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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】ベッドパッド
(51)【国際特許分類】
   A47C 27/12 20060101AFI20230105BHJP
【FI】
A47C27/12 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020024280
(22)【出願日】2020-02-17
(65)【公開番号】P2021126445
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000010032
【氏名又は名称】フランスベッド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕弘
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-226270(JP,A)
【文献】特開2015-173855(JP,A)
【文献】特開2017-079986(JP,A)
【文献】実開平07-028533(JP,U)
【文献】特開平09-266829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 27/00-27/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マットレスの上に置かれるベッドパッドであって、
長手方向における第1端部および第2端部を有する長尺な形状のパッド本体と、
前記パッド本体の前記長手方向の中心よりも前記第1端部側において、前記パッド本体の裏面に一部が固定されたシート材と、を備え、
前記長手方向に沿う断面において、前記シート材は前記第1端部側の第1固定端と前記第2端部側の第2固定端とを繋ぐ可動部分を有し、かつ前記第1固定端と前記第2固定端との間の距離よりも前記可動部分の周長の方が大き
前記シート材は、前記長手方向に沿って延びるとともに前記長手方向と交差する幅方向に並ぶ複数の導電性繊維を含む、
ベッドパッド。
【請求項2】
前記可動部分の外面は、前記可動部分の内面よりも大きい摩擦係数を有している、
請求項1に記載のベッドパッド。
【請求項3】
前記シート材は、
環状の滑性シートと、
前記滑性シートの外面の少なくとも一部に設けられ、前記滑性シートよりも大きい摩擦係数を有する防滑層と、
を含む、
請求項1または2に記載のベッドパッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベッド装置のマットレスに置かれるベッドパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高齢者や身体の不自由な者などの利用者がベッド装置上で容易に姿勢を変更できるように、背上げ機能や膝上げ機能のような補助機能を備えた可動式のベッド装置が知られている。
【0003】
この種のベッド装置は、複数の床部に分割された床板体と、この床板体を駆動するための駆動機構とを備えている。そして、リモートコントローラのような入力装置の操作に応じて駆動機構が床板体の各部分を互いに回動させる。
【0004】
上記背上げ機能においては、利用者の上半身に対応する背床部が他の部分に対して立ち上げられる。これにより、床板体に配置されたマットレスの上に仰臥した利用者は、ほとんど体力を要することなく上半身を起こすことができる。
【0005】
背床部を立ち上げる際には、マットレスも背床部に押されて屈曲する。マットレスは厚みがあるために、屈曲の外側となるマットレスの下面においては引張力が発生し、屈曲の内側となるマットレスの上面においては圧縮力が発生する。この圧縮力により、マットレスの上に仰臥した利用者の背中が下方へと押され、利用者の特に腹部近傍が圧迫されることがある。
【0006】
利用者に体力がある場合には、自力でマットレスの上面から身体を浮かし、背面に作用する圧縮力を逃がすことができる。しかしながら、十分な体力がない利用者は圧縮力を自力では逃がすことができない。これにより、利用者にとって上記圧迫が苦痛となる可能性がある。
【0007】
例えば特許文献1には、マットレスを複数の層状部材の積層構造とし、少なくとも利用者の上半身に対応する領域において各層を滑りやすくすることで上記圧縮力による利用者の圧迫を抑制可能とした構成が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、マットレスの上面にスライドシートの一端を縫製するとともにこの当該シートの他端をベッド装置のボトム(床板)に取り付け、背上げ時に当該シートをマットレスに対し摺動させることで上記圧縮力による圧迫を抑制可能とした構成が開示されている。
