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特許7204078主鎖および側鎖に単分散ポリエチレングリコールを有するヘテロ二官能性化合物
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  • 特許-主鎖および側鎖に単分散ポリエチレングリコールを有するヘテロ二官能性化合物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】主鎖および側鎖に単分散ポリエチレングリコールを有するヘテロ二官能性化合物
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/32 20060101AFI20230106BHJP
   C08G 65/333 20060101ALI20230106BHJP
   C08G 65/331 20060101ALI20230106BHJP
   C08G 65/334 20060101ALI20230106BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230106BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230106BHJP
【FI】
C08G65/32
C08G65/333
C08G65/331
C08G65/334
A61K39/395 L
A61K39/395 C
A61K47/68
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019043406
(22)【出願日】2019-03-11
(65)【公開番号】P2019157128
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2018044992
(32)【優先日】2018-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】義村 耕平
(72)【発明者】
【氏名】粒崎 拓真
(72)【発明者】
【氏名】羽村 美華
(72)【発明者】
【氏名】松野 佑紀
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-523943(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0225789(US,A1)
【文献】特開2011-225860(JP,A)
【文献】特開2013-075975(JP,A)
【文献】特表2009-503201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G65/00-67/04
A61K 9/00- 9/72
A61K47/00-47/69
A61K39/00-39/44
A61K49/00-51/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示されるポリエチレングリコールからなり、特定のエチレングリコール鎖長を有するポリエチレングリコールの純度が90%以上である、ヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコール。

【化1】
(式(1)中、
X1およびY1はそれぞれ生体機能性分子に存在する官能基と反応して共有結合を形成する官能基を少なくとも含む原子団であり、原子団X1が含む前記官能基と原子団Y1が含む前記官能基とは互いに異なる、
R1は炭素数1~7の炭化水素基または水素原子であり、
nは3~72の整数であり、
lは2~72の整数であり、
A1、-NHC(O)-(CH 2 ) m1 -、-CH 2 -NHC(O)-(CH 2 ) m2 -、-O-(CH 2 ) m1 -NHC(O)-(CH 2 ) m2 -または-C(O)NH-(CH 2 ) m1 -で表され(m1およびm2はそれぞれ独立して1~5の整数である)、
B1、-(CH 2 ) m3 -、-(CH 2 ) m3 -O-(CH 2 ) m4 -または-C(O)NH-(CH 2 ) m3 -NHC(O)-(CH 2 ) m4 -で表され(m3およびm4はそれぞれ独立して1~5の整数であり)、
C1は-L5-(CH2)m5-、-O-CH2-または単結合を表し、L5はアミド結合、ウレタン結合、2級アミノ基または単結合を表し、m5は1~5の整数を表す)
【請求項2】
式(1)におけるA1-NHC(O)-(CH 2 ) m1 -(m1は1~5の整数である)で表され、B1-(CH 2 ) m3 -または-(CH 2 ) m3 -O-(CH 2 ) m4 -(m3およびm4はそれぞれ独立して1~5の整数である)で表されることを特徴とする、請求項1記載のヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコール。
【請求項3】
式(1)におけるA1-CH 2 -NHC(O)-(CH 2 ) m2 -(m2は1~5の整数である)で表され、B1-CH 2 -または-CH 2 -O-(CH 2 ) m4 -(m4は1~5の整数である)で表されることを特徴とする、請求項1記載のヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコール。
【請求項4】
式(1)におけるA1-O-(CH 2 ) m1 -NHC(O)-(CH 2 ) m2 -(m1およびm2はそれぞれ独立して1~5の整数である)で表され、B1-CH 2 -または-CH 2 -O-(CH 2 ) m4 -(m4は1~5の整数である)で表されることを特徴とする、請求項1記載のヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコール。
【請求項5】
式(1)におけるA1-C(O)NH-(CH 2 ) m1 -(m1は1~5の整数である)で表され、B1-CH 2 -または-CH 2 -O-(CH 2 ) m4 -(m4は1~5の整数であり)で表されることを特徴とする、請求項1記載のヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコール。
【請求項6】
式(1)におけるA1-C(O)NH-(CH 2 ) m1 -(m1は1~5の整数である)で表され、B1-C(O)NH-(CH 2 ) m3 -NHC(O)-(CH 2 ) m4 -(m3およびm4は1~5の整数である)で表されることを特徴とする、請求項1記載のヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコール。
【請求項7】
式(1)におけるX1およびY1が、それぞれ独立して式(a)、式(b1)、式(b2)、式(c)、式(d)、式(e)、式(f)、式(g)、式(h)、式(i)、式(j)、式(k)、式(l)、式(m)、式(n)および式(o)からなる群から選択される、請求項1~6のいずれか一つの請求項に記載のヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコール。

【化2】
(式(d)中、R2は水素原子または炭素数1~5の炭化水素基であり、
式(e)中、R3は塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子から選択されるハロゲン原子であり、および
式(l)中、R4は水素原子または炭素数1~5の炭化水素基である。)
【請求項8】
式(2)で示される抗体-薬物複合体であって、前記抗体-薬物複合体を構成するヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールのうち特定のエチレングリコール鎖長を有するヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールの純度が90%以上である、抗体-薬物複合体。

【化3】
(式(2)中、
X2とY2との一方が抗体であり、他方が薬物であり、
R1は炭素数1~7の炭化水素基または水素原子であり、
nは3~72の整数であり、
lは2~72の整数であり、
A1、-NHC(O)-(CH 2 ) m1 -、-CH 2 -NHC(O)-(CH 2 ) m2 -、-O-(CH 2 ) m1 -NHC(O)-(CH 2 ) m2 -または-C(O)NH-(CH 2 ) m1 -で表され(m1およびm2はそれぞれ独立して1~5の整数である)、
B2、-(CH 2 ) m3 -、-(CH 2 ) m3 -O-(CH 2 ) m4 -または-C(O)NH-(CH 2 ) m3 -NHC(O)-(CH 2 ) m4 -で表され(m3およびm4はそれぞれ独立して1~5の整数であり)、および
C2は、-L5-(CH2)m5-L7-、-O-CH2-L7-または-L7-を表し、L5はアミド結合、ウレタン結合、2級アミノ基または単結合を表し、m5は1~5の整数を表し、L7はアミド結合、ウレタン結合、チオエーテル結合、ジスルフィド結合、カーボネート結合、エステル結合、エーテル結合、1H-1,2,3-トリアゾール-1,4-ジイル構造、2級アミノ基、ヒドラジド基、オキシアミド基もしくはこれらを含む炭化水素基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主鎖および側鎖に単分散ポリエチレングリコールを有し二つの異なる化学反応可能な官能基を有するヘテロ二官能性化合物に関する。より詳しくは、生理活性タンパク質、ペプチド、抗体、核酸および低分子薬物などの生体機能性分子、ドラッグデリバリーシステムにおける薬物キャリア、または診断用材料や医用デバイスなどの修飾に用いられ、特に抗体医薬の修飾に有用な主鎖および側鎖に単分散ポリエチレングリコールを有し二つの異なる化学反応可能な官能基を有するヘテロ二官能性化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体-薬物複合体(Antibody-Drug Conjugate; ADC)は、抗体に薬物を結合させ、抗体の抗原特異性を利用して薬剤を疾患部位に能動的に運搬することを目的とした抗体医薬であり、近年、ガン治療の分野で最も急速に成長している技術の一つである。ADCは抗体、薬物、そして抗体と薬物を結合させるリンカーの各部分から構成される。
【0003】
ADCに用いられる薬物は疎水性のものが多く、これら疎水性薬物を抗体に複数結合してADCを調製すると、薬物の疎水性に起因する凝集の発生や抗体の血中安定性の低下が問題となる。よって、抗体一つあたりに搭載可能な薬物の数に制約が生じ、結果としてADCの薬効が十分に得られない場合がある。
【0004】
この課題に対して検討されている解決方法の一つが、親水性リンカーの利用である。親水性リンカーとしてポリエチレングリコール、親水性ペプチド、糖鎖等が用いられており、特にポリエチレングリコールは抗原性が低く、生体適合性が高いことから、現在、臨床試験および前臨床試験段階にある複数のADCに採用されている。
【0005】
ADC分野では、ADCの均一性を保証し、精製、分析および医薬品承認申請を簡便にすることを目的として、特定のエチレングリコール鎖長を有する成分が90%以上含まれる化合物が使用される。このような化合物は、単分散ポリエチレングリコールと呼称される。
【0006】
単分散ポリエチレングリコールをADCのリンカーとして用いる場合、抗体と薬物を区別して結合させる必要があるため、二つの異なる化学反応可能な官能基を有するヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールが利用される。一般に、単分散ポリエチレングリコール鎖の両末端に互いに異なる化学反応可能な官能基を有する化合物を用いてADCが調製される。
【0007】
ところが近年、単分散ポリエチレングリコールを抗体と薬物とを繋ぐリンカー主鎖として用いるのではなく、抗体と薬物とを繋ぐ分岐リンカーに側鎖として単分散ポリエチレングリコールを導入したADCが報告されている。
【0008】
非特許文献1では、抗体と薬物とを繋ぐリンカー主鎖として単分散ポリエチレングリコールを用いたADC、および抗体と薬物とを繋ぐ分岐リンカーに側鎖として単分散ポリエチレングリコールを用いたADCの薬物動態および治療効果を比較しており、後者の方が薬物の疎水性を遮蔽する(masking)効果が高く、優れた薬物動態および治療効果を示すことが報告されている。
【0009】
また、特許文献2および特許文献3では、分岐リンカーの側鎖として単分散ポリエチレングリコールを有する様々なタイプのADC、およびこれらを調製するための中間体が開示されている。
【0010】
なお、特許文献1には、ペンタエリスリトール骨格で4本のポリエチレングリコール鎖とそのポリエチレングリコール鎖末端に二種類の官能基を持ったポリエチレングリコール誘導体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特表2013-515791号公報
【文献】国際公開第2015/057699号パンフレット
【文献】国際公開第2016/063006号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【文献】Nature Biotechnology, 2015, 33, 733-735
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1には、ペンタエリスリトール骨格に4本のポリエチレングリコール鎖とそのポリエチレングリコール鎖末端に2種類の官能基を持つ化合物しか開示されていない。これは、官能基化の反応が、ペンタエリスリトールを骨格とした4本鎖のポリエチレングリコール誘導体の末端の水酸基を別官能基に誘導化した後に、カラム精製によりモノ誘導化体もしくはジ誘導化体を得るためである。
【0014】
特許文献1にて開示されたポリエチレングリコール誘導体を用いてADCを調製した場合、調製されるADCはポリエチレングリコール鎖末端に抗体および薬物が結合されたものであり、即ち、ポリエチレングリコールを抗体と薬物とをつなぐリンカー主鎖として用いたADCとなる。
【0015】
非特許文献1、特許文献2および特許文献3に記載のある、分岐リンカーの側鎖として単分散ポリエチレングリコールを有するADCは、単分散ポリエチレングリコールが結合したリンカーの分岐部分に不斉炭素を有するアミノ酸が用いられている。
【0016】
このようなキラル中心を有する化合物を用いて、種々の化学変換プロセスを経て所望の化学構造のリンカーを構築する場合、化学変換プロセスに含まれる、例えば酸性または塩基性の反応条件、有機触媒または無機触媒存在下での反応、もしくは縮合剤存在下での反応等において、キラル中心の望まない部分的な立体反転やラセミ化が起き、立体異性体の混合物が生じる可能性がある。立体異性体の混合物から所望の立体構造の化合物を単離するのは大変困難である。このような立体異性体の混合物をリンカーとして抗体と薬物を結合させた場合、不均質なADCが生成してしまうので好ましくない。
【0017】
また、特許文献2および特許文献3では、分岐リンカーの側鎖に二本以上の単分散ポリエチレングリコールを有するADCも開示されている。しかし、それぞれの単分散ポリエチレングリコール側鎖の結合位置が離れており、ポリエチレングリコール鎖を複数本有する分岐型ポリエチレングリコールの特徴である「アンブレラ様(umbrella-like)」構造「Biomaterials 2001, 22(5),
405-417」による疎水性薬物の遮蔽効果が小さく、単分散ポリエチレングリコール側鎖を複数本有する利点を有効に活用できない。
【0018】
本発明の課題は、主鎖に単分散ポリエチレングリコールを有し、かつ近接した二本の単分散ポリエチレングリコール側鎖を有し、分子構造中にキラル中心を有さないヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコール、およびこれを用いて抗体と薬物を結合した抗体-薬物複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、主鎖に単分散ポリエチレングリコールを有し、かつ二本の単分散ポリエチレングリコール側鎖が近接して結合し、分子構造中にキラル中心を有さないヘテロ二官能性化合物であるヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコール、およびこれを用いて抗体と薬物を結合した抗体-薬物複合体を開発した。
【0020】
さらに、本発明のヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールは、二本の単分散ポリエチレングリコール側鎖が分岐部分の4級炭素原子に安定なエーテル結合で結合しているため、当該ヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールの構造の化学変換プロセスにおいて、一本鎖の単分散ポリエチレングリコールに分解し難いという特徴を有する。
【0021】
また、本発明のヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールは、鎖長を調整することが可能な単分散ポリエチレングリコール主鎖を有しているため、抗体-リンカー化合物と薬物もしくは薬物-リンカー化合物と抗体とを結合させる際において、単分散ポリエチレングリコール鎖長を長くすることで、ADCの親水性を損ねることなく抗体と薬物との立体障害による反応性低下を回避することができるという特徴を有する。
【0022】
即ち、本発明は以下のものである。
[1] 式(1)で示される、ヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコール。
【化1】


