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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】HMC法で使用するコーティング材料
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/14 20060101AFI20230105BHJP
   B05D 1/02 20060101ALI20230105BHJP
   A61K 31/198 20060101ALN20230105BHJP
【FI】
A61K47/14
B05D1/02
A61K31/198
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021510877
(86)(22)【出願日】2018-10-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-11
(86)【国際出願番号】 DE2018000302
(87)【国際公開番号】W WO2020083411
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】521076786
【氏名又は名称】イーオーイー オレオ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロックマン、ダーク
(72)【発明者】
【氏名】レイエル、セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】シュテアー、ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】ジマー、アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】サラール ベーザディ、シャラレー
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-310599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00-47/69
A61K 31/00ー31/80
B05D 1/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散材料をコーティング材料でコーティングし、界面が安定している個々の部分の生成物を形成するホットメルトコーティング法であって、
当該コーティング材料は、
2~8個のグリセロール単位を含有する直鎖ポリグリセロール又は分枝鎖ポリグリセロールを、それぞれ6~22個の炭素原子を含有する1種以上の脂肪酸で、完全に又は部分的にエステル化することによりそれぞれ得られる、重量で主成分としての、1種以上のポリグリコール脂肪酸エステルを少なくとも98重量%有する組成物を含み、
当該コーティング材料を吹き付けるのと時間的に並行してそのプロセスにおいて使用されるガス又はガス混合物は、吹付けの間、当該コーティング材料の凝固温度よりも1℃~3℃のみ低い温度を有すること
を特徴とする、ホットメルトコーティング法
【請求項2】
前記コーティング材料の前記1種以上のポリグリセロール脂肪酸エステルの基礎となる前記脂肪酸が、飽和若しくは非分枝鎖、又は飽和かつ非分枝鎖であること、
を特徴とする、
請求項1に記載のホットメルトコーティング法
【請求項3】
前記コーティング材料の前記1種以上のポリグリセロール脂肪酸エステルの基礎となる前記脂肪酸が、16個、18個、20個又は22個の炭素原子を有する、
ことを特徴とする、
請求項1又は2に記載のホットメルトコーティング法
【請求項4】
動的示差熱量測定(dynamic differential calorimetry)の熱流による、前記コーティング材料の個々の前記1種以上のポリグリセロール脂肪酸エステルの検査で、加熱の間、それぞれの吸熱最小値のみ、冷却の間、それぞれの発熱最大値のみが得られること、
を特徴とする、
請求項1~3のいずれか一項に記載のホットメルトコーティング法
【請求項5】
WAXS分析によって決定されたブラッグ角の評価により、前記コーティング材料の前記1種以上のポリグリセロール脂肪酸エステルが、凝固温度未満で安定な細胞内形態(subcellular form)を有し、40℃で少なくとも6ヵ月間、実質的に一定のラメラ間隔を有すること
を特徴とする、
請求項1~4のいずれか一項に記載のホットメルトコーティング法
【請求項6】
シェラーの式によって評価されるSAXS分析により、前記コーティング材料の前記1種以上のポリグリセロール脂肪酸エステルが、凝固温度未満で安定な細胞内形態を有し、40℃で少なくとも6ヵ月間、実質的に一定のラメラ構造の微結晶の厚さを有すること
を特徴とする、
請求項1~5のいずれか一項に記載のホットメルトコーティング法
【請求項7】
以下の群:PG(2)-C18完全エステル、15~100のヒドロキシル価を有するPG(2)-C22部分エステル、PG(2)-C22完全エステル、100~200のヒドロキシル価を有するPG(3)-C16/C18部分エステル、100~200のヒドロキシル価を有するPG(3)-C22部分エステル、PG(3)-C22完全エステル、150~250のヒドロキシル価を有するPG(4)-C16部分エステル、PG(4)-C16完全エステル、150~250のヒドロキシル価を有するPG(4)-C16/C18部分エステル、PG(4)-C16/C18完全エステル、100~200のヒドロキシル価を有するPG(4)-C18部分エステル、100~200のヒドロキシル価を有するPG(4)-C22部分エステル、200~300のヒドロキシル価を有するPG(6)-C16/C18部分エステル、PG(6)-C16/C18完全エステル、100~200のヒドロキシル価を有するPG(6)-C18部分エステル、
からの前記コーティング材料の少なくとも1種のポリグリセロール脂肪酸エステルが、
炭素原子数のために異なる、2個の脂肪酸残基を有する前記ポリグリセロール脂肪酸エステルである場合、炭素原子数がより少ない脂肪酸残基が35%~45%存在し、炭素原子数がより多い脂肪酸残基が、それに対応して補完的に55%~65%であり、また列挙される前記完全エステルが5未満のヒドロキシル価を有すること、
を特徴とする、
請求項1~6のいずれか一項に記載のホットメルトコーティング法
【請求項8】
80℃での前記コーティング材料の粘度が、300mPas未満であること、
を特徴とする、
請求項1~7のいずれか一項に記載のホットメルトコーティング法
【請求項9】
前記コーティング材料の個々の前記1種以上のポリグリセロール脂肪酸エステルの凝固温度が、75℃未満であること、
を特徴とする、
請求項1~8のいずれか一項に記載のホットメルトコーティング法
【請求項10】
