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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】磁気センサおよび磁気センサシステム
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/02 20060101AFI20230105BHJP
   H10N 50/00 20230101ALI20230105BHJP
【FI】
G01R33/02 D
H01L43/00
G01R33/02 V
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019027763
(22)【出願日】2019-02-19
(65)【公開番号】P2020134301
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149113
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 謹矢
(72)【発明者】
【氏名】篠 竜徳
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 大三
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/230116(WO,A1)
【文献】特開平08-330644(JP,A)
【文献】特開2020-060523(JP,A)
【文献】特開2000-193728(JP,A)
【文献】特開2000-019034(JP,A)
【文献】国際公開第2008/088021(WO,A1)
【文献】国際公開第2003/009403(WO,A1)
【文献】米国特許第05491604(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/02
H01L 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電体で構成される導電層と、
誘電体で構成され、前記導電層に積層される誘電体層と、
前記誘電体層上に積層される複数の軟磁性体層と、複数の当該軟磁性体層の間に積層され当該軟磁性体層と比べて導電性が高い高導電層とを備え、長手方向と短手方向とを有し、当該長手方向と交差する方向に一軸磁気異方性を有し、磁気インピーダンス効果により磁界を感受する感受素子を有する感受部と
を備え
前記感受部は、前記誘電体層上で並列に配置される複数の前記感受素子を備える第1感受部と、当該誘電体層上で並列に配置される複数の当該感受素子を備え、当該第1感受部とは絶縁された第2感受部とを備え、複数の当該感受素子が櫛歯状に接続された当該第1感受部と当該第2感受部とがかみ合った形状を有していることを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
前記感受素子に高周波電流が供給された場合に、当該感受素子が感受する磁界の変化量に応じて静電容量が変化することを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記導電層は、硬磁性体で構成され、面内方向に磁気異方性を有し、
前記感受部の前記感受素子は、前記長手方向が前記導電層の発生する磁界の方向を向くことを特徴とする請求項1または2に記載の磁気センサ。
【請求項4】
前記感受素子の前記長手方向の端部に対向するように前記誘電体層上に積層され、前記導電層の発生する磁束が当該感受素子を当該長手方向に透過するように誘導する一対のヨークをさらに備え、
前記ヨークは、複数の前記軟磁性体層と、当該軟磁性体層の間に積層される前記高導電層とを備えることを特徴とする請求項3に記載の磁気センサ。
【請求項5】
導電体で構成される導電層と、誘電体で構成され、当該導電層に積層される誘電体層と、当該誘電体層上に積層される複数の軟磁性体層、及び複数の当該軟磁性体層の間に積層され当該軟磁性体層と比べて導電性が高い高導電層を備え、長手方向と短手方向とを有し、当該長手方向と交差する方向に一軸磁気異方性を有し、磁気インピーダンス効果により磁界を感受する感受素子と、を備える磁気センサと、
前記感受素子が感受する磁界の変化量に応じて変化する、前記磁気センサが有する静電容量の変化量に基づいて、当該感受素子が感受する磁界の変化量を算出する磁界算出部と
を備える磁気センサシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサおよび磁気センサシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
公報記載の従来技術として、非磁性基板上に形成された硬磁性体膜からなる薄膜磁石と、前記薄膜磁石の上を覆う絶縁層と、前記絶縁層上に形成された一軸異方性を付与された一個または複数個の長方形状の軟磁性体膜からなる感磁部とを備えた磁気インピーダンス効果素子が存在する(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-249406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、磁気インピーダンス効果により磁界を感受する感受素子と、感受素子にバイアス磁界を付与するための薄膜磁石とによって、誘電体層が挟まれた構造を有する磁気センサは、感受素子に高周波電流を供給すると、誘電体層が分極し、静電容量を有するコンデンサとしてはたらく場合がある。この磁気センサのコンデンサとしての性質を用いて、磁界の変化を検出する技術が提案されている。
【0005】
ところで、磁気インピーダンス効果により磁界を感受する感受素子を備えた磁気センサでは、感受素子に供給する電流が高周波領域である場合に感度が低下する場合がある。コンデンサとしての性質を用いた磁気センサについても同様の傾向がみられる。
【0006】
