
前記第2付勢部材は、前記ピンが通されたコイル部と、前記コイル部から延出し前記チルトベースによって支持された固定点側のアームと、前記コイル部から延出し前記レバーによって支持された作用点側のアームと、を有する、
請求項4に記載のヘルム装置。
【請求項6】
前記一対のチルト機構の各々は、
前記軸部材の周囲において前記ハウジングに設けられ、前記チルト軸を中心とした円周方向に並ぶ第1制止部および第2制止部と、
前記ブラケットに設けられ、前記第1制止部および前記第2制止部と同心円上に並ぶ第3制止部および第4制止部と、
をさらに備え、
前記チルト軸を中心とした第1回動方向に前記ハウジングを回動させることにより前記ステアリングシャフトの傾きが第1限界角度に達した場合、前記第1制止部と前記第3制止部が接触して前記ハウジングの前記第1回動方向へのさらなる回動が制止され、
前記第1回動方向と反対の第2回動方向に前記ハウジングを回動させることにより前記ステアリングシャフトの傾きが第2限界角度に達した場合、前記第2制止部と前記第4制止部が接触して前記ハウジングの前記第2回動方向へのさらなる回動が制止される、
請求項1乃至5のうちいずれか1項に記載のヘルム装置。
【請求項7】
前記ロック機構は、前記チルト軸を中心とした円周方向において前記複数のスロットの両端に位置する第5制止部および第6制止部をさらに備え、
前記複数のスロットから前記ラッチを退避させた状態において、前記チルト軸を中心とした第1回動方向に前記ハウジングを回動させることにより前記ステアリングシャフトの傾きが第1限界角度に達した場合、前記第5制止部と前記ラッチが接触して前記ハウジングの前記第1回動方向へのさらなる回動が制止され、
前記複数のスロットから前記ラッチを退避させた状態において、前記第1回動方向と反対の第2回動方向に前記ハウジングを回動させることにより前記ステアリングシャフトの傾きが第2限界角度に達した場合、前記第6制止部と前記ラッチが接触して前記ハウジングの前記第2回動方向へのさらなる回動が制止される、
請求項4または5に記載のヘルム装置。
【請求項8】
前記チルト軸と平行な方向において、前記ハウジングの内部に位置する前記ステアリングシャフトの端部が前記軸部材と重なっている、
請求項1乃至7のうちいずれか1項に記載のヘルム装置。
【請求項9】
前記ステアリングシャフトの回動を検出するセンサが実装された第1回路基板と、
前記第1回路基板に電力を供給する電源回路が実装された第2回路基板と、をさらに備え、
前記第2方向において、前記第1回路基板が前記軸部材と重なり、
前記第1方向において、前記第2回路基板が前記第1回路基板と前記後端部の間に位置している、
請求項
1に記載のヘルム装置。
【請求項10】
前記ハウジングは、
前記第1方向における第1端部と、前記第1端部の反対側の第2端部と、前記一対のチルト機構の前記軸部材と、を有するハウジングベースと、
前記ハウジングベースの前記第1端部に連結され、前記ステアリングシャフトを通す開口が設けられたハウジングトップと、
前記ハウジングベースの前記第2端部に連結されたカバーと、
を備え、
前記ハウジングベースと前記ハウジングトップは、前記ステアリングシャフトの一部および前記電磁ブレーキを収容する第1チャンバを形成し、
前記ハウジングベースと前記カバーは、前記第1回路基板および前記第2回路基板を収容する第2チャンバを形成し、
前記第2方向において、前記第2チャンバが前記軸部材と重なっている、
請求項
9に記載のヘルム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の操舵に使用されるヘルム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船外機の舵角を変えるための操舵装置として、舵輪(ヘルム)に連結されたステアリングシャフトの回動を油圧配管やプッシュプルケーブルにより船外機のアクチュエータに伝えるものが知られている。また、ステアリングシャフトの回動をセンサにより検出し、当該センサが出力する電気信号に基づいて船外機のアクチュエータを駆動する電動式の操舵装置も存在する。
【0003】
一般に、ステアリングシャフトは水平方向に対して所定のチルト角で傾けられている。操船者に応じた快適な操作性を実現するためには、ステアリングシャフトを含むヘルム装置のチルト角を調整できることが好ましい。例えば、このような調整を可能とする先行技術としては、特許文献1に開示された操舵装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の構造を含め、ステアリングシャフトのチルト角を調整可能な従来のヘルム装置に関しては、機能性や操作性の面で種々の改善の余地がある。