(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】ポリマー溶融物内の超安定型インスリン類似体のカプセル化
(51)【国際特許分類】
A61K 38/28 20060101AFI20230105BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20230105BHJP
A61K 9/00 20060101ALI20230105BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20230105BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20230105BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230105BHJP
C07K 14/62 20060101ALN20230105BHJP
C12N 15/17 20060101ALN20230105BHJP
【FI】
A61K38/28
A61K47/34
A61K9/00
A61K9/70
A61K9/10
A61P3/10
C07K14/62 ZNA
C12N15/17
(21)【出願番号】P 2018524288
(86)(22)【出願日】2016-12-23
(86)【国際出願番号】 US2016068572
(87)【国際公開番号】W WO2017112952
(87)【国際公開日】2017-06-29
【審査請求日】2019-12-19
(32)【優先日】2015-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500429332
【氏名又は名称】ケース ウェスタン リザーブ ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】CASE WESTERN RESERVE UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】ワイス、マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ポコルスキ、ジョン
【審査官】淺野 美奈
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-529692(JP,A)
【文献】国際公開第2007/081824(WO,A1)
【文献】特表2011-521621(JP,A)
【文献】特表2013-530702(JP,A)
【文献】国際公開第2013/010048(WO,A1)
【文献】Protein Sci. (2013), 22 (3), p.296-305
【文献】J. BIOL. CHEM. (2008), 283 (21), p.14703-14716
【文献】AAPS PharmSciTech (2012), 13 (1), p.313-322
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/28
A61K 47/34
A61K 9/00
A61K 9/70
A61K 9/10
A61P 3/10
C07K 14/62
C12N 15/17
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インスリン類似体とポリマー混合物とを有するインスリン組成物であって、前記インスリン類似体は、野生型インスリンと比較してB4およびA10残基に対応する位置におけるシステイン置換と、前記インスリン類似体のAドメインとBドメインとの間の5~11アミノ酸の連結ドメインと、野生型インスリンの位置A8に対応する位置におけるアルギニンまたはヒスチジンによる置換と、野生型インスリンの位置A14に対応する位置における
チロシン残基またはグルタミン酸による置換と、および野生型インスリンの位置B29に対応する位置におけるグルタミン酸、アルギニン、またはプロリンによる置換と、を含み、
前記インスリン類似体は、前記インスリン組成物を提供するために、90~120℃の温度範囲内で1つまたはそれ以上のステップを含む製造プロセスに曝露後、活性を維持する、インスリン組成物。
【請求項2】
請求項1記載のインスリン組成物において、前記ポリマーは、乳酸グリコール酸共重合体(PL-GA)からなるインスリン組成物。
【請求項3】
請求項2記載のインスリン組成物において、前記ポリマーは、PLの割合が25%~75%である乳酸グリコール酸共重合体(PL-GA)からなるインスリン組成物。
【請求項4】
請求項3記載のインスリン組成物において、前記ポリマーは、PLの割合が50%である乳酸グリコール酸共重合体(PL-GA)からなるインスリン組成物。
【請求項5】
請求項2記載のインスリン組成物であって、ポリエチレングリコールをさらに有するインスリン組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のインスリン組成物において、前記インスリン類似体は、連結ペプチドの初めの2つの位置のうち少なくとも1つにグルタミン酸を有するインスリン組成物。
【請求項7】
請求項6記載のインスリン組成物において、前記インスリン類似体は、配列ID番号:10、12、および15からなる群から選択される配列を有するインスリン組成物。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載のインスリン組成物において、前記インスリン類似体は配列ID番号:5を有するインスリン組成物。
【請求項9】
請求項8記載のインスリン組成物であって、配列ID番号:6をさらに有するインスリン組成物。
【請求項10】
インスリン類似体とポリマー混合物とを有するインスリン組成物であって、前記インスリン類似体は、野生型インスリンと比較してA10残基に対応する位置におけるシステイン置換を含むインスリンA鎖ポリペプチドと、野生型インスリンと比較してB4残基に対応する位置におけるシステイン置換を含むインスリンB鎖ポリペプチドと、野生型インスリンの位置A8に対応する位置におけるアルギニンまたはヒスチジンによる置換と、野生型インスリンの位置A14に対応する位置における
チロシン残基またはグルタミン酸による置換と、および野生型インスリンの位置B29に対応する位置におけるグルタミン酸、アルギニン、またはプロリンによる置換と、を含み、
