IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ クルツァー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

特許7203836歯科コンポジット材料および該コンポジット材料の切削ブランク
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】歯科コンポジット材料および該コンポジット材料の切削ブランク
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/887 20200101AFI20230105BHJP
   A61K 6/836 20200101ALI20230105BHJP
   A61K 6/79 20200101ALI20230105BHJP
   A61K 6/78 20200101ALI20230105BHJP
   A61K 6/17 20200101ALI20230105BHJP
   A61K 6/878 20200101ALI20230105BHJP
   A61C 5/30 20170101ALI20230105BHJP
   A61C 5/70 20170101ALI20230105BHJP
   A61C 13/00 20060101ALI20230105BHJP
   A61C 13/08 20060101ALI20230105BHJP
【FI】
A61K6/887
A61K6/836
A61K6/79
A61K6/78
A61K6/17
A61K6/878
A61C5/30
A61C5/70
A61C13/00 Z
A61C13/08
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020518685
(86)(22)【出願日】2018-10-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-10
(86)【国際出願番号】 EP2018076594
(87)【国際公開番号】W WO2019068614
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2021-05-28
(31)【優先権主張番号】102017123016.5
(32)【優先日】2017-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】517275117
【氏名又は名称】クルツァー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Kulzer GmbH
【住所又は居所原語表記】Leipziger Strasse 2, D-63450 Hanau, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ウテロト
(72)【発明者】
【氏名】クアト ライシュル
(72)【発明者】
【氏名】ネリ シェーンホーフ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル エック
(72)【発明者】
【氏名】ライフ ココグル
(72)【発明者】
【氏名】ユタ シュナイダー
(72)【発明者】
【氏名】カロリーネ ケンプカ
【審査官】松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/159219(WO,A1)
【文献】特開2016-130300(JP,A)
【文献】特開平09-194674(JP,A)
【文献】特開2009-024013(JP,A)
【文献】特開2005-232174(JP,A)
【文献】HIRABAYASHI, S. et al,Improvements to Light Transmittance in Light-cured Composite Resins by the Utilisation of Low Refractive Index Dimethacrylates,Dental Materials Journal,1990年,Vol.9(2),pp.203-214
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00-6/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)60~85重量%の無機フィラー構成要素であって、少なくとも1種の歯科用ガラス、および任意選択により少なくとも1種の非晶質金属酸化物を含む、無機フィラー構成要素、
(ii)10~40重量%の少なくとも1種のモノマーであって、少なくとも1種の他のウレタン(メタ)アクリレートとの混合物中の、1,3-ビス(5′-アルキル-3′,8′-ジオキソ-2′-アザ-4′,7′-ジオキサ-デシル-9′-エン)フェニルおよび/または1,3-ビス(5′,9′-ジアルキル-3′,8′-ジオキソ-2′-アザ-4′,7′-ジオキサ-9′l-デシル-9′-エン)フェニル[ここでアルキル基は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基から選択される]から選択される少なくとも1種のモノマー、
(iii)0.01~5重量%のウレタン(メタ)アクリレートではない少なくとも1種の二、三、四、または多官能性モノマーであって、該モノマーは、ビス(メタクリロイルオキシメチル)テトラヒドロシクロペンタジエン、ビス(アクリロイルオキシメチル)テトラヒドロジシクロペンタジエンを含み、かつ任意選択により該モノマーとウレタン(メタ)アクリレートではない好ましくは二、三、四、もしくは多官能性モノマーとの混合物である、
(iv)0.01~10重量%の少なくとも1種の開始剤、開始剤系、ならびに任意選択により少なくとも1種の安定剤および任意選択により少なくとも1種の顔料
を含む、重合性歯科コンポジット材料であって、全組成物が100重量%となる、重合性歯科コンポジット材料。
【請求項2】
ii)前記モノマーが、一般式II
【化1】
[式中、a)R、RがHであり、RおよびRがそれぞれ独立して炭素数1~4のアルキルであるか、またはb)R、R、RおよびRがそれぞれ独立して炭素数1~4のアルキルである]の少なくとも1種のモノマーを含むことを特徴とする、請求項1記載の歯科コンポジット材料。
【請求項3】
前記歯科用ガラスの平均粒径d50が0.1~1.0μmであることを特徴とする、請求項1または2記載の歯科コンポジット材料。
【請求項4】
前記非晶質金属酸化物が、少なくとも1種の一次粒径2~45nmの非凝集非晶質金属酸化物を含み、前記非晶質金属酸化物は、任意選択により、沈降酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、または混合酸化物を含むことを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の歯科コンポジット材料。
【請求項5】
(i)無機フィラー構成要素として、全組成物に対し(i.1)70~84重量%の少なくとも1種の歯科用ガラス、および任意選択により(i.2)1~15重量%の非晶質金属酸化物を含むことを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の歯科コンポジット材料。
【請求項6】
(ii)が、少なくとも2種の異なるウレタン(メタ)アクリレート混合物から選択され、前記混合物は、少なくとも1種の二価脂環基を有する二官能性ウレタン(メタ)アクリレート、および二価アルキレン基を有する二官能性ウレタン(メタ)アクリレート、ならびに任意選択により少なくとも1種の少なくとも四官能性の樹状ウレタン(メタ)アクリレートを含むことを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の歯科コンポジット材料。
