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特許7203419生体情報解析装置及び生体情報解析方法並びにプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】生体情報解析装置及び生体情報解析方法並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/1455 20060101AFI20230105BHJP
   A61B 5/08 20060101ALI20230105BHJP
【FI】
A61B5/1455
A61B5/08
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019048773
(22)【出願日】2019-03-15
(65)【公開番号】P2020146386
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】514283054
【氏名又は名称】株式会社ニューロシューティカルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】金澤 修
(72)【発明者】
【氏名】清水 一夫
【審査官】門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-275349(JP,A)
【文献】特開2010-160(JP,A)
【文献】国際公開第2007/138799(WO,A1)
【文献】特開2007-190281(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0330565(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/1455
A61B 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の所定の生体部位から酸素飽和度を測定する測定部と、前記測定部で測定した酸素飽和度情報に基づいてODIを算出する演算部と、を備える生体情報解析装置であって、
前記演算部は、
所定時間内における前記測定部による測定度数が最大となる酸素飽和度の値を、無呼吸状態が発生していないときの酸素飽和度の値であるベースラインに設定するベースライン設定部と、
前記測定部で測定した前記酸素飽和度が、前記ベースライン設定部で設定した前記ベースラインから第一所定値以上低下するか否かを判定する低下判定部と、
前記低下判定部で前記酸素飽和度が前記ベースラインから前記第一所定値以上低下したものと判定した場合に、前記酸素飽和度が前記ベースラインを下回った時点から、前記酸素飽和度が最低値から上昇を開始する時点まで、の時間である下降時間が第一時間内であるか否かを判定する下降時間判定部と、
前記低下判定部で前記酸素飽和度が前記ベースラインから前記第一所定値以上低下したものと判定した場合に、前記酸素飽和度の単位時間当たりの低下量である低下率が所定の閾値以上であるか否かを判定する低下率判定部と、
前記下降時間判定部で前記下降時間が前記第一時間内であると判定し、かつ、前記低下率判定部で前記低下率が前記閾値以上であると判定した場合に、前記酸素飽和度が前記最低値から上昇を開始する時点から、前記最低値よりも第二所定値以上上昇するまで、の時間である回復時間が第二時間内であるか否かを判定する回復時間判定部と、
前記回復時間判定部で前記回復時間が前記第二時間内であると判定した場合に、Dipが発生したものと判定するDip判定部と、
前記Dip判定部で発生したものと判定した前記Dipに基づいて前記ODIを算出するODI算出部と、
を有する、生体情報解析装置。
【請求項2】
前記下降時間判定部は、前記酸素飽和度が前記ベースラインから前記第一所定値以上低下する前に上昇して前記ベースライン以上になった場合に、前記酸素飽和度が前記ベースラインを再度下回った時点から前記下降時間の計測を開始する、請求項1に記載の生体情報解析装置。
【請求項3】
前記低下率判定部は、前記酸素飽和度が前記ベースラインから前記第一所定値以上低下する前に上昇して前記ベースライン以上になった場合に、前記酸素飽和度が前記ベースラインを再度下回った時点から前記低下率の算出を開始する、請求項1又は2に記載の生体情報解析装置。
【請求項4】
前記下降時間判定部は、前記低下判定部で前記酸素飽和度が前記ベースラインから前記第一所定値以上低下したものと判定した後に、前記酸素飽和度が前記第二所定値未満上昇し再度低下して前記最低値を更新した場合に、前記下降時間を、前記酸素飽和度が前記ベースラインを下回った時点から、前記酸素飽和度が更新後の前記最低値から上昇を開始する時点まで、の時間として計測する、請求項1から3の何れか一項に記載の生体情報解析装置。
【請求項5】
前記下降時間判定部は、前記酸素飽和度が前記最低値から上昇を開始してから前記最低値よりも第二所定値以上上昇するまでの間に、前記酸素飽和度が再度低下して前記最低値を更新した場合に、前記下降時間を、前記酸素飽和度が前記ベースラインを下回った時点から、前記酸素飽和度が更新後の前記最低値から上昇を開始する時点まで、の時間として計測する、請求項1から4の何れか一項に記載の生体情報解析装置。
【請求項6】
前記回復時間判定部は、前記酸素飽和度が前記最低値から上昇を開始してから前記最低値よりも第二所定値以上上昇するまでの間に、前記酸素飽和度が再度低下して前記最低値を更新した場合に、前記回復時間を、前記酸素飽和度が更新後の前記最低値から上昇を開始する時点から、更新後の前記最低値よりも第二所定値以上上昇するまで、の時間として計測する、請求項1から5の何れか一項に記載の生体情報解析装置。
【請求項7】
前記演算部は、
前記Dip判定部で前記Dipが発生したものと判定した場合に、前記酸素飽和度が前記ベースラインから前記第一所定値だけ低下した時点から、前記酸素飽和度が前記最低値から前記第二所定値だけ上昇した時点まで、の時間である持続時間を計測する持続時間計測部をさらに有する、請求項1から6の何れか一項に記載の生体情報解析装置。
【請求項8】
被験者の所定の生体部位から測定した酸素飽和度情報に基づいてODIを算出する演算工程を含む生体情報解析方法であって、
前記演算工程は、
