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  • 特許-電極構造体及び非水電解質二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】電極構造体及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20230105BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20230105BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20230105BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20230105BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20230105BHJP
   H01M 50/463 20210101ALI20230105BHJP
   H01M 50/491 20210101ALI20230105BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M50/443 M
H01M50/434
H01M50/46
H01M50/489
H01M50/463 A
H01M50/491
H01M50/463 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020527194
(86)(22)【出願日】2019-02-22
(86)【国際出願番号】 JP2019006875
(87)【国際公開番号】W WO2020003605
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2021-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2018122882
(32)【優先日】2018-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉井 一洋
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-181756(JP,A)
【文献】特許第4602254(JP,B2)
【文献】特許第4476254(JP,B2)
【文献】特開2013-191550(JP,A)
【文献】特開2017-73317(JP,A)
【文献】特開2008-234879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 50/434-50/491
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、前記正極上及び前記負極上のうちの少なくともいずれか一方に形成された耐熱層と、非水電解質と、を備え、
前記耐熱層は、少なくとも表面が金属化合物からなる耐熱性粒子を含み、
前記耐熱層の平均厚みは0.5μm~5μmの範囲であり、前記耐熱層の空隙率は25%~55%であり、前記耐熱層の平均表面粗さ(Ra)は0.35μm以下であり、
前記金属化合物の金属イオンの電気陰性度は13.5以上である、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記耐熱性粒子の平均粒径は0.05μm~1μmである、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記金属化合物は、Ti、Sn、W、Nb、Mo、Siのうちの少なくともいずれか1つを含む酸化物、水酸化物又はオキシ水酸化物である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記耐熱性粒子は、Ti、Sn、W、Nb、Mo、Siのうちの少なくともいずれか1つを含む酸化物、水酸化物又はオキシ水酸化物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記耐熱性粒子の形状は、多面体状、針状又はネッキング状である、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記耐熱層の表面には、前記耐熱層の下の電極の一部が露出した露出部が複数存在し、
前記電極の任意の断面において、前記露出部1個当たりの最大長さは30μm以下であり、前記露出部の長さの合計が、前記電極の表面全体の長さに対して20%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記負極は、負極集電体と、負極集電体上に形成された負極活物質層を備え、
前記耐熱層は、前記負極活物質層の表面全体に形成されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
非水電解質二次電池の正極又は負極として用いられる電極と、前記電極上に形成された耐熱層と、を備え、
前記耐熱層は、少なくとも表面が金属化合物からなる耐熱性粒子を含み、
前記耐熱層の平均厚みは0.5μm~5μmの範囲であり、前記耐熱層の空隙率は25%~55%であり、前記耐熱層の平均表面粗さ(Ra)は0.35μm以下であり、
