IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公益財団法人実験動物中央研究所の特許一覧 ▶ 学校法人慶應義塾の特許一覧

<>
  • 特許-哺乳動物細胞用遺伝子導入ベクター 図1
  • 特許-哺乳動物細胞用遺伝子導入ベクター 図2
  • 特許-哺乳動物細胞用遺伝子導入ベクター 図3
  • 特許-哺乳動物細胞用遺伝子導入ベクター 図4
  • 特許-哺乳動物細胞用遺伝子導入ベクター 図5
  • 特許-哺乳動物細胞用遺伝子導入ベクター 図6
  • 特許-哺乳動物細胞用遺伝子導入ベクター 図7
  • 特許-哺乳動物細胞用遺伝子導入ベクター 図8
  • 特許-哺乳動物細胞用遺伝子導入ベクター 図9
  • 特許-哺乳動物細胞用遺伝子導入ベクター 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】哺乳動物細胞用遺伝子導入ベクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/85 20060101AFI20230105BHJP
   C12N 5/16 20060101ALI20230105BHJP
   A01K 67/027 20060101ALI20230105BHJP
【FI】
C12N15/85 Z ZNA
C12N5/16
A01K67/027
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017239819
(22)【出願日】2017-12-14
(65)【公開番号】P2019103471
(43)【公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-10-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)公益財団法人実験動物中央研究所:平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、脳科学研究戦略推進プログラム、遺伝子改変マーモセットの汎用性拡大および作出技術の高度化とその脳科学への応用委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願;学校法人慶應義塾:平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、脳科学研究戦略推進プログラム、キメラ形成能を持つマーモセットES細胞を用いた新たな遺伝子改変技術の開発とマーモセットゲノム情報基盤の確立委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】390016470
【氏名又は名称】公益財団法人実験動物中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 えりか
(72)【発明者】
【氏名】高橋 司
(72)【発明者】
【氏名】後藤 元人
(72)【発明者】
【氏名】岡野 栄之
(72)【発明者】
【氏名】村山 綾子
(72)【発明者】
【氏名】前田 拓志
【審査官】幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/148253(WO,A1)
【文献】特表2008-545375(JP,A)
【文献】特表2005-512602(JP,A)
【文献】特開2004-267001(JP,A)
【文献】特表2003-527864(JP,A)
【文献】特開2003-018992(JP,A)
【文献】Huali Su et al.,piggyBac transposon-mediated transgenesis in the apicomplexan parasite Eimeria tenella.,PLoS One,2012年06月29日,Vol.7, Issue 6,e40075,doi: 10.1371/journal.pone.0040075
【文献】Guang-Hui Liu et al.,Progressive degeneration of human neural stem cells caused by pathogenic LRRK2.,Nature,2012年10月17日,Vol.491, No.7425,p.603-607,doi: 10.1038/nature11557
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C12N 5/00
A01K 67/027
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)外来遺伝子導入判定領域及び(B)piggyBacトランスポゾン領域を含む、哺乳動物細胞への外来遺伝子導入用ベクターであって;
上記(A)外来遺伝子導入判定領域が、(a1)哺乳動物細胞で機能する判定用プロモーターDNA、及び(a2)前記判定用プロモーターDNAの下流に作動可能に連結している判定用蛍光タンパク質をコードするDNAを含み、
上記(B)piggyBacトランスポゾン領域が、(b1)5’末端側と3’末端側とに付加されたpiggyBacトランスポゼーズが認識する一対のpiggyBacトランスポゾン配列、及び、該トランスポゾン配列間に配置された(b2)哺乳動物細胞で機能する外来タンパク質プロモーターDNAと、(b3)前記外来タンパク質プロモーターDNAの下流に作動可能に連結された蛍光標識タンパク質を含む外来タンパク質をコードするDNAを含む
ことを特徴とする外来遺伝子導入用ベクター。
【請求項2】
蛍光標識タンパク質を含む外来タンパク質が、蛍光標識タンパク質に加えて、さらに1又は2以上の目的タンパク質を含むことを特徴とする請求項1記載のベクター。
【請求項3】
外来遺伝子導入判定領域が、さらに(a3)タンパク質不安定化ペプチドをコードするDNAを含むことを特徴とする請求項1又は2記載のベクター。
【請求項4】
外来遺伝子導入判定領域の蛍光タンパク質が発する蛍光と蛍光標識タンパク質が発する蛍光が補色の関係にあることを特徴とする請求項1~3のいずれか記載のベクター。
【請求項5】
請求項1~4いずれか記載のpiggyBac外来遺伝子導入用ベクターと、piggyBacトランスポゼーズとを備える外来遺伝子導入用ベクターキット。
【請求項6】
以下の(イ)~(ハ)の工程を備える外来遺伝子導入細胞を選択する方法。
(イ)請求項1~4いずれか記載の外来遺伝子導入用ベクターを準備する工程;
(ロ)上記(イ)で準備した外来遺伝子導入用ベクターとpiggyBacトランスポゼーズとを乳動物細胞(ヒト受精卵、ヒトEG細胞、ヒトGS細胞を除く)に注入する工程;
(ハ)外来遺伝子導入用ベクターによる判定用蛍光タンパク質の蛍光が急速に減衰している細胞を外来遺伝子が導入された細胞として選択する工程;
【請求項7】
外来遺伝子導入細胞が受精卵(ヒト受精卵を除く)であることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法により外来遺伝子導入受精卵を選択する工程、及び当該外来遺伝子導入受精卵を非ヒト哺乳類動物仮母に移植し、産子を取得する工程を含むことを特徴とする非ヒト哺乳類トランスジェニック動物を作出する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物細胞への外来遺伝子導入用piggyBacトランスポゾンベクターに関し、本発明によると、該ベクターと、piggyBacトランスポゼーズとを使用することにより、非ヒト哺乳動物初期胚等に遺伝子を導入して、ヒト疾患モデル動物として利用できるトランスジェニック非ヒト哺乳動物を作出し、また、スクリーニング用外来遺伝子導入細胞を調製することができる。
【背景技術】
【0002】
遺伝子導入法は、インビボやインビトロにおいて遺伝子やタンパク質の機能を研究する上で重要な手法であり、ヒトの疾患に関与する遺伝子を非ヒト動物に導入することによりノックイン非ヒト動物を作出すること、ヒトの疾患に関与する遺伝子の非ヒト動物における相同遺伝子をノックアウトすることによりノックアウト非ヒト動物を作出すること等の遺伝子操作により非ヒトトランスジェニック動物を作出し、これらの動物をヒト疾患モデル動物として利用することが広く行われている。とりわけ、マウスは、遺伝子ノックアウト・ノックイン技法の適用が容易な動物であり、ヒト疾患モデルマウスとして広く用いられている。
【0003】
しかしながら、げっ歯類と霊長類の間には、解剖学的相違、疾病に対する感受性の相違、認知機能の相違等があるため、ヒト疾患モデルマウスを用いて得られた結果をそのままヒトへ適用することは困難な場合がある。そこで、ヒトに近い霊長類をヒト疾患モデル動物として用いて、霊長類における共通のメカニズムに関わる、神経、臓器の再生医療に関する研究や脳の高次機能に関する分野の研究を行うことにより、より精度の高い有効性の評価を行うことが期待されている。モデルマウスの作出においては、遺伝子導入の成否を問わず母親の胎内に戻し、得られた多数の産子について遺伝子導入が行われているか否かを確認することが常法として行われているが、霊長類のモデル動物においては、外来遺伝子の初期胚への導入効率が低いうえに、倫理的観点から、少数の動物を長期飼育して最大の情報収集を得ることや、動物自体の福祉向上及び苦痛の軽減・排除が求められている。また、かかるトランスジェニック動物の作出においては、受精卵が胚盤胞に達する数日間のうちに遺伝子が導入されたか否かを判別する必要があり、インビトロでの細胞実験のように長期間の培養が必要な抗生物質の耐性遺伝子のマーカーとして利用は好ましくないとされる。
【0004】
これまで、外来遺伝子を霊長類のゲノムDNAに導入する方法としては、げっ歯類同様受精卵注入用DNA断片等の受精卵注入用DNAベクターをマイクロインジェクションする方法や、受精卵に注入する極細ピペットを用いて、顕微鏡下で未受精卵子に精子と一緒に目的外来遺伝子を注入するICSI-Tr(intracytoplasmic sperm injection mediated transgenesis)法や、霊長類動物初期胚をスクロース処理して囲卵腔の容積を増加させ、初期胚の囲卵腔にプロモーターに作動可能に連結したヒト外来遺伝子を含むレンチウイルスベクターを注入して外来遺伝子を導入することによりヒト疾患モデル霊長類動物を作出する方法(例えば、特許文献1等参照)が提案されてきたが、マイクロインジェクションやICSI-Tr法による場合は、その成功率は5%程度といわれており、また、ウイルスベクターとしてレンチウイルスベクターを用いた場合においても、その成功率は20%程度にとどまっているとされる。また、かかるレンチウイルスベクター法は、8.5kb以上の外来遺伝子の導入が困難であるとされており、より大きな遺伝子を挿入することができる方法の開発が望まれている。
【0005】
一方、トランスポゾンは、B.マクリントックにより最初に明らかにされた染色体上を移動する遺伝子であり、このトランスポゾンに関して、トウモロコシの種子や植物体に含まれるアントシアニン遺伝子や、胚乳の黄色デンプンの遺伝子などの発現を変化させる制御遺伝子が、一つの染色体から他の染色体に移動していることが知られている。
【0006】
