IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧 ▶ JFEスチール株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社神戸製鋼所の特許一覧 ▶ 新日鉄住金エンジニアリング株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-補正係数の決定方法 図1
  • 特許-補正係数の決定方法 図2
  • 特許-補正係数の決定方法 図3
  • 特許-補正係数の決定方法 図4
  • 特許-補正係数の決定方法 図5
  • 特許-補正係数の決定方法 図6
  • 特許-補正係数の決定方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】補正係数の決定方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 5/00 20060101AFI20230105BHJP
【FI】
C21B5/00 310
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019080926
(22)【出願日】2019-04-22
(65)【公開番号】P2020176320
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-12-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「環境調和型製鉄プロセス技術開発(STEP2)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(72)【発明者】
【氏名】西岡 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】酒井 博
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-172222(JP,A)
【文献】特開2012-172221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質収支、運動量収支、及びエネルギー収支を考慮した高炉数学モデルに用いられる還元速度定数を補正する補正係数の決定方法であって、
前記還元速度定数は、FeをFeに還元する第1還元反応の第1還元速度定数、FeをFeOに還元する第2還元反応の第2還元速度定数、及びFeOをFeに還元する第3還元反応の第3還元速度定数であり、
前記補正係数は、前記第1還元速度定数の基準値に乗じられる第1補正係数、前記第2還元速度定数の基準値に乗じられる第2補正係数、及び前記第3還元速度定数の基準値に乗じられる第3補正係数であり、
高炉の炉頂で採取した炉頂ガスから求められるCOガス利用率ηCOの実測値と、前記第1補正係数の候補である第1候補値を前記第1還元速度定数の基準値に乗じた前記第1還元速度定数、前記第2補正係数の候補である第2候補値を前記第2還元速度定数の基準値に乗じた前記第2還元速度定数、及び前記第3補正係数の候補である第3候補値を前記第3還元速度定数の基準値に乗じた前記第3還元速度定数が用いられる前記高炉数学モデルの解析結果から求められる、前記炉頂におけるCOガス利用率ηCOの計算値と、の差である炉頂ηCO差を求め、
前記第2還元反応が進行する前記高炉の第2所定高さに設置される水平ゾンデで採取した炉内ガスから求められるCOガス利用率ηCOの実測値と、前記解析結果から求められる前記第2所定高さにおけるCOガス利用率ηCOの計算値と、の差である第2ηCO差を求め、
前記炉頂ηCO差が所定範囲αの範囲内になるとともに前記第2ηCO差が所定範囲γの範囲内になる前記第1候補値、前記第2候補値、及び前記第3候補値を、それぞれ、前記第1補正係数、前記第2補正係数、及び前記第3補正係数として決定する、
ことを特徴とする補正係数の決定方法。
【請求項2】
前記第1還元反応が進行する前記高炉の第1所定高さに設置される水平ゾンデで採取した炉内ガスから求められるCOガス利用率ηCOの実測値と、前記解析結果から求められる前記第1所定高さにおけるCOガス利用率ηCOの計算値と、の差である第1ηCO差を求めることをさらに含み、
前記炉頂ηCO差が前記所定範囲αの範囲内になり、前記第1ηCO差が所定範囲βの範囲内になり、前記第2ηCO差が前記所定範囲γの範囲内になる前記第1候補値、前記第2候補値、及び前記第3候補値を、それぞれ、前記第1補正係数、前記第2補正係数、及び前記第3補正係数として決定することを特徴とする請求項1に記載の補正係数の決定方法。
【請求項3】
前記第3還元反応が進行する前記高炉の第3所定高さに設置される水平ゾンデで採取した炉内ガスから求められるCOガス利用率ηCOの実測値と、前記解析結果から求められる前記第3所定高さにおけるCOガス利用率ηCOの計算値と、の差である第3ηCO差を求めることをさらに含み、
前記炉頂ηCO差が前記所定範囲αの範囲内になり、前記第2ηCO差が前記所定範囲γの範囲内になり、前記第3ηCO差が所定範囲δの範囲内になる前記第1候補値、前記第2候補値、及び前記第3候補値を、それぞれ、前記第1補正係数、前記第2補正係数、及び前記第3補正係数として決定することを特徴とする請求項1に記載の補正係数の決定方法。
【請求項4】
前記第1還元反応が進行する前記高炉の第1所定高さに設置される水平ゾンデで採取した炉内ガスから求められるCOガス利用率ηCOの実測値と、前記解析結果から求められる前記第1所定高さにおけるCOガス利用率ηCOの計算値と、の差である第1ηCO差を求め、
前記第3還元反応が進行する前記高炉の第3所定高さに設置される水平ゾンデで採取した炉内ガスから求められるCOガス利用率ηCOの実測値と、前記解析結果から求められる前記第3所定高さにおけるCOガス利用率ηCOの計算値と、の差である第3ηCO差を求めること、をさらに含み、
前記炉頂ηCO差が前記所定範囲αの範囲内になり、前記第1ηCO差が所定範囲βの範囲内になり、前記第2ηCO差が前記所定範囲γの範囲内になり、前記第3ηCO差が所定範囲δの範囲内になる前記第1候補値、前記第2候補値、及び前記第3候補値を、それぞれ、前記第1補正係数、前記第2補正係数、及び前記第3補正係数として決定することを特徴とする請求項1に記載の補正係数の決定方法。
【請求項5】
前記炉頂ηCO差が前記所定範囲αの範囲外となる場合、前記第1~第3候補値を変更し、
前記第1ηCO差が前記所定範囲βの範囲外となる場合、前記第1候補値を変更し、
前記第2ηCO差が前記所定範囲γの範囲外となる場合、前記第2候補値を変更し、
前記第3ηCO差が前記所定範囲δの範囲外となる場合、前記第3候補値を変更する、
ことをさらに含むことを特徴とする請求項4に記載の補正係数の決定方法。
【請求項6】
物質収支、運動量収支、及びエネルギー収支を考慮した高炉数学モデルに用いられる還元速度定数を補正する補正係数の決定方法であって、
前記還元速度定数は、FeをFeに還元する第1還元反応の第1還元速度定数、FeをFeOに還元する第2還元反応の第2還元速度定数、及びFeOをFeに還元する第3還元反応の第3還元速度定数であり、
前記補正係数は、前記第1還元速度定数の基準値に乗じられる第1補正係数、前記第2還元速度定数の基準値に乗じられる第2補正係数、及び前記第3還元速度定数の基準値に乗じられる第3補正係数であり、
高炉の炉頂で採取した炉頂ガスから求められるCOガス利用率ηCOの実測値と、前記第1補正係数の候補である第1候補値を前記第1還元速度定数の基準値に乗じた前記第1還元速度定数、前記第2補正係数の候補である第2候補値を前記第2還元速度定数の基準値に乗じた前記第2還元速度定数、及び前記第3補正係数の候補である第3候補値を前記第3還元速度定数の基準値に乗じた前記第3還元速度定数が用いられる前記高炉数学モデルの解析結果から求められる、前記炉頂におけるCOガス利用率ηCOの計算値と、の差である炉頂ηCO差を求め、
前記第3還元反応が進行する前記高炉の第3所定高さに設置される水平ゾンデで採取した炉内ガスから求められるCOガス利用率ηCOの実測値と、前記解析結果から求められる前記第3所定高さにおけるCOガス利用率ηCOの計算値と、の差である第3ηCO差を求め、
前記炉頂ηCO差が所定範囲αの範囲内になるとともに前記第3ηCO差が所定範囲δの範囲内になる前記第1候補値、前記第2候補値、及び前記第3候補値を、それぞれ、前記第1補正係数、前記第2補正係数、及び前記第3補正係数として決定する、
ことを特徴とする補正係数の決定方法。
【請求項7】
前記第1還元反応が進行する前記高炉の第1所定高さに設置される水平ゾンデで採取した炉内ガスから求められるCOガス利用率ηCOの実測値と、前記解析結果から求められる前記第1所定高さにおけるCOガス利用率ηCOの計算値と、の差である第1ηCO差を求めることをさらに含み、
前記炉頂ηCO差が前記所定範囲αの範囲内になり、前記第1ηCO差が所定範囲βの範囲内になり、前記第3ηCO差が前記所定範囲δの範囲内になる前記第1候補値、前記第2候補値、及び前記第3候補値を、それぞれ、前記第1補正係数、前記第2補正係数、及び前記第3補正係数として決定することを特徴とする請求項6に記載の補正係数の決定方法。
【請求項8】
前記第1所定高さに設置される水平ゾンデで炉半径方向における異なる複数の位置で前記炉内ガスを採取して、当該複数の位置での前記COガス利用率ηCOの実測値をそれぞれ求め、
前記高炉数学モデルにおいて前記第1所定高さの炉半径方向に並ぶ複数の計算格子を設定して、当該複数の計算格子での前記COガス利用率ηCOの計算値をそれぞれ求め、
前記第1ηCO差を規定する前記実測値として、前記第1所定高さにおける前記複数のCOガス利用率ηCOの実測値のうちの最大値と最小値を加算した加算値を用いるとともに、前記第1ηCO差を規定する前記計算値として、前記第1所定高さにおける前記複数のCOガス利用率ηCOの計算値のうちの最大値と最小値を加算した加算値を用いることを特徴とする請求項2,4,5,7の何れか一項に記載の補正係数の決定方法。
【請求項9】
前記第2所定高さに設置される水平ゾンデで炉半径方向における異なる複数の位置で前記炉内ガスを採取して、当該複数の位置での前記COガス利用率ηCOの実測値をそれぞれ求め、
前記高炉数学モデルにおいて前記第2所定高さの炉半径方向に並ぶ複数の計算格子を設定して、当該複数の計算格子での前記COガス利用率ηCOの計算値をそれぞれ求め、
前記第2ηCO差を規定する前記実測値として、前記第2所定高さにおける前記複数のCOガス利用率ηCOの実測値のうちの最大値と最小値を加算した加算値を用いるとともに、前記第2ηCO差を規定する前記計算値として、前記第2所定高さにおける前記複数のCOガス利用率ηCOの計算値のうちの最大値と最小値を加算した加算値を用いることを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載の補正係数の決定方法。
【請求項10】
前記第3所定高さに設置される水平ゾンデで炉半径方向における異なる複数の位置で前記炉内ガスを採取して、当該複数の位置での前記COガス利用率ηCOの実測値をそれぞれ求め、
前記高炉数学モデルにおいて前記第3所定高さの炉半径方向に並ぶ複数の計算格子を設定して、当該複数の計算格子での前記COガス利用率ηCOの計算値をそれぞれ求め、
前記第3ηCO差を規定する前記実測値として、前記第3所定高さにおける前記複数のCOガス利用率ηCOの実測値のうちの最大値と最小値を加算した加算値を用いるとともに、前記第3ηCO差を規定する前記計算値として、前記第3所定高さにおける前記複数のCOガス利用率ηCOの計算値のうちの最大値と最小値を加算した加算値を用いることを特徴とする請求項3~7の何れか一項に記載の補正係数の決定方法。
【請求項11】
物質収支、運動量収支、及びエネルギー収支を考慮した高炉数学モデルに用いられる還元速度定数を補正する補正係数の決定方法であって、
前記還元速度定数は、FeをFeOに還元する第1-2還元反応の第1-2還元速度定数、及びFeOをFeに還元する第3還元反応の第3還元速度定数であり、
前記補正係数は、前記第1-2還元速度定数の基準値に乗じられる第1-2補正係数、及び前記第3還元速度定数の基準値に乗じられる第3補正係数であり、
高炉の炉頂で採取した炉頂ガスから求められるCOガス利用率ηCOの実測値と、前記第1-2補正係数の候補である第1-2候補値を前記第1-2還元速度定数の基準値に乗じた前記第1-2還元速度定数、及び前記第3補正係数の候補である第3候補値を前記第3還元速度定数の基準値に乗じた前記第3還元速度定数が用いられる前記高炉数学モデルの解析結果から求められる、前記炉頂におけるCOガス利用率ηCOの計算値と、の差である炉頂ηCO差を求め、