【0009】
さらに、特許文献3には、マットレスを覆うカバーの上面に滑沢性シートを設け、このシートによりマットレスと利用者の背面との摩擦抵抗を低減することで上記圧縮力による圧迫を抑制可能とした構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2014-97281号公報
【文献】特開2001-314457号公報
【文献】特開平9-266829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
例えば上記特許文献1に開示された構成においては、マットレスを多層構造とする必要がある。また、上記特許文献2に開示された構成においては、マットレスにスライドシートを縫製しなければならない。しかしながら、マットレスは一般的に高価であり、これらの特殊なマットレスの導入は容易ではない。
【0012】
さらに、上記特許文献3に開示された構成においては、利用者の背面に接触するカバーの上面に滑沢性シートが設けられている。そのため、カバー上の寝心地などの使用感が悪化し得る。
【0013】
このように、背上げ時に生じる圧縮力による圧迫を抑制するための従来の技術には、種々の改良の余地がある。そこで、本発明は、当該圧迫を抑制するための構成を改善することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
一実施形態に係るベッドパッドは、マットレスの上に置かれるベッドパッドであって、長手方向における第1端部および第2端部を有する長尺な形状のパッド本体と、前記パッド本体の前記長手方向の中心よりも前記第1端部側において、前記パッド本体の裏面に一部が固定されたシート材と、を備えている。さらに、前記長手方向に沿う断面において、前記シート材は前記第1端部側の第1固定端と前記第2端部側の第2固定端とを繋ぐ可動部分を有し、かつ前記第1固定端と前記第2固定端との間の距離よりも前記可動部分の周長の方が大きい。前記シート材は、前記長手方向に沿って延びるとともに前記長手方向と交差する幅方向に並ぶ複数の導電性繊維を含んでいる。
【0015】
前記可動部分の外面は、前記可動部分の内面よりも大きい摩擦係数を有してもよい。また、前記シート材は、環状の滑性シートと、前記滑性シートの外面の少なくとも一部に設けられ、前記滑性シートよりも大きい摩擦係数を有する防滑層と、を含んでもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様に係るベッドパッドによれば、背上げ時に生じる上記圧縮力による圧迫を好適に抑制できる。さらに、当該ベッドパッドの構成であれば、導入性や使用感等の従来の欠点を改善することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、一実施形態に係るベッドパッドの使用態様の一例を示す図である。
図2図2は、背上げされた状態での上記ベッドパッドの概略的な斜視図である。
図3図3は、上面側から見た上記ベッドパッドの概略的な平面図である。
図4図4は、図3におけるIV-IV線に沿う上記ベッドパッドの概略的な断面図である。
図5図5は、上記ベッドパッドが備えるシート材の構成を説明するための概略的な断面図である。
図6図6は、導電性繊維を含む滑性シートの一例を示す概略的な平面図である。
図7図7は、第2防滑層と滑性シートとの接続態様の一例を示す概略的な断面図である。
図8図8は、マットレスに置かれた上記ベッドパッドの概略的な側面図である。
図9図9は、背上げされていない平坦な上記ベッドパッドの一部を概略的に示す側面図である。
図10図10は、背上げ時の上記ベッドパッドの一部を概略的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態に係るベッドパッドにつき、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係るベッドパッド1の使用態様の一例を示す図である。この図の例においては、可動式のベッド装置Bの上にマットレスMが置かれ、その上にベッドパッド1が敷かれている。
【0019】
ベッド装置Bは、例えば矩形枠状のベース2と、ベース2により支持されたベッドフレーム3と、ベッドフレーム3の上に配置された床板体4とを備えている。図1の例においては、ベース2の下方に複数(例えば4つ)のキャスタ2aが設けられている。また、ベッドフレーム3の頭側(図中左側)にヘッドボード3aが配置され、足側(図中右側)にフットボード3bが配置されている。
【0020】
床板体4は、複数の部分に分割されている。図1の例において、床板体4は、背床部41と、腰床部42と、固定床部43と、第1足床部44と、第2足床部45とを含む。これら背床部41、腰床部42、固定床部43、第1足床部44および第2足床部45は、この順でベッド装置Bの頭側から足側に向けて並んでいる。
