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特許7204076カーボンナノチューブ分散液、それを用いた二次電池電極用組成物、電極膜、および二次電池。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ分散液、それを用いた二次電池電極用組成物、電極膜、および二次電池。
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/174 20170101AFI20230106BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20230106BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230106BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230106BHJP
【FI】
C01B32/174
H01M4/02 Z
H01M4/13
H01M4/62 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021021591
(22)【出願日】2021-02-15
(62)【分割の表示】P 2020205488の分割
【原出願日】2020-12-11
(65)【公開番号】P2021175699
(43)【公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2020078026
(32)【優先日】2020-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】青谷 優
(72)【発明者】
【氏名】森田 雄
(72)【発明者】
【氏名】泉谷 哲朗
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-210173(JP,A)
【文献】特開2020-001960(JP,A)
【文献】特開2014-028935(JP,A)
【文献】特表2018-534731(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 - 32/991
H01M 4/02
H01M 4/13
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、および水を含有するカーボンナノチューブ分散液であって、
前記カルボキシメチルセルロースまたはその塩が、重量平均分子量が1万~10万、エーテル化度が0.5~0.9であり、
前記カーボンナノチューブ分散液の、温度25℃、周波数1Hz、及びひずみ率0.01%~5%の範囲で測定した複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下である、カーボンナノチューブ分散液。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブの酸性基量が0.1~0.8μmol/m2である、請求項1記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブの酸性基量が40~500μmol/gである、請求項1または2記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項4】
複素弾性率が50Pa以下、位相角が15°以上である、請求項1~3いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項5】
カーボンナノチューブが、平均外径が0.5nm以上5nm未満の第一のカーボンナノチューブと、平均外径が5nm以上20nm以下の第二のカーボンナノチューブとを含み、
第一のカーボンナノチューブと第二のカーボンナノチューブの質量比率が1:10~1:100である、請求項1~4いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項6】
さらに、ポリアクリル酸を含む、請求項1~5いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項7】
メジアン径が0.5μm以上2.0μm以下である、請求項1~6いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項8】
分散液のTI値が2.0~5.0である、請求項1~7いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項9】
カーボンナノチューブ分散液の塗膜が、60°で測定した光沢が5~120である、請求項1~8いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項10】
pHが7.0~10.5である、請求項1~9いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項11】
請求項1~10いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液を含む、二次電池電極用組成物。
【請求項12】
請求項11記載の二次電池電極用組成物の塗工膜を含む、電極膜。
【請求項13】
請求項12記載の電極膜を含む、二次電池。
【請求項14】
下記(1)および(2)の工程を順次行うことを特徴とする、請求項1~10いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
(1)高圧ホモジナイザーを用いて、60~120MPaの圧力で分散し、メジアン径を4.0μm以下にする工程
(2)ビーズミルを用いて、位相角が、40°以上になるまで分散する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ分散液、それを用いた二次電池電極用組成物、電極膜、および二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の容量は、主材料である正極活物質および負極活物質に大きく依存することから、各種材料が盛んに研究されているが、実用化されている活物質の充電容量はいずれも理論値に近いところまで到達しており、改良は限界に近い。そこで、電池内の活物質充填量が増加すれば、単純に容量を増加させることができるため、容量には直接寄与しない導電材やバインダーの添加量を削減する試みが行われている。このうち導電材は、電池内部で導電パスを形成し、活物質粒子間を繋ぐことで活物質の膨張収縮による導電パスの切断を防ぐ等の役割を担っており、少ない添加量で性能を維持するためには、導電材分散液を用いて効率的な導電ネットワークを形成させることが有効である(特許文献1)。
【0003】
導電材としては、カーボンブラック、ケッチェンブラック、グラフェン、微細炭素材料等が使用されている。微細炭素繊維の一種であるカーボンナノチューブの内、特に外径が小さく比表面積が大きなカーボンナノチューブを用いると、少量で効率的に導電ネットワークを形成することができ、リチウムイオン二次電池用の正極および負極中に含まれる導電材量を低減することができる。例えば、黒鉛やシリコン負極にカーボンナノチューブを添加することにより、電極抵抗を低減したり、電池の負荷抵抗を改善したり、電極の強度を上げたり、電極の膨張収縮性を上げることで、リチウムイオン二次電池のサイクル寿命を向上させている(特許文献2、3および4)。シリコン系活物質は黒鉛よりも理論容量が大きく、電池の高容量化に貢献できるが、充放電に伴う体積変化が著しいことから、微粒子化し、粒子の表面に薄い炭素被膜を形成させた上で、黒鉛と併用してサイクル寿命を改善しようという試みがある。
【0004】
黒鉛とシリコン系活物質を併用する負極において、結着剤の選択が非常に難しい問題となる。黒鉛単独系で使用されるスチレンブタジエンゴム(SBR)は、黒鉛とシリコン系活物質併用系においては、特性が著しく悪化してしまう。SBRは活物質粒子をゴムの粒子で結着し、活物質と電解質を接触させるような設計となっているが、膨張収縮が黒鉛よりも大きなシリコン系負極活物質が入る場合、SBR単独では結着力が弱く、充放電サイクル初期に結着が破られてしまう問題がある。そこで、水に均一分散または溶解したポリアクリル酸やポリアクリル酸塩等の結着材とSBRを使用することにより、結着材で、活物質表面を広範に覆い、その表面樹脂層が活物質同士を結着する手法が行われている(特許文献5)。しかしながら、低分子量のポリアクリル酸やポリアクリル酸塩をバインダーとして使用した場合は、良好なサイクル特性を得ることができなかった(特許文献6および非特許文献1)。
【0005】
正極でも、カーボンナノチューブを添加することにより、電極抵抗を低減する検討が行われている(特許文献7および8)。正極活物質の多くは水に対して不安定であるが、例えばリン酸鉄リチウムは水に対して比較的安定であることから、水を分散媒として二次電池用電極を製造することができる。また、リン酸鉄リチウムは特に導電性に乏しいため、薄い炭素被膜を形成させて用いるのが一般的である。リン酸鉄リチウムは固体内のリチウム拡散抵抗が高いことから、微粒子として使用することで電極膜としての抵抗を改善させる方法が知られている。
【0006】
また、環境負荷低減やコスト削減といった観点から、水を分散媒とする導電材分散液の需要が高まっているが、カーボンナノチューブは疎水性が高いことから、水への分散が難しく、様々な試みが報告されている。例えば、特許文献9には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量が0.5万以上6万以下であるカルボキシメチルセルロースまたはその塩、および水系溶媒を含むカーボンナノチューブ含有組成物の分散液が、特許文献10には、エーテル化度が0.4以上0.7未満であるカルボキシメチルセルロースまたはその塩からなる分散剤および分散媒を含むカーボンナノチューブ含有組成物の分散液が提案されている。特許文献11には外径50nm以上110nm以下のカーボンナノチューブをカルボキシメチルセルロースナトリウムとともに水に分散し、二次電池用電極に用いることで、導電性を向上させる方法が記載されている。
【0007】
一般に、カーボンナノチューブの外径が小さくなるほど比表面積が大きくなることから、水への濡れ性が悪くなり、高濃度かつ良好な分散液を得るのが難しくなる。しかしながら、外径が小さく、比表面積が高いカーボンナノチューブほど理想的には効率的な導電ネットワークを形成させることができることから、外径が小さく、比表面積が高いカーボンナノチューブを良好に分散した分散液を得ることは急務であった。さらに、カーボンナノチューブの濃度が低い分散液では、活物質やバインダー等の材料を配合した際の設計自由度が低くなるといった問題や、カーボンナノチューブ固形分あたりの輸送コストが高くなるといった問題が生じる。したがって、外径が小さく、比表面積が高いカーボンナノチューブを高濃度に分散させることも求められた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2005-162877号公報
【文献】特開平4-155776号公報
