(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】肺癌の複数遺伝子突然変異を一括検出する試薬キット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6886 20180101AFI20230105BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20230105BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230105BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230105BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z ZNA
C12Q1/686 Z
G01N33/53 M
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2021554770
(86)(22)【出願日】2021-01-08
(86)【国際出願番号】 CN2021070914
(87)【国際公開番号】W WO2021139783
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2021-12-03
(31)【優先権主張番号】202010029160.4
(32)【優先日】2020-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】518318761
【氏名又は名称】厦門艾徳生物医薬科技股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】江風閣
(72)【発明者】
【氏名】黄蛤目
(72)【発明者】
【氏名】陳寧
(72)【発明者】
【氏名】李碩卿
(72)【発明者】
【氏名】蔡阿沙
(72)【発明者】
【氏名】鄭偉偉
(72)【発明者】
【氏名】林小洪
(72)【発明者】
【氏名】宋慶涛
(72)【発明者】
【氏名】鄭立謀
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-526563(JP,A)
【文献】特表2014-532434(JP,A)
【文献】特表2015-524054(JP,A)
【文献】特開2017-029058(JP,A)
【文献】特表2016-515380(JP,A)
【文献】特表2016-518123(JP,A)
【文献】特表2013-534804(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107841793(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104818318(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104818320(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109706232(CN,A)
【文献】国際公開第2015/148494(WO,A1)
【文献】Yuan Li et al.,Psammoma bodies in lung adenocarcinoma: Incidence and association with ALK/ROS1/RET fusions.,Laboratory Investigation,2015年01月30日,Vol. 95, Suppl. 1,p. 483A, Abstract No. 1937,DOI:10.1038/labinvest.2015.24
【文献】Kengo Takeuchi et al.,RET, ROS1 and ALK fusions in lung cancer,NATURE MEDICINE,2012年03月,Vol. 18, No. 3,p. 378-381,DOI:10.1038/nm.2658
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
G01N
C12N
C12M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺癌の遺伝子突然変異を検出する試薬キットにおいて、
肺癌の遺伝子融合のA1群部位を検出するための試薬であって、前記A1群部位が、EML4-ALK-1からEML4-ALK-3、EML4-ALK-6からEML4-ALK-14、EML4-ALK-17からEML4-ALK-21、KIF5B-ALK-1、KIF5B-ALK-2、KLC1-ALK、TFG-ALK、STRN-ALK-1、HIP1-ALK-1、HIP1-ALK-2、HIP1-ALK-3、PRKAR1A-ALK-1、PRKAR1A-ALK-2、NBAS-ALK-1、TFG-ALK-2、PPM1B-ALK-1、EIF2AK3-ALK-1、BCL11A-ALK-1、BIRC6-ALK-1、CEBPZ-ALK-1、CLIP1-ALK-1、COL25A1-ALK-1、GCC2-ALK-1、GCC2-ALK-2、LMO7-ALK-1、PICALM-ALK-1、PHACTR1-ALK-1、TPR-ALK-1、MPRIP-ALK-1、TNIP2-ALK-1、DCTN1-ALK-1、SQSTM1-ALK-1、を含む試薬と、
肺癌の遺伝子融合のA5群部位を検出するための試薬であって、前記A5群部位がROS1-M1からROS1-M10を含む試薬と、
肺癌の突然変異遺伝子のB1群部位を検出するための試薬であって、前記B1群部位が、E-19-M1からE-19-M21、E-19-M24からE-19-M27、E-20-M2を含む試薬と、
肺癌の突然変異遺伝子のB2群部位を検出するための試薬であって、前記B2群部位が、E-21-M1、E-18-M1、E-18-M2、E-18-M3を含む試薬と、
肺癌の突然変異遺伝子のB3群部位を検出するための試薬であって、前記B3群部位が、E-20-M1、E-21-M2を含む試薬、を含むことを特徴とする試薬キット。
【請求項2】
前記試薬キットの反応系は、
(1)精製水を5~25μL、5×逆転写緩衝液を5~15μL、各プライマーを20~150μmol、逆転写酵素を100~200Uとし、総体積を20~30μLとする逆転写反応系と、
(2)精製水を15~45μL、10×PCR緩衝液を5~15μL、MgCl
2を1~10mmol、各対プライマーを1~20pmol、各対プローブを1~20pmol、dNTPsを10~100pmol、Taq酵素を1~10Uとし、総体積を30~50μLとするPCR反応系、を含むことを特徴とする請求項1に記載の肺癌の遺伝子突然変異を検出する試薬キット。
【請求項3】
前記試薬の組み合わせには、肺癌の遺伝子融合のA1群部位を検出するための試薬の組み合わせ:SEQ ID NO:1~SEQ ID NO:44のプライマー及びプローブが含まれることを特徴とする請求項1に記載の肺癌の遺伝子突然変異を検出する試薬キット。
【請求項4】
前記試薬の組み合わせには、肺癌の遺伝子融合のA5群部位を検出するための試薬の組み合わせ:SEQ ID NO:92~SEQ ID NO:104のプライマー及びプローブが含まれることを特徴とする請求項1に記載の肺癌の遺伝子突然変異を検出する試薬キット。
【請求項5】
前記試薬の組み合わせには、肺癌の遺伝子融合のB1群部位を検出するための試薬の組み合わせ:SEQ ID NO:155~SEQ ID NO:174のプライマー及びプローブが含まれることを特徴とする請求項1に記載の肺癌の遺伝子突然変異を検出する試薬キット。
【請求項6】
前記試薬の組み合わせには、肺癌の遺伝子融合のB2群部位を検出するための試薬の組み合わせ:SEQ ID NO:175~SEQ ID NO:187のプライマー及びプローブが含まれることを特徴とする請求項1に記載の肺癌の遺伝子突然変異を検出する試薬キット。
【請求項7】
前記試薬の組み合わせには、肺癌の遺伝子融合のB3群部位を検出するための試薬の組み合わせ:SEQ ID NO:188~SEQ ID NO:198のプライマー及びプローブが含まれることを特徴とする請求項1に記載の肺癌の遺伝子突然変異を検出する試薬キット。
【請求項8】
