(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】引戸の引込み装置
(51)【国際特許分類】
E05F 1/16 20060101AFI20230106BHJP
E05F 3/10 20060101ALI20230106BHJP
E05F 5/02 20060101ALI20230106BHJP
【FI】
E05F1/16 B
E05F3/10 Z
E05F5/02 A
E05F5/02 E
(21)【出願番号】P 2018219338
(22)【出願日】2018-11-22
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000155207
【氏名又は名称】株式会社明工
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】中山 孝
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-505980(JP,A)
【文献】特開2012-036625(JP,A)
【文献】特開2009-275502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05F 1/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、前記ケースに形成された案内溝に係合する係合突部を有し、ケース内を引戸の開閉方向に沿ってスライド可能に設けられるとともに、且つ上端部が前記ケースから突出状態で設けられ戸枠側に設けられた係合ピンと係脱する関係にあるスライダーと、前記スライダーが前記係合ピンに係止した状態で引戸に閉方向の付勢力を与える付勢手段と、前記閉方向の付勢力を減衰させるためのピストン式ダンパーを備えた引戸の引込み装置において、
前記ケースは、ケース中間部と、前記ケース中間部の前側開口部に接続される閉戸側ケース端部と、前記ケース中間部の後側開口部に接続される開戸側ケース端部とから構成され、
前記ピストン式ダンパーは、ピストン先端を引戸閉方向に向けた正方向配置のピストン式ダンパーと、ピストン先端を引戸開方向に向けた反対方向配置のピストン式ダンパーとからなる組ダンパーとし、ダンパーホルダに前記正方向配置のピストン式ダンパーのシリンダ部が保持されるとともに、前記反対方向配置のピストン式ダンパーのシリンダ部が保持され、
前記正方向配置のピストン式ダンパーのピストン先端が前記スライダーに連結され、前記反対方向配置のピストン式ダンパーのピストン先端が
前記ケースの開戸側ケース端部に連結され
、
前記付勢手段は、一端が前記スライダーに係止されるとともに他端がダンパーホルダに係止された第1スプリング部材と、一端がダンパーホルダに係止されるとともに、他端が前記ケースの開戸側ケース端部に係止された第2スプリング部材とからなることを特徴とする引戸の引込み装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストローク長を確保しながら装置本体の長さ寸法の短縮化を図った引戸の引込み装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、引戸の下端部に固定された戸車が戸車用レールに沿って走行案内される引戸や上端部に固定された吊り車型ランナ装置が戸枠の鴨居に固設されたガイドレールに沿って走行案内される吊戸などの引戸では、開き状態から所定の位置まで閉めた後は閉まり位置まで自動的に引き込んで閉止させる引戸の引込み装置が種々提案されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1では、引戸の上端面に埋設状態で設置された引込み装置本体と、戸枠に固設された係合ピンとからなり、前記引込み装置本体は、引戸開閉方向に沿って係合ピンの進入案内溝が設けられたケースと、該ケース内に引戸開閉方向に沿ってスライド可能に設けられたスライダーと、前記ケース内に前記スライダーに連結された状態で設けられたピストン式ダンパーと、一端が前記スライダーに係止され、他端が前記ケースに係止されたスプリング部材と、前記スライダーに揺動可能に設けられ、前記ケースに形成されたスライド案内溝に係合する係合突部を有し、かつ引戸開閉に伴って前記係合ピンと係脱する関係にある作動カムとから構成された引戸の引込み装置が開示されている。
