(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】バルブの状態把握方法とバルブの状態把握システム
(51)【国際特許分類】
F16K 37/00 20060101AFI20230105BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20230105BHJP
【FI】
F16K37/00 M
G05B23/02 302Y
(21)【出願番号】P 2020523192
(86)(22)【出願日】2019-06-06
(86)【国際出願番号】 JP2019022649
(87)【国際公開番号】W WO2019235599
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2018109083
(32)【優先日】2018-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390002381
【氏名又は名称】株式会社キッツ
(74)【代理人】
【識別番号】100081293
【氏名又は名称】小林 哲男
(72)【発明者】
【氏名】井上 優
(72)【発明者】
【氏名】風間 正裕
(72)【発明者】
【氏名】西澤 勲
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-085161(JP,A)
【文献】特開2015-094587(JP,A)
【文献】特開2012-241768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 37/00
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブを開閉する弁軸の角速度データに基づいて、このバルブの状態監視をするバルブの状態把握方法であって、前記弁軸には、少なくとも半導体型のジャイロセンサを有する監視ユニットが着脱自在に固定されると共に、前記角速度データには、この監視ユニットから得られる前記バルブの弁体の全開から全閉又は全閉から全開に向けての回転運動に応じた前記弁軸の角速度が含まれ、前記バルブは、前記弁軸を回動させることで流路を開閉又は制御する回転弁であり、前記弁軸は、アクチュエータを介した自動弁の出力軸と同軸に設けた制御軸又は手動ハンドルを介した手動弁のステムであり、前記角速度データは、前記弁軸の回転方向と略同一方向の角速度の測定値であり、前記回転弁は、クォータターン型のボールバルブ又はバタフライバルブであり、前記バルブは、前記ボールバルブのボールと弁座であるボールシートとを備えた構造又は前記バタフライバルブの弁体と弁座であるシートとを備えた構造であって、前記状態監視は、少なくとも前記ボールバルブのボールシート又は前記バタフライバルブのシートの摩耗状態の把握であり、前記角速度データから更に前記弁軸の回転角度を算出可能とすると共に、
前記弁体の開閉回数ごとの全開から全閉又は全閉から全開に応じた時間経過に伴う前記弁体の開度の
推移のうち、最初の開度の時間領域T1、又は、中間の開度の時間領域T2、又は、最終の開度の時間領域T3の少なくとも1つの時間領域における角速度の複数のピークの位置、大きさ、ピークの幅の少なくとも1つを表した数値をリファレンスデータとして予め記憶し、
前記時間領域において前記ジャイロセンサによって実測した角速度から得られる数値と、前記弁体の開閉回数に対応する前記リファレンスデータとして記憶した数値とを対比して前記ボールシート又は前記シートの摩耗状態を把握するようにしたことを特徴とするバルブの状態把握方法。
【請求項2】
バルブと、少なくとも半導体型のジャイロセンサを有する監視ユニットと、該監視ユニットに通信可能に接続されたデータベースを備えたサーバと、を備え、前記バルブを開閉する弁軸の角速度が前記ジャイロセンサによって測定され、該測定された角速度を含む角速度データに基づいて、このバルブの状態を把握するバルブの状態把握システムであって、
前記監視ユニットが、前記バルブの弁軸に対し着脱自在に固定され、前記ジャイロセンサによって、前記弁軸の回転方向と略同一方向の角速度を測定し、
前記バルブが、前記弁軸を回動させることで流路を開閉又は制御する回転弁として弁体であるボールと弁座であるボールシートとを備えたクォータターン型のボールバルブ又は前記回転弁として弁体と弁座であるシートとを備えたクォータターン型のバタフライバルブであり、
前記弁軸が、アクチュエータを介した自動弁の出力軸と同軸に設けた制御軸又は手動ハンドルを介した手動弁のステムであり、
前記角速度データには、この監視ユニットから得られる前記バルブの弁体の全開から全閉又は全閉から全開に向けての回転運動に応じた前記弁軸の角速度が含まれ、
前記データベースには、前記弁体の開閉回数ごとの全開から全閉又は全閉から全開に応じた時間経過に伴う前記弁体の開度の推移のうち、最初の開度の時間領域T1、又は、中間の開度の時間領域T2、又は、最終の開度の時間領域T3の少なくとも1つの時間領域における角速度の複数のピークの位置、大きさ、ピークの幅の少なくとも1つを表した数値がリファレンスデータとして予め記憶され、
前記監視ユニット及び/又は前記サーバは、
前記角速度データから更に前記弁軸の回転角度を算出可能であると共に、
前記時間領域において前記ジャイロセンサによって実測した角速度から得られる数値と、前記弁体の開閉回数に対応する前記リファレンスデータとして記憶した数値とを対比して前記ボールシート又は前記シートの摩耗状態を把握して前記バルブの異常診断を実行する異常診断手段が備えられていることを特徴とするバルブの状態把握システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブの状態把握方法とバルブの状態把握システムに関し、特にボールバルブなどのバルブの状態把握方法と状態把握システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、各種プラント、ビルなどの大規模設備、或は、家屋・店舗などの小規模建造物などの様々な場所で、各種の配管とバルブ、更に、これらのバルブの自動制御用の各種のアクチュエータを含む多様な配管設備が設けられる。この配管設備では、例えばボールバルブやバタフライバルブなどの回転弁は、90度回転型(クォータターンタイプ)の需要が高く、また、これらの駆動用アクチュエータとしては、シンプルな構成であって小型化も容易であり、コスト面でも優れる空気圧型アクチュエータが搭載されることも多い。
【0003】
通常、このような配管設備においても、バルブやアクチュエータなどの機器類を自動制御したり、稼働状況の管理や保守などを行う上で、機械的又は人為的など何らかの手段を介して、これらの機器類の状態を監視する手段が必要となる。さらに近年は、熟練者の人材不足や技術伝承の不足もますます顕著となってきており、配管設備のバルブやアクチュエータの状態監視のみならず、これらの機器の故障予知や寿命診断、さらには、製品・部品レベルにおける故障・症状ごとの適切な評価・判別など、より精密な状態検知能力と、その検知結果に基づき、様々な観点から機器を管理・制御できるシステムに対する需要も高まっている。
【0004】
特に、PTFEやPEEK材などの樹脂製弁座シートを備え、アクチュエータによる駆動力の下、複雑で微細な摩擦作用を連続的に受けて回動するボールバルブ(特にフローティング形式)やバタフライバルブなどの回転弁の類は、典型的な開閉弁或は流量調整弁として、地域や場所を問わず、多くの環境の下で多様な使用形態で用いられており、その精密な状態監視・診断手段への需要は、近年ますます高まっている。例えばボールバルブのボールシートは、バルブ機能の中核であると共に材質特性から状態変化も生じ易く、稼働中のボールバルブにおいて最も状態を把握する必要性が高い部分である。
【0005】
これに対し、少なくとも配管設備のバルブやアクチュエータの状態を監視することを目的とした手段としては、従来より種々の技術の提案があるが、例えば特許文献1では、デバイス、とりわけバルブやアクチュエータの動作から得られる特性グラフに基づいて、デバイスの様々な状態の確認が図られている。同文献1は、特性グラフを用いてプロセス構成制御部品の状態を判断するための方法であり、具体的には、あるデバイスで所定期間において特性グラフを測定した上で、同一のデバイスで別の期間内において特性グラフを測定し、これら2つの特性グラフを計算装置を介してモニタ上に表示することにより、特性グラフ同士の比較(境界値内にあるか否か)によって、デバイスの状態を計算装置で評価する方法が開示されている。
【0006】
一方で、上記のような多様な配管設備では、その構成や状況を問わず、様々な原因から、作業者による人為的手段、すなわち、アクチュエータやバルブの動作状況を現場で確認する必要が生じる場合がある。例えば、フィールドバスのような高度な計装システムを有していない簡素なプラント構成の場合は、管理室などで遠隔監視・制御することができないため、作業者が現場に出向いて個々のバルブやアクチュエータを逐一確認していく必要があり、また、遠隔監視システムが備えられていてもそれが故障等している場合にも、少なくとも現場確認が必要である。
【0007】
ただし、このような現場確認において、例えば、バルブアクチュエータの制御軸などに所定のインジケータなどが備えられていても、バルブやアクチュエータが複雑な管路や狭い場所などに設置された上で、このような配管状況に対応していない場合は、現場での確認作業が困難となっていた。また、遠隔監視可能に構成されている場合、システムの簡略化などに伴い、現場確認が想定されない設備として構成されることも多く、このような場合にも現場確認が困難である。さらに、現場確認を促進すべく、既設のアクチュエータやバルブに対して新たに記録・表示装置を設けようとした場合には、アクチュエータやバルブ・配管などの機器の分解や取り付け作業、或は交換作業まで必要となることが多く、しかも、このような装置類を設けた場合、アクチュエータなどが大型化して管路への配置ができなくなる場合すらある。
【0008】
このため、上記のような配管設備を巡る現場確認作業においては、バルブやアクチュエータの状態をその場で容易に確認できると共に、配管設備で既に配備され、或は稼動中のバルブやアクチュエータに対しても、例えばユニット式に構成されることで、新しく容易に後付け可能に構成された監視手段への需要も高い。また近年は、いわゆるIOT(internet of things)技術やクラウドコンピューティング技術を介してバルブなどの機器を管理できるシステム構成も望まれている。さらに、既存の計装システムを有していても、このシステムとは独立して簡易的に機器の状態把握ができるシステムの需要もある。この種の技術の提案も既にいくつか存在しており、例えば特許文献2、3が提案されている。
【0009】
特許文献2は、バルブの予測可能なメンテナンスシステムであり、具体的には、筐体側のサポート部材に着脱自在なボックスには磁気タイプのポジションセンサが収納される一方で、ステム側にはセンサに測定される磁場を生じるマグネットが所定間隔で配置されており、少なくともこれらから成る角度検知機構から得られるステムの角度位置と、ステムに備えられたトルクセンサからのトルク情報に基づいて、ボールやシートの損傷、或はアクチュエータの故障などの状態を予測するように構成されており、特に、トルク‐角度の曲線グラフから状態を評価する点が述べられている。
【0010】
特許文献3は、クォータターンバルブに搭載されるアクチュエータの上部にブラケットを介してアドオン型のバルブ監視ユニットが取り付けられる一方で、バルブのステム側には、アクチュエータ状態(ステムの角度位置)を読み取って監視ユニットへ角度変動信号を送信可能なセンサが取り付けられることで、バルブの状態をステムの角度位置に基づいて常時監視可能に構成されており、例えば、同文献のグラフ図には、時間に対するステム角度のグラフが示され、そのパターンに基づいて、バルブの不良状態を推測するようにした例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特表2009-543194
【文献】WO2016/139376
【文献】特表2015-528085
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1は、デバイスの特性グラフの比較・評価という観点では広く一般的な対象に適用し得ると考えられるものの、特性グラフの取得方法などについて具体的な手段の開示が無い。このため、例えば、ボールバルブやバタフライバルブなどの弁種ごと、或はこれらの弁座シートやパッキンなどの部品ごと、さらに、これらの損傷状態や交換時期など、個々の具体的な対象に関しては、精密な状態把握や診断は不可能である。よって、ボールバルブやバタフライバルブなどの具体的な対象ごとに、上記した精密な状態把握・診断は実施できる技術とは言えない。
【0013】
この点、特性グラフとして具体的に例示されているのは、空気圧式アクチュエータのアクチュエータ圧力と移動位置のグラフであるが、既設のアクチュエータから、すなわち配管接続後にこのような特性グラフを得ようとした場合、空気圧を吸排気する配管系を一度外して圧力センサなどをアクチュエータに組み入れ、再びアクチュエータを組み立てる必要があるため、監視装置として機器類に容易に後付けすることも不可能である。
【0014】
また、特許文献2、3の装置構成では、少なくともステムなどのバルブやアクチュエータ側に、被測定対象となる部材を別途取り付けることが必須であるから、同文献の装置は、外界情報計測タイプであり、このような被測定部材が必要とされる分、装置の部品点数や製造・管理工程が増加すると共に、取り付けの手間もかかって取扱性も損なわれ、しかも、適用対象も制限され使用性も損なわれるので、不利な点といえる。よって簡易な構成と後付け容易とすべき上記課題の観点から、未だ不十分である。
【0015】
さらに、同文献2、3では、あくまでステムなどの回転軸の角度を検知する角度センサのデータに基づいて機器の状態を把握している。しかしながら、後述するように、とりわけランダムな摩擦作用を受けながら回転する回転軸運動を簡易な構成にて詳細に把握する上では、少なくとも角度センサのみからなるセンサでは、運動の詳細な解析を実現するうえでは未だ不十分であり、特に寿命診断などに用いるデータ取得手段としては不十分である。具体的には、角度センサでは、角度の時間推移としては線形的ないしは滑らかな曲線的グラフしか得ることができず、これは、角度センサでは、あくまで精度の低い粗い不十分な運動データしか得られていないことを意味する。よって、角度センサによる角度情報によっては、より精密に対象物を状態把握・診断すべき上記課題の解決も不可能である。
【0016】
現に、同文献3に開示の角度―時間グラフにおいては、何れのリアルタイム測定値のグラフも線形ないしは緩やかな曲線を呈しており、よって、大まかな回転運動特性を捉えているに過ぎないと言える。特に、波状に振動した測定グラフも示されてはいるが、これらはあくまでバルブ回動が逆行した場合であって、単に大振りかつ極めて稀な運動を捉えたものに過ぎない。
【0017】
その他、上記課題に対し、少なくとも、バルブやアクチュエータの状態監視のためには、当然これらの状態(回転角度等)を計測可能なセンサが備えられる必要があり、特に、容易に後付け可能なセンサであれば有効であると考えられるが、この種の、例えば慣性センサ(慣性計測ユニット(IMU))がバルブやアクチュエータに設けられた類の技術は、従来からもいくつか提案されているものの、それらはあくまで弁の開度(回転角度)を計測する弁開度計として提案された技術しか存在しない。このため、慣性センサなど、容易に対象製品に対して後付けし得るセンサがバルブやアクチュエータに備えられていても、このセンサからどのようにしてどんなデータを取得するのか、或は、得られたデータをどのように上記課題(精密な状態把握や診断など)の解決に繋げるのか、等に関して知得できず、やはり上記課題の解決は不可能である。
【0018】