所定時間内における測定度数が最大となる酸素飽和度の値を、無呼吸状態が発生していないときの酸素飽和度の値であるベースラインに設定するベースライン設定工程と、
測定した前記酸素飽和度が、前記ベースライン設定工程で設定した前記ベースラインから第一所定値以上低下するか否かを判定する低下判定工程と、
前記低下判定工程で前記酸素飽和度が前記ベースラインから前記第一所定値以上低下したものと判定した場合に、前記酸素飽和度が前記ベースラインを下回った時点から、前記酸素飽和度が最低値から上昇を開始する時点まで、の時間である下降時間が第一時間内であるか否かを判定する下降時間判定工程と、
前記低下判定工程で前記酸素飽和度が前記ベースラインから前記第一所定値以上低下したものと判定した場合に、前記酸素飽和度の単位時間当たりの低下量である低下率が所定の閾値以上であるか否かを判定する低下率判定工程と、
前記下降時間判定工程で前記下降時間が前記第一時間内であると判定し、かつ、前記低下率判定工程で前記低下率が前記閾値以上であると判定した場合に、前記酸素飽和度が前記最低値から上昇を開始する時点から、前記最低値よりも第二所定値以上上昇するまで、の時間である回復時間が第二時間内であるか否かを判定する回復時間判定工程と、
前記回復時間判定工程で前記回復時間が前記第二時間内であると判定した場合に、Dipが発生したものと判定するDip判定工程と、
前記Dip判定工程で発生したものと判定した前記Dipに基づいて前記ODIを算出するODI算出工程と、
を含む、生体情報解析方法。
【請求項9】
前記下降時間判定工程では、前記酸素飽和度が前記ベースラインから前記第一所定値以上低下する前に上昇して前記ベースライン以上になった場合に、前記酸素飽和度が前記ベースラインを再度下回った時点から前記下降時間の計測を開始する、請求項8に記載の生体情報解析方法。
【請求項10】
前記低下率判定工程では、前記酸素飽和度が前記ベースラインから前記第一所定値以上低下する前に上昇して前記ベースライン以上になった場合に、前記酸素飽和度が前記ベースラインを再度下回った時点から前記低下率の算出を開始する、請求項8又は9に記載の生体情報解析方法。
【請求項11】
前記下降時間判定工程では、前記低下判定工程で前記酸素飽和度が前記ベースラインから前記第一所定値以上低下したものと判定した後に、前記酸素飽和度が前記第二所定値未満上昇し再度低下して前記最低値を更新した場合に、前記下降時間を、前記酸素飽和度が前記ベースラインを下回った時点から、前記酸素飽和度が更新後の前記最低値から上昇を開始する時点まで、の時間として計測する、請求項8から10の何れか一項に記載の生体情報解析方法。
【請求項12】
前記下降時間判定工程では、前記酸素飽和度が前記最低値から上昇を開始してから前記最低値よりも第二所定値以上上昇するまでの間に、前記酸素飽和度が再度低下して前記最低値を更新した場合に、前記下降時間を、前記酸素飽和度が前記ベースラインを下回った時点から、前記酸素飽和度が更新後の前記最低値から上昇を開始する時点まで、の時間として計測する、請求項8から11の何れか一項に記載の生体情報解析方法。
【請求項13】
前記回復時間判定工程では、前記酸素飽和度が前記最低値から上昇を開始してから前記最低値よりも第二所定値以上上昇するまでの間に、前記酸素飽和度が再度低下して前記最低値を更新した場合に、前記回復時間を、前記酸素飽和度が更新後の前記最低値から上昇を開始する時点から、更新後の前記最低値よりも第二所定値以上上昇するまで、の時間として計測する、請求項8から12の何れか一項に記載の生体情報解析方法。
【請求項14】
前記演算工程は、
前記Dip判定工程で前記Dipが発生したものと判定した場合に、前記酸素飽和度が前記ベースラインから前記第一所定値だけ低下した時点から、前記酸素飽和度が前記最低値から前記第二所定値だけ上昇した時点まで、の時間である持続時間を計測する持続時間計測工程をさらに含む、請求項8から13の何れか一項に記載の生体情報解析方法。
【請求項15】
被験者の所定の生体部位から測定した酸素飽和度情報に基づいてODIを算出する演算工程をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記演算工程は、
所定時間内における測定度数が最大となる酸素飽和度の値を、無呼吸状態が発生していないときの酸素飽和度の値であるベースラインに設定するベースライン設定工程と、
測定した前記酸素飽和度が、前記ベースライン設定工程で設定した前記ベースラインから第一所定値以上低下するか否かを判定する低下判定工程と、
前記低下判定工程で前記酸素飽和度が前記ベースラインから前記第一所定値以上低下したものと判定した場合に、前記酸素飽和度が前記ベースラインを下回った時点から、前記酸素飽和度が最低値から上昇を開始する時点まで、の時間である下降時間が第一時間内であるか否かを判定する下降時間判定工程と、
前記低下判定工程で前記酸素飽和度が前記ベースラインから前記第一所定値以上低下したものと判定した場合に、前記酸素飽和度の単位時間当たりの低下量である低下率が所定の閾値以上であるか否かを判定する低下率判定工程と、
前記下降時間判定工程で前記下降時間が前記第一時間内であると判定し、かつ、前記低下率判定工程で前記低下率が前記閾値以上であると判定した場合に、前記酸素飽和度が前記最低値から上昇を開始する時点から、前記最低値よりも第二所定値以上上昇するまで、の時間である回復時間が第二時間内であるか否かを判定する回復時間判定工程と、
前記回復時間判定工程で前記回復時間が前記第二時間内であると判定した場合に、Dipが発生したものと判定するDip判定工程と、
前記Dip判定工程で発生したものと判定した前記Dipに基づいて前記ODIを算出するODI算出工程と、
を含む、プログラム。
【請求項16】
前記下降時間判定工程では、前記酸素飽和度が前記ベースラインから前記第一所定値以上低下する前に上昇して前記ベースライン以上になった場合に、前記酸素飽和度が前記ベースラインを再度下回った時点から前記下降時間の計測を開始する、請求項15に記載のプログラム。
【請求項17】
前記低下率判定工程では、前記酸素飽和度が前記ベースラインから前記第一所定値以上低下する前に上昇して前記ベースライン以上になった場合に、前記酸素飽和度が前記ベースラインを再度下回った時点から前記低下率の算出を開始する、請求項15又は16に記載のプログラム。
【請求項18】