【0004】
また、下記特許文献2では、スライダを支持するケースと、ケースに対してスライダを引戸開方向に付勢する引張コイルばねと、スライダを制動する空気ダンパと、ケース上面から突出する、略上方に開放する凹部が形成された正面視略コ字状の回動部材とを備え、回動部材の掛止片をケース内面に設けられた掛止部に掛止させた掛止状態及び該掛止を解除した掛止解除状態を、引戸開閉方向の所定位置において上枠の下側に設けられたピンにより切り替え可能な一体型の引戸用自動閉止装置が開示されている。
【0005】
更に、下記特許文献3には、 ガイドレールの端部箇所に装着されたケーシング内において適宜の領域を摺動する摺動部材に回動自在にフック部材が装着され、前記摺動部材がコイルスプリングを介して戸閉側に付勢され、ガイドレールに沿って走行するガイド走行体が前記フック部材に係止された状態から前記摺動部材の摺動領域を戸閉方向に移動するとともに、シリンダ筺体部とピストンロッドと液体から構成され、且つ前記コイルスプリングの弾性力による移動速度を低減させる往復型液圧ダンパが具備されてなる引戸の戸閉装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-278057号公報
【文献】特開2007-9537号公報
【文献】特開2006-63767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1~3のいずれの引込み装置においても、引戸の閉操作時にゆっくりと引戸が閉まるように、スプリング部材によって引戸閉方向に作用する付勢力を減衰させるピストン式のダンパー装置が設けられている。このピストン式ダンパーは、特許文献1の例で説明すると、作動カムが係合ピンと係合した状態から戸閉位置まで引戸を移動させるために所定のストローク長を有する必要があり、おのずと一定以上の長さが必要となる。従って、引込み装置の全長としては、少なくとも前記ピストン式ダンパーが最も伸長した時の長さに、スライダーや作動カムの水平方向寸法と、さらに余長分(+α)を加えた長さ寸法となっている。
【0008】
ところで、近年は生活様式の多様化等によって、高さ寸法や幅寸法を今までのものよりも大きくした大型の引戸が市場に提供されている。このような大型の引戸に対して引き込み装置を適用しようとすると、ピストン式ダンパーのストローク長が長くなる結果、ピストン式ダンパーが長尺化し、引込み装置全体の長さ寸法が長くなってしまうという問題点があった。
【0009】
そこで本発明の主たる課題は、所定のストローク長を確保しながら装置本体の長さ寸法の短縮化を図った引戸の引込み装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、ケースと、前記ケースに形成された案内溝に係合する係合突部を有し、ケース内を引戸の開閉方向に沿ってスライド可能に設けられるとともに、且つ上端部が前記ケースから突出状態で設けられ戸枠側に設けられた係合ピンと係脱する関係にあるスライダーと、前記スライダーが前記係合ピンに係止した状態で引戸に閉方向の付勢力を与える付勢手段と、前記閉方向の付勢力を減衰させるためのピストン式ダンパーを備えた引戸の引込み装置において、
前記ケースは、ケース中間部と、前記ケース中間部の前側開口部に接続される閉戸側ケース端部と、前記ケース中間部の後側開口部に接続される開戸側ケース端部とから構成され、
前記ピストン式ダンパーは、ピストン先端を引戸閉方向に向けた正方向配置のピストン式ダンパーと、ピストン先端を引戸開方向に向けた反対方向配置のピストン式ダンパーとからなる組ダンパーとし、ダンパーホルダに前記正方向配置のピストン式ダンパーのシリンダ部が保持されるとともに、前記反対方向配置のピストン式ダンパーのシリンダ部が保持され、
前記正方向配置のピストン式ダンパーのピストン先端が前記スライダーに連結され、前記反対方向配置のピストン式ダンパーのピストン先端が前記ケースの開戸側ケース端部に連結され、