本発明は、コンデンサとしての性質を用いて磁界を検出可能な磁気センサおよび磁気センサシステムにおいて、感度の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明が適用される磁気センサは、導電体で構成される導電層と、誘電体で構成され、前記導電層に積層される誘電体層と、前記誘電体層上に積層される複数の軟磁性体層と、複数の当該軟磁性体層の間に積層され当該軟磁性体層と比べて導電性が高い高導電層とを備え、長手方向と短手方向とを有し、当該長手方向と交差する方向に一軸磁気異方性を有し、磁気インピーダンス効果により磁界を感受する感受素子を有する感受部とを備え、前記感受部は、前記誘電体層上で並列に配置される複数の前記感受素子を備える第1感受部と、当該誘電体層上で並列に配置される複数の当該感受素子を備え、当該第1感受部とは絶縁された第2感受部とを備え、複数の当該感受素子が櫛歯状に接続された当該第1感受部と当該第2感受部とがかみ合った形状を有していることを特徴とする
ここで、前記感受素子に高周波電流が供給された場合に、当該感受素子が感受する磁界の変化量に応じて静電容量が変化することを特徴とすることができる。
また、前記導電層は、硬磁性体で構成され、面内方向に磁気異方性を有し、前記感受部の前記感受素子は、前記長手方向が前記導電層の発生する磁界の方向を向くことを特徴とすることができる。
さらに、前記感受素子の前記長手方向の端部に対向するように前記誘電体層上に積層され、前記導電層の発生する磁束が当該感受素子を当該長手方向に透過するように誘導する一対のヨークをさらに備え、前記ヨークは、複数の前記軟磁性体層と、当該軟磁性体層の間に積層される前記高導電層とを備えることを特徴とすることができる。
さらに、他の観点から捉えると、本発明が適用される磁気センサシステムは、導電体で構成される導電層と、誘電体で構成され、当該導電層に積層される誘電体層と、当該誘電体層上に積層される複数の軟磁性体層、及び複数の当該軟磁性体層の間に積層され当該軟磁性体層と比べて導電性が高い高導電層を備え、長手方向と短手方向とを有し、当該長手方向と交差する方向に一軸磁気異方性を有し、磁気インピーダンス効果により磁界を感受する感受素子と、を備える磁気センサと、前記感受素子が感受する磁界の変化量に応じて変化する、前記磁気センサが有する静電容量の変化量に基づいて、当該感受素子が感受する磁界の変化量を算出する磁界算出部とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コンデンサとしての性質を用いて磁界を検出可能な磁気センサおよび磁気センサシステムにおいて、感度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施の形態が適用される磁気センサシステムを説明する図である。
図2】本実施の形態が適用される磁気センサの一例を説明する図である。
図3】本実施の形態が適用される磁気センサの一例を説明する図である。
図4】磁気センサの感受部における感受素子の長手方向に印加された磁界と磁気センサの静電容量との関係を説明する図である。
図5】(a)~(e)は、磁気センサの製造方法の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
(磁気センサシステム500の構成)
図1は、本実施の形態が適用される磁気センサシステム500を説明する図である。磁気センサシステム500は、発振回路部510と、発振回路部510から発振される交流電流の周波数を測定する周波数測定部530と、周波数測定部530により測定された発振周波数に基づいて、後述する磁気センサ1で感受する磁界または磁界の変化を算出する磁界算出部550とを備えている。
【0011】
図1に示すように、発振回路部510は、所謂磁気インピーダンス効果を用いた磁気センサ1と、磁気センサ1に直列接続され磁気センサ1とともにLC共振回路を構成するコイル513と、磁気センサ1およびコイル513に高周波電流を供給する高周波供給部515とを備えている。
詳細については後述するが、本実施の形態の発振回路部510では、磁気センサ1が静電容量Cを有するコンデンサとして機能する。また、コイル513がインダクタンスLを有するインダクタとして機能する。そして、発振回路部510は、高周波供給部515により高周波電流が供給されることで、磁気センサ1で感受される磁界に対応する周波数の交流電流を発振する。
【0012】
周波数測定部530は、例えば水晶振動子等を用いた既存の周波数カウンタにより構成される。そして、周波数測定部530は、発振回路部510から発振された交流電流の周波数を測定し、磁界算出部550に出力する。
【0013】
磁界算出部550は、周波数測定部530から取得した周波数に基づいて、磁気センサ1で感受される外部磁界または外部磁界の変化を算出する。詳細については後述するが、磁界算出部550は、磁気センサ1の静電容量Cと磁気センサ1で感受される磁界の強さとの関係を記憶している。そして、磁界算出部550は、周波数測定部530にて測定された周波数から磁気センサ1の静電容量Cを算出し、静電容量Cに基づいて磁気センサ1で感受される磁界または磁界の変化を算出する。
【0014】
(磁気センサ1の構成)
図2図3は、本実施の形態が適用される磁気センサ1の一例を説明する図である。図2は、磁気センサ1の平面図、図3は、図2におけるIII-III線での断面図である。
図3に示すように、実施の形態1が適用される磁気センサ1は、非磁性の基板10上に設けられた硬磁性体(硬磁性体層103)で構成された薄膜磁石20と、薄膜磁石20に対向して積層され、軟磁性体(下層軟磁性体層105a、上層軟磁性体層105b)および軟磁性体層105と比べて導電性の高い導電体(高導電層106)で構成されて磁場を感受する感受部30とを備える。以下の説明では、二層の軟磁性体層(下層軟磁性体層105a、上層軟磁性体層105b)をそれぞれ区別しない場合には、単に軟磁性体層105と表記する。
なお、磁気センサ1の断面構造については、後に詳述する。
【0015】