肺癌の遺伝子突然変異を検出する試薬キットにおいて、
EML4-ALK-1からEML4-ALK-3、EML4-ALK-6からEML4-ALK-14、EML4-ALK-17からEML4-ALK-21、KIF5B-ALK-1、KIF5B-ALK-2、KLC1-ALK、TFG-ALK、STRN-ALK-1、HIP1-ALK-1、HIP1-ALK-2、HIP1-ALK-3、PRKAR1A-ALK-1、PRKAR1A-ALK-2、NBAS-ALK-1、TFG-ALK-2、PPM1B-ALK-1、EIF2AK3-ALK-1、BCL11A-ALK-1、BIRC6-ALK-1、CEBPZ-ALK-1、CLIP1-ALK-1、COL25A1-ALK-1、GCC2-ALK-1、GCC2-ALK-2、LMO7-ALK-1、PICALM-ALK-1、PHACTR1-ALK-1、TPR-ALK-1、MPRIP-ALK-1、TNIP2-ALK-1、DCTN1-ALK-1、SQSTM1-ALK-1、を含むA1群部位を検出するための試薬と、
NTRK1-E9-M1、NTRK1-E10-M1、NTRK1-E10-M3、NTRK1-E10-M5からNTRK1-E10-M9、NTRK1-E10-M12、NTRK1-E10-M14、NTRK1-E10-M15、NTRK1-E10-M17、NTRK1-E12-M1、NTRK1-E12-M3、NTRK1-E12-M4、NTRK1-E12-M11、NTRK1-E12-M12、NTRK1-E12-M14、を含むA2群部位を検出するための試薬と、
NTRK2-E15-M1、NTRK2-E16-M1、NTRK2-E16-M3、NTRK2-E16-M7、NTRK2-E17-M2、を含むA3群部位を検出するための試薬と、
NTRK3-EX14-M1、NTRK3-EX14-M2、NTRK3-EX14-M3、NTRK3-EX14-M4、NTRK3-EX14-M7、NTRK3-EX15-M1、NTRK3-EX15-M2、NTRK3-EX15-M3、を含むA4群部位を検出するための試薬と、
ROS1-M1からROS1-M10を含むA5群部位を検出するための試薬と、
ROS1-M11、ROS1-M12、ROS1-M13、ROS1-EX35-M1からROS1-EX35-M4、ROS1-EX35-M6、ROS1-EX35-M8からROS1-EX35-M11、ROS1-EX35-M13、を含むA6群部位を検出するための試薬と、
MET-M1を含むA7群部位を検出するための試薬と、
RET-M2、RET-M5、RET-M15、RET-M16、RET-M17、RET-M19、LRET-M22、LRET-M32、LRET-M40、LRET-M41、LRET-M42、LRET-M44、LRET-M45、LRET-M49、LRET-M55、LRET-M57、LRET-M58、LRET-M59、を含むA8群部位を検出するための試薬と、
E-19-M1からE-19-M21、E-19-M24からE-19-M27、E-20-M2を含むB1群部位を検出するための試薬と、
E-21-M1、E-18-M1、E-18-M2、E-18-M3を含むB2群部位を検出するための試薬と、
E-20-M1、E-21-M2を含むB3群部位を検出するための試薬と、
E-20-M4、E-20-M5、E-20-M8、E-20-M9、E-20-M13、E-20-M14、E-20-M20、E-20-M21、E-20-M23、E-20-M24、E-20-M28からE-20-M31、E-20-M36からE-20-M41、E-20-M44、E-20-M48、E-20-M50からE-20-M53、BRAF-M1、を含むB4群部位を検出するための試薬と、
E-20-M3、E-20-M10、E-20-M12、E-20-M15からE-20-M19、E-20-M22、E-20-M25からE-20-M27、E-20-M32からE-20-M35、E-20-M42、E-20-M43、E-20-M45からE-20-M47、E-20-M49、E-20-M55からE-20-M57、KRAS-M6、を含むB5群部位を検出するための試薬と、
HER2-M1からHER2-M3、HER2-M8、HER2-M9、HER2-M15からHER2-M26、KRAS-M2、KRAS-M3、KRAS-M5、KRAS-M14、を含むB6群部位を検出するための試薬と、
HER2-M4、HER2-M6、HER2-M7、HER2-M10、KRAS-M1、KRAS-M4、を含むB7群部位を検出するための試薬、という15個の組み合わせを含む試薬キット。
【請求項9】
前記試薬キットの反応系は、
(1)精製水を5~25μL、5×逆転写緩衝液を5~15μL、各プライマーを20~150μmol、逆転写酵素を100~200Uとし、総体積を20~30μLとする逆転写反応系と、
(2)精製水を15~45μL、10×PCR緩衝液を5~15μL、MgCl
2を1~10mmol、各対プライマーを1~20pmol、各対プローブを1~20pmol、dNTPsを10~100pmol、Taq酵素を1~10Uとし、総体積を30~50μLとするPCR反応系、を含むことを特徴とする請求項8に記載の肺癌の遺伝子突然変異を検出する試薬キット。
【請求項10】
前記試薬の組み合わせには、
肺癌の遺伝子融合のA1群部位を検出するための試薬:SEQ ID NO:1~SEQ ID NO:44、
肺癌の遺伝子融合のA2群部位を検出するための試薬:SEQ ID NO:45~SEQ ID NO:66、
肺癌の遺伝子融合のA3群部位を検出するための試薬:SEQ ID NO:67~SEQ ID NO:78、
肺癌の遺伝子融合のA4群部位を検出するための試薬:SEQ ID NO:79~SEQ ID NO:91、
肺癌の遺伝子融合のA5群部位を検出するための試薬:SEQ ID NO:92~SEQ ID NO:104、
肺癌の遺伝子融合のA6群部位を検出するための試薬:SEQ ID NO:105~SEQ ID NO:122、
肺癌の遺伝子融合のA7群部位を検出するための試薬:SEQ ID NO:123~SEQ ID NO:131、
肺癌の遺伝子融合のA8群部位を検出するための試薬:SEQ ID NO:132~SEQ ID NO:154、
肺癌の遺伝子融合のB1群部位を検出するための試薬:SEQ ID NO:155~SEQ ID NO:174、
肺癌の遺伝子融合のB2群部位を検出するための試薬:SEQ ID NO:175~SEQ ID NO:187、
肺癌の遺伝子融合のB3群部位を検出するための試薬:SEQ ID NO:188~SEQ ID NO:198、
肺癌の遺伝子融合のB4群部位を検出するための試薬:SEQ ID NO:199~SEQ ID NO:220、
肺癌の遺伝子融合のB5群部位を検出するための試薬:SEQ ID NO:221~SEQ ID NO:244、
肺癌の遺伝子融合のB6群部位を検出するための試薬:SEQ ID NO:245~SEQ ID NO:262、
肺癌の遺伝子融合のB7群部位を検出するための試薬:SEQ ID NO:263~SEQ ID NO:273、のプライマー及びプローブが含まれることを特徴とする請求項8に記載の肺癌の遺伝子突然変異を検出する試薬キット。
【請求項11】
更に、サンプルの品質管理に用いられる外部コントロール試薬の組み合わせを含むことを特徴とする請求項8に記載の肺癌の遺伝子突然変異を検出する試薬キット。
【請求項12】
前記試薬の組み合わせには、SEQ ID NO:274~SEQ ID NO:281のプライマー及びプローブが含まれることを特徴とする請求項11に記載の肺癌の遺伝子突然変異を検出する試薬キット。
【請求項13】
肺癌の複数遺伝子突然変異を検出するための組成物であって、
当該組成物は、下記表に示す281個の配列のプライマー及びプローブを含み、且つ、当該281個の配列は、2本のPCR 8連チューブで下記の表のようにグループ分けされて充填されることを特徴とする組成物。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【請求項14】
前記プライマー及びプローブの反応系は、
(1)精製水を5~25μL、5×逆転写緩衝液を5~15μL、各プライマーを20~150μmol、逆転写酵素を100~200Uとし、総体積を20~30μLとする逆転写反応系と、
(2)精製水を15~45μL、10×PCR緩衝液を5~15μL、MgCl
