IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友ゴム工業株式会社の特許一覧 ▶ 学校法人 川崎学園の特許一覧

<>
  • 特許-シートカバーアセンブリ 図1
  • 特許-シートカバーアセンブリ 図2
  • 特許-シートカバーアセンブリ 図3A
  • 特許-シートカバーアセンブリ 図3B
  • 特許-シートカバーアセンブリ 図4
  • 特許-シートカバーアセンブリ 図5
  • 特許-シートカバーアセンブリ 図6
  • 特許-シートカバーアセンブリ 図7A
  • 特許-シートカバーアセンブリ 図7B
  • 特許-シートカバーアセンブリ 図8
  • 特許-シートカバーアセンブリ 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】シートカバーアセンブリ
(51)【国際特許分類】
   A61G 5/12 20060101AFI20230106BHJP
   A47C 1/032 20060101ALI20230106BHJP
   A47C 7/62 20060101ALI20230106BHJP
【FI】
A61G5/12 706
A47C1/032
A47C7/62 Z
A61G5/12 702
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018204608
(22)【出願日】2018-10-31
(65)【公開番号】P2020069040
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-08-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物に発表 発行者 特定非営利活動法人日本シーティング・コンサルタント協会 頒布日 平成30年10月24日~平成30年10月25日 発行日 平成30年11月1日 刊行物 車椅子シーティング研究 3巻,第96頁
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597039984
【氏名又は名称】学校法人 川崎学園
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100210251
【弁理士】
【氏名又は名称】大古場 ゆう子
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(72)【発明者】
【氏名】山下 英里
(72)【発明者】
【氏名】三島 健司
(72)【発明者】
【氏名】小原 謙一
【審査官】杉▲崎▼ 覚
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-058814(JP,A)
【文献】特開2011-079476(JP,A)
【文献】特開2017-079986(JP,A)
【文献】米国特許第05803539(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 5/10
A61G 5/12
A47C 1/032
A47C 7/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体が着座する座面部と、前記座面部に対し起立した基準位置と最も後傾した最大後傾位置との間を回動する背もたれとを有するリクライニングシートに装着されるシートカバーアセンブリであって、
前記背もたれの前面側に配置され、前記人体に面するを含む表面と、前記表面の反対側の面とを有する前面シートと、
前記前面シートの上端部に接続され、前記背もたれの上端部から前記背もたれの背面側に回り込み、前記背もたれの背面側を下方に延びた後、第1固定点で固定される第1接続部材と、
前記背もたれの上端部から前記第1固定点までの前記第1接続部材の経路長が、前記背もたれが前記基準位置にあるときよりも前記最大後傾位置にあるときの方が短くなるように、前記第1接続部材を案内する案内部材と
前記前面シートの下端部に接続され、前記背もたれの前面側を下方に延びた後、第2固定点に固定される第2接続部材であって、上下方向に伸縮可能な伸縮部材を含む第2接続部材と、
を備え、
前記第2接続部材は、前記背もたれが前記基準位置にあるときに自然長から伸びた状態であり、前記背もたれが前記最大後傾位置にあるときに前記基準位置における状態よりも縮んだ状態であり、これにより、前記第2接続部材は、前記背もたれが前記基準位置から前記最大後傾位置まで回動したとき、前記第1接続部材が前記案内部材に案内されて前記経路長が短くなるように、前記第1接続部材を所定の距離だけ前記背もたれの前面側に送り出し、
