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特許7203832加工物の垂直相互接続アクセスまたは溝にニッケルもしくはニッケル合金を充填するための浴および方法
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  • 特許-加工物の垂直相互接続アクセスまたは溝にニッケルもしくはニッケル合金を充填するための浴および方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】加工物の垂直相互接続アクセスまたは溝にニッケルもしくはニッケル合金を充填するための浴および方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/12 20060101AFI20230105BHJP
   C25D 3/56 20060101ALI20230105BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20230105BHJP
   C25D 7/12 20060101ALI20230105BHJP
【FI】
C25D3/12
C25D3/56 B
C25D7/00 J
C25D7/12
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020514909
(86)(22)【出願日】2018-09-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-19
(86)【国際出願番号】 EP2018074730
(87)【国際公開番号】W WO2019053120
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-08-26
(31)【優先権主張番号】17190805.6
(32)【優先日】2017-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】300081877
【氏名又は名称】アトテック ドイチュラント ゲー・エム・ベー・ハー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Atotech Deutschland GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Erasmusstrasse 20, D-10553 Berlin, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヨーゼフ ガイダ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン シュペアリング
(72)【発明者】
【氏名】マウロ カステッラーニ
(72)【発明者】
【氏名】グリゴリー ヴァジェニン
(72)【発明者】
【氏名】シュテファニー アッカーマン
(72)【発明者】
【氏名】ハイコ ブルナー
(72)【発明者】
【氏名】ディアク ローデ
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03592943(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0188805(US,A1)
【文献】特開2006-002246(JP,A)
【文献】特表2011-520036(JP,A)
【文献】特表平05-506695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00-3/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
-ニッケルイオンの供給源、および任意選択により少なくとも1種の合金金属イオンの供給源、
-少なくとも1種の緩衝剤、
-式(I)
【化1】
式(I)
[式中、
は、-(CH -CH=CH 基であり、mは0~4の範囲の整数であり、R は、-(CH -SO 基であり、nは1~4の範囲の整数である]の化合物の少なくとも1種のダイマーまたはそれらの混合物
を含み、前記ダイマーが、式(II)
【化2】
式(II)
の化合物である、水浴。
【請求項2】
式(I)の化合物が、式(III)
【化3】
式(III)