前記金属化合物の金属イオンの電気陰性度は13.5以上である、電極構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極構造体及び非水電解質二次電池の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高出力、高エネルギー密度の二次電池として、正極と、負極と、非水電解質とを備え、正極と負極との間でリチウムイオン等を移動させて充放電を行う非水電解質二次電池が広く利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、正極、負極、前記正極と前記負極との間に介在する多孔質耐熱層、および、非水電解質を含み、前記負極は、負極集電体および前記負極集電体の表面に担持された負極合剤層を含み、前記多孔質耐熱層は、前記負極に担持されており、前記多孔質耐熱層は、酸化マグネシウム粒子を含み、前記酸化マグネシウム粒子の平均粒径が、0.5μm~2μmであり、前記負極合剤層の活物質密度が、1.5g/ml~1.8g/mlである、非水電解質二次電池が提案されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、正極と、負極と、前記正極と負極との間に介在する多孔膜(耐熱層)と、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータと、非水電解液からなり、前記多孔膜は、少なくとも負極の表面に接着されており、前記多孔膜の厚みは、0.5μm以上20μm以下であり、かつ前記多孔膜の表面粗さは、前記多孔膜が接着されている電極表面の表面粗さよりも小さく、前記多孔膜は、無機フィラーおよび第1結着剤からなり、前記多孔膜における前記第1結着剤の含有量は、前記フィラー100重量部あたり、1.5~8重量部であり、かつ前記フィラーは、アルミナおよび酸化チタンよりなる群から選択される少なくとも1種であり、前記セパレータの厚みは、8μm以上30μm以下であり、前記第1結着剤は、アクリロニトリル単位を含む第1ゴムからなり、前記第1ゴムは、非水溶性であり、かつ、250℃以上の分解開始温度を有し、前記負極は、負極活物質および第2結着剤からなり、前記第2結着剤は、第2ゴム粒子および水溶性高分子を含むリチウムイオン二次電池が提案されている。
【0005】
また、例えば、特許文献3には、リチウム金属複合酸化物粉末の一次粒子の表面にWおよびLiを含む微粒子を表面に形成された正極活物質が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4476254号公報
【文献】特許第4602254号公報
【文献】特許第5035712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、電極上に形成した耐熱層を圧縮し密着性を高めると内部短絡時には、電池温度の上昇を効果的に抑制することが可能となるが、通常時における電池の内部抵抗が上昇してしまう。一方、電極上に形成した耐熱層を圧縮しなければ、イオン透過性が高くなるため、通常時における電池の内部抵抗の上昇は抑えられるが、内部短絡時における電池温度の上昇を抑制することが困難となる。したがって、電極上に耐熱層を形成した場合には、電池の内部抵抗の上昇の抑制と、内部短絡時における電池温度の上昇の抑制との両立を図ることは困難であった。
【0008】
特許文献3においても、内部短絡時に、セパレータの収縮による短絡面積の拡大を防ぐことはできず、電池温度の上昇を抑制することが困難である。
【0009】
そこで、本開示の目的は、電池の内部抵抗の上昇を抑制すると共に、内部短絡時における電池温度の上昇を抑制することが可能な電極構造体及び非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、正極と、負極と、前記正極上及び前記負極上のうちの少なくともいずれか一方に形成された耐熱層と、非水電解質と、を備え、前記耐熱層は、少なくとも表面が金属化合物からなる耐熱性粒子を含み、前記耐熱層の平均厚みは0.5μm~5μmの範囲であり、前記耐熱層の空隙率は25%~55%であり、前記耐熱層の平均表面粗さ(Ra)は0.35μm以下であり、前記金属化合物の金属イオンの電気陰性度は13.5以上である。
【0011】
本開示の一態様である電極構造体は、非水電解質二次電池の正極又は負極として用いられる電極と、前記電極上に形成された耐熱層と、を備え、前記耐熱層は、少なくとも表面が金属化合物からなる耐熱性粒子を含み、前記耐熱層の平均厚みは0.5μm~5μmの範囲であり、前記耐熱層の空隙率は25%~55%であり、前記耐熱層の平均表面粗さ(Ra)は0.35μm以下であり、前記金属化合物の金属イオンの電気陰性度は13.5以上である。
【発明の効果】
【0012】
本開示の一態様によれば、電池の内部抵抗の上昇を抑制すると共に、内部短絡時における電池温度の上昇を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。
図2】電極(負極や正極)及び電極上の耐熱層を備える電極構造体の形成方法の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
前述したように、電極上に耐熱層を形成した場合には、電池の内部抵抗の上昇の抑制と、内部短絡時における電池温度の上昇の抑制との両立を図ることは困難であった。しかし、本発明者らが鋭意検討した結果、耐熱層を構成する材料に電気陰性度の高い金属イオンを含む材料を用いること、さらには、耐熱層の厚み、空隙率及び表面粗さを所定範囲に調整することで、電池の内部抵抗の上昇の抑制、内部短絡時における電池温度の上昇の抑制の両立を図ることができることを見出し、以下に説明する態様の非水電解質二次電池を想到するに至った。
【0015】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、正極と、負極と、前記正極上及び前記負極上のうちの少なくともいずれか一方に形成された耐熱層と、非水電解質と、を備え、前記耐熱層は、少なくとも表面が金属化合物からなる耐熱性粒子を含み、前記耐熱層の平均厚みは0.5μm~5μmの範囲であり、前記耐熱層の空隙率は25%~55%であり、前記耐熱層の平均表面粗さ(Ra)は0.35μm以下であり、前記金属化合物の金属イオンの電気陰性度は13.5以上である。