【請求項7】
(iii)が、ビス(メタクリロイルオキシメチル)テトラヒドロジシクロペンタジエン、ビス(アクリロイルオキシメチル)テトラヒドロジシクロペンタジエン、ポリエーテルの二、三、四、もしくは多官能性(メタ)アクリル酸エステル、またはウレタン(メタ)アクリレートではない少なくとも1種の二、三、四、もしくは多官能性モノマーの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の歯科コンポジット材料。
【請求項8】
前記少なくとも1種の安定剤が、水、少なくとも1種のベンゾフェノン誘導体、および/または少なくとも1種のフェノール誘導体を含むことを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の歯科コンポジット材料。
【請求項9】
(ii)が、任意選択により少なくとも1種の他のウレタン(メタ)アクリレートとの混合物中、1,3-ビス(5′-メチル-3′,8′-ジオキソ-2′-アザ-4′,7′-ジオキサ-デシル-9′-エン)フェニルおよび/または1,3-ビス(5′,9′-ジメチル-3′,8′-ジオキソ-2′-アザ-4′,7′-ジオキサ-デシル-9′-エン)フェニルから選択され、かつ/または
(iii)が、ビス(メタクリロイルオキシメチル)テトラヒドロジシクロペンタジエン、ビス(アクリロイルオキシメチル)テトラヒドロジシクロペンタジエン、またはこれらのモノマーとウレタン(メタ)アクリレートではない少なくとも1種の二、三、四、もしくは多官能性モノマーとの混合物を含む
ことを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の歯科コンポジット材料。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項記載のコンポジット材料の重合により得ることができる、重合歯科コンポジット材料。
【請求項11】
請求項1から9までのいずれか1項記載の歯科コンポジット材料の、圧力50~300MPaおよび/または90~150℃の高温での重合により得ることができる、請求項10に記載の重合歯科コンポジット材料を製造する方法。
【請求項12】
i)EN ISO 6872:2008に則り、200MPa以上の曲げ強さ(重合後乾燥または23±3℃で7日間乾燥)を有し、かつ/または
ii)EN ISO 6872:2008に則り、200MPa以上の曲げ強さを有し、かつ/または
iii)EN ISO 6872:2008に則り、200MPa以上の曲げ強さ(水中37℃で7日、熱サイクリング5000サイクル)を有する
ことを特徴とする、請求項10記載の重合歯科コンポジット材料。
【請求項13】
i)EN ISO 6872:2008に則り、12GPa以上21GPa以下の弾性係数(重合後乾燥または23±3℃で7日間乾燥)を有し、かつ/または
ii)EN ISO 6872:2008に則り、12GPa以上20GPa以下の弾性係数(水中37℃で7日)を有し、かつ/または
iii)EN ISO 6872:2008に則り、12GPa以上20GPa以下の弾性係数(水中37℃で7日、熱サイクリング5000サイクル)を有する
ことを特徴とする、請求項10記載の重合歯科コンポジット材料。
【請求項14】
-60~85重量%の少なくとも1種の無機フィラー化合物であって、平均粒径d50が0.1~1.0μmの少なくとも1種の歯科用ガラス、および任意選択により少なくとも1種の一次粒径2~45nmの非晶質シラン化金属酸化物を含む、無機フィラー化合物、
-10~40重量%の、少なくとも1種のモノマーを基本とする少なくとも1種のポリマーであって、1,3-ビス(5′-メチル-3′,8′-ジオキソ-2′-アザ-4′,7′-ジオキサ-デシル-9′-エン)フェニルおよび/または1,3-ビス(5′,9′-ジメチル-3′,8′-ジオキソ-2′-アザ-4′,7′-ジオキサ-デシル-9′-エン)フェニルを含む少なくとも1種のモノマー、および任意選択により、二価アルキレン基を有する少なくとも1種のジウレタン(メタ)アクリレート、少なくとも1種の四~十官能性樹状ウレタンメタクリレートを含み、かつビス(メタクリロイルオキシメチル)テトラヒドロジシクロペンタジエンおよび/またはビス(アクリロイルオキシメチル)テトラヒドロジシクロペンタジエンおよび任意選択により少なくとも1種のポリエーテルの二、三、四、または多官能性(メタ)アクリル酸エステル、ならびに
-0.01~10重量%の少なくとも1種の顔料
を含む、重合歯科コンポジット材料であって、全組成物が100重量%となる、重合歯科コンポジット材料。
【請求項15】
材料ブロックの形態で存在しており、三次元幾何学的成形体として存在する材料ブロックとして、アダプターなしの切削ブランクとして、または材料を除去する自動式装置に固定するためのアダプター付きの切削ブランクとして存在している材料ブロックとして存在することを特徴とする、請求項10記載の重合歯科コンポジット材料。
【請求項16】
歯科補綴修復物を製作するための、材料除去プロセスでの、または直接法の歯科接着修復物を製作するための、請求項1から15までのいずれか1項記載の歯科コンポジット材料の使用。
【請求項17】
クラウン、インレー、アンレー、上部構造、人工歯、歯のブリッジ、歯科用バー、スペーサー、アバットメント、またはベニアを含む歯科補綴修復物を製作するための、請求項16記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
(i)60~85重量%の少なくとも1種の無機フィラー構成要素であって、少なくとも1種の歯科用ガラス、および任意選択により少なくとも1種の非晶質金属酸化物を含む、無機フィラー構成要素、(ii)10~40重量%の、任意選択により少なくとも2種の異なるウレタン(メタ)アクリレートの混合物中の、1,3-ビス(5′-アルキル-3′,8′-ジオキソ-2′-アザ-4′,7′-ジオキサ-デシル-9′-エン)フェニルおよび/または1,3-ビス(5′,9′-ジアルキル-3′,8′-ジオキソ-2′-アザ-4′,7′-ジオキサ-デシル-9′-エン)フェニル[ここでアルキル基は、それぞれ独立して、直鎖状または分枝状の炭素数1~4のアルキル基から選択される]を含む少なくとも1種のモノマー、(iii)0.01~5重量%のウレタン(メタ)アクリレートではない少なくとも1種の二、三、四、または多官能性モノマー、ならびに(iv)0.01~10重量%の少なくとも1種の開始剤、開始剤系、ならびに任意選択により安定剤および任意選択により少なくとも1種の顔料を含む、重合性歯科コンポジット材料であって、全組成物が100重量%となるコンポジット材料に関し、かつ190MPa以上の曲げ強さおよび12~21GPaの弾性係数を有する重合コンポジット材料に関する。
【0002】
直接法の接着修復物にも、口腔外での間接法の義歯製作にも、全般的に使用できる多くの歯科コンポジットが知られている。歯科コンポジットの材料クラスでは、たとえば歯科用ガラスおよび/または無機物ナノ凝集体などの無機充填材料のほうを多く含む無機-有機ハイブリッド材料だけが適している。1980年代に導入されたプレポリマーフィラーを含有するマイクロフィラーコンポジットは、耐摩耗性(耐研磨性)に限界があるため、後域(クラスIおよびII)への使用には適していない。
【0003】
硬化したコンポジットの非常に良好な機械的特性を実現するために、そして硬化中に同時に起きる重合収縮を減じるために、高いフィラー含有率が有利である。こうした特性は、義歯材料の長期的成功も左右する。
【0004】
直接法の接着修復物用のポリ脂環式構造要素を含む歯科コンポジットの優れた材料特性、特に低い収縮力および高い曲げ強さは、周知である。
【0005】
