IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハーの特許一覧

特許7203980ポリエーテルブロックアミド(PEBA)を含有する成形用組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】ポリエーテルブロックアミド(PEBA)を含有する成形用組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/12 20060101AFI20230105BHJP
【FI】
C08L77/12
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021535803
(86)(22)【出願日】2019-10-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-24
(86)【国際出願番号】 EP2019077424
(87)【国際公開番号】W WO2020126148
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-07-19
(31)【優先権主張番号】18213932.9
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】フランツ-エーリッヒ バウマン
(72)【発明者】
【氏名】カトリン サルヴィチェク
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー リヒター
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/129913(WO,A1)
【文献】特開昭61-289120(JP,A)
【文献】特開昭58-206628(JP,A)
【文献】特開2002-212418(JP,A)
【文献】特表2009-526891(JP,A)
【文献】特開平05-320336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 77/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素原子5~15個を有する少なくとも1種の線状脂肪族ジアミンと、炭素原子6~16個を有する少なくとも1種の線状脂肪族ジカルボン酸とからなるサブユニット1およびエーテル酸素1個あたり炭素原子少なくとも3個と、鎖末端に第一級OH基とを有する少なくとも1種のポリエーテルジオールからなるサブユニット2をベースとする、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)を含有する成形用組成物であって、ジアミンとジカルボン酸とからの炭素原子の合計は、奇数であり、かつ炭素原子19または21個であり、前記サブユニット2の数平均モル質量は、200~900g/molであることを特徴とする、前記成形用組成物。
【請求項2】
前記サブユニット2の数平均モル質量が、400~700g/molであることを特徴とする、請求項1に記載の成形用組成物。
【請求項3】
前記サブユニット1の数平均モル質量が、250~4500g/molであることを特徴とする、請求項1または2に記載の成形用組成物。
【請求項4】
前記サブユニット1の数平均モル質量が、400~2500g/molであることを特徴とする、請求項3に記載の成形用組成物。
【請求項5】
前記ポリエーテルジオールが、ポリプロパン-1,3-ジオール、ポリテトラメチレングリコールおよびそれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の成形用組成物。
【請求項6】
前記線状脂肪族ジアミンが、炭素原子6~12個を有することを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の成形用組成物。
【請求項7】
前記ジカルボン酸が、炭素原子6~14個を有することを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の成形用組成物。
【請求項8】
前記ジアミン中の炭素原子数が偶数であり、かつ前記酸中の炭素原子数が奇数であることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の成形用組成物。
【請求項9】
前記サブユニット1が、ポリアミド6,13、10,9および12,9から選択されることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の成形用組成物。
