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特許7203438体液中アンモニア定量用の膜貫通pH勾配ポリマーソーム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】体液中アンモニア定量用の膜貫通pH勾配ポリマーソーム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20230105BHJP
   G01N 33/84 20060101ALI20230105BHJP
   G01N 21/80 20060101ALI20230105BHJP
【FI】
G01N33/50 B
G01N33/84 A
G01N21/80
【請求項の数】 42
(21)【出願番号】P 2020506727
(86)(22)【出願日】2018-09-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-19
(86)【国際出願番号】 IB2018056887
(87)【国際公開番号】W WO2019053578
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-04-16
(31)【優先権主張番号】62/557,256
(32)【優先日】2017-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506110634
【氏名又は名称】イーティーエイチ・チューリッヒ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-クリストフ・ルルー
(72)【発明者】
【氏名】シモン・マトゥーリ
(72)【発明者】
【氏名】オルハ・ヴォズニュク・ヴュルティンガー
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-173293(JP,A)
【文献】特開平06-207112(JP,A)
【文献】特表2014-526314(JP,A)
【文献】特表2022-510519(JP,A)
【文献】特表2017-507113(JP,A)
【文献】特表2016-529515(JP,A)
【文献】特表2016-507158(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0119396(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0170342(US,A1)
【文献】国際公開第2015/052579(WO,A1)
【文献】片野由美 内田勝雄,看護roo! 現場で使える看護知識 細胞内外間の物質の移動(1)|細胞の基本機能 拡散 〔 diffusion 〕 単純拡散 〔 simple diffusion 〕,2016年02月14日,https://www.kango-roo.com/learning/2073/
【文献】大河内直彦,アンモニアとアンモニウム,KAGAKU,2017年12月,Vo1.87 No.12,Page.1081-1082
【文献】Elijah M. Bolotin,Ammonium Sulfate Gradients for Efficient and Stable Remote Loading of Amphipathic Weak Bases into Liposomes and Ligandoliposomes,Journal of Liposome Research,1994年,Vol.4 No.1,Page.455-479
【文献】Giovanna Giacalone,Liposome-supported peritoneal dialysis in the treatment of severe hyperammonemia: An investigation on potential interactions,Journal of Controlled Release,2018年05月28日,Vol.278,Page.57-65
【文献】Chun-Ze Lai,Autonomous Optofluidic Chemical Analyzers for Marine Applications: Insights from the Submersible Autonomous Moored Instruments (SAMI) for pH and pCO2,Front. Mar. Sci.,2018年01月19日,Vol.4,Page.Article No.438
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/50
G01N 33/84
G01N 21/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリ(スチレン)(PS)とポリ(エチレンオキシド)(PEO)とのブロックコポリマーを含む膜であって、前記PS/PEOの分子量比が1.1以上かつ3.5以下である膜、及び(b)酸と少なくとも1つのpH感受性色素とを封入するコア、を含む、ポリマーソーム。
【請求項2】
前記PS/PEOの分子量比が1.2以上かつ3.0以下である、請求項1に記載のポリマーソーム。
【請求項3】
前記ブロックコポリマーがジブロックコポリマーである、請求項1または請求項2に記載のポリマーソーム。
【請求項4】
前記酸が、前記ポリマーソームが水和した場合に1~6.5、2~6.5、2~6、2~5.5、または3~5.5のpHをもたらす濃度である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のポリマーソーム。
【請求項5】
前記酸が酸性水溶液内にある、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のポリマーソーム。
【請求項6】
前記酸性水溶液内のpHが1~6.5、2~6.5、2~5.5、または3~5.5である、請求項5に記載のポリマーソーム。
【請求項7】
前記少なくとも1つのpH感受性色素が、(i)ヒドロキシピレン、(ii)フェニルピリジルオキサゾール、(iii)アミノナフタレン、(iv)シアニン、または(v)(i)から(iv)のいずれか1つのpH感受性蛍光誘導体を含む、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のポリマーソーム。
【請求項8】
前記pH感受性色素が、8-ヒドロキシピレン-1,3,6-トリスルホネート(HPTS)、デキストランコンジュゲートLysosensor(商標)Yellow/Blue、8-アミノナフタレン-1,3,6-トリスルホネート(ANTS)、またはIRDye(商標)680RDカルボキシレートを含む、請求項7に記載のポリマーソーム。
【請求項9】
前記酸と前記少なくとも1つのpH感受性色素とが異なる分子である、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のポリマーソーム。
【請求項10】
前記酸がヒドロキシ酸である、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のポリマーソーム。
【請求項11】
前記酸がクエン酸である、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のポリマーソーム。
【請求項12】
前記酸と前記少なくとも1つのpH感受性色素とが同一の分子である、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のポリマーソーム。
【請求項13】
前記pH感受性色素がpH感受性蛍光色素である、請求項1から請求項12のいずれか1項に記載のポリマーソーム。
【請求項14】
前記pH感受性色素がpH感受性吸光色素である、請求項1から請求項12のいずれか
1項に記載のポリマーソーム。
【請求項15】
請求項1から請求項14のいずれか1項で定義されるポリマーソームを作製する方法であって、
(a)コポリマー含有有機相を形成するために、PSとPEOとの前記ブロックコポリマーを、有機溶媒に溶解することと、
(b)前記ポリマーソームを形成するために、前記コポリマー含有有機溶媒相と、前記酸及び少なくとも1つのpH感受性色素を含む水相とを混合することと、
(c)封入されていない前記少なくとも1つのpH感受性色素及び有機溶媒を除去することと、を含む、方法。
【請求項16】
前記有機溶媒が、水不混和性または部分的に水混和性の有機溶媒である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記水相が0.2mM~100mMの酸を含む、請求項15または請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ポリマーソームの前記コアがアンモニアをさらに封入している、請求項1から請求項14のいずれか1項に記載のポリマーソーム。
【請求項19】
請求項1から請求項14のいずれか1項で定義されるポリマーソームと、少なくとも1つの賦形剤とを含む、組成物。
【請求項20】
前記少なくとも1つの賦形剤が、防腐剤、凍結保護剤、凍結乾燥保護剤、酸化防止剤、またはこれらのうちの少なくとも2つの組み合わせを含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記組成物が液体形態または固体形態である、請求項19または請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
請求項19または請求項20で定義される組成物を固体形態で含む、ストリップ。
【請求項23】
液体試料中のアンモニアの定量に使用するための、請求項1から請求項14のいずれか1項目に記載のポリマーソーム、または請求項19から請求項21のいずれか1項に記載の組成物、または請求項22に記載のストリップ。
【請求項24】
前記試料が対象由来の体液を含む、請求項23に記載の使用のためのポリマーソーム、組成物、またはストリップ。
【請求項25】
前記試料がバッファをさらに含む、請求項24に記載の使用のためのポリマーソーム、組成物、またはストリップ。
【請求項26】
前記対象が(i)アンモニアに関連する疾患もしくは障害もしくはフェニルケトン尿症に罹患しているか、(ii)アンモニアに関連する疾患もしくは障害もしくはフェニルケトン尿症に罹患している疑いがある、もしくは罹患する可能性があるか、または(iii)抗高アンモニア血症の治療もしくは抗フェニルケトン尿症の治療を受けている、請求項24または請求項25に記載の使用のためのポリマーソーム、組成物、またはストリップ。
【請求項27】
試料のアンモニア濃度を算出するための、請求項1から請求項14のいずれか1項に定義されるポリマーソーム、請求項19から請求項21のいずれか1項に記載の組成物、または請求項22に記載のストリップを使用する方法であって、
(a)前記ポリマーソーム、組成物、またはストリップと、前記試料とを接触させること
と、
(b)前記ポリマーソーム含有試料もしくは前記組成物含有試料、または前記試料含有ストリップにおける少なくとも1つのpH依存性分光特性を測定することと、
(c)前記少なくとも1つpH依存性分光特性を使用し標準曲線に照合することによって、前記試料のアンモニア濃度を算出することと、を含む方法。
【請求項28】
前記pH依存性分光特性がpH依存性吸光度であり、前記pH感受性色素がpH依存性吸光色素であり、前記標準曲線が吸光度標準曲線である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記pH依存性分光特性がpH依存性蛍光強度であり、前記pH感受性色素がpH感受性蛍光色素であり、前記標準曲線が蛍光標準曲線である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
請求項27に記載の方法であって、(b)が、少なくとも1つの分光特性比を算出するために、前記ポリマーソーム含有試料もしくは前記組成物含有試料または前記試料含有ストリップにおいて、少なくとも1つのpH非依存性分光特性または少なくとも1つのさらなるpH依存性分光特性を測定することをさらに含み、(c)が、前記少なくとも1つのpH依存性分光特性比を使用し分光特性比の標準曲線に照合することによって、前記ポリマーソーム含有試料もしくは前記組成物含有試料または前記試料含有ストリップのアンモニア濃度を算出する、方法。
【請求項31】
前記少なくとも1つのpH依存性分光特性及び前記少なくとも1つのpH非依存性分光特性が、同一のpH感受性色素から得られる、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記分光特性が吸光度であり、前記pH感受性色素がpH感受性吸光色素である、請求項30または請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記分光特性が蛍光であり、前記pH感受性色素がpH感受性蛍光色素である、請求項30または請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記ポリマーソームコア内のpHが2~6.5である、請求項27から請求項33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記少なくとも1つのpH感受性色素が、ヒドロキシピレン、またはその誘導体のうちの1つを含む、請求項27から請求項34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記少なくとも1つのpH感受性色素が8-ヒドロキシピレン-1,3,6-トリスルホネート(HPTS)を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記少なくとも1つのpH感受性色素が、ピリジルフェニルオキサゾール、もしくはその誘導体のうちの1つ、アミノナフタレン、もしくはその誘導体のうちの1つ、またはシアニン、もしくはその誘導体のうちの1つを含む、請求項27から請求項34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記少なくとも1つのpH感受性色素が、デキストランコンジュゲートLysosensor(商標)Yellow/Blue、ANTS、またはIRDye(商標)680RDカルボキシレートを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記試料が対象由来の体液試料を含む、請求項27から請求項38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記体液が血液試料もしくは血液画分試料、唾液試料、または精液試料である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記体液がフェニルアラニンアンモニアリアーゼで前処理された、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
試料のアンモニア濃度を算出するキットであって、(a)請求項1から請求項14のいずれか1項で定義されるポリマーソーム、請求項19から請求項21のいずれか1項で定義される組成物、または請求項22に記載のストリップ、ならびに(b)(i)前記ポリマーソームを水和するための溶液、(ii)前記ポリマーソームの外相及び/もしくはアッセイする前記試料のpHを調整するためのバッファ、(iii)アッセイする前記試料を希釈するための希釈剤、(iv)蛍光標準曲線及び/もしくは吸光度標準曲線、(v)既知のアンモニア濃度の1つもしくは複数の溶液、または(vi)(i)から(v)のうちの少なくとも2つの組み合わせ、を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体液(例えば、血清、血漿、唾液)中のアンモニアを定量するための膜貫通pH勾配ポリマーソームの組成物及び使用に関する。より詳細には、本発明は、例えば、肝性脳症などの疾患または症状を診断及びモニタリングするために、アンモニアを定量することに関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニア(NH)は、様々な疾患及び症状(例えば、肝機能障害(例として、肝硬変、急性肝不全、門脈体循環シャント、先天性アンモニア代謝異常に起因するもの)(Matoori and Leroux ADDR 2015; 90:55-68))を患っている患者または特定の治療を受けている患者に蓄積する神経毒性の内因性代謝産物である。また、アンモニアは、土や廃水といった環境においても蓄積することがある。
【0003】
体液中のアンモニア
血中の高いアンモニアレベル(高アンモニア血症)は、肝性脳症(HE)、すなわち死に至ることがある急性徴候や慢性徴候を伴う重篤な神経精神症状に関わっている(Vilstrup et al. Hepatology 2014; 60:715-735)。硬変患者がHEに罹患する割合は高い(最大20%)(Vilstrup et al. supra; Blachier et al. Journal of Hepatology 2013; 58:593-608)。この慢性疾患は通常、低度の症状(認知障害)から重篤な症状(高アンモニア血症性昏睡、一部の患者では致命的結果を伴う)に進行する(上掲のVilstrup et al.)。血漿アンモニアのカットオフ値は、成人の場合50μMであり、乳児の場合100μMである(上掲のMatoori and Leroux)。急性高アンモニア血症性が発症した場合には、血清アンモニアレベルが1.5mMを超えると報告されている(Bergmann et al. Pediatrics 2014; 133:e1072-e1076)。
【0004】
血中または血漿中のアンモニアを定量することは、HEの初期診断及びHE患者のフォローアップにおいて不可欠な要素である。HE患者の治療的介入(例えば、ラクツロース療法)への反応は、血漿アンモニアレベルの変化に基づいて概ね判定されている(上掲のVilstrup et al.)。さらに、高アンモニア血症に関わる特定の薬物治療(例えば、バルプロ酸療法)においても血漿アンモニアレベルが測定されている(上掲のVilstrup et al.)。
【0005】
また、精液中のアンモニアレベルも精液の質及び低生殖能力と関連することがわかっている(Kim et al. 1998)。
【0006】
