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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】沈殿池
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/02 20060101AFI20230105BHJP
   B01D 21/24 20060101ALI20230105BHJP
【FI】
B01D21/02 J
B01D21/24 H
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018199866
(22)【出願日】2018-10-24
(65)【公開番号】P2020065972
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】390014074
【氏名又は名称】前澤工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(72)【発明者】
【氏名】西田 孝義
【審査官】富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-136407(JP,A)
【文献】特開昭62-298409(JP,A)
【文献】実開昭56-137704(JP,U)
【文献】特開昭52-090863(JP,A)
【文献】特開2015-027646(JP,A)
【文献】特開2006-026527(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0032448(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/00-21/34
C02F 1/52- 1/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
沈殿池内に設けられていて原水を通過させてフロックを沈降させる傾斜沈降装置と、
前記傾斜沈降装置の流出側に設けられていて原水を処理した処理水を取水する集水トラフと、
前記傾斜沈降装置の流入側の面における上流側領域に配設されていて原水の流入量を規制する整流部材と、
を備え
前記整流部材は、堆積した沈殿物を排出するための除去手段を備え、
前記除去手段は、前記整流部材に堆積した沈殿物を除去する水流噴射装置を備えていることを特徴とする沈殿池。
【請求項2】
前記整流部材には原水を流入させる孔部が形成されている請求項1に記載された沈殿池。
【請求項3】
前記整流部材は、頂部と底部を交互に形成した波型に形成された整流板である請求項1または2に記載された沈殿池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば上向流式の傾斜沈降装置を備えた沈殿池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、沈澱池には、例えば図9に示すように、沈澱池100の上部に設けた集水トラフ106の下方に傾斜沈降装置102を備えたものが知られている。この傾斜沈降装置102は多数の傾斜管(傾斜板)104から構成され、沈澱池100内の上流側から下流側まで設けられている。また、集水トラフ106と傾斜沈降装置102の間の上澄み層103には複数の阻流板105が一定の間隔で設けられ、複数の区画に仕切られている。沈殿池100の上流側には整流壁107が設けられており、この整流壁107の流入孔107aを通過した原水が傾斜沈降装置102を介してトラフ106に流入するようになっている。
【0003】
また、例えば特許文献1に記載された上向流式傾斜沈殿池では、上向流式の傾斜装置は上澄み層を傾斜管の1ピッチ毎に長手方向の阻流板及び幅方向の阻流板で仕切っている。これにより、沈殿池内の比較的低い温度の原水に対して比較的高い温度の原水が混入した場合に、高い温度の原水は低い温度の原水に押し上げられて傾斜装置の傾斜管内または傾斜板間を高速で上昇する。しかし、この高速の原水は、上澄み層が阻流板によって1ピッチ毎に仕切られているため、取水トラフ取水能力を超えた原水が傾斜管内または傾斜板間を上昇することを防止する。そのため、上澄み層に至る間に原水中のフロックを沈降分離できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭62-298409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、沈殿池に流入する原水が傾斜沈降装置の流入側の面から各傾斜管に流入する際、傾斜沈降装置の流入側の面における下流側領域よりも上流側領域の方が原水の流れが早いため、上流領域に多くの原水が流入する一方で、下流側領域では十分な流量の原水が流入しないこととなる。このように傾斜沈降装置に均等に流入しないで、上流側つまり近いところに流れ込むといったいわゆる短絡流が発生する。この場合、上流側領域は短絡流のためフロックを十分沈降できず、沈降されないフロックが集水トラフ7に流入するおそれがあった。
