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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3232 20160101AFI20230105BHJP
   F16J 15/3252 20160101ALI20230105BHJP
   F16J 15/16 20060101ALI20230105BHJP
   F16J 15/3276 20160101ALI20230105BHJP
【FI】
F16J15/3232 101
F16J15/3252
F16J15/16 A
F16J15/3276
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021525933
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2020017591
(87)【国際公開番号】W WO2020250578
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2019109676
(32)【優先日】2019-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(74)【代理人】
【識別番号】100125335
【弁理士】
【氏名又は名称】矢代 仁
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 裕
(72)【発明者】
【氏名】西村 宣宏
(72)【発明者】
【氏名】稀代 昌道
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-057756(JP,A)
【文献】米国特許第4522411(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0184021(US,A1)
【文献】特開2000-130599(JP,A)
【文献】特開2015-038379(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0097572(US,A1)
【文献】実公昭43-015623(JP,Y1)
【文献】特開2006-300191(JP,A)
【文献】特開2001-141071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/16-15/3296
F16J 15/46-15/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
往復動軸と、前記往復動軸が配置された軸孔の内周面との間に配置され、オイル側と大気側を隔てる密封装置であって、
前記往復動軸に摺動自在に接触するオイルリップを有する、ガラス転移温度が80℃以上である樹脂製の環状のオイルシールと、
前記オイルシールの周囲に配置され、前記オイルシールを支持する金属製のオイル側剛性環と、
前記オイルシールよりも大気側に配置され、前記往復動軸に摺動自在に接触するダストリップを有するエラストマー製の環状のダストシールと、
前記ダストシールの周囲に配置され、前記ダストシールを支持する金属製の大気側剛性環
を有することを特徴とする密封装置。
【請求項2】
前記オイルシールは、大気側環状部分とオイル側環状部分を有し、前記オイル側環状部分は前記大気側環状部分の厚さよりも小さい厚さを有しており、
前記大気側環状部分は前記往復動軸に接触せず、
前記オイル側環状部分は、前記往復動軸に摺動自在に接触する複数のオイルリップを有し、
前記複数のオイルリップの各々は、内周側ほど先細になる円環であって、リップエッジを有しており、
前記複数のオイルリップの前記リップエッジは同軸に配置されており、前記往復動軸の周囲に前記オイルシールが配置されない無負荷状態で、オイル側に配置されたオイルリップのリップエッジの直径が大気側に配置されたオイルリップのリップエッジの直径より小さい
ことを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記オイル側剛性環の内周部に固着されており、前記オイルシールの外周部が取り付けられるエラストマー製の弾性環をさらに有する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の密封装置。