ここで硬磁性体とは、外部磁界によって磁化されると、外部磁界を取り除いても磁化された状態が保持される、いわゆる保磁力の大きい材料である。一方、軟磁性体とは、外部磁界によって容易に磁化されるが、外部磁界を取り除くと速やかに磁化がないか又は磁化が小さい状態に戻る、いわゆる保磁力の小さい材料である。
【0016】
なお、本明細書においては、磁気センサ1を構成する要素(薄膜磁石20など)を二桁の数字で表し、要素に加工される層(硬磁性体層103など)を100番台の数字で表す。そして、要素の数字に対して、要素に加工される層の番号を( )内に表記する。例えば薄膜磁石20の場合、薄膜磁石20(硬磁性体層103)と表記する。図においては、20(103)と表記する。他の場合も同様である。
【0017】
図2により、磁気センサ1の平面構造を説明する。磁気センサ1は、一例として四角形の平面形状を有する。ここでは、磁気センサ1の最上部に形成された感受部30及びヨーク40を説明する。感受部30は、それぞれが櫛歯形状を有する第1感受部30Aと第2感受部30Bとが互いにかみ合った形状を有している。
【0018】
第1感受部30Aは、平面形状が長手方向と短手方向とを有する短冊状である複数の感受素子31aと、後述する感受素子31bを挟んで隣接する感受素子31aを並列に接続する接続部32aと、電流供給のための電線が接続される端子部33aとを備える。同様に、第2感受部30Bは、複数の感受素子31bと、感受素子31aを挟んで隣接する感受素子31bを並列に接続する接続部32bと、電流供給のための電線が接続される端子部33bとを備える。
感受素子31aおよび感受素子31bが磁気インピーダンス効果素子である。この例では、第1感受部30Aを構成する8個の感受素子31aと、第2感受部30Bを構成する8個の感受素子31bとが、短手方向に交互に配置されている。
【0019】
なお、以下では、第1感受部30Aと第2感受部30Bとを区別しない場合には、単に感受部30と表記する場合がある。同様に、第1感受部30Aを構成する感受素子31a、接続部32a、端子部33aと、第2感受部30Bを構成する感受素子31b、接続部32b、端子部33bを区別しない場合には、それぞれ、単に感受素子31、接続部32、端子部33と表記する場合がある。
【0020】
本実施の形態では、第1感受部30Aの感受素子31aと、第2感受部30Bの感受素子31bとは、間隙を介して配置されており、接続部32等によって接続されていない。これにより、磁気センサ1では、第1感受部30Aの端子部33aから、第2感受部30Bの端子部33bに至る回路において、直流電流が流れないようになっている。言い換えると、第1感受部30Aと第2感受部30Bとの間の直流抵抗が無限大となっている。
また、端子部33を介して第1感受部30Aおよび第2感受部30Bに高周波電流を供給した場合には、誘電体層104が分極することで、誘電体層104を介して第1感受部30Aと第2感受部30Bとの間で高周波電流が流れるようになっている。
【0021】
本実施の形態では、感受部30が、間隙を介して配置される第1感受部30Aと第2感受部30Bとを有し直流電流は流れず高周波電流は流れるという構成を有することで、磁気センサ1を含む発振回路部510(図1参照)の回路設計の自由度が向上する。
また、感受部30が直流電流は流れず高周波電流は流れるという構成を有することで、発振回路部510において、高周波供給部515から供給される高周波電流を用いることができる。
【0022】
感受素子31は、例えば長手方向の長さが約1mm、短手方向の幅が数100μm、厚さ(軟磁性体層105の厚さ)が0.5μm~5μmである。感受素子31同士の間隔(第1感受部30Aの感受素子31aと第2感受部30Bの感受素子31bとの間隔)は、50μm~150μmである。
なお、それぞれの感受素子31の大きさ(長さ、面積、厚さ等)、感受素子31の数、感受素子31同士の間隔等は、感受(計測)したい磁界の大きさや後述する静電容量Cの大きさなどによって設定される。
【0023】
第1感受部30Aの接続部32aは、感受素子31aの右側の端部に設けられている。そして、接続部32aは、複数の感受素子31aを櫛歯状に並列接続する。また、第2感受部30Bの接続部32bは、感受素子31bの左側の端部に設けられている。そして、接続部32bは、複数の感受素子31bを櫛歯状に並列に接続する。
【0024】
第1感受部30Aの端子部33aは、接続部32aの図2における上側の端部に設けられている。端子部33aは、接続部32aから引き出す引き出し部と、電流を供給する電線を接続するパッド部とを備える。また、第2感受部30Bの端子部33bは、図2における下側に位置する感受素子31bの右側の端部に設けられている。端子部33bは、感受素子31bから引き出す引き出し部と、電流を供給する電線を接続するパッド部とを備える。端子部33は、引き出し部を設けずパッド部を接続部32aまたは感受素子31bに連続するように設けてもよい。パッド部は、電線を接続しうる大きさであればよい。端子部33a及び端子部33bの位置は、図2に示した位置に限定されず、それぞれ第1感受部30A及び第2感受部30Bに電流を供給できる位置であればよい。
【0025】
そして、感受部30の感受素子31、接続部32及び端子部33は、二層の軟磁性体層105(下層軟磁性体層105a、上層軟磁性体層105b)と高導電層106とにより一体に構成されている。
なお、感受素子31(感受素子31a、31b)の長さ及び幅、並列させる個数など上記した数値は一例であって、感受(計測)する磁界の値や用いる軟磁性体材料などによって変更してもよい。
【0026】
さらに、磁気センサ1は、感受素子31の長手方向の端部に対向して設けられたヨーク40を備える。ここでは、感受素子31の長手方向の両端部に対向してそれぞれが設けられた2個のヨーク40a、40bを備える。なお、ヨーク40a、40bをそれぞれ区別しない場合には、ヨーク40と表記する。ヨーク40は、感受素子31の長手方向の端部に磁力線を誘導する。このため、ヨーク40は磁力線が透過しやすい軟磁性体(軟磁性体層105)を含んで構成されている。この例では、感受部30及びヨーク40は、二層の軟磁性体層105(下層軟磁性体層105a、上層軟磁性体層105b)と高導電層106とにより構成されている。なお、感受素子31の長手方向に磁力線が十分透過する場合には、ヨーク40を備えなくてもよい。