本発明の目的は、より大型の材料ブロック、特に切削ブロックなどの幾何学的成形体の製作に適した歯科コンポジット材料を提供することであった。また、本発明の目的は、重合の前と後に均質な単色の着色を有する歯科コンポジット材料を提供することであった。この文脈では、均質な単色の着色は、より大型の材料ブロックでも実現可能でなくてはならない。さらに、所定色の多色すなわち複数色の材料ブロックが製作可能でなくてはならない。さらに、より大型の材料ブロックを製作する場合でも、非重合状態では容易に流動可能でありながら、重合状態では優れた機械的特性を有し、かつ重合中の収縮率が低い歯科コンポジット材料が提供されなくてはならない。さらに、コンポジット材料は、体積が大きい材料ブロックであっても、硬化中に亀裂や孔が生じてはならない。
【0006】
最先端のウレタン誘導体系コンポジットから出発して、フィラー系、モノマー混合物、および顔料系を改変する必要があった。そのように、フィラー系に応じてモノマー系を改変することで、コンポジット材料の重合歯科ブロック材料が、調節された高い曲げ強さおよび12~23GPaの範囲の弾性係数を併せ持つことになる。
【0007】
より大型の材料ブロックを製作するための大きな成形部品は、コンポジット材料内に光が浸透する深度が限られるため、光重合させることができない。そのため、熱重合開始を可能にする少なくとも1種の過酸化物を用いて開始剤系を改造し、さらに開発する必要があった。また、熱反応により、または材料ブロックの寸法の大幅増により、既存の光開始剤が変色するのを防止する必要もあった。したがって、コンポジットの層厚による変色を防止するために、カンファーキノン開始剤系などの通常の青色光の光開始剤は除外した。材料の熱伝導性が低いので、開始剤系を選択する際は、一方ではたとえば過酸化物の反応速度のせいで大型材料ブロック内に応力が蓄積しないよう注意して、ブロック内部に亀裂が生じるのを防止する。
【0008】
材料ブロックを製作するための成形は、重合性歯科コンポジット材料を、圧力下で鋳型(以後単に「型」と呼ぶ)に挿入することで実行される。印加する圧力は、好ましくは500~300MPaまたは[N/mm]である。重合は、高温で、好ましくは約90~150℃の範囲で実施される。重合は、約90~300MPaまたは[N/mm]の圧力で実施される。気泡の形成を最小限にするために、好ましくは気泡を形成しないように、密閉鋳型で重合させる。好ましくは、圧力120~320MPa、好ましくは300MPa以下で、温度100~180℃で、好ましくは約140℃で、少なくとも10分~10時間かけて重合させる。材料ブロックは、好ましくは、すべての空間的方向に少なくとも1cmの寸法を有し、幾何学的成形体として存在している。
【0009】
驚くべきことに、ビス官能化フェニル誘導体などの芳香族構造要素を有するウレタンモノマー系のコンポジットが、間接法の義歯の製作に極めて好適であることが見出された。これは、熱により重合を開始させることで、驚くほど高い曲げ強さおよび天然の硬質歯牙組織の範囲の弾性係数が実現できるためである。上述した光硬化歯科コンポジットの場合の光重合に比べて、ポリマー強度のレベルは驚くほど高く、値がこれほど大幅に増加するとは予想外であった。同時に、1つのプロセスステップで比較的大量のコンポジットが低収縮率で架橋されることは、ブロック/ブランク内の応力による亀裂を防止するために有利である。架橋密度が高いことは材料強度の点では望ましいが、収縮応力が高いため重合成形部品が使いものにならないことも多々ある。
【0010】
本発明の一主題は、
(i)60~85重量%の少なくとも1種の無機フィラー構成要素であって、少なくとも1種の歯科用ガラスまたは平均粒径の粒群の歯科用ガラスの混合物、および任意選択により少なくとも1種の非晶質金属酸化物を含む、無機フィラー構成要素、
(ii)10~40重量%の、任意選択により少なくとも2種の異なるウレタン(メタ)アクリレートの混合物中の、好ましくは少なくとも3種の異なるウレタン(メタ)アクリレートの混合物中の、特に二~十官能性ウレタン(メタ)アクリレートの混合物中の、一般式IIの1,3-ビス(5′-アルキル-3′,8′-ジオキソ-2′-アザ-4′,7′-ジオキサ-デシル-9′-エン)フェニルおよび/または1,3-ビス(5′,9′-ジアルキル-3′,8′-ジオキソ-2′-アザ-4′,7′-ジオキサ-デシル-9′-エン)フェニル[ここでアルキル基(R、R、R、およびR)は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基、特に直鎖状または分枝状の非置換または置換アルキル基から選択されてもよく、式Iの1,3-ビス(5′-メチル-3′,8′-ジオキソ-2′-アザ-4′,7′-ジオキサ-デシル-9′-エン)フェニル、および/または1,3-ビス(5′,9′-ジメチル-3′,8′-ジオキソ-2′-アザ-4′,7′-ジオキサ-デシル-9′-エン)フェニルが好ましい]を含む少なくとも1種のモノマー、
(iii)0.01~5重量%の、ウレタン(メタ)アクリレートではない少なくとも1種の二、三、四、または多官能性モノマー、またはジ(メタ)アクリロイルテトラヒドロジシクロペンタジエンもしくはその誘導体、特にビス(メタクリロイルオキシメチル)テトラヒドロジシクロペンタジエン、ビス(アクリロイルオキシメチル)テトラヒドロジシクロペンタジエンを含むもの、ならびに任意選択により前述の化合物の少なくとも1種の3,8-/3,9-/4,8-/3,10-/4,10異性体および/またはシス異性体およびトランス異性体を含む混合物(以下でTCD-ジメタクリル酸エステルと呼ばれる)、ならびに任意選択により好ましくはウレタン(メタ)アクリレートではない二、三、四、または多官能性モノマーの混合物、
(iv)0.01~10重量%の少なくとも1種の開始剤、開始剤系、ならびに任意選択により少なくとも1種の安定剤および任意選択により少なくとも1種の顔料を含む、重合性歯科コンポジット材料、特に熱重合性コンポジット材料であって、特に該少なくとも1種の顔料は少なくとも1種の蛍光顔料および着色顔料の両方を含み、該コンポジット材料の全組成物が100重量%となる、重合性歯科コンポジット材料、特に熱重合性コンポジット材料である。
【0011】
【化1】
[式中、R、R、およびR、Rは、それぞれ独立して、Hまたは非置換もしくは置換されている炭素数1~4のアルキルであり、特にR、RはHであり、RおよびRは炭素数1~4のアルキルである]
一変形実施形態では、熱重合性コンポジット材料が、さらに光化学重合性であることが好ましい。ここでは、熱重合性コンポジット材料とは、60℃以上150℃以下で、好ましくは70℃以上150℃以下で、特に好ましくは90~150℃で重合させることができるコンポジット材料を意味するものとする。この文脈で、本発明では、体積収縮率が1.5%以下であることがさらに好ましい。
【0012】
本発明のコンポジット材料を重合させることにより、特に乾燥でも、水中保管および熱サイクリング後でも、190MPa以上の、特に230MPa以上の曲げ強さ、および12~21GPaの弾性係数を有する重合コンポジット材料が得られる。重合コンポジット材料は、好ましくは、材料ブロックとして、特にすべての空間的方向に少なくとも10cmの寸法を有する切削ブランクの形態で存在する。
【0013】
次のような歯科用ガラスが好ましくは想定される:アルミノシリケートガラスまたはフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムアルミニウムシリケート、ストロンチウムシリケート、ストロンチウムボロシリケート、リチウムシリケートおよび/またはリチウムアルミニウムシリケート、ならびに前述の歯科用ガラスの少なくとも2種の混合物。酸化物または混合酸化物に基づく非晶質球状フィラー、たとえば非晶質SiO、ZrO、またはSiOとZrOとの混合酸化物を、金属酸化物として、または複数種の非晶質金属酸化物の混合物として用いてもよい。
【0014】
