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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】二次電池用正極及び二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20230105BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20230105BHJP
   H01M 50/586 20210101ALI20230105BHJP
   H01M 50/591 20210101ALI20230105BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/66 A
H01M50/586
H01M50/591 101
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020540027
(86)(22)【出願日】2019-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2019006522
(87)【国際公開番号】W WO2020044609
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2018162097
(32)【優先日】2018-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 崇寛
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 弘平
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/005301(WO,A1)
【文献】特開2010-277862(JP,A)
【文献】特開2019-53912(JP,A)
【文献】特開2017-120766(JP,A)
【文献】特開2010-92664(JP,A)
【文献】特開2010-287549(JP,A)
【文献】国際公開第2010/086961(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 4/64-4/84
H01M 50/50-50/598
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、
前記集電体の少なくとも一方の表面に形成された保護層と、
前記保護層上に形成された合材層と、
を備え、
前記保護層には、第1領域と、第2領域とが存在し、
前記第1領域は、無機物粒子及び導電材を含み、
前記第2領域は、前記無機物粒子を含み、前記導電材を実質的に含まないか、又は前記無機物粒子及び前記導電材を含み、当該導電材の含有率が前記第1領域における前記導電材の含有率より低く、かつ前記集電体の表面に点在し、1つ当たりの面積が70μm ~32000μm である、二次電池用正極。
【請求項2】
前記第2領域における前記導電材の含有率は、前記第1領域における前記導電材の含有率の0%~50%である、請求項1に記載の二次電池用正極。
【請求項3】
前記第2領域に含まれる前記無機物粒子は、一次粒子が凝集した二次粒子である、請求項1又は2に記載の二次電池用正極。
【請求項4】
前記集電体の表面に占める前記第2領域の総面積の割合は、40%以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の二次電池用正極。
【請求項5】
前記第2領域の空隙率は、前記第1領域の空隙率より大きく、10%~50%である、請求項1~のいずれか1項に記載の二次電池用正極。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の二次電池用正極と、負極と、電解質とを備えた、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二次電池用正極及び二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、集電体と、集電体の表面に形成される無機物粒子を主成分とする保護層と、保護層上に形成される合材層とを備えた二次電池用正極が知られている。例えば、特許文献1には、厚みが1μm~5μmであり、正極活物質であるリチウム含有遷移金属複合酸化物よりも酸化力が低い無機物粒子、及び導電材を含む保護層が、集電体の表面に形成された二次電池用正極が開示されている。保護層は、例えばアルミニウムを主成分とする集電体とリチウム含有遷移金属複合酸化物を隔離し、集電体が関与する酸化還元反応を抑制して内部短絡発生時の発熱を抑制する役割を果たす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-127000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、正極の保護層には、電池の内部抵抗を低く抑えつつ、内部短絡発生時の発熱を十分に抑制できる機能が求められる。