40℃及び20℃での疎水性を決定するために決定される、前記コーティング材料の個々の前記1種以上のポリグリセロール脂肪酸エステルの接触角が、16週後に初期値から10°未満の偏差を有すること、
を特徴とする、
請求項1~9のいずれか一項に記載のホットメルトコーティング法
【請求項11】
使用される反応物質によって、それぞれ互いに異なるエステル化反応から得られ得る、重量で前記コーティング材料の主成分としてのポリグリセロール脂肪酸エステルの、合成後の混合物、
を特徴とする、
請求項1~10のいずれか一項に記載のホットメルトコーティング法
【請求項12】
前記コーティング材料の、溶剤フリー若しくは界面活性剤フリーの組成物、又は溶剤フリーかつ界面活性剤フリーの組成物であること、
を特徴とする、
請求項1~11のいずれか一項に記載のホットメルトコーティング法
【請求項13】
前記分散材料が、少なくとも1種の活性医薬品成分を有すること、
を特徴とする、
請求項1~12のいずれか一項に記載のホットメルトコーティング法
【請求項14】
前記分散材料が1種以上の活性医薬品成分の結晶からなること、
を特徴とする、
請求項1~13のいずれか一項に記載のホットメルトコーティング法
【請求項15】
前記活性医薬品成分の少なくとも1種が易熱性であり、かつコーティング及びその後の室温までの冷却後に、98%を超える本来の有効な活性を有すること、
を特徴とする、
請求項13又は14に記載のホットメルトコーティング法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ホットメルトコーティング法、略してHMC法で使用するコーティング材料用の組成物で、医薬品の製造に更に利用できる組成物が提示される。
【背景技術】
【0002】
HMC法は、その他のコーティング法に優る利点を提供する。HMC法では、分散材料(例えば、分散媒としてのガス又はガス混合物中の固体粒子)は、コーティング材料を吹き付けられ、通常流動層として提供される。本明細書において、分散材料は相界面によって周囲の媒体から分離される材料を意味する。その他の方法とは対照的に、HMC法の吹付け工程では、溶かしたHMCコーティングの粘度は十分に低いため、例えば水などの、粘度を低下させるための溶剤を使用する必要がない。更にそれによって、エネルギーと時間のかかる乾燥工程を省くことができる。また、コーティング法を使用する間、望ましくないことに分散材料がコーティング材料中に部分的に溶解するリスクは、溶剤フリーのHMCコーティングによって大幅に低下する。HMC法は、食品産業ではすでに多用されている。医薬品製造では、粒質物、結晶又は一般的には粒子のコーティング、より一般的には液滴などのコーティング、例えば1種以上の医薬品活性成分を有する分散材料のコーティングは、例えば不快な味を覆い隠すために、例えば湿気又は紫外線などの環境の影響から活性成分を保護するために、又は活性成分放出の速度に影響を与えるために、頻繁に必要とされる。また、医薬品製造においてHMC法を利用できるようにするために、HMCコーティングは特定の要件を満たさなければならない。特に、HMCコーティングは長期間にわたって安定した状態を維持しなければならず、医薬品活性成分の一定の放出キネティクスを保証できるように、又は保管が長期にわたる場合には、内容物の十分な保護を保証できるように、コーティングの物理化学的性質の変化は、長期にわたって、可能な限り極めて狭い範囲でなければならない。溶融物としてのコーティング材料を吹き付けることで、分散材料が溶剤フリーのコーティング材料でコーティングされる任意の方法は、本明細書において、ホットメルトコーティング法、すなわちHMC法と呼ばれ、分散材料の個々の部分における粒度は基本的に自由に選択できる。また、本明細書において使用されるコーティング材料は、下記においてHMCコーティング又はHMCコーティング材料と呼ばれる。
【0003】
一方、各種HMCコーティングが知られているが、これらの大部分は特定の医薬品活性成分のために開発された。WO2014/167124A1では、グリセロールトリパルミタート又はグリセロールトリステアラートなどのトリグリセリドが多形を有し、それぞれが、結晶性の不安定なα-変態及び、準安定なβ’-変態又は安定なβ-変態の両方で存在し、1つの変態からもう一方の変態に変化することができる、という問題が明確に挙げられている。本明細書において、変態(modifications)は、特にラメラ状にパッキングされた結晶サブ単位(crystalline subunits)の厚みが異なり、この単位はまた細胞内単位(subcellular units)とも呼ばれる。例えば、グリセロールトリステアラートのα-変態では、特定の条件下で、細胞内単位当たり平均6層のラメラ構造の層形成を同定でき、β-変態へ完全に転移した後は、細胞内単位当たり平均10.5層のラメラ構造の層形成、及び約67%の結晶厚の増大が観察された。数学的に予想される75%の増大は得られない、という事実は、おそらくα-変態と比較して傾斜が生じるために、β-変態の個々のラメラが、より高密度のラメラパッキングを有することに起因する(D.G.Lopes、K.Becker、M.Stehr、D.Lochmannら、「薬学ジャーナル 104(Journal of Pharmaceutical Sciences 104)」4257~4265、2015年、参照)。HMC法における吹付けの間、可能な限り低く保持されている温度では、α-変態は、β-変態及びβ-変態よりも速い形成キネティクスを有するため、HMC法を用いた活性物質含有分散材料のコーティング完了後に、α-変態が存在するが、保管中に巨視的破壊をも伴う「ブルーミング」として知られる、コーティングの体積増加の下で、望ましくないことに、α-変態はより安定なβ-変態に再配置される。議論される問題の解決策は、WO2014/167124A1に従って、ポリソルベート、すなわち非イオン性界面活性剤の添加を通して行われ、ポリソルベート成分はコーティング材料の10~30%である。トリグリセリドとポリソルベートの混合物は、実際「ブルーミング」の問題を有さなくなったように見えるが、長期的に見て分離する可能性があり、その結果、医薬品配合物では基本的に安定しているべきである放出キネティクスの変化を排除できない。
【0004】
US5,891,476は、多形を有しないとされるカルナバワックスを用いた組成物について開示している。しかし、カルナバワックスのために、融点が82℃~86℃と高くなることが不都合である。HMC法における温度は部分的に100℃以上でなければならない場合があるため、開示されている上記組成物は易熱性の有効成分には不適当である。更に都合が悪いことに、温度が低下するときに極めて急速に凝固するワックスは、HMC装置のライン及びノズル内に容易に付着し、その際に装置内に閉塞を引き起こす。
【0005】