【0006】
しかも、特許文献1に記載された上向き流傾斜沈殿池のように、傾斜沈降装置の上面に位置する上澄み層で各傾斜管または各傾斜板のピッチ毎に阻流板を配設しても、それだけでは短絡流を十分抑制できず、原水に含まれるフロックが集水トラフに侵入することを防止できなかった。また、傾斜沈降装置の流出側に流出する流速の速い短絡流が阻流板で遮られて下向流となるため、原水の処理性が低下するおそれがあった。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みて、傾斜沈降装置に流入する原水流量の偏りを抑えて短絡流を防止し、沈降されないフロックが集水トラフに流入することを抑制して処理性を向上させる沈殿池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る沈殿池は、沈殿池内に設けられていて原水を通過させてフロックを沈降させる傾斜沈降装置と、傾斜沈降装置の流出側に設けられていて原水を処理した処理水を取水する集水トラフと、傾斜沈降装置の流入側の面における上流側領域に配設されていて原水の流入量を規制する整流部材と、を備えたことを特徴とする。
本発明によれば、傾斜沈降装置の流入側の面における上流側領域に流入する原水の流入量を整流部材によって規制することで流入側の面の上流側領域及び下流側領域から均等に傾斜沈降装置に原水が流入するため、上流側領域で傾斜沈降装置に原水の短絡流が流入することを抑制できて、沈降されないフロックが傾斜沈降装置の流出側から集水トラフに流入することを抑制でき、原水の処理性を向上させることができる。
【0009】
また、整流部材には原水を流入させる孔部が形成されていることが好ましい。
これによると、傾斜沈降装置の流入側の面における上流側領域に設けた整流部材の孔部を原水が通過して傾斜沈降装置に流入し、整流部材に衝突する原水は下流側領域に流れて傾斜沈降装置に流入するため、傾斜沈降装置の流入側の面に均等に流入する。
【0010】
また、整流部材は、頂部と底部を交互に形成した波型に形成された整流板であることが好ましい。
整流板を波型に形成することで高強度になり、整流板を支持する箇所が少なくなり取付が容易になる。この整流部材には、傾斜沈降装置の傾斜管または傾斜板間を通過する原水からフロックが沈降分離し底部に堆積する。
【0011】
また、整流部材は、堆積した沈殿物を排出するための除去手段を備えていることが好ましい。
原水から沈降したフロックは整流部材に堆積して沈殿物となり、除去手段によって落下させて排出する。
【0012】
また、除去手段は、整流部材を下方に回動または振動させる駆動装置を備えていてもよい。
整流部材に沈降して堆積した沈殿物を、整流部材を駆動装置によって下方に回動させて傾斜させたり、整流部材を水平方向や上下方向に振動させたりすることで、落下させて排出する。
【0013】
また、除去手段は、整流部材上に堆積した沈殿物を除去する水流噴射装置を備えていてもよい。
水流噴射装置で水流を噴射させることで、整流部材に堆積した沈殿物を落下させて排出させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る沈殿池によれば、傾斜沈降装置の流入側の面における上流側領域に原水の流入量を規制する整流部材が配設されていて、一部の原水のみが整流部材を通過して傾斜沈降装置に流入するため短絡流を発生させず、フロックを分離して沈降させて清澄水を得られる。そのため、短絡流によって沈殿物が沈降されずに集水トラフに侵入することを整流部材によって防止して原水の処理性を向上できる。
しかも、整流部材によって上流側領域からの流入を阻止された原水は下流側領域から傾斜沈降装置に流入するため、均等に流入させることができて原水の処理性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第一実施形態に係る沈殿池の要部側断面図である。
図2図1における傾斜沈降装置及び整流板をP方向から見た図である。
図3】整流板を示すもので、(a)は正面図、(b)は平面図である。
図4】傾斜沈降装置に対して整流板に堆積した沈殿物を落下させる第一の除去手段を示す説明図である。
図5】整流板に堆積した沈殿物を落下させる第二の除去手段を示す図説明図である。
図6】整流板に堆積した沈殿物を落下させる第三の除去手段を示す説明図である。
図7】整流板に堆積した沈殿物を落下させる第四の除去手段を示す説明図であり、(a)は側断面図、(b)は正面図である。
図8】第二実施形態に係る沈殿池の整流板を示すもので、(a)は側面図、(b)は平面図である。
図9】従来の沈殿池の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態による沈殿池を添付図面に基づいて説明する。