前記インスリン類似体は、前記インスリン組成物を提供するために、90~120℃の温度範囲内で1つまたはそれ以上のステップを含む製造プロセスに曝露後、活性を維持する、インスリン組成物。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか1項に記載のインスリン組成物において、局所適用のためにマイクロニードルパッチへと加工されているインスリン組成物。
【請求項12】
請求項1~5のいずれか1項に記載のインスリン組成物において、皮下注射のためにマイクロビーズの懸濁液へと加工されているインスリン組成物。
【請求項13】
薬剤として使用するための請求項1~5のいずれか1項に記載のインスリン類似体。
【請求項14】
糖尿病治療用の薬剤の製造のための、請求項1~5のいずれかに記載のインスリン類似体の使用。
【請求項15】
糖尿病治療用の請求項1~5のいずれか1項に記載のインスリン類似体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2015年12月23日に出願された係属中の米国仮出願第62/387,459号の利益を主張する。
【0002】
連邦政府により助成される研究または開発に関する記述
本発明は、National Institutes of Healthにより授与された助成金第DK040949号及び第DK074176号のもとの、並びに、Natioal Science Foundationにより授与された助成金第DMR0423914号による、政府支援でなされた。米国政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
本発明は、凝集共役性ミスフォールディングと室温より高い温度での熱フィブリル化とに対する強化された耐性を含む、増強された熱及び熱力学的安定性を呈する、ポリペプチドホルモン類似体のポリマーカプセル化に関する。そのような増強された安定性は、ホルモン類似体が、90~120℃の範囲の温度を要するステップを伴う製造プロセスの後に、活性を維持することを可能にする。より具体的には、本発明は、2つまたはそれ以上の安定化要素からなる超安定型インスリン類似体の、ポリマー溶融物でのカプセル化に関する。安定化要素の1つは、B4及びA10残基間の追加のジスルフィド架橋である。第二の要素は、以下(a)~(e)の群から選択される1つまたはそれ以上の要素からなる:(a)AドメインとBドメインとの間の短縮型連結(C)ドメインと、(b)αヘリックスC-CAP位置A8における非ベータ分岐性アミノ酸置換と、(c)A14における非ベータ分岐性の酸性または極性側鎖と、(d)PheB24の芳香環の、芳香族側鎖のオルト位における、ハロゲン修飾(環の6つの位置のうちの位置2;ハロゲンはフッ素、塩素、または臭素の群から選択される)と、および/または(e)LysB29の、アルギニン、グルタミン酸、または中性脂肪族側鎖を伴う天然型アミノ酸(Ala、Val、Ile、もしくはLeuの群から選択される)、または中性脂肪族側鎖を伴う非天然型アミノ酸側鎖(アミノプロピオン酸、アミノ酪酸、またはノルロイシン)による置換。任意で、二鎖または単鎖類似体のいずれかにおいて、B鎖(またはBドメイン)からN末残基(B1残基、B1及びB2残基、またはB1-B3残基を有する)が欠失していてもよく、またAsnA21は、Asp、Ala、Gly、またはSerにより任意で置換されてもよい。SCI、A鎖、またはB鎖のN末端は、ポリマー混合物中のより均一な分布を確実にするため、開示されるように(Lee,P.,et al.Macromol.Biosci.15:1332-7(2015)、任意でPEG化により任意で修飾されてもよい。
【0004】
インスリンの投与は、糖尿病のための治療法として長く確立されてきた。糖尿病を有する患者における従来型インスリン補充療法の主な目標は、ヒト健常者特有の正常範囲より上または下への変動を防止するための、血液グルコース濃度の制御である。正常範囲より下への変動は、即座に現れるアドレナリン様または神経低糖症の症状と関連付けられ、それは重い発作では痙攣、昏睡状態、及び死に至らしめる。正常範囲より上への変動は、網膜症、失明、及び腎不全を含む微小血管障害の長期的リスクの上昇と関連付けられている。1型糖尿病の治療は、通常、皮下注射により投与される基礎インスリン製剤(または長時間作用型インスリン類似体製剤)とプランディアルインスリン製剤(または速効型インスリン類似体製剤)との組合せを要する一方、多くの場合2型糖尿病は、基礎インスリン製剤(または長時間作用型インスリン類似体製剤)のみで治療されうる。本発明は、そのような基礎インスリン療法に関する。
【0005】
インスリンは、脊椎動物での代謝における中心的な役割を果たす小球状タンパク質である。インスリンは、21残基を含有するA鎖、及び30残基を含有するB鎖の二鎖を含有する。そのホルモンは、膵β細胞中にZn
2+安定化六量体として貯蔵されているが、血流中ではZn
2+なし単量体として機能する。インスリンは、単鎖前駆体であるプロインスリンの産物であり、プロインスリンにおいては、連結領域(35残基)がB鎖のC末端残基(残基B30)をA鎖のN末端残基へと連結させる(
図1A)。様々な証拠が、プロインスリンはインスリン様コアと無秩序な連結ペプチドとからなることを示す(
図1B)。3つの特定のジスルフィド架橋(A6-A11、A7-B7、及びA20-B19;
図1A及び1B)の形成は、粗面小胞体(ER)におけるプロインスリンの酸化的折り畳みと共役すると考えられている。プロインスリンは、ERからゴルジ体への輸出の直後、可溶性Zn
2+配位六量体を形成するように集合する。エンド型タンパク質分解性消化、及びインスリンへの変換は、未熟な分泌顆粒中で起こり、続いて形態学的濃縮が起こる。成熟貯蔵顆粒内の亜鉛インスリン六量体の結晶配列は、電子顕微鏡法(EM)により可視化されてきた。インスリンの配列は
図1C中に図式的に示される。個々の残基は、アミノ酸の識別(一般には標準的な三文字コードを使用)、鎖、及び配列位置(一般には上付き文字)により示される。本発明は、ヒトプロインスリンの特徴である36残基の野生型Cドメインの代わりの、6-11残基超の新規の短縮型Cドメインの発明に関する。
【0006】
