IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 沖電気工業株式会社の特許一覧 ▶ 独立行政法人情報通信研究機構の特許一覧

<>
  • 特許-テラヘルツ波発生素子及びその製造方法 図1
  • 特許-テラヘルツ波発生素子及びその製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】テラヘルツ波発生素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/377 20060101AFI20230106BHJP
【FI】
G02F1/377
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019012777
(22)【出願日】2019-01-29
(65)【公開番号】P2020122812
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100141955
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100085419
【弁理士】
【氏名又は名称】大垣 孝
(72)【発明者】
【氏名】岸本 直
(72)【発明者】
【氏名】小川 洋
【審査官】井部 紗代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-156395(JP,A)
【文献】特開2014-066747(JP,A)
【文献】特開2015-219421(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0159342(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00 - 1/125
G02F 1/21 - 7/00
G02B 6/12 - 6/14
H01S 5/00 - 5/50
JSTplus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
前記支持基板上に接合された、強誘電体結晶であるコア層と
を備え、
前記支持基板及び前記コア層に、前記コア層の上面から、第1の溝及び第2の溝が形成され、
前記第1の溝及び前記第2の溝は、互いに平行に延在しており、
前記第1の溝及び前記第2の溝に挟まれた前記コア層の領域が、光導波路コアとなり、
前記光導波路コアに外部から入力される、励起光と信号光との差周波発生過程によりテラヘルツ波が生成され、
前記光導波路コアに、前記励起光、前記信号光及び前記テラヘルツ波の擬似位相整合条件を満たす、周期的分極反転構造が形成され
前記第1の溝及び前記第2の溝の幅及び深さは、前記テラヘルツ波の波長の半分より大きい
ことを特徴とするテラヘルツ波発生素子。
【請求項2】
前記テラヘルツ波は、前記光導波路コアで生成され、前記光導波路コアの周囲を伝播する
ことを特徴とする請求項1に記載のテラヘルツ波発生素子。
【請求項3】
前記光導波路コアの厚さが3~10μmの範囲内の値である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のテラヘルツ波発生素子。
【請求項4】
前記光導波路コアの幅が3~10μmの範囲内の値である
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のテラヘルツ波発生素子。
【請求項5】
前記周期的分極反転構造の分極反転周期Λ、前記励起光の波長λ、前記信号光の波長λ、前記テラヘルツ波の波長λ、前記励起光に対する光導波路の実効屈折率N、前記信号光に対する光導波路の実効屈折率N、及び、前記テラヘルツ波に対する屈折率Nは、
Λ=1/(N/λ-N/λ-N/λ
を満足する
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のテラヘルツ波発生素子。
【請求項6】
前記光導波路コアの周囲に、前記光導波路コアの表面を覆うカバー層を備える
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のテラヘルツ波発生素子。
【請求項7】
前記光導波路コア以外の部分に、前記コア層が設けられていない
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のテラヘルツ波発生素子。
【請求項8】
支持基板上に、周期的分極反転構造が形成されている強誘電体結晶を接合する工程と、
