(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】耐酸性ロックボルト定着材及び耐酸性ロックボルト定着材用プレミックス材
(51)【国際特許分類】
C04B 28/04 20060101AFI20230105BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20230105BHJP
C04B 24/20 20060101ALI20230105BHJP
E21D 20/00 20060101ALI20230105BHJP
【FI】
C04B28/04
C04B18/14 Z
C04B18/14 A
C04B24/20
E21D20/00 L
(21)【出願番号】P 2019071612
(22)【出願日】2019-04-03
【審査請求日】2021-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2019059509
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593225161
【氏名又は名称】米倉 亜州夫
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(73)【特許権者】
【識別番号】000129758
【氏名又は名称】株式会社ケー・エフ・シー
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米倉 亜州夫
(72)【発明者】
【氏名】廣中 哲也
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 光
(72)【発明者】
【氏名】橘高 豊明
(72)【発明者】
【氏名】倉田 桂政
(72)【発明者】
【氏名】松尾 勉
(72)【発明者】
【氏名】田中 祐介
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-106905(JP,A)
【文献】特開2006-335586(JP,A)
【文献】特開2008-088040(JP,A)
【文献】特開2006-327832(JP,A)
【文献】特開2016-179921(JP,A)
【文献】特開昭58-185459(JP,A)
【文献】特開2002-128559(JP,A)
【文献】特開2010-155734(JP,A)
【文献】特表2012-513366(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
E21D 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山に向けて形成した削孔内にロックボルトを固定するための耐酸性ロックボルト定着材であって、
セメント(C)、シリカフューム(SF)及び高炉スラグ微粉末(BFS)からなる結合材(B)と、水(W)及び細骨材(S)とを配合してなり、
前記セメント、前記シリカフューム及び前記高炉スラグ微粉末の配合質量比(C:SF:BFS)が2:1:1であり、
前記セメントが、早強ポルトランドセメントであり、
さらに、細骨材(S)及び高性能減水剤(G)を含有しており、
前記結合材(B)に対する前記水(W)の質量比である水結合材比(W/B)
を40~45%
とするとともに、前記結合材(B)に対する前記細骨材(S)の質量比
である砂結合材比(S/B)
を1.5
0~2.0
0としてなり、
前記高性能減水剤(G)の添加割合は、前記結合材の量に対して0.6~1.1質量%であり、且つ前記結合材(B)と前記水(W)と前記細骨材(S)と前記高性能減水剤(G)とを混合してなるフレッシュモルタルの状態における、JIS R 5201(2015)に規定するテーブルフロー値が130mm~170mmとなるように定められることを特徴とする、耐酸性ロックボルト定着材。
【請求項2】
前記高性能減水剤(G)は、前記水結合材比(W/B)が高いほど少なく添加されるように、その添加割合が定められるか、又は、前記砂結合材比(S/B)が高いほど多く添加されるように、その添加割合が定められることを特徴とする、請求項1に記載の耐酸性ロックボルト定着材。
【請求項3】
地山に向けて形成した削孔内にロックボルトを固定するための耐酸性のロックボルト定着材
を調製するためのプレミックス材であり、後添加される水と混錬されて使用される粉体のプレミックス材であって、
セメント(C)、シリカフューム(SF)及び高炉スラグ微粉末(BFS)からなる結合材(B)を含有し
、前記セメントが、早強ポルトランドセメントであり、
前記セメント、前記シリカフューム及び前記高炉スラグ微粉末の配合質量比(C:SF:BFS)が2:1:1であ
り、
さらに、細骨材(S)及び粉体の高性能減水剤(G)を含有し、前記結合材(B)に対する前記細骨材(S)の質量比である砂結合材比(S/B)が1.50~2.00であり、
前記粉体の高性能減水剤の添加割合は、前記結合材の量に対して0.6~1.1質量%であり、
