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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】摩擦攪拌接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20230105BHJP
【FI】
B23K20/12 344
B23K20/12 310
B23K20/12 364
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018205846
(22)【出願日】2018-10-31
(65)【公開番号】P2020069515
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-09-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1) ▲1▼ウェブサイトの掲載日 平成30年3月22日 ▲2▼ウェブサイトのアドレス https://member.jweld.jp/mypage ▲3▼公開者 生田明彦 (2) ▲1▼開催日 平成30年4月24日 ▲2▼集会名、開催場所 平成30年度 溶接学会 春季全国大会 東京国際展示場 会場棟6階(東京都江東区有明3-11-1) ▲3▼公開者 生田明彦
(73)【特許権者】
【識別番号】000133294
【氏名又は名称】株式会社ダイクレ
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】生田 明彦
(72)【発明者】
【氏名】橋本 宏治
(72)【発明者】
【氏名】松橋 浩
(72)【発明者】
【氏名】三浦 隆男
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 利将
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/110692(WO,A1)
【文献】特開2011-200871(JP,A)
【文献】特開2004-195480(JP,A)
【文献】特開2018-134668(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0291273(US,A1)
【文献】特開2004-058084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00 - 20/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具の中心軸を回転軸として回動可能な回動部を備える前記工具を用いて、板厚が1mm以下である複数の金属板を接合する摩擦攪拌接合方法であって、
前記回動部における先端の端面の全域が、外部に向けて凸となる球面形状であり、
前記回転軸を鉛直方向に対して所定の角度で傾斜させた状態で、互いに突き合わさった2枚の前記金属板の第1境界を、回動している前記回動部の前記先端で押圧しつつ、前記先端を、前記第1境界に沿って前記回転軸の傾斜方向と反対方向に移動させ
接合後の2枚の前記金属板において、接合部分の残存板厚が、前記接合部分以外の部分の板厚と略同一であることを特徴とする、摩擦攪拌接合方法。
【請求項2】
前記第1境界における、前記先端によって押圧される押圧面と反対側の面に、窒化ケイ素により形成された裏当て材を当接させることを特徴とする、請求項1に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項3】
前記回動部における側面と前記端面との第2境界は、曲面状に形成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の摩擦攪拌接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦攪拌接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板の接合方法としては、例えば、回動部を備えたツールによる金属材料の塑性流動を利用した摩擦攪拌接合方法が知られている。
【0003】
特許文献1には、先端から先端ピン(以下、「プローブ」)が突出したツールを用いた摩擦攪拌接合方法が開示されている。具体的には、回動するプローブを2枚のアルミニウム板の接触部分に押圧した状態で、接触部分に沿ってツールを移動させることにより、複数のアルミニウム板を接合する方法が開示されている。なお、「プローブ」とは、摩擦攪拌接合に用いられる工具(上記の「ツール」に相当)の先端に設けられた突起部位を指す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-58084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された摩擦攪拌接合方法では、接合の際に、ツールの先端部分の一部に加えてプローブがアルミニウム板に圧入されることから、プローブの厚さ分だけアルミニウム板の接合部分の板厚が余計に減少する。また、接合中にツールを移動させる際、プローブが受ける抵抗力によってプローブに振動が発生し、結果、2枚のアルミニウム板の接合部分にシワおよびヨレが発生する等の不具合がある。なお、本明細書において「接合部分」とは、摩擦攪拌接合処理後の、2枚のアルミニウム板(金属板)の接触部分を指す。
