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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-04
(45)【発行日】2023-01-13
(54)【発明の名称】イオン源及び質量分析計
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/10 20060101AFI20230105BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20230105BHJP
   H01J 49/14 20060101ALI20230105BHJP
   H01J 49/16 20060101ALI20230105BHJP
   H01J 49/04 20060101ALI20230105BHJP
   H01J 49/40 20060101ALI20230105BHJP
【FI】
H01J49/10 700
G01N27/62 G
G01N27/62 C
H01J49/14 700
H01J49/14 500
H01J49/16 100
H01J49/04 220
H01J49/40
【請求項の数】 16
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022001998
(22)【出願日】2022-01-10
(62)【分割の表示】P 2020561798の分割
【原出願日】2019-05-08
(65)【公開番号】P2022058545
(43)【公開日】2022-04-12
【審査請求日】2022-01-24
(31)【優先権主張番号】62/670,435
(32)【優先日】2018-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】592071853
【氏名又は名称】レコ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】LECO CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100147511
【弁理士】
【氏名又は名称】北来 亘
(72)【発明者】
【氏名】アルタエフ,ヴィアチェスラフ
(72)【発明者】
【氏名】チーホノフ,ゲオルギー,ワイ
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-307041(JP,A)
【文献】特開2001-273869(JP,A)
【文献】特開2005-297173(JP,A)
【文献】特開2008-140583(JP,A)
【文献】特開2013-241679(JP,A)
【文献】特開2014-179230(JP,A)
【文献】米国特許第4749912(US,A)
【文献】欧州特許出願公開第2363877(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源において、
基部と、
前記基部へ流体連結されていて前記基部の下流に配置されている第1のチャンバであって、前記第1のチャンバが第1の接触区域を含み、第1の圧力を有する第1の内部体積を画定している第1のチャンバと、
前記第1のチャンバに流体連結されていて前記第1のチャンバの下流に配置されている第2のチャンバであって、前記第2のチャンバが前記第1の接触区域に係合する第2の接触区域を含み、前記第1の圧力より小さい第2の圧力を有する第2の内部体積を画定している第2のチャンバと、
前記第1のチャンバと前記第2のチャンバの間に配置されているノズルと、
前記第2のチャンバの下流に配置されている抽出器とを備えており、
前記第1の接触区域が、第1の磨かれた金属面を含んでおり、
前記第2の接触区域が、前記第1の磨かれた金属面に直接的に係合する第2の磨かれた金属面を含んでいる、イオン源。
【請求項2】
前記第1のチャンバ内に配置されたリペラ電極を更に備えている請求項1に記載のイオン源。
【請求項3】
前記基部は基部の接触区域を含み、前記第1のチャンバの前記第1の接触区域は前記基部の接触区域に係合する、請求項1に記載のイオン源。
【請求項4】
前記ノズルは前記第2のチャンバと流体連通した円錐台形状を画定する孔を含んでいる、請求項1に記載のイオン源。
【請求項5】
前記第1のチャンバは前記第1の内部体積を画定している第1の内部面を含み、前記第2のチャンバは前記第2の内部体積を画定している第2の内部面を含み、前記第1の内部面と前記第2の内部面は等温性である、請求項1に記載のイオン源。
【請求項6】
前記イオン源は、正の化学イオン化マススペクトル、負の化学イオン化マススペクトル、電子捕獲負イオン化マススペクトル、光イオン化マススペクトル、又は電子イオン化マススペクトルのうちの1つ又はそれ以上を生じさせるように構成されている、請求項1に記載のイオン源。
【請求項7】
前記イオン源は、化学イオン化マススペクトルと電子イオン化マススペクトルの組合せを生じさせるように構成されている、請求項6に記載のイオン源。
【請求項8】
前記イオン源は前記第1のチャンバの外に配置された第1のフィラメントを更に備え、前記第1のチャンバは、前記第1のフィラメントから発せられる第1の電子ビームを受け入れるように構成された第1の孔を画定している、請求項1に記載のイオン源。
【請求項9】
前記イオン源は前記第2のチャンバの外に配置された第2のフィラメントを更に備え、前記第2のチャンバは、前記第2のフィラメントから発せられる第2の電子ビームを受け入れるように構成された進入のための開口部を画定している、請求項8に記載のイオン源。
【請求項10】
前記第1のチャンバ及び前記第2のチャンバの外に配置されていて前記第1の内部体積と前記第2の内部体積の少なくとも一方を通して磁力線を生成するように構成されている磁石、を更に備えている請求項1に記載のイオン源。