前記第1-2還元反応が進行する前記高炉の第1-2所定高さに設置される水平ゾンデで採取した炉内ガスから求められるCOガス利用率ηCOの実測値と、前記解析結果から求められる前記第1-2所定高さにおけるCOガス利用率ηCOの計算値と、の差である第1-2ηCO差を求め、
前記炉頂ηCO差が所定範囲αの範囲内になるとともに前記第1-2ηCO差が所定範囲βまたは所定範囲γの範囲内になる前記第1-2候補値及び前記第3候補値を、それぞれ、前記第1-2補正係数及び前記第3補正係数として決定する、
ことを特徴とする補正係数の決定方法。
【請求項12】
物質収支、運動量収支、及びエネルギー収支を考慮した高炉数学モデルに用いられる還元速度定数を補正する補正係数の決定方法であって、
前記還元速度定数は、FeをFeOに還元する第1-2還元反応の第1-2還元速度定数、及びFeOをFeに還元する第3還元反応の第3還元速度定数であり、
前記補正係数は、前記第1-2還元速度定数の基準値に乗じられる第1-2補正係数、及び前記第3還元速度定数の基準値に乗じられる第3補正係数であり、
高炉の炉頂で採取した炉頂ガスから求められるCOガス利用率ηCOの実測値と、前記第1-2補正係数の候補である第1-2候補値を前記第1-2還元速度定数の基準値に乗じた前記第1-2還元速度定数、及び前記第3補正係数の候補である第3候補値を前記第3還元速度定数の基準値に乗じた前記第3還元速度定数が用いられる前記高炉数学モデルの解析結果から求められる、前記炉頂におけるCOガス利用率ηCOの計算値と、の差である炉頂ηCO差を求め、
前記第3還元反応が進行する前記高炉の第3所定高さに設置される水平ゾンデで採取した炉内ガスから求められるCOガス利用率ηCOの実測値と、前記解析結果から求められる前記第3所定高さにおけるCOガス利用率ηCOの計算値と、の差である第3ηCO差を求め、
前記炉頂ηCO差が所定範囲αの範囲内になるとともに前記第3ηCO差が所定範囲δの範囲内になる前記第1-2候補値及び前記第3候補値を、それぞれ、前記第1-2補正係数及び前記第3補正係数として決定する、
ことを特徴とする補正係数の決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元速度定数を補正するための補正係数の決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の観点から、CO排出量の削減が喫緊の課題となっている。高炉からのCO排出量を削減するには、高炉で使用するコークスや微粉炭等、炭素を多く含む還元材(以下、「炭素還元材」ともいう)の削減、すなわち溶銑1tあたりの炭素消費量(=炭素消費原単位)の削減が不可避である。
【0003】
そこで、近年、高炉の炉頂から排出されるガスからCOおよびHOを除去したガス(以下、「調整BFG」ともいう)を、炉下部に設けられる通常羽口や、シャフト部に設けられるシャフト羽口から吹き込み、これらのガスに含まれるCOやHを炭素還元材の代替として使用することが検討されている(特許文献1)。
【0004】
このような新たな操業の設計を行うには、高炉数学モデルによる数値シミュレーション(以下、「解析」ともいう)を行うことが必要不可欠である。高炉数学モデルとしては、高炉の内部領域を複数の小領域(以下、「計算格子」ともいう)に分割し、各計算格子において、物質収支、運動量収支及びエネルギー収支の数式を解くことにより、高炉内の温度分布、ガス濃度分布、鉄鉱石の還元率分等の炉内状態を解析する数学モデルがある(非特許文献1)。特許文献2では、高炉数学モデルにより炉内状態を解析するとともに、解析した炉内状態と実測した炉内状態とに基づき、的確な操業条件を決定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-113677号公報
【文献】特開平8-295910号公報
【文献】特公昭63-25043号公報
【文献】特許第5427084号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Kouji Takatani,Takanobu Inada,Yutaka Ujisawa,「Three-dimensional Dynamic Simulator for Blast Furnace」、ISIJ International、一般社団法人日本鉄鋼協会、1999年、Vol.39、No.1、p15-22
【文献】原行明、土屋勝、近藤真一、「酸化鉄ペレットの還元時における粒子内温度」、鉄と鋼、Vol.60(1974)、No.9、pp.1261-1270
【文献】原行明、坂輪光弘、近藤真一、「鉄鉱石還元用シャフト炉の数学的モデル」、鉄と鋼、Vol.62(1976)、No.3、pp.315-323
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高炉数学モデルにより炉内状態を解析するには、酸化鉄を鉄に還元するまでの各還元反応の還元速度定数が必要となる。具体的には、FeをFeに還元する還元反応の還元速度定数、FeをFeOに還元する還元反応の還元速度定数、及び、FeOをFeに還元する還元反応の還元速度定数が必要となる。これらの還元速度定数は、一般的に、ラボで酸化鉄試料の還元試験を行い、各還元段階(Fe→Fe,Fe→FeO,FeO→Fe)における、時間に対する還元率の変化から求められる。
【0008】
しかしながら、ラボでの還元試験により得られた各還元速度定数を、そのまま高炉数学モデルで使用した場合、高炉の炉内状態を正しく再現できないことがある。例えば、炉頂におけるCOガス利用率(COガス濃度を、COガス濃度とCOガス濃度の総和で除算した値。以下、「ηCO」と表記する。)に関し、高炉数学モデルの解析結果から求められる値(以下、「計算値」ともいう)は、高炉の炉頂で採取したガスから求められる値(以下、「実測値」ともいう)よりも大きくなることが多い。このため、従来の高炉数学モデルでは、炉頂におけるCOガス利用率、すなわち炉頂ηCOの計算値と実測値とが一致するように、酸化鉄の各還元段階の還元速度定数それぞれに0~1の補正係数を乗じて、還元速度定数を補正している。
【0009】
上述したように、酸化鉄の還元反応は、Fe→Fe、Fe→FeO、FeO→Feというように、3段階で進行するため、還元速度定数は3つあり、還元速度定数に乗じる補正係数も3つある。これに対して、炉頂ηCOは1つしかない。このため、3つの補正係数を一意的に決めることができなかった。そこで、従来は、炉頂ηCOの計算値と実測値とが一致するように、(1)3つの補正係数を同じ値にして3つの補正係数を同時に調整する方法や、(2)2つの補正係数は固定値(例えば、1.0)としておき、残りの1つの補正係数を調整する方法等が用いられてきた。しかしながら、このような方法で決定した補正係数により還元速度定数を補正しても、高炉数学モデルによる解析精度は十分でないことがあった。特に、シャフト部から還元ガス(例えば、調整BFG)を吹き込む高炉を対象に解析を行った場合には、解析結果(炉内状態)が実際の高炉の炉内状態と大きく異なることがあった。
【0010】
ここで、特許文献3には、消耗型垂直ゾンデで計測した計測データ(炉高方向における複数の箇所で計測した、温度、ガス組成、圧力)と、装入物の層頂部に配置される固定ゾンデによって推定される炉内状態の推定結果を比較し、両者が一致しない場合には、炉内状態推定モデル中の熱交換係数や反応速度定数を修正して、消耗型垂直ゾンデの計測結果と一致させることが記載されている。特許文献3では、装入物の荷下がりに伴って繰り出される消耗型垂直ゾンデの繰り出し長さに基づいて、計測データの炉高方向における位置を特定しているが、装入物は炉内を垂直に降下(荷下がり)するものではない。従って、消耗型垂直ゾンデにより取得した計測データの炉高方向における位置は、実際の高炉の炉高方向における位置と一致するとは限らない。このため、消耗型垂直ゾンデの計測結果と炉内状態の推定結果とを一致するように、炉内状態推定モデル中の熱交換係数や反応速度定数を修正したとしても、解析精度を十分に向上できないおそれがある。
【0011】
また、特許文献4では、垂直水平ゾンデにより、高炉内部のCOガス濃度やCOガス濃度を測定することが開示されている。しかしながら、垂直水平ゾンデも、特許文献3の消耗型垂直ゾンデと同様に、装入物の荷下がりに伴って降下するゾンデである。このため、垂直水平ゾンデで取得した計測データの炉高方向における位置は、実際の高炉の炉高方向における位置と一致するとは限らない。また、特許文献4では、測定したCOガス濃度及びCOガス濃度から、C+CO→2COの反応式で示されるガス化反応速度定数Ksを求めているだけであり、還元速度定数を補正する補正係数を求めることについて一切着目されていない。
【0012】
本発明は、高炉数学モデルの解析精度を向上することができる還元速度定数の補正係数の決定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明に係る補正係数の決定方法は、(1)物質収支、運動量収支、及びエネルギー収支を考慮した高炉数学モデルに用いられる還元速度定数を補正する補正係数の決定方法であって、前記還元速度定数は、FeをFeに還元する第1還元反応の第1還元速度定数、FeをFeOに還元する第2還元反応の第2還元速度定数、及びFeOをFeに還元する第3還元反応の第3還元速度定数であり、前記補正係数は、前記第1還元速度定数の基準値に乗じられる第1補正係数、前記第2還元速度定数の基準値に乗じられる第2補正係数、及び前記第3還元速度定数の基準値に乗じられる第3補正係数であり、高炉の炉頂で採取した炉頂ガスから求められるCOガス利用率ηCOの実測値と、前記第1補正係数の候補である第1候補値を前記第1還元速度定数の基準値に乗じた前記第1還元速度定数、前記第2補正係数の候補である第2候補値を前記第2還元速度定数の基準値に乗じた前記第2還元速度定数、及び前記第3補正係数の候補である第3候補値を前記第3還元速度定数の基準値に乗じた前記第3還元速度定数が用いられる前記高炉数学モデルの解析結果から求められる、前記炉頂におけるCOガス利用率ηCOの計算値と、の差である炉頂ηCO差を求め、前記第2還元反応が進行する前記高炉の第2所定高さに設置される水平ゾンデで採取した炉内ガスから求められるCOガス利用率ηCOの実測値と、前記解析結果から求められる前記第2所定高さにおけるCOガス利用率ηCOの計算値と、の差である第2ηCO差を求め、前記炉頂ηCO差が所定範囲αの範囲内になるとともに前記第2ηCO差が所定範囲γの範囲内になる前記第1候補値、前記第2候補値、及び前記第3候補値を、それぞれ、前記第1補正係数、前記第2補正係数、及び前記第3補正係数として決定する、ことを特徴とする。
【0014】
(2)前記第1還元反応が進行する前記高炉の第1所定高さに設置される水平ゾンデで採取した炉内ガスから求められるCOガス利用率ηCOの実測値と、前記解析結果から求められる前記第1所定高さにおけるCOガス利用率ηCOの計算値と、の差である第1ηCO差を求めることをさらに含み、前記炉頂ηCO差が前記所定範囲αの範囲内になり、前記第1ηCO差が所定範囲βの範囲内になり、前記第2ηCO差が前記所定範囲γの範囲内になる前記第1候補値、前記第2候補値、及び前記第3候補値を、それぞれ、前記第1補正係数、前記第2補正係数、及び前記第3補正係数として決定することを特徴とする(1)に記載の補正係数の決定方法。
【0015】
(3)前記第3還元反応が進行する前記高炉の第3所定高さに設置される水平ゾンデで採取した炉内ガスから求められるCOガス利用率ηCOの実測値と、前記解析結果から求められる前記第3所定高さにおけるCOガス利用率ηCOの計算値と、の差である第3ηCO差を求めることをさらに含み、前記炉頂ηCO差が前記所定範囲αの範囲内になり、前記第2ηCO差が前記所定範囲γの範囲内になり、前記第3ηCO差が所定範囲δの範囲内になる前記第1候補値、前記第2候補値、及び前記第3候補値を、それぞれ、前記第1補正係数、前記第2補正係数、及び前記第3補正係数として決定することを特徴とする(1)に記載の補正係数の決定方法。
【0016】