【0027】
磁気センサ1の大きさは、平面形状において数mm角である。なお、磁気センサ1の大きさは、他の値であってもよい。
【0028】
次に、図3により、磁気センサ1の断面構造を説明する。磁気センサ1は、非磁性の基板10上に、密着層101、制御層102、硬磁性体層103(薄膜磁石20)、誘電体層104、軟磁性体層105と高導電層106とからなる感受部30及びヨーク40が、この順に配置(積層)されて構成されている。
【0029】
基板10は、非磁性体からなる基板であって、例えばガラス、サファイアといった酸化物基板やシリコン等の半導体基板、あるいは、アルミニウム、ステンレススティール、ニッケルリンメッキを施した金属等の金属基板等が挙げられる。
密着層101は、基板10に対する制御層102の密着性を向上させるための層である。密着層101としては、Cr又はNiを含む合金を用いるのがよい。Cr又はNiを含む合金としては、CrTi、CrTa、NiTa等が挙げられる。密着層101の厚さは、例えば5nm~50nmである。なお、基板10に対する制御層102の密着性に問題がなければ、密着層101を設けることを要しない。なお、本明細書においては、Cr又はNiを含む合金の組成比を示さない。以下同様である。
【0030】
制御層102は、硬磁性体層103で構成される薄膜磁石20の磁気異方性が膜の面内方向に発現しやすいように制御する層である。制御層102としては、Cr、Mo若しくはW又はそれらを含む合金(以下では、制御層102を構成するCr等を含む合金と表記する。)を用いるのがよい。制御層102を構成するCr等を含む合金としては、CrTi、CrMo、CrV、CrW等が挙げられる。制御層102の厚さは、例えば10nm~300nmである。
【0031】
薄膜磁石20を構成する硬磁性体層103は、Coを主成分とし、Cr又はPtのいずれか一方又は両方を含む合金(以下では、薄膜磁石20を構成するCo合金と表記する。)を用いることがよい。薄膜磁石20を構成するCo合金としては、CoCrPt、CoCrTa、CoNiCr、CoCrPtB等が挙げられる。なお、Feが含まれていてもよい。硬磁性体層103の厚さは、例えば1μm~3μmである。
【0032】
制御層102を構成するCr等を含む合金は、bcc(body-centered cubic(体心立方格子))構造を有する。よって、薄膜磁石20を構成する硬磁性体(硬磁性体層103)は、bcc構造のCr等を含む合金で構成された制御層102上において結晶成長しやすいhcp(hexagonal close-packed(六方最密充填))構造であるとよい。bcc構造上にhcp構造の硬磁性体層103を結晶成長させると、hcp構造のc軸が面内に向くように配向しやすい。よって、硬磁性体層103によって構成される薄膜磁石20が面内方向に磁気異方性を有するようになりやすい。なお、硬磁性体層103は結晶方位の異なる集合からなる多結晶であり、各結晶が面内方向に磁気異方性を有する。この磁気異方性は結晶磁気異方性に由来するものである。
【0033】
なお、制御層102を構成するCr等を含む合金及び薄膜磁石20を構成するCo合金の結晶成長を促進するために、基板10を100℃~600℃に加熱するとよい。この加熱により、制御層102を構成するCr等を含む合金が結晶成長しやすくなり、hcp構造を持つ硬磁性体層103が面内に磁化容易軸を持つように結晶配向されやすくなる。つまり、硬磁性体層103の面内に磁気異方性が付与されやすくなる。
【0034】
誘電体層104は、非磁性の誘電体で構成され、薄膜磁石20と感受部30との間を電気的に絶縁する。誘電体層104を構成する誘電体としては、SiO2、Al23、TiO2等の酸化物、又は、Si34、AlN等の窒化物等が挙げられる。また、誘電体層104の厚さは、例えば0.1μm~30μmである。
【0035】
感受部30における感受素子31は、長手方向に交差する方向、例えば直交する短手方向(幅方向)に一軸磁気異方性が付与されている。なお、長手方向に交差する方向とは、長手方向に対して45°を超えた角度を有すればよい。
感受素子31を構成する軟磁性体(下層軟磁性体層105a、上層軟磁性体層105b)としては、Coを主成分とした合金に高融点金属Nb、Ta、W等を添加したアモルファス合金(以下では、感受素子31を構成するCo合金と表記する。)を用いるのがよい。感受素子31を構成するCo合金としては、CoNbZr、CoFeTa、CoWZr等が挙げられる。感受素子31を構成する軟磁性体(下層軟磁性体層105a、上層軟磁性体層105b)の厚さは、例えば、それぞれ0.2μm~2μmである。図3に示す例では、下層軟磁性体層105aの厚さと上層軟磁性体層105bの厚さが互いに等しいが、互いに異なっていてもよい。
【0036】
感受素子31を構成する導電体(高導電層106)としては、導電性が高い金属または合金を用いることが好ましく、導電性が高く且つ非磁性の金属または合金を用いることがより好ましい。具体的には、感受素子31を構成する導電体(高導電層106)としては、アルミニウム、銅、銀等の金属を用いるのがよい。感受素子31を構成する導電体(高導電層106)の厚さは、例えば、10nm~500nmである。感受素子31を構成する導電体(高導電層106)の厚さは、後述する感受素子31の抵抗Rや感受する磁界の値等が所望の値となるよう、軟磁性体層105として用いる感受素子31を構成するCo合金や高導電層106として用いる導電体の種類等によって変更できる。
【0037】
密着層101、制御層102、硬磁性体層103、及び誘電体層104は、平面形状が四角形(図2参照)になるように加工されている。そして、露出した側面のうち、対向する二つの側面において、薄膜磁石20がN極(図3における(N))及びS極(図3における(S))となっている。なお、薄膜磁石20のN極とS極とを結ぶ線が、感受部30における感受素子31の長手方向に向くようになっている。ここで、長手方向に向くとは、N極とS極とを結ぶ線と長手方向とがなす角度が45°未満であることをいう。なお、N極とS極とを結ぶ線と長手方向とがなす角度は、小さいほどよい。
