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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】温度制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 23/19 20060101AFI20230105BHJP
【FI】
G05D23/19 J
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018246199
(22)【出願日】2018-12-27
(65)【公開番号】P2020107140
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】590000835
【氏名又は名称】株式会社KELK
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三村 和弘
(72)【発明者】
【氏名】小林 敦
【審査官】藤崎 詔夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-117827(JP,A)
【文献】特開2006-196766(JP,A)
【文献】特開2007-032273(JP,A)
【文献】特開平10-270453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 23/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流入する第1入口、前記第1入口から流入した前記流体が流通する平滑化流路、及び前記平滑化流路を流通した前記流体が流出する第1出口を有し、前記第1出口における前記流体の温度変動量を前記第1入口における前記流体の温度変動量よりも小さくする平滑器と、
前記第1出口から流出した前記流体が流入する第2入口、前記第2入口から流入した前記流体が流通する温調流路、前記温調流路を流通する前記流体の温度を調整する温調部、及び前記温調流路を流通した前記流体が流出する第2出口を有する温調器と、
前記平滑化流路に設定された第1位置において前記流体の温度を検出する第1温度センサと、
前記第2出口よりも下流の第2位置において前記流体の温度を検出する第2温度センサと、
前記第1温度センサの検出データに基づいて、前記温調部による温度調整量を算出するフィードフォワード制御部と、
前記第2温度センサの検出データに基づいて、前記温調部による温度調整量を算出するフィードバック制御部と、を備え
前記流体が前記第1位置から前記第2入口まで流通するのに要する流通所要時間は、前記温調部のむだ時間よりも長い、
温度制御装置。
【請求項2】
前記フィードフォワード制御部は、前記温調部のむだ時間を含む動特性と前記第1温度センサの動特性とに基づいて、前記温度調整量を算出する、
請求項1に記載の温度制御装置。
【請求項3】
前記フィードフォワード制御部は、前記第1温度センサの検出データとむだ時間を含む前記温調器の動特性と前記第1温度センサの動特性と前記流通所要時間とに基づいて、前記第1位置における前記流体の温度の目標温度に対する変動をキャンセルするように、前記温度調整量を算出する、
請求項に記載の温度制御装置。
【請求項4】
前記第1位置は、前記平滑化流路に設定される、
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の温度制御装置。
【請求項5】
前記平滑化流路は、屈曲部を有する、
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の温度制御装置。
【請求項6】
前記平滑化流路の内面は、凹凸部を含む、
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の温度制御装置。
【請求項7】
前記温調部は、熱電モジュールを含み、
前記温度調整量は、前記熱電モジュールによる吸熱量及び発熱量の少なくとも一方を含む、