好ましい実施形態では、歯科コンポジット材料が、平均粒径d50が0.1~1.0μmの少なくとも1種の歯科用ガラス、特に放射線不透過性歯科用ガラスを含み、あるいは特に0.7~1.0μm、0.7~0.9μm、好ましくは平均粒径が0.8~0.95μm、特にd50が0.90μmで任意選択により±0.05μm、好ましくは±0.05μm、好ましくはd99が10μm以下である。平均粒径d50が約0.85μmで任意選択により±0.1μm、特に±0.05μm、特に好ましくは±0.03μm、そして好ましくはd99が10μm以下が、特に好ましい。さらにあるいは、平均粒径0.3~0.5μm、特にd50が0.40μmで任意選択により±0.15μm、好ましくは±0.05μm、好ましくはd99が10μm以下である。平均粒径d50がおよそ0.40μmで任意選択により±0.1μm、特に±0.05μm、特に好ましくは±0.03μm、そして好ましくはd99が10μm以下が、特に好ましい。
【0015】
特に好ましい歯科用ガラスは、バリウムアルミニウムボロシリケートガラスを含む。さらに、反射指数n=1.52~1.55の、好ましくは1.53のバリウムアルミニウムシリケートガラスが特に好ましい。特に好ましい粒径分布の範囲は、d10が0.05μm以上でd99が5μm以下、好ましくはd10が0.42μm以上でd99が2.5μm以下であり得、平均直径d50が0.4~0.9μmであり得る。
【0016】
好ましい実施形態では、歯科コンポジット材料が、(i)70~85重量%の少なくとも1種の無機フィラー構成要素を含み、該無機フィラー要素は、少なくとも1種の歯科用ガラスまたは異なる平均粒径の歯科用ガラスの混合物を含み、ここで0.7~1.0μmの範囲の平均粒径d50が、コンポジット材料に対し、70重量%以上80重量%以下、特に71重量%以上76重量%以下である。
【0017】
さらに、本発明の一主題は、(i)60~85重量%の少なくとも1種の無機フィラー構成要素であって、特にシラン化されている、好ましくはメタクリルオキシプロピル基で官能化されている、バリウムアルミニウムボロシリケートガラス、バリウムアルミニウムボロフルオロシリケートガラスを含む少なくとも1種の歯科用ガラス、および任意選択により少なくとも1種の一次粒径2~45nmの非凝集非晶質金属酸化物を含む、無機フィラー構成要素を含む、歯科コンポジット材料であって、該非晶質金属酸化物は、沈降二酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、混合酸化物、またはそれらの混合物を含み、特に金属酸化物はシラン化されている、歯科コンポジット材料である。
【0018】
高い曲げ強さを実現するために、歯科コンポジット材料は、好ましくは、無機フィラー構成要素として、全組成物中(i.1)70~84重量%の、特に70~80重量%の、好ましくは71~76重量%の少なくとも1種の歯科用ガラス、および任意選択により(i.2)1~15重量%の、特に3~10重量%の、好ましくは4~8重量%の非晶質金属酸化物を含む。歯科用ガラスと非晶質金属酸化物との割合は、好ましくは20:1~5:1、好ましくは15:1~10:1となる。
【0019】
特に好ましい実施形態では、歯科コンポジット材料が、
(i)全組成物に対し、60~85重量%の少なくとも1種の無機フィラー構成要素であって、60~84重量%の、好ましくは66~76重量%の、または71~76重量%の、平均粒径d50が0.1~0.7μmの、少なくとも1種の歯科用ガラス、および任意選択により1~25重量%の、好ましくは3~8重量%の、特に好ましくは5~6重量%の、少なくとも1種の一次粒径2~45nmの非晶質シラン化金属酸化物を含む、無機フィラー構成要素、
(ii)10~40重量%の、特に15~30重量%の、好ましくは18~22重量%の、少なくとも1種のモノマーまたは数種のモノマーの混合物
を含む。
【0020】
10~30重量%の、好ましくは115~25重量%の1,3-ビス(5′-アルキル-3′,8′-ジオキソ-2′-アザ-4′,7′-ジオキサ-デシル-9′-エン)フェニルおよび/または1,3-ビス(5′,9′-ジアルキル-3′,8′-ジオキソ-2′-アザ-4′,7′-ジオキサ-デシル-9′-エン)フェニル[ここでアルキル基は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基から選択されてもよく、特にアルキルは炭素数1~2であり、式Iの1,3-ビス(5′-メチル-3′,8′-ジオキソ-2′-アザ-4′,7′-ジオキサ-デシル-9′-エン)フェニル、および/または1,3-ビス(5′,9′-ジメチル-3′,8′-ジオキソ-2′-アザ-4′,7′-ジオキサ-デシル-9′-エン)フェニルが好ましい]から選択される少なくとも1種のモノマー、ならびに任意選択により2種の異なるウレタン(メタ)アクリレート、特に二~十官能性ウレタン(メタ)アクリレート、好ましくは15~19重量%の二価脂環基を有する二官能性ウレタン(メタ)アクリレート、および5~6重量%の二価アルキレン基を有する二官能性ウレタン(メタ)アクリレート、および任意選択により0.1~2重量%の少なくとも1種の六官能性ウレタン(メタ)アクリレートまたはウレタン(メタ)アクリレートの混合物の樹状ウレタンメタクリレート、および
(iii)0.01~5重量%の、特に0.5~3重量%の、好ましくは0.8~2.0重量%の、ビス(メタクリロイルオキシメチル)テトラヒドロジシクロペンタジエン、ビス(アクリロイルオキシメチル)-テトラヒドロジシクロペンタジエンを含む、ウレタン(メタ)アクリレートではない、少なくとも1種の二、三、四、または多官能性モノマー、ならびに任意選択により、前述の化合物の少なくとも3,8-/3,9-/4,8-/3,10-/4,10異性体のおよび/またはシス異性体およびトランス異性体の混合物、任意選択により少なくとも1種のポリエーテルの二、三、四、または多官能性メタクリル酸エステル、好ましくはジメタクリレートトリエチレングリコールとの混合物
(iv)0.01~10重量%の、特に0.5~5重量%の、好ましくは0.5~2重量%の少なくとも1種の熱重合開始剤、熱重合開始剤系、ならびに任意選択により少なくとも1種の安定剤および任意選択により少なくとも1種の顔料、特に蛍光顔料および着色顔料から選択される顔料を含む顔料混合物
を含むコンポジット材料であって、該コンポジット材料の全組成物が100重量%となり、好ましくはフィラー構成要素が該コンポジット材料の100重量%となる、コンポジット材料が好ましい。
【0021】
二~十官能性ウレタン(メタ)アクリレートは、モノマーとして使用され、ペルオキシ基を含んでいない。
【0022】
一実施形態では、歯科コンポジット材料は、少なくとも1種の二価脂環基を有する二官能性ウレタン(メタ)アクリレート、二価アルキレン基を有する二官能性ウレタン(メタ)アクリレート、ならびに任意選択により少なくとも1種の四官能性樹状ウレタン(メタ)アクリレート、好ましくは少なくとも1種の六官能性樹状ウレタン(メタ)アクリレートから選択される少なくとも2種の異なるウレタン(メタ)アクリレート、好ましくは3種の異なるウレタン(メタ)アクリレートの混合物を含むことができる。特に好ましい二価脂環基を有する二官能性ウレタン(メタ)アクリレートには、ビス(4′,7′-ジオキサ-3′,8′-ジオキソ-2′-アザ-デシル-9′-エン)テトラヒドロジシクロペンタジエン、ビス(4′,7′-ジオキサ-3′,8′-ジオキソ-2′-アザ-9′-メチル-デシル-9′-エン)テトラヒドロジシクロペンタジエン、および/またはそれらの混合物ならびに任意選択により前述の化合物の3,8-/3,9-/4,8-/3,10-/4,10異性体のおよび/またはシス異性体およびトランス異性体の混合物が含まれる。
【0023】
【化2】
【0024】