【請求項4】
前記弾性環は、気側に突出する環状突起を有し、密封装置が組み立てられる前に、前記環状突起は前記オイル側剛性環の大気側の表面よりも大気側に突出し、
密封装置が組み立てられた後、前記オイル側剛性環が前記大気側剛性環に接触させられた状態で、前記環状突起は前記オイル側剛性環と前記大気側剛性環により圧縮される
ことを特徴とする請求項3に記載の密封装置。
【請求項5】
前記オイルシールは、前記オイル側剛性環に締まり嵌めされて前記オイル側剛性環に固定されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の密封装置。
【請求項6】
前記オイルシールは、前記弾性環に締まり嵌めされて前記弾性環に固定されている
ことを特徴とする請求項3または4に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、往復動軸と、往復動軸が配置された軸孔の内周面との間に配置される密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧シリンダ装置、ショックアブソーバ等の往復動軸を有する機器においては、往復動軸と軸孔の内周面との間に、これらの間の環状間隙を封止するための密封装置が設けられる。
【0003】
特許文献1には、車両の懸架装置のショックアブソーバ用の密封装置が開示されている。この密封装置は、シールリップとダストリップが形成された弾性体と、弾性体に密着する金属環と、金属環に重ねられた蓋部材とを備える。金属環は、その軽量化のための複数の貫通穴を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-255641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
往復動軸を有する機器のための密封装置は、今後、さらに高圧で高温の環境下で使用される可能性がある。高圧で高温の環境下で使用されても、密封装置は高い耐久性を有することが要求され、さらに高い密封性能を確保することが要求される。
【0006】
そこで、本発明は、高圧で高温の環境下で使用されても、高い耐久性を有する密封装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様に係る密封装置は、往復動軸と、前記往復動軸が配置された軸孔の内周面との間に配置され、オイル側と大気側を隔てる密封装置であって、前記往復動軸に摺動自在に接触するオイルリップを有する、ガラス転移温度が80℃以上である樹脂製の環状のオイルシールと、前記オイルシールの周囲に配置され、前記オイルシールを支持する金属製のオイル側剛性環と、前記オイルシールよりも大気側に配置され、前記往復動軸に摺動自在に接触するダストリップを有するエラストマー製の環状のダストシールと、前記ダストシールの周囲に配置され、前記ダストシールを支持する金属製の大気側剛性環を有する。
【0008】
この態様によれば、ガラス転移温度が80℃以上である樹脂から往復動軸に接触するオイルシールが形成されているため、エラストマーで形成されたオイルシールに比べて、オイルシールの耐熱性、耐圧性および耐摩耗性が高い。したがって、密封装置は高い耐久性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1の実施形態に係る使用時の密封装置の断面図である。
図2】非使用時の図1の密封装置の拡大分解断面図である。
図3】本発明の第2の実施形態に係る使用時の密封装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る様々な実施形態を説明する。図面の縮尺は必ずしも正確ではなく、一部の特徴は誇張または省略されることもある。
【0011】
第1の実施形態
図1は、本発明の第1の実施形態を示す図であり、往復動軸を有する機器であるショックアブソーバの一部と、ショックアブソーバに設けられた使用時の密封装置を示す。
【0012】
ショックアブソーバ1は、円筒状のハウジング2と、円柱状の往復動軸4とを有する。ハウジング2は、円筒状であって、往復動軸4が配置された軸孔2Aを有する。軸孔2A内には、流体すなわちオイルLが入れられている。ハウジング2の下端には、中央に開口3Aが形成された端部壁3が形成されている。
【0013】
