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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】充電率推定装置及び充電率推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/367 20190101AFI20230105BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20230105BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20230105BHJP
   G01R 31/3828 20190101ALI20230105BHJP
【FI】
G01R31/367
H01M10/48 P
H02J7/00 X
G01R31/3828
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018217605
(22)【出願日】2018-11-20
(65)【公開番号】P2020085569
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004765
【氏名又は名称】マレリ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(74)【代理人】
【識別番号】100195534
【弁理士】
【氏名又は名称】内海 一成
(72)【発明者】
【氏名】長村 謙介
(72)【発明者】
【氏名】片芝 惇平
(72)【発明者】
【氏名】足立 修一
(72)【発明者】
【氏名】八田羽 謙一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 理沙子
(72)【発明者】
【氏名】小野 鉄帆
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0288414(US,A1)
【文献】特開2002-223526(JP,A)
【文献】特開2018-072265(JP,A)
【文献】国際公開第2015/133103(WO,A1)
【文献】特開2006-042536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/36-31/44、
H01M 10/48、
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリの充電率を推定する充電率推定装置であって、
前記バッテリのモデルに基づく少なくとも2つのオブザーバを用いて、前記バッテリの充電率を推定し、
前記各オブザーバがパラメータとして有するオブザーバゲインは、互いに異なり、
前記オブザーバは、第1オブザーバと第2オブザーバとを含み、
前記第1オブザーバは、前記充電率の推定値を含む第1推定値を算出する第1推定部を備え、
前記第2オブザーバは、前記充電率の推定値を含む第2推定値を算出する第2推定部を備え、
前記第1推定部は、前記第1推定値の算出を開始してから所定時間が経過した第1時刻において、前記第1推定値と前記第2推定値とに基づいて、前記第1推定値を収束させ
前記第1オブザーバは、前記第1推定部へフィードバックする補正値を算出する第1補正値算出部をさらに備え、
前記第2オブザーバは、前記第2推定部へフィードバックする補正値を算出する第2補正値算出部をさらに備え、
前記第1推定部は、前記第1補正値算出部で算出された補正値に基づいて、前記第1推定値を新たに算出し、
前記第2推定部は、前記第2補正値算出部で算出された補正値に基づいて、前記第2推定値を新たに算出する、充電率推定装置。
【請求項2】
バッテリの充電率を推定する充電率推定装置であって、
前記バッテリのモデルに基づく少なくとも2つのオブザーバを用いて、前記バッテリの充電率を推定し、
前記各オブザーバがパラメータとして有するオブザーバゲインは、互いに異なり、
前記オブザーバは、第1オブザーバと第2オブザーバとを含み、
前記第1オブザーバは、前記充電率の推定値を含む第1推定値を算出する第1推定部を備え、
前記第2オブザーバは、前記充電率の推定値を含む第2推定値を算出する第2推定部を備え、
前記第1推定部は、前記第1推定値の算出を開始してから所定時間が経過した第1時刻において、前記第1推定値と前記第2推定値とに基づいて、前記第1推定値を収束させ
前記各オブザーバにおいて、前記オブザーバゲインを含む第1行列の固有値が互いに異なり、
前記バッテリのモデルは、入出力システムとして表され、
前記第1行列は、前記入出力システムの特性の少なくとも一部を表すシステム行列をさらに含む、充電率推定装置。
【請求項3】
前記第1オブザーバの推定部は、前記第1時刻より後において、前記第1時刻において収束させた第1推定値を初期値として、前記第1推定値を推定する、請求項1又は2に記載の充電率推定装置。
【請求項4】
バッテリのモデルに基づくオブザーバであって、少なくとも、互いに異なるオブザーバゲインをパラメータとして有している第1オブザーバと第2オブザーバとを含むオブザーバを用いて、前記バッテリの充電率を推定する充電率推定装置によって実行される充電率推定方法であって、
前記第1オブザーバの第1推定部が、前記充電率の推定値を含む第1推定値を算出するステップと、
前記第2オブザーバの第2推定部が、前記充電率の推定値を含む第2推定値を算出するステップと、
前記第1推定部が、前記第1推定値の算出を開始してから所定時間が経過した第1時刻において、前記第1推定値と前記第2推定値とに基づいて、前記第1推定値を収束させるステップと
前記第1オブザーバの第1補正値算出部が、前記第1推定部へフィードバックする補正値を算出するステップと、
前記第2オブザーバの第2補正値算出部が、前記第2推定部へフィードバックする補正値を算出するステップと、
前記第1推定部が、前記第1補正値算出部で算出された補正値に基づいて、前記第1推定値を新たに算出するステップと、
前記第2推定部が、前記第2補正値算出部で算出された補正値に基づいて、前記第2推定値を新たに算出するステップと