二価脂環基を有する二官能性ウレタン(メタ)アクリレートは、好ましくは、二価アルキレン基で官能化されている直鎖状または分枝状ウレタンジメタクリレート、(1種または複数種の)アルキレン基を有するウレタンジメタクリレート官能化ポリエーテル、たとえばビス(メタクリルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)アルキレン、ビス(メタクリルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)置換ポリアルキレンエーテル、好ましくは1,6-ビス(メタクリルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、UDMAまたはHEMA-TDMIから選択される。アルキレンが直鎖状または分枝状の炭素3~20個、好ましくは3~6個を含むビス(メタクリルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)アルキレンが好ましく、たとえばメチル基で置換されているアルキレン、たとえばHEMA-TMDIが特に好ましい。二価アルキレンは、好ましくは、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンおよび/または2,4,4-トリメチルヘキシメチレンを含む。
【0025】
少なくとも四官能性の樹状ウレタンメタクリレートは、四~十官能性樹状ウレタンメタクリレートを含む。
【0026】
さらに好ましい実施形態では、歯科コンポジット材料は、構成要素として、(iii)0.01~5重量%の少なくとも1種の二、三、四、または多官能性モノマーを含み、該モノマーは、ウレタンアクリレートではなく、テトラヒドロジシクロペンタジエンの(メタ)アクリル酸エステル、好ましくはビス(メタクリロイルオキシメチル)テトラヒドロジシクロペンタジエン、ビス(アクリロイルオキシメチル)テトラヒドロジシクロペンタジエン、ジ(メタ)アクリル酸エステル、ならびに前述の化合物の少なくとも1種の3,8-/3,9-/4,8-/3,10-/4,10異性体のおよび/またはシス異性体およびトランス異性体を含む混合物、ならびに任意選択によりポリエーテルのジメタクリル酸エステル、ポリエーテルの三、四、または多官能性メタクリル酸エステルから選択される。
【0027】
好ましくは、構成要素(iii)の含有率は、0.15~5重量%の、特に好ましくは1.0~2重量%のジメタクリル酸エステル、ポリエーテルのジメタクリル酸エステル、たとえば好ましくはジメタクリレートポリエチレングリコール、ジメタクリレートポリプロピレングリコールとなる。ジメタクリレートトリエチレングリコール(TEGDMA)、ジエチレングリコールジメタクリレート(DEGMA)、およびジメタクリレートテトラエチレングリコール(TEDMA)が、特に好ましい。
【0028】
歯科コンポジット材料に、安定剤として水を添加して、プロセス工学的に加工しやすいように粘稠性および流れ特性を改良した。コンポジット材料に安定剤を添加したのは、早期の重合を防止するため、および材料に一定の保管寿命を与えるためであった。コンポジット材料は、構成要素(iv)中、好ましい安定剤として、水、少なくとも1種のベンゾフェノン誘導体、好ましくはアルコキシ置換ベンゾフェノン、および/またはフェノール誘導体、たとえば2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,6-ビス(1,1-ジメチル)-4-メチルフェノールから選択される少なくとも1種の安定剤、またはこれら3種の安定剤の混合物を含む。安定剤は、好ましくは、全組成物中0.01~14重量%、特に好ましくは0.7~10重量%、特に0.5~2重量%だけ存在している。また、コンポジット材料が、安定剤として0.01~2重量%の水を、好ましくは0.1~1.0重量%の水を含有するのが好ましい。
【0029】
重合コンポジット材料の色および自然な美感を最適に調節するために、少なくとも1種の蛍光顔料ならびに任意選択により少なくとも1種の有機着色顔料および/または少なくとも1種の無機着色顔料、特に非蛍光着色顔料を含む、少なくとも1種の顔料が、コンポジット材料に添加される。該少なくとも1種の蛍光顔料は、好ましくは有機蛍光顔料であり、特に非重合性有機蛍光顔料であり、アリールカルボン酸エステル、アリールカルボン酸、クマリン、ローダミン、ナフタレンイミド、または該物質各々の誘導体を適宜含む。無機蛍光顔料は、CaAl:Mn2+、(Ba0.98Eu0.02)MgAl1017、BaMgF:Eu2+、Y(1.995)Ce(0.005)SiOを含み得る。
【0030】
コンポジットは、顔料として、特に着色顔料として、有機顔料と同様に無機顔料を含むことができ、該顔料は特にジエチル-2,5-ジヒドロキシテレフタレート、N,N′-ビス(3,5-キシリル)ペリレン-3,4:9,10-ビス(ジカルビミド)、銅フタロシアニン、チタン酸塩顔料、特にクロムアンチモンチタナート(ルチル構造)、黒色スピネル、特に黒色酸化鉄(Fe)系の顔料(鉄(Fe)は部分的にクロムおよび銅またはニッケルおよびクロムまたはマンガンで置換されている)、亜鉛鉄クロムスピネル、褐色スピネル、((Zn,Fe)(Fe,Cr))、コバルト亜鉛アルミナート青色スピネルおよび/または酸化チタンを含む。蛍光顔料および着色顔料を含む顔料は、好ましくは、全組成物中0.01~10重量%、特に好ましくは0.01~5重量%、好ましくは0.01~1重量%だけ存在している。
【0031】
顔料は、重合性コンポジットと重合コンポジットとの両方で均質な着色を実現するために、歯科コンポジットの組成に特化して選択する必要がある。また、大型の材料ブロックの製作では、重合後の材料ブロックの寸法による望ましくない変色を避けるために、顔料の選択および濃度に関する調整が必要である。
【0032】
過酸化物、ヒドロキシル過酸化物、またはそれらを含む混合物は、開始剤として好適である。好適な熱重合開始剤は、ラジカル開始剤として、70~150℃の、好ましくは90~150℃の温度範囲で用いることができる。好ましい熱重合開始剤は、tert.-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノアート、ジベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジクミル-ヒドロペルオキシド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンジルバルビツル酸誘導体から選択される少なくとも1種の開始剤を含む。
【0033】
本発明の別の主題は、本発明のコンポジット材料の重合により、特にコンポジット材料の圧力500~300MPa(=[N/mm])での、特に50~300MPaでの、好ましくは100~300MPaでの、特に好ましくは120~200MPaでの、好ましくは120~170MPaでの、および/または高温での、好ましくは90~150℃での重合により得ることができる、重合歯科コンポジット材料、特に熱重合性コンポジット材料である。重合は好ましくは鋳型中で行われ、該鋳型は好ましくは幾何学的形状を有する。高圧下での重合により、重合コンポジット材料中の気泡の形成が最小限にされるまたは回避される。
【0034】
重合性コンポジット材料の収縮率は、好ましくは2.0%以下、特に1.5%未満、特に好ましくは1.4%以下となる(Bonded-Disc method - Dental Materials, Watts et al, (2004) 20, 88-95;23℃、Translux Energy、曝露時間60秒)。
【0035】
重合コンポジット材料には、好ましくは200nm以上の大きさのブローホールまたは亀裂がなく、特に材料ブロックにはブローホールまたは亀裂がない。重合コンポジット材料の密度は、2.0g/cm以上であり、特に2.1g/cm以上である。
【0036】