そこで、本発明は、ステアリングシャフトのチルト角を調整可能であるとともに、機能性や操作性に優れたヘルム装置を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態に係るヘルム装置は、第1方向に延びるステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトの一部を収容するハウジングと、船体に取り付けられるチルトベースと、前記第1方向と交差する第2方向と平行なチルト軸を中心として前記ハウジングが前記チルトベースに対し回動可能となるように前記ハウジングを支持する一対のチルト機構と、前記一対のチルト機構による前記ハウジングの回動を制止することにより、前記チルトベースに対する前記ステアリングシャフトの角度を固定するロック機構と、前記ハウジングに収容され、前記ステアリングシャフトに対して抵抗力を与える電磁ブレーキと、を備えている。前記一対のチルト機構の各々は、前記チルト軸と交差する前記ハウジングの側部から突出する軸部材と、前記チルトベースに設けられ、前記軸部材が回動可能に挿入された孔部を有するブラケットと、前記軸部材の外周面と前記孔部の内周面との間に配置されるブッシュと、を備えている。前記ステアリングシャフト、前記電磁ブレーキおよび前記ハウジングを含むヘルム装置本体の重心は、前記チルト軸よりも前記ステアリングシャフトの先端部側に位置している。前記ハウジングは、前記ステアリングシャフトが延出する先端部と、前記第1方向において前記先端部の反対側に位置する後端部と、を有している。前記第1方向において、前記軸部材は、前記電磁ブレーキよりも前記ハウジングの前記後端部側に位置している。
【0007】
前記チルトベースは、開口を有し、前記ハウジングは、前記開口に通され、前記ブラケットは、前記チルトベースから前記ステアリングシャフトの先端部側に突出し、前記チルト軸は、前記第1方向において前記チルトベースと前記ステアリングシャフトの前記先端部との間に位置していてもよい。
【0008】
前記一対のチルト機構の各々は、前記チルト軸を中心とした所定の回動方向に前記ハウジングを付勢する第1付勢部材をさらに備えてもよい。この場合において、前記第1付勢部材は、前記軸部材が通されたコイル部と、前記コイル部から延出し前記チルトベースに支持された固定点側のアームと、前記コイル部から延出し前記ハウジングに支持された作用点側のアームと、を有してもよい。
【0009】
前記ロック機構は、前記ハウジングの外面において前記チルト軸を中心とした円周方向に並ぶ複数のスロットと、前記複数のスロットに挿入可能なラッチを有するレバーと、を備えてもよい。この場合において、前記複数のスロットのいずれかに前記ラッチを挿入することにより前記一対のチルト機構による前記ハウジングの回動が制止されてもよい。
【0010】
前記ロック機構は、前記レバーを前記チルトベースに対して前記チルト軸と平行な軸を中心として回動可能に連結するピンと、前記ラッチが前記複数のスロットに押し当てられるように前記レバーを付勢する第2付勢部材と、をさらに備えてもよい。この場合において、前記第2付勢部材は、前記ピンが通されたコイル部と、前記コイル部から延出し前記チルトベースによって支持された固定点側のアームと、前記コイル部から延出し前記レバーによって支持された作用点側のアームと、を有してもよい。
【0011】
前記一対のチルト機構の各々は、前記軸部材の周囲において前記ハウジングに設けられ、前記チルト軸を中心とした円周方向に並ぶ第1制止部および第2制止部と、前記ブラケットに設けられ、前記第1制止部および前記第2制止部と同心円上に並ぶ第3制止部および第4制止部と、をさらに備えてもよい。さらに、前記チルト軸を中心とした第1回動方向に前記ハウジングを回動させることにより前記ステアリングシャフトの傾きが第1限界角度に達した場合、前記第1制止部と前記第3制止部が接触して前記ハウジングの前記第1回動方向へのさらなる回動が制止され、前記第1回動方向と反対の第2回動方向に前記ハウジングを回動させることにより前記ステアリングシャフトの傾きが第2限界角度に達した場合、前記第2制止部と前記第4制止部が接触して前記ハウジングの前記第2回動方向へのさらなる回動が制止されてもよい。
【0012】
前記ロック機構は、前記チルト軸を中心とした円周方向において前記複数のスロットの両端に位置する第5制止部および第6制止部をさらに備えてもよい。さらに、前記複数のスロットから前記ラッチを退避させた状態において、前記チルト軸を中心とした第1回動方向に前記ハウジングを回動させることにより前記ステアリングシャフトの傾きが第1限界角度に達した場合、前記第5制止部と前記ラッチが接触して前記ハウジングの前記第1回動方向へのさらなる回動が制止され、前記複数のスロットから前記ラッチを退避させた状態において、前記第1回動方向と反対の第2回動方向に前記ハウジングを回動させることにより前記ステアリングシャフトの傾きが第2限界角度に達した場合、前記第6制止部と前記ラッチが接触して前記ハウジングの前記第2回動方向へのさらなる回動が制止されてもよい。
【0013】
