(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】引張センサ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01L 5/10 20200101AFI20230106BHJP
G01L 1/14 20060101ALI20230106BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20230106BHJP
【FI】
G01L5/10 Z
G01L1/14 J
B32B7/025
(21)【出願番号】P 2018129543
(22)【出願日】2018-07-06
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143085
【氏名又は名称】藤飯 章弘
(72)【発明者】
【氏名】鴻野 勝正
(72)【発明者】
【氏名】山本 大策
【審査官】岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/56062(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/204323(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/075703(WO,A1)
【文献】特開2017-75847(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 5/00- 5/28
G01L 1/00- 1/26
G01B 7/00- 7/34
B32B 7/00- 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性を有する誘電体層と、前記誘電体層の一方面及び他方面のそれぞれに設けられる伸縮性を有する第1導電層及び第2導電層とを有する短冊状のセンサ本体を備えており、
前記第1導電層は、
金属メッキ糸又は金属線を含む導電性糸から形成される帯状の第1電極部を備え、
前記誘電体層は、高融点樹脂層と、前記高融点樹脂層の両面上にそれぞれ設けられる第1低融点樹脂層及び第2低融点樹脂層とを備え、
前記第1電極部は、前記第1低融点樹脂層の少なくとも一部が含浸されて配置されており、
伸縮に伴う前記第1導電層と前記第2導電層との間における静電容量変化を検出可能な引張センサ。
【請求項2】
前記高融点樹脂層の融点は、前記第1低融点樹脂層及び前記第2低融点樹脂層の融点よりも40℃以上高いことを特徴とする請求項1に記載の引張センサ。
【請求項3】
前記第2導電層は、導電性糸から形成される帯状の第2電極部を備えており、
前記第2電極部は、前記誘電体層を介して前記第1電極部に対向する位置において、前記第2低融点樹脂層の少なくとも一部が含浸されて配置されている請求項1または2に記載の引張センサ。
【請求項4】
前記センサ本体の一方面側が積層配置される伸縮性基布を備えており、
前記伸縮性基布は、伸縮異方性を有している請求項1から請求項3のいずれかに記載の引張センサ。
【請求項5】
前記センサ本体の一方面側が積層配置される筒状の伸縮性基布を備えており、
前記センサ本体は、その長手方向が、前記筒状の伸縮性基布の周方向に沿う方向に配置されており、
前記筒状の伸縮性基布の周方向に沿って配置される帯状の伸縮調整層を更に備え、
前記伸縮調整層の一方端は、少なくとも前記センサ本体の一方端の近傍に配置されており、前記伸縮調整層の他方端は、少なくとも前記センサ本体の他方端の近傍に配置されており
前記センサ本体及び前記伸縮調整層は、筒状の伸縮性基布上に環状の構造を構成する請求項1から請求項4のいずれかに記載の引張センサ。
【請求項6】
前記伸縮調整層は、前記高融点樹脂層と同一の材料を含んで形成されている請求項5に記載の引張センサ。
【請求項7】
高融点樹脂層及び前記高融点樹脂層の両面上にそれぞれ設けられる低融点樹脂層を備える伸縮性を有する誘電体層の一方面及び他方面に、
金属メッキ糸又は金属線を含む導電性糸から形成される帯状の第1電極部を備え編地構造又は織地構造として構成される第1導電層と、
金属メッキ糸又は金属線を含む導電性糸から形成される帯状の第2電極部を備え編地構造又は織地構造として構成される第2導電層とをそれぞれ配置する積層ステップと、
前記低融点樹脂層を加熱して流動可能状態とする加熱ステップと、
前記第1導電層及び前記第2導電層を互いに近接するように押圧して、流動可能状態の前記低融点樹脂層を前記第1導電層及び前記第2導電層に含浸させつつ、前記第1電極部と前記第2電極部との面間距離を狭める押圧ステップとを備える引張センサの製造方法。
【請求項8】
押圧ステップは、前記第1導電層及び第2導電層を、非流動状態の前記高融点樹脂層を介して当て止めする請求項7に記載の引張センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引張センサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から検知対象物に取り付け、当該検知対象物の伸び等の動きを検出する引張センサが多種多様に知られており、近年、特許文献1に開示されているように、導電性の繊維と非導電性の繊維を混ぜ合わせた混紡糸から成る編物又は織物として構成される引張センサが開発されつつある。
【0003】
特許文献1に開示の引張センサは、複数の導電糸を含んで構成された編物又は織物を一方向に伸縮自在にすると共に、絶縁状態が維持されるように構成される導電糸同士の伸縮に伴う間隔変化から静電容量の変化を検出しようとするものである。このような引張センサによれば、編物又は織物の伸縮を静電容量として検出するため、導電糸に電圧は印加されても電流は流れず、この部分での消費電力はゼロとすることができ、消費電力を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1に開示されている引張センサは、織物や編物としてのみ構成されるものであることから、使用を継続して伸縮を繰り返すことによりその伸縮性が損なわれやすく、長期にわたって精度良く、検知対象物の変形状態や、作用する引張力の有無、当該引張力の値を検出することが難しいという問題があった。
【0006】
また、例えば、検知対象に引張センサを設置して該検知対象の変形等を検知する際に、該引張センサに他の何らかの誘電体または導体が近接すると、その誘電体または導体の近接に基づくノイズ信号が、本来取得したい検知対象の変形等に関する信号に混入してしまい、高精度で検知対象物の伸び等の動きを検出することが難しいという問題もあった。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであって、使用を継続しても検出精度が低下しにくく、また、ノイズの影響を受けにくい高精度な引張センサ、及び、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、伸縮性を有する誘電体層と、前記誘電体層の一方面及び他方面のそれぞれに設けられる伸縮性を有する第1導電層及び第2導電層とを有する短冊状のセンサ本体を備えており、前記第1導電層は、金属メッキ糸又は金属線を含む導電性糸から形成される帯状の第1電極部を備え、前記誘電体層は、高融点樹脂層と、前記高融点樹脂層の両面上にそれぞれ設けられる第1低融点樹脂層及び第2低融点樹脂層とを備え、前記第1電極部は、前記第1低融点樹脂層の少なくとも一部が含浸されて配置されており、伸縮に伴う前記第1導電層と前記第2導電層との間における静電容量変化を検出可能な引張センサにより達成される。
【0009】
この引張センサにおいて、前記高融点樹脂層の融点は、前記第1低融点樹脂層及び前記第2低融点樹脂層の融点よりも40℃以上高いことが好ましい。
【0010】
また、前記第2導電層は、導電性糸から形成される帯状の第2電極部を備えており、前記第2電極部は、前記誘電体層を介して前記第1電極部に対向する位置において、前記第2低融点樹脂層の少なくとも一部が含浸されて配置されていることが好ましい。
【0011】
また、前記センサ本体の一方面側が積層配置される伸縮性基布を備え、前記伸縮性基布が、伸縮異方性を有するように構成してもよい。
【0012】