なかでも、鱗翅目昆虫ウイルス由来のトランスポゾンであるpiggyBacは、腫瘍発生リスクを高めることがなく、ヒト・マウス・ラット由来細胞で使用できることが知られており、piggyBacトランスポゾンを用いてカイコ染色体へ安定に導入し、その外来遺伝子がコードするタンパク質を発現させる方法が、クラゲ緑色蛍光タンパク質をモデルとして研究され、交配により子孫へと遺伝子が安定に伝わることも確認されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0007】
また、少なくとも1.5kbのインサートを有するpiggyBac様トランスポゾンを細胞のゲノムDNAを含むトランスジェニック非ヒト脊椎動物を作出する方法(例えば、特許文献2参照)が提案されているが、マウス生殖細胞系におけるpiggyBac転移の検討においては、トランスポゾンドナープラスミドとトランスポゼーズヘルパープラスミドの前核同時注入を行った場合の、トランスジェニックマウスにおける転移の解析において、創始系統の34.8%(62/184)がPB[Act-RFP]一重陽性であり、0.5%(1/184)がAct-PBアーゼ一重陽性であり、2.7%(5/184)が二重陽性であったことが示されており、100%のトランスジェニック動物の取得率とはほど遠い状況であるといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開WO2009/096101号パンフレット
【文献】特開2008-545375公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Nature Biotechnology 18,81-84,2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、より高度な機能に関連する遺伝子のトランスジェニック非ヒトモデル動物を作出するために、従来よりも大きい遺伝子を非ヒト動物細胞に導入することができ、かつ、トランスジェニック動物の取得率を100%に近い値とする遺伝子導入手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述のとおり、従来は、トランスポゾンを使用しても目的のトランスジェニック動物を取得できる確率は非常に低いものであった。その理由の一つとして、例えば、蛍光タンパク質をコードするゲノムDNAを導入することを目的として、トランスポゾンを含むプラスミドを細胞に注入した場合、宿主細胞のゲノムDNAに導入する目的とされた蛍光タンパク質をコードするDNAがゲノムDNAに導入されないときでも、注入してしばらくは、細胞質や核内で蛍光タンパク質が蛍光を発するため、蛍光タンパク質をコードするDNAがゲノムDNAに導入された細胞を決定するためには、相当期間にわたり細胞の培養・増殖を継続することが必要であり、細胞が受精卵である場合には、適切な時期に蛍光タンパク質をコードするDNAがゲノムDNAに導入された細胞を仮親等へ移植することは困難であった。
【0012】
例えば、従来のpiggyBac Transposon Vector Systemを用いた場合には、長期的に培養した場合に、結果的にGFPが発現し続けている安定株を得ることはできる可能性があるが、ピューロマイシンの薬剤選抜によりGFP陽性株が得られているともいえ、ソーティングでGFP陽性細胞を選んできても、ピューロマイシンをかけなければそのうちGFP陰性の細胞がでてくることが予想される。しかし、より短期間で遺伝子導入細胞を選別できることが可能になれば、染色体への遺伝子導入前(エピソーマルな発現)と後での発現の違いを見たり、短期的な培養をする細胞や胚の遺伝子導入選別に特に有効となる。
【0013】
本発明者らは、外来タンパク質をコードするDNAを宿主のゲノムDNAに導入するために、5’末端側の末端逆位配列(ITR;inverted terminal repeats)を含む5’末端側piggyBacトランスポゾン配列と、3’末端側の末端逆位配列を含む3’末端側piggyBacトランスポゾン配列との間に、哺乳動物細胞で機能する外来タンパク質プロモーターDNAと該プロモーターDNAの下流に作動可能に連結された外来タンパク質をコードするDNAを含むトランスポゾン領域と、哺乳動物細胞で機能する判定用プロモーターDNAの下流かつITR配列の上流に判定用蛍光タンパク質をコードするDNAを作動可能に連結したpiggyBacトランスポゾンベクターと、piggyBacトランスポゼーズとを用いて検討を行った。上記外来タンパク質としてGFP((Green Fluorescent Protein)を用い、判定用蛍光タンパク質としてKO(Kusabira-Orange:クサビラオレンジ)を用いたトランスポゾンベクターをpiggyBacトランスポゼーズとともに、ヒト293T細胞に注入したところ、5日目ごろまでに判定用蛍光タンパク質の蛍光が急速に減衰した細胞において、上記GFPをコードするDNAが細胞のゲノムDNAに導入されていることを見いだした。
【0014】
同様の検討をマウスの受精卵や霊長類の受精卵について行ったところ、piggyBacトランスポゾンベクターを注入後、24時間までに上記KOの蛍光が急速に減衰し、GFPが発現し続けている細胞において、上記外来タンパク質であるGFPをコードするDNAがゲノムDNAに導入されていることを確認した。また、トランスジェニック非ヒトモデル動物の作出において、KOの蛍光が急速に減衰し、GFPが発現している胚を選択し、トランスポゾン注入後96~120時間に仮親へ移植することにより、GFPをコードする遺伝子が受精卵細胞のゲノムに組み込まれたトランスジェニック非ヒトモデル動物の作出の成功率が飛躍的に上昇した。これまで、外来遺伝子が導入された細胞の選択は、不可能ではないもののその確率は低く、実験者の勘やノウハウに頼ることも多いものであったが、かかる方法を用いることにより、判定用蛍光タンパク質の蛍光が急速に減衰した細胞を外来遺伝子が導入された細胞として選択できる確率が顕著に高くなったことを確認して、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は以下の特許請求の範囲に記載された事項により特定される。
[1](A)外来遺伝子導入判定領域及び(B)piggyBacトランスポゾン領域を含む、哺乳動物細胞への外来遺伝子導入用ベクターであって;
上記(A)外来遺伝子導入判定領域が、(a1)哺乳動物細胞で機能する判定用プロモーターDNA、及び(a2)前記判定用プロモーターDNAの下流に作動可能に連結している判定用蛍光タンパク質をコードするDNAを含み、上記(B)piggyBacトランスポゾン領域が、(b1)5’末端側と3’末端側とに付加されたpiggyBacトランスポゼーズが認識する一対のpiggyBacトランスポゾン配列、及び、該トランスポゾン配列間に配置された(b2)哺乳動物細胞で機能する外来タンパク質プロモーターDNAと、(b3)前記外来タンパク質プロモーターDNAの下流に作動可能に連結された蛍光標識タンパク質を含む外来タンパク質をコードするDNAを含むことを特徴とする外来遺伝子導入用ベクター。
[2]蛍光標識タンパク質を含む外来タンパク質が、蛍光標識タンパク質に加えて、さらに1又は2以上の目的タンパク質を含むことを特徴とする上記[1]記載のベクター。
[3]外来遺伝子導入判定領域が、さらに(a3)タンパク質不安定化ペプチドをコードするDNAを含むことを特徴とする上記[1]又は[2]記載のベクター。
[4]外来遺伝子導入判定領域の蛍光タンパク質が発する蛍光と蛍光標識タンパク質が発する蛍光が補色の関係にあることを特徴とする上記[1]~[3]のいずれか記載のベクター。
[5]上記[1]~[4]いずれか記載のpiggyBac外来遺伝子導入用ベクターと、piggyBacトランスポゼーズとを備える外来遺伝子導入用ベクターキット。
[6]以下の(イ)~(ニ)の工程を備える外来遺伝子導入細胞を選択する方法。
(イ)上記[1]~[4]いずれか記載の外来遺伝子導入用ベクターを準備する工程;
(ロ)哺乳類動物の細胞を調製する工程;
(ハ)上記(イ)で準備した外来遺伝子導入用ベクターとpiggyBacトランスポゼーズとを細胞に注入する工程;
(ニ)外来遺伝子導入用ベクターによる判定用蛍光タンパク質の蛍光が急速に減衰している細胞を外来遺伝子が導入された外来遺伝子導入細胞として選択する工程;
[7]外来遺伝子導入細胞が受精卵であることを特徴とする上記[6]記載の方法。
[8]上記[7]記載の方法により選択された外来遺伝子導入受精卵を非ヒト哺乳類動物仮母に移植し、産子を取得する工程を含むことを特徴とする非ヒト哺乳類トランスジェニック動物を作出する方法。
[9]上記[8]記載の方法により作出された非ヒト哺乳類トランスジェニック動物から得られた、外来遺伝子を有し、生殖能・受精能を有する非ヒト哺乳類トランスジェニック動物細胞。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】外来遺伝子導入判定領域とpiggyBacトランスポゾン領域を含むベクターの模式図である。(a)は、CMV-h(humanized :ヒト)KO1-d2PEST-ポリA-PB5’TR-CMVプロモーター-eGFP-ポリA-PB3’TRの構成であり、(b)は、CMVプロモーター-hKO1-d2PEST-ポリA-CMVプロモーター-hKO1d2PEST-ポリA-PB5’TR-CMVプロモータ-eGFP-ポリA-PB3’TRの構成である。
図2】KO/EGFP-PBトランスポゾン含有環状ベクターと、piggyBacトランスポゼーズ含有環状ベクターとをトランスフェクト後の293T細胞について、EGFPとKOの発現を経時的に観察した図である。倒立型蛍光顕微鏡による観察を(a1)及び(b1)に示す。FACS解析を(a2)及び(b2)に示す。
図3】マウス胚の雄性前核にマイクロインジェクションした場合の倒立型蛍光顕微鏡により観察した図である。(a)は、KO/EGFP-PBトランスポゾン含有直鎖ベクターと、piggyBacトランスポゼーズmRNAとをマイクロインジェクションした場合、(b)は、KO/EGFP-PBトランスポゾン含有直鎖ベクターをマイクロインジェクションした場合、(c)は、EGFPがゲノムDNAに挿入されたと推定される細胞を観察した図である。
図4】EGFPをコードするDNAを含む(a)直鎖ベクター又は(b)環状ベクターをマイクロインジェクションした場合の倒立型蛍光顕微鏡により観察した図である。
図5】野生型(ネガティブコントロール)、トランスジェニックマーモセット仔1及び仔2の胎盤、仔1及び仔2の毛根、仔1及び仔2の皮膚、仔1及び仔2の血液のRT-PCRの結果を示す。
図6】変異LRRK2含有piggyBacベクターの構成を表す図である。
図7】変異LRRK2含有piggyBacベクターと、piggyBacトランスポゼーズ環状ベクターとをコトランスフェクト後の293T細胞について、EGFPとKOの発現を経時的に観察した図である。
図8】G protein-coupled receptor 56(gpr56)ミニマムプロモーター含有piggyBacベクターの構成を表す図である。
図9】gpr56ミニマムプロモーター含有piggyBacベクターとpiggyBacトランスポゼーズベクターとをコトランスフェクト後のマウスニューロスフェアについて、CeruleanとEGFPとKOの発現を経時的に観察した図と発光を観察した図である。
