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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】リチウムイオン伝導性酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 25/00 20060101AFI20230105BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230105BHJP
   H01M 6/18 20060101ALI20230105BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20230105BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20230105BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20230105BHJP
【FI】
C01G25/00
H01M10/0562
H01M6/18 A
H01B13/00 Z
H01B1/06 A
H01B1/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018158771
(22)【出願日】2018-08-27
(65)【公開番号】P2020033203
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】高橋 誠治
(72)【発明者】
【氏名】末廣 智
(72)【発明者】
【氏名】大川 元
(72)【発明者】
【氏名】木村 禎一
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-075778(JP,A)
【文献】特開2006-188372(JP,A)
【文献】特開平09-050811(JP,A)
【文献】特開2014-062072(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0133990(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02944611(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00
H01M 6/18、10/0562
H01B 1/00-1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガーネット型(結晶)構造を有するLi La Zr 12 であるリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法において、
原料成分として、リチウム塩、ランタン塩及びジルコニウム塩、キレート剤並びに水を含有する原料水溶液を噴霧熱分解する噴霧熱分解工程と、
前記噴霧熱分解工程で得られた前駆体組成物を焼成する焼成工程と、を備え、
前記噴霧熱分解工程は、前記原料水溶液のミストをキャリアガスで流しながら、且つ、前記ミストの初期加熱温度を150℃~300℃とし、最終的な加熱温度を600℃~850℃として、段階的に高温となるように設定された環境下で加熱しながら行い、
前記焼成工程の焼成温度は700℃~800℃であることを特徴とするリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記リチウム塩が、LiNO 、Li O、Li SO 、LiCl、LiI、LiOH、Li CO 、酢酸リチウム及びシュウ酸リチウムから選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載のリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記ランタン塩が、La(NO 、La (SO 、LaCl 、La(OH) 及び酢酸ランタンから選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載のリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記ジルコニウム塩がZrO(NO 、Zr(SO 、ZrCl 、ZrOCl 、ZrI 