前記強誘電体結晶を所望の厚さにしてコア層を生成する工程と、
前記支持基板及び前記コア層に、前記コア層の上面から、第1の溝及び第2の溝を形成する工程と
を備え、
前記第1の溝及び前記第2の溝は、互いに平行に延在して形成され、
前記第1の溝及び前記第2の溝に挟まれた前記コア層の領域が、光導波路コアとなり、
前記光導波路コアに外部から入力される、励起光と信号光との差周波発生過程によりテラヘルツ波が生成され
前記第1の溝及び前記第2の溝の幅及び深さは、前記テラヘルツ波の波長の半分より大きい
ことを特徴とするテラヘルツ波発生素子の製造方法。
【請求項9】
前記テラヘルツ波は、前記光導波路コアで生成され、前記光導波路コアの周囲を伝播する
ことを特徴とする請求項8に記載のテラヘルツ波発生素子の製造方法。
【請求項10】
前記光導波路コアの厚さが3~10μmの範囲内の値である
ことを特徴とする請求項8又は9に記載のテラヘルツ波発生素子の製造方法。
【請求項11】
前記光導波路コアの幅が3~10μmの範囲内の値である
ことを特徴とする請求項8~10のいずれか一項に記載のテラヘルツ波発生素子の製造方法。
【請求項12】
さらに、
前記第1の溝及び前記第2の溝を形成した後に行われる、前記光導波路コアの周囲に、前記光導波路コアの表面を覆うカバー層を形成する工程を備える
ことを特徴とする請求項8~11のいずれか一項に記載のテラヘルツ波発生素子の製造方法。
【請求項13】
さらに、
前記第1の溝及び前記第2の溝の外側に残存する領域の、前記コア層及び前記支持基板を除去する工程を備える
ことを特徴とする請求項8~12のいずれか一項に記載のテラヘルツ波発生素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、テラヘルツ波を発生させる素子とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電波天文学、電子分光、材料科学、セキュリティ、情報通信又は食品検査等の幅広い分野において、テラヘルツ波の利用が期待されている。テラヘルツ波は、電波と光波の間の例えば0.1~10THzの周波数帯の電磁波である。
【0003】
テラヘルツ波の発生方法として、量子カスケードレーザ、フォトミキシング若しくはフェムト秒レーザを用いた光スイッチ又は光整流を用いる方法がある。
【0004】
また、非線形光学結晶を用いた、非線形光学効果によってテラヘルツ波を発生させる方法もある。
【0005】
例えば、励起光を含む周波数の異なる2種類の光を、非線形光学結晶にコリニアに入力し、差周波発生過程によってテラヘルツ波を発生させる装置がある(例えば特許文献1参照)。また、非線形光学結晶で構成された光導波路に光を入力し、超短パルス光源による光整流によってテラヘルツ波を発生させる装置がある(例えば特許文献2参照)。また、励起光を含む周波数の異なる2種類の光を、非線形光学結晶からなる発振基板にノンコリニアに入力し、差周波発生過程によってテラヘルツ波を発生させる装置がある(例えば特許文献3参照)。
【0006】
ここで、非線形光学結晶として用いられる例えばニオブ酸リチウム(LiNbO)は、テラヘルツ波に対する吸収が大きい。このため、非線形光学結晶において、テラヘルツ波を長距離伝播させることは困難である。そこで、特許文献1に係る装置では、発生したテラヘルツ波を、チェレンコフ放射によって非線形光学結晶表面から放射させる。また、特許文献2に係る装置では、発生したテラヘルツ波を、プリズムを用いて非線形光学結晶表面から放射させる。また、特許文献3に係る装置では、カットオフ条件を満たすように発振基板の厚さを薄くすることによって、発生したテラヘルツ波を発振基板表面から放射させる。
【0007】
ところで、光通信の分野には、非線形光学効果を利用した波長変換素子がある。このような波長変換素子を光導波路素子において実現する際には、非線形光学結晶として例えばLiNbOを光導波路の材料として用いることができる。非線形光学効果に基づく波長変換の手法としては、疑似位相整合(QPM:Quasi-Phase Matching)がある。このQPMを、LiNbOを材料とする光導波路において実現させた波長変換素子として、QPM型波長変換素子がある。QPM型波長変換素子は、光導波路に周期的分極反転構造を作り込んで構成される。
【0008】
QPM型波長変換素子では、位相整合条件を満たすように分極反転構造の周期を設計することによって、任意の波長の光に対して波長変換を行うことができる。そして、QPM型波長変換素子では、光が相互作用する長さ(相互作用長)を大きくとる、すなわち光を長距離伝播させることによって、より大きな非線形光学効果を得ることができる。