US2010/0092569A1は、活性成分を有するシリケート粉末吸着剤を溶融脂質マトリックスに埋めこみ、その後にコーティングした粒子製造のために吹付け及び冷却を行う技術について開示している。脂質マトリックスは、それぞれ16~22個の炭素原子を有する飽和した偶数鎖脂肪酸のトリグリセリド及び、活性成分の脂質マトリックスにおける均質な分散性を確保するための3%の乳化剤からなる。この製造方法もまた70℃を超える温度を必要とし、温度感受性の有効成分には不適当である。開示された方法は動物性食品の製造に寄与するが、人間が使用するための医薬品製品にとって極めて重要となる、活性成分の放出キネティクスについては、取り組まれていない。
【発明の概要】
【0006】
このような背景に対して、HMC法のためのコーティング材料の提供、及び前述した先行技術の不利益を有しないコーティングでコーティングした分散材料の提供という問題が主張されている。加えて、1種以上の医薬品活性成分を有する分散材料のコーティングにも好適であり、その使用前後のいずれにおいても、望ましくは混合物の分離を呈しないコーティング材料組成物が使用されるHMC法は、コーティングの体積変化を伴う多形に起因するいかなる変態変化も示さない。それに加えて、必要に応じて安定した放出キネティクスを確保し、それによって必要に応じて、易熱性(thermolabile)の医薬品有効成分を有する分散材料とともに処理を行えるHMC法が主張される。本明細書において、医薬品活性成分は、薬剤の薬理活性成分として使用され得る物質を意味すると理解される。本明細書において、物質とは、化学元素及び化学化合物、並びに自然に存在するそれらの混合物及び溶液、植物、植物の一部、植物成分、処理済み又は未処理状態の藻類、菌類及び苔類、動物の体、更に生きた動物及び動物の体の一部や体構成部分、処理済み又は未処理状態の人間又は動物の代謝産物、ウイルス及びそれらの構成部分又は代謝産物をはじめとする微生物である。本明細書において医薬品とは、物質又は物質から作製された調合品である。医薬品は、人間や動物の体内又は体表での使用を目的とし、かつ人間や動物の病気又は病理学的不安定を治療、軽減又は予防するための性質を有し、薬理学的効果、免疫学的効果又は代謝効果を介して、生理的機能の回復、修正又は影響を与えるために、又は医学的診断を行うために、人間や動物の体表又は体内で使用可能な、又は人間や動物に投与できる剤として意図されている。上記の意味で薬剤を含有する対象物、又は上記の意味で薬剤が適用され、人間や動物の体に永続的又は一時的な接触をもたらすことを意図する対象物、加えて動物の体表又は体内には使用されずに、動物の体の構造、状態又は機能を表す、又は動物体内の病原体を示す働きをする、その他の物質又は物質の調合品との相互作用において使用することを意図した物質及び物質の調合品もまた、本明細書において薬剤であると見なされる。
【0007】
前述の問題は、請求項1に記載のコーティング材料、分散材料と請求項14に記載のようなコーティング材料との組合せ、及び請求項17に記載のホットメルトコーティング法によって解決され、有利な実施形態の変形形態は対応する従属請求項の結果として生じる。
【0008】
ホットメルトコーティング法に用いられるコーティング材料であって、2~8個のグリセリル単位を含有する直鎖ポリグリセロール又は分枝鎖ポリグリセロールを、それぞれ6~22個の炭素原子を含有する1種以上の脂肪酸で、完全に又は部分的にエステル化することによりそれぞれ得られる、1種以上のポリグリセロール脂肪酸エステルを主成分として含有するコーティング材料が提案される。本明細書において、主成分とはポリグリセロール脂肪酸エステルが、提唱されるコーティング材料の重量のうち、最も高い比率(百分率)を占めることを意味する。提唱されるコーティング材料は、2重量%を構成し得る合成関連の付随的な物質は別として、好ましくはポリグリセロール脂肪酸エステル、又はこれらポリグリセロール脂肪酸エステルの合成後の混合物からなる。
【0009】
目的とするエステル化の出発物質として使用可能な、最も単純なポリグリセロールは、実験式C14を有する直鎖ジグリセロール及び分枝鎖ジグリセロールであり、これらは工業的に既知の方法で合成によって提供される。例えば、塩基触媒下でグリセロールを2,3-エポキシ-1-プロパノールで反応させることによってエーテル結合を形成する、又は塩基触媒下での熱縮合によって合成される、その後、主にジグリセロールを含有する部分が分離され得る。
【0010】
ジグリセロールは、3つの異なる構造的な異性体の形態で生じ得る。すなわち、導入される2個のグリセロール分子の、それぞれ第1の炭素原子間にエーテルの橋かけが形成される直鎖状形態と、第1のグリセロール分子の第1の炭素原子と、第2のグリセロール分子の第2の炭素原子との間に、エーテルの橋かけが形成される分枝鎖形態と、それぞれのグリセロール分子の第2の炭素原子の間にエーテルの橋かけが形成されるヌクレオデンドリマー(nucleodendrimeric)形態とで生じ得る。アルカリ触媒を使用して2個のグリセロール分子を縮合させる場合、最大約80%は直鎖状形態で生じ、最大約20%が分枝鎖形態であり、極めて少量のみがヌクレオデンドリマー(nucleodendrimeric)形態で生成される。
【0011】
同様に、目的とする脂肪酸でのエステル化のためには、2個を超えかつ最大8個のグリセリル単位を含有するポリグリセロールを使用できる。一般に、ポリグリセロールは「PG」と略記され、ポリグリセリル単位の数を表す添字(整数n)を用いて表され、「PG」となる。一例として、トリグリセロールはPGとして表され、実験式C20を有するものとする。脂肪酸、例えばステアリン酸を用いた完全なエステル化では、PG分子の遊離ヒドロキシル基の全てでエステル化が起き、直鎖状PGの場合には、第1のグリセリル単位の第1及び第2の炭素原子で、第2のグリセリル単位の第2の炭素原子で、並びに第3のグリセリル単位の第2及び第3の炭素原子で起こる。したがって、この例では実験式はC15と示され、各Rは脂肪酸残基を表し、選択された例では実験式C18OH35を有する。
【0012】