、酢酸ジルコニウム及び酢酸酸化ジルコニウムから選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載のリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン伝導性酸化物の製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、従来よりも低温度で収率よくリチウムイオン伝導性酸化物を生成できるリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、全固体Li二次電池における固体電解質として、LiLaZr12等の、リチウム、ランタン及びジルコニウムを含むガーネット型構造系のリチウムイオン伝導性酸化物を用いることが検討されている(特許文献1~3等を参照)。
そして、上記LiLaZr12は、通常、LiCO等のリチウム原料と、La等のランタン原料と、ZrO等のジルコニウム原料との混合物を、900~1250℃の高温で12~24時間ほど焼成する焼成工程を、複数回、繰り返して行うことにより製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-18792号公報
【文献】特開2012-174659号公報
【文献】特開2010-143785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、LiLaZr12を製造する場合には、高温且つ長時間の焼成工程が必要である。例えば、上記のリチウム原料、ランタン原料及びジルコニア原料を混合してなる混合原料用い、固相法によりLiLaZr12を合成する場合、図5に示すように、650℃~700℃の低温焼成では、LiLaZr12と共に、LaZrやLiZrOも生成するので、LiLaZr12の収率が低下している。そして、LaZrやLiZrOが1度生成してしまうと、ガーネット型構造の単相のLiLaZr12を得るためには、1200℃程度まで焼成温度を上げなくてはならないことが分かっている。各焼成工程の間には、高温において蒸散し易いリチウム原料を補充する必要があり、その補充には、各段階における焼成物を破砕し、リチウム原料と混合する工程も必要となっている。
従って、LiLaZr12の生産効率をより良くするために、焼成工程をより低温で行い、しかも収率良くリチウムイオン伝導性酸化物を製造できる方法の開発が求められる現状があった。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、従来よりも低温度で且つ収率よくリチウムイオン伝導性酸化物を生成できるリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のとおりである。
[1]原料成分を含有する原料水溶液を噴霧熱分解する噴霧熱分解工程と、前記噴霧熱分解工程で得られた前駆体組成物を焼成する焼成工程と、を備え、前記原料水溶液は、キレート化剤を含有することを特徴とするリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法。
[2]前記原料成分として、リチウム塩、ランタン塩及びジルコニウム塩が用いられる請求項1に記載のリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法。
[3]前記焼成工程における焼成温度が、800℃以下である請求項1又は2に記載のリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法。
[4]前記リチウムイオン伝導性酸化物は、リチウム、ランタン及びジルコニウムを含むガーネット型構造のリチウムイオン伝導性酸化物である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法。
[5]前記リチウムイオン伝導性酸化物における、リチウムとランタンとジルコニウムとの含有割合[Li:La:Zr(モル比)]が、7:3:2である請求項1乃至4のいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法によれば、リチウムイオン伝導性酸化物の原料成分を含有する原料水溶液を用いるので、原料成分の水中解離により、原料成分を組成する各金属イオンの分散性が高められる。しかも、原料水溶液がキレート化剤を含有するので、各金属イオン同士は、キレート化剤を介して近接位置に配位される。このような原料水溶液をミスト化し、このミストを熱分解して得られる粒子よりなる前駆体組成物は、リチウムイオン伝導性酸化物を生成する反応活性が高くなるように組成される。従って、このような前駆体組成物よりなる粉末を焼成する焼成工程を行うことにより、従来よりも低温度で且つ収率よく、リチウムイオン伝導性酸化物を製造することができる。
