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特許7204092野菜ペーストの製造方法およびそのための菌株
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  • 特許-野菜ペーストの製造方法およびそのための菌株 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】野菜ペーストの製造方法およびそのための菌株
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20230106BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20230106BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20230106BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A23L19/00 A
A23L19/00 Z
A23L5/00 J
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018170637
(22)【出願日】2018-09-12
(65)【公開番号】P2019058163
(43)【公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2017183411
(32)【優先日】2017-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-02520
(73)【特許権者】
【識別番号】000132172
【氏名又は名称】株式会社スギヨ
(73)【特許権者】
【識別番号】511169999
【氏名又は名称】石川県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】小柳 喬
(72)【発明者】
【氏名】尾西 弘嗣
(72)【発明者】
【氏名】島 寛明
(72)【発明者】
【氏名】野田 實
(72)【発明者】
【氏名】野田 文雄
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-289430(JP,A)
【文献】特開平03-292869(JP,A)
【文献】Marja Tamminen, et al.,Fermentaion of Carrot Juice by Probiotics: Viability and Preservation of Adhesion,International Journal of Biotechnology for Wellness Industries,2013年03月31日,Vol. 2,pp. 10-15
【文献】岡田俊樹、那須喜一,滋賀の伝統発酵食品の食品機能性評価と製品開発 -有用乳酸菌を利用した食品開発-,滋賀県工業技術総合センター業務報告,滋賀県工業技術総合センター,2014年10月01日,第28号,pp. 94-98
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
A23L 19/00-19/20
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルスパラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属するSB3株(受託番号 NITE P-02520)。
【請求項2】
請求項1に記載のSB3株(受託番号 NITE P-02520)を用いる、野菜を原料とした発酵ペーストを製造する方法。
【請求項3】
前記野菜がニンジンである、請求項に記載の方法。
【請求項4】
ニンジンを主要な栄養源とする、請求項に記載の方法。
【請求項5】
ニンジンを実質的に唯一の栄養源とする、請求項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1に記載のSB3株(受託番号 NITE P-02520)を用いる、野菜を発酵させる方法。
【請求項7】
前記野菜がニンジンである、請求項に記載の方法。
【請求項8】
ニンジンを主要な栄養源とする、請求項に記載の方法。
【請求項9】
ニンジンを実質的に唯一の栄養源とする、請求項に記載の方法。
【請求項10】
野菜を原料とした発酵ペーストを製造するための、ラクトバチルスパラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属するSB3株(受託番号 NITE P-02520)を含む組成物。
【請求項11】
