(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】改善された医薬エアゾール製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/56 20060101AFI20230105BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20230105BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20230105BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20230105BHJP
A61K 31/167 20060101ALI20230105BHJP
A61K 31/352 20060101ALI20230105BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20230105BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20230105BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230105BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20230105BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20230105BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20230105BHJP
【FI】
A61K31/56
A61K9/107
A61K9/12
A61K9/72
A61K31/167
A61K31/352
A61K47/10
A61K47/22
A61P11/00
A61P11/02
A61P11/06
A61P37/08
(21)【出願番号】P 2019142684
(22)【出願日】2019-08-02
(62)【分割の表示】P 2016252909の分割
【原出願日】2010-10-15
【審査請求日】2019-08-30
(32)【優先日】2009-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】500322826
【氏名又は名称】ヤゴテック アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ルディー ミュラーウォルツ
(72)【発明者】
【氏名】リーゼ-マリー フュエーク
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特許第6568511(JP,B2)
【文献】特表2002-522374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/56
A61K 9/107
A61K 9/12
A61K 9/72
A61K 31/167
A61K 31/352
A61K 47/10
A61K 47/22
A61P 11/00
A61P 11/02
A61P 11/06
A61P 37/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)0.01~0.6重量%の微粒化プロピオン酸フルチカゾンと、
b)0.003~0.04重量%の微粒化フマル酸ホルモテロール二水和物と、
c)0.02~0.08重量%のクロモリンナトリウムと、
d)HFA噴射剤と
を含む薬学組成物であって、
無水アルコールをさらに含む、薬学組成物。
【請求項2】
無水アルコールがエタノールである、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項3】
a)0.003~0.04重量%のフマル酸ホルモテロール二水和物と、
b)0.01~0.6重量%のプロピオン酸フルチカゾンと、
c)0.02~0.08重量%のクロモリンナトリウムと、
d)0.01~3重量%の無水アルコールと
e)HFA噴射剤と
を含む、薬学懸濁液製剤であって、
無水アルコールがエタノールである、薬学懸濁液製剤。
【請求項4】
a)0.0071w/wのフマル酸ホルモテロール二水和物と、
b)0.0357w/w、0.0714w/w、0.1784w/wまたは0.3570w/wのプロピオン酸フルチカゾンと、
c)0.0343w/wのクロモリンナトリウムと、
d)1.43w/wの無水アルコールと、
e)残余のHFA227噴射剤と
を含む薬学組成物。
【請求項5】
MDI投与用の医薬エアゾール懸濁液製剤の保管寿命を延ばす方法であって、該製剤が下記の成分:
a)0.003~0.04重量%の微粒化フマル酸ホルモテロールと、
b)0.01~0.6重量%の微粒化プロピオン酸フルチカゾンと、
c)0.02~0.08重量%のクロモリンナトリウムと、
d)HFA227噴射剤と
を含む、方法。
【請求項6】
MDI投与用の医薬エアゾール懸濁液製剤ためのプロピオン酸フルチカゾンおよびフマル酸ホルモテロールの送達用量の偏差を減らす方法であって、該製剤が下記の成分:
a)0.003~0.04重量%の微粒化フマル酸ホルモテロールと、
b)0.01~0.6重量%の微粒化プロピオン酸フルチカゾンと、
c)0.02~0.08重量%のクロモリンナトリウムと、
d)HFA227噴射剤と
を含む、方法。
【請求項7】
MDI投与用の医薬エアゾール懸濁液製剤における均一性を高める方法であって、該製剤が下記の成分:
a)0.003~0.04重量%の微粒化フマル酸ホルモテロールと、
b)0.01~0.6重量%の微粒化プロピオン酸フルチカゾンと、
c)0.02~0.08重量%のクロモリンナトリウムと、
d)HFA227噴射剤と
を含む、方法。
【請求項8】
MDIのキャニスタまたは絞り弁の内壁面への、MDI投与用の医薬エアゾール懸濁液製剤の成分の付着を減らす方法であって、該製剤が下記の成分:
a)0.003~0.04重量%の微粒化フマル酸ホルモテロールと、