また、前記センサ本体の一方面側が積層配置される筒状の伸縮性基布を備えており、前記センサ本体は、その長手方向が、前記筒状の伸縮性基布の周方向に沿う方向に配置されており、前記筒状の伸縮性基布の周方向に沿って配置される帯状の伸縮調整層を更に備え、前記伸縮調整層の一方端は、少なくとも前記センサ本体の一方端の近傍に配置されており、前記伸縮調整層の他方端は、少なくとも前記センサ本体の他方端の近傍に配置されており前記センサ本体及び前記伸縮調整層は、筒状の伸縮性基布上に環状の構造を構成するようにしてもよい。
【0013】
また、前記伸縮調整層は、前記高融点樹脂層と同一の材料を含んで形成されていることが好ましい。
【0014】
また、本発明の上記目的は、高融点樹脂層及び前記高融点樹脂層の両面上にそれぞれ設けられる低融点樹脂層を備える伸縮性を有する誘電体層の一方面及び他方面に、金属メッキ糸又は金属線を含む導電性糸から形成される帯状の第1電極部を備え編地構造又は織地構造として構成される第1導電層と、金属メッキ糸又は金属線を含む導電性糸から形成される帯状の第2電極部を備え編地構造又は織地構造として構成される第2導電層とをそれぞれ配置する積層ステップと、前記低融点樹脂層を加熱して流動可能状態とする加熱ステップと、前記第1導電層及び前記第2導電層を互いに近接するように押圧して、流動可能状態の前記低融点樹脂層を前記第1導電層及び前記第2導電層に含浸させつつ、前記第1電極部と前記第2電極部との面間距離を狭める押圧ステップとを備える引張センサの製造方法により達成される。
【0015】
また、この引張センサの製造方法において、押圧ステップは、前記前記第1導電層及び第2導電層を、非流動状態の前記高融点樹脂層を介して当て止めすることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、使用を継続しても検出精度が低下しにくく、また、ノイズの影響を受けにくい高精度な引張センサ、及び、その製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(a)は、本発明に係る引張センサを示す概略構成平面図であり、(b)は、その概略構成裏面図である。
【
図2】
図1(a)におけるA-A断面を示す概略構成断面図である。
【
図3】
図2における誘電体層の構造を説明するための概略構成断面図である。
【
図4】本発明に係る引張センサが備える第1電極部や第2電極部の編地断面を示す一例であって、( a ) は非伸長時であり( b ) は伸長時である。
【
図5】本発明に係る引張センサの製造方法を説明するためのブロック図である。
【
図6】本発明に係る引張センサの変形例を示す概略構成断面図である。
【
図7】(a)は、本発明に係る引張センサの変形例を示す概略構成斜視図であり、(b)は、当該変形例が有する伸縮調整層を備えない構成を示す概略構成斜視図である。
【
図8】(a)は、本発明に係る引張センサの変形例を示す概略構成平面図、(b)は、そのA’-A’断面を示す概略構成断面図、(c)は、概略構成裏面図である。
【
図9】本発明に係る引張センサの変形例を示す概略構成断面図である。
【
図10】本発明に係る引張センサの変形例を示す概略構成断面図である。
【
図11】(a)は、本発明に係る引張センサのサンプルAに関する概略構成平面図、(b)は、そのA”-A”断面を示す概略構成断面図、(c)は、概略構成裏面図である。
【
図12】サンプルAの伸長率と、検出された静電容量の値との関係を示すグラフである。
【
図13】ノイズ影響確認試験に供したサンプルCを説明するための概略構成断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態にかかる引張センサについて、添付図面を参照して説明する。なお、図面においては、構成の理解を容易ならしめるために部分的に拡大・縮小している。
図1(a)は、本発明に係る引張センサ1が備えるセンサ本体1aの概略構成平面図であり、
図1(b)は、その概略構成裏面図である。また、
図2は、
図1(a)のA-A断面を示す概略構成断面図である。本発明に係る引張センサ1が備えるセンサ本体1aは、例えば、生体の呼吸情報(例えば、呼吸の有無、呼吸サイクル等)や体動情報(例えば、四肢の動作に関する情報)を取得するセンサを構成するものであり、物体の変形を検知する歪センサとして利用可能なセンサである。このセンサ本体1aは、
図1や
図2に示すように、平面視短冊状の形態を有しており、誘電体層2と、当該誘電体層2の一方面及び他方面のそれぞれに設けられる第1導電層3及び第2導電層4を備えている。このセンサ本体1aは、誘電体層2と、当該誘電体層2を間に挟んだ第1導電層3及び第2導電層4とによりコンデンサを構成するものであり、伸縮に伴う第1導電層3と第2導電層4との間における容量変化を検出可能なセンサである。
【0019】
誘電体層2は、伸縮性を有するように構成されており、
図3の断面図に示すように、シート状の高融点樹脂層21と、該高融点樹脂層21の両面上にそれぞれ設けられるシート状の第1低融点樹脂層22及び第2低融点樹脂層23とを備えるように構成されている。また、この誘電体層2は、第1導電層3及び第2導電層4が積層された状態であってもそれらを通電させることのない絶縁性を備えるように構成されている。誘電体層2の電気抵抗率は、10
6Ω・cm以上、10
18Ω・cm以下であることが好ましい。
【0020】
また、高融点樹脂層21の材料としては、熱可塑性エラストマーを例示することができる。特に、ウレタンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、エチレン・プロピレンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレン・酢酸ビニルゴム、エピクロロヒドリンゴムの如くの各種ゴム材料が挙げられる。また、上記材料に添加剤を加えてもよい。例えば、誘電率調整、柔らかくする可塑剤、伸びやすくする添加剤等が挙げられる。なお、添加剤は誘電体層2を絶縁破壊しない材料を選択する必要がある。また、高融点樹脂層21は、その融点が150°以上のものを好適に使用することができ、180℃以上の融点を有するものがより好ましく、更には200°以上の融点を有するものがより好ましい。
【0021】
第1及び第2低融点樹脂層22.23の材料としては、上記高融点樹脂層21の材料において例示したものを使用することができる。また、第1及び第2低融点樹脂層22.23は、その融点が110°以上のものを好適に使用することができ、120°以上のものがより好ましい。ここで、第1及び第2低融点樹脂層22,23、並びに、高融点樹脂層21としては、例えば、共にポリウレタンゴムから形成するというように、同一カテゴリーに含まれる熱可塑性エラストマーを用いて形成することができる。また、高融点樹脂層21としては、その融点が、第1及び第2低融点樹脂層22,23の融点よりも40℃以上高いものを使用することが好ましい。また、より好ましくは、60℃以上高いものを、更に好ましくは80℃以上高いものを使用するのがよい。
【0022】
また、高融点樹脂層21を形成する材料として、例えば、高融点の発泡ウレタンゴムを採用し、内部に微小な空隙を備えるスポンジ状として誘電体層2を構成してもよい。このようなスポンジ状に構成することにより、引っ張り状態が解放された際に、誘電体層2が初期形態(伸長する前の形態)に戻り易くすることができる。
【0023】
ここで、高融点樹脂層21の厚みは、特に限定されないが、5μm~100μmの範囲に設定することが好ましく、10μm~75μmの範囲に設定することがより好ましい。更に、20μm~60μmの範囲に設定することがより好ましい。また、第1低融点樹脂層22及び第2低融点樹脂層23の厚みも特に限定されないが、上記の高融点樹脂層21の厚みと同程度の厚みを有するように構成することが好ましい。
【0024】
第1導電層3は、
図1や
図2に示すように、帯状の第1電極部31を備えると共に、第1電極部31の両側に帯状の第1非導電部32を備えて構成されている。第2導電層4は、第1導電層3と同一の構成を有しており、帯状の第2電極部41を備えると共に、第2電極部41の両側に帯状の第2非導電部42を備えて構成されている。なお、第1導電層3が有する第1電極部31及び第1非導電部32の長手方向や、第2導電層4が有する第2電極部41や第2非導電部42の長手方向は、短冊状のセンサ本体の長手方向に沿う方向となるように設定している。また、短冊状のセンサ本体の伸長方向は特に限定されないが、センサ本体の長手方向に沿って伸長可能となるように構成してもよい。