前記付勢手段は、一端が前記スライダーに係止されるとともに他端がダンパーホルダに係止された第1スプリング部材と、一端がダンパーホルダに係止されるとともに、他端が前記ケースの開戸側ケース端部に係止された第2スプリング部材とからなることを特徴とする引戸の引込み装置が提供される。
【0011】
上記請求項1記載の発明では、引込み装置におけるピストン式ダンパーの構造を、ピストン先端を引戸閉方向に向けた正方向配置のピストン式ダンパーと、ピストン先端を引戸開方向に向けた反対方向配置のピストン式ダンパとからなる組ダンパーとし、ダンパーホルダに前記正方向配置のピストン式ダンパーのシリンダ部が保持されるとともに、前記反対方向配置のピストン式ダンパーのシリンダ部が保持され、前記正方向配置のピストン式ダンパーのピストン先端が前記スライダーに連結され、前記反対方向配置のピストン式ダンパーのピストン先端が前記ケースの開戸側ケース端部に連結されている構造とした。
【0012】
従って、本発明の組ダンパーの場合は、2つのピストン式ダンパーを最も伸長させた状態から最も収縮させた状態にした際の長さの比率は概ね1/3程度にできることになる。これに対して、従来の単一のピストン式ダンパーの場合は、ピストン式ダンパーを最も伸長させた状態から最も収縮させた状態にした際の長さの比率は概ね1/2程度である。この対比から明らかなように、本発明に係る引込み装置の場合は、所定のストローク長を確保しながら、装置本体の長さ寸法の短縮化を図ることが可能となる。
【0013】
一方、前記付勢手段は、一端が前記スライダーに係止されるとともに他端がダンパーホルダに係止された第1スプリング部材と、一端がダンパーホルダに係止されるとともに、他端が前記ケースの開戸側ケース端部に係止された第2スプリング部材とからなる。
【0014】
付勢手段を1本のスプリング部材によって構成することも可能であるが、ピストン式ダンパーを2本とする組ダンパーとした関係上、付勢手段についても、正方向配置のピストン式ダンパーを引き込むための第1スプリング部材と反対方向配置のピストン式ダンパーを引き込むための第2スプリング部材とによって構成することが望ましい。これによって、スプリング部材のサイズダウンを図ることが可能になる。
【発明の効果】
【0015】
以上詳説のとおり本発明によれば、所定のストローク長を確保しながら装置本体の長さ寸法の短縮化を図った引戸の引込み装置が提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る引込み装置1(第1形態例)を適用した引戸2の正面図である。
【
図2】引込み装置1を示す、(A)は側面図、(B)は平面図である。
【
図5】ピストン式ダンパー20,21、付勢手段18、19及びスライダー15部分の分解図である。
【
図6】(A)~(C)は引込み装置1の作動要領を示す図である。
【
図7】本発明品と従来品との装置本体長さの比較説明図である。
【
図8】本発明に係る引込み装置1(
参考的第2形態例)を適用した吊り引戸2の要部拡大側面図である。
【
図10】吊り車型ランナ装置32部分の拡大斜視図である。
【
図11】ガイドレール端部のワイヤ掛止部の構造を示す斜視図である。
【
図13】ピストン式ダンパー20,21及びスライダー15部分の分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0018】
〔第1形態例〕
図1に示される引戸2は、例えばアルミ等の金属材料からなる上框3A、下框3B、縦框3C、3Dによって構成されたフレーム枠3内にパネル7が嵌め込まれたものであり、鴨居6A、敷居6B及び側枠6C、6Dからなる戸枠6に収容されている。前記引戸2の下框3Bには戸車4,4が配設されており、鴨居6Aと敷居6Bに案内されながら左右方向に移動可能(開閉可能)となっている。
【0019】
前記上框3Aには、引込み装置1が設けられているとともに、鴨居6Aに係合ピン10が設けられ、かかる引戸2に開状態からの閉操作が行われると、引込み装置1と係合ピン10とが係合することによって引戸2が閉まり位置まで引き込まれるようになっている。なお、便宜上、本明細書では、引戸1の戸先側を指すときは「前側」、「閉方向」又は「閉戸側」とも言い、その反対側を指すときは「後側」、「開方向」又は「開戸側」とも言う。