2を1~10mmol、各対プライマーを1~20pmol、各対プローブを1~20pmol、dNTPsを10~100pmol、Taq酵素を1~10Uとし、総体積を30~50μLとするPCR反応系、を含むことを特徴とする請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
請求項13に記載の281個の配列のプライマー及びプローブを含む試薬キット。
【請求項16】
前記試薬キットは2種類のPCR 8連チューブを含み、当該2種類のPCR 8連チューブは、肺癌のRNA遺伝子融合及び肺癌のDNA遺伝子突然変異をそれぞれ検出することを特徴とする請求項15に記載の試薬キット。
【請求項17】
前記PCR 8連チューブ内で肺癌のRNA遺伝子融合を検出するための検出試薬は、ALK、NTRK1、NTRK2及びNTRK3融合遺伝子の検出試薬を各1本、ROS1融合遺伝子の検出試薬を2本、METエクソン14スキッピング遺伝子突然変異の検出試薬を1本、RET融合遺伝子の検出試薬を1本含むことを特徴とする請求項15又は16に記載の試薬キット。
【請求項18】
前記PCR 8連チューブ内で肺癌のDNA遺伝子突然変異を検出するための検出試薬は、EGFR、EGFR、EGFR、EGFR/BRAF、EGFR/KRAS、HER2/KRAS、HER2/KRAS突然変異遺伝子の検出試薬を各1本、外部コントロールの検出試薬を1本含むことを特徴とする請求項15又は16に記載の試薬キット。
【請求項19】
請求項15~18のいずれか1項に記載の試薬キットの使用方法であって、
(1)検出サンプルのDNA及びRNAを抽出し、前記検出サンプルには、新鮮な病理組織、パラフィン包埋組織又はパラフィン切片組織が含まれており、
(2)前記RNAと逆転写酵素を混合し、逆転写反応液をそれぞれ加えてcDNAを取得し、
(3)前記DNAと前記cDNAをそれぞれ混合酵素と混合して、PCR 8連チューブに投入し、
(4)蛍光PCR増幅装置を用いて増幅させたあと、表示されたCt値から検出結果を判定することを特徴とする使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジーの分野に属し、より具体的には、肺癌の複数遺伝子突然変異を一括検出するプライマー、プローブ、検出システム及び試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
肺癌は、ヒトの健康を深刻に阻害する一般的な悪性腫瘍の1つであり、80~85%の肺癌が非小細胞肺癌(NSCLC)である。NSCLC患者には複数種類の遺伝子突然変異のタイプが存在し、EGFR、HER2、KRAS、BRAF遺伝子の突然変異の頻度は、それぞれ、約10~50%、1~4%、5~25%、1~2%となっている。また、ALK、ROS1、RET、NTRK1、NTRK2、NTRK3遺伝子の融合発生頻度は、それぞれ、約3~7%、1%、1%、0.12%、0.02%、0.08%、METエクソン14スキッピングの遺伝子突然変異の発生頻度は約1%となっている。膨大な臨床研究の結果、ドライバー遺伝子の突然変異状態は、標的薬物療法にとって重要な治療効果予測因子となることが明らかとなっている。EGFR、HER2、KRAS、BRAF遺伝子に突然変異が見られる患者は、対応するチロシンキナーゼ阻害薬治療において効果を得ることができ、ALK、ROS1、RET、NTRK1、NTRK2、NTRK3遺伝子に融合が見られる患者も、チロシンキナーゼ阻害薬治療において効果を得ることができる。また、METエクソン14スキッピングの遺伝子突然変異が見られる患者は、MET阻害剤治療において効果を得ることができる。「NCCN非小細胞肺癌ガイドライン」では、標的治療に先立ち、遺伝子の突然変異状態を検出すべき旨を明確に指摘しており、且つ、より幅広く有効遺伝子の状態検出を行うよう強く推奨している。そこで、NSCLC患者に対する複数遺伝子突然変異複合検出によれば、より的確な治療を患者に提供可能となる。ただし、試薬キットによるこの検出結果は臨床上の参考にすぎず、患者のカスタマイズ治療における唯一の根拠とすべきではない。臨床医は、患者の病状、薬物の適応症、治療反応及びその他の実験室検査指標等の要素を組み合わせて、検出結果を総合的に判断すべきである。
【0003】
上記の遺伝子突然変異又は融合状態は標的薬物の治療効果に関連しており、複数遺伝子の複合検出によって予後の予測精度を更に高めることが可能となる。しかし、現在の大多数の試薬キットは、1回ごとに1種類又は数種類の遺伝子突然変異を検出することしかできない。そのため、検出スループットが低く、所要時間が長くかかり、サンプルの必要量が多くなる。現在、市場において科学研究に用いられているNGS Panelでも上記11種類の遺伝子を一括で検出することは可能であるが、NGSは、高価、操作が煩雑、データ分析が複雑、サンプル使用量が多い等の要因から利用普及が阻まれている。また、今のところ、臨床では、これら11種類の注目遺伝子の検出を同時に一括で完了可能なPCR試薬キットは存在しない。そこで、本発明は、11種類の肺癌遺伝子を一括検出する高感度且つ高特異性のプライマー、プローブ、試薬キット及びプライマーの割当方式を提供する。当該検出用試薬キットは、DNA及びRNAサンプルを使用して、遺伝子突然変異及び遺伝子融合の検出をそれぞれ実施する。当該試薬キットは、検出の特異性及び感度が高く、検出結果の再現性に優れ、操作が簡便且つスピーディーであり、臨床において、EGFR、BRAF、HER2、KRAS、ALK、ROS1、RET、NTRK1、NTRK2、NTRK3及びMETという11種類の遺伝子突然変異/融合の検出のために迅速且つ確実な検出方法を提供する。当該方法によって、PCRプラットフォームは、肺癌の11種類の遺伝子を一括で検出可能となる。また、当該方法は、上市済み及び今後3~5年のうちに上市見込みの肺癌標的薬物における重要遺伝子標的の全てをカバーしている。よって、当該方法は、臨床において、最短時間且つ最少のサンプル数で、患者がプレシジョン・メディシンから利益を得られるよう資するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的の1つは、肺癌の遺伝子突然変異を検出する試薬キットを提供することである。当該試薬キットは、肺癌の遺伝子融合のA1群部位を検出するための試薬であって、前記A1群部位が、EML4-ALK-1からEML4-ALK-3、EML4-ALK-6からEML4-ALK-14、EML4-ALK-17からEML4-ALK-21、KIF5B-ALK-1、KIF5B-ALK-2、KLC1-ALK、TFG-ALK、STRN-ALK-1、HIP1-ALK-1、HIP1-ALK-2、HIP1-ALK-3、PRKAR1A-ALK-1、PRKAR1A-ALK-2、NBAS-ALK-1、TFG-ALK-2、PPM1B-ALK-1、EIF2AK3-ALK-1、BCL11A-ALK-1、BIRC6-ALK-1、CEBPZ-ALK-1、CLIP1-ALK-1、COL25A1-ALK-1、GCC2-ALK-1、GCC2-ALK-2、LMO7-ALK-1、PICALM-ALK-1、PHACTR1-ALK-1、TPR-ALK-1、MPRIP-ALK-1、TNIP2-ALK-1、DCTN1-ALK-1、SQSTM1-ALK-1、を含む試薬と、肺癌の遺伝子融合のA5群部位を検出するための試薬であって、前記A5群部位がROS1-M1からROS1-M10を含む試薬と、肺癌の突然変異遺伝子のB1群部位を検出するための試薬であって、前記B1群部位が、E-19-M1からE-19-M21、E-19-M24からE-19-M27、E-20-M2を含む試薬と、肺癌の突然変異遺伝子のB2群部位を検出するための試薬であって、前記B2群部位が、E-21-M1、E-18-M1、E-18-M2、E-18-M3を含む試薬と、肺癌の突然変異遺伝子のB3群部位を検出するための試薬であって、前記B3群部位が、E-20-M1、E-21-M2を含む試薬、を含む。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の上記5種類の組み合わせは、融合遺伝子(RNA部分のA1及びA5。A1は肺癌遺伝子におけるALK遺伝子の46種類の融合をカバーしており、A5はROS1遺伝子の10種類の融合をカバーしている)と突然変異遺伝子(DNA部分のB1、B2、B3は、EGFR遺伝子の34種類の突然変異をカバーしている)を分割し、DNA突然変異とRNA融合を別々に装置にかけて検出可能とするものである。当該設計方式は、DNA突然変異もしくはRNA融合サンプルのみを検出したい場合にいっそうユーザフレンドリーとなり、反応試薬の無駄が回避される。また、操作もより簡便化され、同一の反応チューブ内で絶えずサンプルを交換することに伴う投入ミスや投入漏れが回避される。
