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特許7203422燃料電池用カソード電極およびその製造方法、燃料電池用カソード電極を備えた固体高分子型燃料電池
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  • 特許-燃料電池用カソード電極およびその製造方法、燃料電池用カソード電極を備えた固体高分子型燃料電池 図1
  • 特許-燃料電池用カソード電極およびその製造方法、燃料電池用カソード電極を備えた固体高分子型燃料電池 図2
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  • 特許-燃料電池用カソード電極およびその製造方法、燃料電池用カソード電極を備えた固体高分子型燃料電池 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】燃料電池用カソード電極およびその製造方法、燃料電池用カソード電極を備えた固体高分子型燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20230105BHJP
   B01J 23/847 20060101ALI20230105BHJP
   B01J 23/89 20060101ALI20230105BHJP
   B01J 35/08 20060101ALI20230105BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20230105BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20230105BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20230105BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20230105BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20230105BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20230105BHJP
【FI】
H01M4/86 M
B01J23/847 M
B01J23/89 M
B01J35/08 B
B01J37/02 301A
B01J37/16
H01M4/86 B
H01M4/86 H
H01M4/88 K
H01M4/92
H01M4/96 B
H01M8/10 101
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019094879
(22)【出願日】2019-05-20
(65)【公開番号】P2020191189
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】509185192
【氏名又は名称】株式会社 ACR
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】北村 武昭
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-091264(JP,A)
【文献】特開2017-157353(JP,A)
【文献】特開2012-043612(JP,A)
【文献】特開2012-049075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86-4/98
B01J 23/847
B01J 23/89
B01J 35/08
B01J 37/02
B01J 37/16
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒担持導電体と、高分子電解質とからなる触媒層を有し、
前記触媒担持導電体の表面が、突起を有する導電性複合金属酸化物で覆われ、
前記導電性複合金属酸化物に、触媒金属粒子が担持されている、燃料電池用カソード電極。
【請求項2】
前記導電性複合金属酸化物の前記突起の高さが、5nm~15nmである、請求項1に記載の燃料電池用カソード電極。
【請求項3】
前記導電性複合金属酸化物が、水との接触角で140度以上の撥水性を有する、請求項1または2に記載の燃料電池用カソード電極。
【請求項4】
前記導電性複合金属酸化物で覆われた前記触媒担持導電体が、0.2Ω・cm以下の比抵抗を有する、請求項1~3のいずれかに記載の燃料電池用カソード電極。
【請求項5】
前記導電性複合金属酸化物が、酸素吸放出体である、請求項1~4のいずれかに記載の燃料電池用カソード電極。
【請求項6】
前記導電性複合金属酸化物が、p型半導体である、請求項1~5のいずれかに記載の燃料電池用カソード電極。
【請求項7】
前記導電性複合金属酸化物が、Sn(M=Taおよび/またはNb)からなるパイロクロア構造を有する、請求項1~6のいずれかに記載の燃料電池用カソード電極。
【請求項8】
前記導電性複合金属酸化物が、TaドープSnO(0.01質量%≦Ta≦1.0質量%)を含む、請求項1~4のいずれかに記載の燃料電池用カソード電極。
【請求項9】
前記触媒金属粒子が、Ptのシェル層からなるコアシェル構造を有する、請求項1~8のいずれかに記載の燃料電池用カソード電極。
【請求項10】
前記コアシェル構造のコア層が、Pdと、Pt、RuおよびCoの少なくとも一つから選ばれてなる合金からなる、請求項9に記載の燃料電池用カソード電極。
【請求項11】
前記触媒担持導電体が、導電性カーボン、グラファイト、グラフェンおよびカーボンアロイから選ばれる少なくとも一つからなる、請求項1~10のいずれかに記載の燃料電池用カソード電極。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の燃料電池用カソード電極の製造方法であって、
前記触媒担持導電体の懸濁液に、塩化スズ(II)および塩化タンタル(V)を加え、pH1.5~2.0に制御して前記導電性複合金属酸化物を得る工程を含む、燃料電池用カソード電極の製造方法。
【請求項13】
前記導電性複合金属酸化物で被覆された前記触媒担持導電体の懸濁液に、コア層を構成する触媒の金属塩を加えたものを、40℃~80℃に加温して触媒金属として還元する第1還元工程を含み、
前記第1還元工程により、前記触媒担持導電体の表面を被覆する突起状の前記導電性複合金属酸化物の表面に、前記触媒金属粒子のコア層が形成される、請求項12に記載の燃料電池用カソード電極の製造方法。
【請求項14】