【0020】
前記引込み装置1は、ケース12と、前記ケース12に形成された案内溝13(スライド案内溝13a及び屈曲状案内溝13b)に係合する係合突部15aを有し、ケース12内を引戸1の開閉方向に沿ってスライド可能に設けられるとともに、且つ上端部が前記ケース12から突出状態で設けられ戸枠側(鴨居6B)に設けられた係合ピン10と係脱する関係にあるスライダー15と、前記スライダー15が前記係合ピン10に係止した状態で引戸1に閉方向の付勢力を与える付勢手段18、19と、前記閉方向の付勢力を減衰させるためのピストン式ダンパー20,21を備えている。
【0021】
更に、前記引込み装置1について具体的に詳述すると、
前記ケース12は、両側壁にスライド案内溝13aが形成されるとともに、前記スライド案内溝13aの閉方向端部に下側方向にL字状に屈曲する屈曲状案内溝13bからなる仮停止部Kが形成されている。
【0022】
前記ケース12は、前記スライダー15と、付勢手段18,19と、ピストン式ダンパー20,21の収容するための部材であり、詳細には
図4に示されるように、両側壁にスライド案内溝13aが形成されケース中間部23と、スライド案内溝13aの端部とこれに連続する屈曲状案内溝13b(仮停止部K)が形成されるとともに、前記ケース中間部23の前側開口部に接続される閉戸側ケース端部16と、前記反対方向配置のピストン式ダンパー21のピストン21a先端と後述する第2スプリング部材(付勢手段)19の他端とが連結されるとともに、前記ケース中間部23の後側開口部に接続される開戸側ケース端部17との3部材から構成されている。
【0023】
前記ケース中間部23の前端部(戸先側)は、側面視でL字状を成し、下側の突出片23a部分に通孔23bが形成されている。側壁の高さ方向中間部には、内側に開口を向けたスライド案内溝13a、13aが形成され、その上部にそれぞれ板状の挟持部23c、23cが形成されている。また、長手方向中間部の下側にはダンパーホルダ22の移動を所定位置で停止させるためのダンパストッパ26がビス28によって固定されている。
【0024】
一方、前記閉戸側ケース端部16には、スライド案内溝13aの端部とこれに連続する屈曲状案内溝13b(仮停止部K)が形成されているとともに、ケース中間部23との接続側には、ケース中間部23の挟持部23cに挿入される被挟持部16a、16aを有し、下部に前記ケース中間部23の突出片23aが嵌合状態で組み合わされる嵌合支持部16bを有するとともに、該嵌合支持部16bに通孔16cを有する。従って、当該閉戸側ケース端部16をケース中間部23の前側開口部に差し込んだ状態でビス24を嵌入させることによって連結されている。
【0025】
他方、前記開戸側ケース端部17は、ケース中間部23の後側開口部に差込み可能な形状とされる差込み部17Aを有するとともに、前記反対方向配置のピストン式ダンパー21のピストン21a先端を連結するための係止部17aと、付勢手段を構成する後述の第2スプリング部材19の他端を係止するための係止部17bとを有する。前記差込み部17Aの下面に通孔が形成されており、開戸側ケース端部17をケース中間部23の後側開口部に差し込んだ状態でビス25を嵌入させることによって連結を図る。
【0026】
前記ケース12の内部には、前記スライダー15と、付勢手段18,19と、ピストン式ダンパー20,21が収容されるが、本引込み装置1では、特にダンパー機構として、
図4及び
図5に示されるように、ピストン20a先端を引戸閉方向に向けた正方向配置のピストン式ダンパー20と、ピストン21a先端を引戸開方向に向けた反対方向配置のピストン式ダンパー21とからなる組ダンパーとし、ダンパーホルダ22に前記正方向配置のピストン式ダンパー20のシリンダ部20bが保持されるとともに、前記反対方向配置のピストン式ダンパー21のシリンダ部21bが保持されている。そして、前記正方向配置のピストン式ダンパー20のピストン20a先端が前記スライダー15に連結され、前記反対方向配置のピストン式ダンパー21のピストン21a先端がケース端面(開戸側ケース端部17)に連結されている。