前記チルト軸と平行な方向において、前記ハウジングの内部に位置する前記ステアリングシャフトの端部が前記軸部材と重なってもよい。
【0016】
前記ヘルム装置は、前記ステアリングシャフトの回動を検出するセンサが実装された第1回路基板と、前記第1回路基板に電力を供給する電源回路が実装された第2回路基板と、をさらに備えてもよい。さらに、前記第2方向において、前記第1回路基板が前記軸部材と重なり、前記第1方向において、前記第2回路基板が前記第1回路基板と前記後端部の間に位置してもよい。
【0017】
前記ハウジングは、前記第1方向における第1端部と、前記第1端部の反対側の第2端部と、前記一対のチルト機構の前記軸部材と、を有するハウジングベースと、前記ハウジングベースの前記第1端部に連結され、前記ステアリングシャフトを通す開口が設けられたハウジングトップと、前記ハウジングベースの前記第2端部に連結されたカバーと、を備えてもよい。この場合において、前記ハウジングベースと前記ハウジングトップは、前記ステアリングシャフトの一部および前記電磁ブレーキを収容する第1チャンバを形成し、前記ハウジングベースと前記カバーは、前記第1回路基板および前記第2回路基板を収容する第2チャンバを形成し、前記第2方向において、前記第2チャンバが前記軸部材と重なってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ステアリングシャフトのチルト角を調整可能であるとともに、機能性や操作性に優れたヘルム装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る操舵装置を搭載した船舶の概略的な側面図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係るヘルム装置の概略的な斜視図である。
【
図4】
図4は、
図3に示すチルト機構を分解した状態のヘルム装置の概略的な斜視図である。
【
図5】
図5は、
図3におけるV-V線に沿うヘルム装置の概略的な部分断面図である。
【
図6】
図6は、
図3におけるVI-VI線に沿うヘルム装置の概略的な断面図である。
【
図7】
図7は、
図6に示すヘルム装置においてハウジングを分解した状態の概略的な断面図である。
【
図8】
図8は、
図3に示すヘルム装置の概略的な側面図である。
【
図9】
図9は、変形例に係るヘルム装置の概略的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態につき、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る操舵装置を搭載した船舶Vの概略的な側面図である。
図2は、
図1に示す船舶Vの概略的な平面図である。船舶Vは、操舵装置100と、船体110と、船外機120とを備えている。
【0021】
操舵装置100は、舵輪Wおよび舵輪Wの回動量(舵角)を検出するためのセンサSを有するヘルム装置1と、船外機120の舵角を変える電動式のアクチュエータ130と、船外機120の舵角を検出する舵角センサ140と、制御部150とを備えている。制御部150は、ヘルム装置1、アクチュエータ130および舵角センサ140と電気的に接続されている。船外機120は、船舶Vに推進力を与えるスクリューを備え、例えば船体110の後部壁110aに取り付けられている。
【0022】
舵輪Wを回動させると、舵輪Wの回動量がヘルム装置1のセンサSによって検出され、舵角の方向と舵角量に関する電気信号が制御部150に送られる。制御部150は、センサSから得られた情報に基づき設定される目標舵角と、舵角センサ140によって検出される船外機120の実際の舵角とが一致するようにアクチュエータ130を駆動する。
【0023】
図3は、ヘルム装置1の概略的な斜視図である。ヘルム装置1は、ステアリングシャフト2と、ハウジング3と、チルトベース4と、一対のチルト機構5R,5Lと、ロック機構6とを備えている。
【0024】
ステアリングシャフト2は、第1方向Xに沿う長尺な形状であり、舵輪Wが取り付けられる取付部20を先端部2aの近傍に有している。ステアリングシャフト2の一部は、ハウジング3に収容されている。ステアリングシャフト2は、第1方向Xと平行なシャフト軸SXを中心に回動可能である。
【0025】
ハウジング3は、第1方向Xにおける先端部3aと、その反対側の後端部3bとを有している。ステアリングシャフト2は、先端部3aから延出している。本実施形態においては、ハウジングベース30と、先端部3aを含むハウジングトップ31と、後端部3bを含むカバー32とでハウジング3が構成されている。例えばハウジングベース30とハウジングトップ31は金属材料で形成され、カバー32は樹脂材料で形成されている。
【0026】