一般的に、保護層中の導電材量が多くなると、内部抵抗は下がるが、内部短絡発生時の発熱量が増加するという問題がある。保護層を備えた正極において、保護層中の導電材を増やすことなく低抵抗化を図り、異常発生時の発熱を抑制することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様である二次電池用正極は、集電体と、前記集電体の少なくとも一方の表面に形成された保護層と、前記保護層上に形成された合材層とを備える。前記保護層には、第1領域と、第2領域とが存在し、前記第1領域は、無機物粒子及び導電材を含む。前記第2領域は、前記無機物粒子を含み、前記導電材を実質的に含まないか、又は前記無機物粒子及び前記導電材を含み、当該導電材の含有率が前記第1領域における前記導電材の含有率より低いことを特徴とする。
【0006】
本開示の一態様である二次電池は、上記正極と、負極と、電解質とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、電池の内部抵抗を低く抑えつつ、異常発生時の発熱を十分に抑制可能な二次電池用正極を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の一例である二次電池の断面図である。
図2】実施形態の一例である二次電池用正極の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
正極集電体と正極合材層との間に介在する保護層は、内部短絡発生時の発熱を抑制する機能を有する。上述の通り、保護層を備えた正極において、導電材の添加量を増やすことなく保護層の低抵抗化を図り、電池の内部抵抗を下げることは重要な課題である。本発明者らは、上記第1領域及び第2領域を含む保護層を設けることにより、電池の内部抵抗を低く抑えつつ、異常発生時の発熱を十分に抑制することに成功した。保護層の第1領域に導電材を偏在させることで、保護層全体に含まれる導電材が少なくても効率良く導電パスを形成でき、これにより当該作用効果を実現できたと考えられる。
【0010】
以下、図面を参照しながら、本開示に係る二次電池用正極及び二次電池の実施形態の一例について詳説する。以下では、巻回型の電極体14が円筒形の電池ケースに収容された円筒形電池を例示するが、電極体は巻回型に限定されず、複数の正極と複数の負極がセパレータを介して1枚ずつ交互に積層されてなる積層型であってもよい。また、本開示に係る二次電池は、角形の金属製ケースを備える角形電池、コイン形の金属製ケースを備えるコイン形電池等であってもよく、金属層及び樹脂層を含むラミネートシートで構成された外装体を備えるラミネート電池であってもよい。
【0011】
図1は、実施形態の一例である二次電池10の断面図である。図1に例示するように、二次電池10は、電極体14と、電解質と、電極体14及び電解質を収容する電池ケース15とを備える。電極体14は、正極11と、負極12と、セパレータ13とを備え、正極11と負極12がセパレータ13を介して巻回された巻回構造を有する。電池ケース15は、有底円筒形状の外装缶16と、外装缶16の開口部を塞ぐ封口体17とで構成されている。なお、二次電池10は、水系電解質を用いた二次電池であってもよく、非水系電解質を用いた二次電池であってもよい。以下では、二次電池10は、非水電解質を用いたリチウムイオン電池等の非水電解質二次電池として説明する。
【0012】
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いてもよい。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。なお、非水電解質は液体電解質に限定されず、固体電解質であってもよい。電解質塩には、例えばLiPF等のリチウム塩が使用される。
【0013】
二次電池10は、電極体14の上下にそれぞれ配置された絶縁板18,19を備える。図1に示す例では、正極11に取り付けられた正極リード20が絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極12に取り付けられた負極リード21が絶縁板19の外側を通って外装缶16の底部側に延びている。正極リード20は封口体17の底板23の下面に溶接等で接続され、底板23と電気的に接続された封口体17の天板であるキャップ27が正極端子となる。負極リード21は外装缶16の底部内面に溶接等で接続され、外装缶16が負極端子となる。
【0014】
外装缶16は、例えば有底円筒形状の金属製容器である。外装缶16と封口体17との間にはガスケット28が設けられ、電池内部の密閉性が確保されている。外装缶16には、例えば側面部の一部が内側に張り出した、封口体17を支持する溝入部22が形成されている。溝入部22は、外装缶16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。
【0015】