【0021】
固定床部43は、ベッドフレーム3に固定されている。さらに、背床部41と腰床部42の端部同士が回動可能に連結され、腰床部42と固定床部43の端部同士が回動可能に連結され、固定床部43と第1足床部44の端部同士が回動可能に連結され、第1足床部44と第2足床部45の端部同士が回動可能に連結されている。
【0022】
なお、図1においては、固定床部43、第1足床部44および第2足床部45が水平であり、背床部41および腰床部42が起き上がった状態を示している。背床部41および腰床部42は、他の床部と同様に水平な状態となることも可能である。また、第1足床部44および第2足床部45は、例えばこれらの連結された端部を頂点として山型に起き上がった状態となることも可能である。
【0023】
ベッド装置Bは、駆動装置5と、背上げアーム51と、膝上げアーム52とをさらに備えている。背上げアーム51は、第1駆動軸53によって駆動装置5と連結されている。膝上げアーム52は、第2駆動軸54によって駆動装置5と連結されている。
【0024】
背上げアーム51には、複数の背上げローラ55が取り付けられている。これら背上げローラ55は、背床部41の裏面に設けられたガイドレール56内を転動可能である。
【0025】
膝上げアーム52には、膝上げローラ57が取り付けられている。膝上げローラ57は、第1足床部44の裏面に接触している。
【0026】
駆動装置5は、第1駆動軸53を中心に背上げアーム51を回動させる背上げモータと、第2駆動軸54を中心に膝上げアーム52を回動させる膝上げモータとを備えている。駆動装置5は、ベッドフレーム3をベース2に対して昇降させる昇降モータ等をさらに備えてもよい。
【0027】
背上げアーム51が水平な状態においては、背床部41が鎖線で示すように水平となる。このような水平な状態から背上げアーム51が起立方向に回動すると、背床部41が図1に示すように起き上がる。このとき、背床部41に引かれて腰床部42も起き上がる。本開示においては、背上げアーム51により背床部41が水平な状態から図1に示すように起き上がる動作を「背上げ」と呼ぶ。
【0028】
また、膝上げモータ52が起立方向に回動すると、図1においては水平な第1足床部44および第2足床部45がこれらの連結された端部を頂点として山型に起き上がる。
【0029】
マットレスMは、床板体4の上に置かれている。ベッドパッド1は、マットレスMの上に置かれている。マットレスMはベッドパッド1よりも厚く、例えば各所において床板体4に固定されている。
【0030】
床板体4の各部が水平な状態においては、マットレスMおよびベッドパッド1も水平である。一方、背上げ時には、図1に示すようにマットレスMおよびベッドパッド1が床板体4の変形に応じて湾曲する。背上げに伴いベッドパッド1の上に仰臥位で寝ていた利用者Uの背中が押されるので、利用者Uは容易に座位姿勢をとることができる。
【0031】
なお、本実施形態に係るベッドパッド1が使用される可動式のベッド装置としては、図1に示したベッド装置B以外にも種々の構成のものを想定し得る。例えば、ベッド装置は、背上げ時に足側の床板体の一部が床板体の他の部分の下方に収容されるとともに背床部が足側に移動した座位姿勢に変形可能であってもよい。また、ベッド装置は、座位姿勢における床板体を足側に前傾させる前傾姿勢に変形可能であってもよい。
【0032】
図2は、背上げされた状態でのベッドパッド1の概略的な斜視図である。ベッドパッド1は、長尺なパッド本体6と、シート材7とを備えている。以下の説明においては、図1に示したように利用者がベッドパッド1の上に乗ったときに当該利用者の頭側から足側に向かう方向を長手方向Xと呼び、当該利用者から見た左右方向を幅方向Yと呼ぶ。
【0033】
パッド本体6は、上面6aと、裏面6bと、長手方向Xにおける第1端部6cおよび第2端部6dと、幅方向Yにおける第3端部6eおよび第4端部6fとを有している。第1端部6cは図1に示した使用態様において利用者の頭側となり、第2端部6dは当該使用態様において利用者の足側となる。第1端部6cおよび第2端部6dは短辺であり、第3端部6eおよび第4端部6fは長辺である。
【0034】
図2の例においては、パッド本体6に多数のキルティングラインQLが設けられている。これらキルティングラインQLは、間隔を空けて蛇行しながら幅方向Yに延びている。ただし、これらキルティングラインQLは直線状であってもよいし、互いに交差してもよい。
【0035】
シート材7は、例えば長手方向Xに丸められた環状であり、外面7aと、内面7bと、長手方向Xにおける第1端部7cおよび第2端部7dと、幅方向Yにおける第3端部7eおよび第4端部7fとを有している。第1端部7cは図1に示した使用態様において利用者の頭側となり、第2端部7dは当該使用態様において利用者の足側となる。シート材7の一部は、パッド本体6の裏面6bに固定されている。図2の例においては第3端部7eおよび第4端部7fが開口しているが、この例に限られない。