図10】gpr56ミニマムプロモーター含有piggyBacベクターとpiggyBacトランスポゼーズmRNAをマウス胚の雄性前核にマイクロインジェクションし、蛍光発現を経時的に倒立型蛍光顕微鏡により観察した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の哺乳動物細胞への外来遺伝子導入用ベクターとしては、(A)外来遺伝子導入判定領域及び(B)piggyBacトランスポゾン領域を含むベクターであって、かつ、piggyBacトランスポゼーズ(トランスポゾン転移酵素)を使用することにより、公知のpiggyBacトランスポゾン転移機構を利用して哺乳動物細胞(宿主細胞)ゲノムへの外来遺伝子DNAの組み込みを行うことができるベクターであり、上記(A)外来遺伝子導入判定領域は、(a1)哺乳動物細胞で機能する判定用プロモーターDNAと、(a2)前記判定用プロモーターDNAの下流に作動可能に連結している判定用蛍光タンパク質をコードするDNAとを含み、上記(B)piggyBacトランスポゾン領域は、(b1)5’末端側と3’末端側に付加されたpiggyBacトランスポゼーズが認識する一対のpiggyBacトランスポゾン配列、及び、該トランスポゾン配列間に配置された(b2)哺乳動物細胞で機能する外来タンパク質プロモーターDNAと、(b3)前記外来タンパク質プロモーターDNAの下流に作動可能に連結された蛍光標識タンパク質とを含む外来タンパク質をコードするDNAを含むことを特徴とする領域であれば特に制限されず、上記(B)piggyBacトランスポゾン領域は、前記(A)外来遺伝子導入判定領域の上流又は下流に位置することができる。なお、本発明のpiggyBac外来遺伝子導入用ベクターは、該piggyBac外来遺伝子導入用ベクターとpiggyBacトランスポゼーズとを備える外来遺伝子導入用ベクターキットとして使用されることもできる。
【0018】
上記piggyBacトランスポゾン転移機構によると、piggyBacトランスポゼーズが、上記(B)のトランスポゾン領域に存在する一対のトランスポゾン配列を認識して、トランスポゾン配列のTTAA配列において、外来遺伝子DNA配列を含む領域を切り取り、切り取られた外来遺伝子のDNAを非ヒト哺乳動物(宿主)の細胞のゲノムDNAにおけるTTAA配列領域に挿入することにより、宿主細胞のゲノムDNAに外来遺伝子を導入することができる。
【0019】
本発明において哺乳動物細胞としては、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、ウシ等とともに、サル、マーモセット等の非ヒト霊長類動物、ヒトの細胞を例示することができる。
【0020】
また、安楽殺を防ぐことがコスト的にまた倫理的に強く要求されているという点で、非ヒト霊長類モデル動物の作出を目的として本発明のキットを用いる場合においては、上記哺乳動物細胞としては、テナガザル等のテナガザル科の霊長類、アカゲザル(Macaca mulatta)、カニクイザル(Macaca fascicularis)等のオナガザル科に属する霊長類、コモンマーモセット(Callithrix jacchus)、ピグミーマーモセット(Cebuella pygmaea)、ワタボウシパンシェ(Satuinus oedipus)、アカテタマリン(Sauinaus midas)、ゴールデンライオンタマリン(Leontopithecus rosalia)等のマーモセット科に属する霊長類、スローロリス(Nycticebus coucang)等のロリス科に属する霊長類などの霊長類動物を特に挙げることができるが、1歳半で性的に成熟し、1回の出産につき2~3匹の産子を取得でき、妊娠期間が平均150日で、授乳中も妊娠可能であるため年に2回の出産が可能であるマーモセット科の霊長類動物が好ましく、小型で育種が容易であるという点で、コモンマーモセットが特に好ましい。
【0021】
本発明における哺乳動物の細胞(宿主細胞)としては、本発明の効果を奏することができる細胞であれば特に制限されないが、一細胞である受精卵;かかる受精卵が1回以上体細胞分裂した2細胞期の胚、4細胞期の胚、8細胞期の胚、桑実胚及び/又は胚盤胞期等の初期胚;多能性幹細胞を好ましく挙げることができるが、モザイク胚の発生を防ぎ、単一胚から発生した疾患メカニズムの研究や創薬のための優れた疾患モデル動物を作出できる点で一細胞の、受精卵や多能性幹細胞が好ましい。
【0022】
上記一細胞である受精卵としては、精子が卵子内に進入し、精子の核と卵子の核が融合する受精より形成された、体細胞分裂により成長可能な一細胞を挙げることができ、さらに詳細には、体内受精後に体外へ採取(採卵)された体内受精による受精卵や、体外受精による受精卵や、これらの受精卵を凍結保存後解凍した受精卵を挙げることができる。
【0023】
上記多能性幹細胞としては、初期胚より単離される胚性幹細胞(embryonic stem cells:ES細胞)や、胎児期の始原生殖細胞から単離される胚性生殖細胞(embryonic germ cells:EG細胞)(例えばProc Natl Acad Sci U S A. 1998, 95:13726-31参照)や、出生直後の精巣から単離される生殖細胞系列幹細胞(germline stem cells:GS細胞)(例えば、Nature. 2008, 456:344-9参照)や、骨髄由来の幹細胞、脂肪組織由来の幹細胞等の間葉系幹細胞、さらには、皮膚細胞等の体細胞に複数の遺伝子を導入することで、体細胞の脱分化を誘導し、ES細胞同様の多能性を有する誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell; iPS細胞))を挙げることができ、通常、Oct3/4遺伝子、Klf4遺伝子、c-Myc、Sox2遺伝子を導入することによって得られるiPS細胞(Nat Biotechnol 2008; 26: 101-106)を例示することができるが、マーモセットでは、さらにNanog、Lin28が必要であることも知られている。
【0024】
上記piggyBacトランスポゾンとしては、鱗翅目(Lepidopteran)に属するイラクサギンウワバ(Trichopulsia ni)に感染する核多角体病ウイルス由来のトランスポゾンを挙げることができ、さらにその改変体を含めることができる。
【0025】
上記一対のトランスポゾン(TR)配列としては、TTAA配列を両端に有する、piggyBacトランスポゼーズが認識する、5’末端側及び3’末端側に存在する一対のITRであれば特に制限されず、一対のトランスポゾン配列の一般式としては、5’末端側のトランスポゾン配列が、TTAAに続くn個の塩基配列からなる相補的な二本鎖
5’-TTAAX......Xn-1-3’
3’-AATTY......Yn-1-5’である場合に、
3’末端側のトランスポゾン配列は、以下のTTAAの上流のm個の塩基配列からなる相補的な二本鎖
5’-Ym-1......YTTAA-3’
3’-Xm-1......XAATT-5’
(ただし、n又はm個の塩基は、適当数の任意の塩基を挟んで存在することもでき、n≠m又はn=mである)
として示すことができる。
【0026】
具体的なトランスポゾン配列としては、配列番号1に示される313塩基からなる5’末端側のpiggyBacトランスポゾン配列(5’TR)や、配列番号2に示される235塩基からなる3’末端側のpiggyBacトランスポゾン配列(3’TR)を例示することができる。各TR配列の詳細としては、5’TRのTTAAの下流に位置する13塩基のCCCTAGAAAGATA(配列番号3)のITR及び3塩基挟んでさらにその下流に位置する19塩基のTGCGTAAAATTGACGCATG(配列番号4)のITRを含む配列と、3’TRのTTAAの上流に位置する13塩基TATCTTTCTAGGG(配列番号5)のITR及び31塩基挟んでさらにその上流に位置する19塩基のCATGCGTCAATTTTACGCA(配列番号6)のITRを含む配列を例示することができ、5’TRと3’TRとに挟まれているとが目的遺伝子が切り貼りされうるという、piggyBacトランスポゾンとpiggyBacトランスポゼーズによるトランスポゾンの遺伝子導入作用を奏する配列である限りにおいて、上記例示された一対のトランスポゾン配列の一又は二以上の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含めることもできる。
【0027】
上記(A)外来遺伝子導入判定領域における、(a1)判定用プロモーターDNAとしては、哺乳動物細胞で機能するプロモーターDNAであれば特に制限されず、CAG(ニワトリβアクチン)プロモーター、PGK(ホスホグリセリン酸キナーゼ)プロモーター、EF1α(エロンゲーションファクター1α)プロモーター等の哺乳動物細胞由来のプロモーターや、サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)プロモーター、シミアンウイルス40(SV40)プロモーター、レトロウイルスプロモーター、ポリオーマウイルスプロモーター、アデノウイルスプロモーター等のウイルスプロモーター、EOS (Early Transposon promoter and Oct-4 (Pou5f1) and Sox2 enhancers)などを例示することができるが、CAGプロモーターやCMVプロモーターが好ましい。
【0028】
上記(A)外来遺伝子導入判定領域における、(a2)判定用蛍光タンパク質をコードするDNAとしては、前記(a1)のプロモーターDNAの下流に作動可能に連結している蛍光タンパク質をコードするDNAであれば特に制限されず、上記蛍光タンパク質としては、395nm前後の励起光を照射することにより緑色の蛍光を発するGFP、480~500nm前後の励起光を照射することにより高感度緑色蛍光タンパク質を発するEGFP(Enhanced Green Fluorescent Protein)、500~530nm前後の励起光を照射することにより黄色の蛍光を発するYFP、YFPの変異体であるVenus、540~560nm前後の励起光を照射することによりオレンジ色の蛍光を発するKO1やKO2等のKO、430~440nm前後の励起光を照射することによりシアン色蛍光を発するCerulean等のCFP(Cyan Fluorescent Protein)等を例示することができるが、遺伝子が発現している場合に長期間検出可能で、かつ胚発生を阻害しない点でCerulean、GFP、EGFP、KO等の蛍光タンパク質が好ましい。また、ルシフェラーゼ等の発光タンパク質も、ここでは便宜上、蛍光タンパク質に含めることができる。なお、hKO(humanized Kusabira-Orange)は、マーモセットやマウス等においてもKOとしての効果を十分に奏することを本発明者らは確認している。
【0029】
本発明において、「作動可能に連結」とは、各DNAの配列が連続的に連結され、かつDNAがタンパク質をコードしている場合、その読み枠が合っていることを意味し、各DNAの3’末端と、その下流のDNAの5’末端とは、本発明の効果が得られる限り、直接連結していなくてもよいが、直接連結していることが好ましい。また、上記判定用蛍光タンパク質をコードするDNAの下流に、mRNAに安定性を付与し、翻訳を促進する作用を有するとされるポリA領域(pA)をさらに連結することもできる