突起状の前記導電性複合金属酸化物の表面に、前記触媒金属粒子の前記コア層を有する前記触媒担持導電体の懸濁液に、Pt塩溶液と還元剤とを加えてPtを還元する第2還元工程を含み、
前記第2還元工程により、前記触媒金属粒子のPtシェル層が形成される、請求項13に記載の燃料電池用カソード電極の製造方法。
【請求項15】
アノード電極と、
請求項1~11のいずれかに記載のカソード電極と、
前記アノード電極と前記カソード電極との間に配置された高分子電解質膜と、
を有する固体高分子型燃料電池。
【請求項16】
前記導電性複合金属酸化物が、Sn(M=Taおよび/またはNb)からなるパイロクロア構造を有する、請求項15に記載の固体高分子型燃料電池。
【請求項17】
前記導電性複合金属酸化物が、TaドープSnO(0.01質量%≦Ta≦1.0質量%)を含む、請求項15に記載の固体高分子型燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用カソード電極およびその製造方法、燃料電池用カソード電極を備えた固体高分子型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池のなかでも、プロトン伝道による高分子電解質膜を有する固体高分子型燃料電池は、作動温度が低く、出力密度が高く、小型軽量化が容易であることから、究極の地球温暖化対策として自動車等の電源等としての普及が期待されている。しかしながら、従来の内燃機関のPt使用量と比較して、5~10倍のPtが必要であること、負荷走行サイクルおよび起動停止時サイクルの過電圧による、Pt溶出および高分子電解質の劣化が課題になっている。
【0003】
高分子固体電解質燃料電池において、カソード電極の触媒表面では、酸素が還元され、カソード電極はアノード電極の触媒担持導電体から電子を受取り、水分子になる三相界面が形成されて連鎖的な反応が起きる。そのため、固体高分子型燃料電池においては、従来より、触媒担持導電体においては、比表面積を大きくして触媒活性点を増すこと、および触媒層を含フッ素イオン交換樹脂(以下、「アイオノマー」と言う場合がある)で被覆して電極とし、三相界面の形成が図られている。
【0004】
上記の触媒を被覆するアイオノマーとしては、プロトン導電性が高めるために、側鎖に強酸性のスルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体が使用されている。
【0005】
しかし、従来のカソード電極の触媒層は、発電による電位が生じると、触媒とアイオノマーとの隙間が広がり、そこに水生する水分子が介在して、プロトン伝道が低下することが知られている(図3)。図3の(1)~(6)に記載のように、従来のカソード電極では、発電過負荷時に、生成した過酸化水素と過電圧とにより、表層の白金が酸化されると、アイオノマーが白金と乖離する。そこへ、生成水が溜まり、酸素がその生成水に溶存する。さらに、アイオノマーからスルホン酸基の腐食による脱離が起き、白金の酸化が進み生成水に溶出して表層の白金が減少する。反応サイトとしての三相界面が保たれなくなる。また、酸素の透過性が低下し、触媒層内の酸素透過性が不十分となり、カソード電極における酸素還元反応の過電圧が大きくなり、過酸化水素の分解による白金の酸化および溶出、高分子固体電解質のスルホン酸基含有パーフルオロカーボンからスルホン酸が解離することが知られている。
【0006】
これに対して、下記特許文献1、2、3においては、触媒を被覆するフッ素樹脂またはフッ素系シランカップリング剤で処理した固体高分子形燃料電池および電極層が提案されている。
【0007】
しかしながら、フッ素系樹脂およびフッ素系シランによる被覆処理では、自動車の走行負荷変動および起動停止に、フッ素樹脂の剥離およびシロキサン結合の加水分解が起き、耐久性の観点で十分でなかった。
【0008】
一方、カソード電極層の酸素透過性に関して、において、触媒担持導電体の表面に、酸素吸放出のパイロクロア構造のCeZrO酸化物が、重なり合うことなく、個々に分かれて担持された方法が、下記特許文献4に開示されている。
【0009】
しかしながら、特許文献4に記載の固体高分子形燃料電池であっても、CeZrO酸化物は電子導電性が不十分であり、三相界面が生成できずカソード電極の内部抵抗が増加する。さらに、触媒と酸素吸放出のCeZrO酸化物が、重なり合うことがないことで、触媒金属粒子表面への酸素の到達が少なく、三相界面の形成が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】韓国特許公開20090118262号公報
【文献】特開20015-056298号公報
【文献】特開平05-05182672号公報
【文献】特開2008-091264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、高分子固体電解質燃料電池のカソード電極において、触媒作用時に、三相界面と呼ばれる触媒、アイオノマーおよび酸素(言い換えれば、触媒金属粒子の表面で水素イオン、酸素、および電子と)が会合する反応サイトを、より多くの触媒金属粒子で有し、白金有効利用率を向上させることにある。さらに、自動車の走行負荷変動サイクルおよび起動停止サイクルの過電圧がともなっても、持続的に三相界面の反応サイトの保持を可能にすることにある。
【0012】
特許文献1、2および3のように、フッ素樹脂またはフッ素系シランを触媒担持カーボン
に被覆処理して撥水性を付与すると、自動車の走行負荷変動および起動停止によって、フッ素樹脂の剥離およびシロキサン結合の加水分解が起き、触媒とアイオノマーとの界面に隙間が生じ水素イオン伝道が低下する。さらに、その隙間に水分が溜まり、酸素がその水分に溶存して酸素の供給が低下する。したがって、三相界面の反応サイトへの水素イオンおよび酸素の会合が減少し、発電性能が低下することが問題であった。
【0013】
一方、特許文献4のように、パイロクロア型CeZrからなる酸素吸放出体が、触媒担持導電体の表面に、触媒金属粒子と直接的に接することなく別々に存在する場合は、酸素が生成水に溶存しやすく、触媒金属粒子表面での三相界面の反応サイトへの供給が低下する。さらに、前記パイロクロア型CeZrからなる酸素吸放出体は、電子電導性が低いために、カソード電極の内部抵抗が増し、自動車の走行負荷変動サイクルおよび起動停止サイクルの過電圧が高くなり、白金の酸化、および溶出、アイオノマーのスルホン酸基の分解および触媒担持導電体(導電性カーボン)の腐食につながる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、触媒金属粒子表面へ、水素イオンの伝導、電子の伝導および酸素が会合し、三相界面のサイトを、持続的に形成できるよう、突起状を有する金属酸化物が、触媒金属粒子と触媒担持導電体との間にあって直接的に接し、撥水性、電子電導性および酸素吸放出性を有することにより、上記課題が解決することを見出し本発明に至った。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の燃料電池用カソード電極は、触媒担持導電体と、高分子電解質とからなる触媒層を有し、前記触媒担持導電体の表面が、突起を有する導電性複合金属酸化物で覆われ、前記導電性複合金属酸化物に、触媒金属粒子が担持されている。