【0025】
これら第1導電層3及び第2導電層4の一方面側は、
図2に示すように、誘電体層2が備える第1低融点樹脂層22及び第2低融点樹脂層23に埋設された状態で配設されている。つまり、第1電極部31は、第1低融点樹脂層22の少なくとも一部が含浸された状態で配置されており、第2電極部41は、第2低融点樹脂層23の少なくとも一部が含浸された状態で配置されている。このような配置関係であるため、第1導電層3及び第2導電層4は、実質的に、誘電体層2が備える高融点樹脂層21を介した両面側にそれぞれ対向配置される構造を有することになる。
【0026】
また、第1導電層3は、伸縮性を有するように構成されており、例えば、第1電極部31を構成するための導電性糸と、各第1非導電部32を構成するための非導電性糸とを用いて製編或いは製織された生地(編織された生地)として構成することが好ましい。第2導電層4についても同様であり、第2電極部41を構成するための導電性糸と、各第2非導電部42を構成するための非導電性糸とを用いて製編或いは製織された生地として構成することが好ましい。本実施形態においては、編成することにより構成された編地構造を有する生地として第1導電層3(第1電極部31及び第1非導電部32)及び第2導電層4(第2電極部41及び第2非導電部42)が形成されている。なお、編地構造は特に限定されず、例えば、フライス編、スムース編、パール編、平編又はそれらの変化組織(例えば、ミラノリブや段ボールニットなど)や、トリコット編、ラッシェル編、ミラニーズ編等の各種編地構造を採用することができる。また、第1導電層3及び第2導電層4を織地として構成する場合、織地構造としては、平織、綾織、朱子織等の織り方を例示できる。なお、第1導電層3及び第2導電層4の製造方法は、上記方法に限定されず、例えば、非導電繊維によってまず生地本体を製編或いは製織した後、所定部分に導電性糸を編み込み、或いは、刺繍等して第1電極部31(或い第2電極部41)を形成し製造することもできる。
【0027】
ここで、第1電極部31や第2電極部41を構成するための導電性糸としては、例えば、合成繊維(例えば、ポリエステル繊維やナイロン繊維等)や天然繊維等を芯として、この芯に湿式や乾式のコーティング、メッキ、真空成膜、その他の適宜被着法を行って金属成分を被着させた金属被着糸(メッキ糸)を使用することができる。芯には、モノフィラメントを採用することも可能ではあるが、モノフィラメントよりも、複数の単繊維の集合体であるマルチフィラメントや紡績糸のほうが好ましく、更にはウーリー加工糸やSCY、DCYなどのカバリング糸、毛羽加工糸などの嵩高加工糸がより好ましい。芯に被着させる金属成分には、例えばアルミ、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、錫、亜鉛、鉄、銀、金、白金、バナジウム、モリブデン、タングステン、コバルト等の純金属やそれらの合金、ステンレス、真鍮等を使用することができる。また、導電性糸としては、例えば、アルミ、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、錫、亜鉛、鉄、銀、金、白金、バナジウム、モリブデン、タングステン、コバルト等の純金属やそれらの合金、ステンレス、真鍮等により形成された糸状或いは細短冊状の金属線や、炭素繊維等の導電性繊維から形成した糸を使用することができる。また、合成繊維や天然繊維等を芯として、この芯に金属繊維を巻回したカバリングヤーンを導電性糸として使用してもよい。
【0028】
導電性糸の太さは、特に限定されるものではないが、その単線一本あたりの線径は、例えば、10~100μmのものとするのが好適である。中でも10~50μmとすることで、第1導電層3や第2導電層4自体(第1電極部31や第2電極部41自体)のフレキシブル性と耐久性が両立しやすく、特に好ましい。
【0029】
また、導電性糸として金属線を用いる場合、絶縁被覆層によりその表面を被覆してもよい。絶縁被覆層により被覆された金属線は、モノフィラメントでもよいし、マルチフィラメントでもよく、特に2~9本、より好ましくは3~7本を束ねて1本の糸条として用いるのが好ましい。このように絶縁被覆層によって金属線を被覆することにより、引張センサ1が伸縮する際の抵抗変化が小さくなり、伸縮に伴う容量変化を精度よく検出することが可能となる。また、防水性、耐久性が向上し、長期間使用可能な引張センサ1を得ることができる。
【0030】
絶縁被覆層として使用可能な材料の具体名を挙げれば枚挙に暇がないが、その一例を列挙すれば次の通りである。すなわち、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン(ナイロン6やナイロン66等であって、アミド結合により長く連続した鎖状の合成高分子を紡糸して繊維化したポリアミド系の合成繊維の総称)、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、PFA、PVDF、ETFE等のフッ素系樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネイト、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ホルマール(ポリビニルホルマール)、ブチラール(ポリビニルブチラール)などである。なお、絶縁被覆層として使用可能な材料は、これらの樹脂種に限定されない。また、例示したような樹脂で絶縁コーティングした金属線はエナメル被覆の金属線とも呼ばれる。
【0031】
絶縁被覆層で金属線を被覆する方法としては、溶融素材の塗布から乾燥に至る一般的な被覆法を採用すればよい。その他、金属線を芯材とし、繊維状(糸状)の絶縁被覆材(例えば、上記の絶縁被覆層として使用可能な材料から形成した糸や綿糸)をカバー材としてカバリング糸(SCYやDCY)を構成させる方法、さらには前記カバリング糸を加熱溶融して塗膜化する方法などを採用することも可能である。
【0032】
また、絶縁被覆層により被覆された導電性糸において、絶縁被覆層を形成する材料は、半田の溶融温度(おおよそ170℃~250℃)で溶融することに加え、柔軟性や伸縮牲を備えているものが推奨される。すなわち、絶縁被覆層には、半田の溶融温度に比べて同等以下の融点を有する熱可塑性樹脂を使用するのが好適である。半田付けが短時間で行え、しかも溶融した絶縁被覆層が確実に焼失又は収縮して半田箇所を邪魔することなく、確実な導通が得られるようにするうえでは、半田の溶融温度の範囲内において、低温域に融点があるもの(目安の一例として「150℃以下」を挙げることができる)が好適と言える。
【0033】
ここで、絶縁被覆層の選出には融点だけが条件とされるものではなく、絶縁被覆層が導電性糸を被覆する厚さ等についても条件の一つとされる。例えば、絶縁被覆層の融点が高め(目安を150℃とした場合それを超える温度を言う)であったとしても、被覆厚が薄ければ、半田付け時に比較的容易に溶融することになるので、絶縁被覆層として使用可能となる。
【0034】
なお、前記説明では、半田の溶融温度における目安の一例として150℃を挙げたが、この溶融温度は絶縁被覆層に選出する樹脂によって変動する。例えば、ポリエステルや変性ポリエステル、ポリエステル-ナイロンなどでは155℃とすべきであり、ホルマールでは105℃、ポリウレタンでは130℃、ポリエステルイミドでは180℃とするのがよい、といった具合である。
【0035】
なお、導電性糸に伸縮性糸を混用して第1電極部31や第2電極部41を構成してもよい。伸縮性糸を混用することで、第1電極部31や第2電極部41の伸縮性を向上させることができる。また、伸縮性糸は非導電性糸であることが好ましい。伸縮性糸には、ポリウレタンやゴム系のエラストマー材料を単独で用いてもよいし、「芯」にポリウレタンやゴム系のエラストマー材料を用い、「カバー」にナイロンやポリエステルを用いたカバリング糸などを採用することができる。このようなカバリング糸を採用することで、親水性、撥水性、耐食・防食性、カラーリング等の機能を付与させることができる。また肌触りの向上や伸びの制御にも有用である。
【0036】