ハウジングベース30は、例えば円筒形状であり、第1方向Xにおける第1端部30aと、第1端部30aの反対側の第2端部30bとを有している。ハウジングトップ31は、例えばボルトである複数の連結部材33によって第1端部30aに連結されている。同様に、カバー32は、例えばボルトである複数の連結部材によって第2端部30bに連結されている。
【0027】
ハウジングトップ31は、先端部3aにステアリングシャフト2を通すための開口31aを有している。開口31aの内壁とステアリングシャフト2の隙間は、蓋材31bによって塞がれている。
【0028】
チルトベース4は、第1方向Xにおける第1側面4aと、第1側面4aの反対側の第2側面4bと、第1側面4aから第2側面4bに至る開口4cとを有している。
図3の例においては、ハウジング3が開口4cに通されている。ハウジング3の大部分は、第1側面4aよりもステアリングシャフト2の先端部2a側に位置している。チルトベース4は、例えば船体110におけるヘルム装置1の取り付け位置に第2側面4bを接触させた状態で、ボルトによる締結などの適宜の手段により当該取り付け位置に固定される。
【0029】
チルト機構5R,5Lは、第1方向Xと交差する第2方向Yと平行なチルト軸TXを中心として、ハウジング3がチルトベース4に対し回動可能となるようにハウジング3を支持している。本実施形態においては、第1方向Xと第2方向Yが直交している。
【0030】
図4は、チルト機構5Rを分解した状態のヘルム装置1の概略的な斜視図である。チルト機構5Rは、軸部材50と、ブラケット51と、ブッシュ52と、第1付勢部材53とを備えている。
【0031】
軸部材50は、チルト軸TXと交差するハウジング3の側部(ハウジングベース30の側部)に設けられている。
図4の例において、軸部材50は、チルト軸TXを中心とした円筒状の第1部分50aと、チルト軸TXを中心とした円形の第2部分50bとを有している。第2部分50bの外周面の直径は、第1部分50aの外周面の直径よりも大きい。第2部分50bは、第1部分50aとハウジングベース30の間に位置している。本実施形態において、第1部分50aおよび第2部分50bは、ハウジングベース30と一体的に形成されている。ただし、第1部分50aおよび第2部分50bは、ハウジングベース30に対してねじ止めなどの適宜の手段で連結されてもよい。
【0032】
ブラケット51は、チルトベース4側の取付面51aと、チルト軸TXを中心とした円形の孔部51bとを有している。
図4の例においては、孔部51bがブラケット51を第2方向Yに貫通する開口であるが、孔部51bは有底の窪みであってもよい。孔部51bの内径は、軸部材50の第1部分50aの外径よりも大きい。
【0033】
チルトベース4は、第1側面4a側に台座部41を有している。台座部41には、第2側面4bまで貫通する一対の取付孔41aが設けられている。ブラケット51の取付面51aには、これら取付孔41aと向かい合う位置に雌ねじ51cが設けられている。取付面51aを台座部41に接触させ、各取付孔41aを通じて雌ねじ51cにそれぞれボルトをねじ込むことにより、ブラケット51がチルトベース4に連結される。
【0034】
ブッシュ52は、チルト軸TXを中心とした円筒状の第1部分52aと、同じくチルト軸TXを中心とした円筒状の第2部分52bとを有している。第1部分52aの内径は軸部材50の第1部分50aの外径よりも大きく、第1部分52aの外径はブラケット51の孔部51bの内径よりも小さい。第2部分52bの外径は、孔部51bの内径よりも大きい。
【0035】
軸部材50の周囲において、ハウジングベース30の外面には、第2方向Yに突出した第1制止部54aおよび第2制止部54bが設けられている。第1制止部54aおよび第2制止部54bは、チルト軸TXを中心とした円周方向に並んでいる。第1制止部54aおよび第2制止部54bと、軸部材50の第2部分50bとの間には、隙間が設けられている。
【0036】
ブラケット51のハウジングベース30と対向する面には、第2方向Yに突出した第3制止部54cおよび第4制止部54dが設けられている。チルト機構5Rを組み立てた状態においては、第3制止部54cおよび第4制止部54dが第1制止部54aおよび第2制止部54bと同心円上に並ぶ。
【0037】
第1付勢部材53は、例えばねじりばねであり、線材が螺旋状に巻かれたコイル部53aと、コイル部53aから延出する一対のアーム53b,53cとを有している。コイル部53aには、軸部材50が通されている。コイル部53aは、第2部分50bと制止部54a,54bとの間に位置している。
【0038】
アーム53bは、チルトベース4に設けられた保持部42によって保持されている。アーム53cは、第1制止部54aの下面(軸部材50側の面)に接触している。アーム53bのうち保持部42によって保持された部分は、第1付勢部材53の固定点に相当する。アーム53cのうち第1制止部54aに接触する部分は、第1付勢部材53の作用点に相当する。
【0039】