ハウジング2の内部には、オイルシールである密封装置6およびロッドガイド8が配置されている。詳細については図示しないが、ロッドガイド8は、ハウジング2に固定されている。ロッドガイド8は、往復動軸4の図中の上下方向(すなわち往復動軸4の軸線方向)の往復運動を案内するとともに、密封装置6を端部壁3に押し付ける。
【0014】
密封装置6は、ハウジング2の内部に配置され、ハウジング2の内周面によって密封装置6の図中の横方向の移動が規制されている。また、密封装置6は、ロッドガイド8の突起8aと端部壁3に挟まれており、往復動軸4の軸線方向に沿った密封装置6の移動が規制されている。密封装置6は、往復動軸4と、この往復動軸4が配置された軸孔2Aの内周面との間に配置され、オイルL側から大気A側を隔てて、オイルL側から大気A側へオイルLが漏出するのを防止または低減させる。
【0015】
往復動軸4は円柱状であり、軸孔2Aは断面円形であり、密封装置6はほぼ環状であるが、図1においては、それらの左半分のみが示されている。図1には、往復動軸4、軸孔2Aおよび密封装置6の共通の中心軸線Cが示されている。
【0016】
密封装置6は、環状のオイルシール10、オイル側剛性環20、弾性環30、環状のダストシール40および大気側剛性環50を有する。
【0017】
オイルシール10は、大気側環状部分11とオイル側環状部分12を有する。オイル側環状部分12は大気側環状部分11の厚さよりも小さい厚さ(内外半径差)を有する。大気側環状部分11は往復動軸4に接触しないが、オイル側環状部分12は、往復動軸4に摺動自在に接触可能である複数のオイルリップ13,14,15を有する。
【0018】
オイルシール10は樹脂で形成されている。オイルシール10の材料として好ましい樹脂は、摩擦係数が小さく、硬度が高い樹脂であり、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。但し、他の樹脂もオイルシール10の材料として使用してよい。樹脂には、充填剤などの成分が配合されていてもよい。
【0019】
オイルシール10の材料のガラス転移温度は、80℃以上である。
【0020】
オイル側剛性環20は、金属、例えば鋼から形成された円環である。オイル側剛性環20は、オイルシール10の周囲に、オイルシール10と同軸に配置される。オイル側剛性環20は、オイルシール10と弾性環30を支持する。
【0021】
弾性環30はエラストマーから形成されている。弾性環30の材料のガラス転移温度は0℃以下である。
【0022】
弾性環30は、オイルシール10の周囲に、オイルシール10と同軸に配置される。弾性環30は、内側環部31、外側環部32および連結環部33を有する。
【0023】
内側環部31は、オイル側剛性環20の内周面とオイル側の表面に固着されている。内側環部31は、オイルシール10を補強するとともに、オイルシール10の変位を許容する部分である。内側環部31の内周部には、オイルシール10の外周部が嵌め込まれる。したがって、オイルシール10の外周部は内側環部31に取り付けられている。
【0024】
外側環部32は、オイル側剛性環20の外周面とオイル側の表面に固着されている。外側環部32は、密封装置6によるオイルの密封性を向上させる部分である。外側環部32は、外側ガスケット部34,35を有する。
【0025】
外側ガスケット部34は、外側環部32のオイル側剛性環20の外周面を覆う部分から径方向外側に突出する環状の突起である。外側ガスケット部34は、圧縮された状態でハウジング2の軸孔2Aの内周面に接触させられる。したがって、外側ガスケット部34は、軸孔2Aに締まり嵌め(圧入)されている。
【0026】
外側ガスケット部35は、外側ガスケット部34よりもオイル側に配置されており、径方向外側に突出する環状の突起である。外側ガスケット部35も、圧縮された状態でハウジング2の軸孔2Aの内周面に接触させられる。図2に拡大して示すように、密封装置6が軸孔2A内に配備されていない状態では、外側ガスケット部35の直径は外側ガスケット部34の直径よりも大きい。したがって、外側ガスケット部35の締め代は外側ガスケット部34のそれよりも大きい。
【0027】
オイル側剛性環20は、外側ガスケット部34,35に対して径方向外側すなわち軸孔2Aの内周面に向かう支持力を与え、外側ガスケット部34は軸孔2Aの内周面とオイル側剛性環20によって圧縮され、外側ガスケット部35は軸孔2Aの内周面とロッドガイド8の突起8aとオイル側剛性環20によって圧縮される。このようにして、外側ガスケット部34,35は、オイル側から大気側への軸孔2Aの外側部分を通じたオイルLの漏れを防止または低減する。