【0016】
また、本開示の一態様である電極構造体は、非水電解質二次電池の正極又は負極として用いられる電極と、前記電極上に形成された耐熱層と、を備え、前記耐熱層は、少なくとも表面が金属化合物からなる耐熱性粒子を含み、前記耐熱層の平均厚みは0.5μm~5μmの範囲であり、前記耐熱層の空隙率は25%~55%であり、前記耐熱層の平均表面粗さ(Ra)は0.35μm以下であり、前記金属化合物の金属イオンの電気陰性度は13.5以上である。
【0017】
本開示の耐熱層は、上記範囲の平均厚み、空隙率及び平均表面粗さとなるように、圧延等によって、平滑化・圧縮されたものである。このように、圧延等によって平滑化・圧縮された耐熱層は、電池の内部短絡時には、正負極間に介在する高抵抗成分として機能するため、内部短絡時の電池温度の上昇が抑えられる。また、本開示の耐熱層に含まれる耐熱性粒子は、少なくとも表面が金属化合物からなり、前記金属化合物の金属イオンの電気陰性度が13.5以上である耐熱性粒子であるが、このような組成の耐熱性粒子は、非水電解質との引き合いが小さいため、イオンの移動を阻害し難いという性質を有する。したがって、上記耐熱性粒子を含む耐熱層は、上記耐熱性粒子を含まない耐熱層と比べて、高いイオン透過性を有するため、圧延等によって平滑化・圧縮しても、耐熱層のイオン透過性の低下が抑えられ、電池の内部抵抗の上昇が抑制される。
【0018】
以下、実施形態の一例について詳細に説明する。実施形態の説明で参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された構成要素の寸法比率などは、現物と異なる場合がある。
【0019】
図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。図1に示す非水電解質二次電池10は、正極11及び負極12がセパレータ13を介して巻回されてなる巻回型の電極素子14と、非水電解質と、電極素子14の上下にそれぞれ配置された絶縁板18,19と、上記部材を収容する電池ケース15と、を備える。
【0020】
図1では不図示であるが、非水電解質二次電池10は、正極11上及び負極12上のうちの少なくともいずれか一方に形成された耐熱層を備える。すなわち、耐熱層は、正極11とセパレータ13との間、負極12とセパレータ13との間のうちの少なくともいずれか一方に配置されている。
【0021】
電池ケース15は、有底円筒形状のケース本体16と、ケース本体16の開口部を塞ぐ封口体17とにより構成される。なお、巻回型の電極素子14の代わりに、正極及び負極がセパレータを介して交互に積層されてなる積層型の電極素子など、他の形態の電極素子が適用されてもよい。また、電池ケース15としては、円筒形、角形、コイン形、ボタン形等の金属製ケース、樹脂シートをラミネートして形成された樹脂製ケース(ラミネート型)などが例示できる。
【0022】
ケース本体16は、例えば有底円筒形状の金属製容器である。ケース本体16と封口体17との間にはガスケット28が設けられ、電池内部の密閉性が確保される。ケース本体16は、例えば側面部の一部が内側に張出した、封口体17を支持する張り出し部22を有する。張り出し部22は、ケース本体16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。
【0023】
封口体17は、電極素子14側から順に、フィルタ23、下弁体24、絶縁部材25、上弁体26、及びキャップ27が積層された構造を有する。封口体17を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体24と上弁体26は各々の中央部で互いに接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。内部短絡等による発熱で内圧が上昇すると、例えば下弁体24が上弁体26をキャップ27側に押し上げるように変形して破断し、下弁体24と上弁体26の間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体26が破断し、キャップ27の開口部からガスが排出される。
【0024】
図1に示す非水電解質二次電池10では、正極11に取り付けられた正極リード20が絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極12に取り付けられた負極リード21が絶縁板19の外側を通ってケース本体16の底部側に延びている。正極リード20は封口体17の底板であるフィルタ23の下面に溶接等で接続され、フィルタ23と電気的に接続された封口体17の天板であるキャップ27が正極端子となる。負極リード21はケース本体16の底部内面に溶接等で接続され、ケース本体16が負極端子となる。なお、正極リードは、正極11の長手方向の端部ではなく中央部に設けられる場合もある。中央部は、正極活物質層が塗布されていない正極活物質層の未塗工な領域(未塗工部)であり、正極11の長手方向において未塗工部の両サイドには正極活物質層が塗布されている。該中央部に正極リードを設ける場合、該未塗工部に正極リードは接合される。
【0025】
以下、正極11、負極12、耐熱層、セパレータ13、非水電解質について詳述する。
【0026】
[正極]
正極11は、例えば、金属箔等の正極集電体と、正極集電体上に形成された正極活物質層とを備える。正極集電体には、アルミニウムなどの正極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。
【0027】
正極活物質層は、正極活物質を含む。また、正極活物質層は、正極活物質の他に、導電材及び結着材を含むことが好適である。