(式(1)中、
X1およびY1はそれぞれ生体機能性分子に存在する官能基と反応して共有結合を形成する官能基を少なくとも含む原子団であり、原子団X1が含む前記官能基と原子団Y1が含む前記官能基とは互いに異なる;
R1は炭素数1~7の炭化水素基または水素原子であり;
nは3~72の整数であり;
lは2~72の整数であり;
A1は-L1-(CH2)m1-または-L1-(CH2)m1-L2-(CH2)m2-を表し、L1はエーテル結合、アミド結合、ウレタン結合、2級アミノ基または単結合を表し、L2はアミド結合またはウレタン結合を表し、m1およびm2はそれぞれ独立して1~5の整数を表し;
B1は-L3-(CH2)m3-、-L3-(CH2)m3-L4-(CH2)m4-または単結合を表し、L3はアミド結合または単結合を表し、L4はエーテル結合、アミド結合またはウレタン結合を表し、m3およびm4はそれぞれ独立して1~5の整数を表し;および
C1は-L5-(CH2)m5-、-O-CH2-または単結合を表し、L5はアミド結合、ウレタン結合、2級アミノ基または単結合を表し、m5は1~5の整数を表す)
【0023】
[2] 式(1)におけるA1が-NHC(O)-(CH2)m1-または-NHC(O)-(CH2)m1-L2-(CH2)m2-で表され、B1が-(CH2)m3-または-(CH2)m3-L4-(CH2)m4-で表され、かつC1が‐L5-(CH2)m5-、-O-CH2-または単結合で表される、[1]のヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコール。
【0024】
[3] 式(1)におけるA1が-CH2-または-CH2-L2-(CH2)m2-で表され、B1が-CH2-または-CH2-L4-(CH2)m4-で表され、かつC1が‐L5-(CH2)m5-、-O-CH2-または単結合で表される、[1]のヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコール。
【0025】
[4] 式(1)におけるA1が-O-(CH2)m1-または-O-(CH2)m1-L2-(CH2)m2-で表され、B1が-CH2-または-CH2-L4-(CH2)m4-で表され、かつC1が‐L5-(CH2)m5-、-O-CH2-または単結合で表される、[1]のヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコール。
【0026】
[5] 式(1)におけるA1が-C(O)NH-(CH2)m1-または-C(O)NH-(CH2)m1-L2-(CH2)m2-で表され、B1が-CH2-または-CH2-L4-(CH2)m4-で表され、かつC1が‐L5-(CH2)m5-、-O-CH2-または単結合で表される、[1]のヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコール。
【0027】
[6] 式(1)におけるA1が-C(O)NH-(CH2)m1-または-C(O)NH-(CH2)m1-L2-(CH2)m2-で表され、B1が-C(O)NH-(CH2)m3-または-C(O)NH-(CH2)m3-L4-(CH2)m4-で表され、かつC1が‐L5-(CH2)m5-、-O-CH2-または単結合で表される、[1]のヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコール。
【0028】
[7] 式(1)におけるX1およびY1が、それぞれ独立して式(a)、式(b1)、式(b2)、式(c)、式(d)、式(e)、式(f)、式(g)、式(h)、式(i)、式(j)、式(k)、式(l)、式(m)、式(n)および式(o)からなる群から選択される、[1]~[6]のいずれかのヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコール。
【化2】
(式(d)中、R2は水素原子または炭素数1~5の炭化水素基であり;
式(e)中、R3は塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子から選択されるハロゲン原子であり;および
式(l)中、R4は水素原子または炭素数1~5の炭化水素基である。)
【0029】
[8] 式(2)で示される、ヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールを含んで成る抗体-薬物複合体。
【化3】
(式(2)中、
X2およびY2との一方が抗体であり、他方が薬物であり;
R1は炭素数1~7の炭化水素基または水素原子であり;
nは3~72の整数であり;
lは2~72の整数であり;
A1は-L1-(CH2)m1-または-L1-(CH2)m1-L2-(CH2)m2-を表し、L1はエーテル結合、アミド結合、ウレタン結合、2級アミノ基または単結合を表し、L2はアミド結合またはウレタン結合を表し、m1およびm2はそれぞれ独立して1~5の整数を表し;
B2は-L3-(CH2)m3-L6-、-L3-(CH2)m3-L4-(CH2)m4-L6-または-L6-を表し、L3はアミド結合または単結合を表し、L4はエーテル結合、アミド結合またはウレタン結合を表し、m3およびm4はそれぞれ独立して1~5の整数を表し、L6はアミド結合、ウレタン結合、チオエーテル結合、ジスルフィド結合、カーボネート結合、エステル結合、エーテル結合、1H-1,2,3-トリアゾール-1,4-ジイル構造、2級アミノ基、ヒドラジド基、オキシアミド基もしくはこれらを含む炭化水素基であり;および
C2は、-L5-(CH2)m5-L7-、-O-CH2-L7-または-L7-を表し、L5はアミド結合、ウレタン結合、2級アミノ基または単結合を表し、m5は1~5の整数を表し、L7はアミド結合、ウレタン結合、チオエーテル結合、ジスルフィド結合、カーボネート結合、エステル結合、エーテル結合、1H-1,2,3-トリアゾール-1,4-ジイル構造、2級アミノ基、ヒドラジド基、オキシアミド基もしくはこれらを含む炭化水素基である。)
【発明の効果】
【0030】
本発明によるヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールはキラル中心を有さないため、化学変換プロセスにおいてキラル中心の望まない部分的な立体反転やラセミ化といった問題が根本的に生じず、さらに二本の単分散ポリエチレングリコール側鎖が分岐部分の4級炭素原子に安定なエーテル結合で結合しているため、化学変換プロセスにおいて一本鎖の単分散ポリエチレングリコールに分解し難い。したがって、当該ヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールを用いて抗体と薬物を結合することにより、均質性の高い抗体-薬物複合体を得ることができる。
【0031】
更に、当該ヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールは、二本の単分散ポリエチレングリコール側鎖が近接して結合しているため、抗体-薬物複合体を調製した際に疎水性薬物の遮蔽効果が大きく、薬物の疎水性に起因する凝集の発生、抗体の血中安定性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】実施例8の疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)カラムを用いたHPLC測定のチャートである。
図2】比較例7の疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)カラムを用いたHPLC測定のチャートである。
図3】比較例14の疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)カラムを用いたHPLC測定のチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書における「ヘテロ二官能性」とは、二つの異なる化学反応可能な官能基を有することを意味し、「単分散ポリエチレングリコール」とは、特定のエチレングリコール鎖長を有する成分が90%以上含まれる化合物のことである。
【0034】
本発明のヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールは式(1)で示される。
【化4】

【0035】
本発明の式(1)におけるR1は炭化水素基または水素原子であり、炭化水素基の炭素数は7以下が好ましく、炭化水素基としては例えばアルキル基、アリール基、およびアラルキル基などが挙げられ、具体的な炭化水素基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t-ブチル基、フェニル基およびベンジル基などが挙げられる。R1の好ましい実施形態としてはメチル基または水素原子であり、更に好ましくはメチル基である。
【0036】
本発明の式(1)におけるnは、単分散ポリエチレングリコールの繰り返し単位数を表す3~72の整数であり、好ましくは4~48の整数であり、更に好ましくは6~36の整数であり、特に好ましくは8~24の整数である。
【0037】
本発明の式(1)におけるlは、単分散ポリエチレングリコールの繰り返し単位数を表す2~72の整数であり、好ましくは3~36の整数であり、更に好ましくは4~24の整数であり、特に好ましくは6~12の整数である。また、lはl≦nであることが好ましく、更に好ましくはl≦2n/3である。
【0038】
本明細書において、式(1)の原子団X1およびY1は互いに異なり、当該ヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールによる修飾の対象となる生体機能性分子(生理活性タンパク質、ペプチド、抗体、核酸および低分子薬物など)に存在する官能基と反応して共有結合を形成する官能基を少なくとも含む原子団であれば特に制限されない。前記官能基の例としては、「Hermanson, G. T. Bioconjugate Techniques, 2nd ed.; Academic Press:
San Diego, CA, 2008」、「Harris, J. M. Poly(Ethylene
Glycol) Chemistry; Plenum Press: New York, 1992」および「PEGylated
Protein Drugs: Basic Science and Clinical Applications; Veronese, F. M., Ed.;
Birkhauser: Basel, Switzerland, 2009」などに記載されている官能基が挙げられる。
【0039】
その中でも、X1およびY1に含まれる官能基はそれぞれ独立に、タンパク質に代表される天然の生体機能性分子に存在する官能基(アミノ基、チオール基、アルデヒド基、カルボキシ基等)や前記生体機能性分子に人工的に導入可能な官能基(マレイミド基、ケトン基、アジド基、アルキニル基等)に穏和な反応条件、かつ高い反応効率で反応可能な官能基であることが好ましい。より具体的には、活性エステル基、活性カーボネート基、アルデヒド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、エポキシ基、マレイミド基、ビニルスルホン基、アクリル基、スルホニルオキシ基、カルボキシ基、チオール基、2-ピリジルジチオ基、α-ハロアセチル基、ヒドロキシ基、アルキニル基、アリル基、ビニル基、アミノ基、オキシアミノ基、ヒドラジド基、アジド基、およびジベンゾシクロオクチン(DBCO)基が好ましく、さらに反応効率を考慮すると、活性エステル基、活性カーボネート基、マレイミド基、α-ハロアセチル基、アルキニル基、アジド基およびジベンゾシクロオクチン(DBCO)基が好ましい。
【0040】
更に具体的には、X1およびY1に含まれる官能基はそれぞれ独立に、修飾の対象となる生体機能性分子に存在する官能基がアミノ基である場合には、活性エステル基、活性カーボネート基、アルデヒド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、エポキシ基、マレイミド基、ビニルスルホン基、アクリル基、α-ハロアセチル基、スルホニルオキシ基またはカルボキシ基であることが好ましく、修飾の対象となる生体機能性分子に存在する官能基がチオール基である場合には、活性エステル基、活性カーボネート基、アルデヒド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、エポキシ基、マレイミド基、ビニルスルホン基、アクリル基、スルホニルオキシ基、カルボキシ基、チオール基、2-ピリジルジチオ基、α-ハロアセチル基、アルキニル基、アリル基またはビニル基であることが好ましく、修飾の対象となる生体機能性分子に存在する官能基がアルデヒド基またはカルボキシ基である場合には、チオール基、ヒドロキシ基、アミノ基、オキシアミノ基またはヒドラジド基であることが好ましく、修飾の対象となる生体機能性分子に存在する官能基がアルキニル基である場合には、チオール基またはアジド基であり、修飾の対象となる生体機能性分子に存在する官能基がアジド基である場合には、アルキニル基およびジベンゾシクロオクチン(DBCO)基であり、修飾の対象となる生体機能性分子に存在する官能基がハロゲン化アルキル基、アルキルスルホン酸エステルまたはアリールスルホン酸エステルである場合には、チオール基、ヒドロキシ基またはアミノ基である。
【0041】
ここで「活性エステル基」とは、式:-C(=O)-Lで表される活性化されたカルボキシ基を示し、Lは脱離基を示す。Lで表される脱離基としては、スクシンイミジルオキシ基、フタルイミジルオキシ基、4-ニトロフェノキシ基、1-イミダゾリル基、ペンタフルオロフェノキシ基、ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ基および7-アザベンゾトリアゾール-1-イルオキシ基などが挙げられる。「活性カーボネート」とは、式:-O-C(=O)-Lで表される活性化されたカーボネート基を示し、Lは前記と同様の脱離基を示す。
【0042】
本発明の好適な実施形態において、X1およびY1はそれぞれ独立に、群(I)、群(II)、群(III)、群(IV)、群(V)または群(VI)で示される基である。