【0028】
連結環部33は、内側環部31と外側環部32を連結する。連結環部33は、オイル側剛性環20のオイル側の表面に固着されている。ロッドガイド8の突起8aが連結環部33に接触させられ、密封装置6にハウジング2の端部壁3に向かう押圧力を与える。したがって、密封装置6はロッドガイド8と端部壁3に挟まれて、定位置に固定されている。
【0029】
ダストシール40は、オイルシール10よりも大気側に配置されている。ダストシール40はエラストマーから形成されている。ダストシール40の材料のガラス転移温度は0℃以下である。ダストシール40の材料は、弾性環30の材料と同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0030】
ダストシール40は、往復動軸4に摺動自在に接触するダストリップ41を有する。
【0031】
大気側剛性環50は、金属、例えば鋼から形成された円環である。大気側剛性環50の材料は、オイル側剛性環20の材料と同じでもよいし、異なっていてもよい。大気側剛性環50は、ダストシール40の周囲に、ダストシール40と同軸に配置される。大気側剛性環50はダストシール40を支持する。
【0032】
大気側剛性環50の大気側の表面は、ハウジング2の端部壁3に接触させられ、大気側剛性環50のオイル側の表面は、オイル側剛性環20の大気側の表面に接触させられる。
【0033】
ダストシール40は、大気側剛性環50に固着されている。より具体的には、ダストシール40は、大気側剛性環50の内周面に固着された環状部分42と、大気側剛性環50の大気側の表面に固着された環状部分43を有する。
【0034】
ダストシール40はさらに環状部分42,43から大気側に延びる大気側環状部分44を有しており、大気側環状部分44の先端にダストリップ41が設けられている。
【0035】
不可欠ではないが、大気側環状部分44の周囲には、ダストリップ41を径方向内側に圧縮するためのガータースプリング45が巻かれている。ガータースプリング45は、ダストリップ41を往復動軸4に押し付ける力を大気側環状部分44に与える。図2に示すように、大気側環状部分44の外周面には、ガータースプリング45を受け入れる周溝46が形成されている。
【0036】
この密封装置6によれば、ガラス転移温度が80℃以上である樹脂から往復動軸4に接触するオイルシール10が形成されているため、エラストマーで形成されたオイルシールに比べて、オイルシール10の耐熱性、耐圧性および耐摩耗性が高い。したがって、密封装置6は高い耐久性を有する。
【0037】
樹脂で形成されたオイルシール10は、エラストマーで形成されたオイルシールに比べて、弾性変形しにくい。特に低温環境(例えば-20℃以下の環境)では、樹脂は非常に硬くなる。しかし、この密封装置6によれば、オイルシール10の周囲にエラストマー製の弾性環30が配置されているので、弾性環30によってオイルシール10は径方向内側に押圧され、オイル側剛性環20と往復動軸4が偏心している場合であってもオイルリップが往復動軸4の外周面に追随して変形することができ、密封装置6は高い密封性能を有する。特に低温環境では、この効果が高い。
【0038】
図2は、非使用時、すなわちショックアブソーバ1に配備されていない時の密封装置6の拡大分解断面図である。但し、図2において、密封装置6がショックアブソーバ1に配備された場合のハウジング2の軸孔2Aおよび往復動軸4の位置を仮想線で示す。
【0039】
図2に示すように、密封装置6は、3つの部品に分解することができる。1つの部品はオイルシール10であり、他の1つの部品はオイル側剛性環20と弾性環30の組み合わせであり、さらに他の1つの部品はダストシール40と大気側剛性環50の組み合わせである。
【0040】
図2を参照し、密封装置6の詳細をさらに説明する。
【0041】
オイル側剛性環20のオイル側の表面には周方向に連続する溝21が形成され、溝21には弾性環30の連結環部33の一部33aが埋設されている。
【0042】
不可欠ではないが、弾性環30の連結環部33には、サイドリップ36が形成されている。サイドリップ36は、オイル側に延びる板であり、サイドリップ36の先端は、ロッドガイド8の突起8aに接触し、突起8aと連結環部33の間にオイルが侵入することを防止または低減する。