【0006】
ALK及びROS1融合は、それぞれ独立した1本のチューブで検出し、EGFRは3本のチューブに分けて検出する。これにより、貴重な臨床サンプルが最大限節約されるとともに、異なる遺伝子及び同一遺伝子の異なる突然変異タイプを効果的に区分可能となるため、臨床応用に一段と良好に適用し得る。
【0007】
更に、本発明のもう1つの目的は、肺癌の遺伝子突然変異を検出する試薬キットであって、以下の15個の組み合わせを含む試薬キットを提供することである。当該15個の組み合わせは、EML4-ALK-1からEML4-ALK-3、EML4-ALK-6からEML4-ALK-14、EML4-ALK-17からEML4-ALK-21、KIF5B-ALK-1、KIF5B-ALK-2、KLC1-ALK、TFG-ALK、STRN-ALK-1、HIP1-ALK-1、HIP1-ALK-2、HIP1-ALK-3、PRKAR1A-ALK-1、PRKAR1A-ALK-2、NBAS-ALK-1、TFG-ALK-2、PPM1B-ALK-1、EIF2AK3-ALK-1、BCL11A-ALK-1、BIRC6-ALK-1、CEBPZ-ALK-1、CLIP1-ALK-1、COL25A1-ALK-1、GCC2-ALK-1、GCC2-ALK-2、LMO7-ALK-1、PICALM-ALK-1、PHACTR1-ALK-1、TPR-ALK-1、MPRIP-ALK-1、TNIP2-ALK-1、DCTN1-ALK-1、SQSTM1-ALK-1、を含むA1群部位を検出するための試薬と、NTRK1-E9-M1、NTRK1-E10-M1、NTRK1-E10-M3、NTRK1-E10-M5からNTRK1-E10-M9、NTRK1-E10-M12、NTRK1-E10-M14、NTRK1-E10-M15、NTRK1-E10-M17、NTRK1-E12-M1、NTRK1-E12-M3、NTRK1-E12-M4、NTRK1-E12-M11、NTRK1-E12-M12、NTRK1-E12-M14、を含むA2群部位を検出するための試薬と、NTRK2-E15-M1、NTRK2-E16-M1、NTRK2-E16-M3、NTRK2-E16-M7、NTRK2-E17-M2、を含むA3群部位を検出するための試薬と、NTRK3-EX14-M1、NTRK3-EX14-M2、NTRK3-EX14-M3、NTRK3-EX14-M4、NTRK3-EX14-M7、NTRK3-EX15-M1、NTRK3-EX15-M2、NTRK3-EX15-M3、を含むA4群部位を検出するための試薬と、ROS1-M1からROS1-M10を含むA5群部位を検出するための試薬と、ROS1-M11、ROS1-M12、ROS1-M13、ROS1-EX35-M1からROS1-EX35-M4、ROS1-EX35-M6、ROS1-EX35-M8からROS1-EX35-M11、ROS1-EX35-M13、を含むA6群部位を検出するための試薬と、MET-M1を含むA7群部位を検出するための試薬と、RET-M2、RET-M5、RET-M15、RET-M16、RET-M17、RET-M19、LRET-M22、LRET-M32、LRET-M40、LRET-M41、LRET-M42、LRET-M44、LRET-M45、LRET-M49、LRET-M55、LRET-M57、LRET-M58、LRET-M59、を含むA8群部位を検出するための試薬と、E-19-M1からE-19-M21、E-19-M24からE-19-M27、E-20-M2を含むB1群部位を検出するための試薬と、E-21-M1、E-18-M1、E-18-M2、E-18-M3を含むB2群部位を検出するための試薬と、E-20-M1、E-21-M2を含むB3群部位を検出するための試薬と、E-20-M4、E-20-M5、E-20-M8、E-20-M9、E-20-M13、E-20-M14、E-20-M20、E-20-M21、E-20-M23、E-20-M24、E-20-M28からE-20-M31、E-20-M36からE-20-M41、E-20-M44、E-20-M48、E-20-M50からE-20-M53、BRAF-M1、を含むB4群部位を検出するための試薬と、E-20-M3、E-20-M10、E-20-M12、E-20-M15からE-20-M19、E-20-M22、E-20-M25からE-20-M27、E-20-M32からE-20-M35、E-20-M42、E-20-M43、E-20-M45からE-20-M47、E-20-M49、E-20-M55からE-20-M57、KRAS-M6、を含むB5群部位を検出するための試薬と、HER2-M1からHER2-M3、HER2-M8、HER2-M9、HER2-M15からHER2-M26、KRAS-M2、KRAS-M3、KRAS-M5、KRAS-M14、を含むB6群部位を検出するための試薬と、HER2-M4、HER2-M6、HER2-M7、HER2-M10、KRAS-M1、KRAS-M4、を含むB7群部位を検出するための試薬、である。
【0008】
本発明の試薬キットにおける15種類の試薬の組み合わせは、7種類の融合遺伝子ALK、ROS1、RET、NTRK1、NTRK2、NTRK3、METと、4種類の突然変異遺伝子EGFR、KRAS、BRAF、HER2について、全119種類の遺伝子融合及び112種類の遺伝子突然変異をカバーする。具体的には、EGFR遺伝子の83種類の突然変異、KRAS遺伝子の7種類の突然変異、BRAF遺伝子の1種類の突然変異、HER2遺伝子の21種類の突然変異、及びALK遺伝子の46種類の融合、ROS1遺伝子の23種類の融合、RET遺伝子の18種類の融合、NTRK1遺伝子の18種類の融合、NTRK2遺伝子の5種類の融合、NTRK3遺伝子の8種類の融合、及びMET遺伝子の1種類のスキッピング突然変異を含む(詳細は、表5、表6を参照)。
【0009】
現在、市場で承認されている肺癌の複数遺伝子複合検出用試薬キット(PCR法)、又は許可されている複数遺伝子複合検出用試薬キットは、いずれもPCR 8連チューブ又は12連チューブを1つ使用する。突然変異及び融合を検出するためには、それぞれを同一の反応チューブの異なる位置に投入し、装置で検出する際には、反応チューブ全体をPCR装置に投入して増幅させる必要がある。
【0010】
これに対し、本発明の試薬キットでは、15種類の組み合わせに更に外部コントロールを1つ加え、2つの8連PCR反応チューブに分割可能としている。即ち、試薬キットの1人あたりの試薬に対し2つの8連PCR反応チューブを含んでおり、融合遺伝子(RNA部分)と突然変異遺伝子(DNA部分)をそれぞれ別個に1つの8連PCR反応チューブに分割して、DNA突然変異とRNA融合を装置において独立して検出可能としている。当該設計方式は、DNA突然変異もしくはRNA融合サンプルのみを検出したい場合にいっそうユーザフレンドリーとなり、反応試薬の無駄が回避される。また、操作もより簡便化され、同一の反応チューブ内で絶えずサンプルを交換することに伴う投入ミスや投入漏れが回避される。このほか、8連反応チューブは消耗品としての適用性が広く、必要な計器及びデバイスがよりシンプルとなるため、臨床における使用普及がより容易である。
【0011】