驚くべきことに、重合歯科コンポジット材料は、特にコンポジット材料の熱重合により得ることができる重合歯科コンポジット材料は、EN ISO 6872:2008に則り、200MPa以上の、特に210MPa以上の、好ましくは220MPa以上の、好ましくは230MPa以上の、240MPa以上の、250MPa以上の曲げ強さを有する。コンポジット材料の曲げ強さ(試験片は乾燥、重合後乾燥、または7日間乾燥、23℃+/-3℃)は、好ましくは230MPa以上、好ましくは240MPa以上、250MPa以上、特に300MPa以下である。水中保管後の曲げ強さは、EN ISO 6872:2008に則り、好ましくは200MPa以上、特に210MPa以上、好ましくは220MPa以上、特に230MPa以上である(水中37℃で7日)。7日間水中保管した熱サイクリング後の曲げ強さは、EN ISO 6872:2008に則り、好ましくは200MPa以上、好ましくは210MPa以上、好ましくは220MPa以上、特に好ましくは230MPa以上300MPa以下であり、水中保管はDent. Matter J. 2014; 33(5) 705~710と同様にして、5000サイクルを実施した。曲げ強さおよび弾性係数は、Dent. Materials J 2014; 33(4/5), 705~710に則り、すなわちEN ISO 6872:2008に則り、または水中保管を追加して、準備し測定した(乾燥、および7日間水中保管し熱サイクリング有りまたは無し)。
【0037】
ISO 6872規格は、CAD/CAMブロックとして利用可能なセラミック材料の試験用に開発された。コンポジット材料も同じ寸法で製作され加工されるので、同様の水中保管の比較試験も行うべきである。コンポジットの規格(ISO 4049)の試験片は、試験片の寸法のためそれらのブロックからは製作できない。
【0038】
歯科コンポジットの曲げ強さは高い値(>100MPa)に限定されないが、バランスのよい/最適な弾性は用途にとって有利である。使用目的でなるべく不良にならないように、弾性係数は、硬質歯牙組織の象牙質に相当するのが理想である。脆性が高過ぎる(弾性係数が高い)材料は、欠けまたは割れが生じる傾向がある。弾性が強過ぎる(弾性係数が低い)材料は、咀嚼の荷重で変形して、セメント接合が外れてしまう(装置除去)。
【0039】
ヒトの硬質歯牙組織の材質特性(曲げ強さおよび弾性係数)は、方向の関数(結晶の方向による異方性の材質特性)として、文献から知られている(Dwayne D. Arola et al. Biomaterials 27(2006) 2131-2140)。それによると、ヒトの硬質歯牙構造の弾性係数は、方向によるが、15~19GPaである。したがって、目的は、弾性係数がヒトの硬質歯牙組織の範囲、つまり好ましくは15~20GPaの範囲にあるコンポジットを提供して、歯のような特性を模倣することであった。
【0040】
したがって、本発明の別の主題は、EN ISO 6872:2008に準じる、特にDent. Mater. J. 2014; 33(5) 705~710に記載の方法と同様の、12GPa以上21GPa以下の、好ましくは15GPa以上20GPa以下の弾性係数(乾燥、および7日間乾燥保管後)を有する重合歯科コンポジット材料である。該出版物は、表3でさらに、異なる歯科材料のCAD/CAMブロックの3点曲げ試験の測定値を比較している。
【0041】
好ましくは、本発明の弾性係数は、12~20GPa、好ましくは14~20GPa、特に好ましくは15~20GPa(7日間水中保管し熱サイクリング後に測定)であり、および/または弾性係数は好ましくは12GPa以上20GPa以下(水中37℃で7日)、好ましくは14GPa以上20GPa以下、特に好ましくは15~20GPaになる。
【0042】
実施例の方法は、Dent. Mater. J. 2014; 33(5) 705~710に開示の方法にヒントを得ている。乾燥保管でも37℃での保管プラス熱サイクリングでも、弾性係数を硬質歯牙組織と同様の15~20GPaの範囲に設定するがこれまで不可能だったのは明白である。
【0043】
表1:Dent. Mater. J. 2014; 33(5) 705-710の表3の曲げ強さ(MPa)および弾性係数(GPa)
【表1】
【0044】
特に好ましい実施形態では、本発明の一主題は、60~85重量%の少なくとも1種の無機フィラー構成要素であって、平均粒径d50が0.1~1.0μmの少なくとも1種の歯科用ガラス、および任意選択により一次粒径2~45nmの少なくとも1種の非晶質シラン化金属酸化物を含む、無機フィラー構成要素、10~30重量%の、少なくとも1種のポリマーであって、少なくとも1種のモノマーを基本とし、好ましくは以下のモノマーの混合物を基本とし、該モノマーは、3-ビス(5′-アルキル-3′,8′-ジオキソ-2′-アザ-4′,7′-ジオキサ-デシル-9′-エン)フェニルおよび/または1,3-ビス(5′,9′-ジアルキル-3′,8′-ジオキソ-2′-アザ-4′,7′-ジオキサ-デシル-9′-エン)フェニルから選択される少なくとも1種のビス-ウレタン誘導体[ここでアルキル基は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基から選択される]を含み、任意選択によりテトラヒドロシクロペンタジエンの二官能性ウレタン(メタ)アクリレート、および/または二価アルキレン基を有する少なくとも1種のジウレタン(メタ)アクリレート、および/または少なくとも1種の四~十官能性樹状ウレタンメタクリレート、およびビス(メタクリロイルオキシメチル)テトラヒドロジシクロペンタジエン、ビス(アクリロイルオキシメチル)テトラヒドロジシクロペンタジエンを含む少なくとも1種の二、三、四、または多官能性メタクリル酸エステルとの混合物、ならびに任意選択により前述の化合物の少なくとも1種の3,8-/3,9-/4,8-/3,10-/4,10異性体および/またはシス異性体およびトランス異性体を含む混合物、ならびに任意選択によりポリエーテルの二、三、四、または多官能性(メタ)アクリル酸エステル、好ましくはジメタクリラートトリエチレングリコールとの混合物を含む、ポリマー、ならびに0.01~10重量%の少なくとも1種の顔料、特に少なくとも1種の蛍光顔料、および少なくとも1種の有機着色顔料および/または少なくとも1種の無機着色顔料であって、好ましくは蛍光発光しない、着色顔料、を含む重合歯科コンポジット材料であって、該コンポジット材料の全組成物が100重量%となる、重合歯科コンポジット材料である。
【0045】
重合歯科コンポジット材料は、好ましくは、材料ブロックの形態で、特に三次元の材料ブロックとして幾何学的成形体の形態で、特に材料を除去する自動式装置に固定するためのアダプター付きの切削ブランクの形態で、特に好ましくは円筒の形態で、立方体の形態で、好ましくは正六面体の形態で、存在することができる。また、成形体の稜および/または頂点を丸くすることが好ましい。円筒の寸法は、好ましくは、高さ10mm以上15mm以下、半径3mm以上7mm以下、あるいは高さ10mm以上20mm以下、半径5mm以上7mm以下になる。立方体の寸法は、好ましくは、a、b、およびcが4mm以上、特に10mm以上となり、aは20mm以下、特に18mm以下、bは14mm以下、cは20mm以下、特に18mm以下である。好ましくは、三次元の材料ブロックは、少なくとも稜の長さが、それぞれ少なくとも10mm、好ましくは14mmである。切削ブランクとして用いられる材料ブロックは、好ましくは、立方体の形状であり、該立方体の体積は、好ましくは、12mmx14mmx17または18mm、あるいは高さ17~18mmで14x14mmまたは15x15mmである。1つから全部の稜および頂点を、まっすぐにしても丸くしてもよい。
【0046】