【0009】
テラヘルツ波の発生に、上述のQPM型波長変換素子を利用することが考えられる。この場合、差周波発生過程で相互作用する光を、QPM型波長変換素子内で長距離伝播させることで、高効率にテラヘルツ波を発生させられると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2010-204488号公報
【文献】特開2011-203718号公報
【文献】特開2015-118392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述したように、非線形光学結晶として用いられるLiNbOは、テラヘルツ波に対する吸収が大きい。このため、特許文献1~3の装置では、テラヘルツ波を長距離伝播させることができず、相互作用長を大きくとることができない。従って、テラヘルツ波を効率良く発生させることが困難と考えられる。
【0012】
さらに、この吸収の影響を抑えるため、特許文献1~3の装置では、テラヘルツ波を非線形光学結晶表面から放射させることによって出力する。このため、出力されるテラヘルツ波のモードフィールドが安定しない。従って、集光して分光計測等に利用することが困難である。
【0013】
また、QPM型波長変換素子を利用する場合にも、上述した吸収の影響により、長距離伝播させることが困難である。このため、特許文献1~3の装置と同様に、テラヘルツ波を効率良く発生させることが困難と考えられる。
【0014】
そこで、この発明の目的は、テラヘルツ波を高効率で発生させることが可能なテラヘルツ波発生素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した目的を達成するために、この発明のテラヘルツ波発生素子は、支持基板と、支持基板上に接合された、強誘電体結晶であるコア層とを備えて構成される。支持基板及びコア層に、コア層の上面から、第1の溝及び第2の溝が形成されている。これらの第1の溝及び第2の溝は、互いに平行に延在しており、第1の溝及び第2の溝に挟まれたコア層の領域が、光導波路コアとなる。光導波路コアに外部から入力される、励起光と信号光との差周波発生過程によりテラヘルツ波が生成される。ここで、光導波路コアには、励起光、信号光及びテラヘルツ波の擬似位相整合条件を満たす、周期的分極反転構造が形成されている。
【0016】
また、この発明のテラヘルツ波発生素子の好適実施例によれば、第1溝及び第2の溝の幅及び深さは、テラヘルツ波の波長の半分より大きい。また、光導波路コアの厚さや幅が3~10μmの範囲内の値であるのが良い。
【0017】
上記の周期的分極反転構造は、分極反転周期Λ、励起光の波長λ、信号光の波長λ、テラヘルツ波の波長λ、励起光に対する光導波路の実効屈折率N、信号光に対する光導波路の実効屈折率N、及び、テラヘルツ波に対する屈折率Nが、Λ=1/(N/λ-N/λ-N/λ)を満足するように構成することができる。
【0018】
さらに、光導波路コアの周囲に、光導波路コアの表面を覆うカバー層を備える構成や、光導波路コア以外の部分に、コア層が設けられていない構成にしてもよい。
【0019】
また、この発明のテラヘルツ波発生素子の製造方法は、上述のテラヘルツ波発生素子を製造するのに好適であり、以下の工程を備えて構成される。先ず、支持基板上に、周期的分極反転構造が形成されている強誘電体結晶を接合する。次に、強誘電体結晶を所望の厚さにしてコア層を得る。次に、支持基板及びコア層に、コア層の上面から、第1の溝及び第2の溝を形成する。
【発明の効果】
【0020】
この発明のテラヘルツ波発生素子及びその製造方法によれば、周期的分極反転構造が形成されている光導波路コアで生成されたテラヘルツ波が、光導波路コアの周囲を伝播する。このため、強誘電体結晶でのテラヘルツ波の損失を抑えることができる。この結果、テラヘルツ波を高効率で発生させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】テラヘルツ波発生素子を示す概略図である。
図2】テラヘルツ波発生装置の製造方法を説明する概略的な工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態について説明するが、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係については、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更又は変形を行うことができる。