前記結合材(B)と前記水(W)と前記細骨材(S)と前記高性能減水剤とを混合してなるフレッシュモルタルの状態における、JIS R 5201(2015)に規定するテーブルフロー値が130mm~170mmとなるようにして使用されることを特徴とする、耐酸性ロックボルト定着材用プレミックス材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐酸性ロックボルト定着材に関し、より詳細には、山岳トンネルの地山の側壁や地山の法面の保護等に使用するロックボルトを、地山に向けて形成した削孔内に固定するための、耐酸性のロックボルト定着材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、土木工事において、黄鉄鉱等を多く含む地盤を掘削すると地下水が酸性化することがある。地下水の酸性化は、硫化物を含む岩石が酸素と接触することで酸化し、地下水に溶けた結果生じるものであり、温泉地や酸性岩盤地帯では、かなりpHの低い強酸性の湧水が生じることがある。
一般的なセメント系材料は硫酸によって劣化し易く、短時間で腐食が進むことになるため、耐酸性セメント材料についての研究が行われている。
耐酸性セメント系材料としては、アルミナセメントや樹脂モルタルが古くから使用されており、実績も多いが、特殊な混和材を用いるものであり高価である。
【0003】
これに対して、特殊な混和材を用いず、比較的一般的な材料を用いる耐酸性セメント材料も提案されている。
例えば、特許文献1には、耐酸性セメント組成物として、セメント40~50%と、シリカフューム10~30%と、高炉スラグ微粉末20~25%とからなり、セメント、シリカフューム及び高炉スラグ微粉末とで100質量%となる耐酸性セメント組成物及びそれを用いたモルタル又はコンクリートが記載されている。
【0004】
また特許文献2には、結合材として、ポルトランドセメントに、フライアッシュと高炉スラグ微粉末とを水硬性材料として配合することによって、酸に弱いポルトランドセメントを減量して、耐酸性を高めた防蝕性モルタルが記載されている。
特許文献3には、セメント、シリカヒューム、高炉水砕スラグ、フライアッシュと、膨張材からなる結合材組成物を用いたモルタル組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5924612号公報
【文献】特開2000-128618号公報
【文献】特開2007-84420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、山岳トンネルの支保工として、ロックボルトを用いた支保工が知られている。ロックボルトは、トンネルの内壁に、相互間に間隔を設けて複数打設されることにより、トンネル内の空間を支保し、地山の変位や緩み等に起因するトンネル内壁の崩落を防止し、例えば、
山岳トンネル等のトンネルの築造工事において、掘削後のトンネルの内面に吹付けコンクリートを施し、該吹付けコンクリートを貫通し地山に達するように削孔を形成した後、該削孔内に挿入され、定着材を用いて削孔内に定着されて使用される。
またトンネル以外に、地山の法面を安定化させるために、ロックボルトが用いられることがある。斯かるロックボルトの定着に用いられる定着材としては、セメント等の結合材を含む定着材が用いられるが、例えば山岳トンネルでは、前述した強酸性の湧水が発生することが多く、また、トンネルの天端部やアーチ部に形成された削孔へ充填する必要もあること等から、通常の壁面を形成するコンクリートやモルタルに要求される性能を有するのみでは不充分である場合も多く、ロックボルト定着材としての特有の性能も要求される。
【0007】
例えば、ロックボルト定着材は、以下の1~3の性能を有することが望ましい。
1.高い耐酸性及び高強度
酸性度が高い水によっても劣化しにくい高い耐酸性が要求される。耐酸性でない通常の定着材の酸による劣化は、硫酸性地下水と接触する定着材表面部から始まり、この部分がブヨブヨになってゆき、定着状態が悪くなる。耐酸性定着材を用いてこの劣化を防止することにより、ロックボルトの削孔内への定着状態が維持され、ロックボルトを用いたトンネル内面や地山の法面の支保機能が長期にわたって維持される。耐酸性を向上させるためには、セメント分、酸に弱いポルトランドセメントの配合割合を減らすことが好ましいが、他方において、打設後のロックボルトに所要の引抜き強度を確保するためには、セメント分の減量による強度の低下を防止し、必要な強度を確保する必要がある。
2.圧送性
一般的な装置を用いて混錬及び圧送ができることが好ましい。特にシリカヒュームを用いた場合、粘性が高くなるが、ロックボルト定着材を練混ぜ、削孔内に圧送して充填し得る圧送性を有する必要がある。好ましくは、最も一般的な練り混ぜ圧送装置である株式会社ケー・エフ・シーの「MAIポンプ」等で、削孔に圧送して充填可能な流動性を有することが望まれる。
3.定着性
トンネルの天端部やアーチ部、法面の高位置等に形成された削孔に充填した場合においても、充填した定着材が、削孔外へ流れでるダレ落ちや、ロックボルトが削孔内に定着せずに抜け落ちる抜け出しといった現象が生じないことが望まれる。
【0008】
特許文献1に記載の耐酸性セメント組成物は、耐酸性に優れる一方、特許文献1には、ロックボルト定着材に用いた場合の圧送性や定着性等について記載されていない。
特許文献2に記載の防蝕性モルタルは、フライアッシュを比較的多量に用いている。これは、他の混和材に比べて安価であるためと思われるが、フライアッシュを混入すると、ポゾラン反応速度がシリカフュームに比べて著しく遅いため、初期強度が発現しにくくなる欠点があり、定着性が不十分となりやすく、ロックボルトの定着材には適さないものとなる。
