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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】体位固定マット
(51)【国際特許分類】
   A61G 13/12 20060101AFI20230106BHJP
   A47C 27/00 20060101ALI20230106BHJP
   A47C 27/15 20060101ALI20230106BHJP
   A61G 15/10 20060101ALI20230106BHJP
【FI】
A61G13/12 B
A47C27/00 Q
A47C27/15 D
A61G15/10
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018212823
(22)【出願日】2018-11-13
(65)【公開番号】P2020078445
(43)【公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】591159181
【氏名又は名称】株式会社三洋
(73)【特許権者】
【識別番号】510097747
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立がん研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】591080874
【氏名又は名称】日本ケミカル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089026
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 高明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 賢司
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 暢
(72)【発明者】
【氏名】竹下 修由
(72)【発明者】
【氏名】早坂 和恵
(72)【発明者】
【氏名】上山 昇
【審査官】井出 和水
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-099387(JP,A)
【文献】特開2017-074172(JP,A)
【文献】登録実用新案第3084917(JP,U)
【文献】特開平11-332697(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0174451(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0143956(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 1/00 - A61G 15/12
A61F 5/00 - A61F 5/41
A47C 27/00 - A47C 27/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に多数のビーズが充填された、複数の気体透過性の細長袋状生地体と、前記細長袋状生地体を収納して気密状態に被覆する被覆材からなる外装部とを有する下層部と、
前記下層部上方に連設されて前記各細長袋状生地体に対応して配置され、表皮材に覆われた複数の軟質体とを備えた上層部と、
前記外装部に設けられて、前記外装部内部の空気を吸引する陰圧発生器具が着脱可能に装着され、常態においては閉状態であって前記外装部外部の空気を内方へ流入させないように構成された弁部とを備え、
前記細長袋状生地体は、前記人体の幅方向寸法よりも大きな長さ寸法に形成され、身長方向に対して交差する状態で、身長方向に沿って複数連接配置されていると共に、前記軟質体は、それぞれ細長板状であって前記人体の幅方向寸法よりも大きな長さ寸法に形成され、前記個々の前記細長袋状生地体に対応して個々の前記細長袋状生地体の上方において、前記人体の身長方向に対して交差する状態で、身長方向に沿って、複数、相互に接合されることなく表皮材に収納されて配置されており、
前記細長袋状生地体は、織物又は編物により作成された布地からなり、前記各細長袋状生地体の幅方向の接合部分が織られることにより又は編まれることにより接合され、