図3に示すようにチルト機構5Rを組み立てた状態においては、軸部材50の第1部分50aがブッシュ52に挿入され、ブッシュ52の第1部分52aがブラケット51の孔部51bに挿入される。このとき、チルト軸TXを中心とした半径方向において、ブッシュ52の第1部分52aが軸部材50の第1部分50aと孔部51bの内壁との間に介在する。さらに、第2方向Yにおいて、ブッシュ52の第2部分52bが軸部材50の第2部分50bとブラケット51の孔部51bの周縁部との間に介在する。
【0040】
チルト機構5Lは、チルト機構5Rと同様の構造を有している。これにより、ハウジング3は、チルト機構5R,5Lによって支持されるとともに、チルト軸TXを中心としてチルトベース4に対し回動可能となる。
【0041】
チルト機構5R,5Lが
図3に示すように組み立てられた状態においては、各ブラケット51がチルトベース4からステアリングシャフト2の先端部2a側に突出している。第1方向Xにおいて、チルト軸TXは、チルトベース4とステアリングシャフト2の先端部2aとの間に位置している。
【0042】
チルト機構5R,5Lによって支持された、ステアリングシャフト2およびハウジング3を含むヘルム装置1の本体の重心は、チルト軸TXよりもステアリングシャフト2の先端部2a側に位置している。そのため、後述のロック機構6によるハウジング3の固定が解除された状態においては、シャフト軸SXが
図3および
図4中の下方を向くようにハウジング3が回動し得る。第1付勢部材53は、このような回動を抑制する役割を担う。すなわち、第1付勢部材53は、シャフト軸SXが
図3および
図4中の上方を向くようにハウジング3を付勢する。
【0043】
図5は、
図3におけるV-V線に沿うヘルム装置1の概略的な部分断面図である。以下、
図3および
図5を参照してロック機構6の構成について説明する。
【0044】
図3に示すように、ロック機構6は、ハウジング3の下部に設けられた円弧部60と、レバー61と、ピン62と、第2付勢部材63とを備えている。
【0045】
円弧部60は、例えばハウジングベース30と一体的に形成されており、チルト軸TXを中心とした円弧状の外周面を有している。この外周面には、複数のスロット64(溝)が設けられている。スロット64は、チルト軸TXと平行に延びるとともに、チルト軸TXを中心とした円周方向に一定の間隔を空けて並んでいる。
図3の例においては円弧部60が5つのスロット64を有しているが、スロット64の数は4つ以下であってもよいし、6つ以上であってもよい。
【0046】
チルトベース4は、レバー61を保持するための一対の保持部65R,65Lを有している。保持部65Rは
図3に示され、保持部65Lは
図5に示されている。これら保持部65R,65Lの形状は同様であり、いずれもチルトベース4の下部における第1側面4aから突出している。
【0047】
レバー61は、例えば金属製であり、保持部65R,65Lの間に位置している。ピン62は、チルト軸TXと平行であり、保持部65R,65Lおよびレバー61に設けられた孔にそれぞれ通されている。これにより、レバー61は、チルト軸TXと平行な軸を中心としてチルトベース4に対し回動可能に連結される。
【0048】
図5に示すように、レバー61は、ピン62の近傍から下方に延びる操作部61aと、ピン62の近傍から円弧部60に向けて延びる作用部61bとを有している。操作部61aと作用部61bは、略L字型を成している。操作部61aは、ユーザが手で操作する(押す)ための部分である。作用部61bの先端には、スロット64に対して挿脱可能なラッチ61cが設けられている。操作部61aは、例えば樹脂やゴムで形成されたカバーによって覆われてもよい。このようなカバーは、操作部61aに対して着脱自在であってもよい。
【0049】
第2付勢部材63は、例えばねじりばねであり、線材が螺旋状に巻かれた一対のコイル部63Ra,63Laと、コイル部63Ra,63Laから延出しこれらコイル部63Ra,63Laを接続するアーム63bと、コイル部63Ra,63Laのそれぞれから延出するアーム63cとを有している。コイル部63Raは
図3に示され、コイル部63Laは
図5に示されている。コイル部63Ra,63Laには、ピン62が通されている。
【0050】
アーム63bは、チルトベース4に設けられた支持部43によって支持されている。コイル部63Ra,63Laのそれぞれから延出するアーム63cは、操作部61aの裏面に接触している。アーム63bのうち支持部43によって支持された部分は、第2付勢部材63の固定点に相当する。各アーム63cのうち操作部61aの裏面に接触する部分は、第2付勢部材63の作用点に相当する。
【0051】
第2付勢部材63は、ラッチ61cが円弧部60に押し当てられるようにレバー61を常に付勢する。これにより、操作部61aが押されていないときには、