特許文献3に記載のモルタル組成物は、結合材(B)に対する前記細骨材(S)の質量比(S/B)が2.05~2.15と大きいため、圧送性が低く定着材には不向きである。
【0009】
本発明の目的は、耐酸性及び強度に優れ、強酸性水によっても劣化が生じにくい上に、圧送性及び定着性に優れた耐酸性ロックボルト定着材を提供することにある。
本発明の目的は、耐酸性及び強度に優れ、強酸性水によっても劣化が生じにくい上に、圧送性及び定着性に優れるロックボルト定着材を容易に調製することができる、ロックボルト定着材用プレミックス材を提供することにある。
本発明は、特許文献1に記載の耐酸性セメント組成物を、ロックボルト定着材に応用するに当たり、作業性を含めた耐酸性ロックボルト定着材としての諸性能を画期的に高めたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の耐酸性ロックボルト定着材は、地山に向けて形成した削孔内にロックボルトを固定するためのロックボルト定着材であって、セメント(C)、シリカフューム(SF)及び高炉スラグ微粉末(BFS)からなる結合材(B)と、水(W)及び細骨材(S)とを配合してなり、前記セメント、前記シリカフューム及び前記高炉スラグ微粉末の配合質量比(C:SF:BFS)が2:1:1であり、前記結合材(B)に対する前記細骨材(S)の質量比(S/B)を1.5~2.0とし、所定の材齢で必要とされる強度の基準値を充足するように設定された水結合材比を満たすように、前記各構成材料を配合し、且つJIS R 5201(2015)に規定するテーブルフロー値が130mm~170mmとなるように減水剤(G)を配合してなることを特徴とする、耐酸性ロックボルト定着材を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0011】
また本発明の耐酸性ロックボルト定着材は、地山に向けて形成した削孔内にロックボルトを固定するためのロックボルト定着材であって、セメント(C)、シリカフューム(SF)及び高炉スラグ微粉末(BFS)からなる結合材(B)と、水(W)及び細骨材(S)とを配合してなり、前記セメント、前記シリカフューム及び前記高炉スラグ微粉末の配合質量比(C:SF:BFS)が2:1:1であり、前記結合材(B)に対する前記細骨材(S)の質量比(S/B)が1.5~2.0であり、水結合材比(W/B)が40~45%であり、JIS R 5201(2015)に規定するテーブルフロー値が130mm~170mmであることを特徴とする、耐酸性ロックボルト定着材を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0012】
本発明のロックボルト定着材用のプレミックス材は、地山に向けて形成した削孔内にロックボルトを固定するための耐酸性のロックボルト定着材用のプレミックス材であって、セメント(C)、シリカフューム(SF)及び高炉スラグ微粉末(BFS)からなる結合材(B)を含有し、前記セメント、前記シリカフューム及び前記高炉スラグ微粉末の配合質量比(C:SF:BFS)が2:1:1であり、トンネル工事現場において、細骨材(S)及び減水剤(G)のうち前記プレミックス材に配合されていないもの及び水を、前記結合材(B)に対する前記細骨材(S)の質量比(S/B)が1.5~2.0、水結合材比(W/B)が40~45%、及びJIS R 5201(2015)に規定するテーブルフロー値が130mm~170mmとなるように配合して、使用することを特徴とする、ロックボルト定着材用のプレミックス材を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の耐酸性ロックボルト定着材は、耐酸性及び強度に優れ、強酸性水によっても劣化が生じにくい上に、圧送性及び定着性にも優れている。
本発明のロックボルト定着材用プレミックス材は、耐酸性及び強度に優れ、強酸性水によっても劣化が生じにくい上に、圧送性及び定着性に優れたロックボルト定着材を容易に調製することができ、例えば、山岳トンネル築造工事現場等のトンネル工事現場において、特殊な装置を用いなくても簡単に調製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明に係るロックボルト定着材により削孔内に定着させるロックボルトの一例を示す図であり、本発明の一実施形態であるロックボルト定着材によりロックボルトを削孔の内面に定着させた状態を示す。
【
図2】
図2は、2種類のセメントを用いた配合について、水結合材比と圧縮強度との関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、硫酸浸漬試験における水結合材比と質量変化率との関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、施工実験におけるロックボルトの打設位置を示すトンネルの模式断面図である。
【
図5】
図5は、施工実験における打設したロックボルトの引抜き試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の耐酸性ロックボルト定着材は、山岳トンネル等のトンネルの内面や地山の法面に、削孔機等により地山に向けて形成した削孔内に注入することで、該削孔内に挿入されるロックボルトを該削孔内に固定するものである。地山に向けて形成した削孔は、