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の温度制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置又は精密加工装置に係る技術分野において、特許文献1に開示されているような、ヒータにより温度調整された流体で対象物の温度を制御する温度制御装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-117827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている技術は、ヒータ(温調器)の上流にタンクを設置し、タンクの動特性をむだ時間及び1次遅れ系で近似して、タンク内の温度挙動を推定しようとしている。しかし、タンク内の流体の挙動は複雑であり、単純なむだ時間及び1次遅れ系で近似するのは難しい。このため、温度挙動の推定値は、望ましい結果を得られない可能性が高い。また、タンクの機能を満たすためには、タンクにはある程度の容積が必要であり、更には、タンクの上流に温度センサを設ける必要があるため、温度制御装置が非常に大型化してしまう。
【0005】
本発明の態様は、流体の温度を精度良く調整すること、さらに温度制御装置の大型化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様に従えば、流体が流入する第1入口、前記第1入口から流入した前記流体が流通する平滑化流路、及び前記平滑化流路を流通した前記流体が流出する第1出口を有し、前記第1出口における前記流体の温度変動量を前記第1入口における前記流体の温度変動量よりも小さくする平滑器と、前記第1出口から流出した前記流体が流入する第2入口、前記第2入口から流入した前記流体が流通する温調流路、前記温調流路を流通する前記流体の温度を調整する温調部、及び前記温調流路を流通した前記流体が流出する第2出口を有する温調器と、前記平滑化流路に設定された第1位置において前記流体の温度を検出する第1温度センサと、前記第2出口よりも下流の第2位置において前記流体の温度を検出する第2温度センサと、前記第1温度センサの検出データに基づいて、前記温調部による温度調整量を算出するフィードフォワード制御部と、前記第2温度センサの検出データに基づいて、前記温調部による温度調整量を算出するフィードバック制御部と、を備える温度制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の態様によれば、流体の温度を精度良く調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係る温度制御装置の一例を示す模式図である。
図2図2は、実施形態に係る平滑器の一例を示す断面図である。
図3図3は、実施形態に係る平滑化流路の一部を拡大した断面図である。
図4図4は、実施形態に係る温調器の一例を模式的に示す図である。
図5図5は、実施形態に係る温調部の一部を拡大した断面図である。
図6図6は、実施形態に係る温度制御方法の一例を示すフローチャートである。
図7図7は、温調器の動特性を示すブロック図である。
図8図8は、実施形態に係るコンピュータシステムの一例を示すブロック図である。
図9図9は、平滑器の性能試験結果を示す図である。
図10図10は、平滑器の性能試験結果を示す図である。
図11図11は、平滑器の性能試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されない。以下で説明する実施形態の構成要素は、適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。
【0010】
[温度制御装置]
図1は、実施形態に係る温度制御装置1の一例を示す模式図である。図1に示すように、温度制御装置1は、ポンプ2と、平滑器3と、温調器4と、第1温度センサ5と、第2温度センサ6と、フィードフォワード制御部7と、フィードバック制御部8と、出力部9と、記憶部10とを備える。
【0011】
ポンプ2は、流体Fを送出する。流体Fは、対象物の温度を調整するための温調用流体である。流体Fは、液体でもよいし気体でもよい。実施形態において、流体Fは、液体であることとする。
【0012】
平滑器3は、ポンプ2から供給された流体Fが流入する第1入口31と、第1入口31から流入した流体Fが流通する平滑化流路32と、平滑化流路32を流通した流体Fが流出する第1出口33とを有する。ポンプ2の出口と第1入口31とは、第1管11を介して接続される。ポンプ2から送出された流体Fは、第1管11を介して第1入口31に供給される。
【0013】