図1乃至図7は、本発明の第一実施形態に係る沈殿池1を示すものである。
図1及び図2に示す沈殿池1においては、原水を通過させる多数の流入孔を有する整流壁2の下流側で、沈殿池1の上部に設けた集水トラフ7の下方に傾斜沈降装置3が設置されている。傾斜沈降装置3は例えば多数の傾斜管4(または傾斜板)が互いに密接して縦横に配列され、各傾斜管(または傾斜板間)4はそれぞれ互いに仕切られた原水の流路を形成し、垂直方向に対して上部が整流壁2側に傾斜した姿勢で配列されている。
【0017】
傾斜沈降装置3は例えば略直方体形状に形成され、原水の送り方向を縦方向(長手方向)としてその長さをL、幅方向が横方向でその長さをWとしている。傾斜沈降装置3の下面3aが原水の流入口で、上面3bが流出口である。下面3a側から各傾斜管4に流入する原水が傾斜管4内でフロックを分離して凝集させて下方に降下させ、残った上澄み水(清澄水)を上面3bから流出させる。なお、本明細書において、図1に示す傾斜沈降装置3の原水が流入する下面3aを流入側(上流側)の面といい、流出する上面3bを流出側(下流側)の面という。また、下面3aは原水の流れ方向に上流側領域Aと下流側領域Bとに分けられている。
【0018】
傾斜沈降装置3の上面3b側と集水トラフ7の間の上澄み層5には、送り方向と幅方向に所定間隔を開けて多数の阻流板6が配設されている。阻流板6は傾斜沈降装置3の上面3bから集水トラフ7の底面及び側面まで延設されており、上澄み層5を阻流板6により仕切ることで、傾斜沈降装置3を通過する原水の流入抵抗を均質なものとしている。傾斜沈降装置3の上部には集水トラフ7が幅方向に所定間隔を開けて配列されており、その側部に形成した孔部を通して流入した上澄み水を次の工程に送り出すようにしている。或いは、集水トラフ7の側部に孔部を設けず、側部の上縁部を乗り越えて上澄み水が流入するようにしてもよい。
【0019】
従来の沈殿池1では、整流壁2の流入孔を通過した原水が傾斜沈降装置3の下面3aから傾斜管4に流入する際、縦方向の長さLに対して上流側領域Aに多量の原水が流入するため短絡流となり、下流側領域Bでは原水の流入量が少なく、原水の流入比率と処理が均等でなかった。短絡流となる上流側領域Aの原水は傾斜沈降装置3の各傾斜管4内でフロックを十分沈降分離できず、フロックを含んだまま集水トラフ7に流入していた。
本実施形態では、図1及び図2に示すように、傾斜沈降装置3の流入側端部に設けられた仕切り壁9の下部に、下面3aに対向して短絡流の流入を抑制する整流板10が上流側領域Aに設置されている。整流板10は傾斜沈降装置3の上流側領域Aに流入する原水の短絡流を抑制するものであるため、下面3aの長手方向長さLの1/4~1/2の長さに設定されている。整流板10は下流側領域Bには設置されていない。整流板10の長さは、整流壁2を通過した原水の流速及び温度により決定すればよく、例えば下面3aの長手方向長さLの1/4~1/3の長さが良い。
【0020】
整流板10は図3(a)、(b)に示すように、波型または複数の山型に形成して高強度にしている。整流板10はその幅方向において山型の頂部10aと底部10bと、頂部10a及び底部10bを接続する傾斜面10cとが連続して複数配列して形成されている。整流板10の頂部10a及び底部10b及び傾斜面10cは傾斜沈降装置3の長手方向に沿って延在している。
整流板10は頂部10aにその長手方向に沿って所定間隔で第一孔部12が形成されている。第一孔部12の形状は任意に設定できるが、図3に示す例では円形の孔が形成されている。底部10bにはその長手方向に沿って所定間隔で第二孔部13が形成されている。第二孔部13は第一孔部12より開口面積が大きく、その形状は任意に設定できるが、図3に示す例では略長方形の孔が形成されている。傾斜面10cには孔を設けても設けなくてもよく、図3に示す例では孔は形成されていない。整流板10は例えばパンチングメタルによって第一孔部12、第二孔部13が形成されているが、孔部の加工方法はどのような方法でもよい。
【0021】
整流板10は第一孔部12、第二孔部13を通って原水が傾斜沈降装置3内に流入することを許容し、それ以外の原水は下流側の下流側領域Bに移送される。上流側領域Aでの短絡流の発生を防ぐために、整流板10の表面積に対して第一孔部12、第二孔部13の開口面積の総和が例えば10~5%程度に設定されている。しかも、整流板10の長さが1/4Lより短いと上流側領域Aで多量の原水が傾斜沈降装置3内に流入して短絡流になることを十分抑制できない。1/2Lより長いと下流側領域Bでの傾斜沈降装置3内への原水の流入量を十分増加できないため、原水の処理効率が悪くなる。また、整流板の開口率は、整流壁2を通過した原水の流速及び温度により決定すればよい。