【0036】
図3は、上面6a側から見たベッドパッド1の概略的な平面図である。図4は、図3におけるIV-IV線に沿うベッドパッド1の概略的な断面図である。これらの図においてはベッドパッド1が平坦に延ばされた状態を示している。また、図3においては上述のキルティングラインQLの図示を省略している。
【0037】
図3に示すように、シート材7は、ベッドパッド1の長手方向Xにおける中心Cよりも第1端部6c側(頭側)の領域に配置されている。このような領域は、例えばベッド装置Bの背床部41および利用者の背面に対応する。シート材7の第3端部7eおよび第4端部7fは、それぞれパッド本体6の第3端部6eおよび第4端部6fの近傍に位置している。一例として、シート材7の幅方向Yにおける長さはパッド本体6の幅方向Yにおける長さの8割以上であり、好ましくは9割以上である。
【0038】
図4に示すように、パッド本体6は、上側地61と、下側地62と、これらの間に配置されたクッション材63と、第1防滑層64とを備えている。上側地61と下側地62は、パッド本体6の周縁やキルティングラインQLにおいて縫い合わされている。
【0039】
第1防滑層64は、下側地62の外面の全体に亘って設けられている。ただし、下側地62の外面において第1防滑層64が設けられていない領域が存在してもよい。図4の例においては、第1防滑層64がパッド本体6の周縁やキルティングラインQLにおいて上側地61および下側地62と縫い合わされている。
【0040】
パッド本体6の上述した上面6aは、上側地61の外面に相当する。また、パッド本体6の上述した下面6bは、第1防滑層64の表面を含む。第1防滑層64は、上側地61および下側地62よりも大きい摩擦係数(例えば長手方向Xにおける静止摩擦係数および動摩擦係数)を有している。そのため、裏面6bは上面6aよりも滑りにくい。
【0041】
図4に示すように、シート材7は、シート材7のベースとなる環状の滑性シート71と、滑性シート71の外面の少なくとも一部に設けられた第2防滑層72とを備えている。例えば、第2防滑層72は、幅方向Yにおいては図3に示した第3端部7eから第4端部7fに亘って延びている。
【0042】
シート材7の上述した外面7aは、第2防滑層72の表面を含む。また、シート材7の上述した内面7bは、滑性シート71の内面に相当する。第2防滑層72は、滑性シート71よりも大きい摩擦係数(例えば長手方向Xにおける静止摩擦係数および動摩擦係数)を有している。したがって、本実施形態においては外面7aが内面7bよりも大きい摩擦係数を有しており、内面7bに比べて滑りにくい。
【0043】
シート材7の一部は、固定部8によってパッド本体6の裏面6bに固定されている。本実施形態における固定部8は、第1縫合ライン81および第2縫合ライン82によって構成されている。
【0044】
図3に示すように、第1縫合ライン81は長手方向Xにおいて第2縫合ライン82と第1端部6cの間に位置し、幅方向Yにおいて第3端部7eから第4端部7fに亘り延びている。また、第2縫合ライン82は長手方向Xにおいて第1縫合ライン81と中心Cの間に位置し、幅方向Yにおいて第3端部7eから第4端部7fに亘り延びている。
【0045】
図4に示すように、第1縫合ライン81および第2縫合ライン82においては、滑性シート71のうち第2防滑層72が設けられていない部分がパッド本体6に縫い合わされている。シート材7のうち第2防滑層72が設けられた部分とその近傍は、パッド本体6に縫い合わされていない。
【0046】
第1縫合ライン81は頭側の第1固定端に相当し、第2縫合ライン82は足側の第2固定端に相当する。第1縫合ライン81と第2縫合ライン82の間においては、シート材7がパッド本体6に固定されていない。ただし、第1縫合ライン81と第2縫合ライン82の間に、シート材7をパッド本体6に固定する他の縫合ラインが介在してもよい。
【0047】
固定部8は、縫合以外の手段でシート材7をパッド本体6に固定するものであってもよい。例えば、パッド本体6の裏面6bおよびシート材7の外面7aにそれぞれ設けられた面ファスナー等の係合手段により固定部8を構成することもできる。この場合においては、係合手段の頭側の端が第1固定端に相当し、足側の端が第2固定端に相当する。
【0048】
図5は、シート材7のより具体的な構成を説明するための概略的な断面図である。シート材7は、第1縫合ライン81と第2縫合ライン82の間の固定部分P1を有している。固定部分P1は、パッド本体6に対する位置関係が固定された部分であり、滑性シート71によって構成される。
【0049】