全体平面長方形状に形成されると共に、前記表皮材の厚さ寸法は前記被覆材の厚さ寸法よりも小さく形成されていることを特徴とする体位固定マット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体位固定マットに関し、特に、人体の全体又は一部を所定の状態に維持する体位固定マットの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、患者である人体を寝台上に仰臥又は横臥させて、CT(Computed Tomography)やMRI(Magnetic Resonance Imaging)等による画像撮影時や手術を行う際には、所定時間に亘り、人体が動かないように固定しておく必要があるが、患者の疾病の状態や年齢などによっては、静止状態を維持することが困難な場合がある。
【0003】
そこで、従来より、寝台上に敷設し、人体を帯部等で拘束することなく固定(又は保定)する体位固定マットが要望されている。
【0004】
このような従来のクッション体は、布団状の気体非透過性のキルティング状袋体と、内部に収納され、発泡ビーズを充填した気体透過性のクッション体とにより構成し、キルティング状袋体内部の空気を吸引することにより脱気してクッション体そのものを収縮させることにより、全体を横断面円弧状に変形させてクッション体上に仰臥又は横臥した患者の人体を両側から挟み込んで固定するように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6002189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような先行技術文献に開示された体位固定マットにあっては、多数のビーズを並列配置されたクッション体に充填した1層構造として構成されていたことから、使用された場合に患者の身体に接触する部位の圧力が部分的に高くなってしまい、手術や検査には所定の時間がかかることから所定時間に亘って患者の皮膚を圧迫し、その結果、患者に褥瘡や神経圧迫が発生してしまう虞があった。
【0007】
また、従来のように、多数のビーズを充填した1層構造として形成した場合には、手術時の突発的事由、例えば、手術用メスの受け渡しが適切に行われずに手術用メスが落下したような場合、細長袋状生地体の破損によって空気漏れが発生して陰圧が解除され、患者の体位を固定することができなくなる可能性があった。
【0008】
そこで、本発明の課題は、使用された場合に所定時間に亘り患者の皮膚を必要以上に圧迫せず褥瘡や神経圧迫が発生してしまう虞がないと共に手術時の突発的事由が発生した場合であっても患者の体位の固定状態を維持できる体位固定マットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題解決のため、請求項1記載の発明にあっては、内部に多数のビーズが充填された、複数の気体透過性の細長袋状生地体と、前記細長袋状生地体を収納して気密状態に被覆する被覆材からなる外装部とを有する下層部と、前記下層部上方に連設されて前記各細長袋状生地体に対応して配置され、表皮材に覆われた複数の軟質体とを備えた上層部と、
前記外装部に設けられて、前記外装部内部の空気を吸引する陰圧発生器具が着脱可能に装着され、常態においては閉状態であって前記外装部外部の空気を内方へ流入させないように構成された弁部とを備え、前記細長袋状生地体は、前記人体の幅方向寸法よりも大きな長さ寸法に形成され、身長方向に対して交差する状態で、身長方向に沿って複数連接配置されていると共に、前記軟質体は、それぞれ細長板状であって前記人体の幅方向寸法よりも大きな長さ寸法に形成され、前記個々の前記細長袋状生地体に対応して個々の前記細長袋状生地体の上方において、前記人体の身長方向に対して交差する状態で、身長方向に沿って、複数、相互に接合されることなく表皮材に収納されて配置されており、前記細長袋状生地体は、織物又は編物により作成された布地からなり、前記各細長袋状生地体の幅方向の接合部分が織られることにより又は編まれることにより接合され、全体平面長方形状に形成されると共に、前記表皮材の厚さ寸法は前記被覆材の厚さ寸法よりも小さく形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る体位固定マットは、下層部と上層部との2層構造により構成されている。下層部は、気密状態に被覆する被覆材内部において、気体透過性の細長袋状生地体に多数のビーズが充填された細長袋状生地体が、その上に仰臥又は横臥する人体の幅方向に沿って連設されて形成されている。上層部は下層部の上方において、その上に仰臥又は横臥する人体の幅方向に沿って連設され、平面短冊状の複数の軟質体が表皮材に覆われたものであり、細長袋状生地体の各区画に対応して配置されている。
【0011】