【0016】
前記導電性複合金属酸化物の前記突起の高さが、5nm~15nmであってもよい。
【0017】
前記導電性複合金属酸化物が、水との接触角で140度以上の撥水性を有してもよい。
【0018】
前記触媒担持導電体が、0.2Ω・cm以下の比抵抗を有してもよい。
【0019】
前記導電性複合金属酸化物が、酸素吸放出体であってもよい。
【0020】
前記導電性複合金属酸化物が、p型半導体であってもよい。
【0021】
前記導電性複合金属酸化物が、Sn22(M=Taおよび/またはNb)からなるパイロクロア構造を有してもよい。
【0022】
前記導電性複合金属酸化物が、TaドープSnO2(0.01質量%≦Ta≦1.0質量%)を含んでもよい。
【0023】
前記触媒金属粒子が、Ptのシェル層からなるコアシェル構造を有してもよい。
【0024】
前記コアシェル構造のコア層が、Pdと、Pt、RuおよびCoの少なくとも一つから選ばれてなる合金からなるものであってもよい。
【0025】
前記触媒担持導電体が、導電性カーボン、グラファイト、グラフェンおよびカーボンアロイから選ばれる少なくとも一つからなるものであってもよい。
【0026】
また、上記課題を解決するために、本発明の燃料電池用カソード電極の製造方法は、上記した本発明の燃料電池用カソード電極の製造方法であって、前記触媒担持導電体の懸濁液に、塩化スズ(II)および塩化タンタル(V)を加え、pH1.5~2.0に制御して前記導電性複合金属酸化物を得る工程を含む。
【0027】
前記導電性複合金属酸化物で被覆された前記触媒担持導電体の懸濁液に、コア層を構成する金属塩を加えたものを、40℃~80℃に加温して還元する第1還元工程を含み、前記第1還元工程により、前記触媒担持導電体の表面を被覆する突起状の前記導電性複合金属酸化物の表面に、前記触媒金属粒子のコア層が形成されてもよい。
【0028】
突起状の前記導電性複合金属酸化物の表面に、前記触媒金属粒子の前記コア層を有する前記触媒担持導電体の懸濁液に、Pt塩溶液と還元剤とを加えて還元する第2還元工程を含み、前記第2還元工程により、前記触媒金属粒子のPtシェル層が形成されてもよい。
【0029】
また、上記課題を解決するために、本発明の固体高分子型燃料電池は、アノード電極と、上記した本発明のカソード電極と、前記アノード電極と前記カソード電極との間に配置された高分子電解質膜と、を有する。
【0030】
前記導電性複合金属酸化物が、Sn22(M=Taおよび/またはNb)からなるパイロクロア構造を有してもよい。
【0031】
前記導電性複合金属酸化物が、TaドープSnO2(0.01質量%≦Ta≦1.0質量%)を含んでもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、燃料電池用カソード電極において、突起状を有するパイロクロア型SnTa、および/またはSnNbの結晶からなる複合金属酸化物が持続性のある撥水性を有し、さらに電子電導性および酸素吸放出性、もしくは、酸素吸放出体ではないTaドープSnO2 とから、触媒金属粒子表面に三相界面の反応サイトを高度に実現した酸素還元反応により、高い発電性能を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1に、本発明のカソード電極における、触媒担体導電体、複合酸化物、触媒金属粒子およびアイオノマーの構成概念図を示す。
図2図2に、触媒金属粒子表面への水素イオン、電子、酸素分子の移動による三相界面の反応サイトの概念図を示す。
図3図3に、従来のカソード電極における発電時劣化挙動の概念図を示す。
図4図4に、本発明のコアシェル型触媒の構成概念図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明のカソード電極およびこれを備えた固体高分子型燃料電池の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0035】
本発明は、前記三相界面の反応サイトを確保するために、以下の(1)~(3)の3つの要素が成り立つことが好ましい。
【0036】
(1)本発明は、触媒担持導電体の表面に、5nm~15nmの突起状を有する複合金属酸化物を形成することで、アイオノマーとの濡れがよくて白金有効率が高く、水分を排出でき、かつ触媒作動時に触媒とアイオノマーとが密着できる、持続的な撥水性を保持できることにある。
(2)本発明は、前記複合金属酸化物がパイロクロア型SnTa、および/またはSnNbの結晶構造 からなる酸素吸放出性を有し、触媒金属粒子が前記金属酸化物の表面に接していて、酸素が生成する水分に溶存することなく、触媒金属粒子へ効率が高い供給を可能にすることにある。
(3)本発明は、パイロクロア型SnTa、および/またはSnNbの結晶構造からなる酸素吸放出性を有する前記複合金属酸化物が、触媒担持導電体と触媒金属粒子との間に接して設けられ、電子電導性を有することで、触媒金属粒子表面での三相界面の反応サイトへ、電子を供給することを可能にすることにある。同時に、金属酸化物が触媒担持導電体の腐食を防ぐことができる。
【0037】
即ち、第1に、本発明は、触媒担持導電体と、アイオノマーとからなる触媒層を有する燃料電池用カソード電極の発明であって、触媒担持導電体の表面に、突起状のパイロクロア型SnTa、SnNbおよび/またはTaドープSnO2の結晶構造の導電性複合金属酸化物が形成され、さらに導電性複合金属酸化物の表面に触媒金属粒子が担持されていることが好ましい。
【0038】
本発明のカソード電極は、触媒担持導電体の表面に微細な突起状のパイロクロア型SnTa、SnNbおよび/またはTaドープSnO2の結晶構造からなる導電性複合金属酸化物がさらに担持されている場合には、その突起形成により持続性のある撥水性を有し、導電性複合金属酸化物の表面に触媒金属粒子が担持されているので、触媒金属粒子へ導電性複合金属酸化物の酸素欠陥により電子を電導させ、さらに、前記パイロクロア型SnTa、SnNbおよび/またはTaドープSnO2の結晶構造の酸素欠陥により酸素キャリアが、直接的に触媒金属粒子へ酸素分子の拡散経路が確保される。