図1に示すように、吹付けコンクリート9等を貫通し地山8に達するように形成された削孔5であっても良いし、地山表面に直接形成された削孔であっても良い。本発明の耐酸性ロックボルト定着材で定着させるロックボルトの構成には、特に制限はなく、山岳トンネル内の空洞の支保等に使用可能な各種公知のロックボルトに使用することができる。ロックボルトは、削孔内に位置する部分の全域が削孔の内面に固定されるタイプのロックボルトでもよく、削孔内に位置する部分の一部が削孔の内面に固定される定着部、他の一部が削孔の内面に固定されない自由長部となるタイプのロックボルトでもよく、特開2017-186801号に記載の、削孔の手前側から奥側に延びるロックボルト本体と、ロックボルト本体の手前側の一領域を覆うシース管とを備えたロックボルト等であってもよい。
【0016】
図1は、本発明に係るロックボルト定着材により削孔内に定着させるロックボルトの一例を示す図である。
図1に示すロックボルト1は、削孔5内に位置する部分の軸方向のほぼ全域が、外周部に形成された図示しない突起及びロックボルト定着材6により該削孔5の内面に定着されており、軸方向における手前側(トンネル中央側)の端部付近に、外周部に雄ネジ部を有するボルト部2を有し、該ボルト部2を、支持板3の中央に形成された挿通孔に挿通させた状態で、該ボルト部2にナット4を螺合させて締め付けてある。削孔5が開口するトンネル内面側には、図示しないセントルと呼ばれる覆工型枠等を用いて、二次覆工コンクリート7が打設される。
【0017】
本発明の耐酸性ロックボルト定着材は、セメント(C)、シリカフューム(SF)及び高炉スラグ微粉末(BFS)からなる結合材(B)と、水(W)及び細骨材(S)とを配合してなる。
【0018】
前記結合材(B)としては、セメント(C)、シリカフューム(SF)及び高炉スラグ微粉末(BFS)の配合質量比(C:SF:BFS)を2:1:1とする以外は、特許文献1に記載のセメント組成物と同様のものを用いることができる。
前記セメントとしては、ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント又はアルミナセメント等のいずれの種類のセメントでもよいが、ポルトランドセメント又は高炉セメントであることが好ましい。これらのセメントは一種を単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。ポルトランドセメント又は高炉セメントという表現には、いずれか一方のみを用いる場合と両者を併用する場合とが含まれる。ポルトランドセメントは、JIS R 5210に規定されるポルトランドセメントが好ましく、普通、早強、超早強又は中庸熱などのポルトランドセメントのうち、いずれの種類のポルトランドセメントでもよい。また、高炉セメントとしては、スラグ比率によって区分されるA種(5~30%)、B種(30~60%)、C種(60~70%)の三種のうち、いずれの種類の高炉セメントでもよい。
【0019】
前記シリカフュームは、金属シリコン又はフェロシリコンをアーク式電気炉で製造するときに発生する排ガス中のダストを集じんして得られる超微粒子であり、ポゾラン反応性を有する。シリカフュームをセメントと併用し、セメントの使用割合を減少させることにより、セメントと水との水和反応による水酸化カルシウムの生成の抑制と生成された水酸化カルシウムとシリカフュームの急速なポゾラン反応により、水和初期の水酸化カルシウムが消費され、硫酸と反応して生成される二水石膏が減少し、ロックボルト定着材の耐酸性が向上する。シリカフュームとしては、コンクリート及びモルタルに混和材料として従来用いられているシリカフュームを特に制限なく用いることができる。シリカフュームの粒度及び粉末度は、特に制限されないが、例えばJIS A 6207に規定される範囲が好ましい。
【0020】
前記高炉スラグ微粉末は、銑鉄製造過程で生成する高炉水砕スラグを乾燥及び粉砕した微粉末であり、潜在水硬性を有する。高炉スラグ微粉末をセメントと併用し、セメントの使用割合を減少させることにより、セメントと水との水和反応による水酸化カルシウムの生成の抑制と水和中・長期で生成された水酸化カルシウムと高炉スラグ微粉末との潜在水硬性による反応により、水和中・長期での水酸化カルシウムが消費され、硫酸と反応して生成される二水石膏が減少し、ロックボルト定着材の耐酸性が向上する。また高炉スラグ微粉末は、潜在水硬性を有するため、高炉スラグ微粉末をセメントと併用することにより、セメントの使用割合の低下に伴う強度低下を抑制して、ロックボルト定着材に、耐酸性に加えて高い強度を付与することができる。高炉スラグ微粉末は、比表面積に応じて、微粉末3000、微粉末4000、微粉末6000、微粉末8000の4種類がJISに規格化されており、いずれも使用可能であるが、比表面積が3500cm2/g以上5000cm2/g未満の微粉末4000が好ましい。
【0021】
特許文献1に記載の耐酸性セメント組成物においては、セメントとして、ポルトランドセメント又は高炉セメントを用い、セメント、シリカフューム及び高炉スラグ微粉末の配合割合を、これらの合計質量に対して、セメント40超~50質量%と、シリカフューム10~30質量%、高炉スラグ微粉末20~25質量%としている。