封口体17は、電極体14側から順に、底板23、下弁体24、絶縁部材25、上弁体26、及びキャップ27が積層された構造を有する。封口体17を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体24と上弁体26は各々の中央部で互いに接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。異常発熱で電池の内圧が上昇すると、下弁体24が上弁体26をキャップ27側に押し上げるように変形して破断し、下弁体24と上弁体26の間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体26が破断し、キャップ27の開口部からガスが排出される。
【0016】
以下、電極体14を構成する正極11、負極12、及びセパレータ13について、特に正極11について詳説する。
【0017】
[正極]
図2は、実施形態の一例である正極11の断面図である。正極11は、正極集電体30と、正極集電体30の少なくとも一方の表面に形成された保護層31と、保護層31上に形成された正極合材層32とを備える。保護層31は、正極集電体30の両面に形成されることが好ましい。正極合材層32は、正極活物質、導電材、及び結着材を含み、保護層31を介して正極集電体30の両面に形成される。
【0018】
正極11は、例えば正極集電体30の両面に保護層用スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させて保護層31を形成した後、保護層31上に正極合材層32を形成して製造される。正極合材層32は、保護層31上に正極活物質、導電材、及び結着材等を含む正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延することで、保護層31を介して正極集電体30の両面に形成される。
【0019】
正極集電体30には、アルミニウム、又はアルミニウム合金等の正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルムなどを用いることができる。正極集電体30におけるアルミニウムの含有率は、集電体の質量に対して50%以上であり、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上である。好適な正極集電体30は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属の箔であって、5μm~20μmの厚みを有する。
【0020】
正極活物質には、Co、Mn、Ni等の遷移金属元素を含有するリチウム含有遷移金属複合酸化物が用いられる。リチウム含有遷移金属複合酸化物の例としては、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiCoNi1-y、LiCo1-y、LiNi1-y、LiMn、LiMn2-y、LiMPO、LiMPOF(M;Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bのうち少なくとも1種、0<x≦1.2、0<y≦0.9、2.0≦z≦2.3)などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0021】
正極合材層32に含まれる導電材としては、カーボンブラック(CB)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料などが挙げられる。正極合材層32に含まれる結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。また、これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩、ポリエチレンオキシド(PEO)等が併用されてもよい。これらは、1種類を単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
【0022】
保護層31は、上述のように、正極集電体30と正極合材層32の間に介在している。電池の内部短絡が発生した場合、或いは電池が高温に曝された場合に、アルミニウムを主成分とする正極集電体30と正極活物質であるリチウム含有遷移金属複合酸化物が酸化還元反応し、大きな発熱が生じるおそれがある。保護層31を設けることで、正極集電体30と正極合材層32を隔離し、異常発生時の発熱を抑制できる。
【0023】
保護層31には、第1領域33と、第2領域34とが存在する。第1領域33は、無機物粒子35及び導電材36を含む領域である。他方、第2領域34は、無機物粒子35を含み、導電材36を実質的に含まない領域である。或いは、第2領域34は、無機物粒子35及び導電材36を含み、導電材36の含有率が第1領域33における導電材36の含有率より低い領域である。第2領域34における導電材36の含有率は、例えば第1領域33における導電材36の含有率の0%~50%であり、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。
【0024】