【0030】
(A)の外来遺伝子導入判定領域においては、さらに(a3)前記(a1)のプロモーターDNAの下流に作動可能に連結しているタンパク質不安定化ペプチドをコードするDNA;をさらに含むことができる。タンパク質不安定化ペプチドの作用により、上記判定用蛍光タンパク質をより速く分解させることができる。
【0031】
本発明におけるタンパク質不安定化ペプチドとしては、標的とするタンパク質に融合することにより、かかるタンパク質の生体内における半減期を短縮する作用を有するペプチドであれば特に制限されず、かかる半減期を短縮する作用としては、標的とするタンパク質を含む融合タンパク質のペプチダーゼに対する感受性が高まり、標的とするタンパク質がペプチダーゼによってより速やかに分解されるため、結果として標的とするタンパク質の半減期を短縮させる作用を挙げることができる。かかるタンパク質不安定化ペプチドは、判定用蛍光タンパク質をコードするDNAのN末端側、C末端側のいずれにおいても融合することができ、リンカー配列などを介して融合することもできる。
【0032】
上記タンパク質不安定化ペプチドのアミノ酸配列としては、タンパク質分解シグナルとして作用するP;プロリン、E;グルタミン酸、S;セリン、T;スレオニンを多く含むPEST配列や、ウラシル透過酵素等短寿命タンパク質のC末端領域由来の配列、CL1配列を挙げることができる。具体的には配列番号7に示されるd2PEST配列、配列番号8に示されるd4PEST配列や、これらのペプチド配列の1又は2以上のアミノ酸が置換、付加、欠失若しくは挿入され、かつ前記ペプチドと実質的に同一のタンパク質不安定化活性を有するペプチド配列を例示することができる。ここで、dnPEST配列の「dn」は、タンパク質分解時間を示し、nの値がより小さいとより早く分解することを示す。また蛍光タンパク質のC末端にPESTドメインが存在するマウスオルニチンデカルボキシラーゼ(MODC)の一部を融合させて構築した不安定化蛍光タンパク質(クロンテック社製)等の市販品を用いることもできる。
【0033】
上記一対のトランスポゾン配列間に配置された(b2)外来タンパク質プロモーターDNAとしては、哺乳動物細胞で機能するプロモーターDNA配列であれば特に制限されず、前記判定用プロモーターDNAとして例示されたプロモーターを挙げることができ、プロモーター干渉によりいずれかのタンパク質の発現が顕著に低下するということがない限りにおいて、前記判定用プロモーターのDNAと同一の配列を有するDNAでも異なる配列を有するDNAでもよい。
【0034】
上記一対のトランスポゾン配列間に配置された(b3)外来タンパク質をコードするDNAとしては、上記外来タンパク質プロモーターDNAの下流に作動可能に連結された蛍光標識タンパク質を含む外来タンパク質をコードするDNAであれば特に制限されず、上記外来タンパク質としては、蛍光標識タンパク質のほか、宿主のインタクトな機能を変更することができる目的タンパク質を挙げることができ、外来タンパク質の構成としては、例えば、1)蛍光標識タンパク質、2)蛍光標識タンパク質と1又は2以上の目的タンパク質、3)1又は2以上の目的タンパク質等を含む構成を例示することができる。
【0035】
上記目的タンパク質の遺伝子としては、上記蛍光タンパク質以外のタンパク質であって、パーキンソン病の原因遺伝子とされる変異型αシヌクレイン遺伝子やLRRK2(Homo sapiens leucine rich repeat kinase 2)の変異遺伝子、CFC症候群原因遺伝子BRAFの変異遺伝子、神経原性筋萎縮症の原因とされるCa非依存性グループ6ホスホリパーゼA2(Pla2g6)をコードするDNAの変異遺伝子等遺伝子が過剰発現することが疾病の起因となる遺伝子や、ハンチントン病の原因遺伝子であるHuntingtin遺伝子、若年性成人発症型糖尿病の原因遺伝子であるHNF1αP291fsinsC、レギュカルチンタンパク質等を例示することができる。
【0036】
上記LRRK2の遺伝子としては、NCBI Reference Sequence: NM_198578.3に示されるHomo sapiens leucine rich repeat kinase 2, mRNAの9239bpの塩基配列で表すことができる遺伝子を例示することができる。
【0037】
上記LRRK2の変異遺伝子としては、LRRK2をコードするDNAの塩基配列の少なくとも一部が欠損、他の塩基配列が挿入又は他の塩基配列と置換等することによりLRRK2が不活化されたパーキンソン病の原因となる遺伝子を挙げることができ、具体的には、LRRK2の2019番目のグリシン残基がセリン残基に置換されている変異タンパク質をコードする変異遺伝子(配列番号9)を挙げることができる。
【0038】
かかる変異遺伝子を宿主の非ヒト哺乳動物のゲノムDNAに導入することにより、パーキンソン病モデル非ヒト哺乳動物を作出することができる。
【0039】
上記外来タンパク質プロモーターDNAとしては、前記判定用プロモーターDNAにおいて例示されたプロモーターを挙げることができる。また、非ヒト哺乳動物を作出する場合においては、前記EOS等、胚では機能するが、成体では機能しなくなるプロモーターDNA1の下流に作動可能に連結された蛍光標識タンパク質をコードするDNA(第一発現カセット)と、成体で機能するプロモーターDNA2の下流に作動可能に連結された目的タンパク質を含む外来遺伝子DNA(第二発現カセット)を備えるトランスポゾン領域の構成とすると、胚においては蛍光標識タンパク質が発現している細胞を選択することができ、かつ、成体においては、蛍光標識タンパク質が発現しない非ヒト哺乳動物を作出できる点で優れている。
【0040】
上記蛍光標識タンパク質としては、前記判定用蛍光タンパク質において例示されている蛍光タンパク質から選択することができるが、判定用蛍光タンパク質における判定が効率的にまた迅速に行われるために、目視により又はFACS等の手段により蛍光標識タンパク質と前記判定用蛍光タンパク質とを区別することができるように、判定用蛍光タンパク質が発する蛍光の波長とは異なる波長を発する蛍光標識タンパク質であることが必要であり、上記判定用蛍光タンパク質の色と補色の関係又は補色に近い関係にある色の蛍光タンパク質を蛍光標識タンパク質として選択して、蛍光標識タンパク質と前記判定用蛍光タンパク質の好ましい組合せとして用いると、より容易に蛍光標識タンパク質と前記判定用蛍光タンパク質とを目視にて区別することができる点で好ましい。
【0041】
上記蛍光標識タンパク質と前記判定用蛍光タンパク質の具体的な組合せとしては、緑色の蛍光を発するEGFPとオレンジの蛍光を発するクサビラオレンジ、緑色の蛍光を発するGFPとオレンジの蛍光を発するクサビラオレンジ、オレンジの蛍光を発するクサビラオレンジと緑色の蛍光を発するEGFP、オレンジの蛍光を発するクサビラオレンジと緑色の蛍光を発するGFP、黄色の蛍光を発するYFPとシアン蛍光を発するCFP、シアン色蛍光を発するCFPと黄色の蛍光を発するYFP、シアン系蛍光を発するCFPとオレンジの蛍光を発するクサビラオレンジ、オレンジの蛍光を示すクサビラオレンジとシアン系蛍光を発するCFP等の組合せ、また、これらの蛍光タンパク質と発光タンパク質ルシフェラーゼなどの各組合せを例示することができる。
【0042】
本発明における外来遺伝子含有ベクターの構成としては、例えばCMV-hKO1d2PEST-ポリA-PB5’TR-CMVプロモータ-EGFP-ポリA-PB3’TR(図1(a))を含む構成を挙げることができるが、本発明における効果を奏する限りにおいて制限されず、他に例えば、CMVプロモーター-hKO1-d2PEST-ポリA-CMVプロモーター-hKO1-d2PEST-ポリA-PB5’TR-CMVプロモーター-EGFP-ポリA-PB3’TR(図1(b))や、CMV-hKO1d2PEST-PB5’TR-CMVプロモーター-EGFP-PB3’TRやCMV-hKO1d2PEST-CMV-hKO1d2PEST-PB5’TR-CMV-EGFP-PB3’TR、CMVプロモーター-hKO1d2PEST-ポリA-PB5’TR-CAGプロモーター-目的タンパク質をコードするDNA-2A-EGFP-ポリA-PB3’TRや、CMVプロモーター-Cerulean-d2PEST-ポリA-PB5’TR-hgpr56-eGFP-ルシフェラーゼ-Ins-EOS-hKO1-ポリA-PB3’TRを含むベクターを挙げることができる。
【0043】
本発明におけるpiggyBacトランスポゼーズとしては、piggyBacトランスポゼーズ(タンパク質)そのものの他、piggyBacトランスポゼーズをコードするDNA配列を含む環状又は直鎖状のベクターや、piggyBacトランスポゼーズをコードするDNAから転写されたmRNA(piggyBacmRNA)やcDNA等のpiggyBacトランスポゼーズ発現物を便宜上含めることができるが、発現がより早いことを期待でき、また、トランスポゼーズ自体がゲノムに組み込まれることは好ましくないため、一過性の発現のみで留めることが望まれる点で、piggyBacトランスポゼーズmRNAを好適に挙げることができる。
【0044】
上記piggyBacトランスポゼーズ発現物を調製する方法としては、piggyBacトランスポゼーズをコードするDNAを含む環状ベクターを従来公知の方法により調製する方法や、かかる環状ベクターを適当な制限酵素を用いて直鎖状ベクターとして調製する方法や、かかる環状ベクター又は直鎖状ベクターを鋳型として、T7RNAポリメラーゼによりpiggyBacトランスポゼーズのコード領域を含むmRNAを作製する方法、又は大腸菌等によりタンパク質として発現させることにより組換piggyBacトランスポゼーズを調製する方法を例示することができる。
【0045】
本発明におけるトランスポゾンを用いる哺乳動物細胞のゲノムDNAへの外来遺伝子導入の態様は、ランダム挿入変異誘発系であり、受精卵の雄性前核もしくは受精卵の雌性前核又は受精卵細胞質に本発明におけるベクターキットを注入することにより、ヘミ接合体変異を創出することができる。
【0046】
本発明において、外来遺伝子導入細胞を選択する方法としては、以下の(イ)~(ニ)の工程を備える方法を例示することができ、かかる方法は、上記本発明の外来遺伝子導入用ベクターキットを用いて行うことが好ましい。
(イ)外来遺伝子導入用ベクターを準備する工程;
(ロ)哺乳類動物の細胞を調製する工程;
(ハ)上記(イ)で準備した外来遺伝子導入用ベクターとpiggyBacトランスポゼーズとを細胞に注入する工程;
(ニ)外来遺伝子導入用ベクターによる判定用蛍光タンパク質の蛍光が急速に減衰している細胞を外来遺伝子が導入された細胞として選択する工程;
上記外来遺伝子導入細胞を選択する方法は、外来遺伝子導入細胞の選択確率を向上させる方法でもある。
【0047】