これに対して、本発明のロックボルト定着材においては、セメント(C)、シリカフューム(SF)及び高炉スラグ微粉末(BFS)の質量比(C:SF:BFS)を2:1:1として用いる。具体的には、セメント(C)、シリカフューム(SF)及び高炉スラグ微粉末(BFS)を、前記の配合質量比(C:SF:BFS)を2:1:1として、ロックボルト定着材の他の構成成分と配合し、また後述するロックボルト定着用プレミックス材を用いてロックボルト定着材を調製する際には、セメント(C)、シリカフューム(SF)及び高炉スラグ微粉末(BFS)を質量比2:1:1で含むプレミックス材を用いる。得られるロックボルト定着材中における、セメント(C)、シリカフューム(SF)及び高炉スラグ微粉末(BFS)の質量比も基本的に同じである。
【0022】
以下、結合材の構成成分であるセメント(C)、シリカフューム(SF)及び高炉スラグ微粉末(BFS)の質量比(C:SF:BFS)を「結合材成分比」ともいう。
前記結合材成分比(C:SF:BFS)を2:1:1とすること、すなわち質量基準で、シリカフューム(SF)と高炉スラグ微粉末(BFS)とを同量使用し、セメント(C)をそれらの2倍量用いることにより、セメントの使用量の抑制等による優れた耐酸性、シリカフュームの初期における急速なポゾラン反応性によるセメントと水との水和反応によって生成された水和初期の水酸化カルシウムの消費による耐酸性の向上、及び高炉スラグ微粉末の潜在水硬性等による水和中・長期における優れた水酸化カルシウムの消費と強度発現性等により、耐酸性及び強度に優れた硬化体を生じるロックボルト定着材が得られる上に、前述した圧送性や定着性等の、ロックボルト定着材に要求される他の性能に優れたロックボルト定着材の設計が容易となる。
セメント(C)、シリカフューム(SF)及び高炉スラグ微粉末(BFS)は、セメントの配合量を100質量部としたとき、シリカフューム(SF)の配合量が45~55質量部であり且つ高炉スラグ微粉末(BFS)の配合量が45~55質量部であることがより好ましく、シリカフューム(SF)の配合量が48~52質量部であり且つ高炉スラグ微粉末(BFS)の配合量が48~52質量部であることが更に好ましい。
【0023】
本発明の耐酸性ロックボルト定着材は、前記結合材成分比(C:SF:BFS)が2:1:1という特定組成の結合材(B)に、水(W)、細骨材(S)及び減水剤(G)を配合してなる。
細骨材としては、モルタルやコンクリートに従来使用されている各種公知のものを特に制限なく用いることができる。細骨材は、10mmふるいをすべて通過し、5mm以下のものが重量で85%以上含まれるものが好ましい。細骨材は、通常、細砂、粗砂、4~6号珪砂等の砂であり、山砂、川砂、海砂、人工細砂等を用いることができる。これらの細骨材は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。細骨材としては、施工性(圧送性や充填性)や乾燥収縮の低減等の観点から、粒径2.5mm以下の細砂等の砂を用いることが好ましい。
【0024】
本発明においては、定着性に優れたロックボルト定着材とする観点から、前記結合材(B)に、前記結合材(B)に対する前記細骨材(S)の質量比(S/B)が1.5~2.0となるように配合する。本明細書において、前記結合材(B)に対する細骨材(S)の質量比(S/B)を「砂結合材比」ともいう。
砂結合材比(S/B)を1.5以上として、硫酸と反応する水酸化カルシウムを生成するセメント量を少なくすることと、セメントと置換した混和材のポゾラン反応や潜在水硬性による反応により水酸化カルシウムを消費することの二重の効果により、プレミックス材の耐酸性、より詳細にはロックボルト定着材の耐酸性が一層向上する。他方、砂結合材比(S/B)が高すぎると、結合材の割合が少なくなり、ロックボルト定着材に要求される定着性が不十分となったり、ロックボルト定着材に必要な強度が得られにくくなる等の不都合が生じやすくなる。例えば、前記結合材成分比(C:SF:BFS)を2:1:1とし、水の配合量を調整しても、定着性が不十分となりやすく、また所定の材齢で10N/mm2以上というロックボルト定着材に要求される初期強度発現性を満たすことが難しくなる。このような観点から、砂結合材比(S/B)は2.0以下とすることが好ましく、より好ましくは1.8以下、更に好ましくは1.75以下である。所定の材齢で10N/mm2以上という基準を満たさない場合は、初期段階でロックボルトの性能が発揮されない等の不都合を生じやすくなる。
【0025】
また本発明においては、圧送性、初期強度及び耐酸性等に優れたロックボルト定着材とする観点から、水結合材比(S/B)を、所定の材齢で必要とされる強度の基準値を充足するように設定する。所定の前記基準値としては、「材齢1日の圧縮強度が10N/mm2以上」という、「NEXCOのトンネル施工管理要領」に規定されているロックボルト定着材の基準値や、公共工事等において特記仕様書等により、「材齢3日の圧縮強度が10N/mm2以上」という基準が要求される場合は、その基準値等が挙げられる。本発明における「所定の材齢で必要とされる強度の基準値」は、材齢7日以内の圧縮強度であることが好ましく、材齢3日以内の圧縮強度であることがより好ましく、材齢1日の圧縮強度であることが更に好ましい。材齢1日の圧縮強度の基準値は10N/mm2以上であることが好ましいが、これに制限されるものではない。「NEXCOのトンネル施工管理要領」は、東日本・中日本・西日本高速道路編、「トンネル施工管理要領」、高速道路総合技術研究所、2015.7である。
【0026】