図5に示すようにラッチ61cがスロット64に挿入された状態が維持される。このとき、チルト機構5R,5Lによるハウジング3の回動が防がれる。
【0052】
例えば
図5に示す状態で操作部61aが第2付勢部材63の付勢力に抗して図中右方に押されると、ピン62を中心にレバー61が回動してラッチ61cがスロット64から抜け出る。このとき、ハウジング3はチルト軸TXを中心に回動可能となる。
【0053】
図6は、
図3におけるVI-VI線に沿うヘルム装置1の概略的な断面図である。
図7は、
図6に示すヘルム装置1において、ハウジング3を分解した状態の概略的な断面図である。
【0054】
図6に示すように、ハウジングベース30の第1端部30aは、ハウジングトップ31の内側に挿入されている。また、ハウジングベース30の第2端部30bの内側にカバー32の一部が挿入されている。
【0055】
ハウジングベース30は、仕切部34を内部に有している。この仕切部34により、ハウジング3の内部が第1チャンバC1および第2チャンバC2に分けられている。第1チャンバC1は、ハウジングベース30とハウジングトップ31により形成される空間である。第2チャンバC2は、ハウジングベース30とカバー32により形成される空間である。
【0056】
仕切部34は、開口34aを有している。ステアリングシャフト2は、ハウジングトップ31の開口31aおよび仕切部34の開口34aに通されている。ハウジング3の内部に位置するステアリングシャフト2の後端部2bには、磁石21が設けられている。後端部2bおよび磁石21は、カバー22で覆われている。カバー22は、例えばねじである複数の連結部材23によって仕切部34に連結されている。
【0057】
ステアリングシャフト2は、開口31aに設けられた軸受部材24および開口34aに設けられた軸受部材25によって回動可能に支持されている。第1チャンバC1には、例えば皿ばねである弾性部材26が配置されている。ステアリングシャフト2は、この弾性部材26によってハウジング3から突き出る方向(
図6および
図7における左方)に付勢されている。弾性部材26は、ステアリングシャフト2の軸線に沿う方向の荷重を受けたときに撓むため、当該方向への振動を吸収する機能も兼ねている。
【0058】
例えば、第1チャンバC1にはオイルが収容されるとともに、電磁ブレーキ7が配置されている。電磁ブレーキ7は、回動部材70と、電磁石71と、アーマチュア72と、ディスク群73とを備えている。
【0059】
回動部材70は、ステアリングシャフト2に固定されており、ステアリングシャフト2とともに回動する。電磁石71は、ステアリングシャフト2の周囲において、ハウジングベース30の内部に固定されている。アーマチュア72は、ハウジングトップ31の内部において、ステアリングシャフト2の周囲に配置されている。アーマチュア72は、ステアリングシャフト2に対し第1方向Xに移動可能である。電磁石71とアーマチュア72は、第1方向Xにおいて対向している。
【0060】
ディスク群73は、複数の回動側ディスクと、複数の固定側ディスクとを含む。回動側ディスクの内周部には歯部が形成され、当該歯部が回動部材70の外周面に形成されたスプラインと嵌合している。これにより、回動側ディスクは、回動部材70によって第1方向Xに移動可能に保持されるとともに、回動部材70とともに回動する。固定側ディスクの外周部には歯部が形成され、当該歯部が電磁石71のヨークに設けられたスプラインと嵌合している。これにより、固定側ディスクは、第1方向Xに移動可能かつハウジングトップ31に対し回動不可能となるようにヨークによって保持される。回動側ディスクと固定側ディスクは、電磁石71とアーマチュア72の間において、第1方向Xに沿って交互に並んでいる。
【0061】
電磁石71は、上記ヨークおよびコイルを含む。このコイルに電力が供給された際に生じる磁力によってアーマチュア72がヨークに引き寄せられ、ディスク群73が押される。このとき、ディスク群73においては回動側ディスクと固定側ディスクが互いに押し付けられ、ステアリングシャフト2を回動させる際の摩擦力が増大する。
【0062】
このような電磁ブレーキ7により、ステアリングシャフト2および舵輪Wを操作する際の抵抗力(操舵力)を調整することができる。例えば抵抗力は、操船者の希望や操船状況に応じて制御部150により設定される。抵抗力を大きくしたい場合には電磁石71のコイルに供給する電力を高め、抵抗力を小さくしたい場合には当該電力を下げればよい。
【0063】
制御部150は、舵輪Wが中立位置から最大舵角まで回動したときに、舵輪Wがそれ以上回動しないように、ステアリングシャフト2をロックする機能を有してもよい。すなわち、舵輪Wを面舵側あるいは取り舵側に最大の舵輪回転数まで回動させると、制御部150が電磁石71に供給する電力を最大化する。これにより、電磁石71の磁力が最大化され、ディスク群73における回動側ディスクと固定側ディスクが互いにロックされる。
【0064】