上記(イ)の外来遺伝子導入用ベクターを準備する工程において、上記外来遺伝子導入用ベクターを作製する方法としては、従来公知の方法を用いることができるが、例えば、Gatewayクローニングシステムを用いることができる。Gatewayクローニングシステムは、λファージが大腸菌染色体へ侵入する際に関与する部位特異的組換えシステムに基づくものであり、Gatewayシグナル(att)を用いることによって、発現ベクターの構築を容易にしたものである。attP1、attP2配列を有するドナーベクターと目的遺伝子の両端にattB1、attB2配列を付加したものとの間で反応(BP反応)させることにより、目的遺伝子が組み込まれたエントリーベクター(両端にattL1、attL2配列を有する)を作製し、次いで、このエントリーベクターと発現に必要なプロモーターが組み込まれたデスティネーションベクター(attR1、attR2配列を付加)と組みかえ反応(LR反応)することにより、目的遺伝子が挿入されたベクター(発現ベクター)を作製する方法である。具体的には、例えば、Add gene社より購入したトランスポゾン領域の入ったデスティネーションベクターであるPB-CA-rtTAAdvを用いることができ、また、PB-CA-rtTAAdvにおけるプロモーターを改変し、及び/又は、Gateway部分を変更したベクターを使用することができる。また、Medical Research Council国立研究所(UK)が供給するKO/EGFP-PBトランスポゾン含有環状ベクターを用いてPB-CA-rtTAAdvとプロモーターとGFPが入っているエントリーベクターを作製することも可能である。また、胚の発生能を低下させることのないベクターを用いて作製する方法が好ましい。
【0048】
上記(ロ)の哺乳類動物の細胞を調製する工程において、従前公知の方法を用いて前記哺乳動物の細胞を調製することができ、非ヒト霊長類動物については、体外受精の方法や受精卵の採取の方法として、特開2012-125410やWO2009/096101に記載されている方法を例示することができる。
【0049】
上記(ハ)の細胞に外来遺伝子導入用ベクターと上記トランスポゼーズを注入する工程において、細胞に、外来遺伝子含有piggyBacトランスポゾンベクターをpiggyBacトランスポゼーズとともに注入する方法としては、外来遺伝子を細胞のゲノムに導入できる方法であれば特に制限されないが、例えば、外来遺伝子含有ベクターとpiggyBacトランスポゼーズベクターもしくはトランスポゼーズベクターを鋳型として作製したmRNAと、opti-MEM(Thermo Scientific社製)もしくは生理食塩水とを、Lipofectamineを用いてリポフェクションする;マイクロインジェクションにより注入する;エレクトロポレーションする;等の方法を挙げることができ、細胞にベクターを注入する場合は、piggyBacトランスポゾン環状ベクターとpiggyBacトランスポゼーズ環状ベクターとをopti-MEM溶液を用いてリポフェクションする方法を好ましく挙げることができ、受精卵に注入する場合は、外来遺伝子含有piggyBacトランスポゾン環状ベクターとトランスポゼーズmRNAとを生理食塩水を用いてマイクロインジェクションする方法を好適に挙げることができ、ニューロスフィアに注入する場合は、外来遺伝子含有piggyBacトランスポゾン環状ベクターとトランスポゼーズmRNAとをエレクトロポレーションする方法を好適に挙げることができる。
【0050】
上記外来遺伝子含有ベクターを上記トランスポゼーズとともに注入する上記細胞の個所としては、本発明の効果を奏することができる部位であれば特に制限されないが、モザイク胚の発生を最小限とするために一細胞期の受精卵の雄性前核、雌性前核、細胞質等に注入することが好ましく、マイクロインジェクションの場合は、雄性前核が雌性前核と比較してより大きいため注入しやすいという操作性の点で、雄性前核注入を好適に挙げることができる。雄性前核とは、受精卵で形成される精子由来の核であって、受精卵の端部で形成された後、受精卵の中心部へ移動し、雌性前核と融合して、子の核が作られる。上記溶液の注入量としては、受精卵中の上記注入部位の体積を満たす程度であればよく、例えばマーモセットの受精卵中の注入個所が雄性前核である場合、1~10pLが好ましく、2~8pLがより好ましく、3~7pLがさらに好ましく、4~6pLが特に好ましい。また、マイクロインジェクションにより細胞質に注入した場合でもトランスポゼーズの作用により外来遺伝子をゲノムDNAへ導入することが可能であるため、前核が小さく注入が難しいマーモセット等の霊長類などには細胞質注入が有効である。
【0051】
上記(ニ)の外来遺伝子が導入された細胞を選択する工程としては、判定用蛍光タンパク質の蛍光が急速に減衰している細胞を選択する工程であれば特に制限されず、判定用蛍光タンパク質の蛍光が急速に減衰している細胞としては、細胞内に注入された外来遺伝子含有ベクターのトランスポゾン配列をトランスポゼーズが認識して切り取ることにより、トランスポゾン領域が宿主細胞のゲノムDNAに挿入される一方、挿入されなかった外来遺伝子導入判定領域における判定用蛍光タンパク質をコードするDNAの発現による蛍光強度が、トランスポゼーズにより切り取られなかったベクターにおける判定用蛍光タンパク質の蛍光強度と比較して顕著に小さくなることを挙げることができる。具体的には、ヒト293T細胞の場合は、トランスポゾン領域が宿主細胞に導入されなかったときはベクター注入後5日目までは判定用蛍光タンパク質が発現し、15日目までに徐々に減衰するのに対し、宿主細胞に導入されたときは、ベクター注入後5日目までに判定用蛍光タンパク質の蛍光がほぼ消滅する。また、マウス受精卵の場合は、トランスポゾン領域が宿主細胞に導入されなかったときはベクター注入後胚盤胞の段階に至る4日目から5日目まで判定用蛍光タンパク質が発現するのに対し、宿主細胞に導入されたときはベクター注入後1日目(24時間)までに判定用蛍光タンパク質の蛍光が、蛍光顕微鏡を用いた目視において確認できなくなる。霊長類の受精卵の場合は、宿主細胞に導入されなかったときはベクター注入後胚盤胞の段階に至る10日目まで判定用蛍光タンパク質が発現し、宿主細胞のゲノムに導入されたときはベクター注入後1日目(24時間)までに判定用蛍光タンパク質の蛍光が、蛍光顕微鏡を用いた目視において確認できなくなる。したがって、外来遺伝子の導入を行った場合、判定用蛍光タンパク質の蛍光が、ベクター注入後72時間以降、好ましくは48時間以降、より好ましくは36時間以降、さらに好ましくは24時間以降等、早期に消失した細胞が、外来遺伝子導入が行われた細胞であると判定することができる。しかし、かかる判定用蛍光タンパク質の蛍光の減衰速度の加速化についてのメカニズムについてはいまだ明らかになっていない。
【0052】
上記(ニ)の外来遺伝子が導入された細胞を選択する工程において、外来遺伝子が上記蛍光標識タンパク質を含む場合には、外来遺伝子が宿主細胞に導入されたときに、宿主細胞においては細胞の増殖に伴い蛍光標識タンパク質による蛍光が徐々に強くなる一方で、判定用蛍光タンパク質の蛍光は急速に減衰する。他方、外来遺伝子が宿主細胞に導入されない場合は、判定用蛍光タンパク質と蛍光標識タンパク質は暫時蛍光が持続するが、二種類の蛍光が増強することはなく徐々に減衰し、やがて消滅する。したがって、判定用蛍光タンパク質の蛍光が急速に減衰した細胞を選択することにより、蛍光標識タンパク質のみを使用する場合よりも、本発明の判定用蛍光タンパク質外来遺伝子を併用する本発明のキットを用いて遺伝子の導入を行う方が、外来遺伝子が導入された細胞の選択率は顕著に高くなる。
【0053】
上記蛍光強度の具体的な判定方法としては、蛍光顕微鏡による目視やFACSによるフローサイトメトリー解析により行うことができる。目視の場合は、倒立型蛍光顕微鏡により、例えば、感度400露光時間・1秒、又はこれと同等の効果を有する条件で観察した場合に、目視で蛍光が認められると判断することができる。
【0054】
前記非ヒト哺乳類トランスジェニック動物を作出する方法としては、採取した受精卵を子宮に戻し産子を取得する方法であれば特に制限されず、マウスの場合はゲノムDNAに外来遺伝子が導入されたと判断される受精卵を、非ヒト哺乳類動物仮母として、偽妊娠マウス等の仮親マウスの卵管や子宮へ移植し、出産直前に帝王切開又は自然分娩を行い、新生子マウスを得、さらに里子操作を行うことにより、トランスジェニックマウスを得る方法を例示することができる。また、非ヒト霊長類動物の場合は、例えば、特開2012-125410やWO2009/096101に記載されている方法により体内に受精卵を戻し、トランスジェニックマーモセット等のトランスジェニック非ヒト霊長類動物を得ることができる。
【0055】
トランスジェニックマーモセットの作出においては、PBトランスポゾン含有環状ベクターとpiggyBacトランスポゼーズを体外受精後15~2時間のマーモセット受精卵の細胞質にマイクロインジェクションした後、マイクロインジェクション後4-5日(96~120時間)目に6細胞期から16細胞期まで発生した胚のうち、判定領域の蛍光タンパク質の蛍光が急速に(例えばマイクロインジェクション後24時間までに)減衰し、蛍光標識タンパク質の発現が安定している細胞を仮親へ移植することが好ましい。
【0056】
上記非ヒト霊長類ランスジェニック動物細胞に、外来遺伝子が導入されているかどうかは、例えば、各外来タンパク質をコードするDNAに対応するプライマーセットを用いてPCR法により、確認することができる。
【0057】
外来遺伝子が導入されたトランスジェニック動物について後代検定を行うことにより、外来タンパク質の発現が確認された非ヒト哺乳類トランスジェニック動物を得ることができ、かかる動物から生殖能及び/又は受精能を有する非ヒト哺乳類トランスジェニック動物細胞を得ることができる。
【0058】
前記外来遺伝子導入細胞を選択する方法により選択された外来遺伝子導入細胞は、導入された外来遺伝子に因る疾病を改善するための薬剤をスクリーニングするためのスクリーニング用細胞として使用することもできる。
【0059】
例えば、外来遺伝子としてLRRK2の変異遺伝子を導入した外来遺伝子導入細胞は、パーキンソン病の治療薬をスクリーニングするための細胞として用いることができる。例えば、LRRK2の2019番目のグリシン残基がセリン残基となる変異により、LRRK2のもつセリン/スレオニンリン酸化活性が過剰にはたらくことでパーキンソン病の原因となっていることが示されており、かかるLRRK2変異をもつ神経幹細胞では継代に依存してさまざまな基質が過剰にリン酸化されて、核膜の変形など表現型の原因になっている可能性があるとされている。したがって、継代を重ねた上記LRRK2変異を有する神経幹細胞であって、核膜の変形など表現型がある細胞について、被検物質を培地に添加することにより核膜の変形がレスキューされた場合に、当該被検物質をパーキンソン病治療薬の候補物質としてピックアップすることができる。
【0060】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例
【0061】
[実施例1]
[ヒト胚性腎臓293T細胞への外来遺伝子導入]
KO/EGFP-piggybac(PB)トランスポゾン含有環状ベクターと、piggyBacトランスポゼーズベクター(Medical Research Council(UK)社製)とを用いて、EGFPタンパク質をコードするDNAをヒト胚性腎臓293T細胞のゲノムDNAに導入することを試みた。なお、ヒト胚性腎臓293T細胞は、ヒト胎児由来腎臓上皮細胞である293細胞にSV40Tが導入された細胞である。
【0062】
(ヒト胚性腎臓293T細胞の調製)