【0043】
弾性環30の内側環部31は、オイル側剛性環20の内周面に固着された大気側環状部分37と、大気側環状部分37からオイル側に突出するオイル側環状部分38を有する。弾性環30の大気側環状部分37には、オイルシール10の大気側環状部分11が締まり嵌めされ、弾性環30のオイル側環状部分38には、オイルシール10のオイル側環状部分12が締まり嵌めされる。このようにオイルシール10は弾性環30に締まり嵌めされて弾性環30に固定されている。オイルシール10が弾性環30に適切な圧力で嵌められていれば、オイルシールが弾性環に接着されている場合に比べて、オイルシール10を弾性環30に堅固に固定することができ、密封装置6の耐久性が向上する。
【0044】
大気側環状部分37の内周面には、周溝37Aが形成されており、オイルシール10の大気側環状部分11の外周面には環状突起11Aが形成されている。環状突起11Aは周溝37Aに嵌め込まれ、これによりオイルシール10は内側環部31に固定されている。
【0045】
但し、オイルシール10の外周部は、接着剤によって内側環部31に固定されてもよい。この場合には、環状突起11Aと周溝37Aは形成されてもよいし、形成されなくてもよい。
【0046】
弾性が小さい樹脂製のオイルシール10において、オイルリップ13,14,15が設けられたオイル側環状部分12は、大気側環状部分11より厚さ(内外半径差)が小さい(剛性が小さい)ため、オイル側環状部分12は大気側環状部分11よりも弾性変形しやすい。弾性が大きいエラストマー製の弾性環30において、大気側環状部分37はオイル側剛性環20に直接支持されており、オイル側環状部分38は大気側環状部分37より厚さ(内外半径差)が大きいため、オイル側環状部分38で包囲されたオイルシール10のオイル側環状部分12は大気側環状部分37で包囲された大気側環状部分11よりもさらに弾性変形しやすい。
【0047】
さらに内側環部31は、大気側環状部分37よりも大気側に突出する環状突起39を有する。環状突起39は、オイル側剛性環20の大気側の表面の内周側に形成された周溝22においてオイル側剛性環20に固着されている。環状突起39は、オイル側剛性環20の大気側の表面よりも大気側に突出する。3つの部品(オイルシール10、オイル側剛性環20と弾性環30の組み合わせ、ならびにダストシール40と大気側剛性環50の組み合わせ)が組み合わせられて、オイル側剛性環20が大気側剛性環50に接触させられると、環状突起39はオイル側剛性環20と大気側剛性環50により圧縮され、オイル側剛性環20と大気側剛性環50の間にオイルが侵入することを防止または低減する。
【0048】
オイルシール10において、複数のオイルリップ13,14,15の各々は、内周側ほど先細になる円環である。より具体的には、オイルリップ13は円錐台形の2つの傾斜面の境界であるリップエッジ13Aを有し、オイルリップ14も円錐台形の2つの傾斜面の境界であるリップエッジ14Aを有し、オイルリップ15も円錐台形の2つの傾斜面の境界であるリップエッジ15Aを有する。リップエッジ13A,14A,15Aは、同軸に配置されており、往復動軸4を全周にわたって包囲する。
【0049】
往復動軸4の周囲にオイルシール10が配置されない無負荷状態で、最もオイル側に配置されたオイルリップ13のリップエッジ13Aの直径は、中間に配置されたオイルリップ14のリップエッジ14Aの直径より小さく、中間に配置されたオイルリップ14のリップエッジ14Aの直径は、最も大気側に配置されたオイルリップ15のリップエッジ15Aの直径より小さい。
【0050】
樹脂で形成されたオイルシール10のオイル側環状部分12は大気側環状部分11の厚さよりも小さい厚さを有するので、複数のオイルリップ13,14,15を有するオイル側環状部分12は大気側環状部分11よりも弾性変形しやすく、かつ、オイル側に配置されたオイルリップは大気側に配置されたオイルリップよりも変位しやすい。往復動軸4の周囲にオイルシール10が配置されない無負荷状態(図2の状態)で、オイル側に配置されたオイルリップのリップエッジの直径が大気側に配置されたオイルリップのリップエッジの直径より小さいことにより、往復動軸4の周囲にオイルシール10が配置される負荷状態(図1の状態)で、これらのオイルリップのリップエッジは近似した直径を有する。したがって、これらのオイルリップのリップエッジは、往復動軸4からほぼ均等な圧力が与えられ、圧力集中に起因する過剰な摩耗が抑制される。