第2チャンバC2には、第1方向Xと直交する平板状の第1回路基板81および第2回路基板82が配置されている。第1回路基板81は、仕切部34に設けられた複数のボス部35に対して、例えばねじである連結部材36により固定されている。第2回路基板82は、カバー32に設けられた複数のボス部37に対して、例えばねじである連結部材38により固定されている。
【0065】
第1回路基板81と第2回路基板82は、第1方向Xにおいて間隔を空けて対向している。第1回路基板81には、上述のセンサSが実装されている。センサSは、磁石21が発する磁気に基づきステアリングシャフト2の回動を検出する。
【0066】
第2回路基板82には、第1回路基板81、電磁ブレーキ7およびセンサS等のヘルム装置1が備える電気的要素に電力を供給する電源回路83が実装されている。電磁ブレーキ7と電源回路83や、第1回路基板81と第2回路基板82は、図示せぬ配線によって接続されている。また、第1回路基板81や第2回路基板82には、ハウジング3の外部に配置された制御部150やバッテリ等の機器との接続用の図示せぬ配線が接続されている。
【0067】
このように2つの回路基板81,82をハウジング3内に配置することにより、センサSや電源回路83を含む各種のICや電子部品を実装するためのスペースを広く確保できる。しかも、これら回路基板81,82が第1方向Xに並んでいれば、回路基板81,82、第2チャンバC2およびハウジング3等の第2方向Yにおける幅を小さくすることができる。
【0068】
図6および
図7の例では、第2方向Yにおいて、チルト軸TXがハウジング3の先端部3aよりも後端部3bに近い位置に配置されている。第2方向Yにおいて、ハウジング3の内部に位置するステアリングシャフト2の後端部2bが各軸部材50と重なっている。また、第2チャンバC2や第1回路基板81も第2方向Yにおいて各軸部材50と重なっている。チルト軸TXは、第1回路基板81と仕切部34の間を通っている。センサSおよび磁石21は、概ねチルト軸TX上に位置している。第1チャンバC1は、チルト軸TXよりもハウジング3の先端部3a側に位置している。
【0069】
第1方向Xにおいて、各軸部材50は、電磁ブレーキ7よりもハウジング3の後端部3b側に位置している。第2回路基板82は、第2方向Yにおいて各軸部材50と重なっておらず、第1回路基板81よりも後端部3b側に位置している。
【0070】
概して、本実施形態によれば、ステアリングシャフト2のチルト角を調整可能であるとともに、機能性や操作性に優れたヘルム装置1を提供することができる。以下、ヘルム装置1の具体的な作用および効果を例示する。
【0071】
図8は、ヘルム装置1の概略的な側面図である。以下、ロック機構6が備える5つのスロット64を、
図8に示すようにスロット64a,64b,64c,64d,64eと呼ぶ。
【0072】
図8の例においては、中央のスロット64cにラッチ61cが挿入されている。レバー61を操作してラッチ61cとスロット64a,64b,64c,64d,64eとの係合を解除した状態においては、チルト機構5R,5Lによりチルト軸TXを中心にステアリングシャフト2およびハウジング3を第1回動方向R1およびその反対の第2回動方向R2に回動させることができる。さらに、いずれかのスロット64a,64b,64c,64d,64eにラッチ61cを挿入することで、チルト機構5R,5Lによる回動をロックすることができる。以下、スロット64a,64b,64c,64d,64eにそれぞれラッチ61cが挿入されたときのシャフト軸SXを、シャフト軸SXa,SXb,SXc,SXd,SXeと呼ぶ。
【0073】
シャフト軸SXcをステアリングシャフト2の基準位置と定義する。さらに、シャフト軸SXa,SXb,SXd,SXeがシャフト軸SXcに対して成す角度をチルト角と定義する。チルト角は、ステアリングシャフト2の傾きに相当する。シャフト軸SXaのチルト角は第1回動方向R1において設定し得る第1限界角度に相当し、シャフト軸SXeのチルト角は第2回動方向R2において設定し得る第2限界角度に相当する。
【0074】
一例として、シャフト軸SXaのチルト角は+24°であり、シャフト軸SXbのチルト角は+12°であり、シャフト軸SXdのチルト角は-12°であり、シャフト軸SXeのチルト角は-24°である。ただし、各シャフト軸SXa,SXb,SXd,SXeのチルト角はこの例に限られない。また、チルト角は必ずしも等角度(上記例では12°)で調整可能である必要はない。
【0075】
レバー61を操作してラッチ61cとスロット64a,64b,64c,64d,64eとの係合を解除した状態において、第1回動方向R1にハウジング3を回動させることによりチルト角がスロット64aに対応する+24°(第1限界角度)に達した場合、第1制止部54aと第3制止部54cが接触する。これにより、ハウジング3の第1回動方向R1へのさらなる回動が制止される。