b)0.01~0.6重量%の微粒化プロピオン酸フルチカゾンと、
c)0.02~0.08重量%のクロモリンナトリウムと、
d)HFA227噴射剤と
を含む、方法。
【請求項9】
0.003~0.04重量%のフマル酸ホルモテロールと、0.01~0.6重量%のプロピオン酸フルチカゾン微粒子と、無水アルコールとを含むHFA噴射剤中の薬学懸濁液製剤の調製における、該製剤の微粒子画分を安定させるための0.02~0.08重量%のクロモリンナトリウムの使用。
【請求項10】
0.003~0.04重量%のフマル酸ホルモテロールと、0.01~0.6重量%のプロピオン酸フルチカゾン微粒子と、無水アルコールとを含むHFA噴射剤中の薬学懸濁液製剤の調製における、該製剤の保管寿命を改善するための0.02~0.08重量%のクロモリンナトリウムの使用。
【請求項11】
無水アルコールがエタノールである、請求項
9または
10に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加圧定量吸入器(pMDIまたはMDIと略記)に使用するための医薬エアゾール製剤、特にエアゾール投与用の改善された医薬エアゾール製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
β2-刺激薬、抗コリン作用薬、コルチコステロイドおよび抗アレルギー薬等のような呼吸器疾患および障害を治療するための薬剤は、しばしば吸入法により肺へ直接投与される。吸入法による投与は、経口投与または静脈内投与のような他の経路による投与と比較し、薬剤の治療指数を増加し、副作用を減少し得る。吸入法による投与は、乾燥粉末またはエアゾール製剤のどちらかの形態でなされ、吸入機器またはスプレーのどちらかを使用して患者が吸入する。
【0003】
MDIは、患者の吸入による気道へのエアゾール医薬製剤の投与用の知られた機器である。用語「MDI」は、定量吸入器を説明するのに使用されるもので、その標準的なユニットは医薬製剤を充填したキャニスタと、薬剤絞り弁と、マウスピースとを備える。MDIは、製剤の正確に計量された用量を患者の気道内へ送達するためにアクチュエータマウスピースを経由して放出されるように、絞り弁の作動による薬剤の連続的な個人用量を送達するように使用者が選択的に作動させることができる。
【0004】
MDI用製剤は、薬剤を即座に送達し、使用者の吸入能力に依存しないことを含む様々な理由で有利な送達方法である。喘息発作のような薬剤で治療すべき疾病の種類を考慮すると、これは特に重要である。MDI機器は、多重ユニット投与用の十分な量の医薬製剤を通常含むため、製剤がMDI機器で首尾よく繰り返し使用されるようなものが重要である。製剤は、信頼性の高い方法で、また正確に計算した用量で送達されなければならない。製剤はまた、規制機関により設定された薬学的品質、安定性および健全性の要件を満たさなければならない。
【0005】
MDIは、一般にエアゾールとして薬剤を含有する製剤の飛沫または粒子を気道に放出するために噴射剤を使用する。
【0006】
長い間使用されていた噴射ガスは、CC13F(Freon11またはCFC-11)、CC12F2(Freon12またはCFC-12)およびCCClF2-CClF2(Freon114またはCFC-114)のような通常Freon(登録商標)またはCFCと呼ばれるフルオロクロロハイドロカーボンである。しかしながら、これらCFC噴射剤は特に環境に対し有害であることが明らかになり、その生産並びに本願作成時における医薬製剤への使用が段階的に廃止されている。したがって、吸入薬剤での使用に安全である代替噴射剤が求められている。
【0007】
ハイドロフルオロカーボン(HFC)としても既知のハイドロフルオロアルカン(HFA)は、塩素を含有せず、また大気への影響が少ないと考えられることから、代替噴射剤ガスとして提案された。特に、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFA143a)および1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(HFA227)は、CFC噴射剤の良好な代替噴射剤であることが見出され、これら噴射剤を使用する多くの医薬エアゾール製剤が提案されている。
【0008】
MDIを介して投与される製剤は、溶液または懸濁液の形態とすることができる。懸濁液製剤においては、薬剤を微粒子粉末として製造し、次いで液化噴射剤または噴射剤混合物に懸濁する。懸濁液製剤は、噴射剤を液体状態に維持するに十分な圧力で密封キャニスタ中に保管することができる。例えば、HFA227製剤の蒸気圧は、一般に0℃で約1.96bar、20℃で約3.90bar、40℃で約7.03barである。溶液製剤においては、薬剤を液化噴射剤相に溶解する。絞り弁が作動すると、投与量が急速に散開した細かい飛沫で送達される。
【0009】
一般に、溶解化薬剤と較べて懸濁粒子の優れた化学安定性のため、懸濁液製剤が通常好ましい。溶解化薬剤化合物の化学劣化に伴う安定性の問題は、当業界で既知である。
【0010】
医薬製剤がMDI機器での使用に適するためには、散開したエアゾールの粒径は、使用者、つまり大人、子供または高齢/虚弱体質の人の肺中に吸入し得るに十分小さくなければならない。したがって、懸濁液製剤の粒子は、約1~10μm、好ましくは1~6μmの平均空気力学的粒径(空気力学的質量中央径(MMDA)として測定)を有する極微小になる必要がある。このサイズに微小化された粒子は、当業界で既知の様々な方法、例えば機械研磨または噴霧乾燥により得ることできる。
【0011】
微細で吸入可能な粒子に散開した活性薬剤の量は、微粒子投与量(FPD)または放出された活性化合物の総量に対する微粒子投与量の百分率として定義される微粒子画分(FPF)と呼ばれる。両方とも、カスケードインパクタまたは液体インピンジャを用いた空気力学的粒度分布の測定により決定される。これらは常用の試験であり、その方法および装置が薬局方に開示されている。例えば、本発明の製剤は、米国薬局方(USP)32第〈601〉章、または欧州薬局方(Ph.Eur.)第6版(2009)吸入剤のモノグラフ2.9.18に設定されている要件に適合する。