唾液のアンモニアレベルは、口腔内でウレアーゼが媒介して尿素がアンモニアに分解することによって主に決まることから、血漿尿素を示す代替パラメータになり得るものである。例えば、慢性腎疾患を患う患者で口内アンモニアが定量されている。血漿尿素レベルは血液透析が上手く行われているかどうかを示す指標になって、介護者が透析終了時を判定することができるからである(Hibbard et al. Anal Chem 2013; 85: 12158-12165)。だが唾液のアンモニア濃度は比較的高いため、(約1mM~8mM、Chen et al. J Breath Res. 2014; 8:036003、図5)事前に希釈しなければ従来のアンモニア定量方法では評価することができない。現状では、多数の体液試料のアンモニアを測定することは困難になっている。試料中でアンモニアが発生する分解プロセスを抑制するために試料を低温で保管することが必要になる上、アンモニアの定量に使用できる方法がかなり限られているのである(Barsotti The Journal of Pediatrics 2001; 138: S11 -S20)。ベルトロー(Berthelot)反応は、フェノールと、アンモニアと、次亜塩素酸塩とのインドフェノール生成反応に基づくものであるが、その低選択性に起因して第1級アミン(例えば、アミノ酸、タンパク質など)に大きく影響される(図1)。このため、体液での使用が制限されている。酵素を用いたアンモニアアッセイ(例えば、RandoxアンモニアアッセイAM1015、Randox Laboratories社、スイス国シュヴィーツ)では、グルタミン酸デヒドロゲナーゼが、NAD(P)HからNA(D)Pへの化学量論的酸化下でアンモニアとアルファ-ケトグルタレートとをL-グルタメートと水とに変換する。NAD(P)HとNAD(P)の吸光度スペクトルは異なっているため、反応のターンオーバーを分光光度法により追跡することができ、アンモニア濃度を測定することができる。多くの市販されているグルタメートデヒドロゲナーゼを用いたアッセイでは、定量の上限が約1.2mMである。しかし残念なことに、酵素を用いたアンモニアの定量方法は、様々な要因(例えば、脂質、亜鉛または鉄などの重金属、NAD(P)HまたはNAD(P)と反応する酵素、タンニン)の影響を受け、酵素反応の時間依存性が大きいため、信頼できる結果を得るには厳密なタイミング調整が必要になる(Seiden-Long et al., Clinical Biochemistry 2014; 47: 1116-1120)。これにより、ハイスループットの実験が困難になる。PocketChem(商標)BA血液アンモニア分析装置(Blood Ammonia Analyzer)は、毛細管血中のアンモニアをポイントオブケア検査するためのストリップ法システムである。試料がストリップに浸透すると、アルカリ化されてアンモニウムをアンモニアに変換する。続いてアンモニアは疎水性膜を通過し、指示薬ストリップにpH変化をもたらす。そして、これを分光光度法により定量する。PocketChem(商標)BA血液アンモニアメーター(Blood Ammonia Meter)PA-4140は、負の固定バイアス及び比例バイアスを持ち、スループットが低く(1回の測定につき3分)、ならびに定量の上限値が低い(0.285mM)ことから、前臨床的及び臨床的に普及してはいない(Goggs et al. Veterinary Clinical Pathology 2008; 37: 198-206)。
【0007】
他の試料
アンモニアは土や水に混在していることが多い(例えば、肥料または産業廃棄物にアンモニアが含まれることによる)(Mook et al. Desalination 2012; 285: 1 -13)。アンモニアは、アンモニウムイオン選択性電極を用いて定量するのが一般的である(上掲のMook et al.)。しかし、同一の電荷と同様のイオン半径とを持つカチオン(例えばカリウム)が、イオン選択性電極を用いた測定の妨げになる可能性がある。
【0008】
よって、体液を含めた試料中のアンモニアを定量する代替手段が必要とされている。
本明細書は複数の文書を参照し、それらの文書の内容は参照によりその全体が本明細書に援用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、両親媒性ブロックコポリマーを含むポリマーソームと、試料(例えば、体液試料)中のアンモニアを定量するための該ポリマーソームの使用とを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、体液中のアンモニアを定量する(例えば、アンモニアの濃度を測定する)ための膜貫通pH勾配ポリマーソームの組成物及び使用について説明するものである。例えば、本発明は、両親媒性ブロックコポリマー(例えば、ポリ(スチレン)-b-ポリ(エチレンオキシド)(別称PS-b-PEOであり、ポリ(スチレン)-b-ポリ(エチレングリコール)、PS-b-PEGとしても知られる))で構成されたポリマーソームを使用する。
【0011】
アンモニアの捕捉により生じるポリマーソームコアのpH増加を、pH感受性色素(例えば、ピラニン(8-ヒドロキシピレン-1,3,6-トリスルホネートの三ナトリウム塩、すなわちHPTS三ナトリウム塩)、Lysosensor(商標)Yellow/Blueデキストランコンジュゲート、8-アミノナフタレン-1,3,6-トリスルホネートの二ナトリウム塩(ANTS)、IRDye(商標)680RDカルボキシレートなど)を用いて定量する。
【0012】
両親媒性ブロックコポリマーのポリ(スチレン)-b-ポリ(エチレングリコール)(PS-b-PEO)と酸性成分とから構成されるポリマーソーム(例えば、2017年8月15日に出願された同時継続中のPCT出願番号PCT/IB2017/054966号を参照)を、体液中のアンモニア濃度を測定するのに使用した。ポリマーソームを調製するために、有機溶媒を用いた。かかるポリマーを適切な溶媒(例えば、ジクロロメタン)に溶かし、pH感受性色素を含んだ酸性溶液(例えば、クエン酸)または塩化ナトリウム溶液中に乳化させた。溶媒を除去した後、ポリマーソームを精製して、封入されなかった色素を除去し、また弱酸がある場合には弱酸を除去した。ポリマーソームを中性溶液または高pH溶液に曝露すると、アンモニアに対する取り込み特性を示した。本明細書では、バッファ中のアンモニアならびに天然の及びスパイクした血清、血漿、唾液、尿、汗、及び精液に含まれるアンモニアを定量できることを示すことによって、ポリマーソームの有効性を明らかにした(図3図5図7図9)。
【0013】
本発明のポリマーソームは、アンモニアの定量(あるいは間接的に、インビトロでアンモニア相当量(1以上のファクター)に換算することができる別のバイオマーカー(例えば、フェニルアラニンなどアミノ酸)の定量)に使用することができる。より具体的な実施形態では、本発明のポリマーソームを使用して、アンモニアに関連する疾患または障害(例えば、高アンモニア血症)の診断用として、またアンモニアに関連する疾患または障害を持つ患者のフォローアップ用として、さらに研究用途及び前臨床的用途用として、体液をアッセイすることができる。本発明の診断薬を、アンモニアの定量を必要とするインビトロ試験、前臨床的試験(例えば、動物試験)及び臨床試験に、ならびにルーチンの臨床行為におけるアンモニアの測定に使用することができる。アンモニアの測定は、アンモニアに関連する疾患もしくは障害の診断及びステージ分類に、ならびに高アンモニア血症性患者の抗高アンモニア血症治療に対する応答性評価に、または高アンモニア血症のリスクのある患者の予防措置に対する応答性評価に使用することができる。本発明はさらに、インビトロアッセイにおけるアンモニアの定量に、より具体的にはアンモニアの産生を阻害する化合物の同定に使用することができる。
【0014】
本発明の膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームは、有利なことに、アンモニアに対して高い選択性を示すことができる(図6)。これは、以下の仮説に限定されるものではないが、高い疎水性のポリスチレン膜が持つ不透過性の性質に起因すると考えられる。検出範囲は広く、少なくとも約0.005mM~約8mMである(図2図13)。定量の上限が高く、高濃度のアンモニア試料を希釈する必要性を最低限減らす(場合によっては希釈を不要にする)ため、有利であると考えられる。
【0015】
さらに、アンモニアのポリマーソームへの取り込みの動力学は高速であり、生理的pHで2.5分間インキュベーションをした後には時間依存性がない(時間依存性が少ない)(図2)。これらの特徴により、同時に多数の試料を分析することが可能になる。
より具体的には、本発明の態様により、以下の項目が提供される。
(項目1)
(a)ポリ(スチレン)(PS)とポリ(エチレンオキシド)(PEO)とのブロックコポリマーを含む膜であって、前記PS/PEOの分子量比が1.0より大きくかつ4.0より小さい膜、及び(b)酸と少なくとも1つのpH感受性色素とを封入するコア、を含む、ポリマーソーム。
(項目2)
前記ブロックコポリマーがジブロックコポリマーである、項目1に記載のポリマーソーム。
(項目3)
前記酸が、前記ポリマーソームが水和した場合に1~6.5、2~6.5、2~6、2~5.5、または3~5.5のpHをもたらす濃度である、項目1または項目2に記載のポリマーソーム。
(項目4)
前記酸が酸性水溶液内にある、項目1から項目3のいずれか1項目に記載のポリマーソーム。
(項目5)
前記酸性水溶液内のpHが1~6.5、2~6.5、2~5.5、または3~5.5である、項目4に記載のポリマーソーム。
(項目6)
前記少なくとも1つのpH感受性色素が、(i)ヒドロキシピレン、(ii)フェニルピリジルオキサゾール、(iii)アミノナフタレン、(iv)シアニン、または(v)(i)から(iv)のいずれか1つのpH感受性蛍光誘導体を含む、項目1から項目5のいずれか1項目に記載のポリマーソーム。
(項目7)
前記pH感受性色素が、8-ヒドロキシピレン-1,3,6-トリスルホネート(HPTS)、デキストランコンジュゲートLysosensor(商標)Yellow/Blue、8-アミノナフタレン-1,3,6-トリスルホネート(ANTS)、またはIRDye(商標)680RDカルボキシレートを含む、項目6に記載のポリマーソーム。
(項目8)
前記酸と前記少なくとも1つのpH感受性色素とが異なる分子である、項目1から項目7のいずれか1項目に記載のポリマーソーム。
(項目9)
前記酸がヒドロキシ酸であり、最も好ましくはクエン酸である、項目1から項目8のいずれか1項目に記載のポリマーソーム。
(項目10)
前記酸と前記少なくとも1つのpH感受性色素とが同一の分子である、項目1から項目7のいずれか1項目に記載のポリマーソーム。
(項目11)
前記コポリマーを含有する有機溶媒と、前記酸及び少なくとも1つのpH感受性色素を含有する水相とを混合することを含む方法で調製される、項目1から項目10のいずれか1項目に記載のポリマーソーム。
(項目12)
前記有機溶媒が水不混和性であるか、または部分的に水混和性である、項目11に記載のポリマーソーム。
(項目13)
前記pH感受性色素がpH感受性蛍光色素である、項目1から項目12のいずれか1項目に記載のポリマーソーム。
(項目14)
前記pH感受性色素がpH感受性吸光色素である、項目1から項目12のいずれか1項目に記載のポリマーソーム。
(項目15)
項目1から項目14のいずれか1項目で定義されるポリマーソームを作製する方法であって、
(a)コポリマー含有有機相を形成するために、PSとPEOとの前記ブロックコポリマーを、有機溶媒に、好ましくは水不混和性または部分的に水混和性の有機溶媒に溶解することと、
(b)前記ポリマーソームを形成するために、前記コポリマー含有有機溶媒相と、前記酸及び少なくとも1つのpH感受性色素を含む水相とを混合することと、
(c)封入されていない前記少なくとも1つのpH感受性色素及び有機溶媒を除去することと、を含む、方法。
(項目16)
前記水相が0.2mM~100mMの酸を含む、項目15に記載の方法。
(項目17)
項目15または項目16で定義される方法によって調製されたポリマーソーム。
(項目18)
ポリマーソームのコアがアンモニアをさらに封入している、項目1から項目14、及び項目17のいずれか1項目に記載のポリマーソーム。
(項目19)
項目1から項目14、及び項目17のいずれか1項目で定義されるポリマーソームと、少なくとも1つの賦形剤とを含む、組成物。
(項目20)
前記少なくとも1つの賦形剤が、防腐剤、凍結保護剤、凍結乾燥保護剤、酸化防止剤、またはこれらのうちの少なくとも2つの組み合わせを含む、項目19に記載の組成物。
(項目21)
前記組成物が液体形態または固体形態である、項目19または項目20に記載の組成物。
(項目22)
項目19または項目20で定義される組成物を固体形態で含む、ストリップ。
(項目23)
液体試料中のアンモニアの定量に使用するための、項目1から項目14、及び項目17のいずれか1項目に記載のポリマーソーム、または項目19から項目21のいずれか1項目に記載の組成物、または項目22に記載のストリップ。
(項目24)
前記試料が対象由来の体液を含む、項目23に記載の使用のためのポリマーソーム、組成物、またはストリップ。
(項目25)
前記試料がバッファをさらに含む、項目24に記載の使用のためのポリマーソーム、組成物、またはストリップ。
(項目26)
前記対象が(i)アンモニアに関連する疾患もしくは障害もしくはフェニルケトン尿症に罹患しているか、(ii)アンモニアに関連する疾患もしくは障害もしくはフェニルケトン尿症に罹患している疑いがある、もしくは罹患する可能性があるか、または(iii)抗高アンモニア血症の治療もしくは抗フェニルケトン尿症の治療を受けている、項目24に記載の使用のためのポリマーソーム、組成物、またはストリップ。
(項目27)
試料のアンモニア濃度を算出するための、項目1から項目14、及び項目17のいずれか1項目に定義されるポリマーソーム、項目19から項目21のいずれか1項目に記載の組成物、または項目22に記載のストリップを使用する方法であって、
(a)前記ポリマーソーム、組成物、またはストリップと、前記試料とを接触させることと、
(b)前記ポリマーソーム含有試料もしくは前記組成物含有試料、または前記試料含有ストリップにおける少なくとも1つのpH依存性分光特性を測定することと、
(c)前記少なくとも1つpH依存性分光特性を使用し標準曲線に照合することによって、前記試料のアンモニア濃度を算出することと、を含む方法。
(項目28)
前記pH依存性分光特性がpH依存性吸光度であり、前記pH感受性色素がpH依存性吸光色素であり、前記標準曲線が吸光度標準曲線である、項目27に記載の方法。
(項目29)
前記pH依存性分光特性がpH依存性蛍光強度であり、前記pH感受性色素がpH感受性蛍光色素であり、前記標準曲線が蛍光標準曲線である、項目27に記載の方法。
(項目30)
項目27に記載の方法であって、(b)が、少なくとも1つの分光特性比を算出するために、前記ポリマーソーム含有試料もしくは前記組成物含有試料または前記試料含有ストリップにおいて、少なくとも1つのpH非依存性分光特性または少なくとも1つのさらなるpH依存性分光特性を測定することをさらに含み、(c)が、前記少なくとも1つのpH依存性分光特性比を使用し分光特性比の標準曲線に照合することによって、前記ポリマーソーム含有試料もしくは前記組成物含有試料または前記試料含有ストリップのアンモニア濃度を算出する、方法。
(項目31)
前記少なくとも1つのpH依存性分光特性及び前記少なくとも1つのpH非依存性分光特性が、同一のpH感受性色素から得られる、項目30に記載の方法。
(項目32)
前記分光特性が吸光度であり、前記pH感受性色素がpH感受性吸光色素である、項目30または項目31に記載の方法。
(項目33)
前記分光特性が蛍光であり、前記pH感受性色素がpH感受性蛍光色素である、項目30または項目31に記載の方法。
(項目34)
前記ポリマーソームコア内のpHが2~6.5である、項目27から項目33のいずれか1項目に記載の方法。
(項目35)
前記少なくとも1つのpH感受性色素が、ヒドロキシピレン、またはその誘導体のうちの1つを含む、項目27から項目34のいずれか1項目に記載の方法。
(項目36)
前記少なくとも1つのpH感受性色素が8-ヒドロキシピレン-1,3,6-トリスルホネート(HPTS)を含む、項目35に記載の方法。
(項目37)
前記少なくとも1つのpH感受性色素が、ピリジルフェニルオキサゾール、もしくはその誘導体のうちの1つ、アミノナフタレン、もしくはその誘導体のうちの1つ、またはシアニン、もしくはその誘導体のうちの1つを含む、項目27から項目34のいずれか1項目に記載の方法。
(項目38)
前記少なくとも1つのpH感受性色素が、デキストランコンジュゲートLysosensor(商標)Yellow/Blue、ANTS、またはIRDye(商標)680RDカルボキシレートを含む、項目37に記載の方法。
(項目39)
前記試料が対象由来の体液試料を含む、項目27から項目38のいずれか1項目に記載の方法。
(項目40)
前記体液が血液試料もしくは血液画分試料、唾液試料、または精液試料である、項目39に記載の方法。
(項目41)
前記体液がフェニルアラニンアンモニアリアーゼで前処理された、項目40に記載の方法。
(項目42)
(i)前記対象におけるアンモニアに関連する疾患もしくは障害もしくはフェニルケトン尿症の診断であって、前記試料のアンモニア濃度が基準アンモニア濃度よりも高いことが、前記対象がアンモニアに関連する疾患もしくは障害もしくはフェニルケトン尿症に罹患していることを示す診断用であるか、または(ii)抗高アンモニア血症もしくは抗フェニルケトン尿症の治療効果のモニタリングであって、前記試料のアンモニア濃度が基準アンモニア濃度よりも低いことが、前記抗高アンモニア血症もしくは抗フェニルケトン尿症の治療が効果的であることを示すモニタリング用である、項目40または項目41に記載の方法。
(項目43)
試料のアンモニア濃度を算出するキットであって、(a)項目1から項目14、及び項目17のいずれか1項目で定義されるポリマーソーム、項目19から項目21のいずれか1項目で定義される組成物、または項目22に記載のストリップ、ならびに(b)(i)前記ポリマーソームを水和するための溶液、(ii)前記ポリマーソームの外相及び/もしくはアッセイする前記試料のpHを調整するためのバッファ、(iii)アッセイする前記試料を希釈するための希釈剤、(iv)蛍光標準曲線及び/もしくは吸光度標準曲線、(v)既知のアンモニア濃度の1つもしくは複数の溶液、または(vi)(i)から(v)のうちの少なくとも2つの組み合わせ、を含む、キット。
【0016】