【0028】
正極活物質としては、Co、Mn、Ni等の遷移金属元素を含有するリチウム遷移金属酸化物が例示できる。リチウム遷移金属酸化物は、例えばLiCoO、LiNiO、LiMnO、LiCoNi1-y、LiCo1-y、LiNi1-y、LiMn、LiMn2-y、LiMPO、LiMPOF(M;Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bのうち少なくとも1種、0<x≦1.2、0<y≦0.9、2.0≦z≦2.3)である。これらは、1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。非水電解質二次電池の高容量化を図ることができる点で、正極活物質は、LiNiO、LiCoNi1-y、LiNi1-y(M;Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bのうち少なくとも1種、0<x≦1.2、0<y≦0.9、2.0≦z≦2.3)等のリチウムニッケル複合酸化物を含むことが好ましい。
【0029】
導電材としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
結着材としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィン等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
[負極]
負極12は、例えば金属箔等からなる負極集電体と、当該集電体上に形成された負極活物質層とを備える。負極集電体には、銅などの負極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極活物質層は、負極活物質を含む。また、負極活物質層は、負極活物質の他に、結着材を含むことが好適である。
【0032】
負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できるものであれば特に限定されず、例えば天然黒鉛、人造黒鉛等の炭素材料、ケイ素(Si)、錫(Sn)等のリチウムと合金化する金属、又はSi、Sn等の金属元素を含む合金、複合酸化物等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
結着材としては、正極11で用いられる結着材を用いることができる。その他には、例えば、CMC又はその塩、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。
【0034】
[耐熱層]
耐熱層は、耐熱性粒子を含む。また、耐熱層は、結着材を含むことが好適である。結着材としては、正極11や負極12で用いられる結着材を用いることができる。
【0035】
耐熱性粒子は、少なくとも表面が金属化合物からなり、金属化合物の金属イオンの電気陰性度が13.5以上であり、好ましくは17.1以上である耐熱性粒子である。金属化合物が複数種の金属を含む複合金属化合物である場合には、少なくとも1つの金属イオンの電気陰性度が13.5以上であればよいが、耐熱層のイオン透過性を向上させる点で、全ての金属イオンの電気陰性度が13.5以上であることが好ましい。金属イオンの電気陰性度(χi)は、以下の式により求められる。
χi=(1+2Z)χp
Z:価数
χp:ポーリングの電気陰性度
【0036】
金属イオンの電気陰性度が13.5以上である金属化合物としては、Ti、Sn、W、Nb、Mo、Si、B、Ge、Biのうち少なくともいずれか1つを含む酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物が挙げられる。これらの中では、非水電解質との反応性が低く、電気化学的に安定である等の点で、Ti、Sn、W、Nb、Mo、Siのうち少なくともいずれか1つを含む酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物が好ましい。
【0037】
耐熱性粒子は、例えば、コア粒子の表面に上記金属化合物を被覆することにより得られる。コア粒子は、特に制限されるものではなく、例えば、無機粒子、樹脂粒子等が挙げられる。上記金属化合物の被覆方法としては、特に制限されるものではなく、例えば、メカノケミカル法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、プラズマ蒸着法等が挙げられる。
【0038】
また、耐熱性粒子は、例えば、上記金属化合物そのものでもよい。耐熱性粒子は、例えば、Ti、Sn、W、Nb、Mo、Si、B、GeBi、のうち少なくともいずれか1つ、好ましくはTi、Sn、W、Nb、Mo、Siのうちの少なくともいずれか1つを含む酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物でもよい。
【0039】
耐熱性粒子の平均粒径は、耐熱層の空隙率を所望の範囲に調整することが容易となる等の点で、0.05~1μmの範囲であることが好ましい。ここで、平均粒径とは、レーザ回折法によって測定される体積平均粒径であって、粒子径分布において体積積算値が50%となるメジアン径を意味する。平均粒径は、例えば、レーザ回折式粒度分布測定装置(日揮装社製、マイクロトラックHRA)を用いて測定できる。
【0040】
耐熱性粒子の形状は、球状であってもよいし、非球形状であってもよい。非球形状としては、例えば、多面体状、針状、ネッキング状等が挙げられる。ネッキング状とは、粒子が複数個連なった構造(部分的な面接触構造)を意味する。耐熱層の空隙率を所望の範囲に調整することが容易となる等の点で、多面体状、針状又はネッキング状の耐熱性粒子が好ましい。
【0041】