前記下降時間判定工程では、前記低下判定工程で前記酸素飽和度が前記ベースラインから前記第一所定値以上低下したものと判定した後に、前記酸素飽和度が前記第二所定値未満上昇し再度低下して前記最低値を更新した場合に、前記下降時間を、前記酸素飽和度が前記ベースラインを下回った時点から、前記酸素飽和度が更新後の前記最低値から上昇を開始する時点まで、の時間として計測する、請求項15から17の何れか一項に記載のプログラム。
【請求項19】
前記下降時間判定工程では、前記酸素飽和度が前記最低値から上昇を開始してから前記最低値よりも第二所定値以上上昇するまでの間に、前記酸素飽和度が再度低下して前記最低値を更新した場合に、前記下降時間を、前記酸素飽和度が前記ベースラインを下回った時点から、前記酸素飽和度が更新後の前記最低値から上昇を開始する時点まで、の時間として計測する、請求項15から18の何れか一項に記載のプログラム。
【請求項20】
前記回復時間判定工程では、前記酸素飽和度が前記最低値から上昇を開始してから前記最低値よりも第二所定値以上上昇するまでの間に、前記酸素飽和度が再度低下して前記最低値を更新した場合に、前記回復時間を、前記酸素飽和度が更新後の前記最低値から上昇を開始する時点から、更新後の前記最低値よりも第二所定値以上上昇するまで、の時間として計測する、請求項15から19の何れか一項に記載のプログラム。
【請求項21】
前記演算工程は、
前記Dip判定工程で前記Dipが発生したものと判定した場合に、前記酸素飽和度が前記ベースラインから前記第一所定値だけ低下した時点から、前記酸素飽和度が前記最低値から前記第二所定値だけ上昇した時点まで、の時間である持続時間を計測する持続時間計測工程をさらに含む、請求項15から20の何れか一項に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報解析装置及び生体情報解析方法並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、パルスオキシメータを使用して睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:以下、「SAS」と称する)を検出する方法が提案されている。パルスオキシメータは、発光部と受光部とを有するプローブを被験者の指に装着し、発光部から光を生体(指)に向けて照射し、生体を透過した光の光量を受光部で検出し、この検出した光量に基づいて血中の酸素飽和度を導出するものである。パルスオキシメータで導出された酸素飽和度のデータは、所定の演算装置に送られて、酸素飽和度の低下の回数を表す指標(Oxygen Desaturation Index:以下「ODI」と称する)の算出に用いられる。被験者は、ODIの値が所定の閾値を超えている場合に、SASの疑いがあるものと診断される。
【0003】
現在においては、パルスオキシメータで取得したデータをフーリエ変換することにより、簡単なアルゴリズムでSAS判定を行う技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、近年においては、無呼吸に伴う酸素飽和度の低下ピークであるDipが連続的に発生している時間帯を抽出することにより、被験者の睡眠時の体位にかかわらず的確にSAS判定を行う技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-190281号公報
【文献】特開2007-275349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ODIの値に基づいてSAS判定を行う手法においては、無呼吸状態が発生していないときの酸素飽和度の値(ベースライン)を基準にしてDipの発生を検出している。しかし、パルスオキシメータで検出される酸素飽和度の波形(時間履歴)は、被験者毎に異なり、同じ被験者であっても測定日の体調等によって異なるなど、複雑に変化するため、そもそも適切にベースラインを設定することが容易でないという問題があった。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、ODIの値に基づいてSASの判定を行う際に、無呼吸状態が発生していないときの酸素飽和度の値(ベースライン)をリアルタイムにかつ正確に設定することができる生体情報解析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明に係る生体情報解析装置は、被験者の所定の生体部位から酸素飽和度を測定する測定部と、測定部で測定した酸素飽和度情報に基づいてODIを算出する演算部と、を備えるものであって、演算部は、所定時間内における測定部による測定度数が最大となる酸素飽和度の値を、無呼吸状態が発生していないときの酸素飽和度の値であるベースラインに設定するベースライン設定部と、測定部で測定した酸素飽和度が、ベースライン設定部で設定したベースラインから第一所定値以上低下するか否かを判定する低下判定部と、低下判定部で酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下したものと判定した場合に、酸素飽和度がベースラインを下回った時点から、酸素飽和度が最低値から上昇を開始する時点まで、の時間である下降時間が第一時間内であるか否かを判定する下降時間判定部と、低下判定部で酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下したものと判定した場合に、酸素飽和度の単位時間当たりの低下量である低下率が所定の閾値以上であるか否かを判定する低下率判定部と、下降時間判定部で下降時間が第一時間内であると判定し、かつ、低下率判定部で低下率が所定の閾値以上であると判定した場合に、酸素飽和度が最低値から上昇を開始する時点から、最低値よりも第二所定値以上上昇するまで、の時間である回復時間が第二時間内であるか否かを判定する回復時間判定部と、回復時間判定部で回復時間が第二時間内であると判定した場合に、Dipが発生したものと判定するDip判定部と、Dip判定部で発生したものと判定した前記Dipに基づいてODIを算出するODI算出部と、を有するものである。
【0008】