【0038】
磁気センサ1において、薄膜磁石20のN極から出た磁力線は、一旦磁気センサ1の外部に出る。そして、一部の磁力線が、ヨーク40aを介して感受素子31を透過し、ヨーク40bを介して再び外部に出る。そして、感受素子31を透過した磁力線が透過しない磁力線とともに薄膜磁石20のS極に戻る。つまり、薄膜磁石20は、感受素子31の長手方向に磁界を印加する。
なお、薄膜磁石20のN極とS極とをまとめて両磁極と表記し、N極とS極とを区別しない場合は磁極と表記する。
【0039】
なお、図2に示すように、ヨーク40(ヨーク40a、40b)は、基板10の表面側から見た形状が、感受部30に近づくにつれて狭くなっていくように構成されている。これは、感受部30に磁界を集中させる(磁力線を集める)ためである。つまり、感受部30における磁界を強くして感度のさらなる向上を図っている。なお、ヨーク40(ヨーク40a、40b)の感受部30に対向する部分の幅を狭くしなくてもよい。
【0040】
ここで、ヨーク40(ヨーク40a、40b)と感受部30との間隔は、例えば1μm~100μmであればよい。
【0041】
(磁気センサ1の作用)
上述したように、磁気センサ1は、例えば感受素子31の長手方向と交差する短手方向(幅方向)に磁化容易軸が向いた、一軸磁気異方性が付与されている。そして、感受素子31の長手方向には、薄膜磁石20により、磁界(バイアス磁界)が印加されている。
また、磁気センサ1は、それぞれの端子部33を介して第1感受部30Aの感受素子31aと第2感受部30Bの感受素子31bとに高周波電流を流すと、感受部30と薄膜磁石20とに挟まれた誘電体層104において分極が生じる。そして、誘電体層104が分極することで、第1感受部30Aの感受素子31aと第2感受部30Bの感受素子31bとの間で、誘電体層104を介して高周波電流が流れるようになっている。さらに、磁気センサ1は、高周波電流により誘電体層104が分極することで、静電容量Cを有するコンデンサとして機能するようになる。
【0042】
ここで、バイアス磁界が印加された状態で2個の端子部33から感受素子31に高周波の電流を流すと、端子部33の間のインピーダンスZは、感受部30の感受素子31に作用する磁界H(外部磁界)の長手方向に沿った方向の成分によって変化する。そして、インピーダンスZの変化に伴って、コンデンサとして機能する磁気センサ1の静電容量Cが変化する。すなわち、磁気センサ1の静電容量Cは、感受部30の感受素子31に作用する磁界H(外部磁界)の長手方向に沿った方向の成分によって変化する。
【0043】
図4は、磁気センサ1の感受部30における感受素子31の長手方向に印加された磁界Hと磁気センサ1の静電容量Cとの関係を説明する図である。図4において、横軸が磁界Hであり、縦軸が静電容量Cである。図4では、上述した構成を有する本実施の形態の磁気センサ1の磁界Hと静電容量Cとの関係を実線で示している。さらに図4では、感受部30が一層の軟磁性体層105から構成される(すなわち高導電層106を有していない)以外は本実施の形態と同様の構造を有する従来の磁気センサ1の磁界Hと静電容量Cとの関係を破線で示している。なお、以下では、従来の磁気センサ1についても、図2、3に示した本実施の形態の磁気センサ1と同様の構成については、同じ符号を用いて説明を行う。
【0044】
図4にて特性を実線で示す本実施の形態の磁気センサ1は、感受部30(感受素子31)およびヨーク40が、厚さ0.75μmのCo85Nb12Zr3からなる下層軟磁性体層105aと上層軟磁性体層105bとの間に、厚さ100nmのアルミニウムからなる高導電層106を積層した構造を有している。また、それぞれの感受素子31は、幅100μm、長さ2mmである。
また、図4にて特性を破線で示す従来の磁気センサ1は、感受部30(感受素子31)およびヨーク40が、厚さ1.5μmの一層のCo85Nb12Zr3からなる以外は、上述した本実施の形態の磁気センサ1と同様の構成を有している。
【0045】
図4において実線および破線で示すように、磁気センサ1の静電容量Cは、感受素子31の長手方向に印加された磁界Hに応じて変化する。この例では、静電容量Cは、磁界Hが0の場合(H=0)を境界としてプラス方向またはマイナス方向に磁界Hの絶対値が大きくなるに伴い減少、増加と変化している。また、図4に示すように、磁界Hの変化に対する静電容量Cの変化量(グラフの傾き)は、磁界Hの大きさによって異なっている。したがって、印加する磁界Hの変化量(ΔH)に対して静電容量Cの変化量(ΔC)が急峻な部分(グラフの傾きであるΔC/ΔHが大きい部分)を用いることで、磁界Hの微弱な変化量を静電容量Cの変化量(ΔC)として取り出すことができる。図4では、ΔC/ΔHが大きい磁界Hの中心を磁界Hbとして示している。つまり、磁界Hbの近傍(図4で矢印で示す範囲)における磁界Hの変化量(ΔH)が高精度に測定できる。この磁界Hbが、上述したバイアス磁界に対応する。
【0046】
ところで、磁気インピーダンス効果素子として一層の軟磁性体層105から構成される感受素子31を備える従来の磁気センサ1では、供給する電流の周波数が高いと、磁界Hの変化量ΔHに対するインピーダンスZの変化量ΔZ(ΔZ/ΔH)が低下する場合がある。上述したように、磁気センサ1の静電容量Cの変化はインピーダンスZの変化に伴うため、この場合、図4において破線で示すように、磁界Hの変化量ΔHに対する静電容量Cの変化量(ΔC/ΔH)も低下する。この結果、磁界Hの変化に対する磁気センサ1の感度が低下することになる。
【0047】
このような高周波電流を供給した場合の磁気センサ1の感度の低下は、並列する感受素子31同士の間隙や、感受素子31(感受部30)とヨーク40との間隙で生じる浮遊容量の影響によるものと推測される。付言すると、磁気センサ1におけるインピーダンスZのうち、虚部の容量性成分(容量性リアクタンス)が大きくなることの影響によるものと推測される。