【0039】
その結果、持続性の撥水性で水素イオンの伝導、パイロクロア型SnTa、SnNbおよび/またはTaドープSnO2の結晶構造の電子伝導性および酸素キャリア性により、電子および酸素分子を触媒金属粒子の表面に会合を確保して、電極反応における交換電流密度を増大させることができ過電圧を低減できる。すなわち、高い電極特性を得ることができる。特に、固体高分子型燃料電池のカソード電極として使用すれば、カソード電極の酸素還元反応の過電圧を効果的に低減させることができるので、カソード電極の電極特性を向上させることができる。酸素ガスの不足は、特に、燃料電池が運転中に生じるが、本発明により、長時間の運転中も高い電極特性を維持することが出来る。
【0040】
本発明は、20nm~50nmの粒子径からなる触媒担体導電体の表面に、導電性複合金属酸化物からなる5nm~15nmの高さと間隔を有する突起を形成し、過電圧および過酸化水素による腐食に耐えうる持続性のある撥水性の維持を可能にした。
【0041】
本発明の導電性複合金属酸化物が、パイロクロア型SnTa、および/またはSnNbの結晶構造を有する場合には、酸素欠陥により正孔を生成し、P型半導体特性を有し電子導電性を可能にした。
【0042】
さらに、本発明で用いることのできるパイロクロア型SnTa、および/またはSnNbの結晶は、近傍の酸素濃度の変動によって、その結晶の酸素欠陥により酸素の吸収と放出を可逆的に繰り返すことができる機能を有する酸素キャリア材の1種である。即ち、比較的O濃度が高い時に酸素を吸収し、O濃度が低い雰囲気下で酸素を放出するこができる。
【0043】
本発明においては、表面にパイロクロア型SnTa、および/またはSnNbが担持される触媒担持導電体として、多孔質カーボン粉末、グラファイト粉末またはグラフェン粉末であることが好ましい。
【0044】
また、第2に、固体高分子型燃料電池の発明であって、カソード電極は、触媒担持導電体と、アイオノマーとからなる触媒層を有し、触媒担持導電体の表面には、パイロクロア型SnTa、および/またはSnNbからなる酸素吸放出体、もしくは、酸素吸放出体ではないTaドープSnO2と、その表面に触媒金属粒子さらに担持されていることが好ましい。
【0045】
このように、先に述べた酸素還元反応に対する優れた電極特性を有する本発明のカソード電極を備えることにより、高い電池出力を有する固体高分子型燃料電池を構成することが可能となる。また、先に述べたように、本発明のカソード電極は、自動車の走行負荷変動サイクルおよび起動停止サイクルの過電圧が高くなり、白金の酸化、および溶出、アイオノマーのスルホン酸基の分解および触媒担持導電体(導電性カーボン)の腐食を防止することができるとともに、耐久性に優れているので、これを備える本発明の固体高分子型燃料電池は高い電池出力を長期にわたり安定して得ることが可能となる。
【0046】
図1が示すとおり、触媒担体導電体の表面に、微細な突起状を有する複合金属酸化物が被覆されている。その複合金属酸化物の表面に、触媒金属粒子が担持されている。このようにして複合された粒子は、その突起状がスペーサーの役割を果たし、アイオノマーが突起状の頂点まで均一な厚みで覆っている。
【0047】
図2が示すとおり、まず、水素イオンが、アイオノマー中を伝導して触媒金属粒子表面へ移動する。次に、電子は、触媒担体導電体から導電性を有する複合金属酸化物を通り、触媒金属粒子表面へ移動する。さらに、酸素分子は、前記複合酸化物に貯蔵された酸素が触媒金属粒子表面に移動する。このようにして、本発明のカソード電極は、触媒金属粒子表面で三相界面の反応サイトが成立し、酸素還元反応が進行する。この酸素還元反応を[化1]に示す。
【0048】
[化1]
+ 4H + 4e→ 2H
【0049】
本発明は、触媒担持導電体の表面に、突起状を有するパイロクロア型SnTa、および/またはSnNbの導電性複合金属酸化物が担持される。この微細な突起状が、持続的な撥水性を有することにより、高出力時であっても触媒とアイオノマーとが密着を保持でき、多くの水素イオンが触媒金属粒子へ到達できる。
【0050】
酸素は、燃料電池が低出力時において、触媒での酸素消費量が少なく、酸素吸放出体近傍の酸素濃度が濃いため酸素吸放出体に余剰の酸素が吸蔵される。一方、触媒での酸素消費量が多く酸素吸放出体近傍の酸素濃度が薄くなるため、前記複合金属酸化物から触媒金属粒子へ酸素が直接的に移動されるため、触媒層のガス拡散の影響を受けることなく、生成水に酸素が溶存され酸素が消費されることなく、酸素が触媒上で還元されることにより、燃料電池性能が更に向上する。
【0051】
電極反応は三相界面と呼ばれる反応ガス、触媒、電解質が会合するサイトにて進行する。三相界面への酸素の供給が一つの重要なトピックとしてある。電池の出力を高くした場合、反応に大量の酸素が必要となり、触媒近傍に酸素がなければ発電特性は急激に低下する。従来の技術では高濃度の酸素を供給するという形式であるが、図1に示すように、実際の反応は三相界面(触媒近傍)で行われるので、ここに酸素が供給されていなければその能力を十二分に発揮させることができない。特に、出力をあげた場合、触媒表面での酸素消費量は上昇するが、外部から触媒表面に至る酸素の拡散速度は殆ど変化することがない。その為、ある一定以上の触媒表面での酸素の消費速度が、触媒表面への酸素の供給速度を上回った場合、触媒近傍付近の酸素欠により発電特性は低下する。これに対して、図2に示すように、本発明では、触媒表面への酸素の供給速度を高めることによって、触媒近傍付近の酸素欠による発電特性の低下を防止している。
【0052】
本発明の固体高分子型燃料電池のカソード電極は、触媒層を備えるが、触媒層と、該触媒層に隣接して配置されるガス拡散層とからなることが好ましい。ガス拡散層の構成材料としては、例えば、電子伝導性を有する多孔質体(例えば、カーボンクロスやカーボンペーパー)が使用される。
【0053】
カソード電極の触媒層には、突起状による撥水性と、導電性および酸素吸放出性を有するパイロクロア型SnTa、および/またはSnNbが存在しており、カソード電極における酸素還元反応に対する過電圧を低減させることによるカソード電極の電極反応速度の向上が図られる。一方、酸素吸放出性を有さないTaドープSnO複合金属酸化物においても、カソード電極における酸素還元反応に対する過電圧を低減させることによるカソード電極の電極反応速度の向上が図られる。
【0054】