【請求項11】
前記第1のチャンバは、ガスクロマトグラフからの毛細管カラムを受け入れるように構成された開口部を含んでいる、請求項1に記載のイオン源。
【請求項12】
前記第1のチャンバは前記開口部と流体連通している円錐状引込部を含んでいる、請求項11に記載のイオン源。
【請求項13】
前記開口部は第1の寸法と前記第1の寸法に垂直の方向に延びる第2の寸法を画定しており、前記第1の寸法対前記第2の寸法の比は大凡1:4と1:6の間である、請求項12に記載のイオン源。
【請求項14】
前記第1の寸法は前記開口部の直径を画定し、前記第2の寸法は前記開口部の長さを画定している、請求項13に記載のイオン源。
【請求項15】
直接挿入プローブ、直接暴露プローブ、メンブレン、又は請求項1に記載のイオン源を含むガスクロマトグラフ、のうちの1つを備えている質量分析計。
【請求項16】
前記ガスクロマトグラフは二次元ガスクロマトグラフである、請求項15に記載の質量分析計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概括的には質量分析のための2段イオン源に関しており、より具体的には閉鎖型イオン体積及び開放型イオン体積を備える2段イオン源に関する。
【背景技術】
【0002】
この項は本開示に関係のある背景情報を提供しており、必ずしも先行技術であるとは限らない。
【0003】
質量分析、具体的には試料分析は、ガスクロマトグラフィ-質量分析(GC-MS)又は2次元ガスクロマトグラフィ-質量分析(GCxGC-MS)を採用していることがある。最初に、気化させた(又はガス状の)試料のガスクロマトグラフィ分離が、ヘリウムをキャリアガスとして使用して遂行されることになるだろう。試料は、源のイオン体積の中へ直接連結された移動ラインを通過している毛細管カラムでイオン源の中へ送達される。イオン源が設置されている真空チャンバ内の圧力は、1E-5mbから1E-3mbの間の真空に維持されることができる。試料分子のイオン化が起こる源のイオン体積の圧力は、源のイオン体積の設計及び対応するイオン化方法に依存して1E-5mbから3mbの間であるだろう。分析種分子は何らかのバックグラウンド分子及びキャリアガス分子と共に、電子イオン化(EI)、化学イオン化(CI)、電子捕獲負イオン化(ECNI)、光イオン化(PI)、又は何れかの他の適切なイオン化機構を介してイオン化されることができる。イオンは、イオン移動インターフェースによって質量分析部へ運ばれ、分子イオン、疑分子イオン、及び/又はフラグメントイオンの質量電荷比に従って同定されることになる。多種多様なイオン移動インターフェースが存在する。例えば、イオン移動インターフェースには、単一の孔又はアインツェルレンズの様な単純なインターフェース、又は複数のイオンレンズ及びRFイオンガイドの様な複雑なインターフェースが挙げられる。典型的な質量分析部は、中でも特に、飛行時間型、四重極型、及び各種イオントラップ型を含む。
【0004】
質量分析、具体的にはGC-MS又はGCxGC-MSを採用している試料分析では、殆どの商業的GC-MSイオン源が単一モード(例えば、電子イオン化(EI)及び化学イオン化(CI))であるために概してユーザーはスペクトル取得を始める前に望ましいイオン化型式を選択しなくてはならない。電界イオン化(FI)、光イオン化(PI)、及び様々な他の源も利用可能である。一部の商業的に利用可能な源には、高速置換手続きを提供していて機器の真空システム全体を通気し及び再脱気する必要性のないものもある。それでもイオン源切り替え時には、分析を始められるようになるまでに、ガス放出、加熱、及び源温度安定化のために必要な或る一定の時間遅延が存在する。
【0005】
既知のシステムは、異なるイオン化型式を用いて分析を施行する場合の合間の時間遅延を最小限に抑えようと努めており、単一のクロマトグラフィピークの時間幅内が理想的である。これは、同じ源組立体が異なるイオン化型式を採用できるようになっているなら実現可能であるだろう。しかしながら、最適な電子イオン化と最適な化学イオン化は、大きく異なるイオン体積圧力(例えば、EIについては1E-5mb~1E-2mb、CI及びECNIについては0.1mb~3mb)にて起こる。ガス流量だけを変えることによってこの圧力ギャップを補うことは、利用可能な高真空ポンプの排気速度が制限されている(通常100リットル毎秒~1000リットル毎秒)せいで実現しがたい。したがって、閉鎖型式のEI源のイオン体積の出口の孔は、CI源のそれに比べてはるかに大きい総面積を有している。開放型EI源はメッシュを備えて構築されており、イオン光学要素間の広く開いたギャップを利用している。これらの制限を克服するべく、機械的にサイズ変更可能なイオン体積の孔を採用する幾つかの商業的な解がこれまでに提案されてきた。しかしながら、この解は源の分析特性に影響を及ぼしかねない、というのも、機械的に可動な要素は均一な温度に維持されるのがより困難であるからだ(典型的なGCイオン源の温度は摂氏120度と350度の間である)。源の等温性は、試料の吸着や分解を引き起こしクロマトグラフィピーク形状に悪影響を与えたり断片化を増加させたりする可能性のあるコールドスポット及びホットスポットを回避するうえで重要である。
【発明の概要】
【0006】
この項は、本開示の全般的な概要を提供しており、本開示の完全範囲の又は本開示の特徴全ての包括的な開示ではない。
【0007】
本開示の1つの態様はイオン源を提供している。イオン源は、基部、第1のチャンバ、第2のチャンバ、ノズル、リペラ電極、及び抽出部を含んでいる。第1のチャンバは、基部の下流に配置されていて、第1の圧力を有する第1の内部体積を画定している。第2のチャンバは、第1のチャンバの下流に配置されていて、第2の圧力を有する第2の内部体積を画定している。第2の圧力は第1の圧力より小さい。リペラ電極は第1のチャンバ内に配置されている。ノズルは第1のチャンバと第2のチャンバの間に配置されている。抽出部は第2のチャンバの下流に配置されている。