本発明の他の目的、利点、及び特徴は、添付の図面を参照して例示の目的でのみ提供される、以下の特定の実施形態の限定的ではない説明を読むことにより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ベルトロー反応によるアンモニア定量にL-リシンが及ぼす影響を示す図である。L-リシンが存在することにより、ベルトロー反応で算出したアンモニア濃度が過小評価となる。結果を平均値及び標準偏差として示した(n=3)。
図2】リン酸緩衝液の種々のアンモニア濃度におけるピラニン含有PS-b-PEO膜貫通pH勾配ポリマーソームの蛍光強度比を示す図である。ピラニン含有PS-b-PEOポリマーソームの蛍光強度比は、緩衝液におけるアンモニア濃度の関数となる。結果を平均値及び標準偏差として示した(n=3)。
図3】ヒト血清における蛍光PS-b-PEOポリマーソームによるアンモニアの定量と市販の酵素アンモニアアッセイによる定量とを比較した図である。ピラニン含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームは、酵素キットと同様に、天然の及びスパイクしたヒト血清中のアンモニアを定量することができた。結果を平均値及び標準偏差として示した(ポリマーソームアッセイに対してはn=3、酵素キットに対してはn=8)。
図4】ヒト血漿における蛍光PS-b-PEOポリマーソームによるアンモニアの定量と市販の酵素アンモニアアッセイによる定量とを比較した図である。ピラニン含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームは、酵素キットと同様に、天然の及びスパイクしたヒト血漿中のアンモニアを定量することができた。結果を平均値及び標準偏差として示した(n=3)。
図5】ヒト唾液における蛍光PS-b-PEOポリマーソームによるアンモニアの定量と市販の酵素アンモニアアッセイによる定量とを比較した図である。ピラニン含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームは、酵素キットと同様に、天然の及びスパイクしたヒト唾液中のアンモニアを定量することができた。結果を平均値及び標準偏差として示した(n=3)。
図6】PS-b-PEOポリマーソームを用いたアンモニア定量にL-リシンが及ぼす影響を示す図である。最大15mMのL-リシン(すなわち、通常の血漿濃度の100倍)に至るまでアンモニア濃度の測定に影響を与えていない。結果を平均値及び標準偏差として示した(n=3)。
図7】ヒト尿における蛍光PS-b-PEOポリマーソームによるアンモニアの定量と市販の酵素アンモニアアッセイによる定量とを比較した図である。ピラニン含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームは、酵素キットと同様に、天然の及びスパイクしたヒト尿中のアンモニアを定量することができた。結果を平均値及び標準偏差として示した(n=3)。
図8】ヒト汗における蛍光PS-b-PEOポリマーソームによるアンモニアの定量と市販の酵素アンモニアアッセイによる定量とを比較した図である。ピラニン含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームは、酵素キットと同様に、天然の及びスパイクしたヒト汗中のアンモニアを定量することができた。結果を平均値及び標準偏差として示した(n=3)。
図9】ヒト精液における蛍光PS-b-PEOポリマーソームによるアンモニアの定量と市販の酵素アンモニアアッセイによる定量とを比較した図である。ピラニン含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームは、酵素キットと同様に、天然の及びスパイクしたヒト精液中のアンモニアを定量することができた。結果を平均値及び標準偏差として示した(n=3)。
図10】リン酸緩衝液の種々のアンモニア濃度におけるデキストランコンジュゲートLysosensor(商標)Yellow/Blue含有PS-b-PEOポリマーソームの蛍光強度比を示す図である。デキストランコンジュゲートLysosensor(商標)Yellow/Blue含有PS-b-PEOポリマーソームの蛍光強度比は、緩衝液におけるアンモニア濃度の関数となる。結果を平均値及び標準偏差として示した(n=3)。
図11】リン酸緩衝液の種々のアンモニア濃度におけるANTS含有PS-b-PEOポリマーソームの蛍光強度比を示す図である。ANTS含有PS-b-PEOポリマーソームの蛍光強度比は、緩衝液におけるアンモニア濃度の関数となる。結果を平均値及び標準偏差として示した(n=3)。
図12】リン酸緩衝液の種々のアンモニア濃度におけるIRDye(商標)680RD含有PS-b-PEOポリマーソームの蛍光強度を示す図である。IRDye(商標)680RD含有PS-b-PEOポリマーソームの蛍光強度は、緩衝液におけるアンモニア濃度の関数となる。結果を平均値及び標準偏差として示した(n=3)。
図13】リン酸緩衝液の種々のアンモニア濃度においてポリマーソームコア内に酸が添加されていない状態でのピラニン含有PS-b-PEOポリマーソームの蛍光強度比を示す図である。ポリマーソームコア内に酸が添加されていない状態でのピラニン含有PS-b-PEOポリマーソームの蛍光強度比は、緩衝液におけるアンモニア濃度の関数となる。結果を平均値及び標準偏差として示した(n=3)。
図14】リン酸緩衝液におけるピラニン含有PS-b-PEOポリマーソーム(PS/PEO比は約1.2~約3)によるアンモニア定量結果を示す。ピラニン含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソーム(PS/PEO比は約1.2~約3.0)は、リン酸緩衝液のアンモニアを定量することができた。結果を平均値及び標準偏差として示した(n=3)。
図15】リン酸緩衝液の種々のアンモニア濃度におけるピラニン含有PS-b-PEOポリマーソームの吸光度比を示す図である。結果を平均値及び標準偏差として示した(n=3)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、体液中のアンモニアを定量するための膜貫通pH勾配ポリマーソームと、該ポリマーソームを含む組成物と、該ポリマーソームを作製するプロセスと、これらのポリマーソーム及び組成物の使用とを包含するものである。
【0019】
ポリマーソーム
ポリマーソームは小胞であり、その二重膜は合成コポリマーから構築される。ポリマーソームの平均直径はレーザー回折で測定されており、50nm~100μmまたはそれ以上の範囲であるが、特定の実施形態では100nm~40μmの範囲である。本発明の評価用ポリマーソームは平均直径が100nm~40μmでありアンモニアを効果的に封入することができたが、直径が40μmを超えるポリマーソームが同様の効果を持たないと言える根拠は何もない。
【0020】
本発明のポリマーソームは両親媒性ブロックコポリマーを含み、有機溶媒を用いて調製される。
【0021】
本発明の作用機序は、ポリマーソーム膜を貫通するpH勾配に基づくものである。水性ポリマーソームコアに含まれる酸性剤は、本発明で使用する種々の液体試料(例えば、体液試料)における試料のpH(例えば生理的pH)またはバッファを添加した後の試料のpHとは異なるpH(より低いpH)を有する。ヒト血液及びその液体画分のpHは通例、7.35~7.45であり、唾液のpHは6.7~7.4であり(Baliga et al J Indian Soc Periodontol. 2013; 17:461-465)、尿のpHは4.5~7.5であり(Maalouf et al. Clinical Journal of the American Society of Nephrology 2007; 2:883-888)、汗のpHは4.5~7であり(Oncescu et al. Lab Chip 2013; 13:3232-3238)、精液のpHは7.2~8.0である(Haugen et al. International Journal of Andrology 1998;21 :105-108)。他の哺乳動物もこれらの範囲と同様の範囲を有する。したがって、アンモニアは、ポリマーソームの疎水性ポリマー膜を荷電されていない状態で通過して拡散した後、内側の囲われた部分でプロトン化(イオン化)されて(例えば、アンモニアの場合にはアンモニウムとして)トラップされ得る。アンモニアは、そのままの状態の試料(例えば、体液)またはバッファで希釈された試料のpHでは主にプロトン化された状態であるが、イオン化されていない状態のアンモニアも少量存在する。この少量の画分はポリマーソーム内に拡散し、ポリマーソームの内側にプロトン化された状態でトラップされ得る。アンモニア分子のプロトン化によりプロトンを消費することで、ポリマーソームコア内部のpHを上昇させる。アンモニア/アンモニウムの平衡状態は外相で迅速に再構築され(すなわち、アンモニア画分を再構築するためにアンモニウムが脱プロトン化され)、さらなるアンモニア分子を生じ、これがポリマーソームコアに拡散し得る。分光特性(蛍光強度または吸光度)は、ポリマーソームコア内のpH感受性色素のpH依存性波長において、コア内のアンモニア濃度の上昇に伴い変化することになる。
【0022】
「アンモニアを定量する膜貫通pH勾配」という特性は、本明細書で使用される場合、本発明のポリマーソームが、試料(例えば、体液試料)に希釈されているアンモニア(それ自体がバッファに希釈されている場合もある)を可溶状態にとどめる機能を意味する。
【0023】
ブロックコポリマー
「ポリマー」とは、連結したモノマー単位を含む高分子である。モノマー単位は単一の種類からなっていてもよく(ホモポリマー)、様々な種類からなっていてもよい(コポリマー)。単一の種類の2つ以上の連続したモノマー(ブロック)が別の種類の2つ以上のモノマー(他のブロック)と共有結合して構成されているコポリマーをブロックコポリマーと称する。例えば、2種類のブロックが共有結合して構成されているコポリマーをジブロックと称し、3種類のブロックで構成されている場合にはトリブロックと称する。ブロックコポリマーは、その作製に使用する特定の合成法により異なる末端基を含み得る。
【0024】
本発明のポリマーソームはブロックコポリマーを含む。特定の実施形態では、本発明のコポリマーは、ジブロックコポリマーまたはトリブロックコポリマーである。これらのブロックコポリマーは両親媒性であり、少なくとも2種類のポリマー、すなわち芳香族高疎水性ポリマー(例えば、ポリ(スチレン))と、親水性の非荷電非生物分解性ポリマーとから形成されている。さらに特定の実施形態では、ブロックコポリマーは、ジブロックコポリマー(例えば、ポリ(スチレン)-b-ポリ(エチレンオキシド)(PS-b-PEO))またはトリブロックコポリマー(例えば、PEO-b-PS-b-PEO(すなわち、PSPEOブロックコポリマー))である。
【0025】
「両親媒性」コポリマーとは、親水性(水溶性)基と疎水性(非水溶性)基の両方を含むものである。
【0026】
用語「非生物分解性」は、本明細書で使用される場合、液体試料(例えば、体液試料)の状態で非加水分解性である(例えば、pH、酵素、または他の手段によって分解されにくい)ことを意味する。
【0027】
疎水性非荷電ポリマー
特定の実施形態では、本発明のコポリマーにおいて使用される疎水性非荷電ポリマーは、ポリ(エチルエチレン)(-(CH-CH(C))-、すなわち-(C-)、またはポリ(スチレン)(-(CH-CH(Ph))-、すなわち-(CH-CH(C)-もしくは-(C-)である。特定の実施形態では、疎水性非荷電ポリマーはポリ(スチレン)(PS)である。本発明で使用するポリ(スチレン)は、非置換スチレンモノマー及び/または置換もしくは官能化されたスチレンモノマーを含んでいてもよい。別途具体的に定義されない限り、用語「ポリ(スチレン)」は、非置換スチレンモノマーのみか、置換スチレンモノマーと非置換スチレンモノマーとの混合物か、または置換スチレンモノマーのみかを含むポリ(スチレン)を称するのに、総称して本明細書で用いられている。スチレンモノマーの1つまたは複数の置換基は、該モノマーのフェニル基に及び/もしくは該フェニル基が結合している炭素に対する置換基を含んでいてもよく、ならびに/または該フェニルと多環誘導体(例えば、C3~C6のアリール及び/またはC3~C6のシクロアルキルを含む二環系、三環系など)を形成していてもよい。置換基の候補として、アルキル(C1~C7(C1、C2、C3、C4、C5、C6、またはC7、より具体的にはC1、C2、またはC3)、アリール(C3~C6)、C3~C8のシクロアルキル、アリールアルキル、アセトキシル、アルコキシル(メトキシル、エトキシル、プロパノキシル、ブトキシルなど)、ハロゲン(Br、Cl、Fなど)、アミン、アミド、アルキルアミン、NOが挙げられる。置換基はそれ自体が置換され得る。置換スチレンモノマーとして、以下に限定されないが、アセトキシスチレン、ベンズヒドリルスチレン、ベンジルオキシメトキシスチレン、ブロモスチレン(2-、3-、4-、またはアルファ)、クロロスチレン(2-、3-、4-、またはアルファ)、フルオロスチレン(2-、3-、4-、またはアルファ)、tert-ブトキシスチレン、tert-ブチルスチレン、クロロメチルスチレン、ジクロロスチレン、ジフルオロスチレン、ジメトキシスチレン、ジメチルスチレン、ジメチルビニルベンジルアミン、ジフェニルメチルペンテン、(ジフェニルホスフィノ)スチレン、エトキシスチレン、イソプロペニルアニリン、イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート、[N-(メチルアミノエチル)アミノメチル]スチレン、メチルスチレン、ニトロスチレン、ペンタフルオロフェニル、4-ビニル安息香酸、ペンタフルオロスチレン、(トリフルオロメチル)スチレン(2-、3-、または4-)、トリメチルスチレン、ビニルアニリン(3-または4-)、ビニルアニソール、ビニル安息香酸(3-、4-)、ビニルベンジルクロリド、(ビニルベンジル)トリメチルアンモニウムビニルビフェニル、4-ビニルベンゾシクロブテン(4-、など)、ビニルアントラセン(9-、など)、2-ビニルナフタレン、ビニルビフェニル(3-、4-、など)といったものが挙げられる。一実施形態において、PSは少なくとも1つの置換スチレンモノマーを含む。置換基は非イオン性基(例えば、メチルブチル基またはtert-ブチル基)であり得る。特定の実施形態では、置換スチレンモノマーはアルカリスチレン(例えばメチルスチレン)またはtert-ブチルスチレンである。別の特定の実施形態では、ポリ(スチレン)のスチレンモノマーは置換されていない。
【0028】
親水性非荷電ポリマー
本発明のブロックコポリマーにおいてポリ(スチレン)と合わせて使用され得る親水性非荷電ポリマーとして、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(メチルオキサゾリン)、及びオリゴエチレングリコールアルキルアクリレートのポリマー類が挙げられる。特定の実施形態では、親水性非荷電ポリマーはポリ(エチレンオキシド)である。
【0029】
本発明で使用するポリ(エチレンオキシド)(PEO)は、以下の一般式:(-(O-CH-CH-、すなわち-(CO)-)を有し、非置換エチレンオキシドモノマー、及び置換または官能化エチレンオキシドモノマーを含む。別途具体的に定義されない限り、用語「ポリ(エチレンオキシド)」またはPEOは、非置換エチレンオキシドモノマーのみか、置換エチレンオキシドモノマーと非置換エチレンオキシドモノマーとの混合物か、または置換エチレンオキシドモノマーのみかを含むPEOを称するのに、総称して本明細書で用いられている。一実施形態において、PEOは少なくとも1つの置換エチレンオキシドモノマーを含む。別の実施形態では、エチレンオキシドモノマーは置換されていない。
【0030】
ポリマーの割合
PSブロックとPEOブロック(例えば、ジブロックPS-b-PEOまたはトリブロックPEO-b-PS-b-PEO)の分子量は、二重層の構造及び安定性が保たれる限り様々な値であり得る。発明者らは、安定なPS-b-PEOポリマーソームが、1.0超かつ4未満の間のPS/PEO数平均分子量比になることを見いだした(例えば、実施例2~実施例16を参照)。特定の実施形態では、該比は約1.1以上かつ4未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.2以上かつ4未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.3以上かつ4未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.4以上かつ4未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1超かつ約3.9以下である。特定の実施形態では、該比は約1.1以上かつ3.9未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.2以上かつ3.9未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.3以上かつ3.9未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.4以上かつ3.9未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1超かつ約3.8以下である。特定の実施形態では、該比は約1.1以上かつ3.8未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.2以上かつ3.8未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.3以上かつ3.8未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.4以上かつ3.8未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1超かつ約3.7以下である。特定の実施形態では、該比は約1.1以上かつ3.7未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.2以上かつ3.7未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.3以上かつ3.7未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.4以上かつ3.7未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1超かつ約3.6以下である。