液体または微結晶製剤中のインスリン及び従来型インスリン類似体は、物理的分解と化学的分解との両者に敏感である。物理的分解はフィブリルの形成をもたらす一方、化学的分解には、分子内における原子の再編成の損失を伴う化学結合の切断、または異なるインスリン分子間の化学結合の形成が関与する。物理的及び化学的分解は、室温より高い温度では著しく加速し、55℃より高い温度ではなおさらである。そのような分解は、生物活性を損なわせる。液体または微結晶製剤中のインスリン及び従来型インスリン類似体の、様々な形態の分解に対する感受性は、現在、90~120℃の温度範囲における1つまたはそれ以上の製造ステップを要する、ポリマー溶融物内のカプセル化を妨げる。そのようなポリマー溶融物の例は、乳酸グリコール酸共重合体(PL-GA;50:50を含むがこれに限定されない様々な分子比にある)により提供され、乳酸グリコール酸共重合体は、ボールミルまたは乳鉢及び乳棒によりすり砕かれ、固体状にある凍結乾燥SCI(または従来型二鎖インスリン類似体)と混合されうる。(超安定型インスリン類似体が積載された)混合された粉末は、少なくとも10分にわたり90~120℃の温度範囲にて溶融プロセスにおいて押し出され、室温にて固体化されうる。そのようなポリマー溶融物は、皮膚への適用のためのマイクロニードル、及び皮下注射のためのマイクロペレットを含有する、シートを含む、さまざまな形へと成形されうる。PL-GAは、当技術分野において、非毒性であり、体内で非毒性分解産物へのゆっくりとした分解を受けることが知られている。このことは、様々な医療装置及び医薬送達システムにおけるPL-GAの使用を可能にする(Ahmed,T.(2015);Ortega-Oller,I.,et al.(2015);及びRahimian,S.,et al.(2015)を参照)。PL-GAの医療装置における使用は、ゆえに、United States Food & Drug Administrationにより承認されている。
【0007】
本発明は、糖尿病の治療のためのインスリン補充療法の利便性、安全性、及び効能を向上させるために、基礎的な週一回、隔月、または月一回のインスリン類似体送達を工学操作する、医学的及び社会的需要により動機付けられた。
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、以下のものがある(国際出願日以降国際段階で引用された文献及び他国に国内移行した際に引用された文献を含む)。
(先行技術文献)
(特許文献)
(特許文献1) 国際公開第2011/161124号
(特許文献2) 国際公開第2011/161125号
(特許文献3) 国際公開第2015/010927号
(特許文献4) 国際公開第2010/014946号
(特許文献5) 国際公開第2013/010048号
(特許文献6) 国際公開第2007/081824号
(特許文献7) 国際公開第2009/132129号
(特許文献8) 国際公開第2008/043033号
(特許文献9) 国際公開第2005/054291号
(特許文献10) 国際公開第2007/096332号
(特許文献11) 国際公開第2014/071405号
(特許文献12) 国際公開第2010/014946号
(非特許文献)
(非特許文献1) VINTHER T.N.et al.,"Insulin analog with additional disulphide bond has increased stability and preserved activity",Protein Science,2013,Vol.22,pages 296-305
(非特許文献2) VINTHER T.N.et al.,"Additional disulphide bonds in insulin: Prediction,recombinant expression,receptor binding affinity,and stability",Protein Science,January 2015,Vol.24,pages 779-788
(非特許文献3) WEISS M.A.,"Design of ultra-stable insulin analogues for the developing world",Journal of Health Specialties,July 2013,Vol.1,Issue 2,pages 59-70
(非特許文献4) HUA,Q-X.et al.,"Design of an Active Ultrastable Single-chain Insulin Analog",The Journal of Biological Chemistry,2008,Vol.283,No.21,pages 14703-14716
(非特許文献5) LEE P.et al.,"PEGylation to Improve Protein Stability During Melt Processing",Macromolecular Bioscience,October 2015,Vol.15,No.10,pages 1332-1337
(非特許文献6) "Controlled release of Modified Insulin Glargine from Novel Biodegradable Injectable Gels,"AAPS PharmaSciTech,Vol.13,No.1,March 2012
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
従って、90~120℃の温度範囲内の1つまたはそれ以上の必須のステップを含む製造プロセスの後に生物活性を維持するのに十分な熱及び熱力学的安定性を有する二鎖または単鎖インスリン類似体のポリマー溶融物を提供することは、本発明の一態様である。より具体的には、本発明は、2つまたはそれ以上の安定化要素からなる超安定型インスリン類似体の、ポリマー溶融物を用いるカプセル化に関する。その安定化要素のうち一つは、B4及びA10残基間の追加のジスルフィド架橋である。第二の要素は、以下(a)-(e)の群から選択される一つまたはそれ以上の要素からなる:(a)A及びBドメイン間の短縮型連結(C)ドメインと、(b)αヘリックスC-CAP位置A8における非ベータ分岐性アミノ酸置換と、(c)A14における非ベータ分岐性の酸性または極性側鎖と、(d)PheB24の芳香環の、芳香族側鎖のオルト位(環の6つの位置のうちの位置2;ハロゲンはフッ素、塩素、もしくは臭素の群から選択される)における、ハロゲン修飾と、および/または(e)LysB29の、グルタミン酸、または中性脂肪族側鎖を伴う天然型アミノ酸(Ala、Val、Ile、もしくはLeuの群から選択される)、または中性脂肪族側鎖を伴う非天然型アミノ酸側鎖(アミノプロピオン酸、アミノ酪酸、またはノルロイシン)による置換。任意で、二鎖または単鎖類似体のいずれかにおいて、B鎖(またはBドメイン)からB1またはB2残基が欠失していてもよく、またAsnA21は、Asp、Ala、Gly、またはSerにより任意で置換されてもよい。
【0009】