を含む、充電率推定方法。
【請求項5】
バッテリのモデルに基づくオブザーバであって、少なくとも、互いに異なるオブザーバゲインをパラメータとして有している第1オブザーバと第2オブザーバとを含むオブザーバを用いて、前記バッテリの充電率を推定する充電率推定装置によって実行される充電率推定方法であって、
前記第1オブザーバが、前記充電率の推定値を含む第1推定値を算出するステップと、
前記第2オブザーバが、前記充電率の推定値を含む第2推定値を算出するステップと、
前記第1オブザーバが、前記第1推定値の算出を開始してから所定時間が経過した第1時刻において、前記第1推定値と前記第2推定値とに基づいて、前記第1推定値を収束させるステップと
を含み、
前記各オブザーバにおいて、前記オブザーバゲインを含む第1行列の固有値が互いに異なり、
前記バッテリのモデルは、入出力システムとして表され、
前記第1行列は、前記入出力システムの特性の少なくとも一部を表すシステム行列をさらに含む、充電率推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充電率推定装置及び充電率推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オブザーバを用いてバッテリの充電率を推定する装置が知られている(例えば特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-72265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バッテリの充電率の推定を開始した初期における推定誤差が大きい場合、推定誤差が収束するまでにかかる時間が長くなることがある。推定誤差が収束するまでの時間が長いほど、充電率の推定精度が低下しやすくなりうる。
【0005】
かかる事情に鑑みてなされた本発明の目的は、バッテリの充電率の推定精度を向上させることができる充電率推定装置及び充電率推定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、第1の観点に係る充電率推定装置は、バッテリの充電率を推定する。前記充電率推定装置は、前記バッテリのモデルに基づく少なくとも2つのオブザーバを用いて、前記バッテリの充電率を推定する。前記各オブザーバがパラメータとして有するオブザーバゲインが互いに異なる。前記オブザーバは、第1オブザーバと第2オブザーバとを含む。前記第1オブザーバは、前記充電率の推定値を含む第1推定値を算出する第1推定部を備える。前記第2オブザーバは、前記充電率の推定値を含む第2推定値を算出する第2推定部を備える。前記第1推定部は、前記第1推定値の算出を開始してから所定時間が経過した第1時刻において、前記第1推定値と前記第2推定値とに基づいて、前記第1推定値を収束させる。
【0007】
上記課題を解決するために、第2の観点に係る充電率推定方法は、バッテリのモデルに基づくオブザーバを用いて、前記バッテリの充電率を推定する充電率推定装置によって実行される。前記オブザーバは、少なくとも、互いに異なるオブザーバゲインをパラメータとして有している第1オブザーバと第2オブザーバとを含む。前記充電率推定方法は、前記第1オブザーバが、前記充電率の推定値を含む第1推定値を算出するステップを含む。前記充電率推定方法は、前記第2オブザーバが、前記充電率の推定値を含む第2推定値を算出するステップを含む。前記充電率推定方法は、前記第1オブザーバが、前記第1推定値の算出を開始してから所定時間が経過した第1時刻において、前記第1推定値と前記第2推定値とに基づいて、前記第1推定値を収束させるステップを含む。
【発明の効果】
【0008】
第1の観点に係る充電率推定装置によれば、バッテリの充電率の推定精度が向上されうる。
【0009】
第2の観点に係る充電率推定方法によれば、バッテリの充電率の推定精度が向上されうる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る充電率推定装置の構成例を示すブロック図である。
図2】バッテリ等価回路の一例を示す図である。
図3】n次のRC梯子回路である((A)フォスタ型(B)カウエル型)。
図4】SOC-OCV特性の一例を示す図である。
図5図2のワールブルグインピーダンスをフォスタ型RC梯子回路に置き換えたバッテリ等価回路の例を示す図である。
図6】オブザーバの構成例を示すブロック図である。
図7】第1推定部の構成例を示すブロック図である。
図8】充電率推定方法の一例を示すフローチャートである。
図9】バッテリに流れる電流の時間変動の一例を示すグラフである。
図10】SOC推定誤差の時間変動の一例を示すグラフである。
図11】δと収束後のSOC推定誤差との関係の一例を示すグラフである。
図12】車両に搭載された充電率推定装置の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の一実施形態に係る充電率推定装置は、電気自動車又はハイブリッド電気自動車などの車両に搭載されてよい。充電率推定装置は、車両のバッテリの充電率を推定してよい。車両には、車両を駆動する電気モータ、バッテリ、これらのコントローラなどが搭載される。バッテリは、放電して電気モータへ電力を供給したり、制動時に電気モータから回生充電したり、地上充電設備から充電したりする。充電率推定装置は、バッテリに流れる充放電電流とバッテリの端子電圧とに基づいて、バッテリの充電率を推定してよい。
【0012】
図1に示されるように、一実施形態に係る充電率推定装置1は、第1オブザーバ10と、第2オブザーバ20とを備える。充電率推定装置1は、電流センサ2及び電圧センサ3を介してバッテリ4に接続される。充電率推定装置1は、電流センサ2又は電圧センサ3を含んでもよい。
【0013】
電流センサ2は、バッテリ4に流れる充放電電流を測定する。本実施形態において、時刻はtで表されるとする。充放電電流は、時刻の関数として、u(t)で表されるとする。電流センサ2は、充放電電流の測定値を充電率推定装置1に対して出力する。
【0014】