しかしながら、飽和した非分枝鎖脂肪酸によってエステル化されたポリグリセロールの略語としての表示方法は、PG(n)-Cm完全エステル又は、適切な場合はPG(n)-CM部分エステルと確立されており、括弧中の「n」はポリグリセロールの表示と同様に、分子内に含有されるグリセリル単位数を示し、mはエステル化反応に使用された飽和脂肪酸の炭素原子数を意味する。したがって、nは実験式CR、又は各々端のグリセリル単位としてCを有するグリセリル単位の数を意味し、Rは脂肪酸残基又は遊離ヒドロキシル基の水素原子を表し得る。したがって、PG(2)-C18完全エステルは、実験式C78150を有するポリグリセロール脂肪酸の完全エステルを意味する。PG-部分エステルの場合には、脂肪酸残基の数は平均であり、同時に実験式は、最も高い頻度で存在する、エステル化された変形形態を有する部分を示す。ポリグリセロール脂肪酸部分エステル用のより正確な表示は、ヒドロキシル価を更に表示することで提供される。ヒドロキシル価は、エステル化されないヒドロキシル基含量の尺度であり、部分エステルのエステル化度についての情報を提供する。おそらく立体障害という理由のために、この場合のエステル化反応は優先的に外側から内側へ起こる。したがって、最初にエステル化されるヒドロキシル基は、脂肪酸残基に最も高い自由度を与えるヒドロキシル基である。直鎖状ポリグリセロールでの最初のエステル化反応は、それゆえ端のポリグリセリル単位の、第1の炭素原子のヒドロキシル基で優先的に起こり、そして第2のエステル化反応は、もう一方の末端のポリグリセリル単位の、第3の炭素原子のヒドロキシル基で起こる。次に、すでにエステル化された炭素位置に隣接した炭素位置のヒドロキシル基がエステル化され、以下同様に続く。
【0013】
本明細書において、脂肪酸は6~22個の炭素原子を含有する脂肪族モノカルボン酸を意味すると理解され、非分枝鎖かつ飽和しており、偶数の炭素原子数を有するものが好ましいが、奇数の炭素原子数を有し、分枝鎖で及び/又は不飽和でもよい。提唱されるポリグリセロール脂肪酸エステルの調製のためには、16個、18個、20個又は22個のC原子を含有する非分枝鎖の飽和脂肪酸、すなわちパルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸又はベヘン酸が使用されることが特に好ましい。
【0014】
驚くべきことに、モノグリセロール脂肪酸エステル、例えばトリアシルグリセロールなどとは対照的に、提唱されるポリグリセロール脂肪酸エステルは多形性を示さない。動的示差熱量測定(dynamic differential calorimetry)によって個々に検査される、各種ポリグリセロール脂肪酸エステルは、加熱の間、検査される試料の溶融のため生じる、熱流の吸熱最小値(mW/gで示される)のみと、冷却の間、検査される試料の凝固によって生じる発熱最大値のみを有する。それとは対照的に、多形を有するトリアシルグリセロールの検査(examination)では、異なる局所的な最小値が見られた。つまり試料が加熱されるときに、α-変態が溶融して第1の局所的吸熱最小値が見られ、その後、より安定なβ-変態への結晶化の間、局所的な発熱最大値が見られた。β-変態は、熱流の更なる局所的吸熱最小値によって示され、また温度が更に上昇するにつれて溶融する。加熱及び冷却の間の温度変化は、本明細書においては、時間の経過とともに均一に起こるものとする。室温で又は40℃での6ヵ月にわたる保管中に、更なる吸熱又は発熱の移行は観察されていない。
【0015】
提唱される各種ポリグリセロール脂肪酸エステルの、それぞれの凝固温度未満での、広角X線散乱(「WAXS」と略記される)を用いた個々の検査では、検査したあらゆるポリグリセロール脂肪酸エステルの強度最大値が示され、それぞれ約2θに相当する21.4°の回折角が示された。これはブラッグ角の2倍である。そこからネットワーク平面の間隔が415pmであるという結果が得られたが、本明細書においては、検査される分子のラメラのパッキング密度と相関する。この距離は、α-変態に構造上付与され得る。α-変態では、それぞれのラメラ構造は、互いに上に積み重なって平面を形成する分子を伴う六方格子において、互いに平行に配置される。その他にはいかなる変態も確認できない。確認されたα-変態の安定性はまた、それぞれ6ヵ月にわたって、室温及び40℃の両方で、WAXSを用いて観察された。ここでも、検査される各種ポリグリセロール脂肪酸エステルの、驚くほど安定なα-変態のみが見られた。
【0016】
提唱されるポリグリセロール脂肪酸エステルが多形を有しないと更に確認するために、小角X線散乱(SAXSと略記される)による、広範囲にわたる種類のポリグリセロール脂肪酸エステルの個々の分析が提供される。SAXSによって、結晶子(crystallites)のサイズ、形状及び内面についての結論を導くことが可能となる。本明細書において、それぞれの結晶子の厚みはシェラーの式によって算出でき、D=Kλ/FWHM cos(θ)が適用される。本明細書において、Dは結晶子の厚みを、Kは無次元のいわゆるシェラー定数を示す。シェラー定数によって結晶子形状について言及でき、シェラー定数は、良好な近似値では通常0.9であると見なされ得る。FWHMは「半値全幅」を表し、バックグラウンドと比較して半分の高さにおける強度最大値のピークの幅であり、ラジアン(rad)で測定される。θはブラッグ角であり、ネットワーク平面上への放射線の入射角である。先行技術で既知の、10%のポリソルベート65で安定させたグリセロールトリパルミタートの試料は、室温で6ヵ月保管後、7層のラメラに相当する31nmの結晶子の厚みを有し、その結晶子の厚みは、40℃で6ヵ月保管後、12層のラメラに相当する52nmとなりほぼ2倍になるのに対し、提唱される各種ポリグリセロール脂肪酸部分エステルは、大部分が2~4層のラメラに相当する20~30nmの結晶子の厚みを有し、40℃で6ヵ月保管後、変態が変化せずに安定していることを示している。これに対して、各種ポリグリセロール完全エステルの大部分は、5~8層のラメラに相当する30~40nmのわずかに大きな結晶子の厚みを示し、より大きな程度の組織であることを示唆している。またポリグリセロール脂肪酸部分エステルと同様に、40℃で6ヵ月保管後、変態は変化せずに安定している。
【0017】
HMCコーティングで使用する又はHMCコーティング材料としては、PG(2)-C18、PG(2)-C22、PG(3)-C22、PG(4)-C16並びにPG(4)-C16/C18及びPG(6)-C16/C18で、それぞれ100に相補的なC16:C18の比率が、35~45:55~65、好ましくは40:60のポリグリセロール脂肪酸の完全エステルが好ましい。融点が60℃未満ですらあるPG(2)-C22及びPG(3)-C22は別として、この群の完全エステルは80℃未満の融点を有し、特に本方法のために重要である、それらエステルの凝固点が、それぞれの融点よりも約3℃~7℃低いため、HMC法にとってすぐに適切となる。以下のポリグリセロール脂肪酸部分エステル、PG(2)-C22-[15-100]-[17]、PG(3)-C22-[100-200]-[137]、PG(4)-C16-[150-250]-[186]、PG(4)-C18-[100-200]-[168]、PG(4)-C22-[100-200]-[145]、PG(6)-C18-[100-200]-[133]及びPG(3)-C16/C18-[100-200]-[148]、PG(4)-C16/C18-[150-250]-[187]、PG(6)-C16/C18-[200-300]-[237](それぞれC16:C18の比率が40:60)にも同じことが当てはまる。上記表示では、第1の角括弧中に、典型的な平均ヒドロキシル基数のそれぞれ好ましい範囲が、第2の角括弧中に、それぞれ特に好ましい典型的な平均ヒドロキシル基数が、表示に追加されている。融点が60℃未満ですらあるPG(2)-C22部分エステル、PG(3)-C22部分エステル及びPG(4)-C22部分エステルは別として、指定された部分エステルはまた、80℃未満の融点を有し、完全エステルと同様に、凝固点がそれぞれの融点よりも約3℃~7℃低い。
