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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】加工方法及び加工装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 1/00 20060101AFI20230106BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20230106BHJP
   C30B 29/38 20060101ALI20230106BHJP
【FI】
B24B1/00 Z
B24B1/00 A
H01L21/304 621B
H01L21/304 622W
C30B29/38 D
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019023699
(22)【出願日】2019-02-13
(65)【公開番号】P2020131301
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-08-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、「研究成果展開事業、地域産学バリュープログラム」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(73)【特許権者】
【識別番号】594146179
【氏名又は名称】株式会社新菱
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【弁理士】
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(74)【代理人】
【識別番号】100194984
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 圭太
(72)【発明者】
【氏名】久保田 章亀
(72)【発明者】
【氏名】坪井 明男
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-125549(JP,A)
【文献】特開2012-064972(JP,A)
【文献】特開2011-200944(JP,A)
【文献】特開2016-127130(JP,A)
【文献】国際公開第2014/034921(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B1/00
B24B7/00-7/30
H01L21/304;21/463
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する金属酸化物で構成された加工部材を被加工物と接触させ、接触部位に水またはアルカリ性溶液を含有するオゾンガスを供給すると共に、前記加工部材の前記被加工物と接触する面とは反対の面側から紫外光を同被加工物に照射しながら、前記加工部材を前記被加工物に接触させた状態で変位させる工程を備えるトライボケミカル反応による加工方法であって、
前記被加工物は、GaNからなり、
前記紫外光は、365nmの波長であって、照度10mW/cm 以上を有すると共に、前記紫外光は、波長365nm以下のものを含む
加工方法。
【請求項2】
前記加工部材は、Alから構成される単結晶状態のサファイア、コランダム、サファイアガラス、サファイアクリスタル、SiOを主成分とするガラスのうちいずれか1つからなる
請求項1に記載の加工方法。
【請求項3】
前記加工部材は、合成石英からなる
請求項1または請求項2に記載の加工方法。
【請求項4】
前記オゾンガスが、水またはアルカリ性溶液のミストを同伴するオゾンガスである
請求項1から3のいずれかに記載の加工方法。
【請求項5】
前記アルカリ性溶液がKOH水溶液である
請求項1から4のいずれかに記載の加工方法。
【請求項6】
前記加工部材の表面及び前記被加工物の表面における親水化処理を促進させるために、前記オゾンガスから原子状酸素を生成して、同原子状酸素を、同加工部材と同被加工物の接触部位に供給する
請求項1から5のいずれかに記載の加工方法。
【請求項7】
光透過性を有する金属酸化物で構成された加工部材と、
所定の被加工物を前記加工部材と接触させて保持する保持機構と、
前記加工部材及び前記被加工物との接触部位に、水またはアルカリ性溶液を含有するオゾンガスを供給するオゾンガス供給部と、
前記加工部材の前記被加工物と接触する面とは反対の面側から紫外光を同被加工物に照射する紫外光照射部と、
前記加工部材と前記被加工物を接触させた状態で、前記加工部材を変位させる駆動部とを備えるトライボケミカル反応による加工装置であって、
前記被加工物は、GaNからなり、
前記紫外光は、365nmの波長であって、照度10mW/cm 以上を有すると共に、前記紫外光は、波長365nm以下のものを含む
加工装置。
【請求項8】
前記加工部材は、Alから構成される単結晶状態のサファイア、コランダム、サファイアガラス、サファイアクリスタル、SiOを主成分とするガラスのうちいずれか1つからなる
請求項7に記載の加工装置。
【請求項9】
前記加工部材は、合成石英からなる
請求項7または請求項8に記載の加工装置。