電圧センサ3は、バッテリ4の端子電圧を測定する。本実施形態において、端子電圧は、時刻の関数として、y(t)で表されるとする。電圧センサ3は、端子電圧の測定値を充電率推定装置1に対して出力する。
【0015】
バッテリ4は、例えば二次電池であってよい。二次電池は、リチャージャブル・バッテリともいう。バッテリ4は、本実施形態においてリチウム・イオン・バッテリであるとする。バッテリ4は、他の種類のバッテリであってよい。
【0016】
第1オブザーバ10及び第2オブザーバ20は、単にオブザーバともいう。オブザーバは、状態推定器ともいう。オブザーバは、後述するように、バッテリ4の内部状態を推定する。
【0017】
オブザーバは、例えばプロセッサ又はマイクロコンピュータ等で構成されてよい。オブザーバが備える各構成部の機能は、プログラムをプロセッサ等で実行することによって実現されてもよいし、特定の処理に特化した専用のプロセッサによって実現されてもよい。オブザーバは、記憶部を含んでよい。記憶部は、例えば半導体メモリ又は磁気記憶装置等で構成されてよい。オブザーバは、その処理において取り扱うデータ又は情報等を記憶部に格納してよい。
【0018】
オブザーバは、電流センサ2及び電圧センサ3から、バッテリ4の充放電電流の測定値及び端子電圧の測定値をそれぞれ取得する。充電率推定装置1は、バッテリ4の充放電電流の測定値及び端子電圧の測定値に基づいて、バッテリ4の内部状態を推定してよい。
【0019】
バッテリ4の内部状態は、バッテリ4の開回路電圧と、バッテリ4の内部で発生する過電圧とをパラメータとして含むモデルによって表されうる。開回路電圧は、OCV(Open Circuit Voltage)ともいう。OCVは、バッテリ4の電気化学的平衡状態における電極間の電位差である。OCVは、バッテリ4に充放電電流が流れない場合のバッテリ4の端子電圧に対応する。過電圧は、内部インピーダンスで生じる電圧降下の大きさに対応する。内部インピーダンスは、バッテリ4の内部の電気化学反応の反応速度に応じて決定される。
【0020】
バッテリ4の内部状態を表すモデルは、図2で示されるようなバッテリ等価回路で近似されうる。バッテリ等価回路で近似されたモデルは、バッテリモデルともいう。バッテリ等価回路の入力は、バッテリ4に流れる充放電電流に対応し、u(t)として示される。図2においてu(t)が付された矢印は、バッテリ4を充電する電流の向きを表す。バッテリ4を充電する電流が流れる場合、u(t)は正の値となるとする。バッテリ4から放電電流が流れる場合、u(t)は負の値となるとする。バッテリ等価回路の出力は、バッテリ4の端子電圧に対応し、y(t)として示される。図2においてy(t)が付された矢印の先端側の端子は、バッテリ4の正極端子に対応する。
【0021】
バッテリ4のOCVは、バッテリ等価回路において電圧源201で表される。電圧源201が出力する電圧は、時刻の関数であるOCV(t)で表される。OCV(t)は、バッテリ4に充放電電流が流れない場合のバッテリ4の端子電圧に対応する。バッテリ4に充放電電流が流れない場合は、u(t)=0である場合ともいえる。u(t)=0である場合、OCV(t)=y(t)が成立する。
【0022】
図2のバッテリ等価回路において、バッテリ4の内部インピーダンスは、R0で示される抵抗と、Zw(p)で示されるワールブルグインピーダンスとを直列に接続した回路として表される。R0で示される抵抗は、バッテリ4の電解液内での泳動過程等に起因する抵抗を表す。ワールブルグインピーダンスは、バッテリ4内のイオンの拡散過程等に起因するインピーダンスを表す。バッテリ4の過電圧は、バッテリ等価回路に流れる電流によってバッテリ4の内部インピーダンスで発生する電圧降下として表される。
【0023】
ワールブルグインピーダンスは、例えば図3(A)に示される、R1~Rnとして示される抵抗とC1~Cnとして示されるコンデンサとの並列回路が直列にn個接続されたn次フォスタ型回路として表されてよい。ワールブルグインピーダンスは、例えば図3(B)に示される、直列に接続されたn個のコンデンサ(C1~Cn)の間に、R1~Rnとして示されるn個の抵抗のそれぞれが並列に接続されたn次カウエル型回路として表されてよい。ワールブルグインピーダンスは、他の線形伝達関数モデルを用いて表されてもよい。
【0024】
バッテリ4を近似するバッテリ等価回路のパラメータは、ワールブルグインピーダンスを構成する抵抗の抵抗値と、コンデンサの容量とを含む。バッテリ等価回路のパラメータは、予め設定されてよい。バッテリモデルのパラメータは、オブザーバによって保持されていてよいし、オブザーバが備える記憶部に格納されていてよい。
【0025】
充電率推定装置1は、バッテリ等価回路のパラメータと、バッテリ4に流れる充放電電流と、バッテリ4の端子電圧とに基づいて、バッテリ4の内部状態を推定する。本実施形態において、充電率推定装置1は、バッテリ4の内部状態として、バッテリ4の充電率及び過電圧を推定する。バッテリ4の充電率は、バッテリ4の充電容量に対する充電量の比である。充電率は、SOC(State Of Charge)ともいう。充電率推定装置1は、バッテリ4の内部インピーダンスを構成する抵抗の抵抗値及びコンデンサの容量を推定しないとする。充電率推定装置1は、内部インピーダンスに含まれる抵抗値及び容量を推定しない構成に限られない。充電率推定装置1は、内部インピーダンスに含まれる抵抗値及び容量を推定してもよい。
【0026】
充電率推定装置1は、バッテリ4のOCV及び過電圧を推定してよい。この場合、充電率推定装置1は、バッテリ4のOCVに基づいて、バッテリ4のSOCを推定しうる。
【0027】
バッテリ4のOCVは、SOCの関数として表されうる。SOCとOCVとの間の関係は、SOC-OCV特性といわれる。SOC-OCV特性は、例えば図4に示される実線のグラフで表されうる。図4の横軸及び縦軸はそれぞれ、SOC及びOCVを示す。SOC-OCV特性は、予め実験等によって求められうる。充電率推定装置1は、バッテリ4のSOC-OCV特性と、バッテリ4のSOCの推定値とに基づいて、バッテリ4のOCVを推定しうる。
【0028】