【0012】
しかしながら、懸濁液製剤用の極微小粒子は、当然いくつかの関連する欠点を有する。それらは大きな表面積を有し、それゆえ表面積の体積または質量に対する好ましくない割合を有する。この割合は、粒子間の強い相互作用力および好ましくない粉末の凝集と接着傾向をもたらす。この結果、製造過程における粉末化薬剤の乏しい流量およびMDI製剤の乏しい懸濁特性のため、困難なハンドリングにつながる場合がある。したがって、かかる粉末は、MDI機器で使用するための製剤化やハンドリングが困難であり、また静電帯電、加工方法、湿気などにより強く影響される。
【0013】
フマル酸ホルモテロール二水和物(以下ホルモテロールと称する)は、喘息症状の緩和に通常用いる長時間作用性β2-刺激薬の気管支拡張薬(β-交感神経様作用薬)である。プロピオン酸フルチカゾン(以下フルチカゾンと称する)は、喘息、慢性閉塞性肺疾患およびアレルギー性鼻炎の治療としてもしばしば処方される効能のある合成コルチコステロイドである。両方とも、MDI製品によって個々に送達される薬剤の例である。
【0014】
ホルモテロールおよびフルチカゾン(特にホルモテロール)は、それぞれMDI用に製剤化されるべき困難なことでも有名な化合物である。この1つの理由は、これら薬剤の効能が非常に少ない投与量のみをいずれの場合も送達されるべきで、それゆえHFA製剤内の薬剤の濃度が非常に低くなることを意味するためである。これは、エアゾール製剤の製造に関する上記に強調した問題を悪化させ、それゆえ行政当局が要求するようなエアゾール製剤の薬学的品質、安定性および健全性を損なう場合がある。製剤の健全性は、長期間の保管またはストレス条件(例えば凍結融解サイクル)下での保管による異なる使用条件下で患者により取り扱われる際に決定することができる。製剤内に存在する薬剤の低濃度により、噴射剤に懸濁した薬剤の局所的均質性の変動(すなわち、約50μLの体積範囲)が、送達用量の偏差をもたらす場合がある。
【0015】
不所望な粒子凝集や接着傾向を低減し、HFA噴射剤を使用する懸濁液製剤の物理的安定性を向上させるために用い得る吸入が安全とみなされる現在既知の懸濁液補助剤が限られているので、ハイドロフルオロアルカン(HFA)を噴射剤として含むMDI製剤を製剤化するのが困難であることも示されている。
【0016】
さらに、HFA製剤の化学的安定性は、ホルモテロールのような気管支拡張薬β2-刺激薬をその酸化および加水分解条件に対する感受性のために用いる際に特に問題になる。かかる製剤が通常水分に敏感で、周囲の空気からの水分の侵入に感受性があるため、加水分解はストレス条件下(例えば40℃/相対湿度75%)でホルモテロールの劣化に影響する主要な識別された要因の一つである。
【0017】
温度変化および/または水分の浸入により保管期間中に生起し得るMDI懸濁液のわずかな濃度変化または物理的安定性の変化は、計量用量と送達用量とに著しい差異(例えば、用量均一性の欠陥)が生じることにつながる。これら差異はまた、FDPまたはFPFとして生体外で求める放出投与量の吸入可能な割合の低下として見られ得る。
【0018】
この減少は、容器閉止システム(キャニスタおよび絞り弁)の内面への薬剤粒子の強い吸着により、および不十分な懸濁液安定性の結果としての超微粒子の凝集作用により生じ得る。長期間の保管および使用期間にMDI製剤内に蓄積し得る水分子は、極性の薬剤粒子と相互作用し、粒子間の強い結合がもたらすので、懸濁液に特に有害であることが明らかになっている。
【0019】
上述の問題の観点から、一般に水の侵入を防止してホルモテロール製剤の加水分解を低減することが重要であると考えられている。
【0020】
クロモリンナトリウム(DSCG)は、優れた内部水分捕捉剤であり、また懸濁液イネーブラである。それは、吸入経路による投与用に使用され、臨床上安全であることが示されてきた。しかしながら、クロモリンナトリウム自体が生物学的薬理作用を有するので、上述したHFA製剤への使用はこれまで避けられており、そのためフルチカゾンおよびホルモテロールのものに加えた効果は調べられていない。
【0021】
また、使用する噴射剤の種類は定量吸入器の作動に影響を及ぼす。CFC噴射剤の替わりにHFA噴射剤を使用することは、懸濁化薬剤の微粒子にさらなる問題が生じることになった。これは、HFA噴射剤がこれまで使用したCFC噴射剤に比べ高い極性を有し、HFA懸濁液製剤が物理的安定性の課題に影響を比較的受け易くなるためである。活性剤を入れる液体より低い密度を有する活性剤が使われるとき、これは送達薬剤中に不均一になり得る浮遊物やクリームになる傾向がある。薬剤はまた、機器や投与機構の内壁にしばしば付着する。
【0022】
この絞り弁の壁面への堆積は、CFC噴射剤と比較すると顕著に増加することが分った。この堆積は、実際の分注量の減少になり得る。この付着はまた、キャニスタの内部機構の目詰まりまたは絞り弁の閉塞に起因する機器の欠陥になり得る。
【0023】
従来より提案された機器は、内壁面をフルオロカーボンポリマー樹脂で被覆した容器を採用した、特許文献1および特許文献2を参照。しかしながら、かかるシステムでの問題は、フルオロカーボンポリマーおよびその構成物質がエアゾール製剤に用いた噴射剤に可溶性であることを含む。また、かかる被覆物自身は、安全で安定した製品を提供するために安全性試験および製品製剤開発を受ける必要がある。これら試験がさらに生産コストに加わり、製品の全体のコストに算入される。
【0024】
吸着防止用に容器の内壁面への被覆はまた、特定金属のキャニスタへの使用に関して問題をもたらす。キャニスタに最も一般的に用いる金属は、アルミニウム合金である。樹脂被覆物は、硬化するために熱処理を受けなければならず、これは容器の強度の低下をもたらす。その理由は金属キャニスタ層が熱により軟化し可鍛性を帯びるからである。
【0025】
樹脂被覆物質それ自体はまた、浸出性化合物がキャニスタ内に含まれる製剤への浸出を見つける可能性があるため、医薬製剤の汚染につながる場合がある。かかる浸出性化合物は、医薬製剤中の薬剤化合物の劣化をもたらし、また効果が低く健全性が低い製品になる。製品の保管寿命はまた、保管中の活性成分の劣化で損なわれる場合がある。