【請求項10】
前記オゾンガスが、水またはアルカリ性溶液のミストを同伴するオゾンガスである
請求項7から9のいずれかに記載の加工装置。
【請求項11】
前記アルカリ性溶液がKOH水溶液である
請求項7から10のいずれかに記載の加工装置。
【請求項12】
前記加工部材の表面及び前記被加工物の表面における親水化処理を促進させるために、前記オゾンガスから原子状酸素を生成して、同原子状酸素を、同加工部材と同被加工物の接触部位に供給する
請求項7から11のいずれかに記載の加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加工方法及び加工装置に関する。詳しくは、GaNやSiC等を加工するドライ研磨にて、高能率かつ高精度な加工を実現可能な加工方法及び加工装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
GaN(窒化ガリウム)やSiC等は、広いバンドギャップを持ち、絶縁破壊電界や電荷移動度などに優れていることから、次世代パワー半導体デバイス用材料として有力視されている。
【0003】
GaN等を用いて半導体デバイスを製作するためには、デバイスの下地となる基板表面を原子レベルで平滑、かつ無擾乱に仕上げる加工技術が必要不可欠であるといわれている。
【0004】
しかしながら、GaNやSiC等は、高硬度かつ化学的に安定であるために、加工することは極めて難しく、加工技術の開発が技術的課題となっている。
【0005】
例えば、従来の加工方法として、化学機械研磨などの砥粒を用いた研磨により化学的除去を行う加工が知られている。しかしながら、研磨剤中での化学反応を利用するため除去速度が遅く、加工能率が不充分である問題があった。
【0006】
こうしたなか、本願の発明者らは、簡易な構成でありながら、高能率かつ高精度な加工を実現可能な加工方法及び加工装置の開発を試みており、例えば、特許文献1に記載の加工方法及び加工装置を提案している。
【0007】
特許文献1に記載の加工方法では、金属酸化物で構成された加工部材と被加工物を接触させ、接触部位に水やアルカリ性溶液を含有するオゾンガスを供給しながら、加工部材を被加工物に接触させた状態で変位させて加工を行う。
【0008】
この特許文献1に記載の加工方法では、従来の加工方法に比べて、被加工物の表面粗さや、加工能率を改善することができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2017/141918号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の加工方法では、基板の製造工程におけるラッピング加工で生じた基板表面の損傷を受けた部分が、それ以外の基板表面に比べて、トライボケミカル反応による加工が進みにくい問題があった。
【0011】
この結果、加工後の基板表面、特にGaN基板表面では、損傷を受けた部分が凸状に残存した線状の隆起形状が生じ、基板表面の加工精度において改善の余地があった。また、この線状の隆起形状は、水やアルカリ性溶液を含有しないオゾンガスを供給した加工に比べ、水やアルカリ性溶液を含有するオゾンガスを供給した加工において顕著に生じ、さらに、アルカリ性溶液を含有するオゾンガスを供給した加工において特に顕著に生じていた。
【0012】
本発明は以上の点に鑑みて創案されたものであって、GaNやSiC等を加工するドライ研磨にて、高能率かつ高精度な加工を実現可能な加工方法及び加工装置を提供することを目的とするものである。さらには、加工後に線状の隆起形状のない表面を実現可能な加工方法及び加工装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
[加工方法について]
上記の目的を達成するために、本発明の加工方法は、光透過性を有する金属酸化物で構成された加工部材を被加工物と接触させ、接触部位に水やアルカリ性溶液を含有するオゾンガスを供給すると共に、前記加工部材の前記被加工物と接触する面とは反対の面側から紫外光を同被加工物に照射しながら、前記加工部材を前記被加工物に接触させた状態で変位させる工程を備える。
【0014】
本発明における加工は、被加工物の加工面における表面改質と、改質された部分を除去する表面除去とが同時に行われることで、加工面の加工が進み、平坦化される。
【0015】
また、本発明における加工での表面改質は、加工部材と被加工物の摩擦面で発生するトライボケミカル反応による表面改質と、紫外光の照射による被加工物の加工面と紫外光との化学反応による表面改質によって行われる。
【0016】
また、本発明における加工での表面除去は、被加工物の加工面における表面改質された改質部を、加工部材が物理・化学的に除去することによって行われる。さらに、表面除去は、後述する改質部のエッチングによっても行われる。
【0017】
ここで、加工部材を被加工物と接触させ、接触部位にオゾンガスを供給することによって、接触部位をオゾンガス環境下におくことができる。即ち、オゾンガスは不安定な分子であるが、接触部位にオゾンガスを供給することで、同領域にオゾンガスを局在させることが可能となる。
【0018】