試薬キットについて、検出部位を組み合わせてチューブにまとめる際には、遺伝子の臨床的意義、製薬メーカーの要望、操作の簡便さ、異なる遺伝子間の相互作用、方法論的実行可能性、各遺伝子部位の最適性能指標など、いくつかの方面から総合的に考慮する。例えば、異なる遺伝子、同一遺伝子の異なるエクソン、異なるコドンが異なる臨床的意義を有しているか否かを考慮して、臨床的意義が同一の遺伝子/部位をできるだけまとめるとともに、臨床的意義の異なる部位を独立させて区分する必要がある。例えば、EGFR T790M突然変異を有する患者は、第1世代のEGFR-TKIを使用した場合の客観的反応率及び無増悪生存期間が、その他のEGFR感受性突然変異の場合よりも著しく劣るが、第3世代のEGFR阻害剤オシメルチニブに対しては感受性が高い。また、例えば、KRAS遺伝子の突然変異は、TKI系標的薬物の治療効果に影響を及ぼす不利な因子である。そのため、KRAS遺伝子の突然変異を有するだけで、一般的なEGFR、ALK、ROS1等の遺伝子を対象とする標的薬物は使用できなくなる。このほか、KRAS遺伝子の突然変異を有する肺癌患者については、化学療法薬の効果が芳しくないことが多く、ペメトレキセド、パクリタキセル等の第一選択薬にプラチナ系化学療法を組み合わせた場合の効果がKRAS突然変異を有さない患者に比べて低い。しかし、ここ数年は、複数の標的薬物や免疫治療薬が、KRAS突然変異患者、特に、KRAS G12Cに対して優れた臨床データを示している。AMG510は、ここ数年で最初に臨床段階まで到達したKRAS G12C阻害剤である。AMG510のフェーズIの研究結果によれば、AMG510でKRAS突然変異を治療したNSCLC(非小細胞肺癌)患者の総ORR(全奏効率)は48%、DCR(病勢コントロール率)は96%であった。また、960mgのAMG510を投与した13名のNSCLC患者について、ORRが54%、DCRが100%となったため、正式に臨床試験が開始される見込みである。よって、試薬キットを設計する際には、この種の部位を独立させ、単独の1つのチューブとして検出するとともに、区分可能とする必要がある。
【0012】
【0013】
【0014】
本発明の更なる目的は、肺癌の複数遺伝子突然変異を一括検出するための組成物を提供することである。当該組成物は、EGFR、KRAS、BRAF、HER2、ALK、ROS1、RET、NTRK1、NTRK2、NTRK3、MET等の突然変異遺伝子のプライマー、プローブを含む。前記プライマー及びプローブは、2本のPCR 8連チューブを用い、表3~7のようにグループ分けして充填する。
【0015】
【0016】
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
更に、本発明は、前記プライマー及びプローブの反応系を提供する。当該反応系は、以下を含む。
【0021】
(1)逆転写反応系:精製水を5~25μL、5×逆転写緩衝液を5~15μL、各プライマーを20~150μmol、逆転写酵素を100~200Uとし、総体積を20~30μLとする。
【0022】
(2)PCR反応系:精製水を15~45μL、10×PCR緩衝液を5~15μL、MgCl2を1~10mmol、各対プライマーを1~20pmol、各対プローブを1~20pmol、dNTPsを10~100pmol、Taq酵素を1~10Uとし、総体積を30~50μLとする。
【0023】
本発明のもう1つの目的は、試薬キットを提供することである。当該試薬キットは、SEQ ID NO:1~281の配列を含む。具体的に、当該試薬キットは2種類のPCR 8連チューブを含む。2種類のPCR 8連チューブは、肺癌のRNA遺伝子融合及び肺癌のDNA遺伝子突然変異をそれぞれ検出する。当該試薬キットは、EGFR、KRAS、BRAF、HER2、ALK、ROS1、RET、NTRK1、NTRK2、NTRK3、MET等の遺伝子の特異的プライマー及び特異的プローブを含むほか、更に、PCR緩衝液、UNG酵素等を含む。
【0024】
更に、当該PCR 8連チューブ内で肺癌のRNA遺伝子融合を検出するための検出試薬は、ALK、NTRK1、NTRK2及びNTRK3融合遺伝子の検出試薬を各1本、ROS1融合遺伝子の検出試薬を2本、METエクソン14スキッピング遺伝子突然変異の検出試薬を1本、RET融合遺伝子の検出試薬を1本含む。当該8連チューブにおける1~4番目のチューブは、それぞれ、ALK、NTRK1、NTRK2及びNTRK3融合遺伝子の検出試薬で構成され、5番目及び6番目のチューブはROS1融合遺伝子の検出試薬で構成され、7番目のチューブはMETエクソン14スキッピング突然変異の検出試薬で構成され、8番のチューブは、RET融合遺伝子の検出試薬と内部コントロールの検出試薬で構成される。1~8番目のチューブにおける融合遺伝子の検出試薬はFAM信号で示される。また、1~8番目のチューブにおける内部コントロールの検出試薬は、サンプルRNAの品質及び投入状況を監視するために用いられ、VIC信号で示される。
【0025】
当該PCR 8連チューブ内で肺癌のDNA遺伝子の突然変異を検出するための検出試薬は、EGFR突然変異遺伝子の検出試薬を3本、EGFR/BRAF突然変異遺伝子の検出試薬を1本、EGFR/KRAS突然変異遺伝子の検出試薬を1本、HER2/KRAS突然変異遺伝子の検出試薬を2本、外部コントロールの検出試薬を1本含む。当該8連チューブのうち、1~5番目のチューブのFAM信号と、1~3番目のチューブのROX信号は、EGFR遺伝子における異なる突然変異位置をそれぞれ示す。また、4番目のチューブのROX信号はBRAF遺伝子のV600E突然変異を示し、6~7番目のチューブのFAM信号はHER2遺伝子の異なる突然変異位置を示す。また、5~7番目のチューブのROX信号は、KRAS遺伝子の異なる突然変異位置をそれぞれ示す。1~7番目のチューブにおける内部コントロール検出試薬は、サンプルの投入状況を検出するために用いられ、VIC信号で示される。8番目のチューブは、ヒトゲノムの保存領域を増幅するための検出試薬で構成されており、サンプルのDNA品質を監視するために用いられ、FAM及びROX信号で示される。
【0026】
1つのサンプルを検出するためには、2つのPCR 8連チューブが必要である。試薬キットの構成の詳細については、表8、表9及び表10を参照する。
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
本発明の更なる目的は、当該試薬キットの使用方法を提供することである。当該使用方法は、以下のステップを含む。
【0036】
(1)検出サンプルのDNA及びRNAを抽出する。当該検出サンプルには、新鮮な病理組織、パラフィン包埋組織又はパラフィン切片組織が含まれる。
【0037】
(2)前記RNAと逆転写酵素を混合し、逆転写反応液をそれぞれ加えてcDNAを取得する。
【0038】
(3)前記DNAと当該cDNAをそれぞれ混合酵素と混合して、PCR 8連チューブに投入する。
【0039】
(4)蛍光PCR増幅装置を用いて増幅させたあと、表示されたCt値から検出結果を判定する。
【発明の効果】
【0040】
本発明の有益な効果は以下の通りである。
【0041】
1.本発明では、特異的プライマー及びプローブ技術と、3色の蛍光チャンネル検出パターンを利用して、リアルタイムPCRシステムを構築した。これにより、7種類の融合遺伝子ALK、ROS1、RET、NTRK1、NTRK2、NTRK3、METと、4種類の突然変異遺伝子EGFR、KRAS、BRAF、HER2について、全119種類の遺伝子融合及び112種類の遺伝子突然変異を同時に検出可能である。具体的には、EGFR遺伝子の83種類の突然変異、KRAS遺伝子の7種類の突然変異、BRAF遺伝子の1種類の突然変異、HER2遺伝子の21種類の突然変異、及びALK遺伝子の46種類の融合、ROS1遺伝子の23種類の融合、RET遺伝子の18種類の融合、NTRK1遺伝子の18種類の融合、NTRK2遺伝子の5種類の融合、NTRK3遺伝子の8種類の融合、及びMET遺伝子の1種類のスキッピング突然変異を含む(詳細は、表11~15を参照)。
【0042】
2.本発明では、検出する複数の突然変異/融合部位の検出難易度、プライマー間の相互作用、競合など多方面の総合的要素に基づいて、281個の配列(プライマー及びプローブを含む)をグループ分けして、2つのPCR 8連チューブに充填する。これによる利点は次の通りである。
【0043】
(1)2重又は3重PCRを使用し、複数の突然変異タイプをチューブにまとめるとともに、異なる蛍光標識のプローブを用いて区分することで、1つのチューブ内で複数の突然変異タイプの検出を実現可能となる。このことは、顧客にとって操作しやすいだけでなく、検出コスト及び検出サンプルの節約となる。
【0044】
(2)突然変異タイプをチューブにまとめる際には、技術的な取りまとめの難易度を考慮するほか、薬物の違いによるニーズにも配慮する。同一の薬物については、薬物に対応する標的をできるだけ同一の反応チューブに配置するか、異なる反応チューブの同一の蛍光チャンネルに配置することで、結果を分析しやすくする。
【0045】