また、触媒層に含まれている、パイロクロア型SnTa、および/またはSnNb複合金属酸化物の含有率は触媒担持導電体と高分子電解質と触媒金属粒子の合量に対して、0.01~30質量%であることが好ましく、0.01~20質量%であることがより好ましい。ここで、パイロクロア型SnTa、および/またはSnNbの含有率が0.01質量%未満であると、撥水性、電子電導性および酸素吸放出性の低下し、アイオノマーと触媒金属粒子の乖離、生成水へ酸素の溶存、触媒金属の酸化と溶出、アイオノマーのスルホン酸基の分解および触媒担持導電体の腐食が起こり十分な酸素還元反応が行えず、持続的な発電することが困難となる傾向が大きくなる。一方、パイロクロア型SnTa、および/またはSnNb複合金属酸化物の含有率が30質量%を超えると触媒層中に含有されるアイオノマーの含有率が相対的に低下し、その結果、触媒層中で有効に機能する反応サイトが減少するため高い電極特性を得ることが困難となる。
【0055】
一方、触媒層に含まれている、TaドープSnO複合金属酸化物の含有率は触媒担持導電体と高分子電解質と触媒金属粒子の合量に対して、0.01~30質量%であることが好ましく、0.01~20質量%であることがより好ましい。TaドープSnOの含有率が0.01質量%未満であると、撥水性、電子電導性および酸素吸放出性の低下し、アイオノマーと触媒金属粒子の乖離、生成水へ酸素の溶存、触媒金属の酸化と溶出、アイオノマーのスルホン酸基の分解および触媒担持導電体の腐食が起こり十分な酸素還元反応が行えず、持続的な発電することが困難となる傾向が大きくなる。また、TaドープSnO複合金属酸化物の含有率が30質量%を超えると触媒層中に含有されるアイオノマーの含有率が相対的に低下し、その結果、触媒層中で有効に機能する反応サイトが減少するため高い電極特性を得ることが困難となる。
【0056】
前記TaドープSnOは、SnO中にTaの含有率が0.1~10質量%が好ましく、さらに0.5~5.0質量%であることがより好ましい。Taの含有率が0.1質量%未満であると、触媒金属へ電子の三相界面の会合が減少して発電力が低下する。
【0057】
本発明のカソード電極の触媒担持導電体に含まれる触媒は特に限定されるものではないが、白金、白金合金またはコアシェル型(例えば、図4に示すコア層5を囲むシェル層6が白金、コア層5がPd、Pt、Ruおよび/またはCoから選ばれる合金)が好ましい。更に、触媒担持導電体は、特に限定されないが、比表面積が200m/g以上のカーボン材料が好ましい。例えば、カーボンブラック、グラファイトまたはグラフェンなどが好ましく使用される。
【0058】
また、本発明の触媒層に含有されるアイオノマーとしては、含フッ素イオン交換樹脂が好ましく,特に、スルホン酸型パーフルオロカーボン重合体であることが好ましい。スルホン酸型パーフルオロカーボン重合体は、カソード電極内において長期間化学的に安定でかつ速やかな水素イオン伝導を可能にする。
【0059】
また、本発明のカソード電極の触媒層の層厚は、通常のアノード電極とカソード電極の間に挟まれる高分子固体電解質と同等であればよく、1~50μmであることが好ましく、5~20μmであることがより好ましい。
【0060】
固体高分子型燃料電池においては、通常、アノード電極の水素酸化反応の過電圧に比較してカソード電極の酸素還元反応の過電圧が非常に大きいので、生成する過酸化水素によるアイオノマーのスルホン酸基の分解、触媒金属の酸化と溶出および触媒担体導電体の腐食が起こり易く、上記のように、突起形状による撥水性、電子電導性および酸素吸放出性を有する複合金属酸化物で触媒担体導電体を被覆することで防ぐことができる。また、カの撥水性の効果で生成水への酸素の溶存を防ぎ、酸素吸放出性の効果で触媒層内の反応サイトの酸素濃度を増加させて、過電圧を抑えことが、持続的なカソード電極の電極特性を向上させることは、電池の出力特性を安定化させる上で効果的である。
【0061】
一方、アノード電極の構成は特に限定されず、例えば、公知のガス拡散電極の構成を有していてもよい。
【0062】
また、本発明の固体高分子型燃料電池に使用するアノード電極とカソード電極に挟まれる高分子電解質膜は、湿潤状態下で良好なイオン伝導性を示すイオン交換膜であれば特に限定されない。高分子電解質膜を構成する固体高分子材料としては、例えば、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体、ポリサルホン樹脂、ホスホン酸基またはカルボン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体等を用いることができる。中でも、スルホン酸型パーフルオロカーボン重合体が好ましい。そして、この高分子電解質膜は、触媒層に含まれるアイオノマーと同じ樹脂からなっていてもよく、異なる樹脂からなっていてもよい。
【0063】
本発明のカソード電極の触媒層は、予め、触媒担体導電体の表面を、突起状を有する複合金属酸化物で覆い、その表面に触媒金属粒子を担持させたものとアイオノマーとを、溶媒または分散媒に溶解または分散した塗工液を用いて作製することができる。ここで用いる溶媒または分散媒としては、例えばアルコール、含フッ素アルコール、含フッ素エーテル等が使用できる。そして、塗工液をイオン交換膜またはガス拡散層となるカーボンクロス等に塗工することにより触媒層が形成される。また、別途用意した基材に上記塗工液を塗工して塗工層を形成し、これを高分子固体電解質膜上に転写することによっても高分子固体電解質膜上に触媒層が形成できる。
【0064】
ここで、触媒層をガス拡散層上に形成した場合には、触媒層と高分子固体電解質膜とを接着法やホットプレス法等により接合することが好ましい。また、高分子固体電解質膜上に触媒層を形成した場合には、触媒層のみでカソード電極を構成してもよいが、更に触媒層に隣接してガス拡散層を配置し、カソード電極としてもよい。
【0065】
カソード電極の外側には、通常ガスの流路が形成されたセパレータが配置され、当該流路にアノード電極には水素を含むガス、カソード電極には酸素を含むガスが供給されて固体高分子型燃料電池が構成される。
【0066】
(粒径分布の測定)
触媒金属の粒径分布は、透過型電子顕微鏡(Titan Cubed G2 60-300、FEI社製)を用いて、測定100点数の測定をおこない、算術平均にて平均粒径とした。
【0067】
(複合金属酸化物形状の測定)
本発明の突起状を有する複合金属酸化物の形状(高さ、間隔)は、前記触媒金属の粒径分布と同様にして、透過型電子顕微鏡(Titan Cubed G2 60-300、FEI社製)を用いて、測定100点数の測定をおこない、算術平均にて高さおよび間隔とした。
【0068】
(導電性の測定)
本発明の突起状を有する複合金属酸化物の電気特性は、最終的な触媒粉末を円形状ペレットに成型し、このペレットの四隅に金属極を蒸着した試料を準備し、ホール効果測定装置(Resitest 8310、東陽テクニカ製)を用いて比抵抗の測定を行った。