野菜を発酵させるための、ラクトバチルスパラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属するSB3株(受託番号 NITE P-02520)を含む組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜ペースト(特にニンジンペースト)の製造方法およびそのための菌株に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜ペーストは、それ自体を食品として、ならびに、凍結乾燥カレーの材料としてなど、非常に広範な用途を有する。野菜ペーストは、使用される野菜に依存して、性質、特徴、および用途が異なり得る。中でもニンジンを主原料とする野菜ペーストは、βカロテンおよび食物繊維などが豊富であるために栄養価が高く、また、鮮やかな色を呈するという点において優れている。
【0003】
近年の健康志向および嗜好の多様化に伴い、専らニンジンをベースとする野菜ペーストの需要が高まっている。その一方で、ニンジンには特有のにおいやえぐみがあることから、これらを抑えることもニンジンペーストの製造および改善においては重要である。香りや味が良好なニンジンペーストを製造する手段としては、(1)油脂とともに加熱してテルペン類の量を低減する方法(特許文献1)、(2)酵素処理をする方法、および、(3)微生物による発酵を利用する方法などが挙げられる。(1)油脂とともに加熱する方法は、加熱に必要な熱エネルギーが必要であること、および、油脂の添加が必要であることから、エネルギーおよび費用の面で欠点を有する。(2)酵素処理法に使用される酵素は比較的高価であることから、費用面での欠点を有する。(3)微生物による発酵は、他の方法よりも低廉で実行できる可能性があるものの、ニンジンのみを栄養素として発酵できる微生物が知られていないため、さらなる添加物が必要となるという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-13092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、野菜ペースト、特にニンジンペーストの製造・改善を簡便かつ安価に行うための微生物的手法を提供する。本発明はまた、そのような微生物的手法に使用するための微生物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者らは、新規の乳酸桿菌株を提供することによって、上記課題を解決した。本発明の新規の乳酸桿菌株であるSB3株は、NCBI nucleotide BLASTの真正細菌・古細菌16S rDNAデータベースに対する検索の結果、および、炭素源資化能の試験結果から、ラクトバチルスパラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属すると考えられる。このSB3株は、2017年7月27日に独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許生物寄託センター(NITE-IPOD)に寄託された(受託番号 NITE P-02520)。
【0007】
例えば、本発明は、以下を提供する:
(項目1)
ラクトバチルスパラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属するSB3株(受託番号 NITE P-02520)またはその変異株。
(項目2)
請求項1に記載の変異株であって、ニンジンを唯一の栄養源として増殖可能である、変異株。
(項目3)
項目1または2に記載のSB3株(受託番号 NITE P-02520)またはその変異株を用いる、野菜を原料とした発酵ペーストを製造する方法。
(項目4)
前記野菜がニンジンである、項目3に記載の方法。
(項目5)
ニンジンを主要な栄養源とする、項目4に記載の方法。
(項目6)
ニンジンを実質的に唯一の栄養源とする、項目4に記載の方法。
(項目7)
項目1または2に記載のSB3株(受託番号 NITE P-02520)またはその変異株を用いる、野菜を発酵させる方法。
(項目8)
前記野菜がニンジンである、項目7に記載の方法。
(項目9)
ニンジンを主要な栄養源とする、項目8に記載の方法。
(項目10)
ニンジンを実質的に唯一の栄養源とする、項目8に記載の方法。
(項目11)
野菜を原料とした発酵ペーストを製造するための、ラクトバチルスパラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属するSB3株(受託番号 NITE P-02520)またはその変異株を含む組成物。
(項目12)
野菜を発酵させるための、ラクトバチルスパラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属するSB3株(受託番号 NITE P-02520)またはその変異株を含む組成物。
【0008】