また、本発明に係る生体情報解析方法は、被験者の所定の生体部位から測定した酸素飽和度情報に基づいてODIを算出する演算工程を備える方法であって、演算工程は、所定時間内における測定度数が最大となる酸素飽和度の値を、無呼吸状態が発生していないときの酸素飽和度の値であるベースラインに設定するベースライン設定工程と、測定した酸素飽和度が、ベースライン設定工程で設定したベースラインから第一所定値以上低下するか否かを判定する低下判定工程と、低下判定工程で酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下したものと判定した場合に、酸素飽和度がベースラインを下回った時点から、酸素飽和度が最低値から上昇を開始する時点まで、の時間である下降時間が第一時間内であるか否かを判定する下降時間判定工程と、低下判定工程で酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下したものと判定した場合に、酸素飽和度の単位時間当たりの低下量である低下率が所定の閾値以上であるか否かを判定する低下率判定工程と、下降時間判定工程で下降時間が第一時間内であると判定し、かつ、低下率判定工程で低下率が所定の閾値以上であると判定した場合に、酸素飽和度が最低値から上昇を開始する時点から、最低値よりも第二所定値以上上昇するまで、の時間である回復時間が第二時間内であるか否かを判定する回復時間判定工程と、回復時間判定工程で回復時間が第二時間内であると判定した場合に、Dipが発生したものと判定するDip判定工程と、Dip判定工程で発生したものと判定したDipに基づいてODIを算出するODI算出工程と、を含むものである。
【0009】
さらに、本発明に係るプログラムは、被験者の所定の生体部位から測定した酸素飽和度情報に基づいてODIを算出する演算工程をコンピュータに実行させるものであって、演算工程は、所定時間内における測定度数が最大となる酸素飽和度の値を、無呼吸状態が発生していないときの酸素飽和度の値であるベースラインに設定するベースライン設定工程と、測定した酸素飽和度が、ベースライン設定工程で設定したベースラインから第一所定値以上低下するか否かを判定する低下判定工程と、低下判定工程で酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下したものと判定した場合に、酸素飽和度がベースラインを下回った時点から、酸素飽和度が最低値から上昇を開始する時点まで、の時間である下降時間が第一時間内であるか否かを判定する下降時間判定工程と、低下判定工程で酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下したものと判定した場合に、酸素飽和度の単位時間当たりの低下量である低下率が所定の閾値以上であるか否かを判定する低下率判定工程と、下降時間判定工程で下降時間が第一時間内であると判定し、かつ、低下率判定工程で低下率が所定の閾値以上であると判定した場合に、酸素飽和度が最低値から上昇を開始する時点から、最低値よりも第二所定値以上上昇するまで、の時間である回復時間が第二時間内であるか否かを判定する回復時間判定工程と、回復時間判定工程で回復時間が第二時間内であると判定した場合に、Dipが発生したものと判定するDip判定工程と、Dip判定工程で発生したものと判定したDipに基づいてODIを算出するODI算出工程と、を含むものである。
【0010】
かかる構成及び方法を採用すると、所定時間内における測定度数が最大となる酸素飽和度の値をベースライン(無呼吸状態が発生していないときの酸素飽和度の値)に設定することができる。従って、変化が激しい酸素飽和度の値に対して、ベースラインをリアルタイムにかつ正確に設定することが可能となる。例えば、回復直後に酸素飽和度が高い状態で徐々に酸素飽和度が低下するような場合において、ベースラインを最大値に設定すると、回復直後に酸素飽和度の高い状態が一つでもあればベースラインに設定されてしまうが、そのような事態を避けることができる。
【0011】
本発明に係る生体情報解析装置(生体情報解析方法)において、下降時間判定部は(下降時間判定工程では)、酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下する前に上昇してベースライン以上になった場合に、酸素飽和度がベースラインを再度下回った時点から下降時間の計測を開始することができる。
【0012】
かかる構成(方法)を採用すると、酸素飽和度がベースラインから第一所定値(例えばベースラインの値の3%)以上低下する前に上昇してベースライン以上になった場合に、酸素飽和度がベースラインを再度下回った時点から下降時間(酸素飽和度がベースラインを下回った時点から、酸素飽和度が最低値から上昇を開始する時点まで、の時間)の計測を開始することができる。従って、下降時間を正確に計測することができる。
【0013】
本発明に係る生体情報解析装置(生体情報解析方法)において、低下率判定部は(低下率判定工程では)、酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下する前に上昇してベースライン以上になった場合に、酸素飽和度がベースラインを再度下回った時点から低下率の算出を開始することができる。
【0014】
かかる構成(方法)を採用すると、酸素飽和度がベースラインから第一所定値(例えばベースラインの値の3%)以上低下する前に上昇してベースライン以上になった場合に、酸素飽和度がベースラインを再度下回った時点から低下率(酸素飽和度の単位時間当たりの低下量)の算出を開始することができる。従って、酸素飽和度の低下率を正確に算出することができる。
【0015】
本発明に係る生体情報解析装置(生体情報解析方法)において、下降時間判定部は(下降時間判定工程では)、低下判定部(低下判定工程)で酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下したものと判定した後に、酸素飽和度が第二所定値未満上昇し再度低下して最低値を更新した場合に、下降時間を、酸素飽和度がベースラインを下回った時点から、酸素飽和度が更新後の最低値から上昇を開始する時点まで、の時間として計測することができる。
【0016】
かかる構成(方法)を採用すると、低下判定部(低下判定工程)で酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下したものと判定した後に、酸素飽和度が第二所定値未満上昇し再度低下して最低値を更新した場合においても、下降時間(酸素飽和度がベースラインを下回った時点から、酸素飽和度が更新後の最低値から上昇を開始する時点まで、の時間)を正確に計測することができる。