【文献】特開平4-237971号公報
【文献】特開2004-178922号公報
【文献】特開2013-229163号公報
【文献】米国特許第8034485号
【文献】特開2011-70908号公報
【文献】特開2005-162877号公報
【文献】再表2014-002885号公報
【文献】特開2016-204203号公報
【文献】特開2016-028109号公報
【文献】J.Electrochem.Soc.2008,155,A812-A816
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
例えば、特許文献9および10に記載のカーボンナノチューブ含有組成物の分散液は、カーボンナノチューブを数質量%以上含有させることはできず、また、特許文献11に記載の分散液は、外径が小さく比表面積が高いカーボンナノチューブを分散させるには、分散性が不十分であった。さらに、高濃度のカーボンナノチューブ分散液は、保管中に凝集物や沈殿物を生じやすいため、貯蔵安定性も課題であった。沈降を防止するためには、分子量の高い分散剤を用いてカーボンナノチューブ分散液の粘度を高くする方法が有効であるが、塗工性が低下したり、ゲル化を生じやすくなるといった問題もあった。また、特許文献5記載の二次電池用負極の作製方法では、溶解したポリアクリル酸を二次電池電極用組成物に添加する方法やシリコン系活物質表面への被覆処理を行うことが推奨されているが、導電材としてCNTを使用する場合、この手法を用いても、ポリアクリル酸の不均一分
布が発生してしまう問題があった。
【0010】
また、本発明者らが検討したところによると、微粒子化し、表面に炭素被膜を形成させたシリコン系活物質やリン酸鉄リチウム等の活物質は、上記のカーボンナノチューブと同様の理由で、水を分散媒として高濃度かつ良好な分散状態を得ることは難しいことがわかった。したがって、各種活物質はもちろんのこと、とりわけ、微粒子化し、表面に炭素被膜を形成させたシリコン系活物質やリン酸鉄リチウム等の活物質と、カーボンナノチューブとを組み合わせた場合に、特に良好な分散状態を得ることが難しく、結果として優れたレート特性およびサイクル特性を有する二次電池を得ることも難しいことが判明した。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、導電性の高い電極膜を得るために、高濃度かつ高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液、および二次電池電極用組成物を提供することである。さらに詳しくは、優れたレート特性およびサイクル特性を有する非水電解質二次電池を提供することである。
【0012】
そこで、本発明の実施形態は、高濃度かつ高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液を提供することを課題とする。また、本発明の実施形態は、二次電池電極用組成物を提供することを課題とする。さらに、本発明の実施形態は、二次電池の出力およびサイクル寿命を向上できる電極膜、および高い出力かつ良好なサイクル寿命を有する二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らが鋭意検討したところによると、特定の重量平均分子量とエーテル化度を有するカルボキシメチルセルロースまたはその塩と、カーボンナノチューブとを、複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下となるように分散することによって、カーボンナノチューブを水に良好に分散でき、かつ、少ない添加量で良好な導電ネットワークを維持させることが可能になった。これにより、二次電池のレート特性およびサイクル寿命を向上させることが可能となった。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の実施形態を含む。
カーボンナノチューブ、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、および水を含有するカーボンナノチューブ分散液であって、
前記カルボキシメチルセルロースまたはその塩が、重量平均分子量が1万~10万、エーテル化度が0.5~0.9であり、
前記カーボンナノチューブ分散液の複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下である、
カーボンナノチューブ分散液。
【0015】
前記カーボンナノチューブの酸性基量が0.1~0.8μmol/mである、前記カーボンナノチューブ分散液。
【0016】
前記カーボンナノチューブの酸性基量が40~500μmol/gである、前記カーボンナノチューブ分散液。
【0017】
複素弾性率が50Pa以下、位相角が15°以上である、前記カーボンナノチューブ分散液。
【0018】
カーボンナノチューブが、平均外径が0.5nm以上5nm未満の第一のカーボンナノチューブと、平均外径が5nm以上20nm以下の第二のカーボンナノチューブとを含み、第一のカーボンナノチューブと第二のカーボンナノチューブの質量比率が1:10~1:
100である、前記カーボンナノチューブ分散液。
【0019】
さらに、ポリアクリル酸を含む、前記カーボンナノチューブ分散液。
【0020】
メジアン径が0.5μm以上2.0μm以下である、前記カーボンナノチューブ分散液。
【0021】
分散液のTI値が2.0~5.0である、前記カーボンナノチューブ分散液。
【0022】
カーボンナノチューブ分散液の塗膜が、60°で測定した光沢が5~120である、前記のカーボンナノチューブ分散液。
【0023】
pHが7.0~10.5である、前記カーボンナノチューブ分散液。
【0024】
前記カーボンナノチューブ分散液を含む、二次電池電極用組成物。
【0025】
前記二次電池電極用組成物の塗工膜を含む、電極膜。
【0026】
前記電極膜を含む、二次電池。
【0027】
下記(1)および(2)の工程を順次行うことを特徴とする、前記カーボンナノチューブ分散液の製造方法。
(1)高圧ホモジナイザーを用いて、60~120MPaの圧力で分散し、メジアン径を4.0μm以下にする工程
(2)ビーズミルを用いて、位相角が、40°以上になるまで分散する工程
【発明の効果】
【0028】
本発明の実施形態によれば、高濃度かつ高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液および二次電池電極用組成物を提供することが可能である。また、本発明の実施形態によれば、二次電池の出力およびサイクル寿命を向上できる電極膜、および高い出力かつ良好なサイクル寿命を有する二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態であるカーボンナノチューブ、カルボキシメチルセルロースおよびその塩、カーボンナノチューブ分散液、二次電池電極用組成物、電極膜、および二次電池等について詳しく説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明には要旨を変更しない範囲において実施される実施形態も含まれる。
【0030】
本明細書において、カーボンナノチューブを「CNT」と表記することがある。カルボキシメチルセルロースを「CMC」と表記することがある。なお、本明細書では、カーボンナノチューブ分散液を単に「分散液」という場合がある。
【0031】
<カーボンナノチューブ>
カーボンナノチューブ(CNT)は、平面的なグラファイトを円筒状に巻いた形状であり、単層CNT、多層CNTを含み、これらが混在してもよい。単層CNTは一層のグラファイトが巻かれた構造を有する。多層CNTは、二又は三以上の層のグラファイトが巻かれた構造を有する。また、CNTの側壁はグラファイト構造でなくともよい。また、例えば、アモルファス構造を有する側壁を備えるCNTも本明細書ではCNTである。
【0032】
CNTの形状は限定されない。かかる形状としては、針状、円筒チューブ状、魚骨状(フィッシュボーン又はカップ積層型)、トランプ状(プレートレット)及びコイル状を含
む様々な形状が挙げられる。本実施形態においてCNTの形状は、中でも、針状、又は、円筒チューブ状であることが好ましい。CNTは、単独の形状、または2種以上の形状の組合せであってもよい。
【0033】
CNTの形態は、例えば、グラファイトウィスカー、フィラメンタスカーボン、グラファイトファイバー、極細炭素チューブ、カーボンチューブ、カーボンフィブリル、カーボンマイクロチューブ及びカーボンナノファイバー等が挙げられる。カーボンナノチューブは、これらの単独の形態又は二種以上を組み合わせられた形態を有していてもよい。
【0034】
CNTの酸性基量は、へキシルアミンの吸着量から逆滴定にて求めることができる。CNTは、へキシルアミンの吸着量より求めた酸性基量が、CNTのBET法で算出した表面積を基準として0.1μmol/m以上が好ましく、0.2μmol/m以上がより好ましい。また、0.8μmol/m以下が好ましく、0.7μmol/m以下がより好ましい。CNTは、へキシルアミンの吸着量より求めた酸性基量が、CNTの質量を基準として、40μmol/g以上が好ましく、50μmol/g以上がより好ましく、120μmol/g以上がさらに好ましい。また、500μmol/g以下が好ましく、250μmol/g以下がより好ましく、220μmol/g以下がさらに好ましい。CNTの酸性基量を上記範囲とすることで、本発明のCMCと分散媒である水との親和性バランスがよくなり、良好なCNT分散液を得ることができる。
【0035】
CNTの外径は1nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましい。また、30nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましく、13nm以下がさらに好ましい。なお、平均外径は、まず透過型電子顕微鏡によって、CNTを観測するとともに撮像する。次に観測写真において、任意の300個のCNTを選び、それぞれの外径を計測し、その平均値により算出することができる。
【0036】
CNTとして、平均外径が異なる2種以上のCNTを使用する場合、第一のCNTの平均外径は0.5nm以上、5nm未満であることが好ましく、1nm以上、5nm未満であることがより好ましい。第二のCNTの平均外径は5nm以上、30nm以下であることが好ましく、5nm以上、20nm以下であることがより好ましい。CNTの平均外径は、透過型電子顕微鏡(日本電子社製によって、CNTの形態観察を行い、短軸の長さを計測し、その数平均値により、算出することができる。
【0037】
CNTとして、平均外径が異なる2種以上のCNTを使用する場合、第一のCNTと第二のCNTの質量比率は1:10~1:100であることが好ましく、1:10~1:50であることがより好ましい。
外径の小さいCNTは、電極層において距離が離れた活物質間を導通することができ、また、充放電に伴う活物質の膨張収縮に追従しやすいため好ましい。また外径が大きいCNTは、距離が近い活物質間を導通することができ、かつ活物質との接触確率が高いため好ましい。
【0038】