の化合物である、請求項1に記載の水浴。
【請求項3】
式(III)の化合物のダイマーが、式(IV)
【化4】
式(IV)
の化合物である、請求項2に記載の水浴。
【請求項4】
前記少なくとも1種のダイマーの全濃度が、1~10000mg/Lである、請求項1からまでのいずれか1項記載の水浴。
【請求項5】
前記合金金属が、コバルトもしくは鉄またはそれらの組み合わせから選択される、請求項1からまでのいずれか1項記載の水浴。
【請求項6】
加工物にニッケルまたはニッケル合金を付着させる方法、特に加工物の垂直相互接続アクセスまたは溝にニッケルもしくはニッケル合金を充填する方法であって、
a)加工物、好ましくは少なくとも1つの垂直相互接続アクセスおよび/または少なくとも1つの溝をもつ加工物、および少なくとも1つのアノードを、請求項1からまでのいずれか1項記載の水浴と接触させること、
b)前記加工物と前記少なくとも1つのアノードとの間に電流を流して、前記加工物に、好ましくは前記垂直相互接続アクセスまたは前記溝に、ニッケルまたはニッケル合金を付着させること
を含む、方法。
【請求項7】
前記加工物が、くぼみまたはくぼみ構造を備え、電子機器の製造において加工される、請求項6に記載の加工物にニッケルおよびニッケル合金を付着させるための方法。
【請求項8】
電着プロセスにおいて加工物の垂直相互接続アクセス(ビア)または溝にニッケルもしくはニッケル合金を充填するための、請求項1からまでのいずれか1項記載の水浴の使用。
【請求項9】
電子機器の製造において前記加工物を加工するための、請求項8に記載の水浴の使用。
【請求項10】
式(II)
【化5】
式(II)
[式中、Rが、-(CH-SO 基であり、nは1~6の範囲の整数であ
の化合物。
【請求項11】
式(IV)
【化6】
式(IV)
の化合物である、請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
加工物にニッケルまたはニッケル合金を付着させる水浴を調製するための、またはそのような浴の構成要素もしくは添加剤としての、請求項10または11に記載の化合物の使用。
【請求項13】
電子機器の製造において前記加工物を加工するための、請求項12に記載の化合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルまたはニッケル合金の電着のための水浴、加工物の垂直相互接続アクセスまたは溝にニッケルもしくはニッケル合金を充填する方法、電着プロセスにおいて加工物の垂直相互接続アクセスまたは溝にニッケルもしくはニッケル合金を充填するための水浴の使用、ならびに該浴、該方法、および該使用に有用な化合物に関する。
【0002】
発明の背景
溝、ブラインドマイクロビア(BMV)、またはスルーホールビア(ビア=垂直相互接続アクセス)などの構造におけるニッケルの均一な金属付着は、多くの場合困難である。これらの構造は、その幾何学的配置および展開により、多様な電着の挙動を示す。特に、この種類の極小の構造では、付着箇所へ向けての金属イオンおよび添加剤の拡散の影響は重大である。ニッケルを均一に充填することは、複雑な導体構造の開発の必要条件である。不十分または不均一な充填により、構造が使い物にならず、結果的にプリント回路基板またはチップ担体そのものが不合格品となることも多い。空隙なくビアに充填することは、電気的相互接続にとって信頼性の理由から必須である。また、これらの構造では、亜相似または相似付着により空隙が生じることも多い。亜相似充填とは、金属がビアの底部および側壁に付着する場合に、壁の付着物がビアの底部から上部に向けて厚さを増すことを意味し、したがって充填中に完全に充填されず空隙が形成された状態でビアの上部が閉じてしまう。相似付着とは、ビアの全表面、つまり底部および側壁の付着物が等しい厚さになることを意味する。これによって、空隙がビアの中心に延在し、ビア上部まで貫く結果となることが多い。
【0003】