そこで、本発明は上記問題点を解決するために開発されたものであり、その目的とするところは、既設又は稼動中の様々なバルブ(回転弁)やアクチュエータ、特に商用電源が供給されないような設備にも容易に後付け可能であり、かつ、バルブやアクチュエータの詳細かつ精密な状態把握・診断或は故障予測も可能なバルブの状態把握方法と状態把握システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、バルブを開閉する弁軸の角速度データに基づいて、このバルブの状態監視をするバルブの状態把握方法であって、弁軸には、少なくとも半導体型のジャイロセンサを有する監視ユニットが着脱自在に固定されると共に、角速度データには、この監視ユニットから得られるバルブの弁体の全開から全閉又は全閉から全開に向けての回転運動に応じた弁軸の角速度が含まれ、バルブは、弁軸を回動させることで流路を開閉又は制御する回転弁であり、弁軸は、アクチュエータを介した自動弁の出力軸と同軸に設けた制御軸又は手動ハンドルを介した手動弁のステムであり、角速度データは、弁軸の回転方向と略同一方向の角速度の測定値であり、回転弁は、クォータターン型のボールバルブ又はバタフライバルブであり、バルブは、ボールバルブのボールと弁座であるボールシートとを備えた構造又はバタフライバルブの弁体と弁座であるシートとを備えた構造であって、状態監視は、少なくともボールバルブのボールシート又はバタフライバルブのシートの摩耗状態の把握であり、角速度データから更に弁軸の回転角度を算出可能とすると共に、弁体の開閉回数ごとの全開から全閉又は全閉から全開に応じた時間経過に伴う弁体の開度の推移のうち、最初の開度の時間領域T1、又は、中間の開度の時間領域T2、又は、最終の開度の時間領域T3の少なくとも1つの時間領域における角速度の複数のピークの位置、大きさ、ピークの幅の少なくとも1つを表した数値をリファレンスデータとして予め記憶し、時間領域においてジャイロセンサによって実測した角速度から得られる数値と、弁体の開閉回数に対応するリファレンスデータとして記憶した数値とを対比してボールシート又はシートの摩耗状態を把握するようにしたバルブの状態把握方法である。
【0021】
請求項2に係る発明はバルブと、少なくとも半導体型のジャイロセンサを有する監視ユニットと、この監視ユニットに通信可能に接続されたデータベースを備えたサーバと、を備え、バルブを開閉する弁軸の角速度がジャイロセンサによって測定され、この測定された角速度を含む角速度データに基づいて、このバルブの状態を把握するバルブの状態把握システムであって、監視ユニットが、バルブの弁軸に対し着脱自在に固定され、ジャイロセンサによって、弁軸の回転方向と略同一方向の角速度を測定し、バルブが、弁軸を回動させることで流路を開閉又は制御する回転弁として弁体であるボールと弁座であるボールシートとを備えたクォータターン型のボールバルブ又は回転弁として弁体と弁座であるシートとを備えたクォータターン型のバタフライバルブであり、弁軸が、アクチュエータを介した自動弁の出力軸と同軸に設けた制御軸又は手動ハンドルを介した手動弁のステムであり、角速度データには、この監視ユニットから得られるバルブの弁体の全開から全閉又は全閉から全開に向けての回転運動に応じた前記弁軸の角速度が含まれ、データベースには、弁体の開閉回数ごとの全開から全閉又は全閉から全開に応じた時間経過に伴う弁体の開度の推移のうち、最初の開度の時間領域T1、又は、中間の開度の時間領域T2、又は、最終の開度の時間領域T3の少なくとも1つの時間領域における角速度の複数のピークの位置、大きさ、ピークの幅の少なくとも1つを表した数値がリファレンスデータとして予め記憶され、監視ユニット及び/又は前記サーバは、角速度データから更に弁軸の回転角度を算出可能であると共に、時間領域においてジャイロセンサによって実測した角速度から得られる数値と、弁体の開閉回数に対応するリファレンスデータとして記憶した数値とを対比してボールシート又はシートの摩耗状態を把握してバルブの異常診断を実行する異常診断手段が備えられていることを特徴とするバルブの状態把握システムである。
【0026】
その他、バルブと、このバルブに固定されたモーションセンサを用いたセンサユニットと、このセンサユニットと通信可能に接続されたデータベースを備えたサーバと、を含むシステムであって、このデータベースには、バルブの開閉回数に応じた出力データと製品データを含む第2リファレンスデータテーブルが格納され、センサユニット及び/又はサーバには、バルブに備えられた摩耗部品の摩耗状態を把握してバルブの異常診断を実行するように構成された第4の異常診断手段が備えられ、この第4の異常診断手段は、バルブの開閉回数に応じてセンサユニットが計測する出力データと製品データを含む計測データを作成するデータ作成手段と、この計測データが有するバルブの出力データと略等しい出力データを有する第2リファレンスデータを第2リファレンスデータテーブルから取得するデータ取得手段と、この取得された第2リファレンスデータが有するバルブの使用頻度データに基づいてバルブの故障予知を判定する故障判定手段と、を含むバルブの状態把握システムである。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると、バルブの弁軸は、弁体と連動してその運動が直接伝わる部位なので、摩擦作用を通じた弁座の状態など、現時点におけるバルブの性能・症状がそのまま反映され易い弁体運動の観測部位として好適であると共に、ベアリングやパッキンなど様々な重要部位とも直接関連しているのでこれらの状態もそのまま反映され易い。
【0028】
一方で、少なくとも精度の高い(角)速度データの場合、本質的には位置(角度)データと異なり、測定した瞬間における対象物の運動特性がよく反映されている情報であって、例えば摩擦作用下でのランダムな運動においては、位置データには反映されない微細な運動特性も反映される。よって、バルブの弁軸の角速度データに基づけば、バルブの状態監視、診断、及び寿命予測が、容易かつ精密に実現できる。
【0029】
また、ジャイロセンサによれば、回転運動(回転摩擦)を複数のピークを含んだ非線形領域を有する角速度グラフとして取得できるから、捉えることが困難であった詳細な診断情報が簡易に取得され、このデータに基づいた詳細なバルブの状態把握が可能となる。また、元来ジャイロセンサは基準軸に対する回転運動を高い精度で検知するためのセンサなので、たとえ安価・低性能、或は汎用センサであっても、このような寿命予知用センサとして極めて有用である。
【0030】
また、実際に使用する段階では、ほぼ監視ユニットを個々の対象製品の弁軸部位に着脱自在に取り付けるだけの作業で、既存のシステムと独立した簡易なバルブの状態把握システムを構成できると共に、取り付け対象(製品種別や配管状況、稼働の有無など)や取り付け方法の幅も極めて広いから、作業者を選ばず様々な対象製品に対して極めて容易に後付け可能である。しかも、監視ユニットとしてコンパクトに機能を集約できるから、製品としての取扱性や使用性、或はコスト面などにも優れる。
【0031】
また、少なくとも回転弁の回転軸を測定対象としたので、ジャイロセンサによる測定対象運動は、変位しない基準軸に対する単純な軸回転運動のみから成るから、軸回転運動センサとしてのジャイロセンサの機能を最も発揮し易く、このため、簡易な構成のみで精密な運動測定が可能となる。
【0032】
また、手動・自動を問わず様々な場面に多数普及しており、多様なニーズで現在又は将来的にも需要が高いクォータターン型ボールバルブ又はバタフライバルブに対する状態把握が可能となる。また、とりわけバルブの運動から得られた角速度データから角度計算をする際には、積算範囲(角度変位)が最大で90度と小さいので、積算されていく誤差も小さな範囲で済ませることができ、計算資源や機器の構成の節約に繋げることも可能となる。
【0033】
また、弁座、グランドパッキン、及び/又はステムベアリングは、それぞれバルブの要所を担い、摩耗状態を含むこれらの性能は、バルブの重要な機能を左右する一方で、内部に組み込まれた消耗部材であるから、これらの摩耗状態は、バルブ機器の取り外し・分解や部品の取り出し・目視による検査が通常であり、少なくとも非破壊的に簡易かつ迅速な摩耗状態の把握は困難であった。しかしながら、本発明によれば、このような製品の寿命に関わる重要な内部部品・部分などに対しても、極めて容易に詳細な診断が実現できる。
【0034】
さらに、角度・開度情報は様々な場面においてバルブの基本的な情報として重要であり、角速度データを少なくとも角度計算に有効利用可能となる。
【0035】
また、バルブの開閉回数に応じて、角速度グラフに表れる複数のピークの位置、大きさ、ピーク幅を把握することにより、ボールバルブのボールシートの摩耗状態やバタフライバルブのゴムシートの減耗やシール面の劣化を推測し、バルブの故障予測に利用することができる。
【0036】
また、バルブの摩耗部品の摩耗状態を、バルブの実運転から得られる計測データの特徴量に基づいて診断するようにしているから、運転シグナルから機器の状態把握を行ういわゆる非破壊検査の手法による異常診断が可能となる。このことは、一つの配管上に複数のバルブが配設されている配管システムにおいてはシステム全体のメンテナンスの面で合理的に交換できるようになることにほかならない。すなわち、一つのバルブをメンテナンスする場合でもその配管は運用を停止しなければならず、現状、まだ使用できるバルブが他に配設されていたとしても全交換しているが、本発明によれば、使用頻度の少ないバルブの実質的な耐用年数は他の同じバルブよりも長いことから交換しなくても良く、メンテナンスに関わるコスト低減を図ることができる。しかも、新品~故障までの全期間データを保有していることから、ある程度使用期間が経過しているバルブにジャイロセンサを取り付けても使用状態が把握できる。よって、故障予測の制御を市場で速やかに展開できる。
【0037】
また、弁軸の回転運動は、ジャイロセンサで計測される角速度グラフに特徴付けされる傾向が極めて強いから、計測データの処理も極めて行い易く、特に機械学習などの大量のデータ処理の観点からも、対象物の状態把握に極めて好適である。
【0038】
また、特徴量を、いくつかの認識し易いグラフパターンのみに特定しているから、処理し易い特徴量データを抽出できる。
【0039】
角速度データから得られる明瞭なパターンに基づいて、リファレンスデータから、簡易な処理を介して容易にバルブの診断を実行できる。また、バルブ製品の実運転から得られるリファレンスデータを極めて有効利用できる。しかも、所定の機械学習の適用も可能である。
【0044】
その他、第2リファレンスデータテーブルに予めバルブの新品状態から故障状態までの全てのデータが格納されている場合は、バルブの使用頻度データに基づいてバルブの故障予知を判定する故障判定手段により、3か月前、2ヶ月前とか言うように交換時期を刻々と段階的に報知することができる。しかも、新品~故障までの全期間データを保有していることから、ある程度使用期間が経過しているバルブにジャイロセンサを取り付けても使用状態が把握できることから、故障予測の制御を市場で速やかに展開できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】本例のアクチュエータ付きボールバルブの外観斜視図である。
【
図4】本例の監視ユニットの内部構造を示したブロック図である。
【
図5】特定条件下の実施例(試験番号10)で得られた角速度グラフの一例である。
【
図6】特定条件下の実施例(試験番号10)で得られた角速度グラフの一例である。
【
図7】特定条件下の実施例(試験番号10)で得られた角速度グラフの一例である。
【
図8】特定条件下の実施例(試験番号10)で得られた角速度グラフの一例である。
【
図9】特定条件下の実施例(試験番号10)で得られた角速度グラフの一例である。
【
図10】
図3のB-B線断面図であり、全閉状態のボールバルブの一例を示した断面図である。
【
図11】
図3のB-B線断面図であり、途中開度のボールバルブの一例を示した断面図である。
【
図12】
図3のB-B線断面図であり、途中開度のボールバルブの一例を示した断面図である。
【
図13】
図3のB-B線断面図であり、途中開度のボールバルブの一例を示した断面図である。
【
図14】
図3のB-B線断面図であり、全開状態のボールバルブの一例を示した断面図である。
【
図15】特定条件下の実施例(試験番号2)で得られた角速度グラフの一例である。
【
図16】特定条件下の実施例(試験番号2)で得られた角速度グラフの一例である。
【
図17】特定条件下の実施例(試験番号2)で得られた角速度グラフの一例である。
【
図18】特定条件下の実施例(試験番号8)で得られた角速度グラフの一例である。
【
図19】特定条件下の実施例(試験番号8)で得られた角速度グラフの一例である。
【
図20】特定条件下の実施例(試験番号8)で得られた角速度グラフの一例である。
【
図21】特定条件下の実施例(試験番号11)で得られた角速度グラフの一例である。
【
図22】特定条件下の実施例(試験番号11)で得られた角速度グラフの一例である。
【
図23】特定条件下の実施例(試験番号11)で得られた角速度グラフの一例である。
【
図24】ボールシートの摩耗量の測定状況の一例を説明した模式説明図である。
【
図25】他例(初動)で得られたX軸角速度グラフの一例である。
【
図26】他例(初動)で得られたY軸角速度グラフの一例である。
【
図27】他例(初動)で得られたZ軸角速度グラフの一例である。
【
図28】他例(20000回)で得られたX軸角速度グラフの一例である。
【
図29】他例(20000回)で得られたY軸角速度グラフの一例である。
【
図30】他例(20000回)で得られたZ軸角速度グラフの一例である。
【
図31】本発明のバルブの状態把握システムの概略を示したブロック図である。
【
図32】本発明のバルブの状態把握システムの異常診断プロセスの概略を示したフローチャート図である。
【
図33】第4の異常診断手段による異常診断プロセス(通常フロー)を示したデータフロー図である。
【
図34】第4の異常診断手段による異常診断プロセス(リファレンス作成フロー)を示したデータフロー図である。
【
図35】他例(初動)で得られた加速度グラフの一例である。
【
図36】他例(20000回)で得られた加速度グラフの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下に、本発明の実施形態におけるバルブの状態把握システムを図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本実施形態における監視ユニット1をアクチュエータ2に取り付けた状態のアクチュエータ付きボールバルブの外観斜視図であり、
図2は、
図1においてアクチュエータ2の上側からみた外観平面図である。また、
図1は、バルブ3の全開状態であり、X軸は流路軸心方向に一致し、このX軸に対しY軸は制御軸4が延び出る方向(同図上方向)であり、Z軸はXY軸の右ねじ方向である。
【0047】
図1、2において、監視ユニット1のケース(収納手段)は、片手で掴んで容易に持ち運べる程度のコンパクトな大きさ・重量であれば、外形や材質等は実施に応じて任意に選択できるが、本例では、長さ約15cm×10cm、厚み約3cmの矩形板状に形成され、完成品として重さ数百グラム程度となる樹脂製筐体であり、例えば正面側には、製品情報や品番、或は取付方向(使用方法)などが表示され、背面側には、図示していないめねじ孔や接着面などからなる所定の取付部が設けられ、取付具5を取り付けることができる。この他、例えば、同じ程度のサイズの丸形円盤状に形成してもよい。
【0048】
取付具5は、取付手段の一例であり、本例ではL型金板から成り、取付面となる一側面には監視ユニット1の背面側に固着され、他面側にはアクチュエータ2の制御軸4上端部にボルト6で固着されている。ここで、NAMUR規格とは、アクチュエータの標準的なインタフェース規格(VDI/VDE3845-2010)であり、バルブの取り付けや、アクチュエータ上部の付属品取付用の寸法が規定されているが、アクチュエータ2が、このNAMUR規格準拠品であれば、制御軸4上端部には、この規格に対応した図示していないメネジ部が設けられているので、このメネジ部を利用して監視ユニット1を取付具5を介して容易にアクチュエータ2に後付けすることができる。