【0069】
(撥水度の測定)
以下の実施例1~3において突起を有する複合金属酸化物の撥水度は、最終的な触媒粉末を円形状ペレットに成型した試料を準備し、液滴法(自動極小接触角計MCA-3、協和界面科学(株)製)を用いて行った。参考例1、比較例1~3についても、最終的な触媒粉末を円形状ペレットに成型した試料を用意し、同様に測定した。
【実施例
【0070】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明のカソード電極および固体高分子型燃料電池について詳しく説明する。
【0071】
(実施例1)
下記の手順でPt(5質量%)/パイロクロア型SnTa(20%)/カーボンブラック(75質量%)の混合物を調製し、MEAを作成し、MEAをセルに組み付け、性能評価した。
【0072】
(1)塩化錫(II)、塩化タンタル(V)を純水に所定量溶解させて2時間攪拌した。
(2)カーボンブラック(ケッチェンブラックEC300J、BET比表面積800g/m2、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)を粉末状に調整し、純水に所定量加え攪拌して懸濁液を作製した。
(3)前記懸濁液に攪拌しながら(1)の溶解液をゆっくりと加えて、希塩酸を用いてpH1.5に調整し、その状態を3時間保持した。その後、ろ過、水洗を3回繰り返し、カーボンブラック粒子にSnTaが被覆されたカーボンブラック粉末を得た。
(4)次に、(3)で得られたSnTaが被覆されたカーボンブラック粉末を、純水に攪拌しながら分散させ、所定量の塩化白金酸(IV)溶液(白金として1質量%)を加えた。そこに、ゆっくりとエタノールを少量加え、40℃に加温して3時間保持した。白金がSnTaの複合金属酸化物の表面に還元された。
(5)その後、ろ過、水洗を3回繰り返し、80℃で12時間乾燥し、乳鉢で粉砕した後、大気焼成炉で500℃、2時間焼成した。再び乳鉢で粉砕した。
(6)こうして得られたPt/パイロクロア型SnTa/カーボンブラックの粉末を、透過型電子顕微鏡にて観察したところ、白金の触媒金属粒子の平均粒径が3nm、パイロクロア型SnTaの形状が、平均高さ10nm、平均間隔(ピッチ)が10nmであった。次に、得られた粉末を、プレス機を用いて直径20mm×厚さ5mmのペレットを作製し、液滴法にて水との接触角で撥水度を測定した。この接触角は、150度であった。また、前記ペレットを用いて比抵抗を測定したところ、0.1Ω・cmであった。
(7)次に、前記Pt/パイロクロア型SnTa/カーボンブラックを、イオン交換水、アイオノマー電解質溶液(Nafion D520)、エタノール、ポリエチレングリコールに所定量混合して(Nafion/Carbon=1.0質量%、Pt(5質量%)/パイロクロア型SnTa(20%)/カーボンブラック(75質量%)の触媒インクを作成した。
(8)上記触媒インクをテフロン(登録商標)樹脂膜にキャスト(膜厚6mil)して、乾燥し、25(cm)に切り出し、
電極膜とした。
(9)前記電極膜を、全溶解してICP分析したところ、Ptとして0.3mg/cm、SnTaとして1.2mg/cmであった。
(10)得られた前記カソード電極膜と、アノード電極を比較例1に記載の市販の触媒からなる電極膜とを用いて、高分子固体電解質膜(NafionNR211、t=25μm)に熱圧着(150℃)してMEAを作成した。
(11)MEAをセルに組み付け、性能評価した。
【0073】
(実施例2)
実施例2は、触媒金属を、Pt単一金属からコアシェル型触媒金属(シェル層Pt/コア層Pd・Ru・Co合金)に代えた以外は、実施例1と同様にして、コアシェル型触媒金属(5質量%)/パイロクロア型SnTa(20%)/カーボンブラック(75質量%)を用いたMEAを作製し、単セルで性能評価した。
【0074】
前記コアシェル触媒金属は、下記の手順で作製した。
(1)実施例1の(3)で、得られたSnTaが被覆されたカーボンブラック粉末を、純水に攪拌しながら分散させ、塩化パラジウム溶液(Pdとして1質量%)と塩化ルテニウム溶液(Ruとして1質量%)塩化コバルト溶液(Coとして1質量%)とを各所定量を加えた。
(2)そこに、ゆっくりとエタノールを少量加え、40℃に加温して3時間保持した。PdとRuとCoとがSnTaの複合金属酸化物の表面に還元した。その後、ろ過、水洗を3回繰り返し、80℃で12時間乾燥し、乳鉢で粉砕した後、大気焼成炉で500℃、2時間焼成した。再び乳鉢で粉砕した。
(3)次に、(2)で得られたコア部の触媒が担持されたSnTa被覆カーボンブラック粉末を、純水に攪拌しながら分散させ、塩化白金酸(IV)溶液を所定量加えた。そこに、ゆっくりとエタノールを少量加え、40℃に加温して3時間保持した。
(4)その後、ろ過、水洗を3回繰り返し、80℃で12時間乾燥し、乳鉢で粉砕した後、大気焼成炉で500℃、2時間焼成した。再び乳鉢で粉砕した。
(5)得られたコアシェル型触媒(Pt/Pd・Ru・Co合金)/パイロクロア型SnTa/カーボンブラックの粉末を、透過型電子顕微鏡にて観察したところ、コアシェル型触媒(Pt/Pd・Ru・Co合金)粒子の平均粒径が3nm、パイロクロア型SnTaの形状が、平均高さ10nm、平均間隔(ピッチ)が10nmであった。次に、得られた粉末を、プレス機を用いて直径20mm×厚さ5mmのペレットを作製し、液滴法にて水との接触角で撥水度を測定した。この接触角は、150度であった。また、前記ペレットを用いて比抵抗を測定したところ、0.1Ω・cmであった。
(6)次に、前記コアシェル型触媒(Pt/Pd・Ru・Co合金)/パイロクロア型SnTa/カーボンブラックを、イオン交換水、アイオノマー電解質溶液(Nafion D520)、エタノール、ポリエチレングリコールに所定量混合して(Nafion/Carbon=1.0質量%、コアシェル型触媒(Pt/Pd・Ru・Co合金)(5質量%)/パイロクロア型SnTa(20%)/カーボンブラック(75質量%)の触媒インクを作成した。
(7)上記触媒インクをテフロン(登録商標)樹脂膜にキャスト(膜厚6mil)して、乾燥し、25(cm)に切り出し、電極膜とした。
(8)前記電極膜を、全溶解してICP分析したところ、Ptとして0.05mg/cm、Pdとして0.03mg/cm、Ruとして0.10mg/cm、Coとして0.11mg/cm、SnTaとして1.2mg/cmであった。
(9)得られた前記カソード電極膜と、アノード電極を比較例1に記載の市販の触媒からなる電極膜とを用いて、高分子固体電解質膜(NafionNR211、t=25μm)に熱圧着(150℃)してMEAを作成した。