本発明の類似体は、位置B10においてヒスチジンを含有し、そのため、この位置における酸性置換(アスパラギン酸またはグルタミン酸)に関連する発癌についての懸念を回避する。IR-A及びIR-Bに対する二鎖または単鎖インスリン類似体の絶対的in vitro親和性が、野生型ヒトインスリンと比較して5-150%の範囲にあり、そのためホルモン-受容体複合体において顕著に延長された滞留時間はまず呈さないであろうことは、本発明の追加の態様である。
【0010】
ゆえに本発明は、一つまたはそれ以上の改変(b-e)を含有する三つのジスルフィド架橋(天然型架橋B7-A7、B19-A20、工学操作された架橋B4-A10;及び加えてA鎖内のシステインA6-A11)により連結される二つのポリペプチド鎖(A及びBと呼ばれる)からなるインスリン類似体の、ポリマー溶融物を用いるカプセル化を想像する。あるいは、本発明の範囲は、四つのジスルフィド架橋(B4-A10、B7-A7、B19-A20、及びA6-A11)、並びに一つまたはそれ以上の改変(a-e)を含有する単鎖インスリン類似体(SCIs)のポリマー溶融物カプセル化を含む。SCIは、N末端二残基が少なくとも一つの酸性残基を含有する5-11残基長の短縮型連結ドメインを含有する。本発明のポリマー溶融物内に含有される二鎖または単鎖インスリン類似体は、任意で、AまたはBドメイン中の他の箇所おいて標準型または非標準型アミノ酸置換を含有しうる。
【0011】
位置B4とA10(野生型二鎖インスリンにおいて定義される)との間の第四のジスルフィド架橋自体の実行可能性は、当技術分野においては活性SCIの文脈では知られていない。そのような第四のジスルフィド架橋を含有するインスリン類似体もまた、二鎖または単鎖類似体のいずれにおいても、ポリマーカプセル化の目的のための別の安定化要素との組合せでは知られていない。
【0012】
治療薬及びワクチンを含む非標準型タンパク質の工学操作は、幅広い医学的及び社会的利益を有しうる。人間、他の哺乳類、脊椎生物、無脊椎生物、または真核細胞一般のゲノム中にコードされる天然型タンパク質は、しばしば複数の生物活性を与える。非標準型タンパク質の利益は、生物活性を失うことなくポリマー溶融物内のカプセル化を許容するのに十分な熱及び熱力学的安定性を実現することであろう。その製造プロセスは、90~120℃の温度範囲内の1つまたはそれ以上のステップを含有する。さらに別の社会的利益の例は、ヒト患者、または糖尿病を有するイヌまたはネコなど(だがそれらに限定されない)などの他の動物における糖尿病の治療のために、そのようなポリマー溶融物の輸送、流通、及び使用を促進するための、そのようなインスリン類似体含有性ポリマー溶融物の使用であろう。インスリン類似体含有性ポリマー溶融物は、マイクロニードルのゆっくりとした分解が、少なくとも一週間にわたるまた任意で最長一ヶ月の期間にわたる皮下インスリン投与の長期的方法を提供するような、皮膚へと適用されるマイクロニードルパッチへと加工されうる。あるいは、インスリン類似体含有性ポリマー溶融物は、皮下注射のための注射可能かつ分解可能なマイクロペレットへと加工されうる。皮下スペース内でのそのゆっくりとした分解は、同様に、少なくとも一週間、また任意で最長一ヶ月にわたるインスリンの徐放デポを提供するであろう。
【0013】
本発明の社会的利益は、電気及び冷蔵が一貫しては利用可能でない発展途上界の地域において特に顕著であろう。インスリン及びインスリン類似体の液体及び微結晶製剤の物理的分解により課される課題は、1930年代に初めて認識された。この課題の重大性は、アフリカ及びアジアにおける糖尿病の未解決な流行により、過去十年のうちにより深まった。少なくとも一つの他の安定化要素との組合せでの、位置B4とA10との間における第四のジスルフィド架橋を含有する超安定型二鎖インスリン類似体、または超安定型SCIのポリマーカプセル化は、そのような課題に直面している地域においてインスリン補充療法の安全性及び効果を増強しうる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】
図1Aは、A及びB鎖、並びに、隣接する二塩基性切断部位(黒円)及びCペプチド(白円)と共に示される連結領域を含む、ヒトプロインスリンの配列(配列ID番号:1)の概略図である。
【
図1B】
図1Bは、インスリン様部分及び無秩序な連結ペプチド(破線)からなる、プロインスリンの構造モデルである。
【
図1C】
図1Cは、ジスルフィド架橋の位置とB鎖中の残基B24の位置とを示す、野生型ヒトインスリンA鎖(配列ID番号:2)及びB鎖(配列ID番号:3)の配列の概略図である。
【
図2】
図2は、第四ジスルフィド架橋により安定化されるSCIの3Dモデルである。アスタリスクは、B4-A10ジスルフィド架橋を示す。二鎖インスリン類似体中の対応する工学操作されたシステイン(つまり、二つのポリペプチド鎖それぞれにおける位置B4とA1-との間)は、位置A8、A14、B24、またはB29における少なくとも一つの追加の安定化改変と組み合わせられうる。
【
図3A-3C】
図3Aは、第四ジスルフィド架橋混合物ストリップを有するSCIを含む改変インスリンのタンパク質-ポリマー混合物を含有するバイアル瓶の写真である(底部の親指/指は縮尺のため)。
図3Bは、
図3Aにおいて示されるタンパク質-ポリマー混合物からの第四ジスルフィド架橋を含有しない回収されたSCIに対する応答における、ラットの血液グルコースレベルを示すグラフである 。
図3Cは、
図3Aにおいて示されるタンパク質-ポリマー混合物からの第四ジスルフィド架橋を含有する回収された改変SCIに対する応答における、ラットの血液グルコースレベルを示すグラフである。
【
図4】
図4は、リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4かつ37℃)中でのPLGAポリマー(50-50%)からの超安定型単鎖類似体(SCI)の溶出を示すグラフである。横軸は、浸漬時間を示す。縦軸は、インスリン類似体(濃灰色三角)、または、ニワトリ卵白リゾチーム(薄灰色四角)を含有する、もしくはタンパク質を含有しない(濃灰色ひし形)コントロールポリマー中の相対Bradford活性性材料のナノグラムを示す。後者は、非タンパク質性材料ゆえ、Bradford解析のバックグラウンドシグナルを意味する。第10-15日における横軸方向のプラトーは、ポリマーからさらなるタンパク質溶出がないことを意味する。第1-10日の間のSCI溶出のほぼ線形の速度を最適化するため、試料は5%PEG(平均分子質量8kDa)を使用して作成された。材料の一部の即刻のバースト放出は示されない。
【
図5】