【0049】
ここで、既に使用されているアクチュエータにおいては、制御軸4の上部に開閉リミットスイッチなどの付属機器が取り付けられていることがある。この場合、本例のL型金板を用いることにより、付属機器が取り付けられた制御軸4の上部の空間も確保しつつ、監視ユニット1を制御軸4に取り付けることができる。
【0050】
図1、2、4において、本例の監視ユニット1に内蔵される矩形状半導体素子であるジャイロセンサ7は、矩形状の監視ユニット1の短辺・長辺にそれぞれ平行となるように内部基板に備えられている。具体的には、
図1、2において、監視ユニット1は、XY平面に平行な姿勢で取り付けられており、この状態で、ジャイロセンサ7のヨー軸はZ軸方向に一致し、ロール軸とピッチ軸はそれぞれY軸とX軸方向に一致している。
【0051】
図2において、本例では、バルブ3が全開状態となっている基準位置において、監視ユニット1に内蔵されたジャイロセンサ7は、制御軸4位置に対して2重に偏心した位置となるように設けられている。具体的には、制御軸4の軸心位置(流路26a、27aの軸心方向)に対し、監視ユニット1は、取付具5を介して、平行に偏心距離α(同図右方向)だけ離れた位置に配置されると共に、ジャイロセンサ7の基板上の位置に応じて、ボルト6の軸心位置(流路26a、27aの軸心に垂直方向)に対し、偏心距離β(同図下方向)だけ離れた位置に配置されている。本例では、α=18mm、β=33mmに設定している。
【0052】
ジャイロセンサ7が、このような2重偏心位置に配置されるようにすれば、少なくとも、監視ユニット1を対象製品に取り付ける際に、他の部材が存在しない空いたスペースを利用し易くなると共に、コンパクトに監視ユニット1を対象製品に取り付け易く、様々なサイズ、構造、姿勢となった製品に対してもその場で容易に後付け可能となり、特にラフな取り付けの作業性がよく、取付対象の幅も広がる。また、制御軸4位置に対して監視ユニット1の位置を近い距離に保ったまま、計測対象となる回転軸である制御軸4からの回転半径(α2+β2)1/2を多く確保できる。なお、ジャイロセンサの配置は、取付具5を介する構造に限られるものでは無く、制御軸の軸心方向中間位置において、制御軸を挟む形で固定される取付具により固定するようにしても良い。
【0053】
このように、弁軸には、少なくとも半導体型のジャイロセンサ7を有する監視ユニット1が着脱自在に固定される。また、後述するように、本発明では、バルブ3を開閉する弁軸の角速度データに基づいて、このバルブの状態監視、診断、及び寿命予測をするようにしており、この角速度データには監視ユニット1から得られる弁体(ボール30)の全開又は全閉から全閉又は全開に向けての回転運動に応じた角速度グラフ化されたデータ(
図5~9、15~23)が含まれる。さらに、本例では監視ユニット1を制御軸4に取り付けているが、適宜の取付手段を介して出力軸14に取り付けるようにしてもよい。
【0054】
図4においては、監視ユニット1に内蔵される基本的な構成の一例をブロック図として示しており、この構成に限定されず実施に応じて任意に選択可能であるが、少なくとも、モーションセンサとしてのジャイロセンサ7(角速度センサ)を有している。本例のジャイロセンサ7は、ICタイプのMEMS(Micro Electric Mechanical System)技術を駆使した振動型ジャイロセンサであり、半導体式で内部基板に備えられている。
【0055】
具体的には、直交XYZ3軸方向の回転を計測可能な3軸ジャイロセンサであり、現在は、一般的な様々な民生機器に搭載されているものを用いている。より具体的にはSTマイクロ社製「L3GD20」製品を用いており、その特性として例えば、電源電圧:DC3.3V(動作範囲:DC2.4V~DC3.6V)、消費電流:6.1mA、測定範囲:±250dps(分解能:0.00875dps)、±500dps(分解能:0.0175dps)、±2000dps(分解能:0.07dps)を有している。ただし、このような特性に限らず、実施に応じて任意に選択・調整できることは勿論である。
【0056】
その他、
図4において、監視ユニット1には、少なくとも、CPU8(中央演算処理装置)、メモリ9、通信モジュール10、電源11、ICタグ12を備えており、後述の本実施例には温度センサも備えている。さらに、上記ジャイロセンサ7の他、図示しない加速度センサや磁気センサを組み合わせて本発明のシステムに利用してもよい。また、省電力化のため、ピエゾセンサを組み合わせて、必要な時にジャイロセンサを作動させるようにしてもよい。
【0057】
CPU8は、キャッシュも含む意味であり、一般的なスペックのものを使用でき、実施に応じて任意に選択可能であるが、特に、後述の各機能(特に省電力機能)を実現することができる処理能力を備えていることが必要である。このCPU8は、バスを介してメモリ9、通信モジュール10などの周辺素子に接続されている。メモリ9も、CPU8同様に、後述の各機能を実現できる能力(容量や速度)を備えるものが、実施に応じて任意に選択されるが、連続的な電源供給を想定していない場合は、不揮発性のメモリが好ましい。さらに、省電力機能などを実行する各種のアプリケーションを余裕をもって読み込める容量であれば好適である。
【0058】
通信モジュール10は、近距離無線通信モジュールであることが望ましく、本例では、Bluetooth(登録商標)が使用される。この通信モジュール10を介して、少なくともジャイロセンサ7による角速度データやその推移が図示しない外部の携帯端末との間で通信され、この携帯端末により専用のアプリケーションを介して自動弁の状態記録や表示確認可能となる。また、Bluetooth(登録商標)以外にも、赤外線、Wi-Fi Direct等を用いることもできる。
【0059】
電源11は、所定の電源変換回路も含み、実施に応じて任意に選択されるが、例えばボタン電池による独立電源、或はバッテリー電源であり、例えばボタン電池の場合、その着脱位置には、図示しないシール部材を介して円盤状の電池用蓋が蓋体に形成された穴部に係合固定され、マイナスドライバー等により所定角度回転させて着脱可能に設けられている。電源11には、ジャイロセンサ7、CPU8、メモリ9、通信モジュール10を含む各素子が接続され、これらの駆動源になっている。
【0060】
ICタグ12は、アクチュエータ2やバルブ3の固有情報が蓄積され、その情報としては、少なくとも、(1)アクチュエータ2やバルブ3の型式や注文番号、(2)アプリケーションソフトのダウンロード用URLがあり、これらの蓄積情報が図示しない専用端末などにより入力される。アプリケーションソフトのダウンロード用URLは携帯端末用であり、このダウンロード用URLからアプリケーションソフトを入手可能になっている。
【0061】
上述した監視ユニット1は、少なくとも、対象製品(バルブ3やアクチュエータ2)の状態監視・把握機能の一部として、データ測定機能と、該測定データを蓄積する機能とを有している。測定対象のデータには、少なくとも、時間毎や開閉回数毎の制御軸4における角速度データが含まれ、入手データは、ジャイロセンサ7から出力され、CPU8におけるデータ処理を介してメモリ9に蓄積される。この場合、外部のモニタへグラフとして表示可能なデータ形式へ変換してもよい。また、これらデータは例えば、CPU8から一定時間毎にメモリ9に蓄積される、いわゆる「間引き」や、データの平均値、或は所定のフィルタリング(ノイズ除去)など、少なくとも簡易的なデータ加工がおこなわれた後に、メモリ9に蓄積されるように設定されてもよい。蓄積データは、携帯端末からの要求に応じてBluetooth(登録商標)である近距離無線通信モジュール10を介して携帯端末に送信され、この携帯端末によりアクチュエータ2、バルブ3の状態記録が表示確認される。
【0062】
また、後述のように、監視ユニット1は、監視・把握されたバルブの状態に基づき、バルブ(対象製品)の部品・部分レベルの故障予測などの症状診断を行うプロセス(各種の処理ステップから成るフロー)で必要となる各種の機能や、省電力機能、補助センサ(加速度センサなど)によるデータ校正機能などのオプション的な機能、或は外部から入手された所定のアプリケーションで実行される機能を備えることができる。
【0063】
また、このような各種の機能は、監視ユニット1において実行されても良いし、外部のサーバなどにおいて実行されても良く、必要に応じて適宜割り当てられる。特に、角速度データに基づいて、更に角度データを算出可能に構成されている場合、ジャイロセンサ7のドリフト補正用として適宜加速度センサを用いると共に、積分手段を介さず四則演算からなる積算(矩形法など)によれば、データの精度と消費電力や負荷の観点から好適である。さらに、外部サーバなどに、監視ユニット1からのデータ分析に用いる所定のデータベースが構成されていてもよい。
【0064】
本発明では、基本的に、測定した角速度データから角速度グラフを得て、このグラフデータの形状・パターン分析に基づいて、寿命予測プロセスを含む各種の診断プロセスを実行するものであり、この診断プロセスには、例えば、グラフパターンを認識・評価するプロセス、既存の蓄積データ(比較用グラフデータ)の呼び出しと得られたグラフパターンとの比較プロセス、症状の判定プロセス、結果や警告などの出力・表示プロセスなどが含まれ、このような各種のプロセスが適切に実行可能となるように物理的又は論理的なシステムが構成される。
【0065】
更に、対象製品の固有情報として、流体圧力や粘度・温度、製品環境の温度や湿度、バルブの開閉回数や設置後の稼働時間、アクチュエータの供給圧や作動速度、或は、ボールバルブにおけるボールシートやパッキンの材質や摩耗係数、ボールや流路のサイズ、といった各種の固有データを測定・保持する機能、これらのデータを外部に出力・表示させる機能、或はこれらを上記プロセスに用いる機能などを備えてもよい。
【0066】
特に、ジャイロセンサ7は電気の消費量が多く、本発明の監視ユニット1は、長い場合は数年レベルの長期間放置して用いられることから、節電の観点からジャイロセンサ7と電源11の組み合わせを選定することが重要であると共に、省電力機能も重要となる。例えば、CPU8を通常は省電力状態とし、ジャイロセンサ7からのデータは受信する一方、これらのデータのメモリ9への蓄積は行わない状態とする。そして、アクチュエータ2の動作が検知されたときに省電力状態が解除されて、少なくともジャイロセンサ7により検出された角速度データが、メモリ9に蓄積されるようにしてもよい。アクチュエータ2の動作が検知されない状態が所定時間経過した後は、省電力状態に戻るようにしてもよい。なお、省電力機能として、例えば、自家発電タイプ(振動発電、太陽光発電など)のジャイロセンサを用いてもよい。
【0067】
一方、
図1~3において、本例では、監視ユニット1の監視対象製品として、複作動型スコッチヨーク構造の空気圧式ロータリーアクチュエータ2と90度回転式のボールバルブ3を示している。
【0068】
図1~3において、アクチュエータ2の本体内部には、往復運動を回転運動に変換する変換機構13が設けられており、この変換機構13の回転力を出力軸14によってボールバルブ3のステム15に出力可能となっている。変換機構13は、回転軸(弁軸)に伝達するスコッチヨーク35と、このスコッチヨーク35を係合する一対のピンローラ16をピストンロッド17に設けた構造から成っており、これらはハウジング18に内蔵されている。
【0069】
ハウジング18の一方側、
図3において右側には、シリンダ部19が固定され、このシリンダ部19のシリンダケース20内にピストンロッド17に一体化されたピストン21が収納されている。シリンダケース20は例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やENP(無電解ニッケルメッキ)、Hcr(硬質クロムメッキ)などの材料でコーティング処理されてもよい。本例は複作動式であり、シリンダ部19にはエア吸排口38、39が設けられ、このエア吸排口38、39によるエア室22a、22bへの圧縮エアの吸排に応じて、ピストン21が往復運動し、これに伴いピストンロッド17が直線状に往復運動し、この運動は、ピンローラ16を介してスコッチヨーク35に伝達されて回転運動に変換される。
【0070】
スコッチヨーク35には、回転軸が、図示していないスプライン等によって嵌合可能に設けられた固着部23を介して抜き差し可能に設けられており、回転軸の回転は、固着部23を介してスコッチヨーク35に伝達される。
【0071】
本例の回転軸は、ボールバルブ3側(
図3下側)の出力軸14と、その反対側(
図3上側)の制御軸4から成り、出力軸14と制御軸4は、何れも筒状部材24、25を介してハウジング18に装着されている。筒状部材24、25は、図示しない金属製のシャフトベアリング内に所定のベアリングが圧入されており、この筒状部材24、25をハウジング18に形成された軸受部にそれぞれ圧入し、その内側に出力軸14、制御軸4が挿入され、回転軸がアクチュエータ2本体に対して回動可能に軸着されている。
【0072】
なお、実施に応じて適宜アクチュエータ2に圧力センサ(図示せず)を設けることができる。この場合例えば、エア吸排口38、39にスピードコントローラ(図示せず)を設け、これらエア吸排口38、39とスピードコントローラとの間に、チーズ管やニップル管等の継手を介して圧力センサを接続すれば、チーズ管の分岐部分に圧力センサを装着することで、圧縮エアの吸排気に悪影響を与えることがなく、簡単な構造により圧力センサによる圧力測定が可能となる。
【0073】
本発明のシステムによる状態把握対象はバルブであり、本例では、弁軸を回動させることで流路を開閉する回転弁であり、弁軸は、アクチュエータ2を介した自動弁の出力軸14と制御軸4から成る。ただし、対象とする弁軸は自動弁のものに限らず、図示していないが、手動ハンドルを介した手動弁のステムから成る回転軸であってもよい。また、本例の回転弁は、クォータターン型のボールバルブであるが、その他、プラグバルブやバタフライバルブ、或は180度回転型のボールバルブなど、電動で作動するタイプも含めて、各種の回転弁が対象となる。
【0074】
図1~3のボールバルブ3は、フローティング型ボールバルブであり、弁箱は、1次側流路26aを有するボデー26と、2次側流路27aを有するボデーキャップ27とがボルト・ナット28で固着されて構成され、ボデー26とボデーキャップ27には、流路26a、27aの接続部にそれぞれフランジが形成されている。
【0075】
弁体であるボール30は、略球形状部分と、流路26a、27aと同径に形成された貫通路30aを有したフルボアタイプであり、弁室内で1次側と2次側から弁座である2つの環状ボールシートA1、A2により支承されており、このボールシートA1、A2によるボール30の締め付けは、ボルト・ナット28の締め付けにより調整される。ボール30の上端部には、ステム15(弁棒)が係合できる係合部29(例えば、二面幅の凹凸係合部)が形成されており、この係合部29を介して、ボール30の回転運動が高い精度でステム15に伝達される。
【0076】
ステム15は、筒状のステムベアリングBを介してボデー26のグランド部31に回動自在に装着されていると共に、ステム15とグランド部31との間には、グランドパッキンCとパッキン座金がパッキン押え32によって圧入されている。パッキン押え32の締め付けは押さえボルト33の締め付けにより調整される。アクチュエータ2本体とボールバルブ3との連結部材であるブラケット34は、ボルト40で固定されている。また、出力軸14の下部には図示しない角形状の接続部が形成されており、この接続部にステム15の上部に形成された図示しない嵌合部を嵌合させて出力軸14とステム15とが連結されており、出力軸14の回動運動が高い精度でステム15に伝達される。