【0008】
イオン源は次の特徴の1つ又はそれ以上を含んでいてもよい。幾つかの実施形では、第1のチャンバは第1の接触区域を含んでおり、第2のチャンバは第1の接触区域に係合する第2の接触区域を含んでいる。第1の接触区域は第2の接触区域に直接係合していてもよい。第1の接触区域は第1の磨かれた金属面を含み、第2の接触区域は第1の磨かれた金属面に直接係合する第2の磨かれた金属面を含んでいてもよい。
【0009】
幾つかの実施形では、第1のチャンバは第1のチャンバ及び第2のチャンバと流体連通している孔を含んでいる。孔は円錐台形状を画定していてもよい。孔は、第1のチャンバから第2のチャンバへ流れる試料分子から分子ビームを形成するように構成されることができる。
【0010】
幾つかの実施形では、第1のチャンバは第1の体積を画定する第1の内部面を含んでおり、第2のチャンバは第2の体積を画定する第2の内部面を含んでいる。第1の内部面と第2の内部面は等温性とすることができる。
【0011】
幾つかの実施形では、イオン源は、正の化学イオン化マススペクトル、負の化学イオン化マススペクトル、電子捕獲負イオン化マススペクトル、光イオン化マススペクトル、又は電子イオン化マススペクトルのうちの1つ又はそれ以上を生じさせるように構成されている。イオン源は、化学イオン化マススペクトルと電子イオン化マススペクトルの組合せを生じさせるように構成されることもできる。
【0012】
幾つかの実施形では、イオン源は第1のチャンバの外に配置された第1のフィラメントを含んでいる。第1のチャンバは、第1のフィラメントから発せられる第1の電子ビームを受け入れるように構成された第1の孔を画定していてもよい。
【0013】
幾つかの実施形では、イオン源は第2のチャンバの外に配置された第2のフィラメントを含んでいる。第2のチャンバは、第2のフィラメントから発せられる第2の電子ビームを受け入れるように構成された第2の孔を画定していてもよい。第1のフィラメントは第1の反射器を含んでいてもよい。第2のチャンバは第3の孔を画定していてもよい。第1の反射器は第2の電子ビームを第3の孔を通して受け取るように構成されていてもよい。幾つかの実施例では、イオン源は、第2のチャンバの外に第3の孔に向いて配置された第3のフィラメントを含んでいる。
【0014】
幾つかの実施形では、イオン源は、第1のチャンバ及び第2のチャンバの外に配置された少なくとも1つの磁石を含んでいる。磁石は、第1の体積と第2の体積の少なくとも一方を通して電子ビーム方向に平行な磁力線を生成するように構成されることができる。少なくとも1つの磁石は2つの適切な形状の磁極片を含んでいてもよい。幾つかの実施形では、少なくとも1つの磁石は2つの磁石を含んでいる。
【0015】
幾つかの実施形では、第1のチャンバは、ガスクロマトグラフからの毛細管カラムを受け入れるように構成された開口部を含んでいる。第1のチャンバは開口部と流体連通している円錐台状の孔を含んでいてもよい。開口部は、第1の寸法と、第1の寸法に垂直の方向に延びる第2の寸法を画定していてもよい。第1の寸法対第2の寸法の比は、大凡1:4と1:6の間であってもよい。第1の寸法は開口部の直径を画定し、第2の寸法は開口部の長さを画定していてもよい。
【0016】
幾つかの実施形では、イオン源は質量分析計内に配置されている。
【0017】
本開示の別の態様によれば、単一の源組立体が、2つのイオン化型式(例えばCIとEI)を組み合わせるように構成された2つのイオン化体積のタンデム配置を含むことができる。ガス状試料がGCキャリアガス(及び該当する場合には化学イオン化のための試薬ガス)と共に、最初に相対的に高い内部圧力を有する第1の体積(CIゾーン)に入り、次いで小開口部(例えばノズル)を通って、分析計の真空システム内へのその幅広開口部のせいでほぼバックグラウンド真空圧力で動作している第2の体積(EIゾーン)へ移される。このイオン源型式は、電子を生成するための2つの別々のフィラメント(例えば、各イオン体積につき1つのフィラメント)を含み、単独EIスペクトル、単独CIスペクトル、組合せEI/CIスペクトル、及び密接に交互するEI/CIスペクトルを生じさせることができるようになっていてもよい。
【0018】
本開示の更に別の態様はタンデム型イオン源に関する。一部の実施形では、タンデム型イオン源はGC-MS質量分析計内に配置されている。タンデム型イオン源は、閉鎖型イオン体積、開放型分子ビームイオン化ゾーン又は体積、及び抽出電極を含んでいてもよい。開放型体積は閉鎖型体積と流体連通していて閉鎖型体積の下流にあり、ガス状試料が閉鎖型イオン体積を通って開放型体積の中へ連続的に通過してゆけるようにしていてもよい。閉鎖型イオン体積は、化学イオン化(CI)向けに構成された相対的に高い内部圧力を含んでいてもよい。開放型体積は、開放型電子イオン化(EI)源向けに構成された相対的に低い圧力を含んでいてもよい。イオン源は、正のCIマススペクトル、負のCIマススペクトル、電子捕獲負イオン化(ECNI)マススペクトル、EIマススペクトル、又は組合せCI-EIマススペクトルを含む1つ又はそれ以上のイオン化モードを生じさせるように構成されることができる。これらの複数のイオン化モードは、試料の組成についての相補的な情報を提供し、ゆえにマススペクトルの翻訳を単純化することができるだろう。試料の吸着又は分解を最小限にし幅狭で対称的なクロマトグラフィピーク形状をもたらすために、閉鎖型体積の内部面と開放型体積の内部面が等温性になるように閉鎖型イオン体積は開放型イオン体積に直接接触していてもよい。試料分子はGCキャリアガス及び何らかのCI試薬ガスと共に、閉鎖型高圧力イオン体積から軸方向に小円錐状ノズルを通って出てゆき分子ビームを形成することができる。開放型イオン化体積の低い圧力にもかかわらず、イオン化が起こっている分子ビーム軸付近では局所試料密度が高くなるだろう。高い局所密度はタンデム型イオン源の源感受性を高めることができる。抽出電極は、開放型イオン体積内に配置されていて円錐状スキマーの様な形状であってもよい。抽出電極の形状は、不要キャリアガス分子のかなりの割合がイオン移動インターフェースに進入し分析計の感度に悪影響を及ぼすのを防ぐことができるだろう。抽出電極の形状はまた、軸上の試料イオンをイオンインターフェースの光学器の中へ方位決めすることができるだろう。