時刻tにおけるバッテリ4のxSOC(t)は、以下の式(1)によって算出されうる。t0は、測定開始時刻を表す。式(1)の右辺第2項の積分は、充放電電流を積算して算出される、バッテリ4に出入りする電荷量を表す。FCC(Full Charge Capacity)は、バッテリ4の満充電容量を表す。
【数1】
【0029】
SOC-OCV特性は、次の式(2)で表されるとする。
【数2】
OCV(・)は、SOC-OCV特性を表す関数である。
【0030】
SOC-OCV特性は、図4に破線で示されるように、一次関数で近似されてもよい。この場合、SOC-OCV特性は、次の式(3)で表されるとする。
【数3】
式(3)に含まれているα及びβは、既知の定数であるとする。
【0031】
本実施形態では、ワールブルグインピーダンスは、図3(A)に示されるフォスタ型回路で表されるとする。この場合、バッテリ等価回路は、図5のように表される。図5のバッテリ等価回路は、Zw(p)がフォスタ型回路に置き換えられた点で、図2のバッテリ等価回路と異なる。vk(t)は、Ckとして示される容量で生じる電圧降下を表す。kは、1~nの整数である。
【0032】
過電圧は、バッテリ4の内部インピーダンスと、バッテリ4の充放電電流とに基づいて、以下の式(4)のように表される。
【数4】
η(t)は、過電圧を表す。Gη(p)は、内部インピーダンスを表し、R0とZw(p)との和である。pは、微分演算子を表している。
【0033】
ワールブルグインピーダンスがフォスタ型回路である場合、Zw(p)は、以下の式(5)のように表される。
【数5】
ただし、
【数6】
である。Rdは、拡散抵抗を表す。Cdは、拡散容量を表す。
【0034】
図5のバッテリ等価回路の出力に対応するy(t)は、次の式(7)で表される。
【数7】
【0035】
図5のバッテリ等価回路で表されるバッテリモデルは、充放電電流を入力とし、端子電圧を出力とする、入出力システムによって表される。入出力システムは、単にシステムともいう。入出力システムは、次の式(8)及び式(9)によって示される状態空間として表されうる。
【数8】
【数9】
式(9)は、式(7)に式(3)が代入されることによって導出されている。
【0036】
状態空間は、システムの状態変数を座標軸として表される空間である。式(8)は、入力と状態変数との関係を表す状態方程式である。式(9)は、状態変数と出力との関係を表す出力方程式である。
【0037】
式(8)のAbatは、実数空間の(n+1)×(n+1)次の行列であり、以下の式(10)で表される。diagは、対角行列を出力する関数である。
【数10】
batは、システム行列ともいう。システム行列は、システムの特性の少なくとも一部を表す。
【0038】
式(8)のbbat及び式(9)のcbatはそれぞれ、実数空間の(n+1)次の列ベクトルを表し、以下の式(11)及び(12)で表される。Tは、転置行列を表す。
【数11】
【数12】
【0039】
式(9)のdbatは、以下の式(13)で表される。
【数13】
【0040】
式(8)及び(9)のx(t)は、状態変数であり、以下の式(14)で表される。
【数14】
【0041】
式(9)は、以下の式(15)を適用することによって、以下の式(16)のように変形されうる。
【数15】
【数16】
y(t)の上にバー(-)を付した項は、以下、y-(t)とも表す。y-(t)は、擬似出力ともいう。
【0042】
充電率推定装置1は、バッテリ4のモデルを表すシステムにおいて、状態変数を推定することによって、バッテリ4の内部状態を推定しうる。充電率推定装置1は、電流センサ2から取得した充放電電流の測定値をバッテリ4のモデルに入力し、端子電圧を推定する。充電率推定装置1は、電圧センサ3から取得した端子電圧の測定値と、端子電圧の推定値との差を、バッテリ4のモデルにフィードバックし、バッテリ4のSOCを推定する。
【0043】
本実施形態において、バッテリ4のモデルを表すシステムは、線形時不変システムであると仮定する。線形時不変システムは、LTI(Linear Time Invariant)システムともいう。LTIシステムに関する以下の説明は、バッテリ4のモデルを表すシステムに限定されるものではない。
【0044】
LTIシステムは、以下の式(17)及び式(18)に示される状態空間として表されうる。
【数17】
【数18】
【0045】
式(17)は、システムへの入力とシステムの内部状態を表す状態変数との関係を表す状態方程式である。式(18)は、状態変数とシステムからの出力との関係を表す出力方程式である。x(t)は、実数空間のn次の列ベクトルであり、状態変数を表す。u(t)は、実数空間のp次の列ベクトルであり、システムへの入力を表す。y(t)は、実数空間のq次の列ベクトルであり、システムからの出力を表す。Aは、実数空間のn×n次の行列であり、システムの特性の少なくとも一部を表すシステム行列である。Bは、実数空間のn×p次の行列である。Cは、実数空間のq×n次の行列である。n、p及びqはそれぞれ、状態、入力及び出力の信号のサイズに応じて設定される。A、B及びCとして表される行列のサイズは、各信号のサイズに応じて設定される。
【0046】
式(17)は、上述の、バッテリ4のシステムの状態方程式を表す式(8)に対応づけられる。式(18)は、上述の、バッテリ4のシステムの出力方程式を表す式(16)に対応づけられる。
【0047】
システムの状態変数及び出力は、例えば以下のようにして推定されうる。システムの状態変数の推定値は、x^(t)と表されるとする。この場合、状態変数の推定誤差は、x(t)-x^(t)で表される。システムの出力の推定値は、y^(t)と表されるとする。この場合、出力の推定誤差は、y(t)-y^(t)で表される。推定誤差の低減のために、式(17)に示される状態方程式において、出力の推定誤差がフィードバックされるとする。この場合、状態変数の推定値x^(t)に関する状態方程式は、以下の式(19)で表される。
【数19】
式(19)の右辺第3項は、出力の推定誤差が状態方程式にフィードバックされることを表している。式(19)に含まれるLは、実数空間のn×q次の行列であり、フィードバックを制御するパラメータを表している。
【0048】
式(19)の右辺第3項について、式(18)に基づいて、以下の式(20)が成り立つ。