さらに、本発明の一主題は、歯科補綴修復物を製作するための、特に間接法の義歯を製作するための、材料除去プロセスでの、特に重合コンポジット材料を切削、切除、研磨、破壊、はつり、および/または穴開けにより除去するプロセスでの、特に好ましくはコンポジット材料をレーザーエネルギーにより除去するプロセスでの、歯科コンポジット材料の使用である。特に好ましい材料の使用は、材料がレーザーエネルギーにより除去される材料除去プロセスで、歯科補綴修復物を製作する方法での使用である。粒径および好ましくは粒径分布は、レーザーエネルギーにより重合コンポジット材料を除去して、補綴修復物を製作できる、または直接法の歯科接着修復物を製作する方法に特化した。本発明の歯科材料の特別な利点は、歯科医や歯科技工士が患者の口内を少なくとも1回口腔内スキャンした後、そうやって取得した歯のデジタル情報を使って、他の機器のパラメーター等も考慮に入れつつクラウンやインレーなどの歯科補綴修復物を直接製作する、間接法の義歯製作プロセスを大幅に簡素化できる可能性にある。続いてこうして製作した歯科補綴修復物を患者の口内に挿入し、固定し、必要に応じて微調整することができる。たとえば、クラウン用の歯の根を作るために歯を研削する前に一度口腔内スキャンをとり、別途この歯の根の口腔内スキャンをとる。
【0047】
さらに、重合コンポジット材料は、クラウン、インレー、アンレー、上部構造、人工歯、歯のブリッジ、歯科用バー、スペーサー、アバットメント、またはベニアを含む歯科補綴修復物の製作に使用することができる。重合コンポジット材料はさらに、直接法の歯科接着修復物を製作するためのコンポジット材料として用いることもできる。
【0048】
さらに、本発明のウレタン(メタ)アクリレートとしては、(ii)少なくとも1種のウレタン(メタ)アクリレート、特にウレタンジメタクリレート、好ましくはビス(メタクリルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)アルキレン、ジウレタンアクリレートオリゴマー、アルキル官能性ウレタンジメタクリレートオリゴマー、芳香族官能化ウレタンジメタクリレートオリゴマー、脂肪族不飽和ウレタンアクリレート、ビス(メタクリルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)置換ポリエーテル、芳香族ウレタンジアクリレートオリゴマー、脂肪族ウレタンジアクリレートオリゴマー、脂肪族ウレタンジアクリレート、六官能性脂肪族ウレタンレジン、脂肪族ウレタントリアクリレート、脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマー、不飽和脂肪族ウレタンアクリレートも好ましい。二官能性および多官能性ウレタン(メタ)アクリレート、たとえば特にウレタンジ(メタ)アクリレートが好ましく、少なくとも1種の(iii)ウレタンジメタクリレートは、特に好ましくは、直鎖状または分枝状アルキル官能化ウレタンジメタクリレート、ウレタンジメタクリレート官能化ポリエーテル、特にビス(メタクリルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)アルキレン、ビス(メタクリルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)-置換ポリエーテル、好ましくは1,6-ビス(メタクリルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサンから選択される。好適なウレタン(メタ)アクリレートは、Ebecryl 230(脂肪族ウレタンジアクリレート)、Actilane 9290、Craynor 9200(ジウレタンアクリレートオリゴマー)、Ebecryl 210(芳香族ウレタンジアクリレートオリゴマー)、Ebecryl 270(脂肪族ウレタンジアクリレートオリゴマー)、Actilane 165、Actilane 250、Genomer 1122(単官能性ウレタンアクリレート)、Photomer 6210(cas no.52404-33-8、脂肪族ウレタンジアクリレート)、Photomer 6623(六官能性脂肪族ウレタンレジン)、Photomer 6891(脂肪族ウレタントリアクリレート)、UDMA、Roskydal LS 2258(脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマー)、Roskydal XP 2513(不飽和脂肪族ウレタンアクリレート)といった商標名で入手可能である。ウレタン(メタ)アクリレートは、好ましくは、前述のウレタン(メタ)アクリレートから、または前述の異なるウレタン(メタ)アクリレートの少なくとも2種の混合物から、好ましくは少なくとも3種の混合物から選択してもよい。
【0049】
ウレタン(メタ)アクリレートではない、少なくとも1種のさらなる二、三、四、または多官能性モノマーは、好ましくは以下のモノマーの少なくとも1種、特に1,4-ブタンジオールジメタクリレート(1,4-BDMA)またはペンタエリスリトールテトラアクリレート、ビス-GMAモノマー(ビスフェノール-A-グリシジルメタクリレート)、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、およびジエチレングリコールジメタクリレート(DEGMA)、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキシルデキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ならびにブタンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシル化/プロポキシル化ビスフェノール-A-ジ(メタ)アクリレートを含むモノマー混合物、これらの(メタ)アクリレートの少なくとも1種および/または前述のモノマーの1種もしくは少なくとも2種を含むコポリマーを含む混合物から、選択してもよい。
【0050】
架橋剤および/または多架橋剤とも呼ばれる一般的なさらなる二官能性モノマーとしては、トリまたはテトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、BDMA、1,4-ブタンジオールジメタクリレート(1,4-BDMA)、ビス-GMAモノマー(ビスフェノール-A-グリシジルメタクリレート、メタクリル酸とビスフェノール-Aジグリシジルエーテルとの付加物)、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノール-Aジ(メタ)アクリレート、デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキシルデキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ならびにブタンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシル化/プロポキシル化ビスフェノール-A-ジ(メタ)アクリレートが挙げられる。以下の二官能性モノマーも、希釈剤(低粘性アクリレート)として添加され得る。三および四官能性モノマーおよび/または多架橋剤は、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)-イソシアヌレートトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートを含む。
【0051】
少なくとも1種のモノマーを含む、二、三、または多官能性モノマー(1種または複数種)に加えて、以下のモノマーの少なくとも1種、特にメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、2-フェノキシエチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、テトラヒドロフリルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-フェノキシエチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、イソデシルアクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、テトラヒドロフリルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フルフリル(メタ)アクリレート、またはフェニル(メタ)アクリレートのモノマー混合物、これらの(メタ)アクリレートの少なくとも1種および/または前述のモノマーの1種もしくは少なくとも2種を含むコポリマーを含む混合物が、コンポジット材料に存在してもよい。