【0018】
提唱されたポリグリセロール脂肪酸エステルがHMC法に好適であるように、ポリグリセロール脂肪酸エステルの80℃での粘度は、300mPas未満、好ましくは200mPas未満、特に好ましくは100mPas未満であるべきである。これは、高い粘度では、通常使用される噴霧ノズルは、溶融したコーティング材料のために容易に詰まると考えられるためである。80℃というコーティング材料の溶融温度の限界を超えるのは、その後に設定されるプロセス制御の温度が、敏感な医薬品物質には全体的に高すぎることになるため、例外的な場合のみとするべきである。
【0019】
HMC法での使用に提唱されるポリグリセロール脂肪酸エステルは、好ましくは凝固温度が75℃未満、特に好ましくは43℃~56℃である。この凝固温度とともに可能となる低いプロセス制御温度は、以前からのエネルギー消費量、プロセスの信頼性、使用できる分散材料に関するより広い選択肢を目指すためのものである。本明細書において、凝固温度とは、動的示差熱量測定(dynamic differential calorimetry)による試料分析の間、熱流の最も高い発熱ピークの最大値が冷却に際して出現する温度、と定義される。
【0020】
コーティングされる分散材料に好適な、提唱されるポリグリセロール脂肪酸エステルを選択するためには、コーティング材料の疎水性が重要である。コーティング材料の疎水性は濡れ性と関連があり、コーティング材料の吸水能力及びエロージョン挙動のように、コーティングされた分散材料の放出キネティクスに影響を与えるためである。疎水性は、固体の凝集状態でのコーティング材料と、精製水の滴との間の接触角を測定することによって決定される。ヤングの式に従えば、cosθ=(γSv―γSL)/γLVであり、式中、γSLはコーティング材料と水との間の界面張力であり、γLVは水滴の表面張力であり、γSvはコーティング材料と周囲空気との間の界面張力であり、θは接触角である。、接触角θが大きくなるほど、コーティング材料と水との間の界面張力もまた大きくなり、検査されるコーティング材料の疎水性も高くなる。提唱されるポリグリセロール脂肪酸エステルの接触角はまた、医薬品技術において慣習的なHLB値と関連がある。HLB値は、親水性分子部分に対する親油性分子部分の比率について、0~20のスケールで情報を提供するものであり、HLB値が大きくなると親水性部分が増加する。HMC法を用いた医薬品活性成分を含有する1種以上の分散材料の加工のために、コーティング材料の接触角は、保管条件下で穏やかに変化するのみであるべきである。その結果、活性医薬品成分又は成分の放出キネティクスの安定性が確保される。ポリグリセロール脂肪酸エステルは、コーティング材料の主成分として使用されるのが好ましく、その20℃及び40℃での接触角が16週後に有する偏差は、初期値から10°未満である。グリセロールトリステアリンの指定された条件下での、接触角の偏差としては40°は比較的大きく、例えば、保管中にα-変態からβ-変態への再配置が起こるために、放出キネティクスの望ましい一定性にとって不利益となる。
【0021】
2重量パーセントを超えるべきでない合成関連の不純物は別として、提唱されるコーティング材料の供給には、コーティング材料が、全て同じ反応物質で実施されるエステル化反応より得られる、ポリグリセロール脂肪酸エステルからなるのであれば、基本的に十分である。しかしコーティング材料特性の微調節を行うために、異なる反応物質のために互いに異なるエステル化反応により得られ得る、各種のポリグリセロール脂肪酸エステル同士を、分離が生じない場合に限り、合成後に混合することも可能である。ポリグリセロール脂肪酸エステルがコーティング材料の主成分であり、多形も分離も生じず、放出キネティクスの安定性が存在し、かつ混合物の融点及び凝固点が80℃未満である場合に限り、コーティング材料に使用される、ポリグリセロール脂肪酸エステルに、中性の混合物を添加することも可能である。
【0022】
HMC法の前後のいずれにおいても望ましくない分離プロセスが起こらないように、HMC法のコーティング材料は、好ましくは、少なくとも98重量パーセントのポリグリセロール脂肪酸エステルからなる。
【0023】
既知のコーティング又はコーティング剤とは対照的に、提唱されるコーティング材料は、分散材料のコーティング後に、エネルギーと時間のかかる乾燥工程で、蒸発によって除去しなければならない溶剤を、好ましくは有しない。また、コーティング材料は有利には、いかなる界面活性剤も有しない。このような添加剤があると、多くの場合、望ましくない分離のリスクが存在するためであるが、このようなリスクは、保存安定性に関する長期的な研究においてのみ明らかになることが多い。
【0024】
ポリグリセロール脂肪酸エステルを主成分として有する、提唱されるコーティング材料の使用は、HMC法に限定されない。コーティング材料の溶融物を吹き付けて、同相の中空球状形とし、その内側空洞に上記の分散材料が保持されることによってもたらされる方法で、分散材料が、好ましくは少なくとも1種の活性医薬品成分を有する方法であれば、いかなる方法であってもよい。驚くべきことに、提唱されるコーティング材料を用いれば、粒質物又は凝集物に1種以上の補助剤を予め提供する必要なしに、1種以上の活性医薬品成分の結晶を安定してコーティングすることも更に可能である。
【0025】
請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物のコーティング材料で、分散材料がコーティングされるホットメルトコーティング法では、先行技術と比較して、放出キネティクスを適切に調整可能であり、また品質を損なわずにより長期間保管できる、優れた最終製品を得られる結果となる。それにより、このようなホットメルトコーティング法はまた、溶融コーティングを備えた、医薬品活性成分を有する少なくとも1種の分散材料、特にまた、少なくとも1種の易熱性の医薬品活性成分を有する、そのような分散材料をもたらすと考えられる。本明細書において易熱性(thermolabile)とは、100℃を超える温度に1時間曝露すると、有効な活性が2%減少することを意味する。医薬品活性成分の100%の有効な活性は、医薬品活性成分の全分子が活性化状態で存在するときに、又は生体内で活性化状態に変化できるときに存在する。
【0026】