平滑器3は、平滑化流路32の作用により、第1出口33における流体Fの温度変動量ΔToutを、第1入口31における流体Fの温度変動量ΔTinよりも小さくする。第1入口31に流入する流体Fは、所定周期で温度変動している可能性がある。第1入口31に流入する流体Fが温度変動している場合、平滑化流路32は、流体Fの温度変動量ΔTを平滑化する。流体Fは、平滑化流路32を流通することにより撹拌される。流体Fが平滑化流路32において撹拌されることにより、流体Fの温度変動量ΔTは徐々に小さくなる。
【0014】
図2は、実施形態に係る平滑器3の一例を示す断面図である。図2に示すように、平滑器3は、本体部材30を有する。平滑化流路32は、本体部材30の内部に設けられる。第1入口31は、本体部材30の一端面に設けられる。第1出口33は、本体部材30の他端面に設けられる。平滑化流路32は、第1入口31と第1出口33とを結ぶ。
【0015】
平滑化流路32は、複数のストレート部32Aと、複数の屈曲部32Bとを含む。複数のストレート部32Aは、実質的に平行に配置される。屈曲部32Bは、隣り合うストレート部32Aの端部を接続する。第1入口31から平滑化流路32に流入した流体Fは、ストレート部32Aと屈曲部32Bとを交互に流通する。屈曲部32Bにおいて、流体Fの流通方向が反転する。流体Fの流通方向が反転することにより、流体Fは撹拌される。流体Fが撹拌されることにより、第1入口31において流体Fが温度変動していても、平滑化流路32を流通することにより、流体Fの温度変動量ΔTは徐々に小さくなる。これにより、第1出口33における流体Fの温度変動量ΔToutは、第1入口31における流体Fの温度変動量ΔTinよりも小さくなる。
【0016】
なお、平滑器3は、例えば第1の板部材の表面に平滑化流路32となる流路溝を形成した後、第1の板部材の表面に第2の板部材を接合することにより製造することができる。
【0017】
図3は、実施形態に係る平滑化流路32の一部を拡大した断面図である。図3は、図1のA-A断面図に相当する。図3に示すように、平滑化流路32の内面は、凹凸部34を含む。凹凸部34は、第1の板部材の表面に流路溝を形成した後、流路溝の内面を粗面処理することによって形成されてもよいし、流路溝の内面に微小な複数の溝を設けることによって形成されてもよい。平滑化流路32の内面に凹凸部34が設けられることにより、平滑化流路32を流通する流体Fの撹拌は促進される。これにより、平滑器3は、第1出口33における流体Fの温度変動量ΔToutを第1入口31における流体Fの温度変動量ΔTinよりも小さくすることができる。
【0018】
温調器4は、平滑器3の第1出口33から流出した流体Fが流入する第2入口41と、第2入口41から流入した流体Fが流通する温調流路42と、温調流路42を流通する流体Fの温度Tを調整する温調部50と、温調流路42を流通した流体Fが流出する第2出口43とを有する。第1出口33と第2入口41とは、第2管12を介して接続される。第1出口33から流出した流体Fは、第2管12を介して第2入口41に供給される。
【0019】
図4は、実施形態に係る温調器4の一例を模式的に示す図である。図4に示すように、温調器4は、本体部材40と、本体部材40に接続される温調部50と、温調部50に接続される熱交換板44と、温調部50を駆動する駆動回路45とを有する。
【0020】
温調流路42は、本体部材40の内部に設けられる。第2入口41は、本体部材40の一端面に設けられる。第2出口43は、本体部材40の他端面に設けられる。温調流路42は、第2入口41と第2出口43とを結ぶ。
【0021】
温調部50は、本体部材40を介して、温調流路42を流通する流体Fの温度Tを調整する。温調部50は、熱電モジュール60を含む。温調部50は、熱電モジュール60を用いて、流体Fの温度Tを調整する。
【0022】
熱電モジュール60は、吸熱又は発熱して、温調流路42を流通する流体Fの温度Tを調整する。熱電モジュール60は、電力の供給により吸熱又は発熱する。熱電モジュール60は、ペルチェ効果により、吸熱又は発熱する。
【0023】
熱交換板44は、温調部50と熱交換する。熱交換板44は、温調用流体が流通する内部流路(不図示)を有する。温調用流体は、流体温度制御装置(不図示)により温度調整された後、熱交換板44の内部流路に流入する。温調用流体は、内部流路を流通して、熱交換板44から熱を奪ったり、熱交換板44に熱を与えたりする。温調用流体は、内部流路から流出し、流体温度制御装置に戻される。
【0024】
図5は、実施形態に係る温調部50の一部を拡大した断面図である。図5に示すように、温調部50は、複数の熱電モジュール60と、複数の熱電モジュール60を収容するケース51とを有する。ケース51の一端面と本体部材40とが接続される。ケース51の他端面と熱交換板44とが接続される。
