(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】トルク変換器
(51)【国際特許分類】
G01L 3/10 20060101AFI20230106BHJP
【FI】
G01L3/10 311
(21)【出願番号】P 2018142192
(22)【出願日】2018-07-30
【審査請求日】2021-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】591156799
【氏名又は名称】ユニパルス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 璋好
【審査官】大森 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-002313(JP,A)
【文献】特開2001-330525(JP,A)
【文献】特開2012-127884(JP,A)
【文献】特表2012-521547(JP,A)
【文献】特開2003-042151(JP,A)
【文献】特開昭63-262535(JP,A)
【文献】特表2009-540306(JP,A)
【文献】特開2006-322771(JP,A)
【文献】特開2013-024692(JP,A)
【文献】特開2002-022566(JP,A)
【文献】特開2013-231646(JP,A)
【文献】特開2013-015459(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0131543(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第3020785(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空円柱形の起歪部と、
前記起歪部の両端に設けられたフランジ部と、
を備えて前記起歪部に作用するトルクを電気量に変換するトルク変換器であって、
前記起歪部は溝状の複数の薄肉部を有し、
前記各薄肉部は前記起歪部の外周面に、前記起歪部の中心軸から等距離の深さで、かつ前記中心軸の方向にて同一位置で、かつ円周方向に沿って等間隔及び等長でそれぞれ設けられ、
前記起歪部の前記各薄肉部の内周面には、感歪み抵抗体が添着され
、
前記中心軸を内包する平面で前記各薄肉部を切断した断面部の形状において、外周側の線分が略円弧を含み、
前記各薄肉部の円周方向の始点と終点の肉厚が徐々に変化しているトルク変換器。
【請求項2】
さらに回路基板と、アンテナとを有し、
前記回路基板は、前記起歪部の中空部に配置されて前記感歪み抵抗体と接続され、
前記アンテナは、導体線を印刷した円環状の配線板にて前記フランジ部に配置されて、前記回路基板から出力されるトルク信号を無線で送信する請求項1に記載のトルク変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクを測定して電気信号に変換するトルク変換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高速回転する自動車の車輪等に生じるトルクを測定する測定器としては、両端に接続用のフランジ部を有し、このフランジ間に円筒状の起歪部を連結する構造のトルク変換器が公知である。このトルク変換器は、円筒状の起歪部に感歪み抵抗体を添着して、駆動側フランジ部から従動側フランジ部に伝達されるトルクに比例した起歪部の歪み量を電気的に変換している。そして高速回転と共に、急激なトルク変化を測定することが求められていて、起歪部には高剛性が求められると同時に、高い応答性を確保する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-229853号公報
【文献】特開2001-330525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そのために特許文献1のように、起歪部外周の円筒面の一部に薄肉の平面を設けて、この平面部に感歪み抵抗体を添着する方法が開示されている。この構成では、感歪み抵抗体を外周に添着することから、高速で回転する場合では、感歪み抵抗体とそこから引き出される配線を遠心力による影響から保護する必要があった。さらに薄肉の部分の厚みが円周方向で一定ではなく、変化していることから、感歪み抵抗体は円周方向の位置を高精度にて配置される必要があって、改善の余地がある。
【0005】
一方特許文献2のように、起歪部全外周を円弧状にして剛性を高める方法が開示されている。しかし、起歪部の剛性を高くすること、歪の感度を高めることを実現する最適な最小肉厚や円弧の寸法を決定することにおいて改善の余地がある。
【0006】