【0027】
前記ピストン式ダンパー20(21)は、ピストン20a(21a)とシリンダ20b(21b)とで構成されており、前記シリンダ20b(21b)内部に粘性体(シリコンオイル等)が密封封入されており、ピストン20a(21a)がシリンダ20b(21b)内部を移動する際に、前記粘性体の移動により移動速度に応じた抵抗力(減衰力)を発生してエネルギーを吸収する構造となっているものである。
【0028】
一方、引戸2に閉方向の付勢力を与える付勢手段18、19は、具体的には一端が前記スライダー15に係止されるとともに他端がダンパーホルダ22に係止された第1スプリング部材18と、一端がダンパーホルダ22に係止されるとともに、他端がケース端面(開戸側ケース端部17)に係止された第2スプリング部材19とから構成されている。
【0029】
前記ダンパーホルダ22は、前記正方向配置のピストン式ダンパー20と前記反対方向配置のピストン式ダンパー21とを保持する同時に、前記第1スプリング部材18と第2スプリング部材19とを保持する部材として用いられている。前記ダンパーホルダ22は、上部と下部とにそれぞれシリンダ20bとシリンダ21bの収容空間22a、22bを有するとともに、端面中央部分に中空状の前記第1スプリング18の収容空間22cを有し、さらに一方側側面部に前記第2スプリング部材19の収容空間22dを有する函体状部材である。前記第1スプリング18の収容空間22cの開戸側端部にはバネ係止部22eが設けられ、前記第2スプリング部材19の収容空間22dの閉戸側端部にはバネ係止部22fが設けられている。従って、前記第1スプリング部材18は、一端が前記スライダー15に係止されるとともに、他端がバネ係止部22eに係止された状態で配置され、前記第2スプリング部材19は、一端が前記バネ係止部22fに係止され、他端が開戸側ケース端部17の係止部17bに係止された状態で配置される。
【0030】
本引込み装置1では、ダンパー機構を以上のように構成したことにより、ストローク長を確保しながら装置本体の長さ寸法の短縮化を図ることが可能になっている。具体的に
図7に基づいて説明する。
図7では、上段に本発明に係る引込み装置の(A)スライダー15と係合ピン10との係合時、(B)引戸全閉時を示し、下段に従来の単一のピストン式ダンパーの(A)スライダー15と係合ピン10との係合時、(B)引戸全閉時を示している。両者は、同じだけのストローク長(L)を確保するように位置合わせした状態で図示されている。
【0031】
本発明に係る引込み装置1の場合は、2本のピストン式ダンパーをそれぞれ正位置と反対配置とし、シリンダ部分を重ね合わせた組ダンパーとしている。従って、2つのピストン式ダンパー20,21を最も伸長させた状態から最も収縮させた状態にした際の長さの比率は概ね1/3程度にできることになる。これに対して、下段の単一のピストン式ダンパー30によって構成した従来品の場合は、ピストン式ダンパーを最も伸長させた状態から最も収縮させた状態にした際の長さの比率は概ね1/2程度である。以上の対比から、本発明品の場合は、ピストン式ダンパーの伸縮時の長さの差(比率)を大きく設定できるため、所定のストローク長(L)を確保しながら装置本体の長さ寸法の短縮化を図ることが可能となっている。
【0032】
一方、前記スライダー15は、
図4及び
図5に示されるように、側面部に前記スライド案内溝13a及び仮停止部Kに係合する係合突部15aを有するとともに、基端部に基端部に連結軸部15bを有し、上部にピン係合部15cを有し、下部にスプリング連結部15dを有する部材である。
【0033】
前記スライダー15と前記正方向配置のピストン式ダンパー20のピストン20a先端との連結は、中間連結具27を介して行われる。中間連結部27は、ブロック状の本体27aの基端側(ピストン側)にピストン先端が嵌入される連結部を有するとともに、先端側に前記スライダー15が連結される連結軸部27bを有し、側面部に前記スライド案内溝13aに対する係合突起27cを有する部材である。スライダー15との連結は、