(10)MEAをセルに組み付け、性能評価した。
【0075】
(実施例3)
実施例3は、パイロクロア型SnTaを、TaドープSnOに代えた以外は、実施例2と同様にして、コアシェル型触媒金属(5質量%)/TaドープSnO(20%)/カーボンブラック(75質量%)を用いたMEAを作製し、単セルで性能評価した。
【0076】
前記TaドープSnOの複合金属酸化物は、下記の手順で作製した。
(1)塩化錫(II)を純水に所定量溶解させて2時間攪拌した。
(2)カーボンブラック(ケッチェンブラックEC300J、BET比表面積800g/m、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)を粉末状に調整し、純水に所定量加え攪拌して懸濁液を作製した。
(3)前記懸濁液に攪拌しながら(1)の溶解液をゆっくりと加えて、希塩酸を用いてpH1.5に調整し、その状態を3時間保持した。
(4)塩化タンタル(V)を純水に所定量溶解させて2時間攪拌した。
(5)次に、(3)の懸濁液を攪拌しながら、前記塩化タンタル(V)溶液をゆっくりと所定量加え、30℃に加温して、3時間保持した。
(6)その後、ろ過、水洗を3回繰り返し、TaドープSnOが被覆されたカーボンブラック粉末を得た。
(7)前記TaドープSnOが被覆されたカーボンブラック粉末を少量採取し、80℃で12時間乾燥し、乳鉢で粉砕した後、大気焼成炉で500℃、2時間焼成した。
(8)得られたTaドープSnOが被覆されたカーボンブラック粉末を、全溶解してICP分析したところ、TaがSnOに2.1質量%含まれていた。
(9)得られたコアシェル型触媒(Pt/Pd・Ru・Co合金)/TaドープSnO/カーボンブラックの粉末を、透過型電子顕微鏡にて観察したところ、コアシェル型触媒(Pt/Pd・Ru・Co合金)粒子の平均粒径が3nm、TaドープSnOの形状が、平均高さ10nm、平均間隔(ピッチ)が10nmであった。次に、得られた粉末を、プレス機を用いて直径20mm×厚さ5mmのペレットを作製し、液滴法にて水との接触角で撥水度を測定した。この接触角は、145度であった。また、前記ペレットを用いて比抵抗を測定したところ、0.2Ω・cmであった。
(10)次に、前記コアシェル型触媒(Pt/Pd・Ru・Co合金)/TaドープSnO/カーボンブラックを、イオン交換水、アイオノマー電解質溶液(Nafion D520)、エタノール、ポリエチレングリコールに所定量混合して(Nafion/Carbon=1.0質量%、コアシェル型触媒(Pt/Pd・Ru・Co合金)(5質量%)/パイロクロア型SnTa(20%)/カーボンブラック(75質量%)の触媒インクを作成した。
(11)上記触媒インクをテフロン(登録商標)樹脂膜にキャスト(膜厚6mil)して、乾燥し、25(cm)に切り出し、電極膜とした。
(12)前記電極膜を、全溶解してICP分析したところ、Ptとして0.05mg/cm、Pdとして0.03mg/cm、Ruとして0.10mg/cm、Coとして0.11mg/cm、TaドープSnOとして1.2mg/cmであった。
(13)得られた前記カソード電極膜と、アノード電極を比較例1に記載の市販の触媒からなる電極膜とを用いて、高分子固体電解質膜(NafionNR211、t=25μm)に熱圧着(150℃)してMEAを作成した。
(14)MEAをセルに組み付け、性能評価した。
【0077】
(参考例1)
参考例1は、パイロクロア型SnTaを除いた以外は実施例2と同様にして、コアシェル型触媒金属(5質量%)/カーボンブラック(75質量%)を用いたMEAを作製し、単セルで性能評価した。
【0078】
(1)得られたコアシェル型触媒(Pt/Pd・Ru・Co合金)/カーボンブラックの粉末を、透過型電子顕微鏡にて観察したところ、コアシェル型触媒(Pt/Pd・Ru・Co合金)粒子の平均粒径が3nmであった。次に、得られた粉末を、プレス機を用いて直径20mm×厚さ5mmのペレットを作製し、液滴法にて水との接触角で撥水度を測定した。この接触角は、90度であった。また、前記ペレットを用いて比抵抗を測定したところ、0.5Ω・cmであった。
(2)次に、前記コアシェル型触媒(Pt/Pd・Ru・Co合金)/カーボンブラックを、イオン交換水、アイオノマー電解質溶液(Nafion D520)、エタノール、ポリエチレングリコールに所定量混合して(Nafion/Carbon=1.0質量%、コアシェル型触媒(Pt/Pd・Ru・Co合金)(5質量%)/カーボンブラック(95質量%)の触媒インクを作成した。
(3)上記触媒インクをテフロン(登録商標)樹脂膜にキャスト(膜厚6mil)して、乾燥し、25(cm)に切り出し、
電極膜とした。
(4)前記電極膜を、全溶解してICP分析したところ、Ptとして0.05mg/cm、Pdとして0.03mg/cm、Ruとして0.10mg/cm、Coとして0.11mg/cmであった。
(5)得られた前記カソード電極膜と、アノード電極を比較例1に記載の市販の触媒からなる電極膜とを用いて、高分子固体電解質膜(NafionNR211、t=25μm)に熱圧着(150℃)してMEAを作成した。
(6)MEAをセルに組み付け、性能評価した。
【0079】
(比較例1)
比較例1は、触媒を市販のカーボンブラックに白金が担持されたTEC10E50E(Ptとして50質量%、田中貴金属工業製)を用いて、MEAを作成し、MEAをセルに組み付け、性能評価した。
【0080】
(1)市販のTEC10E50Eの触媒粉末を、透過型電子顕微鏡にて観察したところ、白金の触媒金属粒子の平均粒径が4nmであった。次に、得られた粉末を、プレス機を用いて直径20mm×厚さ5mmのペレットを作製し、液滴法にて水との接触角で撥水度を測定した。この接触角は、90度であった。また、前記ペレットを用いて比抵抗を測定したところ、0.01Ω・cmであった。
(2)次に、前記市販のTEC10E50Eの触媒粉末を、イオン交換水、アイオノマー電解質溶液(Nafion D520)、エタノール、ポリエチレングリコールに所定量混合して(Nafion/Carbon=1.0質量%、Pt(5質量%)/カーボンブラック(95質量%)の触媒インクを作成した。
(3)上記触媒インクをテフロン(登録商標)樹脂膜にキャスト(膜厚6mil)して、乾燥し、25(cm)に切り出し、
電極膜とした。
(4)前記電極膜を、全溶解してICP分析したところ、Ptとして0.3mg/cmであった。
(5)得られた前記電極膜を、カソード電極およびアノード電極ともに用いて、高分子固体電解質膜(NafionNR211、t=25μm)に熱圧着(150℃)してMEAを作成した。
(6)MEAをセルに組み付け、性能評価した。
【0081】