特定の実施形態では、該比は約1.1以上かつ3.6未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.2以上かつ3.6未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.3以上かつ3.6未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.4以上かつ3.6未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1超かつ約3.5以下である。特定の実施形態では、該比は約1.1以上かつ3.5未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.2以上かつ3.5未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.3以上かつ3.5未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.4以上かつ3.5未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1超かつ約3.4以下である。特定の実施形態では、該比は約1.1以上かつ3.4未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.2以上かつ3.4未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.3以上かつ3.4未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.4以上かつ3.4未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1超かつ約3.3以下である。特定の実施形態では、該比は約1.1以上かつ3.3未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.2以上かつ3.3未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.3以上かつ3.3未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.4以上かつ3.3未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1超かつ約3.2以下である。特定の実施形態では、該比は約1.1以上かつ3.2未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.2以上かつ3.2未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.3以上かつ3.2未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.4以上かつ3.2未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1超かつ約3.2以下である。特定の実施形態では、該比は約1.1以上かつ3.1未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.2以上かつ3.1未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.3以上かつ3.1未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.4以上かつ3.1未満である。特定の実施形態では、該比は約1.1以上かつ3未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.2以上かつ3未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.3以上かつ3未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1.4以上かつ3未満である。別の特定の実施形態では、該比は約1超かつ約2.9以下である。別の特定の実施形態では、該比は約1.1以上かつ約2.9以下である。別の特定の実施形態では、該比は約1.2以上かつ約2.9以下である。別の特定の実施形態では、該比は約1.3以上かつ約2.9以下である。別の特定の実施形態では、該比は約1.4以上かつ約2.9以下である。別の特定の実施形態では、該比は約1超かつ約2.8以下である。別の特定の実施形態では、該比は約1.1以上かつ約2.8以下である。別の特定の実施形態では、該比は約1.2以上かつ約2.8以下である。別の特定の実施形態では、該比は約1.3以上かつ約2.8以下である。別の特定の実施形態では、該比は約1.4以上かつ約2.8以下である。別の特定の実施形態では、該比は約1超かつ約2.7以下である。別の特定の実施形態では、該比は約1.1超かつ約2.7以下である。特定の実施形態では、該比は約1.2と約2.7以下の間である。特定の実施形態では、該比は約1.3以上かつ約2.7以下である。特定の実施形態では、該比は約1.4以上かつ約2.7以下である。別の特定の実施形態では、該比は約1超かつ約2.6以下である。別の特定の実施形態では、該比は約1.1超かつ約2.6以下である。特定の実施形態では、該比は約1.2と約2.6以下の間である。特定の実施形態では、該比は約1.3以上かつ約2.6以下である。特定の実施形態では、該比は約1.4以上かつ約2.6以下である。別の特定の実施形態では、該比は約1超かつ約2.5以下である。別の特定の実施形態では、該比は約1.1超かつ約2.5以下である。特定の実施形態では、該比は約1.2と約2.5以下の間である。特定の実施形態では、該比は約1.3以上かつ約2.5以下である。特定の実施形態では、該比は約1.4以上かつ約2.5以下である。別の特定の実施形態では、該比は約1超かつ約2.4以下である。別の特定の実施形態では、該比は約1.1超かつ約2.4以下である。特定の実施形態では、該比は約1.2と約2.4以下の間である。特定の実施形態では、該比は約1.3以上かつ約2.4以下である。特定の実施形態では、該比は約1.4以上かつ約2.4以下である。別の特定の実施形態では、該比は約1超かつ約2.3以下である。別の特定の実施形態では、該比は約1.1超かつ約2.3以下である。特定の実施形態では、該比は約1.2と約2.3以下の間である。特定の実施形態では、該比は約1.3以上かつ約2.3以下である。特定の実施形態では、該比は約1.4以上かつ約2.3以下である。別の特定の実施形態では、該比は約1超かつ約2.2以下である。別の特定の実施形態では、該比は約1.1超かつ約2.2以下である。特定の実施形態では、該比は約1.2と約2.2以下の間である。特定の実施形態では、該比は約1.3以上かつ約2.2以下である。特定の実施形態では、該比は約1.4以上かつ約2.2以下である。別の特定の実施形態では、該比は約1超かつ約2.1以下である。別の特定の実施形態では、該比は約1.1超かつ約2.1以下である。特定の実施形態では、該比は約1.2と約2.1以下の間である。特定の実施形態では、該比は約1.3以上かつ約2.1以下である。特定の実施形態では、該比は約1.4以上かつ約2.1以下である。別の特定の実施形態では、該比は約1超かつ約2.0以下である。別の特定の実施形態では、該比は約1.1超かつ約2.0以下である。特定の実施形態では、該比は約1.2と約2.0以下の間である。特定の実施形態では、該比は約1.3以上かつ約2.0以下である。特定の実施形態では、該比は約1.4以上かつ約2.0以下である。
【0031】
上記記載の一般性を制限するものではないが、約400g/mol~20,000g/molの間の分子量を有するPEOが本発明に包含される。しかしながら、出願人らは、より大きい分子量のPEOを本発明に効果的に使用することができないと考える根拠を何ら有するわけではない。ポリマーの分子量は小さいほど操作しやすいと考えられる。PEOの分子量は通例、1000g/mol~5000g/molの間である。PS分子量は上述の比を満たすように選択される。本発明によれば、PEOの分子量が例えば約20,000g/molである場合、PSの分子量は約80,000g/mol未満である。
【0032】
疎水性非荷電ポリマー+親水性非荷電ポリマーから構成されるポリマーソーム(ジブロックコポリマーまたはトリブロックコポリマー(例えばPS-b-PEOコポリマーまたはPEO-b-PS-b-PEOコポリマー))の特性
以下の仮説に限定されるものではないが、小胞膜における高疎水性ポリマー(例えば、パイスタッキイング相互作用を生じさせる芳香族(例えばPS))の強い相互作用が、液体試料(例えば、血清、血漿、及び唾液などの体液試料)に対する耐性をもたらし、かつアンモニアに対する選択性(すなわち、アンモニアに対する選択的透過性かつ他の多くの生体化合物に対する低透過性)をもたらすと考えられる。これは膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームが、種々の複雑な生理学的な環境や第1級アミンのL-リシンが過剰な状況においてもアンモニアを定量する機能を保持することによって明らかにされている(実施例3~実施例9を参照)。特定の実施形態では、該ポリマーソームのポリマープロックは非生物分解性である。
【0033】
ポリマーソームの調製方法
コポリマーの調製
任意の既知のコポリマー作製方法を用いることができる。本明細書に記載の実施例で使用するコポリマーは、Advanced Polymer Materials社(カナダ国ドーヴァル)から購入したもの(PS-b-PEO)(実施例2~実施例11、実施例14を参照)であるか、または合成したもの(実施例12~実施例16を参照)である。
【0034】
ポリマーソームの調製
コポリマーを有機溶媒に溶解して有機相を形成し、その有機相を、酸性水溶液(例えば、pH感受性色素、及び任意選択的に、pH感受性色素の濃度が十分高くない場合にはクエン酸などのさらなる酸)(水相)と混合する。この混合工程は種々の手法を用いて行うことができる。例えば、水中油型(o/w)エマルション(すなわち酸性水溶液(すなわち水相)中にポリマー含有有機溶媒相(すなわち油相)がある状態)、逆相蒸発法、ナノ沈殿法、またはダブルエマルション法を用いて、ポリマー含有有機相と水相とを混合することができる。
【0035】
用語「pH感受性色素」は、本明細書で使用される場合、分光特性が媒体のpHに依存する色素を意味する。詳細には、pH感受性吸光色素及びpH感受性蛍光色素を含む。本発明の方法はポリマーソームコアのpH変化を測定することに基づいているため、全てのpH感受性色素が本発明に包含される。
【0036】
用語「吸光色素」は、本明細書で使用される場合、特定の紫外波長、可視波長、及び/または近赤外波長で照射された場合に、それらの波長を吸収する色素を意味する。用語「pH感受性吸光色素」は、本明細書で使用される場合、吸光スペクトルが媒体のpHに応じて変化する色素を意味する。本発明のpH感受性吸光色素として、以下に限定されないが、HPTSまたはその塩(例えば、HPTSカリウム塩またはHPTS三ナトリウム塩)、トリアリールメタン色素(例えば、ブロモクレゾールグリーン、ブロモクレゾールパープル、クレゾールレッド、クロロフェノールレッド、フェノールレッド、フェノールフタレイン、マラカイトグリーン、チモールブルー、ブロモチモールブルー)、アゾ色素(例えば、メチルオレンジ、メチルレッド、エリオクロムブラックT、コンゴーレッド)、ニトロフェノール色素(例えば、2,4-ジニトロフェノール)、アントラキノン色素(例えば、アリザリン)、及び以下の「pH感受性蛍光色素」に列挙した色素が挙げられる。
【0037】
pH感受性吸光色素は少なくとも1つのpH非依存性(等吸収)波長をさらに含むことができ、その波長での吸光度値はpHに依存しておらず、その値を用いてpH依存性波長の吸光度値を正規化することができる。pH感受性吸光色素は、さらに別のpH依存性波長の吸光値に対して正規化され得る(実施例16を参照)。
【0038】
用語「蛍光色素」は、本明細書で使用される場合、特定の紫外波長、可視波長、及び/または近赤外波長で照射された場合に蛍光強度を生じさせる色素を意味し、適切な濃度でその色素が溶解している溶液において蛍光強度が生じるかまたは変わることになる。用語「pH感受性蛍光色素」は、本明細書で使用される場合、少なくとも1つのpH依存性(励起または放射)波長を含む蛍光色素を意味する。
【0039】
pH感受性蛍光色素は、少なくとも1つのpH非依存性(等吸収)(励起または放射)波長であって、該波長の蛍光強度がpH非依存性であり、pH依存性(励起または放射)波長での蛍光強度を正規化するのに使用可能な波長をさらに含み得る。本発明のpH感受性蛍光色素として、以下に限定されないが、HPTSまたはその塩(例えば、HPTS三カリウム塩またはHPTS三ナトリウム塩)などのヒドロキシピレン及びその誘導体、デキストランコンジュゲートLysosensor(商標)Yellow/Blueなどのフェニルピリジルオキサゾール及びその誘導体、ナフタレン誘導体(例えば、ANTSまたはその塩(例えば二ナトリウム塩または二カリウム塩)などのアミノナフタレン及びその誘導体)、IRDye(商標)680RDなどのシアニン及びその誘導体、キサンテン誘導体(例えば、フルオレセイン及びその誘導体(例として、カルボキシフルオセインナトリウム)、ローダミンB及びその誘導体)、クマリン誘導体、スクアライン(squaraine)誘導体、オキサジアゾール誘導体、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、オキサジン誘導体、アクリジン誘導体、アクリジン誘導体、アリールメチン誘導体、インドリニウム誘導体((E)-6-ヒドロキシ-5-スルホ-4-(2-(1,3,3-トリメチル-3H-インドール-1-イウム-2-イル)ビニル)-2,3-ジヒドロ-1H-キサンテン-7-スルホネート、(E)-2-(2-(6-ヒドロキシ-7-(モルホリノメチル)-2,4a-ジヒドロ-1H-キサンテン-3-イル)ビニル)-3,3-ジメチル-1-プロピル-3H-インドール-1-イウムヨウ化物、(E)-2-(2-(7-(ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)-6-ヒドロキシ-2,3-ジヒドロ-1H-キサンテン-4-イル)ビニル)-3,3-ジメチル-1-(3-スルホネートプロピル)-3H-インドール-1-イウム-5-スルホネート)、ならびにテトラピロール誘導体が挙げられる。注目すべきこととして、IRDye(商標)680RDなどの近赤外(NIR)蛍光色素を直接用いて、細胞を含む体液試料、例えば血液(すなわち全血)などをアッセイすることができる(つまり、蛍光アッセイの前に液体試料から細胞(例えば赤血球)を取り除く必要がない)。各色素は特定のpH依存性蛍光(励起または放射)強度プロファイルを有しており、ポリマーソームコアのpHは、pHの変化に対して色素の感度が最も高くなる(すなわち、色素の蛍光(励起または放射)強度スペクトルが最も強いpH依存性を示す)pH範囲に調整される。特定の実施形態では、そのポリマーコアのpHは約2~6.5の間である。さらなる特定の実施形態では、そのポリマーコアのpHは約2~5.5の間である。
【0040】
2種類以上の色素が使用され得る。例えば、以下に限定されないが、少なくとも1つのpH依存性波長を有するがpH非依存性波長を有さないpH感受性蛍光色素を、少なくとも1つのpH非依存性波長(例えば、較正目的用)を有する別の色素と組み合わせることができる。
【0041】
ポリマーソームコア内のpH感受性色素の濃度は、適切な吸光強度または蛍光強度が生じるように選択される。ポリマーソームコアのpH及びpH感受性酸性色素(例えば、蛍光色素)の濃度は、別途酸を用いない場合には、ポリマーソームコアのアンモニア濃度に応じてpH依存性蛍光強度の連続的な変化が示されるように選択される。pH感受性色素の濃度は通例、約0.002mM~約200mMの範囲である。pH感受性蛍光色素を用いる特定の実施形態では、濃度範囲は約0.002mM~約200mMである。本明細書で開示する実施例において、濃度範囲は約0.01mM(LysoSensor(商標)Yellow/Blueデキストラン10,000MW)~約10mM(ピラニン及びANTS)である。水中油型(o/w)エマルション方法では、ポリマー含有有機溶媒と酸性水相(pH感受性色素を含有)とを、超音波処理を用いてエマルションを形成するのに十分な時間混合する。以下の実施例では、水相を有機溶媒で30分間攪拌しながら飽和させた後にポリマー含有有機溶媒相を加えた。続いて、ポリマー含有有機溶媒相を酸含有水相に超音波処理を用いて氷浴で(超音波処理により発生する熱を低減させるため)加えた。機械操作パラメータは、振幅70、サイクル0.75(UP200H、200W、24kHz、Hielscher Ultrasound TechnologyソノトロードS1使用)で3分間、または振幅10(3.1mmソノトロード、Fisher Scientific Model 705 Sonic Dismembrator(商標)、700W、50/60Hz、Fisher Scientific社)で2分間である。エマルションを作製するために、当該技術分野で既知の任意の方法を使用することができる。エマルションの作製に適切な超音波処理使用法ならびに超音波処理パラメータ及び時間は、用いるエマルション手法によって定まることになる。エマルションは、本発明の調製方法において安定である必要はない。
【0042】
逆相蒸発法では、ポリマー含有有機溶媒とpH感受性色素とを含む2相のシステムを、必要な場合には酸含有水相を加えて超音波処理して、油中水型(w/o)エマルションを形成する。外相を、粘性ゲル様状態が形成されるまで減圧下で蒸発させる。ポリマーソームはゲル状態が崩壊する際に生じる(Krack et al. J. Am. Chem. Soc. 2008; 130:7315-7320)。続いて、溶媒と封入されなかった色素とを除去する。
【0043】
ナノ沈殿法では、ポリマーを適切な有機溶媒に溶解し、そこにpH感受性色素と、必要な場合には追加の酸含有水とを徐々に加える。あるいは、有機相を水相に添加してもよい。続いて、溶媒と封入されなかった色素とを除去する。
【0044】
ダブルエマルション法では、ポリマーソームは、内部相にpH感受性色素及び必要な場合には追加の酸含有水と、中間相にポリマー含有完全水不混和性または部分的水不混和性の有機溶媒と、外相に水とを含む、w/o/wダブルエマルションで生じる。続いて、溶媒と封入されなかった色素とを除去する。
【0045】