【数20】
【0049】
式(19)及び式(20)に基づいて、以下の式(21)が導出される。
【数21】
【0050】
推定誤差(x(t)-x^(t))を時間微分した式に上記式(17)及び式(21)を適用することによって、推定誤差に関する微分方程式が、以下の式(22)のように表される。
【数22】
【0051】
式(22)において、A-L・Cが安定となるように、Lが設定されうる。推定誤差が収束するまでにかかる時間は、A-L・Cに基づいて決定されうる。つまり、A-L・Cは、推定誤差の収束の特性を決定しうる。本実施形態において、A-L・Cは、第1行列と称される。第1行列が安定であるための必要十分条件は、第1行列の全ての固有値の実部が負であることである。システム行列Aが安定であるか否かにかかわらず、Lが適切に設定されることによって、第1行列が安定であるための必要十分条件が満たされうる。第1行列が安定である場合、推定誤差が収束する。第1行列は、システム行列Aを含むといえる。
【0052】
式(19)は、システムに対するオブザーバを構成しているといえる。オブザーバは、状態変数の少なくとも一部を直接観測できない場合に、入力と出力とに基づいて、直接観測できない状態変数を推定する機構のことをいう。モデルを表すシステムに対するオブザーバは、モデルに基づくオブザーバともいう。Lは、オブザーバゲインという。オブザーバゲインは、オブザーバのパラメータの一種である。オブザーバゲインは、例えば特許文献1(特開2018-72265号公報)で開示されている方法に基づいて適切に設定されうる。オブザーバゲインは、第1行列に含まれるといえる。
【0053】
式(17)及び式(18)で表されるLTIシステムは、モデル化誤差を含まないとする。式(17)及び式(18)で表されるLTIシステムは、可観測(observable)であるとする。システムが可観測である場合、オブザーバによってシステムから直接観測可能な入力値と出力値とに基づいて、直接観測不可能なシステムの内部状態が完全に再構築されうる。
【0054】
式(17)及び式(18)で表されるLTIシステムに対して、それぞれ異なるオブザーバゲインを有する2つのオブザーバが適用される。2つのオブザーバは、以下の式(23)で表されるとする。式(23)で表されるオブザーバは、ルーエンバーガー(Luenberger)オブザーバともいう。
【数23】
iは、実数空間のn次の列ベクトルであり、オブザーバによって算出される状態変数の推定値を表す。Liは、2つのオブザーバそれぞれのオブザーバゲインに対応する。
【0055】
式(23)に含まれるz1(t)とz2(t)とを含むz(t)は、以下の式(24)で表される。
【数24】
【0056】
ここで、以下の式(25)~式(28)で表される、インパルシブオブザーバ(Impulsive Observer)が適用される。
【数25】
【数26】
【数27】
【数28】
【0057】
式(27)及び式(28)において、状態変数の推定値が、xの上に記号^が付されることによって表されている。以下、発明の詳細な説明の記載において、状態変数の推定値は、x^と表されるとする。式(27)のx0^は、実数空間のn次の列ベクトルであり、t=0における状態変数(x(0))の推定値を表している。
【0058】
式(26)に含まれるz(tk +)及びz(tk -)はそれぞれ、以下の式(29)及び式(30)で表される。
【数29】
【数30】
【0059】
式(26)は、状態変数の推定値z(t)が離散的な時刻tkにおいて瞬間的に(impulsive)変化することを表している。tk(k:自然数)は、以下の式(31)で表される。
【数31】
【0060】
以下の式(32)が成立すると仮定する。式(32)の仮定によって、一般性は失われない。
【数32】
【0061】
式(25)~式(28)に含まれる各係数は、以下の式(33)及び式(34)で表される。
【数33】
【数34】
nは、実数空間のn×n次の単位行列を表す。0nは、実数空間のn×n次のゼロ行列を表す。
【0062】
式(26)に含まれるKkは、実数空間の2n×2n次の行列である。kは自然数である。k=1の場合におけるK1は、以下の式(35)で表される。kが2以上である場合におけるKkは、以下の式(36)で表される。
【数35】
【数36】
式(35)に含まれるδについて、δ=t1-t0が成り立つ。式(35)に含まれる指数関数は、指数として行列を含む行列指数関数である。行列指数関数は、指数関数のテイラー展開に基づいて、指数に含まれる行列の冪級数として計算されうる。
【0063】
δは、インパルシブオブザーバによる推定誤差をゼロにできる時間を特定する設計パラメータである。δは、所定時間ともいう。t0は、推定開始時刻に対応する。t1は、推定開始から所定時間経過した時刻に対応し、第1時刻ともいう。インパルシブオブザーバにおける設計パラメータは、δだけでなく、L1及びL2で表されるオブザーバゲインも含む。δ、並びに、L1及びL2が適切に設定されることによって、式(25)~式(28)で表されるインパルシブオブザーバがδで表される有限時間で収束しうる。具体的には、以下の定理1が成り立つ。
【0064】
[定理1]
行列Fがフルビッツ行列(Hurwitz Matrix)となり、且つ、行列K1が存在するように、δ、並びに、L1及びL2が設定される。この場合において、インパルシブオブザーバは、δ=t1-t0として予め決定されている有限時間で、LTIシステムの正確な状態を推定できる。つまり、以下の式(37)が成り立つ。
【数37】
【0065】
上述の定理1は、例えば、以下の文献Aを参照して証明される。
文献A:T. Raff and F. Allgower, "An impulsive observer that estimates the exact state of a linear continuous time system in predetermined finite time," in Control & Automation, 2007. MED '07. Mediterranean Conference on. IEEE, 2007, pp. 1-3.