CNTの比表面積は100m/g以上が好ましく、150m/g以上がより好ましく、200m/g以上がさらに好ましい。また、1200m/g以下が好ましく、1000m/g以下がより好ましい。CNTの比表面積は窒素吸着測定によるBET法で算出する。
【0039】
CNTの炭素純度はCNT中の炭素原子の含有率(質量%)で表される。炭素純度はCNT100質量%に対して、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、98質量%以上が特に好ましい。炭素純度を上記範囲にすることにより、不純物によってデンドライトが形成されショートが起こる等の不具
合を防ぐことができる。
【0040】
導電材として、さらにカーボンブラック、グラファイト等の炭素材料を1種または2種以上併用して用いてもよい。これらの導電材の中でも、分散剤の吸着性能の観点からカーボンブラックが好ましい。カーボンブラックは、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、中空カーボンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。また、カーボンブラックは、中性、酸性、塩基性のいずれでもよく、酸化処理されたカーボンブラックや、黒鉛化処理されたカーボンブラックを使用してもよい。
【0041】
CNTの含有量は、カーボンナノチューブ分散液の不揮発分中、0.2質量%以上が好ましく、0.4質量%以上がより好ましく、1質量%以上がより好ましい。また、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。上記範囲にすることで、沈降やゲル化を起こすことなく、CNTを良好に、かつ安定に存在させることができる。また、CNTの含有量は、CNTの比表面積、分散媒への親和性、分散剤の分散能等によって、適当な流動性または粘度のカーボンナノチューブ分散液が得られるように、適宜調整することが好ましい。
【0042】
<カルボキシメチルセルロースまたはその塩>
カルボキシメチルセルロース(CMC)またはその塩は、セルロースを原料として得られるアニオン系水溶性高分子である。CMCの重量平均分子量は1万以上が好ましい。また、10万以下が好ましく、7万以下がさらに好ましく、6万以下がより好ましく、3万以下が特に好ましい。重量平均分子量を上記範囲とすることで、CMCとCNTとの分子間力、および、CMCと水との分子間力のバランスがよくなり、良好に分散させ、状態を維持できる。また、CMCのエーテル化度は0.5以上か好ましく、0.6以上がより好ましい。また、0.9以下が好ましく、0.8以下がより好ましい。エーテル化度を上記範囲とすることで、水およびCNTに対して適度な親和性を持たせることができる。さらに、二次電池に用いた場合には、電池内で分散剤が電解液に溶解して電解液の粘度を増大させるなどの不具合を防ぐことができる。
【0043】
CMCまたはその塩の製造方法は特に限定はされず、一般的なCMCまたはその塩の製造方法により製造することができる。すなわち、セルロースにアルカリを反応させるマーセル化反応を行った後、得られたアルカリセルロースにエーテル化剤を添加してエーテル化反応を行うことで製造される。例えば、水と有機溶媒を含む混合溶媒を用いてマーセル化反応を行った後、モノクロロ酢酸を加えてエーテル化反応を行い、その後、過剰のアルカリを酸で中和した後、混合溶媒の除去、洗浄および乾燥を経て、粉砕する事により製造することができる。マーセル化反応の反応時間を長くすることでセルロース原料を低分子量化することができる。
【0044】
CMCの重量平均分子量は、プルラン換算の重量平均分子量で、10,000以上が好ましく、15,000以上がより好ましい。また、100,000以下が好ましく、60,000以下がより好ましく、30,000以下がさらに好ましい。適度な重量平均分子量を有するとCNTへの吸着性が向上し、分散体の安定性がより向上する。また、上記範囲を下回ると吸湿性が高くなり、膜強度が低下しやすくなる。上記範囲を上回ると水溶液中での水素結合により粘度が高くなり、CNTの仕込み性および機貯蔵安定性が低下する。また、上記範囲を上回ると、ノズル式の高圧ホモジナイザーなどの狭い流路を被分散液が通過するタイプの分散機を用いた場合、狭い流路への移送が困難になり、分散効率が低下する。
【0045】
市販のCMCは上記好ましい範囲よりも高分子量のものが多いため、酸性水溶液中で加
水分解反応することにより低分子量化して用いてもよい。加水分解させるCMCは、重量平均分子量が6万より大きく50万以下が好ましい。重量平均分子量が50万を超えると加水分解反応に時間がかかり、CMCの酸化分解物が多量に発生するため、精製が困難となる。酸性水溶液中での加水分解反応は、加熱、加圧して行うと短時間で反応が進む。反応時間、温度、pHを調整することで、CMCの分子量をコントロールすることができる。また、冷却してアルカリでpH7以上に中和することで反応を停止することができる。酸および塩基は、一般に入手しやすいものを用いることができる。
【0046】
CMCまたはその塩の含有量は、CNTの質量を基準として10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。また、100質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。上記範囲にすることで、二次電池用電極に用いた際の導電性を害することなくCNTを良好に、かつ安定に存在させることができる。また、塗加工性および貯蔵安定性の観点から、分散で用いたCMCよりも高分子量のCMCを加えてもよい。高分子量のCMCを加える場合、CNT分散液を製造した後、または分散工程の終盤で加えるのが好ましい。分散初期から加えると分散媒の粘度が高くなりすぎて撹拌効率が低下する、あるいは、CNTに対する吸着平衡が変化し分散性が低下するといった不具合が起こり得る。
【0047】
<分散媒>
分散媒は水であり、任意で、水溶性溶媒を含んでもよい。水溶性溶媒としては、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等が挙げられる。
【0048】
<カーボンナノチューブ分散液>
本発明のCNT分散液は、少なくともCNT、CMCまたはその塩、および水を含有する。本発明のカーボンナノチューブ分散液は、必要に応じて、分散剤、湿潤剤、消泡剤、界面活性剤、pH調整剤、濡れ浸透剤、酸化防止剤、防腐剤、防カビ剤、レベリング剤等、その他の添加剤、または水溶性分散媒、CNT以外の導電材、CMC以外の高分子成分を、本発明の目的を阻害しない範囲で適宜配合することができ、分散体作製前、分散時、分散後等、任意のタイミングで添加することが出来る。pH調整剤としてはポリアクリル酸を用いるのが好ましい。ポリアクリル酸は任意の重合度のものを用いることができ、任意のモノマーとの共重合体として用いてもよい。一般的に知られる合成方法にて製造してもよいし、市販品を購入して用いてもよい。
【0049】
pH調整剤としての、ポリアクリル酸の分子量については、特に限定されないが、重量平均分子量が5,000~100,000であることが好ましく、10,000~50,000であることがさらに好ましい。
【0050】
pH調整剤としての、ポリアクリル酸は、中和処理がされていないものを使用することが好ましい。ポリアクリル酸は、カルボキシル基の中和処理がなされることによって、対イオン凝縮という現象を発生し、水溶液粘度が著しく上昇する。水溶液粘度の上昇によって、 カーボンナノチューブ分散液のハンドリング性が悪化することに加え、以下に述べ
る電極用組成物作製時の水分を、乾燥工程を経ても微量ながら保持し、二次電池の性能に影響を及ぼす可能性がある。
【0051】
CNT分散液のpHは、7.0以上10.5以下が好ましく、9.0以上10.5以下が好ましい。pHが上記範囲を下回ると、CNT分散液がゲル化しやすくなる。pHが上記範囲を上回ると、電池内での各種原料および外装材等の腐食、またはバインダーのゲル化といった問題が生じやすくなる。pHは、一般的なpHメーターにより測定することが
できる。
【0052】
CNT分散液におけるCNTの分散性は、動的粘弾性測定による複素弾性率及び位相角で評価することができる。複素弾性率は、CNT分散液の硬さを示し、CNTの分散性が良好で、CNT分散液が低粘度であるほど小さくなる。しかし、カーボンナノチューブの繊維長が大きい場合、またはカーボンブラックのストラクチャー長が大きい場合には、導電材が媒体中で均一かつ安定に解れた状態であっても、導電材自体の構造粘性があるため、複素弾性率が高い数値となる場合がある。また、位相角は、CNT分散液に与えるひずみを正弦波とした場合の応力波の位相ズレを意味し、すなわち分散液の流れ易さを示している。純弾性体であれば、与えたひずみと同位相の正弦波となるため、位相角0°となる。一方で、純粘性体であれば90°進んだ応力波となる。一般的な粘弾性測定用試料では、位相角が0°より大きく90°より小さい正弦波となり、CNT分散液におけるCNTの分散性が良好であれば、位相角は純粘性体である90°に近づく。しかし、複素弾性率と同様に、導電材自体の構造粘性がある場合には、導電材が媒体中で均一かつ安定に解れた状態であっても、位相角が低い数値となる場合がある。
【0053】
CNT分散液の複素弾性率は、50Pa以下が好ましく、20Pa未満がより好ましく、10Pa以下がより好ましく、5Pa以下が更に好ましい。CNT分散液の複素弾性率は、0.01Pa以上が好ましく、0.05Pa以上がより好ましく、0.1Pa以上が更に好ましい。CNT分散液の位相角は、5°以上が好ましく、19°以上がより好ましく、30°以上が更に好ましく、45°以上が特に好ましい。CNT分散液の位相角は、
90°以下が好ましく、 85°以下がより好ましく、80°以下が更に好ましい。複素弾性率と位相角は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0054】
CNT分散液の複素弾性率および位相角は、CNT分散液におけるCNTの分散性と、CNT、CMC、およびその他樹脂成分の絡まり、またはこれらの分子間力等の影響によって決まることから、複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)を上記の好ましい範囲とし、かつ、これらの積(X×Y)が100以上1,500以下であると、分散安定性の優れたCNT分散液を得ることができ、さらに、優れた導電ネットワークを形成できることにより導電性が非常に良好な電極膜を得ることができる。また、重量平均分子量が1万~10万かつエーテル化度が0.5~0.9であるCMCは、それ自身の粘弾性が小さいが、CNT分散液とした場合の複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下であると、二次電池の電極組成物として使用される増粘剤やバインダーの役割を担うことができ、電極強度が向上し、電池性能が向上するものと思われる。また、複素弾性率が50Pa以下、位相角が15°以上であるとより好ましい。単にCNT分散液の粘度が低く(見かけ上の)分散性が良好であればよいのではなく、複素弾性率および位相角を、粘度等の従来の指標と組み合わせて分散状態を判断することが特に有効である。
【0055】