ここで、静電容量の変化を正確に検出するという観点から、第1電極部31は、0%伸長時の電気抵抗値に対する50%伸長時の電気抵抗値の抵抗変化率(%)が、20%以下となるように構成することが好ましく、10%以下となるように構成することがより好ましい。更に、5%以下となるように構成することがより一層好ましい。同様に、第2電極部41も、0%伸長時の電気抵抗値に対する50%伸長時の電気抵抗値の抵抗変化率が、20%以下となるように構成することが好ましく、10%以下となるように構成することがより好ましい。更に、5%以下となるように構成することがより一層好ましい。ここで、抵抗変化率(%)は、[(50%伸長率における電気抵抗値)-(0%伸長率時の電気抵抗値)]/(0%伸長率時の電気抵抗値)×100%として算出される。
【0037】
また、第1電極部31や第2電極部41について、0%伸長時の電気抵抗値に対する50%伸長時の電気抵抗値の抵抗変化率(%)を低く抑えるために、
図4(a)(b)に示すような編地構造を採用することもできる。この
図4(a)(b)にて示される編地構造は、スムース編(両面編又はインターロックとも言う)であり、フライス編を2枚重ね合わせてお互いの凹凸の溝を埋め合ったような編組織であり、導電性糸10と伸縮性糸11とにより構成している。なお、導電性糸10と伸縮性糸11とが含まれていれば、その他に別種の糸を混用させることは任意である。
図4(a)の上面側を編地表面側とし、同下面側を編地裏面側として説明すると、導電性糸10は、編地表面側の導電性糸オールドループ10aと絡んで第1ループP1を形成し、編地裏面側へ移行する。そして編地裏面側の導電性糸オールドループ10bと絡んで第2ループP2を形成し、以後同様に編地表面側で第3ループP3を形成し、編地裏面側で第4ループP4を形成するといったことを繰り返す。従って導電性糸10は、編地中を表裏間方向にジグザグ状となる配置で設けられている。
【0038】
これに対して伸縮性糸11は、編地裏面側の伸縮性糸オールドループ11aと絡んで第1ループR1を形成し、編地表面側へ移行する。そして、編地表面側の伸縮性糸オールドループ11bと絡んで第2ループR2を形成し、以後同様に編地裏面側で第3ループR3を形成し、編地表面側で第4ループR4を形成するといったことを繰り返す。従って伸縮性糸11も、編地中を表裏間方向にジグザグ状となる配置で設けられている。その結果、編地中には、導電性糸10と伸縮性糸11とのクロス部13がループ毎に交互配置で形成されることになる。
【0039】
ここで、伸縮性糸11は豊富な伸縮性を有しているのに対して導電性糸10は殆ど伸縮しない。そのため、編地構造をその表裏面の面方向(
図4の左右方向)に沿って伸長させると、クロス部13では、伸縮性糸11が導電性糸10と交差することで編地の表裏面側に生じさせているクロス角θを徐々に拡大させ、鈍角となる状況を経て、次第に伸縮性糸11だけがよく伸びてゆくようになる。次に、この伸縮性糸11の伸びに引っ張られるようにして導電性糸10がそのループからクロス部13へと繰り出される挙動が生じる。また、伸長を解除すると、クロス部13では伸縮性糸11だけが収縮による引き締め力を生じ、この引き締め力を受けて導電性糸10がクロス部13からその両外側のループへと押し込める挙動が生じる。このときの伸縮性糸11による引き締め力が、非伸縮時の編地構造において、導電性糸10のジグザグ状配置を保形させる作用を奏することになる。
【0040】
このように導電性糸10は、ループからクロス部13への繰り出しや押し込みによってループを小さくさせたり大きくさせたりするだけでありながら、伸縮性糸11の伸縮に合わせて一緒に伸び縮みをしているかのようになり、編地構造は、
図4(b)に示すような伸縮性を有するものとなっている。この説明から明らかなように、導電性糸10は実質的に伸縮するものではないので、コース方向で使用された全長は変化せず、もとよりその外径も変化しない。のみならず、導電性糸10はコース方向に並ぶループ同士が接触することがなく、複数のコース間で絡まったり接触したりすることもなく、電気抵抗は不変となる。
【0041】
また、第1電極部31は、0%伸長時の単位長さ(1cm)あたりの電気抵抗値が50Ω以下となるように構成することが好ましく、10Ω以下となるように構成することがより好ましい。更に、5Ω以下となるように構成することがより一層好ましい。同様に、第2電極部41は、0%伸長時の単位長さ(1cm)あたりの電気抵抗値が50Ω以下となるように構成することが好ましく、10Ω以下となるように構成することがより好ましい。更に、5Ω以下となるように構成することがより一層好ましい。
【0042】
また、第1電極部31は、伸縮異方性を有するように構成してもよい。つまり、第1電極部31は、その長手方向に伸びやすく、短手方向に伸びにくい特性を有するように構成してもよい。このように、伸長に伴う第1電極部31の短手方向の寸法変化が、長手方向に比べて小さくなるように構成する場合、第1電極部31を長手方向に50%伸長させた際、その短手方向の寸法変化率(0%伸長時の短手方向の寸法に対する変化率)が5%未満となるように構成することが好ましい。このような構成は、例えば、第1電極部31を、ダブル編地として形成することにより得られる。なお、ダブル編地とは、フライス編やパール編、スムース編等の編地をいう。ダブル編地は、その厚み方向にジグザグのアコーディオン構造が形成されるため、このアコーディオン構造によって、伸縮時の第1電極部31の短手方向の寸法変化が効果的に抑制されることになる。第2電極部41についても同様に、伸縮異方性を有するように構成してもよい。
【0043】
第1非導電部32や第2非導電部42を構成するための非導電性糸には、合成繊維(例えば、ポリエステル繊維やナイロン繊維等)や天然繊維、合成繊維と伸縮性糸とを混用した素材等を使用することができる。伸縮性糸を混用することにより、第1非導電部32や第2非導電部42の伸縮性を向上させることができる。伸縮性糸には、例えば、ポリウレタンやゴム系のエラストマー材料を単独で用いてもよいし、「芯」にポリウレタンやゴム系のエラストマー材料を用い、「カバー」にナイロンやポリエステルを用いたカバリング糸などを採用することができる。このようなカバリング糸を採用することで、親水性、撥水性、耐食・防食性、カラーリング等の機能を付与させることができる。また肌触りの向上や伸びの制御にも有用である。また、非導電性糸には、モノフィラメントを採用することも可能ではあるが、モノフィラメントよりも、複数の単繊維の集合体であるマルチフィラメントや紡績糸のほうを好ましく用いることができる。
【0044】
また、第1非導電部32及び第2非導電部42は、半田の溶融温度に対する耐熱性を備えた非導電性糸により形成されるのが好ましい。ここで、第1非導電部32及び第2非導電部42を形成する非導電性糸に要求される耐熱性は、溶融した半田(又は加熱状態の半田鏝)との接触によっても発火や溶損などを起こさず、また簡単に焼失しないことを言う。但し、焦げが生じる程度は許容範囲(非導電部の形成用に採用可能)とする。つまり、半田付けをすることでも形体が残る程度の耐熱性を有するものであれば、機能としては十分である。溶融した半田を第1非導電部32及び第2非導電部42へ浸透させない作用を補助するうえで、第1非導電部32及び第2非導電部42の編組織を緻密構造にする等の対策を加えるとなお一層好ましい。なお、このような第1非導電部32及び第2非導電部42に要求される耐熱性は、第1電極部31や第2電極部41との接触位置において必要とされるものであり、第1非導電部32及び第2非導電部42の帯幅方向全体を必ずしも同じ構成としなければならないわけではない。例えば、第1非導電部32に関し、第1電極部31と接触する1コース又は数コースだけに耐熱性を備えさせ、第1電極部31とは直接的に接触しないコース部分(非導電部の帯幅方向中央部など)は一般的な編組織や一般的な素材(溶融半田に対する耐熱性を備えないもの)を採用して製編させるといったことも可能である。第2非導電部42に関しても同様である。
【0045】
第1非導電部32及び第2非導電部42を形成するのに好ましい耐熱性の非導電性糸の具体例としては、綿やウール等をはじめとする各種天然繊維の他、ガラス繊維、セラミック繊維、炭素繊維、更には種々様々な合成繊維(例えば、アラミド繊維、フェノール繊維、PBO、ポリアリレート、ポリイミド、メラミン、PPS、PEEK、PTFE、セルロース繊維(難燃加工)、ナイロン(難燃加工)、アクリル系繊維など)等を例示することができる。