このような問題に鑑みて、本発明は、高剛性、高精度のトルク変換器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のトルク変換器は、上記の目的を達成するために、
中空円柱形の起歪部と、
起歪部の両端に設けられたフランジ部と、
を備えて起歪部に作用するトルクを電気量に変換するトルク変換器であって、
起歪部は溝状の複数の薄肉部を有し、
各薄肉部は起歪部の外周面に、起歪部の中心軸から等距離の深さで、かつ中心軸の方向
にて同一位置で、かつ円周方向に沿って等間隔及び等長でそれぞれ設けられ、
起歪部の各薄肉部の内周面には、感歪み抵抗体が添着され、
中心軸を内包する平面で各薄肉部を切断した断面部の形状において、外周側の線分が略円弧を含み、各薄肉部の円周方向の始点と終点の肉厚が徐々に変化している。
【0008】
また、回路基板と、アンテナとを有し、
回路基板は、起歪部の中空部に配置されて感歪み抵抗体と接続され、
アンテナは、導体線を印刷した円環状の配線板にてフランジ部に配置されて、回路基板から出力されるトルク信号を無線で送信する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、不連続な薄肉部を有する起歪部によって、起歪部の厚みを大きくして剛性を高めつつ、厚みと長さが等長の複数の薄肉部を設けることで薄肉部に添着する感歪み抵抗体の位置精度を緩和したトルク変換器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るトルク変換器の斜視外観図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係るトルク変換器の測定部の側面図(a)と斜視図(b)である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係るトルク変換器の測定部の断面図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係るトルク変換器の測定部のAA断面図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態に係るトルク変換器の測定部の側面図(a)と斜視図(b)である。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係るトルク変換器の測定部の断面図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係るトルク変換器の測定部のBB断面図である。
【
図8】本発明の第1の実施形態及び第2の実施形態に係るトルク変換器の感歪み抵抗体を含んで構成されるホイートストンブリッジ回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係るトルク変換器について、図面を基に詳細な説明を行う。
図1は本発明の第1の実施形態に係るトルク変換器1の斜視外観図である。
【0013】
トルク変換器1は、トルク測定部13と、電装品ボックス9とを備えている。トルク測定部13は、起歪部2と、フランジ部3a~3bと、これらの内部に感歪み抵抗体G1~G8と、回路基板12と含んでいる。電装品ボックス9の天面には給電部7と回転速度検出部8が設けられている。トルク測定部13と電装品ボックス9とは別体で構成されていて、 トルク変換器1はこの両者を所定の位置及び間隔に設置して使用され、起歪部2に作用するトルクを電気量に変換する。
【0014】
フランジ部3aは、容易には変形しない高い剛性の環状の金属でできている。フランジ部3aは、等角度間隔で配置されたネジ穴を複数有して、ボルトによって駆動側の駆動部材と連結される。
【0015】
フランジ部3bも、容易には変形しない高い剛性の環状の金属でできている。フランジ部3bは、等角度間隔で配置されたネジ穴を複数有して、ボルトによって従属側の負荷部材と連結される。
【0016】
歯車4は、フランジ部3a側に設けられた平歯車である。 歯車4は、フランジ部3aの外周より半径方向に突出した形状で、回転軸方向ではフランジ部3aとフランジ部3bの中間に配置されている。
【0017】
起歪部2は、回転軸方向でフランジ部3aとフランジ部3bの間にあって、フランジ部3a及びフランジ部3bとは同心である。起歪部2は中空円柱形の形状であって、起歪部2の両端にあるフランジ部3aとフランジ部3bとは一体の部材で構成されている。そして起歪部2の外周円柱面の直径は、フランジ部3a及びフランジ部3bの外周の直径よりも小さく、その肉厚も比較的小さく形成されている。
【0018】