驚くべきことに、結果に重大な意味を持つHMC法のパラメーターの変動、特に給気温度について、この温度は、提唱されるコーティング材料用のコーティング材料の凝固温度よりも、必ずしも5℃~15℃低い必要はないと決定できた。むしろ、おそらく先行技術と比較して、提唱されるコーティング材料の比熱容量が低いため、給気温度は凝固温度よりも最大1℃~2℃低い温度で提供され得る。このようにして、吹付けの間、望ましくない凝集物の形成を有効に防止する。
【0027】
以下では、提唱されるコーティング材料及びコーティング材料と分散材料の組合せがどのような性質を有するか、そして提唱されるコーティング材料が使用されるホットメルトコーティング法において、どのようなパラメーターがどのように考慮されるべきかについて図及び例を用いて、より詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
595gのPG及び625gのC18脂肪酸を、蒸留器具(distillation bridge)を備えるガラス器具に入れ、溶融させた。減圧下にて、200℃~240℃で反応を実施した。AN<KOH1.0mg/gに達するまでエステル化を実施した。
【図面の簡単な説明】
【0029】
上記のように合成した部分エステルPG(4)-C18は、質量分析(GC-MS)と組み合わせたガスクロマトグラフィーを用いた検査(examination)において、図1の量的な主要構造を示す。
【0030】
図2は、動的示差熱量測定(dynamic differential calorimetry)によるPG(4)-C18の検査結果を示し、図中のX軸上の温度は、Y軸上の熱流(mW/g)に対して付与されている。図2の左図は、部分エステルPG(4)-C18の2つの測定値の、ほぼ一致する2曲線を示す。各曲線は、それぞれ厳密に1つの吸熱最小値を有し、部分エステルの溶融に際して、固相から液相へのエネルギーが消費される移り変わりであると考えられる。図2の右図は、部分エステルPG(4)-C18の厳密に1つの発熱最大値を示す。これは、部分エステルの凝固に際して、液相から固相へのエネルギーが放出される移り変わりであると考えられる。測定は、Nietzsch Geratebau GmbH(ドイツ、セルブ、95100)のDSC 204 F1 Phoenixを用いて実施した。本明細書においては、3~4mgの試料をアルミニウムるつぼに量り入れ、毎分5Kの加熱速度での熱流を連続的に記録した。2回目も同じ加熱速度で実施した。
【0031】
図3は、ポリグリセロール脂肪酸エステルの所望される挙動とは対照的に、動的示差熱量測定(dynamic differential calorimetry)による検査の間の、加熱時の多形性トリアシルグリセロールの典型的な挙動を示す。ここでは、2つの局所的な吸熱最小値と、その間に存在する発熱最大値が見られる。第1の吸熱、すなわち左側の最小値は不安定なα-変態の溶融のために生じ、その後、より安定なβ-変態への結晶化に際して発熱最大値が見られ、更に温度が上昇すると、今度は結晶が溶融することが第2の吸熱、すなわち右側の局所的な最小値によって認識できる。
【0032】
図4は、室温で6ヵ月保管後、動的示差熱量測定(dynamic differential calorimetry)の加熱で検査される、PG(4)-C18部分エステルを示す。図5は、40℃で6ヵ月保管後、動的示差熱量測定(dynamic differential calorimetry)の加熱で検査される、PG(4)-C18部分エステルを示す。いずれの場合も、溶融後の安定な変態への結晶化を示し得る、発熱最大値は見られない。
【0033】
WAXS分析及びSAXS分析には、分解能が3.3~4.9オングストローム(WAXS)及び10~1500オングストローム(SAXS)である、2つの直線位置検知形検出器を備える点収束カメラシステムとして、元Hecus X-ray Systems Gesmbh(オーストリア、グラーツ、8020)で、現在はBruker AXS GmbH(ドイツ、カールスルーエ、76187)のS3-MICROを使用した。試料を直径約2mmのガラス毛管に導入し、続いてワックスで密閉して毛細管用回転ユニットに入れた。室温で1300秒間、1.542オングストロームの波長を有するX線ビームに晒して、個々の測定を行った。
【0034】
図6は、PG(4)-C18部分エステル(マーク付)を含む各種ポリグリセロール脂肪酸エステルの、それらの凝固温度未満でのWAXS分析の結果を示し、それら全てが21.4°である2θで、強度最大値を示している。ブラッグ角は、415pmのネットワーク平面の間隔に相当し、これはα-変態のラメラパッキングに典型的である。図7に示されるように室温で6ヵ月間保存したとき、及び図8に示されるように40℃で6ヵ月間保管したときの両方で、強度最大値は、安定した状態が維持される。
【0035】
図9は、各種ポリグリセロール脂肪酸部分エステルのSAXS分析の結果を示す。PG(4)-C18部分エステルでは、65.2オングストロームのラメラ間隔が導かれ得る。結晶子の厚みは、シェラー定数0.9、波長1.542オングストローム、FWHM値0.0111及びブラッグ角θ(rad)0.047を有するシェラーの式によれば、12.5nmである。PG(4)-C18部分エステルのSAXS分析値もまた、室温及び40℃の両方で6ヵ月保管した後、一定の状態を維持した(図示せず)。
【0036】
粘度測定のために、Anton Paar GmbH(オーストリア、グラーツ、8054)のレオメータ、Physica-Modular Compact Rheometer、MCR 300を使用した。一定のせん断力を伴う円すい形プレートを備える、CP-50-2システムで測定を実施した。本明細書においては、試料をプレート上で直接溶かし、80℃及び100℃での粘度を決定した。PG(4)-C18部分エステルの粘度は、80℃で74.38mPas及び100℃で34.46mPasである。ゆえに、部分エステルは、ホットメルトコーティング法で極めて適切に処理できる。
【0037】
動的示差熱量測定(dynamic differential calorimetry)の評価により、更にPG(4)-C18部分エステルの凝固温度について言及できる。試料の冷却に際して、発熱最大値のピークは53.4℃~57.0℃に上昇し、最大値が55.2℃であり、これは凝固温度として記録される。
【0038】