CNT分散液におけるCNTの分散性は、レーザー回折/散乱式の粒度分布計にて求めたメジアン径(μm)でも評価できる。レーザー回折/散乱式の粒度分布計にて求めたメジアン径(μm)では、粒子による散乱光強度分布により、CNT凝集粒子の粒子径を見積もることができる。メジアン径(μm)は0.5以上5.0以下が好ましく、0.5以上2.0以下がより好ましい。上記範囲とすることで適切な分散状態のCNT分散液を得ることができる。上記範囲を下回ると凝集した状態のCNTが存在し、また、上記範囲を上回ると微細に切断されたCNTが多数生じることから、効率的な導電ネットワークの形成が難しくなるおそれがある。メジアン径は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0056】
CNT分散液におけるCNTの分散性は、平滑なガラス基材の上に塗工し、焼き付け乾
燥させて得た塗膜の60°にて測定した光沢(すなわち、入射角に対して60°における反射光の強度)でも評価できる。例えば、CNT分散液を平滑なガラス基板上に1mL滴下し、No.7のバーコーターにて2cm/秒で塗工した後、140℃の熱風オーブンで10分間焼き付け、放冷して得た塗膜を、光沢計(BYK Gardner製光沢計 m
icrogross60°)を用い、端部を除く塗膜面内の3か所を無作為に選び、1回ずつ測定した平均値を60°における光沢とすることができる。塗膜に対して入射した光は、分散性が良好であるほど塗膜表面が平滑となるため、光沢が高くなる。逆に、分散性が悪いほど塗膜表面の凹凸によって光の散乱が起こるため、光沢が低くなる。60°における光沢は、実施例に記載の方法により測定することができる。光沢は5以上が好ましく、50以上がより好ましく、60以上がさらに好ましく、70以上が特に好ましい。また、120以下が好ましく、110以下がさらに好ましい。上記範囲とすることで適切な分散状態のCNT分散液を得ることができる。上記範囲を下回ると凝集した状態のCNTが存在し、また、上記範囲を上回ると微細に切断されたCNTが多数生じることから、効率的な導電ネットワークの形成が難しくなる。
【0057】
CNT分散液のTI値は、B型粘度計にて測定した60rpmにおける粘度(mPa・s)を、6rpmにおける粘度(mPa・s)で除した値から算出できる。TI値は2.0以上5.0以下が好ましい。TI値が高いほどCNT、CMC、その他樹脂成分の絡まり、またはこれらの分子間力等に起因する構造粘性が大きく、TI値が低いほど構造粘性が小さくなる。TI値を上記範囲とすることで、CNTやCMC、その他樹脂成分の絡まりを抑えつつ、これらの分子間力を適度に作用させることができる。
【0058】
本発明のカーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブの繊維長は、0.3~5μmであることが好ましく、0.5~3.5μmであることがより好ましい。
【0059】
<分散方法>
本発明のCNT分散液は、例えば、CNT、CMCまたはその塩、および水を、分散装置を使用して、分散処理を行い微細に分散して製造することが好ましい。なお、分散処理は、使用する材料の添加タイミングを任意に調整し、2回以上の多段階処理ができる。
【0060】
分散装置は、例えば、ニーダー、2本ロールミル、3本ロールミル、プラネタリーミキサー、ボールミル、横型サンドミル、縦型サンドミル、アニュラー型ビーズミル、アトライター、ハイシアミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等が挙げられる。特に、CNTの濡れを促進し、粗い粒子を解す観点から、分散の初期工程ではハイシアミキサーを用い、続いて、CNTの繊維長を保ったまま分散させる観点から、高圧ホモジナイザーを用いるのが最も好ましい。また、高圧ホモジナイザーで分散させたあと、さらにビーズミルにて分散させることで、繊維長を保ちつつ、分散状態を均一化させることができる。高圧ホモジナイザーを使用する際の圧力は60~150MPaが好ましく、60~120MPaであることがより好ましい。
【0061】
分散装置を用いた分散方式には、バッチ式分散、パス式分散、循環分散等があるが、いずれの方式でもよく、2つ以上の方式を組み合わせてもよい。バッチ式分散とは、配管などを用いずに、分散装置本体のみで分散を行う方法である。取扱いが簡易であるため、少量製造する場合に好ましい。パス式分散とは、分散装置本体に、配管を介して被分散液を供給するタンクと、被分散液を受けるタンクとを備え、分散装置本体を通過させる分散方式である。また、循環式分散とは、分散装置本体を通過した被分散液を、被分散液を供給するタンクに戻して、循環させながら分散を行う方式である。いずれも処理時間を長くするほど分散が進むため、目的の分散状態になるまでパス、あるいは循環を繰り返せばよく、タンクの大きさや処理時間を変更すれば処理量を増やすことができる。パス式分散は循環式分散と比較して分散状態を均一化させやすい点で好ましい。循環式分散はパス式分散と
比較して作業や製造設備が簡易である点で好ましい。分散工程は、凝集粒子の解砕、CNTの解れ、濡れ、安定化等が順次、あるいは同時に進行し、進行の仕方によって仕上がりの分散状態が異なることから、各分散工程における分散状態を各種評価方法を用いることにより管理することが好ましい。例えば、実施例に記載の方法で管理することができる。
【0062】
<二次電池電極用組成物>
本発明の二次電池電極用組成物は、少なくとも上記CNT分散液を含み、バインダー樹脂を含んでもよく、任意の成分をさらに混合してもよい。二次電池電極用組成物は水を含み、分散媒として例示した水溶性溶媒を任意に含んでもよい。
【0063】
<バインダー樹脂>
二次電池電極用組成物がバインダー樹脂をさらに含む場合、通常、塗料のバインダー樹脂として用いられるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、二次電池電極用組成物に用いるバインダー樹脂は、活物質、CNT、その他の導電材等の物質間を結合することができる樹脂であり、本明細書において、本発明のCNT分散液に含まれるCMCとは分子量、エーテル化度等が異なるCMCであってもよい。二次電池電極用組成物に用いるバインダー樹脂は、例えば、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルピロリドン等を構成単位として含む重合体または共重合体;ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂;セルロース樹脂;スチレン-ブタジエンゴム、フッ素ゴムのようなエラストマー;ポリアニリン、ポリアセチレンのような導電性樹脂等が挙げられる。また、これらの樹脂の変性体や混合物、および共重合体でも良い。これらの中でも、正極のバインダー樹脂として使用する場合は、体制面から分子内にフッ素原子を有する重合体または共重合体、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン等が好ましい。また、負極のバインダー樹脂として使用する場合は、密着性が良好なCMC(ただし、本発明のCNT分散液に含まれるCMCとは分子量、エーテル化度等が異なるCMC)、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸等が好ましい。
【0064】
二次電池電極用組成物に用いるバインダー樹脂の含有量は、二次電池電極用組成物の不揮発分中、0.5~30質量%が好ましく、0.5~25質量%がより好ましい。
【0065】
二次電池電極用組成物は、正極活物質または負極活物質を含んでもよい。本明細書では、正極活物質および負極活物質を、単に「活物質」という場合がある。活物質とは、電池反応の基となる材料のことである。活物質は、起電力から、正極活物質と負極活物質に分けられる。本明細書では、正極活物質または負極活物質を含む二次電池電極用組成物を、それぞれ「正極合材組成物」、「負極合材組成物」、または単に「合材組成物」という場合がある。合材組成物は、均一性および加工性を向上させるためにスラリー状であることが好ましい。合材組成物は、前記CNT分散液と活物質を少なくとも含有するか、または前記CNT分散液とバインダー樹脂と活物質とを少なくとも含有する。
【0066】
<正極活物質>
正極活物質は、特に限定されないが、例えば、二次電池用途は、リチウムイオンを可逆的にドーピングまたはインターカレーション可能な金属酸化物および金属硫化物等の金属化合物を使用することができる。例えば、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLiMnまたはLixMnO)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLiNiO)、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLiNi1-yCo)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例
えばLiMnCo1-y)、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(例えばLiNiCoMn1-y-z)、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えばLiMn2-yNi)等のリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物粉末(例えばLiFePO、LiFe1-yMnPO、LiCoPOなど)、酸化マンガン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、バナジウム酸化物(例えばV、V13)、酸化チタン等の遷移金属酸化物粉末、硫酸鉄(Fe(SO)、TiS、およびFeS等の遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。ただし、x、y、zは、数であり、0<x<1、0<y<1、0<z<1、0<y+z<1である。これら正極活物質は、1種または複数を組み合わせて使用することもできる。
【0067】
<負極活物質>
負極活物質は、特に限定されないが、例えば、リチウムイオンを可逆的にドーピングまたはインターカレーション可能な金属Li、またはその合金、スズ合金、シリコン合金負極、LiTiO、LiFe、LiFe、LiWO等の金属酸化物系、ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレン等の導電性高分子、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、樹脂焼成炭素材料を用いることができる。ただし、xは数であり、0<x<1である。これら負極活物質は、1種または複数を組み合わせて使用することもできる。特にシリコン合金負極を用いる場合、理論容量が大きい反面、体積膨張が極めて大きいため、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、樹脂焼成炭素材料等と組み合わせて用いるのが好ましい。
【0068】