耐熱性粒子の含有量は、耐熱層の総質量に対して90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。なお、耐熱層には、上記耐熱性粒子以外の無機粒子等を含んでいてもよい。例えば、耐熱層は、金属イオンの電気陰性度が13.5未満である金属化合物等を含んでいてもよい。上記耐熱性粒子以外の無機粒子の含有量は、耐熱層の総質量に対して5質量%以下であることが好ましい。
【0042】
耐熱層の平均厚みは、0.5μm~5μmの範囲であればよいが、電池の内部抵抗の上昇や内部短絡時の電池温度の上昇をより抑制する等の点で、1μm~3μmの範囲であることが好ましい。耐熱層の平均厚みは、耐熱層の断面を走査型電子顕微鏡で観察し、任意の30点の厚さの平均値である。耐熱層の断面は、例えば、耐熱層を形成した電極の一部を切り取り、イオンミリング装置(例えば、日立ハイテク社製、IM4000PLUS)で加工することにより得られる。
【0043】
耐熱層の空隙率は、25%~55%の範囲であればよいが、電池の内部抵抗の上昇や内部短絡時の電池温度の上昇をより抑制する等の点で、30%~45%の範囲であることが好ましい。耐熱層の空隙率は以下のようにして求められる。まず、既知の目付け量の耐熱粒子の塗工膜の蛍光X線強度から導いた検量線を用い、活物質層上に形成された耐熱粒子の目付け量を蛍光X線強度から求める。耐熱粒子の真密度と目付け量から、耐熱粒子の真体積(Vt)を求める。電極上に形成した耐熱層の面積及び平均厚みから、耐熱層の見かけ上の体積(Va)を求める。これらを、以下の式に当てはめて、耐熱層の空隙率(P)を求める。
P=100-100Vt/Va
【0044】
耐熱層の平均表面粗さ(Ra)は、0.35μm以下であればよいが、内部短絡時の電池温度の上昇をより抑制する等の点で、0.20μm以下であることが好ましい。耐熱層の平均表面粗さ(Ra)は、レーザ顕微鏡(キーエンス社製、VK9700)により、耐熱層の表面を観察して、解析ソフト(キーエンスソフトウェア社製 VK―Analyzer)を用いてJIS B0601-1994に準じた条件で求めることができる。
【0045】
図2は、電極(負極や正極)及び電極上の耐熱層を備える電極構造体の形成方法の一例を示すフロー図である。(A)集電体30上に合材スラリーを塗布、乾燥して活物質層32を形成する。正極活物質層を形成する場合には、正極集電体上に、正極活物質、結着材等を含む正極合材スラリーを塗布、乾燥し、負極活物質層を形成する場合には、負極集電体上に、負極活物質、結着材等を含む負極合材スラリーを塗布、乾燥する。(B)形成した活物質層32を圧延ローラ等により圧延する。但し(B)工程は省略してもよい。(C)活物質層32上に、耐熱性粒子、結着材等を含む耐熱層用スラリーを塗布、乾燥し、耐熱層34を形成する。または、2ヘッド型のダイを用いて合材スラリーと耐熱層用スラリーを同時塗布してもよい。この場合、合剤スラリーの乾燥工程も省略することができる。(D)形成した耐熱層34を圧延ローラ等により圧延する。(D)工程において、耐熱層34に掛ける線圧を調節して圧延することにより、耐熱層34の平均厚み、空隙率、平均表面粗さ(Ra)を上記所定の範囲に調整する。
【0046】
耐熱層34を圧延することによって、耐熱層34の表面に、耐熱層の下の電極(実質的には活物質層32)が露出した露出部が複数形成される場合がある。前記露出部の長さは、例えば耐熱層34が形成された電極断面を走査型電子顕微鏡を用いて観察することができる。この場合、露出部1個当たりの最大長さは30μm以下であり、露出部の長さの合計が、耐熱層34が形成された電極断面全体の長さに対して20%以下であることが好ましい。露出部の最大長さ及び露出部の割合が上記範囲を満たさない場合、上記範囲を満たす場合と比較して、内部短絡時の電池温度が上昇する場合がある。露出部は、前述した(B)工程を省略した場合に形成され易いため、露出部の形成を抑える点等では、(B)工程を行うことが望ましい。
【0047】
耐熱層34は、活物質層32の一部に形成してもよいが、活物質層32の表面全体に形成することが好ましく、特に、負極活物質層の表面全体に形成することが好ましい。内部短絡は、正極リード及びその周辺(正極活物質層の未塗工部)とそれらに対向する負極との間でも起こるが、それ以外の正負極間でも当然起こる。したがって、負極活物質層の表面全体に耐熱層34を形成することで、内部短絡時の電池温度の上昇をより効果的に抑制することが可能となる。
【0048】
[セパレータ]
セパレータ13には、例えば、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シート等が用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、セルロース繊維層及びオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂繊維層を有する積層体であってもよい。また、ポリエチレン層、ポリプロピレン層及びポリエチレンとポリプロピレンの混合物層を含む多層セパレータであってもよく、セパレータの表面に接着性樹脂、アラミド系樹脂、セラミック等の材料が塗布されたものを用いてもよく、多孔性シート中に無機フィラーを含んでもよい。
【0049】
[非水電解質]
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水電解質は、液体電解質(非水電解液)に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いることができる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。
【0050】