図10は、接触角の測定を例示する図である(段落[0020]参照)。PG(4)-C18部分エステルの接触角は約84°であり、約5.2のHLB値に相関する。その他のポリグリセロール脂肪酸エステルと比較して、PG(4)-C18部分エステルは、図11(PG4-C18の棒)から分かるように、より親水性が高いポリグリセロール脂肪酸エステルと指定されるべきである。HLB値5.2は、速放性の境界となる約4のHLB値よりも高いため、即時の放出が所望される活性医薬品成分のコーティングとして好適である。図12は、開始時の測定値(左の棒)と比較した、室温で16週間保管後(中央の棒)、及び40℃で16週間保管後(右の棒)の、PG(4)-C18部分エステル(中央の図表)の接触角の変化を示す。接触角の変化は10°を超えず、例えばトリステアリルグリセロールなどのモノグリセロール脂肪酸エステルと比較して、疎水性は安定していると説明できる。同じく図12に示されるPG3-C16/C18部分エステル(左の図表)とPG6-C18部分エステル(右の図表)についても同じことが言える。
【0039】
図13は、PG(4)-C18部分エステルでコーティングした粒子、及びその代わりにPG(3)-C16/C18部分エステルでコーティングした粒子の放出キネティクスを示し、粒子はそれぞれ600mgのN-アセチルシステインを有する。コーティングされた粒子の総重量において、PG(4)-C18部分エステルの比率は45重量%であり、PG(3)-C16/C18部分エステルの比率は50重量%であった。Y軸上の値は放出されるN-アセチルシステインの比率(百分率)を表し、X軸上の値は時間(分)を表す。放出に関する検査を、オートマチックサンプルコレクターを備え、USP-IIに準ずる装置、ERWEKA GmbH(ドイツ、ホイゼンシュタム、63150)の、DT820LHを用いて実施した。収集した試料を、高速液体クロマトグラフィー(HPLCと略される)を用いて、下記の条件、カラム:Synergi Fusio RP 4mm、80オングストローム、250mm×4.6mm、上流側カラム:Atlantis T3(5μm)、移動相:アセトニトリル5%/水95%(pH1.6)、流速:1mL/分、注入量:20μm、カラム温度:21℃、オートマチックサンプルコレクターの温度:5℃、波長:220nm、実行時間:20分で分析した。PG(4)-C18部分エステルでコーティングした粒子は、即時的な放出プロファイルを有し、最初の5分内に10%未満の、最初の30分内に85%超えるN-アセチルシステインが放出される。より有効な味のマスキングを達成するために、使用されるHMC法は、最初の5分内のN-アセチルシステインの放出を更に減少させるための、より高温の給気及びより高い吹付け速度を用いて、更に実行され得る。PG(3)-C16/C18部分エステルでコーティングした粒子の放出キネティクスのために、味のマスキングは成功していると考えられ得る。ここでは、最初の5分内に放出はほとんど起こらない。これは味のマスキングのために重要である。
【0040】
図14は、PG(4)-C18部分エステルでコーティングしたN-アセチルシステイン粒子の、開始時、40℃で1ヵ月保管後、40℃で3ヵ月保管後、及び40℃で5ヵ月保管後の放出キネティクスを示す。放出キネティクスに大きな差はなく、生成物は安定している。
【0041】
図15は、PG(3)-C16/C18部分エステルでコーティングしたN-アセチルシステイン粒子の、開始時、室温で1ヵ月保管後、及び40℃で1ヵ月間保管後の放出キネティクスを示す。放出キネティクスにはここでも大きな差はない。
【0042】
PG(3)-C16/C18部分エステルを主成分として有するコーティング材料による味のマスキングの成功は、とりわけHMC法パラメーターの最適化を通じて得られた。Innojet Ventilus V-2.5/1実験システムは、Romaco Holding GmbH(ドイツ、カールスルーエ、76227)のInnojetホットメルト装置IHD-1と組み合わせられて、コーティング装置として寄与した。PG(3)-C16/C18部分エステルを100℃で溶かし、約500μmの平均直径を有するN-アセチルシステインの結晶上に吹き付けた。HMCを実行するための試料の量は、それぞれ分散材料200gであった。コーティング用として最適な設定を決定するために、吹付け速度及び給気温度を、実行するHMCによって変化させた。本明細書においては、以下式:有効性(%)=実際のコーティング量/理論上達成できるコーティング量x100に従ってコーティング法の有効性を決定した。実際のコーティング量は、実行された各HMCで使用され、アセチルシステインの結晶上に適用されたコーティング材料の比率(百分率)である。吹付け速度5g/分及び給気温度35.0℃で、有効性は90.7%であった。給気温度を40.0℃に高めると、有効性が91.0%に高まった。驚くべきことに、吹付け速度を7.5g/分に高め、かつ給気温度を50℃に高めると、100%の有効性が得られる結果となった。2つの有効性値、90.7%及び91.0%は、N-アセチルシステイン結晶の表面上への拡散及び分布が起こり得る前に、コーティング材料のそれぞれ9.3重量%又は9.0重量%が凝固したことを意味する。活性成分を含まない、凝固した液滴を、それぞれの実施終了時にダストとして収集し、重さを量った。ダストの重量は、有効性が90.7%の場合は18.6gであり、有効性が91.0%の場合は18.0gであった。100%の有効性は、本明細書において、コーティング材料の凝固温度、この場合、PG(3)-C16/C18部分エステルの凝固温度51.7℃よりも、2℃未満低い給気温度を用いて得られた。提唱されるコーティング材料に使用されるポリグリセロール脂肪酸エステルの、従来のHMCコーティングと比較して低い比熱容量が、先行技術と比較して、給気温度の設定により広く有利な柔軟性を可能とする理由であり得る。K.Beckerらの「脂質ベースの固体経口製剤調製のための溶媒フリーの溶融技術(Solvent-free melting techniques for the preparation of lipid-based solid oral formulations)」製薬研究(Pharmaceutical Research)(2015年5月)32(5)、1519~45の出版物においては、HMCコーティング材料の凝固温度よりも5℃~15℃低い給気温度が、依然として不可欠だと見なされている。
【0043】
PG(4)-C18部分エステルを有するコーティング材料の放出試験とは対照的に、PG(3)-C16/C18部分エステルでコーティングしたN-アセチルシステイン結晶の放出キネティクスを決定するために、オートマチックサンプルコレクターの代わりに、Perkin Elmer(アメリカ、マサチューセッツ、ウォルサム)の、Lambda 25分光計を用いた紫外線/可視光線用の一体型検出を使用した。Merck KGaA(ドイツ、ダルムシュタット)から入手した、900mLの超純水中、37℃で、100回転数/分のパドル撹拌速度で放出試験を実施した。放出プロファイルは、開始時を0%と設定し、放出完了時の放出レベルを100%放出として測定した。図16は、HMC法において、35℃、40℃及び50℃の給気温度を用いてコーティングされた粒子の放出曲線を示す。100%の有効性を有する、50℃でコーティングされた粒子は、最初の5分内では、N-アセチルシステインをほとんど放出しない。PG(3)-C16/C18部分エステルを主成分として有するコーティング材料とともに使用されるHMC法は、給気温度の最適化後には、味のマスキングに十分適している。驚くべきことに、このようにして提唱されたコーティング材料によって可能となる。