【0066】
定理1において、行列K1の存在が仮定されている。行列A及びCが可観測である場合、行列K1の存在は、L1及びL2が適切に選択されることによって保証される。上述の文献Aに基づけば、L1及びL2は、以下の式(38)が成立するように選択される。
【数38】
式(38)に含まれるσについて、σ<0が成り立つ。式(33)によれば、行列F1及びF2はそれぞれ、(A-L1・C)及び(A-L2・C)に対応し、第1行列であるといえる。つまり、式(38)は、第1行列の固有値の実部の大小関係を表している。式(38)によれば、行列F1の固有値の実部は、行列F2の固有値の実部よりも大きい。行列F1及びF2の固有値の実部は負である。式(38)によれば、各オブザーバゲインに基づいて算出される第1行列の固有値は、互いに異なるといえる。
【0067】
さらに、以下の式(39)が成り立つことを条件として、δ>0となる。
【数39】
式(39)が成り立つことによって、式(35)に含まれるインバース(In-exp(F2δ)・exp(-F1δ))-1が演算可能となる。つまり、式(39)が成り立つことが、K1が存在することの必要条件となっている。
【0068】
δは、0より大きい任意の値に設定されうる。
【0069】
1が適切に設定されることによって、式(26)に基づいて、状態変数が瞬間的に真値に収束しうる。式(25)~式(28)で表されているインパルシブオブザーバによる状態変数の推定について定性的に説明する。式(25)によれば、推定開始から第1時刻になるまで、各オブザーバが状態変数の推定値を算出している。式(26)によれば、第1時刻において、各オブザーバがそれまでに算出してきた状態変数の推定値が合成されている。各オブザーバは、第1時刻になるまで、異なるプロセスで、状態変数の推定値を真値に収束させようとしている。第1時刻は、推定値が真値に収束するまでの途中の時刻である。各オブザーバにおける推定プロセスが異なることによって、第1時刻における状態変数の推定値は、各オブザーバで異なる。一方、各オブザーバの推定プロセスは、オブザーバのパラメータに基づいて既知である。そうすると、少なくとも2つの既知の推定プロセスと、少なくとも2つの第1時刻における状態変数の推定値とに基づいて、状態変数の真値を含む連立方程式が立てられる。連立方程式の解として、真値が算出されうる。つまり、インパルシブオブザーバが用いられることによって、各オブザーバから算出される状態変数の推定値が真値に収束するまで待たずに、第1時刻において、状態変数の真値が算出されうる。
【0070】
上述の定理1は、LTIシステムがモデル化される際に、モデル化誤差がないことを前提としている。つまり、インパルシブオブザーバは、モデル化誤差がない場合に、状態推定の開始からδで表される有限時間で、状態変数の真値を推定できる。
【0071】
モデル化誤差が無視できない場合、LTIシステムは、以下の式(40)及び式(41)で表されうる。
【数40】
【数41】
【0072】
式(40)に含まれるw(t)は、実数空間のp次の列ベクトルであり、モデル化誤差の影響を表す外乱信号に相当する。w(t)について、以下の式(42)が成り立つと仮定する。
【数42】
式(42)は、w(t)の無限大ノルム(||w(t)||∞)が上限を有することを表している。つまり、モデル化誤差の大きさが分かっていると仮定する。
【0073】
[定理2]
式(42)が成り立つ場合、Mx(t)-z(t)として表されるインパルシブオブザーバの推定誤差について、以下の式(43)が成立する。
【数43】
式(42)に含まれるΔFについて、ΔF=F2-F1が成り立つ。
【0074】
定理2は、δで表される有限時間が経過した時刻t1におけるインパルシブオブザーバの推定誤差が上限値を有することを表している。つまり、モデル化誤差がある場合であっても、インパルシブオブザーバの推定誤差は、有限時間で所定値以内の誤差で収束する。
【0075】
定理2は、以下のように証明される。
【0076】
推定を開始した時刻t0からδで表される有限時間が経過した時刻t1までにおけるルーエンバーガーオブザーバの推定誤差e(t)は、以下の式(44)で表される。
【数44】
【0077】
推定誤差のダイナミクス(挙動)は、時間微分の形式で以下の式(45)で表される。
【数45】
【0078】
ここで、オブザーバが出力する状態変数の推定値であるzi(t)は、以下の式(46)で表される。
【数46】
【0079】
そして、z(t1 -)=z(t1)及びδ=t1-t0が成り立っていることと、式(25)及び式(46)とに基づけば、オブザーバが出力する状態変数の推定値であるz(t)は、時刻t1においてz(t1 +)にジャンプする。つまり、z(t)は、時刻t1においてz(t1 +)に瞬間的に(impulsive)変化する。z(t1 +)は、以下の式(47)によって表される。
【数47】
【0080】
式(47)に含まれるE1(δ)及びE2(δ)は、以下の式(48)及び式(49)で表される。
【数48】
【数49】
【0081】
式(47)に含まれる項の一部は、以下の式(50)及び式(51)のように変形される。
【数50】
【数51】
【0082】
式(50)及び式(51)に基づけば、式(47)は、以下の式(52)に変形される。
【数52】
【0083】
式(52)から、以下の式(53)が導かれる。
【数53】
【0084】
式(53)の右辺は、以下の式(54)のように変形される。
【数54】
【0085】
式(54)の3行目の2つの項それぞれの上限は、以下の式(55)及び式(56)のように表される。
【数55】
【数56】
【0086】
式(56)における||E2(δ)-E1(δ)||∞の変換は、以下の式(57)に示される事実に基づく。
【数57】
【0087】
以上述べてきたように定理2が証明される。定理2に基づけば、LTIシステムに対して2つの異なるオブザーバが適用されることによって、LTIシステムのモデル化誤差がある場合でも、状態推定の開始からδで表される有限時間で状態変数が有限の誤差の範囲内で収束する。
【0088】
本実施形態に係る充電率推定装置1は、2つの異なるオブザーバを備えることによって、上記定理1及び定理2に基づき、有限時間で、バッテリ4のSOCの推定値を有限の誤差の範囲内に収束させることができる。
【0089】
比較例に係る装置は、1つのオブザーバを用いて状態変数を推定する。この場合、状態変数の推定誤差は、時間の経過とともに漸近的に真値に収束していく。推定誤差の初期値が大きい場合、推定誤差が所定範囲内に減少するまでにかかる時間が長くなる。一方、本実施形態に係る充電率推定装置1は、2つのオブザーバを用いて状態変数を推定する。2つのオブザーバのオブザーバゲインが互いに異なることによって、上述の定理1及び定理2に基づいて、推定誤差の初期値の大きさにかかわらず、δで表される有限時間で推定誤差が所定範囲内に収束する。その結果、推定誤差が小さくされやすくなる。つまり、バッテリ4の状態変数の推定精度が向上しうる。