【0025】
熱電モジュール60は、第1電極61と、第2電極62と、熱電半導体素子63とを有する。熱電半導体素子63は、p型熱電半導体素子63Pと、n型熱電半導体素子63Nとを含む。第1電極61は、p型熱電半導体素子63P及びn型熱電半導体素子63Nのそれぞれに接続される。第2電極62は、p型熱電半導体素子63P及びn型熱電半導体素子63Nのそれぞれに接続される。第1電極61は、本体部材40に隣接する。第2電極62は、熱交換板44に隣接する。p型熱電半導体素子63Pの一方の端面及びn型熱電半導体素子63Nの一方の端面のそれぞれは、第1電極61に接続される。p型熱電半導体素子63Pの他方の端面及びn型熱電半導体素子63Nの他方の端面のそれぞれは、第2電極62に接続される。
【0026】
熱電モジュール60は、ペルチェ効果により、吸熱又は発熱する。駆動回路45は、熱電モジュール60を吸熱又は発熱させるための電力を熱電モジュール60に供給する。駆動回路45は、第1電極61と第2電極62との間に電位差を与える。第1電極61と第2電極62との間に電位差が与えられると、熱電半導体素子63において電荷が移動する。電荷の移動により、熱電半導体素子63において熱が移動する。これにより、熱電モジュール60は、吸熱又は発熱する。例えば、第1電極61が発熱し、第2電極62が吸熱するように、第1電極61と第2電極62との間に電位差が与えられると、温調流路42を流通する流体Fは加熱される。第1電極61が吸熱し、第2電極62が発熱するように、第1電極61と第2電極62との間に電位差が与えられると、温調流路42を流通する流体Fは冷却される。
【0027】
駆動回路45は、操作量MVを熱電モジュール60に与える電力(電位差)に変換する。駆動回路45により変換された電力が、熱電モジュール60に与えられる。熱電モジュール60に与えられる電力が調整されることにより、熱電モジュール60による吸熱量又は発熱量が調整される。熱電モジュール60による吸熱量又は発熱量が調整されることにより、温調流路42を流通する流体Fの温度が調整される。温調部50による流体Fの温度調整量は、熱電モジュール60による吸熱量及び発熱量の少なくとも一方を含む。
【0028】
第2出口43は、第3管13に接続される。温調部50により温度調整され、第2出口43から流出した流体Fは、第3管13を介して、対象物に供給される。対象物とは、温度制御装置1が温度制御する対象物をいう。
【0029】
第1温度センサ5は、第1出口33よりも上流の第1位置P1において、流体Fの温度Tinを検出する。実施形態において、第1位置P1は、平滑化流路32に設定される。すなわち、第1温度センサ5は、平滑器3に設けられ、平滑化流路32を流通する流体Fの温度Tinを検出する。
【0030】
第2温度センサ6は、第2出口43よりも下流の第2位置P2において、流体Fの温度Toutを検出する。実施形態において、第2位置P2は、第3管13に設定される。すなわち、第2温度センサ6は、第3管13に設けられ、第3管13を流通する流体Fの温度Toutを検出する。
【0031】
フィードフォワード制御部7は、第1温度センサ5の検出データに基づいて、温調部50による流体Fの温度調整量MVffを算出する。温度調整量MVffは、熱電モジュール60による吸熱量及び発熱量の少なくとも一方を含む。第1温度センサ5の検出データは、第1出口33よりも上流の第1位置P1における流体Fの温度Tinを示す。第1温度センサ5は、第1位置P1における流体Fの温度Tinを示す検出データをフィードフォワード制御部7に出力する。フィードフォワード制御部7は、第1温度センサ5の検出データに基づいて、温調部50が目標温度Trになるように、温調部50をフィードフォワード制御するための温度調整量MVffを算出する。
【0032】
フィードバック制御部8は、第2温度センサ6の検出データに基づいて、温調部50による流体Fの温度調整量MVfbを算出する。温度調整量MVfbは、熱電モジュール60による吸熱量及び発熱量の少なくとも一方を含む。第2温度センサ6の検出データは、第2出口43よりも下流の第2位置P2における流体Fの温度Toutを示す。第2温度センサ6は、第2位置P2における流体Fの温度Toutを示す検出データをフィードバック制御部8に出力する。フィードバック制御部8は、第2温度センサ6の検出データに基づいて、温調部50が目標温度Trになるように、温調部50をフィードバック制御するための温度調整量MVfbを算出する。