【0006】
本発明の一態様は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、2枚のアルミニウム板の接合部分における板厚減少、並びにシワおよびヨレの発生を抑制できる摩擦攪拌接合方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る摩擦攪拌接合方法は、工具の中心軸を回転軸として回動可能な回動部を備える前記工具を用いて、板厚が1mm以下である複数の金属板を接合する摩擦攪拌接合方法であって、前記回動部における先端の端面の全域が、平面形状、または外部に向けて凸となる球面形状であり、互いに端部が接触した2枚の前記金属板の接触部分を、回動している前記回動部の前記先端で押圧しつつ、前記回動部を、前記接触部分に沿って移動させることを特徴とする。
【0008】
一般に、摩擦攪拌接合に用いられる工具には、その先端にプローブが設けられている。金属板の接合の際には、工具の先端およびプローブが2枚の金属板の接触部分(突き合わせ部分、または重ね合わせ部分)に圧入される。ここで、接合が進行すると、プローブの厚さ分だけ余計に接合部分の残存板厚が薄くなってしまい、特に薄板の金属板を接合する場合には残存板厚がほとんどなくなってしまう。
【0009】
この点、上記構成によれば、工具の回動部における先端の端面の全域が、平面形状または外部に向けて凸となる球面形状となっている。換言すれば、本発明の一態様に係る工具は、プローブが設けられていない構成となっている。したがって、接合の際に上記接触部分に圧入される、すなわち上記接触部分を押圧するのが回動部の先端のみとなり、プローブが設けられている工具と比べて上記残存板厚が厚くなる。そのため、接合による接合部分の残存板厚の減少を抑制することができ、薄板の金属板の接合に適合した接合方法を実現することができる。
【0010】
また、上記構成によれば、プローブが設けられている工具に比べて、接合時に回動部の先端付近が受ける抵抗力が少なくなる。したがって、上記の抵抗力に起因する、回動部の振動および移動中の進路のブレを低減することができる。そのため、接合部分におけるシワおよびヨレの発生を効果的に抑制することができる。
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る摩擦攪拌接合方法は、前記接触部分は、互いに突き合わさった2枚の前記金属板の第1境界であり、前記回動軸を鉛直方向に対して所定の角度で傾斜させた状態で、前記第1境界を、回動している前記回動部の前記先端で押圧しつつ、前記先端を、前記第1境界に沿って前記回転軸の傾斜方向と反対方向に移動させることが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、工具に前進角をつけた状態(回動軸を鉛直方向に対して所定の角度で傾斜させた状態)で接合を行うことから、接合部分の領域が前進角をつけない状態に比べて拡大する。これにより、金属板の接触部分を強固に接合することができる。
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る摩擦攪拌接合方法は、前記接触部分における、前記先端によって押圧される押圧面と反対側の面に、窒化ケイ素により形成された裏当て材を当接させることが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、熱伝導効率に優れた窒化ケイ素で形成された裏当て材を、2枚の金属板の接触部分に当接した状態で接合を行う。これにより、接合に起因して発生する熱が裏当て材によって効果的に吸熱および放熱される。そのため、接合部分における過度の温度上昇を抑制することができ、接合部分の溶融、および金属板と裏当て材との凝着を防止することができる。
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る摩擦攪拌接合方法は、前記回動部における側面と前記端面との第2境界は、曲面状に形成されていることが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、特に工具の端面が平面形状である場合に、接合時に回動部の先端付近が受ける抵抗力が少ない。したがって、上記の抵抗力に起因する、回動部の振動および移動中の進路のブレを低減することができる。そのため、接合部分におけるシワおよびヨレの発生を効果的に抑制することができる。