米国特許出願公開第20090188805号明細書は、基体の三次元パターン内に少なくとも1種の強磁性体材料を電着させるプロセスを記述している。このプロセスは、少なくとも1つの外表面に三次元のくぼみパターンを有する基材、誘電体、または導体を設けることを含み、誘電性基材は少なくとも該三次元パターン内に導電性シード層も有している。少なくとも1種の強磁性体材料および少なくとも1種の促進、阻害、または減極添加剤を含む、電解浴を調製する。少なくとも1つの強磁性体材料は、Ni2+、Co2+、Fe2+、Fe3+、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の金属陽イオンを含む。基体を電解浴に入れ、そして電解浴が基体の導電三次元パターンと、または誘電性基体のパターン内の導電シード層と接触する。電解浴に対極を入れる。電解浴中で、導電性基体または三次元基体のシード層と対極との間に電流を流す。強磁性体材料の少なくとも一部が三次元パターン内の少なくとも一部に付着し、付着した少なくとも1種の強磁性体材料には実質的に空隙がない。
【0004】
発明の目的
本発明の目的は、加工物の垂直相互接続アクセスまたは溝にニッケルもしくはニッケル合金を充填する方法を提供することであり、該充填は、特に垂直相互接続アクセスにおいて、空隙がないか実質的に空隙がない。
【0005】
発明の概要
この目的は、加工物の垂直相互接続アクセス(略して「ビア」ともいう)、たとえばブラインドビア、好ましくはブラインドマイクロビア、またはスルーホールビア、または溝に、ニッケルまたはニッケル合金を充填するのに特に適した水浴により解決され、該浴は、
-ニッケルイオンの供給源、および任意選択により少なくとも1種の合金金属イオンの供給源、
-少なくとも1種の緩衝剤、
-式(I)
【化1】
式(I)
[式中、
は、置換または非置換アルケニル基であり、
は、存在してもしなくてもよく、したがって窒素は正電荷であってもなくてもよく、Rは、存在する場合は、-(CH-SO 基であり、nは1~6の範囲の整数であり、-(CH-SO 基の1つまたは複数の水素は置換基、好ましくは水酸化物で置き換えられていてもよい]の化合物の少なくとも1種のダイマーまたはそれらの混合物
を含む。
【0006】
は、環の2位、3位、または4位、好ましくは2位または3位、より好ましくは2位に存在することができる。
【0007】
好ましいRは、ビニルである。
【0008】
-(CH-SO 基の炭素鎖が1つまたは複数の置換基、好ましくは水酸化物を有する場合、-CH-部分の1つまたは2つの水素が該置換基で置き換えられている。
【0009】
本発明の目的はまた、加工物にニッケルまたはニッケル合金を付着させる、特に加工物の垂直相互接続アクセスまたは溝にニッケルもしくはニッケル合金を充填する方法により解決され、該方法は、
a)加工物、好ましくは少なくとも1つの垂直相互接続アクセスおよび/または少なくとも1つの溝をもつ加工物、および少なくとも1つのアノードを、前述の水浴、または特定の実施形態でさらに記述する水浴と、接触させること、
b)加工物と少なくとも1つのアノードとの間に電流を流して、加工物、好ましくは垂直相互接続アクセスまたは溝に、ニッケルまたはニッケル合金を付着させること
を含む。
【0010】
本発明の目的はまた、電着プロセスにおいて加工物の垂直相互接続アクセス、好ましくはブラインドマイクロビア、または溝に、ニッケルまたはニッケル合金を充填するための上記で定義した水浴の使用により、解決される。
【0011】
本発明は、たとえばブリッジまたはインターポーザーによる多数のダイ-ダイ接続を有するプリント回路基板(PCB)などの電子機器の製造における加工物の加工に特に適している。
【0012】
一実施形態では、使用される加工物は、くぼみまたはくぼみ構造を備えており、たとえば少なくとも1つの垂直相互接続アクセスおよび/または少なくとも1つの溝を有する。くぼみまたはくぼみ構造は、本発明にしたがいニッケルを充填されると、導電性金属回路の基礎、たとえば導電性金属線または貫通接続部を形成する。ビア、好ましくはスルーシリコンビア(TSV)は、好ましくはアスペクト比(幅または直径:深さ)が少なくとも1:3、より好ましくは1:6であり、最も好ましくは1:10よりも高い。いくつかの実施形態では、ビアは、たとえば10x30μm、10x60μm、または10x100μmのμm寸法を有し、溝は、たとえば幅20~2μm、深さ20~2μm、それらの比20x20μm~2x2μmのμm寸法を有する。本発明は、好ましくは、これらのビアおよび/または溝に空隙なくニッケルを充填するのに適している。
【0013】
別の実施形態では、本発明は、ビアを充填することによりニッケル柱を堆積させるのに適しており、そのような柱はパターンまたはパネルのめっきプロセス中に形成される。
【0014】