図5は、糖尿病に罹っている雄Lewisラットにおける皮下注射の後の経時的な、第四ジスルフィド架橋(残基B4とA10との間)を伴う(四角、配列ID番号:15)及び伴わない(灰色ひし形、配列ID番号:16)57マーSCIについての、経時的な血液グルコースレベルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、二鎖または単鎖インスリン類似体のポリマー溶融物を含有する組成物を対象とする。そのインスリン類似体は、(a)哺乳類の真皮内または皮下スペース内におけるポリマー分解に際し生物活性が失われることなく、または(b)37℃における穏やかな攪拌を伴うインキュベーションの際に生理学的緩衝液中または希釈酸性溶液上においてin vitroでのポリマー分解に際し生物活性が失われることなく、インスリン類似体が、少なくとも10分にわたり温度範囲90~120℃にあるポリマー溶融プロセスにかけられうるような、熱及び熱力学的安定性の顕著な増大を呈する。
【0016】
インスリン類似体の等電点が(i)中性pHにおいて溶液としての可溶性製造中間体を許容するように3.0-6.0の範囲にある、または(ii)可溶性製剤が酸性条件(pH3.0-5.5)下で得られうるように6.5及び8.0の範囲にある、のいずれかでありうることは、本発明の特徴である。後者の類似体は、ポリマー溶融物から体内で放出されると、pHの中性付近へのシフトゆえ、皮下デポ中で等電沈殿を受けることが予期されるであろう。元のポリマー溶融物のバルク特性により、一つまたはそれ以上のマイクロニードルまたはマイクロペレットが急にまたは予期されるより迅速に分解する場合には、そのような沈殿はポリマー装置の安全性を増強しうる。
【0017】
一実施形態においては、ポリマーは、乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシ酪酸、キトサン、ポリセバシン酸、ポリ無水物、ポリホスファゼン、ポリオルトエステル、乳酸カプロラクトン共重合体、ポリヒドロキシブチレート-バレレート、及び混合物、並びにそれからの共重合体なる群から選択されうる。これに加え、あるいはこの代わりに、ポリマー組成物からのインスリンの放出速度を調節するために、ポリエチレングリコールなどのポロゲン、NaCl、及び/または糖が任意で存在しうる。
【0018】
ポリマー分子量は、特定の適用の要件、及びインスリン放出の望ましい速度にしたがい、選択されうる。一実施形態においては、ポリエチレングリコールの分子量などのポリマー分子量は、平均分子量が200ダルトンより小さい、200ダルトンと1000ダルトンとの間、1000ダルトンと4500ダルトンとの間、4500ダルトンと9000ダルトンとの間、9000ダルトンと15000ダルトンとの間、15000ダルトンと25000ダルトンとの間、または25000ダルトンより大きい平均分子量を有しうる。特定の一実施形態においては、約8000ダルトンのPEGが使用されうる。
【0019】
非限定的な例としてはブタ、ウシ、ウマ、及びイヌインスリンなどの、動物インスリン由来のA及びB配列を用いて、単鎖または二鎖インスリン類似体が作成されうることが想像される。これに加え、または、本発明のインスリン類似体は、残基B1、残基B1-B2、または残基B1-B3の欠失を含有してもよく、あるいは、Pichia pastoris、Saccharomyces cerevisciae、または他の酵母発現種もしくは株における酵母生合成において前駆体ポリペプチドのリシンを標的とするタンパク質分解を回避するためにリシンを欠く変異B鎖と組み合わせられてもよい。理論に拘束されることは望まないが、我々は、位置A8における非ベータ分岐性置換が、二鎖インスリン類似体及びSCIを、そのアルファヘリックス内および/またはアルファヘリックスのC末端位置におけるより最適な特性ゆえ、物理的及び化学的分解から保護すると想像する。A8置換を安定化させる例は、アルギニン、グルタミン酸、及びヒスチジンにより提供されるが、これらに限定されない。理論により拘束されることは望まないが、我々は、位置A14における帯電性または極性の非ベータ分岐性置換は、二鎖インスリン類額及びSCIを、野生型ヒトインスリンにおけるTyrA14の溶媒露出に関連する逆疎水性効果の軽減ゆえ、物理的及び化学的両者の分解から保護すると想像する。前述された安定化要素のセットのなかでは、我々は、PheB24の環位置2におけるハロゲン修飾(つまり、オルト-F-PheB24、オルト-Cl-PheB24、またはオルト-Br-PheB24;熱力学的安定性及びフィブリル化に対する耐性を向上させることが意図される)は、化学的分解及び物理的分解の両者から保護する分子メカニズムを提供するとも想像する。我々は同様に、(LysB29により提供される)位置B29における天然型の正電荷の除去は、高温において、システインB4-A10を含有する二鎖インスリン類似体の、またはシステインB4-A10を含有するSCIの、フィブリル化に対する耐性を漸増的に向上させるであろうと想像する。B29置換は、グルタミン酸、または中性の脂肪族の標準型もしくは非標準型アミノ酸でありうる。標準型の中性脂肪族残基は、Ala、Val、Ile、またはLeuからなる群から選択されるであろう。非標準型のそのような残基は、アミノプロピオン酸、アミノ酪酸、またはノルロイシンの群から選択されるであろう。
【0020】
さらに、ヒトおよび動物インスリン間の類似性、並びに糖尿病を有するヒト患者における動物インスリンの過去の使用の観点から、インスリンの配列中の他の小さな改変、とくに「保存的」と見なされる置換が導入されうることもまた想像される。例えば、類似の側鎖を有するアミノ酸群内でのアミノ酸の追加の置換も、本発明から逸脱することなくなされうる。これらは、中性疎水性アミノ酸である、アラニン(AlaまたはA)、バリン(ValまたはV)、ロイシン(LeuまたはL)、イソロイシン(IleまたはI)、プロリン(ProまたはP)、トリプトファン(TrpまたはW)、フェニルアラニン(PheまたはF)、及びメチオニン(MetまたはM)を含む。同様に、中性極性アミノ酸は、グリシン(GlyまたはG)、セリン(SerまたはS)、トレオニン(ThrまたはT)、チロシン(TyrまたはY)、システイン(CysまたはC)、グルタミン(GluまたはQ)、及びアスパラギン(AsnまたはN)の群内で互いに置換されうる。塩基性アミノ酸は、リシン(LysまたはK)、アルギニン(ArgまたはR)、及びヒスチジン(HisまたはH)を含むとみなされる。酸性アミノ酸は、アスパラギン酸(AspまたはD)及びグルタミン酸(GluまたはE)である。別に記されない限り、あるいは文脈から明らかであるいずれの場合も、本明細書に記されるアミノ酸は、L-アミノ酸であるとみなされるべきである。標準型アミノ酸は、同じ化学的クラスに属する非標準型アミノ酸により置換されてもまたよい。比限定的な例としては、塩基性側鎖Lysは、より短い側鎖長の塩基性アミノ酸(オルニチン、ジアミノ酪酸、またはジアミノプロピオン酸)により置換されうる。Lysは中性脂肪族アイソスターであるノルロイシン(Nle)により置換されてもよく、次いでより短い脂肪族側鎖を含有する類似体(アミノ酪酸またはアミノプロピオン酸)により置換されてもよい。