【0026】
したがって、MDIで使用する医薬エアゾール製剤を製造する際、考慮すべき重要なパラメータが多くある。
【0027】
単独の製剤内でプロピオン酸フルチカゾンおよびフマル酸ホルモテロールを調剤する際のいくつかの困難が、特許文献3では、他の成分と一緒に混合する前にフマル酸ホルモテロールを乾燥する乾燥工程の導入により対処されてきた。しかしながら、かかる製剤の長期保存に伴う課題は対処されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【文献】国際公開第1996-32150号
【文献】米国特許第6596260号
【文献】国際公開第2005-034911号
【発明の概要】
【0029】
本出願は、上述した従来技術の課題の少なくともいくつかを軽減することを目的とする。
【0030】
したがって、本発明の第一態様は、(a)微粒化β2-刺激薬、(b)微粒化コルチコステロイド、(c)準治療量の水分捕捉賦形剤および(d)HFA噴射剤を含むMDI投与用の医薬エアゾール懸濁液製剤に関するもので、ここで(a)、(b)および(c)ならびにその各々の相対量は、これらが会合してHFA噴射剤のものと実質的に同じ密度を有するフロキュールを形成するように選択される。
【0031】
本製剤の構成物質は、フロキュール(凝集粒子、羊斑、綿状沈殿物としても既知)を形成するように会合する傾向があることが見出された。フロキュールは、溶液中で懸濁した網状の脆弱構造中に共に保持された個々の微粒子の緩く保持された塊または集合体からなる。フロキュールにより形成された集合体は、キャニスタの静かな攪拌のような小量の剪断応力の適用下で容易に分解し、力が除かれた後に伸長した粒子の網状体を再形成する傾向がある。したがって、綿状沈殿は、実質的に粘度上昇を伴わない構造を懸濁液に与える。解膠システムと対照的に、フロキュールは速やかに、通常高い沈殿容積に沈降し、長期間、例えば3、6、9、12、18ヶ月またはそれ以上の保管後であっても容易に再懸濁することができる。
【0032】
一度会合すると、本製剤のフロキュールは、これを入れる噴射剤の密度に一致する密度を有することを見出した。これは、フロキュールにクリーム、浮遊物またはシンクとなる傾向なしに懸濁液中に残存する能力を与える。したがって、本発明の懸濁液製剤は、長期間使用可能な製剤の状態のまま存在し、最終製品の延長した保管寿命および優れた信頼性を有する健全性のある製品をもたらす。
【0033】
さらに、これらフロキュールを形成する傾向は、懸濁液の均一性を高め、局所的な均質性の変動を低下させるので、送達用量の誤差を低減し得る製品になる。
【0034】
上記に加え、フロキュールは懸濁液製剤に安定性の向上をもたらす。懸濁液のこの向上した安定性は、構成成分が吸入器のキャニスタまたは絞り弁の内壁面で会合するのに優先して一緒に会合することを意味する。したがって、懸濁液製剤が必ず通過する容器またはキャニスタの絞り弁の内部に付着する傾向が低減する。これは、送達用量の信頼性が向上することにつながり得る。さらに、作動機構や絞り弁を閉塞する傾向が低下するので、正確な量で確実にかつ繰り返し分注し得る製剤を提供することになる。
【0035】
一般に、懸濁液製剤、特にHFA噴射剤を使用するMDI懸濁液製剤は、本質的に物理的不安定である。該製剤は、重力により分離した二つの相、液体の噴射剤相および懸濁化微粒子相を形成する。キャニスタ内において、懸濁化粒子の異なる濃度を有する領域がまた、粒子の熱運動につながるキャニスタ内での小さい温度変動の結果として存在し得る。しかしながら、フロキュールを形成するように会合する本発明に係る製剤は、活性成分がMDIより分注され患者の呼吸システムに入る瞬間まで、活性成分すべてがまさに会合した状態で存在する傾向がある。これは優れた品質と計算用量に対する改善された忠実性とを有する製剤を提供することになる。
【0036】
HFA噴射剤はHFA227が好ましい。HFA227は、低毒性の不活性な噴射剤で、定量吸入器での使用に適している。少量のエタノールと混合して液体噴射剤相を形成する際、HFA227噴射剤は、以下のような温度範囲にわたり計算密度を有する。
【0037】
【0038】
上記の数値は、理想的混合物に対する熱力学法則を使用して算出した。しかしながら、実際は液体混合物が非理想的混合物として振舞い、「真の」密度は計算値と若干異なり得る。
【0039】
したがって、フロキュール(微粒化β2-刺激薬、微粒化コルチコステロイドおよび水分捕捉賦形剤を含む)の平均密度が噴射剤の密度の±0.2g/cm3、好ましくは±0.1g/cm3、より好ましく±0.05g/cm3と実質的に同じである製剤を有することが有利である。
【0040】
フロキュールの平均密度は、あらゆる標準的な手法を用いて、例えば、各固体成分の真の粒子密度をヘリウム比重瓶法により求めることにより算出することができる。したがって、フロキュールの密度は、使用者がMDIを通常操作する10℃~30℃の温度範囲で噴射剤の密度に実質的に一致する場合がある。
【0041】
コルチコステロイドは、プロピオン酸フルチカゾンまたはその薬学的に許容し得る塩であるのが好ましい。コルチコステロイドは、製剤の全重量に対し0.01~0.6重量%、好ましくは0.02~0.5重量%、さらに好ましくは0.03~0.4重量%の量で存在するのが有利である。これは、使用時に効能があり、また懸濁液用フロキュールの正しい密度を噴射剤中で形成するために有利な量である。
【0042】
コルチコステロイドは、粒子の100%に対し10μm未満、90%に対し6μm未満、50%に対し3μm未満、10%に対し2μm未満の確定した粒径を有するのが好ましい。
【0043】
β2-刺激薬は、フマル酸ホルモテロール二水和物もしくはその薬学的に許容し得る塩または誘導体であるのが好ましい。β2-刺激薬は、製剤の全重量に対し0.003~0.04重量%、好ましくは0.004~0.03重量%、さらに好ましくは0.005~0.02重量%の量で存在するのが好ましい。好適な実施形態において、フマル酸ホルモテロール二水和物を製剤の全重量に対し0.003~0.008重量%の量で用い得る。別の好適な実施形態において、フマル酸ホルモテロール二水和物を製剤の全重量に対し0.001~0.04重量%の量で用い得る。コルチコステロイドと同じように、使用時に効能を与えることができ、また懸濁液用フロキュールの正しい密度を噴射剤中で形成するためには、これはβ2-刺激薬の有利な量である。