【0017】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る摩擦攪拌接合方法は、1枚の金属板で前記接触部分を覆うように、前記1枚の金属板を前記接触部分に重ね合わせ、前記接触部分と前記1枚の金属板とが重ね合わさった2段重ね部分を、回動している前記回動部の前記先端で押圧しつつ、前記回動部を、前記2段重ね部分に沿って移動させることが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、接合部分の板厚を、1枚の金属板を前記接触部分に重ね合わせない場合に比べて厚くすることができる。そのため、接合部分におけるシワおよびヨレの発生を効果的に抑制しつつ、接合部分の強度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様によれば、2枚のアルミニウム板の接合部分における板厚減少、並びにシワおよびヨレの発生を抑制できる摩擦攪拌接合方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る摩擦攪拌接合装置の全体構成を示す斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係る摩擦攪拌接合装置において、(a)は摩擦攪拌接合装置の側面図、および制御装置のブロック図である。(b)は(a)の一部を示す拡大図である。
図3】本発明の一実施形態に係るツールにおいて、(a)はツール先端の端面が球面状であるツール(球面状ツール)を示す側面図である。(b)は、(a)に示すツールの正面図である。(c)は、ツール先端の端面が平面状であるツール(平面状ツール)を示す側面図である。(d)は、(c)に示すツールの正面図である。
図4】本発明の一実施形態に係るツールと金属板との位置関係を示す模式図である。
図5】本発明の一実施形態の変形例に係る摩擦攪拌接合方法を示す概略図である。
図6】本発明の一実施形態に係る摩擦攪拌接合方法により形成される接合部分について、(a)は、球面状ツールを用いた場合の外観の一例を示す写真を表す図である。(b)は、平面状ツールを用いた場合の外観の一例を示す写真を表す図である。
図7】本発明の一実施形態に係る摩擦攪拌接合方法により形成される接合部分について、(a)は、球面状ツールを用いた場合における外観の他の例を示す写真を表す図である。(b)は、(a)の外観を有する接合部分の断面組織を示す写真を表す図である。
図8】本発明の一実施形態に係る摩擦攪拌接合方法により形成される接合部分の板厚を示すグラフである。
図9】本発明の一実施形態に係る摩擦攪拌接合方法により形成される接合部分に関し、(a)は、上記接合部分と略同じ状態の接合部分が形成された引張試験片を示す平面図である。(b)は、上記引張試験片の接合部分における引張強さおよび伸びを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の記載は発明の趣旨をより良く理解させるためのものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上B以下」を意味する。本出願における各図面に記載した構成の形状および寸法(長さ、奥行き、幅等)は、実際の形状および寸法を必ずしも反映させたものではなく、図面の明瞭化および簡略化のために適宜変更している。
【0022】
〔摩擦攪拌接合装置〕
(概要)
本発明の一実施形態に係る摩擦攪拌接合装置1について、図1図3を参照して以下に説明する。
【0023】
摩擦攪拌接合装置1は、複数のアルミニウム板を摩擦攪拌接合によって接合するための装置である。ここで、本明細書における「摩擦攪拌接合」は、次に説明する接合方法を指す。すなわち、後述するツール20の先端を、回転させながら、接合対象となる2枚のアルミニウム板W1・W2(図1等参照)の接触部分に押し付けて圧入させ、これによって摩擦熱を発生させて上記接触部分を軟化させる。同時に、ツール20の先端に生じた回転力によって上記接触部分およびその周辺を塑性流動させることで、2数のアルミニウム板W1・W2を一体化させる。
【0024】
本明細書において、2枚のアルミニウム板W1・W2の「接触部分」とは、当該2枚のアルミニウム板W1・W2における、互いの端部が突き合わさった境界(第1境界)C(図1等参照)を指す。なお、図示しないものの、摩擦攪拌接合装置1は、2枚のアルミニウム板W1・W2を重ね合せて摩擦攪拌接合を行うこともできる。この場合、2枚のアルミニウム板W1・W2における、互いの端部が重ね合わさった部分が上記「接触部分」となる。
【0025】
アルミニウム板は、軟化温度が比較的低い軽金属であるという性質から、摩擦攪拌接合に好適な金属板である。なお、以下の説明においては、説明の便宜上、2枚のアルミニウム板W1・W2のみを摩擦攪拌接合する場合を例に挙げて説明する。
【0026】
摩擦攪拌接合装置1による摩擦攪拌接合の接合対象は、アルミニウム板に限られず、例えばステンレスで形成されたステンレス板、チタンで形成されたチタン板など、アルミニウム以外の材料で形成された金属板であってもよい。また、アルミニウム板以外の金属板を摩擦攪拌接合する場合、接合対象となる2枚の金属板は、それぞれ異なる材質からなる金属板であってもよい。
【0027】
図1並びに図2の(a)および(b)に示すように、摩擦攪拌接合装置1は、基台2、スライダ3、保持部4、支持台5、ツール(工具)20、および制御装置50を備える。基台2上にはスライダ3および支持台5が備えられている。