【0046】
このような構成の引張センサ1の作動について以下説明する。まず、第1導電層3及び第2導電層4がそれぞれ備える第1電極部31及び第2電極部41の個々に電圧を印加する。この状態において、例えば、長手方向に引張センサ1(センサ本体1a)が伸長すると、第1電極部31及び第2電極部41の間隔が小さくなり、第1電極部31と第2電極部41との間の静電容量は大きくなる。また、伸長することにより引張センサ1の面積も増大することになり、第1電極部31と第2電極部41との間の静電容量は大きくなる。次に、伸長状態を解除し引張センサ1が縮むと(伸長率が0%の状態)、第1電極部31及び第2電極部41の間隔が大きくなると共に、引張センサ1(センサ本体1a)の面積も小さくなる為、第1電極部31と第2電極部41との間の静電容量は小さくなる。つまり、引張センサ1によって検知対象物の変形を検知する際、検出される静電容量が大きくなったときは、変形が大きくなったと検知することができる。より具体的に説明すると、例えば、人が着用している上着の肘部分や膝部分に引張センサ1を取り付けた場合、腕や脚の屈曲により、引張センサ1が伸長して検出される静電容量の値が大きく変化する。この時の静電容量の値を検出することによって、人体の肘や膝の動きを明確に検出することができる。また、例えば、人が着用している上着の胸部分や腹部分に引張センサ1(センサ本体1a)を取り付けることにより、或いは、胸回りや胴回りに巻回するようにして引張センサ1(センサ本体1a)を取り付けることにより、着用者の呼吸動作による体格変動に基づいて引張センサ1が伸縮する、この伸縮に伴う静電容量の変化を検出することによって、着用者が呼吸をしているか否か、呼吸サイクルが速いか遅いかといった情報を取得することができる。
【0047】
次に、本発明に係る引張センサ1の製造方法について説明する。この引張センサ1の製造方法は、
図5のブロック図に示すように、誘電体層形成ステップS1、第1導電層形成ステップS2、第2導電層形成ステップS3、積層ステップS4、加熱ステップS5、押圧ステップS6とを備えている。なお、説明の便宜上、
図5のブロック図においては、誘電体層形成ステップS1、第1導電層形成ステップS2、第2導電層形成ステップS3の順に、これらの工程が進むように記載しているが、ステップS1~S3に関しては、積層ステップ4の前工程で行う限りにおいて、どのような順番でその工程がなされてもよい。例えば、第1導電層形成ステップS2、第2導電層形成ステップS3の後に、誘電体層形成ステップS1がなされて良く、或いは、誘電体層形成ステップS1、第1導電層形成ステップS2、第2導電層形成ステップS3の各工程を同時に行うようにしてもよい。
【0048】
誘電体層形成ステップS1は、高融点樹脂層21及び高融点樹脂層21の両面上にそれぞれ設けられる低融点樹脂層(第1低融点樹脂層22及び第2低融点樹脂層23)を備える伸縮性を有する誘電体層2を形成する工程である。この誘電体層形成ステップS1において誘電体層2を形成する方法は、特に限定されず、例えば、フィルム状の高融点樹脂層21の両面にフィルム状の低融点樹脂層(第1低融点樹脂層22及び第2低融点樹脂層23)を接着剤層を介在させて(あるいは接着剤層を介在させず熱ラミによって)積層させて形成してもよく、或いは、フィルム状の高融点樹脂層21の両面に、低融点樹脂層22,23を形成する材料を塗工する、あるいは押出成形によって3層化して形成してもよい。或いは、フィルム状の高融点樹脂層21の一方面にフィルム状の低融点樹脂層(例えば、第1低融点樹脂層22)を接着剤層を介在させて積層させた後、高融点樹脂層21の他方面に低融点樹脂層23を形成する材料を塗工することにより形成してもよい。
【0049】
第1導電層形成ステップS2、及び、第2導電層形成ステップS3は、上述の第1導電層3及び第2導電層4を形成する工程であり、例えば、上述のように、第1電極部31を構成するための導電性糸と、第1非導電部32を構成するための非導電性糸とを用いて製編或いは製織することにより、編織された生地として、第1導電層3及び第2導電層4を形成する工程を例示することができる。第1導電層3及び第2導電層4についての形成方法については、上記において詳細に記載しているため、ここではその説明を省略する。
【0050】
積層ステップS4は、誘電体層形成ステップS1により形成された誘電体層2の一方面及び他方面に、第1導電層形成ステップS2において形成された導電性糸からなる帯状の第1電極部31を備え編地構造又は織地構造として構成される第1導電層3と、第2導電層形成ステップS3において形成された導電性糸からなる帯状の第2電極部41を備え編地構造又は織地構造として構成される第2導電層4とをそれぞれ配置する工程である。より具体的に説明すると、誘電体層2における第1低融点樹脂層22上に第1導電層3を積層すると共に、誘電体層2における第2低融点樹脂層23上に第2導電層4を積層する工程である。
【0051】
加熱ステップS5は、低融点樹脂層(第1低融点樹脂層22及び第2低融点樹脂層23)を加熱して、該低融点樹脂層22,23を流動可能状態とする工程である。なお、加熱ステップS5における加熱温度は、誘電体層2が備える低融点樹脂層(第1低融点樹脂層22及び第2低融点樹脂層23)を流動可能状態とさせるが、高融点樹脂層21を流動可能な状態にはさせない温度に設定される。例えば、低融点樹脂層(第1低融点樹脂層22及び第2低融点樹脂層23)を溶融させる温度であり、かつ、高融点樹脂層21を溶融させない温度に設定される。なお、低融点樹脂層(第1低融点樹脂層22及び第2低融点樹脂層23)を溶融させないで流動可能状態にさせる温度に設定してもよい。
【0052】
押圧ステップS6は、第1導電層3及び第2導電層4を互いに近接するようにプレス装置等により押圧して、加熱されて流動可能状態となっている低融点樹脂層(第1低融点樹脂層22及び第2低融点樹脂層23)を第1導電層3及び第2導電層4に含浸させつつ、第1導電層3(第1電極部31)と第2導電層4(第2電極部41)との面間距離を狭める工程である。誘電体層2が備える高融点樹脂層21は、上記加熱ステップS5による加熱によっても溶融せず非流動状態が維持されるため、押圧ステップS6においては、第1導電層3及び第2導電層4を、非流動状態の高融点樹脂層21を介して両側から当て止めするようにして押圧することが、第1導電層3(第1電極部31)と第2導電層4(第2電極部41)との面間距離をできるだけ狭くするという観点から好ましい。
【0053】
この押圧ステップS6が終了した後、第1導電層3、誘電体層2及び第2導電層4からなる積層体を自然冷却等することにより、流動可能状態であった低融点樹脂層22,23は固化し、第1導電層3及び第2導電層4は強固に誘電体層2に固定され、引張センサ1が完成する。なお、上記方法において、ヒートプレス法を用いて、加熱ステップS5と押圧ステップS6とを同時に行うように構成してもよい。
【0054】
本発明における引張センサ1は、上述のように、伸長及び収縮に伴う第1電極部31及び第2電極部41の間隔の変化に加えて、引張センサ1の面積の変化に基づいて静電容量の変化を検出できるように構成されているため、静電容量の変化について検出感度を向上させることが可能となる。また、第1導電層3及び第2導電層4の間に伸縮性を有する誘電体層2を備えるように構成しているため、伸長状態から伸長前の状態(伸長率が0%の状態)に戻りやすいという特性を有すると共に、使用を継続して伸縮が繰り返されても、その伸縮性が損なわれにくいという効果を奏する。更に、誘電体層2が介在していることによって、第1電極部31や第2電極部41を形成する導電性糸が破断等してしまう程に、第1導電層3や第2導電層4が限度を超えて伸長することを効果的に抑制することが可能となる。
【0055】