本発明に係る人体固定マットは、例えば、手術台の上に上層部を上にした状態で敷設され、上方に患者が仰臥又は横臥した場合には、人体等から荷重が加わった状態で細長袋状生地体の内部の空気が外装部に設けられた弁部から陰圧発生器具によって吸引されることにより、下層部は細長袋状生地体の長さ方向に沿って収縮する。
その結果、荷重の面圧に応じて下層部並びに上層部が人体等の両側部から人体の表面形状に沿うように変形して起立し、若しくは人体を包み込む壁を作るようにして、患者の体位を両側方から固定する。なお、この変形時に起立するか又は包み込むかに関しては人体等からの荷重やはみ出し量(幅方向の長さ)によって異なる。
【0012】
脱気時には、細長袋状生地体の長さ方向に沿って収縮することから、患者の身体の幅方向に沿って側面円弧状に変形し、患者の身体を側方から包み込むように挟み込んで固定する。
また、前記細長袋状生地体は、織物又は編物により作成された布地からなり、前記各細長袋状生地体の幅方向の接合部分が織られることにより又は編まれることにより接合されている。従って、幅方向に連設された複数の細長袋状生地体は、幅方向の接合部分が、別箇の糸等を使用することなく細長袋状生地体そのものの織り又は編みにより一体的に形成されている。
【0013】
請求項2記載の発明にあっては、前記ビーズは、平均粒径が0.7~1.0mmの範囲にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、内部に多数のビーズが充填された、複数の気体透過性の細長袋状生地体と、前記細長袋状生地体を収納して気密状態に被覆する被覆材からなる外装部とを有する下層部と、前記下層部上方に連設されて前記各細長袋状生地体に対応して配置され、表皮材に覆われた複数の軟質体とを備えた上層部と、前記外装部に設けられて、前記外装部内部の空気を吸引する陰圧発生器具が着脱可能に装着され、常態においては閉状態であって前記外装部外部の空気を内方へ流入させないように構成された弁部とを備えており、前記細長袋状生地体と前記軟質体とは、人体が仰臥又は横臥した状態を基準として人体の身長方向に対して交差する状態で、身長方向に沿って連接配置されており、脱気時には、細長袋状生地体の長さ方向に沿って収縮することから、患者の身体の幅方向に沿って上方へ向かうように横断面円弧状に変形し、患者の身体を側方から包み込むように挟み込んで固定するように構成されている。
【0015】
従来の体位固定マットにあっては、人体が仰臥又は横臥した状態を基準として人体の身長方向に沿った状態で細長袋状生地体が配置されるように構成されている。この場合、複数の細長袋状生地体相互の間の接合部には、細長袋状生地体の空隙部が長さ方向に沿って形成されることから、この空隙部の存在により充分な身長方向における固定強度を確保することができない、という問題点があった。
【0016】
しかしながら、請求項1記載の発明にあっては、前記細長袋状生地体と前記軟質体とは、人体が仰臥又は横臥した状態を基準として人体の身長方向に対して交差する状態で、身長方向に沿って連接配置されていることから、各細長袋状生地体が患者の人体を幅方向に沿って固定することができ、人体の幅方向に沿って配置される空隙部は固定の妨げとはならず、十分な固定強度を確保することが可能となる。
【0017】
また、従来の体位固定マットにおいては多数のビーズを充填した1層構造であったため、体位を固定するための圧力が部分的に高くなってしまい、患者の皮膚や筋肉を圧迫し、その結果褥瘡や神経圧迫が発生してしまう虞があったが、請求項1に係る発明においては、患者が横たわった場合に人体が直接に接触する上層部は軟質体により構成されていることから、下層部に陰圧が作用し人体に対して圧迫を加えた場合であっても上層部が人体への圧迫を緩衝する作用を果たし、所定のクッション性を確保することができることから、手術中や放射線治療時における患者の苦痛を低減することができ、褥瘡や神経圧迫が発生の事態を回避することが可能となる。
【0018】
さらに、多数のビーズを充填した1層構造の場合、手術時の突発的事由、例えば、手術用メスの受け渡しが適切に行われずに手術用メスが落下した場合、細長袋状生地体の破損によって空気漏れが発生し、陰圧が解除されてしまう虞があったが、仮に、誤って手術用メスが落下したような場合であっても、上層部に落下するものであり、仮に上層部が破損した場合であっても下層部にまで影響を及ぼさないようにすることができるため、患者の固定状態を維持することが可能となる。
【0019】