群(I): 生体機能性分子のアミノ基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基
下記の(a)、(b1)、(b2)、(c)、(d)、(e)および(f)
群(II): 生体機能性分子のチオール基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基
下記の(a)、(b1)、(b2)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)および(l)
群(III): 生体機能性分子のアルデヒド基またはカルボキシ基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基
下記の(g)、(i)、(j)、(k)および(o)
群(IV): 生体機能性分子のアルキニル基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基
下記の(g)、(i)、(j)、(k)および(n)
群(V): 生体機能性分子のアジド基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基
下記の(l)および(m)
群(VI): 生体機能性分子のハロゲン化アルキル基、アルキルスルホン酸エステルまたはアリールスルホン酸エステルと反応して共有結合を形成することが可能な官能基
下記の(g)、(i)および(o)
本発明の好適な実施形態において、X1およびY1はそれぞれ独立に、特に好ましくは(a)~(n)の基である。
【0043】
【化5】

【0044】
式中、R2、R4は水素原子または炭素数1~5の炭化水素基であり、炭化水素基としては例えばアルキル基が挙げられ、具体的な炭化水素基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基およびペンチル基などが挙げられる。R3は塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子から選択されるハロゲン原子である。
【0045】
式(1)の原子団X1およびY1に含まれる官能基の好ましい組み合わせとして、X1に含まれる官能基が活性エステル基または活性カーボネート基のときは、Y1に含まれる官能基はマレイミド基、ビニルスルホン基、α-ハロアセチル基、アルキニル基、ジベンゾシクロオクチン(DBCO)およびアジド基から選択される基であり、X1に含まれる官能基がアルデヒド基のときは、Y1に含まれる官能基はマレイミド基、ビニルスルホン基、アルキニル基、ジベンゾシクロオクチン(DBCO)およびアジド基から選択される基であり、X1に含まれる官能基がマレイミド基、ビニルスルホン基またはα-ハロアセチル基のときは、Y1に含まれる官能基は活性エステル基、活性カーボネート基、アルキニル基、ジベンゾシクロオクチン(DBCO)およびアジド基から選択される基であり、X1に含まれる官能基がアルキニル基、ジベンゾシクロオクチン(DBCO)またはアジド基のときは、Y1に含まれる官能基はマレイミド基、ビニルスルホン基、α-ハロアセチル基、活性エステル基、活性カーボネート基、アミノ基、オキシアミノ基およびヒドロキシ基から選択される基であり、X1に含まれる官能基がアミノ基またはオキシアミノ基のときは、Y1に含まれる官能基はアルキニル基、ジベンゾシクロオクチン(DBCO)、アジド基、チオール基、ヒドロキシ基またはカルボキシ基であり、X1に含まれる官能基がチオール基、2-ピリジルジチオ基またはヒドロキシ基のときは、Y1はアミノ基、オキシアミノ基、アジド基およびカルボキシ基から選択される基である。より好ましくは、X1に含まれる官能基が活性エステル基または活性カーボネート基のときは、Y1に含まれる官能基はマレイミド基、α-ハロアセチル基、アルキニル基、ジベンゾシクロオクチン(DBCO)およびアジド基から選択される基であり、X1に含まれる官能基がアルデヒド基のときは、Y1に含まれる官能基はマレイミド基、α-ハロアセチル基、アルキニル基、ジベンゾシクロオクチン(DBCO)およびアジド基から選択される基であり、X1に含まれる官能基がマレイミド基またはα-ハロアセチル基のときは、Y1に含まれる官能基は活性エステル基、活性カーボネート基、アルキニル基、、ジベンゾシクロオクチン(DBCO)、アジド基から選択される基であり、X1に含まれる官能基がアルキニル基、ジベンゾシクロオクチン(DBCO)またはアジド基のときは、Y1に含まれる官能基はマレイミド基、α-ハロアセチル基、活性エステル基、活性カーボネート基、アミノ基、オキシアミノ基およびヒドロキシ基から選択される基であり、X1に含まれる官能基がアミノ基またはオキシアミノ基のときは、Y1に含まれる官能基はアルキニル基、、ジベンゾシクロオクチン(DBCO)、アジド基、ヒドロキシ基またはチオール基であり、X1に含まれる官能基がチオール基、2-ピリジルジチオ基またはヒドロキシ基のときは、Y1に含まれる官能基はアミノ基、オキシアミノ基およびアジド基から選択される基である。
【0046】
本発明の式(1)におけるA1は、分岐部分の4級炭素原子とX1に結合する単分散ポリエチレングリコールとの間の2価のスペーサーであり、式(1)におけるB1は、分岐部分の4級炭素原子とY1との間の2価のスペーサーであり、式(1)におけるC1は、A1に結合する単分散ポリエチレングリコールとX1との間の2価のスペーサーであり、それぞれ共有結合で構成される。具体的には、A1は-L1-(CH2)m1-または-L1-(CH2)m1-L2-(CH2)m2-を表し、L1はエーテル結合、アミド結合、ウレタン結合、2級アミノ基または単結合を表し、L2はアミド結合またはウレタン結合を表し、m1およびm2はそれぞれ独立して1~5の整数を表す。また、B1は-L3-(CH2)m3-、-L3-(CH2)m3-L4-(CH2)m4-または単結合を表し、L3はアミド結合または単結合を表し、L4はエーテル結合、アミド結合またはウレタン結合を表し、m3およびm4はそれぞれ独立して1~5の整数を表し、C1は-L5-(CH2)m5-、-O-CH2-または単結合を表し、L5はアミド結合、ウレタン結合、2級アミノ基または単結合を表し、m5は1~5の整数を表す。
【0047】
本発明の好適な実施形態における式(1)のA1、B1およびC1の具体的な構造、並びに前記A1、B1およびC1を有するヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールの典型的な合成例を以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0048】
(A)本発明の好適な実施形態においては、式(1)のA1が-NHC(O)-(CH2)m1-または-NHC(O)-(CH2)m1-L2-(CH2)m2-で表され、L2はアミド結合またはウレタン結合、m1およびm2はそれぞれ独立して1~5の整数であり、B1が-(CH2)m3-または-(CH2)m3-L4-(CH2)m4-で表され、L4はエーテル結合、アミド結合またはウレタン結合、m3およびm4はそれぞれ独立して1~5の整数であり、かつC1が-L5-(CH2)m5-、-O-CH2-または単結合で表され、L5はアミド結合、ウレタン結合、2級アミノ基または単結合、m5は1~5の整数である。更に好ましくは、A1が-NHC(O)-(CH2)m1-で表され、m1は1~5の整数であり、B1が-(CH2)m3-または-(CH2)m3-O-(CH2)m4-で表され、m3およびm4はそれぞれ独立して1~5の整数であり、かつC1は-NHC(O)-(CH2)m5-または単結合で表され、m5は1~5の整数である。
【0049】
前記ヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールを合成する典型的な例としては、以下の工程が挙げられる。ここでは、官能基としてマレイミド基とp-ニトロフェニルカーボネート基を導入した化合物について例示する。
【0050】
【化6】
(式(3)中、P1はアミノ基の保護基であり;および P2はヒドロキシ基の保護基である。)
【0051】
前記式(3)で表される化合物を無水溶媒中、強塩基存在下でモノメチル単分散ポリエチレングリコールのアルキルまたはアリールスルホン酸エステル、もしくはモノメチル単分散ポリエチレングリコールのハロゲン化物に対して求核置換反応させて、下記式(4)で表される化合物を得る。
【0052】
ここで「保護基」とは、ある反応条件下で分子中の特定の官能基の反応を防止または阻止する成分である。保護基は、保護される官能基の種類、使用される条件および分子中の他の官能基もしくは保護基の存在により変化する。保護基の具体的な例は多くの一般的な成書に見出すことができるが、例えば「Wuts, P. G. M.; Greene, T. W. Protective Groups in Organic
Synthesis, 4th ed.; Wiley-Interscience: New York, 2007」に記載されている。また、保護基で保護された官能基は、それぞれの保護基に適した反応条件を用いて脱保護、すなわち化学反応させることで、元の官能基を再生させることができる。保護基の代表的な脱保護条件は前述の文献に記載されている。
【0053】
保護される官能基と保護基の好ましい組み合わせとして、保護される官能基がアミノ基のときは、例えばアシル系保護基およびカーバメート系保護基が挙げられ、具体的にはトリフルオロアセチル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基および2-(トリメチルシリル)エチルオキシカルボニル基などが挙げられる。また、保護される官能基がヒドロキシ基のときは、例えばシリル系保護基およびアシル系保護基が挙げられ、具体的にはt-ブチルジフェニルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、アセチル基およびピバロイル基などが挙げられる。
【0054】
保護される官能基がカルボキシ基のときは、例えばアルキルエステル系保護基およびシリルエステル系保護基が挙げられ、具体的にはメチル基、9-フルオレニルメチル基およびt-ブチルジメチルシリル基などが挙げられる。保護される官能基がスルファニル基のときは、例えばチオエーテル系保護基、チオカーボネート系保護基およびジスルフィド系保護基が挙げられ、具体的にはS-2,4-ジニトロフェニル基、S-9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基およびS-t-ブチルジスルフィド基などが挙げられる。また、同種または異種の二つの官能基を同時に保護することが可能な二官能性の保護基を用いてもよい。保護される官能基と保護基の好ましい組み合わせとして、保護される官能基が二つのヒドロキシ基のときは、例えば環状アセタール系保護基および環状シリル系保護基が挙げられ、具体的には2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン基、2,2-ジメチル-1,3-ジオキサン基、2-フェニル-1,3-ジオキソラン基、2-フェニル-1,3-ジオキサン基およびジ-t-ブチルシリレン基などが挙げられる。保護される官能基がアミノ基とヒドロキシ基のときは、例えばオキサゾリン系保護基が挙げられ、具体的には2-フェニルオキサゾリン基などが挙げられる。
【0055】
保護基の代表的な脱保護条件は前述の文献に記載されており、それぞれの保護基に適した反応条件を選択することができる。ただし、構造中に含まれる官能基が、保護基で保護されていなくても他の官能基の化学反応を阻害しない官能基の場合は、保護基を使用する必要は無い。
【0056】
【化7】

【0057】
前記式(4)で表される化合物の保護基P1を脱保護した後、縮合剤存在下、モノカルボキシ単分散ポリエチレングリコールのマレイミドプロピオン酸アミドを反応させて、下記式(5)で表される化合物を得る。ここで、ヒドロキシ基がアミノ基の反応試薬と反応しない反応条件を選択すれば、保護基P1と同時に保護基P2も脱保護してよい。
【0058】
【化8】