また、本発明においては、誘電体層2が、シート状の高融点樹脂層21と、該高融点樹脂層21の両面上にそれぞれ設けられるシート状の第1低融点樹脂層22及び第2低融点樹脂層23とを備えるように構成されているため、製造過程の加熱ステップS5及び押圧ステップS6によって、溶融して流動可能状態となった第1低融点樹脂層22及び第2低融点樹脂層23が、第1導電層3や第2導電層4の生地内(編目や繊維同士の隙間)に含浸されて固化されるため、第1導電層3及び第2導電層4は強固に誘電体層2に固定されることになる。また、誘電体層2における高融点樹脂層21は溶融せずに所定の厚み(例えば、5μm~100μm)が維持されるため、第1導電層3における第1電極部31の一部と第2導電層4における第2電極部41の一部とが、誘電体層2(高融点樹脂層21)を介して短絡してしまうことを確実に防止することが可能となる。特に本実施形態のように、第1導電層3や第2導電層4を、導電性糸と非導電性糸とを用いて製編或いは製織された生地(編織された生地)として構成する場合には、いわゆる生地の毛羽立ち部が生じ、この毛羽立ち部分が、押圧ステップS6時に、誘電体層2を突き抜けてしまうおそれがあるが、本発明のように、高融点樹脂層21を備えるように誘電体層2を構成することにより、毛羽立ち部の貫通を確実に防止することが可能となる。また、第1導電層3が備える第1電極部31と、第2導電層4が備える第2電極部41とは、
図2に示すように、実質的には、誘電体層2が備える高融点樹脂層21の厚み寸法だけ(実際上は、高融点樹脂層21の厚み寸法と、第1低融点樹脂層22及び第2低融点樹脂層23の僅かな厚み寸法分とを加算した寸法と考えられる)を介して対向配置されて構成されることになる為、第1電極部31と電極部41とを極めて近接した状態で配設することが可能となる。この結果、引張センサ1の伸縮に伴う第1導電層3と第2導電層4との間における容量変化を高感度で検出することができ、更に、検知対象に引張センサ1を設置して該検知対象の変形等を検知する際に、該引張センサ1に他の何らかの誘電体が近接した場合に検出信号に混入されるノイズ信号の比率を低くすることが可能となり、ノイズの影響を受けにくい高精度な引張センサ1を得ることができる。
【0056】
また、誘電体層2が備える第1低融点樹脂層22及び第2低融点樹脂層23の融点よりも40℃以上高い融点を有する樹脂材料から高融点樹脂層21を構成する場合、製造過程の加熱ステップS5時の加熱温度が、何らかの影響で設定温度よりも高めとなったとしても、高融点樹脂層21が溶融してしまうような事態が発生することを効果的に防止することができる。
【0057】
また、本発明に係る引張センサ1において、50%伸長時の第1電極部31の抵抗変化率が20%以下となるように構成し、同様に、50%伸長時の第2電極部41の抵抗変化率が20%以下となるように構成する場合、検出される静電容量の変化を精度よく捉えることが可能となる。また、第1電極部31の単位長さ(1cm)あたりの電気抵抗値が50Ω以下となるように構成し、同様に、第2電極部41の単位長さ(1cm)あたりの電気抵抗値が50Ω以下となるように構成する場合、検出される静電容量の変化をより一層精度よく捉えることが可能となる。
【0058】
また、第1電極部31及び第2電極部41は、編地構造を備えるように構成されているため、引張センサ1の伸長によって、第1電極部31や第2電極部41を形成する導電性糸が破断しにくい構造とすることが可能となる。
【0059】
ここで、編地構造を備えるように構成される第1電極部31及び第2電極部41は、平編等のシングル編地で構成される場合よりも、例えば、フライス編やパール編、スムース編等のダブル編地として構成される場合の方が、より一層高精度で静電容量の変化を検出することが可能となる。ダブル編地の場合、厚み方向にジグザグのアコーディオン構造が形成されるため、第1電極部31及び第2電極部41の短手方向の寸法変化が効果的に抑制され、伸長に伴う第1電極部31及び第2電極部41の面積増加比率を略一定とすることが可能となる結果、高精度で静電容量の変化を検出することができる。
【0060】
以上、本発明の一実施形態に係る引張センサ1について説明したが、引張センサ1の具体的構成は、上記実施形態に限定されない。例えば、
図6の概略構成平面図に示すように、センサ本体1aの一方面側に積層配置される伸縮性基布5を備えるように引張センサ1を構成してもよい。このような構成を採用する場合、接着層を介して伸縮性基布5上にセンサ本体1aを貼着してもよく、或いは、縫製によってセンサ本体1aを伸縮性基布5上に縫いつけて固定してもよい。伸縮性基布5としては、特に限定されないが、例えば、織りゴムから形成されるウエストバンドやサポーター、Tシャツ用等の伸縮性生地を例示することができる。また、伸縮性基布5は、伸縮異方性を有するように構成してもよい。伸縮性基布5が伸縮異方性を備えるように構成する場合、センサ本体1aが伸縮異方性を備えない構造であっても、引張センサ1全体としては伸縮異方性の特性を発揮させることが可能となり、伸縮に対して高精度且つ高感度で静電容量の変化を検知することができる。
【0061】
ここで、センサ本体1aが有する第1導電層3又は第2導電層4が、伸縮性基布5の一部分を構成するように、第1導電層3又は第2導電層4と伸縮性基布5とを一体化させて構成することもできる。より具体的には、例えば、織りゴム構造として伸縮性基布5を編成する際に、第1導電層3又は第2導電層4も併せて組み込んで編成するようにして、第1導電層3又は第2導電層4と、伸縮性基布5とを一体化するように構成してもよい。
【0062】
また、
図7(a)の概略構成斜視図に示すように、伸縮性基布5を筒状に構成すると共に、センサ本体1aを、その長手方向が筒状の伸縮性基布5の周方向に沿う方向となるように積層配置して引張センサ1を構成してもよい。このような筒状の伸縮性基布5上にセンサ本体1aを積層する場合、筒状の伸縮性基布5の周方向に沿って配置される帯状の伸縮調整層6を更に備えるように構成することもできる。ここで、伸縮調整層6の一方端は、少なくともセンサ本体1aの一方端の近傍に配置されており、伸縮調整層6の他方端は、少なくともセンサ本体1aの他方端の近傍に配置されるように構成される。
図7(a)の構成においては、伸縮調整層6の一方端は、長尺状のセンサ本体1aの一方端に接続し、伸縮調整層6の他方端は、センサ本体1aの他方端に接続するように構成されている。このような伸縮調整層6を備えることにより、センサ本体1a及び伸縮調整層6は一体となった構造物を構成して、筒状の伸縮性基布5上に環状構造が構成される。また、伸縮調整層6は、上述の高融点樹脂層21と同一の材料を含むようにして形成することが好ましく、高融点樹脂層21と同一の材料から形成することがより好ましい。また、伸縮調整層6の厚み寸法も、高融点樹脂層21の厚み寸法と同等となるように構成されることが好ましい。
【0063】
ここで、例えば、
図7(b)に示すように、筒状の伸縮性基布5上にセンサ本体1aを積層しただけの構造を有する引張センサ1を人体の胸回りや胴回りに巻回させて装着して着用者の呼吸動作による体格変動に基づいて呼吸サイクル情報等を検出するような場合、センサとして機能させない部分5a(センサ本体1a以外の領域)が、呼吸動作による体格変動によって大きく伸縮する一方、センサ本体1a自体が伸縮しにくくなり、効率良く呼吸サイクル情報を検出できないおそれがある。これに対し、
図7(a)に示すように、センサとして機能させない伸縮性基布5の部分5aに伸縮調整層6を配置して、センサ本体1aと伸縮調整層6とが一体化した環状構造を形成することにより、呼吸動作による体格変動に伴ってセンサ本体1aも大きく伸縮することになるため、体格変動に伴って静電容量の変化を高精度、高感度で検出することができ、呼吸サイクル情報等を効率良く検出することが可能となる。
【0064】
なお、帯状の伸縮調整層6を備えるように構成する場合、必ずしも、
図7(a)に示すように、伸縮調整層6の一方端がセンサ本体1aの一方端に接続し、また、伸縮調整層6の他方端がセンサ本体1aの他方端に接続するように構成する必要はなく、例えば、伸縮調整層6一方端を、センサ本体1aの一方端との間に隙間を形成する位置に配置し、同様に、伸縮調整層6の他方端を、センサ本体1aの他方端との間に隙間を形成する位置に配置するように構成してもよい。このような構成であっても、センサ本体及び前記伸縮調整層は、不連続ではあるが、筒状の伸縮性基布上に略環状の構造を構成することができるため、上述と同様な効果を得ることができる。
【0065】
また、帯状の伸縮調整層6は、その長手方向の全域にわたって同一の材料から形成してもよく、或いは、部分的に異なる材料によって形成してもよい。また伸縮調整層6の構造として、例えば、センサ本体1aの一方端に近接する所定領域、及び、他方端に近接する所定領域を伸びやすい部分として構成し、該伸びやすい部分の間に伸びにくい部分を配設するようにして構成してもよい。