(4)前記第1還元反応が進行する前記高炉の第1所定高さに設置される水平ゾンデで採取した炉内ガスから求められるCOガス利用率ηCOの実測値と、前記解析結果から求められる前記第1所定高さにおけるCOガス利用率ηCOの計算値と、の差である第1ηCO差を求め、前記第3還元反応が進行する前記高炉の第3所定高さに設置される水平ゾンデで採取した炉内ガスから求められるCOガス利用率ηCOの実測値と、前記解析結果から求められる前記第3所定高さにおけるCOガス利用率ηCOの計算値と、の差である第3ηCO差を求めること、をさらに含み、前記炉頂ηCO差が前記所定範囲αの範囲内になり、前記第1ηCO差が所定範囲βの範囲内になり、前記第2ηCO差が前記所定範囲γの範囲内になり、前記第3ηCO差が所定範囲δの範囲内になる前記第1候補値、前記第2候補値、及び前記第3候補値を、それぞれ、前記第1補正係数、前記第2補正係数、及び前記第3補正係数として決定することを特徴とする(1)に記載の補正係数の決定方法。
【0017】
(5)前記炉頂ηCO差が前記所定範囲αの範囲外となる場合、前記第1~第3候補値を変更し、前記第1ηCO差が前記所定範囲βの範囲外となる場合、前記第1候補値を変更し、前記第2ηCO差が前記所定範囲γの範囲外となる場合、前記第2候補値を変更し、前記第3ηCO差が前記所定範囲δの範囲外となる場合、前記第3候補値を変更する、ことをさらに含むことを特徴とする(4)に記載の補正係数の決定方法。
【0018】
(6)物質収支、運動量収支、及びエネルギー収支を考慮した高炉数学モデルに用いられる還元速度定数を補正する補正係数の決定方法であって、前記還元速度定数は、FeをFeに還元する第1還元反応の第1還元速度定数、FeをFeOに還元する第2還元反応の第2還元速度定数、及びFeOをFeに還元する第3還元反応の第3還元速度定数であり、前記補正係数は、前記第1還元速度定数の基準値に乗じられる第1補正係数、前記第2還元速度定数の基準値に乗じられる第2補正係数、及び前記第3還元速度定数の基準値に乗じられる第3補正係数であり、高炉の炉頂で採取した炉頂ガスから求められるCOガス利用率ηCOの実測値と、前記第1補正係数の候補である第1候補値を前記第1還元速度定数の基準値に乗じた前記第1還元速度定数、前記第2補正係数の候補である第2候補値を前記第2還元速度定数の基準値に乗じた前記第2還元速度定数、及び前記第3補正係数の候補である第3候補値を前記第3還元速度定数の基準値に乗じた前記第3還元速度定数が用いられる前記高炉数学モデルの解析結果から求められる、前記炉頂におけるCOガス利用率ηCOの計算値と、の差である炉頂ηCO差を求め、前記第3還元反応が進行する前記高炉の第3所定高さに設置される水平ゾンデで採取した炉内ガスから求められるCOガス利用率ηCOの実測値と、前記解析結果から求められる前記第3所定高さにおけるCOガス利用率ηCOの計算値と、の差である第3ηCO差を求め、前記炉頂ηCO差が所定範囲αの範囲内になるとともに前記第3ηCO差が所定範囲δの範囲内になる前記第1候補値、前記第2候補値、及び前記第3候補値を、それぞれ、前記第1補正係数、前記第2補正係数、及び前記第3補正係数として決定する、ことを特徴とする補正係数の決定方法。
【0019】
(7)前記第1還元反応が進行する前記高炉の第1所定高さに設置される水平ゾンデで採取した炉内ガスから求められるCOガス利用率ηCOの実測値と、前記解析結果から求められる前記第1所定高さにおけるCOガス利用率ηCOの計算値と、の差である第1ηCO差を求めることをさらに含み、前記炉頂ηCO差が前記所定範囲αの範囲内になり、前記第1ηCO差が所定範囲βの範囲内になり、前記第3ηCO差が前記所定範囲δの範囲内になる前記第1候補値、前記第2候補値、及び前記第3候補値を、それぞれ、前記第1補正係数、前記第2補正係数、及び前記第3補正係数として決定することを特徴とする(6)に記載の補正係数の決定方法。
【0020】
(8)前記第1所定高さに設置される水平ゾンデで炉半径方向における異なる複数の位置で前記炉内ガスを採取して、当該複数の位置での前記COガス利用率ηCOの実測値をそれぞれ求め、前記高炉数学モデルにおいて前記第1所定高さの炉半径方向に並ぶ複数の計算格子を設定して、当該複数の計算格子での前記COガス利用率ηCOの計算値をそれぞれ求め、前記第1ηCO差を規定する前記実測値として、前記第1所定高さにおける前記複数のCOガス利用率ηCOの実測値のうちの最大値と最小値を加算した加算値を用いるとともに、前記第1ηCO差を規定する前記計算値として、前記第1所定高さにおける前記複数のCOガス利用率ηCOの計算値のうちの最大値と最小値を加算した加算値を用いることを特徴とする(2),(4),(5),(7)の何れか一項に記載の補正係数の決定方法。
【0021】
(9)前記第2所定高さに設置される水平ゾンデで炉半径方向における異なる複数の位置で前記炉内ガスを採取して、当該複数の位置での前記COガス利用率ηCOの実測値をそれぞれ求め、前記高炉数学モデルにおいて前記第2所定高さの炉半径方向に並ぶ複数の計算格子を設定して、当該複数の計算格子での前記COガス利用率ηCOの計算値をそれぞれ求め、前記第2ηCO差を規定する前記実測値として、前記第2所定高さにおける前記複数のCOガス利用率ηCOの実測値のうちの最大値と最小値を加算した加算値を用いるとともに、前記第2ηCO差を規定する前記計算値として、前記第2所定高さにおける前記複数のCOガス利用率ηCOの計算値のうちの最大値と最小値を加算した加算値を用いることを特徴とする(1)~(5)の何れか一項に記載の補正係数の決定方法。
【0022】
(10)前記第3所定高さに設置される水平ゾンデで炉半径方向における異なる複数の位置で前記炉内ガスを採取して、当該複数の位置での前記COガス利用率ηCOの実測値をそれぞれ求め、前記高炉数学モデルにおいて前記第3所定高さの炉半径方向に並ぶ複数の計算格子を設定して、当該複数の計算格子での前記COガス利用率ηCOの計算値をそれぞれ求め、前記第3ηCO差を規定する前記実測値として、前記第3所定高さにおける前記複数のCOガス利用率ηCOの実測値のうちの最大値と最小値を加算した加算値を用いるとともに、前記第3ηCO差を規定する前記計算値として、前記第3所定高さにおける前記複数のCOガス利用率ηCOの計算値のうちの最大値と最小値を加算した加算値を用いることを特徴とする(3)~(7)の何れか一項に記載の補正係数の決定方法。
【0023】
(11)物質収支、運動量収支、及びエネルギー収支を考慮した高炉数学モデルに用いられる還元速度定数を補正する補正係数の決定方法であって、前記還元速度定数は、FeをFeOに還元する第1-2還元反応の第1-2還元速度定数、及びFeOをFeに還元する第3還元反応の第3還元速度定数であり、前記補正係数は、前記第1-2還元速度定数の基準値に乗じられる第1-2補正係数、及び前記第3還元速度定数の基準値に乗じられる第3補正係数であり、高炉の炉頂で採取した炉頂ガスから求められるCOガス利用率ηCOの実測値と、前記第1-2補正係数の候補である第1-2候補値を前記第1-2還元速度定数の基準値に乗じた前記第1-2還元速度定数、及び前記第3補正係数の候補である第3候補値を前記第3還元速度定数の基準値に乗じた前記第3還元速度定数が用いられる前記高炉数学モデルの解析結果から求められる、前記炉頂におけるCOガス利用率ηCOの計算値と、の差である炉頂ηCO差を求め、前記第1-2還元反応が進行する前記高炉の第1-2所定高さに設置される水平ゾンデで採取した炉内ガスから求められるCOガス利用率ηCOの実測値と、前記解析結果から求められる前記第1-2所定高さにおけるCOガス利用率ηCOの計算値と、の差である第1-2ηCO差を求め、前記炉頂ηCO差が所定範囲αの範囲内になるとともに前記第1-2ηCO差が所定範囲βまたは所定範囲γの範囲内になる前記第1-2候補値及び前記第3候補値を、それぞれ、前記第1-2補正係数及び前記第3補正係数として決定する、ことを特徴とする補正係数の決定方法。
【0024】
(12)物質収支、運動量収支、及びエネルギー収支を考慮した高炉数学モデルに用いられる還元速度定数を補正する補正係数の決定方法であって、前記還元速度定数は、FeをFeOに還元する第1-2還元反応の第1-2還元速度定数、及びFeOをFeに還元する第3還元反応の第3還元速度定数であり、前記補正係数は、前記第1-2還元速度定数の基準値に乗じられる第1-2補正係数、及び前記第3還元速度定数の基準値に乗じられる第3補正係数であり、高炉の炉頂で採取した炉頂ガスから求められるCOガス利用率ηCOの実測値と、前記第1-2補正係数の候補である第1-2候補値を前記第1-2還元速度定数の基準値に乗じた前記第1-2還元速度定数、及び前記第3補正係数の候補である第3候補値を前記第3還元速度定数の基準値に乗じた前記第3還元速度定数が用いられる前記高炉数学モデルの解析結果から求められる、前記炉頂におけるCOガス利用率ηCOの計算値と、の差である炉頂ηCO差を求め、前記第3還元反応が進行する前記高炉の第3所定高さに設置される水平ゾンデで採取した炉内ガスから求められるCOガス利用率ηCOの実測値と、前記解析結果から求められる前記第3所定高さにおけるCOガス利用率ηCOの計算値と、の差である第3ηCO差を求め、前記炉頂ηCO差が所定範囲αの範囲内になるとともに前記第3ηCO差が所定範囲δの範囲内になる前記第1-2候補値及び前記第3候補値を、それぞれ、前記第1-2補正係数及び前記第3補正係数として決定する、ことを特徴とする補正係数の決定方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、高炉数学モデルの解析精度を向上することができる還元速度定数の補正係数の決定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】補正係数を決定する手順を示すフローチャートである(第1実施形態)。
図2】補正係数を決定する手順の一部を示すフローチャートである。
図3】補正係数を決定する手順の一部を示すフローチャートである。
図4】補正係数を決定する手順を示すフローチャートである(第2実施形態)。
図5】補正係数を決定する手順を示すフローチャートである(第3実施形態)。
図6】COガス利用率の分布を示す図である。
図7】COガス利用率の分布を示す図である(調整BFG吹込み操業)。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の一実施形態について説明する。
【0028】
(第1実施形態)
本実施形態は、酸化鉄の還元反応における還元速度定数の補正係数を決定する方法である。本実施形態で決定する補正係数は、酸化鉄(Fe)を鉄(Fe)に還元するまでの各還元反応の還元速度定数を補正する係数である。補正係数により補正される還元速度定数は、高炉数学モデルに用いられる定数であり、FeをFeに還元する第1還元反応の第1還元速度定数と、FeをFeOに還元する第2還元反応の第2還元速度定数と、FeOをFeに還元する第3還元反応の第3還元速度定数である。つまり、本実施形態では、第1還元速度定数に乗じる第1補正係数と、第2還元速度定数に乗じる第2補正係数と、第3還元速度定数に乗じる第3補正係数を決定する。
【0029】
第1~第3還元速度定数が用いられる高炉数学モデルは、物質収支、運動量収支及びエネルギー収支を考慮した高炉数学モデルである。物質収支、運動量収支及びエネルギー収支を考慮した高炉数学モデルは、高炉の内部領域を分割して複数の小領域(計算格子)に区画し、各計算格子において、物質収支、運動量収支及びエネルギー収支の数式を解く数学モデル(以下、単に「高炉数学モデル」ともいう)である。高炉数学モデルにおいて、高炉の内部領域は、2次元方向(炉半径方向及び炉高方向)に分割されて小領域を形成してもよく、3次元方向(炉半径方向、炉高方向及び炉周方向)に分割されて小領域を形成していてもよい。具体的な高炉数学モデルは、例えば、非特許文献1に記載されているため詳細な説明は省略する。
【0030】
高炉数学モデルにおいて、第1~第3還元速度定数は、各還元速度定数に対応する還元反応の反応速度を求めるために用いられる。反応速度は、物質収支、運動量収支及びエネルギー収支の数式で用いられる。第1~第3還元速度定数を用いて各還元反応の反応速度を求めるには、例えば、非特許文献2や非特許文献3に記載される未反応核3界面モデルが用いられる。未反応核3界面モデルは、原料である鉄鉱石が還元される際に、未反応核であるFe層と、Fe層の周囲に存在するFe層と、Fe層の周囲に存在するFeO層と、FeO層の周囲に存在するFe層と、Fe層の周囲に存在するガス境膜が形成されると仮定した上で、第1~第3還元反応の各反応速度を算出するモデルである。なお、未反応核3界面モデルを利用して各反応速度を求める方法は、非特許文献2や非特許文献3に記載されているため、詳細な説明は省略する。未反応核3界面モデルで求められた反応速度は、物質収支、運動量収支及びエネルギー収支の数式に用いられる。
【0031】