図5に示されるように、軸部材29を前記連結軸部15b、27bに通してカシメることによって行われる。従って、前記スライダー15水平軸回りに回動自在にピストン20aに対して連結されている。
【0034】
〔引込み装置1の作動説明〕
(引戸2の開操作時)
図6(A)に示されるように、引戸2が全閉状態の場合は、前記スライダー15のピン係合部15cが係合ピン10に係合し、引戸2はスプリング部材(付勢手段)18,19によって戸閉まり方向に付勢されている。
【0035】
この全閉状態から引戸2の開操作を行うと、同
図6(B)に示されるように、係合ピン10とピン係合部15cとの係合によりスライダー15が付勢手段18,19の付勢力に抗して引戸2の閉方向に移動される。そして、スライダー15の係合突部15aが屈曲状案内溝13bまで案内されると、スライダー15が揺動し仮停止状態となる。これに伴い、ピン係合部15cと係合ピン10との係合が解除される。その後も、
図6(C)に示されるように、引き続き引戸2をさらに開操作する。
【0036】
(引戸2の閉操作時)
次に、引戸2の閉操作時の作動状態について説明する。
【0037】
引戸2を開いた状態(
図6(C)の係合解除状態)から
図6(B)に示される所定の位置まで閉操作を行うと、開操作によって仮停止状態とされたスライダー15のピン係合部15cに係合ピン10が衝突して、スライダー15を揺動動作させ仮停止状態が解除されると同時に、スライダー15のピン係合部15cに係合ピン10が位置し、該係合ピンと係合した状態となる。その後は、自動的にピストン式ダンパー20、21による制動力を受けながらスプリング部材(付勢手段)18、19の付勢力によって、引戸2が全閉位置まで引き込まれるようになる(
図6(A)の状態)。
【0038】
〔他の形態例〕
(1)上記形態例では、引戸2に閉方向の付勢力を与える付勢手段として、第1スプリング部材18、第2スプリング部材19を用いたが、付勢手段としては、ワイヤの巻取りにより前記引戸に閉方向の付勢力を与える渦巻きバネ式付勢装置を用いることもできる。これについては、次の第2形態例で述べる。
【0039】
〔参考的第2形態例〕
次に、上レール内を走行する吊り車型ランナ装置によって、引戸2が吊持された吊り引戸の例について述べる。この第2形態例では、付勢手段として、前記スプリング部材18,19に代えて、引戸2に取り付けられ、ワイヤの巻取りにより前記引戸2に閉方向の付勢力を与える渦巻きバネ式付勢装置33を用いた例としている。
【0040】
吊り引戸は、
図8及び
図9に示されるように、引戸2の上端部に固定され、戸枠の鴨居に固設されたガイドレール31に沿って走行自在とされる吊り車型ランナ装置32と、この吊り車型ランナ装置32より引戸2の開方向側の上端部に固定されるとともに、繰り出されたワイヤ34が引戸2の閉方向の端部におけるガイドレール31又は戸枠に固定され、前記ワイヤ34の巻き取りにより引戸2に閉方向の付勢力を与える渦巻バネ式付勢装置33とを備えている。これにより、引戸2の開操作によって前記渦巻バネ式付勢装置33から繰り出されたワイヤ34を前記渦巻バネ式付勢装置33が巻き取ることにより、引戸2に閉方向の付勢力を与えるようになっている。
【0041】
前記渦巻きバネ式付勢装置33は、
図8に示されるように、渦巻きバネ式付勢装置本体33Aと、この収容体を兼用し引戸2に固定するためのケーシング33Bと、このケーシング33Bに取り付けられ、前記渦巻きバネ式付勢装置33Aから繰り出されるワイヤ34の方向転換を行う滑車33Cとを備えている。
【0042】
前記渦巻きバネ式付勢装置本体33Aは、内部に支軸と、この支軸により回動自在に支持された前記ワイヤ34を巻き取る巻取りドラムと、前記支軸に内方端が係止されるとともに、前記巻取りドラムに外方端が係止された渦巻きバネ部材とが備えられている装置であり、ワイヤ34が引き出されると、前記巻取りドラムの回転によって渦巻きバネ部材に蓄勢される。その後、蓄勢された渦巻きバネ部材の復元力によって巻取りドラムが逆回転子、ワイヤ34が巻取りドラムに巻き取られ、引戸2の閉方向の付勢力を与えるようになっている。
【0043】
一方、前記吊り車型ランナ装置32は、詳細には