くぼみまたはくぼみ構造は、シード層またはスパッタ金属層として1つまたは複数の第1の導電性金属層を備えており、これらは当業者には公知の方法により設けられる。
【0015】
加工物はまた、銅またはニッケル層または構造として既製の導電性層または微細回路線としての導電性構造を備える場合もある。これらの導電性層または導電性構造は、本発明にしたがいニッケルを充填することにより、くぼみまたはくぼみ構造と接続することができる。
【0016】
本発明はまた、式(II)
【化2】
式(II)
[式中、Rは、-(CH-SO 基であり、nは1~6、好ましくは2~4の範囲の整数であり、-(CH-SO 基の1つまたは複数の水素は置換基で置き換えられていてもよい]の化合物に関する。
【0017】
本発明の方法または本発明の水浴により、好ましくは最大1:10という高いアスペクト比(幅または直径:深さ)をもつビア(垂直相互接続アクセス)であっても、ビアまたは溝に、ニッケルまたはニッケル合金を空隙なくまたは実質的に空隙なく付着させることができることが示された。
【0018】
本発明の方法および浴は、ウエハおよびプリント回路基板から選択される加工物にニッケルおよびニッケル合金を電着させるのに特に適している。
【0019】
驚くべきことに、式(I)の化合物のダイマーまたはそれらの混合物は、ニッケル電着プロセス、すなわちニッケルの電着において、ビアまたは溝に充填する添加剤および/または均展剤として使用できることが見出された。
【0020】
本発明の方法または本発明の水浴では、ブラインドビア(ビア=垂直相互接続アクセス)をボトムアップ式に、つまり超相似充填することができ、したがって空隙は生じないか最小限となる。ボトムアップ式の充填とは、ブラインドビアが底部から上部へと充填されることを意味する。超相似充填とは、金属をビアの底部および側壁に付着させる場合に、壁の付着物の厚さがビアの底部から上部に向けて減少することを意味し、したがって充填中はV字型の中間構造が形成される。さらに、本発明の方法または本発明の水浴では、ニッケルまたはニッケル合金を非常に速く付着させることができる。
【0021】
発明の詳細な説明
このセクションでは、本発明の詳細および特定の実施形態について記述する。
【0022】
ニッケル合金には一般に、ニッケルを含有する合金が含まれ、したがって50重量%未満がニッケルである合金も含まれる。ニッケル合金は、20重量%以上のニッケルを含む場合がある。別の実施形態では、ニッケル合金は、50重量%以上のニッケルを含む場合もある。有益なニッケル合金は、たとえば高透磁率のPermalloy(80%Ni、20%Fe)、低熱膨張率のInvar(64%Fe、36%Ni)、ガラスに匹敵する熱膨張率を有するKovar(54%Fe、29%Ni、17%Co)である。Permalloyのような柔らかい磁性合金は、Niを36%しか含有しないものもある。本明細書でニッケルという用語を使用する場合、特に断らなければ、ニッケル合金も含まれる。
【0023】
本発明の目的では、「アルケニル」という用語は、炭素骨格を有する、一価の直鎖状または分枝状不飽和炭化水素部分を意味し、アルケニル部分にはそのすべての可能な異性体が含まれる。一つの具体的なアルケニル基は、ω-アルケニル基、すなわちピリジン環から数えて基の最後の炭素と最後から2つめの炭素原子との間に二重結合を有するアルケニル基である(すなわち、1つめの炭素原子は、ピリジン環に結合している炭素原子である)。
【0024】
「均展剤」という用語は、以下を意味する:本発明の水系酸浴および本発明の方法を用いると、充填すべき構造、たとえばくぼみおよび凹み、特に溝およびビアに、ニッケルを非常に均一に付着させることが可能である。特に、くぼみおよび凹みに完全に充填すること、凹み/くぼみへのニッケルの付着と比べて表面への付着を減じること、および空隙またはディンプルをすべて回避するか少なくとも最小限化することが可能である。こうして、事実上変形のない、極めて滑らかで平坦なニッケル表面が形成することが保証される。たとえば、ブラインドマイクロビア(BMVと略す)の領域にディンプルなどはまず見当たらず、導体構造の断面は理想的または概ね理想的な長方形をなしている。
【0025】
ニッケルイオンの供給源は、ニッケル塩、たとえばニッケルのスルファミン酸塩、硫酸塩、塩化物、フルオロホウ酸塩、またはそれらの組み合わせであってもよい。
【0026】