前記表面の前記人体に面する面と前記人体との間の静止摩擦係数は、前記裏面と当該裏面と接する部材の面との間の静止摩擦係数よりも大きい、
シートカバーアセンブリ。
【請求項2】
前記第1接続部材は、
動滑車と
前記前面シートの上端部に接続され、前記背もたれの背面側を下方に延びた後、前記動滑車に巻き付くように前記背もたれ側に折り返される吊り部材と、
前記動滑車と前記第1固定点とを連結する連結部材と
を含む、
請求項1記載のシートカバーアセンブリ。
【請求項3】
前記動滑車は、棒状の部材であり、
前記吊り部材は、シート状の部材であり、前記動滑車の位置で前記背もたれ側に折り返された後、前記背もたれの背面を覆うように前記背もたれに固定される、
請求項に記載のシートカバーアセンブリ。
【請求項4】
前記案内部材は、前記背もたれが前記基準位置及び前記最大後傾位置の少なくとも一方の位置にあるときに、前記第1接続部材を、前記背もたれの前記上端部から下方に向かうにつれて、前記背もたれの背面から徐々に離間させるスペーサである、
請求項1からのいずれかに記載のシートカバーアセンブリ。
【請求項5】
前記案内部材は、前記背もたれの回転中心の近傍に配置され、側面視においてL字、V字、又はI字状の部材である、
請求項1からのいずれかに記載のシートカバーアセンブリ。
【請求項6】
前記背もたれの前面を覆うように前記背もたれに固定され、前記前面シートの前記面に面するを有するシート状のカバー
をさらに備える、
請求項1からのいずれかに記載のシートカバーアセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リクライニングシートに装着されるシートカバーアセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
介護分野において、座位保持が困難な要介護者に対して、頭部まで背もたれがあるリクライニング機能付きの車椅子のようなリクライニングシートが用いられる。リクライニングシートの背もたれは、座面の後方にある軸周りを回動する。これに対し、リクライニングシートに着座した人体は、側方から視て大転子を中心に回転する。そのため、両者の回転中心にはずれが生じる。よって、リクライニングシートの背もたれを後傾させたとき、背もたれよりも回転中心が前方にある人体は、背もたれ上を降下する方向に滑る。その後、背もたれを元の位置へ復帰させようとしたとき、人体が背もたれ上を降下した状態で起こされることになるため、背もたれに作用する垂直抗力が増大する。これに伴って、背もたれと人体との間の摩擦力が増大し、人体は背もたれ上を滑りにくくなり、背もたれを傾斜させる前の初期位置まで戻ることができない。これにより、人体に座面の下方及び前方へ押す力が加わり、臀部のずれ力(せん断力)が増大する。従って、背もたれを後傾した後、復帰させると、臀部のずれ力は初期位置にあるときよりも増加してしまう。
【0003】
介護の必要のない健康な人であれば、臀部のずれ力を感じたとき、姿勢を変えることにより瞬時にずれ力を低減させることができる。しかし、要介護者の場合、姿勢を自由に変更することが困難なため、ずれ力が長時間臀部へ加わった状態となる。この臀部のずれ力は15分以上続いてしまうと、着座姿勢においても褥瘡の要因となることが知られている。褥瘡とは、圧迫による皮膚の潰瘍であり、例えば、長時間同じ姿勢をとった場合に、身体とその支持面との接触箇所で起こる血行不全により発生する。
【0004】
褥瘡の問題を解決するために、様々な提案がなされている。例えば、特許文献1は、リクライニング式の車椅子に装着するシートカバーを開示している。このシートカバーは、前面部と背面部とを上端及び下端で連結した筒状のカバーであり、背面部の裏面が背もたれの前面に面するように、背面部が背もたれに対し固定される。前面部の人体に面する前面は、高摩擦面を構成する。一方、前面部の内面と、これに面する背面部の内面は、いずれも低摩擦面を構成する。以上の構成により、背もたれの後傾時には、前面部の高摩擦面により、人体の背もたれに対する降下が抑制され、背もたれの復帰時には、互いに面する前面部及び背面部の内面どうしが滑り、人体とともに前面部が背もたれに固定されている背面部に対して上昇する。これにより、背もたれの復帰時の臀部のずれ力が低減される。
【0005】