【0077】
図1において、点線で示したロータリーエンコーダ37は、本発明のシステムによる状態監視前に、予め対象製品に取り付けて必要なデータを得て本発明に利用するためのものであり、本発明の実際の使用場面では、基本的に使用することは想定されていない。同図のエンコーダ37の場合は、略コ字状の取付板36を介して制御軸4上端部に接続され、少なくとも制御軸4の回転角度を正確に計測し、計測データは対象製品の固有データとして適宜保持される。本例では、オムロン社製「E6C3-C」製品を用いている。
【0078】
続いて、本発明のバルブの状態監視システムにおける基本的な使用方法を説明する。監視ユニット1は、対象製品(バルブやアクチュエータ)の装着し易い箇所に適宜取り付けることができ、例えば対象製品の作動の邪魔にならず長期間放置できる箇所に取り付けられ、前述の
図1、2に示した取付形態に限られるものではないが、少なくとも、制御軸4(弁軸)の回動と正確に供回りする形態で取り付けられる必要がある。
【0079】
図1、2に示される形態で固定する際には、NAMUR規格にて制御軸4上端に設けられているメネジ部に取付具5のボルト孔を合わせると共に、適切な固定方向に取付具5を向けた状態でボルト6を螺着させるだけで固定できる。よって、本発明の監視ユニット1は、既設のアクチュエータ2やバルブ3を配管設備から取り外したり、アクチュエータ2をバルブ3から取り外したりすることなく、また、既存の計装システムとの調整などは一切行うことなく、簡単に対象製品の所定位置に後付け可能であり、このように装着した後には、制御軸4の回転運動特性を正確に把握できる。
【0080】
また、上記取り付け形態は、外方への突出を抑えて設置スペースの拡大を防止している。そのため、狭い空間に設置された自動弁にも取付け可能となる。監視ユニット1は、アクチュエータ2に対して180°ずらした位置に装着することもでき、この場合にも、前記と同様にしてボルト6の着脱のみで装着可能となる。これにより、バルブ3、アクチュエータ2の設置状況に応じて180°対向した任意の側に監視ユニット1を設けることができる。
【0081】
さらに、バルブ3が全閉状態の場合に限らず、このバルブ3が中間開度であって制御軸4が回転途中にある場合であっても、この制御軸4に対して、適宜位置決めしながら監視ユニット1を取り付けていることで、自動弁が稼働中であっても正確に取付けて初期設定作業が可能となる。
【0082】
監視ユニット1の装着後には、携帯端末を用いて各現場のバルブ3の動作状況を視認できる。その際、Bluetooth(登録商標)からなる通信モジュール10を使用していることで、バルブ3、アクチュエータ2が複雑な管路や狭い場所に設置されている場合でも、これらを直接視認することなく近接した場所から携帯端末で確認できる。
【0083】
予め初期設定モード機能を取り入れている場合は、監視ユニット1の設置直後に携帯端末で初期設定作業をおこなう際に、監視ユニット1の使用態様に応じて適宜初期設定モードの状態にリセットするだけでよい。この場合、例えばバルブ3の全閉状態に合わせて角度データなどのデータを初期値に設定する。この際も、アクチュエータ2やバルブ3など、対象製品側における調整作業は不要であり、例えばICタグ12に保持された製品情報や注文番号を利用して設定できる。また例えば、携帯端末用アプリケーションソフトをダウンロード用URLからダウンロードし、初期設定のデータをサーバに送信すれば、監視ユニット1の設置日が記録できる。
【0084】
初期設定作業の終了後には、この初期設定モードから通常モードに切り替えるようにする。前述のように、通常モードの切り替え時には、一定時間経過後に電源11をオフ状態にして省電力モードに移行するように設定しても良い。
【0085】
一方で、上記の携帯端末としては、例えば、図示しないスマートフォン、タブレットなどが用いられる。この場合、データのインプットに関する機能として、例えば、(1)監視ユニット1からのデータや固有情報の受信機能、(2)監視ユニット1から受信したデータや固有情報をサーバ(図示せず)に送信する機能、(3)GPS(全地球測位システム)位置情報やカメラ画像などを保持し、サーバに転送する機能を有している。
【0086】
(1)監視ユニット1からのデータや固有情報の受信機能においては、制御軸4の回転時の角速度データは、通信モジュール10を介して受信され、一方、アクチュエータ2やバルブ3の固有情報は、ICタグ12を介して受信される。
【0087】
(2)監視ユニット1から受信したデータや固有情報をサーバに送信する機能においては、例えば、図示しないLTE(ロング・ターム・エボリューション)やWi-Fi(ワイファイ)などの中距離無線通信モジュールが用いられ、これらによりサーバに送信される。この場合、測定データの加工がおこなわれることはない。
【0088】
(3)GPS位置情報やカメラ画像などを保持し、サーバに転送する機能は、オプション機能であり、この機能においては、携帯端末のカメラにより撮影されたアクチュエータ2の状態がサーバに送信される。
【0089】
一方、携帯端末を用いたデータのアウトプットに関する機能として、例えば、(1)サーバに送信したデータに基づき、サーバから受信した情報を表示する機能、(2)サーバを介すること無く、監視ユニット1から受信した情報に基づきアプリケーションソフトにより判定された異常速報などの情報を表示する機能を有している。
【0090】
図示していないが、(1)サーバに送信したデータに基づき、サーバから受信した情報を表示する機能においては、少なくともバルブやアクチュエータの診断結果を含む情報を視認しやすい形態で表示可能とされる。例えば、測定されたバルブの開閉回数に応じた角速度データを、グラフ上で、比較対象データとともに全開から全閉まで(全閉から全開まで)の範囲で表示した上で、その判定結果が表示される。また、アクチュエータ2の作動回数、稼働時間、圧力データや作動トルク履歴、流体の圧力や温度、環境温度や湿度、さらに、アクチュエータ2やバルブ3の図面などをそれぞれ表示可能になっている。
【0091】
また、その他の機能として、上記履歴に基づくメンテナンス推奨情報などを表示したり、或は、監視ユニット1の初期設定における誤入力の疑いがあったときや、監視ユニット1を取り付けた対象製品が模倣品であったときに、これを表示するようにしてもよい。例えば、ICタグ12に入力された、アクチュエータ2やバルブ3の型式や注文番号(注文毎に異なる特別な仕様)に対し、アクチュエータ2の作動時間が極端に早い場合や遅い場合、或いは、携帯端末のカメラで撮影された現場のアクチュエータ2が小さい場合などが挙げられる。
【0092】
一方、(2)サーバを介すること無く、装置から受信した情報に基づきアプリケーションソフトにより判定された異常速報を表示する機能としては、例えば、作動時間が極端に長い場合や、空気圧が付与されているにも関わらずジャイロセンサ7の値が変わらない場合、すなわちアクチュエータ2が作動していない場合には、異常と判定して速報として表示する。さらに、このような異常値が測定された場合には、サーバへのデータ送信を促す旨の表示を合わせておこなう。
【0093】
続いて、上述したシステムに用いられるサーバとしては、(1)アクチュエータ2やバルブ3の固有情報蓄積機能、(2)アクチュエータ2の角速度データや空気圧の測定データの蓄積機能、(3)アクチュエータ2の作動トルク計算機能、(4)携帯端末との送受信機能を有している。
【0094】
(1)アクチュエータ2やバルブ3の固有情報蓄積機能としては、図面情報や、作動トルクの算出に用いるアクチェータ2の設計情報を蓄積する。(2)アクチュエータ2の角速度や空気圧の測定データの蓄積機能としては、携帯端末から複数回にわたり受信する場合には、これらの測定データを一連のものとして蓄積する。(3)アクチュエータ2の作動トルク計算機能としては、例えば、携帯端末から受信した空気圧データに基づき、図示しないアクチュエータ2のシリンダ径、ピニオン(或はスコッチヨーク)の中心軸からのオフセット量、変換効率などから算出する。(4)携帯端末との送受信機能としては、LTEやWi-Fiなどの中距離無線通信モジュールによりおこなうようにする。
【0095】
なお、上記実施形態においては自動操作用アクチュエータとして空気圧式アクチュエータを用いた例を説明したが、空気圧以外の流体圧式アクチュエータであったり、或は電動式であってもよい。取付具5や監視ユニット1のケースは、バルブ3やアクチュエータ2のサイズに応じて、その外形を対応させながら変更することもできる。さらに、上記実施形態においては、制御軸4がNAMUR規格により設けられているが、これ以外の規格により設けられていてもよく、この場合にも形状に応じて形成することにより、NAMUR規格の場合と同様にアクチュエータに後付け容易に取り付け可能となる。
【0096】
ここで、後述する実施例は、90度回転フローティングボールバルブにおけるボールシートの診断を示した例であるが、本発明のシステムはこの対象に限らず、広く対象製品から採取された角速度データを含むデータから生成される特性グラフ(角速度グラフ)の形状・パターンの分析により、対象製品の特定部分・特定症状のレベルで、詳細に診断できる。特にバルブの場合は、対象部分・部品として、少なくとも弁座、グランドパッキン、及び/又はステムベアリングの摩耗状態の把握が含まれていれば好適である。
【0097】
また、実施例の角速度グラフである
図5~9、15~23に示されているように、角速度グラフには、少なくとも複数個のピーク値が示されている。このようなピーク値を有する開度又は時間発展グラフは、例えば、回転弁に設けられる通常の角度(位置)センサからは得ることができず、よって従来技術では、このピーク値の情報(グラフ上の位置や値、ピーク幅など)に基づいて詳細な診断を行う本発明のようなシステムを構成することはできない。本願発明者
らの鋭意研究によれば、このような角速度グラフは、前述のように、少なくともジャイロセンサ7によって得ることができることが判明している。
【0098】
このことは、少なくともMEMS製半導体タイプの振動型ジャイロセンサの場合、その測定原理から、次のように考察される。すなわち、通常の角度センサは、あくまで時間幅ごとに離散的な角度を捉えることしかできないので、角度データから角速度に変換する場合は、時間発展グラフ上では、時間幅間の傾きとして算出するしかない。一方で、ジャイロセンサの場合は、振動素子が感じとる瞬間的なコリオリ力を角速度に変換して測定しているので、設定次第で、ほぼ現実の角速度を正確に測定可能である。また、これを角度センサで実現しようとした場合、少なくとも時間幅を極めて小さく設定する必要があり、現実的ではない。
【0099】
この点、滑らか・緩慢で連続的な運動の場合は、両者(角度センサとジャイロセンサから得られる角速度データ)にはあまり違いが出ないが、微細でランダム・非連続的な摩擦作用を受けながら運動する対象、例えば回転弁の弁棒の回転運動などにおいては、両者の違いが表れ、具体的には、角度センサから得られる角速度グラフには、微細な動きまで詳細に追随することができず、よってピークのような非曲線的、振動的なパターンが得られないが、ジャイロセンサの場合は、摩擦作用による弁棒の微細な動きまで良く捉えることができることで、複数個所にピークを生じた精密な角速度グラフを得ることができている可能性がある。
【0100】
さらに、内界情報型センサとして代表的である慣性センサは、通常、加速度センサとジャイロセンサに分けられるが、従来技術には、この加速度センサを備え、回転弁のステム上端部に容易に設けられる弁開度計の類も存在している。つまり、この加速度センサ等を介して弁ハンドルの回転角度等が検知される。しかしながら、少なくとも、近年よく用いられているMEMS型加速度センサの場合、原理的に並進運動や振動運動或は重力方向に対する傾きの検知に優れる一方、詳細な回転運動の検知は不可能ではないが、簡易な構成での検知には改良の余地が多い。
【0101】
この種の加速度センサは、重力方向に対する傾きがない水平面内の運動は不感帯に近く、検知が極めて困難となる性質を持っており、さらに、加速度センサは、重力加速度成分や並進(振動)加速度成分など、回転加速度以外の不要な成分も拾い易く、しかも、計測された余計な加速度を出力信号から適切に分離することは、少なくとも1つの加速度センサだけでは不可能であることが理論的に分かっている。実際、この種の弁開度計には、取り付け対象の配管姿勢や方向に制限があり、多くの場合、予め取り付け対象となるバルブの配管姿勢を確認した後に、その対象に応じたセンサ構成に調整して用いられている。よって、少なくとも加速度センサのみから成る簡易な構成でも、ランダムな摩擦を受けながら回動する回転運動を詳細に捉えることは困難である。なお、後述する
図31、32は、加速度センサによっては回転弁の回転運動に関するデータを詳細に捉えることができていないことを、実際に検証したものである。
【0102】
以下の実施例で具体的に説明するように、監視ユニットを取り付けた対象製品(ボールバルブ)特有の構造と、適宜グラフ化された角速度データに表れている複数のピークの位置、大きさやピーク幅とを対応させて、対象製品の精密な状態把握と、その把握内容に基づいた精密な対象製品の診断を行うようにしている。
【実施例】
【0103】
図5~23は、角速度データに基づいてバルブの状態把握を行った実施の一例であり、
図5~9、15~20は、前述の
図1~3に示したクォータターンのアクチュエータ2とフローティングボールバルブ3において、本発明の監視ユニット1を用いてボール30が全閉から全開まで90度回転した際にジャイロセンサ7から得られた角速度グラフの一例であり、右縦軸に示している(単位:度/秒)。また、この角速度の測定値は、
図1に示したジャイロセンサ7においてはY軸方向の測定値を示している。なお、本実施例では、X軸方向やZ軸方向の測定値はグラフデータとして用いていないが、ジャイロセンサの取付誤差を補正する目的で、これらを補完的に用いるようにしてもよい。
【0104】
同図横軸は、バルブの作動時間であり、アクチュエータ2にスピードコントローラを介して空気圧を供給してからの時間である(単位:ミリ秒)。具体的には、ステンレス製ボールバルブであり、呼び径50A、呼び圧力20Kであり、診断対象は、PTFE+PFA製のボールシートA1、A2、グラスファイバー入りPTFE製のステムベアリングB、PTFE製VパッキンのパッキンCが対象である(ボールシートA、ステムベアリングB、グランドパッキンCを「摩耗部品」と総称する。)。また、同図に表記された開閉回数に示す通り、
図5は0回、
図6は30回、
図7は500回、
図8は1000回、
図9は10000回開閉した時点で取得したデータである。また、
図15、18は0回、
図16、19は500回、
図17、20は1500回開閉した時点で取得したデータである。
【0105】
さらに、本実施例では、
図1に示したようなエンコーダ37を監視ユニット1と共に制御軸4に取り付け、このエンコーダ37で得られた角度データも、
図5~9、15~20においてバルブ開度として同図の左縦軸に表記している(単位:度)。
【0106】
図10~14は、
図5~9、15~20に示したバルブの全閉から全開までを、この図面番号順に模式的に示したものであり、具体的にはボール30の貫通路30aとボールシートA1、A2との位置関係などについての説明図である。
図10は開度0(全閉)、
図11は開度約10度、
図12は開度約20度、
図13は開度約80度、
図14は開度90度(全開)である。なお、
図10~14は、
図3においては、B-B線断面視に対応する。
【0107】
また、ボール30とボールシートAとの接触率は、
図10に示した状態において100%とした場合、
図11において依然として100%、
図12において85%に減少し、
図13において更に62%に減少し、
図14において再び100%に戻る。
【0108】
【0109】
表1の10の試験条件は、本発明のシステムを検定するにあたって、品質工学的に最低限必要と考えられた供試品の条件例を示したものであり、