(比較例2)
比較例2は、パイロクロア型SnTaに代えて、パイロクロア型CeZrを複合金属酸化物として使用し、パイロクロア型CeZrに触媒金属粒子は担持させず、複合金属酸化物と触媒金属粒子とをそれぞれ個別にカーボンブラックに担持した以外は、実施例1と同様にしてMEAを作成し、MEAをセルに組み付け、性能評価した。
【0082】
(1)硝酸二アンモニウムセリウムと、オキシ硝酸ジルコニウムとを純水に所定量溶解させて2時間攪拌した。
(2)120℃で、水分を蒸発させた後、真空乾燥した。その後、大気焼成炉にて350℃で、5時間焼成した。
(3)還元ガス(H、2%)雰囲気中900℃で2時間保持、その後不活性ガス(N)に切替えて徐冷した。
(4)得られた粉末を乳鉢で粉砕した後、その粉末をジニトロジアミン白金水溶液に浸漬・攪拌して120℃蒸発・乾固した。粉末に対し白金が5質量%であった。
(5)さらに、乳鉢で粉砕した後、大気焼成炉で500℃、2時間焼成した。再び乳鉢で粉砕した。
(6)得られたPt/パイロクロア型CeZr/カーボンブラックの粉末を、透過型電子顕微鏡にて観察したところ、白金の触媒金属粒子の平均粒径が3nmであった。次に、得られた粉末を、プレス機を用いて直径20mm×厚さ5mmのペレットを作製し、液滴法にて水との接触角で撥水度を測定した。この接触角は、75度であった。また、前記ペレットを用いて比抵抗を測定したところ、1.5Ω・cmであった。
(7)こうして得られたPt/パイロクロア型CeZr/カーボンブラックを、イオン交換水、アイオノマー電解質溶液(Nafion D520)、エタノール、ポリエチレングリコールに所定量混合して(Nafion/Carbon=1.0質量%、Pt(5質量%)/パイロクロア型CeZrO(20質量%)/カーボンブラック(95質量%)の触媒インクを作成した。
(8)上記触媒インクをテフロン(登録商標)樹脂膜にキャスト(膜厚6mil)して、乾燥し、25(cm)に切り出し、
電極膜とした。
(9)前記電極膜を、全溶解してICP分析したところ、Ptとして0.3mg/cm、パイロクロア型CeZrOが1.2mg/cmであった。
(10)得られた前記カソード電極膜と、アノード電極を比較例1に記載の市販の触媒からなる電極膜とを用いて、高分子固体電解質膜(NafionNR211、t=25μm)に熱圧着(150℃)してMEAを作成した。
(11)MEAをセルに組み付け、性能評価した。
【0083】
(比較例3)
比較例3は、フッ素シラン処理(0.1質量%)/Pt(5質量%)/カーボンブラック(94.9質量%)とした以外は、比較例1と同様にしてMEAを作成し、MEAをセルに組み付け、性能評価した。
【0084】
(1)まず、攪拌しながら、エタノールにトリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン(Dynasylan F8261、EVONIK社製)を所定量加え、そのまま0.5時間保持した。次に、比較例1で得られたPt/カーボンブラックの粉末を所定量加え、そのまま2時間保持した。その後、ろ過、水洗を3回繰り返し、80℃で5時間乾燥した。
(2)得られたフッ素シラン処理/Pt/カーボンブラックの粉末を、透過型電子顕微鏡にて観察したところ、白金の触媒金属粒子の平均粒径が4nmであった。次に、得られた粉末を、プレス機を用いて直径20mm×厚さ5mmのペレットを作製し、液滴法にて水との接触角で撥水度を測定した。この接触角は、150度であった。また、前記ペレットを用いて比抵抗を測定したところ、0.8Ω・cmであった。
(3)こうして得られたフッ素シラン処理/Pt/カーボンブラックを、イオン交換水、アイオノマー電解質溶液(Nafion D520)、エタノール、ポリエチレングリコールに所定量混合して(Nafion/Carbon=1.0質量%、フッ素シラン処理(0.1質量%)/Pt(5質量%)/カーボンブラック(94.9質量%)の触媒インクを作成した。
(4)上記触媒インクをテフロン(登録商標)樹脂膜にキャスト(膜厚6mil)して、乾燥し、25(cm)に切り出し、
電極膜とした。
(5)前記電極膜を、全溶解してICP分析したところ、Ptとして0.3mg/cmであった。
(6)得られた前記カソード電極膜と、アノード電極を比較例1に記載の市販の触媒からなる電極膜とを用いて、高分子固体電解質膜(NafionNR211、t=25μm)に熱圧着(150℃)してMEAを作成した。
(7)MEAをセルに組み付け、性能評価した。
【0085】
[発電性能評価試験]
電極面積25cmの単セル(JARI標準セル、(財)日本自動車研究所)にて下記の発電性能評価試験を行った。結果を表1の「発電性能」に示す。
「ガス流量」アノード:H 500NmL/min
カソード:空気 1000NmL/min
「加湿温度」アノード露点(相対湿度):77℃(RH88%)
カソード露点(相対湿度):60℃(RH42%)
「設定圧力」常圧
「セル温度」80℃
【0086】
[電気化学的有効表面積(ECA)試験]
「ガス流量」アノード:H 200NmL/min
カソード:N 200→0NmL/min(測定前にN窒素を遮断)
「加湿温度」アノード露点(相対湿度):80℃(RH100%)
カソード露点(相対湿度):80℃(RH100%)
「設定圧力」常圧
「セル温度」80℃
「測定条件」窒素遮断後に0.05V~0.9Vの間を50mV/秒で、5回走査する。
【0087】
[耐久評価(電位サイクル試験)]
電気化学的有効表面積(ECA)試験における触媒活性の半減期を確認するべく、以下の条件により耐久評価を行った。
「ガス流量」アノード:H 200NmL/min
カソード:N 800NmL/min
「セル温度」80℃
「電位サイクル」電位 1.0V ⇔ 1.5V
サイクル間隔 2秒/サイクル
電気化学的有効表面積(ECA)試験および耐久評価の結果に基づき、ECAサイクル数の半減期について、表1の「耐久性能」に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
表1の結果より、本発明の触媒担持導電体の表面に、突起状を有する導電性複合金属酸化物が担持された電極を用いた燃料電池は、導電性、撥水性および/また酸素吸放出体は、通常の酸素吸放出体またはフッ素系処理からなる電極を用いた比較例2および比較例3と比べても、発電性能および耐久性能において優れていることが分る。さらに、本発明のコアシェル型を兼ねて用いれば、白金使用量を低減できることが分る。
【符号の説明】
【0090】
1:触媒金属担持体
2:突起状を有する導電性複合金属酸化物
3:触媒金属粒子
4:アイオノマー(高分子固体電解質)
5:コア層
6:シェル層
図1
図2
図3
図4