【請求項10】
ジアミンとジカルボン酸とからの炭素原子の合計が19であることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の成形用組成物。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項に記載の成形用組成物から製造された、成形品。
【請求項12】
成形部材、フィルム、シート、ブラシ毛材、繊維またはフォームであることを特徴とする、請求項11に記載の成形品。
【請求項13】
圧縮成形、発泡成形、押出、共押出、ブロー成形、3Dブロー成形、共押出ブロー成形、共押出3Dブロー成形、共押出サクションブロー成形または射出成形により製造された、請求項11または12に記載の成形品。
【請求項14】
繊維複合部材、靴底、スキーまたはスノーボードの上面材、媒体用管路、眼鏡フレーム、意匠品、シーリング材、体保護(ボディプロテクション)、断熱・防音材、フィルムを備えたハウジング部材としての、請求項11から13までのいずれか1項に記載の成形品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)を含有する成形用組成物、前記成形用組成物から製造された成形品および前記成形品の使用に関する。
【0002】
ポリエーテルブロックアミド(PEBA)は、(オリゴ)ポリアミド、殊に酸調節されたポリアミドと、アルコールを末端基とするか、またはアミノを末端基とするポリエーテルとの重縮合により得られるブロックコポリマーである。酸調節されたポリアミドは、過剰のカルボン酸末端基を有する。当業者は、そのポリアミドブロックを硬質ブロックと呼び、かつそのポリエーテルブロックを軟質ブロックと呼ぶ。それらの製造は原則的に公知である。西独国特許出願公開第2712987号明細書(DE2712987A1)(米国特許第4207410号明細書(US4207410))には、この種のポリアミドエラストマーが記載されており、炭素原子10~12個を有するラクタムと、ジカルボン酸と、ポリエーテルジオールとから構成される。この文献に従って入手可能な生成物は、低温でも柔軟性および延性が持続することが優れているが、しかし、層厚がたいして大きくない成形部材においてすでに混濁ないし不透明であり、かつ室温で比較的長期の貯蔵の際に、うどんこ病に似た外観を伴った表面の析出物のために目立つ。炭素原子6~20個を有するジアミンと、脂肪族または芳香族ジカルボン酸と、ポリエーテルジオールとから構成された、類似して構成されるポリアミドエラストマーは、欧州特許出願公開第0095893号明細書(EP0095893)から公知である。特徴的な性質は、増大した耐熱変形性および柔軟性である。前記成形部材の半透明性および析出物形成に関して、この文献からデータを読み取ることができない。
【0003】
PA11系およびPA12系のPEBA成形用組成物は、同様に、不透明で濁った外観および表面析出物の形成のために不利に目立つ。さらに、これらの成形用組成物は、低い半透明性と同時に、高い析出物を有することが観察された。したがって、現在の成形用組成物は、応用にあまり適していない。
【0004】
これに関して、本発明の課題は、比較的長期間にわたっても低いヘイズと共に半透明性が高く、かつ析出物がないことを必然的に伴う、適した成形用組成物を提供することであった。
【0005】
この課題は、炭素原子5~15個、好ましくは炭素原子6~12個を有する少なくとも1種の線状脂肪族ジアミンと、炭素原子6~16個、好ましくは炭素原子6~14個を有する少なくとも1種の線状脂肪族ジカルボン酸とからなるサブユニット1およびエーテル酸素1個あたり炭素原子少なくとも3個と、鎖末端に第一級OH基とを有する少なくとも1種のポリエーテルジオールからなるサブユニット2をベースとするポリエーテルブロックアミド(PEBA)を含有する成形用組成物により解決することができた。ジアミンとジカルボン酸とからの炭素原子の合計は、奇数であり、かつ炭素原子19または21個であり、前記サブユニット2の数平均モル質量は、200~900g/molである。好ましくは、前記サブユニット2のモル質量は、400~700g/molである。それに関して、前記サブユニット1は、一般に硬質ブロックと呼ばれる部分を形成し、前記サブユニット2は、軟質ブロックを形成する。線状という用語は、その炭素鎖が分岐を有していないと理解すべきである。
【0006】