硫酸性地下水が出てくる環境下でのロックボルトを使用するトンネル工事では、グラウト材注入後、ただちに硫酸性地下水に曝されることになるので、水和反応によって生成される水酸化カルシウムをポゾラン反応によってただちに消費するシリカフュームの存在は極めて重要で、強度発現性も早い。そこで、このトンネル工事に適用される定着材は耐酸性と強度基準値を満たすように各構成材料を配合する。ここでいう各構成材料とは、前述したセメント(C)、シリカフューム(SF)、高炉スラグ微粉末(BFS)、水(W)及び細骨材(S)であるが、前記結合材成分比(C:SF:BFS)が2:1:1と固定されており、しかも、砂結合材比(S/B)の範囲が1.5~2.0に限定されているため、砂結合材比(S/B)をその範囲内の値(例えば1.75)に設定すれば、その砂結合材比(S/B)の下に、前記の基準値を満たすような水結合材比(W/B)を決定するのみで、耐酸性に優れ、ロックボルト定着材を使用するトンネル工事現場に適用される所要の強度の基準値を満たした強度に優れた組成のロックボルト定着材を設計し調製することができる。水としては、上水や工業用水等の、モルタルやコンクリートの調製に従来用いられている各種の水を用いることができる。特定の砂結合材比(S/B)としたときに、特定の強度の基準値を満たす水結合材比(W/B)を決定するためには、
図2に示すように、水結合材比(W/B)を変化させて強度試験を行い、その結果得られる、水結合材比(W/B)と強度との関係(好ましくは当該関係を示すグラフや関係式等)に基づき、所望の基準値を満たす水結合材比(W/B)を決定することが好ましい。
【0027】
図2に示すように、「材齢1日の圧縮強度が10N/mm
2以上」という強度の基準値を満たすことを目標とする場合であって、セメントとして、JIS R 5210に規定される早強ポルトランドセメントを用いる場合、水結合材比(W/B)は、当該強度の基準値を満たす範囲内の40~45%とすることが好ましい。水結合材比(W/B)を45%以下とすることにより、上記の強度の基準値を満たすロックボルト定着材が容易に得られるとともに、水結合材比(W/B)を40%以上とすることにより、耐酸性に優れたロックボルト定着材が容易に得られる。本明細書において、水結合材比(W/B)は、セメント(C)、シリカフューム(SF)、高炉スラグ微粉末(BFS)の合計質量(結合材(B)の質量に同じ)に対する水(W)の質量比を百分率で表したものである。
また「材齢1日の圧縮強度が10N/mm
2以上」という強度の基準値が適用される場合であって、セメントとして、JIS R 5210に規定される普通ポルトランドセメントを用いる場合、
図2に示すように、水結合材比(W/B)は、40~42.5%とすることが好ましい。水結合材比(W/B)を42.5%以下、より好ましくは42.0%以下とすることにより、上記の基準値を満たすロックボルト定着材が得られるとともに、水結合材比(W/B)を40%以上とすることにより、耐酸性に優れたロックボルト定着材が容易に得られる。
【0028】
また本発明に係るロックボルト定着材は、前記の結合材(B)に、細骨材(S)及び水(W)に加えて、減水剤を配合して、JIS R 5201(2015)に規定するテーブルフロー値を130mm~170mmとする。テーブルフロー値を130mm以上とすることにより、汎用の圧送装置、例えば一般的な練り混ぜ圧送装置である株式会社ケー・エフ・シーの「MAIポンプ」で、トンネル空間の周囲に形成した削孔に圧送して充填可能な優れた圧送性を有するものとなる。また、テーブルフロー値を170mm以下とすることにより、注入した定着材が削孔外へ流れでるダレ落ちが生じにくくなり、定着性に優れたものとなる。圧送性及び定着性の観点から、テーブルフロー値は150mm以上とすることが更に好ましい。
【0029】
減水剤としては、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤が挙げられる。減水剤は、高性能減水剤又は高性能AE減水剤であることが好ましい。一種を単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
高性能減水剤としては、例えば、アルキルアリルスルホン酸塩(例えばナフタリンスルホン酸塩)、メラミンスルホン酸塩、ポリカルボン酸系化合物を主成分とするものが挙げられる。高性能AE減水剤は、一般に、ポリカルボン酸系、ナフタリン系、アミノスルホン酸系及びメラミン系の4種類に分類されており、いずれを使用することもできる。減水剤は、液状、粉状又はペースト状のものを用いることができるが、粉体が好ましい。粉体である減水剤は、後述するロックボルト定着材用プレミックス材に予め所定量配合しておくことにより、トンネル工事現場等におけるロックボルト定着材の調製が一層容易となる。
また減水剤は、一般的な粉体の減水剤として容易に入手可能である等の観点から、アリールスルホン酸系化合物又はポリカルボン酸系化合物からなるものを用いることが好ましい。アリールスルホン酸系化合物又はポリカルボン酸系化合物からなるものには、アリールスルホン酸系化合物又はポリカルボン酸系化合物を主成分とする粉体も含まれる。
【0030】
ロックボルト定着材として使用可能な状態とされた耐酸性ロックボルト定着材は、セメント(C)、シリカフューム(SF)及び高炉スラグ微粉末(BFS)からなる結合材(B)と、水(W)及び細骨材(S)とが配合してなるものであり、且つ前記セメント、前記シリカフューム及び前記高炉スラグ微粉末の質量比(C:SF:BFS)が2:1:1である。