また、加工部材を被加工物に接触させた状態で変位させる工程によって、接触部位に摩擦熱を生じさせることが可能となる。この摩擦熱は供給されるオゾンガスを熱分解し、オゾンガスから原子状酸素を生成する。生成した原子状酸素は、大気環境下で、被加工物との化学反応(加工)を担う加工部材の最表面のOH基へのカルボキシル基等の結合、即ち、有機物に由来するコンタミネーションを抑止する。原子状酸素が有機物由来の汚れを分解して清浄化し、かつ、加工部材表面にOH基を表出させる親水化を行うことで、トライボケミカル反応及び固相反応が安定化及び促進され、被加工物の安定、かつ、高効率な物理・化学的な加工が可能となる。
【0019】
また、上述したように、接触部位がオゾンガス環境下となるため、安定した加工に必要な原子状酸素を確保することが可能となる。
【0020】
また、接触部位に水やアルカリ性溶液を含有するオゾンガスを供給すると共に、紫外光を被加工物に照射しながら、加工部材を被加工物に接触させた状態で変位させることによって、加工後の被加工物の加工面に、線状の隆起形状が形成されることを抑止することができる。また、紫外光の光励起により、被加工物の加工面における表面改質を促進することができる。さらに、紫外光の照射により、オゾンガスからの原子状酸素の生成を促し、トライボケミカル反応及び固相反応をより一層、安定化及び促進させることができる。また、紫外光の照射により、加工部材表面を親水化させ、OH基を表出させることで、被加工物の加工の効率を更に高めることができる。また、紫外光の照射により、加工部材表面の有機物に由来するコンタミネーションを除去することができる。
【0021】
また、加工部材が光透過性を有する金属酸化物で構成され、加工部材の被加工物と接触する面とは反対の面側から紫外光を被加工物に照射することによって、被加工物の配置位置、または、オゾンガスの供給源の位置との干渉が避けやすい位置から、加工部材を透過させて、被加工物の加工面に紫外光を直接照射しやすくなる。この結果、被加工物の加工面に照射される紫外光の照度を高めやすくなり、被加工物の加工に寄与する、紫外光の照射の各種効果を向上させることができる。
【0022】
また、オゾンガスが、水やアルカリ性溶液を含有することによって、加工部材と被加工物の摩擦面で発生するトライボケミカル反応を促進させ、被加工物の加工面における酸化物を生成させ、優先的に除去できるものとなる。この結果、オゾンガスの熱分解により生じる原子状酸素を利用した加工に加え、トライボケミカル反応による加工が促進され、表面粗さの精度をより一層高め、かつ、加工能率を向上させることができる。なお、ここでいうアルカリ性溶液とは、例えば、アルカリ性電解水、NaOH、KOH等のアルカリ性を示す溶液である。
なお、水やアルカリ性溶液を含有するオゾンガスとしては、蒸気圧を有する水を含有するオゾンガスや、水やアルカリ性溶液のミストを同伴するオゾンガスが挙げられる。
【0023】
また、加工部材が、Alから構成される単結晶状態のサファイア、コランダム、サファイアガラス、サファイアクリスタル、SiOを主成分とするガラスのうちいずれか1つからなり、被加工物が、SiC、GaN、AlN、ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンド、CVDダイヤモンド、DLC膜のうちいずれか1つからなる場合には、加工物の加工面を充分に高精度な面にでき、加工能率を高めることができる。
【0024】
また、加工部材が、合成石英からなる場合には、加工部材における紫外光の透過率が高く、被加工物の加工面に照射される紫外光の照度をより一層高めやすくなり、被加工物の加工に寄与する、紫外光の照射の各種効果を向上させることができる。
【0025】
また、アルカリ性溶液がKOH水溶液である場合には、KOH水溶液を含むオゾンガスでトライボケミカル反応を促進させることが可能となる。また、KOH水溶液により、被加工物の表面改質された改質部をエッチングで除去可能となり、被加工面にダメージを与えずに、表面除去の効率を高めることができる。この結果、より一層、被加工物の加工面を高精度な面にでき、加工能率を高めることができる。
【0026】
また、紫外光が、365nmの波長において、照度10mW/cm以上である場合には、基板表面と、紫外光による化学反応(酸化)が促進され、基板表面に対する加工の精度と、加工能率を充分なものにでき、線状の隆起形状の形成を抑制することができる。また、照度100mW/cm以上であることがより好ましく、照度300mW/cm以上であることがさらに好ましい。
【0027】
また、紫外光が、被加工物のバンドギャップ以上のエネルギーを有する場合には、被加工物の加工面と、紫外光による化学反応(酸化)が促進され、より一層、被加工物の加工面を高精度な面にでき、加工能率を高めることができる。
【0028】
また、被加工物が、GaNからなり、紫外光が、波長365nm以下のものを含む場合には、GaN基板の基板表面と、紫外光による化学反応(酸化)が促進され、GaN基板に基板表面に対する加工の精度と、加工能率を充分なものにできる。
なお、紫外光の波長が短い場合には、紫外光が加工部材や空気に吸収されやすくなり、被加工物への紫外線の照射が不十分となるため、紫外光の波長は200nm以上のものを含むことが好ましい。
【0029】
また、加工部材の表面及び被加工物の表面における親水化処理を促進させるために、オゾンガスから原子状酸素を生成して、原子状酸素を、加工部材と被加工物の接触部位に供給する場合には、被加工物における加工面の加工を充分に行うことができる。