【0017】
本発明に係る生体情報解析装置(生体情報解析方法)において、下降時間判定部は(下降時間判定工程では)、酸素飽和度が最低値から上昇を開始してから最低値よりも第二所定値以上上昇するまでの間に、酸素飽和度が再度低下して最低値を更新した場合に、下降時間を、酸素飽和度がベースラインを下回った時点から、酸素飽和度が更新後の最低値から上昇を開始する時点まで、の時間として計測することができる。
【0018】
かかる構成(方法)を採用すると、酸素飽和度が最低値から上昇を開始してから最低値よりも第二所定値以上上昇するまでの間に、酸素飽和度が再度低下して最低値を更新した場合においても、下降時間(酸素飽和度がベースラインを下回った時点から、酸素飽和度が更新後の最低値から上昇を開始する時点まで、の時間)を正確に計測することができる。
【0019】
本発明に係る生体情報解析装置(生体情報解析方法)において、回復時間判定部は(回復時間判定工程では)、酸素飽和度が最低値から上昇を開始してから最低値よりも第二所定値以上上昇するまでの間に、酸素飽和度が再度低下して最低値を更新した場合に、回復時間を、酸素飽和度が更新後の最低値から上昇を開始する時点から、更新後の最低値よりも第二所定値以上上昇するまで、の時間として計測することができる。
【0020】
かかる構成(方法)を採用すると、酸素飽和度が最低値から上昇を開始してから最低値よりも第二所定値以上上昇するまでの間に、酸素飽和度が再度低下して最低値を更新した場合においても、回復時間(酸素飽和度が最低値から上昇を開始する時点から、最低値よりも第二所定値以上上昇するまで、の時間)を正確に計測することができる。
【0021】
本発明に係る生体情報解析装置(生体情報解析方法)において、演算部は(演算工程では)、Dip判定部(Dip判定工程)でDipが発生したものと判定した場合に、酸素飽和度がベースラインから第一所定値だけ低下した時点から、酸素飽和度が最低値から第二所定値だけ上昇した時点まで、の時間である持続(無呼吸)時間を計測する持続時間計測部をさらに有することができる。
【0022】
かかる構成(方法)を採用すると、Dipが発生したものと判定した場合に、酸素飽和度がベースラインから第一所定値(例えばベースラインの値の3%)だけ低下した時点から、酸素飽和度が最低値から第二所定値(例えばベースラインの値の3%)だけ上昇した時点まで、の時間である持続(無呼吸)時間を正確に計測することができる。下降時間の計測には種々の誤差要因が存在するため、下降時間を用いてSASを判定する従来の手法においては、SASの誤判定が発生し得るのに対し、持続(無呼吸)時間を用いてSASの発生を判定することにより、誤差要因を排除することができるというメリットがある。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ODIの値に基づいてSASの判定を行う際に、無呼吸状態が発生していないときの酸素飽和度の値(ベースライン)をリアルタイムにかつ正確に設定することができる生体情報解析装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態に係る生体情報解析装置の構成を説明するための構成図である。
図2】本発明の実施形態に係る生体情報解析装置の下降時間判定部等の機能を説明するための酸素飽和度タイムチャートである。
図3】本発明の実施形態に係る生体情報解析装置の下降時間計測及び低下率算出のリスタート機能を説明するための酸素飽和度タイムチャートである。
図4】本発明の実施形態に係る生体情報解析装置の下降時間判定部の下降時間更新機能を説明するための酸素飽和度タイムチャートである。
図5】本発明の実施形態に係る生体情報解析装置の下降時間判定部の下降時間更新機能及び回復時間判定部の回復時間更新機能を説明するための酸素飽和度タイムチャートである。
図6】本発明の実施形態に係る生体情報解析装置の回復時間判定部の機能を説明するための酸素飽和度タイムチャートである。
図7】本発明の実施形態に係る生体情報解析装置の回復時間判定部の機能を説明するための酸素飽和度タイムチャートである。
図8】本発明の実施形態に係る生体情報解析装置の持続時間計測部の機能を説明するための酸素飽和度タイムチャートである。
図9】本発明の実施形態に係る生体情報解析装置の持続時間計測部の機能を説明するための酸素飽和度タイムチャートである。
図10】本発明の実施形態に係る生体情報解析方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態はあくまでも好適な適用例であって、本発明の適用範囲がこれに限定されるものではない。
【0026】
まず、図1を用いて、本発明の実施形態に係る生体情報解析装置1の全体構成について説明する。本実施形態に係る生体情報解析装置1は、ODIの値に基づいてSASの判定を行う際に用いられるものであり、図1に示すように、被験者の所定の生体部位から酸素飽和度を測定する測定部10と、測定部10で測定した酸素飽和度情報に基づいてODIを算出する演算部20と、演算部20で算出したODI等の各種情報を表示する表示部30と、を備えている。
【0027】
測定部10は、被験者の所定の生体部位(例えば図1に示す指F)から酸素飽和度に関する情報を取得することができるものであればよく、その構成は特に限定されるものではない。例えば測定部10は、異なる二つの波長を発生する二波長LED(例えば赤色LED及び赤外LED)等からなる発光部、発光部の発光周期を制御する発光制御回路、発光部から発せられた光を受光しその受光した光強度に応じた電流を生成する光電変換素子(例えばシリコンフォトダイオード)等からなる受光部、受光部から出力される光電変換信号を取得してデジタル信号に変換するA/D変換回路、等から構成することができる。
【0028】
演算部20は、制御プログラム等を記憶するROM(Read Only Memory)、一時的にデータを格納するRAM(Random Access Memory)、制御プログラム等をROMから読みだして実行する中央演算処理装置(CPU:Central Processing Unit)等から構成されており、測定部10で測定した酸素飽和度情報に基づいてODIを算出する機能等を有している。演算部20の各機能部については、後に詳述する。