ヒト胚性腎臓293T細胞(Riken BioResource Center 社製)を10%加熱不活化ウシ胎児血清と1%の抗真菌性抗生物質溶液(antibiotic-antimycotic solution)とを添加したDMEM培地(ダルベッコ改変イーグル培地)中において増殖させた。
【0063】
[KO/EGFP-PBトランスポゾン含有環状ベクターの作製]
(外来遺伝子導入判定領域の調製)
判定用プロモーターDNAとして、配列番号10に示される判定用プロモーターであるCMVプロモーターDNA;判定用プロモーターDNAの下流に作動可能に連結している蛍光タンパク質としてのhKO1をコードする、配列番号11に示されるDNA配列;hKO1に作用するタンパク質不安定化配列をコードするDNAとして、配列番号7に示されるd2pest;さらにもう一度配列番号10に示される判定用プロモーターであるCMVプロモーターDNA;判定用プロモーターDNAの下流に作動可能に連結している蛍光タンパク質としてのhKO1をコードする、配列番号11に示されるDNA配列;hKO1に作用するタンパク質不安定化配列をコードするDNAとして、配列番号7に示されるd2pest;をコードするDNA;及び配列番号12に示されるポリAのDNA配列;を順次連結することにより上記外来遺伝子導入判定領域とした。
【0064】
上記PEST配列の必要性については293T細胞を用いて事前検討を行った。外来遺伝子導入判定領域の判定用蛍光タンパク質としてKOを用い、piggyBacトランスポゾン領域の蛍光標識タンパク質としてGFPを用いた場合、PEST配列がないとKOの蛍光が強いまま、GFPのフィルターに漏れこみ、判定が困難になる場合があることを確認した。用いるプロモーターの種類により、GFPの発現強度が違うため、各種ベクター毎にKOd4PEST又はKOd2PESTを選択することが好ましいことを確認している(データ示さず)。以下の検討では、KOd2PESTを用いて行うこととした。
【0065】
(PBトランスポゾン領域の調製)
次いで、Piggybac(PB)トランスポゾンの5’末端のDNA配列であるPB5’TR(配列番号1)と、PBトランスポゾンの3’末端のDNA配列PB3’TR(配列番号2)とが、一対の逆向き反復配列を構成しているPBトランスポゾン領域を含む環状ベクターを作製した。
【0066】
上記PBトランスポゾン領域内の非ヒト霊長類動物細胞で機能する外来タンパク質プロモーターDNAとして、配列番号13に示されるCMVプロモーターDNA;上記CMVプロモーターの下流に作動可能に連結された外来タンパク質をコードするDNAとして配列番号14に示されるEGFP遺伝子をコードするDNA;及び配列番号12に示されるポリAのDNA配列;を用いることにより、PB5’TRDNA、CMVプロモーターDNA、EGFPをコードするDNA、ポリADNA、PB3’TRDNA、を5’末端から順次含むEGFP含有PBトランスポゾン領域とした。
【0067】
(KO/EGFP-PBトランスポゾン含有環状ベクターの構成)
PB-CA-rtTAAdvにおけるプロモーターを改変したディスティネーションベクターをバックボーンとして、CMV-hKOとCMV-GFP(エントリーベクターにのったもの)を挿入した CMVプロモーター-hKO1d2PEST-CMVプロモーター-hKO1d2PEST-PB5’TR-CMVプロモーター-EGFP-PB3’TRの構成を含む、KO/EGFP-PBトランスポゾン含有環状ベクター(配列番号16)の具体的な構成は、以下のとおりである。
【0068】
判定用のCMVプロモーターDNA配列(配列番号10):
配列番号16の第1978番から第2566番、及び第3551番から第4139番までの塩基配列;
hKO1(配列番号11):
配列番号16の第2584番から第3237番、及び第4157番から第4810番までの塩基配列;
d2PEST(配列番号7):
配列番号16の第3244番から第3367番、及び第4817番から第4940番までの塩基配列;
ポリA(配列番号12):
配列番号16の第3371番から第3491番、及び第4944番から第5064番までの塩基配列;
PB5’TR(配列番号1):
配列番号16の第5194番から第5506番までの塩基配列;
CMVプロモーターDNA(配列番号13):
配列番号16の第5572番から第6100番までの塩基配列;
EGFPをコードするDNA配列(配列番号14):
配列番号16の第6124番から第6841番までの塩基配列;
PB3’TR(配列番号2):
配列番号16の第7606番から第7840番までの塩基配列;
【0069】
(piggyBacトランスポゼーズ発現用ベクターの作製)
上記PBトランスポゾン領域における一対の逆向き反復配列を認識するトランスポゼーズをコードするDNA配列を含むpiggyBacトランスポゼーズ発現用ベクターをMedical Research Council (UK)から購入した。かかるベクターには、CMVプロモーターDNA配列(配列番号17)の下流に、上記piggyBacトランスポゼーズをコードするDNA配列として、Yusa et al, PNAS 2011に記載があり、Medical Research Council国立研究所(UK)が供給するHyPBase(hyperactive piggybac transposase)をコードするDNA配列(配列番号18)、及びポリA(配列番号12)が組み込まれている。
【0070】
(293T細胞へのコトランスフェクション)
上記KO/EGFP-PBトランスポゾン含有環状ベクターと、piggyBacトランスポゼーズ環状ベクターとを濃度比2:1にて、合計1μg/mlを上記293T細胞にコトランスフェクションした(Day0)。KO/EGFP-PBトランスポゾン含有環状ベクターのみをトランスフェクトした293T細胞をネガティブコントロールとした。トランスフェクト後の293T細胞について、励起光488nmを用いてEGFPを、励起光548~584nmを用いてKO1とGFPを、倒立型蛍光顕微鏡(IX71型、オリンパス社製;カメラDP73 感度400露光時間・1秒)で経時的に観察した。結果を図2の(a1)及び(b1)に示す。EGFPとhKO1のFACS解析も行った。結果を図2の(a2)及び(b2)に示す。
【0071】
(結果)
図2(a1)及び(a2)から明らかなとおり、KO/EGFP-PBトランスポゾン含有環状ベクターのみを添加したネガティブコントロール細胞においては、Day1にEGFP(緑)とhKO1(オレンジ)の発現が開始された。Day5においても、EGFPとhKO1の両方が強く発現していることが、EGFPとhKO1の蛍光の目視観察(a1)及びFACS解析(a2)から確認できる。しかし、Day15では、EGFPによる蛍光とhKO1による蛍光のいずれもがほとんど消滅した。
【0072】
したがって、piggyBacトランスポゼーズベクターが添加されず、トランスポゾン含有環状ベクターにおいて、トランスポゾン領域が切り出されない場合は、EGFPとKOが共発現する状態が少なくともDay5までは続くこと、その後Day15までには、hKO1、EGFPいずれの発現も消失することが確認された。図2(a2)のFACSデータから明らかなとおり、KO/EGFP-PBトランスポゾン含有環状ベクターのみを添加し、piggyBacトランスポゼーズベクターを添加しなかった細胞においては、EGFPが導入された細胞は、ほぼなかった。293T細胞はランダムインテグレーションしやすいので、EGFPもしくはhKO1のみ導入される細胞が存在する可能性があるが、その可能性を加味しても、EGFPが導入された細胞はなかったといえる。
【0073】
一方、図2(b1)及び(b2)から明らかなとおり、上記KO/EGFP-PBトランスポゾン含有環状ベクターとpiggyBacトランスポゼーズ環状ベクターとをコトランスフェクトした細胞(b細胞)においては、Day1にEGFPとKO1の発現が観察できるが、Day5では、上記(a)細胞と比較して、GFPの緑色蛍光が強く、KO1のオレンジ色蛍光の強度は小さいことから、EGFPのみが発現している細胞が存在することと、EGFPとKO1の両方を発現している細胞とが混在していることが確認された。したがって、トランスポゼーズの作用によりEGFPがゲノムDNAに導入された場合、EGFPの発現は安定・増強する一方で、ゲノムDNAに導入されなかったKO1の発現は5日目ごろまでに急速に減衰することが確認された。Day15においては、KO1の蛍光は観察されずEGFPのみが発現している細胞が多く観察され、EGFPを含むpiggyBacトランスポゾン領域が293T細胞のゲノムDNAに導入されたことが確認された。
【0074】
[実施例2]
[KO/EGFP-PBトランスポゾン含有直鎖ベクターを用いたマウス胚へのEGFP導入]
EGFPタンパク質をコードするDNAをC57BL/6マウス胚のゲノムDNAへ挿入することを試みた。外来遺伝子含有ベクターとして、配列番号16の第412番目と8065番目の塩基をFspIで制限酵素処理することにより切断し、上記KO/EGFP-PBトランスポゾン含有環状ベクターを直鎖状にしたKO/EGFP-PBトランスポゾン含有直鎖ベクターを用いた。また、前記piggyBacトランスポゼーズ発現ベクタ-を直鎖状にしたものを鋳型として、T7RNAポリメラーゼによりpiggyBacトランスポゼーズmRNAを作製した。
【0075】
(マウス胚におけるトランスポゼーズの有無についての検討)
上記KO/EGFP-PBトランスポゾン含有直鎖ベクターと、piggyBacトランスポゼーズmRNAとを、マイクロマニピュレータ(Leica社)を用いて、マウス胚の雄性前核にマイクロインジェクションした場合の倒立型蛍光顕微鏡による観察の結果を図3(a)に示す。また、上記直鎖ベクターをマイクロインジェクションしたが、piggyBacトランスポゼーズmRNAをマイクロインジェクションしなかった場合についても図3(b)に示す。図3(c)では、EGFPがゲノムDNAに挿入されたと推定される細胞について、マイクロインジェクション後24、48、72、96時間後の細胞の様子を示す。なお、図中〇印のNCは、マイクロインジェクションを行っていない、ネガティブコントロールである。
【0076】
(結果)
図3(a)及び(c)から明らかなとおり、トランスポゾン機構が作用して、EGFPがゲノムDNAに挿入された細胞(図3(a)の四角白矢印で示した緑色の細胞)においては、EGFPの緑色蛍光は24時間後(Day1)から発現し始めたのに対し、KO1(オレンジ)は初めからほとんど発現することなかった。EGFP単独蛍光が持続したまま96時間後(Day4)に胚盤胞まで発生が進むことが確認された(図3(c))。したがって、EGFPがゲノムDNAに挿入された場合、ゲノムDNAに挿入されなかったKO1は、d2pestの作用により予想されるKO1の不安定化よりも急速に不活化されることが予想された。一方、EGFPがゲノムDNAに挿入されなかった場合、EGFPとKO1は、Day4まで共発現していた(図3(b))。
【0077】
したがって、はじめからKO1が発現しない、又はマイクロインジェクション後72時間までにKO1が発現しなくなった胚において、目的遺伝子がゲノムDNAに挿入された可能性が大きいと考えることができた。
【0078】
[実施例3]