好ましい一実施態様において、前記サブユニット1の数平均モル質量は、250~4500g/mol、特に好ましくは400~2500g/mol、さらに特に好ましくは400~2000g/mol、極めて特に好ましくは500~1600g/molである。これは、より少ない析出物形成と同時に、より高い半透明性を有する材料をもたらす。
【0007】
前記PEBAのポリエーテルジオールは、好ましくは、ポリプロパン-1,3-ジオール、ポリテトラメチレングリコールおよびそれらの混合物から選択される。
【0008】
前記PEBA中のジアミンとジカルボン酸とからの炭素原子の合計は、奇数である。前記合計は19または21である。好ましくは、前記合計は19である。
【0009】
前記ジアミン中の炭素原子数が偶数であり、かつ前記ジカルボン酸中の炭素原子数が奇数であることがさらに好ましい。
【0010】
サブユニット1の適したポリアミドは、例えば、5,14、5,16、6,13、6,15、7,12、7,14、8,11、8,13、9,10、9,12、10,9、10,11、11,8、11,10、12,7、12,9、13,6、13,8から選択される。さらに、前記サブユニット1が、ポリアミド6,13、10,9および12,9から選択されることが好ましい。
【0011】
本発明のさらなる対象は、本発明による成形用組成物から製造された成形品である。好ましくは、前記成形品は、成形部材、フィルム、シート、ブラシ毛材、繊維またはフォームである。前記成形品は、例えば、圧縮成形、発泡成形、押出、共押出、ブロー成形、3Dブロー成形、共押出ブロー成形、共押出3Dブロー成形、共押出サクションブロー成形または射出成形により、製造することができる。この種の方法は当業者に公知である。
【0012】
本発明のさらなる対象は、本発明による成形品の使用であり、前記成形品は、例えば、繊維複合部材、靴底、スキーまたはスノーボードの上面材、媒体用管路、眼鏡フレーム、意匠品、シーリング材、体保護(ボディプロテクション)、断熱・防音材またはフィルムを備えたハウジング部材として利用することができる。
【実施例
【0013】
ポリエーテルブロックアミド(PEBA)の製造
PEBAを製造するための一般的な作業方法:
アンカー型撹拌機を備えた100L二重槽重縮合設備の前置槽中に、60℃未満で、ジアミンと、ジアミンの質量の10%の脱イオン(VE)水と、ジカルボン酸と、ポリエーテルジオールであるポリテトラヒドロフラン(PTHF)とを連続して装入する。PTHFは、前記サブユニット2を形成する。前記ポリエーテルジオールに対して、0.1%のIRGANOX(登録商標) 1098(BASF SE)をプロセス安定剤として添加する。全固形分を基準として、0.3%の50%濃度次亜リン酸を触媒として添加する。Nでの複数回の加圧不活性化後に、前記槽内容物を180℃~190℃に加熱し、160℃で前記撹拌機のスイッチを入れる。前記の出発物質を1時間撹拌し、その後、ヘリカルリボン撹拌機およびトルク記録計を備えた重縮合反応器中へ移す。双方の容器間の圧力を均一化した後に、反応器弁を閉じ、前記内容物を、25rpmで撹拌しながら6時間以内に245℃にした。通常210℃~225℃の内部温度で、21barの自生圧力に達した際に、2時間の圧力保持段階に従い、その後、さらに加熱しながら大気圧に連続的に放圧する。大気圧で3~4時間後に、40~60mbarの最終真空度に達するまで、真空を5時間以内で適用する。これらの条件下で、所望の最終トルクに達するまでさらに撹拌する。その溶融物を水浴中へストランドとして排出し、粒状化し、かつ70℃~90℃でタンブル乾燥機中で含水率0.1%未満に乾燥させる。
【0014】
サブユニット1の、サブユニット2に対するモル比:
例1~14、51~55および58~60: 100:103、例15~35、48~50および56~57: 100:102、例36~40: 100:105。
【0015】
前記PEBAのうちいくつかに、固相中で130℃~135℃での独国特許出願公開第4301801号明細書(DE4301801A1)に記載された方法による乾燥に続いて、PEBAおよび安定剤の全質量を基準として安定剤混合物0.95質量%を添加した(以下に“st”で表される)。
【0016】
次の第1表には、製造されたPEBAがまとめられている。前記サブユニット1のモル質量は、使用されたジカルボン酸と、前記ジアミンとのモル比から得られる。
【0017】
第1表:製造されたPEBA
【表1-1】
【表1-2】
ジアミン5=1,5-ジアミノペンタン
ジアミン6=ヘキサメチレンジアミン
ジアミン7=1,7-ジアミノヘプタン
ジアミン10=1,10-デカメチレンジアミン
ジカルボン酸9=アゼライン酸
ジカルボン酸10=セバシン酸