特に、磁気センサ1において、感受素子31の長さを長くしたり、並列させる感受素子31の個数を多くしたりすると、感受素子31同士の間隙や感受素子31(感受部30)とヨーク40との間隙が多くなるため、浮遊容量の影響が大きくなりやすい。この結果、磁気センサ1の感度が低下しやすくなるものと考えられる。
【0048】
ここで、磁気センサ1において、感受素子31の抵抗をR、浮遊容量をCsとし、感受素子31を抵抗Rと浮遊容量Csの並列回路とすると、この磁気センサ1の緩和周波数frは、以下の式(1)のように表される。ここで、緩和周波数frは、インピーダンスZの実部(レジスタンス)が減衰し且つ虚部(リアクタンス)が極小値をとる周波数であって、感受素子31の感度が低下し始める周波数に相当する。
r=1/2πRCs …(1)
式(1)によれば、磁気センサ1の高周波領域での感度を向上させるためには、すなわち、緩和周波数frを大きくするためには、感受素子31の抵抗Rまたは浮遊容量Csを小さくする必要がある。
【0049】
これに対し、本実施の形態の磁気センサ1は、感受素子31が、軟磁性体層105と、軟磁性体層105と比べて導電性の高い高導電層106とが積層された構成となっている。これにより、感受素子31が高導電層106を備えない場合と比べて、感受素子31の抵抗Rが低くなる。
【0050】
ここで、軟磁性体層105(感受素子31を構成するCo合金)の一例であるCo85Nb12Zr3の電気抵抗率は、約250μΩ・cmであり、高導電層106(感受素子31を構成する導電体)の一例であるアルミニウムの電気抵抗率は、約2.5μΩ・cmである。
これにより、図4において実線で示す本実施の形態の磁気センサ1では、感受部30(感受素子31)が厚さ100nmのアルミニウムからなる高導電層106を備えることで、高導電層106を備えない従来の磁気センサ1と比べて、感受素子31の抵抗Rが10分の1程度に低下する。
【0051】
この結果、磁気センサ1に高周波電流を供給した場合であっても、図4において実線で示すように、磁界Hの変化量ΔHに対する静電容量Cの変化量(ΔC/ΔH)の低下が抑制され、磁気センサ1の高周波領域での感度を向上させることができる。
【0052】
また、本実施の形態の磁気センサ1では、感受素子31が高導電層106を備え抵抗Rが低下することで、感受素子31が高導電層106を備えない場合と比較して、高周波領域においてインピーダンスZの実部(レジスタンス)及び虚部(リアクタンス)が上昇する。このため、本実施の形態の磁気センサ1では、高周波電流を供給した場合の表皮効果をより強めることができる。
【0053】
ここで、本実施の形態の磁気センサ1は、第1感受部30Aの感受素子31aと、第2感受部30Bの感受素子31bとが、間隙を介して櫛歯状にかみ合った形状を有している。これにより、間隙を介して対向する感受素子31aと感受素子31bとが沿う長さが長くなるため、感受部30に高周波電流を供給した場合の抵抗が低くなる。また、例えば感受部30において感受素子31がつづら折り状に直列に接続されている場合と比べて、磁気センサ1において感受素子31(感受素子31a、31b)の面積を大きく設計しやすい。
【0054】
なお、上述した式(1)によれば、感受素子31の抵抗Rを小さくする他、感受素子13の浮遊容量Csを小さくすることによっても、緩和周波数frを大きくし、高周波領域での磁気センサ1の感度を向上させることができる。
しかしながら、感受素子31の浮遊容量Csを小さくするためには、例えば隣接する感受素子31同士の距離や感受部30とヨーク40との距離、並列させる感受素子31の個数等を変更する必要がある。言い換えると、磁気センサ1の平面形状等を大きく変える必要がある。
これに対し、本実施の形態によれば、磁気センサ1の平面形状等を変更せずに、感受素子31の積層構造のみを変更することで、磁気センサ1の高周波領域での感度を向上させることができる。
【0055】
(磁気センサシステム500による磁界の変化量の測定方法)
続いて、上述した図1も参照して、磁気センサ1の感受部30で感受される磁界Hの変化量(ΔH)を磁気センサシステム500により測定する測定方法の一例について説明する。
磁気センサシステム500により磁界Hの変化量(ΔH)を測定する場合、まず、発振回路部510が、高周波供給部515によってLC共振回路(磁気センサ1、コイル513)に高周波電流を供給する。これにより、発振回路部510は、磁気センサ1とコイル513とにより形成されるLC共振回路によって、所定の共振周波数f0を有する交流電流を発振する。
【0056】
続いて、周波数測定部530が、発振回路部510から発振された交流電流の周波数(共振周波数f0)を測定し、磁界算出部550に出力する。
【0057】
続いて、磁界算出部550が、周波数測定部530から取得した周波数(共振周波数f0)に変化が生じた場合、その変化量に基づいて、磁気センサ1の感受部30で感受された磁界Hの変化量(ΔH)を算出する。
【0058】
ここで、LC共振回路から発振される交流電流の周波数である共振周波数f0、磁気センサ1(コンデンサ)の静電容量C、コイル513(インダクタ)のインダクタンスLとの関係は、以下の式(2)により表される。
0=1/(2π√(LC)) …(2)
したがって、図4に示した磁界Hと静電容量Cとの関係のように、磁界Hが変化すると静電容量Cが変化し、式(2)により、静電容量Cが変化すると共振周波数f0が変化する。
【0059】
磁界算出部550は、予め共振周波数f0の変化量と磁界Hの変化量(ΔH)との相関関係を求めておくことで、周波数測定部530にて測定される共振周波数f0の変化量から、感受部30で感受された磁界Hの変化量(ΔH)を求めることができる。また、共振周波数f0の変化量(Δf0)と磁界Hの変化量(ΔH)との相関関係は、例えば、磁気センサシステム500の磁気センサ1を磁界発生装置内にセットし、磁界Hの変化量(ΔH)と共振周波数f0の変化量(Δf0)との関係を測定することで求められる。