また、従来より低い800℃以下の温度範囲で焼成工程が行われる場合には、リチウム原料の蒸散を抑制することができ、生産効率を向上させることができる。
また、原料水溶液が、原料成分として、リチウム塩、ランタン塩及びジルコニウム塩を含む場合、又は、リチウムイオン伝導性酸化物が、リチウム、ランタン及びジルコニウムを含むガーネット型構造を有する場合、又は、リチウムとランタンとジルコニウムとの含有割合(Li:La:Zr)が、がモル比で7:3:2である場合は、リチウムイオン伝導性に優れたリチウムイオン伝導性酸化物を、更に生産効率良く得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】噴霧熱分解装置を説明するための模式図である。
図2】本実施例による焼成組成物P11~P13のX線回折パターン図である。
図3】本実施例による焼成組成物P14,P15のX線回折パターン図である。
図4】比較例による焼成組成物P21~P23のX線回折パターン図である。
図5】従来の製法による焼成組成物のX線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
[リチウムイオン伝導性酸化物]
まず、本発明に係るリチウムイオン伝導性酸化物について説明する。
本発明により製造される上記リチウムイオン伝導性酸化物は、リチウムイオン伝導性に優れる点で、全固体リチウムイオン二次電池を実現する固体電解質材料として有望な材料として知られる。リチウムイオン伝導性酸化物は、リチウムを含む金属複合酸化物よりなり、ガーネット型の結晶構造(一般式:A12)を有していてもよい。例えば、Aサイト及びBサイトを所定の元素が占め、Cサイトと格子間位置をLiが占める下記(1)式で表すことができる。
Li (1)
但し、xは5≦x≦8、yは2.5≦y≦3.5、zは1.5≦z≦2.5、wは10≦w≦14の範囲にある。
Aサイトは、La、Al、Y、Pr、Nd、Sm、Lu、Mg、Ca、Sr又はBaから選択される1種以上の金属元素で占められればよい。
Bサイトは、Zr、Hf、Nb又はTaから選択される1種以上の元素で占められればよい。
【0010】
上記の中では、リチウムイオン伝導性酸化物は、リチウム、ランタン及びジルコニウムを含む、ガーネット型(結晶)構造を有する複合酸化物であればよい。例えば、上記AサイトにLa3+を含み、BサイトにZr4+を含み、Cサイトと格子間位置にLiを含むガーネット型構造を有すればよい。
また、上記の中では、リチウムイオン伝導性酸化物が、リチウムとランタンとジルコニウムとを含み、それぞれの含有割合[Li:La:Zr]が、モル比で、7:3:2であるLiLaZr12であれば(以下、単に「LLZ」とも称する)、好ましい。
なお、リチウムイオン伝導性酸化物の他の好ましい例として、LiAlLaZr12、LiLaNb12、LiLaTa12、LiLa(Nb,Ta)12、Li(BaLa)Ta12等を挙げることができる。
【0011】
[リチウムイオン伝導性酸化物の製造方法]
次に、本発明のリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法について具体的に説明する。
本発明のリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法は、原料成分を含有する原料水溶液(S1)を噴霧熱分解する噴霧熱分解工程と、噴霧熱分解工程で得られた前駆体組成物(PRE1)を焼成する焼成工程と、を備え、原料水溶液(S1)は、キレート化剤を含有することを特徴とする。
【0012】
(原料水溶液)
原料水溶液S1は、リチウムイオン伝導性酸化物を組成する原料成分と、キレート化剤とを水溶する溶液である。
【0013】
原料成分は、リチウムと、上記(1)式中のAサイト又はBサイトを占める金属元素又は元素とのそれぞれの金属塩又は塩である。ガーネット構造のAサイト、Bサイト又はCサイトを占める各金属塩、塩又はリチウム塩は、それぞれ水溶性の塩であればよい。即ち、各金属塩等は、水溶性であれば特に限定されず、具体的には、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化塩、水酸化物、リン酸塩、炭酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩等を例示できる。これらの金属塩等は、単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0014】