少なくとも1種の合金金属イオンの供給源は、好ましくはそのような金属の塩である。一実施形態では、合金金属は、コバルトもしくは鉄またはそれらの組み合わせから選択される。
【0027】
式中の略記または変数(たとえばRおよびR)は、水浴、方法、化合物そのものの使用のいずれの記述であろうと、(特に断らないかぎり)本発明では同じ意味をもつか、もつ場合がある。したがって、略記または変数の特定の意味または好ましい実施形態は、特定の文脈内で繰り返されなくても、本発明全体に適用され得る。
【0028】
式(I)でRおよび正電荷を囲む括弧は、Rおよび正電荷が存在してもしなくてもよいことを意味する。Rが存在しない場合、正電荷も存在しない。
【0029】
本発明の一実施形態では、式(I)のRは-(CH-CH=CH基であり、mは0~4、好ましくは0~2の範囲の整数であり(m=0の場合、Rはビニル基である)、Rは、存在する場合は、-(CH-SO 基であり、nは1~4、好ましくは1~3の範囲の整数である。
【0030】
ダイマー:
ここからは、式(I)の化合物の具体的なダイマーについて記述する。
【0031】
一実施形態では、式(I)の化合物の該ダイマーは、式(II)
【化3】
式(II)
の化合物である。
【0032】
一実施形態では、式(I)の化合物の該ダイマーは、式(VII)
【化4】
式(VII)
の化合物である。
【0033】
上記の式(II)および(VII)のダイマーは、Rが2位のビニルである式(I)の化合物を用いて、得ることができる。式(II)および(VII)のダイマーは、Rが特定の意味をもつダイマーに関して以下にさらに記述する反応により、形成することができる。
【0034】
より具体的な実施形態では、式(I)の化合物は、式(III)
【化5】
式(III)
の化合物であり、1-(3-スルホプロピル)-2-ビニルピリジニウムとも呼ばれる。
【0035】
式(III)の化合物は、たとえばCAS 6613-64-5の1-(3-スルホプロピル)-2-ビニルピリジニウムベタインとして入手可能である。
【0036】
本発明では、式(III)の化合物は、ダイマーの状態であるか、ダイマーにすることができる。
【0037】
一実施形態では、式(III)の化合物のダイマーは、式(IV)
【化6】
式(IV)
の化合物である。
【0038】
理論に縛られるわけではないが、式(IV)の化合物は、式(I)の化合物2つ、好ましくは式(III)の化合物2つから出発して、ホモ・ディールス・アルダー反応により形成することができるが、本発明はそれに限定されない:
【化7】
式(III) 式(III) 式(IV)
別の実施形態では、式(III)の化合物のダイマーは、式(VIII)
【化8】
式(VIII)
の化合物である。
【0039】
理論に縛られるわけではないが、式(VIII)の化合物も、式(I)の化合物2つ、好ましくは式(III)の化合物2つから出発して、ホモ・ディールス・アルダー反応により形成することができるが、本発明はそれに限定されない。上記の反応機構と比べて、式(III)の2つの化合物の相対的な向きは、環付加において異なっている:
【化9】
式(III) 式(III)
式(VII)の化合物の形成でも、類似の機構を想定することができる。最後の再構成ステップにより、ダイマー化は不可逆的であると想定される。ラセミ混合体が形成すると想定される。
【0040】
一実施形態では、浴における少なくとも1種のダイマーまたはそれらの混合物の全濃度は、1~10000mg/L、好ましくは10~10000mg/L、または50~10000mg/L、または80~10000mg/L、より好ましくは80~1500mg/L、さらにより好ましくは100~1500mg/L、または100~1000mg/Lである。浴はさらに、上述の濃度で使用されるダイマーまたはダイマー混合物の全量に対し0~20重量%、好ましくは0~10重量%、より好ましくは0~5重量%、さらにより好ましくは0重量%の式(I)の化合物(ダイマーではない)を含む場合がある。
【0041】
1種または複数種のダイマーのどのような混合物を使用してもよい。
【0042】
これに関して、「少なくとも1種(1つ)の」という用語は、分子数ではなく、化学構造に関する。したがって、たとえば2種のダイマーを用いる場合、それは異なる化学構造のダイマーを意味する。
【0043】