[KO/EGFP-PBトランスポゾン含有環状ベクターを用いたマウス胚へのEGFP導入]
上記直鎖ベクターを用いた検討において、予想よりも胚発生率が低かったため、トランスポゾン含有直鎖ベクターよりも胚毒性が低いといわれているトランスポゾン環状ベクターを用いてマウス胚へのマイクロインジェクションを試みた。
【0079】
EGFPをコードするDNAの、マウス胚のゲノムDNAへの導入を試みた。C57BL/6マウス由来受精卵51個について、KO/EGFP-PBトランスポゾン含有環状ベクター2ng/μLと、piggyBacトランスポゼーズベクターより作製したmRNA1ng/μLとを、生理食塩水で溶解し、マウス胚雄性前核にマイクロインジェクションした。また、C57BL/6マウス由来受精卵49個について、KO/EGFP-PBトランスポゾン含有直鎖ベクター2ng/μLと、piggyBacトランスポゼーズベクターより作製したmRNA1ng/μLとを生理食塩水で溶解し、マウス胚雄性前核にマイクロインジェクションした。結果を図4(a)(直鎖ベクターの場合)及び(b)(環状ベクターの場合)に示す。
【0080】
図4(a)から明らかなとおり、KO/EGFP-PBトランスポゾン含有直鎖ベクターを用いた場合には、緑色やオレンジ色の蛍光の発現が早く強く確認でき、蛍光を発現した胚は43個中42個と高い割合であった。しかし、オレンジを発現した胚が21個と多く、さらに胚盤胞(96時間)まで発生が進んだ胚は4個のみであった。図4(a)の96hの図から明らかなとおり、胚盤胞まで発生が進んだ胚4個のうち、GFPの蛍光があり、KOの蛍光はなかった胚は2個であり、かかる2個の胚において、目的のGFP遺伝子が細胞の遺伝子に導入されたと判断した。なお、他の2個については、GFP、KOいずれの蛍光もなかった。赤丸はネガティブコントロール(NC)である。一方、図4(b)から明らかなとおり、KO/EGFP-PBトランスポゾン含有環状ベクターを用いた場合には、蛍光発現が確認できる時期が遅くなり、かつ発現量が小さくなるものの、胚盤胞に達した胚は、96時間で41個中14個であり、胚盤胞率が高くなった。また、EGFPの緑色光を発現し、KOの発現が見られない胚は31個であり、EGFPの発現率はやや低くなるものの、KOの発現は全く見られなかった。
【0081】
以上の結果より、KO/EGFP-PBトランスポゾン含有環状ベクターを用いると、蛍光発現が確認できる時期が遅くなり、かつ発現量が小さくなるが、胚毒性が低く、かつEGFPのゲノムDNAへの導入率が高くなったので、環状ベクターを用いることが好ましいと判断した。
【0082】
[実施例4]
(トランスジェニックマウスの作製)
マウスの受精卵にマイクロインジェクション法により上記KO/EGFP-PBトランスポゾン含有環状ベクターとpiggyBacトランスポゼーズベクターより作製したmRNAとを注入することによりトランスジェニックマウスを作製した。受精卵としては、C57BL/6(B6)系マウスとC3H系マウスとの交配によって得られるB6C3系統の交雑系マウスB6C3F1受精卵を用いた。上記KO/EGFP-PBトランスポゾン含有環状ベクターとpiggyBacトランスポゼーズベクターより作製したmRNA(濃度比2:1)を受精後10時間の受精卵の雄性前核もしくは細胞質に注入し、胚盤胞までマウス体外培養用培地であるmWM培地(アークリソース株式会社製)中で37℃のインキュベーターで培養した。胚盤胞まで発生が進んだ各胚について倒立型蛍光顕微鏡(オリンパス社製)で観察し、緑色蛍光のみが観察された胚を選別して(color selection+)、もしくは蛍光発現による選別をせずに(color selection-)、非ヒト哺乳類動物仮母として、偽妊娠マウス(ICR系)の子宮に移植し、自然分娩もしくは帝王切開により新生子マウスを取得した。新生子マウスは、里子操作を行うことにより、離乳期(weaning)まで産子を育てた。
【0083】
出生後2~3週間の間に、上記産子の尻尾を5mmほど切り取り、マウスゲノムDNAを抽出した。EGFP又はKOを特異的に検出することができる、以下に示す各プライマーセットを用いてPCR法によりトランスジェニックマウスの獲得率を調査した。結果を以下の表1に示す。
【0084】
EGFP:
5’-CAAGGACGACGGCAACTACAAGACC-3’(フォワードプライマー)(配列番号19)
5’-GCTCGTCCATGCCGAGAGTGA-3’(リバースプライマー)(配列番号20)
KO:
5’-GAGGGCCTGAGCTGGGAGA-3’(フォワードプライマー)(配列番号21)
5’-CACCAGCCTGTGGCCGATGA-3’(リバースプライマー)(配列番号22)
【0085】
【表1】
【0086】
(結果1-Nuclear 1ng/μL・蛍光確認あり(+))
92個の受精卵について、1ng/μLのトランスポゾンベクター・トランスポゼーズmRNA混合物(2:1)を雄性前核に5pLマイクロインジェクションした胚盤胞(96時間)に達した胚66個(75.0%)のうち、顕微鏡を用いた目視により緑色蛍光が認められ、かつ、KOの発現は認められなかったものは、55個(83.3%)であった。そのうち39個の胚を偽妊娠マウス(ICR系)の子宮へ移植して得られた新生子は5匹であり、離乳した産子は3匹であった。この3匹はいずれもEGFPを発現していた。しかしながら、そのうち1匹は、KOについても発現していた。これは、ランダムインテグレーションが理由であると考えられる。以上より胚盤胞(96時間)にEGFPによる蛍光が確認された胚盤胞の胚を母体へ移植した場合、得られたマウスのうちEGFPが導入されたトランスジェニックマウスの割合は100%であった。
【0087】
(結果2-Cytoplasm 3ng/μL・蛍光確認あり(+))
95個の受精卵について、3ng/μLのトランスポゾンベクター・トランスポゼーズmRNA混合物(2:1)を雄性前核期の細胞質に5pLマイクロインジェクションした。胚盤胞(96時間)に達した胚64個(85.3%)のうち、顕微鏡を用いた目視により緑色蛍光が認められ、かつ、KOの発現は認められなかったものは、27個(42.2%)であった。そのうち26個の胚を偽妊娠マウス(ICR系)の子宮へ移植して得られた新生子は3匹であり、離乳した産子も3匹であった。この3匹はいずれもEGFPが発現していたが、KOの発現は認められなかった。したがって、EGFPによる蛍光が確認され、かつKOの発現は認められなかった胚盤胞の胚を母体へ移植した場合、得られたマウスのうちEGFPが導入されたトランスジェニックマウスの割合は100%であった。
【0088】
(結果3-Nuclear 1ng/μL・蛍光確認なし(-))
70個の受精卵について、1ng/μLのトランスポゾンベクター・トランスポゼーズmRNA混合物(2:1)を雄性前核にマイクロインジェクションした場合に、胚盤胞に達した胚について蛍光確認することなくすべて偽妊娠マウス(ICR系)の子宮へ移植した結果、得られた新生子マウスのうちEGFPが導入されたトランスジェニックマウスの割合は50%であった。
【0089】
(結果4-Cytoplasm 3ng/μL・蛍光確認なし(-))
74個の受精卵について、3ng/μLのトランスポゾンベクター・トランスポゼーズmRNA混合物(2:1)を前核期の細胞質にマイクロインジェクションした場合に、胚盤胞に達した胚について蛍光確認することなくすべて偽妊娠マウス(ICR系)の子宮へ移植した結果、得られた新生子マウスのうちEGFPが導入されたトランスジェニックマウスの割合は81.8%であった。
【0090】
(まとめ)
以上のとおり、トランスポゾンベクター・トランスポゼーズmRNA混合物(2:1)を雄性前核又は雄性前核期の細胞質にマイクロインジェクションし、胚盤胞において蛍光の有無を確認し、胚盤胞にKOの発現が消失し、EGFPが発現している胚を選択するとEGFPがゲノムDNAに導入されたトランスジェニックマウスの産生率は顕著に高くなり、今回の検討では、100%という値を得た。特に、前核が小さく、注入が困難な動物種には、トランスポゾンベクターとトランスポゼーズmRNAの細胞質注入が有効であることが示された。
【0091】
[実施例5]
(後代検定)
上記で得られたEGFPを発現するトランスジェニックマウスについて後代検定を行った。実施例4で取得された、雄性前核にトランスポゾンとトランスポゼーズを注入した胚由来で、EGFPの発現が確認されたマウス2匹と、前核期受精卵の細胞質にトランスポゾンとトランスポゼーズmRNAを注入した受精卵由来で、EGFPの発現が確認されたマウス3匹、ファウンダーB6C3マウスのF1を、C57BL/6Jマウスと掛け合わせた結果を以下の表2に示す。
【0092】
【表2】
【0093】
(結果)
上記表2のとおり、野生型マウスと掛け合わせることにより、Nuclear3のF1系統(雄性前核期に注入)を除いて、EGFPがゲノムDNAに導入されたF1マウスを取得することができた。したがって、上記KO/EGFP-PBトランスポゾン含有環状ベクターとpiggyBacトランスポゼーズベクターより作製したmRNAをマイクロインジェクションすることにより細胞に導入されたEGFPをコードするDNAは、生殖細胞においても発現し次世代に伝達することが確認された。
【0094】
[実施例6]
[トランスジェニックマーモセット作出]
実中研において飼育管理しているコモンマーモセットからEGFPをコードするDNAが導入されたトランスジェニックマーモセットを作出した。
【0095】
3ng/μLのKO/EGFP-PBトランスポゾン含有環状ベクターとpiggyBacトランスポゼーズmRNA(2:1)を体外受精後17時間のマーモセット受精卵の細胞質にマイクロインジェクションした。Blast assist培地(ORIGIO社製)にて37℃にて培養した。GFPとKOは倒立型蛍光顕微鏡(オリンパス社製)にて発現の観察を続け、マイクロインジェクション後4-5日(96~120時間)目に6細胞期から16細胞期まで発生した胚で、EGFPの緑蛍光のみを発現している30個を19匹の仮親へ移植し3匹妊娠(15.8%)し、そのうち1匹が出産し、仔1と仔2の2匹(6.7%)の産仔を獲得した。一方マイクロインジェクション後6-7日(144~168時間)目に桑実胚から胚盤胞まで発生した胚で、緑蛍光のみを発現している19個を12匹の仮親へ移植したところ4匹妊娠(33.3%)したが全て流産した。流産の理由は明らかではないが、胚盤胞になるまで何度も蛍光観察をしたためUV照射によるダメージがあった可能性も考えられる。
【0096】
【表3】
【0097】
上記得られた個体について、EGFPをコードするDNAが導入されたか否かを確認するために、産仔である仔1と仔2の体組織よりRNAを抽出し、EGFP又はKOを特異的に検出する以下のプライマーセットを用いてRT-PCR法によりgenotypingした。内在性コントロールとしてはβ-アクチンを、ネガティブコントロールとしては野生型マーモセットの皮膚より作製したcDNAを使用してRT-PCRで比較した。
【0098】
10μLのPCR混合液は、1×PCRバッファー(10mMのTris-HCl[pH9.0],50mMのKCl)、2.5mMのMgCl、0.2mMのdNTPs、10μMの各プライマーセット、及び1.0UのKOD-PLUS-NEOポリメラーゼを混合することにより作製された。94℃にて2分の加熱処理;98℃にて10秒、63℃にて30秒のアニーリング、68℃にて30秒の伸長を1サイクルとして30サイクル;の条件で増幅処理を行った。各プライマーセットは以下のとおりであった。RT-PCRの結果を図5に示す。