ジカルボン酸12=ドデカン二酸
ジカルボン酸13=ブラシル酸
ジカルボン酸14=テトラデカン二酸
pTHF=ポリテトラヒドロフラン
付記“st”:安定剤混合物で安定化。
【0018】
製造されたPEBAを、ストランド外観、相対粘度ηrelおよび融点Tmに関して調べた(第2表参照)。ストランド外観:目視観察。粘度:ISO 307。Tm:DSC、ISO 11357による2回目の加熱。
【0019】
第2表:製造されたPEBAの特性
【表2-1】
【表2-2】
【0020】
さらに、PA12系またはPA11系の商業的に入手可能なPEBAを調べた。これらは、Evonik(Vestamid(登録商標))またはArkema(PEBAX(登録商標))から販売されている。
【0021】
製造されたポリエーテルブロックアミドの試験
析出物試験
前記ポリエーテルブロックアミドから、サイズ60mm×60mm×2mmを有する射出成形板を試験体として製造した。前記試験体を、75℃で水蒸気飽和した密閉容器中で10日間の試験期間にわたって貯蔵した後に、析出物形成を決定した。前記析出物を、目視で、4段階のスケール(0~3、ここで0=析出物なし、かつ3=著しく析出されている)を用いて評価した。
【0022】
いくつかの試料については、析出物試験が行われなかった。これらの場合に、次の表中に記入されていない。
【0023】
半透明性の決定
上記の試験体の半透明性を目視で決定した。この際に、次の評価を行った(半透明性が低下する順に示す):
0=半透明 ++
1=半透明 +
2=半透明 0
3=不透明乳状、半透明 0
4=不透明乳状、半透明 -
5=乳白色。
【0024】
ヘイズ値の決定
前記ヘイズ値は、背面からの光において物体を通過した照度を決定する。ここでは、前記ヘイズ値は、60×60×2mmのプレートに基づいて、ASTM規格D 1003に従ってKonica-Minolta CM-3600dを用いて測定した。試料が不透明乳状またはそれどころか乳白色であった場合には、通例、前記ヘイズ値の決定を断念した。
【0025】
第3表:PEBA 6.10-650(本発明によらない)の試験結果
【表3】
【0026】
PEBA 6.10の試料は、一部には良好な析出物試験結果にもかかわらず、不十分に低い半透明性を有する。
【0027】
第4表:PEBA 6.13-650(本発明による)の試験結果
【表4】
【0028】
PEBA 6.13は、析出物試験と、半透明性の要件との双方を満たす。
【0029】
第5表:PEBA 10.10-650および7.13-650(本発明によらない)の試験結果
【表5】
【0030】
PEBA 10.10およびPEBA 7.13の試験体は、低い半透明性で不透明乳状であるか、または(例60)は、ある程度の透明度を有するが析出物が増加する。
【0031】
第6表:PEBA 10.13-650(本発明によらない)の試験結果
【表6】
【0032】
安定化されていないならびに安定化されたPEBA 10.13は、確かに中程度ないし良好な半透明性を示すが、しかしながら、これらの試料は、前記析出物試験に合格しない。
【0033】
第7表:PEBA 10.9-650(本発明による)の試験結果
【表7】
【0034】
PEBA 10.9は、析出物をあまりないし全く示さず、並びに良好ないし中程度の半透明性を示す。
【0035】
第8表:PEBA 6.13-1000(本発明によらない)の試験結果
【表8】
【0036】
モル質量が1000であるポリエーテルサブユニットを有するPEBA 6.1は、乳白色の試験体をまねく。それに対して、ポリエーテルサブユニット650g/molを有するPEBA 6.13試料は、中程度ないし良好な半透明性を有する(実験7~14)。
【0037】
第9表:商業的に入手可能なPEBAを用いた試験結果
【表9】
【0038】
前記析出物試験は、商業的に入手可能なPA11系またはPA12系のPEBAについては、中程度の結果を示す。前記半透明性はたいていの場合にごくわずかとなる。
【0039】
第10表:PEBA 6.9-650、PEBA 7.10-650および5.12-650(本発明によらない)の試験結果
【表10】
【0040】
PEBA 6.9、PEBA 7.10および5.12を含有する試料は、不透明乳状ないし乳白色の試験体を示す。
【0041】
第11表:7.12-650、14-650および12.9-650(本発明による)の試験結果
【表11】
【0042】
PEBA 7.12、7.14または12.9を含有する試験体は、析出物を全くないしあまり有しておらず、並びに高い透明度を有する。