具体的には、上記リチウムの原料成分であれば、LiNO、LiO、LiSO、LiCl、LiI、LiOH、LiCO、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム等のリチウム塩が挙げられる。
また、ランタンの原料成分であれば、La(NO、La(SO、LaCl、La(OH)、酢酸ランタン等のランタン塩が挙げられる。
また、ジルコニウムの原料成分であれば、ZrO(NO、Zr(SO、ZrCl、ZrOCl、ZrI、酢酸ジルコニウム、酢酸酸化ジルコニウム等のジルコニウム塩が挙げられる。
また、上記の他に、アルミニウムの原料成分であれば、Al(NO)、Al(SO、AlCl等のアルミニウム塩が挙げられる。
また、ニオブの原料成分であれば、Nb(C、塩化ニオブ等のニオブ塩が挙げられる。
なお、上記各金属塩は、水和物であってもよい。
【0015】
原料成分として水溶性の各金属塩等を用いることにより、リチウムイオン伝導性酸化物を組成する金属元素又は元素の各カチオンは、原料水溶液中に均一分散される。従って、リチウムイオン伝導性に優れたガーネット型構造のリチウムイオン伝導性酸化物の収率向上に寄与し、生産性を高めることができる。
【0016】
上述したとおり、リチウムイオン伝導性酸化物が、リチウム、ランタン及びジルコニウムを含む場合、リチウムイオン伝導性酸化物におけるリチウムとランタンとジルコニウムとの含有割合[Li:La:Zr(モル比)]が目的の組成比になるように、各原料成分の混合比が調整される。具体的には、リチウムとランタンとジルコニウムとの含有割合[Li:La:Zr(モル比)]は、(6~8):(4~2):(3~1)[特に(6.5~7.5):(2.5~3.5):(1.5~2.5)、更には(6.8~7.2):(2.8~3.2):(1.8~2.2)]とすることができる。
また、リチウム成分、ランタン成分及びジルコニウム成分が上記のモル比になるように各原料成分の混合比を調整した原料成分の合計(混合原料成分)は、原料水溶液中での濃度が、リチウムの体積モル濃度で、0.01~5mol/Lの範囲にあればよく、好ましくは0.1~1mol/L、より好ましくは0.3~0.8mol/Lであればよい。
【0017】
キレート化剤は、金属等のカチオンが配位する配座を有すればよく、特に限定されないが、容易に熱分解されることから有機系キレート化剤であればよい。例えば、炭素数2~12のカルボン酸、フェノール類、ヒドロキシカルボン酸、ジケトン類、アミノカルボン酸等であれば、好ましい。乳酸、グリコール酸、クエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸、サリチル酸等のα-ヒドロキシカルボン酸であれば、更に好ましい。
リチウムイオン伝導性酸化物を組成する複数種のカチオンが、原料水溶液中でキレート化剤を介して、より均一に且つ近接位置に配位されていればよいので、キレート化剤は、水中で複数の配位座を生成する剤であればより好ましく、上記の中では、クエン酸が好ましい。
【0018】
また、上記各原料成分に対するキレート化剤の配合割合は、上記混合原料成分中のリチウム成分の含有割合を基準に、リチウム成分に対するキレート化剤の含有割合として示すことができる。具体的には、キレート化剤が1モルで1~5の配座を生成する場合、[Li:キレート化剤(モル比)]で、(6~8):(5.6~7.6)[特に(6.5~7.5):(6.1~7.1)、更には(6.8~7.2):(6.4~6.8)]とすることができる。
また、リチウム成分に対して上記割合に調整されたキレート化剤と、上記混合原料成分と、を混合したキレート含有混合原料は、原料水溶液中での濃度が、キレート化剤の体積モル濃度で、0.01~5mol/Lの範囲にあればよく、好ましくは0.1~1mol/L、より好ましくは、0.3~0.7mol/Lであればよい。
【0019】
[噴霧熱分解工程]
噴霧熱分解工程について、図1を参照して説明する。
噴霧熱分解工程では、まずリチウムイオン伝導性酸化物の原料水溶液を噴霧して原料水溶液のミストを生成する。次に当該原料水溶液のミストを熱分解した合成粒子を得る。
例えば、ミスト化装置12に原料水溶液S1を供給し、原料水溶液S1のミストMを発生させる。次に、当該ミストMを反応ユニット15内で熱分解する。熱分解反応の結果得られた合成粒子17は、次の焼成工程で焼成するための前駆体組成物PRE1として用いられる。
【0020】
(噴霧熱分解装置)