【0033】
出力部9は、フィードフォワード制御部7により算出された温調部50による温度調整量MVff、及びフィードバック制御部8により算出された温調部50による温度調整量MVfbに基づいて、温調部50を制御する操作量MVを出力する。出力部9は、駆動回路45に操作量MVを出力する。実施形態において、温調部50を制御するための操作量MVは、熱電モジュール60に与える電力(電位差)に変換される。
【0034】
駆動回路45は、出力部9から出力された操作量MVを取得する。駆動回路45は、操作量MVから変換された電力に基づいて、熱電モジュール60を調整する。
【0035】
実施形態において、フィードフォワード制御部7は、第1温度センサ5の検出データと、温調部50のむだ時間Lを含む動特性と第1温度センサの動特性とに基づいて、温調部50による流体Fの温度調整量MVffを算出する。
【0036】
むだ時間Lとは、出力部9から出力された制御信号が温調部50の駆動回路45に入力された時点から温調部50から温度として出力されるまでの伝達の遅れ時間をいう。
【0037】
温調部50の動特性に起因して、温調部50の目標温度Trにするための制御信号が駆動回路45に入力された時点から温調部50が目標温度Trに到達する時点までの間にむだ時間Lが発生する可能性がある。フィードフォワード制御部7は、温調部50のむだ時間Lを考慮して、温度調整量MVffを算出する。温調部50のむだ時間Lは、例えば温調部50の諸元データから導出可能な既知データであり、記憶部10に予め記憶されている。なお、温調部50のむだ時間Lが、予備実験又はシミュレーションにより導出され、記憶部10に予め記憶されてもよい。フィードフォワード制御部7は、記憶部10から、温調部50のむだ時間Lを取得する。フィードフォワード制御部7は、記憶部10から取得したむだ時間Lに基づいて、温度調整量MVffを算出する。
【0038】
実施形態において、流体Fが第1位置P1から第2入口41まで流通するのに要する流通所要時間FTは、むだ時間Lよりも長い。すなわち、第1温度センサ5が設置される第1位置P1は、流通所要時間FTがむだ時間Lよりも長くなるように設定される。
【0039】
例えば、第1位置P1と第2入口41との間の流路の容積をV(L)とし、ポンプ2から送出される流体Fの流量をQ(L/min)としたとき、流通所要時間FT(sec.)は、以下の(1)式で表わされる。
【0040】
【数1】
【0041】
なお、実施形態において、第1位置P1と第2入口41との間の流路の容積は、平滑化流路32の一部の容積と第2管12の流路の容積との和である。例えば、第1位置P1が第1入口31に設定されている場合、第1位置P1と第2入口41との間の流路の容積は、平滑化流路32の全部の容積と第2管12の流路の容積との和である。
【0042】
フィードフォワード制御部7は、第1温度センサ5の検出データとむだ時間Lを含む温調器4の動特性と第1温度センサ5の動特性と流通所要時間FTとに基づいて、流体Fの温度Tinの目標温度Trに対する変動をキャンセルするように、温度調整量MVffを算出する。
【0043】
[温度制御方法]
次に、温度制御装置1による温度制御方法について説明する。図6は、実施形態に係る温度制御方法の一例を示すフローチャートである。
【0044】
ポンプ2は流体Fを送出する。ポンプ2から送出された流体Fは、第1管11を流通した後、第1入口31を介して平滑器3の平滑化流路32に流入する。平滑化流路32を流通した流体Fは、第1出口33から流出し、第2管12を流通した後、第2入口41を介して温調器4の温調流路42に流入する。温調流路42を流通した流体Fは、第2出口43から流出し、第3管13を流通した後、対象物に供給される。
【0045】
第1温度センサ5は、第1出口33よりも上流の第1位置P1において、流体Fの温度Tinを検出する。第1温度センサ5は、温調器4により温度調整される前の流体Fの温度Tinを検出する。第1温度センサ5の検出データは、フィードフォワード制御部7に出力される。フィードフォワード制御部7は、第1温度センサ5の検出データを取得する(ステップSF1)。
【0046】
フィードフォワード制御部7は、第1温度センサ5の検出データと記憶部10に記憶されているむだ時間Lを含む温調器4の動特性と第1温度センサ5の動特性と流通所要時間FTとに基づいて、温調部50による温度調整量MVffを算出する(ステップSF2)。