このように整流板10の第一孔部12、第二孔部13によって傾斜沈降装置3への原水の流入量を制限することで、短絡流を抑制している。整流板10の第一孔部12、第二孔部13から流入する原水は傾斜沈降装置3の傾斜管4を通過する際、フロックが沈降分離させられ、整流板10の底部10bに堆積する。整流板10の底部10bに堆積した沈殿物(沈殿物)は次に示すいずれかの除去手段によって除去される。
【0022】
図4に示す第一の除去手段14Aでは、整流板10はその端部が仕切り壁9にヒンジ部15を介して連結され、ヒンジ部15を中心にして水平位置から下方に回転可能とされている。整流板10のヒンジ部15と反対側の端部にはフロート16が連結され、チューブを介してポンプ等の吸排気装置17に接続されている。
通常の状態において、フロート16には吸排気装置17によって空気が充填されており、その浮力で整流板10が傾斜沈降装置3の下面3aに対向して略水平に保持されている。そして、整流板10の底部10bに沈殿物が所定量以上堆積された状態になると、吸排気装置17によってフロート16の空気を抜いて自重でヒンジ部15を中心に斜め下方に回動させ、底部10bに堆積した沈殿物を下方に排出させる。なお、フロート16に代えて駆動モータによって整流板10を回転させてもよい。この場合、駆動モータ等の駆動力をリンク機構を介して整流板10に伝達し、回転させるのが良い。
【0023】
図5は第二の除去手段14Bを示すものである。
図5において、整流板10は傾斜沈降装置3の下面3aに支持杆18やワイヤー等で垂下して支持されている。整流板10の一端部にはワイヤー19が接続され、ワイヤー19は仕切り壁9にアーム20で連結された仲介ローラR1、R2を介して上方に設置した正逆回転可能な駆動モータMに接続されている。これらは駆動装置を構成する。
そして、駆動モータMを正逆回転させることで、ワイヤー19を短い周期で押したり引いたりして整流板10を水平方向に振動させる。これによって、整流板10の底部10bに堆積した沈殿物を第二孔部13や底部10bの端部等から落下させて排出する。
【0024】
図6は第三の除去手段14Cを示すものである。
図6において、整流板10は一端が駆動モータMに接続されたワイヤー19の他端に接続されている。ワイヤー19は傾斜沈降装置3の下面3aに支持された仲介ローラR3と仲介ローラR4によって方向を変換させて移動可能にガイドされている。これらは駆動装置である。
そして、駆動モータMを正逆回転させることで、ワイヤー19を短い周期で押したり引いたりして整流板10を上下方向に振動させる。これによって、整流板10の底部10bに堆積した沈殿物を第二孔部13や底部10bの端部等から落下させて排出する。
【0025】
なお、傾斜沈降装置3の下面3aから垂下されている整流板10は間隔を開けて複数の支持杆18やワイヤー等で支持されており、整流板10を上下に振動させる第三の除去手段14Cも複数、例えば2基設置することが好ましい。また、第二、第三の除去手段14B、14Cにおいて、駆動手段として駆動モータで回転するカムとワイヤー19を用いてカムの回転で整流板10を振動させてもよい。
【0026】
図7(a)、(b)は第四の除去手段14Dを示すものである。
図7において、整流板10の各底部10bに堆積される沈殿物に対向する位置に水流噴射装置21がそれぞれ設置されている。整流板10の各底部10bに沈殿物が所定量以上堆積された状態で水流噴射装置21を作動して圧力水を各底部10bに吐出することで沈殿物を吹き飛ばし、各底部10bから落下させて排出する。
なお、除去手段は上記したものに限るものではない。例えば、整流板10に振動発生器を取り付けて振動によって沈殿物を除去しても良い。
【0027】
本第一実施形態による沈殿池1は上述した構成を有しており、次に図4に示す第一の除去手段14Aを例にとって原水の処理方法を説明する。
図1に示す沈殿池1において、整流壁2の流入孔を通過する原水は例えば流速0.6m/min程度で流れ、傾斜沈降装置3の下面3a側から各傾斜管4内に流入する。しかも、沈殿池1内の比較的低温の原水に対して整流壁2の流入孔を通過する新たな原水の温度が夏場等で高温である場合、水温差による密度流が発生して平均流速よりも高速の水流になり密度流が発生する。更に、傾斜沈降装置3の下面3aでは上流側領域Aの方が下流側領域Bよりも原水の流入量が多く、短絡流になり易い。
【0028】
本実施形態では、上流側領域Aに整流板10が設置されているため、一部の原水は整流板10の頂部10aの第一孔部12及び底部10bの第二孔部13を通って傾斜沈降装置3の各傾斜管4内に流入する。それ以外の原水は整流板10によって通過を規制されて下流側領域Bに流れて傾斜沈降装置3の各傾斜管4内に流入することになり、下流側領域Bの原水の流入量が増えて、傾斜沈降装置3内で原水が全体に均等に分散されて各傾斜管4の水路を上昇する。