【0066】
また、上記実施形態においては、第1電極部31及び第2電極部41を、
図1(a)(b)に示すように、短冊状の引張センサ1(センサ本体1a)の長手方向に沿って伸びる直線状の帯状に構成しているが、第1電極部31及び第2電極部41の具体的形態については特に限定されず、例えば、平面視において、引張センサ1の長手方向に沿って伸びる波型状やジグザグ状等、種々の形態として構成することができる。
【0067】
また、上記実施形態においては、第1導電層3が、第1非導電部32を備えるように構成されているが、この第1非導電部32を省略し、第1電極部31のみにより第1導電層3を構成してもよい。同様に、第2電極部41のみにより第2導電層4を構成してもよい。
【0068】
また、第1導電層3や第2導電層4の露出面(誘電体層2に接していない側の面)の表面を被覆する被覆層を設けるように構成してもよい。このような被覆層を設けることにより、第1電極部31や第2電極部41を保護することができ、引張センサ1の耐久性を向上させることができる。なお、被覆層は、第1導電層3側、或いは、第2導電層4側の一方のみに設けてもよい。被覆層を形成する材料としては、例えば、上述の誘電体層2を形成する材料を用いることができる。
【0069】
また、上記実施形態においては、第1導電層3及び第2導電層4は、
図1に示すように、それぞれ、単一の第1電極部31及び複数の第2電極部41を備えるように構成しているが、第1電極部31や第2電極部41の数は、特に限定されず、例えば、
図8(a)(b)(c)に示すように、誘電体層2を介して、その両面側に複数の第1電極部31及び複数の第2電極部41を配設するようにして、引張センサ1(センサ本体1a)を構成してもよい。
図8に示す構成においては、各第1電極部31は、互いに所定間隔を空けて平行となるように配置されており、各第2電極部41も同様に、互いに所定間隔を空けて平行となるように配置されている。なお、各第1電極部31同士の間には、第1非導電部32が配置されており、各第2電極部41同士の間には、第2非導電部42が配置されている。また、このような構成を採用する場合、各第1電極部31と各第2電極部41とは、誘電体層2を介して対向する位置に配置するように構成することが好ましい。なお、
図8(a)は、引張センサ1の概略構成平面図であり、
図8(b)は、
図8(a)のA’-A’断面を示す概略構成断面図である。また、
図8(c)は、概略構成裏面図である。
【0070】
また、
図8に示す構成においては、複数の第1電極部31の集合体を一つの電極として構成するために、各第1電極部31の一方側の端部同士を短絡させると共に、各第1電極部31の他方側の端部同士を短絡させて構成してもよく、同様に、複数の第2電極部41の集合体を一つの電極として構成するために、各第2電極部41の一方側の端部同士を短絡させると共に、各第1電極部31の他方側の端部同士を短絡させて構成してもよい。
【0071】
また、
図8に示す構成においては、誘電体層2を介して対向配置される各第1電極部31及び各第2電極部41のそれぞれの組み合わせ(第1電極部31aと第2電極部41aとの組み合わせ、第1電極部31bと第2電極部41bとの組み合わせ、第1電極部31cと第2電極部41cと組み合わせ)を独立したコンデンサとして構成してもよい。このような構成を採用する場合、引張センサ1(センサ本体1a)は、その長手方向の引っ張りを検出できるだけでなく、長手方向を軸とする捻じりも検出することが可能となる。具体的に説明すると、引張センサ1(センサ本体1a)に対して、その長手方向を軸として捻じりを加えた場合、引張センサ1(センサ本体1a)の中央部は、側縁部よりも大きく変形することから、中央に配置される第1電極部31bと第2電極部41bとで構成されるコンデンサにて検出される容量変化の値と、側縁部に配置される第1電極部31a(31c)と第2電極部41a(41c)とで構成されるコンデンサにて検出される容量変化の値との間に差が生じる。この差を検出することにより、引張センサ1(センサ本体1a)に対して捻じりが加えられてか否かを判別することが可能となる。
【0072】
また、上記実施形態においては、第1電極部31及び第2電極部41の幅(長手方向に対して垂直な方向の寸法)を同一寸法となるように構成されているが、このような構成に特に限定されない。例えば、
図9の概略構成断面図に示すように、第2電極部41の幅を第1電極部31の幅よりも大きくする等して、平面視における第2電極部41の面積が、第1電極部31の面積よりも広い面積を有するように構成し、第2電極部41が、誘電体層2を介して第1電極部31に対向する位置に配置してもよい。つまり、仮想的に第1電極部31を第2導電層4に投影した場合に、当該第1電極部31が、第2電極部41形成領域内に配置されるように、第1電極部31及び第2電極部41を構成してもよい。このような構成を採用することにより、例えば、第2導電層4が人体側となるように、衣服等に引張センサ1(センサ本体1a)を取り付けるような場合に、第2電極部41がシールドの役割を発揮して、人体と第1電極部31との間での容量結合が発生することを効果的に抑制することが可能となる。また、
図2に示すような構成では、第1電極部31と第2電極部41とが誘電体層2を介して対向配置されるように、第1導電層3と第2導電層4との位置決めを精度よく行う必要があるが、
図9に示すように、第2電極部41の面積が、第1電極部31の面積よりも広い面積を有するように構成する場合、誘電体層2に対する第1導電層3及び第2導電層4の位置合わせを厳格に行う必要が無くなり、効率よく引張センサ1(センサ本体1a)を製造することが可能となる。
【0073】
また、複数の第1電極部31を第1導電層3が備える様な構成を採用する場合、
図10の概略構成断面図に示すように、複数の第1電極部31が配置される領域の面積よりも広い面積を有するように第2電極部41を構成し、当該第2電極部41が、誘電体層2を介して複数の第1電極部31が配置される領域に対向する位置に配置するように構成してもよい。つまり、仮想的に複数の第1電極部31の全てを第2導電層4に投影した場合に、当該複数の第1電極部31の全てが、単一の第2電極部41と重なり合うように、各第1電極部31及び第2電極部41を構成してもよい。このような構成を採用することにより、上記と同様に、例えば、第2導電層4が人体側となるように、衣服等に引張センサ1を取り付けるような場合に、第2電極部41がシールドの役割を発揮して、人体と各第1電極部31との間での容量結合が発生することを効果的に抑制することが可能となる。また、
図8に示すような構成では、各第1電極部31と各第2電極部41とが、誘電体層2を介して対向配置されるように、第1導電層3と第2導電層4との位置決めを精度よく行う必要があるが、平面視における第2電極部41の面積が、複数の第1電極部31が配置される領域の面積よりも大きくなるように構成することにより、誘電体層2に対する第1導電層3及び第2導電層4の位置合わせを厳格に行う必要が無くなり、効率よく引張センサ1を製造することが可能となる。
【0074】
本発明の発明者は、本発明に係る引張センサ1(センサ本体1a)のサンプルAと、比較例に相当するサンプルBとを作成して、実際に伸長させた際の性能評価を行ったので、以下、説明する。
【0075】
まず、サンプルA及びサンプルBの構造について説明する。まず、サンプルAは、
図11(a)の概略構成断面図に示すように、伸縮性基布5の一方面にセンサ本体1aを積層した構造として引張センサ1を形成している。また、センサ本体1aが備える上側の第1導電層3を第1電極部31のみにより形成し、同様に、センサ本体1aの下側に配置される第2導電層4を第2電極部41のみにより形成している。第1導電層3(第1電極部31)は、幅が5mm、長さが145mmの平面視長尺矩形状の形態であり、第2導電層4(第2電極部41)は、幅が8.5mm、長さが145mmの平面視長尺矩形状の形態を有している。
【0076】