【0051】
図1において、オイルリップ13,14は往復動軸4に接触するが、オイルリップ15は往復動軸4に接触していない。しかし、この状態でも2つのオイルリップ13,14のリップエッジ13A,14Aは、往復動軸4からほぼ均等な圧力が与えられ、圧力集中に起因する過剰な摩耗が抑制される。リップエッジ13A,14Aの摩耗が進行すれば、3つのオイルリップ13,14,15のリップエッジ13A,14A,15Aは、往復動軸4からほぼ均等な圧力が与えられ、圧力集中に起因する過剰な摩耗が抑制される。
【0052】
オイルリップ13,14,15の摩耗を考慮すると、オイルシール10の外周面と各リップエッジの間の距離は0.5mmより大きいことが好ましい。但し、オイル側環状部分12の厚さが大きすぎると、オイル側環状部分12が弾性変形しにくくなるので、オイル側環状部分12の厚さはある程度まで限定される。
【0053】
第2の実施形態
図3は、本発明の第2の実施形態を示す図であり、往復動軸を有する機器であるショックアブソーバの一部と、ショックアブソーバに設けられた使用時の密封装置を示す。図3において、第1実施形態と共通する構成要素を示すため、同一の符号が使用され、それらの構成要素については詳細には説明しない。
【0054】
この実施形態に係る密封装置60においては、弾性環30が内側環部31を有しておらず、オイルシール10はオイル側剛性環20に直接接触し、オイル側剛性環20直接的に支持されている
【0055】
オイル側剛性環20の内周面には、オイルシール10の大気側環状部分11が締まり嵌めされる。オイル側剛性環20の内周面は、大気側環状部分11に適合する形状を有するとともに、大気側環状部分11の環状突起11A(図2参照)が嵌め込まれる周溝23を有する。これによりオイルシール10はオイル側剛性環20に固定されている。オイルシール10がオイル側剛性環20に適切な圧力で嵌められていれば、オイルシールがオイル側剛性環に接着されている場合に比べて、オイルシール10をオイル側剛性環20に堅固に固定することができ、密封装置60の耐久性が向上する。
【0056】
但し、オイルシール10の外周部は、接着剤によってオイル側剛性環20に固定されてもよい。この場合には、環状突起11Aと周溝23は形成されてもよいし、形成されなくてもよい。
【0057】
不可欠ではないが、この実施形態では、オイルシール10のオイル側環状部分12の周囲には、オイルリップ13,14,15を径方向内側に圧縮するための少なくとも1つのガータースプリング61が巻かれている。ガータースプリング61は、オイルリップ13,14,15を往復動軸4に押し付ける力をオイル側環状部分12に与える。オイル側環状部分12の外周面には、ガータースプリング61を受け入れる周溝が形成されている。
【0058】
この密封装置60によれば、オイルシール10の周囲にガータースプリング61が配置されているので、ガータースプリング61によってオイルシール10は径方向内側に押圧され、オイル側剛性環20と往復動軸4が偏心している場合であってもオイルリップが往復動軸4の外周面に追随して変形することができ、密封装置60は高い密封性能を有する。特に低温環境では、この効果が高い。
【0059】
他の変形例
以上、本発明の好ましい実施形態を参照しながら本発明を図示して説明したが、当業者にとって特許請求の範囲に記載された発明の範囲から逸脱することなく、形式および詳細の変更が可能であることが理解されるであろう。このような変更、改変および修正は本発明の範囲に包含されるはずである。
【0060】
例えば、本発明は、ショックアブソーバに限らず、油圧シリンダ装置、燃料ポンプ等の往復動軸を有する他の機器に使用される密封装置に適用してもよい。
【0061】
オイルシールのオイルリップの数は2でもよいし、4以上でもよい。
【0062】
本発明の態様は、下記の番号付けされた条項にも記載される。
【0063】
条項1. 往復動軸と、前記往復動軸が配置された軸孔の内周面との間に配置され、オイル側と大気側を隔てる密封装置であって、
前記往復動軸に摺動自在に接触するオイルリップを有する、ガラス転移温度が80℃以上である樹脂製の環状のオイルシールと、
前記オイルシールの周囲に配置され、前記オイルシールを支持する金属製のオイル側剛性環と、