【0044】
β2-刺激薬は、粒子の100%に対し10μm未満、90%に対し6μm未満、50%に対し3μm未満、10%に対し2μm未満の確定した粒径を有するのが好ましい。
【0045】
水分捕捉賦形剤は、クロモリンナトリウム(DSCG)であるのが好ましく、それ自身生物学的作用を示さず、また薬理学的に不活性であるような準治療レベルで存在するのが有利である。したがって、水分捕捉賦形剤は、製剤の全重量に対し0.01~0.1重量%、好ましくは0.016~0.09重量%、さらに好ましくは0.02~0.08重量%、さらに好ましくは0.025~0.07重量%、さらに好ましくは0.03~0.05重量%、さらに好ましくは0.03~0.04重量%の量で存在するのが適している。
【0046】
水分捕捉賦形剤は、粒子の100%に対し10μm未満、90%に対し6μm未満、50%に対し3μm未満、10%に対し2μm未満の確定した粒径を有するのが好ましい。
【0047】
DSCGは、HFA噴射剤を含む製剤に使用する際に優れた懸濁易化剤であることを見出した。DSCGそれ自身は、活性剤と不均一なフロキュールの形成を促進、可能にする粒子からなる。
【0048】
DSCGは、特に競合的吸水による加水分解に対して製剤の安定化を助けるように作用する。DSCGは、含水量に関して非化学量論的で、相対湿度の変化に応じて即座に水を吸収または放出する単結晶形態として存在する。DSCG結晶は、結晶格子の崩壊なしに可逆的吸水の程度が自在であり、1モル当たり9分子、つまり約24%w/wまでの水を吸収することができる。X線回折による結晶構造分析は、格子内にほんの少しの寸法変化で可変数の水分子(大気相対湿度に依存)を可逆的に提供し得るチャンネルの存在が明らかなった。大きな吸水能にかかわらず、DSCGは潮解性(例えば、硫酸ナトリウムのように)でなく、相対湿度10~90%の範囲で固体である。
【0049】
本発明において、DSCGは、噴射剤相内に存在する競合的に結合自由(すなわち溶解分子)な水により、製剤中で微粒子画分(FPF)を安定化するように作用する。これは、懸濁粒子の凝集化(すなわち液体および/または結晶架橋の形成)および安定性に対する粒子成長(すなわちオスワルト熟成)を防止することにより微粒子画分を安定化するのに役立つ。これは、製剤が内部水の存在に対し向上した耐性を有するので、保管および使用期間中により健全性のある製品を可能にする。例えば、総内部水600ppmまで耐性がある。これはさらに、製品が患者に渡ると、より長い「使用期間」を可能にする。そして、表面への付着傾向が低減し、それゆえ医薬製剤をポリマー被覆した内壁面を有するキャニスタの代わりに非被覆のキャニスタで用いることを可能にする。
【0050】
医薬エアゾール懸濁液製剤は湿潤剤をさらに含むことが好ましく、湿潤剤は無水アルコールであることがより好ましく、もっとも好ましくは湿潤剤が製剤の全重量に対し0.01~3重量%、好ましくは0.05~2.5重量%、さらに好ましくは1.0~2.0重量%の量で存在し得るエタノールである。
【0051】
湿潤剤は、液化噴射剤中で活性剤の湿潤を容易にし、従って活性剤が部分的溶解化しないように懸濁液製造を容易にする。かかる薬剤の添加は、活性剤が部分的溶解化せずに湿潤することと、オストワルト熟成、粒子成長、また結局は安定性の欠陥をもたらすような部分的溶解化することとの微妙なバランスを必要とする。
【0052】
エタノールは、キャニスタおよび機械的部品の壁面への活性剤の堆積を防ぐのを助けるので、少量で添加することができる。
【0053】
したがって、好ましい形態において、本発明の製剤は、薬学的に活性な成分としてホルモテロールとフルチカゾンを、また薬学的に不活性な成分としてクロモリンナトリウムとHFA227とエタノールとを含む。
【0054】
本発明の更なる態様は、0.01~0.6重量%の微粒化コルチコステロイド、0.003~0.04重量%の微粒化β2-刺激薬および0.01~0.1重量%のクロモリンナトリウムを含む薬学組成物に関する。
【0055】
コルチコステロイドは、微粒化プロピオン酸フルチカゾンであることが好ましい。
【0056】
β2-刺激薬は、微粒化フマル酸ホルモテロール二水和物であるのが有利である。
【0057】
薬学組成物は、湿潤剤をさらに含むのが好ましく、より好ましくは湿潤剤が無水アルコール、最も好ましくはエタノールである。湿潤剤は、製剤の全重量に対し0.01~3重量%、好ましくは0.05~2.5重量%、さらに好ましくは1.0~2.0重量%の量で存在するのが好ましい。
【0058】
本発明の更なる態様は、約0.003~0.04重量%のフマル酸ホルモテロール二水和物、約0.01~0.6重量%のプロピオン酸フルチカゾン、約0.01~0.1重量%の懸濁剤および約0.01~3重量%の無水アルコールを含む薬学的懸濁液製剤に関する。
【0059】
懸濁剤は、活性剤が長期間懸濁液状態で留まるのを可能にするクロモリンナトリウム(DSCG)であるのが好ましい。これは、製造後長期間効能の発揮が可能なので製品の保管寿命を改善する。
【0060】
さらにまた、DSCGは「増量剤」として作用し、その使用が製剤中に懸濁した粒子の濃度を増大するので、他の賦形剤の添加を必要とせずに懸濁液中の固有の濃度変化を最小にする。DSCGはまた、増量剤の通常の利益をもたらし、すなわちより均質な懸濁液の調製が可能となり、用量の向上した正確さにつながる。
【0061】
本発明のさらなる態様は、フマル酸ホルモテロール二水和物とプロピオン酸フルチカゾンとクロモリンナトリウムとを炎症の治療、好ましくは喘息およびアレルギー性鼻炎の治療用に分離して、同時にまたは順次に使用するための配合調製物として含む製品に関する。
【0062】