【0019】
本開示の別の態様は、タンデム型イオン体積を有するガスクロマトグラフィ-質量分析(GC-MS)イオン源に関する。イオン体積同士は異なる内部圧力を有していてもよい。例えば、第1の閉鎖型イオン化体積は化学イオン化(CI)に適した相対的に高い圧力を有し、一方、第2の実質的に開放型のイオン体積は開放型電子イオン化(EI)源に典型的に見られる源チャンババックグラウンド圧力に近い極めて低い圧力を有していてもよい。装置は、飛行時間型(TOF)、四重極型、イオントラップ型、又は何れかの他の適切な型式の質量分析計内に配置され又は含まれることができる。飛行時間型質量分析部が利用されている場合、直交加速を備える反射又は多重反射TOF MSが利用されてもよい。源はイオン体積それぞれに1つとして2つの独立したフィラメントを具備し、単独CIスペクトル、単独EIスペクトル、組合せCI/EIスペクトル、及び交互式CI-EIスペクトルを生じさせることができるようになっていてもよい。開放型体積のフィラメントは、低いイオン化エネルギーでの電子放出電流の制御を単純化するために、高温のフィラメントワイヤとイオン体積の間に位置決めされた金属グリッドを具備していてもよい。開放型体積のフィラメントを取り去り、紫外線(UV)又は可視光ビームに置換することもでき、そうすれば閉鎖型高圧イオン体積内でなおもCIを提供しながら光イオン化(PI)が可能になる。
【0020】
幾つかの実施形では、試料は高圧イオン体積から開放型イオン体積の中へ軸方向円錐状ノズルを通って試料密度をビームの軸付近で増加させた有向分子ビームを形成しながら移行する。試料は、試料密度の増加した区域のクロス電子(又はUV光)ビームによってイオン化されることができる。同時に、リペラ電極なしの開放型イオン体積設計は試料及び電子(又はUV光)ビームに曝される表面積を最小限にすることができる。
【0021】
幾つかの実施形では、2つのイオン体積は互いと及び加熱された源基部と直接接触しているので、試料に曝される何れの面も等温性である。試料吸着を引き起こしピークのテーリングを招いてしまうコールドスポットも試料の分解及び過度の断片化を招いてしまうホットスポットも排除される。
【0022】
幾つかの実施形では、イオン抽出要素は典型的な分子ビームスキマーのような形状をしていて、GCキャリアガス(H2、He)及びCI試薬ガスの軽量(例えば低質量)分子のかなりの割合をイオン移動インターフェースの中への入り口から離して方向決めする一方で軸付近のより重いイオン化された分析種を集束させる。これは、開放型イオン体積の線形ダイナミックレンジと高速ガスクロマトグラフィ分析にとって望ましいより高い速度のGCガス流れについてのその感度を改善する。
【0023】
本開示の更に別の態様は、改善された分析性能と有用性を有し、EI型とCI型の両方のGC-MSスペクトルを単一のイオン源を用いて最適条件で同時に収集するように構成されたイオン源を提供している。幾つかの実施形では、イオン源はEIモードとCIモードで動作し、閉鎖型イオン化体積と実質的に開放型のイオン体積を含んでいる。
【0024】
幾つかの実施形では、イオン源はよりソフトなイオン化を提供し、分子イオンのより大きい割合を(解離させることなく)保全し、試料中の未知の分析種の同定を単純化する。
【0025】
適用可能性の更なる分野は、ここに提供されている説明から明白になるであろう。この概要の中の記述及び特定の実施例は、専ら例示を目的としており、本開示の範囲を限定するつもりはない。
【0026】
ここに説明される図面は、選択された構成のみを例示することが目的であり、全ての考えられ得る実施形を例示するためではなく、また本開示の範囲を限定する意図はない。
【0027】
図面全体を通して対応する符号は対応する部分を表している。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本開示の原理による2段イオン源の断面概略図である。
図2】本開示の原理による、高圧イオン体積の側面の毛細管ガスクロマトグラフィカラムのための気密接続の断面概略図である。
図3】本開示の原理による2段イオン源を含んでいる直交加速を備えた反射飛行時間型質量分析計の断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
これより添付図面を参照しながら構成例をより十分に説明してゆく。構成例は、この開示が徹底され開示の範囲を当業者に十分に伝えることができるように提供されている。本開示の諸構成の十分な理解をもたらすために、特定の構成要素、デバイス、及び方法の実施例の様な特定の詳細事項が示されている。当業者には自明である様に、特定の詳細事項は採用される必要があるとは限らず、当該構成例は多くの異なる形態に具現化されることができ、特定の詳細事項及び構成例は開示の範囲を限定するものと解釈されてはならない。
【0030】
本明細書で使用されている用語遣いは、専ら特定の例示としての構成を説明することが目的であり、限定を課す意図はない。本明細書での使用に際し、原文の単数を表す冠詞「a」、「an」、及び「the」の対訳である「或る」、「一」、及び「当該」は、別途文脈によって明白に指示されていない限り、複数形も含むものとする。「備える」、「備えている」、「含んでいる」、及び「有している」という用語は包含的であり、したがって特徴、工程、動作、要素、及び/又は構成要素の存在を指示するが、1つ又はそれ以上の他の特徴、工程、動作、要素、構成要素、及び/又はそれらの群の存在又は追加を排除しない。本明細書に説明されている方法の工程、プロセス、及び動作は、遂行の順序として特に識別されていない限り、論じられている又は例示されている特定の順序でそれらが遂行されることを必然的に要求するものであると解釈されてはならない。追加の又は代わりの工程も採用され得る。