(3)試薬キットは、231種類の突然変異/融合部位を一括検出可能である。且つ、各反応チューブの操作方法/増幅手順は基本的に同一のため、操作しやすく、時間の節約となり、臨床応用に都合がよい。
【0046】
(4)各反応系には、更に、内部コントロール検出システムが含まれている。融合反応チューブの内部コントロールは、RNAサンプルの品質及び操作、計器の異常有無の管理に用いられ、突然変異反応チューブの内部コントロールは、DNAサンプルの品質及び操作、計器の異常有無の管理に用いられる。また、外部コントロールは、サンプルのDNA品質を判断するために用いられるとともに、結果の判定にも関与する。
【0047】
(5)感度が高く、1%の遺伝子突然変異DNA及び125コピーの融合遺伝子プラスミドDNAを検出可能である。
【0048】
(6)検出時間が短く、わずか3時間で検出過程を完了させられる。
【0049】
(7)予め分割充填した設計であり、且つ密封処理しているため、運送過程での安全性が向上し、一段と操作に都合がよい。
【0050】
3.本発明で提供する試薬キットがカバーする検出部位は、各遺伝子の全突然変異タイプの95%以上を占めている。また、非小細胞肺癌患者の総突然変異率については70%にも達する。よって、当該試薬キットは、現在のところ、突然変異遺伝子を最も多く検出し、突然変異タイプが最も整った蛍光PCR製品である。当該試薬キットは、臨床医が肺癌患者に対し腫瘍標的薬物療法を選択するにあたり包括的な基準を提供するものである。
【0051】
4.NGS法と比較して、本発明で提供する試薬キットは、操作が容易且つスピーディーであり、感度が高く、特異性に優れ、結果の判定が客観的である等の理由から、臨床での普及性に最も優れた第1の検出方法である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】
図1は、実施例1におけるALK融合遺伝子-EML4 exon13、ALK exon20の感度図である。
【
図2】
図2は、実施例1におけるROS1融合遺伝子-CD74 exon6、ROS1 exon32の感度図である。
【
図3】
図3は、実施例1におけるRET融合遺伝子-KIF5B exon16、ROS1 exon12の感度図である。
【
図4】
図4は、実施例1におけるNTRK1融合遺伝子-CD74 exon8、NTRK1 exon10の感度図である。
【
図5】
図5は、実施例1におけるNTRK2融合遺伝子-TRIM24 exon12、NTRK2 exon15の感度図である。
【
図6】
図6は、実施例1におけるNTRK3融合遺伝子-ETV6 exon5、NTRK3 exon15の感度図である。
【
図7】
図7は、実施例1におけるMETスキッピング突然変異-MET exon14 skippingの感度図である。
【
図8】
図8は、実施例1におけるEGFR遺伝子の突然変異-19delの感度図である。
【
図9】
図9は、実施例1におけるEGFR遺伝子の突然変異-L858Rの感度図である。
【
図10】
図10は、実施例1におけるEGFR遺伝子の突然変異-T790Mの感度図である。
【
図11】
図11は、実施例1におけるKRAS遺伝子の突然変異-G12Dの感度図である。
【
図12】
図12は、実施例1におけるKRAS遺伝子の突然変異-G12Cの感度図である。
【
図13】
図13は、実施例1におけるBRAF遺伝子の突然変異-V600Eの感度図である。
【
図14】
図14は、実施例1におけるHER2遺伝子の突然変異-V769_D770insASVの感度図である。
【
図15】
図15は、実施例1におけるHER2遺伝子の突然変異-A775_G776insYVMAの感度図である。
【
図16】
図16は、実施例2における臨床陽性サンプルのALK融合遺伝子の検出結果のPCRチャートである。
【
図17】
図17は、実施例2における臨床陽性サンプルのROS1融合遺伝子の検出結果のPCRチャートである。
【
図18】
図18は、実施例2における臨床陽性サンプルのRET融合遺伝子の検出結果のPCRチャートである。
【
図19】
図19は、実施例2における臨床陽性サンプルのNTRK3融合遺伝子の検出結果のPCRチャートである。
【
図20】
図20は、実施例2における臨床陽性サンプルのMETスキッピング突然変異の検出結果のPCRチャートである。
【
図21】
図21は、実施例2における臨床陽性サンプルのEGFR 19del遺伝子突然変異の検出結果のPCRチャートである。
【
図22】
図22は、実施例2における臨床陽性サンプルのEGFR L858R遺伝子突然変異の検出結果のPCRチャートである。
【
図23】
図23は、実施例2における臨床陽性サンプルのEGFR T790M遺伝子突然変異の検出結果のPCRチャートである。
【
図24】
図24は、実施例2における臨床陽性サンプルのKRAS遺伝子の突然変異の検出結果のPCRチャートである。
【
図25】
図25は、実施例2における臨床陽性サンプルのKRAS G12C遺伝子突然変異の検出結果のPCRチャートである。
【
図26】
図26は、実施例2における臨床陽性サンプルのBRAF遺伝子の突然変異の検出結果のPCRチャートである。
【
図27】
図27は、実施例2における臨床陽性サンプルのHER2遺伝子の突然変異の検出結果のPCRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0053】
上記の図面において、各図中の横座標はいずれもサイクル数(cycles)、縦座標はいずれも蛍光値Fluorescence(dR)である。
【0054】
以下に、具体的実施例を組み合わせて、本発明につき更に詳述する。これらの実施例は本発明を説明するためのものにすぎず、本発明を制限するものと解釈すべきではない。また、実施例において具体的な技術又は条件を明記していないものについては、当該分野の文献に記載されている技術又は条件、或いは製品説明書に基づき実施する。また、使用する試薬や計器について、メーカーを明記していないものについては、いずれも市販のものを購入して得られる一般的な製品とすればよい。
【実施例1】
【0055】
Cosmicデータが公表しているヒトEGFR、BRAF、HER2、KRAS、ALK、ROS1、RET、NTRK1、NTRK2、NTRK3及びMETの野生型遺伝子配列に基づき、EGFR、BRAF、HER2、KRAS、ALK、ROS1、RET、NTRK1、NTRK2、NTRK3及びMETの駆動的突然変異部位及び融合部位をベースとして、特異的プライマー及びプローブを設計した(詳細は、表1、表16及び表17を参照)。
【0056】
【0057】
【0058】
本実施例では、ALK融合遺伝子EML4 exon13、ALK exon20、ROS1融合遺伝子CD74 exon6、ROS1 exon32、RET融合遺伝子KIF5B exon16、ROS1 exon12、NTRK1融合遺伝子CD74 exon8、NTRK1 exon10、NTRK2融合遺伝子TRIM24 exon12、NTRK2 exon15、NTRK3融合遺伝子ETV6 exon5、NTRK3 exon15、METスキッピング突然変異遺伝子MET exon14 skipping、EGFR突然変異遺伝子19del、L858R、T790M、KRAS突然変異遺伝子G12D、G12C、BRAF突然変異遺伝子V600E、HER2突然変異遺伝子V769_D770insASV、A775_G776insYVMAを例示して、本発明における上記肺癌遺伝子の蛍光PCR検出について詳述する。
【0059】
実験には、上記融合遺伝子のT7 RNAと各突然変異を含むプラスミド鋳型を使用した。当該鋳型の蛍光PCR検出には以下のステップが含まれていた。
【0060】
(一)プラスミド、T7 RNAの処理及び抽出:
プラスミドに天根生化社製のミニプラスミドキット(製品番号:DP103)を用いてDNA抽出を行った。また、Transcript Aid T7 High Yield Transcription Kit(製品番号:K0441)を用いてプラスミドを転写し、T7 RNAを取得した。具体的な操作手順はキットの説明書に従った。DNAとRNAの抽出を終えたあと、直ちにUV分光光度計を用いてDNAとRNAの濃度及び純度を測定した。DNAとRNAのOD260/OD280は1.7~2.1の間とし、RNA濃度は10~100ng/μLとした。
【0061】