【0028】
支持台5上には裏当て材30が載置され、当該裏当て材30上に2枚のアルミニウム板(金属板)W1・W2が載置され、支持台5に対して固定される。具体的には、2枚のアルミニウム板W1・W2における、互いの端部が突き合わさった境界Cを含む当接面F1が裏当て材30に当接するように、2枚のアルミニウム板W1・W2が裏当て材30に載置される。そして、支持台5に設けられた押さえ6によって、2枚のアルミニウム板W1・W2が支持台5に対して固定される。このとき、2枚のアルミニウム板W1・W2における、当接面F1に対して反対側の面は、ツール20によって押圧される押圧面F2となる。
【0029】
スライダ3は、保持部4および昇降用モータ42を備える。保持部4は、ボールネジ7によりスライダ3に、昇降用モータ42によって昇降可能に取り付けられている。これにより、ツール20をアルミニウム板W1・W2に接触させるツール高さが設定される。また、保持部4は、スライダ3に対して回転可能に取り付けられている。そのため、ツール20に所定の前進角θ(鉛直方向に対するツール20の回転軸の傾き、図4参照)を設定することができる。
【0030】
また、スライダ3は、一対のガイドレール11aおよびボールネジ11bに取り付けられており、移送用モータ43によって境界Cに対して平行に移動可能である。これにより、スライダ3に取り付けられた保持部4が移動することで、保持部4に保持されるツール20が、境界Cに沿って接合方向に移動できる。
【0031】
保持部4は、回転用モータ41と、下部にツール20を着脱自在に取り付けるツールホルダ8とを備える。ツールホルダ8は回転用モータ41と連結されており、回転用モータ41の駆動によって、ツールホルダ8および当該ツールホルダ8に取付けられたツール20が回転する。
【0032】
回動部21は、ツール20の中心軸を回転軸として回動可能な部材として形成される。回動部21は、回転用モータ41によって、所望のツール回転数により回動することができる。所望のツール回転数は、金属板の種類および板厚により適宜調整される。
【0033】
制御装置50は、摩擦攪拌接合装置1を構成する各部・各機器の動作等を統括的に制御する。制御装置50は、入力部51、記憶部52、演算部53、および制御部54を備える。
【0034】
入力部51は、作業者により入力される接合条件(ツール高さ、ツール回転数、ツール移送量等)を含む各種の入力情報を、記憶部52に与える。記憶部52は、摩擦攪拌接合の動作手順を実行するためのコンピュータプログラム、入力部51からの入力情報および演算部53の演算結果を記憶する。演算部53は、記憶部52に記憶されるプログラムを実行して、記憶部52に記憶された接合条件に基づいて、摩擦攪拌接合の動作手順を実行し、回転用モータ41、昇降用モータ42、および移送用モータ43のそれぞれの制御指令を生成する。そして、演算部53は、生成した各制御指令を制御部54に与える。
【0035】
制御部54は、例えばCPUであり、制御装置50を構成する各部の動作等を統括的に制御する。また、制御部54は、ツール回転数司令部55と、ツール高さ司令部56と、ツール移送司令部57とを備え、回転用モータ41、昇降用モータ42および移送用モータ43の各駆動を制御する。
【0036】
ツール回転数司令部55は、演算部53からの制御指令に基づいて、ツール回転数の指令信号を回転用モータ41に出力する。これにより、回転用モータ41は、司令されたツール回転数によりツール20が回動されるように駆動する。
【0037】
ツール高さ司令部56は、演算部53からの制御指令に基づいてツール高さの指令信号を、昇降用モータ42に出力する。これにより、昇降用モータ42は、ツール20が指令されたツール高さに設定されるように駆動する。
【0038】
ツール移送司令部57は、演算部53からの制御指令に基づいてツール移送速度の指令信号を移送用モータ43に出力する。これにより、移送用モータ43は、ツール20が指令された移送速度により加工方向へ移動するように駆動する。
【0039】
(ツール)
ツール20は、互いに突き合わさった2枚のアルミニウム板W1・W2の境界Cを摩擦攪拌接合するための工具である。
【0040】
図3の(a)および(c)に示すように、ツール20は、回動部21と、当該回動部21におけるツールホルダ8側に形成される取付部22とを備える。ツール20は、取付部22がツールホルダ8に着脱自在に固定されることにより、保持部4に取り付けられる。取付部22は、少なくとも一部に平面22aを備えている。ツールホルダ8は、このような取付部22の形状に適合して、取付部22と嵌合可能な形状として形成される。したがって、ツール20はツールホルダ8に良好に固定される。
【0041】
図3の(a)~(d)に示すように、境界Cに押圧される回動部21における先端の端面の全域が、外部に向けて凸となる球面形状の端面23a、または平面形状の端面23bとして形成される。換言すれば、端面23a・23bはプローブが設けられていない形状として形成される。なお、説明の便宜上、端面23aを備えるツール20を球面状ツール20a、端面23bを備えるツール20を平面状ツール20bと称することがある。