合材組成物中のCNTの含有量は、CNTの含有量は、活物質の質量を基準として(活物質の質量を100質量%として)、0.01質量%以上であることが好ましく、0.02質量%以上であることがより好ましく、0.03質量%以上であることがさらに好ましい。また、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。
【0069】
合材組成物中の分散剤の含有量は、活物質の質量を基準として(活物質の質量を100質量%として)、0.01質量%以上であることが好ましく、0.02質量%以上であることがより好ましい。また、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0070】
合材組成物がバインダー樹脂を含有する場合、合材組成物中のバインダー樹脂の含有量は、活物質の質量を基準として(活物質の質量を100質量%として)、0.5質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。また、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0071】
合材組成物中の固形分量は、合材組成物の質量を基準として(合材組成物の質量を100質量%として)、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。また、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。
【0072】
合材組成物は、従来公知の様々な方法で作製することができる。例えば、CNT分散液に活物質を添加して作製する方法;CNT分散液に活物質を添加した後、バインダー樹脂を添加して作製する方法;CNT分散液にバインダー樹脂を添加した後、活物質を添加して作製する方法等が挙げられる。合材組成物を作製する方法としては、CNT分散液にバインダー樹脂を添加した後、活物質をさらに加えて分散させる処理を行う方法が好ましい。分散に使用される分散装置は特に限定されない。CNT分散液の説明において挙げた分
散手段を用いて合材組成物を得ることができる。したがって、合材組成物を作製する方法としては、CNT分散液にバインダー樹脂を添加することなく、電極活物質を加えて分散させる処理を行ってもよい。
【0073】
<電極膜>
電極膜は、前記CNT分散液を用いて形成した膜、前記二次電池電極用組成物を用いて形成した膜からなる群から選択される少なくとも1種を含む。電極膜は、さらに集電体を含んでもよい。電極膜は、例えば、集電体上に二次電池電極用組成物を塗工し、乾燥させることで得ることができ、集電体と膜とを含む。正極合材組成物を用いて形成した電極膜を、正極として使用することができる。負極合材組成物を用いて形成した電極膜を、負極として使用することができる。本明細書において、活物質を含む二次電池電極用組成物を用いて形成した膜を「電極合材層」という場合がある。
【0074】
前記電極膜の形成に用いられる集電体の材質および形状は特に限定されず、各種二次電池にあったものを適宜選択することができる。集電体の材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、またはステンレス等の導電性金属または合金が挙げられる。また、形状としては、一般的には平面状の箔が用いられるが、表面を粗面化した集電体、穴あき箔状の集電体、メッシュ状の集電体も使用できる。集電体の厚みは、0.5~30μm程度が好ましい。
【0075】
集電体上にCNT分散液または二次電池電極用組成物を塗工する方法としては、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法等を挙げることができる。乾燥方法としては、放置乾燥、または、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機等を用いる乾燥を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0076】
塗工後に、平版プレス、カレンダーロール等により圧延処理を行ってもよい。形成された膜の厚みは、例えば、1μm以上500μm以下であり、好ましくは10μm以上300μm以下である。
【0077】
CNT分散液または二次電池電極用組成物を用いて形成された膜は、電極合材層と集電体との密着性向上、または、電極膜の導電性を向上させるために、電極合材層の下地層として用いることも可能である。
【0078】
<二次電池>
二次電池は、正極と、負極と、電解質とを含み、正極及び負極からなる群から選択される少なくとも1つが、前記電極膜を含む。
【0079】
電解質としては、イオンが移動可能な従来公知の様々なものを使用することができる。例えば、LiBF、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、Li(CFSON、LiCSO、Li(CFSOC、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF、LiSCN、又はLiBPh(ただし、Phはフェニル基である)等リチウム塩を含むものが挙げられるが、これらに限定されない。電解質は非水系の溶媒に溶解して、電解液として使用することが好ましい。
【0080】
非水系の溶媒としては、特に限定はされないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカー
ボネート、及びジエチルカーボネート等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、及びγ-オクタノイックラクトン等のラクトン類;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,2-メトキシエタン、1,2-エトキシエタン、及び1,2-ジブトキシエタン等のグライム類;メチルフォルメート、メチルアセテート、及びメチルプロピオネート等のエステル類;ジメチルスルホキシド、及びスルホラン等のスルホキシド類;並びに、アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。これらの溶媒は、それぞれ単独で使用してもよいが、2種以上を混合して使用してもよい。
【0081】
非水電解質二次電池は、セパレーターを含むことが好ましい。セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布及びこれらに親水性処理を施した不織布が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0082】
本実施形態の非水電解質二次電池の構造は特に限定されないが、通常、正極及び負極と、必要に応じて設けられるセパレーターとを備え、ペーパー型、円筒型、ボタン型、積層型等、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。
【実施例
【0083】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。
【0084】
(重量平均分子量(Mw)の測定方法)
製造したカルボキシメチルセルロースナトリウム塩の重量平均分子量(Mw)は、以下の条件にて、RI検出器を装備したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した。分子量はプルラン換算値である。
測定サンプル:0.1質量%水溶液
装置:HLC-8320GPC(東ソー製)
溶離液:0.1M NaCl水溶液
カラム:TSKgel SuperMultiporePW-M(東ソー製)
流速:1.0mL/min
温度:25℃
注入量:100μl
【0085】
(エーテル化度の測定方法)
カルボキシメチルセルロースナトリウム塩0.6gを105℃で4時間乾燥した。乾燥物の質量を精秤した後、ろ紙に包んで磁製ルツボ中で灰化した。灰化物を500mlビーカーに移し、水250mlおよび0.05mol/lの硫酸水溶液35mlを加えて30分間煮沸した。冷却後、過剰の酸を0.1mol/lの水酸化カリウム水溶液で逆滴定した。なお、指示薬としてフェノールフタレインを用いた。測定結果を用いて、下記(式1)よりエーテル化度を算出した。

(エーテル化度)=162×A/(10000-80A) (式1)

A=(af-bf)/乾燥物の重量(g)
A:試料1g中の結合アルカリに消費された0.05mol/lの硫酸水溶液の量(ml)
a:0.05mol/lの硫酸水溶液の使用量(ml)
f:0.05mol/lの硫酸水溶液の力価
b:0.1mol/lの水酸化カリウム水溶液の滴定量(ml)
:0.1mol/lの水酸化カリウム水溶液の力価
【0086】
(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の作製)
(製造例1)
家庭用ミキサーで粉砕した低密度パルプ10質量部を、プラネタリーミキサー(ハイビスディスパーミックス3D-2型、プライミクス製)のタンクに仕込んだ。続いて、15質量%の水酸化ナトリウム/IPA/水溶液(IPA:水の質量比は80:20)90質量部を前記タンクに投入し、40℃で150分間撹拌してマーセル化反応を行い、アルカリセルロースを得た。次いで、モノクロル酢酸10質量部を上記IPA/水溶液6質量部に溶解し、25℃に調整後、前記アルカリセルロースを35℃に維持したまま60分かけて添加した後、30分かけて80℃まで昇温し、80℃にて50分間エーテル化反応を行った。引き続き、50質量%の酢酸で中和し、pH7.0とした。
【0087】
前記中和物の固体成分をブフナー漏斗にて分離し、引き続きブフナー漏斗上で、70質量%メタノール水溶液をふりかけて洗浄し、副生物の食塩、グリコール酸ナトリウムおよび酢酸ナトリウムを除去した。ステンレス製の角型バットに移して90℃の熱風オーブンで4時間乾燥し、粉砕してカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(CMC1)を得た。得られたカルボキシメチルセルロースナトリウム塩の重量平均分子量およびエーテル化度は表1に示す通りであった。
【0088】
(製造例2、3)
マーセル化工程およびエーテル化工程の反応時間を表1に記載の時間に変更した以外は、製造例1と同様にして、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(CMC2、CMC3)を得た。得られたカルボキシメチルセルロースナトリウム塩の重量平均分子量およびエーテル化度は表1に示す通りだった。
【0089】
【表1】
【0090】
(CNTの酸性基量の測定方法)
CNTの酸性基量は、ヘキシルアミンの吸着量を逆滴定によって以下のように求め、算出した。CNT0.2gをガラス瓶(M-70、柏洋硝子製)に採取し、ヘキシルアミン/NMP溶液(0.02mol/l)を30ml加えた。ガラス瓶に超音波(周波数28Hz)を1時間照射し、目開き25μmのナイロンメッシュにて粗粒を除去した。さらに遠心分離機(ミニ遠心機MCF-1350(LMS製))にて10,000rpmで10分間遠心分離を行い、上澄みを採取し、メンブレンフィルター(フィルター孔径0.22μm)にてろ過を行い、ろ液を回収した。得られたろ液を10ml採取し、イオン交換水40mlで希釈して被滴定液とした。また、CNTとともに超音波処理を行っていないヘキシルアミン/NMP溶液(0.02mol/l)10mlをイオン交換水40mlで希釈し、標準被滴定液とした。被滴定液および標準被滴定液を、それぞれ、別途電位差自動滴定装置(AT-710S、京都電子工業製)を用いて0.1mol/lのHCl/エタノール溶液にて滴定し、等電点における滴定量の差異からCNTに吸着したヘキシルアミンの量([ヘキシルアミン吸着量](μmol))を算出した。