「緩衝剤」という用語は、別の酸または塩基を添加した後に水浴の酸性度(pH)を選択値付近に維持するのに用いられる、弱酸または弱塩基を意味する。緩衝剤は、水浴中で、弱酸と与えられている塩基との組成物を形成し得る。好適な緩衝剤の非限定例は、あるいはその主成分は、ホウ酸、リン酸、クエン酸、酢酸バッファーである。緩衝剤は、好ましくは、浴を酸性pHにするような緩衝剤である。したがって、浴は好ましくは酸性浴である。
【0044】
ここからは、浴に添加することができるさらなる任意選択の成分を開示する。
【0045】
特に本方法で可溶性アノードを用いる場合、塩化物イオンが添加され得る。任意の好適なニッケル塩であり得る上述のニッケルイオンの供給源に加えて、本方法で可溶性アノードを用いる場合は、塩化ニッケルを添加することができる。この場合、塩化ニッケルは、可溶性アノードの活性化のために用いられる。塩化ニッケルはまた、ニッケルイオンの供給源に寄与することもでき、すなわち塩化ニッケル由来のニッケルも加工物に付着させることができる。
【0046】
浴は、光沢剤(brightenerともbrightening agentとも呼ばれる)を含む場合がある。「光沢剤」という用語は、ニッケル付着プロセス中に光沢作用を及ぼす物質を指し、特に光沢のある付着物を与える光沢剤を意味し、それは硫黄を含有することで微小構造に影響を与えるためであり得る(理論に縛られるわけではない)。光沢剤という用語はまた、付着表面に平滑作用を及ぼす物質を指すこともある。好適な光沢剤の例は、サッカリンである。上記の式(II)の化合物は、光沢剤の機能も有する。したがって、式(II)の化合物以外の追加の光沢剤を「さらなる光沢剤」と呼ぶこともある。
【0047】
光沢剤は、応力低下剤(stress reducerともstress reducing agentとも呼ばれる)の機能を果たす場合もある。「応力低下剤」という用語は、ニッケルが付着した別々の層の間の、またはニッケル層と加工物表面との間の応力を低下させる物質を指す。特に、サッカリンは応力低下剤の機能も果たし得る。
【0048】
浴は、浸潤剤を含む場合がある。「浸潤剤」という用語は、水浴の表面張力を低下させて、加工物表面が浴でよく濡れるようにする物質を指す。したがって、加工物表面が浴と接触したときによく濡れることにより、加工物表面の気泡が回避または最小限化される。好適な浸潤剤の非限定例は、陽イオン性(たとえばセチルトリメチルアンモニウムブロミド)、陰イオン性(たとえば脂肪族スルホネート)、および非イオン性(たとえばポリエチレングリコール)界面活性剤である。
【0049】
ここからは、浴の有用な成分量を開示する。成分と範囲とをどのように組み合わせてもよいことを理解されたい。
a)ニッケルイオン、特にニッケル塩の供給源:
1~160g/L、好ましくは50~120g/L
b)少なくとも1種の合金金属イオン、特に金属塩、好ましくはCo塩またはFe塩の供給源:
最大で50g/L、好ましくは1~50g/L
c)緩衝剤:
1~40g/L、好ましくは10~40g/L
d)式(I)の化合物のダイマーおよびそれらの混合物:
1~10000mg/L、好ましくは100~1000mg/L
e)光沢剤、応力低下剤:
試験では0~50g/L、好ましくは0~10g/L
f)塩化物(可溶性アノードの活性化のため):
0~80g/L、好ましくは2~10g/L
g)浸潤剤:
0~20g/L、好ましくは0~1g/L。
【0050】
ここからは、限定ではないが、本発明のプロセスで用いることができるプロセスパラメーターを開示する。
【0051】
本発明の方法は、定電流式、定電位式、ステップ式、パルス式、または逆パルス式電着方法として実施することができる。したがって、付着は、定電流式、定電位式、ステップ式、パルス式、または逆パルス式などのさまざまな様式で実施することができる。好ましい方法は、限定ではないが、1つまたはいくつかの電流ステップを有する定電流式の付着である。
A)浴温度:
20~80℃、好ましくは40~60℃
B)pH:
1~6、好ましくは3~5
C)電流密度:
0.1~100ASD(平方デシメートル当たりのアンペア)、好ましくは0.1~50ASD、またはより好ましくは0.5~25ASD。これらの範囲は限定ではない。充填の最適な電流密度を大きく左右するのは、浴の構成成分の濃度、加工物のサイズおよびアスペクト比である。
D)撹拌速度(撹拌は任意選択):
0~3000rpm。撹拌速度は、方法の装置のレイアウトによって異なり、また、有効な拡散層の厚さが得られるように設定される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】モノマーおよびダイマーのUV-Visスペクトルである。