【0042】
ツール20の材質は、工具鋼、超硬合金またはセラミックス等の種々の材質から形成できる。特に、Ni基2重複層金属間化合物合金であることが好ましい。このような構成によれば、ツール20の耐熱及び耐摩耗性が向上され、加工時の摩擦熱による高温化でもツール20が必要な硬さを発揮することができる。
【0043】
〔摩擦攪拌接合装置を用いた摩擦攪拌接合の方法〕
本発明の一実施形態に係る摩擦攪拌接合方法について、図3および図4を参照して以下に説明する。
【0044】
(概要)
摩擦攪拌接合装置1を用いた摩擦攪拌接合は、例えば以下の各工程を踏むことにより行われる。
(1) まず、接合するアルミニウム板W1・W2の板厚およびサイズ等に従って、接合条件(ツール高さ、ツール回転数、ツール移送量、および後述する前進角θ等)を制御装置50に入力する。なお、以降の各工程におけるツール20の動作は全て、制御装置50により制御される。
(2) 次に、アルミニウム板W1・W2を突き合わせた状態によって、押さえ6を用いて支持台5上に固定する。このとき、アルミニウム板W1・W2の境界Cが、裏当て材30に当接する位置にアルミニウム板W1・W2が固定される。
(3) 次に、ツール20における回動部21が回動を開始すると共に、回動している回動部21の先端が境界Cの一端を押圧する。
(4) 次に、回動している回動部21の先端が境界Cを押圧しながら、境界Cに沿って移動する。これにより、境界Cがその一端から連続的に接合されていく。
(5) 次に、ツール20が境界Cに沿って移動した距離が予め設定されたツール移送量に到達したら、ツール20の移動および回動部21の回動が停止する。
(6) 最後に、ツール20がアルミニウム板W1・W2から遠ざけられる。これにより、接合されたアルミニウム板W1・W2を支持台5から取り外すことができる。
【0045】
なお、上記の各工程はあくまで例示であり、他の工程を踏むことによって上記の摩擦攪拌接合が行われてもよい。換言すれば、本発明の一態様に係る摩擦攪拌接合方法は、板厚が1mm以下である複数のアルミニウム板を接合する摩擦攪拌接合方法であって、回動部21における先端の端面の全域が、平面形状、または外部に向けて凸となる球面形状であり、互いに端部が接触した2枚のアルミニウム板W1・W2の境界Cを、回動している回動部21の先端で押圧しつつ、回動部21を、境界Cに沿って移動させるような方法であれば、どのような方法であってもよい。
【0046】
また、本実施形態に係る摩擦攪拌接合方法は、摩擦攪拌接合装置1に限られず、一般的な摩擦攪拌接合装置を用いて実施することができる。
【0047】
(回動部の先端の圧入)
摩擦攪拌接合装置1により摩擦攪拌接合を行う際、ツール20の中心軸を回転軸として回動している回動部21の先端が、2枚のアルミニウム板W1・W2の境界Cに押圧される。このとき、回動部21の先端は境界Cに圧入される。圧入された回動部21の先端は、境界Cに沿って移動する。これにより、回動している回動部21の先端と境界Cとの接触により摩擦熱および攪拌力が発生し、境界Cにおいて塑性流動が起きる。ツール20が移動した後、溶解および攪拌された境界Cが速やかに冷却され凝固することで、境界Cが接合される。
【0048】
ここで、従来の摩擦攪拌接合用ツールの先端(端面23a・23bに相当)には、プローブと呼ばれる突起が設けられている。ツールの先端およびプローブが回動しながら、2枚の金属板における端部同士の接触部分に押圧され、金属板に圧入されることで、摩擦攪拌接合が行われる。このとき、ツールの先端およびプローブが金属板に圧入されることで、プローブと金属板との摩擦により攪拌力および摩擦熱が発生する。これにより、ツールの先端およびプローブが上記接触部分に圧入される深さ(圧入量)に応じて、上記接触部分において金属板の厚さ方向に深い範囲で塑性流動が起こる。このため、上記接触部分が強固に接合される。
【0049】
しかしながら、従来の摩擦攪拌接合用ツールでは、ツールの先端に加えてプローブが上記接触部分に深く圧入される。そのため、金属板の接合部分において板厚が減少してしまい、残存板厚(接合後における接合部分の板厚)が小さくなる不具合がある。
【0050】
特に、薄い金属板を接合する場合には、残存板厚がほとんどなくなってしまう。例えば、板厚1mm以下の金属板を、プローブを備えるツールによって摩擦攪拌接合を行うことは、上述した理由から困難である。このため、板厚1mm以下の金属板を摩擦攪拌接合する場合、2枚の金属板の端部同士を重ね合わせて接触させることで、上記接触部分の板厚を確保する等の工夫が必要となっていた。
【0051】
一方、本発明の一実施形態に係る摩擦攪拌接合方法は、上記のようなプローブを備えないツール20が用いられる。このような構成によれば、接合の際に境界Cに圧入されるのは回動部21の先端のみとなる。そのため、回動部21の先端の圧入量は、プローブの大きさに相当する深さ分だけ減少する。これにより、プローブが設けられているツールと比べて接合部分における板厚の減少が抑制できる。すなわち、本発明の一実施形態に係るツール20を用いることで、板厚1mm以下の薄いアルミニウム板に対しても問題なく摩擦攪拌接合を行うことができる。なお、アルミニウム板W1・W2の板厚は、0.5mm以下であってもよい。