特許文献1では、臀部のずれ力を測定して検証している。具体的には、背もたれを鉛直に対して10度後傾させた初期位置での臀部のずれ力は、11.8%BW(%Body Weight:荷重を人体の体重で除して正規化した値)である。この状態から背もたれを後傾させ、さらに復帰させると、シートカバーを不使用の場合には臀部のずれ力が18.5%BWとなるのに対し、特許文献1のシートカバーを使用した場合には16.2%BWとなっており、同シートカバーにより臀部のずれ力が低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017―79986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のシートカバーを使用したとしても、背もたれを後傾させて復帰させると、臀部のずれ力が初期位置での値に比べて依然として大きく、余計な臀部のずれ力が発生し、残留していることが分かる。つまり、同シートカバーは、臀部のずれ力をある程度低減する効果はあるものの、背もたれを後傾させて復帰させても、人体を初期位置へ戻すことができておらず、これが背もたれの復帰時に臀部のずれ力が残留する原因と考えられる。よって、リクライニングシートにおいて、背もたれの復帰時に人体を初期位置へ戻すことができるような仕組みの提供が望まれる。なお、このような仕組みが必要とされるのは、使用者が要介護者である場合に限らない。介護の必要のない健康な人の場合、適宜姿勢を変えることで増大した臀部のずれ力を解消することができるが、その都度、自分で調整せねばならず、面倒である。よって、介護の必要のない人にとっても、背もたれの復帰時に身体を自動的に初期位置へ戻してくれるリクライニングシートの提供が望まれる。
【0008】
本発明は、背もたれを後傾させて復帰させたときに、人体を初期位置へ戻すことができる、リクライニングシート用のシートカバーアセンブリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1観点に係るシートカバーアセンブリは、人体が着座する座面部と、座面部に対し起立した基準位置と最も後傾した最大後傾位置との間を回動する背もたれとを有するリクライニングシートに装着される。シートカバーアセンブリは、前面シートと、第1接続部材と、案内部材とを備える。前面シートは、背もたれの前面側に配置され、人体に面する高摩擦な面を含む表面と、表面の反対側の低摩擦な裏面とを有する。第1接続部材は、前面シートの上端部に接続され、背もたれの上端部から背もたれの背面側に回り込み、背もたれの背面側を下方に延びた後、第1固定点で固定される。案内部材は、背もたれの上端部から第1固定点までの第1接続部材の経路長が、背もたれが基準位置にあるときよりも最大後傾位置にあるときの方が短くなるように、第1接続部材を案内する。
【0010】
本発明の第2観点に係るシートカバーアセンブリは、第1観点に係るシートカバーアセンブリであって、第2接続部材をさらに備える。第2接続部材は、前面シートの下端部に接続され、背もたれの前面側を下方に延びた後、第2固定点に固定される。
【0011】
本発明の第3観点に係るシートカバーアセンブリは、第2観点に係るシートカバーアセンブリであって、第2接続部材は、上下方向に伸縮可能な伸縮部材を含む。
【0012】
本発明の第4観点に係るシートカバーアセンブリは、第1観点から第3観点のいずれかに係るシートカバーアセンブリであって、第1接続部材は、動滑車と、吊り部材と、連結部材とを含む。吊り部材は、前面シートの上端部に接続され、背もたれの背面側を下方に延びた後、動滑車に巻き付くように背もたれ側に折り返される。連結部材は、動滑車と第1固定点とを連結する。
【0013】
本発明の第5観点に係るシートカバーアセンブリは、第4観点に係るシートカバーアセンブリであって、動滑車は、棒状の部材である。吊り部材は、シート状の部材であり、動滑車の位置で背もたれ側に折り返された後、背もたれの背面を覆うように背もたれに固定される。
【0014】
本発明の第6観点に係るシートカバーアセンブリは、第1観点から第5観点のいずれかに係るシートカバーアセンブリであって、案内部材は、背もたれが基準位置及び最大傾斜位置の少なくとも一方の位置にあるときに、第1接続部材を、背もたれの上端部から下方に向かうにつれて、背もたれの背面から徐々に離間させるスペーサである。
【0015】
本発明の第7観点に係るシートカバーアセンブリは、第1観点から第6観点のいずれかに係るシートカバーアセンブリであって、スペーサは、背もたれの回転中心の近傍に配置され、側面視においてL字、V字、又はI字状の部材である。
【0016】