図2】反応混合物のIRスペクトルである。
図3】反応混合物の1H-NMRスペクトルである。
図4】反応混合物の13C-NMRスペクトルである。
図5】反応混合物の二次元NMRスペクトルである。
図6】反応混合物のLC/HPLC-NMRスペクトルである。
図7】式(III)の化合物を含むNi浴および式(IV)のダイマーを含むNi浴による、マイクロビア(垂直相互接続アクセス)の充填の図である。
【0053】
実施例
次に、以下の非限定的実施例を参照して、本発明を説明する。
【0054】
実施例1 式(IV)の化合物のダイマーの合成
式(III)の化合物60gを水40gに添加し、96時間加熱還流した。淡褐色の溶液が形成された。溶媒を除去し、60gのダイマーを得た。
【0055】
産物の特性決定は、UV-Vis、IR分光法、1H-NMR、13C-NMR、二次元NMR(2D-NMR)、および液体クロマトグラフィー(LC)/HPLCにより行った。結果を以下に示す。
【0056】
UV-Vis(LC-UV):
反応終了時の結果を図1に示す。UV-Visは、芳香族π系のサイズに敏感である。ダイマー化中にビニル基が飽和することで、最高吸光度289nm~270nmのブルーシフトが得られる。これを電子構造計算により定量的に確認した。しかし、より小さいπ系の他種の形成もブルーシフトをもたらし得るため、さらなる特性決定法を用いた。
【0057】
IR:
反応終了時の結果を図2に示す。図2からわかるように、この方法は、950cm-1あたりのビニル基の振動モードに敏感である。これを電子構造計算により確認した。この方法は、反応の進行をモニターするのに用いることができる。この方法は、ダイマーの形成だけでなく、モノマーの消費を定量化するので、さらなる特性決定法を用いた。
【0058】
1H-NMR:
反応終了時の結果を図3に示す。結果は、ビニル基の消失を裏付けている。結果はさらに、芳香族プロトンと脂肪族プロトンのバランスに基づき2+2の環付加ではなく4+2の環付加を裏付けている。この方法は2つの4+2異性体を区別するほど具体的ではないので、さらなる方法を用いた。
【0059】
13C-NMR:
反応終了時の結果を図4に示す。スペクトルをモデル化することで、一次構造の同定が可能になり、式(IV)の化合物(「ダイマー1」と呼ぶ)が形成したことがわかる。「ダイマー2」は式(VIII)の化合物である。
【0060】
2D-NMR
反応終了時の結果を図5に示す。結果から、式(IV)の化合物(「ダイマー1」と呼ぶ)が形成したことがわかる。
【0061】
LC/HPLC:
反応終了時の結果を図6に示す。結果から、モノマーとダイマーの分離が可能であることがわかる。LC-UVでは、2種の物質(前記参照)それぞれのピークのUVスペクトルが確認される。LC-MSでは、ダイマーに相当するM/z=455のピークが確認される。この方法では質的観察だけが可能であり、定量化はできない。それは、PPS基準(PPS=SPV-ビニル)で観察されるように、一部のダイマーが気相でイオン性複合体として形成した可能性があり、これらは環付加による化学種ダイマーを形成することができないからである。
【0062】
実施例2(比較例):式(III)の化合物を含むNi浴
-10x30μmのビアを有するTSV基体、
-2ASD(平方デシメートル当たりのアンペア)、
-10分
-50℃
-100rpmで撹拌
-ホウ酸を30g/lまで減じ、式(III)の化合物を含む、標準Spherolyte Ni VMS浴(70g/L Ni、5g/L 塩化物)。式(III)の化合物の量は115mg/L~920mg/L。
【0063】
結果を図7の一列目の画像に示す。
【0064】
実施例3(本発明):式(IV)の化合物のダイマーを含むNi浴
実施例2と同じ浴および条件を用いたが、実施例1で得られた式(IV)の化合物を主添加剤として用いた。式(III)の化合物も多少存在していた((IV)全量に対し約10重量%)。
【0065】
結果を図7の二列目(下)の画像に示す。実施例2に比べて、充填構造に空隙が少ないことがわかる。さらに、実施例2に比べて、より早い付着および充填が観察された。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4
図5
図6
図7