【0052】
また、本発明の一実施形態に係るツール20を用いた摩擦攪拌接合方法によれば、従来の摩擦攪拌接合用ツール(プローブを備えたもの)を用いた場合に比べて、接合時に回動部21の先端付近が受ける抵抗力が少ない。したがって、上記の抵抗力に起因する、回動部21の振動および回動部21の移動中における進路のブレを低減することができる。そのため、アルミニウム板W1・W2の接合部分におけるシワおよびヨレの発生を効果的に抑制することができる。
【0053】
ここで、ツール20は、球面状ツール20aであることが好ましい。このような構成によれば、回動部21の先端が球面状の端面23aとして形成されるため、上記の抵抗力がより少なくなる。よって、アルミニウム板W1・W2の接合部分におけるシワおよびヨレの発生をより効果的に抑制して、アルミニウム板W1・W2を接合することができる。
【0054】
また、ツール20は、回動部21における端面23aまたは端面23bと、側面24とは形状として非連続であり、その境界部(第2境界)25は境界線となる角形状として形成される。しかし、境界部25は曲面状に連続的に形成されてもよい。このような構成によれば、角形状である境界部25が境界Cに押圧されることがなくなる。そのため、回動部21の先端が境界Cを押圧して移動される際に、回動部21の先端付近が受ける抵抗力が少なくなる。したがって、接合部分におけるシワおよびヨレの発生をより効果的に抑制して、アルミニウム板W1・W2を接合することができる。
【0055】
(前進角の付与)
図4に示すように、回動部21の先端は、回転軸が鉛直方向に対して傾斜した状態(ツール20に前進角θを付与した状態)により、アルミニウム板Wを押圧することが好ましい。また、回転軸の傾斜方向と反対方向(図4における、加工方向)にツール20を移動させることが好ましい。このような構成によれば、圧入量を深くしても残存板厚が大きくなる傾向がある。
【0056】
このような現象について説明を試みると、アルミニウム板W1・W2の境界Cにおいて、回動する回動部21の圧入により軟化したアルミニウムは、当該回動する回動部21の先端により、RS(Retreating side:接合部分を挟んでツール回転方向と接合方向が逆となる側)からAS(Advancing side:接合部分を挟んでRSの反対側)へ流動する。このとき、ツール20に前進角θを付与することで、軟化したアルミニウムがRSからASへ流動する量(接合部分の範囲内に残存する軟化したアルミニウムの量)が多くなる。そのため、接合部分における軟化したアルミニウムの減少量が少なくなる。これにより、発明者は、ツール20に前進角θを付与することで、圧入量に比べて残存板厚が大きくなると考える。
【0057】
なお、前進角θを付与することによる残存板厚の改善効果は、球面形状である端面23aを備えるツール20によって接合を行った場合、より大きくなる。RSからASへ金属板材料が流動する量が、より多くなるためであると考えられる。
【0058】
前進角θは、3度であることが好ましい。このような角度であれば、残存板厚の減少が抑えられる。前進角θはこれに限られず、例えば、1~10度であってもよく、1~7度であってもよく、2~5度であってもよい。
【0059】
(裏当て材)
本実施形態に係る摩擦攪拌接合方法において使用される裏当て材30は、窒化ケイ素(Si)により形成される。窒化ケイ素は、熱伝導率が比較的高く(略90W/m・K)、低反応性の材料である。したがって、摩擦攪拌接合の際に接合部分に発生する熱を吸熱および放熱することができるため、接合部分に発生する熱が過度に高くならない。また、接合部分と裏当て材30との凝着を防止することができる。
【0060】
なお、裏当て材30の形成材料は、窒化ケイ素に限られず、例えば炭素鋼などでもよい。具体的には、接合部分と裏当て材30との凝着を防止する観点から、熱膨張係数が3~3.5×10-6/K、熱伝導率が20~28W/(m・K)、比熱が0.68kJ/(kg・K)、および耐熱衝撃性が600~650(ΔT)℃の熱的特性を有する形成材料で裏当て材30が形成されていることが好ましい。上記の熱的特性を有する形成材料としては、例えば酸化アルミニウム(Al)、サイアロン(Si-Al)等が挙げられる。
【0061】
また、裏当て材30が必ずしも使用される必要はない。すなわち、摩擦攪拌接合装置1における支持台5に、アルミニウム板W1・W2が直接載置されてもよい。
【0062】
裏当て材30は、図1および図2の(a)に示すように、板状に形成される。なお、裏当て材30の形状はこれに限られず、いかなる形状であってもよい。たとえば、ブロック形状等であってもよい。
【0063】
(変形例)
本発明の一態様に係る摩擦攪拌接合方法では、2枚の金属板の突き合わせ部分(あるいは、重ね合わせ部分)と、1枚の金属板とを重ね合わせてもよい。例えば、図5に示すように、1枚のアルミニウム板W3(1枚の金属板)でアルミニウム板W1・W2の突き合わせ部分(接触部分)の全体を覆うように、当該1枚のアルミニウム板W3を突き合わせ部分に重ね合せる。そして、1枚のアルミニウム板W3と突き合わせ部分とが重ね合わさった2段重ね部分Pを、摩擦攪拌接合装置1のツール20によって摩擦攪拌接合してもよい。