第2領域34は、正極集電体30の表面において一部に偏在することなく、表面全体に点在していることが好ましい。保護層31は、例えば、連続的に形成された第1領域33と、島状に形成された第2領域34とからなる海島構造を有する。保護層31の厚みは、第1領域33よりも第2領域34で大きくなっている。第1領域33における保護層31の厚みの一例は1μm~10μmであり、好ましくは1μm~5μmである。第2領域34における保護層31の厚みの一例は1μm~100μm、好ましくは1μm~50μmである。
【0025】
保護層31は、無機物粒子35、導電材36、及び結着材を含み、無機物粒子35を主成分として構成される。無機物粒子35の含有率は、保護層31の質量に対して、60質量%~99.8質量%が好ましく、90質量%~99質量%がより好ましい。なお、第2領域34における無機物粒子35の含有率は、第1領域33における無機物粒子35の含有率よりも高い。導電材36は、上述の通り、第1領域33のみに存在するか、又は第2領域34よりも第1領域33において高密度に存在する。第2領域34は、実質的に無機物粒子35及び結着材のみで構成されていてもよい。
【0026】
無機物粒子35としては、リチウム含有遷移金属複合酸化物よりも酸化力が低い無機化合物の粒子を用いることが好ましい。無機化合物の具体例としては、酸化マンガン、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム等の無機酸化物が挙げられる。中でも、酸化アルミニウム(アルミナ)が好適である。第1領域33及び第2領域34には、組成の異なる無機物粒子35が含まれていてもよいが、生産性等の観点から、好ましくは同一組成の無機物粒子35が含まれる。
【0027】
導電材36には、正極合材層32に適用される導電材と同種のもの、例えばCB、AB、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料などを用いることができる。第1領域33における導電材36の含有率は、第1領域33の質量に対して、0.5質量%~20質量%が好ましく、1質量%~6質量%がより好ましい。第2領域34に導電材36が含まれる場合、その含有率は、第1領域33における導電材36の含有率よりも低く、第2領域34の質量に対して、例えば5質量%未満であり、好ましくは1質量%未満、より好ましくは0.5質量%未満、特に好ましくは0.1質量%未満である。
【0028】
第1領域33は、例えば、単位体積当たりの導電材36の含有率が1質量%以上の領域である。第2領域34は、例えば、単位体積当たりの導電材36の含有率が1質量%未満、又は0.5質量%未満、又は0.1質量%未満の領域である。第2領域34における導電材36の含有率は、0質量%(検出限界未満)であってもよい。第1領域33及び第2領域34には、組成の異なる導電材36が含まれていてもよいが、生産性等の観点から、好ましくは同一組成の導電材36が含まれる。
【0029】
保護層31に含まれる結着材には、正極合材層32に適用される導電材と同種のもの、例えばPTFE、PVdF等のフッ素系樹脂、PAN、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などを用いることができる。結着材の含有率は、保護層31の質量に対して0.1質量%~10質量%が好ましく、1質量%~5質量%がより好ましい。第2領域34における結着材の含有率は、第1領域33における結着材の含有率より高くてもよい。第1領域33及び第2領域34には、組成の異なる結着材が含まれていてもよいが、生産性等の観点から、好ましくは同一組成の結着材が含まれる。
【0030】
保護層31の単位体積当たりの無機物粒子35、導電材36、及び結着材の含有率は、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた保護層31の断面観察、及び元素マッピングにより求められる。
【0031】
保護層31には、第2領域34において、無機物粒子35が二次粒子の状態で含まれていてもよい。即ち、第2領域34は、無機物粒子35の二次粒子によって構成されていてもよい。他方、第1領域33に含まれる無機物粒子35は、一次粒子の状態で存在していることが好ましい。第1領域33に無機物粒子35の二次粒子が含まれる場合であっても、当該二次粒子の粒径は、第2領域34に含まれる二次粒子の粒径よりも小さい。
【0032】
無機物粒子35の一次粒子の平均粒径は、例えば0.05μm~2μmであり、好ましくは0.05μm~1μmである。第2領域34に含まれる無機物粒子35の二次粒子の平均粒径は、例えば1μm~100μmであり、好ましくは3μm~50μm、より好ましくは10μm~50μmである。無機物粒子35の一次粒子及び二次粒子の平均粒径は、SEM又はTEMを用いた保護層31の断面観察により求められる。具体的に、一次粒子の平均粒径は、保護層31の断面画像から任意に選択される100個の一次粒子について外接円の直径を計測し、これを平均化して算出される(二次粒子についても同様)。
【0033】