【0023】
図1を参照して、この発明のテラヘルツ波発生素子について説明する。図1は、テラヘルツ波発生素子を示す概略図である。図1(A)は、上面から見た平面図であり、図1(B)は、光の伝播方向(図1(A)中、矢印Iで示す。)に沿った方向から見た側面図であり、図1(C)は、光の伝播方向に直交する方向(図1(A)中、矢印IIで示す。)から見た側面図である。
【0024】
テラヘルツ波発生素子は、支持基板10と、コア層30を備えて構成される。コア層30は、支持基板10の上面10a上に、接着層20を介して接合されている。支持基板10、接着層20及びコア層30に、コア層30の上面30aから、第1の溝41及び第2の溝42が形成されている。第1の溝41及び第2の溝42は、光の伝播方向(I)に沿って、互いに平行に延在している。第1の溝41及び第2の溝42に挟まれたコア層30の領域が、光導波路コア34となる。
【0025】
支持基板10の材料として、LiNbOなどの強誘電体結晶や、テラヘルツ波の損失が少ない、高抵抗シリコンやZEONEX(登録商標)を用いることができる。
【0026】
接着層20の材料として、例えば、エポキシ系接着剤や、アクリル系接着剤などの、従来公知の光学接着剤を用いることができる。接着層20の厚さは、1~5μm程度である。この接着層20は、クラッドとして機能する。
【0027】
コア層30の材料として、例えばニオブ酸リチウム(LiNbO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)、チタニルリン酸カリウム(KTiOPO)又はニオブ酸カリウム(KNbO)等の強誘電体結晶によって形成されている。これら強誘電体結晶には、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、スカンジウム(Sc)又はインジウム(In)等を一又は複数種類添加することもできる。
【0028】
コア層30には、自発分極の向きが互いに反転した第1ドメイン領域31と第2ドメイン領域32とが、光の伝播方向Iに沿って交互に周期的に作り込まれている。すなわち、コア層30は、周期的分極反転構造を有している。なお、第1ドメイン領域31と第2ドメイン領域32との境界面は、図では、光の伝播方向Iに対して直交するように示されているが、これに限定されない。光の伝播方向Iに非平行であれば、直交していなくてもよい。
【0029】
周期的分極反転構造の周期Λは、光導波路コア34に入力される信号光及び励起光、並びに光導波路コア34で発生させるテラヘルツ波に対して、疑似位相整合(QPM)条件を満たすように設定される。そして、信号光及び励起光に基づく差周波発生過程によってテラヘルツ波を発生させる。
【0030】
QPM条件として、周期的分極反転構造の分極反転周期Λ、励起光の波長λ、信号光の波長λ、テラヘルツ波の波長λ、励起光に対する光導波路の実効屈折率N、信号光に対する光導波路の実効屈折率N、及び、テラヘルツ波に対する屈折率Nは、下式(1)を満たすように設定される。
Λ=1/(N/λ-N/λ-N/λ) (1)
【0031】
また、光導波路コア34の幅及び厚さの寸法は、相互作用する信号光及び励起光のパワー密度を向上させるために小さく設計するのが好ましい。また、光導波路コア34の幅及び厚さを小さくすることで、光の伝搬方向Iに沿った方向から見た光導波路コア34の断面積が小さくなる。これにより、光導波路コア34でのテラヘルツ波の損失を低減することができる。一方で、微細加工に係る製造上の困難性や、信号光及び励起光入力時における散乱抑制等の観点から、一定の大きさが必要である。このため、光導波路コア34の幅及び厚さをそれぞれ3~10μm程度の範囲内にするのが良い。ここで、光導波路コア34の厚さは、支持基板10の上面10aに直交する方向の、光導波路コア34の大きさである。また、光導波路コア34の幅は、光の伝搬方向及び厚さ方向に直交する方向の大きさである。
【0032】
なお、例えば、支持基板10にLiNbOなどテラヘルツ波の吸収の影響を受ける材質を用いる場合、テラヘルツ波の損失を減らすためには、光導波路コア34だけでなく、光導波路コア34の直下の支持基板10の断面積も小さくするのが良い。この場合、光導波路コア34の幅を小さくするのが良い。
【0033】
第1の溝41及び第2の溝42の幅及び深さは、伝播するテラヘルツ波が、光導波路コア34以外のコア層30の部分や支持基板10に重ならないように、テラヘルツ波の波長の半分より大きくするのが良い。例えば、1THzのテラヘルツ波の波長は300μmであるので、第1の溝41及び第2の溝42の幅及び深さを、波長の半分の150μm以上とすることができる。なお、第1の溝41及び第2の溝42の幅及び深さは、許容されるテラヘルツ波の波長の損失などに応じて設定するのが良い。