前記オイルシールよりも大気側に配置され、前記往復動軸に摺動自在に接触するダストリップを有するエラストマー製の環状のダストシールと、
前記ダストシールの周囲に配置され、前記ダストシールを支持する金属製の大気側剛性環
を有することを特徴とする密封装置。
【0064】
条項2. 前記オイルシールは、大気側環状部分とオイル側環状部分を有し、前記オイル側環状部分は前記大気側環状部分の厚さよりも小さい厚さを有しており、
前記大気側環状部分は前記往復動軸に接触せず、
前記オイル側環状部分は、前記往復動軸に摺動自在に接触する複数のオイルリップを有し、
前記複数のオイルリップの各々は、内周側ほど先細になる円環であって、リップエッジを有しており、
前記複数のオイルリップの前記リップエッジは同軸に配置されており、前記往復動軸の周囲に前記オイルシールが配置されない無負荷状態で、オイル側に配置されたオイルリップのリップエッジの直径が大気側に配置されたオイルリップのリップエッジの直径より小さい
ことを特徴とする条項1に記載の密封装置。
【0065】
この条項によれば、樹脂で形成されたオイルシールのオイル側環状部分は大気側環状部分の厚さよりも小さい厚さを有するので、複数のオイルリップを有するオイル側環状部分は大気側環状部分よりも弾性変形しやすく、かつ、オイル側に配置されたオイルリップは大気側に配置されたオイルリップよりも変位しやすい。往復動軸の周囲にオイルシールが配置されない無負荷状態で、オイル側に配置されたオイルリップのリップエッジの直径が大気側に配置されたオイルリップのリップエッジの直径より小さいことにより、往復動軸の周囲にオイルシールが配置される負荷状態で、これらのオイルリップのリップエッジは近似した直径を有する。したがって、これらのオイルリップのリップエッジは、往復動軸からほぼ均等な圧力が与えられ、圧力集中に起因する過剰な摩耗が抑制される。
【0066】
条項3. 前記オイル側剛性環の内周部に固着されており、前記オイルシールの外周部が取り付けられるエラストマー製の弾性環をさらに有する
ことを特徴とする条項1または2に記載の密封装置。
【0067】
樹脂で形成されたオイルシールは、エラストマーで形成されたオイルシールに比べて、弾性変形しにくい。特に低温環境(例えば-20℃以下の環境)では、樹脂は非常に硬くなる。しかし、この条項によれば、オイルシールの周囲にエラストマー製の弾性環が配置されているので、弾性環によってオイルシールは径方向内側に押圧され、オイル側剛性環と往復動軸が偏心している場合であってもオイルリップが往復動軸の外周面に追随して変形することができ、密封装置は高い密封性能を有する。特に低温環境では、この効果が高い。
【0068】
条項4. 前記弾性環は、気側に突出する環状突起を有し、密封装置が組み立てられる前に、前記環状突起は前記オイル側剛性環の大気側の表面よりも大気側に突出し、
密封装置が組み立てられた後、前記オイル側剛性環が前記大気側剛性環に接触させられた状態で、前記環状突起は前記オイル側剛性環と前記大気側剛性環により圧縮される
ことを特徴とする条項3に記載の密封装置。
【0069】
この条項によれば、環状突起がオイル側剛性環と大気側剛性環の間にオイルが侵入することを防止または低減する。
【0070】
条項5. 前記オイルシールは、前記オイル側剛性環に締まり嵌めされて前記オイル側剛性環に固定されている
ことを特徴とする条項1または2に記載の密封装置。
【0071】
条項6. 前記オイルシールは、前記弾性環に締まり嵌めされて前記弾性環に固定されている
ことを特徴とする条項3または4に記載の密封装置。
【0072】
条項5,6によれば、オイルシールがオイル側剛性環または弾性環に適切な圧力で嵌められていれば、オイルシールがオイル側剛性環または弾性環に接着されている場合に比べて、オイルシールをオイル側剛性環または弾性環に堅固に固定することができ、密封装置の耐久性が向上する。
【符号の説明】
【0073】
A 大気
L オイル
1 ショックアブソーバ
2 ハウジング
4 往復動軸
2A 軸孔
6,60 密封装置
10 オイルシール
11 大気側環状部分
12 オイル側環状部分
13,14,15 オイルリップ
13A,14A,15A リップエッジ
20 オイル側剛性環
30 弾性環
31 内側環部
32 外側環部
33 連結環部
34,35 外側ガスケット部
37 大気側環状部分
38 オイル側環状部分
39 環状突起
40 ダストシール
41 ダストリップ
50 大気側剛性環
図1
図2
図3