また好ましくは、所定の強度の基準値として、「材齢1日の圧縮強度が10N/mm2以上」という強度の基準値を満たすように設計されたものであって、砂結合材比(S/B)が1.5~2.0、水結合材比(W/B)が40~45%、及びJIS R 5201(2015)に規定するテーブルフロー値が130mm~170mmであることが好ましい。砂結合材比(S/B)、水結合材比(W/B)及びテーブルフロー値が上記範囲内であることによって、上記の強度の基準時を満たし、且つ前述した耐酸性、強度、圧送性、定着性のいずれにも優れたものとなる。
【0031】
本発明のロックボルト定着材は、その調製方法に特に制限はなく、所要の成分を適宜の順序で配合して調製することができる。好ましくは、セメント(C)、シリカフューム(SF)、高炉スラグ微粉末(BFS)からなる結合材(B)を含有し、前記結合材成分比(C:SF:BFS)が2:1:1であるロックボルト定着材用のプレミックス材に、細骨材(S)及び減水剤(G)のうち前記プレミックス材に配合されていないもの及び水(W)を、前記砂結合材比(S/B)が1.5~2.0、前記水結合材比(W/B)が40~45%、及びJIS R 5201(2015)に規定するテーブルフロー値が130mm~170mmとなるように配合することにより調製することが好ましい。
【0032】
ロックボルト定着材用のプレミックス材は、セメント(C)、シリカフューム(SF)及び高炉スラグ微粉末(BFS)を含み、且つ細骨材及び減水剤を含まないものでもよく、セメント(C)、シリカフューム(SF)、高炉スラグ微粉末(BFS)を含み、且つ細骨材(S)及び減水剤(G)の何れか一方又は両方を含むものでもよい。これらのプレミックス材は、細骨材(S)及び減水剤(G)のうちプレミックス材に配合されていないもの及び水(W)を加え、各種公知の混合装置で混合及び混練することにより、前述した耐酸性、強度、圧送性及び定着性等に優れたロックボルト定着材が容易に得られる。得られた酸性ロックボルト定着材は、ミキサー車等を用いて、山岳トンネル築造工事等のトンネル工事現場に搬入してもよい。また、山岳トンネル築造工事等のトンネル工事現場において、汎用の混合装置、例えば株式会社ケー・エフ・シーの「MAIポンプ」等の一般的な練り混ぜ圧送装置で調製しても良い。
【0033】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、所定の材齢で必要とされる強度の基準値を充足するように設定された水結合材比や、所定の質量変化率を満たすように設定された砂結合材比、所定のテーブルフロー値を満たすように設定された減水剤(G)の配合量等を満たすように、ロックボルト定着材の組成や配合割合を決めた後には、当初の配合の決定プロセスを省略して、同一組成(構成)のロックボルト定着材を製造することもできる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例を示して更に詳細に説明するが、本発明は、斯かる実施例により何ら制限されるものではない。
〔試験1〕
表1及び表2に示す配合のロックボルト定着材を調製した。具体的には、セメント(C)、シリカフューム(SF)及び高炉スラグ微粉末(BFS)を、結合材成分比(C:SF:BFS)=2:1:1で含有するセメント組成物を結合材(B)として用いる。そして、その結合材(B)に、細骨材(S)及び水(W)を、砂結合材比(S/B)及び水結合材比(W/B)が、表1又は表2に示す値となるように配合し、公知のモルタルミキサーを用いて混練して、フレッシュモルタルである耐酸性ロックボルト定着材を得た。減水剤は、粉体として使用する場合は、結合剤や細骨材と共にモルタルミキサーで空練りし、液体に溶かして使用する場合は混練時に投入する水に溶かした状態で添加した。表中の減水剤配合率(%)は、結合材(B)の総質量に対する減水剤配合量の割合を百分率で示す。
【0035】
【0036】
【0037】
表1及び2中の記号は以下を示す。
C:セメント
N:普通ポルトランドセメント(密度3.16g/cm3)
H:早強ポルトランドセメント(密度3.14g/cm3)
SF:シリカフューム(密度2.23g/cm3、比表面積22.5m2/g)
BFS:高炉スラグ微粉末(密度2.91g/cm3、比表面積4340m2/g)
S:細骨材(細砂、絶乾密度2.62g/cm3、粗粒率2.15、吸水率1.48%)
G:減水剤(粉体高性能減水剤、アリールスルホン酸系化合物)
B:結合材
W:水(上水)
W/B:水結合材比(百分率)
S/B:水結合材比
【0038】
得られたロックボルト定着材を、(1)圧縮強度試験、及び(2)硫酸浸漬試験に供した。
(1)圧縮強度試験
圧縮強度試験は、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に記載の方法に従って実施し、硫酸浸漬試験は、特許公報1に記載の方法に従って実施した。圧縮強度試験は、ロックボルト定着材を型枠内で硬化させた直径50mmで高さ100mmの円柱状の供試体を用いて実施した。
圧縮強度試験は現場封かんの条件下で1日間養生した材齢1日の硬化体を用いて実施した。圧縮強度試験の結果を表1に示した。また
図2に、耐酸性ロックボルト定着材に用いたセメントの種類、水結合材比及び材齢1日圧縮強度の関係を示した。
図2に示すグラフから、材齢1日圧縮強度の目標値10N/mm