【0030】
[加工装置について]
また、上記の目的を達成するために、本発明に係る加工装置は、光透過性を有する金属酸化物で構成された加工部材と、所定の被加工物を前記加工部材と接触させて保持する保持機構と、前記加工部材及び前記被加工物との接触部位に、水やアルカリ性溶液を含有するオゾンガスを供給するオゾンガス供給部と、前記加工部材の前記被加工物と接触する面とは反対の面側から紫外光を同被加工物に照射する紫外光照射部と、前記加工部材と前記被加工物を接触させた状態で、前記加工部材を変位させる駆動部とを備える。
【0031】
ここで、所定の被加工物を加工部材と接触させて保持する保持機構と、加工部材及び被加工物との接触部位にオゾンガスを供給するオゾンガス供給部によって、接触部位をオゾンガス環境下におくことができる。即ち、オゾンガスは不安定な分子であるが、接触部位にオゾンガスを供給することで、同領域にオゾンガスを局在させることが可能となる。
【0032】
また、加工部材と被加工物を接触させた状態で、加工部材を変位させる駆動部によって、接触部位に摩擦熱を生じさせることが可能となる。この摩擦熱は供給されるオゾンガスを熱分解し、オゾンガスから原子状酸素を生成する。生成した原子状酸素は、大気環境下で、被加工物との化学反応(加工)を担う加工部材の最表面の水酸基(OH基)へのカルボキシル基等の結合、即ち、有機物に由来するコンタミネーションを抑止する。原子状酸素が有機物由来の汚れを分解して清浄化し、かつ、加工部材表面に水酸基(OH基)を表出させる親水化を行うことで、トライボケミカル反応及び固相反応が安定化及び促進され、被加工物の安定、かつ、高効率な物理・化学的な加工が可能となる。
【0033】
また、上述したように、接触部位がオゾンガス環境下となるため、安定した加工に必要な原子状酸素を確保することが可能となる。
【0034】
また、加工部材及び被加工物との接触部位に、水やアルカリ性溶液を含有するオゾンガスを供給するオゾンガス供給部と、紫外光を被加工物に照射する紫外光照射部と、加工部材と被加工物を接触させた状態で、加工部材を変位させる駆動部によって、加工後の被加工物の加工面に、線状の隆起形状が形成されることを抑止することができる。また、紫外光による光励起により、被加工物の加工面における表面改質を促進することができる。さらに、紫外光の照射により、オゾンガスからの原子状酸素の生成を促し、トライボケミカル反応及び固相反応をより一層、安定化及び促進させることができる。また、紫外光の照射により、加工部材表面を親水化させ、被加工物の加工の効率を更に高めることができる。また、紫外光の照射により、加工部材表面の有機物に由来するコンタミネーションを除去することができる。
【0035】
また、光透過性を有する金属酸化物で構成された加工部材と、加工部材の被加工物と接触する面とは反対の面側から紫外光を被加工物に照射する紫外光照射部によって、被加工物の配置位置、または、オゾンガスの供給源の位置との干渉が避けやすい位置から、加工物を透過させて、被加工物の加工面に紫外光を直接照射しやすくなる。この結果、被加工物の加工面に照射される紫外光の照度を高めやすくなり、被加工物の加工に寄与する、紫外光の照射の各種効果を向上させることができる。
【0036】
また、オゾンガスが、水やアルカリ性溶液を含有することによって、加工部材と被加工物の摩擦面で発生するトライボケミカル反応を促進させ、被加工物の加工面における酸化物を生成させ、優先的に除去できるものとなる。この結果、オゾンガスの熱分解により生じる原子状酸素を利用した加工に加え、トライボケミカル反応による加工が促進され、表面粗さの精度をより一層高め、かつ、加工能率を向上させることができる。なお、ここでいうアルカリ性溶液とは、例えば、アルカリ性電解水、NaOH、KOH等のアルカリ性を示す溶液である。
なお、水やアルカリ性溶液を含有するオゾンガスとしては、蒸気圧を有する水を含有するオゾンガスや、水やアルカリ性溶液のミストを同伴するオゾンガスが挙げられる。
【0037】
また、加工部材が、Alから構成される単結晶状態のサファイア、コランダム、サファイアガラス、サファイアクリスタル、SiOを主成分とするガラスのうちいずれか1つからなり、被加工物が、SiC、GaN、AlN、ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンド、CVDダイヤモンド、DLC膜のうちいずれか1つからなる場合には、加工物の加工面を充分に高精度な面にでき、加工能率を高めることができる。
【0038】
また、加工部材が、合成石英からなる場合には、加工部材における紫外光の透過率が高く、被加工物の加工面に照射される紫外光の照度をより一層高めやすくなり、被加工物の加工に寄与する、紫外光の照射の各種効果を向上させることができる。
【0039】
また、アルカリ性溶液がKOH水溶液である場合には、KOH水溶液を含むオゾンガスでトライボケミカル反応を促進させることが可能となる。また、KOH水溶液により、被加工物の表面改質された改質部をエッチングで除去可能となり、被加工面にダメージを与えずに、表面除去の効率を高めることができる。この結果、より一層、被加工物の加工面を高精度な面にでき、加工能率を高めることができる。
【0040】