【0060】
以上の工程により、本実施の形態の磁気センサシステム500では、磁気センサ1の静電容量Cの変化量に基づいて、磁気センサ1の感受部30で感受される磁界の変化量を得ることができる。
【0061】
本実施の形態の磁気センサシステム500では、磁気センサ1の感受部30で感受される磁界Hの変動を、発振回路部510のLC共振回路(磁気センサ1、コイル513)から発振される共振周波数f0の変化に変換している。これにより、例えば磁界Hの変動を信号強度の変化に変換するような場合と比べて、電気的なノイズを低減でき、磁界Hの変動を感度良く検出することができる。
【0062】
なお、本実施の形態の磁気センサシステム500では、磁気センサ1とコイル513とが直列接続されたLC共振回路から発振される共振周波数f0を用いて、磁気センサ1の静電容量Cを算出している。しかしながら、磁気センサ1の静電容量Cを得ることができれば、発振回路部510の構成はこれに限定されるものではない。
【0063】
(磁気センサ1の製造方法)
次に、磁気センサ1の製造方法の一例を説明する。
図5(a)~(e)は、磁気センサ1の製造方法の一例を説明する図である。図5(a)~(e)は、磁気センサ1の製造方法における工程を示す。なお、図5(a)~(e)は、代表的な工程であって、他の工程を含んでいてもよい。そして、工程は、図5(a)~(e)の順に進む。図5(a)~(e)は、図2のIII-III線での断面図に対応する。
【0064】
基板10は、前述したように、非磁性材料からなる基板であって、例えばガラス、サファイアといった酸化物基板やシリコン等の半導体基板、あるいは、アルミニウム、ステンレススティール、ニッケルリンメッキを施した金属等の金属基板である。基板10には、研磨機などを用いて、例えば曲率半径Raが0.1nm~100nmの筋状の溝又は筋状の凹凸が設けられていてもよい。なお、この筋状の溝又は筋状の凹凸の筋の方向は、硬磁性体層103によって構成される薄膜磁石20のN極とS極とを結ぶ方向に設けられているとよい。このようにすることで、硬磁性体層103における結晶成長が、溝の方向へ促進される。よって、硬磁性体層103により構成される薄膜磁石20の磁化容易軸がより溝方向(薄膜磁石20のN極とS極とを結ぶ方向)に向きやすい。つまり、薄膜磁石20の着磁をより容易にする。
【0065】
ここでは、基板10は、一例として直径約95mm、厚さ約0.5mmのガラスとして説明する。磁気センサ1の平面形状が数mm角である場合、基板10上には、複数の磁気センサ1が一括して製造され、後に個々の磁気センサ1に分割(切断)される。図5(a)~(e)では、中央に表記する一個の磁気センサ1に着目するが、左右に隣接する磁気センサ1の一部を合わせて示す。なお、隣接する磁気センサ1間の境界を一点鎖線で示す。
【0066】
図5(a)に示すように、基板10を洗浄した後、基板10の一方の面(以下、表面と表記する。)上に、密着層101、制御層102、硬磁性体層103及び誘電体層104を順に成膜(堆積)して、積層体を形成する。
【0067】
まず、Cr又はNiを含む合金である密着層101、Cr等を含む合金である制御層102、及び、薄膜磁石20を構成するCo合金である硬磁性体層103を順に連続して成膜(堆積)する。この成膜は、スパッタリング法などにより行える。それぞれの材料で形成された複数のターゲットに順に対面するように、基板10を移動させることで密着層101、制御層102及び硬磁性体層103が基板10上に順に積層される。前述したように、制御層102及び硬磁性体層103の形成では、結晶成長を促進するために、基板10を例えば100℃~600℃に加熱するとよい。
【0068】
なお、密着層101の成膜では、基板10の加熱を行ってもよく、行わなくてもよい。基板10の表面に吸着している水分などを除去するために、密着層101を成膜する前に、基板10を加熱してもよい。
【0069】
次に、SiO2、Al23、TiO2等の酸化物、又は、Si34、AlN等の窒化物等である誘電体層104を成膜(堆積)する。誘電体層104の成膜は、プラズマCVD法、反応性スパッタリング法などにより行える。
【0070】
そして、図5(b)に示すように、感受部30が形成される部分及びヨーク40(ヨーク40a、40b)が形成される部分を開口とするフォトレジストによるパターン(レジストパターン)111を、公知のフォトリソグラフィ技術により形成する。
【0071】
続いて、図5(c)に示すように、感受素子31を構成するCo合金である下層軟磁性体層105a、軟磁性体層105と比較して導電性の高い導電体である高導電層106、及び感受素子31を構成するCo合金である上層軟磁性体層105bを順に成膜(堆積)する。軟磁性体層105(下層軟磁性体層105a、上層軟磁性体層105b)及び高導電層106の成膜は、例えばスパッタリング法を用いて行える。
【0072】
次に、図5(d)に示すように、レジストパターン111を除去するとともに、レジストパターン111上の軟磁性体層105(下層軟磁性体層105a、上層軟磁性体層105b)及び高導電層106を除去(リフトオフ)する。これにより、軟磁性体層105及び高導電層106により構成される感受部30及びヨーク40(ヨーク40a、40b)が形成される。つまり、感受部30とヨーク40とが、軟磁性体層105及び高導電層106の成膜により同時に形成される。
【0073】
この後、軟磁性体層105には、感受部30における感受素子31の幅方向に一軸磁気異方性を付与する。この軟磁性体層105への一軸磁気異方性の付与は、例えば3kG(0.3T)の回転磁場中における400℃での熱処理(回転磁場中熱処理)と、それに引き続く3kG(0.3T)の静磁場中における400℃での熱処理(静磁場中熱処理)とで行える。この時、ヨーク40を構成する軟磁性体層105にも同様の一軸磁気異方性が付与される。しかし、ヨーク40は、磁気回路としての役割を果たせばよく、一軸磁気異方性が付与されていても、一軸磁気異方性が付与されていなくてもよい。
【0074】