(二)PCR増幅反応系の作製:
上記で取得した鋳型をリアルタイム蛍光PCR増幅の鋳型とし、下記の増幅系でPCR増幅を行った。
【0062】
逆転写反応系:精製水を5~25μL、5×逆転写緩衝液を5~15μL、各プライマーを20~150μmol、逆転写酵素を100~200Uとし、総体積を20~30μLとした。
【0063】
PCR反応系:精製水を15~45μL、10×PCR緩衝液を5~15μL、MgCl2を1~10mmol、各対プライマーを1~20pmol、各対プローブを1~20pmol、dNTPsを10~100pmol、Taq酵素を1~10Uとし、総体積を30~50μLとした。
【0064】
逆転写反応条件:42°Cで60min、95°Cで5min、1サイクルとした。
【0065】
S-cDNA1及びS-cDNA2を取得し、酵素と混合したあと、検出チューブLET PCR 8連チューブ-遺伝子融合-1~4及び検出チューブLET PCR 8連チューブ-遺伝子融合-5~8にそれぞれ投入するとともに、DNAサンプルを検出チューブLET PCR 8連チューブ-遺伝子突然変異-1~8に投入してPCR増幅を行った。
【0066】
リアルタイムPCRの反応条件は下記の通りとした。
【0067】
第1段階:42°Cで5min、95°Cで5min、1サイクルとした。
第2段階:95°Cで25s、64°Cで20s、72°Cで20s、10サイクルとした。
第3段階:93°Cで25s、60°Cで35s、72°Cで20s、36サイクルとした。
【0068】
信号収集:第3段階の60°C時点で、FAM/VIC/ROX信号を収集し、リアルタイムPCRを実行してファイルを保存した。
【0069】
(三)検出結果の判定:蛍光PCR増幅装置に示されたCt値に基づいて、検出結果を判定した(詳細は、表18、表19を参照)。
【0070】
1.補正用蛍光リファレンスを選択していないことを確認し、チューブ番号順に検出反応チューブを1つずつ選択して分析した。陽性対照反応チューブ、サンプル反応チューブ及び陰性対照チューブを選択したあと、ユーザは、実際の状況に応じて増幅曲線の上昇の変曲点を特定することで、各反応チューブのCt値を取得可能であった。
【0071】
2.陰性対照のFAM、VIC及びROX信号の増幅曲線:
陰性対照のLET PCR 8連チューブ-遺伝子融合-1~8のFAM信号と、LET PCR 8連チューブ-遺伝子突然変異-1~7のFAM及びROX信号には増幅曲線の上昇が存在しないはずである。そのため、いずれかのチューブの上記信号に増幅曲線の上昇が見られた場合には、今回の実験結果を無効とし、再検出することを推奨した。
【0072】
3.陽性対照のFAM、VIC及びROX信号の増幅曲線:
(1)陽性対照のLET PCR 8連チューブ-遺伝子融合-1~8と、LET PCR 8連チューブ-遺伝子突然変異-1~8のFAM信号には、全て増幅曲線の上昇が存在するはずであり、且つ、Ct値は一般的に25未満となるはずである。ただし、閾値設定の違いによって変動が生じることもある。
【0073】
(2)陽性対照のLET PCR 8連チューブ-遺伝子突然変異-1~8のROX信号には全て増幅曲線の上昇が存在するはずであり、且つ、Ct値は25未満となるはずである。
【0074】
(3)陽性対照のLET PCR 8連チューブ-遺伝子融合-1~8と、LET PCR 8連チューブ-遺伝子突然変異-1~7のVIC信号には、全て増幅曲線の上昇が存在するはずであり、且つ、Ct値は25未満となるはずである。
【0075】
4.サンプルのRNA遺伝子融合の陰性・陽性判定:
(1)サンプルのLET PCR 8連チューブ-遺伝子融合-1~8のVIC信号の増幅曲線:
【0076】
a.8つのチューブのCt値がいずれも<36であり、且つ、いずれかのチューブのCt値が<26の場合には、分析を継続した。
【0077】
b.8つのチューブのCt値がいずれも≧26であるか、いずれかのチューブのCt値が≧36の場合には、RNAの断片化又はRNA分解の恐れ、或いはサンプルに阻害剤が存在するか投入漏れの可能性があるため、再検出するか、RNAを再抽出して検出し直すことを推奨した。
【0078】
(2)サンプルのLET PCR 8連チューブ-遺伝子融合-1~8のFAM信号の増幅曲線:
a.いずれかのチューブのFAM信号のCt値が陽性領域(詳細は表18を参照)に位置していた場合には、当該サンプルについて、当該反応チューブは陽性であると判定した。
【0079】
b.全てのチューブのFAM信号のCt値がいずれも陰性領域(詳細は表18を参照)に位置していた場合には、当該サンプルについて、陰性であるか、当該試薬キットの検出下限を下回っていると判定した。
【0080】
【0081】
5.サンプルのDNA遺伝子突然変異の陰性・陽性判定:LET PCR 8連チューブ-遺伝子突然変異について、まず、サンプルの1~7番目のチューブのFAM及びROX信号それぞれのCt値を特定したあと、当該サンプルの8番目のチューブにおけるFAM及びROX信号のCt値を特定した。サンプルの突然変異の含有量パーセンテージはそれぞれ異なるため、得られる突然変異のCt値もそれぞれ異なる。そこで、突然変異のCt値の違いによって、サンプルの検出結果を、陰性、陽性A領域及び陽性B領域に区分した。具体的な判定の詳細については、表19を参照する。
【0082】
(1)サンプルのLET PCR 8連チューブ-遺伝子突然変異1~7番チューブのVIC信号の増幅曲線:
a.1~7番目のチューブのCt値がいずれも<36の場合には、分析を継続した。
【0083】
b.1~7番目のいずれかのチューブのCt値が≧36の場合には、DNAの断片化又はDNA分解の恐れ、或いはサンプルに阻害剤が存在するか投入漏れの可能性があるため、再検出するか、DNAを再抽出して検出し直すことを推奨した。
【0084】
(2)サンプルのLET PCR 8連チューブ-遺伝子突然変異1~8番チューブのFAM及びROX信号の増幅曲線:
a.19≦8番目のチューブにおけるFAM及びROX信号のCt値が≦25の場合には、分析を継続した。
【0085】
b.8番目のチューブにおけるFAM及びROX信号のCt値が<19の場合には、投入したDNAが過剰なことを意味するため、DNAの投入量を減らして再実験するものとした。ただし、突然変異信号に上昇が存在しないか、陰性領域に位置する場合には、当該実験結果は信用可能であるとした。
【0086】
【0087】
c.8番目のチューブにおけるFAM及びROX信号のCt値>25の場合には、投入したDNAに断片化又は分解が存在するか、阻害剤が存在するか、投入漏れの恐れがあることを意味する。ただし、突然変異信号に上昇が見られ、且つ陽性A領域に位置する場合には実験結果を信用可能とし、そうでない場合には、DNAサンプル量を増加するか、新たにDNAを再抽出して検出し直すことを推奨した。
【0088】
d.サンプルの1~7番目のチューブのFAM及びROX信号について、各チューブのCt値がいずれも陰性臨界値以上である場合(即ち、陰性領域に位置する場合)、当該サンプルは陰性であるか、当該試薬キットの検出下限を下回っているとした。
【0089】
e.サンプルの1~7番目のチューブのFAM及びROX信号について、いずれかの反応チューブのCt値が陰性臨界値よりも小さい場合には、下記の判定を行った。
【0090】
i.いずれかの反応チューブのCt値が陽性臨界値よりも小さい場合(即ち、陽性A領域に位置する場合)には、当該サンプルについて、当該反応チューブに対応する突然変異が陽性であるとした。
【0091】
ii.いずれかの反応チューブのCt値が陽性臨界値よりも大きく、且つ陰性臨界のCt値よりも小さい場合(即ち、陽性B領域に位置する場合)には、当該反応チューブのΔCt値を算出した。そして、反応チューブのΔCt値が対応するΔCt Cut-off値よりも小さい場合には、当該サンプルについても、当該反応チューブに対応する突然変異が陽性、即ち陽性B領域であるとしたが、そうでない場合には、陰性であるか、当該試薬キットの検出下限を下回っているとした。
【0092】
(3)ΔCt値の算出:ΔCt値=突然変異のFAM(ROX)のCt値-外部コントロールのFAM(ROX)のCt値とした。突然変異のFAM(ROX)のCt値とは、サンプルの突然変異信号の1~7番目のチューブ(FAM又はROX信号)に対応するCt値のことであり、外部コントロールのCt値とは、サンプルの外部コントロール信号の8番目のチューブ(FAM又はROX信号)に対応するCt値のことである。