未反応核3界面モデルにおいて、第1還元速度定数には、Hによる第1還元反応の還元速度定数と、COによる第1還元反応の還元速度定数とが含まれるが、これらの還元速度定数の第1補正係数としては、同じ値を用いることができる。また、第2還元速度定数には、Hによる第2還元反応の還元速度定数と、COによる第2還元反応の還元速度定数とが含まれるが、これらの還元速度定数の第2補正係数としては、同じ値を用いることができる。また、第3還元速度定数には、Hによる第3還元反応の還元速度定数と、COによる第3還元反応の還元速度定数とが含まれるが、これらの還元速度定数の第3補正係数としては、同じ値を用いることができる。
【0032】
図1を用いて、本実施形態の補正係数の決定方法について具体的に説明する。図1は、補正係数を決定する手順を示すフローチャートである。図1に示すように、本実施形態の補正係数の決定方法は、ステップブロックA~Gを含む。
【0033】
まず、ステップブロックAの処理について説明する。ステップブロックAでは、ステップS101~ステップS103の処理を行う。
【0034】
ステップS101の処理では、高炉で採取したガスを用いて、炉頂部におけるCOガス利用率(以下、「炉頂ηCO」ともいう)の実測値と、第1還元反応が進行する高炉の第1所定高さにおけるCOガス利用率(以下、「第1ηCO」ともいう)の実測値と、第2還元反応が進行する高炉の第2所定高さにおけるCOガス利用率(以下、「第2ηCO」ともいう)の実測値と、第3還元反応が進行する高炉の第3所定高さにおけるCOガス利用率(以下、「第3ηCO」ともいう)の実測値を求める。
【0035】
COガス利用率ηCOは、下記式(1)で表される高炉内の還元状況を示す指標である。ここで、COガス利用率ηCOの実測値とは、下記式(1)中のCOガス濃度CCO2及びCOガス濃度CCOとして、実測した数値を用いたCOガス利用率を指す。
【0036】

【0037】
上記式(1)中、ηCOはCOガス利用率[%]を示し、CCO2はCOガス濃度[%]を指し、CCOはCOガス濃度[%]を指す。
【0038】
炉頂ηCOの実測値は、高炉の炉頂で採取した炉頂ガス中のCOガス濃度とCOガス濃度を、上記式(1)に代入することにより求めることができる。ここで、高炉の炉頂とは、上昇管、下降管及び除塵機を含む排ガス回収設備が存在する領域を指し、炉頂ガスは、例えば除塵機出口において採取される。
【0039】
炉頂ガスの採取方法やガス濃度(COガス濃度とCOガス濃度)の測定方法は、任意であり、公知の方法を用いることができる。例えば、炉頂ガス中のガス濃度は、ガスクロマトグラフィーなどのガス分析計により測定することができる。
【0040】
第1ηCOの実測値は、第1還元反応が進行する第1所定高さに設置される水平ゾンデで炉内ガスを採取し、採取した炉内ガス中のCOガス濃度及びCOガス濃度を、上記式(1)に代入することで求めることができる。ここで、第1還元反応が進行する第1所定高さとは、炉内温度が約500℃~700℃となる高さを指す。例えば、シャフト部の上部に水平ゾンデを設置すれば、水平ゾンデを炉内温度が500℃~700℃となる高さに設置することができる。なお、シャフト部とは、炉下部に向かって炉周が大きくなる部位を指し、シャフト部の上部とは、シャフト部を炉高方向に等間隔に3分割したときに最も上方に位置する部位を指す。通常羽口からストックラインまでの距離を高炉全体の高さH[m]とし、通常羽口から水平ゾンデまでの距離を第1所定高さ位置h[m]とするとき、第1所定高さは無次元表記h/H[-]で例えば0.7~0.9である。
【0041】
炉内ガスの採取に用いられる水平ゾンデは、炉壁から炉中心に向けて水平に設置されるゾンデである。本実施形態で用いる水平ゾンデには、炉内ガスを採取するサンプリング孔が形成されており、水平ゾンデが設置される高さに位置する炉内ガスを採取することができる。なお、水平ゾンデには、サンプリング孔の他にも、炉内温度測定するセンサーが設けられていてもよい。
【0042】
水平ゾンデには、先端にサンプリング孔があり、通常、径方向にスライドさせることにより、炉半径方向における異なる複数の位置で炉内ガスを採取する。これにより、採取した位置毎に第1ηCOの実測値を求めてもよい。すなわち、炉半径方向における第1ηCOの分布が得られ、当該分布から、第1ηCOの平均値、最大値及び最小値、最大値と最小値との差(減算値)、並びに、最大値と最小値との合計(加算値)などを求めることができる。なお、採取した炉内ガス中のガス濃度の測定方法は、任意であり、公知の方法を用いることができる。
【0043】
第2ηCOの実測値は、第2還元反応が進行する第2所定高さに設置される水平ゾンデにより炉内ガスを採取し、採取した炉内ガス中のCOガス濃度及びCOガス濃度を上記式(1)に代入することで得ることができる。
【0044】
第2ηCOの実測値を求める方法は、水平ゾンデを設置する高さを除き、第1ηCOの実測値を求める方法と同じである。水平ゾンデを設置する高さは、第2還元反応が進行する第2所定高さである。第2還元反応が進行する第2所定高さとは、炉内温度が約700℃~1000℃となる高さを指す。例えば、シャフト部の中部に水平ゾンデを設置すれば、水平ゾンデを炉内温度が700℃~1000℃となる高さに設置することができる。なお、シャフト部の中部とは、シャフト部を炉高方向に等間隔に3分割したときに中間に位置する部位を指す。通常羽口からストックラインまでの距離を高炉全体の高さH[m]とし、通常羽口から水平ゾンデまでの距離を第2所定高さ位置h[m]とするとき、第2所定高さは無次元表記h/H[-]で例えば0.4~0.7である。
【0045】
第3ηCOの実測値は、第3還元反応が進行する第3所定高さに設置される水平ゾンデにより炉内ガスを採取し、採取した炉内ガス中のCOガス濃度及びCOガス濃度を上記式(1)に代入することで得ることができる。
【0046】
第3ηCOの実測値を求める方法は、水平ゾンデを設置する高さを除き、第1ηCOの実測値を求める方法と同じである。水平ゾンデを設置する高さは、第3還元反応が進行する所定高さである。第3還元反応が進行する第3所定高さとは、炉内温度が900℃~1200℃となる高さを指す。例えば、シャフト部の下部に水平ゾンデを設置すれば、水平ゾンデを炉内温度が900℃~1200℃となる高さに設置することができる。なお、シャフト部の下部とは、シャフト部を炉高方向に等間隔に3分割したときに最も下方に位置する部位を指す。通常羽口からストックラインまでの距離を高炉全体の高さH[m]とし、通常羽口から水平ゾンデまでの距離を第3所定高さ位置h[m]とするとき、第3所定高さは無次元表記h/H[-]で例えば0.2~0.4である。
【0047】
なお、ステップS101の処理において、炉頂ηCO及び第1~第3ηCOの実測値は、同じ高炉で採取されたガスを用いて求められる。
【0048】
以上説明したステップS101の処理を終了すると、ステップS102の処理に進む。
【0049】
ステップS102の処理では、高炉数学モデルの解析結果から炉頂ηCO及び第1~第3ηCOの計算値を求める。ここで、計算値とは、上記式(1)中のCOガス濃度CCO2及びCOガス濃度CCOとして、高炉数学モデルの解析結果(COガス濃度及びCOガス濃度)を用いたCOガス利用率である。
【0050】
ステップS102の処理において、高炉数学モデルによる解析では、第1~第3補正係数の候補として任意の値(以下、「候補値」ともいう)が設定され、この候補値により第1~第3還元速度定数(基準値)を補正した上で行われる。なお、以下の説明では、第1補正係数として設定した候補値を第1候補値と呼び、第2補正係数として設定した候補値を第2候補値と呼び、第3補正係数として設定した候補値を第3候補値と呼ぶ。第1~第3候補値には、例えば0よりも大きく1以下の値が用いられる。第1~第3候補値は、互いに異なる値であってもよく、互いに同じ値であってもよい。
【0051】
高炉数学モデルによる解析は、ステップS101の処理でガス濃度を測定した高炉を解析対象として行われる。ガス濃度を測定した高炉を解析対象とするには、高炉数学モデルに当該高炉の操業諸元を入力条件として設定する必要がある。これらの入力条件を用いて、物質収支、運動量収支及びエネルギー収支の数式を解くことで、各計算格子におけるCOガス濃度及びCOガス濃度が求められる。なお、高炉数学モデルによる解析では、COガス濃度及びCOガス濃度の他にも、温度、鉄鉱石の還元率等が求められてもよい。また、物質収支、運動量収支及びエネルギー収支の数式を解く方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法(例えば、特開2012-172222号公報に記載の方法)を用いることができる。
【0052】
炉頂ηCOの計算値は、炉頂に位置する計算格子のCOガス濃度とCOガス濃度を上記式(1)に代入することで求めることができる。また、第1~第3ηCOの計算値は、第1~第3所定高さに位置する計算格子のCOガス濃度とCOガス濃度をそれぞれ上記式(1)に代入することで求めることができる。
【0053】
以上説明したステップS102の処理を終了すると、ステップS103の処理に進む。
【0054】
ステップS103の処理では、炉頂ηCOの実測値と計算値との差である炉頂ηCO差、第1ηCOの実測値と計算値との差である第1ηCO差、第2ηCOの実測値と計算値との差である第2ηCO差、及び、第3ηCOの実測値と計算値との差である第3ηCO差を求める。
【0055】
第1~第3ηCO差は、1つの実測値と1つの計算値の差であってもよいが、炉半径方向のサンプリング位置毎に求めた複数の実測値のうちの2つ以上の実測値の合計値と、炉半径方向の計算格子毎に求めた複数の計算値のうちの2つ以上の計算値の合計値の差を用いてもよい。また、第1~第3ηCO差は、それぞれ、炉半径方向のサンプリング位置毎に求めた複数の実測値の平均値と、炉半径方向の計算格子毎に求めた複数の計算値の平均値との差であってもよい。第1~第3ηCO差は、それぞれ、炉半径方向のサンプリング位置毎に求めた複数の実測値のうちの最大値から最小値を減算した減算値と、炉半径方向の計算格子毎に求めた複数の計算値のうちの最大値から最小値を減算した減算値との差であってもよい。高炉の状況を正確に反映させる観点からは、第1~第3ηCO差は、それぞれ、炉半径方向のサンプリング位置毎に求めた複数の実測値のうちの最大値と最小値を加算した加算値と、炉半径方向の計算格子毎に求めた複数の計算値のうちの最大値と最小値を加算した加算値との差であることが好ましい。
【0056】
炉頂ηCO差及び第1~第3ηCO差は、実測値から計算値を減じた値でもよく、計算値から実測値を減じた値でもよい。本実施形態では、実測値から計算値を減じた値を用いた形態について説明する。
【0057】
以上説明した、ステップS101~ステップS103の処理により、ステップブロックAの処理は終了する。なお、ステップブロックAの処理において、ステップS101の処理とステップS102の処理の順序は限定されない。例えば、ステップS102の処理の後に、ステップS101の処理を行ってもよい。ステップブロックAの処理を終了すると、ステップブロックBの処理に進む。
【0058】
ステップブロックBでは、炉頂ηCO差が、所定範囲α内にあるか否かを判断し、その判断結果に応じた処理を行う。ステップブロックBは、ステップS104~ステップS107の処理を含む。
【0059】
ステップS104の処理では、炉頂ηCO差が、炉頂ηCO差に関する所定範囲αの上限値よりも大きいか否かを判断する。所定範囲αの上限値は、例えば、0.1%以上1%以下の範囲内で設定できる。ステップS104の処理において、炉頂ηCO差が、所定範囲αの上限値よりも大きいと判断された場合(ステップS104のYES)には、ステップS105の処理に進む。
【0060】
ステップS105の処理では、ステップS102の処理において(高炉数学モデルでの計算において)第1~第3還元速度定数に乗じた第1~第3候補値を所定量増加する。ここで、本実施形態では、炉頂ηCO差は、炉頂ηCOの実測値から計算値を減じることで求めている。このため、炉頂ηCO差が所定範囲αの上限値よりも大きいということは、実測値を求めた高炉(つまり、実際に稼働している高炉(以下、「実炉」ともいう))での還元反応が、計算値を求めた高炉(つまり、高炉数学モデルで解析した高炉)での還元反応よりも進んでいることを意味する。このため、ステップS105の処理では、第1~第3候補値を所定量増加する。
【0061】
第1~第3候補値を増加する所定量は、任意の量を設定できる。例えば、所定量は、0.01以上0.1以下の範囲内で設定できる。ステップS105の処理を終了すると、ステップブロックCの処理に進む。
【0062】