【0047】
フィードフォワード制御部7は、第1温度センサ5の検出データとむだ時間Lを含む温調器4の動特性と第1温度センサ5の動特性と流通所要時間FTとに基づいて、流体Fの温度Tinの目標温度Trに対する変動をキャンセルするように、温度調整量MVffを算出する。
【0048】
図7は、温調器4の動特性を示すブロック図である。図7に示すように、温調器4の動特性は、温調器4を流通する流体Fの動特性G(s)と、温調部50の動特性G(s)の和となる。図7において、Tinは、温調器4の入口41Jよりも上流の第1位置P1Jにおける流体Fの温度であり、Toutは、温調器4の出口43Jよりも下流の第2位置P2Jにおける流体Fの温度である。MVは、温調部50の操作量である。
【0049】
温調器4に供給される前の流体Fが温度変動することは、温度変動を示す外乱dが温度Tinに付与されることを意味する。フィードフォワード制御部7の動特性をGff(s)とした場合、以下の(2)式が成立する。(2)式において、Gts1(s)は、第1温度センサ5の動特性である。
【0050】
【数2】
【0051】
(2)式より、フィードフォワード制御部7の動特性Gff(s)は、以下の(3)式で表わされる。
【0052】
【数3】
【0053】
温調部50の動特性G(s)にむだ時間L(sec.)が存在する場合、動特性G(s)は、以下の(4)式で表わされる。
【0054】
【数4】
【0055】
したがって、動特性G(s)にむだ時間L(sec.)が存在する場合、フィードフォワード制御部7の動特性Gff(s)は、以下の(5)式で表わされる。
【0056】
【数5】
【0057】
(5)式において、eLsは未来の動特性を表わすため、(5)式に示す動特性Gff(s)は、フィードフォワード制御部7の動特性として成立しない。そのため、フィードフォワード制御部7の動特性Gff(s)は、以下の(6)式のようなむだ時間Lを無視した近似式で表わされる。
【0058】
【数6】
【0059】
(6)式は、実際には温調部50にむだ時間Lが存在するにもかかわらず、むだ時間Lを無視した近似式である。(6)式のような近似式で表わされるフィードフォワード制御部7でフィードフォワード制御した場合、むだ時間Lが流通所要時間FTよりも長いと、温調部50による流体Fの温度制御が間に合わない可能性がある。
【0060】
実施形態においては、流通所要時間FTは、むだ時間Lよりも長い。したがって、フィードフォワード制御部7は、以下の(7)式に示す動特性Gff(s)を算出する。
【0061】
【数7】
【0062】
フィードフォワード制御部7は、(7)式によってむだ時間の近似なしで、温度調整量MVffを算出することができる。
【0063】
第2温度センサ6は、第2出口43よりも下流の第2位置P2において、流体Fの温度Toutを検出する。第2温度センサ6は、温調器4により温度調整された後の流体Fの温度Toutを検出する。第2温度センサ6の検出データは、フィードバック制御部8に出力される。フィードバック制御部8は、第2温度センサ6の検出データを取得する(ステップSB1)。
【0064】
フィードバック制御部8は、第2温度センサ6の検出データに基づいて、温調部50による温度調整量MVfbを算出する(ステップSB2)。
【0065】
出力部9は、ステップSF2において算出された温度調整量MVffと、ステップSB2において算出された温度調整量MVfbとに基づいて、温調部50を目標温度Trにするための操作量MVを算出し、電力に換算した制御信号を駆動回路45に出力する(ステップS3)。
【0066】
駆動回路45は、出力部9から出力された電力に換算した制御信号を取得する。駆動回路45は、制御信号に基づいて、熱電モジュール60に与える操作量MV(電力)を調整する。
【0067】
[効果]
以上説明したように、実施形態によれば、平滑器3が設けられることにより、温調器4に供給される流体Fの温度変動が抑制される。また、実施形態によれば、フィードフォワード制御部7によるフィードフォワード制御とフィードバック制御部8によるフィードバック制御とが組み合わせられる。フィードフォワード制御が実行されることにより、温調部50を高い応答性で制御することができる。これにより、流体Fの温度は精度良く調整される。
【0068】
例えば温調器4の上流に単にタンクを設けた場合、タンクの内部における流体Fの挙動は複雑であるため、むだ時間要素及び一時遅れ系要素を含む推定モデルでタンクをモデリングすることは困難である。その結果、むだ時間Lを十分に考慮したフィードフォワード制御をすることが困難である。