また、軟質体を備えた上層部が陰圧が作用する下層部とは分離して配設されていることから、陰圧が作用することにより下層部が収縮し、外装部に皺やたるみが発生した場合であっても、皺やたるみは上層部には影響を及ぼさないことから、上層部には陰圧の発生による皺等の発生を可能な限り抑制することができ、手術、検査の間の長時間にわたる固定の結果の皺等が患者の皮膚を圧迫することを原因とする褥瘡や神経圧迫の発生を抑止することが可能となる。
【0020】
また、前記細長袋状生地体は、織物又は編物により作成された布地からなり、前記各細長袋状生地体の幅方向の接合部分が織られることにより又は編まれることにより接合されており、幅方向に連設された複数の細長袋状生地体は、幅方向の接合部分が、別箇の糸等を使用することなく細長袋状生地体そのものの織り又は編みにより一体的に形成され、別途縫合糸等を使用して固定されているものではないことから、エックス線等を使用した検査時に当該縫合糸が写りこんでしまう事態を防止することができる。
【0021】
さらに、全体平面長方形状に形成されると共に、前記表皮材の厚さ寸法は前記被覆材の厚さ寸法よりも小さく形成されていることを特徴とする。
【0022】
従って、患者が仰臥又は横臥した場合に患者の皮膚に接触する上層部の表皮材は下層部の被覆材よりも薄く形成されていることから、脱気時に下層部が収縮し、患者を挟み込み圧迫した場合であっても、患者の皮膚へ圧力による影響を少なくすることが可能となる。
【0023】
請求項2記載の発明にあっては、前記ビーズは、平均粒径が0.7~1.0mmの範囲にあることにより、大粒径ビーズは発泡倍率が高いためクッション性は良好である一方、固定力、保定力に欠けるものであるが、請求項5記載の発明にあっては、小粒径ビーズのみを使用されていることから、より固定力に富む体位固定マットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係る体位固定マットの一実施の形態における使用例を示す平面図である。
図2】本発明に係る体位固定マットの一実施の形態を示し、(A)は体位固定マットの正面図、(B)は体位固定マットの側面面、(C)は体位固定マットの縦断面図、(D)は要部の拡大断面図である。
図3】本発明に係る体位固定マットの一実施の形態における変形例を時系列で示し、(A)は人体仰臥又は横臥前の説明図、(B)は人体の仰臥又は横臥状態の説明図、(C)は吸引後の人体保定状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係る体位固定マットを一実施の形態に基づき図面を参照して説明する。
【0026】
図1に示すように、体位固定マット1は、例えば、患者等の人体Pが仰臥又は横臥した状態のときに、陰圧発生器具等(図示せず)により陰圧を加えることにより、人体を両側から固定して人体Pの体位を固定するように構成されている。
【0027】
図2に示すように、体位固定マット1は、幅方向に沿って複数連設され、内部に多数のビーズ3が充填された気体透過性の細長袋状生地体B1~B5及び前記細長袋状生地体B1~B5を収納して気密状態に被覆する被覆材8aからなる外装部8を有する下層部4と、前記下層部4上方に連設されて前記各細長袋状生地体B1~B5に対応して配置され、表皮材5に覆われた長方形状の複数の軟質体6を備えた上層部7と、外装部に8設けられて外装部8内部の空気を吸引する陰圧発生器具(図示せず)が着脱可能に装着される弁部9とを備えている。
【0028】
内部に多数のビーズ3が充填された細長袋状生地体B1~B5によりクッション体2が形成されており、また、本実施の形態にあっては、クッション体2の裏面側には幅方向に沿って幅方向外方へ延設された3本の帯部11が設けられている。
【0029】
具体的には、体位固定マット1は、ニット生地により織られて形成された気体透過性の細長袋状生地体B1~B5の内部に充填された多数のビーズ3を含む下層部4と、ポリウレタンフォームにより平面長方形状に形成された軟質体6を含む上層部7との2層構造により構成されている。
【0030】
この場合、軟質体6はポリウレタンフォーム以外の素材を使用することも可能であり、適宜のクッション性を確保できるものであれば採用することができる。
【0031】
本実施の形態にあっては、体位固定マット1は平面長方形状に形成され、5本の細長袋状生地体B1~B5は、その長さ方向が低位固定マット1の幅方向に沿って、体位固定マット1の長さ方向に沿って連設されており、各細長袋状生地体B1~B5の上方には各細長袋状生地体B1~B5に対応して、夫々、5個の軟質体6が配設され、全体として表皮材5により被覆されて上層部7を形成し、上層部7は下層部4に接合固定されている。
【0032】