次に、薄膜磁石20を構成する硬磁性体層103を着磁する。硬磁性体層103に対する着磁は、静磁場中又はパルス状の磁場中において、硬磁性体層103の保磁力より大きい磁界を、硬磁性体層103の磁化が飽和するまで印加することで行える。
この後、図5(e)に示すように、基板10上に形成された複数の磁気センサ1を個々の磁気センサ1に分割(切断)する。つまり、図2の平面図に示したように、平面形状が四角形になるように、基板10、密着層101、制御層102、硬磁性体層103、誘電体層104、軟磁性体層105及び高導電層106を切断する。すると、分割(切断)された硬磁性体層103の側面に薄膜磁石20の磁極(N極及びS極)が露出する。こうして、着磁された硬磁性体層103は、薄膜磁石20になる。この分割(切断)は、ダイシング法やレーザカッティング法などにより行える。
【0075】
なお、図5(e)の複数の磁気センサ1を個々の磁気センサ1に分割する工程の前に、基板10上において隣接する磁気センサ1の間の密着層101、制御層102、硬磁性体層103、誘電体層104、軟磁性体層105及び高導電層106を、平面形状が四角形(図2に示した磁気センサ1の平面形状)になるようにエッチング除去してもよい。そして、露出した基板10を分割(切断)してもよい。
また、図5(a)の積層体を形成する工程の後に、密着層101、制御層102、硬磁性体層103、誘電体層104を、平面形状が四角形(図2に示した磁気センサ1の平面形状)になるように加工してもよい。
なお、図5(a)~(e)に示した製造方法は、これらの製造方法に比べ、工程が簡略化される。
【0076】
このようにして、磁気センサ1が製造される。なお、軟磁性体層105への一軸異方性の付与及び/又は薄膜磁石20の着磁は、図5(e)の磁気センサ1を個々の磁気センサ1に分割する工程の後に、磁気センサ1毎又は複数の磁気センサ1に対して行ってもよい。
【0077】
なお、制御層102を備えない場合には、硬磁性体層103を成膜後、800℃以上に加熱して結晶成長させることで、面内に磁気異方性を付与することが必要となる。しかし、第1の実施の形態が適用される磁気センサ1のように、制御層102を備える場合には、制御層102により結晶成長が促進されるため、800℃以上のような高温による結晶成長を要しない。
【0078】
また、感受部30の感受素子31への一軸異方性の付与は、上記の回転磁場中熱処理及び静磁場中熱処理で行う代わりに、感受素子31を構成するCo合金である軟磁性体層105の堆積時にマグネトロンスパッタリング法を用いて行ってもよい。マグネトロンスパッタリング法では、磁石(マグネット)を用いて磁界を形成し、放電によって発生した電子をターゲットの表面に閉じ込める(集中させる)。これにより、電子とガスとの衝突確率を増加させてガスの電離を促進し、膜の堆積速度(成膜速度)を向上させる。このマグネトロンスパッタリング法に用いられる磁石(マグネット)が形成する磁界により、軟磁性体層105の堆積と同時に、軟磁性体層105に一軸異方性が付与される。このようにすることで、回転磁場中熱処理及び静磁場中熱処理で行う一軸異方性を付与する工程が省略できる。
【0079】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、本実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨に反しない限りにおいては、様々な変形や組み合わせを行っても構わない。
【0080】
例えば、本実施の形態の磁気センサ1は、硬磁性体層103から構成される薄膜磁石20の上に、誘電体層104及び感受部30が積層された構造を有しているが、磁気センサ1の構造は、これに限定されるものではない。すなわち、感受素子31に高周波電流を流した場合に誘電体層104が分極し磁気センサ1が静電容量Cを有するという観点からは、磁気センサ1は、誘電体層104を介して感受素子31に対向する層が導電性を有していればよい。言い換えると、磁気センサ1では、薄膜磁石20に代えて、非磁性の導電体から構成される導電層を設けてもよい。
【0081】
また、磁気センサ1において薄膜磁石20に代えて非磁性の導電体から構成される導電層を設ける場合には、この導電層とは別に、感受素子31の長手方向にバイアス磁界を印加する要素を設けることで、磁界Hの変化量(ΔH)に対して静電容量Cの変化量(ΔC)が大きくなるように調整することができる。また、このバイアス磁界を印加する要素は、磁気センサ1と一体であってもよいし、磁気センサ1とは別体であってもよい。
【0082】
さらに、本実施の形態の磁気センサ1は、感受部30が、二層の軟磁性体層105(下層軟磁性体層105a、上層軟磁性体層105b)と、一層の高導電層106とを有する場合について説明したが、これに限定されるものではない。すなわち、感受部30の最下層および最上層が軟磁性体層105により構成されていれば、軟磁性体層105および高導電層106は、それぞれ3層以上および2層以上であってもよい。
【0083】
さらにまた、本実施の形態の磁気センサ1は、感受部30が直流電流は流れず高周波電流は流れるという構成を有しているが、磁気センサ1の構造は、これに限定されるものではない。例えば、磁気センサ1は、第1感受部30Aと第2感受部30Bとを備えておらず、一体の感受部30を有していてもよい。より具体的には、磁気センサ1は、一方の端子部33と他方の端子部33との間で複数の感受素子31が接続部32を介して直列につづら折り状に接続された感受部30を有していてもよい。
【符号の説明】
【0084】
1…磁気センサ、10…基板、20…薄膜磁石、30…感受部、30A…第1感受部、30B…第2感受部、31、31a、31b…感受素子、32、32a、32b…接続部、33、33a、33b…端子部、40、40a、40b…ヨーク、101…密着層、102…制御層、103…硬磁性体層、104…誘電体層、105…軟磁性体層、106…高導電層、500…磁気センサシステム、510…発振回路部、513…コイル、515…高周波供給部、530…周波数測定部、550…磁界算出部、C…静電容量、H…磁界
図1
図2
図3
図4
図5