【0064】
このように、突き合わせ部分と1枚の金属板とを重ね合わせて摩擦攪拌接合することにより、接合部分の厚さを1枚の金属板を重ね合せない場合に比べて厚くすることができる。そのため、そのため、接合部分におけるシワおよびヨレの発生を効果的に抑制しつつ、接合部分の強度が向上した金属板接合体を製造することができる。
【0065】
なお、上述の重ね合せは2段に限定されない。すなわち、2枚の金属板の突き合わせ部分に2枚以上の金属板を複数段重ね合せてもよい。ただし、重ね合せた部分を十分に接合させるためには、突き合わせ部分に重ね合せる金属板の枚数を3枚以下にすることが好ましい。
【0066】
〔摩擦攪拌接合されたアルミニウム板接合体〕
本実施形態に係る摩擦攪拌接合方法によれば、板厚1mm以下のアルミニウム板を突き合わせ接合したアルミニウム板接合体を得ることができる。このようなアルミニウム板接合体は、接合部分における板厚減少並びにシワおよびヨレが少ない。従来技術に係るツール(プローブを備えるツール)によれば、このようなアルミニウム板接合体を得ることは困難である。
【0067】
上記アルミニウム板接合体の一例として、アルミニウム製のフィンチューブにおけるフィン(不図示)が挙げられる。このようなフィンは、板厚が0.5mm以下であると共に、フィンチューブにおけるチューブに連続的にフィンが巻かれる必要がある。そのため、チューブの長さに応じて、長辺の長さが非常に長いフィンを形成することを要する。
【0068】
このような場合、多数の細長いアルミニウム板における短辺の端部同士を、により接合して、長辺の長さが非常に長い一枚のフィンを形成しなければならない。従来、板厚0.5mmのアルミニウム板の接合に課題があり、このような長いフィンを得ることは困難だった。本発明の一実施形態に係る摩擦攪拌接合方法によれば、フィンチューブのフィンとして好適なアルミニウム板接合体を得ることができる。
【0069】
〔付記事項:本発明の別の表現〕
本発明は、以下のようにも表現することができる。本発明の一態様に係る工具(ツール20)は、板厚が1mm以下である複数の金属板(アルミニウム板W1・W2)を接合するための工具であって、前記工具の中心軸を回転軸として回動可能な回動部(21)を備えており、前記回動部における先端の端面の全域が、平面形状、または外部に向けて凸となる球面形状であり、前記複数の金属板を接合する際、回動している前記回動部の前記先端が、互いに端部が接触した2枚の前記金属板の接触部分(境界C)を押圧しつつ、前記接触部分に沿って移動することを特徴とする。
【0070】
本発明の一態様に係る金属接合体は、板厚が1mm以下である複数の金属板(アルミニウム板W1・W2)を接合するための工具(ツール20)によって接合された金属接合体であって、前記工具は、前記工具の中心軸を回転軸として回動可能な回動部(21)を備えており、前記回動部における先端の端面の全域が、平面形状、または外部に向けて凸となる球面形状であり、互いに端部が接触した2枚の前記金属板の接触部分(境界C)が、回動している前記回動部の前記先端で押圧されつつ、前記回動部が前記接触部分に沿って移動することによって接合されることを特徴とする。上記構成によれば、接合部分における、板厚減少およびシワ・ヨレが少ない金属接合体を実現することができる。
【0071】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0072】
〔実施例1:球面状ツールおよび平面状ツールの比較〕
本発明の一実施例について以下に説明する。球面状ツール20aおよび平面状ツール20bを用いて摩擦攪拌接合操作を行い、形成された接合部分の外観を観察した。ここでは、2枚の金属板の接触部分ではなく、1枚の金属板の表面における任意の部分に対する摩擦攪拌接合操作(このような操作を、「スターインプレート」と称する)を行った。
【0073】
(方法)
スターインプレートに用いた金属板は、板厚1mmのアルミニウム板である。接合条件は、前進角θは3度、接合速度は100mm/min、接合距離は100mmとした。圧入量(図6図8の“Penetration depth”)は、球面状ツール20aを用いる場合は0.15mmまたは0.2mmとし、平面状ツール20bを用いる場合は0.05mm、0.1mm、または0.15mmとした。また、それぞれのツールの回転数は、1500rpm、2250rpm、または3000rpmとした。
【0074】
(結果)
図6の(a)は球面状ツール20aによる結果を、図6の(b)は平面状ツール20bによる結果をそれぞれ示す。“Welding direction”は接合方向を示す。すなわち、図6中のそれぞれの写真において、反時計回りに回動するツールを、左から右に移動させることにより接合を行った。
【0075】
球面状ツール20aによる接合部分は、平面状ツール20bによる接合部分と比べて、接合部分の幅(以下、「ビード幅」)が狭かった。また、球面状ツール20aによる接合部分には、バリの発生がほとんど見られなかった。これらの結果から、球面状ツール20aによれば、平面状ツール20bと比較して、外観が良好な接合部分が得られることが示された。