【0031】
或る要素又は或る層が、別の要素「上」又は別の層「上」にある、別の要素又は別の層へ「係合されている」、「接続されている」、「付着されている」、又は「連結されている」という場合、それは、直接的に他方の要素上又は他方の層上にある、直接的に他方の要素又は他方の層へ係合されている、接続されている、付着されている、又は連結されていることもあれば、介在する要素又は介在する層が存在していることもある。対照的に、或る要素が別の要素上又は別の層上に「直接ある」、別の要素又は別の層へ「直接係合されている」、「直接接続されている」、「直接付着されている」、又は「直接連結されている」という場合、介在する要素又は介在する層は存在しないということになる。要素同士の関係を記述するのに使用されている他の語は同様の方式で解釈されるものとする(例えば、「○○の間に」対「○○の間に直接に」や「○○に隣接して」対「○○に直接隣接して」など)。本明細書での使用に際し「及び/又は」という用語は、関連の一覧品目のうちの1つ又はそれ以上から成るありとあらゆる組合せを含む。
【0032】
第1の、第2の、第3の、などの用語は、本明細書では、様々な要素、構成要素、領域、層、及び/又は区分を記述するのに使用されることがある。これらの要素、構成要素、領域、層、及び/又は区分は、これらの用語によって限定されるものではない。これらの用語は、1つの要素、構成要素、領域、層、又は区分を、別の領域、層、又は区分と区別するために使用されているにすぎない。「第1の」、「第2の」、及び他の数的用語の様な用語は、文脈によって明白に指し示されていない限り、或るシーケンス又は順序を含意するものではない。したがって、以下に論じられている第1の要素、第1の構成要素、第1の領域、第1の層、又は第1の区分が、構成例の教示から逸脱することなく、第2の要素、第2の構成要素、第2の領域、第2の層、又は第2の区分と呼称されることもあり得る。
【0033】
図1を参照すると、本開示の原理による2段イオン源100が示されている。2段イオン源100は、高圧イオン体積(例えばチャンバ)2、ほぼバックグラウンド圧力を有する開放型イオン体積(例えばチャンバ)3、及び塊状基部1を含むものとすることができる。イオン体積2とイオン体積3は、積重され、源の基部1へしっかり付着されているものとしてもよい。源の基部1は、ヒータ及び温度センサ28を含み、2段イオン源100がヒータ28によって加熱されるようにしていてもよい。
【0034】
チャンバ2、3及び基部1は金属から形成され、チャンバ2、3及び基部1の接触区域は磨かれていて、チャンバ2とチャンバ3の間のチャンバ対チャンバ接触区域並びにチャンバ2と基部1の間のチャンバ対基部接触区域は、良好な熱移動を促し確実にイオン源100が等温性となるようにするため十分に磨かれた金属面とすることができる。チャンバ2、3は、それぞれ、10ミリメートルから16ミリメートルの間の内径を画定していてもよい。チャンバ2、3及び/又は基部1は、外部パワー供給によってイオンチャンバ電位へ電気的にバイアスされていてもよい。
【0035】
高圧チャンバ2は、単段又は2段ガスクロマトグラフ(図示せず)からの毛細管カラム向けの気密接続を画定する開口部4を含んでいてもよい。分析される試料の蒸気はGCキャリアガスと共に接続4を通って源100の高圧チャンバ2に進入することができる。
【0036】
源の基部1は、源の高圧イオン体積の中への化学試薬ガス又は較正化合物の一方又は両方の送達を可能にさせる追加の開口部5を含んでいてもよい。幾つかの実施形では、化学試薬ガス及と較正化合物は同時に開口部5を通って送達される。基部1は、気化させた試料を直接挿入プローブ(DIP)又は直接暴露プローブ(DEP)を用いて導入するための追加の開口部6を含んでいてもよい。幾つかの実施形では、開口部5、6は、源の基部1ではなしにイオン体積2の壁に形成されているか、又はガス及び蒸気が高圧チャンバ2の中へ送達されるようにする何れかの他の適切なやり方で形成されている。開口部5、6は、概してイオン源100の周囲の雰囲気へ開口しているものとして描かれているが、一部の配置では、使用中、開口部5は化学試薬ガス及び較正化合物の源と流体連通していてもよく、また開口部6はDIP又はDEPと流体連通していてもよい。
【0037】
高圧イオン体積2は、9ミリメートルと13ミリメートルの間の外寸法を有するリペラ電極7を含んでいてもよい。幾つかの実施形では、容易脱着を確実にするために、リペラ電極7は、外寸法が外径を画定するような丸い又は六角形の形状を画定している(例えば丸いリペラ電極)。このリペラ電極7は、外部パワー供給によって、イオンチャンバ2の電位とは異なる電位へ独立にバイアスされるようになっていてもよい。リペラ電極7への電気的バイアス又はリペラ電極7を高圧イオン体積2の内部に存在させることは源100の動作にとって必須というわけではなく、試料イオンはイオン体積2の外を試薬及びキャリアガス流れだけによって搬送されイオン光学器電位勾配によって抽出されるようにしてもよい。しかし、リペラ電極7の適正に選択(例えば調整)された電圧は源100の感度を大きく改善することができるだろう。
【0038】
高圧イオンチャンバ2は更に円錐状ノズル8を含んでいてもよい。描かれている様に、幾つかの実施形では、ノズル8は軸に沿ってチャンバ2の頂部に配置されている。ノズル8は約1mmの最小(例えばノズル8の最も幅の狭い箇所の)直径を画定していてもよい。中性の試料蒸気又は試料イオンが(例えばチャンバ2のフィラメント10がオンになっている場合)、ノズル8を通って高圧体積2を去り、そのまま軸方向に或る程度の流れ膨張を伴いながら開放型イオン体積3に入ってゆくことになる。
【0039】