図5~9は、同表の試験番号10の条件下で行われた実験データであり(ただし、バルブの呼び圧力は10Kのものを用いた)、
図15~17は、同表の試験番号2の条件下で行われた実験データであり、
図18~20は、同表の試験番号8の条件下で行われた実験データである。
【0110】
表1において、駆動時間は、バルブの全閉から全開まで90度回転駆動するためのスピコンの設定時間、取付姿勢は配管に対するバルブの姿勢であり、水平とは
図1下面側が地面とした場合の同図の姿勢、垂直とは
図2下面側が地面とした場合の同図の姿勢であり、横倒しとは、
図1において流路軸心を回転軸に90度回して配管した姿勢である。また、Act供給圧力はアクチュエータに供給する空気圧(MPa)であり、流体は試験流体の種類であり、流体圧は流体の圧力、配管サポートは、バルブのフランジ位置からバルブに接続された配管を支持する部位までの距離(cm)、雰囲気温度は試験環境の温度である。また、試験番号1~9は恒温・恒湿槽内で行われ、試験番号10は建屋内で行われる。
【0111】
以下、
図5~9(試験番号10)、15~17(試験番号2)、18~20(試験番号8)までの角速度グラフを、それぞれ
図10~14に示したバルブの開度状況を参照しつつ、バルブの状態監視を行うプロセスの概略を説明する。このプロセスでは、バルブの状態として特にボールシートAの摩耗状態の把握に着目している。なお、以下のような診断プロセスは、計算機のハードウェア資源を利用可能な情報処理(処理ステップの集合)として具体的に実現された上で、本発明のシステムに物理的・論理的に導入され得る。
【0112】
また、本発明のシステムによる角速度データを用いたバルブの故障予測や寿命予測は、上述したバルブ開度の全開又は全閉から全閉又は全開に向けての回転運動、すなわち、バルブのフルストロークの全体に応じた角速度データの推移から把握するようにする他、ストロークの一部、例えば以下に示すような領域T1~T3のような特徴のあるバルブ開度の領域に応じた角速度データの推移から把握するようにしてもよい。さらに、本発明のシステムに利用可能な他のデータとして、例えば、プラントや建築設備におけるバルブの稼働状態の他、バルブの動作確認(所謂パーシャルストロークテスト)状態における角速度データを用いるようにしてもよい。
【0113】
先ず、
図5~9(試験番号10)において、領域T
1は、エンコーダ測定によるバルブ開度が全閉状態から開度約10度までの領域であり、ボール30の動作としては
図10~11までの状態に対応する。
【0114】
この領域T
1(ボール30がボールシートA1、A2の全周で接触シールしている状態において、角速度が頻繁に上下する領域)内では、ボールシートA1、A2は何れもボール30と接した状態であり、静摩擦から動摩擦に移行した直後の状態に対応している。この領域における角速度の低下頻度を見ると、
図6では、2回が読み取れるが、
図9では4回と増えている。このデータ特性は、例えば、ボールシートA1、A2の摩耗によって、ボール30が2次側のボールシートA2側へ移動して押圧力が上昇し、動摩擦力が増加しているなど、ボール30の回動に伴う何らかの支障が生じていると推定できるので、例えば、ボールシートA1、A2の減耗やシール面の劣化に伴う故障予測に利用できる。
【0115】
また、領域T
1に至るまでの時間、すなわち、アクチュエータ2に空気圧を供給してからボール30が回動を開始するまでに要した時間の変化も、故障予測に利用できる。具体的には、
図6では、領域T
1は1000ミリ秒付近から始まっており、アクチュエータ2への空気圧供給から回動までのタイムラグは1秒程度であるのに対し、
図8では、350ミリ秒付近から始まっているので、バルブの開閉回数の増大とともに、このタイムラグが減少している。このデータ特性により、ボールシートAの静摩擦力が低下していることが推定できる。
【0116】
さらに、領域T
1の時間幅も故障予測に利用できる。具体的には、
図7では領域T
1は約1000~1800ミリ秒と読み取れるが、
図8では約350~1500ミリ秒となっており、バルブの開閉回数の増大とともに、領域T
1の所要時間、つまりボール30の回動所要時間が長くなっている。このデータ特性から、ボールシートAの動摩擦力の上昇が生じていると推定できるので、例えばボールシートAの減耗に伴う故障予測に利用可能となる。
【0117】
図5~9において、領域T
2は、開度約30度付近となる小さい帯域であり、ボール30の動作としては、概ね
図12付近からさらにボールが回動(開度約20~30度)した状態に対応する。この領域T
2付近には、領域T
1の全周面接触状態からボール30の貫通路30aがボールシートAに到達して部分的な接触状態に移行し、弁開に伴い流体がボール30の貫通路30aの内壁に圧力を与えてボール30に弁開方向の力が作用する状態が含まれる。本例では、流体は、
図10~14において左から右に流れる。
【0118】
この流体による弁開力の作用が角速度グラフ(特性グラフ)にも角速度の急上昇として捉えられており、具体的には、
図6における領域T
2付近における極大値は約44度/秒と読み取れるが、
図8の同極大値は約63度/秒となっているので、バルブ開閉回数の増加に伴う角速度の極大値の上昇を読み取れる。このデータ特性によれば、ボールシートAの動摩擦力の低下が生じていると推定できるので、例えば、ボールシートAの減耗に伴う故障予測に利用できる。ボール30がボールシートA1、A2と部分的に接している状態であって、動摩擦力の減少に加え、流体圧の作用によってボール30の回動方向に力が加わることで更に動摩擦力の減少が進む。よって、流体圧を摩擦の要素として把握するのは、領域T
2において好適である。
【0119】
また、領域T
2に至るまでの時間も、領域T
1同様に、故障予測に利用できる。
図6では、領域T
2は約2300ミリ秒付近で生じているのに対し、
図8では、約2000ミリ秒付近で生じているので、バルブの開閉回数の増加に伴い減少しており、早い段階で回動を開始している。よって、ボールシートAの静摩擦力又は動摩擦力が低下していることが推定でき、ボールシートAの減耗に伴う故障予測に利用できる。
【0120】
図5~9において、領域T
3は、開度約80度から全開状態(開度90度で角速度が0)までの領域であり、ボール30の動作としては、
図13から
図14までの状態に対応する。この領域T
3内では、ボールシートAの部分的な接触状態から再び全周面接触状態に移行すると共に、動摩擦から静摩擦へ移行する状態が含まれる。
【0121】
領域T
3において、
図6では角速度の大きさが約42度/秒から減少した傾向が示されているが、
図8では約30度/秒からの減少傾向が示されている。このデータ特性によれば、ボール30がボールシートA1、A2の全周でシールする状態に移行しても、角速度の低下に繋がっていないので、例えば動摩擦力の低下が生じていることが推定され、ボールシートAの減耗に伴う故障予測に利用できる。
【0122】
領域T
3の時間幅も故障予測に利用できる。具体的には、
図7では領域T
3は約3500~4000ミリ秒と読み取れるが、
図8では約3400~4100ミリ秒となっており、バルブの開閉回数の増大とともに、領域T
3の所要時間、つまりボール30の回動所要時間が長くなっている。このデータ特性から、ボールシートAの動摩擦力の上昇が生じていると推定できるので、例えばボールシートAの減耗に伴う故障予測に利用可能となる。なお、本実施例においては、領域T
3において、バルブ3の開閉回数の増大と共に、所要時間が長くなる状態を例示しているが、これに限ることなく、所要時間が短くなる状態を参照してボールシートA1、A2の摩耗状態を把握するようにしてもよい。
【0123】
次に、上記試験番号10の実施例における、実際のボールシートA2の摩耗量を測定した結果を説明する。なお、
図24は、この測定状況を示した模式説明図である。この測定では、各開閉回数(30回、500回、1000回、10000回)の動作後に、ボールバルブ3を分解してボール30と2次側のボールシートA2を取り出し、模式
図24に示したように、取り出したボールシートA2を適当な水平面上に載置し、そのシール面に取り出したボール30を乗せた状態で、ボールシートA2の底面側からボール30の頂部までの全高hを、開閉回数ごとに計測した。すなわち、この全高hは、ボールシートA2の摩耗量の増大に応じて僅かに減少するので、その減少量から少なくとも摩耗状態の度合いを把握できる(全高hを、ボールシートAの「G寸法」と称する。)。
【0124】
実際には、開閉30回(
図6に対応)と開閉500回(
図7に対応)で何れも減少量=0.26mmと変わらなかったが、開閉1000回(
図8に対応)では減少量=0.36mmであり、開閉10000回(
図9に対応)では減少量=0.48mmと、作動回数の増大に伴って減少量が増大しており、摩耗が実際に進んでいることが確認された。なお、各開閉回数作動後における実際のシール面を目視で確認した結果、開閉0回と30回時点では、シール面にほとんど変化が見られなかったが、開閉1000回時点では、線状ないし溝状にボールとの接触跡が見られ、開閉10000回時点では、金属(ボール)と擦れた形跡と共に帯状の接触跡が見られた。
【0125】
なお、本実施例においては、10000回作動後に弁座シール漏れが確認された。従って、少なくとも
図9における角速度データが得られることにより、ボールシートの摩耗などに起因する故障予測、寿命予知を行うことができる。
【0126】
次に、
図15~17(試験番号2)と、
図18~20(試験番号8)における状態監視のプロセスの概略を説明する。各
図15~20においても、各領域T
1~T
3は上記同様の意味である。これらのグラフからも、上記同様にバルブの状態監視が可能である。
【0127】
すなわち、領域T
1に至るまでの時間や時間幅、或は、同領域における角速度の極大又は極小ピークの出現頻度の変化を、バルブの開閉回数に応じて読み取ることで、少なくともボールシートの摩耗状態を推測してバルブの故障予測に利用できる。領域T
2においても、開閉回数に応じた極大ピークの位置や大きさの変化を読み取ることで、少なくともボールシートの摩耗状態を推測してバルブの故障予測に利用できる。ただし、
図16、17(試験番号2)においては、極大ピークの位置は、他の結果と異なり、領域T
2’(開度約40度付近となる小さい帯域)付近へのシフトしていることがわかる。また、領域T
3においても、開閉回数に応じた同領域に至るまでの時間や時間幅、或は同領域内における角速度の変化率などの変化を読み取ることで、少なくともボールシートの摩耗状態を推測してバルブの故障予測に利用できる。
【0128】
続いて、
図21~23(試験番号11)においては、構造図は示していないが、ラックアンドピニオン構造の複作動型空気圧式アクチュエータとクォータターン型のバタフライバルブにおいて、本発明の監視ユニットを用いて弁体が全閉から全開まで90度回転した際にジャイロセンサから得られた角速度グラフの一例であり、グラフ標記内容は前述の場合と同様であり、試験条件は、表1の試験番号11に対応する。
【0129】
具体的には、このバタフライバルブは、呼び圧力10K、呼び径50Aのアルミダイカスト製中心型バタフライバルブ構造であり、その弁軸には、前述の態様と同様に本発明の監視ユニットを取り付け、同図のグラフも同様に、エンコーダ測定による角度と、監視ユニットに内蔵されたジャイロセンサ(Y軸測定値)によって得られた角速度をグラフ化したものであり、診断対象は、EPDM製ゴムシートである。また、
図21は開閉回数0回、
図22は開閉回数500回、
図23は開閉回数1500回開閉した時点で取得したデータである。
【0130】
図21~23においても、各領域T
1、T
2は上記同様の意味である。これらのグラフからも、上記同様にバルブの状態監視が可能である。すなわち、領域T
1では、弁体がゴムシートに接した状態から離れる領域であり、いわゆるジャンピング現象も生じる領域である。この領域では、開閉回数が500回、1500回と作動を重ねるに伴い、角速度の上昇・低下傾向に変化が見られる。このデータ特性によれば、例えば、ゴムシートの減耗やシール面の劣化に伴う故障予測に利用できる。
【0131】
また、領域T2では、弁体がゴムシートから離れて中間開度姿勢となり、この状態で弁体には流体によるアンバランスなトルクが作用し、弁体がさらに開き易くなる。開閉回数が500回、1500回と作動を重ねるに伴い、角速度の上昇が急激となり、また、領域T2に至る時間も短くなる傾向が読み取れる。このデータ特性によれば、例えば、弁体の天地方向(ステム周り)におけるゴムシートの減耗などに伴う故障予測に利用できる。
【0132】
次いで、
図25~30は、上記実施例とは異なる他例において得られた角速度グラフを示している。この他例は、上記試験番号10と略同一条件下で行われたものであり(
図1に示したボールバルブを用いた水平配管、蒸気、1.0Mpaの条件)、グラフ表記(各軸の表す量や線種等)も
図5等と同様であるが、上記実施例とは異なり、
図1に示したジャイロセンサ7のX軸とZ軸(ロール軸以外)の角速度データも計測している。すなわち、
図25は、初動期におけるX軸方向の角速度データをグラフ化したものであり、
図26は、初動期におけるY軸方向の角速度データをグラフ化したものであり、
図27は、初動期におけるZ軸方向の角速度データをグラフ化したものである。よって、
図5と
図26は、略同一条件下における角速度グラフを示していることになる。
【0133】
また、
図28~30は、
図25~27の初動期に続けて20000回バルブを開閉した時点における角速度グラフであり、それぞれ、
図28はX軸、
図29はY軸、
図30はZ軸の各方向の角速度データを、
図25~27同様にグラフ化したものである。よって、
図28は
図25、
図29は
図26、
図30は
図27に、それぞれ対応しており、特に、
図29は、略同一条件下でバルブを10000回開閉した時点のグラフである
図9に続いて得られたデータと言える。
【0134】
図26、29に示されるように、Y軸方向の角速度グラフからは、他のY軸方向のグラフと同様の傾向が読み取れる。特に、
図26は、
図5と同様に、領域T
1には、ピーク状の特徴が一つ又は複数個現れており、領域T
2付近においては、少なくとも一つの急上昇するパターンが現れ、領域T
3には、減少パターンが現れている。
図29も、これと概ね同様の特徴が得られているが、特に
図9と比較すると、領域T
2のピーク状(最大値)の特徴がより顕著となる一方で、角速度が全体として減少しつつなだらかなパターンが得られている。何れにせよ、捉えやすい特徴が得られていると言える。
【0135】
一方、Y軸方向以外のグラフである
図25、27、28、30には、少なくとも上記のような特徴が顕著に表れておらず、捉えにくにランダムな振幅が多くみられる。よって、グラフ化するための角速度データとしては、回転のロール軸(Y軸)方向の角速度データが好ましいと言える。
【0136】
続いて、
図31、32において、本発明のバルブの状態把握システムを説明する。本発明は、バルブ3と、このバルブ3に固定されたセンサユニット1と、このセンサユニット1と通信可能に接続されたサーバ41と、を含むシステムであって、バルブ3を開閉する弁軸4からセンサユニット1に備えられたセンサ7によって計測される計測データに含まれる特徴量に基づいて摩耗部品(A、B、C)の摩耗状態を把握するようにしたバルブの状態把握システムである。
【0137】
図31において、バルブ3は、
図1に示した前述のボールバルブであり、センサユニット1も、
図1に示した前述の監視ユニット1である。また、
図2に示すように、センサユニット1は、監視ユニット1と同様に、電源11を備える独立した単一ユニットして、弁軸4と供回り可能な形態で着脱自在に固定され、通信モジュール10によりインターネット43を介してサーバ41などと所定の無線通信プロトコルを用いて無線通信可能に接続される。また、摩耗部品として、前述したボールシートAを選択している。
【0138】