回転速度検出部8は、歯車4を使用してトルク測定部13の回転速度及び回転方向を検出する。回転速度検出部8は、回転する歯車4に対してその歯先円に近接する円周上に、歯車4と所定の距離に2つの磁気抵抗素子を配置してあって、この磁気抵抗素子間を通過する歯車4の歯先による磁力変化を検出して、回転速度と回転方向を検出する。
【0019】
アンテナ14は、トルク測定部13で測定したトルクの値の信号を無線で送信するためのものである。アンテナ14は、例えば導体線を印刷した円環状のプリント配線板であって、フランジ部3aの外周円柱面に嵌挿されて歯車4の側面に固着されている。そしてアンテナ14からの引き出し線は、フランジ部3aの外周円柱面に設けた穴によって、トルク測定部13の内部へ導かれて、トルク測定部13内部に固定されている回路基板12に接続されている。
【0020】
受電側コイル5は、フランジ部3bの外周に巻かれたコイルであって、給電部7から電力を受電するためのものである。そして 受電側コイル5からの引き出し線は、フランジ部3bの円柱面に設けた穴によって、トルク測定部13の内部へ導かれ、トルク測定部13内部に固定されている回路基板12に接続されている。
【0021】
給電部7には、トルク測定部13へ電力を非接触で送電するため、受電側コイル5と所定の間隔にて結合して回転トランスを形成するための送電側コイルが収容されている。
【0022】
蓋6はトルク測定部13の内部に配置されている部材を、高速回転によって生ずる風力や塵埃から保護するために設けられている。
【0023】
電装品ボックス9は、給電部7を介してトルク測定部13へ電力を非接触で送電するための回路を含む基板を収容している。さらにトルク測定部13のアンテナ14からトルクのデジタル信号を受信してこれを復調してトルク値を出力する回路と、回転速度検出部8からトルク測定部13の回転速度及び回転方向を検出して出力する回路と、外部から供給される電力を変換して各回路用の電源を供給する電源回路と、を含む基板が収容されている。
【0024】
図2は本発明の第1の実施形態に係るトルク変換器の測定部の一部を示す側面図(a)と斜視図(b)である。
図3は
図2の側面図(a)において、測定部の中心軸を内包する鉛直平面で切断した断面図である。
図4は
図3におけるAA断面図である。
【0025】
起歪部2の外周面2aには、例えば溝状の長円型の薄肉部10a~10dが設けられている。薄肉部10a~10dは、長円の溝形状であって、長手側は円周方向に沿って伸びている。4つの薄肉部10a~10dは起歪部2の中心軸周りに円周方向に沿って90度の等間隔で配置されている。4つの薄肉部10a~10dは、それぞれ円周方向の長さL1が等長で、中心軸方向の幅Wも同一長さで、さらに中心軸の方向でも同一位置で配置されている。4つの薄肉部10a~10dの円周方向に伸びた面、すなわち薄肉部10a~10dの底面は円柱面である。この薄肉部10a~10dの周囲の起歪部2は半径R0の円柱面であって、薄肉部10a~10dの底部は半径R1の円柱面である。すなわち溝状の各薄肉部10a~10dの底部は起歪部2の中心軸から等距離である。この4つの薄肉部10a~10dは、例えばフラットエンドミル等にて切削加工することができる形状である。
【0026】
そして各薄肉部10a~10dの内周面2bには、感歪み抵抗体G1~G8が添着されている。薄肉部10aに対応して感歪み抵抗体G1と感歪み抵抗体G2が添着され、薄肉部10bに対応して感歪み抵抗体G3と感歪み抵抗体G4が添着され、薄肉部10cに対応して感歪み抵抗体G5と感歪み抵抗体G6が添着され、薄肉部10dに対応して感歪み抵抗体G7と感歪み抵抗体G8が添着されている。感歪み抵抗体G1~G8は、例えば剪断型の歪みゲージである。そして各感歪み抵抗体G1~G8を軸中心から半径方向にそれぞれ見た時、感歪み抵抗体G1は軸方向と-45度の角度に最大の感度を有するように添着され、感歪み抵抗体G2は軸方向と+45度の角度に最大の感度を有するように添着される。感歪み抵抗体G3~G8も薄肉部10b~10dの内周面2bに同様に添着されている。隣り合う、感歪み抵抗体G1と感歪み抵抗体G2とを例えば一つの基材上に形成されたものにすることで、添着する角度の誤差を低減することができる。もちろん、感歪み抵抗体G3と感歪み抵抗体G4、感歪み抵抗体G5と感歪み抵抗体G6、感歪み抵抗体G7と感歪み抵抗体G8、においても同様に一つの基材上に形成されたものを使用することで同様の効果が得られる。
【0027】
回路基板12が起歪部2の中空部に配置、固着されている。回路基板12には、感歪み抵抗体G1~G8から引き出された配線が接続されている。回路基板12は、感歪み抵抗体G1~G8を含んだホイートストンブリッジ回路を有している(