さらに、シート材7は、第1縫合ライン81と第2縫合ライン82とを繋ぐ可動部分P2を有している。本実施形態において、可動部分P2は、環状のシート材7から固定部分P1を除いた部分に相当する。
【0050】
図示したように長手方向Xに沿う断面において、第1縫合ライン81と第2縫合ライン82の間の距離はL1である。距離L1は、固定部分P1の長手方向Xにおける長さに相当する。一方、当該断面における可動部分P2の周長は、距離L1よりも大きいL2である(L1<L2)。
【0051】
例えば、周長L2は距離L1の2倍以上、好ましくは3倍以上である。また、周長L2は、図4に示したベッドパッド1の中心Cから第1端部6cまでの距離よりも大きい。このような距離L1と周長L2の条件下では、図5に示すようにシート材7が扁平に潰れた状態において、可動部分P2が厚さ方向に重なった一対の折り返し部T1,T2が固定部分P1の頭側と足側に形成される。
【0052】
なお、図5の例では長手方向Xにおける折り返し部T1,T2の長さが同じであるが、シート材7は折り返し部T1,T2の長さが異なるように扁平に潰れる場合もある。また、シート材7は皺を有した状態で潰れることもある。
【0053】
本実施形態において、パッド本体6の上側地61および下側地62としては、例えば少なくとも第1防滑層64よりも吸汗性や肌触りに優れた天竺ニット等の素材を用いることができる。
【0054】
クッション材63としては、例えば繊維がパッド本体6の厚さ方向に並んだ帝人フロンティア株式会社製のV-Lap(登録商標)等の素材を用いることができる。このような素材には腰があり、通気性と体圧分散性に優れ、屈曲に対しても柔軟性を持つ。したがって、背上げ時にパッド本体6が曲がっても腰折れしにくく、皺にもなりにくい。仮に従来の一般的な製綿機で製造されるクッション材では、このような腰折れや皺が生じ、背上げ時にパッド本体6が曲がった際に上方向に伸長しにくい。
【0055】
滑性シート71としては、例えば第1防滑層64および第2防滑層72よりも長手方向Xにおける摩擦係数が小さい各種の生地を用いることができる。また、第1防滑層64および第2防滑層72としては、ポリウレタン繊維を含む東レ株式会社製のミルコット(登録商標)等の防滑性に優れた生地を用いることができる。なお、ポリウレタン繊維は防滑性に加えて伸縮性を有している。第1防滑層64および第2防滑層72に伸縮性が求められない場合には、伸縮し難いくさり編により防滑層64,72を作成してもよい。
【0056】
詳しくは後述するが、背上げ時にはシート材7の内面7b、すなわち滑性シート71同士が擦れる。このとき生じ得る静電気を抑制するために、滑性シート71に導電性繊維を含ませてもよい。このような滑性シート71としては、例えば帝国繊維株式会社製のエレクティ(登録商標)を用いることができる。
【0057】
図6は、導電性繊維を含む滑性シート71の一例を示す平面図である。この図の例においては、複数の導電性繊維73が長手方向Xに延びている。これら導電性繊維73は、幅方向Yにおいて一定の間隔を空けて並んでいる。隣り合う導電性繊維73の間隔は、例えば5mmである。
【0058】
このような構成であれば、滑性シート71が擦れた際に生じる静電気を放電し、滑性シート71等が帯電することを抑制できる。また、滑性シート71は主に長手方向Xに擦れるので、導電性繊維73が長手方向Xに延びていれば摩擦抵抗にもなりにくい。
【0059】
図7は、布地である第2防滑層72と滑性シート71との接続態様の一例を示す断面図である。この図においては、シート材7の第2端部7d近傍の断面を示している。
【0060】
図7の例においては、滑性シート71が第1シート74と第2シート75に分割されている。第1シート74は、固定部8によりパッド本体6に固定される部分である。布材である第2防滑層72は、第2シート75の外面に重ねられている。
【0061】
第1シート74および第2シート75の端部近傍は、U字状に折り返されている。第1シート74の折り返された部分の内側に、第2シート75の端部が入れられている。また、第2シート75の折り返された部分の内側に、第1シート74の端部と第2防滑層72の端部が入れられている。
【0062】
このような状態で、例えば2本の縫合ライン76に沿って第1シート74、第2シート75および第2防滑層72の端部を縫い合わせる。これにより、第1シート74、第2シート75および第2防滑層72が強固に接続される。
【0063】
第1端部7c近傍にも同様の構成を適用できる。このような接続態様においては、第2シート75の外面全体が第2防滑層72で覆われる。
【0064】
続いて、本実施形態に係るベッドパッド1の作用について説明する。
図8は、マットレスMに置かれたベッドパッド1の概略的な側面図である。この図においては、マットレスMおよびベッドパッド1が平坦な状態と、図1に示したベッド装置Bのような可動式のベッド装置の背上げにより屈曲した状態とを示している。