本発明の第8観点に係るシートカバーアセンブリは、第1観点から第7観点のいずれかに係るシートカバーアセンブリであって、背もたれの前面を覆うように背もたれに固定され、前面シートの低摩擦な裏面に面する低摩擦な表面を有するシート状のカバーをさらに備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明の以上の観点によれば、背もたれが基準位置から最大後傾位置へと後傾すると、背もたれの背面側における背もたれの上端部から第1固定点に至るまでの経路において、第1接続部材の長さが短くなる。第1接続部材は、同経路の短くなった長さに応じた量だけ、背もたれの前面側に送り出される。このとき、第1接続部材に接続される前面シートもまた、背もたれに面する裏面が低摩擦な面を構成しているため、背もたれ上を降下するように送り出される。さらに、このとき、前面シートに高摩擦な面を介して接する人体は、背もたれの傾斜に合わせて、背もたれ上を降下するように滑る。一方、背もたれの最大後傾位置から基準位置への復帰時には、前面シートは、背もたれに面する裏面が低摩擦な面を構成していることにより、背もたれ上を容易に滑って上昇する。このとき、前面シートに高摩擦な面を介して接する人体もまた、背もたれ上を容易に滑って上昇する。よって、以上の観点に係るシートカバーアセンブリが装着されたリクライニングシートによれば、背もたれを後傾させて復帰させたときに、人体を初期位置へ戻すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係るシートカバーアセンブリが装着されたリクライニングシートの斜視図。
図2図1のリクライニングシートの背面図。
図3A】リクライニングシート及びこれに装着されたシートカバーアセンブリの側方断面図であって、背もたれの基準位置を示す図。
図3B】リクライニングシート及びこれに装着されたシートカバーアセンブリの側方断面図であって、背もたれの最大傾斜位置を示す図。
図4】3枚のシート部材の展開図。
図5】高摩擦部材を含むシート部材を前方側に目繰り上げたときの様子を示す図。
図6】変形例に係るシートカバーアセンブリ及びこれに装着されたシートカバーアセンブリの側方断面図であって、背もたれの最大傾斜位置を示す図。
図7A】別の変形例に係るシートカバーアセンブリの主要部を模式的に表す側方断面図。
図7B】さらに別の変形例に係るシートカバーアセンブリの主要部を模式的に表す側方断面図。
図8】例1~例3のシートカバーアセンブリが用いられた場合の、背もたれの傾斜角度と前面シートの移動量との関係を示すグラフ。
図9】実施例及び比較例に係る臀部のずれ力の計測結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係るシートカバーアセンブリについて説明する。
【0020】
<1.シートカバーアセンブリの構成>
図1に、本実施形態に係るシートカバーアセンブリ2が装着されたリクライニングシート1の斜視図を示し、図2に、その背面図を示す。これらの図に示すように、リクライニングシート1は、リクライニング式の車椅子であり、被介護者、特に座位保持が困難な要介護者が使用するのに適している。シートカバーアセンブリ2は、これに含まれる後述する案内部材9を除き、リクライニングシート1に対し着脱式に固定される。なお、案内部材9も、リクライニングシート1に対し着脱式に固定されるように構成することもできる。
【0021】
リクライニングシート1は、人体が着座する座面部10と、座面部10に対し回動する背もたれ11と、これらを連結して支持するフレーム13とを有する。フレーム13には、左右両側に2輪ずつ配置される車輪14と、座面部10に着座した人体のための左右一対のアームレスト15と、リクライニングシート1を介護者が押すための手摺り16とが取り付けられている。なお、特に断らない限り、前後及び左右は、座面部10に着座した人体を基準に定義される。
【0022】
背もたれ11は、座面部10の後方に位置し、左右方向に延びる回転軸A1周りを回動する。より具体的には、背もたれ11は、座面部10に対し起立した基準位置と、最も後傾した最大後傾位置との間を回動する。図3A及び図3Bは、リクライニングシート1及びこれに装着されたシートカバーアセンブリ2を表す側方断面図であり、図3Aが背もたれ11の基準位置を示しており、図3Bが背もたれ11の最大後傾位置を示している。基準位置は、座面部10に対し垂直である必要はなく、やや後傾していてもよい。なお、特に断らない限り、上下は、背もたれ11が基準位置にあるときを基準に定義される。
【0023】
シートカバーアセンブリ2は、図4に示す3枚のシート部材3~5と、動滑車となる円柱状の棒部材6と、左右一対の伸縮部材7と、左右一対のベルト部材8と、案内部材9とを有する。図3A及び図3Bに示すように、これらの部材3~9は、側面視において背もたれ11を囲むようにループ状に形成されている。
【0024】
シート部材3は、背もたれ11の前面を覆うように背もたれ11に固定されるシート状のカバーである。一方、シート部材4の一部である、図4に示す第1端部41は、背もたれ11の背面を覆うように背もたれ11に固定される。シート部材3及び第1端部41は、左右両端及び上端において周縁部に沿って縫製等の態様で接続されており、袋状に形成されている。この袋は、背もたれ11を上方から包むように覆いかぶせられ、背もたれ11がその内部に収容される。