本発明の新規の細菌SB3株は、API50CHLキット(日本ビオメリュー社製)を用いた糖質発酵能試験の結果から、ラクトバチルスパラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属すると考えられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、新規のラクトバチルスパラカゼイ(Lactobacillus paracasei)SB3株を提供する。本発明はまた、本発明が提供する新規の菌株を用いる野菜を原料とした発酵ペースト(特にニンジンを原料とした発酵ペースト)の製造および/または改善方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、SB3株を植菌したサンプル(黒丸●)および植菌していないサンプル(白丸〇)の培養時間の経過に対するpH変化を示したグラフである。
図2図2は、SB3株で発酵したニンジンペーストをボイル殺菌した結果(図2左)と、発酵していないニンジンペーストをボイル殺菌した結果(図2右)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。また、本明細書において「wt%」は、「質量パーセント濃度」と互換可能に使用される。また、本明細書において特に定義しない限り、「%」は「wt%」を意味する。
【0012】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0013】
本明細書において使用される用語「野菜ペースト」とは、野菜を主原料として作製したペーストをいう。野菜ペーストは、好ましくは、微生物によって発酵した発酵ペーストである。
【0014】
本明細書において使用される場合、野菜ペーストの「改善」または「改変」とは互換可能に使用され、野菜ペーストの「におい」および/または「えぐみ」を低減および/または好ましいものに変化させることをいう。
【0015】
本明細書において使用される用語「ニンジンペースト」とは、野菜ペーストの製造において原料として使用される野菜の、全てまたは実質的に全てが、あるいは、100%、99%以上、98%以上、97%以上、96%以上、95%以上、90%以上、85%以上、80%以上、75%以上、70%以上、65%以上、60%以上、55%以上、または、50%以上がニンジンである野菜ペーストをいう。
【0016】
本明細書において使用される用語「栄養源」とは、微生物の増殖に必要とされる物質(ただし、水および気体を除く)をいう。
【0017】
本明細書において使用される用語「主要な栄養源」とは、全ての栄養源の50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、または90%以上を占める栄養源をいう。
【0018】
本明細書において使用される用語「実質的に唯一の栄養源」とは、全ての栄養源の92%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、または、99%以上を占める栄養源をいう。
【0019】
本明細書において使用される用語「ニンジン」は、セリ科(Umbelliferae)のニンジン属(Daucus )に属する食用ニンジン(Daucus carota L.var.sativa DC.)などの一般的な食用ニンジンを包含する。これらニンジンのいずれもSB3株の発酵に利用可能である。
【0020】
本明細書において使用される用語「発酵」とは、系内に存在する成分をSB3株などの微生物の菌体内に存在する酵素により分解する現象をいう。
【0021】
(1.SB3株またはその変異株の培養)
SB3株またはその変異株は、ラクトバチルス属に使用する周知の培養条件、好ましくは、ラクトバチルスパラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に使用する周知の培養条件で培養することができる。
【0022】
(2.変異株の作製)
前記変異株は、例えば、一般的な突然変異処理を施すこと、又は継代培養による適応若しくは自然変異により作製される。
【0023】
前記突然変異処理は、一般的な変異原を用いて行われ得る。変異原としては、例えば、変異原作用を有する薬剤、紫外線などが挙げられる。変異原作用を有する薬剤としては、例えば、ストレプトマイシン、オフロキサシン、エチルメタンスルホネート、N-メチル-N′-ニトロ-N-ニトロソグアニジン、ブロモウラシル等のヌクレオチド塩基類似体、又は、アクリジン類などが挙げられる。
【0024】
本発明の変異株は、代表的には、ニンジンを主要な栄養源として、ニンジンを実質的に唯一の栄養源として、および/または、ニンジンを唯一の栄養源として増殖することが可能である。
【0025】
(3.野菜ペーストの製造または改変)
本発明のSB3株またはその変異株を用いて、野菜ペースト(特に、ニンジンペースト)の製造または改変を行うことができる。そのような製造および/または改変は、例えば、原料となる細断した野菜(例えば、ニンジン)または野菜ペースト(例えば、ニンジンペースト)に本発明の細菌を接触させ、本発明の細菌が増殖できる条件下で培養することによって行うことができる。培養条件は、本発明の細菌が増殖可能な全ての条件が包含される。代表的には、ラクトバチルスパラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に一般的に使用される培養条件を使用することができる。そのような培養条件は、好ましくは、30℃~37℃の温度であるが、これに限定されない。例えば、本発明の変異株として耐熱性を有する変異株を用いる場合には、さらに高温で培養をすることも可能である。