外相または外部相のpH(例えば、中性pH及び塩基性pH)と組成物(バッファ無(すなわち、血清または血漿などの自然に緩衝化された生理的溶液中のポリマーソーム含有溶液を希釈していない状態)またはバッファ有)とを様々に変えることもできる。外相のpHを増加させることで、アンモニア/アンモニウムの平衡状態においてアンモニアの割合が増加するため、取り込み動力学をさらに加速すると考えられる。
【0046】
ポリマーソームの外相または外部相で使用される及び/もしくはアッセイする体液試料に添加される「バッファ」は、本明細書で使用される場合、pHを安定化させるためか、またはpHを増加してアッセイする試料でアンモニウムをさらに脱プロトン化させる(すなわち、アンモニア量を増やす)ために用いて、その結果ポリマーソームでのアンモニアの拡散速度を増加させるものである。pHの安定化には任意の中性バッファまたはアルカリ性バッファが適しており、pHの増加には任意のアルカリ性バッファが適していると考えられる。より詳細には、バッファは、以下に限定されないが、リン酸、ホウ酸、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、イミダゾール、炭酸水素、及び炭酸の塩、またはトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンであり得る。
【0047】
外相のバッファ濃度または評価試料(例えば、体液)に添加されるバッファ濃度は、結果として生じる溶液のpHがポリマーソームコアpHに対して十分なpH勾配を生じさせる適正値を確保するように選択され、これは色素のpHプロファイルに依存する。濃度範囲は通例、約2mM~約150mMである。特定の実施形態では、濃度範囲は約2mM~約60mMであるか、または約4mM~約50mMである。
【0048】
外相のバッファまたは評価試料(例えば、体液)に添加されるバッファのpHは、外相と内相の間に十分なpH勾配を与え、適正な動力学プロファイルを確保するように選択される。pH範囲は典型的にはpH7~pH10である。特定の実施形態では、pHは約7.4(すなわち、アンモニア標準曲線の作製に使用するPBSバッファのpH)である(実施例2~実施例16を参照)。別の特定の実施形態では、全てのアッセイ試料のpHが、比較を可能にするために、アンモニア標準またはフェニルアラニン標準と同じpHに調整されている(実施例2~実施例16を参照)。さらに別の特定の実施形態では、pH7.4の緩衝化された外部相を有するポリマーソームを、pH8.5のフェニルアラニンアッセイ試料及びpH8.5のフェニルアラニン標準曲線試料に添加した後も、分散液のpHを約7.4としている(実施例15を参照)。しかし、標準試料または評価試料をポリマーソーム分散液と混合する際にpHを調整する場合、評価試料と標準試料のpHが同一である必要はなく、ポリマーソーム分散液の外相の緩衝能によってpHが決まる及び/またはバッファを追加して分散液のpHが決まることもある。特定の実施形態では、ポリマーソーム分散液と、アッセイ試料、及び必要な場合には追加のバッファとを混合することで得られる分散液の外相のpHは、ポリマーソーム分散液と、アンモニア標準液またはフェニルアラニン標準液、及び必要な場合には追加のバッファとを混合することで得られる分散液の外相のpHと同一になるように調整されて、比較できるようにする。以下に限定されるものではないが、血液試料及び血液画分試料をアッセイするのにpH7.4を用いると、試料のpHと一致しているため、pHに依存したアーチファクトが生じ得るリスクを抑えるという点においても有利である。ポリマーソームコアとアッセイ試料との間に、試料固有の緩衝能によって十分なpH勾配が形成できる場合、バッファを外から外相に加えなくてもよい。
【0049】
用語「十分な勾配」は、本明細書で使用される場合、少なくとも1pH単位の差であると一般的に理解されており、好ましい実施形態では、コアとアッセイ試料との間で、少なくとも1pH単位、好ましくは2pH単位の差である(例えば、試料のpHは6以上かつコアのpHは5以下であり、好ましくは試料のpHは7以上かつコアのpHは5以下である)。典型的には、アッセイ試料のpHは、元来約7~約10であるか、または約7~約10になるように調整されている(バッファを直接添加するか、または緩衝化された外相と共にポリマーソームを添加することによって調整する)。
【0050】
調製プロセスで用いられる有機溶媒は、任意の既知の手法を用いてポリマーソームから除去される。以下に限定されないが、大気圧未満の圧力、熱、ろ過、クロスフローろ過、透析、またはこれらの方法の組み合わせを適用して、溶媒を除去することができる。
【0051】
有機溶媒を除去した後、ポリマーソームを精製して、封入されていないpH感受性色素の量を減らし、かつ必要に応じて外相のpHを調整する。任意の既知の手法を用いて、封入されていないpH感受性色素をポリマーソーム分散液から除去する。以下に限定にされないが、(クロスフロー)ろ過、遠心分離(例えば、遠心ろ過)、サイズ排除クロマトグラフィー(例えば、ゲル透過クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー)、透析、またはこれらの方法の組み合わせを用いて、封入されていないpH感受性色素を除去することができる。
【0052】
続いて、精製されたポリマーソーム分散液をそのままの状態(ポリマーソームの外側及び内側が酸性水溶液の状態、または外側の酸性溶液をさらに高いpHの溶液、例えばpH7~pH10の溶液で交換した後の状態)で、さらには従来の薬剤乾燥手順(例えば、凍結乾燥、噴霧乾燥)を用いて乾燥した状態で、及び/または診断用ストリップに組み込んだ状態で用いることができる。全てのこうした形態(そのままの形態、精製した形態、及び/または乾燥した形態)で、ポリマーソームコアはpH感受性色素を含み、任意選択的に、例えば、該色素がアッセイ試料に十分なpH勾配を生じさせるのに要する濃度ではない場合に、ポリマーソームコアはさらに酸を含む。酸及び/またはpH感受性色素は、アッセイ試料(例えば体液)(バッファを追加した状態または追加していない状態)と混合すると、ポリマーソームに膜貫通pH勾配を生じさせる。こうして形成された本発明のポリマーソームは塩(すなわちナトリウム、カリウム、またはカルシウムなどの対イオンで部分的に脱プロトン化された酸)をさらに含んでいてもよく、該塩はポリマーソーム調製中に添加されてコアのpH及び/または容量オスモル濃度を調整することができ、また、ポリマーソームの水和形態ではポリマーソームはさらに水を含んでいる。特定の実施形態では、コアは防腐剤をさらに含んでいてもよく、防腐剤はポリマーソーム調製中に添加されて、例えばコアのpHが比較的高い(例えばpH5.5以上)場合に、コア内で微生物が増殖するのを防ぐことができる。本発明の方法で使用した後に、コアはアンモニアをさらに含んでいてもよい。特定の実施形態によると、ポリマーソームコアの内容物は少なくとも1つのpH感受性色素を含み得るか、それからなり得る。他の実施形態では、コアは少なくとも1つの酸をさらに含み得る。他の実施形態では、コアは少なくとも1つの塩をさらに含み得る。他の実施形態では、コアは水をさらに含み得る。他の実施形態では、コアは少なくとも1つの防腐剤をさらに含み得る。他の実施形態では、コアはアンモニアをさらに含み得る。さらに他の実施形態では、ポリマーソームコアの内容物は、(a)少なくとも1つのpH感受性色素と、(b)(i)少なくとも1つの酸、(ii)少なくとも1つの塩、(iii)水、(iv)少なくとも1つの防腐剤、(v)アンモニア、または(vi)(i)~(v)のうちの少なくとも2つの組み合わせとからなり得る。
【0053】
ポリマーソームが水和している(すなわち、水溶性酸性コアを含む)場合、コアのpHは通例、約1~6.5の間(1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、または6.5)である。特定の実施形態では、コアのpHは、約1~約6.5、約1~約6、約1~約5.5、約1~約4.5、約1~約4、約1.5~約5、約1.5~約4.5、約1.5~約4、約2~約6.5、約2~約6、約2~約5.5、約2~約5、約2~約4.5、約2~約4、約2.5~約6.5、約2.5~約6、約2.5~約5.5、約2.5~約5、約2.5~約4.5、約2.5~約4、約3~約6.5、約3~約6、約3~約5.5、約3~約5、約3~約4.5、及び約3~約4である。
【0054】
本発明のポリマーソームの安定性を得るのに必須なことではないが、ポリマーソーム膜は架橋していてもよい。例えば、架橋剤の二塩化p-キシリレン、1,4-ビス-クロロメチルジフェニル、モノクロロジメチルエーテル、ジメチルホルマール、トリス-(クロロメチル)-メシチレン、またはp,p’-ビス-クロロメチル-1,4-ジフェニルブタンを用いたフリーデル-クラフツ反応を用いて、ポリ(スチレン)を架橋することができる(Davankov and Tsyurupa, Reactive Polymers 1990; 13:27-42)。
【0055】
溶媒
本発明で用いる溶媒でコポリマーを溶解し、続いてポリマー含有溶媒を酸性水相と混合する。混合工程(例えばo/wエマルション)の間、ポリマーの微細分散液が水相で形成される。混合した後、溶媒を除去して(例えば蒸発させて)、ポリマーソームの安定性を確実に維持する(例えば、溶媒が膜を可塑化することでポリマーソームの透過性がより高くなる可能性がある)。
【0056】
約2%~約40%(v/v)の溶媒相/水相比率となる濃度を使用することができる。特定の実施形態では、溶媒相/水相比率は約5%~30%(v/v)である。別の特定の実施形態では、溶媒相/水相比率は約5%~20%(v/v)である。別の特定の実施形態では、溶媒相/水相比率は約5%~15%(v/v)である。別の特定の実施形態では、溶媒相/水相比率は約10%(v/v)である。特定の実施形態では、得られたエマルション中の溶媒相/水相比率は約9%(v/v)である。特定の実施形態では、溶媒は有機溶媒である。
【0057】
以下に限定されないが、溶媒は、塩素化溶媒(例えば、ジクロロメタン(実施例2~16を参照)またはクロロホルム)、芳香族溶媒もしくは芳香族溶媒誘導体(例えば、トルエンなどのアレーンまたはアレーン誘導体)、脂肪族溶媒もしくは脂肪族溶媒誘導体(例えば、ヘキサン、1-ヘキサノール)、ケトンもしくはケトン誘導体(例えば、2-ヘキサノン)、エーテルもしくはエーテル誘導体(例えば、ジエチルエーテル)、またはそれらの混合物(例えば、o/wエマルション、w/o/wダブルエマルション、または逆相蒸発手法を用いる場合)であり得る。
【0058】
特定の実施形態では、o/wエマルションを用いてポリマー含有有機相と水相とを混合する場合、本発明に有用な溶媒は、水不混和性の有機溶媒または部分的に水不混和性の有機溶媒である。以下に限定されないが、こうした溶媒には、例えば、ジクロロメタン(実施例2~16を参照)、クロロホルム、芳香族溶媒もしくは芳香族溶媒誘導体(例えば、トルエンなどのアレーンまたはアレーン誘導体)、脂肪族溶媒もしくは脂肪族溶媒誘導体(例えば、ヘキサン、1-ヘキサノール)、ケトンもしくはケトン誘導体(例えば、2-ヘキサノン)、エーテルもしくはエーテル誘導体(例えば、ジエチルエーテル)、またはそれらの混合物が挙げられる。
【0059】
酸及び酸性溶液
特定の実施形態では、pH感受性色素は膜貫通pH勾配をつけることを促す酸である。十分な高濃度(例えば10mMのピラニン)の弱酸pH感受性色素は、酸を追加することなく用いることができると考えられる(実施例13を参照)。以下に限定されないが、pH感受性色素HPTS(例えば、ピラニン)は、例えば、約pH5.5(すなわちpKa値7.2未満で約1.7pH単位(Kano and Fendler BBA Biomembranes 1978; 509:289-299))で緩衝し、これによってさらに酸を追加することなくアンモニアの検出ができるようになる。特定の実施形態では、使用する酸は、アンモニア測定に最適なpH感受性色素ではない(実施例2~実施例12、実施例14~実施例16を参照)。用語「弱酸」は、本明細書で使用される場合、pKa値が3.5以上の弱酸、及びpKa値が-0.35以上である中程度の強酸を意味する(Mortimer and Mueller, Chemie, 12ndedition, Thieme, 2015)。
【0060】
ポリマーソームコアに封入される酸は、以下に限定されないが、(i)クエン酸、イソクエン酸、リンゴ酸、酒石酸、もしくは乳酸などのヒドロキシ酸、(ii)短鎖脂肪酸(例えば、酢酸)もしくは不飽和酸(例えば、ソルビン酸)などの脂肪族系酸、(iii)ウロン酸などの糖酸、(iv)マロン酸などのジカルボン酸、(v)プロパン-1,2,3-トリカルボン酸もしくはアコニット酸などのトリカルボン酸、(vi)1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸などのテトラカルボン酸、(vii)1,2,3,4,5-ペンタンペンタカルボン酸などのペンタカルボン酸、(viii)ポリ(アクリル酸)もしくはポリ(メタクリル酸)などの重合ポリ(カルボン酸)、(ix)エチレンジアミン四酢酸などのポリアミノカルボン酸、(x)グルタミン酸もしくはアスパラギン酸などのアミノ酸、(xi)硝酸、硫酸、ハロゲン化水素などの無機酸、(xii)安息香酸などの芳香族カルボン酸、(xiii)以下に限定されないがヒドロキシピレン及びその誘導体(例えば、ピラニン、別称HPTS三ナトリウム塩)、フェニルピリジルオキサゾール及びその誘導体(例えば、デキストランコンジュゲートLysosensor(商標)Yellow/Blue)、アミノナフタレン及びその誘導体(例えば、ANTS)、シアニン及びその誘導体(例えば、IRDye(商標)680RD)、トリアリールメタン色素(例えば、ブロモクレゾールグリーン、ブロモクレゾールパープル、クレゾールレッド、クロロフェノールレッド、フェノールレッド、フェノールフタレイン、チモールブルー、ブロモチモールブルー)、アゾ色素(例えば、メチルレッド、エリオクロムブラックT)、ニトロフェノール色素(例えば、2,4-ジニトロフェノール)、アントラキノン色素(例えば、アリザリン)のなどの酸性pH感受性色素、または(xiv)これらのうちの少なくとも2つの組み合わせである。特定の実施形態ではクエン酸が用いられ、別の特定の実施形態ではHPTSが用いられる。精製後の色素漏出を低減するために、ポリマーコンジュゲートpH感受性色素(例えば、デキストランコンジュゲートLysosensor(商標)Yellow/Blue、デキストランコンジュゲートフルオレセインイソチオシアネート、メトキシポリ(エチレンオキシド)コンジュゲートフルオレセイン、デキストランコンジュゲートローダミンB)を使用するのが有利であると考えられる。その場合、以下に限定されないが、デキストラン、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルピロリドン)、またはポリ(ビニルアルコール)などの任意の水溶性ポリマーを色素とコンジュゲートすることができる。
【0061】
上記に列挙した酸のうちの一部は、特定の用量で特定の薬理活性を有する場合があるが、本発明に記載のポリマーソームの特定の実施形態で用いる封入された酸は、薬理機能またはイメージング機能を直接果たすことを目的にしているのではなく、膜貫通pH勾配を形成するために、また酸がpH感受性色素の場合にはコア内のアンモニアによるpH変化を検出するためにのみ使用される。本発明は、上記の酸のいずれか1つの使用を、特定の薬理活性を保有するか否かに関わらず包含する。しかしながら、本発明の特定の実施形態または態様によれば、酸は、上記の酸のいずれか以外、抗生物質、抗癌剤、降圧剤、抗真菌剤、抗不安剤、抗炎症剤、免疫調節剤、抗ウイルス剤、または脂質降下剤として知られる酸ではない可能性がある。
特定の実施形態では、本方法で使用する酸の濃度は0.1mM~100mMの間で様々な値を取り、オスモル濃度は50mOsmol/kg~700mOsmol/kgの間になり得る。クエン酸を使用する場合、オスモル濃度150mOsmol/kg~600mOsmol/kgで、約0.5mM~50mMの間のクエン酸溶液を使用するのが最も好ましい。別の特定の実施形態では、オスモル濃度は100mOsmol/kg~750mOsmol/kgである。別の特定の実施形態では、オスモル濃度は100mOsmol/kg~700mOsmol/kgである。別の特定の実施形態では、オスモル濃度は115mOsmol/kg~700mOsmol/kgである。アッセイの感度に影響を及ぼさないように酸の濃度を選択し、使用する酸がpH感受性色素でもある場合には、信頼性の高い蛍光測定または吸光測定を可能にするように酸濃度を選択する。
【0062】
コア内の酸は、ポリマーソームが水和した場合に、1~6.8のpH、さらに特定の実施形態では1~6.5、2~6のpHをもたらす濃度である。特定の実施形態では、約5.5のpHを用いる。別の特定の実施形態では、約3.0のpHを用いる。さらに別の特定の実施形態では、約2.0のpHを用いる。
【0063】
使用方法
本発明は、種々の試料のアンモニアを定量するために、本発明の膜貫通pH勾配ポリマーソームを用いる方法を包含する。該方法は、少なくとも約0.005mMと同程度に低い濃度のアンモニア、及び少なくとも8mMと同程度に高い濃度のアンモニアを検出することができる。
【0064】
特定の実施形態では、評価試料の正確なアンモニア濃度を以下の方法により測定することができる。
【0065】
一つの方法によれば、試料と本発明のポリマーソーム(すなわちpH感受性色素を含むポリマーソーム)とを(またはポリマーソームを含む組成物もしくはストリップとを)接触させ、ポリマーソーム含有試料、組成物含有試料、または試料含有ストリップの少なくとも1つのpH依存性分光特性を測定することにより、該試料のアンモニア濃度を評価することができる。続いて、測定した分光特性と、既知のアンモニア濃度の標準曲線の同一pH依存性波長における分光特性(すなわち、吸光強度または蛍光強度)とを比較することによって、該試料のアンモニア濃度を算出することができる。標準曲線は、アッセイで使用する特定条件下で得られる「対応基準分光特性」を、前もって各固有のアンモニア濃度で測定することによって作成する。より詳細には、同一の膜貫通pH勾配ポリマーソームのコア内において、酸がある場合には、コア内の特定のpHで、未知のアンモニア量を含む試料のアッセイに用いる濃度と同一の酸濃度を含み、ポリマーソームの外側及び内側に各固有のアンモニア濃度を含む状態で、同一のpH依存性波長にて同一のpH感受性色素が与える分光特性を測定する。「標準曲線」は、それぞれの条件下で全ての評価アンモニア濃度について測定した対応基準分光特性の集合に対して、数学的にカーブフィッティングすることにより得られる曲線である。標準曲線を作成するために用いた評価アンモニア濃度の数は少なくとも1つである(すなわち、標準曲線が一定の範囲で直線的であれば、1つの濃度でも十分であると考えられる)。