【0059】
前記式(5)で表される化合物の保護基P2を脱保護した後、塩基存在下、p-ニトロフェニルクロロホルメートを反応させて、下記式(6)で表される化合物を得る。
【0060】
【化9】
【0061】
(B)本発明の好適な別の実施形態においては、式(1)のA1が-CH2-または-CH2-L2-(CH2)m2-で表され、L2はアミド結合またはウレタン結合、m2は1~5の整数であり、B1が-CH2-または-CH2-L4-(CH2)m4-で表され、L4はエーテル結合、アミド結合またはウレタン結合、m4は1~5の整数であり、かつC1が-L5-(CH2)m5-、-O-CH2-または単結合で表され、L5はアミド結合、ウレタン結合、2級アミノ基または単結合であり、m5は1~5の整数である。更に好ましくは、A1が-CH2-NHC(O)-(CH2)m2-で表され、m2は1~5の整数であり、B1が-CH2-または-CH2-O-(CH2)m4-で表され、m4は1~5の整数であり、かつC1は-NHC(O)-(CH2)m5-または単結合で表され、m5は1~5の整数である。
【0062】
前記ヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールを合成する典型的な例としては、以下の工程が挙げられる。ここでは、官能基としてブロモアセトアミド基とN-スクシンイミジルエステル基を導入した化合物について例示する。
【0063】
【化10】
(式(7)中、P3はアミノ基の保護基であり;および P4はヒドロキシ基の保護基である。)
【0064】
前記式(7)で表される化合物を無水溶媒中、強塩基存在下でモノメチル単分散ポリエチレングリコールのアルキルまたはアリールスルホン酸エステル、もしくはモノメチル単分散ポリエチレングリコールのハロゲン化物に対して求核置換反応させて、下記式(8)で表される化合物を得る。
【0065】
【化11】

【0066】
前記式(8)で表される化合物の保護基P4を脱保護した後、無水溶媒中、塩基存在下で4-ヒドロキシブタン酸のカルボキシ基保護体を反応させて、下記式(9)で表される化合物を得る。
【0067】
【化12】
(式中、P5はカルボキシ基の保護基である。)
【0068】
前記式(9)で表される化合物の保護基P3を脱保護した後、モノブロモアセトアミド単分散ポリエチレングリコールのテトラフルオロフェニルエステルを反応させて、下記式(10)で表される化合物を得る。
【0069】
【化13】

【0070】
前記式(10)で表される化合物の保護基P5を脱保護した後、縮合剤存在下、N-ヒドロキシスクシンイミドを反応させて、下記式(11)で表される化合物を得る。
【0071】
【化14】
【0072】
(C)本発明の好適な更に別の実施形態においては、式(1)のA1が-O-(CH2)m1-または-O-(CH2)m1-L2-(CH2)m2-で表され、L2はアミド結合またはウレタン結合、m1およびm2はそれぞれ独立して1~5の整数であり、B1が-CH2-または-CH2-L4-(CH2)m4-で表され、L4はエーテル結合、アミド結合またはウレタン結合、m4は1~5の整数であり、かつC1が-L5-(CH2)m5-、-O-CH2-または単結合で表され、L5はアミド結合、ウレタン結合、2級アミノ基または単結合、m5は1~5の整数である。更に好ましくは、A1が-O-(CH2)m1-NHC(O)-(CH2)m2-で表され、m1およびm2はそれぞれ独立して1~5の整数であり、B1が-CH2-または-CH2-O-(CH2)m4-で表され、m4は1~5の整数であり、かつC1は-NHC(O)-(CH2)m5-または単結合で表され、m5は1~5の整数である。
【0073】
前記ヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールを合成する典型的な例としては、以下の工程が挙げられる。ここでは、官能基として2-ピリジルジチオ基とN-スクシンイミジルカーボネート基を導入した化合物について例示する。
【0074】
【化15】
(式(12)中、P6はアミノ基の保護基であり;および P7はヒドロキシ基の保護基である。)
【0075】
前記式(12)で表される化合物を無水溶媒中、強塩基存在下でモノメチル単分散ポリエチレングリコールのアルキルまたはアリールスルホン酸エステル、もしくはモノメチル単分散ポリエチレングリコールのハロゲン化物に対して求核置換反応させて、下記式(13)で表される化合物を得る。
【0076】
【化16】

【0077】
前記式(13)で表される化合物の保護基P6を脱保護した後、縮合剤存在下、モノカルボキシ単分散ポリエチレングリコールの3-(2-ピリジルジチオ)プロピオン酸アミドを反応させて、下記式(14)で表される化合物を得る。
【0078】
【化17】

【0079】
前記式(14)で表される化合物の保護基P7を脱保護した後、塩基存在下、N,N’-ジスクシンイミジルカーボネートを反応させて、下記式(15)で表される化合物を得る。
【0080】
【化18】
【0081】
(D)本発明の好適な更なる実施形態においては、式(1)のA1が-C(O)NH-(CH2)m1-または-C(O)NH-(CH2)m1-L2-(CH2)m2-で表され、L2はアミド結合またはウレタン結合、m1およびm2はそれぞれ独立して1~5の整数であり、B1が-CH2-または-CH2-L4-(CH2)m4-で表され、L4はエーテル結合、アミド結合またはウレタン結合、m4は1~5の整数であり、かつC1が-L5-(CH2)m5-、-O-CH2-または単結合で表され、L5はアミド結合、ウレタン結合、2級アミノ基または単結合、m5は1~5の整数である。更に好ましくは、A1が-C(O)NH-(CH2)m1-で表され、m1は1~5の整数であり、B1が-CH2-または-CH2-O-(CH2)m4-で表され、m4は1~5の整数であり、かつC1は-C(O)NH-(CH2)m5-または単結合で表され、m5は1~5の整数である。
【0082】
前記ヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールを合成する典型的な例としては、以下の工程が挙げられる。ここでは、官能基としてアジド基とp-ニトロフェニルカーボネート基を導入した化合物について例示する。
【0083】
【化19】
(式中、P8はカルボキシ基の保護基であり;および P9はヒドロキシ基の保護基である。)
【0084】
前記式(16)で表される化合物を無水溶媒中、強塩基存在下でモノメチル単分散ポリエチレングリコールのアルキルまたはアリールスルホン酸エステル、もしくはモノメチル単分散ポリエチレングリコールのハロゲン化物に対して求核置換反応させて、下記式(17)で表される化合物を得る。
【0085】
【化20】

【0086】
前記式(17)で表される化合物の保護基P8を脱保護した後、縮合剤存在下、モノアミノ単分散ポリエチレングリコールのアジド化物を反応させて、下記式(18)で表される化合物を得る。
【0087】
【化21】

【0088】
前記式(18)で表される化合物の保護基P9を脱保護した後、塩基存在下、p-ニトロフェニルクロロホルメートを反応させて、下記式(19)で表される化合物を得る。
【0089】
【化22】
【0090】
(E)本発明の好適なもう一つの実施形態においては、式(1)のA1が-C(O)NH-(CH2)m1-または-C(O)NH-(CH2)m1-L2-(CH2)m2-で表され、L2はアミド結合またはウレタン結合、m1およびm2はそれぞれ独立して1~5の整数であり、B1が-C(O)NH-(CH2)m3-または-C(O)NH-(CH2)m3-L4-(CH2)m4-で表され、L4はエーテル結合、アミド結合またはウレタン結合、m3およびm4は1~5の整数であり、かつC1が-L5-(CH2)m5-、-O-CH2-または単結合で表され、L5はエーテル結合、アミド結合、ウレタン結合、2級アミノ基または単結合、m5は1~5の整数である。更に好ましくは、A1が-C(O)NH-(CH2)m1-で表され、m1は1~5の整数であり、かつB1が-C(O)NH-(CH2)m3-NHC(O)-(CH2)m4-で表され、m3およびm4は1~5の整数であり、かつC1は-C(O)NH-(CH2)m5-または単結合で表され、m5は1~5の整数である。
【0091】
前記ヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールを合成する典型的な例としては、以下の工程が挙げられる。ここでは、官能基としてジベンゾシクロオクチン(DBCO)基とマレイミド基を導入した化合物について例示する。
【0092】
【化23】
(式中、P10はカルボキシ基の保護基であり;および P11はアミノ基の保護基である。)
【0093】
前記式(20)で表される化合物を無水溶媒中、強塩基存在下でモノメチル単分散ポリエチレングリコールのアルキルまたはアリールスルホン酸エステル、もしくはモノメチル単分散ポリエチレングリコールのハロゲン化物に対して求核置換反応させて、下記式(21)で表される化合物を得る。
【0094】
【化24】

【0095】
前記式(21)で表される化合物の保護基P10を脱保護した後、縮合剤存在下、モノアミノ単分散ポリエチレングリコールのジベンゾシクロオクチン(DBCO)誘導体を反応させて、下記式(22)で表される化合物を得る。
【0096】
【化25】

【0097】
前記式(22)で表される化合物の保護基P11を脱保護した後、3-マレイミドプロピオン酸 N-スクシンイミジルを反応させて、下記式(23)で表される化合物を得る。
【0098】
【化26】
【0099】
本発明の別の一態様では、式(2)で示される、ヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールを含んで成る抗体-薬物複合体が提供される。
【化27】