そして、各傾斜管4内の水路で原水中のフロックが沈降分離され、上流側領域Aでは整流板10の底部10bの領域に落下する。原水からフロックを分離した処理水は十分に浄化されて清澄水として上澄み層5に送られる。このように整流板10により、上流側領域Aの一部の傾斜管4内を原水が集中的に上昇することを防止し、フロックを含む原水が上澄み層5から集水トラフ7に送られることを防止できる。そして、上澄み層5に送られた清澄水は集水トラフ7に流入して次の工程に送られる。
【0029】
原水から沈降分離したフロックは沈殿物として整流板10に降下し、一部の沈殿物は頂部10aの第一孔部12と底部10bの第二孔部13から排出され、残りの沈殿物は傾斜面10cを滑り落ちる等して底部10b上に堆積される。
整流板10の底部10bに堆積する沈殿物が所定量以上になった場合、図4に示す第一の除去手段14Aにより、整流板10のフロート16内の空気が吸排気装置17に排気される。すると、フロート16の浮力が低下するため、重量によって整流板10がヒンジ部15を中心に下方に回動して傾斜し、底部10bに堆積した沈殿物が底部10bの長手方向に沿って滑り落ちて下方に排出される。その後、吸排気装置17からフロート16内に空気を充填することで、整流板10を水平位置まで戻すことができる。
【0030】
上述したように本実施形態による沈殿池1によれば、傾斜沈降装置3の下面3aの上流側領域Aに第一孔部12及び第二孔部13を有する整流板10を設置したため、傾斜沈降装置3内に流入する原水の流量が規制され、フロックを含む原水が短絡流として集水トラフ7に侵入することを防止できる。また、残りの原水は下流側領域Bから傾斜沈降装置3内に流入するため、整流板10によって原水を傾斜沈降装置3の下面3a全域に均等に分散して流入させて上昇できる。そして、各傾斜管4内でフロックを沈降分離させた清澄水を集水トラフ7に流入させることができる。
また、原水から沈降分離したフロックは沈殿物として整流板10の底部10bに堆積され、フロート16及び吸排気装置17等の第一の除去手段14Aから第四の除去手段14Dのいずれかによって排出できる。しかも、整流板10は波型または山型に形成したため、高強度に形成できる。
【0031】
以上、本発明の実施形態による沈殿池1について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。なお、以下に、本発明の他の実施形態や変形例について説明するが、上述した実施形態と同一または同様な部材、部分には同一の符号を用いてその説明を省略する。
【0032】
図8は本発明の第二実施形態による沈殿池1に用いられる整流板25を示すものである。本第二実施形態では、整流板25は平板状に形成されており、傾斜沈降装置3の下面3aの上流側領域Aに設置された状態において、例えば傾斜沈降装置3の長手方向に沿って第一孔部26と第二孔部27が所定間隔で配列され、しかも幅方向に交互に且つ平行に配列されている。
本実施形態による整流板25を傾斜沈降装置3の下面3aの上流側領域Aに設置することで、上流側領域Aでの多量の原水による短絡流の発生を防止してフロックを沈降分離することができる。しかも、原水を傾斜沈降装置3の下面3a全域に均等に分散して傾斜沈降装置3の各傾斜管4内に流入させて上昇でき、沈降されないフロックを含む原水が集水トラフ7に侵入することを防止できる。
【0033】
なお、整流板10、25において、整流板の断面形状は波型や直線状に限定されることなく、適宜の断面形状のものを採用できる。また、各整流板10、25にパンチングメタル等で形成する孔部についても、孔部の形状は円形や長方形等に限定されるものではなく、適宜の形状を採用できる。しかも、整流板10、25の面積に対する孔部の面積の比は6%に限定されることなく、原水の流速や流量、沈降すべきフロックの量等に応じて適宜、増減調整することができる。
また、整流板10、25の孔部を上流側から下流側に向かって順次大きくして配置しても良い。さらに、整流板10、25の孔部を上流側から下流側に向かって順次多くして配置しても良い、これにより原水の通過水量を上流側から下流側に向かって多くすることができ、特に整流板10、25が長い場合には有効で、傾斜沈降装置3に流入する原水を高精度に均一化することができる。
【0034】
なお、上述した各実施形態において、整流板10、25によって短絡流が生じないように原水の流量や流速を規制できるため、傾斜沈降装置3の流出側の上澄み層5に阻流板6を設けなくてもよい。
また、整流板10、25は整流部材に含まれる。
【符号の説明】
【0035】
1 沈殿池
3 傾斜沈降装置
3a 下面
4 傾斜管
6 阻流板
7 集水トラフ
10、25 整流板
10a 頂部
10b 底部
10c 傾斜面
12、26 第一孔部
13、27 第二孔部
14A、14B、14C、14D 除去手段
16 フロート
17 吸排気装置
19 ワイヤー
21 水流噴射装置
A 上流側領域
B 下流側領域
M 駆動モータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9