【実施例1】
【0021】
例としては、タンパク質-PG-LAポリマー混合物は、インスリンlispro(配列ID番号:2及び13)、Cys
A10、Cys
B4置換を追加で含有するlisproインスリン(Lys
B28、Pro
B29-ヒトインスリン)の類似体(配列番号:2及び14)、59アミノ酸残基のSCI(配列ID番号:9)、及び残基B4とA10との間に第四ジスルフィド架橋を含有するようにCys
A10、Cys
B4置換で改変された対応する59マーSCI(配列ID番号:10)を含有するように調製された。これらのSCIは、配列EEGSRRSRのCドメインを含有した。Aドメインは、A8においてトレオニンの代わりにアルギニンを含有するように改変された。Bドメインは、酵母Pichia pastorisにおいてプロテアーゼ消化を回避するように、リシンの代わりにアルギニンを含有するように改変された。このSCIの等電点はゆえに、6.5-7.5の範囲にあるが、pH範囲2-4において容易に可溶である。インスリン受容体のA及びBアイソフォームに対するその親和性は、野生型ヒトインスリンと比較して10-150%の範囲にあるが、一方で1型IGF受容体に対する親和性は、野生型インスリンのそれと比較して10倍低い。このSCI及びシステインB4-A10の予測位置の三次元モデルが、
図2に示される。
【0022】
上の三つのポリマー混合物は、ストリップ状に成形された(
図3A)。ポリマーは、機能的ホルモンの潜在的回収を評価するため、2日にわたり0.01%トリフルオロ酢酸中で20℃にて分解させられた。活性lisproは回収されなかったのに対し、ラットでの試験は、~40%のSCI回収(
図3B)、及び第四ジスルフィド架橋を含有する機能的改変SCIの本質的には完全な回収(
図3C)を示した。この「超安定型」インスリン類似体の高温タンパク質-ポリマー混合物への押出物の頑強さは、糖尿病の治療のための長期分解可能型治療ポリマー混合物を提供する技術としての格別な保証である。本例がpH7.4付近の等電点を呈する単鎖インスリン類似体を利用することは特筆されるべきである。このことは、その根本的なPK/PD特性を将来の安全メカニズムとして活用することが可能であることを示す。もしもマイクロニードルが砕けて皮下で迅速に分解するならば、放出される類似体は、沈殿を経て急性低血糖症を回避する。
【0023】
pH7.4におけるリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中でのインスリン類似体タンパク質のポリマー溶融物からの溶出もまた、調べられた。試験用円筒形ポリマーが、残基B4とA10との間の第四ジスルフィド架橋により安定化された、25重量/重量%の単鎖インスリン(SCI)類似体を含有する50%-50%PLGAを用いて調製された。類似体(4SS-81-06と命名;配列ID番号:12)は、配列EEGPRRの六残基リンカー、Aドメインにおける二つの置換(ThrA8のHisによる置換、及びTyrA14のGluによる置換)、並びにBドメインにおける一つの置換(LysB29のGluによる置換)を含有する。混合された粉末は、摂氏95度まで10分にわたり加熱され、それから特別なシリンジ押出装置を使用して力により迅速に押し出し通された。押し出されたポリマー円筒物(直径1mm及び長さ8mm;10mg)は、0、5、または10%ポリエチレングリコール(PEG;平均分子質量8kDa)を含有するPL、GA、及びSCI粉末の混合物を使用して調製された。ポリマーからのSCIの放出速度に対する遊離PEG分子の影響を調べるため、円筒物は、pH7.4かつ37℃にあるリン酸緩衝生理食塩水中に、穏やかな振盪を伴いながら、配置された。緩衝液は毎日置換された。500マイクロリットルの溶液は毎日回収され、500μLの新しい(0.1%)アジ化ナトリウムを有するPBSと置換された。ポリマーは第0日の午後の間に溶液中に配置され、試料はおおよそ24時間毎に回収された。第0日試料は、ポリマーが溶液中に浸漬された直後(<5分)に回収された。
【0024】
PEGの非存在(0%)下では10日間にわたり殆どタンパク質が放出されなかったのに対し、10%PEGの添加は、1~2日にわたり相当な放出をもたらした。5%PEGの添加は、10日間にわたり、搭載タンパク質の約半分の線形に近い放出をもたらした(
図4中の三角;インスリン類似体濃度は、ELISAによりキャリブレーションされたBradford解析により測定された)。インスリン類似体の代わりにニワトリ卵白リゾチームを含有する類似の共重合体のコントロール実験においては、類似の溶出特性が観察された(
図4中の四角;任意単位)。両方の場合において、横軸方向のプラトーが第10~15日の間に観察され、このことはポリマーからタンパク質の更なる放出がないことを示す。放出されたタンパク質の累計量もまた、以下の表1において提供される。この表においては、Bradford解析に対応するマイクログラムのインスリンはELISAにより確認されたが、リゾチームについての読み値は、独立の解析によってはキャリブレーションされていない。
【表1】
【0025】
放出SCIホルモン類似体の(5%PEGで調製されたポリマー溶融物中における)生物活性が、糖尿病を有する雄Lewisラット(平均重量約300グラム、ストレプトゾトシンにより糖尿病に罹らせられ、平均血糖約400mg/dlを伴う)において試験され、未加工のSCIの血液グルコース低下活性が第1日及び第5日の後に溶出されたタンパク質の活性と比較された。これら三つの試料の生物活性は区別不可能であった。このことは、体温における生理学的緩衝液中での、熱溶融物押出、及び徐放のプロセスは、有効性の損失とは関係ないことを示す。
【表2】
【0026】
57マーSCI(本明細書においては81-04と記される;配列ID番号:16)、及び第四ジスルフィド架橋を含有するその誘導体(4SS 81-04;配列ID番号:15)の生物活性が、比較された。300グラムのラットあたりに20マイクログラム用量を与え、生物活性は本質的に同一である(
図5)。81-04の配列は、Cys
A10、Cys