図31において、タブレット44やPC45は、センサユニット1が送信するバルブ3に関する情報を確認するための端末の例であり、センサユニット1の送信データを表示できる表示手段を備えている。この表示手段は、例えばサーバ41に備えられたアプリケーションサーバから任意に取得できる表示用アプリケーションを用いてもよい。
【0139】
図31において、サーバ41は、クラウドサーバを用いている。クラウドサーバであれば、後述の各種の演算処理やセキュリティ対策に好適である。また、後述するデータベースや、図示していない異常診断手段の全部又は一部を備えている。さらに、端末表示用などの所定のアプリケーションサーバを備えてもよい。この場合、端末を有するユーザは、いつでもどこでもサーバにアクセスしてバルブ状態を閲覧できる。
【0140】
バルブの状態把握に用いる計測データの特徴量として、弁軸4の軸心方向(Y軸方向)の角速度データから得られる角速度グラフ(
図5~9、15~23、26、29)に現れるバルブ3の全
閉から所定開度に至るまでの時間(例えば開度が0度から10度までに至る時間T
1、0度から30度に至るまでの時間T
2)、全開から全閉に至るまでの全閉時間、所定開度から全閉に至るまでの時間(例えば開度が80度から90度に至るまでの時間T
3)でもよく、また、所定時間領域(例えば時間領域T
1、T
3)に含まれる角速度の急勾配の数、位置、大きさ、及び/又は幅でもよく、また、角速度の最大値又は極大値に至るまでの時間や、最大値又は極大値の大きさ、幅でもよく、或は、これらの全部又は一部が含まれる。さらに、所定時間(時間T
1など)の開始・終了時間としてもよく、漏れ量の場合は、漏れの有無(2値)としてもよい。これら特徴量の種類に応じて、数値データ(スカラー、ベクトル)としての特徴量データが生成される。
【0141】
ここで急勾配とは、例えば、
図5~9、
図15~20、
図21~23、
図25~30にそれぞれ現れているように、全開と全閉との間の時間軸に対して偏りがある不均一の位置に一つ乃至複数個程度表れているバルブ開度が急激に変化する角速度グラフの部分であって、急勾配と読み取るための傾き(増減率)は、実施に応じて適宜設定できるが、例えば、
図5~9、
図15~20、
図21~23における領域T
1内に示された単峰状の軌跡の傾きや、
図5~9、
図19、20、23における領域T
2付近の傾き、或は、
図16、17における領域T
2’付近の傾きは、何れも急勾配と読み取ってもよい。
【0142】
また、急勾配の数とは、例えば、グラフ上に現れる急勾配と読み取れる時間の数である。急勾配の位置とは、例えば、その急勾配が開始又は終了する時間や、これらの時間の途中としてもよく、単峰状であれば極大値の時間としてもよい。また、急勾配の変位とは、例えば、その急勾配の開始と終了する時間に対応する値(開度又は角速度)の差であり、単峰状であれば適当な極大値の山の高さに設定してもよい。同様に、急勾配の幅とは、例えば、その急勾配の開始と終了する時間の差であり、単峰状であれば適当な極大値の山の高さに応じた幅に設定してもよい。
【0143】
このように1回のバルブの開閉に応じて取得できるデータのパターンに捉えやすい特徴が現れていると、後述するデータの統計演算において、処理に必要となる情報量のサイズを低減又は最適化できる。特に、ジャイロセンサによる角速度グラフは、容易に特徴づけできるので、後述のように教師データ(供試データ)の生成が行い易い。ジャイロセンサ以外のセンサの場合、バルブ開閉に応じて取得できるデータのパターンに特徴が現れにくいので、この特徴の少ない情報を機械学習に用いる場合は、別途統計処理を行い特徴抽出を行ったり、取得データの大部分又は全てを用いる必要があるが、本発明で用いる角速度グラフデータには、特徴的な急勾配が現れやすいので、この急勾配に関する少ない情報(位置、数、変位、及び/又は幅など、いくつかの数値の組)のみで、高い精度で統計演算を行うことが可能となり、よって、計算資源の節約につながる。
【0144】
このような角速度グラフから得られる特徴量データを用いて、本発明では、以下のように、第1の異常診断手段、第2の異常診断手段、又は第3の異常診断手段によりバルブの状態把握が実行される。以下に説明する各機能を実行する手段は、特に限定されるものではなく、実施に応じてシステムに適宜備えることができる。
【0145】
第1の異常診断手段の場合、データベース42には、特定条件ごとにバルブの所定開閉回数に応じた複数のラベルデータと特徴量データとから成る第1リファレンスデータテーブル(不図示)が格納されており、センサユニット1及び/又はサーバ41には、摩耗状態を把握してバルブ3の異常診断を実行するように構成された第1の異常診断手段が備えられ、この第1の異常診断手段は、バルブ3の特定条件とバルブ3の開閉回数と角速度データ基づいた特定特徴量データとから成る特定データを作成する特定データ作成手段と、特定データの開閉回数と同一の開閉回数であって最も近い値の特定特徴量を有する第1リファレンスデータを第1リファレンスデータテーブルから取得するデータ取得手段と、この取得された第1リファレンスデータが有するラベルデータの何れか一つと所定の閾値とを比較して所定の判定結果を得る比較判定手段と、を含む。
【0146】
ラベルとは、例えば、寸法データ、又は漏れ量データであり、ラベルデータとは、ラベルの数値である。本例では、ラベルデータとして、寸法データ又は漏れ量データを用いている。ラベルは、バルブ3の摩耗部品の摩耗状態の状態把握を行うにあたって重要な特性値の種類を用いれば好適である。
【0147】
寸法データとは、例えばボールシートAの場合、前述した
図24に示したG寸法がその一例であるが、非摩耗状態の摩耗部品の何らかの部位の寸法データから成り、摩耗量の増加に応じて減少する。漏れ量データとは、例えばバルブ3の場合、
図10に示した全閉状態において、ボール30とボールシートAとの間から漏れる流体の量を、所定の測定装置で計測した値であり、バルブのシール性能がダイレクトに反映される特性値であって、漏れ量が多いほどバルブ状態が悪化していると評価できる。
【0148】
第1リファレンスデータとは、例えば、以下の表2(リファレンスデータテーブルの一例)に示す各行のレコードであり、特定条件ごとに、特定の摩耗部品を備えたバルブ3の開閉回数に応じて、複数のラベルの組み合わせ(バルブの開閉回数、ボールシートの寸法減耗量、漏れの有無)と、特徴量データの組み合わせ(領域T1の開始時間、領域T2付近の極大値)から成る。特定条件とは、弁種、製品メーカー名のほか、使用条件(温度を含む設置環境や使用流体など)のほか、摩耗部品の種類と寸法データの部位など、使用状態にあるバルブを特定するために必要となる各種の条件であり、第1リファレンスデータは、同一特定条件の下、測定対象となるバルブから角速度データを含め、第1リファレンスデータに応じたデータを取得し、データベース42に予め蓄積される。蓄積した第1リファレンスデータは、特定条件ごとに分類して管理され、複数のラベルの組み合わせに応じた十分な量のデータを得ておく。
【0149】
また、少なくとも第1の異常診断手段に用いる角速度データには、角速度グラフを得るために必要なジャイロセンサ7が計測するデータの他、バルブ3の開閉回数と特定条件に関する情報が含まれる。さらに、バルブ3の開閉回数は、例えば特定条件ごとに予め計測する回数を定めておけば、開閉回数のレコードを揃えておくことができるので、後述するデータ取得手段が第1リファレンスデータテーブルを参照する際に、特定データの開閉回数と参照先のレコードの開閉回数とを一致させることができる。
【0150】
したがって、第1リファレンスデータは、センサユニット1をバルブに取り付けて起動するだけで、様々な特定条件下の第1リファレンスデータを、バルブの実運転を妨げることなく、例えばバルブメーカやメンテナンス会社によって、容易に取得し、データベースに蓄積していくことができる。また、特定特徴量データとは、特徴量データから予め選択されている一つの特徴量データを意味し、ラベルとの相関が強い傾向が見られる注目すべき特性値が選択される。
【0151】
【0152】
特定データ作成手段は、ジャイロセンサ7が計測した角速度データ(生データ)からY軸方向の角速度グラフデータへと変換されたグラフデータから、このグラフに現れている特定特徴量を識別して読み取ると共に、このバルブ3の特定条件と、この計測時のバルブの開閉回数と併せて数値の組として出力する手段である。なお、ここで得られたグラフデータを所定の表示装置へ表示可能に出力するようにしてもよい。
【0153】
データ取得手段は、特定データを入力とし、データベース42のリファレンスデータテーブルにアクセスして、この特定データに含まれる特定条件に一致するテーブルを検索し、テーブルがヒットしたらこのテーブルから特定データに含まれるバルブの開閉回数と同一の開閉回数のレコードを参照すると共に、特定データに含まれている特定特徴量(特定特徴量データ)に対応するレコードの特定特徴量(レコード特徴量)を取得し、さらに、このレコード特徴量と特定特徴量データとが略等しいか否か判断する手段である。ここで、略等しいと判定する範囲は、予め適宜設定されている。
【0154】
比較判定手段は、特定特徴量データと略等しいと判定されたレコード特徴量を有するレコードが有する複数のラベルデータを、バルブ3の推測ラベルデータとし、この推測ラベルデータと、予めラベルデータごとに設定されている複数の閾値とをそれぞれ比較し、比較結果に応じて、所定の判定結果を出力する手段である。例えば、推測ラベルデータが閾値以上となった場合は、所定の警告情報(アラート)を判定結果として出力し、ラベルデータが閾値より小さい場合は、現状に関する所定の情報を判定結果として出力する。例えば、最も安全策をとる場合、何れか1つのラベルデータが閾値を超えていればアラートを出力するようにする。
【0155】
ここで、表2の具体的な読み方を説明する。同表に示した一連の図面において、バルブの開度が全閉から開度約10度までの領域(領域T
1)では、角速度が上昇を始めるタイミングは、例えばバルブの開閉回数が1000回の場合(
図8)には、500回の場合(
図7)に比して早くなり、弁開動作開始から1000ミリ秒を大きく下回る350ミリ秒である。この時、ボールシートの全高(
図24のh寸法)の減少量は、500回の場合(減少量0.26mm)よりも多い0.36mmであり、ボールシートの摩耗が進行していることを把握することができる。
【0156】
これらの情報を予めバルブメーカやメンテナンス会社がリファレンスデータとしてメモリ9やサーバ41などに格納の上、稼働中のプラントなどで使用されているバルブ3の実測データ(角速度データ)と対比することにより、当該バルブにおけるボールシートの摩耗状態を把握することができる。
【0157】
具体的には、開閉回数1000回のバルブの実測データにおいて、領域T1における角速度上昇のタイミングが400ミリ秒であったならば、リファレンスデータの350ミリ秒に近い値であることから、シール部材であるボールシートが0.36mm近くまで摩耗している状況を推測することができる。なお、領域T1における角速度上昇のタイミングを、400ミリ秒という1点のみで判断しているが、単位時間当たりの平均値など、複数の値に基づいて判断してもよい。ここで、本実施例におけるバルブの開閉に要する時間は、CPU8に内蔵されたクロックを用いて把握可能であるが、別途のタイマーなどを用いても良い。また、バルブの開閉回数は、エンコーダの他、バルブの全開・全閉位置を検出するマイクロスイッチ(リミットスイッチ)などを用いてカウントすることができる。
【0158】
バルブの開度が約30度付近となる小さい領域(領域T2)では、急上昇する角速度の値が、例えばバルブの開閉回数が1,000回の場合(
図8)には、500回の場合(
図7)に比して大きくなり、45開度/秒を大きく上回る63開度/秒(rad/sec)である。この時、ボールシートの全高(
図24のh寸法)の減少量は、前述の通り、500回の場合(減少量0.26mm)よりも多い0.36mmであることから、ボールシートの摩耗が進行していることを、領域T2における角速度の急上昇で把握することができる。
【0159】
これらの情報を予めバルブメーカやメンテナンス会社がリファレンスデータとしてメモリ9やサーバ41などに格納の上、稼働中のプラントなどで使用されているバルブ3の実測データ(角速度データ)と対比することにより、当該バルブにおけるボールシートの摩耗状態を把握することができる。
【0160】
具体的には、開閉回数1000回のバルブの実測データにおいて、領域T2における角速度が65(rad/sec)であったならば、リファレンスデータの63(rad/sec)に近い値であることから、シール部材であるボールシートが0.36mm近くまで摩耗している状況と推測することができる。
【0161】
更に、表2の具体的な読み方について、バルブの漏れデータと組み合わせることにより、測定した角速度に基づいて、前記シール部品の寿命を予測することができる。具体的には、バルブの開閉回数が10,000回の場合(
図9)には、ボールシートの全高(
図24のh寸法)の減少量が、1,000回の場合(減少量0.36mm)よりも多い0.48mmであり、ボールシートの摩耗が進行していることを把握することができる。そして、バルブの弁座漏れが確認されたことから、バルブの開閉回数が10,000回に達したら、ボールシートの寿命と判断する。ここで、本実施例におけるバルブの弁座漏れ試験は、試験流体として窒素を用い、この流体圧力は0.6MPaの条件にて実施したものである。
【0162】
これらの情報を予めバルブメーカやメンテナンス会社がリファレンスデータとしてメモリ9やサーバ41などに格納の上、稼働中のプラントなどで使用されているバルブ3の実測データ(角速度データ)と対比することにより、当該バルブにおけるボールシートの寿命を予測することができる。
【0163】
具体的には、例えば、開閉回数1000回のバルブの実測データにおいて、領域T1における角速度上昇のタイミングが400ミリ秒であったり、領域T2における角速度が65(rad/sec)であったならば、表2のリファレンスデータに沿ったバルブの状態と判断し、開閉回数10,000回がボールシートの寿命と判断することができ、当該バルブが開閉回数10,000回に至る前に、計画的にメンテナンスを行うことができる。
【0164】
更に、表2の具体的な読み方について、シール部品の交換基準となる寸法若しくは消耗データと組み合わせることにより、測定した角速度に基づいて、前記シール部品の寿命を予測することができる。具体的には、ボールシートの全高(
図24のh寸法)の減少量が0.40mmとなった場合を交換基準とすると、表2のリファレンスデータにおける、バルブの開閉回数1,000回の場合と、10,000回の場合との比例関係に基づき、バルブの開閉回数が3,000回に達したら、ボールシートの寿命と判断する。
【0165】
具体的には、開閉回数1000回のバルブの実測データにおいて、領域T2における角速度が65(rad/sec)であったならば、リファレンスデータの63(rad/sec)に近い値であることから、シール部材であるボールシートが0.36mm近くまで摩耗している状況と推測することができ、上述の3,000回を寿命と判断することができる。
【0166】
なお、第1の異常診断手段に用いるデータは、例えば表2に示したように、ラベルデータが2つ(以上)付された特徴量データをデータベースに供試データとして蓄積しているので、いわゆるマルチラベル(多クラス分類)問題である。よって、蓄積されているリファレンスデータに対して、公知の多クラス分類に関する学習モデルを適用することも可能である。
【0167】
次いで、第2、第3の異常診断手段の場合、シングルラベルによる機械学習の手法で異常診断を行う。データベース42には、ラベル付き訓練データに基づいて生成される所定の学習モデルが格納される。この第2の異常診断手段に用いる推測ラベルデータは、学習モデルが出力する推測値である。
【0168】