【0052】
さらに、本発明の一主題は、フィラー、顔料、安定剤、調整剤、抗菌添加剤、UV吸収剤、チキソトロープ剤、触媒、および架橋剤からなる群の少なくとも1種または複数種の物質を好ましくは追加で含む、コンポジット材料である。このような添加剤の使用量は、顔料、安定剤、および調整剤の使用量と同じく、材料の全質量に対し、たとえば全部で0.01~3.0重量%、特に0.01~1.0重量%と、かなり少量である。好適な安定剤としては、たとえばヒドロキノンモノメチルエーテルまたは2,6-ジ-tert.-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)が挙げられる。
【0053】
以下の自己重合または低温重合用の開始剤および/または開始剤系は、a)少なくとも1種の開始剤、特に少なくとも1種の過酸化物および/またはアゾ化合物、特にLPO:ジラウロイルペルオキシド、BPO:ジベンゾイルペルオキシド、t-BPEH:tert.-ブチル-ペルオキシ-2-エチルヘキサノアート、AIBN:2,2′-アゾビス-(イソブチロニトリル)、DTBP:ジ-tert-ブチルペルオキシド、および任意選択により、b)少なくとも1種の活性剤、特に少なくとも1種の芳香族アミン、たとえばN,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジヒドロキシエチル-p-トルイジンおよび/またはp-ジメチルアミノ安息香酸ジエチルエステル、またはc)酸化還元系から選択される少なくとも1種の開始剤系、特にジベンゾイルペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、およびカンファーキノンから選択されるものと、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジヒドロキシエチル-p-トルイジン、およびp-ジメチルアミノ-安息香酸ジエチルエステルから選択されるアミンとの組み合わせを含む。あるいは開始剤は、過酸化物を含む酸化還元系であってもよく、還元剤はアスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、バルビツル酸またはバルビツル酸誘導体、スルフィン酸、スルフィン酸誘導体から選択され、特に好ましくは(i)バルビツル酸またはチオバルビツル酸またはバルビツル酸誘導体またはチオバルビツル酸誘導体、および(ii)少なくとも1種の銅塩または銅錯体、および(iii)イオン性ハロゲン原子を有する少なくとも1種の化合物を含む酸化還元系であり、特に好ましくは、1-ベンジル-5-フェニルバルビツル酸、銅アセチルアセトナート、および塩化ベンジルジブチルアンモニウムを含む酸化還元系である。特に好ましくは、二構成要素の補綴床材料の重合を、バルビツル酸誘導体により開始させる。
【0054】
一般に、低温重合または自己重合の出発混合物の重合反応開始剤は、ラジカル重合反応を開始させることができるもの、と考えられている。好ましい開始剤は、過酸化物ならびにアゾ化合物、たとえばLPO:ジラウロイルペルオキシド、BPO:ジベンゾイルペルオキシド、t-BPEH:tert.-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノアート、AIBN:2,2′-アゾビス-(イソブチロニトリル)、DTBP:ジ-tert.-ブチルペルオキシドである。
【0055】
過酸化物によるラジカル重合の開始を促進するために、好適な活性剤、たとえば芳香族アミンを添加することができる。好適なアミンの例は、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジヒドロキシエチル-p-トルイジン、およびp-ジベンジルアミノ安息香酸ジエチルエステルである。この文脈では、アミンは通常は共開始剤として機能し、通常は最大で0.5重量%だけ存在している。
【0056】
以下の実施例は、本発明をそれらに限定することなく明確化するものである。
【0057】
実施例:
3点曲げ試験
ISO 6872:2008(ISO 6872:2008.歯科用セラミック材料 第3版、2008年、国際標準化機構、スイス国ジュネーブ)に則り、3点曲げ試験を用いて、曲げ特性を決定した。幅4.0mm、長さ14.0mm、厚さ1.2mmの棒状試験片を、低速ダイヤモンドソー(Isomet、Buehler社、米国イリノイ州レイクブラフ)で作製した。全試験片を、#600および#1000ダイヤモンドホイール(Maruto社、日本国東京)および#1000ダイヤモンドブレード(Maruto社)を取り付けた金属平板ラップマシン(Dia-Lap、ML-150P、Maruto社)で湿式研削し研磨して、所要の寸法の4.0±0.2×14.0±0.2×1.2±0.2mmを得た。曲げ試験中に棒状試験片の稜が破断するのを最小限にするために、幅0.15mmの稜の面取りを、#1000ダイヤモンドブレードを取り付けたラップマシンで行った。研磨後、曲げ試験前の7日間、全試験片をシリカゲルデシケーター内に保管した。それぞれ10個の試験片からなる3群を、各CAD/CAMブロックからランダムに作製した。第1群の試験片を乾燥条件で周囲室温(23±2℃)で7日間保管した。第2群を脱イオン水中37℃で7日間保管し、第3群を脱イオン水中37℃で7日間保管した後、熱サイクル装置(HA-K178、Tokyo Giken Inc.、日本国東京)を用いて5000熱サイクルに供した(熱サイクリング5℃~55℃、保持時間30秒)。各試験片の幅および厚さは、デジタル式マイクロメーター(MDC-25M、Mitsutoyo Co.、日本国東京;最小値:0.001mm)で測定した。3点曲げ試験を、支点間距離12.0mm、トラバース速度1.0mm/分で、周囲室温(23±2℃)で、万能試験機(AG-X、Shimadzu Corp.、日本国京都)を用いて実施した。曲げ強さおよび曲げ係数は、ソフトウェア(TRAPEZIUM X、Shimadzu Corp.、日本国京都)を用いて計算した。曲げ係数(E)を式
E=FL/4bh
[式中、Fはばね特徴の直線部の適切なポイントでの荷重を表し、Lは支点間距離(12.00mm)を表し、bは試験片の幅を表し、hは試験片の厚さを表し、dは荷重Fでの屈曲を表す]で計算した。曲げ強さ(σ)を式
σ=3FL/2bh
[式中、Fは曲げ試験中の最大荷重を表す]で計算した。
【0058】
硬さ試験を、Zwickユニバーサルデバイスを用いて実施した。本発明の試験片の測定値は、800~850の範囲である。
【0059】
以下に、比較例の光硬化製品Venus Diamond(VD)およびVenus Pearl(VP)をISO 4049およびISO 6872に則り測定し(EN ISO 4049:2009 7.11に記載されている方法に則り、曝露はTranslux 2Wave(1200mW/cm)を用いて1つの曝露点につき20秒の曝露時間で、点ごとに実施した)、本発明の実施例1と比較する。
【0060】
表2:実施例1とVenus製品との比較
【表2】
【0061】
表3:実施例1~4:
【表3】
重合は、95℃で3時間。
【0062】
表4a:保管なしの曲げ強さおよび弾性係数(EN ISO 6872に準じる)
【表4】
【0063】
表4b:7日間室温乾燥の曲げ強さおよび弾性係数(EN ISO 6872に準じる)
【表5】
【0064】
表4c:曲げ強さおよび弾性係数(EN ISO 6872)
【表6】