一方、ステップS104の処理において、炉頂ηCO差が、所定範囲αの上限値よりも大きくないと判断された場合(ステップS104のNO)には、ステップS106の処理を行う。ステップS106の処理では、炉頂ηCO差が、所定範囲αの下限値よりも小さいか否かを判断する。所定範囲αの下限値は、例えば、-1%以上-0.1%以下の範囲内で設定できる。ステップS106の処理において、炉頂ηCO差が、所定範囲αの下限値よりも小さいと判断された場合(ステップS106のYES)には、ステップS107の処理を行う。
【0063】
ステップS107の処理では、ステップS102の処理において(高炉数学モデルでの計算において)第1~第3還元速度定数に乗じた第1~第3候補値を所定量減少する。本実施形態では、炉頂ηCO差は、炉頂ηCOの実測値から計算値を減じることで求めているため、炉頂ηCO差が所定範囲αの下限値よりも小さいということは、実炉での還元反応が、高炉数学モデルで解析した高炉の還元反応よりも遅れていることを意味する。このため、ステップS107の処理では、第1~第3候補値を所定量減少する。
【0064】
第1~第3候補値を減少する所定量は、所定量減少させた第1~第3候補値が0以下にならない範囲内において、任意の量を設定できる。例えば、所定量は、0.01以上0.1以下の範囲内で設定できる。ステップS107の処理で減少する所定量は、ステップS105の処理で増加する所定量と同一であってもよく、異なっていてもよい。ステップS107の処理を終了すると、ステップブロックCの処理に進む。
【0065】
一方、ステップS106の処理において、炉頂ηCO差が、所定範囲αの下限値よりも小さくないと判断された場合(ステップS106のNO)には、ステップブロックCの処理に進む。
【0066】
ここで、ステップブロックBにおいて、ステップS104とステップS106の処理の順序は限定されるものではなく、ステップS106の処理を行った後、ステップS104の処理を行ってもよい。
【0067】
ステップブロックCでは、第1ηCO差が、第1ηCO差に関する所定範囲βの範囲内にあるか否かを判断し、その判断結果に応じた処理を行う。ステップブロックCは、ステップS108~ステップS111の処理を含む。
【0068】
ステップS108の処理では、第1ηCO差が、所定範囲βの上限値よりも大きいか否かを判断する。所定範囲βの上限値は、例えば、0.1%以上1%以下の範囲内で設定できる。ステップS108の処理において、第1ηCO差が、所定範囲βの上限値よりも大きいと判断された場合(ステップS108のYES)には、ステップS109の処理を行う。
【0069】
ステップS109の処理では、第1候補値を所定量増加する。ステップS109の処理において、所定量増加する第1候補値は、ステップブロックBの処理が行われた第1候補値を指す。つまり、ステップS105やステップS107の処理において、第1候補値を所定量増減している場合には、所定量増減された第1候補値を所定量増加する。第1候補値を増加する所定量は、任意の量を設定できる。例えば、所定量は、0.01以上0.1以下の範囲内で設定できる。ステップS109の処理を終了すると、ステップブロックDの処理に進む。
【0070】
ここで、第1ηCOは、第1還元反応(Fe→Fe)が進行している高さにおけるCOガス利用率であるため、第1ηCOの実測値と計算値との差である第1ηCO差は、第1還元反応の進行状況の差を示す指標となる。また、本実施形態において、第1ηCO差は、第1ηCOの実測値から計算値を減じることで求めているため、第1ηCO差が所定範囲βの上限値よりも大きいということは、実炉での第1還元反応が、高炉数学モデルで解析した高炉での第1還元反応よりも進んでいることを意味する。このため、ステップS109の処理では、第1候補値を所定量増加する。
【0071】
一方、ステップS108の処理において、第1ηCO差が、所定範囲βの上限値よりも大きくないと判断された場合(ステップS108のNO)には、ステップS110の処理を行う。ステップS110の処理では、第1ηCO差が、所定範囲βの下限値よりも小さいか否かを判断する。所定範囲βの下限値は、例えば、-0.1%以上-0.01%以下の範囲内で設定できる。ステップS110の処理において、第1ηCO差が、所定範囲βの下限値よりも小さいと判断された場合(ステップS110のYES)には、ステップS111の処理を行う。
【0072】
ステップS111の処理では、第1候補値を所定量減少する。上述した通り、第1ηCO差は、第1還元反応の進行状況の差を示す指標となり、第1ηCOの実測値から計算値を減じることで求めている。このため、第1ηCO差が所定範囲βの下限値よりも小さいということは、実炉での第1還元反応が、高炉数学モデルで解析した高炉での第1還元反応よりも遅れていることを意味する。このため、ステップS111の処理では、第1還元反応に対応する第1候補値を所定量減少する。
【0073】
ステップS111の処理において、所定量を減少する第1候補値は、ステップブロックBの処理が行われた第1候補値を指す。第1候補値を減少する所定量は、所定量減少させた第1候補値が0以下にならない範囲内において、任意の量を設定できる。例えば、所定量は、0.01以上0.1以下の範囲内の量を設定できる。ステップS111の処理で減少する所定量は、ステップS109の処理で増加する所定量と同一であってもよく、異なっていてもよい。ステップS111の処理を終了すると、ステップブロックDの処理に進む。
【0074】
一方、ステップS110の処理において、第1ηCO差が、所定範囲βの下限値よりも小さくないと判断された場合(ステップS110のNO)には、ステップブロックDの処理に進む。
【0075】
なお、ステップブロックCにおいて、ステップS108とステップS110の処理の順序は限定されるものではなく、ステップS110の処理を行った後、ステップS108の処理を行ってもよい。
【0076】
ステップブロックDでは、第2ηCO差が、第2ηCO差に関する所定範囲γの範囲内にあるか否かを判断し、その判断結果に応じた処理を行う。ステップブロックDは、ステップS112~ステップS115の処理を含む。
【0077】
ステップS112の処理では、第2ηCO差が、所定範囲γの上限値よりも大きいか否かを判断する。ここで、所定範囲γの上限値は、例えば、0.1%以上1%以下の範囲内で設定できる。ステップS112の処理において、第2ηCO差が、所定範囲γの上限値よりも大きいと判断された場合(ステップS112のYES)には、ステップS113の処理を行う。
【0078】
ステップS113の処理では、第2候補値を所定量増加する。ステップS113の処理において、所定量を増加する第2候補値は、ステップブロックBの処理が行われた第2候補値を指す。第2候補値を増加する所定量は、任意の量を設定できる。例えば、所定量は、0.01以上0.1以下の範囲内で設定できる。ステップS113の処理を終了すると、ステップブロックEの処理に進む。
【0079】
ここで、第2ηCOは、第2還元反応(Fe→FeO)が進行している高さにおけるCOガス利用率であり、第2ηCO差は、第2還元反応の進行状況の差を示す指標となる。また、本実施形態では、第2ηCO差は、第2ηCOの実測値から計算値を減じることで求めているため、第2ηCO差が所定範囲γの上限値よりも大きいということは、実炉での第2還元反応が、高炉数学モデルで解析した高炉での第2還元反応よりも進んでいることを意味する。このため、ステップS113の処理では、第2候補値を所定量増加する。
【0080】
一方、ステップS112の処理において、第2ηCO差が、所定範囲γの上限値よりも大きくないと判断された場合(ステップS112のNO)には、ステップS114の処理を行う。ステップS114の処理では、第2ηCO差が、所定範囲γの下限値よりも小さいか否かを判断する。所定範囲γの下限値は、例えば、-1%以上-0.1%以下の範囲内で設定できる。ステップS114の処理において、第2ηCO差が、所定範囲γの下限値よりも小さいと判断された場合(ステップS114のYES)には、ステップS115の処理を行う。
【0081】
ステップS115の処理では、第2候補値を所定量減少する。上述したとおり、第2ηCO差は、第2還元反応の進行状況の差を示す指標となり、第2ηCOの実測値から計算値を減じることで求めている。このため、第2ηCO差が所定範囲γの下限値よりも小さいということは、実炉での第2還元反応が、高炉数学モデルで解析した高炉での第2還元反応よりも遅れていることを意味する。このため、ステップS115の処理では、第2候補値を所定量減少する。
【0082】
ステップS115の処理において、所定量減少する第2候補値は、ステップブロックBの処理が行われた第2候補値を指す。第2候補値を減少する所定量は、所定量減少させた第2候補値が0以下にならない範囲内において、任意の量を設定できる。例えば、所定量は、0.01以上0.1以下の範囲内の量を設定できる。ステップS115の処理で減少する所定量は、ステップS113の処理で増加する所定量と同一であってもよく、異なっていてもよい。ステップS115の処理を終了すると、ステップブロックEの処理に進む。
【0083】
一方、ステップS114の処理において、第2ηCO差が、所定範囲γの下限値よりも小さくないと判断された場合(ステップS114のNO)には、ステップブロックEの処理に進む。
【0084】
なお、ステップブロックDにおいて、ステップS112とステップS114の処理の順序は限定されるものではなく、ステップS114の処理を行った後、ステップS112の処理を行ってもよい。
【0085】
ステップブロックEでは、第3ηCO差が、第3ηCO差に関する所定範囲δの範囲内にあるか否かを判断し、その判断結果に応じた処理を行う。ステップブロックEは、ステップS116~ステップS119の処理を含む。
【0086】
ステップS116の処理では、第3ηCO差が、所定範囲δの上限値よりも大きいか否かを判断する。ここで、所定範囲δの上限値は、例えば、0.1%以上1%以下の範囲内で設定できる。ステップS116の処理において、第3ηCO差が、所定範囲δの上限値よりも大きいと判断された場合(ステップS116のYES)には、ステップS117の処理を行う。
【0087】
ステップS117の処理では、第3候補値を所定量増加する。ステップS117の処理において、所定量増加する第3候補値は、ステップブロックBの処理が行われた第3候補値を指す。第3候補値を増加する所定量は、任意の量を設定できる。例えば、所定量は、0.01以上0.1以下の範囲内の量を設定できる。ステップS117の処理を終了すると、ステップブロックFの処理に進む。
【0088】
ここで、第3ηCOは、第3還元反応(FeO→Fe)が進行している高さにおけるCOガス利用率であるため、第3ηCOの実測値と計算値との差である第3ηCO差は、第3還元反応の進行状況の差を示す指標となる。また、本実施形態において、第3ηCO差は、第3ηCOの実測値から計算値を減じた値であるため、第3ηCO差が所定範囲δの上限値よりも大きいということは、実炉での第3還元反応が、高炉数学モデルで解析した高炉での第3還元反応よりも進んでいることを意味する。このため、ステップS117の処理では、第3候補値を所定量増加する。
【0089】
一方、ステップS116の処理において、第3ηCO差が、所定範囲δの上限値よりも大きくないと判断された場合(ステップS116のNO)には、ステップS118の処理に進む。ステップS118の処理では、第3ηCO差が、所定範囲δの下限値よりも小さいか否かを判断する。所定範囲δの下限値は、-1%以上-0.1%以下の範囲内で設定できる。ステップS118の処理において、第3ηCO差が、所定範囲δの下限値よりも小さいと判断された場合(ステップS118のYES)には、ステップS119の処理を行う。
【0090】
ステップS119の処理では、第3候補値を所定量減少する。上述したとおり、第3ηCO差は、第3還元反応の進行状況の差を示し、第3ηCOの実測値から計算値を減じて求めている。このため、第3ηCO差が所定範囲δの下限値よりも小さいということは、実炉での第3還元反応が、高炉数学モデルで解析した高炉での第3還元反応よりも遅れていることを意味する。このため、ステップS119の処理では、第3候補値を所定量減少する。
【0091】
ステップS119の処理において、所定量減少する第3候補値は、ステップブロックBの処理が行われた第3候補値を指す。第3候補値を減少する所定量は、所定量減少させた第3候補値が0以下とならない範囲内において、任意の量を設定できる。例えば、所定量は、0.01以上0.1以下の範囲内の量を設定できる。ステップS119の処理で減少する所定量は、ステップS117の処理で増加する所定量と同一であってもよく、異なっていてもよい。ステップS119の処理を終了すると、ステップブロックFの処理に進む。