【0025】
シート部材4は、以上の第1端部41と、第1端部41に連続する中部42と、さらに中部42に連続する第2端部43とを含む。中部42は、第1端部41の下端に連続しており、側面視においてU字状に、第1端部41に対して外側に折り曲げられ、その後、上方に向かって背もたれ11の上端部11aまで延びる。そして、中部42の上端部42aは、背もたれ11の上端部11aにおいて、第2端部43の上端部43aに連続する。第2端部43は、背もたれ11の上端部11aから背もたれ11の前面側に回り込み、背もたれ11の前面側を下方に延びる。よって、中部42及び第2端部43を1枚のシートと見たとき、このシートは、背もたれ11の上端部11aに沿って折り曲げられている。なお、図4では、第1端部41、中部42及び第2端部43の境界が点線で示されているが、本実施形態では、これらの部41~43は、一体的に構成されている。ただし、シート部材4は、任意の枚数の別々のシートを縫製等により適宜、接続したものであってもよい。このときの接続位置は、第1端部41、中部42及び第2端部43の境界に沿っている必要はない。
【0026】
背もたれ11の前面側では、第2端部43の下端部43bを前方から覆うように、3枚目のシート部材5が接続されている(図3A参照)。シート部材5は、シート本体51と、シート本体51の表面(前面)に縫製等の態様で取り付けられている高摩擦部材52とを含む。なお、シート部材3及び4、並びにシート本体51は、いずれも両面(表面及び裏面)が低摩擦な面を構成するのに対し、高摩擦部材52は、少なくとも表面が高摩擦な面を構成する。シート部材5は、シート部材4の第2端部43から又割れし、座面部10上において吊るされる。
【0027】
図5は、シート部材5を前方側に目繰り上げたときの様子を示している。同図、並びに図3A及び図3Bに示すように、シート部材3は、背もたれ11の前面側を下方に延びた後、座面部10と背もたれ11との隙間を通り抜け、案内部材9に接続される。案内部材9は、背もたれ11の回転軸A1の下方近傍において、リクライニングシート1のフレーム13に取り付けられている。図2、並びに図3A及び図3Bに示すように、案内部材9は、平板状の本体部材91と、本体部材91の上端部の左端近傍及び右端近傍において、水平方向に後方へ突出する左右一対の突出部92とを有する。本体部材91は、側面視において鉛直方向に延び、左右方向に概ね背もたれ11と同じ幅だけフレーム13間を延びる。よって、案内部材9は、側面視においてL字状の形状を有する。シート部材3の下方側の端部3aは、座面部10と背もたれ11との隙間を通り抜けた後、本体部材91の下端部に沿って折り曲げられ、当該下端部の後面側に取り付けられている面ファスナー93(図2参照)に固定される。シート部材3の端部3aにおいて、本体部材91の面ファスナー93に対向する面には、面ファスナー93と着脱可能な面ファスナー31(図4参照)が取り付けられている。この面ファスナー31及び93どうしの固定により、シート部材3及びシート部材4の第1端部41の、背もたれ11に対する位置が固定される。
【0028】
また、図5に示すとおり、左右一対の伸縮部材7は、シート部材4の第2端部43の下端部43bに接続されている。図4では、参考のため、下端部43bにおける伸縮部材7の取り付け位置も点線で示されている。図2に示すように、これらの伸縮部材7の下方側の端部7aは、シート部材3の下方側の端部3aに縫製等の態様により接続されている。そのため、伸縮部材7は、背もたれ11の前面側においてシート部材3上を下方に延びた後、座面部10と背もたれ11との隙間を通り抜け、面ファスナー31及び93どうしの固定により、シート部材3の端部3aとともに案内部材9の本体部材91に固定される。伸縮部材7は、上下方向に伸縮可能であり、本実施形態では、織ゴムや編ゴム等の平ゴムから構成される。
【0029】
ここで、背もたれ11の背面側の様子についての説明に戻る。シート部材4の中部42は、上述したとおり、側面視においてU字状に折り曲げられている。そして、この中部42の折り曲げにより形成されるポケットに、左右方向に延びる棒部材6が挿入されている。棒部材6は、円柱状であり、動滑車となり、背もたれ11の傾斜に応じて背もたれ11の高さ方向に沿って昇降する。なお、ここでいう高さ方向とは、回転軸A1から背もたれ11の上端部11aに向かう方向を意味する。このように、動滑車6(動滑車にも、参照符号6を付することがある)の高さ位置が変化することで、中部42においてU字状に折り曲げられる位置が変化し、中部42の背もたれ11に対する位置も変化する。背もたれ11が、図3Aに示す基準位置にあるとき、動滑車6は、高さ方向に最も下方に位置する。一方、背もたれ11が、図3Bに示す最大後傾位置にあるとき、動滑車6は、高さ方向に最も上方に位置する。背もたれ11の傾斜角度は、動滑車6の高さ方向の位置に概ね比例し、背もたれ11が後傾する程、動滑車6の高さ方向の位置が上昇する。動滑車6が距離dだけ、背もたれ11の高さ方向に上昇すると、中部42は、その倍の距離2dだけ、背もたれ11の前面側に送り出される。また、これに合わせて、第2端部43は、同じく距離2dだけ、背もたれ11に対し下降する。