【0029】
表示部30は、演算部20で算出したODI等の各種情報を表示することができるものであればよく、その構成は特に限定されるものではない。例えば、被験者の酸素飽和度の時間履歴等のODI等に関する各種情報を文字、数字、グラフ等で視覚的に表示する液晶表示装置(LCD:Liquid Crystal Display)等を表示部30として採用することができる。
【0030】
次に、本実施形態に係る生体情報解析装置1の演算部20の各機能部について説明する。
【0031】
本実施形態における演算部20は、図1に示すように、ベースライン設定部21、低下判定部22、下降時間判定部23、低下率判定部24、回復時間判定部25、Dip判定部26、ODI算出部27及び持続時間計測部28を有している。
【0032】
ベースライン設定部21は、所定時間(ベースライン設定時間)内において、測定部10による測定度数(サンプリング数)が最大となる酸素飽和度の値を、無呼吸状態が発生していないときの酸素飽和度の値であるベースラインに設定するように機能するものである。例えば、ベースライン設定部26は、ベースライン設定時間内における測定度数が最大となる酸素飽和度の値が「97%」である場合には、この「97%」を新たなベースラインとして設定するようにする。ベースライン設定時間は、例えば5~7秒の範囲内で適宜設定することができる。なお、ベースライン設定部21は、測定度数が最大となる酸素飽和度の値が複数存在する場合には、値が最大となる酸素飽和度をベースラインとして設定する。
【0033】
低下判定部22は、測定部10で測定した酸素飽和度が、ベースライン設定部21で設定したベースラインから第一所定値以上低下するか否かを判定するように機能するものである。第一所定値としては、例えば図2等に示すように、ベースラインの3%の値を採用することができる。
【0034】
下降時間判定部23は、例えば図2に示すように、低下判定部22で酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下したものと判定した場合に、酸素飽和度がベースラインを下回った時点から、酸素飽和度が最低値から上昇を開始する時点まで、の時間(下降時間)が第一時間内であるか否かを判定するように機能するものである。下降時間の判定基準となる第一時間は、例えば8~120秒の範囲内で適宜設定することができる。
【0035】
下降時間判定部23は、酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下する前に一度上昇した場合においても、図2に示すように酸素飽和度がベースライン以上まで上昇せずに再度下降した場合には、下降時間の計測開始時点を変更せずに下降時間の計測を続行する。一方、下降時間判定部23は、図3に示すように、酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下する前に上昇してベースライン以上になった場合においては、酸素飽和度がベースラインを再度下回った時点から下降時間の計測を開始するようにする(酸素飽和度上昇に基づく下降時間計測のリスタート機能)。
【0036】
また、下降時間判定部23は、図4に示すように、低下判定部22で酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下したものと判定した後に、酸素飽和度が第二所定値未満上昇し再度低下して最低値を更新した場合においては、下降時間を、酸素飽和度がベースラインを下回った時点から、酸素飽和度が更新後の最低値から上昇を開始する時点まで、の時間として計測する(最低値更新に基づく下降時間の更新機能(I))。第二所定値としては、第一所定値と同じ値(例えばベースラインの3%の値)を採用することができる。
【0037】
さらに、下降時間判定部23は、図5に示すように、酸素飽和度が最低値から上昇を開始してから最低値よりも第二所定値以上上昇するまでの間に、酸素飽和度が再度低下して最低値を更新した場合においては、下降時間を、酸素飽和度がベースラインを下回った時点から、酸素飽和度が更新後の最低値から上昇を開始する時点まで、の時間として計測する(最低値更新に基づく下降時間の更新機能(II))。
【0038】
低下率判定部24は、低下判定部22で酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下したものと判定した場合に、酸素飽和度の単位時間当たりの低下量(低下率)が所定の閾値以上であるか否かを判定するように機能するものである。低下率の閾値としては、例えば図2等に示すように、1秒間あたりベースラインの0.1%の低下量(10秒間あたりベースラインの1%の低下量)を採用することができる。
【0039】
低下率判定部24は、酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下する前に一度上昇した場合においても、図2に示すように酸素飽和度がベースライン以上まで上昇せずに再度下降した場合には、低下率の算出開始時点を変更せずに低下率の算出を続行する。一方、低下率判定部24は、図3に示すように、酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下する前に上昇してベースライン以上になった場合においては、酸素飽和度がベースラインを再度下回った時点から低下率の算出を開始するようにする(酸素飽和度上昇に基づく低下率算出のリスタート機能)。
【0040】
回復時間判定部25は、下降時間判定部23で下降時間が第一時間内であると判定し、かつ、低下率判定部24で低下率が所定の閾値以上であると判定した場合において、酸素飽和度が最低値から上昇を開始する時点から、最低値よりも第二所定値以上上昇するまで、の時間(回復時間)が第二時間内であるか否かを判定するように機能するものである。第二所定値としては、例えば図6に示すように、ベースラインの3%の値を採用することができる。回復時間の判定基準となる第二時間は、例えば1~20秒の範囲内で適宜設定することができる。
【0041】