また、紫外光が、被加工物のバンドギャップ以上のエネルギーを有する場合には、被加工物の加工面と、紫外光による化学反応(酸化)が促進され、より一層、被加工物の加工面を高精度な面にでき、加工能率を高めることができる。
【0041】
また、紫外光が、365nmの波長において、照度10mW/cm以上である場合には、基板表面と、紫外光による化学反応(酸化)が促進され、基板表面に対する加工の精度と、加工能率を充分なものにでき、線状の隆起形状の形成を抑制することができる。また、照度100mW/cm以上であることがより好ましく、照度300mW/cm以上であることがさらに好ましい。
【0042】
また、被加工物が、GaNからなり、紫外光が、波長365nm以下のものを含む場合には、GaN基板の基板表面と、紫外光による化学反応(酸化)が促進され、GaN基板に基板表面に対する加工の精度と、加工能率を充分なものにできる。さらに、波長200nm以上のものを含む場合には、紫外光が加工部材や空気を透過可能となる。
【0043】
また、加工部材の表面及び被加工物の表面における親水化処理を促進させるために、オゾンガスから原子状酸素を生成して、原子状酸素を、加工部材と被加工物の接触部位に供給する場合には、被加工物における加工面の加工を充分に行うことができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明を適用した加工方法及び加工装置では、GaNやSiC等を加工するドライ研磨にて、高能率かつ高精度な加工を実現可能な加工方法及び加工装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本発明を適用した加工装置を説明するための模式図である。
図2】被加工物の被加工面におけるUV照射範囲を示す概略図(左)及び実施例1の加工後の被加工面を撮影した図(右)である。
図3】被加工物の被加工面の加工領域の一部の表面粗さを非接触形状測定機で測定したデータであり、(a)は、加工前の被加工面の加工領域を示し、(b)は、実施例1の加工後のUV照射範囲の加工領域を示し、(c)は、実施例1の加工後のUV未照射範囲の加工領域を示している。
図4】被加工物の被加工面におけるUV照射範囲を示す概略図(左)及び実施例2の加工後の被加工面を撮影した図(右)である。
図5】被加工物の被加工面の加工領域の一部の表面粗さを非接触形状測定機で測定したデータであり、(a)は、加工前の被加工面の加工領域を示し、(b)は、実施例2の加工後のUV照射範囲の加工領域を示し、(c)は、実施例2の加工後のUV未照射範囲の加工領域を示している。
図6】被加工物の被加工面の加工領域の一部の表面粗さを非接触形状測定機で測定したデータであり、(a)は、実施例2(合成石英)の加工後のUV照射範囲の加工領域を示し、(b)は、実施例1(ソーダ石灰ガラス)の加工後のUV照射範囲の加工領域を示している。
図7】被加工物の被加工面の加工領域の一部の表面粗さを非接触形状測定機で測定したデータであり、(a)は、比較例1の加工後の被加工面の加工領域を示し、(b)は、比較例2の加工後の被加工面の加工領域を示し、(c)は、実施例3の加工後の被加工面の加工領域を示している。
図8】実施例1、比較例1及び比較例2における加工能率の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
[発明の実施の形態]
以下、本発明を実施するための形態(以下、「発明の実施の形態」と称する)について説明する。
図1は本発明を適用した加工装置を説明するための模式図であり、ここで示す加工装置1は、加工テーブル2と、合成石英定盤3と、被加工物であるGaN基板5を保持する試料ホルダー4を有している。なお、合成石英定盤3は加工部材の一例であり、GaN基板5は被加工物の一例である。
【0047】
また、加工装置1は、合成石英定盤3とGaN基板5との接触部位に、KOH水溶液を含有したオゾンガスを供給するオゾン供給部6を有している。
【0048】
また、加工装置1は、GaN基板5の被加工面に向けて紫外光(UV)を照射する紫外光照射部7を有している。
【0049】
この加工装置1では、合成石英定盤3の上面(図1上の上面)に被加工物であるGaN基板5が接して、GaN基板5の被加工面(基板表面)が研磨されることとなる。
【0050】
より詳細には、加工装置1における加工は、GaN基板5の被加工面における表面改質と、改質された部分を除去する表面除去とが同時に行われることで、加工面の加工が進み、平坦化される。
【0051】
また、GaN基板5の表面改質は、合成石英定盤3とGaN基板5の摩擦面で発生するトライボケミカル反応による表面改質と、紫外光の照射によるGaN基板5の被加工面と紫外光との化学反応による表面改質によって行われる。
【0052】
また、GaN基板5の表面除去は、GaN基板5の表面改質された改質部を、合成石英定盤3が物理・化学的に除去することによって行われる。さらに、表面除去は、オゾンガスに含まれたKOH水溶液による改質部のエッチングによっても行われる。
【0053】
オゾン供給部6は、合成石英定盤3の上方に配置されている。また、オゾン供給部6の先端、即ち、オゾンガスが排出される部分は、合成石英定盤3とGaN基板5との接触部位に向けられている。これにより、接触部位がオゾン環境下となる。
【0054】
また、接触部位における合成石英定盤3とGaN基板5との間で生じる摩擦熱によりオゾンガスが熱分解されて原子状酸素が生成し、トライボケミカル反応及び固相反応が安定化及び促進され、GaN基板5の安定、かつ、高効率な物理・化学的な加工が可能となる。