本発明のさらなる態様は、HFA噴射剤のものと実質的に同じ密度を有するプロピオン酸フルチカゾン、フマル酸ホルモテロール二水和物およびクロモリンナトリウムのフロキュールを形成するためのプロピオン酸フルチカゾン微粒子と、フマル酸ホルモテロール二水和物微粒子とを含むHFA噴射剤中の薬学的懸濁液製剤の調製へのクロモリンナトリウムの使用に関する。
【0063】
本発明のさらなる一態様によれば、HFA噴射剤のものと実質的に同じ密度を有するプロピオン酸フルチカゾン、フマル酸ホルモテロール二水和物およびクロモリンナトリウムのフロキュールを形成ための0.01~0.6%のプロピオン酸フルチカゾン微粒子と、0.003~0.04%のフマル酸ホルモテロール二水和物微粒子とを含むHFA噴射剤中の薬学的懸濁液製剤の調製への0.01~0.1%のクロモリンナトリウムの使用を提供するものである。
【0064】
フロキュールの平均密度は、HFA噴射剤の密度の±0.2g/cm3、好ましくは±0.1g/cm3、より好ましく±0.05g/cm3と実質的に同じであるのが好ましい。
【0065】
薬学的懸濁液製剤は湿潤剤、好ましくは無水アルコール、より好ましくはエタノールをさらに含むのが好ましい。
【0066】
本発明のさらなる他の態様によれば、HFA噴射剤中の微粒子化β2-刺激薬および微粒子化コルチコステロイドの医薬エアゾール懸濁液製剤の安定性を長期間の保管にわたって増大させる方法を提供するもので、該方法は準治療量のクロモリンナトリウムを添加することを備え、微粒子化β2-刺激薬、微粒子化コルチコステロイドおよびクロモリンナトリウムの各々の相対量はこれらが会合して、HFA噴射剤のものと実質的に同じ密度を有するフロキュールを形成するように選択される。
【0067】
好ましくは、長期間の保管は3、9、12または18ヶ月である。好ましくは、長期間保管後の懸濁液製剤の含水量は、500ppm~800ppm、好ましくは600ppm~700ppmの範囲内である。
【0068】
本発明に係る薬学組成物の適切な用量強度の例を以下の表に開示する。
【0069】
表2:製剤(%w/w)の用量強度の例の組成
【表2】
【0070】
[本発明1001]
a)微粒化フマル酸ホルモテロールもしくはその薬学的に許容し得る塩または誘導体と、
b)微粒化プロピオン酸フルチカゾンもしくはその薬学的に許容し得る塩また誘導体と、
c)準治療量のクロモリンナトリウムを含む水分捕捉賦形剤と、
d)HFA噴射剤とを含み、
ここで(a)、(b)および(c)ならびにその各々の相対量は、これらが会合してHFA噴射剤のものと実質的に同じ密度を有するフロキュールを形成するように選択されることを特徴とするMDI投与用の医薬エアゾール懸濁液製剤。
[本発明1002]
前記フロキュールの平均密度が、噴射剤の密度の±0.2g/cm3、好ましくは±0.1g/cm3、より好ましく±0.05g/cm3とほぼ同じである本発明1001の医薬エアゾール懸濁液製剤。
[本発明1003]
前記HFA噴射剤がHFA227である本発明1001または1002の医薬エアゾール懸濁液製剤。
[本発明1004]
前記フマル酸ホルモテロールもしくはその薬学的に許容し得る塩または誘導体が、製剤の全重量に対し0.003~0.04重量%、好ましくは0.004~0.03重量%、さらに好ましくは0.005~0.02重量%の量で存在する本発明1001~1003のいずれかの医薬エアゾール懸濁液製剤。
[本発明1005]
前記プロピオン酸フルチカゾンもしくはその薬学的に許容し得る塩または誘導体が、製剤の全重量に対し0.01~0.6重量%、好ましくは0.02~0.5重量%、さらに好ましくは0.03~0.4重量%の量で存在する本発明1001~1004のいずれかの医薬エアゾール懸濁液製剤。
[本発明1006]
前記クロモリンナトリウムが、製剤の全重量に対し0.01~0.1重量%、好ましくは0.016~0.09重量%、さらに好ましくは0.02~0.08重量%、さらに好ましくは0.025~0.07重量%、さらに好ましくは0.03~0.05重量%、さらに好ましくは0.03~0.04重量%の量で存在する本発明1001~1005のいずれかの医薬エアゾール懸濁液製剤。
[本発明1007]
湿潤剤をさらに含む本発明1001~1006のいずれかの医薬エアゾール懸濁液製剤。
[本発明1008]
前記湿潤剤が無水アルコールである本発明1007の医薬エアゾール懸濁液製剤。
[本発明1009]
前記湿潤剤がエタノールである本発明1008の医薬エアゾール懸濁液製剤。
[本発明1010]
前記アルコールが、製剤の全重量に対し0.01~3重量%、好ましくは0.05~2.5重量%、さらに好ましくは1.0~2.0重量%の量で存在する本発明1008または1009の医薬エアゾール懸濁液製剤。
[本発明1011]
a)0.01~0.6重量%の微粒化プロピオン酸フルチカゾンもしくはその薬学的に許容し得る塩または誘導体と、
b)0.003~0.04重量%の微粒化フマル酸ホルモテロール二水和物もしくはその薬学的に許容し得る塩または誘導体と、
c)0.01~0.1重量%のクロモリンナトリウムとを含む薬学組成物。
[本発明1012]
湿潤剤をさらに含む本発明1011の薬学組成物。
[本発明1013]
前記湿潤剤が無水アルコール、好ましくはエタノールであり、また製剤の全重量に対し0.01~3重量%、好ましくは0.05~2.5重量%、さらに好ましくは1.0~2.0重量%の量で存在する本発明1011または1012の薬学組成物。
[本発明1014]
a)約0.003~0.04重量%のフマル酸ホルモテロール二水和物と、
b)約0.01~0.6重量%のプロピオン酸フルチカゾンと、
c)約0.01~0.1重量%のクロモリンナトリウムと、
d)約0.01~3重量%の無水アルコールとを含む薬学懸濁液製剤。
[本発明1015]
炎症、特に喘息およびアレルギー性鼻炎の治療に同時、分離または連続的に使用する組合せ調剤としてフマル酸ホルモテロール二水和物、プロピオン酸フルチカゾンおよびクロモリンナトリウムを含む製品。
[本発明1016]
HFA噴射剤のものと実質的に同じ密度を有するフマル酸ホルモテロール二水和物、プロピオン酸フルチカゾンおよびクロモリンナトリウムのフロキュールを形成するためのフマル酸ホルモテロール二水和物と、プロピオン酸フルチカゾン微粒子とを含むHFA噴射剤中の薬学懸濁液製剤の調製へのクロモリンナトリウムの使用。