上記エステル類の例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート等の環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等の鎖状炭酸エステル、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)等の環状カルボン酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン等の鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0051】
上記エーテル類の例としては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、クラウンエーテル等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等の鎖状エーテル類などが挙げられる。
【0052】
上記ハロゲン置換体としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等のフッ素化環状炭酸エステル、フッ素化鎖状炭酸エステル、フルオロプロピオン酸メチル(FMP)等のフッ素化鎖状カルボン酸エステル等を用いることが好ましい。
【0053】
電解質塩は、リチウム塩であることが好ましい。リチウム塩の例としては、LiBF、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、LiSCN、LiCFSO、LiCFCO、Li(P(C)F)、LiPF6-x(C2n+1(1<x<6,nは1又は2)、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、Li、Li(B(C)F)等のホウ酸塩類、LiN(SOCF、LiN(C2l+1SO)(C2m+1SO){l,mは0以上の整数}等のイミド塩類などが挙げられる。リチウム塩は、これらを1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。これらのうち、イオン伝導性、電気化学的安定性等の観点から、LiPFを用いることが好ましい。リチウム塩の濃度は、非水溶媒1L当り0.8~1.8molとすることが好ましい。
【実施例
【0054】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
<実施例1>
[正極の作製]
正極活物質としてのリチウム複合酸化物粒子(LiNi0.88Co0.09Al0.03)を100質量部と、導電材としてのアセチレンブラックを1質量部と、結着材としてのポリフッ化ビニリデンを1質量部とを混合し、さらにNMPを適量加えて、正極合材スラリーを調製した。次いで、上記正極合材スラリーを、アルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し(片面当たり0.028g/cm)、これを乾燥させた。これを所定の電極サイズに切り取り、ロールプレスを用いて3300kgf/cmの線圧で圧延することにより、正極集電体の両面に正極活物質層が形成された正極を作製した。
【0056】
[耐熱層の作製]
耐熱性粒子として、平均粒径が0.6μmで、球状の酸化チタン粒子(チタンイオンの電気陰性度(χi)は13.5)を用いた。そして、酸化チタン粒子を100質量部と、結着材としてのポリフッ化ビニリデン3質量部と、適量のNMPとを、分散機(プライミクス社製、フィルミクス)で撹拌し、耐熱層用スラリーを調製した。次いで、上記耐熱層用スラリーを正極活物質層上に塗布し、これを乾燥させた後、ロールプレスを用いて200kgf/cmの線圧で圧延することにより、耐熱層を形成した。耐熱層の平均厚みは3μmであり、空隙率は33%であり、平均表面粗さ(Ra)は0.12μmであった。測定方法は前述した通りである。作製した耐熱層の断面をSEMにより観察したが、露出部は観察されなかった。
【0057】
[負極の作製]
負極活物質としての黒鉛粉末を98.7質量部と、CMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム)を0.7質量部と、SBR(スチレン-ブタジエンゴム)を0.6質量部とを混合し、さらに水を適量加えて、負極合材スラリーを調製した。次に、この負極合材スラリーを銅箔からなる負極集電体の両面に塗布し(片面当たり0.013g/cm)、これを乾燥させた。これを所定の電極サイズに切り取り、ロールプレスを用いて200kgf/cmの線圧で圧延することにより、負極集電体の両面に負極活物質層が形成された負極を作製した。
【0058】
[非水電解質の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、3:3:4の体積比で混合した混合溶媒に対して、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1.2モル/リットルの濃度になるように溶解させた。これを非水電解質として用いた。
【0059】
[非水電解質二次電池の作製]
上記正極にアルミリードを、上記負極にニッケルリードをそれぞれ取り付け、厚さ14μmのポリエチレン製セパレータを介して正極及び負極を巻回することにより、巻回型の電極素子を作製した。この電極素子を、円筒形状の電池ケース本体に収容し、非水電解質を注入した後、ガスケット及び封口体によって、電池ケース本体を密閉した。これを非水電解質二次電池とした。
【0060】
<実施例2>