【0055】
また、KOH水溶液を含有するオゾンガスを供給するため、加工部材と被加工物の摩擦面で発生するトライボケミカル反応を促進させ、被加工物の加工面における酸化物を生成させ、優先的に除去できるものとなる。さらに、KOH水溶液によりGaN基板5の改質部をエッチングして、表面除去を促進することができる。
【0056】
紫外光照射部7は、合成石英定盤3の底面側に配置されている。紫外光照射部7から照射される紫外光(UV)は、合成石英定盤3を透過して、合成石英定盤3とGaN基板5との接触部位、即ち、GaN基板5の被加工面に向けて照射される。また、紫外光照射部7は、波長365nm以下の紫外光が照射可能な光源となっている。さらに、紫外光照射部7は、365nmの波長において、照度10mW/cm以上の紫外光が照射可能な光源となっている。また、照度100mW/cm以上であることがより好ましく、照度300mW/cm以上であることがさらに好ましい。
【0057】
なお、加工テーブル2は、合成石英定盤3を支持する枠状体として形成されており、紫外光照射部7から照射される紫外光は、加工テーブル2を形成する枠部材同士の間を通過して、合成石英定盤3に入射するようになっている。
【0058】
また、紫外光照射部7による紫外光の照射により、加工後のGaN基板5の表面に、線状の隆起形状が形成されることを抑止することができる。また、紫外光の光励起により、GaN基板5における表面改質を促進することができる。さらに、紫外光の照射により、オゾンガスからの原子状酸素の生成を促し、トライボケミカル反応及び固相反応をより一層、安定化及び促進させることができる。
【0059】
また、紫外光の照射により、加工部材表面を親水化させることによって、GaN基板5の加工の効率を高めることができる。また、紫外光の照射により、合成石英定盤3の表面上に残った有機物に由来するコンタミネーションを除去することができる。
【0060】
また、合成石英定盤3の底面側から、合成石英定盤3を透過して、GaN基板5に紫外光を照射することができるため、試料ホルダー4やオゾン供給部6と干渉しない位置に紫外光照射部7を配置することができる。このため、GaN基板5の加工面に直接紫外光を照射できる。
【0061】
また、紫外光照射部7とGaN基板5の加工面との距離も小さくできるため、紫外光の照度を高めやすくなり、GaN基板5の加工に寄与する、紫外光の照射の各種効果を向上させることができる
【0062】
ここで、本実施の形態では、加工部材が合成石英定盤3で形成されている場合を例に挙げて説明を行っているが、光透過性を有し、被加工物を加工可能な金属酸化物であれば充分であって、必ずしも合成石英定盤3で形成される必要はない。
【0063】
加工部材としては、例えば、Alから構成される単結晶状態のサファイア、コランダム、サファイアガラス、サファイアクリスタル、SiOを主成分とするガラス及びそれらからなる構成材料で形成されていても構わない。また、SiOを主成分とするガラスとして、合成石英、溶融石英、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス等を採用することができる。
【0064】
また、合成石英定盤3は、回転数が制御可能な加工テーブル2上に固定され、加工テーブル2の回転によって、合成石英定盤3が図1中符号R1で示す方向に回転可能に構成されている。
【0065】
また、試料ホルダー4は、合成石英定盤3の回転軸C1に対して偏心した回転軸C2を中心として、図1中符号R2で示す方向に回転可能に構成されており、GaN基板5を保持した状態で、上方からGaN基板5と合成石英定盤3が接触する位置まで下降する。なお、図中の符号Pは荷重をかける方向を示している。
【0066】
ここで、本実施の形態では、試料ホルダー4に保持される被加工物としてGaN基板5を例に挙げて説明を行っているが、被加工物はGaN基板5に限定されるものではなく、ダイヤモンド、単結晶ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンド、CVDダイヤモンド、DLC膜等のダイヤモンド関連材料、SiC、AlN、サファイア、SiCセラミックス、Siセラミックス、ガラス等の硬脆材料等であっても構わない。
【0067】
また、オゾンガスに含有させるアルカリ性溶液はアルカリ性であればよく、KOH水溶液に限定されるものではない。例えば、NaOH等のアルカリ性溶液またはアルカリ性電解水をオゾンガスに含有させて加工に利用することも可能である。但し、被加工物の表面の改質部をエッチングする点から、腐食性の水溶液であることが好ましい。
【0068】
また、紫外光照射部7から照射する紫外光の波長は、被加工物のバンドギャップ以上のエネルギーを有する紫外光を用いることが好ましい。つまり、被加工物のバンドギャップに併せて、紫外光の波長を選択するものとなる。
【0069】
例えば、GaNのバンドギャップ(約3.42eV)であれば、波長約365nm以下の紫外光が選択され、SiCのバンドギャップ(約3.26eV)であれば、波長約380m以下の紫外光が選択される。
【0070】
以下、上記の様に構成された加工装置1を用いた加工方法について説明を行う。即ち、本発明を適用した加工方法の一例について説明を行う。