上記学習モデルは、例えば、以下のように生成される。特定条件を同一にした状態において、同一のラベルデータ(寸法、漏れ量)と見做せる範囲内で、バルブを十分な回数で開閉させることで角速度データを取得し、これらから夫々特徴量データを生成し(つまり角速度グラフから特徴量を読み取り)、これらに同一のラベルデータを付して訓練用の教師データを生成する。これらの教師データは、ラベルデータごとに十分な量サンプリングされ、データベース42に格納される。
【0169】
同一ラベルデータ毎の教師データのサンプル群に対して、機械学習(統計演算)を適用してモデル(識別モデルや生成モデル)を生成する。これを学習モデルとしてもよいが、さらにテストデータによる検定や、最適な統計モデルを探したり、統計モデル毎のパラメータ群の調整を行って、精度や信頼性を高めてもよい。したがって、いわゆる教師あり機械学習の手法で学習モデルが生成される。機械学習としては、実施に応じて適宜選択や改良ができる。例えば、公知の手法を適宜適用することができ、ラベルデータが連続値であれば、通常は回帰(線形回帰やロジスティック回帰、SVMなど)の手法がとられる。この場合は、学習モデルは「推測ラベルデータ=f(特徴量データ)」として推測できる回帰関数fに対応し、所定のパラメータで関数が特定される。
【0170】
さらに、バルブの稼動途中で、摩耗部品を別の部品に交換した場合であって、この交換した別の部品のラベルデータが、予め十分サンプリングされていない、或は全く存在しない場合が考えられる。このような場合は、交換部品の学習モデルがデータベースに存在しないので、異常診断手段を実行することができない。このような場合には、データベースに格納済み学習モデルを修正して転用することも可能である。例えば、公知の転移学習的な手法を取り得る。例えば、既知の学習モデルのラベルデータに所定の重み付けを行ってラベルデータを交換部品用に修正して用いるようにしてもよい。
【0171】
これに対し、センサユニット1やサーバ41には、摩耗状態の把握してバルブの異常診断を実行するように構成された、図示しない異常診断手段が備えられ、この異常診断手段は、少なくとも、所定の特徴量データを作成する特徴量作成手段と、特徴量データに基づいて機械学習を介してラベルデータ(スカラー)を計算する推測ラベルデータ計算手段と、このラベルデータと所定の閾値とを比較して判定結果を得る比較判定手段と、から成る。
【0172】
特徴量作成手段は、ジャイロセンサ7が計測した角速度データ(生データ)からY軸方向の角速度グラフデータへと変換されたグラフデータから、このグラフに現れている各特徴量を識別して読み取り、複数の数値の組から成る特徴量データの形式として出力する。なお、ここで得られたグラフデータを所定の表示装置へ表示可能に出力するようにしてもよい。
【0173】
推測ラベルデータ計算手段は、特徴量データを入力とし、この特徴量データを、データベース42から呼び出された学習モデルへ適用することにより、ラベルデータを推測値として計算して出力する手段であり、ラベルが複数(寸法値、漏れ値)の場合は、ラベルの種類に応じた学習モデルがそれぞれ呼び出される。
【0174】
比較判定手段は、推測ラベルデータを入力とし、この推測ラベルデータと、予めラベルに応じて設定・格納されている閾値とを比較し、例えば、推測ラベルデータが閾値以上となった場合は、所定の警告情報(アラート)を判定結果として出力し、推測ラベルデータが閾値より小さい場合は、現状に関する所定の情報を判定結果として出力する。複数のラベルの判定結果が相反する場合は、適宜、判定結果を何れかに対応させる。なお、このような2値返却(OK、NG)でなく、閾値を複数設定して、各閾値の範囲に対応する判定結果を設定してもよい。
【0175】
例えば、寸法データの場合、故障(要交換)と評価される摩耗量に第1の閾値を設定し、この第1の摩耗量より小さい摩耗量として、例えば、同一種のバルブで通常の使用条件において使用された場合に故障と評価される3か月前の時期に対応する摩耗量のデータ(3か月前摩耗量)を予め別途取得しておき、この摩耗量を第2の閾値として設定してもよい。例えば、推測ラベルデータの値が第2の閾値以上かつ第1の閾値より小さい場合は、要交換3か月前である旨のメッセージを判定結果として出力するようにしてもよい。同様に、所定期間前の摩耗量(所定期間前摩耗量)に応じて時系列順に得られている摩耗閾値(所定期間が長いほど小さい値)として、値順に複数設定してより精度の高い判定結果にしてもよい。このような多段階の判定結果の出力は、漏れ量データの場合も同様に実行することができる。
【0176】
なお、上記第1、第2の異常診断手段が実行する診断タイミングは、例えば端末を介したユーザからの指示や、バルブの開閉の度に毎回行ってもよく、或は、所定のバルブの開閉回数や、所定の時間間隔で行うようにタイミングを設定してもよい。
【0177】
その他、判定結果を端末のアプリケーションで表示可能に送信する手段や、判定結果をバルブのメーカー(メンテナンス者)が管理する管理サーバへ通知する手段などを備えてもよい。
【0178】
上記ラベルを利用した教師データ(供試データ)は、使用するバルブや流体などのバルブの特定条件下の摩耗部品のラベル(特性値)ごとに、学習モデルとして予めデータベース42に用意されているので、特徴量データをこの学習モデルに適用するだけで診断を実行できる。よって、予め教師データ(供試データ)の収集と学習モデルの生成が必要となる反面、バルブ3の実運転中においては、高速で診断処理を行うことができ、システム構成のための資源も低減できる。
【0179】
さらに、上記異常診断手段の手法と異なり、教師なし機械学習による手法によっても、本発明のバルブの状態把握システムを構成してもよい。この場合にも、データベース42は、上記特徴量データと同じ形式のデータストアとして用いることができる。この手法による異常診断手段が、第3の異常診断手段であり、少なくとも、データ蓄積手段と、データ制御手段と、モデルデータ演算手段と、指標計算手段と、比較判定手段と、を含む。
【0180】
データ蓄積手段は、ジャイロセンサ7で計測された角速度データから得られる角速度グラフデータから上記と同じ特徴量データを作成し、この特徴量データを、データベース42に送信すると共に、所定の形式でデータベース42に格納して蓄積特徴量データを生成する手段である。データ蓄積手段には、適宜、前述の角速度データからグラフデータへの変換手段や特徴量作成手段を利用できる。このデータ格納は、データ制御手段により制御される。データ制御手段は、予め設定された所定量の特徴量データがデータベース42に蓄積されるまで、バルブが開閉する毎に、取得された特徴量データをデータベース42に格納するようにデータ蓄積手段を制御する。蓄積データが所定量に達したら、これを検知して、モデルデータ演算手段に通知する。
【0181】
この通知を受けたモデルデータ演算手段は、その時点でデータベース42に蓄積されているすべての特徴量データ(蓄積特徴量データ)に機械学習を適用し、学習モデルを生成する。この学習モデルの出力値を消耗データという。したがって、いわゆる教師なし機械学習の手法で学習モデルが生成される。この消耗データは、いわゆる正常データであり、バルブが正常に動作している間に取得・蓄積されるデータである必要がある。
【0182】
この場合の機械学習としても、実施に応じて適宜選択や改良ができる。公知の手法では、例えば、次元削減(PCA、SVDなど)の手法がとられる。例えば部分空間法の場合、蓄積されたすべての正常動作時の特徴量データ(N次元ベクトルとする)を用いて主成分分析を行って得られる固有ベクトル群(分散順に添字された主成分)の上位k個を基底として正常動作の部分空間Uを生成する。この演算をモデル演算手段が行う。よって、学習モデルはn×k行列(2階テンソル)に対応する。
【0183】
指標計算手段は、データ制御手段がモデル演算手段に通知した後の、最初のバルブ開閉から得られた角速度データによる特徴量データ(新たな特徴量データ)と、上記消耗データとの間に定義される所定の指標を計算して出力する。
【0184】
上記部分空間法の場合、モデルデータ演算手段により生成された正常部分空間と、新たな特徴量データ(未知データ)との間に、所定の距離としての異常度(指標)を定義することができる。例えば正常データ群から得られる部分空間Uを(u1、、、uk)とし、未知データをx=(x1、、、xN)とすると、異常度d2=xTx-xTUkUT
kxと定義できる。
【0185】
比較判定手段は、上記の指標を、予め設定・格納されている閾値と比較し、例えば、指標が閾値以上となった場合は、正常でない外れ値として、所定の警告情報(アラート)を判定結果として出力し、指標が閾値より小さい場合は、現状に関する所定の情報を判定結果として出力する。
【0186】
次いで、
図32は、本発明によるバルブの状態把握のプロセスの概略を示している。先ず、対象となるバルブ3に、センサユニット1を取り付ける。具体的には、前述した
図1に示した態様で固定する。通常、センサユニット1は、一度取り付けた後、バルブ3の監視を自動的に継続させる独立した単一ユニットなので、電源を十分にチャージするなど、電源の確認を行うべきである。また、通常、
図31に示したように無線通信させるので、インターネット43を介したクラウドサーバ41や端末44、45など、必要な通信対象との通信状態の確認も行う必要がある。
【0187】
図32において、初期設定46では、ジャイロセンサ7にバルブの開閉位置を正確に設定
すると共に、センサユニット1に、バルブ3に関する情報(バルブの形式やメーカー、使用環境や使用流体など)を設定する。特に、ラベル(寸法値、漏れ量、閾値など)に関する情報も設定する。初期設定46を終えた後、バルブ3を実稼働させる。
【0188】
図32において、符号47でまとめたプロセスは、前述した第1~第3の異常診断手段による診断プロセスの概略に対応している。前述したように、第1、第2の異常診断手段の場合は、クラウドサーバ41のデータベース42には、予め、所定のデータを格納しておく必要がある。よって、第1、第2の異常診断手段を実行するためには、ラベル値、すなわち、特定条件下における、特定の摩耗部品の特定の寸法値や、特定のバルブの漏れ量の十分な数のサンプルデータを、予め取得しておかなければならない。
【0189】
プロセス47では、先ず、所定のタイミングで、グラフ変換手段により、実運転中のバルブ3の弁軸4からジャイロセンサ7で計測された角速度データから、グラフデータが得られる。このグラフデータから、特徴量作成手段により、特徴量データ(第1の異常診断手段の場合は一つの特定特徴量から成る数値、第2の異常診断手段の場合はすべての特徴量から成る数値の組)を得る。
【0190】
次いで、第1の異常診断手段の場合は、データ取得手段により特定のリファレンスデータが参照され、比較判定手段により、このリファレンスデータが有する特定特徴量と所定の閾値とが比較されて判定結果がユーザに届けられる。第2の異常診断手段の場合は、モデル呼出手段により学習モデルがデータベース42から呼び出され、推測ラベルデータ計算手段により、学習モデルに特徴量データが適用されてラベルデータが得られる。このラベルデータは、比較判定手段により、閾値と比較され、その判定結果が、結果送信手段により、表示手段(端末)に送信されて判定結果をユーザに届けることができる。
【0191】
さらに、プロセス47では、前述した教師なし機械学習による手法を用いた第3の異常診断手段を実行するようにしてもよい。この場合は、教師データの蓄積は不要であるが、データ蓄積手段やデータ制御手段、モデルデータ演算手段、指標計算手段や、製品に特化された学習モデルなど、製品に応じたプログラムを実装する必要がある。
【0192】
続いて、第4の異常診断手段を説明する。
図31、32の構成は、前述のとおりである。同図において、バルブ3と、このバルブ3に固定され、ジャイロセンサ7を備えたジャイロセンサユニット1と、このジャイロセンサユニット1と通信可能に接続されたデータベース42を備えたサーバ41と、を含むシステムであって、このデータベース42には、バルブ3の開閉回数に応じた出力データと製品データを含む第2リファレンスデータテーブルが格納され、ジャイロセンサユニット1及び/又はサーバ41には、バルブ3に備えられた摩耗部品(A、B、C)の摩耗状態を把握してバルブ3の異常診断を実行するように構成された第4の異常診断手段が備えられ、この第4の異常診断手段は、バルブ3の開閉回数に応じてジャイロセンサユニット1が計測する出力データと製品データを含む計測データを作成するデータ作成手段と、この計測データが有するバルブ3の出力データと略等しいバルブ3の出力データを有する第2リファレンスデータを第2リファレンスデータテーブルから取得するデータ取得手段と、この取得された第2リファレンスデータが有するバルブ3の使用頻度データに基づいてバルブ3の故障予知を判定する故障判定手段と、を含むバルブの状態把握システムである。
【0193】
第2リファレンスデータデーブルが有する第2リファレンスデータは、製品データと出力データを含む。表3は、この第2リファレンスデータテーブルの一例であり、各行のレコードが第2リファレンスデータである。製品データは、製品の属性・仕様を特定するデータであり、本例では、以下のように、メーカー名、弁種、摩耗部品の対象部位、及びバルブの平均使用頻度(使用頻度データ)から成る。出力データは、本例の場合、新品状態(開閉第1回目)から故障状態(製品ごとに異なり、例えば50000回など)まで、各開閉(動作回数)ごとに、ジャイロセンサが固定された供試バルブから予め採取される開度ステップ毎(1度→2度~89度→90度)のジャイロセンサの出力値がクラウドサーバ41側に設けられたデータベース42に基準値として記憶される。これは例えば、自社製であれば、予め市場に販売する前に自社内で条件を変えながら繰り返し実験を行って基本的なリファレンスデータとして記憶するものである。ただし出力データは、このような0~90度分のデータではなく、前述したような角速度データの特徴的な部分(特徴量)のみを部分的に用いてもよい。
【0194】
また、本実施例の場合、ジャイロセンサ7は、第2リファレンスデータの出力データと同じ形式の出力データを、動作回数ごとに計測データに含めた形で出力可能となっている。計測データは、製品データと、バルブ3の開閉回数(動作回数)ごとのジャイロセンサ7の出力データから成り、少なくとも第2リファレンスデータに含まれるデータが含まれている。
【0195】
なお、上記使用頻度データ(バルブの平均使用頻度)は、適宜、製品データではなく、出力データに含めることもできる。例えば、ジャイロセンサユニット1側で、使用中のバルブ3から所定のタイミングで動作回数を取得し、この動作回数に基づいて使用頻度を算出して出力データに含めた形で出力するようにしても良い。また、監視ユニット1(センサユニット1)を、使用途中のバルブ3に取り付ける際に、予め、その時点のバルブ3の動作回数(バルブ3の開閉回数)の情報を得ている場合は、この動作回数を監視ユニット1(センサユニット1)に入力して出力データの動作回数を補正するようにしてもよい。
【0196】
【0197】
データ作成手段は、ジャイロセンサ7が上記出力データの形式で計測した全開から全閉まで1回分の回転の計測データ(角速度の全開度データ)と、ジャイロセンサユニット1に所定の形式で(例えばユニット1への手入力や、所定の光学読み取りセンサで読み取られたデータ)入力されているバルブ3の製品データとを、その時点のバルブ3の開閉回数と併せて、1つの計測データとして作成してサーバ41側へ送信する手段である。
【0198】
データ取得手段は、上記計測データを入力として、この計測データに含まれている出力データと略等しい第2リファレンスデータを第2リファレンスデータテーブルから取得する手段である。ここで、略等しいか否かを判定する出力データ同士の類似度(グラフ形状の比較方法)は、例えば面積比較など、適切な公知の手法が選択され、これを実現する手段も併せて実装される。ここで、参照先に取得すべき第2リファレンスデータが存在しない場合や、出力データ同士が略等しくない場合に関する具体的な処理は、
図33、34を用いて後述する。
【0199】