【0100】
本発明の式(2)におけるR1は炭化水素基または水素原子であり、炭化水素基の炭素数は7以下が好ましく、炭化水素基としては例えばアルキル基、アリール基およびアラルキル基などが挙げられ、具体的な炭化水素基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t-ブチル基、フェニル基およびベンジル基などが挙げられる。R1の好ましい実施形態としてはメチル基または水素原子であり、更に好ましくはメチル基である。
【0101】
本発明の式(2)におけるnは、単分散ポリエチレングリコールの繰り返し単位数を表す3~72の整数であり、好ましくは4~48の整数であり、更に好ましくは6~36の整数であり、特に好ましくは8~24の整数である。
【0102】
本発明の式(2)におけるlは、単分散ポリエチレングリコールの繰り返し単位数を表す2~72の整数であり、好ましくは3~36の整数であり、更に好ましくは4~24の整数であり、特に好ましくは6~12の整数である。また、lはl≦nであることが好ましく、更に好ましくはl≦2n/3である。
【0103】
本明細書において、式(2)のX2およびY2との一方が抗体であり、他方が薬物である。
【0104】
本明細書で使用する用語「抗体」とは、その最も広い意味で使用され、具体的には、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ダイマー、マルチマー、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、および抗体フラグメントを、それらが望ましい生物学的活性を示す限り、網羅する(Miller, K. et al. J. Immunol. 2003, 170, 4854-4861)。
【0105】
抗体は、マウス抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、または他の種由来であり得る。抗体は、特定の抗原を認識および結合することが可能な、免疫系によって生成されるタンパク質である(Janeway, C.; Travers, P.; Walport, M.; Shlomchik, M. Immunobiology, 5th ed.; Garland Publishing: New York, 2001)。標的抗原は、一般的には、複数の抗体上にあるCDRによって認識される多数の結合部位(エピトープとも呼ばれる)を有する。異なるエピトープ特異的に結合する抗体は、異なる構造を有する。従って、ある1つの抗原は、1つよりも多くの対応する抗体を有し得る。抗体は、全長免疫グロブリン分子、または全長免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分(すなわち、対象とする抗原もしくはその部分に免疫特異的に結合する抗原結合部位を含む分子)を包含する。そのような標的としては、ガン細胞、または自己免疫疾患に関連する自己免疫抗体を生成する細胞が挙げられるが、これらに限定はされない。本明細書において開示される免疫グロブリンは、任意の型(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、およびIgA)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2)またはサブクラスの免疫グロブリン分子であり得る。上記免疫グロブリンは、任意の種に由来し得る。しかし、一態様において、上記免疫グロブリンは、ヒト起源、マウス起源、またはウサギ起源である。
【0106】
ポリクローナル抗体は、免疫化動物の血清由来のものなどの、抗体分子の不均一集団である。当分野において既知のさまざまな手順を用いて対象抗原に対するポリクローナル抗体を作り出してよい。例えば、ポリクローナル抗体を作り出すために、対象抗原またはその誘導体を注射して、ウサギ、マウス、ラットおよびモルモットを含むがそれらに限定されないさまざまな宿主動物を免疫化してよい。宿主種に依存して、フロインドの(完全および不完全)アジュバント、水酸化アルミニウムなどの鉱物ゲル、リソレシチンなどの表面活性物質、プルロニック(pluronic)ポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油乳化物、キーホールリンペットヘモシニアン、ジニトロフェノール、およびBCG(bacille Calmett-Guerin)およびCorynebacteriumu parvumなどの潜在的に有用なヒトアジュバントを含むがそれらに限定されない、さまざまなアジュバントを用いて免疫応答を増加させてよい。そのようなアジュバントも、当分野では公知である。
【0107】
モノクローナル抗体は、特定の抗原決定基(例えば、細胞抗原(ガンまたは自己免疫細胞抗原)、ウイルス抗原、微生物抗原、タンパク質、ペプチド、炭水化物、化学物質、核酸またはそれらの抗原結合フラグメント)に対する抗体の均一な集団である。当分野において既知の任意の技法を用いて対象抗原に対するモノクローナル抗体(mAb)を調製してよい。これらは、Kohler, G; Milstein, C. Nature 1975, 256, 495-497)が最初に記載したハイブリドーマ技法、ヒトB細胞ハイブリドーマ技法(Kozbor, D. et al. Immunol. Today 1983, 4, 72-79)およびEBV-ハイブリドーマ技法(Cole, S. P. C. et al. Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy; Alan R. Liss: New York, 1985, pp. 77-96)を含むが、それらに限定されない。そのような抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA及びIgDを含む任意の免疫グロブリンの種類およびそれらの任意の亜種であってよい。本発明においてモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、インビトロまたはインビボで培養してよい。
【0108】
モノクローナル抗体は、ヒトモノクローナル抗体、ヒト化モノクローナル抗体、キメラモノクローナル抗体および抗体フラグメントを含むがそれらに限定されない。ヒトモノクローナル抗体は、当分野で既知の多数の技法のうちの任意のもの(例えば、Teng, N. N. et al. Proc.Natl.Acad.Sci.USA.1983, 80, 7308-7312、Kozbor, D. et al. Immunology Today 1983, 4, 72-79、Olsson, L. et al. Meth. Enzymol. 1982, 92, 3-16、および米国特許第5939598号明細書および第5770429号明細書を参照)によって作成してよい。キメラモノクローナル抗体およびヒト化モノクローナル抗体などの組み換え抗体は、当分野で既知の標準的な組み換えDNA技法を用いて作ることができる(例えば、米国特許第4816567号明細書、第4816397号明細書を参照)。
【0109】
抗体の表面再構成(resurfacing)処理によっても、抗体の免疫原性を減少させることができる(米国特許第5225539号明細書、欧州特許第0239400号明細書、第0519596号明細書、第0592106号明細書を参照)。
【0110】
本発明の一実施形態において、抗体は二重特異性抗体であってもよい。二重特異性抗体を作るための方法は、当分野で既知である。従来の完全長二重特異性抗体の作製方法は、2つの鎖が異なる特異性を有する場合の2つの免疫グロブリン重鎖―軽鎖対の同時発現を利用している(Milstein, C et al. Nature 1983, 305, 537-539を参照)。また、別の方法として、所望の結合特異性(抗体―抗原結合部位)を有する抗体可変分域を免疫グロブリン不変分域配列と融合させることでも、二重特異性抗体を作製することができる。
【0111】
その他の有用な抗体は、F(ab’)2フラグメント、Fab’フラグメント、Fabフラグメント、Fvs、単鎖抗体(SCA)(例えば、米国特許第4946778号明細書、Bird, R. E. et al. Science1988, 242, 423-442、Huston, J. S. et at. Proc. Natl. Acad. Sot USA 1988, 85, 5879-5883及びWard, E. S. et al. Nature 1989, 334, 544-554に記載されている)、scFv、sc-Fv-Fc、FvdsFv、ミニボディー、ダイアボディー、トライアボディー、テトラボディー、およびCDRを含み、抗体と同じ特異性を有する任意の他の分子、例えばドメイン抗体などが挙げられるが、それらに限定されない抗体のフラグメントを含む。
【0112】
本発明の好ましい実施形態では、ガンの治療または予防のための既知の抗体を用いてよい。発現がガン、細胞増殖障害または腫瘍の細胞上での発現と相関関係にある任意の標的タンパク質を含む、すべての標的タンパク質を、抗体の標的とすることができる。
【0113】
本発明の好ましい実施形態において、抗体はガンの治療に有用である。ガンの治療に利用可能な抗体の例は、非ホジキンリンパ腫を有する患者の治療のためのキメラ抗CD20モノクローナル抗体であるリツキサン(登録商標)(ジェネンテック社)、卵巣ガンの治療のためのマウス抗体であるオバレックス(アルタレックス社)、結直腸ガンの治療のためのマウスIgG2a抗体であるパノレックス(グラクソウェルカム社)、頭部ガンおよび頚部ガンなどの上皮細胞成長因子陽性ガンの治療のための抗EGFR IgGキメラ抗体であるセツキシマブエルビツクス(イムクローンシステムズ社)、肉腫の治療のためのヒト化抗体であるビタキシン(メドイミューン社)、慢性リンパ球白血病(CLL)の治療のためのヒト化IgG1抗体であるキャンパスI/H(ロイコサイト社)、急性骨髄性白血病(AML)の治療のためのヒト化抗CD33 IgG抗体であるスマートM195(プロテインデザインラブズ社)、非ホジキンリンパ腫の治療のためのヒト化抗CD22 IgG抗体であるリンフォサイド(イムノメディックス社)、非ホジキンリンパ腫の治療のためのヒト化抗HLA-DR抗体であるスマートID10(プロテインデザインラブズ社)、非ホジキンリンパ腫の治療のための放射性元素標識化マウス抗HLA-Dr10抗体であるオンコリム(テクニクローン社)、ホジキン氏病または非ホジキンリンパ腫の治療のためのヒト化抗CD2 mAbであるアロミューン(バイオトランスプラント社)、肺ガンおよび結直腸ガンの治療のための抗VEGFヒト化抗体であるアバスチン(ジェネンテック社)、非ホジキンリンパ腫の治療のための抗CD22抗体であるエプラツザマブ(イムノメディックス社およびアムジェン社)、および結直腸ガンの治療のためのヒト化抗CEA抗体であるシーサイド(イムノメディックス社)を含むが、それらに限定されない。
【0114】
本発明の好ましい実施形態において、抗体は以下の抗原に対する抗体である。CA125、CA15-3、CA19-9、L6、ルイスY、ルイスX、アルファフェトタンパク質、CA242、胎盤アルカリホスファターゼ、前立腺特異性膜抗原、EphB2、TMEFF2、前立腺酸性ホスファターゼ、上皮増殖因子、MAGE-1、MAGE-2、MAGE-3、MAGE-4、抗トランスフェリン受容体、p97、MUC1-KLH、CEA、gp100、MART1、前立腺特異性抗原、IL-2受容体、CD20、CD52、CD33、CD22、ヒト絨毛膜ゴナドトロピン、CD38、CD40、ムチン、P21、MPGおよびNeuガン遺伝子産物。いくつかの特異的な有用な抗体は、BR96 mAb(Trail, P. A. et al. Science 1993, 261, 212-215)、BR64(Trail, P. A. et al. Cancer Research 1997, 57, 100-105)、S2C6 mAb(Francisco, J. A. et al. Cancer Res. 2000, 60, 3225-3231)などのCD40抗原に対するmAb、または米国特許出願公開第2003/0211100号明細書および第2002/0142358号明細書に開示されているようなその他の抗CD40抗体、1F6 mAbおよび2F2 mAbなどのCD70抗原に対するmAb、およびAC10(Bowen, M. A. et al. J. Immunol. 1993, 151, 5896-5906、Wahl, A. F. et al. Cancer Res. 2002, 62(13), 3736-42)またはMDX-0060(米国特許出願公開第2004/0006215号明細書)などのCD30抗原に対するmAbを含むが、それらに限定されない。
【0115】
本発明において用いることができる薬物には、化学療法薬が含まれる。化学療法薬は、ガンの処置において有用な化合物である。化学療法薬の例には次のものが含まれる:アルキル化剤、例えばチオテパ(thiotepa)およびシクロホスファミド(CYTOXAN(商標));アルキルスルホネート類、例えばブスルファン(busulfan)、インプロスルファン(improsulfan)およびピポスルファン(piposulfan);アジリジン類(aziridines)、例えばベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン(carboquone)、メツレドーパ(meturedopa)、およびウレドーパ(uredopa);エチレンイミン類およびメチルアメラミン類(methylamelamines)、アルトレタミン(altretamine)、トリエチレンメラミン(triethylenemelamine)、トリエチレンホスホルアミド(trietylenephosphoramide)、トリエチレンチオホスホルアミド(triethylenethiophosphaoramide)およびトリメチローロメラミン(trimethylolomelamine)を含む;アセトゲニン類(acetogenins)(特にブラタシン(bullatacin)およびブラタシノン(bullatacinone));カンプトテシン(camptothecin)(合成類似体であるトポテカンを含む);ブリオスタチン (bryostatin);カリスタチン(callystatin);CC-1065(そのアドゼレシン(adozelesin)、カルゼレシン(carzelesin)およびビゼレシン(bizelesin)合成類似体を含む);クリプトフィシン類(cryptophycins)(特に、クリプトフィシン1およびクリプトフィシン8);ドラスタチン(dolastatin);デュオカルマイシン(duocarmycin)(その合成類似体であるKW-2189およびCBI-TMIを含む));エレウテロビン(eleutherobin);パンクラチスタチン(pancratistatin);サルコディクチン(sarcodictyin);スポンジスタチン(spongistatin);ナイトロジェンマスタード類、例えばクロラムブシル(chlorambucil)、クロルナファジン(chlornaphazine)、コロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン(estramustine)、イホスファミド(ifosfamide)、メクロレタミン(mechlorethamine)、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン(melphalan)、ノベムビチン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン(prednimustine)、トロホスファミド(trofosfamide)、ウラシルマスタード;ニトロソ尿素類(nitrosureas)、例えばカルムスチン(carmustine)、クロロゾトシン(chlorozotocin)、フォテムスチン(fotemustine)、ロムスチン(lomustine)、ニムスチン(nimustine)、ラニムスチン(ranimustine);抗生物質、例えばエネジイン(enediyne)抗生物質(例えばカ
リケアマイシン(calicheamicin)、特に、カリケアマイシンガンマ1およびカリケアマイシンシータI、例えばAngew Chem Intl. Ed. Engl. 33:183-186 (1994)を参照;ダイネマイシン(dynemicin)、ダイネマイシンAを含む;エスペラマイシン(esperamicin);ならびに、ネオカルジノスタチンクロモフォア(neocarzinostatin chromophore)および関連する色素タンパク質エネジイン抗生物質クロモモフォア類)、アクラシノマイシン類(aclacinomysins)、アクチノマイシン、オースラマイシン(authramycin)、アザセリン(azaserine)、ブレオマイシン類(bleomycins)、カクチノマイシン(cactinomycin)、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン(carminomycin)、カルジノフィリン(carzinophilin);クロモマイシン類(chromomycins)、ダクチノマイシン(dactinomycin)、ダウノルビシン(daunorubicin)、デトルビシン(detorubicin)、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシンおよびデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン(epirubicin)、エソルビシン(esorubicin)、イダルビシン(idarubicin)、マルセロマイシン(marcellomycin)、ナイトマイシン類(nitomycins)、ミコフェノール酸(mycophenolic acid)、ノガラマイシン(nogalamycin)、オリボマイシン類(olivomycins)、ペプロマイシン(peplomycin)、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン(streptonigrin)、ストレプトゾシン(streptozocin)、ツベルシジン(tubercidin)、ウベニメクス(ubenimex)、ジノスタチン(zinostatin)、ゾルビシン(zorubicin);代謝拮抗剤、例えば、メトトレキセートおよび5-フルオロウラシル(5-FU);葉酸類似体、例えばデノプテリン、メトトレキセート、プテロプテリン、トリメトレキセート;プリン類似体、例えばフルダラビン(fludarabine)、6-メルカプトプリン、チアミプリン(thiamiprine)、チオグアニン;ピリミジン類似体、例えばアンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン(doxifluridine)、エノシタビン、フロクスウリジン、5-FU;アンドロゲン類、例えばカルステロン、ドロモスタノロンプロピオネート、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン;抗副腎薬(anti-adrenals)、例えばアミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン;葉酸補充薬、例えばフロリン酸(frolinic acid);アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド(aldophosphamide glycoside);アミノレブリン酸;アムサクリン(amsacrine);ベストラブシル(bestrabucil);ビサントレン(bisantrene);エダトラキセート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルシン(demecolcine);ジアジコン(diaziquone);エルフォミチン(elfomithine);エリプチニウムアセテート(elliptinium acetate);エポチロン(epothilone);エトグルシド(etoglucid);硝酸ガリウム;ヒドロキシウレア;レンチナン(lentinan);ロニダミン(lonidamine);マイタンシノイド類、例えばマイタンシン (maytansine)およびアンサミトシン類(ansamitocins);ミトグアゾン(mitoguazone);ミトキサントロン(mitoxantrone);モピダモール(mopidamol);ニトラクリン(nitracrine);ペントスタチン(pentostatin);フェナメット(phenamet);ピラルビシン(pirarubicin);ポドフィリン酸(podophyllinic acid);2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標);ラゾキサン;リゾキシン(rhizoxin);シゾフィラン(sizofiran);スピロゲルマニウム(spirogermanium);テヌアゾン酸(tenuazonic acid);トリアジクオン(triaziquone);2,2’,2’’-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン類(trichothecenes)、(特にT-2トキシン、ベラクリン(verracurin)A、ロリジン(roridin)Aおよびアングイジン(anguidine));ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール(mitobronitol);ミトラクトール(mitolactol);ピポブロマン(pipobroman);ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(arabinoside)(“Ara-C”);シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド類(taxoids)、例えばパクリタキセル(paclitaxel)(TAXOL(登録商標)、Bristol-Myers Squibb Oncology)およびドキセタキセル(doxetaxel)(TAXOTERE(登録商標)、Rhone-Poulenc Rorer);クロラムブシル;ゲムシタビン(gemcitabine);6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキセート;プラチナ類似体、例えばシスプラチンおよびカルボプラチン;ビンブラスチン;プラチナ;エトポシド(VP-16);イホスファミド;マイトマイシンC;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン(vinorelbine);ナベルビン(navelbine);ノバントロン(novantrone);テニポシド(teniposide);ダウノマイシン(daunomycin);アミノプテリン;ゼローダ(xeloda);イバンドロネート(ibandronate);CPT-11;トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオミチン(difluoromethylomithine)(DMFO);レチノイン酸;カペシタビン(capecitabine);ならびに上記のいずれかの医薬的に許容できる塩類、酸類、または誘導体。腫瘍に対するホルモンの作用を調節または阻害するように作用する抗ホルモン剤、例えば次のものもこの定義に含まれる:例えばタモキシフェン、ラロキシフェン(raloxifene)、アロマターゼを阻害する4(5)-イミダゾール類、4-ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン(trioxifene)、ケオキシフェン(keoxifene)、LY117018、オナプリストン(onapristone)、およびトレミフェン(toremifene)(ファレストン(Fareston))を含む抗エストロゲン薬;ならびに抗アンドロゲン薬、例えばフルタミド(flutamide)、ニルタミド(nilutamide)、ビカルタミド(bicalutamide)、ロイプロリド(leuprolide)、およびゴセレリン(goserelin);siRNAならびに上記のいずれかの医薬的に許容できる塩類、酸類、または誘導体。本発明と共に用いることができる他の化学療法薬が、米国特許出願公開第2008/0171040号明細書または米国特許出願公開第2008/0305044号明細書において開示されており、それらをそのまま援用する。
【0116】
本発明の好ましい実施形態において、化学療法薬は低分子薬物である。低分子薬物は、好ましくは100~1500、より好ましくは120~1200まで、さらに好ましくは200~1000までの分子量を有する。典型的には約1000未満の分子量を有する有機、無機、または有機金属化合物を指して広く用いられる。また、本発明の低分子薬物は、約1000未満の分子量を有するオリゴペプチドおよび他の生体分子を含む。低分子薬物は当分野において、例えばとりわけ国際公開第05/058367号パンフレット、欧州特許出願公開第85901495号明細書および第8590319号明細書において、ならびに米国特許第4,956,303号明細書においてよく特性付けされており、それらをそのまま援用する。
【0117】
本発明の好ましい低分子薬物は、抗体への連結が可能な低分子薬物である。本発明には、既知の薬物および既知になる可能性がある薬物が含まれる。特に好ましい低分子薬物には細胞毒性薬物が含まれる。
【0118】
好ましい細胞毒性薬物はマイタンシノイド類、CC-1065類似体、モルホリノ類(morpholinos)、ドキソルビシン類、タキサン類(taxanes)、クリプトフィシン類(cryptophycins)、エポチロン類(epothilones)、カリケアマイシン類(calicheamicins)、アウリスタチン類(auristatins)、およびピロロベンゾジアゼピン(pyrrolobenzodiazepine)二量体類である。
【0119】
本発明の式(2)で示される、ヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールを含んで成る抗体-薬物複合体は、式(1)で示されるヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールを用いて抗体と薬物を結合させることで調製できる。前記式(2)で示される抗体-薬物複合体の調製方法は、前記式(1)で示されるヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールと薬物を結合させた後に抗体を結合させて調製しても、前記式(1)で示されるヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールと抗体を結合させた後に薬物を結合させて調製してもいずれでもよい。また、抗体または薬物のいずれか一方を結合させた後に精製を行っても、抗体と薬物の両方を結合させた後に精製を行ってもいずれでもよい。
【0120】
前記式(1)で示されるヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールと薬物を結合させた化合物は、例えばカラムクロマトグラフィー、抽出、再結晶、吸着剤処理、再沈殿、超臨界抽出等の精製手段にて精製することができる。また、前記式(1)で示されるヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールと抗体を結合させた化合物および抗体と薬物の両方を結合させた抗体-薬物複合体は、例えばカラムクロマトグラフィー、抽出、吸着剤処理等の精製手段にて精製することができる。
【0121】
本発明の式(1)で示されるヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールを介して抗体に結合した薬物の数は、1抗体あたりの薬物の平均数によって定義される。好ましい薬物の数は1~20であり、より好ましくは2~16であり、更に好ましくは3~12であり、特に好ましくは4~8である。
【0122】
ADCにおける1抗体あたりの薬物の数は、例えば紫外/可視分光法、質量分析法、ELISA法、電気泳動、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)、およびこれらを組み合わせた方法など、当業者に公知の方法によって決定され得る。
【0123】
本発明の式(2)におけるA1は、分岐部分の4級炭素原子とX2に結合する単分散ポリエチレングリコールとの間の2価のスペーサーであり、式(2)におけるB2は、分岐部分の4級炭素原子とY2との間の2価のスペーサーであり、式(2)におけるC2は、A1に結合する単分散ポリエチレングリコールとX2との間の2価のスペーサーであり、それぞれ共有結合で構成される。
【0124】
具体的には、A1は-L1-(CH2)m1-または-L1-(CH2)m1-L2-(CH2)m2-を表し、L1はエーテル結合、アミド結合、ウレタン結合、2級アミノ基または単結合を表し、L2はアミド結合またはウレタン結合を表し、m1およびm2はそれぞれ独立して1~5の整数を表す。
【0125】
また、B2は-L3-(CH2)m3-L6-、-L3-(CH2)m3-L4-(CH2)m4-L6-または-L6-を表し、L3はアミド結合または単結合を表し、L4はエーテル結合、アミド結合またはウレタン結合を表し、m3およびm4はそれぞれ独立して1~5の整数を表す。ここでL6は、前記式(1)で示されるヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールのY1に含まれる官能基と抗体または薬物に存在する官能基との反応で形成される原子団であり、好ましくはアミド結合、ウレタン結合、チオエーテル結合、ジスルフィド結合、カーボネート結合、エステル結合、エーテル結合、1H-1,2,3-トリアゾール-1,4-ジイル構造、2級アミノ基、ヒドラジド基、オキシアミド基もしくはこれらを含む炭化水素基である。
【0126】
また、C2は-L5-(CH2)m5-L7-、-O-CH2-L7-または-L7-を表し、L5はアミド結合、ウレタン結合、2級アミノ基または単結合を表し、m5は1~5の整数を表す。ここでL7は、前記式(1)で示されるヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールのX1に含まれる官能基と抗体または薬物に存在する官能基との反応で形成される原子団であり、好ましくはアミド結合、ウレタン結合、チオエーテル結合、ジスルフィド結合、カーボネート結合、エステル結合、エーテル結合、1H-1,2,3-トリアゾール-1,4-ジイル構造、2級アミノ基、ヒドラジド基、オキシアミド基もしくはこれらを含む炭化水素基である。
【実施例
【0127】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0128】
1H-NMR分析では、日本電子データム(株)製「JNM-ECP400」または「JNM-ECA600」を使用した。測定には、φ5mmチューブを用い、重水素化溶媒がCDCl3、CD2Cl2またはCD3ODの場合は、内部標準物質としてテトラメチルシラン(TMS)を使用した。
【0129】
(実施例1)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機、Dean-stark管および冷却管を装備した500mLの四つ口フラスコにトリスヒドロキシメチルアミノメタン(30.3g, 250mmol)、炭酸ナトリウム(5.30g, 50mmol)、脱水メタノール(237g)およびベンゾニトリル(5.15g, 50mmol)を仕込み、65℃にて24時間反応を行った。ろ過を行い、溶媒を減圧留去した後、イソプロピルアルコール、ジクロロメタンを加えて溶解し、10wt%食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過後、溶媒を減圧留去した。残渣をTHF(テトラヒドロフラン)に溶解し、ヘキサンを加えて結晶化を行い、ろ過することによって式(24)の化合物を得た。