【0030】
図2に示すように、棒部材6の左右両端には、左右一対のベルト部材8が取り付けられている。ベルト部材8の下端部8aは、各々、案内部材9に固定されている。より具体的には、案内部材9の本体部材91の下端部において左右両端の近傍には、各々、左右方向に幅広のスリット状の貫通孔が形成されている。ベルト部材8の下端部8aは、それぞれこの貫通孔に通された後、バックル等によりループを形成させられることで、本体部材91に対し固定されている。また、ベルト部材8は、各々、上下方向に分離されており、これらの分離された部分は、連結具81を介して分離及び接続が可能である。連結具81は、ベルト部材8の上下方向の長さを調整するめのアジャスター機能も有する。
【0031】
以上のとおり、シート部材3~5のうち、背もたれ11が基準位置にあるときに背もたれ11の前面側に配置される部分は、シート部材3、シート部材4の第2端部43及びシート部材5である。以下、シート部材4の第2端部43及びシート部材5を、前面シートF1と呼ぶ。前面シートF1は、背もたれ11の傾斜に応じて、背もたれ11の前面側において背もたれ11に対し移動する。
【0032】
シート部材3~5のうち、高摩擦部材52は、その名のとおり、滑りの悪い、高摩擦な素材のシートにより構成される。一方、シート部材3~5のうち、高摩擦部材52以外の部分は全て、滑りの良い、低摩擦な素材のシートにより構成され、本実施形態では、全て同じ素材で構成される。前面シートF1の人体に面する表面は、高摩擦部材52による高摩擦な面を含むため、人体との間での摩擦が大きくなる。一方、前面シートF1の、シート部材3に面する裏面は、シート部材4の第2端部43及びシート本体51により低摩擦な面を構成する。また、シート部材3の、前面シートF1の低摩擦な裏面に面する表面も、低摩擦な面を構成する。よって、前面シートF1とその背面側のシート部材3との間の摩擦は小さくなる。
【0033】
シートカバーアセンブリ2の機能を発揮するためには、前面シートF1の表面と人体との間の摩擦力が、前面シートF1の裏面とこれに接する面(本実施形態では、シート部材3)との間の摩擦力よりも大きいことが重要になる。また、特に、滑り始めの摩擦力が重要となる。よって、前面シートF1の表面と人体との間の静止摩擦係数をμ1とし、前面シートF1の裏面とこれに接する面との間の静止摩擦係数をμ2としたとき、μ1>μ2である。また、μ1>μ2+0.05であることがより好ましく、μ1>μ2+0.10であることがより好ましく、μ1>μ2+0.20であることがより好ましく、μ1>μ2+0.30であることがより好ましく、μ1>μ2+0.40であることがより好ましい。なお、前面シートF1の表面と人体との間の静止摩擦係数μ1は、人体がポリエステル100%のスウェット(東洋紡STC株式会社 品名:アクセンシャル@ゼブラ)を着用していることを想定し、同スウェット生地と前面シートF1の高摩擦な面(本実施形態では、高摩擦部材52)との間の静止摩擦係数として定義される。静止摩擦係数μ1及びμ2の測定は、測定対象となる一方の生地に平面圧子を介してウエイトを乗せ、同生地を他方の生地の上で滑らせながら、以下の条件の下、表面性測定器(新東亜化学株式会社製の「HEIDON TYPE14」)を使用して行う。測定時の各パラメータは、JIS K7125に従う。
【表1】
【0034】
以上のようなμ1及びμ2を実現するために、例えば、高摩擦部材52以外のシート部材3~5として、ナイロン製の生地を使用し、高摩擦部材52として、ゴム素材の生地を使用することができる。参考として述べると、上記測定方法により、ナイロン100%の生地どうし間の静止摩擦係数を3回計測したところ、その平均値は、0.27となった。また、上記方法により、ポリエステル100%のスウェット(東洋紡STC株式会社 品名:アクセンシャル@ゼブラ)と、ポリウレタン60%とポリエステル40%とを混合したゴム素材の生地との間の静止摩擦係数を3回計測したところ、その平均値は、0.73となった。
【0035】