回復時間判定部25は、酸素飽和度が最低値から上昇を開始してから最低値よりも第二所定値以上上昇するまでの間に、酸素飽和度が再度低下した場合においても、図7に示すように酸素飽和度が最低値を更新しない場合には、回復時間の計測開始時点を変更せずに回復時間の計測を続行する。一方、回復時間判定部25は、図5に示すように、酸素飽和度が最低値から上昇を開始してから最低値よりも第二所定値以上上昇するまでの間に、酸素飽和度が再度低下して最低値を更新した場合においては、回復時間を、酸素飽和度が更新後の最低値から上昇を開始する時点から、更新後の最低値よりも第二所定値以上上昇するまで、の時間として計測する(最低値更新に基づく回復時間の更新機能)。
【0042】
Dip判定部26は、回復時間判定部25で回復時間が第二時間内であると判定した場合に、Dip(無呼吸に伴う酸素飽和度の低下ピーク)が発生したものと判定するように機能するものである。ODI算出部27は、Dip判定部26で発生したものと判定したDipに基づいてODIを算出するように機能するものである。ODI算出部27によって算出されたODIの値は、表示部30によって表示されてSASの判定に用いられることとなる。
【0043】
持続時間計測部28は、Dip判定部26でDipが発生したものと判定した場合において、図8に示すように、酸素飽和度がベースラインから第一所定値だけ低下した時点から、酸素飽和度が最低値から第二所定値だけ上昇した時点まで、の持続時間(無呼吸時間)を計測するように機能するものである。なお、持続時間計測部28は、図9に示すように酸素飽和度の最低値から僅かな(第二所定値未満の)上昇が発生した場合においても、酸素飽和度がベースラインから第一所定値だけ低下した時点から、酸素飽和度が最低値から第二所定値だけ上昇した時点まで、の時間を持続時間として計測する。
【0044】
持続時間計測部28で計測された持続時間は、表示部30によって表示されてASの判定等に用いられ得る。下降時間の計測には種々の誤差要因が存在するため、下降時間を用いてSASを判定する従来の手法においては、SASの誤判定が発生し得るのに対し、持続(無呼吸)時間を用いてSASの発生を判定することにより、誤差要因を排除することができるというメリットがある。
【0045】
続いて、図10のフローチャートを参照しながら、本実施形態に係る生体情報解析装置1を用いた生体情報解析方法について説明する。
【0046】
まず、生体情報解析装置1の演算部20のベースライン設定部21は、所定時間内における測定度数が最大となる酸素飽和度の値をベースラインに設定する(ベースライン設定工程:S1)。次いで、演算部20の低下判定部22は、測定部10を用いて測定した酸素飽和度が、ベースライン設定部21で設定したベースラインから第一所定値以上低下するか否かを判定する(低下判定工程:S2)。
【0047】
演算部20の低下判定部22は、低下判定工程S2において、酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下していないと判定した場合には、ベースライン設定工程S1に戻り、酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下するまで最新のベースラインを設定し続ける。
【0048】
一方、演算部20の低下判定部22が、酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下したものと判定した場合には、演算部20の下降時間判定部23は、酸素飽和度がベースラインを下回った時点から、酸素飽和度が最低値から上昇を開始する時点まで、の時間(下降時間)が第一時間内であるか否かを判定する(下降時間判定工程:S3)。
【0049】
なお、酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下する前に上昇してベースライン以上になったものと判定した場合には、下降時間判定部23は、酸素飽和度がベースラインを再度下回った時点から持続時間の計測を開始する。また、酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下したものと判定した後に、酸素飽和度が第二所定値未満上昇し再度低下して最低値を更新した場合には、下降時間判定部23は、下降時間を、酸素飽和度がベースラインを下回った時点から、酸素飽和度が更新後の最低値から上昇を開始する時点まで、の時間として計測する。さらに、酸素飽和度が最低値から上昇を開始してから最低値よりも第二所定値以上上昇するまでの間に、酸素飽和度が再度低下して最低値を更新した場合には、下降時間判定部23は、下降時間を、酸素飽和度がベースラインを下回った時点から、酸素飽和度が更新後の最低値から上昇を開始する時点まで、の時間として計測する。
【0050】
演算部20の下降時間判定部23が、下降時間判定工程S3において下降時間が第一時間内にないと判定した場合には、ベースライン設定工程S1に戻り、酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下するまで最新のベースラインを設定し続ける。
【0051】
一方、演算部20の下降時間判定部23が、下降時間判定工程S3において下降時間が第一時間内であると判定した場合には、演算部20の低下率判定部24は、酸素飽和度の単位時間当たりの低下量(低下率)が所定の閾値以上であるか否かを判定する(低下率判定工程:S4)。なお、酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下する前に上昇してベースライン以上になったものと判定した場合には、低下率判定部24は、酸素飽和度がベースラインを再度下回った時点から低下率の算出を開始する。
【0052】
演算部20の低下率判定部24が、低下率判定工程S4において低下率が所定の閾値未満であると判定した場合には、ベースライン設定工程S1に戻り、酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下するまで最新のベースラインを設定し続ける。
【0053】
一方、低下率判定部24が、低下率判定工程S4において低下率が所定の閾値以上であると判定した場合には、演算部20の回復時間判定部25は、酸素飽和度が最低値から上昇を開始する時点から、最低値よりも第二所定値以上上昇するまで、の時間(回復時間)が第二時間内であるか否かを判定する(回復時間判定工程:S5)。なお、酸素飽和度が最低値から上昇を開始してから最低値よりも第二所定値以上上昇するまでの間に、酸素飽和度が再度低下して最低値を更新した場合には、回復時間判定部25は、回復時間を、酸素飽和度が更新後の最低値から上昇を開始する時点から、更新後の最低値よりも第二所定値以上上昇するまで、の時間として計測する。