B4の非存在を除けば配列ID番号:12のそれと類似しており、さらに残基B28はアスパラギン酸であり、残基B29はプロリンである。このことは、単鎖インスリン類似体分子への第四ジスルフィド架橋の導入は、SCIの根本的な生物活性を変化させないこと示す。これは、先行技術を観ると驚くべきことである。先行技術は、二鎖類似体においては、第4ジスルフィド架橋を導入すると薬力学的応答の著しい延長が起こることを示した。
【0027】
類似体81-04、及び類似体4SS 81-04の受容体結合親和性もまた、決定された。4SS 81-04のインスリン受容体のAアイソフォームに対する親和性は、ヒトインスリンと比較して120±20パーセントであると決定された(また、エラーが存在するとすれば、実際には野生型ヒトインスリンと同じであるかもしれない;データ表示なし)。インスリン受容体のBアイソフォームに対する親和性は、野生型ヒトインスリンと比較して五倍と十倍との間、低下させられる。Aアイソフォームに対する優先性は、元の類似体81-04のそれと類似する。さらに、4SS 81-04の分裂促進性IGF I型受容体(IGF-1R)親和性に対する親和性は、野生型ヒトインスリンと比較して五倍と十倍との間、低下させられる(データ表示なし)。そのようなIGF-1Rに対する損なわれた結合は、長期使用における潜在的発癌の観点からは望ましい。
【0028】
本明細書において開示されるポリペプチドの配列は、以下に提供される。ヒトプロインスリンのアミノ酸配列は、比較の目的のため、配列ID番号:1として提供される。
【0029】
配列ID番号:1(ヒトプロインスリン)
Phe-Val-Asn-Gln-His-Leu-Cys-Gly-Ser-His-Leu-Val-Glu-Ala-Leu-Tyr-Leu-Val-Cys-Gly-Glu-Arg-Gly-Phe-Phe-Tyr-Thr-Pro-Lys-Thr-Arg-Arg-Glu-Ala-Glu-Asp-Leu-Gln-Val-Gly-Gln-Val-Glu-Leu-Gly-Gly-Gly-Pro-Gly-Ala-Gly-Ser-Leu-Gln-Pro-Leu-Ala-Leu-Glu-Gly-Ser-Leu-Gln-Lys-Arg-Gly-Ile-Val-Glu-Gln-Cys-Cys-Thr-Ser-Ile-Cys-Ser-Leu-Tyr-Gln-Leu-Glu-Asn-Tyr-Cys-Asn
【0030】
ヒトインスリンのA鎖のアミノ酸配列は、配列ID番号:2として提供される。
【0031】
配列ID番号:2(ヒトA鎖)
Gly-Ile-Val-Glu-Gln-Cys-Cys-Thr-Ser-Ile-Cys-Ser-Leu-Tyr-Gln-Leu-Glu-Asn-Tyr-Cys-Asn
【0032】
ヒトインスリンのB鎖のアミノ酸配列は、配列ID番号:3として提供される。
【0033】
配列ID番号:3(ヒトB鎖)
Phe-Val-Asn-Gln-His-Leu-Cys-Gly-Ser-His-Leu-Val-Glu-Ala-Leu-Tyr-Leu-Val-Cys-Gly-Glu-Arg-Gly-Phe-Phe-Tyr-Thr-Pro-Lys-Thr
【0034】
本発明の単鎖インスリン類似体のアミノ酸配列は、配列ID番号:4において提供され、位置B4及びA10において第四のシステインを含有し、また、SCIが示される位置のうち一つまたはそれ以上において少なくとも一つの他の安定化改変を含有するような長さ56、57、57、58、59、60、61、及び62のポリペプチドに対応する。
【0035】
配列ID番号:4
Phe-Val-Asn-Cys-His-Leu-Cys-Gly-Ser-His-Leu-Val-Glu-Ala-Leu-Tyr-Leu-Val-Cys-Gly-Glu-Arg-Gly-Xaa1-Phe-Tyr-Thr-Pro-Xaa2-Thr-[短縮型Cドメイン]-Gly-Ile-Val-Glu-Gln-Cys-Cys-Xaa3-Ser-Cys-Cys-Ser-Leu-Xaa4-Gln-Leu-Glu-Asn-Tyr-Cys-Xaa5
【0036】
配列中、Xaa1は、Phe、またはオルトもしくは環位置2におけるハロゲン原子(F、Cl、またはBr)によるPheの修飾型を表わし、Xaa2は、Glu、Ala、Ile、Leu、Val、ノルロイシン、アミノプロピオン酸、またはアミノ酪酸を表わし、Xaa3は、His、Glu、Lys、Arg、または、別の非ベータ分岐型極性もしくは帯電性アミノ酸であり、Xaa4は、Tyr(野生型インスリンにおいてと同様)、Glu、または別の非ベータ分岐型の極性もしくは帯電性アミノ酸であり、かつ任意でXaa5は、Gly、Ala、Asp、またはSerである。括弧入りの用語「短縮型Cドメイン」は、第一(N末端)または第二ペプチド位置(つまり、単鎖インスリン類似体の残基31または32)において酸性残基を含有する、5-11残基長の連結ペプチドドメインを指す。任意で、des-B1類似体を生じるようにPheB1が欠失させられてもよく、また、des-[B1、B2]類似体を生じるようにPheB1とValB2との両者が除かれてもよい。
【0037】
本発明の二鎖インスリン類似体のアミノ酸配列は、配列ID番号:5-8において提供され、完全なインスリン類似体が、位置B4とA10との間の第四のジスルフィド架橋、並びに指定される位置において少なくとも一つの他の安定化改変を含有するように、位置B4においてシステインを含有するB鎖(配列ID番号:5、7、及び8)、並びに位置A10においてシステインを含有するA鎖(配列ID番号:6)に対応する。
【0038】
配列ID番号:5(変異型B鎖)
Phe-Val-Asn-Cys-His-Leu-Cys-Gly-Ser-His-Leu-Val-Glu-Ala-Leu-Tyr-Leu-Val-Cys-Gly-Glu-Arg-Gly-Xaa1-Phe-Tyr-Thr-Pro-Xaa2-Thr
【0039】
配列中、Xaa1は、Phe、またはオルトもしくは環位置2におけるハロゲン原子(F、Cl、もしくはBr)によるPheの修飾型を表わし、Xaa2は、Glu、Ala、Ile、Leu、Val、ノルロイシン、アミノプロピオン酸、またはアミノ酪酸を表わす。
【0040】
配列ID番号:6(変異型A鎖)
Gly-Ile-Val-Glu-Gln-Cys-Cys-Xaa3-Ser-Cys-Cys-Ser-Leu-Xaa4-Gln-Leu-Glu-Asn-Tyr-Cys-Xaa5
【0041】