[本発明1017]
HFA噴射剤のものと実質的に同じ密度を有するフマル酸ホルモテロール二水和物、プロピオン酸フルチカゾンおよびクロモリンナトリウムのフロキュールを形成するための0.003~0.004%のフマル酸ホルモテロール二水和物と、0.01~0.6%のプロピオン酸フルチカゾンとの微粒子とを含むHFA噴射剤中の薬学懸濁液製剤の調製への0.01~0.1%のクロモリンナトリウムの使用。
[本発明1018]
前記フロキュールの平均密度が、噴射剤の密度の±0.2g/cm3、好ましくは±0.1g/cm3、より好ましく±0.05g/cm3とほぼ同じである本発明1016または1017の使用。
[本発明1019]
前記薬学懸濁液製剤が、湿潤剤、好ましくは無水アルコール、より好ましくはエタノールをさらに含む本発明1016~1018のいずれかの使用。
[本発明1020]
a)0.0071w/wのフマル酸ホルモテロール二水和物と、
b)0.0357w/w、0.0714w/w、0.1784w/wまたは0.3570w/wのプロピオン酸フルチカゾンと、
c)0.0343w/wのクロモリンナトリウムと、
d)残余のHFA227噴射剤とを含む薬学組成物。
[本発明1021]
a)0.0142w/wのフマル酸ホルモテロール二水和物と、
b)0.0357w/wのプロピオン酸フルチカゾンと、
c)0.0343w/wまたは0.0686w/wのクロモリンナトリウムと、
d)残余のHFA227噴射剤とを含む薬学組成物。
[本発明1022]
1.43w/wのエタノールをさらに含む本発明1020または1021の薬学組成物。
[本発明1023]
HFA噴射剤中の微粒子化フマル酸ホルモテロール二水和物および微粒子化プロピオン酸フルチカゾンの医薬エアゾール懸濁液製剤の安定性を長期間の保管わたり増大する方法において、準治療量のクロモリンナトリウムを添加することを備え、ここで微粒子化フマル酸ホルモテロール二水和物、微粒子化プロピオン酸フルチカゾンおよびクロモリンナトリウムの各々の相対量は、これらが会合してHFA噴射剤のものと実質的に同じ密度を有するフロキュールを形成するように選択されることを特徴とする方法。
[本発明1024]
前記長期間の保管が3、6、9、12または18ヶ月である本発明1023の方法。
[本発明1025]
前記長期間保管後の懸濁液製剤の含水量が、500ppm~800ppm、好ましくは600ppm~700ppmの範囲内である本発明1023または1024の方法。
本発明の実施例を添付図面を参照して例示として以下説明する。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【
図1】フルチカゾンおよびホルモテロールの空気力学的粒度分布
【
図2】振動後異なる時点でのガラスバイアル内の懸濁液の写真
【実施例】
【0072】
実施例1
下記の表3に示した組成物を作製し、フルチカゾン、ホルモテロールおよびクロモリンナトリウムのフロキュールの密度を種々の温度範囲にわたって算出し、液相(1.43%w/wの無水エタノールとHFA227とからなる)の計算密度と比較した。
【0073】
【0074】
液相の密度は、理想的混合物に対する熱力学法則に基づいて求めた。しかしながら実際には、液体混合物は非理想的混合物としてふるまい、「真の」密度は計算密度と若干異なり得る。
【0075】
フロキュールの平均密度は、各固体成分の真の粒子の密度をヘリウム比重瓶法により測定することにより決定した。
【0076】
密度計算の結果を表4および表5に示す。
【0077】
【0078】
【0079】
上記の表4および5の結果から、フロキュールの平均密度が液相の計算密度と±0.2g/ml以内でほぼ一致することがわかる。
【0080】
実施例2
表6に示したバッチを作製し、試験した(10~30℃の「使用温度」の範囲)。
【0081】
【0082】
各バッチのサイズは、3.3kg(約300ユニット)であった。96.5%w/wのエタノール(97.75%v/v)を用いて、製剤を想定保管寿命の終了時製剤に含まれる量とほぼ同量の水分レベルにした。HFA227以外の全ての原料の含水量は、懸濁液の調製に先立ってカールフィッシャ分析により求めた。
【0083】
微粒化活性物質の適切な量を計量し、バッチ容器に移した。クロモリンナトリウム(DSCG)の適切な量を添加し、容器を密閉した。HFA227(apaflurane)と1.45%のアルコールとの噴射剤混合物を別の容器で作製し、バッチ容器に移した。固形物を液化噴射剤中に2900rpmのローターステイターホモゲナイザーを30分間使用することにより分散させた。均質なバルク懸濁液を4℃に冷却し、容器とPamasolエアゾール充填機P2001との間で再循環した。
【0084】
14mlの最大完全容積を有する薬学エアゾールキャニスタに、PamasolP2005クリンプ機を使用して50mclの絞り弁を圧着した。11±0.5g懸濁液のアリコートをP2001充填機により圧着されたキャニスタに充填した。各充填キャニスタの重量を検査し、全ての充填キャニスタに56℃で熱ストレス試験を施し、試験用アクチュエータと組み立てる前に一ヶ月間保管した。
【0085】
懸濁液の安定性を視覚および写真によって経時で評価するために、上記キャニスタの他に、ガラスバイアルをHFA-MDIのバッチ1およびバッチ2のフルチカゾン/ホルモテロール製剤で充填した、
図2参照。ガラスバイアルを振って、写真を振動後15秒、30秒、45秒、1分、1分30秒、2分、3分、5分、2時間で撮影した。
【0086】
バッチ1およびバッチ2に関して、以下の分析的試験を行った。
【0087】
【0088】
表8:フルチカゾン/ホルモテロール製剤100/10のバッチ1(DSCG含有フルチカゾン/ホルモテロール製剤100/10)およびバッチ2(DSCG非含有)のMDIからの放出における薬剤、DSCGおよび水分の含量
【表8】
【0089】