チャンバ2は更に高圧イオン体積2の側面に追加の孔9を含んでいてもよい。追加の孔9は約0.5ミリメートルの直径を画定していて、チャンバ2の内側頂部から1ミリメートル乃至2ミリメートルの間隔を空けて配置されていてもよい。動作中に、孔9はフィラメント10によって発せられる電子ビームを受け入れ、よって電子ビームはイオン体積2に進入する。
【0040】
源100は更に磁石15を含んでいてもよい。幾つかの実施形では、磁石15は永久磁石である。磁石15は、イオン源組立体100を横断して延びる磁力線を有する磁界を作成し又は生成するようになっていてもよい。磁界は、フィラメント10から発せられる電子ビームをイオン体積2、3に向けて方向決めし、電子経路を増大させ、こうして源100のイオン収量を高める。試料蒸気のわずかな割合が試薬及びキャリアガスと共に電子ビーム孔9を通って出てゆくかもしれない。このわずかな割合の分子は、電子ビーム中にイオン化されたとしても、インターフェースイオン光学器によって抽出されず、源100の真空システム(図示せず)によって排気されるだろう。
【0041】
源100は更に円錐状抽出器14を含んでいてもよい。軸方向にノズル8を通って開放型イオン体積3の中へ出てゆくイオン化された試料は、円錐状抽出器14の電界によって軸方向に加速され、質量分析計のイオン移動インターフェースの中へ更に運ばれることができる。抽出器14の形状は、試料が激減しGCキャリアガスが豊富になっている外側ビームを除去のために真空システムの中へ偏向させることをやり易くする。抽出器14は、1.5ミリメートルと4ミリメートルの間の直径を有している中心に位置する孔を含んでいてもよい。
【0042】
開放型イオン体積3は、フィラメント11を含み、1つ又はそれ以上の開口部13を画定していてもよい。例えばフィラメント10がオフであったことが理由で又は試料の化学的特質が理由で、試料が高圧イオン体積2内で化学イオン化プロセスによってイオン化されない場合、試料は開放型イオン体積3内で電子イオン化によってイオン化されることができる。例えば、フィラメント11をオンにして、フィラメント11によって発せられる電子ビームが開口部13のうちの第1の開口部を通って低圧イオン体積3に進入し出てゆくようにすることができる。開口部13は、2ミリメートルと3ミリメートルの間の直径を画定していて開放型イオンチャンバ3の側面に配置されていてもよい。開口部13の中心線は、チャンバ3の底部から1ミリメートル乃至5ミリメートル離れて位置していてもよい。幾つかの実施形では、フィラメント10、11は電子反射器を含んでいる。フィラメント10の反射器は、フィラメント11によって発せられる電子に反射器が働きかけるように開口部13の1つに面して延びていてもよい。こうして、フィラメント11が作動されると、磁界による影響を受けた電子が、フィラメント10、11の反射器間を行きつ戻りつし、やがてガス及び蒸気の分子又は源100の壁と衝突することになる。
【0043】
源100は更に金属グリッド12を含んでいてもよい。金属グリッド12は、フィラメント11と開放型イオンチャンバ3の側面の開口部13との間に配置されていてもよい。グリッド12は外部パワー供給によって、イオン体積3及びフィラメント11のどちらよりも強い正の電位へ独立にバイアスされてもよい。グリッド12の電位とフィラメント11の電位の差は80ボルトと300ボルトの間であってもよい。グリッド12の電位とイオン体積3の電位の差は50ボルトと150ボルトの間であってもよい。幾つかの実施例では、金属グリッド12はフィラメント10と孔9の間に配置されることができる。
【0044】
グリッド12は、2つの異なる状況での電子放出電流制御を安定化させるのに役立つだろう。例えば、源100が非常に大量の試料を装填されたとき、開口部13近くでイオン化された分子は、グリッド12上の正の電位のためにイオン体積3の中へはじき戻されるであろう。グリッド12が不在の場合、イオンはフィラメント11へ引き寄せられるはずである。この追加のイオン電流は、電子放出電流測定を乱し、フィラメント電流制御ループの安定性を低下させかねない。イオン源100が大量の試料で過負荷になったときにグリッド12はより広いダイナミックレンジとより素早い回復を実現するのに役立つ。加えて、低い電子エネルギー時、グリッド12なしに形成された源100では、最大実現可能電子放出電流はチャイルドの法則に記されている様に空間電荷によって制限される。フィラメントに密に近接した正にバイアスされた(電子加速性)グリッド12は、フィラメント付近の空間電荷を低減し、低電子(イオン化)エネルギー時のフィラメント電流制御を単純化する。
【0045】
開放型イオン体積3内の電子イオン化は随意的に光イオン化によって置換されることができる。例えば、フィラメント11を除去し、フィラメント10の反射器の長さを短くし、磁石15を源基部1に向かってより低くシフトさせ、貫通孔13を少なくとも直径4ミリメートルへ広げればよい。ノズル8を通って出てゆく試料ビームをUV光源の光ビームが照射するようにUV光源(図示せず)を位置決めすればよい。
【0046】
開放型イオン体積3内で電子イオン化又は光イオン化によって産生されたイオンは抽出器14によって軸方向に加速されることができる。任意の所与の時点で、フィラメント10をオンにしてCIスペクトルを記録させ、フィラメント11をオンにしてEIスペクトルを記録させ、又は両方のフィラメント10、11をオンにして組合せEI/CIスペクトルを記録させることができる。光イオン化の場合は、単独CIスペクトル、単独PIスペクトル、又は組合せCI/PIスペクトルを記録させることができる。
【0047】
殆どの商業的な閉鎖型EI源とは異なり、開放型イオン体積3はリペラ電極を含んでいなくてもよい。イオンは分子ビームの軸方向下流運動と円錐状抽出器14の電界とによって方向決めされることができるだろう。
【0048】
基部1、体積2、3、リペラ電極7、及び抽出器14は、当業者によく知られている任意の適切な不活性非磁性金属又は合金で構築されることができる。