1H-NMR (CDCl3, 内部標準TMS); δ(ppm):
3.06 (2H, brs, -OH),
3.65-3.81 (4H, dd, >C(CH 2 OH)2),
4.38 (2H, s, -CNO-CH 2 -),
7.32-7.83 (5H, m, arom. H)
【0130】
【化28】

【0131】
(実施例2)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌子、Dean-stark管および冷却管を装備した100mLの三つ口フラスコにドデカエチレングリコールモノメチルエーテル(10.4g, 18.5mmol)、トルエン(52.0g)、トリエチルアミン(2.44g, 24.1mmol)、塩化メタンスルホニル(2.34g, 20.4mmol)を仕込み、40℃にて3時間反応を行った。ジクロロメタンを加えて希釈した後に水洗を行い、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過後、溶媒を減圧留去し式(25)の化合物を得た。

1H-NMR (CDCl3, 内部標準TMS); δ(ppm):
3.08 (3H, s, -O-SO2-CH 3 ),
3.38 (3H, s, -O-CH 3 ),
3.45-3.85 (46H, m, CH3-O-(CH 2 CH 2 O)11-CH 2 CH2-O-SO2-CH3),
4.38 (2H, m, -CH 2 -O-SO2-CH3)
【0132】
【化29】

【0133】
(実施例3)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌子、Dean-stark管および冷却管を装備した50mLの三つ口フラスコに式(24)の化合物(0.21g, 1.01mmol)、脱水THF(7.70g)、式(25)の化合物(2.46g, 3.84 mmol)、1Mのt-ブトキシカリウムTHF溶液(3.72g, 4.04mmol)を仕込み、50℃にて4時間反応を行った。ジクロロメタン、25wt%食塩水を加えて水洗を行い、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過後、溶媒を減圧留去し式(26)の化合物を得た。

1H-NMR (CDCl3, 内部標準TMS); δ(ppm):
3.38 (6H, s, -O-CH 3 ),
3.40-3.75 (100H, m, >C(CH 2 O)2-, -O-(CH 2 CH 2 O)12-),
4.36 (2H, s, -CNO-CH 2 -),
7.37-7.94 (5H, m, arom.H)
【0134】
【化30】

【0135】
(実施例4)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌子、Dean-stark管および冷却管を装備した100mLの三つ口フラスコに式(26)の化合物(1.13g, 0.877mmol)、蒸留水(31.1g)を加え溶解させた。85%リン酸(0.43ml)を加えてpH 1.5に調整した後、50℃にて3時間反応を行った。次に冷却しながら400g/L水酸化ナトリウム水溶液(5.58ml)を加えた後、50℃にて6時間反応を行った。続いて、6N塩酸を加えてpH 2.0に調整した後、トルエン、クロロホルムを加えて洗浄を行った。25%食塩水となるように食塩を加えた後、400g/L水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH 12.5に調整した。トルエンを用いて抽出を行い、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過後、溶媒を減圧留去し式(27)の化合物を得た。