【0069】
実施形態によれば、温調器4の上流に平滑器3が設けられる。平滑器3は、平滑化流路32を有する。平滑化流路32の内部における流体Fの挙動は、タンクの内部に比べて単純であるため、むだ時間要素及び一時遅れ系要素を含む推定モデルで平滑器3をモデリングすることができる。したがって、フィードフォワード制御部7は、むだ時間Lを十分に考慮したフィードフォワード制御をすることができる。
【0070】
流体Fが第1位置P1から第2入口41まで流通するのに要する流通所要時間FTは、温調部50のむだ時間Lよりも長い。すなわち、第1温度センサ5が設置される第1位置P1は、流通所要時間FTがむだ時間Lよりも長くなるように設定される。これにより、フィードフォワード制御部7は、第1温度センサ5の検出データ及びむだ時間Lに基づいて、第1温度センサ5によって温度Tinを検出された第1位置P1の流体Fが第2入口41に到達する前に、温調部50が目標温度Trになるように、温度調整量MVffを算出することができる。
【0071】
実施形態において、第1位置P1は、平滑化流路32に設定される。すなわち、第1温度センサ5は、平滑器3に設けられる。これにより、温度制御装置1の大型化が抑制される。
【0072】
実施形態において、平滑化流路32は、屈曲部32Bを有する。流体Fは屈曲部32Bにおいて撹拌されるので、温度変動量ΔToutを小さくすることができる。平滑化流路32に屈曲部32Bが複数設けられることにより、流体Fは十分に撹拌される。また、平滑化流路32に屈曲部32Bが複数設けられることにより、平滑器3の大型化を抑制しつつ、第1位置P1から第2入口41までの流路の長さを長くすることができる。すなわち、平滑器3の大型化を抑制しつつ、流通所要時間FTを長くすることができる。
【0073】
平滑化流路32の内面は、凹凸部34を含む。凹凸部34が設けられることにより、流体Fに乱流が生成される。これにより、流体Fは撹拌されるので、温度変動量ΔToutを小さくすることができる。
【0074】
[コンピュータシステム]
図8は、実施形態に係るコンピュータシステム1000の一例を示すブロック図である。フィードフォワード制御部7、フィードバック制御部8、出力部9、及び記憶部10のそれぞれは、コンピュータシステム1000を含む。コンピュータシステム1000は、CPU(Central Processing Unit)のようなプロセッサ1001と、ROM(Read Only Memory)のような不揮発性メモリ及びRAM(Random Access Memory)のような揮発性メモリを含むメインメモリ1002と、ストレージ1003と、入出力回路を含むインターフェース1004とを有する。上述のフィードフォワード制御部7、フィードバック制御部8、出力部9、及び記憶部10のそれぞれの機能は、プログラムとしてストレージ1003に記憶されている。プロセッサ1001は、プログラムをストレージ1003から読み出してメインメモリ1002に展開し、プログラムに従って上述の処理を実行する。なお、プログラムは、ネットワークを介してコンピュータシステム1000に配信されてもよい。
【0075】
コンピュータシステム1000は、上述の実施形態に従って、第1温度センサ5の検出データに基づいて、温調部50による温度調整量MVffを算出することと、第2温度センサ6の検出データに基づいて、温調部50による温度調整量MVfbを算出することと、温度調整量MVff及び温度調整量MVfbに基づいて、駆動回路45に制御信号を出力することと、を実行することができる。
【0076】
なお、フィードフォワード制御部7、フィードバック制御部8、出力部9、及び記憶部10の一部又は全部が、単一のコンピュータシステム1000によって構成されてもよいし、フィードフォワード制御部7、フィードバック制御部8、出力部9、及び記憶部10のそれぞれが、異なるコンピュータシステム1000によって構成されてもよい。
【0077】
[性能試験結果]
次に、平滑器3の性能を確認するために実施した性能試験の結果について説明する。図1に示したように、ポンプ2、平滑器3、及び温調器4を備える温度制御装置1について性能試験を行った。
【0078】