下層部4を構成する被覆材8aの材質は内部の気体を気密に保持する気体非透過性である。細長袋状生地体B1~B5は、気体透過性に形成されており、本実施の形態にあっては、横断面楕円形の筒状に形成され内部にビーズ3を充填することができるように構成されている。
また、本実施の形態にあっては、軟質体6は細長袋状生地体B1~B5の幅寸法及び長さ寸法と略同一に形成され、軟質体6は幅方向において相互に結合されていない状態で、表皮材5に収納されて配設されている。
【0033】
従って、脱気時に下層部4が収縮し、各細長袋状生地体B1~B5が長さ方向に沿って
両端部が上方に向かって丸くなるような円弧状に変形した場合には、夫々の軟質体6も各対応する細長袋状生地体B1~B5に随伴して下層部2と同様の上方へ丸くなる円弧状に配置されることとなる。この状態で上方に仰臥又は横臥する患者の身体を両側方から挟み込み固定するものである。
【0034】
上層部7を構成する表皮材5の厚さ寸法は外装部8を構成する被覆材8aの厚さ寸法よりも小さく形成されている。その結果、患者が上方に仰臥又は横臥した場合に患者の皮膚に接触する表皮材5は、より薄く形成されていることから、下層部4に陰圧が作用して収縮変形した場合の人体の皮膚等への影響を低減することができるように構成されている。
なお、本実施の形態にあっては、上層部7を構成する表皮材5の厚さ寸法は外装部8を構成する表皮材の厚さ寸法よりも小さく形成されている場合を例に説明しているが、上層部7を構成する表皮材5の厚さ寸法は外装部8を構成する表皮材の厚さ寸法よりも小さく形成されていなくてもよい。
【0035】
また、細長袋状生地体B1~B5は相互にニット生地により織られて一体に形成されており、細長袋状生地体B1~B5の間の接合部2aは、別箇の縫合糸を使用して接合されてはいない。
従って、別箇の縫合糸を使用して細長袋状生地体B1~B5の間を縫合した場合には、X線の画像撮影を行った際に縫合糸が画像に写りこんでしまう可能性があるが、本実施の形態にあっては、細長袋状生地体B1~B5の間の接合部2aが縫合糸を使用せずにニット生地により一体に織られて形成されていることから、このような事態を有効に回避することができる。
この場合、本実施の形態にあっては、細長袋状生地体B1~B5がニット生地により一体に織られて形成されている場合を例に説明したが、ニット生地であれば様々な化学繊維又は天然繊維を素材として使用することができる。また、ニット生地以外の生地であってもよく、細長袋状生地体B1~B5を一体に形成できればよい。
【0036】
本実施の形態にあっては、ビーズ3は、一例として、平均粒径が0.7~1.0mmの範囲にある小粒子ビーズ3が使用されている。この場合、図2(D)において、ビーズ3は説明の便宜上一部のみを図示しており、実際にはある程度の隙間を存して充填されている。
【0037】
なお、大粒径ビーズ(例えば、平均粒径4.0~5.0mm)を小粒径ビーズと混合して使用してもよい。このような大粒径ビーズは発泡倍率が高いためクッション性は良好であるが、固定力、保定力に欠けることから、本実施の形態に係る体位固定マット1にあっては小粒径ビーズのみを使用しているものである。本実施の形態におけるように、小粒径ビーズのみを使用した場合には、大粒径ビーズを使用した場合よりも、より固定力に富む体位固定マットを提供することができる。
また、前記小粒径ビーズ又は大粒径ビーズ以外の粒径のビーズを混合して使用してもよく、本実施の形態には限定されない。さらに、小粒径ビーズ及び大粒径ビーズに関しても、前記粒径には限定されることなく使用することができる。
【0038】
帯部11は、所定の幅と強度とを有しており、例えば、その長さ方向の中央付近が外装部8に固定用の補強部材12を介して固定されており、接合部2aの延在方向に沿い、かつ、両端が下層部4から所定長さだけはみ出る長さを備えている。
【0039】
これにより、帯部11の両端を寝台や架台等の裏面側で係合するなどにより体位固定マット1のマット部分(下層部4及び上層部7)を固定することができる。
【0040】
また、例えば、緊急時の担架として、人体Pを仰臥又は横臥させた状態で帯部11の両端を複数人で持つことにより移動・移設・搬送等を行うことも可能となる。なお、帯部11の長さは調節可能であり、両端を直接係合させるか寝台・架台に設けた被係合部と係合する係合部(図示せず)を備えるかなどは任意である。
【0041】
以下、本実施の形態に係る体位固定マット1の使用状態について説明する。
本実施の形態に係る体位固定マット1を用いる場合には、図2(A)及び図3(A)に示すように、体位固定マット1の長さ方向に沿った方向、即ち、細長袋状生地体B1~B5及び軟質体6の長さ方向に交差する方向に患者の人体Pが配置されるようにして体位固定マット1上に仰臥又は横臥させ、CTスキャンやMRI、或いは手術台にセット(固定)する。