被滴定液は、ヘキシルアミン/NMP溶液30mlの内、10mlを採取しており、CN
T質量は0.2gなので、[へキシルアミン吸着量]に3を乗じて0.2で除した値が導電材単位重量あたりの[ヘキシルアミン吸着量](μmol/g)であり、さらにCNTの比表面積で除した値がCNT表面積あたりの[ヘキシルアミン吸着量](μmol/m)である。
【0091】
(CNTの比表面積測定方法)
CNTを電子天秤(sartorius社製、MSA225S100DI)を用いて、0.03g計量した後、110℃で15分間、脱気しながら乾燥させた。その後、全自動比表面積測定装置(MOUNTECH社製、HM-model1208)を用いて、CNTの比表面積(m/g)を測定した。
【0092】
(CNTのG/D比測定方法)
ラマン顕微鏡(XploRA、株式会社堀場製作所社製)にCNTを設置し、532nmのレーザー波長を用いて測定を行った。測定条件は取り込み時間60秒、積算回数2回、減光フィルタ10%、対物レンズの倍率20倍、コンフォーカスホール500、スリット幅100μm、測定波長は100~3000cm-1とした。測定用のCNTはスライドガラス上に分取し、スパチュラを用いて平坦化した。得られたピークの内、スペクトルで1560~1600cm-1の範囲内で最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内で最大ピーク強度をDとし、G/Dの比をCNTのG/D比とした。
【0093】
(分散粒度の測定方法)
分散粒度は、溝の最大深さ300μmのグラインドゲージを用い、JIS K5600-2-5に準ずる判定方法により求めた。
【0094】
(光沢の測定方法)
光沢測定用の試料は、CNT分散液を平滑なガラス基板上に1mL滴下し、No.7のバーコーターにて2cm/秒で塗工した後、140℃の熱風オーブンで10分間焼き付け、放冷して得た。塗工面積は約10cm×10cmとした。光沢計(BYK Gardne
r製光沢計 micro-gross60°)を用い、端部を除く塗膜面内の3か所を無作為に選び、1回ずつ測定して平均値を60°における光沢とした。
【0095】
(CNT分散液のメジアン径の粒度測定方法)
メジアン径は粒度分布測定装置(Partical LA-960V2、HORIBA製)を用いて測定した。循環/超音波の動作条件は、循環速度:3、超音波強度:7、超音波時間:1分、撹拌速度:1、撹拌モード:連続とした。また、空気抜き中は超音波強度7、超音波時間5秒で超音波作動を行った。水の屈折率は1.333、カーボン材料の屈折率は1.92とした。測定は、測定試料を赤色レーザーダイオードの透過率が60~80%となるように希釈した後行い、粒子径基準は体積とした。
【0096】
(CNT分散液の粘度測定方法)
CNT分散液の粘度は、B型粘度計(東機産業製「BL」)を用いて、分散体温度25℃にて、分散体をヘラで充分に撹拌した後、直ちにB型粘度計ローター回転速度6rpmにて測定し、引き続き60rpmにて測定した。低粘度であるほど分散性が良好であり、高粘度であるほど分散性が不良である。得られた分散体が明らかに分離や沈降しているものは分散性不良とした。また、60rpmにおける粘度(mPa・s)を、6rpmにおける粘度(mPa・s)で除した値からTI値を求めた。CNT分散液の粘度は、500mPa・s未満が優良であり、500mPa・s以上2,000mPa・s未満が良、2,000mPa・s以上10,000mPa・s未満が不良、10,000mPa・s以上、沈降または分離が極めて不良である。
【0097】
(CNT分散液の複素弾性率及び位相角の測定)
CNT分散液の複素弾性率X及び位相角Yは、直径35mm、2°のコーンにてレオメーター(Thermo Fisher Scientific株式会社製RheoStress1回転式レオメーター)を用い、25℃、周波数1Hzにて、ひずみ率0.01%から5%の範囲で動的粘弾性測定を実施することで評価した。得られた複素弾性率が小さいほど分散性が良好であり、大きいほど分散性が不良である。また、得られた位相角が大きいほど分散性が良好であり、小さいほど分散性が不良である。さらに、得られた複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)を算出した
【0098】
(CNT分散液のpH測定方法)
CNT分散液のpHは、25℃にて、卓上型pHメーター(セブンコンパクトS220
Expert Pro、メトラー・トレド製)を用いて、測定した。
【0099】
(CNT分散液の安定性評価方法)
貯蔵安定性の評価は、分散体を50℃にて7日間静置して保存した後の粘度を測定した。測定方法は初期粘度と同様の方法で測定した。
判定基準
◎:初期同等(優良)
○:粘度がやや変化した(良)
△:粘度は上昇しているがゲル化はしていない(不良)
×:ゲル化している(極めて不良)
【0100】
(CNT分散液の作製)
(実施例1-A1)
ステンレス容器にイオン交換水93.7質量部を加えて、ディスパーで撹拌しながら、APP-84(CMC)を1.25質量部添加し、溶解した。その後、10B(CNT)を2.0質量部とり、ディスパーで撹拌しながら添加して、ハイシアミキサー(L5M-A、SILVERSON製)に角穴ハイシアスクリーンを装着し、8,600rpmの速度で全体が均一になり、グラインドゲージにて分散粒度が250μm以下になるまでバッチ式分散を行った。このとき、グラインドゲージにて確認した分散粒度は180μmであった。続いて、ステンレス容器から、配管を介して高圧ホモジナイザー(スターバーストラボHJP-17007、スギノマシン製)に被分散液を供給し、循環式分散処理を行った。分散処理はシングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.25mm、圧力100MPaにて行った。被分散液のB型粘度計(TOKI SANGYO製、VISCOMETER、MODEL:BL)で測定した60rpmにおける粘度が3,000mPa・s以下となるまで分散した後、ディスパーで撹拌しながら、ステンレス容器に0.5質量部の10Bをさらに添加し、再び高圧ホモジナイザーにより循環式分散処理を行った。高圧ホモジナイザーにより粘度が3,000mPa・s以下となるまで循環式分散した後に、
ディスパーで撹拌しながらステンレス容器に10Bを追加する作業を、合計で6回繰り返した(10Bの合計添加量は5.0質量部である)。引き続き、高圧ホモジナイザーにて10回パス式分散処理を行い、5.0質量部のCNTを含むCNT分散液(CNT分散液A1)を得た。
【0101】
(実施例1-A2、1-A3)
パス式分散の回数を、それぞれ20回、30回に変更した以外は、実施例1-A1と同様にしてCNT分散液(CNT分散液A2、A3)を得た。
【0102】
(実施例1-A4~1-A12、1-A17~1-A20)
表3に示す材料、組成比、パス式分散の回数に変更した以外は、実施例1-1Aと同様にしてCNT分散液(CNT分散液A4~A20)を得た。
【0103】
(比較例1-a1~1-a14)
表4に示す材料、組成比、パス式分散の回数に変更した以外は、実施例1-1Aと同様にしてCNT分散液(CNT分散液a1~a14)を得た。
【0104】
(実施例1-A13)
実施例1-A3で得たCNT分散液(CNT分散液A3)をステンレス容器にとり、ディスパーで撹拌しながら、PAAを0.004質量部となるように加え、5.0質量部のCNTを含むCNT分散液(CNT分散液A13)を得た。CNT分散液A13のpHは7.5であった。
【0105】
(実施例1-A14)
PAAをAC-10Pに変更した以外は、実施例1-A13と同様の方法により、CNT分散液(CNT分散液A14)を得た。CNT分散液A14のpHは7.1であった。
【0106】
(実施例1-A15)
PAAをAC-10LPに変更した以外は、実施例1-A13と同様の方法により、CNT分散液(CNT分散液A15)を得た。CNT分散液A15のpHは7.0であった。
【0107】
(実施例1-A16)
PAAをHL415に変更した以外は、実施例1-A13と同様の方法により、CNT分散液(CNT分散液A16)を得た。CNT分散液A16のpHは7.5であった。
【0108】
(実施例1-A21)
ステンレス容器にイオン交換水98.05質量部を加えて、ディスパーで撹拌しながら、APP-084(CMC)を0.45質量部添加し、溶解した。その後、TNSR(CNT)0.115質量部、10B(CNT)を1.385質量部とり、ディスパーで撹拌しながら添加して、ハイシアミキサー(L5M-A、SILVERSON製)に角穴ハイシアスクリーンを装着し、8,600rpmの速度で全体が均一になり、グラインドゲージにて分散粒度が250μm以下になるまでバッチ式分散を行った。続いて、ステンレス容器から、配管を介して高圧ホモジナイザー(スターバーストラボHJP-17007、スギノマシン製)に被分散液を供給し、パス式分散処理を20回行った。分散処理はシングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.25mm、圧力100MPaにて行い、1.5質量部のCNTを含むCNT分散液(CNT分散液A21)を得た。TNSRと10BのCNT質量比率は、1:12であった。
【0109】
(実施例1-A22)
イオン交換水添加量を98.05質量部から96.75質量部、APP-084添加量を0.45質量部から0.75質量部、10Bの添加量を1.385質量部から2.4質量部、TNSRの添加量を0.115質量部から0.1質量部に変更した以外は実施例1-A21と同様の方法により、2.5質量部のCNTを含むCNT分散液(CNT分散液A22)を得た。TNSRと10BのCNT質量比率は、1:24であった。
【0110】
(実施例1-A23)
ステンレス容器にイオン交換水98.64質量部を加えて、ディスパーで撹拌しながら、APP-084(CMC)を0.56質量部添加し、溶解した。その後、TNSR(CNT)0.062質量部、6A(CNT)を0.738質量部とり、ディスパーで撹拌しながら添加して、ハイシアミキサー(L5M-A、SILVERSON製)に角穴ハイシアスクリーンを装着し、8,600rpmの速度で全体が均一になり、グラインドゲージにて分散粒度が250μm以下になるまでバッチ式分散を行った。続いて、ステンレス容器から、配管を介して高圧ホモジナイザー(スターバーストラボHJP-17007、スギノマシン製)に被分散液を供給し、パス式分散処理を20回行った。分散処理はシングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.25mm、圧力100MPaにて行い、1.0質量部のCNTを含むCNT分散液(CNT分散液A23)を得た。TNSRと6AのCNT質量比率は、1:12であった。
【0111】
(実施例1-A24)