保護層31には、空隙が存在し、単位体積当たりの空隙率は第1領域33と第2領域34で異なる。第2領域34の空隙率は、第1領域33の空隙率より大きく、例えば10%~50%であり、好ましくは20%~40%である。第1領域33の空隙率の一例は、5%~25%である。空隙率は、保護層31の断面画像の1.5μm×1.5μmの正方形の範囲について、当該範囲に占める空隙(無機物粒子35、導電材36、及び結着材が存在しない部分)の割合を計測して求めた。
【0034】
第2領域34は、上述のように、正極集電体30の表面に点在している。第2領域34の1つ当たりの面積は、例えば0.5μm~35000μmであり、好ましくは70μm~32000μm、より好ましくは300μm~5000μm、特に好ましくは500μm~2500μmである。正極集電体30の表面に占める第2領域34の総面積の割合は、40%以下であることが好ましく、3%~35%がより好ましく、5%~30%が特に好ましい。第2領域34の面積は、正極11をアルカリ溶液に浸漬して正極集電体30を溶解させ、保護層31の正極集電体30側の表面を光学顕微鏡、SEM、又はTEMを用いて観察することで計測できる。
【0035】
保護層31は、正極集電体30の表面に無機物粒子35、導電材36、及び結着材を含む保護層用スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させることにより形成できる。保護層用スラリーの分散媒は特に限定されないが、好適な一例は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)である。保護層用スラリーの撹拌・混錬方法、スラリー原料の配合方法などを変更することで、粒子混合物の分散性を調整でき、スラリー中に含まれる無機物粒子35の二次粒子の量及び粒径を変化させることができる。一般的に、スラリーを強く撹拌するほど、二次粒子の量は少なくなり、粒径は小さくなる。無機物粒子35の二次粒子を濾過等により除去することなく、所定量の二次粒子を含むスラリーを用いることで、第1領域33及び第2領域34の海島構造を有する保護層31を形成できる。保護層31は、正極集電体30の表面において、例えば0.1g/m~20g/mの面密度で形成される。
【0036】
[負極]
負極12は、負極集電体と、当該集電体の少なくとも一方の表面に形成された負極合材層とを備える。負極集電体には、銅、銅合金等の負極12の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルムなどを用いることができる。負極合材層は、負極活物質、及び結着材を含み、負極集電体の両面に形成されることが好ましい。負極12は、負極集電体上に負極活物質、結着材等を含む負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して負極合材層を集電体の両面に形成することにより製造できる。
【0037】
負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できるものであれば特に限定されず、一般的には黒鉛等の炭素材料が用いられる。黒鉛は、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ等の人造黒鉛のいずれであってもよい。また、負極活物質として、Si、Sn等のLiと合金化する金属、Si、Sn等を含む金属化合物、リチウムチタン複合酸化物などを用いてもよい。SiO(0.5≦x≦1.6)で表されるSi含有化合物が、黒鉛等の炭素材料と併用されてもよい。
【0038】
負極合材層に含まれる結着材には、正極11の場合と同様に、PTFE、PVdF等の含フッ素樹脂、PAN、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどを用いてもよいが、好ましくはスチレン-ブタジエンゴム(SBR)が用いられる。また、負極合材層には、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、PVAなどが含まれていてもよい。負極合材層には、例えばSBRと、CMC又はその塩が含まれる。
【0039】
[セパレータ]
セパレータ13には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、単層構造であってもよく、積層構造を有していてもよい。また、セパレータ13の表面には、アラミド樹脂等の耐熱性の高い樹脂層、無機化合物のフィラーを含むフィラー層が設けられていてもよい。
【実施例
【0040】
以下、実施例により本開示をさらに詳説するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
<実施例1>
[正極の作製]
酸化アルミニウム(Al)を93.5質量部と、アセチレンブラック(AB)を5質量部と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を1.5質量部とを混合して粒子混合物を調製した。次に、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に粒子混合物を添加し、撹拌装置(プライミクス株式会社製、薄膜旋回型高速ミキサー フィルミックス)を用いて撹拌し、保護層用スラリーを調製した。当該スラリーを厚み15μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させることにより、ABを含む第1領域及びABを実質的に含まない第2領域からなる海島構造を有する保護層を形成した。