【0049】
高圧イオン体積2と開放型イオン体積3のタンデム型配置を考慮すると、ノズル8を通って開放型イオン体積3の中へ移動する分析種蒸気の割合は最大化され、高圧イオンチャンバ2側の他の開口部を通っての試料損失は最小化されるだろう。
【0050】
図2を参照すると、毛細管GCカラム24の変形型及び毛細管GCカラム24の高圧イオンチャンバ2への移動ライン25の接続が示されている。移動ライン25とイオン体積2は概して異なる電位を有しているので、移動ライン25はイオン体積2と直接には機械的に接触していなくてもよい。CI源の毛細管カラム開口部を封止する伝統的なやり方が図2の上側の部分に示されている。例えば、円錐状セラミックスペーサ26を移動ライン25の先端に密に嵌め、ばね27で高圧イオン体積2の円錐状開口部4に押し付けるようにしていることがある。密な嵌め合いにもかかわらず、セラミックスペーサ26は移動ライン25の先端で自由に滑動する可能性がある。シールの気密性は、噛み合い部分(例えば2、26)の寸法公差及び圧縮されたばね27によって生成される力に依存する。イオン源(例えば源100)、移動ライン25、ひいてはばね27の熱循環に加え開口部4の全体として大きなサイズのせいで、CI源の開口部4を通って試薬ガスが漏出し、要求される試薬ガス流れの変動を招く可能性がある。
【0051】
図2の下側部分は、本開示の原理によるイオン源(例えばイオン源100)のための移動ライン25を描いている。移動ライン25は高圧イオンチャンバ2に直接接触していなくてもよい。開口部4の直径対開口部4の長さの比は1:4と1:6の間とすることができる。一部の実施形では、開口部4の直径は0.5mmと0.7mmの間とすることができる。毛細管カラムによって妨げられていないときでも、CI源の作動圧力でのガス流れの特質のせいで、この開口部4のガス流れ抵抗が、流出流の殆どがノズル8(図1)を通ることを確約するだろう。高圧イオン体積2の外側側面は、毛細管GCカラム24の挿入を単純化するために、開口部4と流体連通した浅い円錐状引込部を含み又は画定していてもよい。
【0052】
最新の毛細管カラムの柔軟性のおかげで、移動ライン25と開口部4の間の精密な整列は要求されないかもしれない。図2の下側部分に示されている移動ライン25は、分析の実行回間での及び機器間でのより高い再現性を提供し、摩耗性の(wearable)部品をあまり必要としない。
【0053】
図3を参照すると、直交加速を備えた反射飛行時間型(TOF)質量分析計200が2段イオン源100を含むものとして示されている。2段イオン源100は、多重反射TOF型機器(例えば、レコ社(LECO)によるPEGASUS(登録商標)GC-HRT)、四重極型質量分析部、イオントラップ型、又は何れかの他の適した質量分析部と共に使用されることもでき得るものと理解しておきたい。タンデム型の源100は、概して連続イオンビームを産生することができるが、源100は2つのフィラメント(例えば、フィラメント10とフィラメント11)を(間に何らかの短いイオン電流ドロップアウトを用いて)切り替えることによってCIスペクトルとEIスペクトルを交互に生じさせることもできる。
【0054】
分析計200は、源インターフェース真空チャンバ16、質量分析部真空チャンバ17、及びイオン移動インターフェース18を含んでいてもよい。連続イオンビームは源インターフェース真空チャンバ16から質量分析部真空チャンバ17へイオン移動インターフェース18によって送られることができる。
【0055】
質量分析部17は、直交加速器20、ドリフト領域、イオンミラー22、及び荷電粒子検出器23を含むものとすることができる。質量分析部17では、イオンビームは、(i)直交加速器20でのパルス式加速、(ii)ドリフト領域21での2つの定速度軌道セグメント、及び(iii)中間のイオンミラー22での反射、に曝されることになる。最終的に、イオンマススペクトルが荷電粒子検出器23によって記録されることになる。幾つかの実施形では、荷電粒子検出器23はマイクロチャネルプレートを含んでいる。
【0056】
2つの真空チャンバ16、17は、高真空ポンプP1及びP2によってそれぞれ独立に排気されていてもよい。ポンプP1、P2は、200リットル/秒と400リットル/秒の間の排気速度を有していて適切な粗引きポンプによって支援されているターボ分子ポンプを含んでいてもよい。幾つかの実施形では、2つの個別のターボ分子ポンプP1、P2の代わりに、分析計200は単一のマルチインレットターボポンプ(図示せず)を含むこともできる。
【0057】
分析計200は、2つの真空チャンバ16と17の間に配置された小オリフィス19を含んでいてもよい。オリフィス19は差動排気を可能にすることができる。1つの標準的mL/秒の典型的GCキャリアガス流れ及び1つの標準的mL/秒の追加のCI試薬ガス流れのもとで、真空チャンバ16内の作動圧力は約1.4E-4mbであり、一方、真空チャンバ17内の圧力は、オリフィス19のサイズ、チャンバ17の漏れ止め性、及びチャンバ17内部の材料のガス放出速度に依存して、5E-6mbから1E-8mbの間であるとしてもよい。上記ガス流れの設定では、イオン体積2内の圧力は0.3mbに大凡等しくてもよい(ゆえに「高圧イオン体積」という名がつく)。化学イオン化は、0.1mbと3mbの間の試薬ガス圧力を必要とするのに対し、閉鎖型電子イオン化源は1E-3mbから1E-2mbのバックグラウンドガス圧力で動作するものである。CI試薬ガス(普通はメタン、イソブタン、又はアンモニア)不在の場合、分析種物質はイオン化されたGCキャリアガス(典型的にはヘリウム又は水素)との電荷交換反応を被ることになる。この反応での高いエネルギー移動は往々にして分析種解離を生じさせる。結果として正に帯電したイオンのマススペクトルは同じ分析種についてのEIスペクトルによく似たものとなる。このイオン化モードが開放型イオン体積内でのEIイオン化の実用性を減じることはないだろう。2つのイオン体積2、3の圧力は3桁も異なり得る。ゆえに、開放型イオン体積3は、より大きな線形ダイナミックレンジとより優れた感度を有する電子イオン化が可能である。