【0092】
一方、ステップS118の処理において、第3ηCO差が、所定範囲δの下限値よりも小さくないと判断された場合(ステップS118のNO)には、ステップブロックFの処理に進む。
【0093】
なお、ステップブロックEにおいて、ステップS116とステップS118の処理の順序は限定されるものではなく、ステップS118の処理を行った後、ステップS116の処理を行ってもよい。
【0094】
また、ステップブロックB~Eの順序は任意であり、必ずしも図1に示す順序で行う必要はない。また、ステップブロックB~Eにおいて、第1~第3候補値を増減する所定量は、互いに同じ量であってもよく、異なる量であってもよい。また、ステップブロックB~Eにおいて、所定範囲α~δは、互いに同一の範囲であってもよく、異なる範囲であってもよい。
【0095】
次に、ステップブロックFについて説明する。ステップブロックFでは、ステップブロックB~Eの処理が行われた第1~第3候補値を使用し、炉頂ηCO及び第1~第3ηCOの計算値を求める。そして、求めた炉頂ηCO及び第1~第3ηCOの計算値を使用し、炉頂ηCO差及び第1~第3ηCO差を求める。ステップブロックFは、ステップS120~S121の処理を含む。
【0096】
ステップS120の処理では、ステップブロックB~Eの処理が行われた第1~第3候補値を使用して炉頂ηCO及び第1~第3ηCOの計算値を求める。具体的には、ステップブロックB~Eの処理において増減された第1~第3候補値を、それぞれ第1~第3還元速度定数(基準値)に乗じ、これらの還元速度定数を用いて高炉数学モデルによる解析を行う。そして、解析して得られたガス濃度(CO濃度及びCO濃度)から炉頂ηCO及び第1~第3ηCOの計算値を求める。炉頂ηCO及び第1~第3ηCOの計算値の求め方は、ステップS102と同じであるため、詳細な説明は省略する。ステップS120の処理を終了すると、ステップS121の処理に進む。
【0097】
ステップS121の処理では、ステップS120の処理で求めた炉頂ηCO及び第1~第3ηCOの計算値を用いて、炉頂ηCO差及び第1~第3ηCO差を求める。ステップS121の処理において、炉頂ηCO及び第1~第3ηCOの実測値には、ステップS101の処理で求めた実測値を用いることができる。ステップS121の処理を終了すると、ステップブロックGの処理に進む。
【0098】
ステップブロックGでは、ステップブロックFで求めた炉頂ηCO差及び第1~第3ηCO差が、それぞれ対応する所定範囲α~δ内にあるか否かを判断し、その判断結果に応じて所定の処理を行う。ステップブロックGは、ステップS122~S125の処理を含む。
【0099】
ステップS122の処理では、炉頂ηCO差が所定範囲αの範囲内にあるか否かを判断する。所定範囲αは、ステップブロックBの処理で説明した上限値及び下限値を用いて設定できる。炉頂ηCO差が所定範囲αの範囲内にある場合(ステップS122のYES)、ステップS123の処理に進む。一方、炉頂ηCO差が所定範囲αの範囲内にない場合(ステップS122のNO)、ステップS104の処理に戻る。
【0100】
ステップS123の処理では、第1ηCO差が所定範囲βの範囲内にあるか否かを判断する。所定範囲βは、ステップブロックCの処理で説明した上限値及び下限値を用いて設定できる。第1ηCO差が所定範囲βの範囲内にある場合(ステップS123のYES)、ステップS124の処理に進む。一方、第1ηCO差が所定範囲βの範囲内にない場合(ステップS123のNO)、ステップS104の処理に戻る。
【0101】
ステップS124の処理では、第2ηCO差が所定範囲γの範囲内にあるか否かを判断する。所定範囲γは、ステップブロックDの処理で説明した上限値及び下限値を用いて設定できる。第2ηCO差が所定範囲γの範囲内にある場合(ステップS124のYES)、ステップS125の処理に進む。一方、第2ηCO差が所定範囲γの範囲内にない場合(ステップS124のNO)、ステップS104の処理に戻る。
【0102】
ステップS125の処理では、第3ηCO差が所定範囲δの範囲内にあるか否かを判断する。所定範囲δは、ステップブロックEの処理で説明した上限値及び下限値を用いて設定できる。第3ηCO差が所定範囲δの範囲内にある場合(ステップS125のYES)、ステップブロックB~Eの処理が行われた第1候補値(ステップS120で用いた第1候補値)を、第1補正係数として決定し、ステップブロックB~Eの処理が行われた第2候補値(ステップS120で用いた第2候補値)を、第2補正係数として決定し、ステップブロックB~Eの処理が行われた第3候補値(ステップS120で用いた第3候補値)を、第3補正係数として決定する。
【0103】
一方、ステップS125の処理において、第3ηCO差が所定範囲δの範囲内にない場合(ステップS125のNO)、ステップS104の処理に戻る。
【0104】
なお、ステップブロックGにおいて、ステップS122~S125の順序は任意であり、必ずしも図1に示す順序で行う必要はない。
【0105】
以上説明したステップS101~S125の処理により、第1~第3還元速度定数に乗じられる第1~第3補正係数を決定することができる。
【0106】
本実施形態の補正係数の決定方法では、炉頂ηCOの計算値と実測値の差に基づいて、第1~第3候補値を調整(探索)するだけでなく、第1~第3還元反応が進行する位置毎に求めたηCO(第1~第3ηCO)の計算値と実測値の差に基づいて、第1~第3還元反応に対応する候補値をそれぞれ調整(探索)している。このため、本実施形態で決定される第1~第3補正係数は、実炉における第1~第3還元反応の状況が正確に反映されやすい。従って、本実施形態の補正係数の決定方法によれば、高炉数学モデルの解析精度を向上することができる。
【0107】
ここで、本実施形態では、第1候補値~第3候補値を増加するステップS105の処理の後、図2に示すステップブロックB1の処理を行ってもよい。ステップブロックB1の処理では、第1候補値~第3候補値を増加した後の炉頂ηCOの計算値と炉頂ηCOの実測値との差を求め、その差に応じて所定の処理を行う。ステップブロックB1の処理は、図2に示すように、ステップS105-1~ステップS105-6の処理を含む。
【0108】
ステップS105-1の処理では、ステップS105の処理で増加した第1~第3候補値を使用して炉頂ηCOの計算値を求める。具体的には、ステップS105の処理で増加した第1~第3候補値を、それぞれ対応する還元速度定数に乗じ、この還元速度定数を用いた高炉数学モデルにより炉頂ηCOの計算値を求める。なお、炉頂ηCOの計算値を求める方法は、ステップS102と同じであるため、詳細な説明は省略する。ステップS105-1の処理を終了すると、ステップS105-2に進む。
【0109】
ステップS105-2の処理では、第1~第3候補値を増加した後の炉頂ηCOの計算値と、炉頂ηCOの実測値との差を求める。この差は、炉頂ηCOの実測値から、第1~第3候補値を増加した後の計算値(つまり、ステップS105-1で求めた炉頂ηCOの計算値)を減じた値でもよく、増加した後の計算値から実測値を減じた値でもよい。本実施形態では、第1~第3候補値を増加した後の計算値から実測値を減じた値を用いた形態について説明する。ステップS105-2の処理を終了すると、ステップS105-3に進む。
【0110】
ステップS105-3の処理では、ステップS105-2の処理で求めた差が0よりも大きいか否かを判断する。ステップS105-2の処理で求めた差が0よりも大きいと判断された場合(ステップS105-3のYES)、ステップS105-4の処理に進む。ステップS105-4の処理では、ステップS105の処理で所定量増加した第1候補値~第3候補値を、所定量減少する。ステップS105-4の処理で減少する所定量は、ステップS105の処理で増加した所定量よりも小さい量とし、ステップS105-4の処理で所定量減少された第1候補値~第3候補値が、ステップS102で用いた第1候補値~第3候補値より大きくなるようにする。例えば、所定量は、0.01以上0.1以下の範囲内の量を設定できる。ステップS105-4の処理を終了すると、ステップS108の処理に進む。
【0111】
一方、ステップS105-3の処理において、ステップS105-2の処理で求めた差が0よりも大きくないと判断された場合(ステップS105-3のNO)、ステップS105-5の処理に進む。ステップS105-5の処理では、ステップS105-2の処理で求めた差が0よりも小さいか否かを判断する。ステップS105-2の処理で求めた差が0よりも小さいと判断された場合(ステップS105-5のYES)、ステップS105-6の処理に進む。また、ステップS105-2の処理で求めた差が0よりも小さくないと判断された場合(ステップS105-5のNO)、ステップS108の処理に進む。
【0112】
ステップS105-6の処理では、ステップS105の処理で所定量増加した第1~第3候補値を、さらに所定量増加する。ステップS105-6の処理で増加する所定量は、任意の量を設定でき、例えば、ステップS105の処理で増加した所定量よりも小さい量とすることができる。ステップS105-6の処理を終了すると、ステップS108の処理に進む。
【0113】
以上説明したステップブロックB1の処理を行うことで、ステップブロックB1の処理を行わない場合と比較して、早期に第1~第3補正係数を決定することができる。
【0114】
また、本実施形態では、第1~第3候補値を所定量減少するステップS107の処理の後、図3に示すステップブロックB2の処理を行ってもよい。ステップブロックB2の処理では、第1~第3候補値を減少した後の炉頂ηCOの計算値と、炉頂ηCOの実測値との差を求め、その差に応じて所定の処理を行う。ステップB2の処理は、ステップS107-1~ステップS107-6の処理を含む。
【0115】
ステップS107-1の処理では、ステップS107の処理で減少した第1~第3候補値を使用して炉頂ηCOの計算値を求める。具体的には、ステップS107の処理で所定量減少した第1~第3候補値を、それぞれ対応する還元速度定数に乗じ、この還元速度定数を用いた高炉数学モデルにより、炉頂ηCOの計算値を求める。なお、炉頂ηCOの計算値を求める方法は、ステップS102と同じであるため、詳細な説明は省略する。ステップS107-1の処理を終了すると、ステップS107-2に進む。
【0116】
ステップS107-2の処理では、第1候補値~第3候補値を減少した後の炉頂ηCOの計算値と炉頂ηCOの実測値との差を求める。この差は、炉頂ηCOの実測値から、第1~第3候補値を減少した後の計算値(つまり、ステップS107-1で求めた炉頂ηCOの計算値)を減じた値でもよく、減少した後の計算値から実測値を減じた値でもよい。本実施形態では、実測値から、減少した後の計算値を減じた値を用いた形態について説明する。ステップS107-2の処理を終了すると、ステップS107-3に進む。
【0117】
ステップS107-3の処理では、ステップS107-2の処理で求めた差が0よりも大きいか否かを判断する。ステップS107-2の処理で求めた差が0よりも大きいと判断された場合(ステップS107-3のYES)、ステップS107-4の処理に進む。ステップS107-4の処理では、ステップS107の処理で所定量減少した第1候補値~第3候補値を、所定量増加する。ステップS107-4の処理で増加する所定量は、ステップS107の処理で減少した所定量よりも小さい量とし、ステップS107-4の処理で所定量増加された第1~第3候補値が、ステップS102で用いた第1候補値~第3候補値より小さくなるようにする。ステップS107-4の処理を終了すると、ステップS108の処理に進む。
【0118】
一方、ステップS107-3の処理において、ステップS107-2の処理で求めた差が0よりも大きくないと判断された場合(ステップS107-3のNO)、ステップS107-5の処理に進む。ステップS107-5の処理では、ステップS107-2の処理で求めた差が0よりも小さいか否かを判断する。ステップS107-2の処理で求めた差が0よりも小さいと判断された場合(ステップS107-5のYES)、ステップS107-6の処理に進む。また、ステップS107-2の処理で求めた差が0よりも小さくないと判断された場合(ステップS107-5のNO)、ステップS108の処理に進む。
【0119】