シート部材4の第1端部41及び中部42、動滑車6、並びにベルト部材8は、前面シートF1の上端部43aを第1固定点P1に接続するための第1接続部材F2として機能する。第1固定点P1とは、本実施形態では、上記のとおり、案内部材9の本体部材91の下端部である。第1接続部材F2は、全体として見たとき、前面シートF1の上端部43aに接続され、背もたれ11の上端部11aから背もたれ11の背面側に回り込み、背もたれ11の背面側を下方に延びた後、第1固定点P1に固定される。このとき、シート部材4のうち、中部42及び第1端部41を合わせた部分は、背もたれ11の背面側において前面シートF1の上端部43aから下方に延びた後、動滑車6に巻き付くように背もたれ11側に折り返される。そして、上記のとおり、これらの部41及び42は、この折り返し部分のポケットに動滑車6を収容することで、動滑車6を背もたれ11の高さ方向に昇降可能に吊り下げる吊り部材として機能する。この吊り部材は、動滑車6の位置で背もたれ11側に折り返された後、背もたれ11の背面を覆うように背もたれに固定される。ベルト部材8は、動滑車6と、第1固定点P1とを連結する連結部材として機能する。
【0036】
案内部材9は、背もたれ11の上端部11aから第1固定点P1までの第1接続部材F2の経路長L1が、背もたれ11が基準位置にあるときよりも最大後傾位置にあるときの方が短くなるように、第1接続部材F2を案内する。案内部材9は、背もたれ11の上端部11aから下方に向かうにつれて、第1接続部材F2を背もたれ11の背面から徐々に離間させるスペーサとして機能する。図3A及び図3Bから分かるように、案内部材9の突出部92の前後方向の長さをlとしたとき、背もたれ11が基準位置から最大後傾位置に移動すると、第1接続部材F2の上記経路長L1は、動滑車6により概ね長さlだけ短くなる。そして、この長さの倍の長さ2lだけ、前面シートF1が背もたれ11の前面側において背もたれ11に対し移動する。
【0037】
伸縮部材7は、前面シートF1の下端部43bを第2固定点P2に接続するための第2接続部材F3として機能する。第2固定点P2とは、本実施形態では、上記のとおり、案内部材9の本体部材91の下端部である。案内部材9、第1接続部材F2、前面シートF1及び第2接続部材F3は、側面視においてこの順に接続され、ループを形成する。
【0038】
第2接続部材F3としての伸縮部材7は、その長手方向に自然長よりも伸びた状態で、リクライニングシート1に取り付けられる。なお、伸縮部材7は、背もたれ11が少なくとも基準位置から最大傾斜位置に達する直前までの間、自然長よりも伸びた状態を維持することが好ましく、背もたれ11が最大傾斜位置にあるときは、伸縮部材7が自然長に復帰してもよい。
【0039】
以上の構成により、第2接続部材F3は、背もたれ11が少なくとも基準位置から最大傾斜位置に達する直前まで、背もたれ11の前面側において前面シートF1を下方に引っ張る。そのため、背もたれ11が後傾しても、案内部材9、第1接続部材F2、前面シートF1及び第2接続部材F3により構成されるループがたるむことがない。すなわち、背もたれ11が後傾し、第1接続部材F2の上記経路長L1が短くなったとき、中部42が確実に前面側に送り出され、前面シートF1が確実に下降する。このとき、シート部材3~5どうしが接する面は全て、全て低摩擦な面を構成するため、中部42及び前面シートF1の送り出しがスムーズに進む。
【0040】
<2.リクライニング時の動作>
背もたれ11が基準位置から後傾すると、背もたれ11の上端部11aから第1固定点P1までの第1接続部材F2の経路長L1は、短くなる。第1接続部材F2は、同経路長L1の短くなった長さdに応じた量2dだけ、背もたれ11の前面側に送り出される。このとき、第1接続部材F2に接続される前面シートF1もまた、背もたれ11に面する裏面が低摩擦な面を構成しているため、背もたれ11上を降下するように送り出される。さらに、このとき、前面シートF1に高摩擦な面を介して接する人体は、背もたれ11の傾斜に合わせて、背もたれ11上を降下するように滑る。よって、背もたれ11が後傾したとき、人体は、背もたれ11及び座面部10に対する突っ張り感を感じない。
【0041】
一方、背もたれ11が後傾した状態から基準位置へ復帰するときには、前面シートF1は、背もたれ11に面する裏面が低摩擦な面を構成していることにより、背もたれ11上を容易に滑って上昇する。このとき、前面シートF1に高摩擦な面を介して接する人体もまた、背もたれ11上を容易に滑って上昇する。よって、以上のシートカバーアセンブリ2が装着されたリクライニングシート1によれば、背もたれ11を後傾させて復帰させたときに、人体を初期位置へ戻すことができる。
【0042】
<3.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0043】
<3-1>