【0034】
(製造方法)
図2を参照して、上述したテラヘルツ波発生素子の製造方法について説明する。図2(A)~(C)は、テラヘルツ波発生素子の製造方法を説明する工程図であり、それぞれ、各製造段階で得られた構造体の図1(B)に対応する側面図である。
【0035】
先ず、支持基板10の上面10aに、光学接着剤によって、周期的分極反転構造が形成されている強誘電体結晶300を接合する(図2(A))。この光学接着剤は、接着層20となる。強誘電体結晶300に周期的分極反転構造を形成する工程については、従来公知の方法で行えばよいので、ここでは説明を省略する。
【0036】
次に、強誘電体結晶300を研磨するなどして所望の厚さに加工することにより、コア層30を得る(図2(B))。コア層30の厚さは、例えば、3~10μm程度である。
【0037】
次に、支持基板10、接着層20及びコア層30に、コア層30の上面30aから、第1の溝41及び第2の溝42を形成する。
【0038】
第1の溝41及び第2の溝42の形成には、例えばダイシングソーを用いることができる。ダイシングソーとして、粒径の小さいダイヤモンドブレードを用いることによって、形成される光導波路コア34の側面を平滑化することができる。そして、コア層30の上面30a側からコア層30に切り込みを入れることによって、互いに平行な1対の溝(第1の溝41及び第2の溝42)を形成する。また、第1の溝41及び第2の溝42は、周期的分極反転構造の配列方向に沿って形成する。これによって、コア層30の、第1の溝41及び第2の溝42の間の部分として光導波路コア34を形成することができる。従って、第1の溝41及び第2の溝42の間の離間距離として、光導波路コア34の幅を設定することができる。この離間距離は、例えば、3~10μm程度である。
【0039】
第1の溝41及び第2の溝42は、支持基板10の中途まで到達する深さで形成される。これら第1の溝41及び第2の溝42の深さをテラヘルツ波の波長の半分よりも大きくすることで、伝播するテラヘルツ波が支持基板10に重なることによる損失を低減できる。同様に、第1の溝41及び第2の溝42の幅を、テラヘルツ波の波長の半分よりも大きくすることで、伝播するテラヘルツ波が光導波路コア34以外のコア層30に重なることによる損失を低減できる。
【0040】
なお、第1の溝41及び第2の溝42の外側に残存する領域のコア層30、接着層20及び支持基板10の部分は、テラヘルツ波発生素子の動作に寄与しない。そのため、この残存部分を除去することもできる。しかし、この残存部分を残すことによって、製造工程中又は個片化後において、テラヘルツ波発生素子を掴む等のハンドリングが容易となる。なお、この除去する工程は、第1の溝41及び第2の溝42を形成した後に別の工程として行ってもよいし、第1の溝41及び第2の溝42の形成と同じ工程で行ってもよい。
【0041】
第1の溝41及び第2の溝42内や、光導波路コア34の上側など、光導波路コア34の周囲を、カバー層などを設けず空気として、テラヘルツ波を、空間内を伝播させる構成にしてもよい。また、製造工程中又は個片化後において、テラヘルツ波発生素子を掴む等のハンドリングを容易にするために、第1の溝41及び第2の溝42内を含めて、光導波路コア34の周囲に、光導波路コア34の表面を覆う、すなわち、光導波路コア34を埋め込むように、カバー層を形成してもよい。カバー層の材質として、例えば、テラヘルツ波の損失の少ないZEONEX(登録商標)を用いることができる。
【0042】
上述した、この発明のテラヘルツ波発生素子及びその製造方法によれば、周期的分極反転構造が形成されている光導波路コアで生成されたテラヘルツ波が、光導波路コアの周囲を伝播する。このため、光導波路コアを構成する強誘電体結晶でのテラヘルツ波の損失を抑えることができる。この結果、テラヘルツ波を高効率で発生させることが可能になる。
【0043】
上述したこの発明では、接合によりコア層を形成しているが、これに限らずTi拡散やプロトン交換によりコア層を形成しても問題ない。例えばプロトン交換によりコア層を形成する場合、強誘電体基板を200℃の安息香酸中に2時間浸して、400℃の酸素雰囲気中で1時間アニール処理することでコア層を形成できる。
【符号の説明】
【0044】
10 支持基板
20 接着層
30 コア層
34 光導波路コア
41 第1の溝
42 第2の溝
図1
図2