性能試験においては、平滑器3の第1入口31に流入する流体Fに所定の周期で所定の温度変動量ΔTinを与えた。以後、温度変動量ΔTは振幅で示す。具体的には、周期が10秒で温度変動量ΔTinが約0.5℃の温度変動を示す外乱dを第1入口31に流入する流体Fに与えた。そして、平滑器3の第1入口31に設定された第1計測位置MP1、平滑器3の第1出口33に設定された第2計測位置MP2、及び温調器4の第2出口43に設定された第3計測位置MP3のそれぞれにおいて、温度変動量ΔTを計測した。
【0079】
また、性能試験においては、3つの制御方法のそれぞれで温度制御装置1を制御したときの流体Fの温度変動量ΔTを計測した。第1の制御方法は、フィードバック制御部8によるフィードバック制御が実行され、フィードフォワード制御部7によるフィードフォワード制御は実行されない制御方法である。第2の制御方法及び第3の制御方法は、フィードフォワード制御部7によるフィードフォワード制御及びフィードバック制御部8によるフィードバック制御が実行される制御方法である。第2の制御方法においては、第1温度センサ5が設置される第1位置P1が第1出口33の近傍の平滑化流路32に設定される。第3の制御方法においては、第1温度センサ5が設置される第1位置P1が第1入口31の近傍の平滑化流路32に設定される。
【0080】
図9図10、及び図11のそれぞれは、平滑器3の性能試験結果を示す図である。図9は、第1の制御方法における平滑器3の性能試験結果を示す図である。図10は、第2の制御方法における平滑器3の性能試験結果を示す図である。図11は、第3の制御方法における平滑器3の性能試験結果を示す図である。図9図10、及び図11のそれぞれに示すグラフにおいて、横軸は時間であり、縦軸は温度(温度変動量ΔT)である。ラインMP1は第1計測位置MP1における温度変動量ΔTを示し、ラインMP2は第2計測位置MP2における温度変動量ΔTを示し、ラインMP3は第3計測位置MP3における温度変動量ΔTを示す。
【0081】
図9図10、及び図11のラインMP1で示すように、第1入口31において周期が10秒で温度変動量ΔTinが約0.5℃の温度変動を流体Fに与えた場合、ラインMP2で示すように、第1出口33においては温度変動量ΔTが約0.3℃に抑えられていることを確認できた。すなわち、平滑器3は、第1出口33における流体Fの温度変動量ΔTを第1入口31における流体Fの温度変動量ΔTinよりも小さくすることができることを確認できた。
【0082】
図9に示すように、第1の制御方法の場合、第3計測位置MP3における温度変動量ΔTは、約0.2℃である。図10に示すように、第2の制御方法の場合、第3計測位置MP3における温度変動量ΔTは、約0.07℃である。図11に示すように、第3の制御方法の場合、第3計測位置MP3における温度変動量ΔTは、約0.005℃である。
【0083】
図9図10及び図11との比較結果から分かるように、フィードバック制御のみが実行されるよりも、フィードフォワード制御及びフィードバック制御の両方が実行されることにより、温調器4で温度調整された後の流体Fの温度変動量ΔTを抑制できることが確認できた。
【0084】
また、図10図11との比較結果から分かるように、第1温度センサ5が設置される第1位置P1と第2入口41との距離が長いほど、すなわち、流通所要時間FTが長いほど、温調器4で温度調整された後の流体Fの温度変動量ΔTを抑制できることが確認できた。
【0085】
[その他の実施形態]
上述の実施形態においては、第1温度センサ5は、平滑器3に設けられ、平滑化流路32を流通する流体Fの温度を検出することとした。第1温度センサ5は、第1入口31に設けられ、第1入口31に流入する流体Fの温度Tを検出してもよい。第1温度センサ5は、第1管11に設けられ、第1管11を流通する流体Fの温度Tを検出してもよい。
【符号の説明】
【0086】
1…温度制御装置、2…ポンプ、3…平滑器、4…温調器、5…第1温度センサ、6…第2温度センサ、7…フィードフォワード制御部、8…フィードバック制御部、9…出力部、10…記憶部、11…第1管、12…第2管、13…第3管、30…本体部材、31…第1入口、32…平滑化流路、32A…ストレート部、32B…屈曲部、33…第1出口、34…凹凸部、40…本体部材、41…第2入口、42…温調流路、43…第2出口、44…熱交換板、45…駆動回路、50…温調部、51…ケース、60…熱電モジュール、61…第1電極、62…第2電極、63…熱電半導体素子、63N…n型熱電半導体素子、63P…p型熱電半導体素子、F…流体。
図1
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