【0042】
第1領域及び第2領域からなる海島構造は、保護層の表面をSEMで観察することにより確認された。本実施例では、保護層の元素マッピングにより、ABの含有量が検出限界未満(0%)であった領域を第2領域とし、その他の領域を第1領域とした。なお、第1領域におけるABの含有量は、略均一(約5質量%)であった。保護層の表面をSEM観察の結果、各第2領域の面積の平均値は7μm、集電体表面に占める第2領域の総面積の割合は1%であった。また、第1領域の空隙率の平均値は17.7%、第2領域の空隙率の平均値は30.0%であった。
【0043】
正極活物質として、LiNi0.5Co0.2Mn0.3で表されるリチウム含有遷移金属複合酸化物を用いた。正極活物質と、ABと、PVdFとを、97:2:1の固形分質量比で混合し、NMPを適量加えて、正極合材スラリーを調製した。次に、当該正極合材スラリーを保護層が形成された正極集電体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた。これを所定の電極サイズに切り取り、ローラーを用いて塗膜を圧延し、正極集電体の両面に保護層及び正極合材層がこの順に形成された正極を作製した。
【0044】
[負極の作製]
黒鉛粉末と、CMC-Naと、SBRのディスパージョンとを、98.7:0.7:0.6の固形分質量比で混合し、水を適量加えて、負極合材スラリーを調製した。次に、当該負極合材スラリーを銅箔からなる負極集電体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた。これを所定の電極サイズに切り取り、ローラーを用いて塗膜を圧延し、負極集電体の両面に負極合材層が形成された負極を作製した。
【0045】
[非水電解質の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート(EMC)と、ジメチルカーボネート(DMC)を、3:3:4の体積比で混合した。当該混合溶媒に、LiPFを1.2mol/Lの濃度となるように溶解させて非水電解質を調製した。
【0046】
[電池の作製]
上記正極にアルミニウムリードを、上記負極にニッケルリードをそれぞれ取り付け、ポリエチレン製のセパレータを介して正極及び負極を渦巻き状に巻回することにより巻回型の電極体を作製した。当該電極体を、外径18.2mm、高さ65mmの有底円筒形状の電池ケース本体に収容し、上記非水電解液を注入した後、ガスケット及び封口体により電池ケース本体の開口部を封口して、18650型の円筒形非水電解質二次電池を作製した。
【0047】
[内部抵抗の測定]
上記二次電池について、下記の手順で内部抵抗を測定した。
25℃において、上記二次電池を0.3It(600mA)の定電流で電池電圧が4.2Vになるまで充電し、その後、定電圧で充電した。次に、低抵抗計(測定周波数1kHzに設定した交流4端子法)を用いて、二次電池の端子間抵抗を測定し、このときの抵抗値を内部抵抗とした。表1に測定値を示す。表1に示す値は、後述する比較例1の二次電池の内部抵抗を1.00とする相対値である。
【0048】
[異物短絡試験(電池温度の測定)]
上記二次電池について、下記の手順で異物強制短絡時の電池温度を測定した。
(1)25℃において、上記二次電池を0.3It(600mA)の定電流で電池電圧が4.2Vになるまで充電し、その後、定電圧で充電した。
(2)充電した二次電池を解体して電極体を取り出し、ニッケル小片を正極と負極の間に挿入し、当該挿入部に圧力を印加して強制的に短絡させた。
(3)圧力印加後の電池側面の最高到達温度を測定した。
【0049】
<実施例2~19>
保護層用スラリーの調製において撹拌条件を変更し、表1に示す第2領域を含む保護層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして二次電池を製造し、上記性能評価を行った。実施例9~16では、撹拌装置として、プライミクス株式会社製の高速分散機・ホモディスパーを用いた。撹拌条件について、所定の撹拌時間における撹拌装置の撹拌速度が速いほど各第2領域の面積を小さくすることができる。また、所定の撹拌速度における撹拌時間が長いほど、各第2領域の面積及び第2領域の総面積を小さくすることができる。
【0050】
<比較例1>
保護層用スラリーの調製において、粒径が0.5μm以上の二次粒子を除去することにより、第2領域が存在せず、導電材(AB)が層全体に均一に含有される保護層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして二次電池を製造し、上記性能評価を行った。
【0051】
<参考例1>