上記実施形態では、シートカバーアセンブリ2は、リクライニング式の車椅子に装着されたが、これに限らず、車椅子以外の、単なるリクライニング式の椅子に装着してもよい。この場合も、シートカバーアセンブリ2により、背もたれの後傾時及び復帰時において、余計な力が人体に作用することがない。よって、被介護者も、介護の必要のない健康な人も、リクライニング機能を快適に使用することができる。
【0044】
<3-2>
図6に示すように、第1接続部材F2から動滑車6を省略してもよい。この場合、例えば、シート部材4の中部42を延長し、第1固定点P1に接続されるように構成することができる。本変形例では、背もたれ11の後傾により、第1接続部材F2の経路長L1が距離dだけ短くなると、前面シートF1が略同じ距離dだけ、背もたれ11上を下降することになる。
【0045】
あるいは、背もたれ11の上端部11aから第1固定点P1に至るまでの第1接続部材F2の経路上に、動滑車6を2つ以上設けてもよい。この場合、第1接続部材F2の経路長L1が距離dだけ短くなったときに、前面シートF1が距離4d以上、背もたれ11上を下降するように構成することもできる。
【0046】
<3-3>
案内部材9の形状は、上述したものに限られない。例えば、図7A及び図7Bに示すような形状も考えられる。すなわち、案内部材9は、側面視においてI字状に形成することもできるし、V字状に形成することもできる。また、案内部材9は、側面視において三角形、四角形、円形等、多様な形状とすることができる。以上に挙げた様々な例のとおり、案内部材9は、背もたれ11が基準位置及び最大傾斜位置の少なくとも一方の位置にあるときに、第1接続部材F2を、背もたれ11の上端部11aから下方に向かうにつれて、背もたれ11の背面から徐々に離間させるスペーサとして構成することができる。
【0047】
図8は、上記実施形態の例(例1)、変形例3-2の動滑車のない例(例2)、及び図7Aの例(例3)における、背もたれ11の傾斜角度と、前面シートF1の移動量との関係を示すグラフである。同グラフの計算条件は、背もたれ11の高さを900mmとし、側面視における第1固定点P1から回転軸A1間の距離を40mmとし、案内部材9の突出部93の前後方向の距離を40mmとした。このように、動滑車6の有無や、案内部材9の形状を調整することにより、前面シートF1の移動量を調整することができる。よって、人体の体格に応じたシートカバーアセンブリ2を提供することができる。
【実施例
【0048】
本発明の実施例として、上記実施形態と同様のシートカバーアセンブリを用意し、リクライニング式の車椅子に装着した。リクライニングシートの背もたれの高さは、970mm、座面部の奥行は400mmであった。また、座面部上に、共和電業社製の400×400mmの床反力計(型番K07-1712)を設置した。そして、このリクライニングシートに健常の男性1人を着座させ、背もたれが鉛直方向に対して10°後傾した状態、背もたれが鉛直方向に対して40°後傾した状態、再び背もたれが鉛直方向に対して10°後傾した状態へと順に変化させた。そして、このときの臀部のずれ力を、床反力計を用いて、サンプリング周波数100Hzで計測した。臀部のずれ力は、荷重を人体の体重で除して正規化した値(%BW)として算出した。なお、背もたれの回動速度は、角速度3°/秒とした。また、側面視における案内部材の突出部の前後方向の距離を98.1mmとした。ベルト部材としては、自然長が200mmのものを用意した。ベルト部材は、背もたれが鉛直方向に対して10°後傾した状態では、300mmに伸びた状態であった。
【0049】
続いて、以上のリクライニング式の車椅子からシートカバーアセンブリを取り外し、実施例と同様の方法で臀部のずれ力を計測し、比較例とした。図9に実施例及び比較例に係る臀部のずれ力の計測結果を示す。同図からは、実施例に係るシートカバーアセンブリを使用することで、背もたれを後傾させて復帰させたときに、臀部のずれ力が上昇するのを抑制できることが確認された。
【符号の説明】
【0050】
1 リクライニングシート
10 座面部
11 背もたれ
2 シートカバーアセンブリ
3 シート部材
4 シート部材
41 第1端部(吊り部材、第1接続部材)
42 中部(吊り部材、第1接続部材)
43 第2端部(前面シート)
5 シート部材(前面シート)
51 シート本体(前面シート)
52 高摩擦部材(前面シート)
6 棒部材(動滑車、第1接続部材)
7 伸縮部材(第2接続部材)
8 ベルト部材(連結部材、第1接続部材)
9 案内部材(スペーサ)
A1 回転軸(回転中心)
F1 前面シート
F2 第1接続部材
F3 第2接続部材
P1 第1固定点
P2 第2固定点
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9