噴霧熱分解工程は、例えば図1に示す噴霧熱分解装置10によって行う。噴霧熱分解装置10は、ミスト化装置12、反応ユニット15、キャリアガス供給装置14及び捕集機16等を備える。
噴霧熱分解工程で噴霧熱分解装置10を用いる場合、原料水溶液S1をミスト化し、このミストMをキャリアガス(図1中、白抜き矢印で流れを示す)と共に反応ユニット15に供給する。反応ユニット15に供給されたミストMは、キャリアガスの流れと共に反応ユニット15内を通過する間に熱分解され、所定の組成を有する粒子を生成する。当該粒子を含む粒子含有ガスは、反応ユニット15から排出されて捕集機16に至り、キャリアガスを分離して合成粒子17として捕集される。合成粒子17は、焼成工程で焼成するための本発明に係る前駆体組成物PRE1である。
【0021】
ミスト化装置12は、原料水溶液S1をミスト化するものであればよい。ミスト化手法は特に限定されないが、例えば、二流体ノズルや圧力噴霧ノズル等の噴霧ノズルを用いたノズル式や、超音波方式などの各種態様を採ることができる。
反応ユニット15としては、特に限定しないで公知の各種形態を適宜採用でき、例えば、ミストMを移送する反応管151の外周を囲繞するように加熱手段が設けられたユニットであればよい。加熱手段としては特に限定されず、例えば、ヒータ等を用いればよく、図1では、ヒータ13として示す。
反応ユニット15の温度は、加熱手段を用いて目的の合成粒子を得るべく適宜な加熱温度を設定でき、例えば、反応ユニット入口から出口に向けて段階的に高温になるように設定してもよい。図1に例示した反応ユニット15であれば、4段のヒータ13によって、入口温度を150~300℃、次に300~500℃、次に500~700℃とし、出口温度を600~850℃と段階的に上げてもよい。
また、キャリアガス供給装置14は、所要量のミストMを反応管151に均一に流通させるキャリアガスを供給するために、所定の空気圧に調整可能に構成される。キャリアガスは外気であってもよいし、特定のガス源からのガスであってもよい。キャリアガスの供給手法は特に限定されず、送気ポンプで供給する方法でもよいし、ミスト化装置12におけるミスト生成手段が噴射ノズルによる場合は、その吸気を利用して外気等を取り込むものであってもよい。
捕集機16は、原料水溶液S1のミストMを熱分解して得られる合成粒子17を捕集する。ミストMの熱分解により得られる合成粒子17は、通常、1μm以下程度の平均粒子径を有する粒子であり、反応ユニット15内では、高温のガス中に含まれている。捕集機16は、粒子含有ガスからガスを分離して合成粒子17を捕集できれば特に限定されないが、例えば、集塵手段を用いるものであってもよい。
【0022】
[焼成工程]
上記焼成工程では、上記噴霧熱分解工程で得られた合成粒子17よりなる前駆体組成物PRE1を焼成する。
上記焼成方法は特に限定されない。例えば、上記前駆体組成物の粉末を、更に湿式混合する調整を行ってもよい。また、上記前駆体組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、各種の添加剤が含まれていてもよい。具体的な添加剤としては、例えば、焼結助剤、組織制御剤、成型助剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
この焼成工程における焼成温度は、好ましくは600~800℃、更に好ましくは650~800℃、特に好ましくは700~800℃である。焼成温度がこの範囲である場合には、前駆体組成物を十分に反応させて単相のリチウムイオン伝導性酸化物の収率を向上できるとともに、リチウム原料の蒸散を十分に抑制することができる。
また、焼成時間は、1~20時間であることが好ましく、より好ましくは2~12時間、更に好ましくは3~8時間、特に好ましくは4~6時間である。焼成時間がこの範囲である場合には、前駆体組成物を十分に反応させることができるとともに、リチウム原料の蒸散を十分に抑制することができる。
また、焼成雰囲気は特に限定されず、大気雰囲気や、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気等とすることができる。
【実施例
【0024】
以下、実施例を挙げて、リチウムイオン伝導性酸化物の製造方法の本実施形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0025】
《実施例》
[1.噴霧熱分解工程]
以下に説明する方法で原料成分及びキレート剤を含有する原料水溶液S1の調整を行った後に、図1に示す噴霧熱分解装置10によって以下に説明する原料水溶液S1の噴霧熱分解を行い、得られた熱分解物(合成粒子17)よりなる前駆体組成物PRE1を得た。