1H-NMR (CDCl3, 内部標準TMS); δ(ppm):
3.08 (1H, brs, -OH),
3.38 (6H, s, -O-CH 3 ),
3.40-3.80 (102H, m, >C(CH 2 O)2-, -O-(CH 2 CH 2 O)12-, >CNH2-CH 2 -OH)
【0136】
【化31】

【0137】
(実施例5)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌子、Dean-stark管および冷却管を装備した50 mLの三つ口フラスコに式(27)の化合物(1.50g, 1.24mmol)、31-(2,5-ジヒドロ-2,5-ジオキソ-1H-ピロール-1-イル)-29-オキソ-4,7,10,13,16,19,22,25-オクタオキサ-28-アザヘントリアコンタン酸(0.811g, 1.37mmol)、DMT-MM(0.377g, 1.37mmol)、アセトニトリル(15.0g)、トリエチルアミン(0.151g, 1.49mmol)を仕込み、25℃にて9時間反応を行った。pH 3.0のクエン酸緩衝液(18.0g)を加えた後、トルエンを用いて洗浄を行った。トルエン、クロロホルムを用いて抽出を行った後、pH 3.0クエン酸緩衝液、pH7.0のりん酸緩衝液を用いて水洗を行った。さらに、有機層を20%食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過後、溶媒を減圧留去し式(28)の化合物を得た。なお、DMT-MMは、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリドを表す。

1H-NMR (CD2Cl2, 内部標準TMS); δ(ppm):
2.46 (4H, m, -O-CH2CH 2 -CONH-, -CH 2 CH2-maleimide),
3.38 (6H, s, -O-CH 3 ),
3.45-3.79 (138H, m, >C(CH 2O)2-, -O-(CH 2 CH 2 O)12-, -CONH-(CH 2 CH 2 O)8-CH 2 CH2-CONH-, >CNH-CH 2 -OH, -CH 2 -maleimide)
4.65 (1H, t, -OH),
6.42 (1H, s, -O-CH2CH2-CONH-),
6.69 (2H, s, -maleimide),
6.72 (1H, s, -NH-CO-CH2CH2-maleimide)
【0138】
【化32】

【0139】
(実施例6)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌子、Dean-stark管および冷却管を装備した50mLの三つ口フラスコに式(28)の化合物(0.700g, 0.393mmol)、N-フェニルモルホリン(0.160g, 0.983mmol)、p-ニトロフェニルクロロホルメート(0.158g, 0.786mmol)、ジクロロメタン(5.22 g)を加え、25℃にて3時間反応を行った。蒸留水(0.042g, 2.36mmol)、N-フェニルモルホリン(0.160g, 0.983mmol)を加え、25℃にて2時間撹拌した後、ヘキサンを用いて希釈した。0.2M塩酸を用いて水洗後、さらにpH10のほう酸緩衝液、10%食塩水を用いて水洗を行った。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過後、溶媒を減圧留去し、残渣をアセトニトリルに溶解した。ヘキサン、t-ブタノールを加えて洗浄した後、溶媒を減圧留去して式(29)の化合物を得た。

1H-NMR (CDCl3, 内部標準TMS); δ(ppm):
2.44 (2H, t, -O-CH2CH 2 -CONH-),
2.51 (2H, t, -CONH-CH 2 CH2-maleimide),
3.38 (6H, s, -O-CH 3 ),
3.42 (2H, m, -CH 2 -CONH-CH2CH2-maleimide)
3.45-3.90 (134H, m, >C(CH 2 O)2-, -O-(CH 2 CH 2 O)12-, -CONH-CH2CH 2 O-(CH 2 CH 2O)7-CH 2 CH2-CONH-, -CH 2 -maleimide)
4.70 (2H, s, >CNH-CH 2 -OCOO-),
6.42 (1H, s, -NH-CO-CH2CH2-maleimide),
6.53 (1H, s, -O-CH2CH2-CONH-)
6.70 (2H, s, -maleimide)
7.39-8.29 (4H, m, arom.H)
【0140】
【化33】

【0141】
(実施例7)
撹拌子を入れた4 mlスクリュー管にドキソルビシン塩酸塩(6.8mg、 11.7μmol)、N,N-ジイソプロピルアミン(4.55mg、 35.0μmol)、N,N-ジメチルホルムアミド、および式(29)の化合物(20.6mg、 10.6μmol)を仕込み、4時間反応を行った。ジクロロメタンで希釈後、5wt%リン酸二水素ナトリウム・十二水和物水溶液を用いて水洗後、さらにイオン交換水を用いて水洗した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過後、溶媒を減圧留去し、式(30)の薬物-リンカー化合物を得た。

1H-NMR (CDCl3, 内部標準TMS); δ(ppm):
1.30(3H, m), 1.85-2.18(2H, s), 2.38-2.41(2H, m), 2.52(2H, t), 3.04(1H, s), 3.38(6H, s), 3.40-3.44(2H, m), 3.45-3.90(139H, m), 4.09(3H, s),4.32(2H, dd), 4.69(1H, s), 4.78(2H, d), 5.33(1H, s), 5.53(1H, s), 5.71(1H, d), 6.54(1H, s), 6.59(1H, t), 6.71(2H, s), 7.41(1H, d), 7.80(1H, t), 8.06(1H, d)
【0142】
【化34】

【0143】
(実施例8)
実施例7で得た式(30)の薬物-リンカー化合物について、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)カラムを用いたHPLC測定を下記の測定条件にて行った。測定波長495nmにおける結果のチャートを図1に示した。
・HPLC装置: Alliance (Waters)
・カラム: TSKgel Butyl-NPR (4.6×35mm、2.5μm;東ソー株式会社)
・流速: 0.8mL/分
・分析時間: 45分
・カラム温度: 25℃
・注入量: 100μL
・検出器: 紫外可視分光光度計(測定波長:280nmおよび495nm)
・移動相A: 1.5M硫酸アンモニウムを含む、50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)
・移動相B: 50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を80%とイソプロピルアルコールを20%含む混合溶液
・グラジエントプログラム: 0%-0%(0分-2.5分)、0%-100%(2.5分-35分)、100%-0%(35.1分-45分)
【0144】
(実施例9)
マウスで産生されたモノクローナル抗インターロイキン-1β抗体(0.500mg,Sigma-Aldrich)をリン酸緩衝食塩水(PBS,0.500mL)に溶解した。この溶液0.048mLを0.5mLのポリプロピレン製チューブに入れ、ここに50.0mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA,0.006mL)、0.800mMのトリス(2-カルボキシメチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)水溶液(0.006mL; 抗体に対して15当量)を加え、混合物を37℃で1時間振とうした。上記溶液へ、N,N-ジメチルアセトアミドと式(30)の化合物を2.50mM含む溶液(0.007mL; 抗体に対して53当量)を添加し、混合物を20℃で1時間さらに振とうした。N-アセチルシステインの2.50mM水溶液(0.007mL; 抗体に対して53当量)を添加し、得られた混合物を20℃で1時間さらに振とうした。PBS(10mL)を用いて平衡化したNAP-5カラム(GE Healthcare
Life Science)に上記で得られた溶液を充填し、PBSで溶出させることで、抗体画分を分取した。
【0145】
(実施例10)
抗体-薬物複合体における1抗体あたりの平均結合数は、抗体-薬物複合体水溶液の280nm及び495nmの二波長におけるUV吸光度を測定したのちに下記の計算を行うことで、算出することができる。
【0146】
ある波長における全吸光度は系内に存在する全ての吸収化学種の吸光度の和に等しい[吸光度の加成性]ことから、抗体と薬物の複合化反応前後において、抗体及び薬物のモル吸光係数に変化がないと仮定すると、抗体-薬物複合体における抗体濃度及び薬物濃度は、下記の関係式で示される。

280=AD,280+AA,280=εD,280D+εA,280A 式(i)
495=AD,495+AA,495=εD,495D+εA,495A 式(ii)
【0147】
ここで、A280は280nmにおける抗体-薬物複合体水溶液の吸光度を示し、A495は495nmにおける抗体-薬物複合体水溶液の吸光度を示し、AA,280は280nmにおける抗体の吸光度を示し、AA,495は495nmにおける抗体の吸光度を示し、AD,280は280nmにおける薬物-リンカー化合物の吸光度を示し、AD,495は495nmにおける薬物-リンカー化合物の吸光度を示し、εA,280は280nmにおける抗体のモル吸光係数を示し、εA,495は495nmにおける抗体のモル吸光係数を示し、εD,280は280nmにおける薬物-リンカー化合物のモル吸光係数を示し、εD,495は495nmにおける薬物-リンカー化合物のモル吸光係数を示し、CAは抗体-薬物複合体における抗体濃度を示し、CD は抗体-薬物複合体における薬物濃度を示す。
【0148】
ここで、εA,280、εA,495、εD,280、εD,495は、事前に用意した値(推定値もしくは化合物のUV測定から得られた実測値)が用いられる。εA,495は、通常、ゼロである。εD,280及びεD,495は、用いる薬物-リンカー化合物をあるモル濃度に溶解させた溶液の吸光度を測定することで、ランベルト・ベールの法則(吸光度=モル濃度×モル吸光係数×セル光路長)によって、得ることができる。抗体-薬物複合体水溶液のA280及びA495を測定し、これらの値を式(i)及び(ii)に代入して連立方程式を解くことによって、CA及びCDを求めることができる。さらにCDをCAで除することで1抗体あたりの薬物平均結合数が求めることができる。
モル吸光係数εA,280=206999(推定値)、εA,495=0、εD,280=12786(実測値)、εD,495=12558(実測値)を用いて上記の連立方程式を解き、1抗体あたりの薬物平均結合数は7.6であった。
【0149】
(比較例1)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌子、Dean-stark管および冷却管を装備した100mLの三つ口フラスコに2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(13.1g, 125mmol)、炭酸ナトリウム(2.65g, 25mmol)、脱水メタノール(19.8g)およびベンゾニトリル(2.58g, 25mmol)を仕込み、実施例1と同様に反応および精製を行い、式(31)の化合物を得た。

1H-NMR (CD3OD, 内部標準TMS); δ(ppm):
1.33 (3H, s, >CCH 3 -CH2-OH),
3.49-3.60 (2H, dd, >CCH3-CH 2 -OH),
4.10-4.53 (2H, dd, -CNO-CH 2 -),
7.43-7.93 (5H, m, arom.H)
【0150】
【化35】

【0151】
(比較例2)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌子、Dean-stark管および冷却管を装備した50mLの三つ口フラスコに式(31)の化合物(0.130g, 0.680mmol)、脱水THF(1.87g)、式(25)の化合物(0.651g, 1.02mmol)、1Mのt-ブトキシカリウムTHF溶液(0.928g, 1.02mmol)を仕込み、実施例3と同様に反応および精製を行い、式(32)の化合物を得た。

1H-NMR (CDCl3, 内部標準TMS); δ(ppm):
1.37 (3H, s, >CCH 3 -CH2-O-CH2-),
3.38 (3H, s, -O-CH 3 ),
3.40-3.80 (50H, m, >CCH3-CH 2 -O-CH2-, -O-(CH 2 CH 2 O)12-),
4.01-4.47 (2H, dd, -CNO-CH 2 -),
7.38-7.95 (5H, m, arom.H)
【0152】
【化36】

【0153】
(比較例3)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌子、Dean-stark管および冷却管を装備した50mLの三つ口フラスコに式(32)の化合物(0.160g, 0.218mmol)、蒸留水(4.40g)を加え溶解させた。85%リン酸(0.11ml)を加えてpHを1.5に調整した後、50℃にて6時間反応を行った。次に冷却しながら400g/L水酸化ナトリウム水溶液(1.40ml)を加えた後、50℃にて5時間反応を行った。続いて、6N塩酸を加えてpHを2.0に調整した後、トルエン、クロロホルムを加えて洗浄を行った。以降、実施例4と同様に精製を行い、式(33)の化合物を得た。

1H-NMR (CDCl3, 内部標準TMS); δ(ppm):
1.03 (3H, s, >CCH 3 -CH2-O-),
2.91 (1H, brs, -OH),
3.38 (3H, s, -O-CH 3 ),
3.30-3.85 (52H, m, >CCH3-CH 2 -O-CH2-, -O-(CH 2 CH 2 O)12-, >CCH3-CH 2 -OH)
【0154】
【化37】