【0090】
図6に示されるように、充電率推定装置1は、第1オブザーバ10と、第2オブザーバ20とを備える。第1オブザーバ10は、第1オブザーバゲインを有する。第2オブザーバ20は、第2オブザーバゲインを有する。第1オブザーバゲインと第2オブザーバゲインとは、互いに異なる。第1オブザーバゲインを含む第1行列の固有値と、第2オブザーバゲインを含む第1行列の固有値とは、互いに異なる。
【0091】
第1オブザーバ10は、第1推定部11と、第1フィードバック部15とを備える。第1フィードバック部15は、第1端子電圧算出部12と、第1比較器13と、第1補正値算出部14とを備える。第2オブザーバ20は、第2推定部21と、第2フィードバック部25とを備える。第2フィードバック部25は、第2端子電圧算出部22と、第2比較器23と、第2補正値算出部24とを備える。
【0092】
第1推定部11及び第2推定部21は、区別される必要が無い場合、単に推定部ともいう。推定部は、バッテリ4のモデルのパラメータを予め設定しているとする。推定部は、バッテリ4の充放電電流の測定値を、電流センサ2から取得する。推定部は、バッテリ4の充放電電流の大きさを入力u(t)として、状態変数を推定する。第1推定部11及び第2推定部21による状態変数の推定値は、それぞれ第1推定値及び第2推定値ともいう。
【0093】
第1端子電圧算出部12及び第2端子電圧算出部22は、区別される必要が無い場合、単に端子電圧算出部ともいう。端子電圧算出部は、推定部から出力された状態変数の推定値に基づいて、バッテリ4の端子電圧の推定値を算出する。バッテリ4の状態変数は、バッテリ4の内部抵抗と充放電電流とに基づく過電圧と、バッテリ4のSOCとを含む。端子電圧算出部は、バッテリ4のSOCの推定値と、SOC-OCV特性とに基づいて、OCVの推定値を算出する。端子電圧算出部は、バッテリ4の過電圧の推定値と、バッテリ4のOCVの推定値とに基づいて、バッテリ4の端子電圧の推定値を算出する。
【0094】
第1比較器13及び第2比較器23は、区別される必要が無い場合、単に比較器ともいう。比較器は、電圧センサ3から、バッテリ4の端子電圧の測定値を取得する。比較器は、端子電圧算出部から、バッテリ4の端子電圧の推定値を取得する。比較器は、バッテリ4の端子電圧の測定値と推定値との差を、バッテリ4の端子電圧の推定誤差として算出する。
【0095】
第1補正値算出部14及び第2補正値算出部24は、区別される必要が無い場合、単に補正値算出部ともいう。補正値算出部は、推定誤差とオブザーバゲインとに基づいて、状態変数の補正値を算出する。第1補正値算出部14及び第2補正値算出部24が算出する、状態変数の補正値は、それぞれ第1補正値及び第2補正値ともいう。推定部は、補正値算出部から状態変数の補正値を取得する。推定部は、状態変数の補正値と、既に算出済みの状態変数の推定値とに基づいて、状態変数の新たな推定値を算出する。つまり、第1フィードバック部15及び第2フィードバック部25は、推定誤差とオブザーバゲインとに基づく状態変数の補正値を、推定部にフィードバックする。推定部は、フィードバックに基づいて状態変数を推定する。このようにすることで、状態変数の推定精度が向上しうる。
【0096】
第1オブザーバ10及び第2オブザーバ20がインパルシブオブザーバとして機能する場合、時刻t1において式(26)及び式(36)が適用される。第1推定部11は、第2推定部21から第2推定値を取得し、第1推定値に第2推定値を反映させた結果を第1推定値として算出する。
【0097】
図7に示されるように、第1推定部11は、算出部16と、合成部17と、選択部18とを備える。算出部16は、第1補正値算出部14から第1補正値を取得する。算出部16は、電流センサ2からバッテリ4の充放電電流の測定値を取得する。算出部16は、バッテリ4の充放電電流の測定値と、第1補正値と、既に算出済みの第1推定値とに基づいて、新たな第1推定値を算出する。算出部16は、合成部17と、選択部18とに、新たに算出した第1推定値を出力する。
【0098】
合成部17は、第2推定部21から第2推定値を取得する。合成部17は、算出部16から取得した第1推定値と、第2推定部21から取得した第2推定値とを、式(26)、式(35)及び式(36)に基づいて合成し、合成推定値として選択部18へ出力する。
【0099】
式(35)によれば、合成部17は、時刻t1において、第1推定値と第2推定値とに基づいて、第1推定値を収束させる。モデル化誤差が無い場合、合成部17は、第1推定値を状態変数の真値に収束させうる。モデル化誤差がある場合でも、合成部17は、第1推定値を状態変数の真値に対して有限の誤差の範囲内の値に収束させうる。
【0100】
式(36)によれば、合成部17は、時刻tk(k:2以上の自然数)において、第1推定値をそのまま合成推定値として出力する。
【0101】
選択部18は、算出部16から取得した第1推定値と、合成部17から取得した合成推定値とのうち一方の値を選択し、第1端子電圧算出部12と、算出部16とに出力する。選択部18は、離散的な時刻tkにおいて合成推定値を選択し、それ以外の時刻において第1推定値を選択する。
【0102】
合成部17の動作と選択部18の動作とに基づけば、第1推定部11と第2推定部21とは、推定を開始する時刻t0から時刻t1までの期間において、互いに独立に推定誤差をフィードバックすることによって状態変数を推定する。第1推定部11は、時刻t1において第1推定値と第2推定値とに基づいて、瞬間的に状態変数の推定値を収束させる。第1推定部11は、時刻t1より後の期間において、時刻t1において収束させた推定値に基づいて状態変数を推定する。このようにすることで、δで表される有限時間で状態変数の推定値が瞬間的に収束しうる。その結果、推定誤差の収束が短縮されうる。
【0103】
充電率推定装置1は、時刻t1において推定値を収束させた後、第1オブザーバ10による状態変数の推定を継続しつつ、第2オブザーバ20による状態変数の推定を停止してもよい。このようにすることで、推定値の収束が速められるとともに、装置の処理負荷が低減されうる。
【0104】
充電率推定装置1が2つのオブザーバを備えると仮定して説明されてきたが、充電率推定装置1は、3つ以上のオブザーバを備えてもよい。オブザーバの数が増えるほど、状態変数の推定値が収束しやすくなりうる。その結果、バッテリ4の状態変数の推定精度が向上しうる。
【0105】