保護層を含まない正極を用いて電池を作製したこと以外は、実施例1と同様にして二次電池を製造し、上記性能評価を行った。具体的な正極の作製方法としては、保護層が形成されていない正極集電体の両面に、正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた。これを所定の電極サイズに切り取り、ローラーを用いて塗膜を圧延し、正極集電体の両面に正極合材層のみが形成された正極を作製した。
【0052】
参考例1の電池は、保護層を含まないため、保護層を含むことによる内部抵抗の上昇という影響を受けない。参考例1は、保護層を含まない正極を用いた電池における、電池内部での異物短絡による電池温度の上昇を示すものである。換言すれば、保護層を含む正極を用いることにより(実施例1~19及び比較例1)、電池内部での異物短絡時の電池温度の上昇を抑制できる。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示す結果から分かるように、実施例の二次電池はいずれも、比較例1の二次電池よりも内部抵抗が低い。また、実施例の二次電池はいずれも、参考例1の二次電池よりも、異物短絡発生時の発熱が小さい。つまり、導電材を実質的に含まない第2領域が存在する保護層を備えた正極を用いることにより、電池の内部抵抗を低く抑えつつ、短絡発生時の発熱を十分に抑制できる。また、各実施例において、保護層の第2領域の個々の面積及び総面積が大きくなるほど、電池の内部抵抗を低く抑えることができる。
【0055】
<実施例20>
保護層用スラリーの調製方法を変更したこと以外は、実施例1と同様にして二次電池を製造した。
【0056】
[保護層の作製]
酸化アルミニウム(Al)を93.2質量部と、アセチレンブラック(AB)を5.3質量部と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を1.5質量部とを混合して粒子混合物を調製した。次に、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に粒子混合物を添加し、撹拌装置(Tokushu Kika Kogyo Co. ROBOMIX)を用いて撹拌し、保護層用の第1スラリーを調製した。酸化アルミニウム(Al)を98.5質量部と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を1.5質量部とを混合して粒子混合物を調製した。次に、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に粒子混合物を添加し、撹拌装置(Tokushu Kika Kogyo Co. ROBOMIX)を用いて撹拌し、保護層用の第2スラリーを調製した。第1スラリーを95.0質量部と、第2スラリーを5.0質量部とを混合し、撹拌装置(Tokushu Kika Kogyo Co. ROBOMIX)を用いて撹拌し、保護層用スラリーを調製した。第1スラリーと第2スラリーとの混合物の撹拌を低速かつ短時間で終えることにより、保護層用スラリー中に第1スラリーに起因する領域と第2スラリーに起因する領域とが含まれる。
【0057】
当該保護層用スラリーを、厚み15μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させることにより、ABを含む第1領域及びABを実質的に含まない第2領域からなる海島構造を有する保護層を形成した。第1領域及び第2領域からなる海島構造は、保護層の表面をSEMで観察することにより確認された。該第1領域は、第1スラリーに起因する領域であり、該第2領域は、第2スラリーに起因する領域である。
【0058】
実施例20では、保護層の元素マッピングにより、ABの含有量が1%未満であった領域を第2領域とし、その他の領域を第1領域とした。なお、第1領域におけるABの含有量は、略均一(約5質量%)であった。保護層の表面をSEM観察の結果、各第2領域の面積の平均値は1704μm、集電体表面に占める第2領域の総面積の割合は5%であった。また、第1領域の空隙率の平均値は17.7%、第2領域の空隙率の平均値は25.0%であった。
【0059】
実施例20の二次電池についても上記性能評価を行ったところ、内部抵抗は0.90であり、異物短絡試験における電池温度は50℃であった。実施例20の二次電池においても、電池の内部抵抗を低く抑えつつ、短絡発生時の発熱を十分に抑制できる。なお、実施例20のように保護層用スラリーを作成するために第1スラリーと第2スラリーを用いる場合、第1スラリーを構成する無機物粒子と第2スラリーを構成する無機物粒子とが異なるものを用いることも可能である。
【符号の説明】
【0060】
10 二次電池、11 正極、12 負極、13 セパレータ、14 電極体、15 電池ケース、16 外装缶、17 封口体、18,19 絶縁板、20 正極リード、21 負極リード、22 溝入部、23 底板、24 下弁体、25 絶縁部材、26 上弁体、27 キャップ、28 ガスケット、30 正極集電体、31 保護層、32 正極合材層、33 第1領域、34 第2領域、35 無機物粒子、36 導電材
図1
図2