【0026】
野菜ペーストの製造または改変に用いる原材料としては、任意の野菜が使用可能である。
【実施例
【0027】
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、上記発明の詳細な説明にも下記実施例にも限定されるものではなく、請求の範囲によってのみ限定される。
【0028】
(実施例1:SB3株の単離)
本発明のSB3株は、あじのなれずし(石川県・能登半島産)から分離された。具体的には、食品サンプル(あじのなれずし)を滅菌生理食塩水で懸濁し、de Man Rogosa and Sharpe(MRS)寒天培地(ただし4(w/v)%塩化ナトリウムを添加したもの)に懸濁液を塗布して30℃にて培養した。集落を形成した菌体を採取し、MRS培地+4%NaCl液体培地にて純粋培養し、-80℃の極低温冷凍庫にて15%グリセリン存在下にて菌体を凍結保存した。単離されたSB3株を、2017年7月27日に独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許生物寄託センター(NITE-IPOD)に寄託した(受託番号 NITE P-02520)。
【0029】
(実施例2:SB3株の特徴付け)
実施例1で単離したSB3株の菌学的性質について、API50CHLキット(日本ビオメリュー社製)を用いた糖質発酵能試験を行った。結果をapiweb(登録商標)(https://apiweb.biomerieux.com)に当てはめて検索したところ、Lactobacillus paracasei ssp paracaseiと99%一致した。
SB3株の16S rDNA中、V1~V3 可変領域に相当する部分配列である529塩基の配列決定をした。その配列を、NCBI(National Center for Biotechnology Information)の塩基配列相同性検索サービスであるMicrobial Nucleotide BLAST(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi?PAGE_TYPE=BlastSearch&BLAST_SPEC=MicrobialGenomes)、および同じくNCBI nucleotide BLASTの真正細菌・古細菌16S rDNAデータベースに対する検索(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi?PAGE_TYPE=BlastSearch#)を行ったところ、乳酸桿菌であるラクトバチルスパラカゼイ(Lactobacillus paracasei)と最も近縁であるとの結果を得た。なお、検索配列内の相同性は100%であった。
以上の菌学的特徴(生化学的試験)およびrDNAの塩基配列の結果から、SB3株は、ラクトバチルスパラカゼイ(Lactobacillus paracasei)であると判定した。
(実施例3:SB3株によるニンジンペーストの発酵)
SB3株による、ニンジンペーストの発酵を試験した。ニンジンペーストとして、ニンジン100%の製品(スギヨファーム製(1kg/パック))を使用した。本製品は、製造時に90℃、30分間ボイル殺菌済である。発酵試験手順は、以下のとおりである。
(1)ニンジンペースト150gを200ml用フラスコに入れ、シリコン栓をした後、アルミ箔を被せて121℃、15分オートクレーブ殺菌した。
(2)BCP加プレートカウント培地(日水製)にて37℃で培養したSB3株のコロニーをクリーンベンチ内にて白金耳で採取し、(1)のニンジンペーストに植菌した。コントロールとして、植菌しないものを用意した。
(3)37℃で5日間培養。培養0日目と5日目にクリーンベンチ内にて適量をサンプリングし、pH及びSB3株の増殖を確認した。
(4)SB3株の増殖は、(3)のサンプリング物をクリーンベンチ内にて滅菌生理食塩水に懸濁後、BCP加プレートカウント培地に添加。37℃で72時間培養し、出現したコロニーからColony Forming Unit(CFU/g)を算出することにより評価した。
(5)SB3株植菌および植菌なしのニンジンペースト(培養5日目)の搾り汁について、(一財)日本食品分析センターにて、乳酸およびビタミンAを高速液体クロマトグラフ法により定量した。
(6)試験はn=2で実施した。
【0030】
ニンジンペーストのpHの変化は、以下のとおりであった。
【0031】
【表2】
【0032】
培養0日目と5日目におけるColony Forming Unit(CFU/g)の比較からSB3株の増殖を確認した。結果は、以下のとおりである。