【0071】
本発明を適用した加工方法の一例では、合成石英定盤3を回転させながら、合成石英定盤3とGaN基板5との接触部位にオゾン供給部5からオゾンガスを供給する。また、紫外光照射部7から紫外光を照射して、GaN基板5を透過した紫外光がGaN基板5の被加工面に向けて照射される。
【0072】
本加工方法では、GaN基板5の被加工面において、合成石英定盤3とGaN基板5の摩擦面で発生するトライボケミカル反応と、紫外光の照射によるGaN基板5の被加工面と紫外光との化学反応により、被加工面の表面改質が進む。
【0073】
そして、GaN基板5の被加工面の表面改質がされた改質部を、合成石英定盤3が物理・化学的に除去することにより表面除去がなされる。
【0074】
また、GaN基板5の被加工面の表面改質がされた改質部において、オゾンガスに含まれたKOH水溶液による改質部のエッチングにより表面除去がなされる。
【0075】
そして、合成石英定盤3とGaN基板5とが接触した状態で、合成石英定盤3とGaN基板5がそれぞれ回転することで、GaN基板5の被加工面の表面改質と表面除去が同時に行われ、GaN基板5の被加工面を物理・化学的に除去し、被加工面の平坦化が進む。
【0076】
また、合成石英定盤3とGaN基板5との接触部位にオゾンガスを供しながら、接触部位で生じる摩擦熱によりオゾンガスを熱分解して原子状酸素を生成する。また、オゾンガスからの原子状酸素の生成は、紫外光照射部7からの紫外光の照射によって促進される。
【0077】
このオゾンガスから生成した原子状酸素により、トライボケミカル反応及び固相反応が安定化及び促進され、GaN基板5の安定、かつ、高効率な物理・化学的な加工が可能となる。
【0078】
また、紫外光を照射することにより、加工後のGaN基板5の表面に、線状の隆起形状が形成されることを抑止することができる。また、紫外光の光励起により、GaN基板5における表面改質を促進することができる。さらに、紫外光の照射により、オゾンガスからの原子状酸素の生成を促し、トライボケミカル反応及び固相反応をより一層、安定化及び促進させることができる。
【0079】
また、紫外光の照射により、加工部材表面を親水化させることによって、GaN基板5の加工の効率を高めることができる。また、紫外光の照射により、合成石英定盤3の表面上に残った有機物に由来するコンタミネーションを除去することができる。
【0080】
[効果]
本発明を適用した加工方法及び加工装置は、水やアルカリ性溶液を含有するオゾンガスを、加工部材と被加工物の接触部位に供給すると共に、被加工物の被加工面に紫外光を照射することで、線状の隆起形状の形成を抑止しながら、安定的かつ高い加工精度と高能率な加工を実現しうるものとなっている。
【0081】
以下、本発明の実施例及び比較例について説明する。なお、ここで示す実施例は一例であり本発明を限定するものではない。
【0082】
[実施例1]
本発明の実施例1の加工方法として、以下の条件で加工を行った。先ず、本発明の実施例1の加工方法として、ソーダ石灰ガラス定盤に、被加工物としてGaN(10mm×10mm)を0.5kgの荷重で押圧し、ソーダ石灰ガラス定盤を回転数200rpm、揺動距離3mm、揺動速度0.1mm/sの条件で回転させると共に、試料ホルダーを31.25rpmで回転させた。また、オゾン供給部よりソーダ石灰ガラス定盤とGaNとの接触部位に、KOH水溶液(0.1mol/L、pH12.6)を含有したオゾンガス(5L/min)を供給した。また、紫外光照射部より紫外光(UV照射距離22mm、UV照度1075mW/cm)を、GaNの被加工面の一定範囲に向けて照射した。この様な状況で1時間の加工を行った。
上記の実施例1について、加工後のGaNの表面粗さを金属顕微鏡により観察及び非接触形状測定機(走査型白色干渉計、Zygo社、NewView7300)による測定を行い、評価を行った。図2において、左図は、UV照射領域とUV未照射領域を識別するための図であり、右図は、Slope画像(微分画像)である。
【0083】
図2の左側の図に示すように、GaNの符号Cで示す円形の範囲の内側が、被加工面における紫外光を照射したUV照射範囲(符号X1)であり、符号Cで示す円形の範囲の外側が、被加工面における紫外光を照射していないUV未照射範囲(符号X2)である。
【0084】
また、実施例1の加工の結果、図2の右側に示すように、符号Cに対応する符号C'の円形の範囲の内側であるUV照射範囲(符号X'1)において、符号C'の円形の範囲の外側の領域に比べて、線状の隆起形状の形成が抑止されている結果が確認された。
【0085】
また、実施例1の加工について、図3において、被加工面の加工領域の一部の表面粗さを非接触形状測定機で測定した結果を示す。図3において、上段は高さ画像、下段はSlope画像(微分画像)を示す。
【0086】
加工前の加工領域である図3(a)と、実施例1の加工後のUV照射範囲の加工領域である図3(b)から明らかなように、UV照射範囲において、実施例1の加工により、被加工物の加工面が精度高く加工され、被加工面の測定範囲における算術平均粗さ(Ra)の値は0.155nmであり、線状の隆起形状の形成が確認されず、平滑に加工されていたことが分かった。加工前の被加工面の測定範囲における算術平均粗さ(Ra)の値は1.942nmであった。また、実施例1の加工後のUV未照射範囲の加工領域である図3(c)から明らかなように、UV未照射範囲では、線状の隆起形状のない範囲は平滑に加工されているものの、線状の隆起形状の顕著な形成が確認される結果となった。