Xaa3は、His、Glu、Lys、Arg、または、別の非ベータ分岐型の極性もしくは帯電性アミノ酸であり、Xaa4は、Tyr(野生型インスリンにおいてと同様)、Glu、または別の非ベータ分岐型極性もしくは帯電性アミノ酸であり、かつ任意でXaa5は、Gly、Ala、Asp、またはSerである。
【0042】
配列ID番号:7(変異型des-[B1]-B鎖)
Val-Asn-Cys-His-Leu-Cys-Gly-Ser-His-Leu-Val-Glu-Ala-Leu-Tyr-Leu-Val-Cys-Gly-Glu-Arg-Gly-Xaa1-Phe-Tyr-Thr-Pro-Xaa2-Thr
【0043】
配列中、Xaa1は、Phe、またはオルトもしくは環位置2におけるハロゲン原子(F、Cl、もしくはBr)によるPheの修飾型を表わし、Xaa2は、Glu、Ala、Ile、Leu、Val、ノルロイシン、アミノプロピオン酸、またはアミノ酪酸を表わす。
【0044】
配列ID番号:8(変異型des-[B1、B2]-B鎖)
Asn-Cys-His-Leu-Cys-Gly-Ser-His-Leu-Val-Glu-Ala-Leu-Tyr-Leu-Val-Cys-Gly-Glu-Arg-Gly-Xaa1-Phe-Tyr-Thr-Pro-Xaa2-Thr
【0045】
配列中、Xaa1は、Phe、またはオルトもしくは環位置2におけるハロゲン原子(F、Cl、もしくはBr)によるPheの修飾型を表わし、Xaa2は、Glu、Ala、Ile、Leu、Val、ノルロイシン、アミノプロピオン酸、またはアミノ酪酸を表わす。
【0046】
単鎖インスリン(SCI)類似体は、配列ID番号:9-12、15、及び16として提供される。
【0047】
配列ID番号:9
Phe-Val-Asn-Gln-His-Leu-Cys-Gly-Ser-His-Leu-Val-Glu-Ala-Leu-Tyr-Leu-Val-Cys-Gly-Glu-Arg-Gly-Phe-Phe-Tyr-Thr-Pro-Arg-Thr--Glu-Glu-Gly-Ser-Arg-Arg-Ser-Arg-Gly-Ile-Val-Glu-Gln-Cys-Cys-Arg-Ser-Ile-Cys-Ser-Leu-Tyr-Gln-Leu-Glu-Asn-Tyr-Cys-Asn
【0048】
配列ID番号:10
Phe-Val-Asn-Cys-His-Leu-Cys-Gly-Ser-His-Leu-Val-Glu-Ala-Leu-Tyr-Leu-Val-Cys-Gly-Glu-Arg-Gly-Phe-Phe-Tyr-Thr-Pro-Arg-Thr--Glu-Glu-Gly-Ser-Arg-Arg-Ser-Arg-Gly-Ile-Val-Glu-Gln-Cys-Cys-Arg-Ser-Cys-Cys-Ser-Leu-Tyr-Gln-Leu-Glu-Asn-Tyr-Cys-Asn
【0049】
配列ID番号:11
Phe-Val-Asn-Gln-His-Leu-Cys-Gly-Ser-His-Leu-Val-Glu-Ala-Leu-Tyr-Leu-Val-Cys-Gly-Glu-Arg-Gly-Phe-Phe-Tyr-Thr-Pro-Glu-Thr--Glu-Glu-Gly-Pro-Arg-Arg-Gly-Ile-Val-Glu-Gln-Cys-Cys-Glu-Ser-Ile-Cys-Ser-Leu-Tyr-Gln-Leu-Glu-Asn-Tyr-Cys-Asn
【0050】
配列ID番号:12(81-066-4SS)
Phe-Val-Asn-Cys-His-Leu-Cys-Gly-Ser-His-Leu-Val-Glu-Ala-Leu-Tyr-Leu-Val-Cys-Gly-Glu-Arg-Gly-Phe-Phe-Tyr-Thr-Pro-Glu-Thr--Glu-Glu-Gly-Pro-Arg-Arg-Gly-Ile-Val-Glu-Gln-Cys-Cys-His-Ser-Cys-Cys-Ser-Leu-Glu-Gln-Leu-Glu-Asn-Tyr-Cys-Asn
【0051】
配列ID番号:13(ヒトB鎖、KP)
Phe-Val-Asn-Gln-His-Leu-Cys-Gly-Ser-His-Leu-Val-Glu-Ala-Leu-Tyr-Leu-Val-Cys-Gly-Glu-Arg-Gly-Phe-Phe-Tyr-Thr-Lys-Pro-Thr
【0052】
配列ID番号:14(ヒトB鎖、Cys B4、KP)
Phe-Val-Asn-Cys-His-Leu-Cys-Gly-Ser-His-Leu-Val-Glu-Ala-Leu-Tyr-Leu-Val-Cys-Gly-Glu-Arg-Gly-Phe-Phe-Tyr-Thr-Lys-Pro-Thr
【0053】
配列ID番号:15(4SS 81-04;57マー)
Phe-Val-Asn-Cys-His-Leu-Cys-Gly-Ser-His-Leu-Val-Glu-Ala-Leu-Tyr-Leu-Val-Cys-Gly-Glu-Arg-Gly-Phe-Phe-Tyr-Thr-Asp-Pro-Thr-Glu-Glu-Gly-Pro-Arg-Arg-Gly-Ile-Val-Glu-Gln-Cys-Cys-His-Ser-Cys-Cys-Ser-Leu-Glu-Gln-Leu-Glu-Asn-Tyr-Cys-Asn
【0054】
配列ID番号:16(81-04;57マー)
Phe-Val-Asn-Gln-His-Leu-Cys-Gly-Ser-His-Leu-Val-Glu-Ala-Leu-Tyr-Leu-Val-Cys-Gly-Glu-Arg-Gly-Phe-Phe-Tyr-Thr-Asp-Pro-Thr-Glu-Glu-Gly-Pro-Arg-Arg-Gly-Ile-Val-Glu-Gln-Cys-Cys-His-Ser-Ile-Cys-Ser-Leu-Glu-Gln-Leu-Glu-Asn-Tyr-Cys-Asn
【0055】
以上の開示内容に基づけば、提供される単鎖インスリン類似体が本明細書において上で述べられた目的を実施するであろうことはもう明らかであるはずである。つまり、これらのインスリン類似体は、(より延長された作用を与える)望ましい薬物動態及び薬力学的特性を保持し、かつ野生型インスリンの生物活性の少なくとも一部を維持しつつ、フィブリル化に対する増強された耐性を呈する。従って、特許請求の範囲に係る本発明の範囲内に明らかに入るあらゆる変化、またゆえに特定の成分要素の選択は、本明細書で開示及び記述された本発明の真髄から逸れることなく決定されうると理解されるべきである。
【0056】
本明細書において開示される試験及び解析法が当業者により理解されるであろうことを示すために、以下の文献が引用される。
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【配列表】