図10に示されるように、4つのローラを備え、前記ガイドレール31に沿って走行自在とされるランナ本体35と、前記引戸2の上端部に固定されるランナ取付部材36と、前記ランナ本体35及びランナ取付部材36とを連結する連結部材37とを備えている。
【0044】
そして、前記連結部材37には、前記ワイヤ34が挿通可能なワイヤ挿通部37aが設けられている。すなわち、吊り車型ランナ装置32より引戸2の開方向側に固定された渦巻バネ式付勢装置33から延びるワイヤ34は、前記ワイヤ挿通部37aを通って引戸2の閉方向の端部に固定されるようになっている。図示例では、前記ワイヤ34の先端は、引戸2の閉方向の端部におけるガイドレール31に固定されている。ワイヤ34の先端をガイドレール31の端部に固定するには、
図11に示されるように、ガイドレール31の端部に、ワイヤ34が掛止可能な下側に突出する掛止軸34aを備えた先端キャップ34を固定するとともに、ワイヤ34の先端を折り返してループ部34aを形成し、このループ部34aを前記掛止軸38aに掛止することにより行うことができる。
【0045】
また、前記吊り車型ランナ装置32の連結部材37に、渦巻バネ式付勢装置33から繰り出されたワイヤ34が挿通可能なワイヤ挿通部37aが設けられているため、引戸2の建込みの際、前記渦巻バネ式付勢装置33から繰り出されたワイヤ34をワイヤ挿通部37aに挿通して所定の位置に固定すればよいので、ワイヤ34の設置及び取り回しが簡略化できるようになる。
【0046】
前記吊り車型ランナ装置32には、連続的かつ一体的に引込み装置1が設けられているとともに、前記ガイドレール31の天井面には係合ピン40が設けられ、引戸を閉止する際に前記渦巻バネ式付勢装置33による付勢力を減衰させるようになっている。
【0047】
上記引込み装置1に対して、本発明に係るピストン式ダンパー構造を適用することが可能である。その場合の引込み装置1は、
図12及び
図13に示されるように、付勢手段はスプリング部材に代えて前記渦巻バネ式付勢装置33が用いられているため、引込み装置1内部にスプリング部材を有しない構造となっている。
【0048】
具体的に前記引込み装置1は、ケース12と、前記ケース12に形成された案内溝13(スライド案内溝13a及び屈曲状案内溝13b)に係合する係合突部15aを有し、ケース12内を引戸1の開閉方向に沿ってスライド可能に設けられるとともに、且つ上端部が前記ケース12から突出状態で設けられ戸枠側(ガイドレール31の上面)に設けられた係合ピン10と係脱する関係にあるスライダー15と、前記スライダー15が前記係合ピン10に係止した状態で引戸1に閉方向の付勢力を与える付勢手段(渦巻バネ式付勢装置33)と、前記閉方向の付勢力を減衰させるためのピストン式ダンパー20,21を備えている。
【0049】
前記ピストン式ダンパー20,21によるダンパー機構は、前記第1形態例の場合と全く同様であり、ピストン20a先端を引戸閉方向に向けた正方向配置のピストン式ダンパー20と、ピストン21a先端を引戸開方向に向けた反対方向配置のピストン式ダンパー21とからなる組ダンパーとし、ダンパーホルダ22に前記正方向配置のピストン式ダンパー20のシリンダ部20bが保持されるとともに、前記反対方向配置のピストン式ダンパー21のシリンダ部21bが保持されている。そして、前記正方向配置のピストン式ダンパー20のピストン20a先端が前記スライダー15に連結され、前記反対方向配置のピストン式ダンパー21のピストン21a先端がケース端面(開戸側ケース端部17)に連結されている。その他の第1形態例と同様の構造については、同符号を付して説明を省略する。なお、前記開戸側ケース端部17には、引込み装置1をガイドレール31内を走行可能とするために、ローラ装置41が一体的に設けられている。
【符号の説明】
【0050】
1…引込み装置、2…引戸、3…フレーム枠、4…戸車、6A…鴨居、6B…敷居、10…係合ピン、12…ケース、13…案内溝、13a…スライド案内溝、13b…屈曲状案内溝、15…スライダー、16…閉戸側ケース端部、17…開戸側ケース端部、18…第1スプリング部材(付勢手段)、19…第2スプリング部材(付勢手段)、20・21…ピストン式ダンパー、22…ダンパーホルダ、23…ケース中間部、K…仮停止部