正極の作製において、ロールプレスによる圧延を行わなかったこと、耐熱層の作製において、ロールプレスによる圧延時の線圧を3300kgf/cmとしたこと、耐熱層の平均厚みが5μmとなるよう目付け量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。実施例2の耐熱層の空隙率は33%であり、平均表面粗さ(Ra)は0.12μmであった。作製した耐熱層の断面をSEMにより観察したところ、露出部が観察された。露出部1個当たりの最大長さ(以下、露出部の最大長さ)は1μmであり、電極の表面全体の長さに対する露出部の長さの合計の割合(以下、露出部の割合)は、1%であった。
【0061】
<実施例3>
正極の作製において、ロールプレスによる圧延を行わなかったこと、耐熱層の作製において、ロールプレスによる圧延時の線圧を3300kgf/cmとしたこと、耐熱層の平均厚みが0.5μmとなるよう目付け量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。実施例3の耐熱層の空隙率は33%であり、平均表面粗さ(Ra)は0.12μmであった。作製した耐熱層の断面をSEMにより観察したところ、露出部が観察された。露出部の最大長さは30μmであり、露出部の割合は、20%であった。
【0062】
<実施例4>
正極の作製において、ロールプレスによる圧延を行わなかったこと、耐熱層の作製において、平均粒径1μmの球状の酸化チタン粒子を用いたこと、ロールプレスによる圧延時の線圧を3300kgf/cmとしたこと、耐熱層の平均厚みが3μmとなるよう目付け量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。実施例4の耐熱層の空隙率は25%であり、平均表面粗さ(Ra)は0.25μmであった。作製した耐熱層の断面をSEMにより観察したところ、露出部が観察された。露出部の最大長さは9μmであり、露出部の割合は、6%であった。
【0063】
<実施例5>
正極の作製において、ロールプレスによる圧延を行わなかったこと、耐熱層の作製において、平均粒径0.05μmの球状の酸化チタン粒子を用いたこと、ロールプレスによる圧延時の線圧を3300kgf/cmとしたこと、耐熱層の平均厚みが2μmとなるよう目付け量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。実施例5の耐熱層の空隙率は45%であり、平均表面粗さ(Ra)は0.09μmであった。作製した耐熱層の断面をSEMにより観察したところ、露出部が観察された。露出部の最大長さは7μmであり、露出部の割合は、8%であった。
【0064】
<実施例6>
正極の作製において、ロールプレスによる圧延を行わなかったこと、耐熱層の作製において、平均粒径0.9μmの球状のSnO粒子(スズイオンのχiは18)を用いたこと、ロールプレスによる圧延時の線圧を3300kgf/cmとしたこと、耐熱層の平均厚みが2μmとなるよう目付け量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。実施例6の耐熱層の空隙率は30%であり、平均表面粗さ(Ra)は0.11μmであった。作製した耐熱層の断面をSEMにより観察したところ、露出部が観察された。露出部の最大長さは12μmであり、露出部の割合は、9%であった。
【0065】
<実施例7>
正極の作製において、ロールプレスによる圧延を行わなかったこと、耐熱層の作製において、平均粒径0.3μmの粒状のWO粒子(タングステンイオンのχiは31.2)を用いたこと、ロールプレスによる圧延時の線圧を3300kgf/cmとしたこと、耐熱層の平均厚みが2μmとなるよう目付け量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。実施例7の耐熱層の空隙率は33%であり、平均表面粗さ(Ra)は0.12μmであった。作製した耐熱層の断面をSEMにより観察したところ、露出部が観察された。露出部の最大長さは9μmであり、露出部の割合は、8%であった。
【0066】
<実施例8>
正極の作製において、ロールプレスによる圧延を行わなかったこと、耐熱層の作製において、平均粒径1μmの粒状のNb粒子(ニオブイオンのχiは17.6)を用いたこと、ロールプレスによる圧延時の線圧を3300kgf/cmとしたこと、耐熱層の平均厚みが2μmとなるよう目付け量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。実施例8の耐熱層の空隙率は34%であり、平均表面粗さ(Ra)は0.17μmであった。作製した耐熱層の断面をSEMにより観察したところ、露出部が観察された。露出部の最大長さは10μmであり、露出部の割合は、11%であった。
【0067】
<実施例9>
正極の作製において、ロールプレスによる圧延を行わなかったこと、耐熱層の作製において、平均粒径0.6μmの粒状のMoO粒子(モリブデンイオンのχiは28.6)を用いたこと、ロールプレスによる圧延時の線圧を3300kgf/cmとしたこと、耐熱層の平均厚みが2μmとなるよう目付け量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。実施例9の耐熱層の空隙率は31%であり、平均表面粗さ(Ra)は0.13μmであった。作製した耐熱層の断面をSEMにより観察したところ、露出部が観察された。露出部の最大長さは7μmであり、露出部の割合は、9%であった。
【0068】
<実施例10>
正極の作製において、ロールプレスによる圧延を行わなかったこと、耐熱層の作製において、平均粒径0.6μmの球状のSiO粒子(ケイ素イオンのχiは17.1)を用いたこと、ロールプレスによる圧延時の線圧を3300kgf/cmとしたこと、耐熱層の平均厚みが2μmとなるよう目付け量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。実施例10の耐熱層の空隙率は35%であり、平均表面粗さ(Ra)は0.11μmであった。作製した耐熱層の断面をSEMにより観察したところ、露出部が観察された。露出部の最大長さは5μmであり、露出部の割合は、3%であった。