本願の出願当初の特許請求の範囲に係る発明の内容は、以下の通りである。
[項1] ホットメルトコーティング法で使用するコーティング材料であって、
2~8個のグリセロール単位を含有する直鎖ポリグリセロール又は分枝鎖ポリグリセロールを、それぞれ6~22個の炭素原子を含有する1種以上の脂肪酸で、完全に又は部分的にエステル化することによりそれぞれ得られる、主成分としての、1種以上のポリグリコール脂肪酸エステル、
を特徴とする、コーティング材料。
[項2] 前記1種以上のポリグリセロール脂肪酸エステルの基礎となる前記脂肪酸が、飽和若しくは非分枝鎖、又は飽和かつ非分枝鎖であること、
を特徴とする、
項1に記載のコーティング材料。
[項3] 前記1種以上のポリグリセロール脂肪酸エステルの基礎となる前記脂肪酸が、16個、18個、20個又は22個の炭素原子を有する、
ことを特徴とする、
項1又は2に記載のコーティング材料。
[項4] 動的示差熱量測定(dynamic differential calorimetry)の熱流による、個々の前記1種以上のポリグリセロール脂肪酸エステルの検査で、加熱の間、それぞれの吸熱最小値のみ、冷却の間、それぞれの発熱最大値のみが得られること、
を特徴とする、
項1~3のいずれか一項に記載のコーティング材料。
[項5] WAXS分析によって決定されたブラッグ角の評価により、実質的に一定のラメラ間隔を40℃で少なくとも6ヵ月間有し、凝固温度未満で安定な、前記1種以上のポリグリセロール脂肪酸エステルの細胞内形態(subcellular form)、
を特徴とする、
項1~4のいずれか一項に記載のコーティング材料。
[項6] シェラーの式によって評価されるSAXS分析により、実質的に一定の前記ラメラ構造の結晶子厚を40℃で少なくとも6ヵ月間有し、凝固温度未満で安定な、前記1種以上のポリグリセロール脂肪酸エステルの細胞内形態、
を特徴とする、
項1~5のいずれか一項に記載のコーティング材料。
[項7] 以下の群:PG(2)-C18完全エステル、15~100のヒドロキシル価を有するPG(2)-C22部分エステル、PG(2)-C22完全エステル、100~200のヒドロキシル価を有するPG(3)-C16/C18部分エステル、100~200のヒドロキシル価を有するPG(3)-C22部分エステル、PG(3)-C22完全エステル、150~250のヒドロキシル価を有するPG(4)-C16部分エステル、PG(4)-C16完全エステル、150~250のヒドロキシル価を有するPG(4)-C16/C18部分エステル、PG(4)-C16/C18完全エステル、100~200のヒドロキシル価を有するPG(4)-C18部分エステル、100~200のヒドロキシル価を有するPG(4)-C22部分エステル、200~300のヒドロキシル価を有するPG(6)-C16/C18部分エステル、PG(6)-C16/C18完全エステル、100~200のヒドロキシル価を有するPG(6)-C18部分エステル、
からの少なくとも1種のポリグリセロール脂肪酸エステルが、
炭素原子数のために異なる、2個の脂肪酸残基を有する前記ポリグリセロール脂肪酸エステルである場合、炭素原子数がより少ない脂肪酸残基が35%~45%存在し、炭素原子数がより多い脂肪酸残基が、それに対応して補完的に55%~65%であり、また列挙される前記完全エステルが好ましくは5未満のヒドロキシル価を有すること、
を特徴とする、
項1~6のいずれか一項に記載のコーティング材料。
[項8] 80℃での粘度が、300mPa s未満、好ましくは200mPa s未満、特に好ましくは100mPa s未満であること、
を特徴とする、
項1~7のいずれか一項に記載のコーティング材料。
[項9] 個々の前記1種以上のポリグリセロール脂肪酸エステルの凝固温度が、75℃未満、好ましくは43℃~56℃であること、
を特徴とする、
項1~8のいずれか一項に記載のコーティング材料。
[項10] 40℃及び20℃での疎水性を決定するために決定される、個々の前記1種以上のポリグリセロール脂肪酸エステルの接触角が、16週後に初期値から10°未満の偏差を有すること、
を特徴とする、
項1~9のいずれか一項に記載のコーティング材料。
[項11] 使用される反応物質のために、それぞれ互いに異なるエステル化反応により得られ得る、前記主成分としてのポリグリセロール脂肪酸エステルの、合成後の混合物、
を特徴とする、
項1~10のいずれか一項に記載のコーティング材料。
[項12] 少なくとも98重量%のポリグリセロール脂肪酸エステル比率、
を特徴とする、
項1~11のいずれか一項に記載のコーティング材料。
[項13] 溶剤フリー若しくは界面活性剤フリーの組成物、又は溶剤フリーかつ界面活性剤フリーの組成物であること、
を特徴とする、
項1~12のいずれか一項に記載のコーティング材料。
[項14] 前記コーティング材料が、コーティング材料の溶融物を吹き付けることにより得られる、同相の中空球状形を有し、その内側空洞に前記分散材料を含有していること、
を特徴とする、
項1~13のいずれか一項に記載の組成物を有するコーティング材料と、分散材料との組合せ。
[項15] 前記分散材料が、少なくとも1種の活性医薬品成分を有すること、
を特徴とする、
項14に記載の組合せ。
[項16] 前記分散材料が1種以上の活性医薬品成分の結晶からなること、
を特徴とする、
項14又は15に記載の組合せ。
[項17] 分散材料がコーティング材料でコーティングされ、界面が安定している個々の部分からの生成物を形成するホットメルトコーティング法であって、
前記コーティング材料が、項1~13のいずれか一項に記載の組成物を有すること、
を特徴とする、
ホットメルトコーティング法。
[項18] 前記生成物が、項14~16のいずれか一項に記載の組合せを有すること、
を特徴とする、
項17に記載のホットメルトコーティング法。
[項19] 前記活性医薬品成分が易熱性であり、かつコーティング及びその後の室温までの冷却後に、98%を超える本来の有効な活性を有すること、
を特徴とする、
項18に記載のホットメルトコーティング法。
[項20] 前記コーティング材料を吹き付けるのに使用されるガス又はガス混合物が、吹付けの間、前記コーティング材料の凝固温度よりも3℃のみ低い、好ましくは1℃~2℃のみ低い温度を有すること、
を特徴とする、
項17又は18のいずれか一項に記載のホットメルトコーティング法。
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