【0042】
図3(B)に示すように、体位固定マット1に人体Pが仰臥又は横臥すると、人体Pの体重(荷重)により、上層部7が沈み込むように圧縮されると同時に、下層部4のビーズ3が流動的に細長袋状体B1~B5内部で移動し、人体Pの表面(例えば、背中等の背面側)と密着するようにやや変形する。
【0043】
そして、この状態で、図3(C)に示すように、図示しない陰圧発生器具のホース10を弁部9に接続し、陰圧発生器具を作動させて外装部8内の空気を吸引し、外装部8内部に陰圧を発生させた場合には、気体透過性に形成された細長袋状生地体B1~B5内部の空気及び外装部8内の内部の空気が吸引され、外装部8内が真空化されるにしたがって体位固定マット1の人体Pの上下左右からはみ出している部分が起立する。
そして、介助者の人手を介して患者の両側部を挟持できるように上記起立部を適宜、造形することにより、横断面では上方へ丸くなる円弧状に変形し、患者の人体Pの両側方から包み込むように挟み、その結果、人体Pの寝返り方向に対する体位が固定状態に維持される。
【0044】
したがって、荷重の面圧に応じて下層部4並びに上層部7のうち人体Pからはみ出ている部分が人体Pの表面形状に倣うように変形しつつ、人体Pに対して起立若しくは包み込むように壁を作るようにことができ、体位を維持、すなわち、体位を固定又は保定することができる。
【0045】
なお、この変形時において、例えば、図1における人体Pの両手付近のように起立するか、図3(C)に示すように包み込むかは、人体Pからの荷重やはみ出し量(幅方向の長さ)によって異なる。
【0046】
ところで、多数のビーズ3を充填した下層部4のみの1層構造の場合、体位を維持するための圧力が部分的に高くなってしまい、褥瘡や神経圧迫が発生してしまう場合がある。
これに対し、本実施の形態に係る体位固定マット1にあっては、陰圧が作用する下層部4と陰圧が作用しない上層部7との2層構造としたことにより、陰圧時に適度なクッション性を上層部7で確保することができ、手術中や放射線治療時の体位を容易に維持することができ、褥瘡や神経圧迫の発生を抑制することができる。
【0047】
また、従来のように、体位固定マットを多数のビーズ3を充填した下層部4のみの1層構造により構成した場合には、手術時の突発的事由、例えば、手術用メスの受け渡しが適切に行われずに手術用メスが下層部4に落下した場合、細長袋状生地体2の破損によって空気漏れが発生し、陰圧が解除されてしまう虞がある。
これに対し、陰圧される下層部4と陰圧されない上層部7との2層構造としたことにより、陰圧が作用するのは下層部4であり、上層部7には陰圧が作用していないため、細長袋状生地体2が破損してしまう虞を抑制することができるとともに、空気漏れの虞も発生しにくくすることができる。
【0048】
また、接合部2aの延在方向が、仰臥又は横臥した人体Pの身長方向、すなわち、人体Pを巻き込むように両側が立ち上がる際の回動支点の延びる方向に沿っていると、接合部2aが回動支点となって全体的に丸まって人体Pの体位が維持し難くなってしまううえ、陰圧に伴う変形時に接合部2aで人体Pの一部を挟み込んでしまう可能性がある。
【0049】
これに対し、接合部2aの延在方向が、仰臥又は横臥した人体Pの身長方向を直交した方向に延びているため、人体P表面に倣いつつ人体Pからはみ出た外周を適度に立ち上がらせることができ、陰圧に伴う変形時に接合部2aで人体Pの一部を挟み込んでしまう虞を回避することができる。
【0050】
また、接合部2aが細長袋状生地体2の円筒形状(人体P側からの荷重に伴う圧縮変形を含む)を維持することができるため、人体Pと接合部2aとの間の隙間を容易に確保することができ、長時間の手術等による血行障害(例えば、エコノミークラス症候群)の発生等を抑制することができる。
【0051】
ビーズ3に関しては、前記記載のように、平均粒径が4.0~5.0mmの大粒子ビーズと平均粒径が0.7~1.0mmの範囲にある小粒子ビーズとを混合して充填した体位固定マットを提供することも可能である。
【0052】
上記実施の形態は一例であり、本発明の要旨の範囲内において適宜構成を変更することは可能であり、上記実施の形態には限定されない。
【符号の説明】
【0053】
1 体位固定マット
2 クッション体
2a 接合部
3 ビーズ
4 下層部
5 表皮材
6 軟質体
7 上層部
8 外装部
8a 被覆材
9 弁部
10 陰圧発生器具
11 帯部
12 補強部材
B1~B5 細長袋状生地体
図1
図2
図3