【0066】
用語「分光特性」は、本明細書で使用される場合、約10nm~2000nmの電磁スペクトル、すなわち、スペクトルの紫外領域(約10nm~390nm)、可視領域(約390nm~700nm)、及び近赤外領域(NIR、約700nm~2000nm)における吸光強度または蛍光強度を意味する。
【0067】
用語「標準曲線」は、本明細書で使用される場合、用語「吸光度標準曲線」及び「蛍光標準曲線」を包含するのに用いられる総称的用語である。
【0068】
一方「分光特性比」は、pH依存性波長における色素の分光特性を、pH非依存性波長または別のpH依存性波長における同一の色素または異なる色素の分光特性に対して正規化することによって算出することができる。使用する色素がpH非依存性波長を持たない場合、pH非依存性波長を持つ別の色素を基準として用いて該比を計算することができる。次いで、試料で算出した分光特性比を、同一の波長において各アンモニア濃度に対して算出した普遍的基準分光特性比から得られた普遍的分光比標準曲線と比較することができるため、アッセイ条件の各特定の集合に対する別の標準曲線の取得を不要にすることができる。当然のことながら、具体的なアッセイ条件に対して測定及び計算した対応基準分光特性比から得られた特定の分光特性比の標準曲線(「特定分光特性比標準曲線」)は、最適な精度を持つように作成することができる。
【0069】
用語「普遍的基準分光特性比」は、本明細書で使用される場合、膜貫通pH勾配ポリマーソームのコア内において、特定のpH下で特定の酸濃度を含み、ポリマーソームの外側及び内側にアンモニア濃度を含む状態で、pH依存性波長及びpH非依存性波長(または別のpH依存性波長)にてpH感受性色素が与える分光特性比を意味する。「普遍的分光特性比標準曲線」は、全ての評価アンモニア濃度についてそれぞれの条件下で算出した普遍的基準分光特性比の集合に対して、数学的にカーブフィッティングすることにより得られる曲線である。標準曲線を作成するために用いた評価アンモニア濃度の数は少なくとも1つである(すなわち、標準曲線が一定の範囲で直線的であれば、1つの濃度でも十分であると考えられる)。
【0070】
用語「分光特性比標準曲線」は、本明細書で使用される場合、用語「特定分光特性比標準曲線」及び「普遍的分光特性比標準曲線」を包含するのに用いられる総称的用語である。用語「特定分光特性比標準曲線」及び「普遍的分光特性比標準曲線」は、本明細書で使用される場合、「特定蛍光強度比標準曲線」及び「特定吸光度比標準曲線」と、「普遍的蛍光強度比標準曲線」及び「普遍的吸光度比標準曲線」とを参照するのに用いられる総称的用語である。
【0071】
用語「pH依存性波長」及び「pH非依存性波長」は、本明細書で使用される場合、用語「pH依存性蛍光波長」及び「pH依存性吸光波長」と、「pH非依存性蛍光波長」及び「pH非依存性吸光波長」とをそれぞれ包含するのに用いられる総称的用語である。
【0072】
用語「pH依存性分光特性」及び「pH非依存性分光特性」は、本明細書で使用される場合、用語「pH依存性蛍光強度」及び「pH依存性吸光度」と、「pH非依存性蛍光強度」及び「pH非依存性吸光度」とをそれぞれ包含するのに用いられる総称的用語である。
【0073】
用語「分光特性比」は、本明細書で使用される場合、用語「蛍光強度比」及び「吸光度比」を包含するのに用いられる総称的用語である。
【0074】
より具体的には、上記の分光法は蛍光法または比色法であり得る。こうした方法は、以下でさらに定義されるであろう。
【0075】
蛍光法
一つの方法によれば、試料のアンモニア濃度を、既知のアンモニア濃度の蛍光強度標準曲線における同一の放射波長及び励起波長での蛍光強度を参照することによって算出することができる。蛍光強度標準曲線は、アッセイで使用する特定条件下で得られる「対応基準蛍光強度」を、前もって各固有のアンモニア濃度で測定することによって作成する。より詳細には、同一の膜貫通pH勾配ポリマーソームのコア内において、酸がある場合には、コア内の特定のpHで、未知のアンモニア量を含む試料のアッセイに用いる濃度と同一の酸濃度を含み、ポリマーソームの外側及び内側に各固有のアンモニア濃度を含む状態で、同一のpH依存性励起波長または放射波長にて同一のpH感受性蛍光色素が発する蛍光を測定する。「蛍光強度標準曲線」は、それぞれの条件下で全ての評価アンモニア濃度について測定した対応基準蛍光強度の集合に対して、数学的にカーブフィッティングすることにより得られる曲線である。標準曲線を作成するために用いた評価アンモニア濃度の数は少なくとも1つである(すなわち、標準曲線が一定の範囲で直線的であれば、1つの濃度でも十分であると考えられる)。
【0076】
一方「蛍光強度比」は、pH依存性(放射または励起)波長における色素の蛍光強度を、pH非依存性(等吸収)(放射または励起)波長における同一の色素または異なる色素の蛍光強度に対して正規化することによって算出することができる。使用する色素がpH非依存性波長を持たない場合、pH非依存性波長を持つ別の色素を基準として用いて該比を計算することができる。次いで、試料で算出した蛍光強度比を、同一の波長において各アンモニア濃度に対して算出した普遍的基準蛍光強度比から得られた普遍的蛍光強度比標準曲線と比較することができるため、アッセイ条件の各特定の集合に対する別の蛍光強度標準曲線の取得を不要にすることができる。当然のことながら、具体的なアッセイ条件に対して測定及び計算した対応基準蛍光強度比から得られた特定の蛍光強度比の標準曲線(「特定蛍光強度比標準曲線」)は、最適な精度を持つように作成することができる。
【0077】
用語「普遍的基準蛍光強度比」は、本明細書で使用される場合、膜貫通pH勾配ポリマーソームのコア内において、特定のpH下で特定の酸濃度を含み、ポリマーソームの外側及び内側にアンモニア濃度を含む状態で、液体中にてpH依存性(放射または励起)波長及びpH非依存性(放射または励起)波長でpH感受性蛍光色素が与える蛍光強度比を意味する。「普遍的蛍光強度比標準曲線」は、それぞれの条件下で全ての評価アンモニア濃度について算出した普遍的基準蛍光強度比の集合に対して、数学的にカーブフィッティングすることにより得られる曲線である。標準曲線を作成するために用いた評価アンモニア濃度の数は少なくとも1つである(すなわち、標準曲線が一定の範囲で直線的であれば、1つの濃度でも十分であると考えられる)。
【0078】
用語「蛍光標準曲線」は、本明細書で使用される場合、用語「蛍光強度標準曲線」及び「蛍光強度比標準曲線」を包含するのに用いられる総称的用語である。用語「蛍光強度比標準曲線」は、本明細書で使用される場合、用語「特定蛍光強度比標準曲線」及び「普遍的蛍光強度比標準曲線」を包含するのに用いられる総称的用語である。
【0079】
用語「pH依存性励起波長」及び「pH非依存性励起波長」は、本明細書で使用される場合、ある励起波長の励起により、特定の放射波長でpH依存性蛍光強度及びpH非依存性蛍光強度をそれぞれもたらす励起波長を意味する。用語「pH依存性放射波長」及び「pH非依存性放射波長」は、本明細書で使用される場合、特定の励起波長で励起された場合に、pH依存性蛍光強度及びpH非依存性蛍光強度をそれぞれ示す放射波長を意味する。用語「pH依存性蛍光波長」は、本明細書で使用される場合、pH依存性放射波長またはpH依存性励起波長を意味する。用語「pH非依存性蛍光波長」は、本明細書で使用される場合、pH非依存性放射波長またはpH非依存性励起波長を意味する。
【0080】
用語「pH依存性蛍光強度」は、本明細書で使用される場合、pH依存性放射波長もしくはpH依存性励起波長で生じる蛍光強度か、またはpH依存性放射波長及びpH依存性励起波長で生じる蛍光強度を意味する。用語「pH非依存性蛍光強度」は、本明細書で使用される場合、pH非依存性放射波長及びpH非依存性励起波長で生じる蛍光強度を意味する。
【0081】
蛍光強度の選択は、色素供給元から示された通りに、または種々のpH値での放射スペクトル及び励起スペクトルを記録し、pH依存性蛍光波長及びpH非依存性蛍光波長を特定することによって行う。
【0082】
比色法
別の方法によると、アンモニア濃度を、既知のアンモニア濃度の吸光度標準曲線における同一の紫外波長または可視光波長または近赤外波長での吸光度を参照することによって算出することができる。吸光度標準曲線は、アッセイで使用する特定条件下で得られる「対応基準吸光度」を、前もって各固有のアンモニア濃度で測定することによって作成する。より詳細には、同一の膜貫通pH勾配ポリマーソームのコア内において、酸がある場合には、コア内の特定のpHで、未知のアンモニア量を含む試料のアッセイに用いる濃度と同一の酸濃度を含み、ポリマーソームの外側及び内側に各固有のアンモニア濃度を含む状態で、同一のpH依存性可視光波長で同一のpH感受性吸光色素の吸光度を測定する。「吸光度標準曲線」は、それぞれの条件下で全ての評価アンモニア濃度について測定された対応基準吸光度値の集合に対して、数学的にカーブフィッティングすることにより得られる曲線である。標準曲線を作成するために用いた評価アンモニア濃度の数は少なくとも1つである(すなわち、標準曲線が一定の範囲で直線的であれば、1つの濃度でも十分であると考えられる)。
【0083】
用語「pH依存性吸光波長」は、本明細書で使用される場合、電磁スペクトルの紫外領域(約10nm~390nm)、可視領域(390nm~700nm)、または近赤外領域(約700nm~2000nm)の光を、媒体のpHに応じて色素が吸収する波長を表すのに用いられる。吸光波長の選択は、色素供給元から示された通りに、または種々のpH値での吸光スペクトルを記録し、pH依存性吸光波長及びpH非依存性吸光波長を特定することによって行う。
【0084】
用語「pH依存性吸光度」及び「pH非依存性吸光度」は、本明細書で使用される場合、pH依存性吸光波長及びpH非依存性吸光波長それぞれにおける吸光度を意味する。
【0085】
従来の実験室用またはポータブルの分光光度計(例えば、比色法には標準分光光度計、または蛍光法には蛍光分光光度計)とプレートリーダーとを用いて、本発明による吸光度または蛍光を測定することができる。
【0086】
本発明に従ってアンモニア(または間接的にフェニルアラニン)含有量のアッセイをすることができる「試料」は、本明細書で使用される場合、以下に限定されないが、体液試料などの生体試料、土試料、廃水試料、または単なるバッファを含めた、アンモニアまたはフェニルアラニンを含有することができる試料であり得る。該試料は、元来液体であっても、水溶液を添加した後に液体になってもよい(例えば土試料)。バッファ及び/または酵素(例えば、個々にpH安定化またはpH調整、及びアンモニア生成酵素反応に使用)を任意選択的に加えることによって、該試料(元来液体であるか、水溶液を添加した後に液体になったもの)をさらに調整してもよい。特定の実施形態によれば、該試料は生体試料(例えば、体液)を含み得るか、またはそれからなり得る。他の実施形態では、該試料は水溶液をさらに含み得る。他の実施形態では、該試料は少なくとも1つのバッファをさらに含み得る。他の実施形態では、該試料は少なくとも1つの酵素(例えば、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ)をさらに含み得る。さらに他の実施形態では、該試料は、(a)生体試料(例えば、体液)と、(b)(i)水溶液、(ii)少なくとも1つのバッファ、(iii)酵素(例えば、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ)、または(iv)(i)~(iii)のうちの少なくとも2つの組み合わせとからなり得る。ポリマーソームと混合する前に、試料溶液からフェニルアラニンアンモニアリアーゼを除去する必要はないか、または除去しても有用ではない。
【0087】
試料中のポリマーソームのインキュベーション時間は、サンプルの性質によって様々になり得る。生体試料では、タンパク質の分解を回避するようにインキュベーション時間を適正に制限する。本明細書に示すように、生体試料において、2分程度の短い時間から最大15分までのインキュベーション時間の後、信頼性の高い分光特性(すなわち、蛍光強度及び/または吸光度)の読み取りをすることができる(図2を参照)。非生体試料、すなわち単なるバッファでは、アンモニアを蒸発させない程度であればインキュベーション時間を増やすことができる。
【0088】
用語「体液」は、本明細書で使用される場合、脊椎動物由来の任意の液体を意味する。特定の実施形態では、体液は哺乳動物由来の液体を意味する。体液には、以下に限定されないが、血液(本発明の蛍光法または吸光法に近赤外色素が使用される場合にはそのままの状態、または例えばフィルタで赤血球を除去した後の状態)、血液画分(例えば、血清、血漿)、唾液、尿、汗、精液、腹腔液、腹水由来の液、及び脳脊髄液が含まれる。一部の体液は、対象の情報(例えば、対象における疾患もしくは症状の存在もしくは存在の徴候、治療もしくは予防措置の有効性もしくは無効性、または薬剤投与による副作用の発生)を与え得る特定のアンモニアレベルまたは特定のアミノ酸レベルを含み得る。以下の実施例では、特定の体液を、比較用の市販のアンモニアアッセイキットの測定範囲になるように選択したファクターで希釈した。
【0089】
したがって、アッセイ試料が体液試料である実施形態では、定量方法は、特定の疾患または症状(例えば、アンモニアに関連する疾患もしくは障害、または特定のアミノ酸のレベル増加によって特徴付けられる疾患(例えば、フェニルケトン尿症))を診断するために使用することができる。さらに特定の実施形態では、疾患または症状が高アンモニア血症であり、定量方法は、特定の高アンモニア血症誘発治療(例えば、バルプロ酸療法)において、その症状を診断/検出/モニタリングするために使用することができる。他の実施形態では、定量方法は、抗高アンモニア血症治療(例えば、血液透析)または抗フェニルケトン尿症治療(例えば、フェニルアラニンの少ない食事療法)の有効性をモニタリングするために使用することができる。
【0090】
「アンモニア関連疾患または障害」には、本明細書で使用される場合、高アンモニア血症(例えば、肝機能障害による誘発またはバルプロ酸療法による誘発)、肝性脳症、肝硬変、急性肝不全、慢性肝炎の急性増悪、門脈体循環バイパス、門脈体循環シャント、薬剤誘発高アンモニア血症、肝アンモニア代謝の先天性欠陥(一次的高アンモニア血症)、肝アンモニア代謝に影響を与える先天性欠陥(二次的高アンモニア血症)、慢性腎疾患、及びアンモニアに関連する生殖能力の低下が含まれる。血液及びその画分(血清、血漿)は、ほとんどのアンモニアに関連する疾患または障害に対する体液試料として用いることができる。唾液は慢性腎疾患に対する体液試料として用いることができ、精液はアンモニアに関連した生殖能力の低下に対する体液試料として用いることができる。
【0091】
対象の体液におけるアミノ酸レベルの増加により、特定の疾患の特性が明らかになる。例えば、フェニルケトン尿症を患う対象は、血中のフェニルアラニンレベルが増加している。フェニルケトン尿症は、先天性代謝異常であり、酵素フェニルアラニンヒドロキシラーゼ(PAH)レベルが低下することで、アミノ酸フェニルアラニンの代謝を低下させて、フェニルアラニンの血中レベルの増加を招くものである(van Spronsen et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2017; 5:743-756)。こうしたアミノ酸の異常レベルを、まずアンモニア産生酵素(例えば、フェニルアラニンに対してはフェニルアラニンアンモニアリアーゼ)と合わせて試料をインキュベーションし、本発明のアンモニア定量方法を用いてアミノ酸レベルを間接的に算出することによって、間接的に定量することができる。フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(EC4.3.1.24)は、L-フェニルアラニンをアンモニア及びトランス桂皮酸に変換する反応を触媒化する酵素である。
【0092】
用語「対象」は、本明細書で使用される場合、体液試料中に、本発明の方法で定量できると考えられるアンモニアレベルまたはアミノ酸レベルを有し得る対象を意味する。対象は脊椎動物を意味し、特定の実施形態では哺乳動物を意味し、さらに特定の実施形態ではヒトを意味する。本発明のポリマーソームまたは組成物を前臨床研究、または獣医学用途にも用いることができ、ペットまたは他の動物(例えば、ネコ、イヌ、ウマなどのペット、及びウシ、魚、ブタ、家禽など)に用いることができる。
【0093】
特定の実施形態では、対象はアンモニアに関連する疾患もしくは障害、またはフェニルケトン尿症を有する。別の実施形態では、対象は、抗高アンモニア血症治療(例えば、血液透析、リポソーム担持腹膜透析)または抗フェニルケトン尿症治療(例えば、フェニルアラニンの少ない食事療法)を受けている。
【0094】
別の特定の実施形態では、対象はアンモニアに関連する疾患もしくは障害もしくはフェニルケトン尿症に罹患している疑いがあるか、または罹患する可能性がある。こうした対象には、以下に限定されないが、例えば、尿素サイクル異常症、肝性脳症、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ欠乏症またはテトラヒドロビオプテリン欠乏症に罹患している患者、及び高アンモニア血症誘発剤(例えば、L-アスパラギナーゼ、バルプロ酸)で治療を受けている患者が含まれる。
【0095】
したがって、特定の実施形態では、体液試料はこうした対象のいずれか由来であり得る。
【0096】
「基準アンモニア濃度」は、実施するアッセイの種類に応じて、特定の体液試料における所定の濃度アンモニア基準レベル、すなわち、対象由来の初期における対応試料で測定された対応アンモニア濃度(例えば、該方法を使用して抗高アンモニア血症治療もしくは抗フェニルケトン尿症治療の有効性をモニタリングする場合、または高アンモニア血症誘発治療の影響をモニタリングする場合)、特定の疾患もしくは症状(例えば、アンモニアに関連する疾患もしくは障害またはフェニルケトン尿症)にかかりにくいことがわかっている及び/または特定の疾患もしくは症状(例えば、アンモニアに関連する疾患もしくは障害またはフェニルケトン尿症)に罹患していないことがわかっている1対象または複数の対象の対応生体液体で測定されたアンモニア濃度(例えば、該方法を使用して特定の疾患または症状(例えば、アンモニアに関連する疾患もしくは障害またはフェニルケトン尿症)を診断する場合)から選択することができる。別の実施形態では、基準アンモニア濃度は、複数の試料(例えば、複数の健康な対象由来の試料または特定の疾患もしくは症状(例えば、アンモニアに関連する疾患もしくは障害またはフェニルケトン尿症)に罹患している複数の対象由来の試料)におけるアンモニア濃度の測定後に求めた平均または中央値である。