イオン交換水添加量を98.64質量部から98.3質量部、APP-084添加量を0.56質量部から0.70質量部、6Aの添加量を0.738質量部から0.96質量部、TNSRの添加量を0.062質量部から0.04質量部に変更した以外は実施例1-A23と同様の方法により、2.5質量部のCNTを含むCNT分散液(CNT分散液A24)を得た。TNSRと6AのCNT質量比率は、1:24であった。
【0112】
(実施例1-A25)
イオン交換水添加量を98.64質量部から98.13質量部、APP-084添加量を0.56質量部から0.77質量部、6Aの添加量を0.738質量部から1.08質量部、TNSRの添加量を0.062質量部から0.02質量部に変更した以外は実施例1-A23と同様の方法により、1.1質量部のCNTを含むCNT分散液(CNT分散液A25)を得た。TNSRと6AのCNT質量比率は、1:48であった。
【0113】
(比較例1-a15)
実施例1-A3で得たCNT分散液(CNT分散液A3)をステンレス容器にとり、ディスパーで撹拌しながら、PAAをCNTの質量を基準として、0.04質量部となるように加え、5.0質量部のCNTを含むCNT分散液(CNT分散液a15)を得た。CNT分散液c1のpHは5.5であった。
【0114】
(比較例1-a16~1-a17)
表4に示す材料、組成比、パス式分散の回数に変更した以外は、実施例1-1Aと同様にして分散液(分散液a1、a2)を得た。
【0115】
(実施例1-B1~1-B3)
実施例1-A1~1-A3で得たCNT分散液(CNT分散液A1~A3)をガラス瓶(M-140、柏洋硝子製)に80質量部とり、ジルコニアビーズ(ビーズ径1.0mmφ)140質量部を仕込み、レッドデビル製ペイントコンディショナーを用いて2時間分散処理を行った後、ジルコニアビーズを分離して、CNT分散液(CNT分散液B1~B3)を得た。
【0116】
(実施例1-B4)
実施例1-A3で得たCNT分散液(CNT分散液A3)をガラス瓶(M-140、柏洋硝子製)に80質量部とり、MAC500LCを0.012質量部、ジルコニアビーズ(ビーズ径1.0mmφ)140質量部を仕込み、レッドデビル製ペイントコンディショナーを用いて5時間分散処理を行った後、ジルコニアビーズを分離して、CNT分散液(CNT分散液B4)を得た。
【0117】
(実施例1-C1~1-C3)
実施例1-A1~1-A3で得たCNT分散液(CNT分散液A1~A3)をステンレス容器にとり、ディスパーで撹拌しながらイオン交換水で希釈し、2.0質量部のCNTを含むCNT分散液(CNT分散液C1~C3)を得た。
【0118】
(実施例1-D1~1-D3)
ガラス瓶(M-140、柏洋硝子製)に、10B(CNT)を2.0質量部、APP-84(CMC)を0.5質量部、イオン交換水を97.6質量部、およびジルコニアビーズ(ビーズ径0.5mmφ)140部を仕込み、レッドデビル製ペイントコンディショナーを用いて4時間分散処理を行った後、ジルコニアビーズを分離して、CNT分散液(CNT分散液D1~D3)を得た。
【0119】
(比較例1-d1~1-d3)
表4に示す材料に変更した以外、実施例1-D1と同様にして、CNT分散液(CNT分散液d1~d3)を得た。
【0120】
・10B:JENOTUBE10B(JEIO製、多層CNT、外径7~12nm、平均外径8.8nm、比表面積230m/g、酸性基量0.67μmol/m、154μmol/g、G/D比0.80)
・6A:JENOTUBE6A(JEIO製、多層CNT、外径5~7nm、平均外径6.9nm、比表面積700m/g、酸性基量0.27μmol/m、190μmol/g、G/D比0.80)
・TUBALL1:シングルウォールカーボンナノチューブ(OCSiAl製、外径1.3~2.3nm、平均外径1.8nm、純度80%、比表面積490m/g、酸性基量0.38μmol/m、186μmol/g、G/D比39.1)
・TUBALL2:シングルウォールカーボンナノチューブ(OCSiAl製、外径1.2~2.0nm、平均外径1.5nm、純度93%、比表面積975m/g、酸性基量0.21μmol/m、205μmol/g、G/D比41.7)
・TNSR:シングルウォールカーボンナノチューブ(Timesnano社製、外径1.0~2.0nm、平均外径1.6nm、比表面積610m/g、酸性基量0.79μmol/m、480μmol/g、G/D比27.8)
・TNSAR:シングルウォールカーボンナノチューブ(Timesnano社製、外径1.0~2.0nm、平均外径1.3nm、比表面積950m/g、酸性基量0.31μmol/m、290μmol/g、G/D比36.4)
・EC-300J:ケッチェンブラック(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ製、平均一次粒子径40nm、比表面積800m2/g、酸性基量0.27μmol/m、2
19μmol/g)
・HS-100:デンカブラックHS-100(デンカ製、アセチレンブラック、平均一次粒子径48nm、比表面積39m2/g、酸性基量0.21μmol/m、205μ
mol/g)
・APP-84:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、日本製紙製、サンローズA
APP-84
・F01MC:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、日本製紙製、サンローズF
F01MC
・F04HC:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、日本製紙製、サンローズF F04MC
・A02SH:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、日本製紙製、サンローズA A02SH
・F10LC:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、日本製紙製、サンローズF F10LC
・F10MC:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、日本製紙製、サンローズF F10MC
・F30MC:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、日本製紙製、サンローズF F30MC
・MAC500LC:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、日本製紙製、サンローズ特殊タイプ MAC500LC
・セロゲン5A:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、第一工業製薬製
・セロゲン6A:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、第一工業製薬製
・PAA:ポリアクリル酸、和光純薬工業製、平均分子量25,000
・AC-10P:ポリアクリル酸、東亜合成製、平均分子量9,000
・AC-10LP:ポリアクリル酸、東亜合成製、平均分子量50,000
・HL415:ポリアクリル酸、日本触媒社製、アクアリック、平均分子量10,000、NV45%
【0121】
なお、実施例および比較例で用いたカルボキシメチルセルロースまたはその塩の、重量平均分子量およびエーテル化度は表2に示す通りであった。重量平均分子量およびエーテル化度は、製造例と同じ測定方法にて算出した。
【0122】
【表2】

【0123】
【表3】
【0124】
【表4】
【0125】
(負極合材組成物および負極の作製)
(実施例2-A1)
容量150cmのプラスチック容器にCNT分散液(CNT分散液A1)と、MAC500LC(CMC)と、水とを加えた後、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌した。その後、負極活物質として人造黒鉛、シリコンを添加し、前記の自転・公転ミキサーを用いて、2,000rpmで150秒間撹拌した。さらにその後、SBRを加えて、前記の自転・公転ミキサーを用いて、2,000rpmで30秒間撹拌し、負極合材組成物を得た。負極合材組成物の不揮発分は48質量%とした。負極合材組成物の不揮発分の内、人造黒鉛:シリコン:CNT:CMC(MAC500LC):SBRの不揮発分比率は87:10:0.5:1:1.5とした。
【0126】
得られた負極合材組成物を、アプリケーターを用いて、厚さ20μmの銅箔上に塗工して後、電気オーブン中で120℃±5℃で25分間、塗膜を乾燥させて電極膜を作製した。その後、電極膜をロールプレス(サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行って、負極(負極A1)を得た。なお、合材層の単位当たりの目付量は10mg/cmであり、圧延処理後の合材層の密度は1.6g/ccであった。
【0127】
・シリコン:一酸化珪素(大阪チタニウムテクノロジー社製、SILICON MONOOXIDE SiO 1.3C 5μm、不揮発分100%)
・人造黒鉛:CGB-20(日本黒鉛工業製、不揮発分100%)
・MAC500LC:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、サンローズ特殊タイプ
MAC500LC(日本製紙製、不揮発分100%)
・SBR:スチレンブタジエンゴムTRD2001(JSR製、不揮発分48%)
【0128】
(実施例2-A2~2-A25、2-B1~2-B4、2-C1~2-C3、2-D1~2-D3、比較例2-a1~2-a17、2-d1~2-d3)
CNT分散液を、表5に示す各CNT分散液(CNT分散液A2~A25、CNT分散液B1~B4、CNT分散液C1~C3、CNT分散液D1~D3、CNT分散液a1~a15、分散液a1、a2、CNT分散液d1~d3)に変更した以外は、実施例2-A1と同様の方法により、それぞれ負極A2~A25、負極B1~B4、負極C1~C3、負極D1~D3、および負極a1~a17、負極d1~d3を得た。
【0129】
(負極の導電性評価方法)
得られた負極を、三菱化学アナリテック製:ロレスターGP、MCP-T610を用いて合材層の表面抵抗率(Ω/□)を測定した。測定後、合材層の厚みを乗算し、負極の体積抵抗率(Ω・cm)とした。合材層の厚みは、膜厚計(NIKON製、DIGIMICRO MH-15M)を用いて、電極中の3点を測定した平均値から、銅箔の膜厚を減算
し、負極の体積抵抗率(Ω・cm)とした。
判定基準
◎:0.3Ω・cm未満(優良)
○:0.3Ω・cm以上0.5Ω・cm未満(良)
×:0.5Ω・cm以上(不良)
【0130】
(負極の密着性評価方法)
得られた負極を、塗工方向を長軸として90mm×20mmの長方形に2本カットした。剥離強度の測定には卓上型引張試験機(東洋精機製作所製、ストログラフE3)を用い、180度剥離試験法により評価した。具体的には、100mm×30mmサイズの両面テ
ープ(No.5000NS、ニトムズ製)をステンレス板上に貼り付け、作製した負極の合材層側を両面テープのもう一方の面に密着させ試験用試料とした。次いで、試験用試料を長方形の短辺が上下にくるように垂直に固定し、一定速度(50mm/分)で銅箔の末端を下方から上方に引っ張りながら剥離し、このときの応力の平均値を剥離強度とした。判定基準