【0076】
また、第2回動方向R2にハウジング3を回動させることによりチルト角がスロット64eに対応する-24°(第2限界角度)に達した場合、第2制止部54bと第4制止部54dが接触する。これにより、ハウジング3の第2回動方向R2へのさらなる回動が制止される。なお、少なくともチルト角が第1限界角度から第2限界角度の範囲にある状態においては、ハウジング3がチルトベース4に接触しない。
【0077】
このように、スロット64a,64eに対応する位置でハウジング3の回動が制止されることにより、操船者はチルト角調整の限界を容易に知ることができる。また、第1限界角度または第2限界角度を超えてハウジング3が回動されることがないので、チルトベース4や船体とハウジング3との衝突を防ぐことができる。
【0078】
第1制止部54aは、第1限界角度においてハウジング3の第1回動方向R1へのさらなる回動を制止する役割だけでなく、第1付勢部材53のアーム53cを受ける役割も担う。これにより、ヘルム装置1の構成要素を減らすことができ、ヘルム装置1の組み立ても容易化される。
【0079】
図6に示す構造のヘルム装置1においては、チルト軸TXよりもハウジング3の先端部3a側に多くの部材が配置されているため、上述のようにヘルム装置1の重心はチルト軸TXよりも先端部3a側に位置する。この場合であっても、上述の第1付勢部材53により、ロック機構6によるハウジング3の固定が解除された状態においてハウジング3等の自重によりステアリングシャフト2が下方へ傾斜することが防がれる。
【0080】
チルト軸TXは、第1方向Xにおいてチルトベース4とステアリングシャフト2の先端部2aとの間に位置している。さらに、チルト軸TXは、第1方向Xにおいてハウジング3の先端部3aよりも後端部3bに近い位置にある。これらにより、チルトベース4よりも後方へのハウジング3の突出量が低減され、チルトベース4が固定される船体の構造の自由度が高まる。
以上の他にも、本実施形態からは種々の好適な効果を得ることができる。
【0081】
本実施形態は、本発明の範囲を当該実施形態にて開示した構成に限定するものではない。本発明は、本実施形態にて開示した構成を種々の態様に変形して実施することができる。
【0082】
例えば、第1限界角度および第2限界角度にてハウジング3の回動を制止するための手段(制止構造)は、制止部54a,54b,54c,54dに限られない。
図9は、変形例に係るヘルム装置1の概略的な側面図である。この図の例においては、ロック機構6が第5制止部66aおよび第6制止部66bを備えている。ヘルム装置1は、これら第5制止部66aおよび第6制止部66bに加え、上述の制止部54a,54b,54c,54dをさらに備えてもよい。
【0083】
第5制止部66aおよび第6制止部66bは、チルト軸TXを中心とした円周方向において、スロット64a,64b,64c,64d,64eの両端にそれぞれ位置している。第5制止部66aおよび第6制止部66bは、円弧部60のうちスロット64a,64b,64c,64d,64eの間の部分よりも下方に十分長く突出している。一例として、第5制止部66aおよび第6制止部66bは、レバー61を押してラッチ61cを円弧部60から最大限に離した状態でも、チルト軸TXを中心にハウジング3を回動させた際にラッチ61cと接触する長さを有している。
【0084】
レバー61を操作してラッチ61cとスロット64a,64b,64c,64d,64eとの係合を解除した状態において、第1回動方向R1にハウジング3を回動させることによりチルト角がスロット64aに対応する+24°(第1限界角度)に達した場合、第5制止部66aとラッチ61cが接触する。これにより、ハウジング3の第1回動方向R1へのさらなる回動が制止される。
【0085】
また、第2回動方向R2にハウジング3を回動させることによりチルト角がスロット64eに対応する-24°(第2限界角度)に達した場合、第6制止部66bとラッチ61cが接触する。これにより、ハウジング3の第2回動方向R2へのさらなる回動が制止される。
【0086】
このような第5制止部66aおよび第6制止部66bによっても、第1限界角度および第2限界角度を超えたハウジング3の回動を抑制できる。
【符号の説明】
【0087】
1…ヘルム装置、2…ステアリングシャフト、3…ハウジング、4…チルトベース、5R,5L…チルト機構、6…ロック機構、7…電磁ブレーキ、30…ハウジングベース、31…ハウジングトップ、32…カバー、50…軸部材、51…ブラケット、52…ブッシュ、53…第1付勢部材、54a…第1制止部、54b…第2制止部、54c…第3制止部、54d…第4制止部、60…円弧部、61…レバー、61c…ラッチ、62…ピン、63…第2付勢部材、64…スロット、81…第1回路基板、82…第2回路基板、100…操舵装置、W…舵輪、S…センサ、TX…チルト軸、SX…シャフト軸、X…第1方向、Y…第2方向。