第1導電層3(第1電極部31)及び第2導電層4(第2電極部41)のそれぞれは、その組織が、フライス編み構造を備えるように構成されている。より具体的には、ベアフライス組織を有しており、銀メッキ繊維糸とベアポリウレタン繊維糸とを添糸編みして形成されている。編成後、編地は製造段階で行われる熱セット工程を経ることで、ベアポリウレタン繊維糸同士の交点が溶着ないし合着してほつれ止めされた後、所定の寸法に切り出されて、サンプルに係る第1導電層3及び第2導電層4が形成されている。
【0077】
また、サンプルAにおいては、融点が200℃、厚みが50μmのポリウレタンフィルム(高融点樹脂層21)の両面に、融点が120℃、厚みが50μmのポリウレタンフィルム(低融点樹脂層22,23)を積層して構成されるフィルムシートを誘電体層2として用い、このフィルムシート(誘電体層2)の両面に、上述の第1導電層3及び第2導電層4を積層したのち、貼り合わせ温度180℃にてヒートプレスし、第1導電層3及び第2導電層4の編組織中に、加熱によって流動可能状態となった低融点樹脂層を含浸させるようにして形成した。
【0078】
また、フィルムシート(誘電体層2)の両面に、第1導電層3(第1電極部31)及び第2導電層4(第2電極部41)を積層する際には、
図11(b)の概略構成平面図に示すように、第1導電層3に対する第2導電層4の設置位置を、その長手方向に15mmずらして積層して、第1導電層3と第2導電層4とが重なっていない部分を形成し、当該部分を電極端子とした。
【0079】
伸縮性基布5は、サポーター等に一般的に使用される伸縮性生地を採用している。この伸縮性基布5の厚みは1mmであり、幅が20mm、長さが330mm平面視矩形状として形成している。伸縮性基布5とセンサ本体1aとは、接着層を介して固定されている。
【0080】
一方、サンプルBについては、第1導電層3、第2導電層4及び伸縮性基布5に関し、上記サンプルAと同様な構造を有しているが、誘電体層2の具体的構成のみを異ならせている、具体的には、誘電体層2としては、融点が120℃、厚みが150μmのポリウレタンフィルムを用い、このポリウレタンフィルム(誘電体層2)の両面に、上述のサンプルAにおけるものと同一の第1導電層3及び第2導電層4を積層したのち、貼り合わせ温度180℃にてヒートプレスし、第1導電層3及び第2導電層4をポリウレタンフィルム(誘電体層2)の両面に貼り付けて形成し、その後、接着層を介して伸縮性基布5上に固定している(
図11(c)の概略構成断面図参照)。
【0081】
作成したサンプルA及びサンプルBをチャック付きスタンドで挟んだうえ、第1導電層3(第1電極部31)及び第2導電層4(第2電極部41)のそれぞれに電圧を印加しつつ、スタンドを移動させて伸張させ、該伸長に伴う静電容量の変化を測定した。なお、伸長に伴う静電容量値の測定は、合計3回行った。
【0082】
引張センサ1に係るサンプルAの伸長率と、検出された静電容量の値との関係を表1、及び
図12に示す。ここで、表1に示す静電容量の値は、3回行った測定結果の平均値である。また、表1及び
図12中において、伸長率0%とは、伸長させていない状態を意味する。
【0083】
【0084】
この表1及び
図12の結果から、サンプルAは、検出される静電容量の値が400pFを超えるものであり、また、伸長率が1%増加するにつき、静電容量値が3pFずつ増加しており、伸縮に対して高精度且つ高感度で静電容量の変化を検知できることが分かる。特に、その伸長に伴って線型的に静電容量の値が増加する特性を有していることから、極めて精度よく検知対象物の変形状態や引張力を検知・測定することができることが分かる。
【0085】
一方、サンプルBについては、誘電体層の両面に配置される第1導電層3(第1電極部31)及び第2導電層4(第2電極部41)が、一部分で誘電体層を介して短絡(ショート)しており、静電容量の変化を検知することができなかった。短絡の原因は、第1導電層3及び第2導電層4をヒートプレスする際に、第1電極部または第2電極部を形成する導電性糸の表面上に発生している毛羽立ち部が、加熱によって流動可能状態となったポリウレタンフィルム(誘電体層:融点120℃、厚み150μm)を貫通して、第2電極部または第1電極部に接触する状態になったことに起因すると考えられる。
【0086】
また、発明者は、本発明に係る引張センサ1がノイズの影響を受けにくい特性を有していることを確認するための試験も行った。以下、その試験内容と試験結果について説明する。
【0087】
まず、このノイズの影響を受けにくい特性を確認する試験に供する試料として、上述のサンプルAと、比較例に相当するサンプルCを準備した。サンプルCは、
図13(a)の概略構成断面図に示すように、伸縮性基布5の両面に第1導電層3及び第2導電層4がそれぞれ貼着されて構成されている。サンプルCにおける伸縮性基布5、第1導電層3及び第2導電層4のそれぞれの構造は、上記サンプルAにおけるものと同一構成である。
【0088】
このような構成のサンプルA及びサンプルCについて、まず、20%伸長時の静電容量値の変化について測定した。測定結果を表2に示す。なお、伸長に伴う静電容量値の測定を合計3回行い、その測定結果の平均値を表2中に示している。
【0089】
【0090】
表2の結果から、本発明に関するサンプルAについては、20%伸長時に、静電容量値が、“485.7pF”から“546.3pF”へと上昇しており、その上昇値は、“60.6pF”であることが分かる。一方、比較例に係るサンプルCの場合、20%伸長させても、静電容量値が、わずかに“0.5pF”だけしか上昇していないことが分かる(51.9pF⇒52.4pF)。
【0091】
次に、サンプルA及びサンプルCに対して、伸長させない状態で、第1導電層3との距離が15mmとなる位置に、金属板(アルミ製2mm厚、幅35mm、長さ310mm)を近接させて、静電容量値の変化について測定した。この結果を表3に示す。
【0092】
【0093】
表3の結果から、金属板の近接による静電容量値の変化量(ノイズ信号に相当)は、本発明に係るサンプルAの場合には“-0.4pF”であり、比較例に係るサンプルCの場合には“-0.6pF”であり、共に略同等なノイズ信号が混入することがわかる。しかしながら、20%伸長時の静電容量値の変化値との関係でみると、比較例に係るサンプルCの場合、金属板を近づけた場合の静電容量値の変化量と、20%伸長時の変化量とが、同じオーダー(桁)であり、金属板の近接の影響を大きく受けて、精度良く静電容量を検出することが困難であることが分かる。より具体的に説明すると、厳密な定量評価とはいえない面もあるが、例えば、サンプルCの場合、20%伸長により、電容量値が“0,4pF”上昇したとしても、金属板等の誘電体が近接した場合に、静電容量値が“0.6pF”低下することとなり、引張センサが20%伸長しているにもかかわらず、検出される静電容量値としては、伸長が無い状態を示す値となり、伸長状態を検出することができないことになってしまう。
【0094】
これに対し、本発明に係るサンプルAの場合、20%伸長時の静電容量値の変化量は、“60.6pF”であり、また、金属板を近づけた場合の静電容量値の変化量(-0.4pF)であることから、20%伸長時の静電容量値の変化量に対して、金属板を近づけた場合の静電容量値の変化量の影響が、1%以下であると認められる。なお、単純計算ではあるが、サンプルAを1%伸長させた場合であっても、検出される静電容量値に含まれるノイズ信号の比率は、13%程度となる(0.4÷(60.6÷20)×100=13.2%)。つまり、サンプルAは、十分なS/N比を備えた引張センサであるということが分かる。なお、S/N比とは、信号 (signal) とノイズ(noise)と の比であり、信号雑音比 (signal-noise ratio) または 信号対雑音比 (signal-to-noise ratio) の略を意味する。
【0095】
以上より、本発明に係る引張センサ1は、検知対象に設置して該検知対象の変形等を検知する際に、該引張センサ1に他の何らかの誘電体や導体が近接した場合であっても、検出信号に混入されるノイズ信号の比率を低くすることが可能となり、ノイズの影響を受けにくい高精度なセンサであるといえる。
【符号の説明】
【0096】
1 引張センサ
1a センサ本体
2 誘電体層
21 高融点樹脂層
22 第1低融点樹脂層
23 第2低融点樹脂層
3 第1導電層
31 第1電極部
32 第1非導電部
4 第2導電層
41 第2電極部
42 第2非導電部
5 伸縮性基布
6 伸縮調整層