ステップS107-6の処理では、ステップS107の処理で所定量減少した第1候補値~第3候補値を、さらに所定量減少する。ステップS107-6の処理で減少する所定量は、所定量減少させた第1~第3候補値が0以下にならない範囲内において、任意の量を設定できる。例えば、所定量は、0.01以上0.1以下の範囲内の量を設定できる。ステップS107-6の処理を終了すると、ステップS108の処理に進む。
【0120】
以上説明したステップブロックB2の処理を行うことで、ステップブロックB2の処理を行わない場合と比較して、早期に第1~第3補正係数を決定することができる。
【0121】
本実施形態では、炉頂ηCO差に加えて、第1~第3ηCO差を求めているが、第1~第3ηCO差については、必ずしも全て求める必要はなく、少なくとも、炉頂ηCO差に加えて、第2ηCO差と第3ηCO差のいずれか一方の差を求めればよい。第2ηCOや第3ηCOの実測値は、炉頂から炉高方向に十分離間した位置において測定され、炉頂ηCOが示す還元状況を補完する情報を有する。よって、炉頂ηCO差に加えて、第2ηCO差と第3ηCO差のいずれか一方の差を求めれば、実炉で進行している還元反応が正確に反映されやすく、高炉数学モデルの解析精度を向上できる第1~第3補正係数を決定することができる。
【0122】
一方、炉頂ηCO差に加えて、第1ηCO差のみを用いて第1~第3補正係数を決定した場合、高炉数学モデルの解析精度は向上しにくい。第1ηCO差を求めるために使用される第1ηCOの実測値は、第1還元反応が進行する第1所定高さ(例えば、シャフト部の上部)に設置された水平ゾンデで採取した炉内ガスから求められるが、シャフト部の上部では十分に還元反応が進行していないことがある。このため、第1ηCOの実測値には、実炉で進行している還元反応が正確に反映されないことがある。従って、第1~第3の補正係数を決定するために用いる指標として、炉頂ηCO差と第1ηCO差を用いるだけでは、高炉数学モデルの解析精度が向上しにくい。
【0123】
以下、炉頂ηCO及び第1~第3ηCO差の4つの差のうち、3つ以下の差を用いた実施形態について説明する。
【0124】
(第2実施形態)
本実施形態は、炉頂ηCO差及び第1~第3ηCO差のうち、3つの差を用いた形態である。本実施形態で用いる3つの差には、少なくとも、炉頂ηCO差に加え、第2ηCO差と第3ηCO差のいずれか一方の差が含まれていればよい。本実施形態の具体的な一例について、図4を用いて説明する。図4では、3つの差として、炉頂ηCO差及び第1~第2ηCO差を用いている。
【0125】
図4に示すように、本実施形態は、ステップブロックH~Mを含む。まず、ステップブロックHについて説明する。ステップブロックHでは、炉頂ηCO差及び第1~第2ηCO差を求める。炉頂ηCO差及び第1~第2ηCO差の求め方は、第1実施形態のステップブロックAで説明しているため、詳細な説明は省略する。ここで、ステップブロックHにおけるステップS201~ステップS203は、ステップブロックAにおけるステップS101~S103にそれぞれ対応する。ステップブロックHを終了すると、ステップブロックIに進む。
【0126】
ステップブロックIでは、炉頂ηCO差が、所定範囲αの範囲内にあるか否かを判断し、その判断結果に応じた処理を行う。ステップブロックIは、ステップS204~ステップS207の処理を含む。
【0127】
ステップS204の処理では、炉頂ηCO差が所定範囲αの上限値よりも大きいか否かを判断する。所定範囲αの上限値は、図1のステップS104で説明した、所定範囲αの上限値を用いることができる。ステップS204の処理において、炉頂ηCO差が、所定範囲αの上限値よりも大きいと判断された場合(ステップS204のYES)には、ステップS205の処理を行う。
【0128】
ステップS205の処理では、ステップブロックHの処理でηCO(実測値及び計算値)を求めていない還元反応(つまり、その還元反応が進行する高さでηCOを求めていない還元反応)に対応する候補値を所定量増加する。本実施形態では、ステップブロックHの処理において、第3還元反応が進行する高さでηCO(実測値及び計算値)を求めていないため、第3還元反応に対応する第3候補値を所定量増加する。所定量は、図1のステップS105の処理で説明した所定量を用いることができる。ステップS205の処理を終了すると、ステップブロックJに進む。
【0129】
一方、ステップS204の処理において、炉頂ηCO差が、所定範囲αの上限値よりも大きくないと判断された場合(ステップS204のNO)には、ステップS206の処理を行う。ステップS206の処理では、炉頂ηCO差が所定範囲αの下限値よりも小さいか否かを判断する。所定範囲αの下限値は、図1のステップS106で説明した所定範囲αの下限値を用いることができる。ステップS206の処理において、炉頂ηCO差が、所定範囲αの下限値よりも小さいと判断された場合(ステップS206のYES)には、ステップS207の処理を行う。
【0130】
ステップS207の処理では、ステップブロックHの処理でηCO(実測値及び計算値)を求めていない還元反応に対応する候補値(本実施形態では、第3候補値)を所定量減少する。所定量は、図1のステップS107の処理で説明した所定量を用いることができる。ステップS207の処理を終了すると、ステップブロックJに進む。
【0131】
一方、ステップS206の処理において、炉頂ηCO差が、所定範囲αの下限値よりも小さくないと判断された場合(ステップS206のNO)には、ステップブロックJの処理に進む。
【0132】
なお、ステップブロックIにおいて、ステップS204とステップS206の処理の順序は限定されるものではなく、ステップS206の処理を行った後、ステップS204の処理を行ってもよい。
【0133】
ステップブロックJでは、第1ηCO差が、所定範囲βの範囲内にあるか否かを判断し、その判断結果に応じた処理を行う。ステップブロックJは、第1実施形態のステップブロックCと同じ処理であるため、詳細な説明は省略する。ここで、ステップブロックJにおけるステップS208~ステップS211は、ステップブロックCにおけるステップS108~S111にそれぞれ対応する。ステップブロックJの処理を終了すると、ステップブロックKに進む。
【0134】
ステップブロックKでは、第2ηCO差が、所定範囲γの範囲内にあるか否かを判断し、その判断結果に応じた処理を行う。ステップブロックKは、第1実施形態のステップブロックDと同じ処理であるため、詳細な説明は省略する。ここで、ステップブロックKにおけるステップS212~ステップS215は、ステップブロックDにおけるステップS112~S115にそれぞれ対応する。ステップブロックKの処理を終了すると、ステップブロックLに進む。
【0135】
なお、ステップブロックI~Kの順序は任意であり、必ずしも図4に示す順序で行う必要はない。
【0136】
次に、ステップブロックLについて説明する。ステップブロックLでは、ステップブロックI~Kの処理が行われた第1~第3候補値を使用し、炉頂ηCO及び第1~第2ηCOの計算値を求める。そして、求めた炉頂ηCO及び第1~第2ηCOの計算値を使用し、炉頂ηCO差及び第1~第2ηCO差を求める。炉頂ηCO差及び第1~第2ηCO差を求め方は、第1実施形態のステップブロックFと同じであるため、詳細な説明は省略する。ここで、ステップブロックLにおけるステップS216及びステップS217は、ステップブロックFにおけるステップS120及びステップS121にそれぞれ対応する。ステップブロックLの処理を終了すると、ステップブロックMに進む。
【0137】
ステップブロックMでは、ステップブロックLで求めた炉頂ηCO差及び第1~第2ηCO差が、対応する所定範囲α,β,γ内にあるか否かを判断し、その判断結果に応じて所定の処理を行う。ステップブロックMに含まれるステップS218~S220は、それぞれ、第1実施形態のステップブロックGに含まれるステップS122~S124と同じ処理であるため、詳細な説明は省略する。ステップブロックMの処理により、炉頂ηCO差及び第1~第2ηCO差のそれぞれが対応する所定範囲α,β,γ内にあると判断された場合、ステップブロックI~Kの処理が行われた第1~第3候補値を、それぞれ、第1~第3補正係数として決定する。
【0138】
上述したステップS201~S220の処理により第1~第3還元速度定数に乗じられる第1~第3補正係数を決定することができる。
【0139】
本実施形態の補正係数の決定方法では、炉頂におけるηCOの計算値と実測値の差に基づいて第3候補値を調整するだけでなく、還元反応が進行する位置におけるηCOの計算値と実測値の差に基づいて第1~第2候補値を調整している。そして、本実施形態では、第2候補値の調整にあたり、実炉で進行している還元反応が正確に反映されやすい第2ηCOの実測値が用いられている。このため、本実施形態で決定される第1~第3候補値は、実炉における還元反応の状況が正確に反映されやすい。従って、本実施形態の補正係数の決定方法によれば、高炉数学モデルの解析精度を向上することができる。
【0140】
以上説明した本実施形態では、ステップブロックIの処理において、ηCOを求めていない還元反応に対応する候補値(本実施形態では第3候補値)を調整している。しかしながら、ステップブロックIの処理において、第1~第3候補値全てを増減してもよい。このような場合であっても、高炉数学モデルの解析精度を向上することができる。
【0141】
また、本実施形態では、ステップブロックJの処理において、第1候補値のみを調整しているが、第1~第3候補値すべてを調整してもよい。このような場合であっても、高炉数学モデルの解析精度を向上することができる。
【0142】
また、本実施形態では、ステップブロックKの処理において、第2候補値のみを調整しているが、第1~第3候補値すべてを調整してもよい。このような場合であっても、高炉数学モデルの解析精度を向上することができる。なお、ステップブロックKとJの両方の処理において、第1~第3候補値すべてを調整してもよい。
【0143】
また、本実施形態において、ηCOを求めていない還元反応に対応する候補値(本実施形態では第3候補値)は、その還元反応の前後の還元段階の還元反応が進行する高さで求めたηCOの実測値と計算値に基づいて調整してもよい。具体的には、第3還元反応に対応する第3候補値は、第2還元反応(第3還元反応の前の還元段階の還元反応)が進行する高さにおけるηCO(第2ηCO)の実測値と計算値の差に基づいて調整されてもよい。言い換えれば、第3候補値は、ステップブロックKの処理において、第2候補値とともに調整されてもよい。このような場合であっても、高炉数学モデルの解析精度を向上することができる。
【0144】
また、本実施形態では、炉頂ηCO差及び第1~第2ηCO差に着目して、第1~第3補正係数を決定しているが、これに限るものではない。具体的には、炉頂ηCO差及び第2~第3ηCO差に着目して、第1~第3補正係数を決定することができる。この場合には、炉頂ηCO差が所定範囲αの範囲内になり、第2ηCO差が所定範囲γの範囲内になり、かつ第3ηCO差が所定範囲δの範囲内になるときの第1~第3候補値を第1~第3補正係数として決定することができる。また、炉頂ηCO差及び第1,第3ηCO差に着目して、第1~第3補正係数を決定することができる。この場合には、炉頂ηCO差が所定範囲αの範囲内になり、第1ηCO差が所定範囲βの範囲内になり、かつ第3ηCO差が所定範囲δの範囲内になるときの第1~第3候補値を第1~第3補正係数として決定することができる。
【0145】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態は、炉頂ηCO及び第1~第3ηCO差のうち、2つの差を用いた実施形態である。本実施形態で用いる2つの差には、少なくとも、炉頂ηCO差と、第2ηCO差と第3ηCO差のいずれか一方の差が含まれていればよい。本実施形態の具体的な一例について、図5を用いて説明する。図5では、2つの差として、炉頂ηCO差と第2ηCO差を用いている。
【0146】
本実施形態は、ステップブロックN~Rを含む。まず、ステップブロックNについて説明する。ステップブロックNでは、炉頂ηCO差及び第2ηCO差を求める。炉頂ηCO差及び第2ηCO差の求め方は、第1実施形態のステップブロックAで説明しているため、詳細な説明は省略する。ここで、ステップブロックNにおけるステップS301~ステップS303は、ステップブロックAにおけるステップS101~ステップS103にそれぞれ対応する。ステップブロックNを終了するとステップブロックOに進む。
【0147】
ステップブロックOでは、炉頂ηCO差が、所定範囲αの範囲内にあるか否かを判断し、その判断結果に応じた処理を行う。ステップブロックOは、ステップS304~ステップS307の処理を含む。
【0148】