【0097】
用語「高アンモニア血症誘発治療」は、本明細書で使用される場合、高アンモニア血症をもたらす可能性があるか、または高アンモニア血症が副作用として報告されている治療を意味する。高アンモニア血症誘発治療は、以下に限定されないが、バルプロ酸療法及びL-アスパラギナーゼ治療を指す(Ando et al. Biopsychosoc Med. 2017; 11:19; Strickler et al. Leuk Lymphoma 2017)。
【0098】
用語「抗高アンモニア血症治療」は、本明細書で使用される場合、体液中のアンモニアレベルを減らすことを目的とする、任意の薬理学的な治療的介入(例えば、フェニル酪酸ナトリウム(Buphenyl(登録商標))、グリセロールフェニル酪酸(Ravicti(登録商標))、フェニル酢酸ナトリウム及び安息香酸ナトリウム(Ucephan(登録商標)、Ammonul(登録商標))、カルグルミン酸(Carbaglu(登録商標))、非吸収性二糖ラクツロースの投与、リファキシミン(例えば、Xifaxan(商標))、球状炭素吸着剤(AST-120、Kremezin(登録商標))、ならびに/または膜貫通pH勾配ポリマーソームの投与(例えば、2017年8月15日に出願された同時継続中のPCT出願番号PCT/IB2017/054966号を参照)、上掲のMatoori and Leroux))、及び/または非薬理学的な治療的介入(例えば、血液透析)を意味する。また、この用語は、体液中のアンモニアレベルの増加を防ぐことを目的とする任意の予防措置(例えば、ラクツロース及び/またはリファキシミンの予防的投与、HE患者における特発性細菌性腹膜炎または消化管出血の管理、上掲のVilstrup et al.)も意味する。用語「抗フェニルケトン尿症治療」は、本明細書で使用される場合、体液中のフェニルアラニンレベルを減らすことを目的とする任意の薬理学的な治療的介入(例えば、テトラヒドロビオプテリン、上掲のvan Spronsen et al.)もしくは非薬理学的な治療的介入(例えば、フェニルアラニンの少ない食事療法、上掲のvan Spronsen et al.)を意味するか、または体液中のフェニルアラニンレベルの増加を防ぐことを目的とする任意の予防措置(例えば、フェニルアラニンの少ない食事療法、上掲のvan Spronsen et al)を意味する。
【0099】
アッセイ試料が土試料または廃水試料である特定の実施形態では、定量方法は、これらの基材のアンモニアの汚染を定量する(例えばその濃度を測定する)のに用いることができる(例えば、アンモニアを含む肥料または工業廃棄物で廃水が汚染されている場合)。
【0100】
組成物
ポリマーソームを、アッセイ試料(例えばアンモニア濃度測定用)に、異なる形態で、例えば水性媒体(例えば、水)に分散されている状態(場合によっては賦形剤、例えば防腐剤と合わせた状態)で、またはその乾燥形態(例えばストリップに付着させた状態)で混合することができる。
【0101】
本発明のポリマーソームは、液体形態(例えば、液体懸濁液)でも、固体形態(例えば、使用前に溶解させる粉末または診断用ストリップに付着させる粉末)でもよい。
【0102】
本発明はまた、診断試薬の調製におけるポリマーソーム及び/または組成物の使用に関する。
【0103】
本発明の組成物は1つ以上の賦形剤を含むことができ、賦形剤として、限定されないが、防腐剤(例えば、アジドナトリウム、ソルビン酸/ソルビン酸塩類、安息香酸/安息香酸塩類、パラベン類)、酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸及びその塩類、エリソルビン酸及びその塩類)、及び/または塩類が挙げられる。ポリマーソームが乾燥形態である場合、ポリマーソームは、凍結保護物質、及び/または凍結乾燥保護剤(トレハロース、サッカロース、及びスクロースなどの糖類、ならびにポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどの多価アルコール類)、及び/または膨張剤(例えば、糖類、セルロース誘導体)とさらに合わせて製剤化される場合がある。ポリマーソームはストリップ(例えば、診断用ストリップ)に組み込まれる場合もある。こうしたストリップの支持体は、例えば、高分子(紙、膜、プラスチック)または無機のスキャフォールドであり得る。
【0104】
キット
本発明の範囲内には、キットであって、(a)本発明のポリマーソーム、組成物、及び/またはストリップの少なくとも1種類、ならびに(b)(i)該ポリマーソームを水和するための溶液(使用する前)、(ii)外相及び/もしくはアッセイ試料(例えば、血液または血液画分などの体液試料(例えば血清、血漿、唾液、尿、涙、精液)といった試料)のpH(及び/または容量オスモル濃度)を調整するバッファ、(iii)アッセイ試料(例えば、土試料)を希釈するための希釈剤、(iv)蛍光標準曲線(例えば、蛍光強度標準曲線及び/または蛍光強度比標準曲線)及び/もしくは吸光度標準曲線、(v)既知のアンモニア濃度の1つもしくは複数の溶液(基準アンモニア溶液)、または(vi)(i)から(v)のうちの少なくとも2つの組み合わせ、を含むキットと、その使用(例えば、アンモニアの定量用または特定の疾患もしくは症状(例えば、HEまたはフェニルケトン尿症などのアンモニアに関連する疾患または症状)の診断用)のための説明書とが含まれる。キットは、少なくとも1つの追加の(診断用)試薬、及び/または本発明によるポリマーソームの1つもしくは複数のさらなる種類をさらに含み得る。キットは通例、キットの内容物の好ましい使用目的を示すラベルを含む。ラベルという用語は、キット上もしくはキットに添付されて提供される、または別途キットに付随する任意の文書または記録物を含む。キットは、1つ以上の容器、試薬、投与デバイスをさらに含んでもよい。
【0105】

定量(例えば、濃度の測定)方法及び診断方法に使用される本発明のポリマーソームまたはその組成物の量は、多くの要因に依存することになり、それらの要因としてポリマーソームコアpH、ポリマーソームコアpH感受性色素濃度、ポリマーソームコア酸濃度、ポリマーソームコア容量オスモル濃度、外相アンモニア濃度、外相pH、及び外相容量オスモル濃度が挙げられる。本発明のポリマーソームまたはその組成物の量は、試料(例えば、体液試料、土、廃水、またはバッファ溶液)中のアンモニアを効果的に定量する量となる。特定の実施形態では、液体形態でのポリマーソームのモル濃度は、以下に限定されないが、100nM~100mMの範囲であると推定される。別の特定の実施形態では、そのポリマーの質量濃度で表されるポリマーソーム濃度は0.01mg/mL~100mg/mLの間である。
【0106】
本発明は、本明細書に記載の溶媒、pH感受性色素、及び場合によっては酸または酸性溶液を用いて、上述の有機相と水相との混合技術で調製された、本明細書に記載のポリマーソームまたはポリマーソームを含む組成物を、本明細書に記載の割合で任意に組み合わせたものを包含する。
【0107】
本発明を説明する文脈における用語「a」及び「an」、「the」、ならびに同様の指示対象の使用は(特に添付の特許請求の範囲の文脈において)、本明細書で別段の指示のない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、単数形と複数形の両方を包含するものと解釈されるべきである。
【0108】
「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、及び「含有する(containing)」という用語は、別段の記載がない限り、限定しない用語(すなわち、「含むが、これに限定されない」を意味する)として解釈されるべきである。
【0109】
本明細書における値の範囲の列挙は、本明細書で別段の指示のない限り、単に範囲内の各々の値を個別に表す簡略方法として機能することを意図するに過ぎず、各々の値は、本明細書に個別に列挙されているかのように本明細書に含まれる。該範囲内の値の全て部分集合も、本明細書に個別に列挙されているかのように本明細書に含まれる。
【0110】
本明細書に記載の全ての方法は、本明細書で別段の指示のない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施され得る。
【0111】
本明細書で提供されている任意及び全ての例、または例示的な用語(例えば「など」)の使用は、単に本発明をより明解にすることを意図しており、別段の主張がない限り、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書のいかなる言い回しも、本発明の実施に不可欠である任意の非請求要素を示していると解釈されるべきではない。
【0112】
本明細書では、用語「約」はその通常の意味を有する。実施形態では、その用語は限定された数値のプラス10%またはマイナス10%を意味し得る。本明細書では、用語「およそ」はその通常の意味を有する。実施形態では、その用語は限定された数値のプラス10%またはマイナス10%を意味し得る。
【0113】
別段の定めがない限り、本明細書で使用する全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されている意味と同様の意味を有する。
【0114】
本発明は、以下の非限定的な実施例によりさらに詳細に説明される。
【実施例
【0115】
実施例1
ベルトロー反応によるアンモニア定量にL-リシンが及ぼす影響
実験作業:L-リシン15mMを含まない0.3mMのアンモニア及びL-リシン15mMを含む0.3mMのアンモニアのリン酸緩衝食塩水溶液(リン酸二水素カリウム1mM、リン酸水素ナトリウム3mM、塩化ナトリウム155mM)pH7.4を、ベルトロー試薬(既製のアルカリ性の次亜塩素酸塩溶液及びフェノールニトロプルシド溶液、両溶液共Sigma-Aldrich Chemie社(スイス国ブフス)より入手)と共に室温で25分間インキュベーションした。溶液の吸光度を分光光度計を用いて636nmで測定した。L-リシンが存在することにより、ベルトロー反応で算出したアンモニア濃度が過小評価となる。結果を図1に示し、平均値及び標準偏差として示している(n=3)。
【0116】
実施例2
リン酸緩衝液の種々のアンモニア濃度におけるピラニン含有膜貫通pH勾配ポリマーソームの蛍光強度比に基づく標準曲線
【0117】
ポリマーソーム調製:PS-b-PEOポリマーソームを水中油型(o/w)エマルション法を用いて作製した。より詳細には、PS-b-PEO30mg(約1.4のPS/PEO比、PS(2770)-b-PEO(2000)、Advanced Polymer Materials社)を100μLの有機溶媒(ジクロロメタン)に溶解した。ポリマー有機溶媒溶液(ポリマー含有有機溶媒相、すなわち油相)を、10mMのピラニン(酸性水相)を含む、300mOsmol/kgのオスモル濃度、pH5.5の1mMクエン酸溶液1mLに、氷浴で超音波処理しながら添加し、9%(v/v)の溶媒/水相比を有するエマルションを形成した。有機溶媒をロータリーエバポレーターを用いて、40℃にて700mbarで少なくとも5分間蒸発させた。このプロセスの段階で、ポリマーソームの内側及び外側にはクエン酸と蛍光色素とがある。封入されていない蛍光色素を除去するため、かつ外側のバッファ相をpH7.4、300mOsmol/kgのリン酸緩衝食塩水(PBS、リン酸二水素カリウム1mM、リン酸水素ナトリウム3mM、塩化ナトリウム155mM)と交換するため、ポリマーソーム分散液を架橋デキストランゲルろ過カラム上で精製した(排除限界5000g/mol)。得られたポリマーソームはpH5.5のクエン酸溶液と蛍光色素とを封入していた。蛍光色素の濃度を、413nmで励起された510nmでの蛍光放射強度を蛍光分光光度計で測定することにより定量した。
【0118】
アンモニアの定量:ピラニン含有ポリマーソーム(0.057mMのピラニン濃度に標準化済)を、種々のアンモニア濃度(0mM~2mM)を含むpH7.4のPBS溶液と共に室温でインキュベーションした。異なる時点(2.5分、5分、10分、及び15分)で、455nm(pH依存性励起波長)で励起された510nmでの蛍光放射強度と、413nm(pH非依存性励起波長)で励起された510nmでの蛍光放射強度とを、蛍光分光光度計を用いて測定した。前者の蛍光放射強度を後者の蛍光放射強度に対して正規化することにより、蛍光強度比を算出した。
【0119】
ピラニン含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームの蛍光強度比は、バッファのアンモニア濃度と相関する。結果を図2に示し、平均値及び標準偏差として示している(n=3)。
【0120】
実施例3
ヒト血清におけるピラニン含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソーム及び市販の酵素アンモニアアッセイによるアンモニアの定量
【0121】
ポリマーソーム調製:蛍光膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームを、実施例2に記載の通りに作製し、精製したが、クエン酸濃度を5mMに変更し、カラムを用いた精製手順において外相に変更を加えた(pH7.4、300mOsmol/kgのリン酸緩衝液50mM)。
【0122】
アンモニアの定量:ピラニン含有ポリマーソーム(0.016mMのピラニン濃度に標準化済)を、市販のヒト血清、0.1mMのアンモニアをスパイクしたヒト血清、種々のアンモニア濃度(0mM~0.5mM)を含むPBS溶液と共に室温でインキュベーションした。10分後、455nm(pH依存性励起波長)で励起された510nmでの蛍光放射強度と、413nm(pH非依存性励起波長)で励起された510nmでの蛍光放射強度とを、蛍光分光光度計を用いて測定した。前者の蛍光放射強度を後者の蛍光放射強度に対して正規化することにより、蛍光強度比を算出した。血清のアンモニア濃度とアンモニアをスパイクした血清のアンモニア濃度とを、アンモニア標準の蛍光強度比から得られた線形回帰曲線(蛍光強度比標準曲線)を用いて比較することにより算出した。さらに、同じ溶液を酵素アンモニアキット(Randox Ammonia Assay AM1015、Randox Laboratories社)を用いて、メーカーの指示書に従って分析したが、プレートリーダーで96ウェルプレートを測定できるようにするために、示された容量の30%のみを用いるという変更を加えた。
【0123】
ピラニン含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームは、酵素キットと同様に、天然の及びスパイクしたヒト血清中のアンモニアを定量することができた。結果を図3に示し、平均値及び標準偏差として示している(ポリマーソームアッセイに対してはn=3、酵素キットに対してはn=8)。
【0124】
実施例4
ヒト血漿におけるピラニン含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソーム及び市販の酵素アンモニアアッセイによるアンモニアの定量
【0125】
ポリマーソーム調製:蛍光膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームを実施例3に記載した通りに作製し、精製した。
【0126】
アンモニアの定量:実施例3に記載の通り、市販のヒト血漿のアンモニア濃度を、ピラニン含有ポリマーソームと酵素アンモニアキットとにより定量した。
【0127】
ピラニン含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームは、酵素キットと同様に、天然の及びスパイクしたヒト血漿中のアンモニアを定量することができた。結果を図4に示し、平均値及び標準偏差として示している(n=3)。
【0128】
実施例5
ヒト唾液におけるピラニン含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソーム及び市販の酵素アンモニアアッセイによるアンモニアの定量
【0129】
ポリマーソーム調製:蛍光膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームを実施例3に記載した通りに作製し、精製した。
【0130】
アンモニアの定量:市販のヒト唾液のアンモニア濃度を、ピラニン含有ポリマーソームと酵素アンモニアキットを用いて実施例3に記載の通りに定量したが、ピラニン濃度を0.017mMに変更し、スパイク済及びスパイク無の体液調製液に変更を加えた(PBSで1:10(v/v)に希釈、及び0.1mMアンモニアをスパイク)。最終的に、結果を希釈ファクターで乗じた。
【0131】
ピラニン含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームは、酵素キットと同様に、天然の及びスパイクしたヒト唾液中のアンモニアを定量することができた。結果を図5に示し、平均値及び標準偏差として示している(n=3)。
【0132】
実施例6
ピラニン含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームを用いたアンモニア定量にL-リシンが及ぼす影響
【0133】
ポリマーソーム調製:蛍光膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームを実施例2に記載した通りに作製し、精製した。
【0134】
アンモニアの定量:ピラニン含有ポリマーソーム(0.054mMのピラニン濃度に標準化済)を、0mM、1mM、5mM、及び15mMのL-リシンを含むpH7.4の0.1mMアンモニア含有PBS溶液で、ならびにアンモニア標準PBS溶液(0mM~0.5mM)中で、室温にてインキュベートした。10分後、455nm(pH依存性励起波長)で励起された510nmでの蛍光放射強度と、413nm(pH非依存性励起波長)で励起された510nmでの蛍光放射強度とを、蛍光分光光度計を用いて測定した。前者の蛍光放射強度を後者の蛍光放射強度に対して正規化することにより、蛍光強度比を算出した。L-リシンを含まないアンモニア溶液とL-リシンをスパイクしたアンモニア溶液のアンモニア濃度を、アンモニア標準の蛍光強度比から得られた線形回帰曲線(蛍光強度比標準曲線)を用いて比較することにより算出した。
【0135】