故障判定手段は、データ取得手段が取得した第2リファレンスデータが有しているバルブの使用頻度データを参照すると共に、前記計測データに含まれているバルブ3の開閉回数を参照し、両者から、バルブ3の故障時期を算出することにより、バルブ3の故障予知情報を判定する(さらに端末に表示可能に出力する)手段である。
【0200】
例えば、表3の場合、あるバルブについて、予め平均使用頻度(回/月)と故障するまでの開閉回数が得られている一方、計測データから現在のバルブの開閉回数を得ているので、これらから容易に現在から故障するまでの期間(月)を算出可能となる。この場合、故障する3ヶ月前のデータであれば、ボールシートの交換時期3ヶ月前の情報をインターネット43を介してサービスセンターにあるPC45に報知したり、サービスマンが携帯している端末に報知できる。或いは、市場で存在する複数のバルブの各使用頻度から3ヶ月前相当のリファレンスデータが特定され、このリファレンスデータに測定された角度速度がほぼ等しくなったときに故障3ヶ月前を報知できる。
【0201】
後述のように、リファレンスデータを製品の新品状態から故障するときまでの全てのデータを記憶しているため、3か月前、2ヶ月前とか言うように交換時期を刻々と段階的に報知することができる。もし、部品交換を促す報知があってもメンテナンスしない場合は、すなわち例えば50000回に達したとき、故障時期の到来である旨を警告できる。後述するように、故障予知制御として、実際に使用流体が許容値を超える漏れが生じ、配管システムの制御ができなくなるシステム故障まで制御し続け、故障時の出力データを取得して終了する。
【0202】
このようなボールバルブの故障予知制御は、一つの配管上に複数のバルブが配設されている配管システムにおいてはシステム全体のメンテナンスの面で合理的に交換できるようになることにほかならない。すなわち、一つのバルブをメンテナンスする場合でもその配管システムは運用を停止しなければならず、現状では運用停止による損害が大きいことから、未だ使用できるバルブが他に配設されていたとしても全交換している。本実施例によれば、使用頻度の少ないバルブの実質的な耐用年数は他の同じバルブよりも長いことから次回のメンテナンスまで交換しなくても良い場合があるので、配管システムの部品交換に関わるコスト低減や、配管システムのメンテナンス全体時間の短縮化を同時に図ることができる。
【0203】
しかも、新品~故障までの全期間データを保有していることから、ある程度使用期間が経過しているバルブにジャイロセンサを取り付けても使用状態が把握できることから、故障予測の制御を市場で速やかに展開できる。例えば、半年経過したバルブにセンサユニット1を装着した場合に、測定した角速度データとほぼ同じリファレンスデータを探して対応する動作回数と平均使用頻度から使用期間を求め、それが半年であればこの動作回数は正しいと認識して、途中から故障予知制御を開始することができる。
【0204】
次に、
図33、34により、第4の異常診断手段による異常診断プロセスを説明する。
図33は、第4の異常診断手段の診断プロセスを示したデータフロー図である。プロセス48は、この異常診断手段を最初に実行する場合に、データ作成手段により作成された計測データに対し、この計測データに含まれる製品データに一致するテーブルがデータベース42に存在するか否か判断するプロセスである。同図では、製品データごとに、リファレンスデータテーブルの存否が予め既存リファレンスフラグで管理されているので、このフラグで検索するテーブル(同一の製品データ)が存在するか否か判定し、存在する場合は、プロセス49へ進み、存在しない場合は、
図34のプロセスAへ進む。
【0205】
図33において、プロセス49は、計測データがデータベース42に入力されるプロセスであり、プロセス50では、データベース42に入力された計測データを受け取ったデータ取得手段が、この計測データに含まれる開閉回数と同一の開閉回数を有するテーブルレコードを検索して取得した上で、このレコード(取得データ)の出力データ(角速度グラフパターン)と計測データに含まれる出力データとが略等しいか否かを判断するプロセスである。略等しいと判断されればプロセス52へ進み、略等しくないと判断されれば
図34のプロセスBへ進む。この2つの出力データの間の比較方法(略等しいか否かの判定手法)は、様々な公知の手法(データ間距離の概念や集合・形状の類似度など)から適宜選択することができる。
【0206】
図33において、プロセス52では、故障判定手段により、動作回数に基づく故障時期予測を行うプロセスである。具体的には、取得データの製品データに含まれている使用頻度データ(回数/期間)と、故障開閉回数(回数)を得る。一方、計測データに含まれる現在開閉回数(回数)も得る。これらから、当該計測データを計測したバルブ3の故障予測時期は、(故障開閉回数-現在開閉回数)/使用頻度(期間)を得ることができる。これにより、処理コストが大きい統計処理(機械学習)を介することなく、簡易な処理のみで、故障予測時期を具体的に得ることができる。
【0207】
なお、このプロセスでは、例えば図示しない判定結果テーブルを参照して判定結果を取得するようにしてもよい。この判定結果テーブルは、予め同一製品データごとに開閉回数に応じて作成されており、例えば、バルブの開閉回数を主キーとした大小順に、報知内容(例えば正常、警告、故障など)と故障予告時期(例えば3か月前報知、1か月前報知など)などを列名としたレコードが準備され、適当な手段を介して、計測データに含まれている開閉回数と同一の開閉回数の判定結果テーブルレコードを参照し、判定結果として報知内容と故障予告時期などの各データを取得するようにしてもよい。報知内容などは、所定の複数の閾値で区画しておいてもよい。このように、演算処理を介さず、テーブル参照により故障予測時期を得るようにしてもよい。
【0208】
プロセス52では、故障予告時期の取得を行い、プロセス53では、報知内容の取得を行っている。これらは、適当な手段を介して端末に表示可能に送信することができる。続くプロセス54では、故障時期か否かの判断を行う。この故障時期は、例えば故障予告時期につき、所定の閾値を境に可否が判断される。このプロセス54で故障時期と判断された場合は、プロセス55へ進み、そうでないと判断されれば、プロセス49に戻って異常診断を継続してもよい。
【0209】
プロセス55は、故障時期の判断された場合に警告をするプロセスである。続くプロセス56では、故障か否か判断している。故障でないと判断した場合は、プロセス49に戻って異常診断を継続してもよい。なお、これらのプロセス52~56は、基本的には何れも故障判定手段が実行できるが、実施に応じて適宜設定できることはいうまでもない。
【0210】
一方、
図33において、製品データと一致するリファレンスデータテーブルが存在しない場合は、この異常診断を機会に、新たに第2リファレンスデータテーブルを作成する処理を行う。この処理が、
図34に示したプロセスAであり、このプロセスAは、プロセス61、63から成る。後述のように、第2リファレンスデータテーブルを変更する処理であるプロセスBへ進むか否かをリファレンスデータ変更フラグで管理しているので、先ず、プロセス59でリファレンスデータ変更フラグを判断する。
【0211】
すなわち、同一のバルブであっても、全閉~全開までの90度区間のデータが大きく相違し、その相違度合が複数のバルブで略同様な傾向が継続した場合、例えば、自社内で行う実験に基づくリファレンスデータには限りがあって、市場販売後の製品数によるデータ取得の方が圧倒的に多くなった場合には、データそのものにブレが出てくることが想定される。また、特殊な使用流体やあまりにもレンジの広い外部温湿度など、製品の属性・仕様を特定できる製品データはリファレンスデータとして既存であっても出力データに合致しないことが想定される。また、他社製ボールバルブそもそも製品データも存在していない、言い換えればリファレンスデータが全く保管されていない場合も想定される。故障予知制御から見て予知がぶれる変動要因を解決するために、本実施例では、2種類のリファレンスデータ作成処理AとBがある。プロセスAを、リファレンスデータ新規作成モード、プロセスBをリファレンスデータ変更モードと称し、また、
図34に示したプロセス全体を、リファレンスデータ作成プロセスと称する。
【0212】
図34において、プロセス60は、データベース42に、計測データから作成される第2リファレンスデータを新たに格納するプロセスである。例えば、自社製品について製品出荷前に試験を行う場合を説明する。先ず、計測データとして、製品データが手入力或いは既知の光学読み取りセンサなどから自動入力された後、出力データとして、バルブ3に取り付けられたアクチュエータ2でボールバルブを回動制御して、およそ想定されるバルブの平均使用頻度、試験によって新品から故障に至るまでの全閉~全開までの1回毎の角度毎の角速度データを入力し、こうした一連の試験をN回実施して、精度の高い測定データとして取り込み、続くプロセス61で第2リファレンスデータテーブルを完成させる。続くプロセス63にて、新たにリファレンスデータが存在することを示す既存リファレンスデータフラグをSETして終了し、判定詳細フローに戻る。
【0213】
次に、第2リファレンスデータを新たに作成するプロセスにおいて、例えば、他社製品のボールバルブを測定した場合について説明する。これは表3に示した第2リファレンスデータテーブルの一番下のレコードが該当している。これによれば、センサユニット1が装着され、製品データが読み込まれた段階で、自社製ではなく他社製であることが認識されるので、プロセスAにおいて、上述のように一連の測定をN回実施することなく、一度の測定でリレファレンスデータを作成(プロセス
61)し、
図33に示したフローに戻る。
【0214】
一方で、製品データが同一であり、よって既存の第2リファレンスデータテーブルが存在するにもかかわらず、このリファレンスデータテーブルにほぼ等しいリファレンスデータがなかった場合(プロセス51)、これは第2リファレンスデータそのものを書き変える必要があり、リファレンスデータ変更フラグをSETして(プロセス59)、プロセスBが実行される。この場合は、既存のリファレンスデータが存在するので、少しずつ変更していく過程をとる。
【0215】
プロセスBにおいては、測定データから出力データを取得すると(プロセス64)、この出力データと既存の第2リファレンスデータの差分を求め、この差分の10%分だけを既存の第2リファレンスデータを増減させて新規の第2リファレンスデータとして設定する。プロセス64~67では、カウンタCを1とし、また出力データとして角速度データを入力して同様な処理を10回繰り返したところで、プロセス65でループを抜け、プロセス68で既存リファレンスフラグをSETして終了する。
【0216】
こうすることで、少なくとも10回測定データによって平準化されるので、一つのボールバルブだけの特異な測定データをもって第2リファレンスデータが書き替えられることがない。特に、他社製ボールバルブのボールシートの急な仕様変更は、製品データとして入力される可能性が低いことから、製品データのみならず測定データのとりわけ角速度データの比較照合は精度の点で極めて有効である。
【0217】
さらに、リファレンスデータの書き替えに関し、別の手段として、加重平均化等の重みづけ(特徴的な部分の異なり度合で重みづけする)を行うやり方もある。これは、例えば他社製のバルブが対象である場合、何がしかの技術上の理由でボールシートの急な仕様変更があり別のボールシートに切り替えられると、ボールシート固有の角速度を有することから、同一バルブで全閉~全開までの大半の開閉区間で既存のリファレンスデータとの変動幅が大きく、複数のバルブで継続的に同様の傾向が出現したときに製品データに重みづけを行ってリファレンスデータを変動幅よりも小さな変動率(例えば、出力データが従前のリファレンスデータのものよりも10%変動していたら2%の変動率をもって少しずつ書き変えていく)で少しずつ書き変えることで、リファレンスデータを予め記憶させなくとも出力データ(計測データ)からリファレンスデータを作り出すことができ、故障予知システムの実現を容易にするとともに予知精度の向上を図ることができる。
【0218】
このように、リファレンスデータを作成するに際し、新規作成してリファレンスデータを確定させる処理と既存のリファレンスデータを平準化或いは重みづけしながら書き替える処理とを組み合わせることで、製品出荷前に当該製品のリファレンスデータを作成したり、市場における他社製品から測定データを入力して自動的にリファレンスデータを作成したり、また市場で急な部品使用の変更が為されてなどの種々のシチュエーションに対応できるようになる。
【0219】
よって、上記ジャイロセンサユニット1を使用中のバルブ3に用いることにより、このジャイロセンサユニット1が計測する計測データにより、バルブ3の開閉回数に応じた出力データと製品データを含む第2リファレンスデータ作成プロセスを行うことができ、この第2リファレンスデータ作成プロセスは、
図34に示した通り、リファレンスデータ新規作成モードとリファレンスデータ変更モードを備えている。
【0220】
さらに、所定のインターバルでメンテナンスが行われる複数のバルブが配管された一つの配管システムにおいて、前記複数のバルブには本発明のバルブの状態把握システムを用いて個々のバルブの故障時期の予測を実行して各予測結果を得ておき、この予測結果が前記インターバルを超えるバルブをメンテナンス対象から除外するようにしたことを特徴とする配管システムのメンテナンス方法を行うことができる。
【0221】
なお、
図35、36は、上記他例(
図25~30)に示した条件と同じ条件下において、ジャイロセンサ7に代えて、加速度センサにより回転運動を計測したグラフである。この加速度センサは、図示していないが、
図1において、監視ユニット1の取付具5裏面側の位置に取り付けてXYZ3軸の加速度を計測したものであり、監視ユニット1に内蔵されたジャイロセンサ7とほぼ同じ移動量となる位置で計測している。
【0222】
図35は、
図25~27と同様の条件下で加速度を計測しており、同図(a)はX軸方向の加速度、(b)はY軸方向の加速度、(c)はZ軸方向の加速度データをグラフ化したものである。
図36も同様であり、
図28~30と同様の条件下で加速度を計測し、同図(a)はX軸方向の加速度、(b)はY軸方向の加速度、(c)はZ軸方向の加速度データをグラフ化したものである。また、グラフ表記も他図と同様であるが、
図35、36の右縦軸は加速度であり、何れも極めて小さい刻み(0.005~0.02G、Gは重力加速度)となっている。
【0223】
図35、36から判るように、3軸何れの方向の加速度も、極めて小さい範囲内でランダムに振動しているパターンしか得ることができず、一部、突出したピーク状のパターンも計測されてはいるが、これもあくまで加速度スケールを極めて小さく設定してはじめて現れるパターンであって、バルブの診断に実用的な精度のグラフパターンとして計測できているとは言えない。よって、ジャイロセンサと同種の慣性センサとはいえ、加速度センサのみでは、必要な精度でバルブの回転運動を捉えることができないことが確認された。
【0224】
以上、本発明の実施の形態について詳述したが、本発明は、前記実施の形態記載に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲に記載されている発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更ができるものである。
【符号の説明】
【0225】
1 監視ユニット(センサユニット)
2 アクチュエータ
3 ボールバルブ(回転弁)
4 制御軸(回転軸、弁軸)
7 ジャイロセンサ
14 出力軸(回転軸、弁軸)
15 ステム(回転軸、弁軸)
26a、27a、30a 流路
30 ボール(弁体)
41 クラウドサーバ
42 データベース
A1、A2 ボールシート(弁座)(摩耗部品)
B ステムベアリング(摩耗部品)
C グランドパッキン(摩耗部品)
T1 T2 T3 特徴量