【0076】
〔実施例2:接合部分の外観および断面組織〕
本発明の一実施例について以下に説明する。球面状ツール20aを用いて、板厚0.5mmのアルミニウム板に対してスターインプレートを行った。これにより形成された接合部分の外観および断面組織を観察した。
【0077】
(方法)
スターインプレートに用いた金属板は、板厚0.5mmのアルミニウム板である。接合条件は、前進角θは3度、接合速度は100mm/min、接合距離は100mm、圧入量は0.05mmまたは0.1mmとした。ツールの回転数は、1500rpm、2250rpm、または3000rpmとした。接合部分における断面組織を観察するため、接合操作後に、接合方向に対して垂直に、接合部分を含むようにアルミニウム板を切断した。
【0078】
(結果)
結果を図7および図8に示す。図7の(a)は接合部分の外観を、図7の(b)は接合部分の断面組織をそれぞれ示す。図7の(a)は、図6の(a)および(b)と同様の構成により示しているため、説明を省略する。図7の(b)において、“Stir zone”は攪拌領域を示す。
【0079】
図8は、圧入量とアルミニウム板の残存板厚との関係を示すグラフである。グラフの縦軸は攪拌領域における残存板厚(単位:mm)を、横軸はツールの圧入量(単位:mm)を示す。グラフ中の点線は、接合操作前のアルミニウム板の板厚である0.5mmを示す。
【0080】
攪拌領域の広さについて、図7の(a)に示すように、球面状ツール20aによる接合部分は、圧入量とビード幅とが略比例した。また、実施例1と同様にバリの発生がほとんど見られなかった。
【0081】
攪拌領域の深さについて、図7の(b)に示すように、圧入量0.05mmの場合は攪拌領域が裏面まで到達しなかった。一方、圧入量0.1mmの場合は攪拌領域が裏面まで到達していた。また、図8に示すように、圧入量0.1mmであっても、残存板厚は0.4mm以上を保っていた。このように、板厚0.5mmのアルミニウム板を接合する場合において、攪拌領域が裏面に到達するような圧入量であっても、板厚は十分に残存していた。したがって、球面状ツール20aによれば、板厚を十分に残し、かつ、シワおよびヨレの発生を抑えて、板厚0.5mmの薄いアルミニウム板を接合できることが示された。
【0082】
〔実施例3:引張試験〕
本発明の一実施例について以下に説明する。板厚0.5mmのアルミニウム板を、球面状ツール20aを用いて突き合わせ接合し、接合部分の強度(引張強さおよび伸び)を測定した。
【0083】
(方法)
板厚0.5mmの2枚のアルミニウム板について、球面状ツール20aを用いて突き合わせ接合を行った。接合条件は、前進角θは3度、接合速度は100mm/min、接合距離は100mm、圧入量は0.1mmとした。ツールの回転数は3000rpmとした。
【0084】
接合後のアルミニウム板接合体から、図9の(a)に示すように、引張試験片を採取した。引張試験片は、JISZ 2201 13号試験片の形状に準じ、幅10mm、平行部長さ24mmとした。また、参照用として、接合を行っていないアルミニウム板から、引張試験片と同じ形状の参照用試験片を採取した。なお、図9の(a)に示す引張試験片の寸法の単位は、すべてミリメートル(mm)である。
【0085】
引張試験片および参照用試験片は、横方向の両端部が引張速度0.5mm/minにて引張され、引張強さ(単位:N)および伸び(単位:mm)を測定した。引張強さは、引張試験中における引張力が最大となった時の引張力を示す。伸びは、上記引張力が最大となった時における引張試験片の横方向の長さから、引張前における引張試験片の横方向の長さを差し引いた長さを示す。結果の値は、5回の試行を行った結果の平均値を示し、エラーバーは標準偏差を示す。
【0086】
(結果)
図9の(b)は、引張試験片(FSW)および参照用試験片(Base metal)の引張強さおよび伸びを示すグラフである。グラフの左縦軸は引張強さ(単位:N)を示し、右縦軸は伸び(単位:mm)を示す。“Failure load”は引張強さの結果を示し、“Elongation”は伸びの結果を示す。
【0087】
引張強さは、引張試験片と参照用試験片とで差はほぼ見られなかった。伸びは、引張試験片において、参照用試験片と比べて若干低下していた。したがって、本発明の一実施形態に係る摩擦攪拌接合方法によって接合された接合部分は、接合に用いたアルミニウム板とほぼ同等の、優れた機械的性質を有することが示された。
【符号の説明】
【0088】
1 摩擦攪拌接合装置
20 ツール(工具)
20a 球面状ツール(工具)
20b 平面状ツール(工具)
21 回動部
23a、23b 端面
24 側面
25 境界部(第2境界)
30 裏当て材
50 制御装置
C 境界(第1境界)
F2 押圧面
P 2段重ね部分
W1、W2、W3 アルミニウム板(金属板)
θ 前進角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9