ステップS304の処理では、炉頂ηCO差が所定範囲αの上限値よりも大きいか否かを判断する。所定範囲αの上限値は、図1のステップS104で説明した所定範囲αの上限値を用いることができる。ステップS304の処理において、炉頂ηCO差が、所定範囲αの上限値よりも大きいと判断された場合(ステップS304のYES)には、ステップS305の処理を行う。
【0149】
ステップS305の処理では、ステップブロックNの処理でηCO(実測値及び計算値)を求めていない還元反応(つまり、その還元反応が進行する高さでηCOを求めていない還元反応)に対応する候補値を所定量増加する。本実施形態では、ステップブロックNの処理において、第1及び第3還元反応が進行する高さにおいてηCO(実測値及び計算値)を求めていないため、第1還元反応及び第3還元反応に対応する第1候補値及び第3候補値を所定量増加する。所定量は、図1のステップS105の処理で説明した所定量を用いることができる。ステップS305の処理を終了すると、ステップブロックPに進む。
【0150】
一方、ステップS304の処理において、炉頂ηCO差が、所定範囲αの上限値よりも大きくないと判断された場合(ステップS304のNO)には、ステップS306の処理を行う。ステップS306の処理では、炉頂ηCO差が所定範囲αの下限値よりも小さいか否かを判断する。所定範囲αの下限値は、図1のステップS106で説明した所定範囲αの下限値を用いることができる。ステップS306の処理において、炉頂ηCO差が、所定範囲αの下限値よりも小さいと判断された場合(ステップS306のYES)には、ステップS307の処理を行う。
【0151】
ステップS307の処理では、ステップブロックNの処理でηCO(実測値及び計算値)を求めていない還元反応に対応する候補値(本実施形態では、第1及び第3候補値)を所定量減少する。所定量は、図1のステップS107の処理で説明した所定量を用いることができる。ステップS307の処理を終了すると、ステップブロックPに進む。
【0152】
一方、ステップS306の処理において、炉頂ηCO差が、所定範囲αの下限値よりも小さくないと判断された場合(ステップS306のNO)には、ステップブロックPの処理に進む。
【0153】
なお、ステップブロックOにおいて、ステップS304とステップS306の処理の順序は限定されるものではなく、ステップS306の処理を行った後、ステップS304の処理を行ってもよい。
【0154】
ステップブロックPでは、第2ηCO差が、所定範囲γの範囲内にあるか否かを判断し、その判断結果に応じた処理を行う。ステップブロックPは、第1実施形態のステップブロックDと同じ処理であるため、詳細な説明は省略する。ここで、ステップブロックPにおけるステップS308~ステップS311は、ステップブロックDにおけるステップS112~ステップS115にそれぞれ対応する。ステップブロックPの処理を終了すると、ステップブロックQに進む。
【0155】
なお、ステップブロックO~Pの順序は任意であり、必ずしも図5に示す順序で行う必要はない。
【0156】
次に、ステップブロックQについて説明する。ステップブロックQでは、ステップブロックO~Pの処理が行われた第1~第3候補値を使用し、炉頂ηCO及び第2ηCOの計算値を求める。そして、求めた炉頂ηCO及び第2ηCOの計算値を使用し、炉頂ηCO差及び第2ηCO差を求める。炉頂ηCO差及び第2ηCO差を求め方は、第1実施形態のステップブロックFと同じであるため、詳細な説明は省略する。ここで、ステップブロックQにおけるステップS312及びステップS313は、ステップブロックFにおけるステップS120~ステップS121にそれぞれ対応する。ステップブロックQの処理を終了すると、ステップブロックRに進む。
【0157】
ステップブロックRでは、ステップブロックQで求めた炉頂ηCO差及び第2ηCO差について、対応する所定範囲α,γ内にあるか否かを判断し、その判断結果に応じて所定の処理を行う。ステップブロックRに含まれるステップS314及びS315は、第1実施形態のステップブロックGに含まれるステップS122及びS124と同じ処理であるため、詳細な説明は省略する。ステップブロックRの処理により、炉頂ηCO差及び第2ηCO差のそれぞれが対応する所定範囲α,γ内にあると判断された場合、ステップブロックO~Pの処理が行われた第1~第3候補値を、それぞれ、第1~第3補正係数として決定する。
【0158】
以上説明したステップS301~S315の処理により、第1~第3還元速度定数に乗じられる第1~第3補正係数を決定することができる。
【0159】
本実施形態の補正係数の決定方法では、炉頂におけるηCOの計算値と実測値の差に基づいて第1及び第3候補値を調整するだけでなく、還元反応が進行する位置におけるηCOの計算値と実測値の差に基づいて第2候補値を調整している。そして、本実施形態では、第2候補値の調整にあたり、実炉で進行している還元反応が正確に反映されやすい第2ηCOの実測値が用いられている。このため、本実施形態で決定される第1~第3補正係数は、実炉における還元反応の状況が正確に反映されやすい。従って、本実施形態の補正係数の決定方法によれば、高炉数学モデルの解析精度を向上することができる。
【0160】
なお、本実施形態では、ステップブロックOの処理において、ηCO(実測値及び計算値)を求めていない還元反応に対応する候補値(本実施形態では第1候補値及び第3候補値)のみを所定量増加しているが、第1~第3候補値全てを調整してもよい。この場合であっても、高炉数学モデルの解析精度を向上することができる。
【0161】
また、本実施形態では、ステップブロックPの処理において、第2候補値のみを調整しているが、第1~第3候補値全てを調整してもよい。この場合であっても、高炉数学モデルの解析精度を向上することができる。
【0162】
また、本実施形態では、炉頂ηCO差及び第2ηCO差に着目して、第1~第3補正係数を決定しているが、これに限るものではない。具体的には、炉頂ηCO差及び第3ηCO差に着目して、第1~第3補正係数を決定することができる。この場合には、炉頂ηCO差が所定範囲αの範囲内になり、かつ第3ηCO差が所定範囲δの範囲内になるときの第1~第3候補値を第1~第3補正係数として決定することができる。
【0163】
以上、3つの実施形態を説明したが、本発明は、同一段階の還元反応が進行する高さ位置に複数の水平ゾンデが設置されている場合にも適用できる。例えば、第2還元反応が進行するシャフト部中部の第2A所定高さと第2B所定高さとに1本ずつ、計2本の水平ゾンデが設置されている場合、各高さ位置について第2AηCO差及び第2BηCO差を求め、その平均値を第2ηCO差として、上述の各処理を行えばよい。このことは、第1還元反応が進行するシャフト部上部及び第3還元反応が進行するシャフト部下部に、複数の水平ゾンデが設置されている場合も同様である。水平ゾンデの本数は基本的には多いほど好ましく、各段階の還元反応が進行する高さ位置に分散して設置されていることが好ましい。
【0164】
また、以上の説明では未反応核3界面モデルによる解析を例に挙げたが、本発明は、未反応核2界面モデルを用いる場合にも適用できる。未反応核2界面モデルにおいては、例えば、FeからFeOまでの還元が1段階で進むものとして扱う。Fe→FeOの還元反応を第1-2還元反応とし、このときの還元速度定数を第1-2還元速度定数とするとともに、FeO→Feの還元反応を第3還元反応とし、このときの還元速度定数を第3還元速度定数とすると、求めるべき補正係数は2つになる。したがって、炉頂ηCOに加えて水平ゾンデで測定されたηCO(第1-2ηCOまたは第3ηCO)を用いることにより、第1-2補正係数及び第3補正係数を決定して、高炉数学モデルの解析精度を向上することができる。ここで、第1-2補正係数は、第1-2還元速度定数(基準値)に乗じられる値であり、第3補正係数は、第3還元速度定数(基準値)に乗じられる値である。
【0165】
具体的には、炉頂ηCO差及び第1-2ηCO差を求め、炉頂ηCO差が所定範囲αの範囲内になるとともに第1-2ηCO差が所定範囲β(またはγ)の範囲内になる第1-2候補値及び第3候補値を、それぞれ、第1-2補正係数及び第3補正係数として決定することができる。また、炉頂ηCO差及び第3ηCO差を求め、炉頂ηCO差が所定範囲αの範囲内になるとともに第3ηCO差が所定範囲δの範囲内になる第1-2候補値及び第3候補値を、それぞれ、第1-2補正係数及び第3補正係数として決定することができる。
【実施例
【0166】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0167】
試験高炉を用いて、下記表1に示す操業諸元で、所定期間操業を行った。この試験高炉のシャフト部上部、シャフト部中部、およびシャフト部下部には、それぞれ水平ゾンデが設置されていた。
【0168】
【表1】
【0169】
所定期間が経過後、試験高炉の炉頂から排出される排ガスを炉頂において採取し、排ガス中のCO濃度及びCO濃度を測定した。測定したCO濃度及びCO濃度を上記式(1)に代入し、炉頂ηCOの実測値を求めた。また、試験高炉に設置される水平ゾンデを用いて、炉半径方向における異なる複数の位置で炉内ガスを採取した。採取した炉内ガス毎に、CO濃度及びCO濃度を測定し、測定したCO濃度及びCO濃度を上記式(1)に代入して第1~第3ηCOの実測値を求めた。
【0170】
試験高炉を解析対象として高炉数学モデルを実施した。高炉数学モデルには、第1~第3候補値をそれぞれ乗じた第1~第3還元速度定数を用いた。また、高炉数学モデルでは、試験高炉の操業諸元を入力条件として設定した。高炉数学モデルには、非特許文献1に記載の高炉数学モデルを使用し、各計算格子において、物質収支、運動量収支及びエネルギー収支の数式を解くことにより、各計算格子におけるCO濃度及びCO濃度を求めた。
【0171】
炉頂部、シャフト部上部、シャフト部中部、およびシャフト部下部に位置する各計算格子の解析結果(CO濃度及びCO濃度)を、それぞれ上記式(1)に代入し、炉頂ηCO及び第1~第3ηCOの計算値を求めた。
【0172】
炉頂ηCO及び第1~第3ηCOのそれぞれについて、計算値と実測値の差を求め、炉頂ηCO差及び第1~第3ηCO差を求めた。なお、第1~第3ηCO差については、実測値のうちの最大値と最小値を加算した加算値と、計算値のうちの最大値と最小値を加算した加算値との差とした。
【0173】
炉頂ηCO差及び第1~第3ηCO差のそれぞれが所定範囲α~所定範囲δになるまで、図1に示すステップブロックB~Gの処理を繰り返し、第1~第3補正係数を決定した。
【0174】
決定した第1~第3補正係数をそれぞれ乗じた第1~第3還元速度定数を使用して、上述した高炉数学モデルを実施し、高炉内におけるCOガス利用率の分布及び温度分布を得た。また、試験高炉に設置される水平ゾンデを用いて、炉内ガスを採取してCOガス利用率の分布を得た。COガス利用率の分布を図6に示す。なお、図6において、縦軸は、炉底部に設けられる通常羽口からの炉高方向における距離[m]を示し、横軸はCOガス利用率[%]を示す。
【0175】
図6に示すように、COガス利用率の分布に関し、計算結果(高炉数学モデルで解析した結果)と測定結果(▲のプロット)は良く一致していた。
【0176】
次に、試験高炉において、炉頂から排出される排ガス(BFG)からHO及びCOを除去したガス(調整BFG)をシャフト部に設けられるシャフト羽口から吹き込むとともに、コークス炉から排出されるコークス炉ガス(COG)を通常羽口に吹き込む操業(以下「調整BFG吹込み操業」ともいう)に変更した。具体的な操業諸元を、下記表2に示す。所定期間が経過後、水平ゾンデを用いて、炉内ガスを採取し、COガス利用率の分布を得た。
【0177】
【表2】
【0178】
一方、調整BFG吹込み操業に変更した試験高炉を解析対象として、高炉数学モデルを実施し、定常状態に達するまで計算を行った。高炉数学モデルには、ベース操業に合わせて決定された第1~第3補正係数をそれぞれ乗じた第1~第3還元速度定数を用いた。また、高炉数学モデルの入力条件には、調整BFG吹込み操業に変更した試験高炉の条件(表2)を用いた。定常状態に達した後、COガス利用率の分布を得た。
【0179】
COガス利用率の分布を図7に示す。なお、図7において、縦軸は、通常羽口からの炉高方向における距離[m]を示し、横軸はCOガス利用率[%]を示す。
【0180】
図7に示すように、COガス利用率の分布に関し、計算結果(高炉数学モデルで解析した結果)と測定結果(▲のプロット)は良く一致していた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7