【0069】
<実施例11>
正極の作製において、ロールプレスによる圧延を行わなかったこと、耐熱層の作製において、平均粒径0.8μmの多面体状のTiO粒子を用いたこと、ロールプレスによる圧延時の線圧を3300kgf/cmとしたこと、耐熱層の平均厚みが2μmとなるよう目付け量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。実施例11の耐熱層の空隙率は46%であり、平均表面粗さ(Ra)は0.08μmであった。作製した耐熱層の断面をSEMにより観察したところ、露出部が観察された。露出部の最大長さは5μmであり、露出部の割合は、7%であった。
【0070】
<実施例12>
正極の作製において、ロールプレスによる圧延を行わなかったこと、耐熱層の作製において、平均粒径0.09μmの針状のTiO粒子を用いたこと、ロールプレスによる圧延時の線圧を3300kgf/cmとしたこと、耐熱層の平均厚みが2μmとなるよう目付け量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。実施例12の耐熱層の空隙率は55%であり、平均表面粗さ(Ra)は0.05μmであった。作製した耐熱層の断面をSEMにより観察したところ、露出部が観察された。露出部の最大長さは3μmであり、露出部の割合は、5%であった。
【0071】
<実施例13>
正極の作製において、ロールプレスによる圧延を行わなかったこと、耐熱層の作製において、平均粒径0.8μmのネッキング状のTiO粒子を用いたこと、ロールプレスによる圧延時の線圧を3300kgf/cmとしたこと、耐熱層の平均厚みが2μmとなるよう目付け量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。実施例13の耐熱層の空隙率は51%であり、平均表面粗さ(Ra)は0.35μmであった。作製した耐熱層の断面をSEMにより観察したところ、露出部が観察された。露出部の最大長さは6μmであり、露出部の割合は、5%であった。
【0072】
<実施例14>
負極の作製において、ロールプレスによる圧延を行わなかったこと、正極上に耐熱層を形成せずに、負極上に耐熱層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。実施例14の耐熱層の平均厚みは2μmであり、空隙率は33%であり、平均表面粗さ(Ra)は0.2μmであった。作製した耐熱層の断面をSEMにより観察したところ、露出部が観察された。露出部の最大長さは16μmであり、露出部の割合は、10%であった。
【0073】
<比較例1>
耐熱層の作製において、平均粒径0.6μmの球状のMgO粒子(マグネシウムイオンのχiは6.5)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。比較例1の耐熱層の平均厚みは3μmであり、空隙率は40%であり、平均表面粗さ(Ra)は0.15μmであった。作製した耐熱層の断面をSEMにより観察したところ、露出部は観察されなかった。
【0074】
<比較例2>
耐熱層の作製において、ロールプレスによる圧延を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。比較例2の耐熱層の平均厚みは3μmであり、空隙率は60%であり、平均表面粗さ(Ra)は1.22μmであった。作製した耐熱層の断面をSEMにより観察したところ、露出部は観察されなかった。
【0075】
[内部短絡試験]
各実施例及び比較例の非水電解質二次電池を、500mAの電流値で電池電圧が4.20Vとなるまで定電流充電を行なった後、4.2Vの電圧で60分間、定電圧充電を行った。その後、正極上に異物を仕込み、JIS C 8714に従い、強制的に短絡させた時の電池の側部の温度を熱電対で測定した。測定した電池温度の最高温度を内部短絡時の電池温度とした。
【0076】
[内部抵抗の測定]
各実施例及び比較例の非水電解質二次電池を、500mAの電流値で電池電圧が3.7Vとなるまで定電流充電を行った後、3.7Vの電圧で60分間、低電圧充電を行った。その後、1500mAで10秒間放電した。放電前の開回路電圧をV1、10秒間放電後の開回路電圧をV2として、以下の式により電池の内部抵抗R(mΩ)を求めた。
R=(V1-V2)/1.5
【0077】
表1に、各実施例及び比較例の内部短絡時の電池温度及び電池の内部抵抗の結果をまとめた。
【0078】
【表1】
【0079】
実施例1~14はいずれも、比較例2より、内部短絡時の電池温度が低かった。また、実施例1~14はいずれも、比較例1より、電池の内部抵抗が低かった。すなわち、正極と、負極と、前記正極上及び前記負極上のうちの少なくともいずれか一方に形成された耐熱層と、非水電解質と、を備え、前記耐熱層は、少なくとも表面が金属化合物からなる耐熱性粒子を含み、前記耐熱層の平均厚みは0.5μm~5μmの範囲であり、前記耐熱層の空隙率は25%~55%であり、前記耐熱層の平均表面粗さ(Ra)は0.35μm以下であり、前記金属化合物の金属イオンの電気陰性度は13.5以上である、非水電解質二次電池によれば、電池の内部抵抗の上昇を抑え、且つ内部短絡時の電池温度の上昇を抑制することができると言える。
【符号の説明】
【0080】
10 非水電解質二次電池、11 正極、12 負極、13 セパレータ、14 電極素子、15 電池ケース、16 ケース本体、17 封口体、18,19 絶縁板、20 正極リード、21 負極リード、22 張り出し部、23 フィルタ、24 下弁体、25 絶縁部材、26 上弁体、27 キャップ、28 ガスケット、30 集電体、32 活物質層、34 耐熱層。
図1
図2