◎:0.5N/cm以上(優良)
○:0.1N/cm以上0.5N/cm未満(良)
×:0.1N/cm未満(不良)
【0131】
【表5】
【0132】
本発明のCNT分散液を用いた負極は、いずれも導電性および密着性が良好であった。本発明の構成要件を満たすことで、分散剤を効果的に作用させることができたことによると思われる。さらに、実施例で用いた、炭素被覆された微細なシリコン系活物質の炭素層は、本発明の酸性基量が特定の範囲であるCNTと表面状態が類似していること、および、シリコン系活物質は水中で表面が負に帯電することから、CNT分散液と特に優れた相互作用をなし、乾燥させた電極膜中でも良好な材料分布状態を形成した結果と思われる。
【0133】
(正極用合材組成物および正極の作製)
(実施例3-A1)
容量150cmのプラスチック容器にCNT分散液(CNT分散液A1)と、MAC500LCと、水とを加えた後、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌し、その後、正極活物質としてLFPを添加し、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで150秒間撹拌した。さらにその後、PTFEを添加し、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌し、正極用合材組成物を得た。正極用合材組成物の不揮発分は75質量%とした。正極用合材組成物の不揮発分の内、LFP:導電材:PTFE:MAC500LCの不揮発分比率は97:0.5:1:1.5とした。
【0134】
正極合材組成物を、アプリケーターを用いて、厚さ20μmのアルミ箔上に塗工した後、電気オーブン中で120℃±5℃で25分間乾燥し、電極膜を作製した。その後、電極膜をロールプレス(サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、正極(正極1)を得た。なお、合材層の単位当たりの目付量が20mg/cmであり、圧延処理後の合材層の密度は2.1g/ccであった。
【0135】
・LFP:リン酸鉄リチウム HED(商標)LFP-400(BASF製、不揮発分100%)
・PTFE:ポリテトラフルオロエチレン ポリフロン PTFE D-210C(ダイキン製、不揮発分60%)
・MAC500LC:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、サンローズ特殊タイプ
MAC500LC(日本製紙製、不揮発分100%)
【0136】
(実施例3-A2~3-A25、3-B1~3-B3、3-C1~3-C3、3-D1~3-D3、比較例3-a1~3-a16、3-d1~3-d3)
CNT分散液を、表6に示す各CNT分散液(CNT分散液A2~A25、CNT分散液B1~B3、CNT分散液C1~C3、CNT分散液D1~D3、CNT分散液a1~a14、分散液a1、a2、CNT分散液d1~d3)に変更した以外は、実施例3-A1と同様の方法により、それぞれ正極A2~A25、正極B1~B3、正極C1~C3、正極D1~D3、および正極a1~a16、正極d1~d3を得た。
【0137】
(正極の導電性評価方法)
得られた正極を、銅箔の替わりにアルミ箔とした以外は負極と同様の方法で導電性評価した。
判定基準
◎:10Ω・cm未満(優良)
〇:10Ω・cm以上20Ω・cm未満(良)
×:20Ω・cm以上を(不良)
【0138】
(正極の密着性評価方法)
得られた正極を、銅箔の替わりにアルミ箔とした以外は負極と同様の方法で密着性評価した。
判定基準
◎:1N/cm以上(優良)
○:0.5N/cm以上1N/cm未満(良)
×:0.5N/cm未満(不良)
【0139】
【表6】
【0140】
本発明のCNT分散液を用いた正極は、いずれも導電性および密着性が良好であった。負極と同様に、本発明の構成要件を満たすことで、分散剤を効果的に作用させることができたことによると思われる。さらに、シリコン系活物質の場合と同様に、実施例で用いた炭素被覆された微細なリン酸鉄リチウムの炭素層は、本発明の酸性基量が特定の範囲であるCNTと表面状態が類似していること、および、リン酸鉄リチウムは水中で表面が負に帯電することから、CNT分散液と特に優れた相互作用をなし、乾燥させた電極膜中でも良好な材料分布状態を形成した結果と思われる。
【0141】
(標準正極の作製)
正極活物質としてLFP(HED(商標)LFP-400、BASF製、不揮発分100%)92質量部、アセチレンブラック(デンカブラック(登録商標)HS‐100、デンカ製、不揮発分100%)4質量部、MAC500LC(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩 サンローズ特殊タイプ MAC500L、日本製紙製、不揮発分100%)1.6質量部を容量150mlのプラスチック容器に加えた後、ヘラを用いて粉末が均一になるまで混合した。その後、水を25質量部添加し、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌した。その後、プラスチック容器内の混合物をヘラを用いて、均一になるまで混合し、前記の自転・公転ミキサーを用いて、PTFE(ダイキン製、不揮発分60質量%)4質量部を加え、2,000rpmで30秒間撹拌した。さらにその後、水を11.2質量部添加し、前記の自転・公転ミキサーを用いて、2,000rpmで30秒間撹拌した。最後に、高速攪拌機を用いて、3,000rpmで10分間撹拌し、標準正極用合材組成物を得た。標準正極用合材組成物の不揮発分は79質量%とした。
【0142】
上述の標準正極用合材組成物を集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にアプリケーターを用いて塗工した後、電気オーブン中で120℃±5℃で25分間乾燥して電極の単位面積当たりの目付量が20mg/cmとなるように調整した。さらにロールプレス(サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、合材層の密度が2.1g/cmとなる標準正極を作製した。
【0143】
(標準負極の作製)
容量150mlのプラスチック容器にアセチレンブラック(デンカブラック(登録商標)HS‐100、デンカ製)0.5質量部と、MAC500LC(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩 サンローズ特殊タイプ MAC500L、日本製紙製、不揮発分100%)1質量部と、水98.4質量部とを加えた後、自転・公転ミキサー(シンキー製
あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌した。さらに活物質として人造黒鉛(CGB-20、日本黒鉛工業製)を87質量部、シリコンを10質量部添加し、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで150秒間撹拌した。続いてSBR(TRD2001、JSR製)を3.1質量部加えて、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌し、標準負極用合材組成物を得た。標準負極用合材組成物の不揮発分は50質量%とした。
【0144】
上述の標準負極用合材組成物を集電体となる厚さ20μmの銅箔上にアプリケーターを用いて塗工した後、電気オーブン中で80℃±5℃で25分間乾燥して電極の単位面積当たりの目付量が10mg/cmとなるように調整した。さらにロールプレス(サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、合材層の密度が1.6g/cmとなる標準負極を作製した。
【0145】
(実施例4-A1~4-A25、4-B1~4-B4、4-C1~4-C3、4-D1~4-D3、比較例4-a1~4-a17、4-d1~4-d3)
(実施例5-A1~5-A25、5-B1~5-B4、5-C1~5-C3、5-D1~5-D3、比較例5-a1~5-a17、5-d1~5-d3)
(二次電池の作製)
表7および表8に記載した負極および正極を使用して、各々50mm×45mm、45mm×40mmに打ち抜き、その間に挿入されるセパレーター(多孔質ポリプロプレンフィルム)とをアルミ製ラミネート袋に挿入し、電気オーブン中、70℃で1時間乾燥した。その後、アルゴンガスで満たされたグローブボックス内で、電解液(エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートを体積比1:1:1の割合で混合した混合溶媒を作製し、さらに添加剤として、ビニレンカーボネートを100質量部に対して1質量部加えた後、LiPFを1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を2mL注入した後、アルミ製ラミネートを封口して二次電池をそれぞれ作製した。
【0146】
(二次電池のレート特性評価方法)
得られた二次電池を25℃の恒温室内に設置し、充放電装置(北斗電工製、SM-8)を用いて充放電測定を行った。充電電流10mA(0.2C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流1mA(0.02C))を行った後、放電電流10mA(0.2C)にて、放電終止電圧3Vで定電流放電を行った。この操作を3回繰り返した後、充電電流10mA(0.2C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流(1mA0.02C))を行い、放電電流0.2Cおよび3Cで放電終止電圧3.0Vに達するまで定電流放電を行って、それぞれ放電容量を求めた。レート特性は0.2C放電容量と3C放電容量の比、以下の数式1で表すことができる。

(数式1) レート特性 = 3C放電容量/3回目の0.2C放電容量 ×100 (%)

判定基準
◎:80%以上(優良)
○:60%以上80%未満(良)
×:60%未満(不良)
【0147】
(二次電池のサイクル特性評価方法)
得られた二次電池を25℃の恒温室内に設置し、充放電装置(北斗電工製、SM-8)を用いて充放電測定を行った。充電電流25mA(0.5C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流2.5mA(0.05C))を行った後、放電電流25mA(0.5C)にて、放電終止電圧3Vで定電流放電を行った。この操作を200回繰り返した。サイクル特性は25℃における3回目の0.5C放電容量と200回目の0.5C放電容量の比、以下の数式2で表すことができる。

(数式2)サイクル特性 = 3回目の0.5C放電容量/200回目の0.5C放電容量×100(%)

判定基準
◎:85%以上(優良)
○:80%以上85%未満(良)
×:80%未満(不良)
【0148】
【表7】
【0149】
【表8】
【0150】
本発明の分散体を用いた上記実施例では、比較例に比べてサイクル特性に優れた非水電解質二次電池が得られた。よって、本発明は従来のCNT分散液では実現しがたいサイクル特性を有する非水電解質二次電池を提供できることが明らかとなった。