【0054】
演算部20の回復時間判定部25が、回復時間判定工程S5において、回復時間が第二時間内にないと判定した場合には、演算部20は、ベースライン設定工程S1に戻り、酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下するまで最新のベースラインを設定し続ける。
【0055】
一方、演算部20の回復時間判定部25が、回復時間判定工程S5において、回復時間が第二時間内であると判定した場合には、演算部20のDip判定部26はDipが発生したものと判定する(Dip判定工程:S6)。そして、演算部20のODI算出部27は、Dip判定工程S6で発生したものと判定したDipに基づいてODIを算出する(ODI算出工程:S7)。また、演算部20のDip判定部26が、Dip判定工程S6においてDipが発生したものと判定した場合には、演算部20の持続時間計測部28は、酸素飽和度がベースラインから第一所定値だけ低下した時点から、酸素飽和度が最低値から第二所定値だけ上昇した時点まで、の持続時間(無呼吸時間)を計測する(持続時間計測工程:S8)。その後、演算部20は、SASの判定用に、ODI算出工程S7で算出したODIや持続時間計測工程S8で計測した持続時間を表示部30に表示する等の所要の処理を行う。
【0056】
以上説明した実施形態に係る生体情報解析装置1においては、所定時間内における測定度数が最大となる酸素飽和度の値をベースライン(無呼吸状態が発生していないときの酸素飽和度の値)に設定することができる。従って、変化が激しい酸素飽和度の値に対して、ベースラインをリアルタイムにかつ正確に設定することが可能となる。例えば、回復直後に酸素飽和度が高い状態で徐々に酸素飽和度が低下するような場合において、ベースラインを最大値に設定すると、回復直後に酸素飽和度の高い状態が一つでもあればベースラインに設定されてしまうが、そのような事態を避けることができる(なお、ベースラインとして平均値等を用いる方法もあるが、酸素飽和度の値が大きくバラツク場合、誤差も大きくなってしまうというデメリットがある)。
【0057】
また、以上説明した実施形態に係る生体情報解析装置1においては、酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下する前に上昇してベースライン以上になった場合に、酸素飽和度がベースラインを再度下回った時点から下降時間(酸素飽和度がベースラインを下回った時点から、酸素飽和度が最低値から上昇を開始する時点まで、の時間)の計測を開始することができる。従って、下降時間を正確に計測することができる。
【0058】
また、以上説明した実施形態に係る生体情報解析装置1においては、酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下する前に上昇してベースライン以上になった場合に、酸素飽和度がベースラインを再度下回った時点から低下率(酸素飽和度の単位時間当たりの低下量)の算出を開始することができる。従って、酸素飽和度の低下率を正確に算出することができる。
【0059】
また、以上説明した実施形態に係る生体情報解析装置1においては、低下判定部22で酸素飽和度がベースラインから第一所定値以上低下したものと判定した後に、酸素飽和度が第二所定値未満上昇し再度低下して最低値を更新した場合においても、下降時間(酸素飽和度がベースラインを下回った時点から、酸素飽和度が更新後の最低値から上昇を開始する時点まで、の時間)を正確に計測することができる。
【0060】
また、以上説明した実施形態に係る生体情報解析装置1においては、酸素飽和度が最低値から上昇を開始してから最低値よりも第二所定値以上上昇するまでの間に、酸素飽和度が再度低下して最低値を更新した場合においても、下降時間(酸素飽和度がベースラインを下回った時点から、酸素飽和度が更新後の最低値から上昇を開始する時点まで、の時間)を正確に計測することができる。
【0061】
また、以上説明した実施形態に係る生体情報解析装置1においては、酸素飽和度が最低値から上昇を開始してから最低値よりも第二所定値以上上昇するまでの間に、酸素飽和度が再度低下して最低値を更新した場合においても、回復時間(酸素飽和度が最低値から上昇を開始する時点から、最低値よりも第二所定値以上上昇するまで、の時間)を正確に計測することができる。
【0062】
また、以上説明した実施形態に係る生体情報解析装置1においては、Dipが発生したものと判定した場合に、酸素飽和度がベースラインから第一所定値だけ低下した時点から、酸素飽和度が最低値から第二所定値だけ上昇した時点まで、の持続時間(無呼吸時間)を正確に計測することができる。下降時間の計測には種々の誤差要因が存在するため、下降時間を用いてSASを判定する従来の手法においては、SASの誤判定が発生し得るのに対し、持続(無呼吸)時間を用いてSASの発生を判定することにより、誤差要因を排除することができるというメリットがある。
【0063】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、かかる実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。すなわち、前記実施形態が備える各要素及びその配置、材料、条件、形状、サイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前記実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0064】
1…生体情報解析装置
10…測定部
20…演算部
21…ベースライン設定部
22…低下判定部
23…下降時間判定部
24…低下率判定部
25…回復時間判定部
26…Dip判定部
27…ODI算出部
28…持続時間計測部
S1…ベースライン設定工程
S2…低下判定工程
S3…下降時間判定工程
S4…低下率判定工程
S5…回復時間判定工程
S6…Dip判定工程
S7…ODI算出工程
S8…持続時間計測工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10