表8は、96.5%w/wのエタノールを製剤内に含め、これにより製造過程それ自体により通常存在する湿分に加えて500ppmを製剤に加えた際のバッチの含水量を示す。バッチ1での若干高い数値はDSCGの存在に起因している。2つのバッチで検出された水分レベルは、通常製品の長期間保管後または湿度の高い状態(例えば75%RHまたはそれ以上)での短期保管後に想定されるものである。従って、得られた結果は、バッチ1およびバッチ2(またはエタノール96.5%w/wを使用して同じ方法で製造した他の同等のバッチ)の製剤が、例えば製剤の長期間保管後上記表7内に挙げられているパラメータについて、フルチカゾン/ホルモテロール製剤内のDSCGの含有効果を実証するために使用され得ることを示した。
【0090】
DSCG含有製剤についての薬剤の濃度はバッチ2のものより高く、95.1%の目標フルチカゾン含量およびおよび95.5%の目標ホルモテロール含量がDSCGで達成され、これに較べDSCGなしではそれぞれ92.2%および90.6%であることが分る。これは、製造装置上での薬剤吸収に起因した製造中の薬剤損失と関連するだろう。
【0091】
表9:フルチカゾン/ホルモテロール製剤100/10のバッチ1(DSCG含有フルチカゾン/ホルモテロール製剤100/10)およびバッチ2(DSCG非含有)のMDIからの放出における薬剤含量の均一性(吸入器内部)
【表9】
【0092】
表9は各バッチに関する10個の吸入器からの送達用量の試験結果を示す。製剤内にDSCGを含有することは、両方の薬剤をより高い用量で送達することを示す(例えば、フルチカゾンについて、DSCG含有で92%であるのに対し、非含有で79%である)。
【0093】
表10:フルチカゾン/ホルモテロール製剤100/10のバッチ1(DSCG含有フルチカゾン/ホルモテロール製剤100/10)およびバッチ2(DSCG非含有)のMDIからの放出におけるキャニスタ寿命による薬剤含量の均一性
【表10】
【0094】
表10に示すように、キャニスタ寿命期間中の薬剤含量の均一性の検討結果は、両薬剤のより高い用量がバッチ1(DSCG含有)により送達されることを示した(フルチカゾンについて、DSCG含有で89.6%であるのに対し、非含有で79.9%である)。
【0095】
表11:MDIからの放出によるフルチカゾン/ホルモテロール製剤100/10のバッチ1(DSCG含有フルチカゾン/ホルモテロール製剤100/10)およびバッチ2(DSCG非含有)の消耗後キャニスタ内および弁での薬剤およびDSCGの残留物
【表11】
【0096】
上記表は、バッチ1(DSCG含有)に較べバッチ2ではほぼ2倍の両薬剤がキャニスタおよび弁から回収されたことを示す(例えば、バッチ1では608μgのフルチカゾンが回収であるのに対し、バッチ2では1100μgである)。
【0097】
図1は、各バッチについて5個の吸入器で実施した試験の空気力学的粒度分布の結果を示す。表5および6の送達用量の結果と同様に、バッチ1と比較してバッチ2ではフルチカゾンおよびホルモテロールのより少ない量がアクチュエータから送達された。
【0098】
図2は、2つのバッチの製剤を含むガラスバイアルの経時写真の結果を示す。また、ガラスバイアルを視覚的に検討し、懸濁液の安定性において以下の差異が判明した。
【0099】
バッチ1(DSCG含有)は、攪拌の停止直後に大きな緩いフロキュールを示す(この結果は製剤を水で投与されない時にみられたものと異なる)のに対し、バッチ2(DSCG非含有)は分散すればするほど均質になる。
【0100】
しかしながら、長期間の経過後、バッチ1は緩い綿状沈殿形態のままで、嵩高いが容易に再分散可能な沈殿となる一方、バッチ2では一部が沈殿し、他は浮遊した異なる密度の集合体を形成するように思われる。バッチ2のガラスバイアル内に存在する沈殿物質の少なくとも一部が、気液界面でガラスバイアル表面に堆積したクリーム状物質を形成し、均質な懸濁液へ再分散するのが困難である。
【0101】
したがって、視覚検討は、DSCG含有フルチカゾン/ホルモテロール製剤(バッチ1)が追加水の投与によらない場合の同じ製剤よりもすばやく綿状沈殿するが、良好で一貫した用量の均一性を与えるに十分な均質性を長く維持したままであることを示した。これに対し、比較(バッチ2)用に調製したDSCG非含有の製剤は、速やかにクリーム化し、気液界面でガラスバイアル表面に薬剤堆積をもたらした。したがって、これら視覚観察は、本発明の製剤が高い量の内部水を許容することが可能であるという証拠を提供する。
【0102】
したがって結論として、フルチカゾン/ホルモテロール製剤HFA-MDIにおける許可賦形剤としてのDSCGの使用は、特に保管や使用中に不可避的に起こる水分の浸入に対してより健全性の高い最終薬剤製品を提供する。
【0103】
実施例3
以下のバッチを、実施例1に記載した方法を用いて作製した。
【0104】
【0105】
充填非袋状吸入器を40℃/75%RHで6ヶ月間安定性検討プログラムに施し、以下の表13および14の結果に示されるように、製品の性能試験において良好な製品品質および健全性を示した。
【0106】
表13:フルチカゾン/ホルモテロール製剤(250μgフルチカゾン/12μgホルモテロール)の放出時および40℃/75%RHで1~6ヶ月保管後におけるアンデンセンカスケードインパクタの結果
【表13】
【0107】
表14:フルチカゾン/ホルモテロール製剤(250μgフルチカゾン/12μgホルモテロール)の放出時および40℃/75%RHで1~6ヶ月保管後における吸入器寿命による送達用量の均一性の試験結果
【表14】
【0108】
実施例4
実施例1に記載の方法を用いて以下のバッチを作製した。
【0109】
【0110】
下記の表16および17の結果に示されるように、12ヶ月までの安定性調査の結果は、両製剤の良好な製品品質および健全性を証明した。
【0111】
表16:フルチカゾン/ホルモテロール製剤Flutiform 250/10(バッチ4)の12ヶ月までの25 ℃/60 %RH および40 ℃/75 %RHでのACI結果のまとめ。各結果は、6回の測定の平均である(3つのキャニスタの開始時と終了時)。
【表16】
【0112】
表17:フルチカゾン/ホルモテロール製剤Flutiform 250/5(バッチ5)の12ヶ月までの25 ℃/60 %RH および40℃/75 %RHでのACI結果のまとめ。各結果は、6回の測定の平均である(3つのキャニスタの開始時と終了時)。
【表17】