【0065】
ベッドパッド1がマットレスMに置かれると、パッド本体6の裏面6bとシート材7がマットレスMの上面に接触する。このとき、シート材7はマットレスMとパッド本体6に挟まれて扁平に潰れる。
【0066】
背上げによりマットレスMおよびベッドパッド1が屈曲すると、この屈曲の内側となるマットレスMの上面側においては矢印で示すような圧縮力Sが発生する。仮にこのような圧縮力Sがベッドパッド1を介して仰臥位の利用者に加わると、当該利用者の背中が下方へと押され、特に腹部近傍が圧迫され得る。これに対し、本実施形態に係るベッドパッド1はシート材7を有しているために、以下に説明するように利用者への圧縮力Sの影響を抑制できる。
【0067】
図9は、背上げされていない平坦なベッドパッド1の一部を概略的に示す側面図である。図10は、背上げ時のベッドパッド1の一部を概略的に示す側面図である。実際には、ベッドパッド1がマットレスMに置かれるとシート材7が潰れて内面7b同士が接触するが、これらの図においては説明の便宜のために内面7bを離して描いている。
【0068】
例えば図9に示すように、背上げ前には折り返し部T1,T2が同程度の長さとなるようにベッドパッド1が配置される。この状態で背上げされると、上述のマットレスMの圧縮力Sがベッドパッド1に作用する。
【0069】
ここで、マットレスMにはパッド本体6の裏面6bとシート材7の外面7aが接触している。裏面6bには上述の第1防滑層64が設けられ、外面7aには上述の第2防滑層72が設けられている。したがって、裏面6bおよび外面7aはいずれもマットレスMに対して滑り難い。図10に示す背上げ時には、主に外面7aが圧縮力Sの矢印が示す方向に押される。
【0070】
一方、シート材7の内面7bは上述の滑性シート71により構成されるため、外面7aよりも摩擦係数が小さい。そのため、圧縮力Sによりシート材7の内面7bがスライドして、可動部分P2が円弧状の矢印Rで示すように送られる。これに伴い、折り返し部T1が徐々に小さくなり、反対に折り返し部T2が徐々に大きくなる。
【0071】
このような背上げ時のシート材7の動きにより、ベッドパッド1は、図8に示したようにパッド本体6の第1端部6cがマットレスMの頭側の端部から突出する方向にスライドする。すなわち、パッド本体6への圧縮力Sの影響が抑制されるために、背上げ時の利用者の負担を軽減することが可能である。
【0072】
しかも、本実施形態のようにベッドパッド1の構成によって圧縮力Sに起因した利用者の負担を軽減する効果を得る場合、マットレスMとしては特段の工夫がない一般的なものを用いることができる。一般的にマットレスMはベッドパッドに比べて高価であるため、仮にマットレスMに圧縮力Sを軽減するための構成を設ける場合に比べて本実施形態の対策は導入が容易である。ただし、マットレスMを互いの境界で滑性を発揮する複数の層で構成するなどの工夫を施して、ベッドパッド1との相乗効果で背上げ時の負担をさらに軽減することも可能である。
【0073】
また、シート材7はベッドパッド1の裏面側に配置されており、ベッドパッド1上の利用者には接触しない。さらには、パッド本体6の上面6aには特殊な素材を用いる必要がないので、従来通りの吸汗性や肌触りに優れた素材を用いることができる。これらにより、ベッドパッド1の寝心地等の使用感は害されない。
【0074】
なお、本実施形態は、本発明の範囲を当該実施形態にて開示した構成に限定するものではない。本発明は、本実施形態にて開示した構成を種々の態様に変形して実施することができる。
【0075】
例えば、シート材7が固定部分P1を有さずに、可動部分P2の両端部が頭側の第1固定端と足側の第2固定端でパッド本体6の裏面6bに接続されてもよい。この場合においては、第1固定端と第2固定端の間で裏面6bが露出し、この露出した部分が可動部分P2の内面と擦れる。そこで、当該露出した部分に第1防滑層64を設けないようにして、当該部分と可動部分P2の内面との滑性を高めてもよい。
【0076】
第1防滑層64は、下側地62の表面に形成された樹脂層などの布地以外の要素であってもよい。同様に、第2防滑層72は、滑性シート71の外面に形成された樹脂層などの布地以外の要素であってもよい。
【符号の説明】
【0077】
1…ベッドパッド、6…パッド本体、7…シート材、8…固定部、61…上側地、62…下側地、63…クッション材、64…第1防滑層、71…滑性シート、72…第2防滑層、73…導電性繊維、74…第1シート、75…第2シート、81…第1縫合ライン(第1固定端)、82…第2縫合ライン(第2固定端)、B…ベッド装置、M…マットレス、P1…固定部分、P2…可動部分。
図1
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