【0099】
EGFP:
5’-CAAGGACGACGGCAACTACAAGACC-3’(配列番号19)(フォワードプライマー)
5’-GCTCGTCCATGCCGAGAGTGA-3’(配列番号20)(リバースプライマー)
KO:
5’-GAGGGCCTGAGCTGGGAGA-3’(配列番号21)(フォワードプライマー)
5’-CACCAGCCTGTGGCCGATGA-3’(配列番号22)(リバースプライマー)
β-アクチン:
5’-TGGACTTCGAGCAGGAGAT-3’(配列番号23)(フォワードプライマー)
5’-CCTGCTTGCTGATCCACATG-3’(配列番号24)(リバースプライマー)
【0100】
(結果)
図5において、左から、野生型(ネガティブコントロール)、仔1と仔2それぞれの胎盤、仔1と仔2それぞれの毛根、仔1と仔2それぞれの皮膚、仔1と仔2それぞれの血液のRT-PCRの結果を示す。仔1と仔2それぞれの胎盤、仔2の毛根と仔1と仔2それぞれの血液において、EGFPが発現し、かつKOを発現していないことが確認された。なお、仔1と仔2の皮膚・仔1の毛根において、発現がなかったが、ファウンダー個体自体は通常モザイクであること、組織によってプロモーターの発現量が若干異なること等が理由として考えられる。
【0101】
[実施例7]
[目的遺伝子導入実験-1]
哺乳類のゲノムDNAに挿入する目的遺伝子として、パーキンソン病の原因となるLRRK2の2019番目のグリシン残基がセリン残基である変異体(LRRK2(G2019S))(以下、「変異LRRK2」ともいう)を選択した。蛍光発現レポーターであるEGFPをコードする遺伝子DNAと、その上流の上記変異LRRK2をコードする遺伝子DNAとを2Aで接合し、さらにその上流に非ヒト霊長類動物細胞で機能するCAGプロモーターを連結した領域をPBトランスポゾンによる挿入領域とした。PB5’TRの上流の外来遺伝子導入判定領域を付加した、CMVプロモーター-hKO1d2PEST-ポリA-PB5’TR-CAGプロモーター-LRRK2(G2019S)-2A-EGFP-ポリA-PB3’TRの構成を含む変異LRRK2含有PiggyBac環状ベクター(図6)を作製した。
【0102】
実施例1と同様の手順で、KO/EGFP-PBトランスポゾン含有環状ベクターの代わりに上記変異LRRK2含有PiggyBac環状ベクターを用い、piggyBacトランスポゼーズ環状ベクターとともにヒト胚性腎臓293T細胞へコトランスフェクションした。トランスフェクト後の293T細胞について、励起光488nmを用いてEGFPを、励起光548~584nmを用いてKO1とEGFPを、倒立型蛍光顕微鏡(オリンパス社製)で経時的に観察した。結果を図7の(a)及び(b)に示す。
【0103】
(結果)
図7(a)から明らかなとおり、変異LRRK2含有PiggyBacベクターのみを添加した(Day0)ネガティブコントロール細胞(a細胞)においては、Day1にEGFPとKO1の発現が開始した。Day5においても、EGFPとKO1の両方が強く発現していることが確認できる。しかし、Day10においては、EGFPによる蛍光とKOによる蛍光のいずれもが、ほとんど消滅した。
【0104】
一方、図7(b)から明らかなとおり、上記変異LRRK2含有PiggyBacベクターとpiggyBacトランスポゼーズmRNAとをコトランスフェクトした(Day0)細胞(b細胞)においては、Day1にEGFPとKO1の発現が観察できるが、Day5では、上記(a)細胞と比較して、EGFPの緑色蛍光が強く、KO1のオレンジ色蛍光の強度が小さい細胞(青矢印)があることから、EGFPのみが発現している細胞(白矢印)が存在することと、EGFPとKO1の両方を発現している細胞とが混在していることが確認された。したがって、トランスポゼーズの作用によりEGFPがゲノムDNAに導入された場合、EGFPの発現は安定・増強する一方で、ゲノムDNAに導入されなかったKO1の発現は急速に(Day5ごろまでに)減衰することが確認された。Day10においては、KO1の蛍光は観察されずEGFPのみが発現している細胞が多く観察され、LRRK2変異体遺伝子DNAとEGFPを含むpiggyBacトランスポゾン領域が293T細胞のゲノムDNAに導入されたことが確認された。
【0105】
[実施例8]
[目的遺伝子導入実験-2]
(マウスニューロスフェアへの外来遺伝子導入)
哺乳類のゲノムDNAに大型の遺伝子を挿入する目的遺伝子として以下のベクターを作製した。まず、神経幹細胞や神経前駆細胞で選択的に活性を有することが知られているG protein-coupled receptor 56(gpr56)ミニマムプロモーター(配列番号25)(Bae et al., Science 2014等)の下流に蛍光レポーター遺伝子であるEGFPと発光レポーターであるLuciferase2を接合した(第二発現カセット)。しかし、上記gpr56ミニマムプロモーターは胚では活性をもたないため、導入部分を胚で選別しうるマーカーとして胚で活性を有するEOSプロモーターとレポーター遺伝子hKO1の第一発現カセットを第二発現カセットの下流に配置し、2つのカセットをインシュレーターで結合してPBトランスポゾンによる挿入領域(PiggyBac トランスポゾン領域)とした。PB3’の上流の判定領域には挿入領域で使用していない青色蛍光を発現するCerulean(配列番号15)をd2PESTと接合して、CMVプロモーター下に配置し、CMVプロモーター-Cerulean-d2PEST-ポリA-PB5’TR-hgpr56-eGFP-ルシフェラーゼ-Ins-EOS-hKO1-ポリA-PB3’TRを含む図8に示すPBトランスポゾン環状ベクターを作製した。なお、上記Insは、インシュレーターを意味する。この実験ではPiggyBac トランスポゾン領域がプロモーターと外来タンパク質を各々含む2つのカセットを有するため、カセット間の干渉を防ぐために使用されている。
【0106】
上記外来遺伝子導入判定領域にCeruleanを配置し、トランスポゾン領域にgpr56ミニマムプロモーターを搭載したPBトランスポゾン環状ベクターと、piggyBacトランスポゼーズベクター(Medical Research Council(UK)社製)とを用いて、hgpr56e1m-EGFP-Luciferase2(第二発現カセット)とEOS-hKO1(第一発現カセット)とをコードするDNAをマウスニューロスフェアのゲノムDNAに導入することを試みた。
【0107】
(マウスニューロスフェアの形成)
マウス胎仔脳線条体をbFGF (basic fibroblast growth factor)、EGF(epidermal growth factor)及びB27を添加したMHM培地(Murayama et al., J Neurosci Res 2002)中において、浮遊培養法によって神経幹細胞・神経前駆細胞を増殖させてニューロスフェア形成させた。
【0108】
(マウスニューロスフェアへのコトランスフェクション)
上記gpr56ミニマムプロモーターを搭載したPBトランスポゾン含有環状ベクターと、piggyBacトランスポゼーズ環状ベクターとを濃度比2:1にて、上記マウスニューロスフェアにエレクトロポレーションした(Day0)。トランスポゼーズを加えず、PBトランスポゾン含有環状ベクターのみをトランスフェクトしたニューロスフェアをネガティブコントロールとした。トランスフェクト後のニューロスフェアについて、励起光452nmを用いてCeruleanを、励起光488nmを用いてEGFPを、励起光548~584nmを用いてhKO1を、倒立型蛍光顕微鏡(オリンパス社製)で経時的に観察した。また、Day5のニューロスフェアにBeetle Luciferin, Potassium Salt(Promega社製)を添加し、ルシフェラーゼの発現をIVIS Spectrum In Vivo Imaging System(パーキンエルマー社製)で観察した結果を図9に示す。
【0109】
(結果)
図9から明らかなとおり、PBトランスポゾン含有環状ベクターのみを添加したネガティブコントロール細胞(図9(a))においては、Day1とDay5において判定領域のCeruleanと挿入領域のKOが同一細胞で発現していたのに対し、トランスポゼーズを導入した区では、Day5に判定領域のCeruleanの発現が見られない細胞でKOが発現している細胞が見られた。一方gpr56ミニマムプロモーターに接合したEGFPの発現はどちらの区でも観察されなかったものの、その下流のルシフェラーゼの発光がトランスポゼーズを導入した区でのみ観察された。
【0110】
したがって、トランスポゼーズの作用によりgpr56-EGFP-Luciferase2とEOS-hKO1をコードするDNAがゲノムDNAに導入された場合、EOSプロモーターが活性を持つ細胞においては、hKO1の発現が安定・増強する一方で、ゲノムDNAに導入されなかったCeruleanの発現は急速に(5日目ごろまでに)減衰することが確認された。また、トランスポゼーズをコトランスフェクションした区でのみ神経幹細胞や神経前駆細胞で活性を持つgpr56下の発光レポーターの発現が観察されたことより、トランスポゾン領域が、ニューロスフェアのゲノムDNAに導入されたことが確認された。
【0111】
[実施例9]
上記gpr56-EGFP-Luciferase2とEOS-hKO1含有piggyBacベクター7μg/μLとpiggyBacトランスポゼーズ発現用ベクターから作製したmRNA3.5μg/μLを実施例1と同様にマイクロマニピュレータ(Leica社製)を用いて、マウス胚の雄性前核にマイクロインジェクションした。胚発生過程における蛍光発現の変化を倒立型蛍光顕微鏡(オリンパス社製)により観察し、結果を図10に示す。
【0112】
(結果)
図10から明らかなとおり、piggyBacトランスポゾン機構が作用して、gpr56-EGFP-Luciferase2とEOSーhKO1がゲノムDNAに挿入された胚(白矢印で示したオレンジの胚)においては、hKO1のオレンジ蛍光は24時間後(Day1)から発現し始め、Ceruleanの青色蛍光はDay1に弱く観察されたが(赤矢印で示した青色の胚)、その後発現は消失し、hKO1単独蛍光が持続したまま96時間後(Day4)に胚盤胞まで発生が進むことが確認された(図10)。したがって、トランスポゼーズの作用によりPBトランスポゾンによる挿入領域がゲノムDNAに導入された場合、hKO1の発現は安定・増強する一方で、ゲノムDNAに導入されなかったPB3’の上流のCeruleanの発現は急速に減衰することが確認された。Gpr56ミニマムプロモーターは胚で活性を持たないためEGFPとLuc2はマウス胚で観察されないが、同一PBトランスポゾン挿入領域に搭載している、胚で活性を持つEOS-hKOの発現が確認できたことより、piggyBacトランスポゾン領域がマウス胚ゲノムDNAに導入されたことが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
0007203367000001.app