【0087】
[実施例2]
本発明の実施例2の加工方法では、加工部材の種類を、実施例1のソーダ石灰ガラスから合成石英定盤に変更して、加工を行った。なお、実施例2における加工の条件は、実施例1の加工の条件から、加工部材の種類が変更になった点、紫外光のUV照度が1332mW/cmとなった点である。なお、実施例2の紫外光のUV照度が、実施例1の紫外光のUV照度に比べて高いのは、ソーダ石灰ガラス定盤と、合成石英定盤の紫外光の透過率の違いに起因している。
上記の実施例2について、加工後のGaNの表面粗さを金属顕微鏡により観察及び非接触形状測定機による測定を行い、評価を行った。図4において、左図は、UV照射領域とUV未照射領域を識別するための図であり、右図は、Slope画像(微分画像)である。
【0088】
図4の左側の図に示すように、GaNの符号Cで示す円形の範囲の内側が、被加工面における紫外光を照射したUV照射範囲(符号X1)であり、符号Cで示す円形の範囲の外側が、被加工面における紫外光を照射していないUV未照射範囲(符号X2)である。
【0089】
また、実施例2の加工の結果、図4の右側に示すように、符号Cに対応する符号C'の円形の範囲の内側であるUV照射範囲(符号X'1)において、符号C'の円形の範囲の外側の領域に比べて、線状の隆起形状の形成が抑止されている結果が確認された。
【0090】
また、実施例2の加工について、図5において、被加工面の加工領域の一部の表面粗さを非接触形状測定機で測定した結果を示す。図5において、上段の画像は高さ画像、下段の画像はSlope画像(微分画像)を示す。
【0091】
加工前の加工領域である図5(a)と、実施例2の加工後のUV照射範囲の加工領域である図5(b)から明らかなように、UV照射範囲において、実施例2の加工により、被加工物の加工面が、非常に精度高く加工され、被加工面の測定範囲における算術平均粗さ(Ra)の値は0.169nmであり、線状の隆起形状の形成が確認されず、平滑に加工されていたことが分かった。加工前の被加工面の測定範囲における算術平均粗さ(Ra)の値は1.535nmであった。また、実施例2の加工後のUV未照射範囲の加工領域である図5(c)から明らかなように、UV未照射範囲では、線状の隆起形状のない範囲は平滑に加工されているものの、線状の隆起形状の形成が確認される結果となった。
【0092】
また、実施例2における加工能率は4282nm/hであり、充分な加工能率を示していた。なお、加工能率は、被加工物となるGaNに所定の深さの溝を形成しておき、加工前後での溝の深さの変化量から加工能率を算出している。
【0093】
また、図6には、上述した実施例及び実施例2について、被加工面のUV照射範囲の表面粗さを非接触形状測定機で測定した結果を並べている。図6において、上段の画像は高さ画像、下段の画像はSlope画像(微分画像)を示す。図6から明らかなように、加工部材として、ソーダ石灰ガラスを用いた実施例1の加工と、合成石英定盤を用いた実施例2の加工がともに精度の高い加工面が得られることが明らかとなった。
【0094】
本発明における紫外光照射の効果を確認するために、以下の実施例3と、比較例1及び比較例2を用いた検討を行った。
【0095】
ここで、実施例3は、上述した実施例2と同様の条件での加工であり、加工部材に合成石英定盤を採用して、KOH水溶液を含有したオゾンガスの供給と、紫外光の照射を行っている。一方、比較例1は、実施例3の条件において、KOH水溶液を含有したオゾンガスの供給を行わず、紫外光の照射を行った加工である。また、比較例2は、実施例3の条件において、KOH水溶液を含有したオゾンガスの供給を行い、紫外光の照射を行わない加工である。
【0096】
また、実施例3、比較例1及び比較例2の加工について、図7において、被加工面の加工領域の一部の表面粗さを非接触形状測定機で測定した結果を示す。上段の画像は高さ画像、下段の画像はSlope画像(微分画像)を示す。
実施例3の加工後のUV照射範囲の加工領域である図7(c)から明らかなように、UV照射範囲において、実施例3の加工により、被加工物の加工面が、非常に精度高く加工され、被加工面の測定範囲における算術平均粗さ(Ra)の値は0.169nmであり、線状の隆起形状の形成が確認されず、平滑に加工されていたことが分かった。また、比較例1の結果である図7(a)及び比較例2の結果である図7(b)から明らかなように、KOH水溶液を含有したオゾンガスの供給を行わず、紫外光の照射を行った加工、または、KOH水溶液を含有したオゾンガスの供給を行い、紫外光の照射を行わない加工では、高精度な表面が得られなかった。
【0097】
また、図8に示すように、実施例3における加工能率は4282nm/hであり、充分な加工能率を示していた。一方、比較例1の加工能率は2247nm/hであり、また、比較例2の加工能率は2558nm/hであった。
【符号の説明】
【0098】
1 加工装置
2 加工テーブル
3 合成石英定盤
4 試料ホルダー
5 GaN基板
6 オゾン供給部
7 紫外光照射部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8