【0058】
本願発明の実施形態は、例えば、以下の通りである。
[実施形態1]
基部と、
前記基部へ流体連結されていて前記基部の下流に配置されている第1のチャンバであって、第1の圧力を有する第1の内部体積を画定している第1のチャンバと、
前記第1のチャンバに流体連結されていて前記第1のチャンバの下流に配置されている第2のチャンバであって、前記第1の圧力より小さい第2の圧力を有する第2の内部体積を画定している第2のチャンバと、
前記第1のチャンバと前記第2のチャンバの間に配置されているノズルと、
前記第2のチャンバの下流に配置されている抽出器と、
を備えているイオン源。
[実施形態2]
前記第1のチャンバ内に配置されたリペラ電極を更に備えている実施形態1に記載のイオン源。
[実施形態3]
前記基部は第1の接触区域を含み、前記第1のチャンバは前記第1の接触区域に係合する第2の接触区域を含んでいる、実施形態1に記載のイオン源。
[実施形態4]
前記第1のチャンバは第1の接触区域を含み、前記第2のチャンバは前記第1の接触区域に係合する第2の接触区域を含んでいる、実施形態1に記載のイオン源。
[実施形態5]
前記第1の接触区域は第1の磨かれた金属面を含み、前記第2の接触区域は前記第1の磨かれた金属面に直接的に係合する第2の磨かれた金属面を含んでいる、実施形態4に記載のイオン源。
[実施形態6]
前記ノズルは前記第2のチャンバと流体連通した円錐台形状を画定する孔を含んでいる、実施形態1に記載のイオン源。
[実施形態7]
前記第1のチャンバは前記第1の内部体積を画定している第1の内部面を含み、前記第2のチャンバは前記第2の内部体積を画定している第2の内部面を含み、前記第1の内部面と前記第2の内部面は等温性である、実施形態1に記載のイオン源。
[実施形態8]
前記イオン源は、正の化学イオン化マススペクトル、負の化学イオン化マススペクトル、電子捕獲負イオン化マススペクトル、光イオン化マススペクトル、又は電子イオン化マススペクトルのうちの1つ又はそれ以上を生じさせるように構成されている、実施形態1に記載のイオン源。
[実施形態9]
前記イオン源は、化学イオン化マススペクトルと電子イオン化マススペクトルの組合せを生じさせるように構成されている、実施形態8に記載のイオン源。
[実施形態10]
前記イオン源は前記第1のチャンバの外に配置された第1のフィラメントを更に備え、前記第1のチャンバは、前記第1のフィラメントから発せられる第1の電子ビームを受け入れるように構成された第1の孔を画定している、実施形態1に記載のイオン源。
[実施形態11]
前記イオン源は前記第2のチャンバの外に配置された第2のフィラメントを更に備え、前記第2のチャンバは、前記第2のフィラメントから発せられる第2の電子ビームを受け入れるように構成された第2の孔を画定している、実施形態10に記載のイオン源。
[実施形態12]
前記第1のフィラメントは第1の反射器を含み、前記第2のチャンバは第3の孔を画定しており、前記第1の反射器は前記第2の電子ビームを前記第3の孔を通して受け入れるように構成されている、実施形態11に記載のイオン源。
[実施形態13]
前記第1のチャンバ及び前記第2のチャンバの外に配置されていて前記第1の内部体積と前記第2の内部体積の少なくとも一方を通して磁力線を生成するように構成されている磁石、を更に備えている実施形態1に記載のイオン源。
[実施形態14]
前記第1のチャンバは、ガスクロマトグラフからの毛細管カラムを受け入れるように構成された開口部を含んでいる、実施形態1に記載のイオン源。
[実施形態15]
前記第1のチャンバは前記開口部と流体連通している円錐台状孔を含んでいる、実施形態14に記載のイオン源。
[実施形態16]
前記開口部は第1の寸法と前記第1の寸法に垂直の方向に延びる第2の寸法を画定しており、前記第1の寸法対前記第2の寸法の比は大凡1:4と1:6の間である、実施形態15に記載のイオン源。
[実施形態17]
前記第1の寸法は前記開口部の直径を画定し、前記第2の寸法は前記開口部の長さを画定している、実施形態16に記載のイオン源。
[実施形態18]
直接挿入プローブ、直接暴露プローブ、メンブレン、又は実施形態1に記載のイオン源を含むガスクロマトグラフ、のうちの1つを備えている質量分析計。
[実施形態19]
前記ガスクロマトグラフは二次元ガスクロマトグラフである、実施形態18に記載の質量分析計。
以上の記述は例示と説明を目的に提供されている。網羅的であろうとする意図も開示を制限する意図もない。特定の構成の個々の要素又は特徴は、概して当該の特性の構成に限定されるのではなく、適用可能である場合には入れ替え可能であり明確に図示又は説明されていなくても選択された構成で使用されることができる。前記特定の構成の個々の要素又は特徴は多くのやり方で変えられてもよい。その様な変化型は開示からの逸脱とは見なされず、全てのその様な修正型は開示の範囲内に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0059】
1 基部
2 高圧イオン体積
3 バックグラウンド圧力を有する開放型イオン体積
4 開口部
5 開口部
6 開口部
7 リペラ電極
8 円錐状ノズル
9 孔
10 フィラメント
11 フィラメント
12 金属グリッド
13 開口部
14 円錐状抽出器
15 磁石
16 源インターフェース真空チャンバ
17 質量分析部真空チャンバ
18 イオン移動インターフェース
19 オリフィス
20 直交加速器
21 ドリフト領域
22 イオンミラー
23 荷電粒子検出器
24 毛細管GCカラム
25 移動ライン
26 円錐状セラミックスペーサ
27 ばね
28 温度センサ
100 2段イオン源
200 反射飛行時間型(TOF)質量分析計
P1、P2 高真空ポンプ
図1
図2
図3