図6及び図7に示されているオブザーバの構成は、あくまでも一例であり、これに限られない。例えば、説明の便宜上、本実施形態において、第1推定部11が算出部16と合成部17と選択部18とを備えるが、これらの構成部に分割されなくてもよい。
【0106】
充電率推定装置1は、図8のフローチャートに例示されている充電率推定方法の手順に沿って、バッテリ4のSOCを推定してよい。
【0107】
充電率推定装置1は、パラメータを設定する(ステップS1)。充電率推定装置1は、バッテリ4の特性に基づいて、バッテリ4の内部インピーダンスをバッテリ4のモデルのパラメータとして設定してよい。充電率推定装置1は、第1オブザーバ10及び第2オブザーバ20のパラメータとして、オブザーバゲインL1及びL2を適切に設定してよい。充電率推定装置1は、設定したパラメータを推定部で保持してよい。充電率推定装置1は、記憶部を備える場合、設定したパラメータを記憶部に格納してよい。
【0108】
充電率推定装置1は、バッテリ4に流れる充放電電流の測定値を、電流センサ2から取得する(ステップS2)。
【0109】
充電率推定装置1は、第1オブザーバ10及び第2オブザーバ20それぞれで、バッテリ4の状態変数を推定する(ステップS3)。
【0110】
充電率推定装置1は、t=t1であるか判定する(ステップS4)。
【0111】
充電率推定装置1は、t=t1である場合(ステップS4:YES)、第1推定値を収束させる(ステップS5)。充電率推定装置1は、選択部18で合成推定値を選択し、算出部16に合成推定値を出力する。合成推定値は、合成部17で、第1推定値と第2推定値とに基づいて算出された値であり、状態変数の真値に対して所定範囲内に収束した値である。算出部16は、取得した合成推定値に基づいて新たな第1推定値を算出する。つまり、充電率推定装置1は、t=t1のタイミングで、新たに算出する第1推定値を収束させることができる。充電率推定装置1は、ステップS5の手順の後、ステップS2の手順に戻る。
【0112】
充電率推定装置1は、t=t1でない場合(ステップS4:NO)、バッテリ4の端子電圧の測定値を、電圧センサ3から取得する(ステップS6)。
【0113】
充電率推定装置1は、推定誤差を状態変数の推定値の算出にフィードバックする(ステップS7)。充電率推定装置1は、比較部によって、バッテリ4の端子電圧の測定値と、バッテリ4の端子電圧の推定値との差を出力の推定誤差として算出する。充電率推定装置1は、補正値算出部によって、出力の推定誤差とオブザーバゲインとに基づき補正値を算出する。充電率推定装置1は、推定部によって、算出済みの状態変数の推定値と、補正値とに基づいて、状態変数の新たな推定値を算出する。充電率推定装置1は、ステップS7の手順の後、ステップS2の手順に戻る。
【0114】
[充電率推定結果の例]
一実施形態に係る充電率推定装置1は、第1オブザーバ10と第2オブザーバ20とを備えることによって、SOCの推定誤差をδで表される有限時間で収束させることができる。以下、SOCの推定誤差を有限時間で収束させることができる結果の一例の説明において、図9図10及び図11が参照される。
【0115】
SOCを推定するために、バッテリ4のバッテリモデルで表されるシステムに対して、図9に示されるように時間変動する電流が入力された。図9には、電流の時間変動の例として、バッテリ4が電気自動車に搭載されて走行実験が行われた際の電流の時間変動が示される。図9のグラフの横軸は、時間を表している。図9のグラフの縦軸は、バッテリ4に流れる電流を表している。
【0116】
バッテリ4のモデルにモデル化誤差が無い場合、定理1に基づいて、有限時間で、推定誤差が0に収束する。つまり、有限時間で推定値が真値に収束する。モデル化誤差が無い場合におけるSOCの推定誤差の時間変動の例が図10に示されている。図10のグラフの横軸は、時間を表している。図10のグラフの縦軸は、バッテリ4のSOCの推定誤差を表している。図10の例において、充電率推定装置1は、推定値を収束させる有限時間を表すδとして、1分、2分及び3分を設定している。δがいずれの時間に設定されている場合でも、推定開始からδで表される有限時間が経過するまでの期間で、SOCの推定誤差は、0に漸近していき、δで表される有限時間が経過したタイミングで瞬間的に(impulsive)0に収束している。
【0117】
バッテリ4のモデルのモデル化誤差が有る場合でも、定理2に基づいて、有限時間で、推定誤差が所定値以下の値に収束する。モデル化誤差がある場合における、状態変数の推定誤差の例が図11に示されている。図11のグラフの横軸は、δを表している。図11のグラフの縦軸は、式(26)に基づいて収束した状態変数の推定誤差のノルムを表している。図11のグラフによれば、状態変数の推定誤差のノルムが所定値以下の値に収束している傾向が読み取られうる。δとして設定される有限時間が長いほど、状態変数の推定誤差のノルムの収束値が小さくなる傾向が読み取られうる。
【0118】
図12に示されるように、一実施形態に係る充電率推定装置1は、車両100に搭載されてよい。車両100は、充電率推定装置1と、バッテリ4と、表示部70とを備えてよい。充電率推定装置1は、車両100の制御ユニットに含まれてよい。充電率推定装置1は、バッテリ4のSOCの推定値を表示部70に表示してよい。このようにすることで、充電率推定装置1は、車両100の運転者にSOCに関する情報を知らせうる。
【0119】
充電率推定装置1は、車両100の走行中又はアイドリング中等において、バッテリ4の充放電電流及び端子電圧の測定値を取得してよい。充電率推定装置1は、バッテリ4のモデルのパラメータを設定し、設定したパラメータと取得した測定値とに基づいて、SOCを推定してよい。充電率推定装置1は、δとして設定される有限時間が経過した後に収束したSOCの推定値を表示部70に表示してもよい。
【0120】
本開示に係る実施形態について諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部及びステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0121】
1 充電率推定装置
2 電流センサ
3 電圧センサ
4 バッテリ
10、20 第1、第2オブザーバ
11、21 第1、第2推定部
12、22 第1、第2端子電圧推定部
13、23 第1、第2比較器
14、24 第1、第2補正値算出部
15、25 第1、第2フィードバック部
16 算出部
17 合成部
18 選択部
70 表示部
100 車両
201 電圧源
図1
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図12