【0026】
(原料水溶液の調製)
原料成分は、Li源として硝酸リチウム[LiNO]を、La源として硝酸ランタン6水和物[La(NO・6HO]を、Zr源として硝酸ジルコニウム[ZrO(NO]を準備し、キレート化剤としてクエン酸を準備した。LiNO:La(NO:ZrO(NO:クエン酸を、モル比で、7:3:2:6.7となるように秤量して各原料成分及びキレート化剤を含む混合粉を調整した。次に、この混合粉に蒸留水を加え、各原料成分及びキレート化剤を蒸留水中に均一に溶解させた原料水溶液S1を得た。原料水溶液S1は、Liの体積モル濃度で0.35mol/Lとなるように濃度調整した。
【0027】
(噴霧熱分解)
上記原料水溶液S1をミスト化装置12に供し、超音波発生器121を用いて原料水溶液S1のミストMを発生させた。また、キャリアガスとして空気を用い、反応ユニット15内に配置される反応管151内にキャリアガスAirを供給した。即ち、キャリアガスAirと共にミストMを反応管151に供給できるように、キャリアガス供給装置14を調整した。具体的には、入口流路153を流通するミストMの流量が、10L/minとなるように、キャリアガスAirの空気圧力を調整した。反応ユニット15の温度設定は、反応管151に沿った入口から出口までの4つのヒータ13を用いて行い、入口から順に、200℃-300℃-500℃-800℃となるように調整した。
ミストMが反応管151を流通する間に生成する熱分解反応後の合成粒子17を捕集機16で回収した。得られたミストMの熱分解物よりなる合成粒子17を乾燥し、前駆体組成物PRE1の粉末を得た。
【0028】
[2.焼成工程]
得られた前駆体組成物PRE1をるつぼに入れ、電気炉中で2時間加熱した後、自然冷却して目的の焼成組成物を得た。
即ち、前駆体組成物PRE1を焼成する温度を、T1~T3の各温度(700℃,750℃,800℃)に設定し、それぞれ2時間焼成する焼成工程を行い、目的の焼成組成物P11~P13(温度T1~T3に対応)を得た。
また、前駆体組成物PRE1を焼成する時間を、H1,H2の各時間(2時間、12時間)に設定し、、それぞれ700℃で焼成する焼成工程を行い、目的の焼成組成物P14,P15(時間H1,H2に対応)を得た。
【0029】
《比較例》
上記噴霧熱分解工程の原料水溶液の調製で、原料成分として、硝酸リチウム[LiNO]と、硝酸ランタン6水和物[La(NO・6HO]と、硝酸ジルコニウム[ZrO(NO]とを準備し、それぞれを、モル比で、7:3:2となるように秤量した原料混合粉を用いて原料水溶液S2(図示せず)を調整した。即ち、クエン酸を含まずに水溶液の調整を行った点以外は同様に調製を行い、比較例の原料水溶液S2を得た。次に、原料水溶液S2を用いて、実施例と同様に噴霧熱分解工程を行い、同様に前駆体組成物PRE2の粉末を得た。
次に、得られた前駆体組成物PRE2に対して実施例と同様に上記焼成工程を行った。
即ち、前駆体組成物PRE2を焼成する温度を、T1~T3の各温度(700℃,750℃,800℃)に設定し、それぞれ2時間焼成する焼成工程を行った焼成組成物P21~P23(温度T1~T3に対応)を得た。
【0030】
[3.X線回折]
得られた各焼成組成物から、その一部を取り出し、X線回折を行った。その結果を、前駆体組成物PRE1,PRE2のX線回折結果とともに、図2図4に示した。
【0031】
(a)図2より、以下のことが分かる
前駆体組成物PRE1のX線回折パターンは、図中に○印を付したパイロクロアの回折ピークが表れることを示す。従って、前駆体組成物PRE1は、主にパイロクロア相の組成物であることが分かる。
また、焼成組成物P12,P13のX線回折パターンは、主に、図中に●印を付したガーネット型LLZの回折ピークが表れることを示す。従って、焼成組成物P12,P13は、単相ガーネット型LLZを生成していることが分かる。
また、焼成組成物P11のX線回折パターンは、前駆体組成物PRE1よりも、パイロクロアの回折ピークの相対割合が減っていることを示す。更に、パイロクロアを示す回折ピーク以外の他のピークも生じており、他のピークが、上記●印を付した2θに対応する角度で表れることを示す。従って、焼成組成物P11は、パイロクロアを主に生成するが、ガーネット型LLZを含む複合組成物であることが分かる。
【0032】
以上より、噴霧熱分解工程を行った前駆体組成物PRE1は、パイロクロア相を主に生成するが、その後に焼成温度700℃で2時間の焼成工程を行うことにより、部分的にガーネット型構造のLLZを生成することが分かる。また、更に焼成温度を750~850℃まで昇温させるに従って、2時間の焼成工程を行うことにより、単相ガーネット型LLZの結晶体を生成する収率が高まることが分かる。