【0033】
【表3】
【0034】
SB3株植菌および植菌なしのニンジンペースト(培養5日目)中の乳酸量からSB3株の増殖を確認した。結果は、以下のとおりである。
【0035】
【表4】
【0036】
上記の結果は、SB3株が、ニンジンペーストを唯一の栄養源として増殖および資化できることを示す結果である。
【0037】
本発明のSB3株を用いて野菜を発酵する場合(例えば、発酵ペーストを製造する場合)、発酵に際して外部から乳酸菌の栄養分を添加する必要がない(必要であれば、糖分等を添加してもよい)。
【0038】
上記の結果から、本発明は、発酵産物の生産コストを抑制できるという利点を提供する。
【0039】
(実施例4:官能試験)
乳酸菌SB3株の発酵の結果、ニンジンペーストの官能試験結果が改善することを以下のとおり実証した。
1.乳酸菌として受託番号 NITE P-02520として寄託したLactobacillus paracasei SB3株を用いた。
2.ニンジンペーストとして、ニンジン100%の製品(スギヨファーム製(1kg/パック)を使用した。本製品は、製造時に90℃、30分間ボイル殺菌済である。
3.発酵試験を以下の手順で行った。
(1)試験は、n=3で実施;
(2)ニンジンペースト150gを200ml用フラスコに入れ、シリコン栓をした後、アルミ箔を被せて121℃、15分でオートクレーブ殺菌;
(3)以下の手順で植菌、培養;
(i)GYP液体培地にて37℃、48時間培養したSB3株を滅菌生理食塩水で3回洗浄、
(ii)滅菌生理食塩水に懸濁して菌体数を調整し、終濃度1.0×10cells/gとなるように(2)のペーストに植菌し、37℃で培養した。コントロールとして、植菌しないものを用意した。なお、SB3株懸濁液中には、一般生菌、耐熱性菌、酵母、および大腸菌群のいずれも検出限界以下であった。また、SB3株はオートクレーブ処理により生菌数が検出限界以下となった、
(4)培養5日目まで、1日おきにpHを測定し、SB3株植菌および植菌なしのニンジンペーストからそれぞれ適量をクリーンベンチ内でサンプリングして冷凍保管した。SB3株を植菌(黒丸●)および植菌なしのニンジンペースト(白丸〇)の培養時間の経過に対するpH変化を図1に示した。SB3株を植菌したものではpHが低下し、発酵臭も認められた;
(5)SB3株の殺菌試験を以下のとおり実施;
(i)SB3株を植菌したニンジンペーストは、5日目のサンプリング終了後、100g分をクリーンベンチ内で真空袋に入れてシールし、90℃、20分蒸し加熱、
(ii)蒸し加熱したものは、適量をクリーンベンチ内で滅菌生理食塩水に懸濁し、以下の各培地に添加後、所定の温度、時間にて培養した。次に、出現したコロニー等を確認することにより、殺菌方法の有効性を評価、
(殺菌試験項目)
一般生菌:標準寒天培地(栄研化学製)にて37℃、48時間培養
耐熱性菌:試料を75℃、15分加熱後、標準寒天培地にて37℃、48時間培養
乳酸菌:BCP加プレートカウント寒天培地にて37℃、72時間培養
酵母:クロラムフェニコール(100mg/L)添加PDA寒天培地にて25℃、120時間
培養
大腸菌群:ブルーライト培地(日水製)にて37℃、24時間培養
(6)試食用サンプルの殺菌;
殺菌試験により、90℃、20分の蒸し加熱の有効性が示されたため、(4)で冷凍保管した各培養時間のサンプリング物を90℃、20分間蒸し加熱殺菌した。
(7)官能試験;
(6)で殺菌した各培養時間のサンプリング物を試食し、官能試験を行った。その結果を以下の表6(ニンジンペーストにおける味の経時変化)に示した。
【0040】
【表5】
【0041】
上記の実験において、SB3株を添加したものに、pH低下に連動した酸味の増強を感じた。SB3株を添加したものは、培養時間が長くなるに従い、生臭さが消え、ニンジン本来の味と酸味が相まって、酸味のある柑橘類に似た味となることが示された。
【0042】
この結果は、SB3株によるニンジンペーストが味およびにおいにおいて優れた生成物であることを示す。
【0043】
(実施例5:発酵ニンジンペーストの比較)
実施例3に記載の方法に従いSB3株で発酵したニンジンペーストを、発酵していないニンジンペーストと比較した。具体的には、両ニンジンペーストをボイル殺菌(90℃20分)し、色の変化(褐変)を比較した。その結果、図2の写真に示すように、SB3株で発酵したニンジンペースト(図2左)は、発酵しなかったニンジンペースト(図2右)と比較して、ボイル殺菌後の色の褐変が少なかった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
野菜ペースト(特に、ニンジンペースト)の製造ないし改善を行う優れた方法を提供する。
【受託番号】
【0045】
SB3株は、2017年7月27日に独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許生物寄託センター(NITE-IPOD)に寄託された(受託番号 NITE P-02520)
図1
図2