【0093】
6.いずれかのEGFR、HER2、KRAS陽性サンプルは、個々の突然変異反応チューブ間に交差信号を示す可能性がある。そこで、サンプルが2つ又は2つ以上の反応チューブにおいて陽性結果を示した場合(表19より判別)には、まず、突然変異反応チューブにおけるCt値が最小のものを真陽性と特定したあと、各反応チューブのΔCt値を算出した(突然変異のCt値-外部コントロールのCt値)。そして、表20~表22に示す交差信号の閾値から、その他の反応チューブについて交差信号か否かを判定した。
【0094】
(1)ΔCt値が交差信号の閾値よりも小さい場合には、真陽性信号であるとみなし、当該突然変異反応チューブを陽性であると判定可能とした。
【0095】
(2)ΔCt値が交差閾値以上の場合には、交差信号であるとみなし、当該突然変異反応チューブを陰性であると判定可能とした。
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
7.1つのサンプルが、2つ又は複数の融合或いは突然変異のタイプを同時に含む場合があった。
【0100】
(四)感度分析:DNA及びRNAのプラスミドをそれぞれ採取して段階希釈を行った。各種遺伝子は、いずれも最終的に少なくとも2種類の濃度を有し、これにより検出限界の考察を行った。その結果、本発明の蛍光PCR法は感度が高く、1%の遺伝子突然変異DNA及び25コピー/μLの融合遺伝子プラスミドを検出可能なことが分かった。結果の一部を
図1~
図15に示す。
【0101】
検出結果から明らかなように、本発明の検出システムは、肺癌の11種類の遺伝子を一括で正確に検出することが可能であった。また、検出感度は、1%の遺伝子突然変異DNA及び25コピー/μLの融合遺伝子RNAに達し得た。
【実施例2】
【0102】
本発明を利用して臨床サンプルを検出した。2019年11月に、172例の臨床NSCLC FFPEサンプルについて、肺癌の11種類の遺伝子突然変異/融合を検出するとともに(結果が既知の一部臨床サンプルを含む)、NGS法と比較した。
【0103】
一、検出サンプルのDNA及びRNAの抽出:DNAとRNAの抽出には、厦門艾徳生物医薬科技股 有限公司の核酸抽出試薬(型番:FFPE DNA/RNA、医療機器番号: 厦械備20150082号、製品番号:8.0223601X036G)を使用した。DNAとRNAの抽出を終えたあと、微量UV分光光度計を用いてDNAとRNAの濃度及び純度を測定した。RNA濃度は10ng/μLよりも大きく、DNA濃度は2ng/μLよりも大きく、DNA及びRNAのOD260/OD280は1.7~2.1の間とした。上記で抽出したDNAとRNAを肺癌の11種類の遺伝子を検出するための増幅鋳型とした。
【0104】
二、上記で抽出したDNAとRNAについて、それぞれ以下の増幅系でPCR増幅を行った。
【0105】
逆転写反応系:精製水を5~25μL、5×逆転写緩衝液を5~15μL、各プライマーを20~150μmol、逆転写酵素を100~200Uとし、総体積を20~30μLとした。
【0106】
PCR反応系:精製水を15~45μL、10×PCR緩衝液を5~15μL、MgCl2を1~10mmol、各対プライマーを1~20pmol、各対プローブを1~20pmol、dNTPsを10~100pmol、Taq酵素を1~10Uとし、総体積を30~50μLとした。また、逆転写反応条件を、42°Cで60min、95°Cで5min、1サイクルとした。
【0107】
S-cDNA1及びS-cDNA2を取得し、酵素と混合したあと、検出チューブLET PCR 8連チューブ-遺伝子融合-1~4及び5~8にそれぞれ投入するとともに、DNAサンプルを検出チューブLET PCR 8連チューブ-遺伝子突然変異-1~8に投入してPCR増幅を行った。
【0108】
リアルタイムPCRの反応条件は下記の通りとした。
【0109】
第1段階:42°Cで5min、95°Cで5min、1サイクルとした。
第2段階:95°Cで25s、64°Cで20s、72°Cで20s、10サイクルとした。
第3段階:93°Cで25s、60°Cで35s、72°Cで20s、36サイクルとした。
【0110】
信号収集:第3段階の60°C時点で、FAM/VIC/ROX信号を収集し、リアルタイムPCRを実行してファイルを保存した。
【0111】
三、検出結果の判定:蛍光PCR増幅装置に示されたCt値に基づいて、検出結果を判定した(判定方法については実施例1を参照)。
【0112】
四、NGS検出:合格DNAサンプルを抽出し、断片化後に末端修復及びアダプターライゲーションを行った。次に、艾徳社のヒト汎腫瘍116遺伝子パネルキャプチャープローブを使用してターゲット領域をキャプチャーし、品質管理に合格したキャプチャー後のライブラリをイルミナ社のNovaseq 6000シーケンスプラットフォームでシーケンシングした。そして、艾徳社のヒト汎腫瘍116遺伝子突然変異複合検出データ分析システム(ADXPAN116-tMut_v0.2.0)を使用して、シーケンシングデータを分析することで、116種類の遺伝子(EGFR、KRAS、BRAF、HER2、ALK、ROS1、RET、NTRK1、NTRK2、NTRK3、MET等を含む)の遺伝子突然変異結果を取得した。
【0113】
172例の臨床サンプルについて、本発明の試薬キットでは、全部で125例の陽性サンプルが検出された。サンプルの突然変異状況分布の詳細については、表23、表24及び
図16~
図27を参照する。
【0114】
【0115】
【0116】
一致しなかった1サンプルについて、上市済みのヒトEGFR遺伝子突然変異検出用試薬キット(蛍光PCR法)(国機注準20143402001)用いて検証した結果、EGFR 19delは陽性であり、本発明の検出結果と一致していた。
【0117】
2種類の方法で検出したデータを分析したところ、下記の通りとなった。
【0118】
陽性一致率=124/124=100.00%(95%CI:97.64%、100.76%)
陰性一致率=47/48=97.92%(95%CI:93.88%、101.96%)
総一致率=171/172=99.42%(95%CI:98.28%、100.55%)
【0119】
また、Kappa値=0.985、標準誤差SK=0.0145、Z値=67.965であった。Z値に基づき、ν=∞としてt境界値表を確認したところ、t臨界値は1.96(両側0.05)又は1.64(片側0.05)であった。Z=67.965>1.96、P<0.05であったため、Kappa値は統計学的に有意であるとみなすことができた。よって、2種類の試薬キットの検出結果には一致性が存在していた。
【0120】
当該蛍光PCR法とNGSの結果の総一致率は99.42%にも達しており、蛍光PCRの感度及び選択的検出能力はNGSに相当していた。また、NGSと比較して、PCR法は11種類の遺伝子を容易且つ迅速に検出可能であり、所要時間が短く、サンプルの節約にもなるため、臨床における使用普及にいっそう有利である。
【0121】
以上は本発明の好ましい実施例にすぎないため、これらにより本発明の実施範囲を限定すべきではない。即ち、本発明の権利範囲及び明細書の内容に基づき実施される等価の変形及び補足は、いずれも本発明がカバーする範囲に属する。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明は、肺癌の複数遺伝子突然変異を一括検出する試薬キットを開示する。当該試薬キットは、肺癌のEGFR、KRAS、BRAF、HER2、ALK、ROS1、RET、NTRK1、NTRK2、NTRK3、MET遺伝子の突然変異を検出するためのプライマー、プローブ及び割当方式を含む。本発明では、PCR 8連チューブ設計を採用し、2つのPCR 8連チューブごとに1つのサンプルの11種類の遺伝子突然変異/融合状態を検出する。一方のPCR 8連チューブ内には対応する融合検出試薬と内部コントロール試薬を充填し、他方のPCR 8連チューブ内には対応する突然変異検出試薬を充填する。本発明では、蛍光PCR法を使用して肺癌の119種類の遺伝子融合及び112種類の遺伝子突然変異のタイプを一括検出可能である。よって、検出時間が大幅に短縮されるとともに、操作しやすく、結果が正確であり、産業上の実用性を有している。
【配列表】