図8)。回路基板12は、増幅回路と、アナログ/デジタル変換回路と、演算回路と、変調回路と、送信回路を含んでいる。増幅回路は、感歪み抵抗体G1~G8を含むホイートストンブリッジ回路から出力されるアナログ信号を増幅する。アナログ/デジタル変換回路は、このアナログ信号をデジタル信号に変換する。演算回路は、このデジタル信号を演算してトルク値を表すトルク信号を生成する。変調回路はデジタルのトルク信号を変調して被変調信号を生成する。送信回路は被変調信号を搬送波に乗せて電装品ボックス9内の受信回路へ送信する。また回路基板12は、受電側コイル5から引き出された電線と繋がって、伝送された電力を受け取り、これを整流する整流回路により、増幅回路と、アナログ/デジタル変換回路と、演算回路と、変調回路と、送信回路と、ホイートストンブリッジ回路と、に電力を供給する。
【0028】
図5は本発明の第2の実施形態に係るトルク変換器の測定部の一部を示す側面図(a)と斜視図(b)である。
図6は
図5の側面図(a)において、測定部の中心軸を内包する鉛直平面で切断した断面図である。
図7は
図6におけるBB断面図である。第2の実施形態に係るトルク変換器は、第1の実施形態に係るトルク変換器の薄肉部の形状が異なる。したがって以下、第1の実施形態との相違点のみ記述する。
【0029】
第2の実施形態に係るトルク変換器の薄肉部11a~11dは、長円の溝形状であって、長手側は円周方向に沿って伸びている。また薄肉部11a~11dの底面が、円弧を軸周りにて回転させた曲面となっている。4つの薄肉部11a~11dは起歪部2の中心軸周りに円周方向に沿って90度の等間隔で配置されている。4つの薄肉部11a~11dは、それぞれ円周方向の長さL2が等長で、軸方向の幅Wも同一長さで、さらに中心軸の方向でも同一位置で配置されている。起歪部2の中心軸を内包する平面で4つの薄肉部11a~11dを切断した断面部の形状において、外周側は略円弧の線分となっている。この薄肉部11a~11dの周囲の起歪部2は半径R0の円柱面であって、薄肉部11a~11dの最も深い底部は半径R2の稜線上にある。すなわち溝状の薄肉部11a~11dの最も深い底部は起歪部2の中心軸から等距離である。したがってこの4つの薄肉部11a~11dは、例えばボールエンドミル等にて切削加工することができる形状である。
【0030】
図8は、本発明の第1の実施形態及び第2の実施形態に係るトルク変換器の感歪み抵抗体を含んで構成されるホイートストンブリッジ回路を示す図である。
【0031】
図4と
図7において、感歪み抵抗体G1と感歪み抵抗体G5は、実体的には起歪部2の軸を挟んで180度の角度で対向して配置され、ホイートストンブリッジ回路では辺S1に直列に配置される。一方、感歪み抵抗体G3と感歪み抵抗体G7は、実体的には起歪部2の軸を挟んで180度の角度で対向して配置され、ホイートストンブリッジ回路では辺S3に直列に配置される。そしてホイートストンブリッジ回路で、感歪み抵抗体G1と感歪み抵抗体G5が直列に配置された辺S1と、感歪み抵抗体G3と感歪み抵抗体G7が直列に配置された辺S3とが、ブリッジ回路の向かい合う辺として構成されている。
【0032】
感歪み抵抗体G2と感歪み抵抗体G6においても同様に、実体的には起歪部2の軸を挟んで180度の角度で対向して配置され、ホイートストンブリッジ回路では辺S2に直列に配置される。一方、感歪み抵抗体G4と感歪み抵抗体G8は、実体的には起歪部2の軸を挟んで180度の角度で対向して配置され、ホイートストンブリッジ回路では辺S4に直列に配置される。そしてホイートストンブリッジ回路で、感歪み抵抗体G2と感歪み抵抗体G6が直列に配置された辺S2と、感歪み抵抗体G4と感歪み抵抗体G8が直列に配置された辺S4とが、ブリッジ回路の向かい合う辺として構成されている。
【0033】
本発明の第1の実施形態及び第2の実施形態に係るトルク変換器はいずれも、起歪部の外周に不連続の薄肉部が設けられていることから、起歪部の厚みを大きくして剛性を高めることができる。さらに厚みと長さが等長の複数の薄肉部を設けることで、薄肉部に添着する感歪み抵抗体の円周方向の位置精度を緩和してもなお高精度なトルク変換器を実現できる。また薄肉部の深さを適宜調整することで、トルクの測定範囲を変えることも可能となる。
【0034】
以上、本発明を好ましい実施形態に基づいて説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の活用例として、高速で回転する自動車の車輪などに生じるトルクを測定する装置への適用が可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 :トルク変換器
2 :起歪部
2a :外周面
2b :内周面
3a、3b :フランジ部
4 :歯車
5 :受電側コイル
6 :蓋
7 :給電部
8 :回転速度検出部
9 :電装品ボックス
10a~10d :薄肉部
11a~11d :薄肉部
12 :回路基板
13 :トルク測定部
14 :アンテナ
G1~G8 :感歪み抵抗体