2以上を満足する配合は、水結合材比が、結合材(セメント組成物)に早強ポルトランドセメントを使用した場合で40~45%の配合、普通ポルトランドセメントを使用した場合で40%の配合である。
図2に示す結果から、材齢1日圧縮強度の目標値10N/mm
2以上を満たす配合とするには、水結合材比が、早強ポルトランドセメントについては40~45%が好ましく、普通ポルトランドセメントについては40~42.5%、特に40~42%が好ましいことが判る。
図2に示されるように、砂結合材比が一定の場合、水結合材比が大きいほどセメント量が少なくなる。結合材中のセメント分の割合が減少すると耐酸性が向上するため、普通ポルトランドセメントよりも、早強ポルトランドセメントを用いた方が、耐酸性及び強度の両方に優れたロックボルト定着材を得ることが容易となる。
【0039】
(2)硫酸浸漬試験
硫酸浸漬試験は、表2に示す番号7~10の配合のロックボルト定着材について行った。
表2に示す番号7~10の配合は、前述の圧縮強度試験の結果に基づき、材齢1日の圧縮強度の目標値10N/mm2以上を満たすように、水結合材比を40~45%(普通ポルトランドセメントについては40~42.5%、早強ポルトランドセメントについては40~45%)の範囲内の40%に設定するとともに、JIS R 5201に規定されるテーブルフロー値が、NEXCOのトンネル施工管理要領における基準値である150±20mmとなるように減水剤を配合した配合である。
【0040】
硫酸浸漬試験は、ロックボルト定着材を型枠内で硬化させた直径75mmで高さ150mmの円柱状の供試体を用いて実施した。具体的には、硫酸浸漬試験は、モルタル組成物であるロックボルト定着材の型枠内への打設後、1日現場封かん養生をした後、脱型して水中養生させる条件下で3日又は28日養生したロックボルト定着材の硬化体を用いて実施した。
硫酸浸漬試験は、その養生期間3日及び養生期間28日の供試体を、硫酸濃度5%の硫酸水溶液に7日及び28日間浸漬した。硫酸水溶液は、7日毎に全量を取り替えた。浸漬終了後、質量測定を行い、質量変化率を求めた。硫酸浸漬試験の結果を表2に示した。また
図3に、水結合材比と質量変化率との関係を示した。質量変化率(%)は、下式により水中養生後の初期値と浸漬終了後の測定値から算出する。
【数1】
【0041】
(3)試験1の結果
水結合材比を、材齢1日圧縮強度の目標値10N/mm
2以上を満たすように設定した40~45%の範囲内とし、砂結合材比を1.50~2.00の範囲内とし、且つテーブルフロー値を150±20mmとなるように減水剤を配合した本発明の実施例であるロックボルト定着材は、表2及び
図3に示されるように、圧縮強度が前記目標値を満たすとともに、質量変化率の目標値±10%以内を満足しており、耐酸性及び強度に優れることが判る。またフレッシュモルタルの状態におけるテーブルフロー値が150±20mmの範囲内であり、ロックボルト定着材としての圧送性にも優れることが判る。また、
図3に示す結果から、砂結合材比と質量変化率との間には、砂結合材比が減少するにつれて質量変化率が漸次減少する相関関係があることが判り、その相関関係から砂結合材比が1.5程度以上であれば、質量減少率の目標値±10%以内の達成が可能であると推定される。
【0042】
(試験2)
圧送性及び定着性等の確認試験
表1中の番号2の配合を有する本発明に係るロックボルト定着材を用いて、トンネル工事現場での施工実験を行い、本発明に係るロックボルト定着材の施工性および定着性等の品質について確認した。表3に施工実験条件を示す。トンネルの内壁に、削孔機により上半断面1スパン分の側壁部から天端部までを直径45mmの長さ3mで削孔し、連続混合式庄送装置(株式会社ケー・エフ・シーの「MAIポンプ」)を用いて、ロックボルト定着材の構成材料を混練し、削孔内に充填した後、ロックボルトを挿入した。施工本数は、
図4に示すように、天端部1本、アーチ部2本、側壁部2本とした。
図4中、ロックボルト1が、本発明の実施例のロックボルト定着材で固定したロックボルトであり、従来のロックボルト定着材で定着させた既存のロックボルト1aの位置からトンネルの周方向に50cm離して施工した。施工時には、天端部の削孔への充填時においても、定着材のダレ落ちやロックボルトの抜出し等の不具合はなく、通常と同様の施工が可能であった。また試験2に用いたロックボルト定着材は、表4に示すフロー値及び圧縮強度を示した。また試験2に用いたロックボルト定着材は、表4に示すように、フロー値が、定着材の圧送前後において共に152mmという同じ値を示し、圧送による流動性の変動が小さいことが判る。
【0043】
【0044】
【0045】
ロックボルト定着材を充填した削孔内にロックボルトを挿入してから3日間経過した後、該ロックボルトについて引抜き試験を行い、その結果を
図5に示した。
図5に示すように、天端部、アーチ部及び側壁部の5か所すべての施工位置において、ロックボルトの荷重-変位曲線は、ほぼ線形な関係を示し、引抜耐力の規定値150kNを満足した。これらから、本発明に係るロックボルト定着材は、耐酸性及び強度に優れる上に、実際のトンネル工事現場においても、優れた圧送性や定着性を得られることが確認された。
図5中、アーチ部及び側壁部について「右」及び「左」は、
図4の右側又は左側に位置する方であることを示す。
【符号の説明】
【0046】
1 ロックボルト
5 削孔
6 ロックボルト定着材
7 二次覆工コンクリート
10 トンネル