【0155】
(比較例4)
撹拌子を入れた4 mlスクリュー管に式(33)の化合物(0.0920g, 0.142mmol)、6-マレイミドヘキサン酸(0.0345g, 0.163mmol)、DMT-MM(0.0564g, 0.163mmol)、アセトニトリル(0.980g)、トリエチルアミン(0.0172g, 0.170mmol)を仕込み、25℃にて5時間反応を行った。pH3.0のクエン酸緩衝液(1.10g)を加えた後、トルエンを用いて洗浄を行った。以降、実施例5と同様に精製を行い、式(34)の化合物を得た。

1H-NMR (CDCl3, 内部標準TMS); δ(ppm):
1.27 (3H, s, >CCH 3 -CH2-O-),
1.32 (2H, m,-CH 2 CH2CH2-CONH-),
1.63 (4H, m, -CH 2 CH2CH 2 CH2-CONH-),
2.18 (2H, t, -CH 2 -CONH-),
3.38 (3H, s, -O-CH 3 ),
3.40-3.80 (54H, m, >CCH3-CH 2 -O-CH2-, -O-(CH 2 CH 2 O)12-, >CCH3-CH 2 -OH, -CH 2 -maleimide)
4.62 (1H, brs, -OH),
6.20 (1H, s, -CH2-CONH-),
6.69 (2H, s, -maleimide)
【0156】
【化38】

【0157】
(比較例5)
撹拌子を入れた4mlスクリュー管に式(34)の化合物(0.050g, 0.0595mmol)、N-メチルモルホリン(0.0601g, 0.595 mmol)、炭酸(4-ビスニトロフェニル)(0.145g, 0.476mmol)、脱水アセトニトリル(0.467g)を加え、窒素雰囲気、25℃にて4時間反応を行った。蒸留水(0.030g, 1.67mmol)、N-メチルモルホリン(0.0361g, 0.357mmol)を加え、25℃にて6時間撹拌した後、ジクロロメタンを用いて希釈した。pH3.0のクエン酸緩衝液を用いて水洗後、さらにpH10.0のほう酸緩衝液、25%食塩水を用いて水洗を行った。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過後、溶媒を減圧留去し式(35)の化合物を得た。

1H-NMR (CDCl3, 内部標準TMS); δ(ppm):
1.32 (2H, m, -CH 2 CH2CH2-CONH-),
1.45 (3H, s, >CCH 3 -CH2-O-),
1.60 (4H, m, -CH 2 CH2CH 2 CH2-CONH-),
2.15 (2H, t, -CH 2 -CONH-),
3.38 (3H, s, -O-CH 3 ),
3.41-3.80 (52H, m, >CCH3-CH 2 -O-CH2-, -O-(CH 2 CH 2 O)12-, -CH 2 -maleimide),
4.51-4.59 (2H, dd, >CCH3-CH 2 -OCOO-),
5.92 (1H, s, -CH2-CONH-),
6.68 (2H, s, -maleimide),
7.39-8.29 (4H, m, arom. H)
【0158】
【化39】

【0159】
(比較例6)
撹拌子を入れた4mlスクリュー管にドキソルビシン塩酸塩(6.34mg、 10.9μmol)、N,N-ジイソプロピルアミン(2.95mg、 22.9μmol)、N,N-ジメチルホルムアミド、および式(35)の化合物(10.0mg、 9.94μmol)を仕込み、4時間反応を行った。その後、実施例7と同様に精製を行い、式(36)の薬物-リンカー化合物を得た。

1H-NMR (CDCl3, 内部標準TMS); δ(ppm):
1.25-1.34(8H, m), 1.55-1.65(4H, m), 1.75-1.88(2H, m),
2.06-2.10(2H, m), 2.16-2.38(2H, m), 2.88(1H, dd),
3.00(1H, s), 3.18(2H, dd) 3.38(3H, s),3.41-3.90(60H, m),
4.03-4.06(1H, m), 4.09(3H, s), 4.12-4.14(1H, m),
4.61(1H, s), 4.77(2H, d), 5.32(1H, s),
5.43-5.48(1H, m), 5.53(1H, s), 6.06(1H, d),
6.68(2H, s), 7.41(1H, d), 7.80(1H, t),8.06(1H, d)
【0160】
【化40】

【0161】
(比較例7)
比較例6で得た式(36)の薬物-リンカー化合物について、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)カラムを用いたHPLC測定を実施例8と同じ測定条件にて行った。測定波長495nmにおける結果のチャートを図2に示した。
【0162】
(比較例8)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌子、Dean-stark管および冷却管を装備した50mLの三つ口フラスコにテトラコサエチレングリコールモノメチルエーテル(2.05g, 1.88mmol)、トルエン(10.3g)、トリエチルアミン(0.552g, 5.45mmol)、塩化メタンスルホニル(0.478g, 4.17mmol)を仕込み、25℃にて8時間反応を行った。ジクロロメタンを加えて希釈した後に水洗を行い、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過後、溶媒を減圧留去し式(37)の化合物を得た。

1H-NMR (CDCl3, 内部標準TMS); δ(ppm):
3.09 (3H, s, -O-SO2-CH 3 ),
3.38 (3H, s, -O-CH 3 ),
3.45-3.85 (94H, m, CH3-O-(CH 2 CH 2 O)23-CH 2 CH2-O-SO2-CH3),
4.38 (2H, m, -CH 2 -O-SO2-CH3)
【0163】
【化41】

【0164】
(比較例9)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌子、Dean-stark管および冷却管を装備した50mLの三つ口フラスコに式(31)の化合物(0.174g, 0.910mmol)、脱水THF(2.86g)、式(37)の化合物(1.38g, 1.18 mmol)、1Mのt-ブトキシカリウムTHF溶液(1.82g, 2.00 mmol)を仕込み、実施例3と同様に反応および精製を行い、式(38)の化合物を得た。

1H-NMR (CDCl3, 内部標準TMS); δ(ppm):
1.37 (3H, s, >CCH 3 -CH2-O-CH2-),
3.38 (3H, s, -O-CH 3 ),
3.40-3.80 (98H, m, >CCH3-CH 2 -O-CH2-, -O-(CH 2 CH 2 O)24-),
4.01-4.47 (2H, dd, -CNO-CH 2 -),
7.38-7.95 (5H, m, arom.H)
【0165】
【化42】

【0166】
(比較例10)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌子、Dean-stark管および冷却管を装備した50mLの三つ口フラスコに式(38)の化合物(0.909g, 0.720mmol)、蒸留水(25.0g)を加え溶解させた。85%リン酸(0.250ml)を加えてpH 1.5に調整した後、50℃にて6時間反応を行った。次に冷却しながら400g/L水酸化ナトリウム水溶液(7.63ml)を加えた後、50℃にて10時間反応を行った。続いて、6N塩酸を加えてpHを2.0に調整した後、トルエン、クロロホルムを加えて洗浄を行った。以降、実施例4と同様に精製を行い、式(39)の化合物を得た。

1H-NMR (CDCl3, 内部標準TMS); δ(ppm):
1.03 (3H, s, >CCH 3 -CH2-O-),
3.00 (1H, brs, -OH),
3.38 (3H, s, -O-CH 3 ),
3.30-3.85 (100H, m, >CCH3-CH 2 -O-CH2-, -O-(CH 2 CH 2 O)24-, >CCH3-CH 2 -OH)
【0167】
【化43】

【0168】
(比較例11)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌子、Dean-stark管および冷却管を装備した50mLの三つ口フラスコに式(39)の化合物(0.729g, 0.620mmol)、6-マレイミドヘキサン酸(0.164g, 0.775mmol)、DMT-MM(0.214g, 0.775mmol)、アセトニトリル(7.29g)、トリエチルアミン(0.082g, 0.806mmol)を仕込み、25℃にて3時間反応を行った。pH3.0のクエン酸緩衝液(8.75g)を加えた後、トルエンを用いて洗浄を行った。以降、実施例5と同様に精製を行い、式(40)の化合物を得た。

1H-NMR (CDCl3, 内部標準TMS); δ(ppm):
1.23 (3H, s, >CCH 3 -CH2-O-),
1.32 (2H, m, -CH 2 CH2CH2-CONH-),
1.63 (4H, m, -CH 2 CH2CH 2 CH2-CONH-),
2.18 (2H, t, -CH 2 -CONH-),
3.38 (3H, s, -O-CH 3 ),
3.40-3.80 (102H, m, >CCH3-CH 2 -O-CH2-, -O-(CH 2 CH 2 O)24-, >CCH3-CH 2 -OH, -CH 2 -maleimide)
4.71 (1H, brs, -OH),
6.26 (1H, s, -CH2-CONH-),
6.69 (2H, s, -maleimide)
【0169】
【化44】

【0170】
(比較例12)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌子、Dean-stark管および冷却管を装備した50mLの三つ口フラスコに式(40)の化合物(0.600g, 0.438mmol)、N-フェニルモルホリン(0.179g, 1.10mmol)、p-ニトロフェニルクロロホルメート(0.177g, 0.876mmol)、ジクロロメタン(5.81g)を加え、25℃にて3時間反応を行った。蒸留水(0.047g, 2.63mmol)、N-フェニルモルホリン(0.179g, 1.10mmol)を加え、25℃にて6時間撹拌した後、ヘキサンを用いて希釈した。以降、実施例6と同様に精製を行い、式(41)の化合物を得た。

1H-NMR (CDCl3, 内部標準TMS); δ(ppm):
1.28 (2H, m, -CH 2 CH2CH2-CONH-),
1.41 (3H, s, >CCH 3 -CH2-O-),
1.63 (4H, m, -CH 2 CH2CH 2 CH2-CONH-),
2.15 (2H, t, -CH 2 -CONH-),
3.38 (3H, s, -O-CH 3 ),
3.41-3.80 (100H, m, >CCH3-CH 2 -O-CH2-, -O-(CH 2 CH 2 O)24-, -CH 2 -maleimide),
4.51-4.60 (2H, dd, >CCH3-CH 2 -OCOO-),
6.01 (1H, s, -CH2-CONH-),
6.69 (2H, s, -maleimide),
7.38-8.36 (4H, m, arom.H)
【0171】
【化45】

【0172】
(比較例13)
撹拌子を入れた4 mlスクリュー管にドキソルビシン塩酸塩(5.40mg、 9.31μmol)、N,N-ジイソプロピルアミン(2.51mg、 19.4μmol)、N,N-ジメチルホルムアミド、および式(35)の化合物(13.0mg、 8.47μmol)を仕込み、4時間反応を行った。その後、実施例7と同様に精製を行い、式(42)の薬物-リンカー化合物を得た。

1H-NMR (CDCl3, 内部標準TMS); δ(ppm):
1.25-1.34(8H, m), 1.55-1.65(4H, m), 1.75-1.88(2H, m), 2.06-2.10(2H, m), 2.16-2.38(2H, m), 2.88(1H, dd), 3.00(1H, s), 3.18(2H, dd), 3.38(3H, s), 3.41-3.90(103H, m), 4.03-4.06(1H, m), 4.09(3H, s), 4.12-4.14(1H, m), 4.61(1H, s), 4.77(2H, d), 5.32(1H, s), 5.43-5.48(1H, m), 5.53(1H, s), 6.06(1H, d), 6.68(2H, s), 7.41(1H, d), 7.80(1H, t), 8.06(1H, d)
【0173】
【化46】

【0174】
(比較例14)
比較例13で得た式(42)の薬物-リンカー化合物について、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)カラムを用いたHPLC測定を実施例8と同じ測定条件にて行った。測定波長495nmにおける結果のチャートを図3に示した。
【0175】
比較例である式(36)の薬物-リンカー化合物は、図2のチャートの保持時間14.3分に、また式(42)の薬物-リンカー化合物は、図3のチャートの保持時間14.3分に検出され、単分散ポリエチレングリコールの鎖長に依らず同程度の保持時間となった。一方、本発明である式(30)の薬物-リンカー化合物は、図1のチャートの保持時間11.7分に検出された。したがって、保持時間が短い式(30)の薬物-リンカー化合物の方が疎水性が低いことから、本発明のヘテロ二官能性単分散ポリエチレングリコールは、薬物の疎水性を効果的に遮蔽できることが示された。
図1
図2
図3