最大15mMのL-リシン(すなわち、通常の血漿濃度の100倍、Aldred et al. J Autism Dev Disord. 2003; 33:93-97)まで、蛍光膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームで測定したアンモニア濃度が影響を受けていない。結果を図6に示し、平均値及び標準偏差として示している(n=3)。
【0136】
実施例7
ヒト尿におけるピラニン含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソーム及び市販の酵素アンモニアアッセイによるアンモニアの定量
【0137】
ポリマーソーム調製:蛍光膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームを実施例3に記載した通りに作製し、精製した。
【0138】
アンモニアの定量:市販のヒト尿のアンモニア濃度を、ピラニン含有ポリマーソームと酵素アンモニアキットを用いて、実施例5に記載の通りに定量したが、スパイク済及びスパイク無の体液調製液に変更を加えた(PBSで1:100(v/v)に希釈、及び0.1mMアンモニアをスパイク)。最終的に、結果を希釈ファクターで乗じた。
【0139】
ピラニン含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームは、酵素キットと同様に、天然の及びスパイクしたヒト尿中のアンモニアを定量することができた。結果を図7に示し、平均値及び標準偏差として示している(n=3)。
【0140】
実施例8
ヒト汗におけるピラニン含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソーム及び市販の酵素アンモニアアッセイによるアンモニアの定量
【0141】
ポリマーソーム調製:蛍光膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームを実施例3に記載した通りに作製し、精製した。
【0142】
アンモニアの定量:市販のヒト汗のアンモニア濃度を、ピラニン含有ポリマーソームと酵素アンモニアキットを用いて、実施例3に記載の通りに定量したが、スパイク済及びスパイク無の体液調製液に変更を加えた(PBSで1:10(v/v)に希釈、及び0.1mMアンモニアをスパイク)。最終的に、結果を希釈ファクターで乗じた。
【0143】
ピラニン含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームは、酵素キットと同様に、天然の及びスパイクしたヒト汗中のアンモニアを定量することができた。結果を図8に示し、平均値及び標準偏差として示している(n=3)。
【0144】
実施例9
ヒト精液におけるピラニン含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソーム及び市販の酵素アンモニアアッセイによるアンモニアの定量
【0145】
ポリマーソーム調製:蛍光膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームを実施例3に記載した通りに作製し、精製した。
【0146】
アンモニアの定量:市販のヒト精液のアンモニア濃度を、ピラニン含有ポリマーソームと酵素アンモニアキットを用いて、実施例3に記載の通りに定量したが、スパイク済及びスパイク無の体液調製液に変更を加えた(PBSで1:100(v/v)に希釈、及び0.1mMアンモニアをスパイク)。最終的に、結果を希釈ファクターで乗じた。
【0147】
ピラニン含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームは、酵素キットと同様に、天然の及びスパイクしたヒト精液中のアンモニアを定量することができた。結果を図9に示し、平均値及び標準偏差として示している(n=3)。
【0148】
実施例10
リン酸緩衝液の種々のアンモニア濃度におけるデキストランコンジュゲートLysosensor(商標)Yellow/Blue含有膜貫通pH勾配ポリマーソームの蛍光強度比に基づく標準曲線
【0149】
ポリマーソーム調製:蛍光膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームを、実施例3に記載した通りに作製し、精製したが、蛍光色素に変更を加えて(デキストランコンジュゲートLysosensor(商標)Yellow/Blue10,000g/mol)濃度0.01mMとし、クエン酸溶液のpHを2.0に変更した。
【0150】
アンモニアの定量:デキストランコンジュゲートLysosensor(商標)Yellow/Blue含有ポリマーソーム(0.0012mMのデキストランコンジュゲートLysosensor(商標)Yellow/Blue濃度に標準化)を、種々のアンモニア濃度(0mM~0.25mM)を含むpH7.4のPBS溶液と共に室温でインキュベーションした。10分後、360nm(pH依存性放射波長)で励起された540nmでの蛍光放射強度と、360nm(pH非依存性放射波長)で励起された485nmでの蛍光放射強度とを、蛍光分光光度計を用いて測定した。前者の蛍光放射強度を後者の蛍光放射強度に対して正規化することにより、蛍光強度比を算出した。
【0151】
デキストランコンジュゲートLysosensor(商標)Yellow/Blue含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームの蛍光強度比は、バッファのアンモニア濃度と相関する。結果を図10に示し、平均値及び標準偏差として示している(n=3)。
【0152】
実施例11
リン酸緩衝液の種々のアンモニア濃度におけるANTS含有膜貫通pH勾配ポリマーソームの蛍光強度比に基づく標準曲線
【0153】
ポリマーソーム調製:蛍光膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームを、実施例3に記載した通りに作製し、精製したが、PS-b-PEOポリマー組成物に変更を加え(約1.8のPS/PEO比、PS(3570)-b-PEO(2000)、Advanced Polymer Materials社)、蛍光色素に変更を加えて(8-アミノナフタレン-1,3,6-トリスルホン酸、二ナトリウム塩、ANTS)濃度10mMとし、クエン酸溶液のpHを2.0に変更した。
【0154】
アンモニアの定量:ANTS含有ポリマーソーム(0.008mMのANTS濃度に標準化済)を、種々のアンモニア濃度(0mM~0.5mM)を含むpH7.4のPBS溶液と共に室温でインキュベーションした。10分後、368nm(pH依存性励起波長)で励起された520nmでの蛍光放射強度と、308nm(pH非依存性励起波長)で励起された520nmでの蛍光放射強度とを、蛍光分光光度計を用いて測定した。前者の蛍光放射強度を後者の蛍光放射強度に対して正規化することにより、蛍光強度比を算出した。
【0155】
ANTS含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームの蛍光強度比は、バッファのアンモニア濃度と相関する。結果を図11に示し、平均値及び標準偏差として示している(n=3)。
【0156】
実施例12
リン酸緩衝液の種々のアンモニア濃度におけるIRDye(商標)680RDカルボキシレート含有膜貫通pH勾配ポリマーソームの蛍光強度に基づく標準曲線
【0157】
PS(3700)-b-PEO(2000)のポリマー合成:PS(3700)-b-PEO(2000)を原子移動ラジカル重合(ATRP)により合成した。モノメチルPEO(2000)を、乾燥テトラヒドロフラン(THF)中で2-ブロモプロピオニルブロミドと反応させることによりATRPマクロ開始剤に変換し、さらにスチレンをバルクで重合させた。簡潔に述べると、ATRPマクロ開始剤を、触媒としての臭化銅(CuBr)及びリガンドとしての4,4’-ジノイル-2,2’-ジピリジルと共に、加熱乾燥したシュレンクフラスコに入れた。シュレンクフラスコを真空にしアルゴンガスを再充填することを数回繰り返して、酸素を除去した。別のフラスコでスチレンにアルゴンガスを少なくとも1時間バブリングすることによってスチレンから酸素を除去し、それをシュレンクフラスコに入れた。次に混合物を115℃に16時間加熱し、茶色の生成物の溶液をTHF溶解し、塩基性アルミナカラムでろ過し、ヘキサンで2回沈殿させた。沈殿物をろ過し、真空下で乾燥させた。モノマー/開始剤の供給比を50とした。PS/PEO組成物を核磁気共鳴スペクトル法により特定した。
【0158】
ポリマーソーム調製:蛍光膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームを、実施例3に記載した通りに作製し、精製したが、PS-b-PEOポリマー組成物に変更を加え(約1.9のPS/PEO比、PS(3700)-b-PEO(2000))、蛍光色素に変更を加えて(IRDye(商標)680RDカルボキシレート)濃度0.04mMとし、クエン酸溶液の濃度を20mM、pHを3.0に変更し、定量手順を変更した(ジメチルホルムアミドで1:20(v/v)に希釈し、UV分光光度計を用いて271nmで吸光度を測定し、ジメチルホルムアミド中のPS(3700)-b-PEO(2000)標準曲線と比較してPS-b-PEOポリマー濃度を定量)。
【0159】
アンモニアの定量:IRDye(商標)680RDカルボキシレート含有ポリマーソーム(0.73mg/mLのPS-b-PEO濃度に標準化済)を、種々のアンモニア濃度(0mM~0.625mM)を含むpH7.4のPBS溶液と共に室温でインキュベーションした。10分後、666nmで励起された696nmでの蛍光放射強度を蛍光分光光度計を用いて測定した。
【0160】
IRDye(商標)680RDカルボキシレート含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームの蛍光強度は、バッファのアンモニア濃度と相関する。結果を図12に示し、平均値及び標準偏差として示している(n=4)。
【0161】
実施例13
リン酸緩衝液の種々のアンモニア濃度における、ポリマーソームコアに酸が追加されていないピラニン含有膜貫通pH勾配ポリマーソームの蛍光強度比に基づく標準曲線
【0162】
PS(3700)-b-PEO(2000)のポリマー合成:PS(3700)-b-PEO(2000)を実施例12の通りに合成した。
【0163】
ポリマーソーム調製:蛍光膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームを、実施例3に記載した通りに作製し、精製したが、クエン酸溶液の替わりに塩化ナトリウム0.9%(m/V)溶液を用い、PS-b-PEOポリマー組成物に変更を加えた(約1.9のPS/PEO比、PS(3700)-b-PEO(2000))。したがって、コア内の唯一の酸は蛍光色素であった。
【0164】
アンモニアの定量:アンモニアを実施例2に記載された通りに定量したが、ピラニン濃度(0.017mM)、インキュベーション時間(10分)、アンモニア濃度範囲(0mM~8mM)に変更を加えた。
【0165】
ポリマーソームコアに酸が追加されていないピラニン含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームの蛍光強度比は、バッファのアンモニア濃度と相関する。結果をlog-logプロットとして図13に示し、平均値及び標準偏差として示している(n=3)。
【0166】
実施例14
リン酸緩衝液の種々のアンモニア濃度における、変更を加えたPS-b-PEOポリマー組成物を含むピラニン含有膜貫通pH勾配ポリマーソームの蛍光強度比
【0167】
PS(2400)-b-PEO(2000)のポリマー合成:PS(2400)-b-PEO(2000)をATRPにより合成した。モノメチルPEO(2000)を、乾燥THF中で2-ブロモイソブチリルブロミドと反応させることによりATRPマクロ開始剤に変換し、さらにスチレンをバルクで重合させた。簡潔に述べると、ATRPマクロ開始剤を、触媒としてのCuBr及びリガンドとしての4,4’-ジノイル-2,2’-ジピリジルと共に、加熱乾燥したシュレンクフラスコに入れた。シュレンクフラスコを真空にしアルゴンガスを再充填することを数回繰り返して、酸素を除去した。別のフラスコでスチレンにアルゴンガスを少なくとも1時間バブリングすることによってスチレンから酸素を除去し、それをシュレンクフラスコに入れた。次に混合物を115℃に3時間加熱し、茶色の生成物の溶液をTHFに溶解し、塩基性アルミナカラムでろ過し、ヘキサンで2回沈殿させた。沈殿物をろ過し、真空下で乾燥させた。
【0168】
モノマー/開始剤の供給比を28とした。PS/PEO組成物を核磁気共鳴スペクトル法により同定した。
【0169】
ポリマーソーム調製:蛍光膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームを、実施例3に記載した通りに作製し、精製したが、PS-b-PEOポリマー組成物に変更を加え(約1.2のPS/PEO比であるPS(2400)-b-PEO(2000)、及び約3.0のPS/PEO比であるPS(6000)-b-PEO(2000)、Advanced Polymer Materials社)、PS(6000)-b-PEO(2000)のポリマー量を変更した(10mg)。
【0170】
アンモニアの定量:ピラニン含有ポリマーソーム(PS(2400)-b-PEO(2000)に対しては0.007mM、PS(6000)-b-PEO(2000)に対しては0.002mMのピラニン濃度に標準化済)を、種々のアンモニア濃度(0mM~0.5mM)を含むPBS溶液、及び0.2mMのアンモニアを含むPBS溶液と共に、pH7.4、室温でインキュベーションした。10分後、455nm(pH依存性励起波長)で励起された510nmでの蛍光放射強度と、413nm(pH非依存性励起波長)で励起された510nmでの蛍光放射強度とを、蛍光分光光度計を用いて測定した。前者の蛍光放射強度を後者の蛍光放射強度に対して正規化することにより、蛍光強度比を算出した。0.2mMアンモニア含有PBS溶液のアンモニア濃度を、アンモニア標準の蛍光強度比から得られた線形回帰曲線(蛍光強度比標準曲線)を用いて比較することにより算出した。
【0171】
ピラニン含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソーム(PS/PEO比は約1.2~3.0)は、リン酸緩衝液のアンモニアを定量することができた。結果を図14に示し、平均値及び標準偏差として示している(n=3)。
【0172】
実施例15
バッファ中のピラニン含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームによるフェニルアラニンの定量
【0173】
PS(3700)-b-PEO(2000)のポリマー合成:PS(3700)-b-PEO(2000)を実施例12の通りに合成した。
【0174】
ポリマーソーム調製:蛍光膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームを、実施例3に記載した通りに作製し、精製したが、PS-b-PEOポリマー組成物に変更を加えた(約1.9のPS/PEO比、PS(3700)-b-PEO(2000))。
【0175】
フェニルアラニン定量:ロドトルラ・グルティニス(EC番号4.3.1.5、グレードI、活性:0.8~2.0ユニット/mgタンパク質(1ユニットは、pH8.5、30℃で1分当たり0.001mmolのフェニルアラニンを変換する)、Sigma-Aldrich Chemie社)由来の市販のフェニルアラニンアンモニアリアーゼを、15000×gで2分間の遠心ろ過(カットオフ30kDa)を8回行って精製した。フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(0.013mg/mL)を、種々のフェニルアラニン溶液(0mM~1.2mM、標準曲線として使用)及びフェニルアラニン試液(公称濃度0.625mM)と共に、pH8.5、300mOsmol/kgのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン5mM中にて30℃で15分間インキュベーションした。続いて、これらの溶液のアリコートを、pH7.4(分散液の最終pHが7.4)、300mOsmol/kgのリン酸緩衝液50mM中、ピラニン含有ポリマーソーム(ピラニン濃度0.017mMに標準化)と共に室温でインキュベーションした。10分後、455nm(pH依存性励起波長)で励起された510nmでの蛍光放射強度と、413nm(pH非依存性励起波長)で励起された510nmでの蛍光放射強度とを、蛍光分光光度計を用いて測定した。前者の蛍光放射強度を後者の蛍光放射強度に対して正規化することにより、蛍光強度比を算出した。フェニルアラニン蛍光強度比標準曲線を用いて、フェニルアラニン試液の濃度を算出した結果、0.631±0.022mM(平均値及び標準偏差、n=3)であった。
【0176】
ピラニン含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームは、フェニルアラニンアンモニアリアーゼでインキュベーションした後に、バッファ中のフェニルアラニン濃度を測定可能である。
【0177】
実施例16
リン酸緩衝液の種々のアンモニア濃度におけるピラニン含有膜貫通pH勾配ポリマーソームの吸光度比に基づく標準曲線
【0178】
PS(3700)-b-PEO(2000)のポリマー合成:PS(3700)-b-PEO(2000)を実施例12の通りに合成した。
【0179】
ポリマーソーム調製:膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームを、実施例3に記載した通りに作製し、精製したが、PS-b-PEOポリマー組成物に変更を加えた(約1.9のPS/PEO比、PS(3700)-b-PEO(2000))。
【0180】
アンモニアの定量:ピラニン含有ポリマーソーム(0.01mMのピラニン濃度に標準化済)を、種々のアンモニア濃度(0mM~0.5mM)を含むpH7.4のPBS溶液と共に室温でインキュベーションした。10分後、分光光度計を用いて、450nm及び405nmのpH依存性吸光波長で吸光度を測定した。前者の吸光度を後者の吸光度に対して正規化することにより、吸光度比を算出した。
【0181】
ピラニン含有膜貫通pH勾配PS-b-PEOポリマーソームの吸光度比は、バッファのアンモニア濃度と相関する。結果を図15に示し、平均値及び標準偏差として示している(n=3)。
【0182】
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