【0033】
(b)図3より、以下のことが分かる
焼成組成物P15のX線回折パターンは、図中に●印を付したガーネット型LLZの回折ピークが表れることを示す。従って、焼成組成物P15は、単相ガーネット型LLZを生成していることが分かる。
また、焼成組成物P14のX線回折パターンは、PRE1のピークと比較すると、パイロクロアを示す○印の回折ピーク以外の他のピークを生じており、他の回折ピークが、上記●印を付した2θに対応する角度で僅かに表れることを示す。従って、焼成組成物P14は、パイロクロアを主に生成し、ガーネット型LLZを僅かに生成する複合組成物であることが分かる。
【0034】
以上より、前駆体組成物PRE1を用い、焼成温度が700℃の焼成工程を2時間行うことにより、部分的にガーネット型LLZを生成する焼成組成物P14が得られることが分かる。更に、焼成時間を12時間まで延ばして焼成工程を行うことによって、焼成組成物P15が単相ガーネット型LLZの結晶体として生成する確率が高められることが分かる。
【0035】
(c)図4より、以下のことが分かる
前駆体組成物PRE2のX線回折パターンが、図中に○印を付したパイロクロアの回折ピークを示すことを表す。従って、前駆体組成物PRE2は、主にパイロクロア相の組成物であることが分かる。
また、焼成組成物P21のX線回折パターンは、図中に▲印を付した酸化ランタン[La]の回折ピークと、図中に△印を付したジルコニウム酸リチウム[LiZrO]の回折ピークが表れることを示す。従って、焼成組成物P21は、酸化ランタンを主とし、ジルコニウム酸リチウムを含む複合組成物であることが分かる。
また、焼成組成物P22のX線回折パターンは、焼成組成物P21よりも酸化ランタンの回折ピークが減り、焼成組成物P21同様にジルコニウム酸リチウムの回折ピークが表れることを示す。また、焼成組成物P22では、酸化ランタンとジルコニウム酸リチウムを表す回折ピークに加えて、これら以外の他のピークを生じており、他の回折ピークが、上記●印を付した2θに対応する角度で表れることを示す。
従って、焼成組成物P22は、酸化ランタンを主とし、ジルコニウム酸リチウム及びLLZを生成する複合組成物であることが分かる。
また、焼成組成物P23のX線回折パターンは、ガーネット型LLZの回折ピークが表れることを示す。従って、焼成組成物P23は、単相ガーネット型LLZ組成物であることが分かる。
【0036】
[4.評価]
上記(c)の図4の結果より、比較例では、原料水溶液S2中にクエン酸を含まない場合、噴霧熱分解工程を行った後に、前駆体組成物PRE2を焼成時間2時間且つ焼成温度800℃で焼成工程を行うことにより、ガーネット型単相LLZが得られることが分かる。
対して、本実施例では、上記(a)の図2の結果より、噴霧熱分解工程を行って得られる前駆体組成物PRE1は(c)の比較例同様にパイロクロアを主成分とするが、前駆体組成物PRE1を焼成時間2時間且つ焼成温度750℃で焼成工程を行うことにより、ガーネット型単相LLZが得られることが分かる。本実施例の製法は、より低温で収率良くガーネット型単相LLZが得られる点で好ましい。
また、上記(b)の図3の結果より、焼成工程の焼成温度が700℃の低温であっても、焼成時間を12時間行えば、前駆体組成物PRE1よりガーネット型単相LLZが得られることが分かる。750℃で2時間焼成を行うよりも、更に低温で収率を損なわずにガーネット型単相LLZが得られる点で好ましい。
【0037】
このように、本実施例は、前駆体組成物PRE1を焼成する少ない工数で、収率良くガーネット型単相LLZを生成できるので、生産効率向上の点で好ましい。
また、約700℃~800℃の温度範囲で、2時間から12時間焼成する焼成工程を行うことにより、収率良くガーネット型単相LLZが生成することができ、リチウム原料の蒸散抑制効果が得られる点で好ましい。
更に、約700℃~800℃の温度範囲で焼成工程を行うことにより、ガーネット型単相LLZを生成できるので、固体電解質材料と、正極材料又は負極材料との複合化を図ったリチウムイオン二次電池の製造方法を考慮する際に、有利になる点で好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法は、リチウムイオン二次電池等の電気化学デバイス分野等において好適に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5